(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-26
(45)【発行日】2024-10-04
(54)【発明の名称】異物除去方法及び異物除去装置
(51)【国際特許分類】
G03F 1/82 20120101AFI20240927BHJP
G03F 1/84 20120101ALI20240927BHJP
【FI】
G03F1/82
G03F1/84
(21)【出願番号】P 2020159342
(22)【出願日】2020-09-24
【審査請求日】2023-06-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000115902
【氏名又は名称】レーザーテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【氏名又は名称】家入 健
(74)【代理人】
【識別番号】100129953
【氏名又は名称】岩瀬 康弘
(72)【発明者】
【氏名】楠瀬 治彦
(72)【発明者】
【氏名】山崎 輝明
(72)【発明者】
【氏名】武久 究
(72)【発明者】
【氏名】鳥澤 允
【審査官】今井 彰
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-223911(JP,A)
【文献】特開2003-010792(JP,A)
【文献】特開2016-123963(JP,A)
【文献】特開2008-108959(JP,A)
【文献】特開2009-265176(JP,A)
【文献】特開2016-095228(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0241274(US,A1)
【文献】米国特許第06175984(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 1/20-1/86
H01L 21/304
B08B 1/00-1/04、5/00-13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘着部材を加熱する加熱ステップと、
加熱した前記粘着部材を、棒状部材の端面に付着させる付着ステップと、
前記棒状部材に付着させた前記粘着部材を薄膜上の異物に接触させて、当該異物を除去する除去ステップと、
を含
み、
前記棒状部材は、内部を光が通過する導光部材であり、
前記加熱ステップは、
前記導光部材の前記端面から出射されたレーザ光を前記粘着部材に照射して加熱し、
前記付着ステップは、
加熱した前記粘着部材を、前記導光部材の前記端面に付着させる、
異物除去方法。
【請求項2】
前記導光部材は、光ファイバである、
請求項
1に記載の異物除去方法。
【請求項3】
粘着部材を加熱する加熱ステップと、
加熱した前記粘着部材を、棒状部材の端面に付着させる付着ステップと、
前記棒状部材に付着させた前記粘着部材を薄膜上の異物に接触させて、当該異物を除去する除去ステップと、
を含
み、
前記除去ステップは、
前記端面に付着した前記粘着部材にレーザ光を照射して加熱し、加熱した前記粘着部材を前記薄膜上の前記異物に接触させて、前記異物を除去する、
異物除去方法。
【請求項4】
前記除去ステップは、
前記端面に付着した前記粘着部材に、前記光ファイバ内を通ったレーザ光を照射して加熱し、加熱した前記粘着部材を前記薄膜上の前記異物に接触させて、前記異物を除去する、
請求項
2に記載の異物除去方法。
【請求項5】
前記除去ステップは、
前記端面を、前記薄膜上の前記異物に接近させる接近ステップと、
前記端面に付着した前記粘着部材と、前記薄膜との接触を検出する検出ステップと、
前記検出ステップの検出結果に応じて、前記端面を前記薄膜から離反させる離反ステップと、
を含む請求項1から
4のいずれか1項に記載の異物除去方法。
【請求項6】
前記検出ステップは、前記薄膜の厚み方向の位置変化あるいは、前記薄膜の厚み方向の振動変化に基づき、前記端面に付着した前記粘着部材と、前記薄膜との接触を検出する、
請求項
5に記載の異物除去方法。
【請求項7】
前記粘着部材は、アスファルトである、
請求項1から
6のいずれか1項に記載の異物除去方法。
【請求項8】
前記薄膜は、EUVマスクのマスクパターンを覆うためのEUVペリクルである、
請求項1から
7のいずれか1項に記載の異物除去方法。
【請求項9】
粘着部材を加熱する加熱部と、
加熱した前記粘着部材を棒状部材の端面に付着させ、前記棒状部材に付着させた前記粘着部材を薄膜上の異物に接触させて、当該異物を除去する駆動部と、
