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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-26
(45)【発行日】2024-10-04
(54)【発明の名称】吹付工法用装置
(51)【国際特許分類】
   E04G 21/02 20060101AFI20240927BHJP
   E21D 11/10 20060101ALI20240927BHJP
   B05B 7/04 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
E04G21/02 103B
E04G21/02 101
E21D11/10 D
B05B7/04
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020174696
(22)【出願日】2020-10-16
(65)【公開番号】P2022065900
(43)【公開日】2022-04-28
【審査請求日】2023-09-19
(73)【特許権者】
【識別番号】501173461
【氏名又は名称】太平洋マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高山 浩平
(72)【発明者】
【氏名】長井 義徳
(72)【発明者】
【氏名】柴垣 昌範
【審査官】櫻井 茂樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-051491(JP,A)
【文献】特開2000-257394(JP,A)
【文献】特表2020-506319(JP,A)
【文献】実開平04-065894(JP,U)
【文献】特開2004-255370(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05B1/00-3/18
7/00-9/08
E04G21/00-21/10
23/00-23/08
E21D11/00-19/06
23/00-23/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吹付材料供給部から順に、材料輸送ホースと、液体供給部材と、混練管と、吐出口を有する吹付ノズルと、が接続され、
前記液体供給部材と前記混練管との接続部、又は、前記混練管の内部に、吐出口方向に変形可能な変形部位を複数有する略平板状の混練弁を備える、吹付工法用装置。
【請求項2】
前記混練弁において、前記変形部位が放射状に形成されてなる、請求項1に記載の吹付工法用装置。
【請求項3】
前記混練弁が弾性樹脂製である、請求項1又は2に記載の吹付工法用装置。
【請求項4】
前記混練弁の厚さが0.1~7mmである、請求項1~3のいずれか一項に記載の吹付工法用装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吹付工法用装置に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造物の劣化に伴い、それらの補修や改修工事が様々な方法によってなされている。中でも乾式吹付による補修は、長距離圧送性に優れ、日当たり施工量が大きく、トンネルや橋梁関係等の断面修復の大きい箇所に幅広く施工され、利用されている。また近年では、作業者の高齢化も含め、作業環境に考慮した環境負荷低減の施工が要望されている。
【0003】
乾式吹付工法は湿式吹付工法に比べて単位時間当たりの施工量が多いことが大きな特長である。一方で、乾式吹付工法は粉体材料と水を含む液体材料がノズル先で瞬時に交わり、圧縮空気と共に対象構造物に吹付けてモルタルを成型する工法であり、そのため施工時の粉塵発生量が多く、作業環境改善のための粉塵の低減が求められている。
【0004】
このような装置として、例えば、特許文献1には、乱流混練装置を備えた乾式吹付け工法用ノズル装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2004-255370号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
