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特許7561562III族窒化物半導体ナノ粒子の合成方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-26
(45)【発行日】2024-10-04
(54)【発明の名称】III族窒化物半導体ナノ粒子の合成方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 21/06 20060101AFI20240927BHJP
   C01B 21/072 20060101ALI20240927BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20240927BHJP
【FI】
C01B21/06 M
C01B21/072 M
B82Y40/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020164710
(22)【出願日】2020-09-30
(65)【公開番号】P2022056773
(43)【公開日】2022-04-11
【審査請求日】2023-08-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000888
【氏名又は名称】弁理士法人山王坂特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】風間 拓也
(72)【発明者】
【氏名】田村 渉
(72)【発明者】
【氏名】三宅 康之
(72)【発明者】
【氏名】大森 貴幸
(72)【発明者】
【氏名】村松 淳司
(72)【発明者】
【氏名】蟹江 澄志
【審査官】宮脇 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-140931(JP,A)
【文献】特開2014-156391(JP,A)
【文献】特開2016-148027(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 21/06
C01B 21/072
B82Y 40/00
C09K 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
III族金属としてIn,Ga及びAlの少なくとも1以上の金属を含むIII族材料と、窒素材料とを用い、200℃以上の合成温度においてIII族窒化物ナノ粒子を合成するステップを備えたIII族窒化物半導体ナノ粒子の合成方法であって、
溶媒として、分子量232以上のアルキルベンゼンを用いることを特徴とするIII族窒化物半導体ナノ粒子の合成方法。
【請求項2】
前記III族窒化物ナノ粒子を合成するステップの前に、
前記III族材料と前記窒素材料とを合成容器に充填し、140~160℃で5分間反応させることで前駆体を形成する前駆体形成ステップを備えた請求項1記載のIII族窒化物半導体ナノ粒子の合成方法。
【請求項3】
前記III族窒化物ナノ粒子を合成するステップは、前記前駆体形成ステップよりも高温まで昇温させ、1時間反応させることでIII族窒化物ナノ粒子を合成する合成ステップを備えたことを特徴とする請求項2記載のIII族窒化物半導体ナノ粒子の合成方法
【請求項4】
前記III族窒化物ナノ粒子を合成するステップの合成温度を300度以上とした請求項1記載のIII族窒化物半導体ナノ粒子の合成方法。
【請求項5】
合成容器として白金内筒を使用する請求項1乃至請求項4の何れか1項記載のIII族窒化物半導体ナノ粒子の合成方法。
【請求項6】