を備え
、
前記棒状部材は、内部を光が通過する導光部材であり、
前記加熱部は、
前記導光部材の端面から出射されたレーザ光を前記粘着部材に照射して加熱し、
前記駆動部は、
加熱した前記粘着部材を、前記導光部材の前記端面に付着させる、
異物除去装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異物除去方法及び異物除去装置に関するものであり、例えば、EUVL(Extremely Ultraviolet Lithography)プロセスで用いられるEUVマスク用ペリクルに付着した異物を除去する異物除去方法及び異物除去装置に関する。
【背景技術】
【0002】
マスク基板のパターン面に異物が付着するのを防ぐため、ペリクルが利用されている。EUVマスク用のペリクル(以下、EUVペリクルと称する)は、厚さが約50nm程度と非常に薄く、洗浄、及び乾燥が容易ではないことが知られている。例えば、EUVペリクルは、僅かな気流で簡単に破れてしまうため、エアブローにより異物を除去することはできない。なお、EUVペリクル以外の薄膜についても、微小な異物をエアブローにより除去することは困難である。
【0003】
しかし、サイズが数ミクロン以下の異物がペリクルに付着したとしても、ウエハ上に結像しないので、マスクの転写特性には影響を与えない。また、微小な異物は、質量が小さいため加速度によって受ける力が小さい。したがって、微小な異物とペリクルとの間に働く分子間力が相対的に大きくなるため、微小な異物が、マスクのパターン面に移動する可能性は低いと考えられる。
【0004】
ところで、マスク基板の裏面に付着した異物を、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂等の粘着性物質により除去する異物除去方法が知られている。
図1は、従来技術にかかる異物除去方法の概要を示す概略図である。従来技術にかかる異物除去方法は、ウレタン樹脂等の粘着部材3を付着させた棒状部材111を、マスク基板4の裏面上の異物5に接近させ(ステップS101)、粘着部材3を異物5に押し付けて(ステップS102)、粘着部材3をマスク基板4の裏面から引きはがすことにより異物の除去を行う(ステップS103)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭61-18130号公報
【文献】特開平2-13952号公報
【文献】特開平3-155550号公報
【文献】特開平3-204648号公報
【文献】特開平3-231248号公報
【文献】特開平5-297572号公報
【文献】特開平6-29175号公報
【文献】特開平6-260464号公報
【文献】特開平9-260245号公報
【文献】特開平11-143054号公報
【文献】特開2005-33072号公報
【文献】特開2008-116979号公報
【文献】特開2008-304737号公報
【文献】特開2009-164464号公報
【文献】特開2009-265176号公報
【文献】特開2010-45283号公報
【文献】特開2010-54773号公報
【文献】特開2011-81282号公報
【文献】特開2012-203163号公報
【文献】特開2013-68786号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ミクロンオーダのサイズの異物がパターン面に移動する可能性は必ずしもゼロではない。もし、ペリクルの内側(マスク側)に付着した異物が、マスクのパターン面に移動した場合、当該異物がパターン欠陥としてウエハに転写してしまう。また、付着した異物のサイズが、数十ミクロン以上の場合、EUV光の吸収によりペリクルが高温となって破損するおそれがある。
【0007】
しかしながら、上記の通り、EUVペリクルは洗浄が容易ではないため、製造歩留まりが非常に低くなっていた。ここで、
図1に示す異物除去方法をペリクルに適用した場合、粘着部材をEUVペリクルから引き離す際に、EUVペリクルが破れてしまうおそれがある。
【0008】
本発明の目的は、このような問題を解決するためになされたものであり、EUVペリクル等の薄膜上の異物を除去することができる異物除去方法及び異物除去装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る異物除去方法は、粘着部材を加熱する加熱ステップと、加熱した前記粘着部材を、棒状部材の端面に付着させる付着ステップと、前記棒状部材に付着させた前記粘着部材を薄膜上の異物に接触させて、当該異物を除去する除去ステップと、を含む。
