(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-26
(45)【発行日】2024-10-04
(54)【発明の名称】車両の加温装置
(51)【国際特許分類】
F01P 3/20 20060101AFI20240927BHJP
【FI】
F01P3/20 E
F01P3/20 G
(21)【出願番号】P 2020161563
(22)【出願日】2020-09-28
【審査請求日】2023-08-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】牧野 和輝
(72)【発明者】
【氏名】瀬田 至
(72)【発明者】
【氏名】大伴 洋祐
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 広行
(72)【発明者】
【氏名】小室 正樹
(72)【発明者】
【氏名】河野 孝史
(72)【発明者】
【氏名】佐川 晋也
(72)【発明者】
【氏名】吉野 雅和
【審査官】小関 峰夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-055578(JP,A)
【文献】特開2010-144636(JP,A)
【文献】特開2012-083043(JP,A)
【文献】特開2015-052423(JP,A)
【文献】特開2015-200193(JP,A)
【文献】特開2019-103283(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01P 3/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加温対象機器を有する車両に搭載される車両の加温装置であって、
発熱後の状態から発熱可能な状態へ初期化可能な蓄熱材を含み、前記加温対象機器を加温するために発熱する蓄熱器と、
前記蓄熱器を初期化させる初期化処理を実行する初期化制御部と、
を備え、
前記初期化処理は、前記初期化のために前記蓄熱器を加熱する加熱処理
を含み、
前記初期化処理において、前記初期化制御部は、前記加熱処理を、終了条件を満たすまで継続し、前記終了条件を満たした後、所定期間における前記蓄熱材の電気抵抗の変化量が閾値以下であれば、前記初期化処理を終了する一方、前記電気抵抗の変化量が閾値を越えたら、再度、前記加熱処理を実行することを特徴とする車両の加温装置。
【請求項2】
前記終了条件には、前記蓄熱材の温度が温度閾値以上、熱の供給時間が時間閾値以上、及び、前記蓄熱材の抵抗が抵抗閾値以上という条件のうち、2つ以上の条件が含まれ、
前記初期化制御部は、前記2つ以上の条件の全てが満たされた場合に前記終了条件が満たされたと判定することを特徴とする請求項
1記載の車両の加温装置。
【請求項3】
加温対象機器を有する車両に搭載される車両の加温装置であって、
発熱後の固相状態から発熱可能な液相状態へ初期化可能な蓄熱材を含み、前記加温対象機器を加温するために発熱する蓄熱器と、
前記蓄熱器を初期化させる初期化処理を実行する初期化制御部と、
前記蓄熱材の液面を検出する液面センサと、
を備え、
前記初期化処理は、前記初期化のために前記蓄熱器を加熱する加熱処理
を含み、
前記初期化処理において、前記初期化制御部は、前記液面センサ
が検出した前記液面の揺れの状態に基づいて前記初期化処理を終了することを特徴とする車両の加温装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の加温装置に関する。
【背景技術】
【0002】
発熱誘導操作を行うことで一定量の熱を発することができ、さらに、発熱した後に再度熱を加えることで、再び発熱可能な状態に初期化できる蓄熱器がある。このような蓄熱器としては、相変化に伴って潜熱を放出する潜熱蓄熱材を用いた蓄熱器、あるいは、物質の可逆的な化学反応により熱を放出する化学蓄熱材を用いた蓄熱器がある。
【0003】