前記溶媒がテトラデシルベンゼンである請求項1乃至請求項5の何れか1項記載のIII族窒化物半導体ナノ粒子の合成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、III族窒化物半導体ナノ粒子の合成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属、半導体あるいは酸化物などの粒子サイズがナノ領域になると、バルクとは異なった物理的、化学的特性を示すようになることが知られている。例えば、溶融温度・焼成温度の大幅な低下、蛍光発光、触媒の高効率化・新規反応などが挙げられる。特に、窒化物ナノ粒子は、粒子サイズがボーア半径の2倍以下になると量子効果が発現する。より詳しくは、窒化物ナノ粒子は、粒子サイズがボーア半径の2倍より大きなサイズになると、その組成によりエネルギーギャップが一意に定まってしまう。これに対し、窒化物ナノ粒子は、粒子サイズがボーア半径の2倍より小さくなると、粒子サイズを制御することでエネルギーギャップを制御することができ、発光波長や光の吸収端の制御性が大幅に向上する。なお、窒化物のボーア半径は、AlN 2.3nm、GaN 3.3nm、InN 8.2nmである。また、窒化物ナノ粒子は反応温度が高いほど、高品質な結晶が得られることが知られている。
【0003】
このような窒化物ナノ粒子の合成方法として、特許文献1には、化学合成法における窒化物ナノ粒子の合成方法が開示されている。特許文献1によれば、溶媒にジフェニルエーテル(DPE)、III族材料にヨウ化インジウム(InI)、窒素材料にナトリウムアミド(NaNH)を用い、これらにキャッピング剤などを加え、225℃~250℃で1時間加熱し、10nm程度の窒化物ナノ粒子を製造している。 この他、Ga窒化物ナノ粒子は、溶媒としてDPEやトリオクチルフォスフィン(TOP)を用いて300℃以上の反応温度で合成することが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-132086号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の通り、窒化物ナノ粒子は製造時の反応温度が高い程、高品質な粒子を得ることができる。しかしながら、特許文献1に開示された合成方法において、225℃~250℃の反応温度をさらに高くすると、溶媒の分解が始まってしまい、窒化物ナノ粒子中に溶媒の分解に起因した不純物が混入してしまう。具体的には、溶媒がDPEの場合にはDPE由来の酸化物が、溶媒がTOPの場合には、TOP由来のリンあるはその化合物が混入してしまう。
【0006】
窒化物ナノ粒子は、光学材料として利用されるため、導電材料に用いられる金属ナノ粒子等の他のナノ粒子と異なり結晶性と不純物の影響が特性に甚大な影響を及ぼす。特に、窒化物ナノ粒子に不純物として酸素や炭素が含まれた場合には、非発光センタを形成し、大幅な発光効率低下を招いてしまう。
また、合成反応に用いる窒素材料(アミン等)は、反応性が高いため、ハステロイ等の合成容器を用いることができず、白金(Pt)やイリジウム(Ir)製の合成容器を用いる。ところが、PtやIr等の金属は触媒作用があり、溶媒の分解反応を引き起こす可能性がある。溶媒が分解した場合、上述した溶媒由来の不純物が生成されてしまうことに加え、合成容器内の圧力を高めることとなり圧力の制御が困難になる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、高温下の合成に用いることができる高沸点溶媒であって、Pt等の触媒作用を有する金属と接触した場合にも高温間で熱分解を生じない溶媒について鋭意研究した結果、所定の沸点以上を有し、かつ、所定の分子量以上のアルキルベンゼンを用いることで、不純物の生成を防止すると共に合成中において分解しないことから合成容器内の圧力変動が抑制されることを見出し、本発明に至ったものである。
【0008】
すなわち、本発明に係るIII族窒化物半導体ナノ粒子の合成方法は、III族金属としてIn,Ga及びAlの少なくとも1以上の金属を含む材料に対し、分子量232以上のアルキルベンゼンを溶媒として用い、200℃以上の合成温度においてIII族窒化物ナノ粒子を合成することを特徴とする。
【0009】
