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特許7561526導入用皮膚外用剤及び導入用皮膚外用剤の使用方法
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  • 特許-導入用皮膚外用剤及び導入用皮膚外用剤の使用方法 図1
  • 特許-導入用皮膚外用剤及び導入用皮膚外用剤の使用方法 図2
  • 特許-導入用皮膚外用剤及び導入用皮膚外用剤の使用方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-26
(45)【発行日】2024-10-04
(54)【発明の名称】導入用皮膚外用剤及び導入用皮膚外用剤の使用方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/06 20060101AFI20240927BHJP
   A61K 8/37 20060101ALI20240927BHJP
   A61K 8/60 20060101ALI20240927BHJP
   A61K 8/63 20060101ALI20240927BHJP
   A61K 8/67 20060101ALI20240927BHJP
   A61K 8/73 20060101ALI20240927BHJP
   A61K 9/107 20060101ALI20240927BHJP
   A61K 31/19 20060101ALI20240927BHJP
   A61K 31/232 20060101ALI20240927BHJP
   A61K 31/355 20060101ALI20240927BHJP
   A61K 31/704 20060101ALI20240927BHJP
   A61K 47/14 20170101ALI20240927BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20240927BHJP
   A61P 3/02 20060101ALI20240927BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20240927BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
A61K8/06
A61K8/37
A61K8/60
A61K8/63
A61K8/67
A61K8/73
A61K9/107
A61K31/19
A61K31/232
A61K31/355
A61K31/704
A61K47/14
A61K47/36
A61P3/02 101
A61P3/02 102
A61P3/02 109
A61P17/00
A61Q19/00
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020106059
(22)【出願日】2020-06-19
(65)【公開番号】P2021014448
(43)【公開日】2021-02-12
【審査請求日】2023-06-06
(31)【優先権主張番号】P 2019127881
(32)【優先日】2019-07-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006884
【氏名又は名称】株式会社ヤクルト本社
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100193725
【弁理士】
【氏名又は名称】小森 幸子
(74)【代理人】
【識別番号】100163038
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 武志
(74)【代理人】
【識別番号】100207240
【弁理士】
【氏名又は名称】樋口 喜弘
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】高橋 伸岳
(72)【発明者】
【氏名】高橋 康之
(72)【発明者】
【氏名】曽根 俊郎
【審査官】山田 陸翠
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-067049(JP,A)
【文献】特開2020-045316(JP,A)
【文献】特開2019-077675(JP,A)
【文献】特開2004-137219(JP,A)
【文献】特開2008-156342(JP,A)
【文献】特開2005-029541(JP,A)
【文献】特開2013-071919(JP,A)
【文献】特開2012-017318(JP,A)
【文献】特開2018-087165(JP,A)
【文献】特開2007-308380(JP,A)
【文献】特開2013-173727(JP,A)
【文献】特開2005-008548(JP,A)
【文献】特表2010-513221(JP,A)
【文献】特開2007-153824(JP,A)
【文献】国際公開第2019/004048(WO,A1)
【文献】特開昭57-081827(JP,A)
【文献】特開2017-078055(JP,A)
【文献】特開2014-047158(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00 - 8/99
A61K 9/107- 9/113
A61K 31/00 -31/80
A61K 47/00 -47/69
A61P 3/00 - 3/14
A61P 17/00 -17/18
A61Q 1/00 -90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分(A)、成分(B)、成分(C)、及び成分(D)を含有する、水相の占める割合が70質量%以上である高内相W/O型乳化組成物である導入用皮膚外用剤であって、
前記導入用皮膚外用剤は、他の皮膚外用剤に含まれる所定の油溶性の有効成分の経皮吸収を促進させるために、前記他の皮膚外用剤の使用前に皮膚に塗布するために使用され、
前記成分(C)の油ゲル化剤の前記高内相W/O型乳化組成物における含有量は、0.05質量%以上であり、
前記油溶性の有効成分は、ClogP値(油水分配係数)が1.0~15.0にある、酢酸DL-α-トコフェロール、グリチルレチン酸ステアリル、パルミチン酸レチノール、トコフェロールニコチン酸エステル、及びトコフェロールからなる群から選ばれる少なくとも1種以上である、導入用皮膚外用剤。
成分(A):エルカ酸スクロース、及びステアリン酸スクロースからなる群から選ばれる少なくとも1種以上である乳化剤
成分(B):油成分
成分(C):パルミチン酸デキストリン、ミリスチン酸デキストリン、及び(ベヘン酸/エイコサン二酸)グリセリルからなる群から選ばれる少なくとも1種以上である油ゲル化剤
成分(D):水成分
【請求項2】
下記成分(A)、成分(B)、成分(C)、及び成分(D)を含有する、水相の占める割合が70質量%以上である高内相W/O型乳化組成物である導入用皮膚外用剤を、
他の皮膚外用剤に含まれる所定の油溶性の有効成分の経皮吸収を促進させるために、前記他の皮膚外用剤の使用前に皮膚に塗布するために使用する導入用皮膚外用剤の使用方法であって、
前記成分(C)の油ゲル化剤の前記高内相W/O型乳化組成物における含有量は、0.05質量%以上であり、
前記油溶性の有効成分は、ClogP値(油水分配係数)が1.0~15.0にある、酢酸DL-α-トコフェロール、グリチルレチン酸ステアリル、パルミチン酸レチノール、トコフェロールニコチン酸エステル、及びトコフェロールからなる群から選ばれる少なくとも1種以上である、導入用皮膚外用剤の使用方法。
成分(A):エルカ酸スクロース、及びステアリン酸スクロースからなる群から選ばれる少なくとも1種以上である乳化剤
成分(B):油成分
成分(C):パルミチン酸デキストリン、ミリスチン酸デキストリン、及び(ベヘン酸/エイコサン二酸)グリセリルからなる群から選ばれる少なくとも1種以上である油ゲル化剤
成分(D):水成分