【0010】
また、本発明に係る異物除去装置は、粘着部材を加熱する加熱部と、加熱した前記粘着部材を棒状部材の端面に付着させ、前記棒状部材に付着させた前記粘着部材を薄膜上の異物に接触させて、当該異物を除去する駆動部と、を備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、EUVペリクル等の薄膜上の異物を除去することができる異物除去方法及び異物除去装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】マスク基板の裏面上の異物を除去する方法の概要を示す概略図である。
【
図2】実施形態にかかる異物除去装置の概要を示す概略図である。
【
図3】実施形態にかかる異物除去装置が使用するシート状アスファルトの作成方法を示す概略図である。
【
図4】実施形態にかかる異物除去装置が使用するシート状アスファルトの作成方法を示す概略図である。
【
図5】実施形態にかかる異物除去方法において、棒状部材の端面に粘着部材を付着させる方法の概要を示す概略図である。
【
図6】実施形態にかかる異物除去方法において、棒状部材の端面に粘着部材を付着させる方法の概要を示す概略図である。
【
図7】実施形態にかかる異物除去装置が、棒状部材の端面から粘着部材を除去する方法を示す概略図である。
【
図8】実施形態にかかる異物除去装置の光学系の構成例を示す構成図である。
【
図9】実施形態にかかる異物除去装置が薄膜と粘着部材との接触を検出する方法を例示する概略図である。
【
図10】実施形態にかかる異物除去装置が薄膜と粘着部材との接触を検出する方法を例示する概略図である。
【
図11】実施形態にかかる異物除去装置の処理装置の機能構成を示すブロック図である。
【
図12】実施形態にかかる異物除去方法の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本実施形態の具体的構成について図面を参照して説明する。以下の説明は、本発明の好適な実施の形態を示すものであって、本発明の範囲が以下の実施の形態に限定されるものではない。以下の説明において、同一の符号が付されたものは実質的に同様の内容を示している。
【0014】
(実施形態)
図2は、実施形態にかかる異物除去装置1の概要を示す概略図である。異物除去装置1は、除去部11と、加熱用レーザ光源12と、粘着部材3を塗布したポリイミドフィルム13と、ガラス板14と、光学系20と、制御装置30とを備えている。
【0015】
図2では、説明の明確化のため、XYZの3次元直交座標系を示している。なお、Z方向が鉛直方向であり、薄膜2の厚さ方向と平行な方向である。したがって、Z方向が高さ方向となる。X方向、及びY方向は、薄膜2の端辺と平行な方向となっている。
【0016】
異物除去装置1は、粘着部材3を用いて薄膜2上の異物を除去する装置である。薄膜2は、例えば、マスクに装着される前のEUVペリクルである。ただし、薄膜2は、EUVペリクルには限られない。薄膜2は、図示しないステージに搭載されており、X方向、Y方向、及びZ方向に移動させることができる。ステージは中空ステージであるため、薄膜2の-Z側の面(以下、裏面と称する)に対して、粘着部材3を接触させることが可能となっている。
【0017】
ポリイミドフィルム13は、水平に配置されており、下側(-Z側)に粘着部材3が塗布されている。粘着部材3は、粘着性の樹脂であり、アスファルト等の天然樹脂であってもよく、EVA(Ethylene-vinyl acetate)等の合成樹脂であってもよい。アスファルトは、黒色であり、レーザ光で照射加熱し易いため好ましい。粘着部材3は、常温で粘着性を有していなくてもよく、加熱した状態で粘着性を有していればよい。
【0018】
なお、粘着部材3を塗布する部材としては、ポリイミドフィルム以外のフィルムや、ガラス板等の板状部材が使用されてもよい。粘着部材3を塗布したポリイミドフィルム13は、図示しないステージに載置されていてもよい。
【0019】
次に、粘着部材3を塗布したポリイミドフィルムの一例として、シート状アスファルトについて説明する。
図3は、シート状アスファルトを作成する方法の概要を示す概略図である。ホットプレート43上にはポリイミドフィルム13が敷かれている。アスファルト3aは、ポリイミドフィルム13を介して加熱される。アスファルト3aは、フッ素樹脂フィルム42を介して、ローラー41により圧延される。