このように、分子量232以上のアルキルベンゼンを溶媒として用いることで、200度以上の高温の合成温度においても分解が生じることがないため、合成容器内の圧力変動を抑制して安定的に合成を行うことができ、かつ、溶媒に起因した不純物が生成されることがなく、III族窒化物半導体ナノ粒子に不純物が混入することを防止することができる。
なお、アルキルベンゼンであるテトラデシルベンゼン(TDB)を、異なる分野において合成溶媒として使用する例はあるが、この合成は、溶媒(あるいは、溶媒由来の分解物)との反応が生じない金属ナノ粒子を対象とするものであり、また、溶媒の分解については全く考慮されていない。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、結晶性を向上させると共に酸素や炭素等の不純物の混入を抑制した窒化物ナノ粒子を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】アルキルベンゼンの特性を示す表である。
図2】TDBを溶媒として窒化物ナノ粒子を製造する場合のIII族材料の溶解性を確認した結果を示す表である。
図3】各溶媒の圧力上昇を比較したグラフである。
図4】実施例1に係る窒化物ナノ粒子の合成方法によって得られた粒子の収率・TEMのEDXによる酸素検出有無・XRFによるリン残存量をまとめた表である。
図5】各溶媒における粒子のTEM像である。
図6】実施例2に係るインジウム及びガリウムの仕込量を示す表である。
図7】Ga仕込量に対する、XRD測定の結果を示すグラフである。
図8】各Ga仕込量に対する実際のGa組成の関係を示すグラフである。
図9図9(A)は、XRD結果からIn副生成物の量を求めたグラフであり、図9(B)は、Ga仕込量に対する収率の変化を示すグラフである。
図10】実施例1乃至実施例5によって合成された粒子のTEM像である。
図11】実施例6に係るXRDの測定結果を示す。
図12】実施例6によって合成された粒子のTEM像を示す。
図13】実施例7に係り、TDBとUDBのXRD測定結果を示す。
図14】実施例7に係り、溶媒としてTDB及びUDBを用いて合成した粒子のTEM観察結果である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係るIII族窒化物半導体ナノ粒子の合成方法について説明する。
【0013】
合成方法に用いる材料について説明する。
III族材料としてIn,Ga及びAlの少なくとも1以上の金属を含む材料を用いる。
具体的には、これらIII族金属のハロゲン化物が好ましく、例えば、III族金属のヨウ化物(InI、GaI、AlI)、臭化物(InBr、GaBr、AlBr)、塩化物(InCl、GaCl、AlCl)を1種類以上用いる。
【0014】
窒素材料としては、窒素がアミン又はアミドとして含まれる材料を用いる。具体的には、NaNH、LiNH等のアルカリ金属アミドを用いる。
なお、III族材料と窒素材料の割合は、III族窒化物半導体ナノ粒子における化学量論的な割合に対し、III族材料の割合を3倍~100倍とする。
【0015】
溶媒としては、分子量232以上のアルキルベンゼンを用いる。具体的には、図1に示すように、ウンデシルベンゼン(沸点:316℃)、ドデシルベンゼン(沸点:288℃)、テトラデシルベンゼン(沸点:359℃)などが挙げられる。良質な結晶を得るために合成温度が高いことが好ましいことから、これに耐えうるように沸点が300℃以上の溶媒を選択することが好ましい。従って、ウンデシルベンゼン(UDB)又はテトラデシルベンゼン(TDB)を溶媒とすることが好ましく、より沸点の高いTDBが最も好ましい。
【0016】
次に、III族窒化物半導体ナノ粒子の合成に際してアルキルベンゼンを溶媒として適用する理由を説明する。