乾式吹付工法においては、吹付時のモルタルが十分に混練され均一性が優れていること、吹付時に発生する粉塵量が少ないこと等に加え、連続で長時間圧送した際にも安定的に吹付できることが重要である。しかしながら、従来の方法では、ホースやノズルに材料が付着してしまうことがあり、連続した作業性及び作業後の清掃性が低下することがあった。
【0007】
したがって、本発明では、材料が十分に混練され、吹付時の粉塵発生量が少なく、且つ、ホースやノズルにモルタルの付着が少なく連続圧送性に優れる吹付工法用装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題について鋭意検討した結果、液体と吹付材料が合流した後の工程に混練弁を設置することで、混練性、連続圧送性に優れ、吹付時の粉塵量も少ない吹付工法用装置が得られることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は以下の[1]~[]である。
[1]吹付材料供給部から順に、材料輸送ホースと、液体供給部材と、混練管と、吐出口を有する吹付ノズルと、が接続され、
前記液体供給部材と前記混練管との接続部、又は、前記混練管の内部に、吐出口方向に変形可能な変形部位を複数有する略平板状の混練弁を備える、吹付工法用装置。
[2]前記混練弁において、前記変形部位が放射状に形成されてなる、[1]に記載の吹付工法用装置。
[3]前記混練弁が弾性樹脂である、[1]又は[2]に記載の吹付工法用装置。
[4]前記混練弁の厚さが0.1~7mmである、[1]~[3]のいずれかに記載の吹付工法用装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、材料が十分に混練され、吹付時の粉塵発生量が少なく、且つ、ホースやノズルにモルタルの付着が少なく、連続圧送性に優れる吹付工法用装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1(a)、(b)は、本発明の吹付工法用装置の一実施形態を示す模式図である。
図2図2(a)、(b)、(c)、(d)、(e)及び(f)は、本発明に係る混練弁の一実施形態を示す模式正面図である。
図3】実施例で使用した混練弁4(比較例)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を適宜参照しながら本発明の一実施形態について説明する。各図は模式図であり、各構成要素の大きさ等は図面に示されたものに限定されるものではない。
【0013】
図1は、本発明の吹付工法用装置の一実施形態を示す模式図である。本実施形態の吹付工法用装置100は、吹付材料供給部10から順に、材料輸送ホース20と、液体供給部材30と、混練管60と、吐出口を有する吹付ノズル70と、が接続され、吐出口方向に変形可能な変形部位を複数有する略平板状の混練弁80を備えている。
【0014】
吹付材料供給部10は吹付材料を供給する機材であればよく、例えば、モルタル吹付機、コンクリート吹付機等が挙げられる。吹付材料は用途に応じて適宜調整すればよく、例えば、セメント、骨材等を配合したセメント系材料、ロックウール等の耐火材料、発泡ウレタン等の被覆材料が挙げられる。吹付材料供給部10はコンプレッサー等の圧送手段が接続されており、空気圧送によって吹付材料が材料輸送ホース20に送られる。以下、吹付材料として、セメント系材料を用いた場合について説明する。
【0015】
材料輸送ホース20は耐圧ホースであれば特に限定されない。材料輸送ホース20の長さは、施工箇所までの距離に応じて適宜調整することができる。材料輸送ホース20は混練管60と接続され、両者の間に液体供給部材30が配置される。
【0016】
液体供給部材30は材料輸送ホース20内に液体を供給できるものであればよく、例えば、シャワーリング、ウォーターリング、O-リング等と呼ばれる環の中心方向に液体が供給される環状部材が挙げられる。液体供給部材30には、液体が液体供給部40から液体供給ホース50を介して供給され、コンプレッサー等の圧送手段により圧送される。供給される液体は特に限定されるものではなく、例えば、水であってもよく、ポリマーや他の添加剤を含む水溶液であってもよい。
【0017】