【0020】
図4は、
図3をローラー41の中心軸に垂直な方向から見た時の概略的な断面図を示している。
図4の右図は、左図の点線で囲んだ領域の拡大図である。ローラー41の端部にはスペーサ44が配置されている。スペーサ44は、例えば、SUS(Steel Use Stainless)板である。スペーサ44により、アスファルト3aの厚みを適切に制御することが可能となる。
【0021】
次に、
図3及び
図4に概要を示したシート状アスファルトの作成手順について詳細に説明する。まず、ポリイミドフィルム13をホットプレート43の上に載せて加熱を開始する。次に、ポリイミドフィルム13の上にスペーサ44を載せる。スペーサ44は、2枚程度のSUS板であってもよい。次に、ポリイミドフィルム13の上にアスファルト3aの固まりを載せて軟化させる。次に、アスファルト3aの上にフッ素樹脂フィルム42を載せる。次に、ローラー41を、ホットプレート43を用いて予め加熱する。次に、加熱したローラー41を、フッ素樹脂フィルム42上で転がす。次に、ポリイミドフィルム13、アスファルト3a、及びフッ素樹脂フィルム42を一体として、ホットプレート43から持ち上げて、温かいうちに平らな台に載せて常温に冷ます。次に、ポリイミドフィルム13等を、フレームに接着し、フレームからはみ出した部分を切除する。フッ素樹脂フィルム42は、使用前にアスファルト3aから剥がされる。
【0022】
図2に戻って、ガラス板14は、薄膜2から異物を粘着除去した後、後述する棒状部材111に付着させた粘着部材3を除去するために使用される。なお、粘着部材3を除去するために使用する部材としては、ガラス板以外の板状部材が使用されてもよい。
【0023】
除去部11は、棒状部材111と、棒状部材111を駆動する駆動部112とを備える。駆動部112は、後述する制御装置30によって制御される。
図2に示すように、棒状部材111は、光ファイバ、グラスファイバ等の線材の一部であってもよい。棒状部材111の端面は、線材の長軸と垂直方向にカットされていることが好ましい。棒状部材111は、駆動部112により、X方向、Y方向、及びZ方向に駆動可能となっている。棒状部材111は、内部を光が通過する導光部材(例:光ファイバ)であってもよい。
【0024】
駆動部112は、棒状部材111の端面を、ポリイミドフィルム13に塗布された粘着部材3に接触させ、棒状部材111の端面に粘着部材3を付着させる。そして、駆動部112は、棒状部材111に付着した粘着部材3を、薄膜2上の異物に接触させて、当該異物を除去する。異物を除去した後、駆動部112は、棒状部材111に付着した粘着部材3を、ガラス板14を用いて除去する。
【0025】
加熱用レーザ光源12は、ポリイミドフィルム13に塗布された粘着部材3にレーザ光を照射し、粘着部材3を液化、或いは軟化させる。これにより、棒状部材111の端面に粘着部材3を付着させることが可能となる。
【0026】
また、加熱用レーザ光源12は、棒状部材111の端面に付着させた粘着部材3を加熱する。これにより、粘着部材3の温度を、流動性が無視できるほど小さく、かつ、粘度が最適となる温度に保つことができる。なお、粘着部材3が、常温で適切な粘度を有している場合には、レーザ照射により粘着部材3の粘度をコントロールする必要はない。適切な粘度の粘着部材3を異物に接触させると、異物がアスファルト等の粘着部材3に入り込むため、棒状部材111を引き離すことにより異物を除去することができる。
【0027】
また、加熱用レーザ光源12が、棒状部材111の端面に付着させた粘着部材3を加熱することにより、付着させた粘着部材3を液化、或いは軟化させて、ガラス板14を用いて除去することが可能となる。
【0028】
棒状部材111が光ファイバの一部である場合、加熱用レーザ光源12は、当該光ファイバと結合されていてもよい。このような場合、棒状部材111の端面から出射されたレーザ光が、ポリイミドフィルム13に塗布された粘着部材3を加熱することとなる。また、当該光ファイバ内を通ったレーザ光が、棒状部材111(光ファイバ)の端面に付着した粘着部材3を加熱することとなる。これにより、光ファイバの直径(例:125μm)と同程度の領域が加熱される。なお、棒状部材111は、内部を光が通過する導光部材であれば、光ファイバでなくてもよい。
【0029】
図5及び
図6は、棒状部材111の端面に粘着部材3を付着させる方法の概要を示す概略図である。
図5は棒状部材111(光ファイバ)の端面からレーザ光L1を出射する場合であり、
