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特許7561586耐食性・耐ガス透過性接液部材及びそれを用いたダイヤフラムバルブ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-26
(45)【発行日】2024-10-04
(54)【発明の名称】耐食性・耐ガス透過性接液部材及びそれを用いたダイヤフラムバルブ
(51)【国際特許分類】
   B32B 25/08 20060101AFI20240927BHJP
   F16K 7/12 20060101ALI20240927BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20240927BHJP
   B32B 25/14 20060101ALI20240927BHJP
   F16J 3/02 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
B32B25/08
F16K7/12 A
B32B27/30 D
B32B25/14
F16J3/02 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020197927
(22)【出願日】2020-11-30
(65)【公開番号】P2022086098
(43)【公開日】2022-06-09
【審査請求日】2023-10-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000117102
【氏名又は名称】旭有機材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078190
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 三千雄
(74)【代理人】
【識別番号】100115174
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 正博
(72)【発明者】
【氏名】岩本 学
【審査官】加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-014202(JP,A)
【文献】国際公開第2018/043003(WO,A1)
【文献】特開2013-227870(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 25/08
F16K 7/12
B32B 27/30
B32B 25/14
F16J 3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の側の面に、腐食性ガスを発生する薬液が接触せしめられるパーフルオロカーボン系樹脂からなる接液シート層と、かかる接液シート層の前記薬液が接触しない他方の側に配置された、引張弾性率が1000MPa以下のポリフッ化ビニリデン系樹脂からなる中間シート層と、該中間シート層の前記接液シート層とは反対側に配置された、ゴム弾性体からなるクッションゴム層との積層構造体にて構成されていることを特徴とする耐食性・耐ガス透過性接液部材。
【請求項2】
前記中間シート層を与えるポリフッ化ビニリデン系樹脂が、130~170℃の融点を有するものであることを特徴とする請求項1に記載の耐食性・耐ガス透過性接液部材。
【請求項3】
前記接液シート層を与えるパーフルオロカーボン系樹脂が、ポリテトラフルオロエチレンであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の耐食性・耐ガス透過性接液部材。
【請求項4】
前記クッションゴム層を与えるゴム弾性体が、エチレン-プロピレン系ゴムであることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の耐食性・耐ガス透過性接液部材。
【請求項5】
前記積層構造体を与える前記接液シート層、前記中間シート層及び前記クッションゴム層が、それぞれ、所定の形状に成形されて、該積層構造体が、一定の形状を有する成形体として構成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の耐食性・耐ガス透過性接液部材。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5の何れか1項に記載の耐食性・耐ガス透過性接液部材からなることを特徴とするダイヤフラム部材。
【請求項7】
請求項1乃至請求項5の何れか1項に記載の耐食性・耐ガス透過性接液部材からなることを特徴とする弁座。