上述の通り、III族窒化物半導体ナノ粒子を高温で合成するため、分解温度が高いことが求められる。また、窒化物ナノ粒子の合成では、副反応を抑えるため耐腐食性のPtを反応容器に利用するところ、Pt金属は触媒作用が強く、高温高圧下ではさらに強くなる傾向がある。そのため、III族窒化物ナノ粒子に利用する溶媒は分解温度が高いだけでなく合成容器としてのPt容器の触媒作用よって分解が生じない溶媒を選択することが好ましい。さらに、窒化物ナノ粒子の溶媒として一般的に利用されているジフェニルエーテル(DPE)やトリオクチルホスフィンン(TOP)のように、酸素やリンが含まれない溶媒であることが好ましい。
【0017】
一般に、沸点が高い溶媒は分解温度も高いと考えられているが、高沸点を示す溶媒における材料の分解は沸点よりも低温で開始する。一方、沸点が低い溶媒の分解温度が必ずしも低いともいえず、例えば、ベンゼンの沸点は80℃と低温であるが、289℃以上まで安定に存在し超臨界状態をとる。
また、一般に、分解温度が高い材料は、融点及び沸点が高くなるため、高沸点の溶媒を用いると融点が高くなり室温で固体となる。室温で固体の溶媒は、材料調合時や合成後の粒子洗浄・回収時のハンドリング性が悪くなるため量産時の生産工程として好ましくない。
【0018】
このような背景の下、アルキルベンゼンを主たる溶媒候補として検討、試行錯誤を行った結果、特に、テトラデシルベンゼン(TDB)が溶媒として好ましいことを見出した。アルキルベンゼンには、図1の表に示すような特性がある。この表に示すように、特に、TDBは、融点16℃、室温で液体であり、沸点が359℃と高温である。そして、TDBは300℃以上の高温域でTDB自身の分解がなく、その組成には一般に窒化物ナノ粒子の溶媒として利用されているジフェニルエーテル(DPE)やトリオクチルホスフィン(TOP)に含まれる酸素やリンが含まれない。
【0019】
このため、TDBを溶媒として用いた場合、合成温度を高温化できるとともに、溶媒起因による不純物、特に炭素の混入を抑制することができると想定され、試行した結果、窒化物ナノ粒子の溶媒として適し、優れた生産性を発揮することを見出した。つまり、III族窒化物半導体ナノ粒子の合成に際して、アルキルベンゼン、特にTDBが好ましい溶媒であるということができる。
【0020】
次に、反応条件に付いて説明する。反応は、材料をPt製の蓋付き内筒に仕込み、この内筒を合成容器に充填する。そして、合成容器をヒーターにセットすることで所望の温度における合成を行う。この際、温度を異ならせた複数段階で行うことが好ましい。
具体的には、上述したIII族材料、窒素材料、及び溶媒を合成容器に充填して150℃まで昇温させて材料を溶解させ、140~160℃で5分間反応させることで固相の前駆体を形成する(第一段階)。続いて、前駆体を形成した第一段階よりも高温(例えば、350℃)まで昇温させ、1時間反応させることでIII族窒化物ナノ粒子を合成する(第二段階)。
【0021】
このように反応を複数段階に分け、第一段階を経て前駆体を形成することにより、第二段階の反応によってIII族窒化物ナノ粒子を合成する。前駆体は、非常に活性が高く、正確な構造解析は困難だが、アミド系の錯体と推測される。V族(窒素)材料は、前駆体形成工程を経ずに直接高温とした場合、その高温環境下において分解し、アンモニアとなって反応溶液から放出され、III属金属の窒化反応に関与しなくなってしまう傾向がある。しかし、前駆体形成工程を経ることによりV族(窒素)材料は、錯体の配位子として反応溶液中に留まると思われる。そして、前駆体形成工程後、より高温の第二段階となったとき、V族(窒素)材料は、より有効にIII属金属材料の窒化に用いられ、副生成物、特にIII属金属(金属インジウム(In))の発生を抑制し、高品質、かつ、高収率で窒化物ナノ粒子を製造することができると推測される。
【0022】
合成終了後は、速やかに反応を停止させるため、冷水によって合成容器を冷却する。降温後、合成液にエタノール等の所定の溶媒を加え、超遠心によって遠心分離を行い、遠心後の上澄みを除去した後再びエタノールを加えて遠心分離を行う。この処理を複数回(例えば、3回)繰り返したのち、ヘキサン等の所定の溶媒を加えて再び遠心分離を行う。最後にエタノールで遠心洗浄を行って、ナノ粒子を回収する。