図6は棒状部材111の端面以外からレーザ光L2を出射する場合である。
【0030】
図5では、まず、光ファイバにレーザ光を入力し、当該光ファイバの端面(棒状部材111の端面)からレーザ光L1を出射してアスファルト3aを加熱溶解する(ステップS201)。加熱したアスファルト3aは液化、又は軟化する。次に、駆動部112は、棒状部材111の端面と粘着部材3とを接触させて引き離す。これにより、棒状部材111の端面に、先端が球面形状のアスファルト3aが付着する(ステップS202)。常温で冷却することにより、アスファルト3aの流動性はほぼ失われる。
【0031】
図6では、ポリイミドフィルム13越しにレーザ光L2を照射して、アスファルト3aを加熱溶解している(ステップS301)。このような場合、棒状部材111は、光ファイバでなくてもよい。
図5と同様に、駆動部112は、棒状部材111の端面と、アスファルト3aとを接触させて引き離す。これにより、棒状部材111にアスファルト3aが付着する(ステップS302)。なお、ポリイミドフィルム13が図示しないステージに搭載されており、
図2の対物レンズ24で集光したレーザ光により、アスファルト3aが加熱されてもよい。
【0032】
なお、粘着部材3は、レーザ光以外の手段で加熱されてもよく、例えば、ヒーター等によって加熱されてもよい。ただし、棒状部材111に付着させるのに必要な分の粘着部材3を加熱することができるという点で、レーザ加熱が好ましい。特に、棒状部材として光ファイバを用いることで、適切な位置にレーザ光を照射することができる。
【0033】
表面張力及び重力の影響で、棒状部材111の端面には、粘着部材による凸面形状が形成される。凸面形状の粘着部材を使用することにより、薄膜2と粘着部材との接触面積を小さくすることができるため、薄膜2に対して加えられる引張り力を低減することができる。
【0034】
図7は、異物を除去した後、棒状部材111の端面から、異物を含むアスファルト3aを除去する方法の概要を示す概略図である。まず、棒状部材111に付着したアスファルト3aは、レーザ光の照射により加熱溶解される(ステップS401)。ここで、棒状部材111が光ファイバである場合、光ファイバの内部を通ったレーザ光により、アスファルト3aが照射加熱されてもよい。また、ガラス板14は図示しないステージに搭載されえており、
図2の対物レンズ24を通過したレーザ光が、ガラス板14越しにアスファルト3aに照射されてもよい。次に、棒状部材111の端面を、ガラス板14に接触させて引き離すことにより、アスファルト3aの一部が、ガラス板14に移動する(ステップS402)。次に、ガラス板14へのアスファルト3aの付着が少なくなるまで、接触位置を変えながらステップS401~S402の処理を繰り返す(ステップS403)。これにより、棒状部材111に付着したアスファルト3aを、問題のない程度まで除去することが可能となる。なお、アスファルト3aが、十分除去できたことを後述するコンフォーカル光学系により確認してもよい。
【0035】
図2に戻って、光学系20は、コンフォーカル光学系と、異物検査用光学系とを備える。光学系20は、薄膜2と粘着部材3との接触を検出する接触検出用光学系をさらに備えていてもよい。コンフォーカル光学系は、対物レンズ24を備え、薄膜2の高さ(Z方向の位置)を測定し、棒状部材111の端面に付着した粘着部材3の形状と、高さとを測定する。コンフォーカル光学系は、コンフォーカル顕微鏡光学系とも呼ばれる。
【0036】
異物検査用光学系は、薄膜2に対して+Z側からレーザ光を照射するレーザ光源26aと、薄膜2に対して-Z側からレーザ光を照射するレーザ光源26bとを備える。異物により散乱されたレーザ光は、対物レンズ24により集光され、異物の位置(X、Y)が検出される。また、レーザ光源26aから出射されたレーザ光による散乱光強度と、レーザ光源26bから出射されたレーザ光による散乱光強度とを比較することにより、異物が薄膜2の+Z側の面(以下、表面と称する)に存在するか、-Z側の面(以下、裏面と称する)に存在するかが特定される。
【0037】
図8は、光学系20を例示した構成図である。
図8に示すように、光学系20は、照明光源21と、ビームスプリッタ22と、ダイクロイックミラー23と、対物レンズ24と、光検出器25と、レーザ光源26a及び26bと、散乱光検出器27とを備える。測定対象である薄膜2は、中空ステージ10に載置されており、X、Y、及びZ方向に移動可能である。
【0038】
なお、