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高内相W/O型乳化組成物を含有し、他の皮膚外用剤が含有する有効成分の経皮吸収性を促進するため、他の皮膚外用剤の使用前に皮膚に塗布して使用する導入用皮膚外用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
油相に水相が分散してなるW/O型乳化状の組成物であって、分散相の割合が高いものは高内相乳化組成物と呼ばれている(例えば、特許文献1参照)。一般に、高内相乳化組成物のメリットとしては、油相に水相が分散してなるW/O型の乳化化粧料として、さっぱりとした使用感と高い保湿効果の両立が得られる点が挙げられる。そのデメリットとしては、乳化状態を維持するのが難しく、経時安定性が低いことが挙げられる。
一方、化粧料などの皮膚外用剤には、保湿剤や美白剤などの種々の作用をもつ有効成分を配合して有用な機能を持たせたものが多くある。例えば、種々の保湿剤、美白剤、抗にきび剤、抗しわ剤、抗炎症剤、抗酸化剤などを化粧品(化粧料)や医薬部外品に配合して皮膚に作用させることが行われている(例えば、非特許文献1参照)。一般的に、これら有効成分の作用を有効に発揮させるためには、肌表皮の各層へ浸透させることが重要である。
そこで、有効成分の経皮吸収性を高めるために、さまざまな経皮吸収促進剤の開発や経皮吸収を促進させるための方法が研究されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭57-81827号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】新化粧品ハンドブック(2006)日光ケミカルズ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、さっぱりとした使用感と高い保湿効果と乳化状態の安定維持の全てを満足できる皮膚外用剤は、従来提供されていなかった。
また、これら全てを満足する高内相W/O型乳化組成物を含有する皮膚外用剤が、他の皮膚外用剤に含有されている有効成分の経皮吸収性を促進させる効果があることは、知られていなかった。
【0006】
そこで、本発明は、さっぱりとした使用感と高い保湿効果と乳化状態の安定維持の全てを満足でき、かつ他の皮膚外用剤に含有される有効成分の経皮吸収性を促進させるため、他の皮膚外用剤の使用前に皮膚に塗布して使用する、導入用皮膚外用剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、油ゲル化剤を含む高内相W/O型乳化組成物を含有する皮膚外用剤が、さっぱりとした使用感と高い保湿効果と乳化状態の安定維持の全てを満足できることを見出した。さらに、係る皮膚外用剤が、他の皮膚外用剤に含有されている有効成分の経皮吸収性を高めることができることを見出した。その結果、油ゲル化剤を含む高内相W/O型乳化組成物を含有する皮膚外用剤が、他の皮膚外用剤の使用前に皮膚に塗布して使用する導入用皮膚外用剤として有効に利用できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の態様を包含するものである。
[1]油ゲル化剤を含み、水相の占める割合が70質量%以上である高内相W/O型乳化組成物を含有する導入用皮膚外用剤であって、
他の皮膚外用剤に含まれる有効成分の経皮吸収を促進させるために、前記他の皮膚外用剤の使用前に皮膚に塗布することを特徴とする導入用皮膚外用剤。
[2]前記油ゲル化剤は、デキストリン脂肪酸エステル及びグリセリン脂肪酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、前記[1]に記載の導入用皮膚外用剤。
[3]前記油ゲル化剤は、パルミチン酸デキストリン、ミリスチン酸デキストリン、ベヘン酸グリセリル、及び(ベヘン酸/エイコサン二酸)グリセリルからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、前記[1]又は[2]に記載の導入用皮膚外用剤。
[4]前記有効成分が、油溶性の有効成分である、前記[1]から[3]のいずれかに記載の導入用皮膚外用剤。
[5]前記油溶性の有効成分が、グリチルレチン酸誘導体、脂溶性ビタミン類、脂溶性のビタミン誘導体、カロチノイド類、ユビキノン類、チオクト酸とその誘導体、カルニチン誘導体、セラミド、スフィンゴ脂質、脂溶性プロビタミン、及び脂溶性のプロビタミン誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、前記[1]から[4]のいずれかに記載の導入用皮膚外用剤。
[6]油ゲル化剤を含み、水相の占める割合が70質量%以上である高内相W/O型乳化組成物を含有する導入用皮膚外用剤を、
他の皮膚外用剤に含まれる有効成分の経皮吸収を促進させるために、前記他の皮膚外用剤の使用前に皮膚に塗布することを特徴とする導入用皮膚外用剤の使用方法。
[7]前記油ゲル化剤は、デキストリン脂肪酸エステル及びグリセリン脂肪酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、前記[6]に記載の導入用皮膚外用剤の使用方法。
[8]前記油ゲル化剤は、パルミチン酸デキストリン、ミリスチン酸デキストリン、ベヘン酸グリセリル、及び(ベヘン酸/エイコサン二酸)グリセリルからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、前記[6]又は[7]に記載の導入用皮膚外用剤の使用方法。
[9]前記有効成分が、油溶性の有効成分である、前記[6]から[8]のいずれかに記載の導入用皮膚外用剤の使用方法。
[10]前記油溶性の有効成分が、グリチルレチン酸誘導体、脂溶性ビタミン類、脂溶性のビタミン誘導体、カロチノイド類、ユビキノン類、チオクト酸とその誘導体、カルニチン誘導体、セラミド、スフィンゴ脂質、脂溶性プロビタミン、及び脂溶性のプロビタミン誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、前記[6]から[9]のいずれかに記載の導入用皮膚外用剤の使用方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、さっぱりとした使用感と高い保湿効果と乳化状態の安定維持の全てを満足でき、かつ他の皮膚外用剤に含有される有効成分の経皮吸収性を促進させるため、他の皮膚外用剤の使用前に皮膚に塗布して使用する、導入用皮膚外用剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、試験例1において、皮膚代替膜に含まれる酢酸DL-α-トコフェロールの含有量を調べた結果を示す図である。
図2図2は、試験例6において、皮膚代替膜に含まれるグリチルレチン酸ステアリルの含有量を調べた結果を示す図である。
図3図3は、試験例7において、皮膚代替膜に含まれるパルミチン酸レチノールの含有量を調べた結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の導入用皮膚外用剤について詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の一実施態様としての一例であり、これらの内容に特定されるものではない。
【0012】
(導入用皮膚外用剤)
本発明の導入用皮膚外用剤は、油ゲル化剤を含み、水相の占める割合が70質量%以上である高内相W/O型乳化組成物を含有する。
本発明の導入用皮膚外用剤は、他の皮膚外用剤に含まれる有効成分の経皮吸収を促進させるために、他の皮膚外用剤の使用前に皮膚に塗布して使用する。
【0013】
<<高内相W/O型乳化組成物>>
本発明に用いる乳化組成物は、油相中に水相が分散してなるW/O型乳化組成物である。
本発明において、W/O型乳化組成物における水相の占める割合は、70質量%以上である。このように、水相の占める割合が70質量%以上のW/O型乳化組成物を、本発明では、「高内相W/O型乳化組成物」と称する。