【請求項8】
弁座に対する圧接又は離間作動によって、薬液流路における薬液の遮断又は流通を行なうダイヤフラムとして、請求項1乃至請求項5の何れか1項に記載の耐食性・耐ガス透過性接液部材を用いてなることを特徴とするダイヤフラムバルブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐食性・耐ガス透過性接液部材、及びそれを用いたダイヤフラムバルブに係り、特に、塩水、塩酸、濃硫酸、次亜塩素酸等の腐食性液体を取り扱う器械や機器、バルブ等に好適に用いられる耐食性・耐ガス透過性接液部材や、かかる腐食性液体の輸送配管ラインに使用されるダイヤフラムバルブに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、腐食性液体に対して耐食性を有する接液部材は、隔離用の膜板であるダイヤフラム等として、バルブ、燃料ポンプ、ガス圧力調整器、制御器械等において、内容物である液体に、作動流体や作動機構が直接に接触しないようにして、働かせる場合に使用されて来ており、中でも、耐食性接液部材をダイヤフラムとして用いて、それを、弁座に対して圧接又は離隔作動させることにより、腐食性液体(薬液)の流通の遮断又は許容を行なわしめるダイヤフラムバルブは、広く用いられているところである。
【0003】
ところで、そのような腐食性液体が接触せしめられる耐食性の接液部材としては、その耐久性を高めるべく、各種の提案が為されており、例えば、特開平9-196199号公報や特開平9-196200号公報等においては、腐食性液体に接触する側に、ポリテトラフルオロエチレンの如きパーフルオロカーボン系樹脂乃至はフッ素樹脂からなる接液シートと、この接液シートを裏打ちするエチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)の如きゴム状弾性体にて構成されるゴムシートとの積層体からなる、ダイヤフラムとしての耐食性接液部材が、提案されているのであるが、そのような二層構造とした従来の耐食性の接液部材にあっては、かかる腐食性液体による悪影響を長期に亘って充分に回避し得るものではなかったのである。
【0004】
すなわち、ポリテトラフルオロエチレンからなる接液シート層は、良好な耐薬品性を有するものではあるが、電気めっき、2次電池、水素生産ライン、塩水の電解等の電解工程での使用において、塩酸、濃硫酸、次亜塩素酸等の如き腐食性薬液に曝されたときに、かかる薬液から発生する塩素等のハロゲンガスの如き腐食性ガスの透過を充分に遮断することが出来ず、そのために、かかる接液シート層を透過した腐食性ガスによって、かかる接液シート層の外側に位置する裏打ちゴム層の薬品劣化を惹起したり、更にはダイヤフラムバルブに用いられている金属部品の腐食性ガスによる薬品劣化が惹起される問題があり、そのために、ダイヤフラム部材として、その耐久性、ひいてはダイヤフラムバルブとしての耐久性が悪化する問題を内在するものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平9-196199号公報
【文献】特開平9-196200号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここにおいて、本発明は、かかる事情を背景にして為されたものであって、その解決課題とするところは、薬液に対する良好な耐薬品性を確保しつつ、かかる薬液から生じる腐食性ガスの透過を効果的に抑制乃至は阻止して、そのような腐食性ガスに基づくところの腐食を回避して、耐久性を効果的に向上せしめた耐食性・耐ガス透過性接液部材、及びそれをダイヤフラムとして用いたダイヤフラムバルブを、提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そして、本発明にあっては、かくの如き課題を解決するために、一方の側の面に薬液が接触せしめられるパーフルオロカーボン系樹脂からなる接液シート層と、かかる接液シート層の前記薬液が接触しない他方の側に配置された、引張弾性率が1000MPa以下のポリフッ化ビニリデン系樹脂からなる中間シート層と、該中間シート層の前記接液シート層とは反対側に配置された、ゴム弾性体からなるクッションゴム層との積層構造体にて構成されていることを特徴とする耐食性・耐ガス透過性接液部材を、その要旨とするものである。
【0008】
なお、このような本発明に従う耐食性・耐ガス透過性接液部材の好ましい態様の一つによれば、前記中間シート層を与えるポリフッ化ビニリデン系樹脂は、130~170℃の融点を有するものである。
【0009】