図8に示す光学系20は、適宜簡略されている。光学系20は、上記の構成以外の光学素子、レンズ、光スキャナ、ミラー、フィルタ、ビームスプリッタなどが設けられていてもよい。
【0039】
まず、コンフォーカル光学系について説明する。照明光源21は、照明光L11を生成する。照明光源21は、ライン状の照明光を発生する。照明光源21は、ランプ光源、LED(Light Emitting Diode)光源、レーザ光源などである。なお、コンフォーカル光学系は、ラインコンフォーカル光学系ではなく通常のコンフォーカル光学系であってもよい。このような場合は、点光源を用いることが好ましい。
【0040】
ビームスプリッタ22は、例えば、ハーフミラーであり、照明光L11のほぼ半分を薄膜2の方向に反射する。ビームスプリッタ22で反射した照明光L11は、ダイクロイックミラー23に入射する。
【0041】
ここで、ダイクロイックミラー23は、後述する散乱光S12、13を反射し、照明光L11及び後述する反射光R11を透過する特性を有している。したがって、ビームスプリッタ22で反射した照明光L11は、ダイクロイックミラー23を透過し、対物レンズ24に入射する。対物レンズ24に入射した照明光L11は、EUVペリクル等の薄膜2でフォーカスが合うように集光される。対物レンズ24の光軸は、Z方向と平行となっている。
【0042】
薄膜2の表面で反射した反射光R11は、対物レンズ24で集光されて、ダイクロイックミラー23及びビームスプリッタ22を透過して、光検出器25に入射する。これにより、光検出器25が薄膜2を撮像することができる。光検出器25は、例えば、複数の画素を備えたラインセンサである。具体的には、光検出器25として、ラインCCD(Charge Coupled Device)やCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)ラインセンサを用いることができる。よって、光検出器25の受光面には複数の画素が1列に配列されている。
【0043】
なお、光検出器25の受光面は、対物レンズ24の焦点面とは互いに共役な位置に配置されている。対物レンズ24で集光された照明光が、焦点面においてライン状の照明領域を形成する。光検出器25の受光面では、反射光がライン状に集光される。
【0044】
コンフォーカル光学系においては、輝度が最大となるZの位置が薄膜2の高さを表すため、薄膜2の高さを測定することができる。
【0045】
次に、散乱光検査用の光学系について説明する。レーザ光源26aから出射されたレーザ光L12は薄膜2の表面又は裏面の異物により散乱され、散乱光S12が、対物レンズ24で集光される。また、レーザ光源26bから出射されたレーザ光L12は薄膜2の表面または裏面の異物により散乱され、散乱光S12が、対物レンズ24で集光される。散乱光S12及び13は、ダイクロイックミラー23で反射され散乱光検出器27に入射する。散乱光S12又はS13の強度から、薄膜2上の異物の位置(X、Y)を特定することができる。また、散乱光S12の強度と、散乱光S13の強度とを比較することにより、異物が薄膜2の表面に存在するか、薄膜2の裏面に存在するかが特定される。
【0046】
上述の通り、コンフォーカル光学系を用いて薄膜2の高さを測定することができるため、薄膜2の高さの変化から薄膜2と、棒状部材111に付着させた粘着部材3との接触を検出することができる。しかし、光学系20が、接触検出用の光学系をさらに備えることにより、より高速に当該接触を検出することが可能となる。当該接触は、光てこ方式を用いて薄膜2の高さの変化を測定することにより検出されてもよく、薄膜2の振動測定により検出されてもよい。
【0047】
図9は光てこ方式を用いて薄膜2の高さを測定する方法を示している。まず、上部に示した光学系について説明する。レーザダイオードなどの光源201から出射された光ビームは、ダイクロイックミラー202で反射され、対物レンズ24の左側を通過し、入射光L21として薄膜2に入射する。薄膜2で正反射された反射光L22は、対物レンズ24の右側を通過し、ダイクロイックミラー202で反射する。ダイクロイックミラー202で反射した光ビームは、光検出器203に入射する。光検出器203としては、例えば、二分割フォトダイオードを用いることができる。二分割フォトダイオードは、薄膜2に粘着部材3が接触する前において、その中心に光が入るように配置されている。
【0048】