高内相W/O型乳化組成物における水相の占める割合としては、典型的には70質量%以上99質量%以下であり、より典型的には74質量%以上95質量%以下であり、さらにより典型的には74質量%以上90質量%以下である。
ここで、一般に乳化組成物の乳化状態として、油相中に水相が分散してなるW/O型の乳化状態を形成しているかどうかは、当業者に周知の方法により確認することができる。例えば、試験管に入れた水に乳化物を滴下し、分散しなければW/O型の乳化状態であると判定することができる(希釈法)。また、例えば、乳化物にテスターの電極部分を接触させ電気伝導度を測定することによりW/O型の乳化状態であることを確認することができる(電気伝導度法)。さらに、例えば、水溶性または油溶性色素を添加し、顕微鏡像によりW/O型の乳化状態であることを確認することができる(色素法)。
【0014】
<<油ゲル化剤>>
本発明に用いる高内相W/O型乳化組成物は、油ゲル化剤を含有する。
油ゲル化剤を含む高内相W/O型乳化組成物は、下記実施例で示すとおり、乳化状態を安定に維持することができる。
油ゲル化剤としては、一般に化粧料等に使用可能な油ゲル化剤を適宜選択して使用することができ、特に制限はなく目的に応じて選択することができる。例えば、パルミチン酸デキストリン、ミリスチン酸デキストリン、(パルミチン酸/エチルヘキサン酸)デキストリン、ステアリン酸イヌリン等の多糖と脂肪酸のエステル、(ベヘン酸/エイコサン二酸)グリセリル、ベヘン酸グリセリル等のグリセリン脂肪酸エステル、バチルアルコール、ベヘニルアルコール等の高級アルコールや有機変性粘度鉱物等が挙げられる。なかでも、デキストリン脂肪酸エステルやグリセリン脂肪酸エステルを用いることが好ましく、より具体的には、パルミチン酸デキストリン、ミリスチン酸デキストリン、(ベヘン酸/エイコサン二酸)グリセリル、ベヘン酸グリセリル等を用いることが好ましい。
油ゲル化剤は、1種類のものを単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
油ゲル化剤の高内相W/O型乳化組成物における含有量としては、高内相W/O型乳化組成物に含有される他の成分の種類や配合量との関係、あるいは、用いる油ゲル化剤の種類により一概ではないが、例えば、0.05質量%以上であると好ましい。この範囲であれば、高内相W/O型乳化組成物の乳化状態の安定化に寄与することができる。
油ゲル化剤の高内相W/O型乳化組成物における含有量は、0.1質量%以上であることがより好ましく、0.1質量%以上10質量%以下であることがさらに好ましく、0.1質量%以上5質量%以下であることが特に好ましい。油ゲル化剤の高内相W/O型乳化組成物における含有量が、上記範囲未満であると、高内相W/O型乳化組成物の乳化状態を安定化する効果が低減する場合がある。また、上記範囲を超えて油ゲル化剤を含有させても、その含有量に応じた乳化状態の安定化は期待できず、かえって、高内相W/O型乳化組成物の乳化状態を安定化する効果が低減する場合がある。
【0015】
<<高内相W/O型乳化組成物の具体的態様>>
本発明に用いる高内相W/O型乳化組成物の好ましい具体的態様としては、例えば、上述した油ゲル化剤を含有し、さらに以下に記載する各種成分を含有する高内相W/O型乳化組成物が挙げられる。
つまり、
成分(A)として乳化剤を、
成分(B)として油を、
成分(C)として油ゲル化剤を、
成分(D)として水を含有し、水相からなる分散相の占める割合が70質量%以上の高内相W/O型乳化組成物が挙げられる。この高内相W/O型乳化組成物は、下記実施例で示すように、成分(C)の油ゲル化剤が配合されていることにより、乳化状態が安定化された高内相W/O型乳化組成物となっている。
上記成分構成からなる高内相W/O型乳化組成物において、水相からなる分散相の占める割合は、例えば、70質量%以上99質量%以下であることが好ましく、74質量%以上95質量%以下であることがより好ましく、74質量%以上90質量%以下であることがさらに好ましい。
以下、各成分について説明する。
【0016】
成分(A)の乳化剤としては、一般に化粧料等に使用可能な乳化剤を適宜選択して使用することができ、特に制限はなく目的に応じて選択することができるが、特に、エステルを構成する脂肪酸が不飽和である親油性の界面活性剤が好ましい。
例えば不飽和脂肪酸としてオレイン酸、エルカ酸、リノール酸、リシノレイン酸などが挙げられ、界面活性剤の親水部分としては、ショ糖、グリセリン、ソルビタン、オキシエチレンなどが挙げられる。なかでも、オレイン酸スクロースやエルカ酸スクロースを用いるのが好ましい。
また、使用感、安定性および乳化組成物の粘性の観点より、エステルを構成する脂肪酸が飽和脂肪酸であるパルミチン酸やステアリン酸である界面活性剤を併用してもよい。なかでもパルミチン酸スクロース、ステアリン酸スクロースを用いるのが好ましい。
また、使用感の観点から、ポリグリセリン脂肪酸エステル、特に縮合リシノレイン酸ペンタグリセリンを用いることが好ましい。
なお、乳化剤とは、水と油を乳化させる機能性を有する物質一般を指し、例えば、界面活性剤と称される場合であっても、そのような機能性を有する限り、乳化剤として使用可能である。
成分(A)は、乳化剤として、1種類のものを単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
成分(A)の含有量としては、成分(B)~(D)の配合量や他の原料の配合量との関係もあり、また、用いる乳化剤の種類によっても一概ではないが、例えば、高内相W/O型乳化組成物全量中に0.1質量%以上30質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上5.0質量%以下であることがより好ましい。この範囲内であれば、高内相W/O型乳化組成物の乳化状態を安定的に維持することができる。
【0017】
成分(B)の油としては、一般に化粧料等に使用可能な油を適宜選択して使用することができ、特に制限はなく目的に応じて選択することができる。
例えば、高内相W/O型乳化組成物を調製する観点からは、その調製温度(例えば80℃)で液体状となる油を用いることが好ましい。また、低粘で肌に塗布しやすい乳化液体状の化粧料とする観点からは、常温(25℃)で液体状となる油を用いることが好ましい。
具体的には、例えば、脂肪酸類とアルコール類とをエステル結合してなるエステル油である。エステル油としては、例えば、2-エチルヘキサン酸セチル、イソノナン酸イソノニル、ミリスチン酸イソプロピル、トリ2-エチルヘキサン酸グリセリル、ミリスチン酸2-オクチルドデシル、パルミチン酸2-エチルヘキシル、オレイン酸2-オクチルドデシル、ジ2-エチルヘキサン酸ネオペンチルグリコール、トリイソステアリン酸グリセリル、リンゴ酸ジイソステアリル、2-エチルヘキサン酸ジグリセリド、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル等が挙げられる。低粘性及び安定性の観点からは、2-エチルヘキサン酸セチル、イソノナン酸イソノニル、トリ2-エチルヘキサン酸グリセリル、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル等が好ましい。
また、例えば、炭化水素系の非エステル油である。非エステル油としては、例えば、ミネラルオイル(流動パラフィン)、スクワラン、スクワレン、セレシン等が挙げられる。低粘性及び安定性の観点からは、ミネラルオイルやスクワランが好ましい。
また、例えば、シリコーン系のシリコーン油である。シリコーン油としては、例えば、ジフェニルシロキシトリメチコン、ジメチコン(ジメチルポリシロキサン)、フェニルトリメチコン、シクロペンタシロキサン等が挙げられる。メイクなじみや、2種以上の油を使用する場合の他の油相成分との相溶性の観点からは、ジフェニルシロキシトリメチコンやシクロペンタンシロキサンが好ましい。
また、例えば、植物油である。植物油としては、例えば、ホホバ油、オリーブ油、マカダミアナッツ油、ツバキ油、アボガド油、ローズヒップ油、ククイナッツ油、ヘーゼルナッツ油、メドウフォーム油等が挙げられる。安定性の観点からは、マカダミアナッツ油やメドウフォーム油が好ましい。