また、かかる本発明に従う耐食性・耐ガス透過性接液部材の好ましい態様の他の一つによれば、前記接液シート層を与えるパーフルオロカーボン系樹脂は、ポリテトラフルオロエチレンである。
【0010】
さらに、本発明に従う耐食性・耐ガス透過性接液部材は、望ましくは、前記クッションゴム層を与えるゴム弾性体として、エチレン-プロピレン系ゴムを用いている。
【0011】
更にまた、本発明に従う耐食性・耐ガス透過性接液部材の望ましい別の態様の一つによれば、前記積層構造体を与える前記接液シート層、前記中間シート層及び前記クッションゴム層が、それぞれ、所定の形状に成形されて、該積層構造体が、一定の形状を有する成形体として、構成されている。
【0012】
加えて、本発明にあっては、好ましくは、前記耐食性・耐ガス透過性接液部材からなることを特徴とするダイヤフラム部材を、その要旨とするものである。
【0013】
また、本発明にあっては、望ましくは、前記耐食性・耐ガス透過性接液部材からなることを特徴とする弁座を、その要旨とするものである。
【0014】
そして、本発明にあっては、上述の如き構成の耐食性・耐ガス透過性接液部材が、弁座に対する圧接又は離間作動によって、薬液流路における薬液の遮断又は流通を行なうダイヤフラムとして用いられてなるダイヤフラムバルブをも、その要旨とするものである。
【0015】
なお、そのようなダイヤフラムバルブによって、流通又は遮断が行なわれる薬液としては、有利には、腐食性ガスを発生する液体がその対象とされ、更に、そのような腐食性ガスを発生する液体としては、好適には、電解工程において配管内を流通せしめられる塩酸、濃硫酸、次亜塩素酸等が、その対象とされるものである。
【発明の効果】
【0016】
このように、本発明に従う耐食性・耐ガス透過性接液部材にあっては、パーフルオロカーボン系樹脂からなる接液シート層とゴム弾性体からなるクッションゴム層との間に、引張弾性率が1000MPa以下のポリフッ化ビニリデン系樹脂からなる中間シート層が介在せしめられてなる積層構造体にて構成されているところから、腐食性ガスの透過が、かかる中間シート層の存在によって、効果的に遮断せしめられ得て、そのような腐食性ガスに基づくところの外側シート層の劣化が有利に阻止され得ることとなるのであり、これによって、耐食性・耐ガス透過性接液部材としての耐久性の向上が効果的に図られ得ると共に、周囲の金属部品の腐食を阻止して、その長寿命化が有利に図られ得ることとなる。しかも、中間シート層を与えるポリフッ化ビニリデン系樹脂の弾性率が、クッションゴム層を与えるゴム弾性体の弾性率に近づけられているところから、クッションゴム層のクッション性を接液シート層に効果的に伝達して、その作動機能を有利に奏せしめ得ることに加えて、中間シート層におけるマイクロクラックの発生を効果的に抑制乃至は阻止して、その低ガス透過性を長く維持して、耐久性を向上せしめることが出来るという特徴を発揮することが出来ることとなる。
【0017】
そして、そのような耐食性・耐ガス透過性接液部材を、特に、ダイヤフラムバルブにおける薬液の遮断又は流通を行なうダイヤフラムとして用いることにより、バルブとしての耐久性が著しく向上せしめられ得たダイヤフラムバルブが、有利に提供され得ることとなったのである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明を適用したダイヤフラムバルブの一実施形態を示す縦断面説明図である。
図2図1に示されるダイヤフラムバルブにおいて用いられているダイヤフラムを取り出して示す説明図であって、(a)は、ダイヤフラムバルブの閉状態におけるダイヤフラムの無変形の形態を示す断面説明図であり、(b)は、ダイヤフラムバルブが開状態におけるダイヤフラムの変形作用を受けた状態を示す説明図である。
図3】本発明を適用したバタフライバルブの実施形態の一つを示す縦断面説明図である。
図4図3に示されるバタフライバルブの主要部(弁座部分)を拡大して示す部分説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明することとする。
【0020】
先ず、図1には、本発明に従う耐食性・耐ガス透過性接液部材をダイヤフラムとして使用したダイヤフラムバルブの一例が、示されている。そこにおいて、ダイヤフラムバルブ10は、入口流路14と出口流路16とを備え、更に、それら流路14,16の中間に位置し、且つ流路を湾曲させる仕切壁18を備えると共に、かかる仕切壁18の先端面(上面)が弁座20とされてなる弁本体12を有している。また、かかる弁本体12の仕切壁18の上方に形成された開口部を覆蓋するように、ボンネット22が取り付けられて、このボンネット22に支承されたスピンドル24が、ハンドル26の回動操作によって、上下方向(軸方向)に移動可能とされている。そして、スピンドル24の下端部に固定されたコンプレッサ28に対して、中心部が取り付けられて、上下方向に変形移動可能とされた、円形又は略矩形の平面形態を呈するダイヤフラム30が、その周縁部において、弁本体12の開口周縁部とボンネット22の下端部との間に挟持せしめられることによって、弁本体12の開口部が閉塞せしめられるようになっている一方、スピンドル24の上下動、ひいてはコンプレッサ28の上下動によって、ダイヤフラム30の中心部が、弁座20に圧接又は離隔せしめられることによって、流路14,16を流れる液体の流れを遮断し、又は通過(流通)させ得るようになっているのである。