特許文献1には、潜熱蓄熱材を用いて機器の暖機を行う車両が示されている。さらに、特許文献1には、潜熱蓄熱材の光の透過率、内圧、電気抵抗、又は流動抵抗から、蓄熱材が液相状態か固相状態かを識別することが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の蓄熱材は、初期化が不完全であると、その後に、遷移が進み、勝手に熱を放出してしまうという課題が生じる。また、初期化が不完全なときには、蓄熱材の一部にのみ不完全な状態が現れることが多い。したがって、特許文献1に示されるような液相状態と固相状態とを識別する方法では、不完全な初期化を判定することは難しい。
【0006】
本発明は、車両に搭載される加温装置において、蓄熱器の不完全な初期化を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の発明は、
加温対象機器を有する車両に搭載される車両の加温装置であって、
発熱後の状態から発熱可能な状態へ初期化可能な蓄熱材を含み、前記加温対象機器を加温するために発熱する蓄熱器と、
前記蓄熱器を初期化させる初期化処理を実行する初期化制御部と、
を備え、
前記初期化処理は、前記初期化のために前記蓄熱器を加熱する加熱処理を含み、
前記初期化処理において、前記初期化制御部は、前記加熱処理を、終了条件を満たすまで継続し、前記終了条件を満たした後、所定期間における前記蓄熱材の電気抵抗の変化量が閾値以下であれば、前記初期化処理を終了する一方、前記電気抵抗の変化量が閾値を越えたら、再度、前記加熱処理を実行することを特徴とする。
【0009】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の車両の加温装置において、
前記終了条件には、前記蓄熱材の温度が温度閾値以上、熱の供給時間が時間閾値以上、及び、前記蓄熱材の抵抗が抵抗閾値以上という条件のうち、2つ以上の条件が含まれ、
前記初期化制御部は、前記2つ以上の条件の全てが満たされた場合に前記終了条件が満たされたと判定することを特徴とする。
【0010】
請求項3記載の発明は、
加温対象機器を有する車両に搭載される車両の加温装置であって、
発熱後の固相状態から発熱可能な液相状態へ初期化可能な蓄熱材を含み、前記加温対象機器を加温するために発熱する蓄熱器と、
前記蓄熱器を初期化させる初期化処理を実行する初期化制御部と、
前記蓄熱材の液面を検出する液面センサと、
を備え、
前記初期化処理は、前記初期化のために前記蓄熱器を加熱する加熱処理を含み、
前記初期化処理において、前記初期化制御部は、前記液面センサが検出した前記液面の揺れの状態に基づいて前記初期化処理を終了することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
初期化可能な蓄熱材は、初期化が不完全であると、その後、不完全な部分が徐々に拡大する。また、固相状態から液相状態へ初期化可能な蓄熱材では、蓄熱材が完全に初期化されている場合と一部に不完全な部分がある場合とで、蓄熱材の液面の揺れに比較的に大きな違いが現れる。さらに、蓄熱材を初期化する際には、蓄熱材は周囲から加熱されるため、蓄熱材の中央部位の温度が一定以上であれば、初期化が完全に行われていると高い確度で見なすことができる。本発明によれば、蓄熱材の抵抗の変化により初期化の判定を行うことで、初期化が不完全な部分が徐々に拡大していないか識別した上で、正確な判定結果が得られる。また、本発明によれば、蓄熱材の液面の揺れの検出、あるいは、蓄熱材の中央部位の温度の検出により、正確に蓄熱材の初期化の判定を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態1の加温装置を搭載した車両を示すブロック図である。
【
図2】通常走行時(A)と走行用バッテリの加温時(B)と蓄熱器の初期化時(C)の第1冷却液回路及び第2冷却液回路の状態を示す図である。
【
図3】実施形態1の初期化制御部により実行される初期化処理を示すフローチャートである。