成分(B)の油として、上記した油は、1種類のものを単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0018】
成分(B)の油としては、高内相W/O型乳化組成物を調製する温度(例えば80℃)で液体状となる油、もしくは常温(25℃)で液体状となる油に属するもの以外の油、すなわち、より高融点油(以下「他の油」とする)を適宜併用してもよい。他の油としては、一般に化粧料等に使用可能な乳化剤を適宜選択して使用すればよいが、例えば、化粧料の使用感を調整するとの観点から、例えば、ヒドロキシステアリン酸コレステリル、ダイマージリノール酸(フィトステリル/イソステアリル/セチル/ステアリル/ベヘニル)、ラウロイルグルタミン酸ジ(オクチルドデシル/フィトステリル/ベヘニル)などの半固形油や、ステアリン酸バチル、ベヘニルアルコール、蜜蝋、コレステロールなどの固形油等が挙げられる。
上記した他の油は、成分(B)の油として、その1種類のものを単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
ただし、高内相W/O型乳化組成物の調製温度(例えば80℃)で液体状のものを用いる観点、もしくは低粘で肌に塗布しやすい乳化液体状の化粧料とする観点からは、成分(B)の油の全量中における、上記した他の油の含有量は、0質量%超50質量%以下であることが好ましく、0質量%超25質量%以下であることがより好ましく、0質量%超10質量%以下であることがさらに好ましい。また、場合によっては、含まれないことが最も好ましい。
【0019】
成分(B)の含有量(上記した他の油を含む場合や2種類以上の油を含む場合には、それらの合計量として)としては、成分(A)、(C)、及び(D)の配合量や他の原料の配合量との関係もあり、また、用いる油の種類によっても一概ではないが、例えば、高内相W/O型乳化組成物全量中に0.1質量%以上30質量%以下であることが好ましく、5質量%以上25質量%以下であることがより好ましい。この範囲内であれば、水相からなる分散相の占有比を維持しやすく、また、高内相W/O型乳化組成物の乳化状態を安定的に維持することができる。
【0020】
成分(C)の油ゲル化剤として使用し得る種類については、上述したとおりである。
成分(C)の含有量としては、成分(A)、(B)、及び(D)の配合量や他の原料の配合量との関係もあり、また、用いる油ゲル化剤の種類によっても一概ではないが、例えば、高内相W/O型乳化組成物全量中に0.05質量%以上であると好ましい。この範囲であれば、高内相W/O型乳化組成物の乳化状態の安定化に寄与することができる。
油ゲル化剤の高内相W/O型乳化組成物における含有量は、0.1質量%以上であることがより好ましく、0.1質量%以上10質量%以下であることがさらに好ましく、0.1質量%以上5質量%以下であることが特に好ましい。油ゲル化剤の高内相W/O型乳化組成物における含有量が、上記範囲未満であると、高内相W/O型乳化組成物の乳化状態を安定化する効果が低減する場合がある。また、上記範囲を超えて油ゲル化剤を含有させても、その含有量に応じた乳化状態の安定化は期待できず、かえって、高内相W/O型乳化組成物の乳化状態を安定化する効果が低減する場合がある。
【0021】
成分(D)の水としては、例えば、精製水、蒸留水、イオン交換水、RO水、滅菌処理水等、一般に化粧料等に使用可能なものを適宜選択して使用することができ、特に制限はなく目的に応じて選択することができる。
成分(D)の含有量としては、他の成分(A)~(C)の配合量との関係等によっても一概ではないが、例えば、高内相W/O型乳化組成物全量中に70質量%以上99質量%以下であることが好ましく、74質量%以上90質量%以下であることがより好ましい。この範囲内であれば、水相からなる分散相の占有比を維持しやすく、また、高内相W/O型乳化組成物の乳化状態を安定的に維持することができる。
【0022】
本発明に用いる高内相W/O型乳化組成物には、上記成分(A)~(D)の他に、本発明の効果を損なわない範囲で、一般に化粧料等の皮膚外用剤に配合される成分、例えば、アルコール類、有機酸類、塩類、防腐剤、香料、色素等を何れも配合することができる。また、増粘のための増粘剤を配合してもよい。
アルコール類としては、肌にしっとり感を付与し、使用感を向上させるという観点からは、例えば、ソルビトール、キシリトール、マルチトールといった糖アルコールや、グリセリン、ジグリセリン等の3価以上の多価アルコールを適宜配合してもよい。また、防腐力等の観点から、例えば、ジプロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、1,2-ペンチレングリコール、1,2-へキシレングリコール等の2価のアルコールや、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、フェノキシエタノール等の1価のアルコールを適宜配合してもよい。
また、化粧料の使用感を調整するとの観点から、キサンタンガム、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ケイ酸(Al/Mg)、カルボキシビニルポリマー、アクリル酸・メタクリル酸アルキル重合体等の水系増粘剤を適宜配合してもよい。
【0023】
本発明の好ましい具体的態様の一つに、その他の素材として、更に、微生物発酵産物を含有する態様を挙げることができる。微生物発酵産物としては、一般に化粧料等に配合される成分を乳酸菌(ビフィズス菌を含む)や酵母で発酵させた培養物、培養上清、その培養物及び/又は培養上清から水もしくは含水アルコール等により抽出した抽出物等が挙げられる。例えば、特公平02-040643号公報に記載されているような乳酸菌/牛乳発酵液、特許第4512265号公報に記載されているような乳酸菌/牛乳発酵液、特許第3795011号公報に記載されているような乳酸桿菌/アロエベラ発酵液、特許第3184114号公報に記載されているような豆乳/ビフィズス菌発酵液、特開2017-212894号公報に記載されているような乳成分含有培地の乳酸菌培養物をクリベロマイセス・マキシアヌスで発酵させた培養物、WO2016/117489公報に記載されているような乳成分含有培地の乳酸菌培養物をウィッカーハモマイセス・ピジュペリで発酵させた培養物等が挙げられるが、これらに限らない。
微生物発酵産物の含有量としては、成分(A)~(D)の配合量や他の原料の配合量との関係もあり、また、用いる微生物発酵産物の種類や配合目的によっても一概ではないが、例えば、高内相W/O型乳化組成物全量中に乾燥固形分換算で0.001質量%以上0.4質量%以下であることが好ましく、0.01質量%以上0.2質量%以下であることがより好ましい。この範囲内であれば、当該微生物発酵産物を配合したことによる効果が期待でき、また、高内相W/O型乳化組成物の乳化状態を安定的に維持することができる。
【0024】
本発明に用いる高内相W/O型乳化組成物には、上述したように、上記成分(A)~(D)の他に、本発明の効果を損なわない範囲で、一般に化粧料等の皮膚外用剤に配合される成分を配合することができる。本発明に用いる高内相W/O型乳化組成物には、後述するような他の皮膚外用剤に含有されている有効成分を含んでいてもよい。ただし、より安価な導入用皮膚外用剤(皮膚プレトリートメント剤)を提供するという観点からは、本発明に用いる高内相W/O型乳化組成物には、他の皮膚外用剤に含有されている有効成分の経皮吸収性を促進することができる成分が含有されてさえいれば、有効成分は含まれていなくてもよい。
【0025】
<<高内相W/O型乳化組成物の製造方法>>