【0021】
そして、このような構成のダイヤフラムバルブ10において、入口流路14と出口流路16との間を遮断又は連通させるダイヤフラム30が、図2に示される如く、本発明に従う耐食性・耐ガス透過性接液部材にて、構成されているのである。即ち、ダイヤフラム30は、一方の側の面(図においては、下面)に、流路(14,16)内を流通せしめられる薬液が接触させられることとなる、パーフルオロカーボン系樹脂からなる接液シート層32と、かかる接液シート層32の上記薬液が接触しない他方の側(図においては、上側)に配置された、引張弾性率が1000MPa以下のポリフッ化ビニリデン系樹脂からなる中間シート層34と、この中間シート層34の前記接液シート層32とは反対側に配置された、所定のゴム弾性体からなるクッションゴム層36との積層構造体にて、構成されているのである。なお、ここでは、それら接液シート層32、中間シート層34及びクッションゴム層36は、それぞれ、所定の形状に成形されてなる形態において積層され、その積層構造体が、一定の形状を有する成形体として構成されており、スピンドル24により引き上げられていない状況下においては、図2(a)に示される如き形態を呈するようになっている。また、接液シート層32は、その中央部が厚肉とされ、そこに、コンプレッサ28に取り付けるための連結金具38の基部が埋設されていると共に、かかる連結金具38は、中間シート層34の中央開口部を通じて、クッションゴム層36の中心部を貫通してなる形態において、上方に突出せしめられている。
【0022】
また、ダイヤフラム30においては、接液シート層32の接液側の面となる下面の周縁部に沿って、環状の周縁突条40が形成されていると共に、接液シート層32の中心部を通って直径方向に延びる線状突条42が一体的に設けられている。この周縁突条40は、ダイヤフラム30が弁本体12とボンネット22との間に挟持されたときに、弁本体12の開口周縁部との間のシール性を高めるためのものであり、また、線状突条42は、コンプレッサ28の下降作動によって、ダイヤフラム30が下方に変形移動せしめられて、弁本体12の弁座20に圧接せしめられたときに、弁座20との間の流体遮断性を向上せしめるためのものである。
【0023】
なお、図2(a)に示されるダイヤフラム30は、その成形形態における組付け状態を示すものであって、通常、そのような形態において、ダイヤフラムバルブ10に組み付けられて、かかるダイヤフラム30の中心部がコンプレッサ28にて押圧されることにより、弁座20に圧接せしめられ、以て、入口流路14と出口流路16との間の液体の流通が、効果的に遮断され得るようになっているのである。また、コンプレッサ28が、スピンドル24の軸方向への移動によって上方に移動せしめられると、ダイヤフラム30は、図2(b)に示されるように、上方に引き上げられてなる、上方への湾曲(突出)形態において変形せしめられることとなる。そして、そのような形態においては、ダイヤフラム30は、図1に示される如く、弁座20に圧接されることはなく、所定の間隔を隔てて、離隔せしめられることとなるところから、入口流路14と出口流路16との間に、所定の液体が流通され得るようになるのである。
【0024】
ところで、かかるダイヤフラム30において、薬液に接触することとなる接液シート層32は、一般に、0.8~4.5mm程度の厚さにおいて形成されるものであって、そして、その材質としては、かかる薬液に対する耐食性を確保するために、ポリテトラフルオロエチレンや、テトラフルオロエチレン-パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン重合体、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルコキシエチレン共重合樹脂等の如き、公知の各種のパーフルオロカーボン系樹脂が適宜に選択されることとなるが、特に、本発明にあっては、ポリテトラフルオロエチレンが、好適に用いられることとなる。
【0025】