図9では、薄膜2と粘着部材3とが接触する前に、レーザ光L21を薄膜2の上面に照射して、反射光L22を受光する(ステップS501)。粘着部材3と薄膜2とが接触すると、反射光L22の受光位置が変化するため(ステップS502)、接触を検知することが可能となる。異物除去装置1は、例えば、粘着部材3により押し上げられて、薄膜2の高さが増加することにより接触を検知してもよい。また、異物除去装置1は、静電気力により、薄膜2が粘着部材3に引き付けられて接触したことを検知してもよい。例えば、薄膜2の高さが減少し、粘着部材3によって押し上げられて元の高さに戻った場合、薄膜2と粘着部材3とが接触したといえる。
【0049】
図10では、薄膜2と粘着部材3とが接触する前に、薄膜2を音響加振装置204により振動させ、図示しないドップラー振動計により薄膜2の振動振幅を測定する(ステップS601)。そして、薄膜2の振動振幅が小さくなることにより、薄膜2と粘着部材3との接触が検知される(ステップS602)。
【0050】
このように、薄膜2と粘着部材3との接触を検出した場合、
図2に示した駆動部112は、棒状部材111と薄膜2とを離反させてもよい。これにより、棒状部材111の端面に付着した粘着部材3と、薄膜2との接触面積を小さくすることができる。したがって、薄膜2に対して与えられる引張り力を低減することが可能となる。
【0051】
図2に戻って、制御装置30は、駆動部112の動作を制御するコンピュータであり、メモリとプロセッサとを備える。
図11は、制御装置30の機能構成を示すブロック図である。制御装置30は、ポリイミドフィルム13上の粘着部材3と棒状部材111とを接触させる第1制御部31と、棒状部材111に付着した粘着部材3を薄膜2上の異物に接触させる第2制御部32と、棒状部材111に付着した粘着部材3をガラス板14に接触させる第3制御部33とを備える。第2制御部32は、棒状部材111の端面を薄膜2上の異物に対して接近させる処理と、光学系20の接触検出結果に応じて、棒状部材111の端面を薄膜2から離反させる処理とを実行する。
【0052】
図12は、実施形態にかかる異物除去方法の流れを例示するフローチャートである。棒状部材111は、光ファイバであり、加熱用レーザ光源12と当該光ファイバとが連結しているものとする。また、粘着部材3は、アスファルト3aであるものとする。まず、加熱用レーザ光源12が光ファイバにレーザ光を入力すると、棒状部材111の端面(光ファイバの出力端)からレーザ光が出射され、ポリイミドフィルム13上のシート状のアスファルト3aが加熱される(ステップS701)。次に、部分的に液体となったアスファルト3aに棒状部材111(光ファイバ)の端面を接触させ、当該端面に凸面形状のアスファルト3aが形成される(ステップS702)。
【0053】
次に、加熱用レーザ光源12が上記光ファイバにレーザ光を入力することにより、出力端に付着しているアスファルト3aの加熱が開始される(ステップS703)。次に、異物検査用光学系が備えるレーザ光源26bを用いて、EUVペリクル等の薄膜2の裏面側からレーザ光を照射し、散乱光S13を検出して異物の位置(X、Y)を特定する(ステップS704)。次に、異物検査用光学系が備えるレーザ光源26aを用いて、薄膜2の表面側からレーザ光を照射し、散乱光S12を検出して散乱光強度S13と比較することにより、ステップ704で検出した異物が薄膜2の表面に存在するか裏面に存在するかを特定する(ステップS705)。以下では、異物が薄膜2の裏面に存在するものとして説明する。
【0054】
次に、コンフォーカル光学系を用いて、EUVペリクル等の薄膜2の高さを測定する(ステップS706)。次に、薄膜2を載置したステージを、光学系の測定エリアから一時的に退避する(ステップS707)。次に、コンフォーカル光学系を用いて、ステップS702で付着したアスファルト3aの形状と高さとを測定する(ステップS708)。次に、棒状部材111を光学系の測定エリアから退避させて、薄膜2上の異物が、コンフォーカル光学系の視野中心に位置するように、薄膜2を取り付けたステージを移動させる(ステップS709)。
【0055】
次に、棒状部材111に付着したアスファルト3aを、薄膜2の裏面上の異物に接近させる(ステップS710)。次に、アスファルト3aと薄膜2との接触を検出し、検出結果に応じて棒状部材111を反転動作させる(ステップS711)。ステップS711では、光てこ方式の接触検出用光学系、またはコンフォーカル光学系を用いて、薄膜2の高さを測定することにより、接触を検知してもよい。また、ステップS711では、薄膜2を音響加振させて振動振幅を測定し、当該振幅が小さくなったことから粘着部材3と薄膜2との接触を検出してもよい。次に、棒状部材111を光学系の測定エリアから退避し、異物検査用光学系を用いて、異物が除去されたか否かを確認する(ステップS712)。