本発明に用いる高内相W/O型乳化組成物は、通常、当業者に周知の調製方法のとおり、成分(B)の油を主体とし、油によく溶解し又は分散させることができる原料を混合もしくは分散させて、原料となる油相(以下、「原料となる油相」という場合がある。)を調製し、成分(D)の水を主体とし、水によく溶解し又は分散させることができる原料を混合もしくは分散させて、原料となる水相(以下、「原料となる水相」という場合がある。)を調製し、必要とあれば、適当な温度条件下、例えば室温~80℃にて、それら原料となる油相に水相を少量ずつ添加しながら撹拌ミキサー等により分散させることにより調製することができる。一旦乳化状態を形成した後は、例えば室温等にそのまま冷却してもよく、あるいは徐々に温度を下げつつ撹拌を継続する、撹拌冷却の工程を採用してもよい。このような調製の際には、成分(C)の油ゲル化剤は、一般に油に親和性を有する場合が多いので、油性原料に混合もしくは分散させておくことが好ましい。
【0026】
<皮膚外用剤>
本発明に用いる高内相W/O型乳化組成物は、化粧料に代表される皮膚外用剤に使用することができる。
本発明の皮膚外用剤は、上述した高内相W/O型乳化組成物を含有する。
ここで、皮膚外用剤としては、化粧品(化粧料)、医薬品、医薬部外品等が挙げられる。なかでも、本発明に用いる高内相W/O型乳化組成物は、化粧料の態様として好適に利用することができる。
本発明に用いる高内相W/O型乳化組成物は、それをそのまま化粧料の形態にして用いてもよく、あるいは化粧料の原料の形態にして化粧料の製造工程で配合するようにして用いてもよい。具体的には、例えば、スキンケア化粧料(化粧水、美容液、乳液、クリーム、美白化粧料など)、日焼け止め化粧料、化粧下地クリーム、ファンデーション、口紅等のメークアップ化粧料などを挙げることができる。
本発明の皮膚外用剤には、上述した高内相W/O型乳化組成物に加え、さらに必要に応じて、皮膚外用剤に添加可能な成分を適宜添加することができる。
【0027】
<導入用皮膚外用剤としての使用>
本発明の導入用皮膚外用剤は、他の皮膚外用剤に含まれる有効成分に対して、下記実施例で示すとおり、経皮吸収促進効果を有する。
よって、本発明の皮膚外用剤は、他の皮膚外用剤の使用前に皮膚に塗布して、導入用皮膚外用剤(皮膚プレトリートメント剤)として好適に使用することができる。
【0028】
<<有効成分>>
他の皮膚外用剤に含まれている有効成分とは、皮膚などに適用したときに、何らかの作用を発揮するものをいい、特に限定されないが、例えば、保湿剤、美白剤、抗にきび剤、抗しわ剤、抗炎症剤、抗酸化剤、ビタミン類、各種アミノ酸、育毛剤、抗菌剤、ホルモン剤、酵素、各種植物抽出物、賦活剤、血行促進剤等が挙げられる。これらは、2種以上含有されてもよい。
より具体的には、ビタミンA、B、C(アスコルビン酸)、D、E、P、U等のビタミン類、その誘導体又はそれらの塩、トラネキサム酸、その誘導体又はそれらの塩等の美白剤;アミノ酸、糖、グリセリン等の保湿剤;グリチルリチン酸、その誘導体又はそれらの塩、グリチルレチン酸、アラントイン、トラネキサム酸、その誘導体又はそれらの塩等の抗炎症剤;システイン、その誘導体又はそれらの塩、ニコチン、その誘導体又はそれらの塩などが挙げられる。経皮吸収させるべき成分としては、2種類以上が併用されてもよい。
【0029】
本発明では、経皮吸収促進させる他の皮膚外用剤に含有されている有効成分としては、油溶性の物質がより好ましい。
本発明において、「油溶性」とは、例えば、1気圧20℃で純水と混合したときに、均一な外観を維持するものを水溶性とし、その水溶性以外のものを油溶性と判断することができる。
【0030】
本発明において、他の皮膚外用剤が含有する油溶性の有効成分の分子量としては、例えば、200~1500が好ましく、300~1000がより好ましい。
本発明において、他の皮膚外用剤が含有する油溶性の有効成分の無機性値及び有機性値の比(Inorganic Organic Balance:以下、IOB値と称する)としては、分子構造も影響するため一概にはいえないが、例えば、0.01~1.5であることが好ましく、0.05~1.0であることがより好ましい。
IOB値とは、I/O値とも称され、有機概念図に基づき求められる無機性値(Inorganic Value:IV)及び有機性値(Organic Value:OV)の比を表わす値として周知であり、油性基剤の極性の度合いを表す。IOB値は、例えば、「有機概念図用原料集」日本エマルジョン株式会社に従って、下記式(I)により求めることができる。
IOB値=無機性値(IV)/有機性値(OV) (I)
本発明において、他の皮膚外用剤が含有する油溶性の有効成分のClogP値(油水分配係数)としては、例えば、0.5~30.0であることが好ましく、1.0~15.0であることがより好ましい。
ClogP値とは、1-オクタノールと水への分配係数Pの常用対数logPを計算によって求めた値である。ClogP値の計算に用いる方法やソフトウェアについては公知の物を用いることができるが、例えば、chemexperにより、求めることができる。
【0031】
本発明において、他の皮膚外用剤が含有する油溶性の有効成分の具体例としては、例えば、グリチルレチン酸、グリチルレチン酸ステアリルなどのグリチルレチン酸誘導体;トコフェロール、レチノール、レチナール、レチノイン酸などの脂溶性ビタミン類;酢酸DL-α-トコフェロール、トコフェロールニコチン酸エステル、パルミチン酸レチノール、ステアリン酸アスコルビル、パルミチン酸アスコルビルなどの脂溶性のビタミン誘導体;β-カロテンなどのカロチノイド類;ユビキノン類;チオクト酸とその誘導体;カルニチン誘導体;セラミド;スフィンゴ脂質;脂溶性プロビタミン;脂溶性のプロビタミン誘導体からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。
本発明では、経皮吸収促進性をより高められるという点から、酢酸DL-α-トコフェロール、グリチルレチン酸ステアリル、パルミチン酸レチノールがより好ましい。
【0032】
本発明において「経皮吸収」とは、上述した有効成分が皮膚を介して生体に取り込まれることを意味する。また「経皮吸収性」とは、上述した有効成分が皮膚を介して生体に取り込まれる際の取り込まれ易さを意味する。
本発明において、「経皮吸収の促進効果がある」とは、他の皮膚外用剤を皮膚に塗布した際に、該他の皮膚外用剤に含有されている有効成分が皮膚に吸収される量(割合)に対して、該有効成分の皮膚に対する吸収量(割合)を増加させることができることを意味する。
【0033】
本発明の導入用皮膚外用剤を他の皮膚外用剤より先に皮膚に塗布しておくことにより、下記実施例で示すとおり、他の皮膚外用剤に含まれている有効成分の経皮吸収性を向上させることができる。
よって、本発明の導入用皮膚外用剤は、他の皮膚外用剤に含まれる有効成分の経皮吸収を促進させるために、他の皮膚外用剤の使用前に用いる導入用皮膚外用剤(皮膚プレトリートメント剤)として好適に使用することができる。
特に本発明の導入用皮膚外用剤は、下記実施例で示すとおり、油溶性の有効成分に対し、経皮吸収促進させるための導入用皮膚外用剤(皮膚プレトリートメント剤)として好適に使用することができる。
また、本発明の導入用皮膚外用剤が示す有効成分に対する経皮吸収促進性を利用すると、例えば、他の皮膚外用剤中の有効成分の1回分の使用量を少なくすることもできる。これにより、例えば、高価な有効成分の含有量を抑えることで、他の皮膚外用剤のコストを下げたり、あるいは、他の皮膚外用剤の1回の使用が抑えられることで、他の皮膚外用剤の使用回数を増やしたりすることもできる。
【実施例
【0034】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳述するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0035】
(試験例1)
下記表1に示す配合で、高内相油中水型(HIPE-W/Oとも表記する)の乳化組成物からなる化粧料、及び水中油型(O/Wとも表記する)の乳化組成物からなる化粧料を調製した。
具体的には、表1に示す配合で、油相及び水相の各原料をそれぞれ秤量し、70~80℃にて加熱溶解させた。
そして、HIPE-W/O型の乳化組成物の方は、油相成分をディスパーミキサー(プライミクス株式会社製TKロボミックス、撹拌翼φ40mm、回転速度2,500rpm)にて撹拌させながら水相成分を徐々に投入後、35℃まで撹拌冷却することにより、乳化物を形成した。