【
図4】初期化処理中の蓄熱器の状態を示すタイムチャートである。
【
図5】本発明の実施形態2の加温装置を搭載した車両を示すブロック図である。
【
図6】実施形態4の車両に設けられた温度センサを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の各実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0015】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1の加温装置を搭載した車両を示すブロック図である。実施形態1に係る車両1は、EV(Electric Vehicle)であり、走行モータ12の動力によって走行する。車両1は、駆動輪11と、駆動輪11に動力を出力する走行モータ12と、走行モータ12を駆動すPCU(Power Control Unit)13と、走行モータ12に走行用の電力を供給する走行用バッテリ14と、運転者の操作を受ける運転操作部17と、を備える。
【0016】
走行用バッテリ14は、例えばリチウムイオン二次電池、ニッケル水素二次電池などの二次電池であり、低温時に充放電の能力が低下する。PCU13は、走行モータ12を駆動するインバータを含み、走行モータ12を力行運転又は回生運転する。PCU13は、走行モータ12を駆動する際に発熱する。運転操作部17は、アクセル操作部及び制動操作部を含み、アクセル操作量及び制動操作量を示す信号を走行制御部43に出力する。走行制御部43は、アクセル操作量及び制動操作量に応じてPCU13のインバータを駆動する。インバータの駆動により、走行モータ12から駆動輪11へ走行トルク又は制動トルクが出力され、運転操作に応じて車両1が走行又は制動する。
【0017】
車両1は、さらに、PCU13を冷却する第1冷却液回路51と、走行用バッテリ14を冷却又は加温する第2冷却液回路52と、第1冷却液回路51と第2冷却液回路52との間で熱を交換する熱交換器55とを備える。PCU13は冷却液を通す通路を有し、この通路に第1冷却液回路51の冷却液が流れる。走行用バッテリ14は冷却液を通す通路を有し、この通路に第2冷却液回路52の冷却液が流れる。
【0018】
第1冷却液回路51は、冷却液の熱を外気に放出するラジエータ16と、冷却液を加熱する蓄熱器31と、冷却液を流すポンプP1と、冷却液が流れる経路を切り替え可能な分岐路53、54及び三方弁V1~V4とを備える。第2冷却液回路52は、冷却液を流すポンプP2を備える。
【0019】
分岐路53と三方弁V1、V2は、第1冷却液回路51の経路を、ラジエータ16を通る経路と通らない経路とに切り替えることができる。分岐路54と三方弁V3、V4は、第1冷却液回路51の経路を、蓄熱器31及び熱交換器55を通る経路と通らない経路とに切り替えることができる。
【0020】
蓄熱器31は、蓄熱材(例えば潜熱蓄熱材)を含み、初期化された状態において発熱誘導がなされることで一定量の熱を発し、発熱後の状態において、再度加熱されることで発熱可能な状態に初期化される。蓄熱器31は冷却液を蓄熱材の周囲に通す通路を有する。
【0021】
車両1は、さらに、蓄熱器31を発熱させる発熱誘導器32と、蓄熱器31に含まれる蓄熱材の2点間の電気抵抗を計測する抵抗センサ31rと、蓄熱器31の温度を計測する温度センサ31tと、システム制御部42及び初期化制御部41とを備える。これらの構成要素及び蓄熱器31が実施形態1の加温装置30を構成する。
【0022】
発熱誘導器32は、初期化された蓄熱器31に作用し、蓄熱器31の発熱を誘導する。特に限定されないが、発熱誘導器32はアクチュエータを有し、アクチュエータの駆動により蓄熱器31に物理的な刺激を与えて、蓄熱器31の発熱を誘導する。
【0023】