【0056】
次に、光ファイバを通過したレーザ光により異物を含むアスファルト3aをレーザ加熱し、加熱したアスファルト3aをガラス板14に押し付けて、異物と、使用済みのアスファルト3aとを除去する(ステップS713)。ステップS713の後、異物除去装置1は、棒状部材111の端面に、ポリイミドフィルム13上のアスファルト3aを再度付着させる。
【0057】
最後に、本実施形態の効果について説明する。アスファルト等の粘着部材は温度によって粘度が変化し、高温では粘度が低い状態になる。この状態で光ファイバ等の棒状部材の端面を濡らすと、表面張力と重力とにより、端部に平滑な凸面が形成される。
【0058】
また、アスファルト等の粘着部材をレーザで加熱すると、粘度が下がって粘着力が生じる。粘着力を生じた粘着部材を異物に接触させると、粘着部材に異物が粘着するため、EUVペリクル等の薄膜から異物を引きはがすことが可能となる。
【0059】
アスファルト等の粘着部材は、温度が低い場合には粘着力が低下し、温度が高い場合には粘度が低下して形状が不安定となる。したがって、粘着部材の最適化が必要である。本実施形態によると、レーザ光のパワーを調整することにより、温度を適切に調整することが可能となる。
【0060】
また、棒状部材の先端に付着した僅かな粘着部材を加熱するため、棒状部材の機械的な変形量が小さく、粘着部材の先端位置が安定する。
【0061】
また、棒状部材の先端部の形状が、凸面となるため、薄膜との接触面積が小さい。また、粘着部材の高さと薄膜の高さとの間の距離をコントロールすることにより、粘着部材は、異物とのみ接触し、薄膜と接触しないと考えられる。この方法によると、EUVペリクルにかかる引張力はわずかであり、EUVペリクルは破れることはない。
【0062】
(その他の実施形態)
上述した実施形態では、粘着部材の粘度をコントロールする際、光ファイバを通して粘着部材を加熱したが、光ファイバ外からレーザ光を照射してもよい。例えば、
図2の薄膜2の上方から対物レンズ24を通してレーザ光を照射することにより、棒状部材111の端面に付着した粘着部材3を加熱してもよい。
【0063】
このような場合、棒状部材111は、光ファイバでなくてもよい。棒状部材111は、例えば、ガラスファイバであってもよい。薄膜2がペリクルである場合、レーザ光の波長は、ペリクルによる吸収が少ない1.56μmであることが望ましい。棒状部材111に付着したアスファルト3aと、異物とが接触した状態でレーザ光を照射した場合、アスファルト3aが加熱により軟化するため、アスファルト3aに異物を取り込むことが可能となる。
【0064】
このような実施形態では、
図12のステップS711でアスファルト3aと異物との接触を検知した場合、棒状部材111の動作を停止させる。そして、加熱用のIRレーザを対物レンズ24から照射して、棒状部材111の端面に付着したアスファルト3aを加熱する。以上の動作により、アスファルト3aに異物が入り込むこととなる。一定時間レーザを照射した後、棒状部材111をゆっくりと薄膜2から離すことにより、薄膜2から異物が除去される。最後に、薄膜2から異物が除去されたか否かを確認する散乱光検査が行われる。
【0065】
ここで、棒状部材111と薄膜2とを離反させるときに、加熱用IRレーザを照射したままにしておいてもよい。このような場合、アスファルト3aが薄膜2から離れると、熱伝導率が急激に下がるため、薄膜2の温度が上昇する。これにより、微量のアスファルトが薄膜2に付着していたとしても蒸発するため、アスファルトが薄膜2に残ることはない。
【0066】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明はその目的と利点を損なうことのない適宜の変形を含み、更に、上記の実施形態による限定は受けない。
【符号の説明】
【0067】
1 異物除去装置
2 薄膜
3 粘着部材
4 マスク基板
5 異物
11 除去部
111 棒状部材
112 駆動部
12 加熱用レーザ光源
13 ポリイミドフィルム
14 ガラス板
20 光学系
21 照明光源
22 ビームスプリッタ
23 ダイクロイックミラー
24 対物レンズ
25 光検出器
26a、26b レーザ光源
27 散乱光検出器
30 制御装置
31 第1制御部
32 第2制御部
33 第3制御部
41 ローラー
42 フッ素樹脂フィルム
43 ホットプレート
44 スペーサ