O/W型の乳化組成物の方は、水相成分を上記と同様のディスパーミキサーにて撹拌させながら油相成分を徐々に投入後、撹拌冷却することにより、乳化物を形成した。
【0036】
調製した乳化組成物の乳化型は、テスター(三和電気計器株式会社製YX-361TR)を用い、バルクの通電を確認することにより判定した。すなわち、テスター端子をバルクに接触させ、通電が確認された場合には、調製物の乳化型をO/W型、通電が確認されなかった場合には、W/O型と判断した。
【0037】
表1に示す配合のO/W型乳化組成物からなる化粧料(O/W型化粧料)に、下記表2に示す有効成分(酢酸DL-α-トコフェロール)をさらに配合し、有効成分が含有されたO/W型(O/W-VEK2とも表記する)の乳化組成物からなる化粧料(O/W-VEK2型化粧料)を形成した。
【0038】
【表1】
【0039】
表1中、ペンタエルカ酸スクロースは、三菱ケミカルフーズ株式会社製サーフホープSE COSME C2102を用いた。イソノナン酸イソノニルは、日清オイリオグループ株式会社製サラコス99を用いた。テトラエチルヘキサン酸ペンタエリスリチルは、日本精化株式会社製NS-408を用いた。ヒドロキシステアリン酸コレステリルは、日清オイリオグループ株式会社製サラコスHSを用いた。パルミチン酸デキストリンは、千葉製粉株式会社製レオパールKL2を用いた。モノステアリン酸スクロースは、三菱ケミカルフーズ株式会社製サーフホープSE COSME C1815を用いた。
【0040】
【表2】
【0041】
表2中、酢酸DL-α-トコフェロールは、理研ビタミン株式会社製の理研Eアセテート960を用いた。
用いた酢酸DL-α-トコフェロールの物性は下記のとおりである。
酢酸DL-α-トコフェロール:分子量(473)、有機性値(590)、無機性値(135)、IOB値(無機性値/有機性値)(0.23)、ClogP値(油水分配係数)(10.678)
尚、上記物性値のうち、分子量、有機性値、無機性値、IOB値は、「有機概念図用原料集」(日本エマルジョン株式会社)に従って求めた。また、ClogP値は、chemexperにより求めた。
【0042】
得られた化粧料について、常法に従い、皮膚代替膜を用いた経皮吸収試験を実施した。具体的には、試験条件は以下のとおりとした。
[経皮吸収試験]
皮膚透過性テスト用メンブレン(メルク株式会社製Strat-M(登録商標))を32℃の水を循環させたフランツ型拡散セル(パーメギア社製、レシーバーセル体積8.0cm、透過面積1.0cm)にセットした。
レシーバーセル内は、ウシ血清アルブミン5%含有PBS溶液(pH=7.4)で満たした。
有効成分を配合していないHIPE-W/O型化粧料、及びO/W型化粧料の10μLを事前にStrat-Mに塗布し、室温で15分間乾燥させた後、O/W-VEK2型化粧料の10μLをStrat-Mに塗布し、経皮吸収試験を実施した。また、事前に化粧料を塗布せず、O/W-VEK2型化粧料の10μLをStrat-Mに塗布した時の経皮吸収試験も行った。O/W-VEK2型化粧料を塗布後、24時間経過した後の有効成分の経皮吸収性を評価した。Strat-M中の有効成分量の測定は以下のように行った。
経皮吸収試験終了後、Strat-MはPBSで洗浄し、脱脂綿で表裏面を拭き取った。この工程を3回行った後、85%エタノール水溶液1.0mLに一晩浸透させることにより、有効成分を抽出した。
Strat-Mは、遠心分離(工機ホールディングス株式会社製CF-16RN、15,000rpm、10分)後、UHPLC(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製Ultimate3000)にて定量分析することにより、Strat-M中の有効成分量を算出した。
UHPLCを用いて、有効成分を定量分析した際のUHPLC条件は、下記表3に示すとおりである。
【0043】
【表3】
【0044】
HIPE-W/O型化粧料を塗布後、O/W-VEK2型化粧料を塗布した場合(HIPE-W/O+O/W-VEK2と表記する)と、O/W型化粧料を塗布後、O/W-VEK2型化粧料を塗布した場合(O/W+O/W-VEK2と表記する)と、事前に化粧料を塗布せず、O/W-VEK2型化粧料を塗布した場合(O/W-VEK2と表記する)における、O/W-VEK2型化粧料の有効成分のStrat-Mへの吸収量を測定した。その結果を、図1に示す。
図1で示すとおり、HIPE-W/O+O/W-VEK2の場合は、O/W+O/W-VEK2の場合と比較して、酢酸DL-α-トコフェロール(油溶性の有効成分)のStrat-Mへ吸収される量が、有意に高い値を示した。なお、図1で示す結果は、皮膚代替膜1枚あたりの酢酸DL-α-トコフェロール量として求め、その平均値と標準偏差を示した。また、統計手法であるテューキー法により危険率Pを求め、P<0.001未満のものについては、図1中に示した。
【0045】
図1で示すように、HIPE-W/O型化粧料は、O/W-VEK2型化粧料中の有効成分である酢酸DL-α-トコフェロール(油溶性の有効成分)に対して、経皮吸収促進効果を示すことが確認できた。
尚、図1で示すように、O/W-VEK2型化粧料中の有効成分に対して、経皮吸収促進効果を示さなかったO/W+O/W-VEK2の場合と、O/W-VEK2の場合は、ともに、酢酸DL-α-トコフェロールの吸収量に有意差は確認されなかったことから、O/W型化粧料に含まれる構成成分を事前塗布することにより有効成分の経皮吸収性は阻害されていないことが確認された。
上述したように、HIPE-W/O型化粧料を事前に塗布すると、その後に有効成分を配合した他の化粧料を塗布した際、該他の化粧料に含有される有効成分(特に油溶性の有効成分)の経皮吸収性を向上させることができることから、HIPE-W/O型化粧料は、導入用化粧料として有効に使用できることが確認できた。
【0046】
(試験例2)
表4に示す配合で、水相からなる分散相の占める割合が90質量%である高内相W/O型乳化組成物の調製を試みた。具体的には、油相及び水相の各原料を秤量後、それぞれ80℃にて溶解・混合させ、80℃にて油相に水相を少量ずつ添加しながらディスパーミキサー(新東科学株式会社製スリーワンモーターBLh600、撹拌翼φ40mm)により、撹拌翼回転速度600rpmで分散させた後、35℃まで冷却した。
得られた調製物は、室温条件下でスイングローター式の遠心分離機に供して720×gで30分間の遠心分離処理を行い、調製物が油相と水相に分離せずに乳化状態を保つかどうか目視にて観察し、その安定性を評価した。
また、調製1日後のバルク硬度として、レオメーター(株式会社サン科学製CR-3000EX-S)にて、直径25mmの円柱状のプローブを試料表面から58mm/minの進入速度で充填容器の底面まで進入させたときの平均応力(単位:g(グラム))を計測した。
【0047】
【表4】
【0048】
表4中、ペンタエルカ酸スクロースは、三菱ケミカルフーズ株式会社製サーフホープSE COSME C2102を用いた。パルミチン酸デキストリンは、千葉製粉社製レオパールKL2を用いた。パルミチン酸スクロースは、三菱ケミカルフーズ株式会社製サーフホープSE COSME C1616を用いた。
【0049】
[安定性評価基準]
○:遠心分離処理後に油相と水相に分離していない。
△:遠心分離処理後に油相と水相に一部分離している。
×:遠心分離処理後に油相と水相に完全に分離している。
その結果、油ゲル化剤として知られるパルミチン酸デキストリンを調製物の全体中に0.05質量%配合すると、一部安定な高内相W/O型乳化組成物が得られることが明らかとなり、パルミチン酸デキストリンを調製物の全体中に0.1質量%以上配合すると、乳化状態が安定な高内相W/O型乳化組成物が得られることが明らかとなった。また、調製物のバルク硬度は油ゲル化剤であるパルミチン酸デキストリンの配合量の増加とともに増大した。
【0050】
(試験例3)
表5に示す配合で、試験例2と同様の調製方法で、水相からなる分散相の占める割合が90質量%である高内相W/O型乳化組成物の調製を試み、試験例2と同様にして、乳化状態が安定な高内相W/O型乳化組成物が得られるかどうかを試験した。
【0051】
【表5】
【0052】