システム制御部42及び初期化制御部41は、1つのECU(Electronic Control Unit)又は通信を介して連携して動作する複数のECUから構成される。システム制御部42は、発熱誘導器32、第1冷却液回路51の三方弁V1~V4、並びに、第2冷却液回路52のポンプP2を制御する。初期化制御部41は、システム制御部42と連携して蓄熱器31を初期化する制御を行う。抵抗センサ31r及び温度センサ31tの出力は、初期化制御部41へ送られる。
【0024】
<冷却液回路の切り替え>
図2は、通常走行時(A)、走行用バッテリの加温時(B)及び蓄熱器の初期化時(C)の第1冷却液回路及び第2冷却液回路の状態を示す図である。
【0025】
車両1の通常走行時、第1冷却液回路51は、
図2(A)に示すように、ラジエータ16とPCU13との間で冷却液が流れるように三方弁V1~V4が切り替えられる。このような切り替えにより、PCU13の熱が冷却液を介してラジエータ16から放射され、PCU13が冷却される。
【0026】
走行用バッテリ14を加温するとき、第1冷却液回路51は、
図2(B)に示すように、ラジエータ16を介さずに、PCU13、蓄熱器31及び熱交換器55の間で冷却液が流れるように三方弁V1~V4が切り替えられる。さらに、ポンプP2が駆動され、発熱誘導器32が動作する。蓄熱器31が発熱すると、蓄熱器31の熱が、第1冷却液回路51の冷却液、熱交換器55、第2冷却液回路52の冷却液を介して走行用バッテリ14に送られ、走行用バッテリ14が加温される。
【0027】
発熱後の蓄熱器31を加熱して初期化するとき、第1冷却液回路51は、
図2(C)に示すように、ラジエータ16を介さずに、PCU13、蓄熱器31及び熱交換器55の間で冷却液が流れるように三方弁V1~V4が切り替えられる。さらに、ポンプP2が停止される。上記の切り替えにより、PCU13の熱が第1冷却液回路51の冷却液に蓄積され、冷却液の温度が蓄熱器31の初期化に必要な温度を越える。そして、高温の冷却液が蓄熱器31を加熱し、蓄熱器31が初期化される。
【0028】
システム制御部42は、各部の温度、並びに、蓄熱器31の状態等に応じて、第1冷却液回路51、第2冷却液回路52及び発熱誘導器32を制御する。
【0029】
<初期化処理>
図3は、実施形態1の初期化制御部により実行される初期化処理を示すフローチャートである。
【0030】
初期化制御部41は、蓄熱器31が発熱した後、所定の条件に基づいて
図3の初期化処理を開始する。初期化処理が開始されると、まず、初期化制御部41は、システム制御部42に三方弁V1~V4を制御させ、
図2(C)の冷却液の流れに切り替える(ステップS1)。次に、初期化制御部41は、冷却液の温度が目標温度に達するのを待機する(ステップS2)。目標温度は、蓄熱器31を加熱する温度であり、目標温度に達したら蓄熱器31の加熱処理が開始される。その後、初期化制御部41は、加熱処理の継続時間の計数を開始する(ステップS3)。
【0031】
加熱処理が開始されると、初期化制御部41は、加熱処理の終了条件を監視するループ処理(ステップS4~S6)へ、処理を移行する。ループ処理において、初期化制御部41は、蓄熱器31の温度が温度閾値を越えたか(ステップS4)、蓄熱器31の抵抗が抵抗閾値を下回ったか(ステップS5)、加熱処理の継続時間が時間閾値を越えたか(ステップS6)をそれぞれ判定し、ステップS4~S6のいずれかがNOであれば、これらの判定処理を繰り返す。
【0032】
上記のループ処理において、ステップS4~S6の全てがYESと判定されると、初期化制御部41は、システム制御部42に三方弁V1~V4を制御させ、第1冷却液回路51を
図1の冷却液の流れに切り替える(ステップS7)。この切替えにより、冷却液の温度が低下し、蓄熱器31の加熱処理が終了する。
【0033】
加熱処理が終了すると、初期化制御部41は、所定期間、抵抗センサ31rの出力(蓄熱材の電気抵抗)を監視し(ステップS8)、所定期間の抵抗値の変動量が閾値以内か判定する(ステップS9)。その結果、抵抗値の変動量が閾値を越えていれば、初期化が未完全であると判断し、初期化制御部41は、処理をステップS1に戻す。そして、初期化制御部41は、再度、蓄熱器31の加熱処理を繰り返す。なお、初期化制御部41は、加熱処理の繰り返し回数を計数し、繰り返し回数を制限するようにしてもよい。また、再度の加熱処理の際は、ステップS6の時間閾値を小さい値に変更してもよい。