このように反応を行うことにおり、不純物の混入が低減され、かつ粒径16nm以下のIII族窒化物半導体ナノ粒子を得ることができる。
【実施例
【0023】
<溶媒のスクリーニング>
1.溶解性
TDBを溶媒として窒化物ナノ粒子を製造する場合のIII族材料の溶解性を確認した。その結果を図2に示す。III族材料として、ヨウ化物(InI、GaI、AlI)、臭化物(InBr、GaBr、AlBr)、塩化物(InCl、GaCl、AlCl)を用いた。図2に示すように、TDBはIII族材料と反応することなく、200℃以上の温度で溶解していることが確かめられた(InClとInBrを除く)。
【0024】
また、V族材料としては、NaNH、LiNHを用いた。これらV族材料は活性の高いアルカリ金属を含むため、溶媒によっては発熱を伴う急激な反応をおこすが、TDBに対しては溶媒中で安定な分散液が得られることを確認した。
【0025】
2.分解性
III族窒化物ナノ粒子の合成において、溶媒であるTDBの分解が生じるか否かを判定するため、TDBの圧力変化を以下のように確認した。
まず、TDB(東京化成工業製 97%)を6ml(18.80mmol)、Pt金属製の蓋付き内筒に充填し、Parr社製4740の合成容器を用い、これに圧力計(PGI-63B-MG1-LAQX(Swagelok製))を取り付け、合成容器の内部圧力をモニターできるようにした。尚、内筒の蓋は気密性を保つ目的ではなく、反応によって内筒内で発生するガスは合成容器内に充満するため圧力のモニタリングに不都合はない。加熱装置はMS-ESB(アズワン製)を用いた。これはマントルヒーターとスターラーが一体化しているものである。容器へのTDB充填は、酸素・水分濃度が1ppm以下に管理されたグローブボックス内で行った。
【0026】
合成容器をマントルヒーターにセットし高圧容器の温度が350℃になるまで昇温レート5℃/minで昇温した。350℃に到達後一定時間保持した。なお、高圧容器の温度が350℃に達したとき、TDBの実温度は300℃で安定した。昇温開始とともに圧力ゲージの数値を記録した。
【0027】
比較例として、ジフェニルエーテル(DPE)(Aldrich製 99.9%)を6ml(38.07mmol) 、または、トリオクチルホスフィン(TOP)(Aldrich製 97%)を6ml(13.44mmol)充填したものもそれぞれ準備した。
【0028】
図3は、溶媒としてのTDB,DPE及びTOPの圧力上昇を比較したグラフである。横軸は昇温開始からの時間、縦軸は反応容器の温度及び各溶媒の圧力を表している。
図3からわかるように、DPE及びTOPは合成容器の温度が350℃に達した後も圧力上昇が継続しているのに対し、TDBは合成容器の温度が350℃に達した後は圧力が一定になっている。なお、ここでは、圧力が一定とは、合成時間中における圧力変化が0.02Mpa以下であることをいう。
【0029】
DPE及びTOPは温度が一定であるにも関わらず圧力が継続して上昇しており分解が生じていることを示唆する。つまり、圧力変化によってスクリーニングすることで分解温度を判定することができ、このことに鑑みると、TDBは圧力上昇が起きていないことから溶媒分解が生じていないと考えられる。
【0030】
さらに、図3のグラフにおいて、容器温度を350℃に上昇させた際のTDBの圧力上昇は0.08Mpaであり他の溶媒に比して小さい。このことは、窒化物ナノ粒子を合成するための高圧容器の耐圧を低くでき、容器を小型・低熱容量化できるため生産性の面で有利となるだけでなく、製造コストを大幅に低減することができることを示している。
【0031】
3.合成適性
なお、ナノ粒子の合成に利用される高沸点溶媒として、例えば、オレイン酸、オクタデセン及びオクチルエーテルなどがあるが、これら溶媒は窒化物ナノ粒子が合成できないことを確認した。
以上より、溶媒に利用するTDBが、窒化物に適した温度、圧力、反応容器材料に対し安定で分解を起こすことなく、かつ、材料として利用するIII族材料及びV族材料に対しても安定で均一な分散溶液を形成するということが確認できた。