表5中、ペンタエルカ酸スクロースは、三菱ケミカルフーズ株式会社製サーフホープSE COSME C2102を用いた。(ベヘン酸/エイコサン二酸)グリセリルは、日清オイリオグループ社製ノムコートHK-Gを用いた。パルミチン酸スクロースは、三菱ケミカルフーズ株式会社製サーフホープSE COSME C1616を用いた。
【0053】
[安定性評価基準]
○:遠心分離処理後に油相と水相に分離していない。
△:遠心分離処理後に油相と水相に一部分離している。
×:遠心分離処理後に油相と水相に完全に分離している。
その結果、油ゲル化剤として知られる(ベヘン酸/エイコサン二酸)グリセリルを調製物の全体中に0.05質量%配合すると、一部安定な高内相W/O型乳化組成物が得られることが明らかとなり、(ベヘン酸/エイコサン二酸)グリセリルを調製物の全体中に0.1質量%以上配合すると、乳化状態が安定な高内相W/O型乳化組成物が得られることが明らかとなった。また、調製物のバルク硬度は油ゲル化剤である(ベヘン酸/エイコサン二酸)グリセリルの配合量の増加とともに増大した。
【0054】
(試験例4)
表6に示す配合で、試験例2と同様の調製方法で、水相からなる分散相の占める割合が90質量%である高内相W/O型乳化組成物の調製を試み、試験例2、3と同様にして、乳化状態が安定な高内相W/O型乳化組成物が得られるかどうかを試験した。
【表6】
【0055】
表6中、ペンタエルカ酸スクロースは、三菱ケミカルフーズ株式会社製サーフホープSE COSME C2102を用いた。ミリスチン酸デキストリンは、千葉製粉社製レオパールMKL2を用いた。パルミチン酸スクロースは、三菱ケミカルフーズ株式会社製サーフホープSE COSME C1616を用いた。
【0056】
[安定性評価基準]
○:遠心分離処理後に油相と水相に分離していない。
△:遠心分離処理後に油相と水相に一部分離している。
×:遠心分離処理後に油相と水相に完全に分離している。
その結果、油ゲル化剤として知られるミリスチン酸デキストリンを調製物の全体中に0.05質量%配合すると、一部安定な高内相W/O型乳化組成物が得られることが明らかとなり、油ゲル化剤として知られるミリスチン酸デキストリンを調製物の全体中に0.1質量%以上配合すると、乳化状態が安定な高内相W/O型乳化組成物が得られることが明らかとなった。また、調製物のバルク硬度は油ゲル化剤であるミリスチン酸デキストリンの配合量の増加とともに増大した。
【0057】
(試験例5)
表7に示す配合で化粧料を調製した。具体的には、油相及び水相の各原料を秤量後、それぞれ80℃にて溶解・混合させ、80℃にて油相に水相を少量ずつ添加しながら更にディスパーミキサー(フィルミックス株式会社製TK ROBOMICS、撹拌翼φ35mm)により、撹拌翼回転速度2500rpmで分散させた後、35℃まで冷却した。
【0058】
【表7】
【0059】
表7中、ペンタエルカ酸スクロースは、三菱ケミカルフーズ株式会社製サーフホープSE COSME C2102を用いた。パルミチン酸デキストリンは、千葉製粉社製レオパールKL2を用いた。ステアリン酸スクロースは、三菱ケミカルフーズ株式会社製サーフホープSE COSME C1815を用いた。
【0060】
その結果、得られた化粧料は、水相からなる分散相の占める割合が75質量%である高内相W/O型乳化組成物であった。また、その乳化状態は、試験例2記載の遠心分離処理による安定性評価の結果、安定であった。
【0061】
(試験例6)
試験例1で使用した酢酸DL-α-トコフェロールの有効成分を、グリチルレチン酸ステアリルの有効成分に変え、試験例1と同様の実験を行った。
下記表8に示す配合で、高内相油中水型(HIPE-W/Oとも表記する)の乳化組成物からなる化粧料、及び水中油型(O/Wとも表記する)の乳化組成物からなる化粧料を調製した。
具体的には、表8に示す配合で、油相及び水相の各原料をそれぞれ秤量し、70~80℃にて加熱溶解させた。
そして、HIPE-W/O型の乳化組成物の方は、油相成分をディスパーミキサー(プライミクス株式会社製TKロボミックス、撹拌翼φ40mm、回転速度2,500rpm)にて撹拌させながら水相成分を徐々に投入後、35℃まで撹拌冷却することにより、乳化物を形成した。
O/W型の乳化組成物の方は、水相成分を上記と同様のディスパーミキサーにて撹拌させながら油相成分を徐々に投入後、撹拌冷却することにより、乳化物を形成した。
【0062】
調製した乳化組成物の乳化型は、テスター(三和電気計器株式会社製YX-361TR)を用い、バルクの通電を確認することにより判定した。すなわち、テスター端子をバルクに接触させ、通電が確認された場合には、調製物の乳化型をO/W型、通電が確認されなかった場合には、W/O型と判断した。
【0063】
表8に示す配合のO/W型乳化組成物からなる化粧料(O/W型化粧料)に、下記表9に示す有効成分(グリチルレチン酸ステアリル)をさらに配合し、有効成分が含有されたO/W型(O/W-COとも表記する)の乳化組成物からなる化粧料(O/W-CO型化粧料)を形成した。
【0064】
【表8】
【0065】
表8中、ペンタエルカ酸スクロースは、三菱ケミカルフーズ株式会社製サーフホープSE COSME C2102を用いた。イソノナン酸イソノニルは、日清オイリオグループ株式会社製サラコス99を用いた。テトラエチルヘキサン酸ペンタエリスリチルは、日本精化株式会社製NS-408を用いた。ヒドロキシステアリン酸コレステリルは、日清オイリオグループ株式会社製サラコスHSを用いた。パルミチン酸デキストリンは、千葉製粉株式会社製レオパールKL2を用いた。モノステアリン酸スクロースは、三菱ケミカルフーズ株式会社製サーフホープSE COSME C1815を用いた。
【0066】
【表9】
【0067】
表9中、グリチルレチン酸ステアリルは、丸善製薬株式会社製のシーオーグレチノールを用いた。
【0068】
得られた化粧料について、常法に従い、皮膚代替膜を用いた経皮吸収試験を実施した。具体的には、試験条件は以下のとおりとした。
[経皮吸収試験]
皮膚透過性テスト用メンブレン(メルク株式会社製Strat-M(登録商標))を32℃の水を循環させたフランツ型拡散セル(パーメギア社製、レシーバーセル体積8.0cm、透過面積1.0cm)にセットした。
レシーバーセル内は、ウシ血清アルブミン5%含有PBS溶液(pH=7.4)で満たした。
有効成分を配合していないHIPE-W/O型化粧料、及びO/W型化粧料の10μLを事前にStrat-Mに塗布し、室温で15分間乾燥させた後、O/W-CO型化粧料の10μLをStrat-Mに塗布し、経皮吸収試験を実施した。また、事前に化粧料を塗布せず、O/W-CO型化粧料の10μLをStrat-Mに塗布した時の経皮吸収試験も行った。O/W-CO型化粧料を塗布後、90分経過した後の有効成分の経皮吸収性を評価した。Strat-M中の有効成分量の測定は以下のように行った。
経皮吸収試験終了後、Strat-MはPBSで洗浄し、脱脂綿で表裏面を拭き取った。この工程を3回行った後、90%エタノール水溶液1.0mLに一晩浸透させることにより、有効成分を抽出した。
Strat-Mは、遠心分離(工機ホールディングス株式会社製CF-16RN、15,000rpm、10分)後、UHPLC(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製Ultimate3000)にて定量分析することにより、Strat-M中の有効成分量を算出した。
UHPLCを用いて、有効成分を定量分析した際のUHPLC条件は、下記表10に示すとおりである。
【0069】
【表10】
【0070】
HIPE-W/O型化粧料を塗布後、O/W-CO型化粧料を塗布した場合(HIPE-W/O+O/W-COと表記する)と、O/W型化粧料を塗布後、O/W-CO型化粧料を塗布した場合(O/W+O/W-COと表記する)と、事前に化粧料を塗布せず、O/W-CO型化粧料を塗布した場合(O/W-COと表記する)における、O/W-CO型化粧料の有効成分のStrat-Mへの吸収量を測定した。その結果を、図2に示す。