【0034】
一方、ステップS9の判定の結果、閾値以内であれば、初期化制御部41は初期化完了と判断して、初期化処理を終了する。
【0035】
図4は、初期化処理中の蓄熱器の状態の一例を示すタイムチャートである。
図4の例は、タイミングt0から加熱処理J1が開始され、タイミングt1、t2、t3で、それぞれ、温度が温度閾値を上回り、抵抗が抵抗閾値を下回り、経過時間が時間閾値に達することで、1回目の加熱処理J1が完了している。その後、所定期間T1の抵抗値の変動量ΔRが閾値Xを上回ったため、初期化不完全と判断され、再度の加熱処理J2が行われている。そして、2回目の加熱処理J2の後、所定期間T1の抵抗値の変動量ΔRが閾値X以下となり、初期化が完了している。
【0036】
以上のように、実施形態1の加温装置30によれば、蓄熱器31の加熱処理の後、初期化制御部41は、蓄熱材の電気抵抗の変化に基づいて、初期化が完了したか否かを判定する。蓄熱材に初期化が不完全な部分が残っていても、不完全な部分は小さいことが多いため、その時点の蓄熱材の温度又は抵抗値から、不完全な部分を有することを識別することは困難である。しかし、初期化が不完全な部分は時間の経過に伴って僅かに拡大していくので、不完全な部分の拡大に起因する抵抗値の変化から、不完全な部分を有することを正確に識別できる。したがって、上記の判定方法により、初期化の完了を正確に判定できる。
【0037】
また、蓄熱器31の初期化処理において、仮に、前回の加熱処理で不完全に初期化された蓄熱器31がそのまま放置されると、蓄熱器31の遷移が徐々に進んでしまい、前回の加熱処理が無駄になってしまう。しかし、実施形態1の加温装置30によれば、初期化制御部41は、初期化が不完全と判定した場合に、再び、蓄熱器31を加熱処理する。前回の加熱処理に引き続き、次の加熱処理が行われることで、前回の加熱処理を無駄にせずに、蓄熱器31の完全な初期化を図ることができる。また、初期化が不完全か否かの判定は、所定期間T1に行われるので、前回の加熱処理から次の加熱処理までの時間バラツキが少なく、常に、前回の加熱処理を有効に活用して、次の加熱処理で蓄熱器31の完全な初期化を図ることができる。
【0038】
さらに、実施形態1の加温装置30によれば、蓄熱器31の加熱処理を終了する条件に、蓄熱器31の温度、蓄熱材の電気抵抗、加熱処理の継続時間がそれぞれ閾値を越えるという条件が含まれる。上記の複数の条件により加熱処理の終了を判定することで、加熱量のバラツキが生じやすい冷却液を用いた加熱処理であっても、蓄熱器31をほぼ初期化する状態まで高い確度で加熱できる。なお、上記の3つの条件のうち、2つの条件を加熱処理の終了を判別する条件とした場合でも、蓄熱器31をほぼ初期化する状態まで高い確度で加熱することができる。
【0039】
(実施形態2)
図5は、実施形態2の加温装置を搭載した車両を示すブロック図である。実施形態2の加温装置は、蓄熱器31の初期化完了の判定手段が実施形態1と異なり、その他は実施形態1と同様である。
【0040】
実施形態2の蓄熱器31には、内部に初期化の完了を判定するための内部センサ33sが設けられている。実施形態2において、内部センサ33sは液面センサである。蓄熱器31は、固相状態と液相状態とに相変化する蓄熱材を収容する空間を有し、内部センサ33sは空間に収容された蓄熱材の液面の動きを検知する。詳細には、内部センサ33sは、液面に浮かぶフロートと、フロートの位置を検出するセンサとを備える。あるいは、内部センサ33sは、光の照射と反射光の検出で液面の変動を検出する構成としてもよい。内部センサ33sは、検出出力を初期化制御部41に送る。
【0041】