【0032】
<実施例1>
以下に説明するように、GaNナノ粒子の合成を行った。
ガリウム原料としてヨウ化ガリウム(Aldrich製 99.99%)を243.2mg(0.54mmol)、窒素原料としてリチウムアミド(Aldrich製 hydrogen-storage grade)を248.0mg(10.80mmol)、溶媒としてTDB(東京化成工業製 97%)を6ml(18.80mmol)、それぞれPt製の蓋付き内筒に充填し、合成容器に収納した。
【0033】
合成容器はParr社製4740、加熱装置はMS-ESB(アズワン製)を用いた。これはマントルヒーターとスターラーが一体化しているものである。溶媒と原料の容器への充填は、酸素・水分濃度が1ppm以下に管理されたグローブボックス内で行った。
【0034】
合成容器をマントルヒーターにセットし、5℃/minにて150℃まで昇温し、前駆体を形成した。前駆体は温度140℃~160℃の間で5min反応させることで固相の前駆体を形成した。この際、溶媒への溶解度の低いリチウムアミドを均一に反応させるため、撹拌子にて撹拌を行った。
なお、撹拌速度は600rpmとした。その後、合成容器を350℃まで昇温し1時間合成を行った。合成後は反応を速やかに停止させるため、冷水にて容器を冷却した。
【0035】
合成終了後、合成液にエタノールを加え、超遠心にて遠心分離を行った。遠心後の上澄みを除去したのち再びエタノールを加え遠心分離を行った。この工程を3回行った後、ヘキサンを加え遠心分離した。最後にエタノールで遠心洗浄を行った。回収された粒子はXRD、XRF、TEM等の評価を実施した。遠心分離の条件は、28000rpm×30minとした。
【0036】
<比較例1>
溶媒として、TDBに代えて、DPE(ジフェニルエーテル(Aldrich製 99.9%))を6ml(38.07mmol)内筒に充填し、上述したGaNの合成方法と同様の合成を行い、生成した粒子を回収した。
<比較例2>
また、溶媒として、TDBに代えて、TOP(トリオクチルホスフィン(Aldrich製 97%))を6ml(13.44mmol)内筒に充填し、上述したGaNの合成方法と同様の合成を行い、生成した粒子を回収した。
【0037】
図4は、実施例1、比較例1及び比較例2によって得られたGaNナノ粒子の収率・TEMのEDXによる酸素検出有無・XRFによるリン残存量をまとめた表である。
TEM像より、溶媒を異ならせて生成したGaNナノ粒子のサイズは、溶媒がDPEのとき5nm、TOPのとき4nm、TDBのとき4nmであり、この値は粉末XRD解析による粒子サイズと一致した。このことは、GaNナノ粒子1つ1つが単結晶であることを示す。これより、いずれの溶媒でも、溶媒温度300℃以上の温度で合成することで、優れた結晶性のGaNナノ粒子を合成できることが確認された。
【0038】
しかし、TEMのEDXより、DPEを用いた場合には、不純物として酸素元素を多量含んでいることがわかる。また、XRFによるリン元素残存量の調査から、TOPを用いた場合には不純物としてリン元素を多量含んでいることがわかる。これに対し、TDBを用いた場合には、これらの不純物の生成を抑制できることがわかる。
【0039】
TDBを用いた場合に不純物を抑制できることは、粒子の収率からもわかる。また、図5は各溶媒におけるGaNナノ粒子のTEM像であるが、TDBを用いることで不純物の混入が抑制できていることがわかる。このことから窒化物ナノ粒子、特に、GaNナノ粒子の合成において溶媒の分解を抑制することで不純物低減に効果があることがわかる。
【0040】
<実施例2>
続いて、実施例1と同じ合成容器を用いてInGaNナノ粒子の合成を行った。
インジウム原料としてヨウ化インジウム(Aldrich製 99.998%)を89.2mg(0.18mmol)、ガリウム原料としてヨウ化ガリウム(Aldrich製 99.99%)を162.1mg(0.36mmol)、窒素原料として、リチウムアミド(Aldrich製 97%)を248.0mg(10.80mmol)を内筒に充てんした。溶媒として、テトラデシルベンゼン(東京化成工業製 97%)を6ml(18.80mmol)充填し、合成容器に内筒を収納した。