図2で示すとおり、HIPE-W/O+O/W-COの場合は、O/W+O/W-COの場合と比較して、グリチルレチン酸ステアリル(油溶性の有効成分)のStrat-Mへ吸収される量が、有意に高い値を示した。なお、図2で示す結果は、皮膚代替膜1枚あたりのグリチルレチン酸ステアリル量として求め、その平均値と標準偏差を示した。また、統計手法であるテューキー法により危険率Pを求め、P<0.001未満のものについては、図2中に示した。
【0071】
図2で示すように、HIPE-W/O型化粧料は、O/W-CO型化粧料中の有効成分であるグリチルレチン酸ステアリル(油溶性の有効成分)に対して、経皮吸収促進効果を示すことが確認できた。
尚、図2で示すように、O/W-CO型化粧料中の有効成分に対して、経皮吸収促進効果を示さなかったO/W+O/W-COの場合と、O/W-COの場合は、ともに、グリチルレチン酸ステアリルの吸収量に有意差は確認されなかったことから、O/W型化粧料に含まれる構成成分を事前塗布することにより有効成分の経皮吸収性は阻害されていないことが確認された。
上述したように、HIPE-W/O型化粧料を事前に塗布すると、その後に有効成分を配合した他の化粧料を塗布した際、該他の化粧料に含有される有効成分(特に油溶性の有効成分)の経皮吸収性を向上させることができることから、HIPE-W/O型化粧料は、導入用化粧料として有効に使用できることが確認できた。
【0072】
(試験例7)
試験例1で使用した酢酸DL-α-トコフェロールの有効成分を、パルミチン酸レチノールの有効成分に変え、試験例1と同様の実験を行った。
下記表11に示す配合で、高内相油中水型(HIPE-W/Oとも表記する)の乳化組成物からなる化粧料、及び水中油型(O/Wとも表記する)の乳化組成物からなる化粧料を調製した。
具体的には、表11に示す配合で、油相及び水相の各原料をそれぞれ秤量し、70~80℃にて加熱溶解させた。
そして、HIPE-W/O型の乳化組成物の方は、油相成分をディスパーミキサー(プライミクス株式会社製TKロボミックス、撹拌翼φ40mm、回転速度2,500rpm)にて撹拌させながら水相成分を徐々に投入後、35℃まで撹拌冷却することにより、乳化物を形成した。
O/W型の乳化組成物の方は、水相成分を上記と同様のディスパーミキサーにて撹拌させながら油相成分を徐々に投入後、撹拌冷却することにより、乳化物を形成した。
【0073】
調製した乳化組成物の乳化型は、テスター(三和電気計器株式会社製YX-361TR)を用い、バルクの通電を確認することにより判定した。すなわち、テスター端子をバルクに接触させ、通電が確認された場合には、調製物の乳化型をO/W型、通電が確認されなかった場合には、W/O型と判断した。
【0074】
表11に示す配合のO/W型乳化組成物からなる化粧料(O/W型化粧料)に、下記表12に示す有効成分(パルミチン酸レチノール)をさらに配合し、有効成分が含有されたO/W型(O/W-VAとも表記する)の乳化組成物からなる化粧料(O/W-VA型化粧料)を形成した。
【0075】
【表11】
【0076】
表11中、ペンタエルカ酸スクロースは、三菱ケミカルフーズ株式会社製サーフホープSE COSME C2102を用いた。イソノナン酸イソノニルは、日清オイリオグループ株式会社製サラコス99を用いた。テトラエチルヘキサン酸ペンタエリスリチルは、日本精化株式会社製NS-408を用いた。ヒドロキシステアリン酸コレステリルは、日清オイリオグループ株式会社製サラコスHSを用いた。パルミチン酸デキストリンは、千葉製粉株式会社製レオパールKL2を用いた。モノステアリン酸スクロースは、三菱ケミカルフーズ株式会社製サーフホープSE COSME C1815を用いた。
【0077】
【表12】
【0078】
表12中、パルミチン酸レチノールは、理研ビタミン株式会社製の理研Aパルミテート1000を用いた。
【0079】
得られた化粧料について、常法に従い、皮膚代替膜を用いた経皮吸収試験を実施した。具体的には、試験条件は以下のとおりとした。
[経皮吸収試験]
皮膚透過性テスト用メンブレン(メルク株式会社製Strat-M(登録商標))を32℃の水を循環させたフランツ型拡散セル(パーメギア社製、レシーバーセル体積8.0cm、透過面積1.0cm)にセットした。
レシーバーセル内は、ウシ血清アルブミン5%含有PBS溶液(pH=7.4)で満たした。
有効成分を配合していないHIPE-W/O型化粧料、及びO/W型化粧料の10μLを事前にStrat-Mに塗布し、室温で15分間乾燥させた後、O/W-VA型化粧料の10μLをStrat-Mに塗布し、経皮吸収試験を実施した。また、事前に化粧料を塗布せず、O/W-VA型化粧料の10μLをStrat-Mに塗布した時の経皮吸収試験も行った。O/W-VA型化粧料を塗布後、90分経過した後の有効成分の経皮吸収性を評価した。Strat-M中の有効成分量の測定は以下のように行った。
経皮吸収試験終了後、Strat-MはPBSで洗浄し、脱脂綿で表裏面を拭き取った。この工程を3回行った後、90%エタノール水溶液1.0mLに一晩浸透させることにより、有効成分を抽出した。
Strat-Mは、遠心分離(工機ホールディングス株式会社製CF-16RN、15,000rpm、10分)後、UHPLC(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製Ultimate3000)にて定量分析することにより、Strat-M中の有効成分量を算出した。
UHPLCを用いて、有効成分を定量分析した際のUHPLC条件は、下記表13に示すとおりである。
【0080】
【表13】
【0081】
HIPE-W/O型化粧料を塗布後、O/W-VA型化粧料を塗布した場合(HIPE-W/O+O/W-VAと表記する)と、O/W型化粧料を塗布後、O/W-VA型化粧料を塗布した場合(O/W+O/W-VAと表記する)と、事前に化粧料を塗布せず、O/W-VA型化粧料を塗布した場合(O/W-VAと表記する)における、O/W-VA型化粧料の有効成分のStrat-Mへの吸収量を測定した。その結果を、図3に示す。
図3で示すとおり、HIPE-W/O+O/W-VAの場合は、O/W+O/W-VAの場合と比較して、パルミチン酸レチノール(油溶性の有効成分)のStrat-Mへ吸収される量が、有意に高い値を示した。なお、図3で示す結果は、皮膚代替膜1枚あたりのパルミチン酸レチノール量として求め、その平均値と標準偏差を示した。また、統計手法であるテューキー法により危険率Pを求め、P<0.001未満のものについては、図3中に示した。
【0082】
図3で示すように、HIPE-W/O型化粧料は、O/W-VA型化粧料中の有効成分であるパルミチン酸レチノール(油溶性の有効成分)に対して、経皮吸収促進効果を示すことが確認できた。
尚、図3で示すように、O/W-VA型化粧料中の有効成分に対して、経皮吸収促進効果を示さなかったO/W+O/W-VAの場合と、O/W-VAの場合は、ともに、パルミチン酸レチノールの吸収量に有意差は確認されなかったことから、O/W型化粧料に含まれる構成成分を事前塗布することにより有効成分の経皮吸収性は阻害されていないことが確認された。
上述したように、HIPE-W/O型化粧料を事前に塗布すると、その後に有効成分を配合した他の化粧料を塗布した際、該他の化粧料に含有される有効成分(特に油溶性の有効成分)の経皮吸収性を向上させることができることから、HIPE-W/O型化粧料は、導入用化粧料として有効に使用できることが確認できた。
【0083】
上記各実施例で示すように、本発明により、さっぱりとした使用感と高い保湿効果とを有する高内相W/O型乳化組成物であって、さらに乳化状態の安定維持を満足できる、高内相W/O型乳化組成物を含有する皮膚外用剤を提供することができた。
また、本発明により、他の皮膚外用剤に含有される有効成分、特に油溶性の有効成分に対して、経皮吸収性を促進させることができる、高内相W/O型乳化組成物を含有する皮膚外用剤を提供することができた。これにより、本発明の高内相W/O型乳化組成物を含有する皮膚外用剤は、他の皮膚外用剤が含有する有効成分の経皮吸収性を向上させるために、他の皮膚外用剤の使用前に肌に塗布する導入用皮膚外用剤として、有効に使用することができる。

図1
図2
図3