液体供給部材30から供給する水等の液体の量は、使用目的、使用材料等の条件に応じて適宜調整することができる。水等の液体の量は、例えば、吹付材料100質量部に対して10~20質量部以下であることが好ましく、12~18質量部であることがより好ましく、14~16質量部であることが更に好ましい。
【0018】
材料輸送ホース20から圧送された吹付材料と、液体供給部材30から圧送された液体とは、合流して混練管60内で吹付モルタルとなり、混合されながら圧送される。混練管60は耐圧仕様であればよく、耐圧ホースや金属製等の耐圧管であれば特に限定されない。混練管60は、複数本を連結してもよい。混練管60の長さ(複数本の場合は合計の長さ)は、吹付材料及び液体が十分に混練されモルタルの均一性が更に向上し、さらに粉塵も一層低減するという観点から、10~180cmであることが好ましく、20~165cmであることがより好ましく、40~150cmであることが更に好ましく、65~150cmであることが特に好ましい。混練管の内径は、例えば、2~6cmである。混練管60内で混練された吹付モルタルは吹付ノズル70へと圧送される。
【0019】
混練管60から圧送された吹付モルタルは、吹付ノズル70へと圧送され、吐出口から吹付が行われる。吹付ノズル70は、通常吹付等に用いられるものであれば特に限定されない。吹付ノズル70の長さは、10~50cmであることが好ましく、15~40cmであることがより好ましく、20~35cmであることが更に好ましい。吹付ノズル70の長さが上記範囲であれば、吐出範囲が更に制御しやすく、発生する粉塵量も一層低減することができる。
【0020】
本実施形態の吹付工法用装置は、液体供給部材30と吹付ノズル70との間に、吐出口方向に変形可能な変形部位81を複数有する略平板状の混練弁80を備える。混練弁80の設置位置は、例えば、図1(a)のように液体供給部30と混練管60との接続部であってもよく、図1(b)のように混練管60の内部(混練管60同士を連結した接続部等)であってもよく、混練管60と吹付ノズル70との接続部であってもよく、これらを組み合わせて複数の混練弁80を設置してもよい。混練弁80は、液体供給部30と混練管60との接続部、又は、混練管60の内部に位置するのが好ましい。
混練性がより一層向上するという観点から、混練弁の設置位置は、吐出口から30~210cmであることが好ましく、50~180cmであることがより好ましい。
【0021】
図2は、混練弁80の一実施形態を示す模式正面図である。混練弁80は圧送していない時には略平板状であるが、圧送時には吐出口方向に変形する変形部位81を複数有する。混練弁80がこのような構造を備えていることにより、圧送時に吹付材料及び液体と圧縮空気が振動可能な変形部位81に接触することで、気流に変化を生じさせ、強制的に一層混練されることになり、且つ、変形部位81が吐出口方向に変形するため吹付時に詰りにくいものとなる。
変形部位81の形状の例としては、図2の(a)、(b)のように変形部位81が放射状に形成されていてもよく、(c)のように一部に空隙があるように形成されていてもよく、(d)のように中心部に穴が形成されていてもよく、(e)のようにのれん状の変形部位81が形成されていてもよく、これらを組み合わせて(f)のように放射状に短冊状の変形部位を組み合わせてもよい。
混練弁80の大きさは、設置箇所の内径以上の外径であるのが好ましく、詰りが生じにくいという観点から、変形部位81の大きさが、設置個所の内径と同程度であるのが好ましい。変形部位81は、詰りが生じにくいという観点から、放射状に形成されたものであることが好ましい。変形部位81の数としては、混練性が得られやすく、吹付モルタルの詰りが生じにくいという観点から、3~20枚であることが好ましく、4~18枚であることがより好ましく、6~16枚であることが更に好ましい。
【0022】
混練弁80の素材は、上記構造を形成することができれば特に限定されるものではなく、天然樹脂及び合成樹脂を含む樹脂製、金属製、木製等が挙げられる。混練弁80としては、中でも、切れ込みを入れるだけで変形部位を調製でき、しなやかな挙動により一層高い混練効果が得られるという観点から、シリコーン樹脂、天然ゴム及び合成ゴムを含むゴム類、その他ゴム弾性を有する樹脂等の弾性樹脂製であるのが好ましい。混練弁80が弾性を持たない素材の場合、ばね蝶番等を用いて調製することができる。
【0023】