【0041】
合成容器をマントルヒーターにセットし、5℃/minにて150℃まで昇温し、前駆体を形成した。前駆体は温度140℃~160℃の間で5min反応させることで固相の前駆体を形成した。この際、溶媒への溶解度の低いリチウムアミドを均一に反応させるため、撹拌子にて撹拌を行った。なお、撹拌速度は600rpmとした。その後、合成容器を350℃まで昇温し1時間合成をおこなった合成後は反応を速やかに停止させるため、冷水にて容器を冷却した。
【0042】
合成終了後、合成液にエタノールを加え、超遠心にて遠心分離を行った。遠心後の上澄みを除去したのち再びエタノールを加え遠心分離を行った。この工程を3回行った後、ヘキサンを加え遠心分離した。最後にエタノールで遠心洗浄を行った。遠心分離の条件は、28000rpm×30minとした。回収した粒子についてXRD、XRF、TEM等の評価を実施した。
【0043】
<実施例3,4>
上述した実施例1及び実施例2と同じ合成容器を用い、同様の手順で異なる組成のInGaNナノ粒子の合成を行った。
【0044】
実施例3では、インジウム原料としてヨウ化インジウム(Aldrich製 99.998%)を133.8mg(0.27mmol)、ガリウム原料としてヨウ化ガリウム(Aldrich製 99.99%)を121.58mg(0.27mmol)、窒素原料として、リチウムアミド(Aldrich製 97%)を248.0mg(10.80mmol)を用いた。
【0045】
実施例4では、インジウム原料としてヨウ化インジウム(Aldrich製 99.998%)を178.4mg(0.36mmol)、ガリウム原料としてヨウ化ガリウム(Aldrich製 99.99%)を81.05mg(0.18mmol)、窒素原料として、リチウムアミド(Aldrich製 97%)を248.0mg(10.80mmol)を用いた。溶媒は実施例3及び実施例4共に、テトラデシルベンゼン(東京化成工業製 97%)を6ml(18.80mmol)用いた。回収した粒子についてXRD、XRF、TEM等の評価を実施した。
【0046】
<実施例5>
実施例1乃至実施例4と同じ合成容器を用いてInNナノ粒子の合成を行った。
インジウム原料としてヨウ化インジウム(Aldrich製 99.998%)を267.6mg(0.54mmol)、窒素原料として、リチウムアミド(Aldrich製 97%)を248.0mg(10.80mmol)を内筒に充てんした。溶媒として、テトラデシルベンゼン(東京化成工業製 97%)を6ml(18.80mmol)充填し、合成容器に内筒を収納した。
【0047】
合成容器をマントルヒーターにセットし、5℃/minにて150℃まで昇温し、前駆体を形成した。前駆体は温度140℃~160℃の間で5min反応させることで固相の前駆体を形成した。この際、溶媒への溶解度の低いリチウムアミドを均一に反応させるため、撹拌子にて撹拌を行った。なお、撹拌速度は600rpmとした。その後、合成容器を350℃まで昇温し1時間合成を行った。合成後は反応を速やかに停止させるため、冷水にて容器を冷却した。
【0048】
合成終了後、合成液にエタノールを加え、超遠心にて遠心分離を行った。遠心後の上澄みを除去したのち再びエタノールを加え遠心分離を行った。この工程を3回行った後、ヘキサンを加え遠心分離した。遠心分離の条件は、28000rpm×30minとした。最後にエタノールで遠心洗浄を行った。回収した粒子についてXRD、XRF、TEM等の評価を実施した。
【0049】
実施例1~実施例5におけるインジウム及びガリウムの仕込量を図6の表に示す。また、図7に各Ga仕込量に対する、XRD測定の結果を示す。図7から、InとGaの割合が変化するにつれてInN~GaNへスペクトルがシフトしていることがわかる。図8には各Ga仕込量に対する実際のGa組成の関係を示す。実際のGa組成はXRDの測定結果のスペクトルのシフト量から求めた。図7及び図8から本発明の合成方法では任意にInGaNナノ粒子のGa組成を変えることが可能なことがわかる。