車両1の走行振動を受けて、液相の蓄熱材は液面が揺れ動く。さらに、蓄熱材の全体が液相となった状態と、一部に固相の部分が含まれる状態とでは、液面の揺れ動きの周波数に違いが生じるなど、振動の状態に識別可能な違いが現れる。したがって、内部センサ33sが検出した蓄熱材の液面の揺れの状態から、初期化制御部41は、蓄熱材が完全に初期化されたか、不十分な初期化であるか判定できる。
【0042】
実施形態2の初期化制御部41は、
図3に示した初期化処理と同様の処理により蓄熱器31の初期化を行う。ただし、実施形態2の初期化処理では、ステップS8、S9の初期化の判定ステップの替わりに、初期化制御部41は、内部センサ33sの出力に基づき蓄熱材の液面の揺れの状態から、初期化が完了したか否かを判定する。詳細には、初期化制御部41は、蓄熱材の液面の揺れの周波数を所定期間計算し、その平均値が液相を示す閾値より長いか否かで初期化の完了か否かを判定する。あるいは、初期化制御部41は、車両の振動を示す加速度センサの出力と、内部センサ33sの出力とに基づいて、車両の振動の大きさが異なる場合でも比較可能なように、蓄熱材の液面の揺れの大きさ規格化し、規格化された液面の揺れの大きさを閾値と比較することで、初期化の完了か否かを判定する。
【0043】
以上のように、実施形態2の加温装置30によれば、初期化制御部41は、内部センサ(液面センサ)33sの出力に基づいて、蓄熱材が完全に初期化されたか否かを判定する。蓄熱材に初期化が不完全な部分が残っていることは、その時点の蓄熱材の温度又は抵抗値からは識別が困難である。しかし、前述の通り、蓄熱材の液面の揺れの状態からは不完全な初期化を比較的に正確に識別することができる。したがって、上記の判定方法により、初期化の完了を正確に判定できる。
【0044】
(実施形態3)
実施形態3の加温装置は、実施形態2の内部センサ33sとして、蓄熱材の中央部位に検知子が位置する中央温度センサが適用されている。蓄熱器31は、固相状態と液相状態とに相変化する蓄熱材を収容する空間を有し、内部センサ33sの検知子は、上記空間内に位置する。検知子とは、温度を検知する部分を意味し、サーミスタを用いた温度センサであれば、検知子はサーミスタの部分に相当し、熱電対を用いた温度センサであれば、検知子は一方の金属線の先端部分に相当する。内部センサ33sは、検出出力を初期化制御部41に送る。
【0045】
蓄熱器31を初期化する際、蓄熱器31に含まれる蓄熱材は周囲から加熱されるため、蓄熱材の中央部位の温度が一定以上であれば、高い確度で不完全な初期化部分は解消されている。したがって、初期化制御部41は、内部センサ33sの出力に基づいて、蓄熱材が完全に初期化されたか正確に判定することができる。
【0046】
実施形態3の初期化制御部41は、
図3に示した初期化処理と同様の処理により蓄熱器31の初期化を行う。ただし、実施形態3の初期化処理では、ステップS8、S9の初期化の判定ステップの替わりに、初期化制御部41は、内部センサ33sの出力から蓄熱材の中央部位の温度が閾値を越えている場合に、初期化が完了したと判定する。
【0047】
なお、実施形態3の初期化処理では、蓄熱器31の加熱処理の際に、初期化制御部41が、内部センサ33sにより計測される中央温度をモニタし、中央温度が完全な初期化を示す閾値を越えたら、加熱処理を終了し、かつ、初期化完了と判定するようにしてもよい。
【0048】
以上のように、実施形態3の加温装置30によれば、初期化制御部41は、蓄熱材の中央部位の温度に基づいて、蓄熱材が完全に初期化されたか否かを判定する。蓄熱材は周囲から加熱されるため、中央部位が液相に遷移する温度になれば、初期化が完全であることが高い確度で判定できる。したがって、上記の判定方法により、初期化の完了を正確に判定できる。
【0049】
(実施形態4)
図6は、実施形態4の車両に設けられた温度センサを示す図である。実施形態4の加温装置は、蓄熱器31の初期化が完了したか判定する手段が異なるもので、その他の要素は実施形態1と同様である。
【0050】
実施形態4の車両1には、第1冷却液回路51内の冷却液の温度を検出する温度センサ51tが設けられている。温度センサ51tは、検出出力を初期化制御部41に送る。