混練弁80の大きさは設置する箇所の内径や管同士の接続部に合わせて調整すればよい。混練弁80の厚さは、0.1~7mmであることが好ましく、0.5~5mmであることがより好ましく、1~3mmであることが更に好ましい。混練弁80の厚さが上記範囲内であれば、十分な混練性と長距離圧送時の圧送圧力にも耐えられる耐久性とを両立できる傾向にある。
【0024】
本発明の吹付工法用装置は、混練性に優れ、吹付時の粉塵量も少なく、且つ連続して圧送することができる吹付システムである。そのため、本発明の吹付工法用装置は、断面修復や壁面補修等の乾式吹付に好適に用いることができる。
【実施例
【0025】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0026】
[吹付材料の調製]
普通ポルトランドセメント100質量部、珪砂200質量部、粉末樹脂7質量部をヘンシェルミキサーに投入し、混合して吹付材料を調製した。
普通ポルトランドセメント:太平洋セメント社製
珪砂:3号、4号、5号混合品
粉末樹脂:アクリル系樹脂
【0027】
[乾式吹付]
乾式吹付は、以下のシステムで実施した。
エアコンプレッサを介して乾式モルタル吹付機アリバ237を用い、吹付材料を耐圧ホースで30m空気圧送した。水は、一軸偏心ネジポンプで圧送し、吹付材料の空気圧送ホ-スの途中に設置したシャワーリングから、吹付材料100質量部に対して14~16質量部となるように圧入混合して、吹付モルタルとした。これを吹付ノズルの筒先より、実験用側壁に吹付を行った。吹付は吹付材料250kgを用いて連続して行った。
混練管は、内径4cm、長さ50cmのものを2本連結し、吹付ノズルは長さ30cmのものを用いた。混練弁は、2本の混練管の連結部に設置した。混練弁は以下のものを用いた。
混練弁1:中心を通る4cmの切れ込みを16分割となるように放射状に入れ、中心部に2mmの穴をあけたシリコーンゴム製(変形部16枚)、厚さ2mm、外径6cm。
混練弁2:中心を通る4cmの切れ込みを6分割となるように放射状に入れ、中心部に2mmの穴をあけたシリコーンゴム製(変形部6枚)、厚さ2mm、外径6cm。
混練弁3:中心を通る4cmの切れ込みを16分割となるように放射状に入れ、中心部に2mmの穴をあけたシリコーンゴム製(変形部16枚)、厚さ1.6mm、外径6cm。
混練弁4:長さ10cm、幅2cm、厚さ1mmのゴム板6枚を、外径6cm、内径4cmのリング部材の内径側に等間隔で取り付けたもの(図3参照)。
【0028】
[各種性能評価試験]
表1に示す混練弁を設置した吹付工法用装置を用い、以下に示す方法で、各種性能評価試験を行なった。結果を表1に併せて示す。
(粉塵評価)
吹付ノズルから2m後方の位置において、吹付時の粉塵発生状況を目視で確認した。吹付対象及び吐出モルタルが明確に目視で観察できるものを「◎」、多少粉塵は発生するが、吹付対象及び吐出モルタルは目視で確認できる状態であるものを「○」、発生粉塵により後方から吹付状況が確認できない状態であるものを「△」とした。
【0029】
(均一性評価)
吹付を行なった実験用側壁を確認し、付着したモルタルの状態を確認した。目視評価により粉体部、砂、モルタル、水が分離せず均一に混練されているものを「◎」、モルタル、粉、水が層状に分離している状態のものを「△」とした。
【0030】
(連続圧送性)
吹付中の挙動並びに吹付後のホース及びノズルを確認した。吹付時に吐出中のモルタルに詰りがなく、吹付後のホース及びノズル内にモルタルの固まり(ノロ)が発生していないものを「○」、吹付時に吐出中のモルタルに詰りが発生した、又は吹付後のホース及びノズル内にモルタルの固まり(ノロ)が発生したものを「△」とした。
【0031】
【表1】
【0032】
実施例の吹付工法用装置によれば、連続して圧送しても吹付時及び吹付後においても問題が生じず、発生する粉塵を抑制しつつ均一なモルタルを吹付けることができる。一方、比較例の吹付工法用装置の場合、発生する粉塵量が多い、モルタルが均一になっていない等の問題が生じた。
【符号の説明】
【0033】
100…吹付工法用装置
10…吹付材料供給部
20…材料輸送ホース
30…液体供給部材
40…液体供給部
50…液体供給ホース
60…混練管
70…吹付ノズル
80…混練弁
81…変形部位
図1
図2
図3