【0050】
図9(A)は、XRD結果からIn副生成物の量を求めたグラフである。Ga組成が高いとIn副生成物量が増える傾向にあるが、合成条件の最適化により削減可能なレベルである。図9(B)は、Ga仕込量に対する収率の変化を示すグラフである。GaNにおいて収率の減少が確認されたが、概ね、InGaN領域では100%に近く、実施例1乃至実施例5は量産性に優れたものと考えられる。図10は、実施例1~実施例5によって得られた粒子のTEM像を示したものである。
【0051】
<実施例6>
本実施例では、InAlNの合成を行った。
インジウム原料としてヨウ化インジウム(Aldrich製 99.998%)を0.27mmol、アルミニウム原料としてヨウ化アルミニウム(Aldrich製 99.99%)を0.27mmol、窒素原料としてリチウムアミド(Aldrich製 97%)を248.0mg(10.80mmol)、溶媒としてTDB(東京化成工業製 97%)を6ml(18.80mmol)夫々Pt製の蓋付き内筒に充填し、合成容器(Parr社製4740)に収納した。溶媒と原料の容器への充填は、酸素・水分濃度が1ppm以下に管理されたグローブボックス内で行った。
【0052】
合成容器を加熱装置MS-ESB(アズワン製)にセットし、5℃/minにて150℃まで昇温し、前駆体を形成した。前駆体は温度140℃~160℃の間で5min反応させることで固相の前駆体を形成した。この際、溶媒への溶解度の低いリチウムアミドを均一に反応させるため、撹拌子にて撹拌を行った。なお、撹拌速度は600rpmとした。その後、合成容器を350℃まで昇温し1時間合成を行った。合成後は反応を速やかに停止させるため、冷水にて容器を冷却した。
【0053】
合成終了後、合成液にエタノールを加え、超遠心にて遠心分離を行った。遠心後の上澄みを除去したのち再びエタノールを加え遠心分離を行った。この工程を3回行った後、ヘキサンを加え遠心分離した。最後にエタノールで遠心洗浄を行った。遠心分離の条件は、28000rpm×30minとした。回収した粒子はXRD、XRF、TEM等の評価を実施した。
【0054】
図11にXRDの測定結果を、図12に合成された粒子のTEM像を示す。図11に示すように、InN、In、InAlNが生成される。InAlNの場合、Al仕込量50%に対して5.0%の取り込み量であった。
【0055】
<実施例7>
ウンデシルベンゼン(UDB)を溶媒として用い、実施例1と同様に合成を行い、ナノ粒子を回収した。
図13に得られたナノ粒子のXRD測定の結果を示す。図13では、TDBを溶媒として合成を行って得られたナノ粒子のXRD測定結果を併せて示す。TDB及びUDB共にInN粒子が形成していることがわかる。なお、Ptのピークが確認されるが、これは撹拌子の回転に伴う白金内筒の機械的な研磨粉である。
【0056】
図14にそれぞれのTEM観察結果を示す。UDBの場合、TDBに比べ粒子の粗大化が生じることが判明した。窒化物ナノ粒子を量子ドットとして機能させるためには、粒子サイズをボーア半径の2倍以下に制御する必要があることは前述のとおりである。InNの場合はボーア半径が8.2nmであるため、少なくとも粒子サイズは16.4nm以下で制御することが好ましい。
【0057】
UDBの場合、上記サイズ以下のものも存在するものの、粒子バラツキがあり粗大化した粒子の方が支配的であることがわかる。この点において、UDBも溶媒として使用することで、所望の窒化物ナノ粒子を合成することができるものの、TDBが、アルキルベンゼン類の中で溶媒安定性及びサイズ制御性の観点から窒化物ナノ粒子の合成に最も適した溶媒であるということができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14