【0051】
前述したように、蓄熱器31を初期化する際、蓄熱器31に含まれる蓄熱材は周囲から加熱されるため、蓄熱材の中央部位の温度が一定以上であれば、高い確度で不完全な初期化部分は解消されている。したがって、初期化制御部41は、蓄熱材の中央部位の温度に基づいて、蓄熱材が完全に初期化されたか正確に判定することができる。一方、初期温度が同一でありかつ同一構成の複数の蓄熱器31に、同様のパターンで熱を加えた場合、各蓄熱材の中央温度の上昇パターンは同様になる。したがって、初期温度と加熱の温度パターンから、蓄熱材の中央温度を高い確度で推定できる。この原理に基づいて、実施形態4の初期化制御部41は、蓄熱材の中央温度を推定し、蓄熱器31の初期化の完了の判定を行う。
【0052】
具体的には、まず、実施形態4の初期化制御部41は、冷却液の温度が変化せずに長期間経過したときに、その時点の冷却液の温度から蓄熱材の中央部位の初期温度を定める。その後、初期化制御部41は、温度センサ51tの出力を継続的に取得し、冷却液の温度の変化パターンから蓄熱材の中央部位の温度の変化パターンを推定する。初期化制御部41は、時間の経過に伴って、上記の推定処理を繰り返すことで、任意なタイミングにおいて蓄熱材の中央部位の温度を推定する。
【0053】
初期化制御部41は、蓄熱材の中央部位の温度の変化パターンを、冷却液の温度の変化パターンと、上記中央部位の初期温度とから、計算式を用いて推定してもよい。あるいは、実験またはシミュレーションにより、多数の初期温度と、多数の冷却液温度の変化パターンと、多数の中央部位温度の変化パターンとを対応づけたデータベースを用意しておき、初期化制御部41は、温度センサ51tの出力から得られた初期温度及び冷却液温度の変化パターンをデータベースと照合することで、推定される中央部位温度の変化パターンを取得してもよい。初期化制御部41は、蓄熱材の中央部位の温度の推定値が、完全な初期化を示す閾値を越えたことに基づいて、蓄熱材が完全に初期化されたと判定する。
【0054】
以上のように、実施形態4の加温装置によれば、初期化制御部41は、冷却液の温度パターンから蓄熱材の中央部位の温度を推定することで、蓄熱材が完全に初期化されたか判定する。蓄熱材は周囲から加熱されるため、中央部位が液相に遷移する温度になれば、初期化が完全であることが高い確度で判定できる。さらに、中央部位の温度は、冷却液の温度パターンから推定できる。したがって、上記の判定方法により、初期化の完了を正確に判定することができる。
【0055】
以上、本発明の各実施形態について説明した。しかし、本発明は上記実施形態に限られない。例えば、実施形態1では、初期化制御部が、所定期間の蓄熱材の電気抵抗の変化量に基づき初期化が完了したか否かを判定したが、例えば、蓄熱材の電気抵抗が所定量変化する時間長に基づいて初期化が完了したか否かを判定してもよい。また、上記実施形態では、冷却液を用いて蓄熱器を初期化する例を示したが、ヒータを用いて蓄熱器を初期化してもよいなど、初期化のために蓄熱器を加熱する手段は特に限定されない。また、上記実施形態においては、車両がEVである場合を説明したが、車両はエンジンを搭載していてもよい。また、上記実施形態では、加温対象機器が走行用バッテリである構成を示したが、荷室、窓ガラスなどの様々な機器が加温対象機器であってもよい。その他、実施形態で示した細部は、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0056】
1 車両
11 駆動輪
12 走行モータ
13 PCU
14 走行用バッテリ
16 ラジエータ
17 運転操作部
30 加温装置
31 蓄熱器
32 発熱誘導器
31r 抵抗センサ
31t 温度センサ
33s 内部センサ
41 初期化制御部
42 システム制御部
43 走行制御部
51 第1冷却液回路
51t 温度センサ
52 第2冷却液回路
53、54 分岐路
55 熱交換器
V1~V4 三方弁
P1、P2 ポンプ