また、そのような接液シート層32を裏打ちするクッションゴム層36は、コンプレッサ28の動作を、接液シート層32に有効に伝達させるためのものであって、一般に、2~15mm程度の厚さにおいて形成され、そして、その材質としては、特に制限されるものではなく、公知のゴム弾性を有する材質が適宜に採用され、例えば、EPDM等のエチレン・プロピレンゴム、アクリルゴム、フッ素ゴム、ブチルゴム、クロロプレンゴム等を挙げることが出来るが、中でも、エチレン・プロピレン系ゴム、特にEPDMが、好適に用いられることとなる。
【0026】
そして、それら接液シート層32とクッションゴム層36との間に介在せしめられる中間シート層34は、接液シート層32の薄肉部位を透過する腐食性ガスを遮断して、クッションゴム層36の劣化等を回避するためのものであって、引張弾性率が1000MPa以下のポリフッ化ビニリデン系樹脂にて構成されている。そこで、ポリフッ化ビニリデン系樹脂としては、ポリフッ化ビニリデン(ホモポリマー)が有利に用いられるところであるが、フッ化ビニリデンにヘキサフルオロプロピレンやテトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン等のハロゲン化コモノマーを共重合させてなる、公知のフッ化ビニリデン系共重合体を用いることも可能である。そして、そのようなポリフッ化ビニリデン系樹脂は、1000MPa以下の引張弾性率を有している必要があり、これによって、中間シート層34にマイクロクラックが惹起されるのを効果的に阻止して、その低ガス透過性を長く維持することが可能となるのである。なお、そのような引張弾性率の下限は、一般に650MPa程度である。また、かかる引張弾性率は、JIS-K-7161:2014に従って求められるものである。
【0027】
なお、かくの如き引張弾性率を有するポリフッ化ビニリデン系樹脂は、市場において入手可能であり、例えば、株式会社クレハやソルベイジャパン株式会社等から市販されているものが、適宜に採用されるところである。そして、そのような市販のポリフッ化ビニリデン系樹脂を用いて、所定の中間シート層34が成形されることとなるのであるが、そのような中間シート層34は、一般に0.3~1.5mm程度の厚さにおいて形成されることとなる。また、例示のダイヤフラム30において、中間シート層34は、接液シート層32の中心部の厚肉部上には存在しないように、中心部に開口部が設けられてなる形態において、形成されている。そのような開口部を中間シート層34に設けても、そこには、厚肉の接液シート層32が存在し、また、その厚肉部位には、連結金具38の下部フランジ部が存在することによって、腐食性ガスの透過は充分に抑制乃至は阻止され得ることとなるからである。但し、腐食性ガスの濃度によっては、スピンドル等の金属部品を保護するために、厚肉部の上部まで覆うような形状でもよい。
【0028】
また、かかる中間シート層34を構成するポリフッ化ビニリデン系樹脂は、好ましくは130~170℃、より好ましくは140~160℃の融点を有していることが望ましく、これによって、中間シート層34としての特徴を有利に発揮させることが可能となる。なお、このポリフッ化ビニリデン系樹脂の融点が、130℃よりも低くなるとガスの透過率が高くなり、更に140℃よりも低くなると、流動性が高くなり、中間シート層34の形成に際して、製品寸法がばらつく等の問題を惹起し易くなり、また、かかる融点が160℃を超えるようになると、中間シート層34にマイクロクラックが発生し易くなり、更には170℃を超えると弾性率が高くなり、バルブの操作トルクが重くなる等の問題が、惹起されるようになる。
【0029】
このように、本発明に従うダイヤフラム30は、接液シート層32とクッションゴム層36との間に、引張弾性率が1000MPa以下のポリフッ化ビニリデン系樹脂からなる中間シート層34を設けてなるものであるが、そこにおいて、中間シート層34が、1000MPa以下の引張弾性率を有する必要があることは、以下の比較実験結果からも、容易に理解され得るところである。
【0030】
すなわち、比較試験は、図2に示される如き、3層構造の積層成形体からなるダイヤフラム30において、中間シート層34として、引張弾性率が750~850MPaであるポリフッ化ビニリデン(融点:148~154℃)にて形成したもの(n=5)と、引張弾性率が1800MPaであるポリフッ化ビニリデン(融点:173℃)にて形成したものとを用い、それぞれ、25mm及び50mmのダイヤフラムサイズ(口径)において、それらを、図1に示されるダイヤフラムバルブ10にセットして、その開閉試験を行ない、かかるダイヤフラム30における中間シート層34に、マイクロクラックが発生するまでの開閉回数を測定することにより、実施した。
【0031】
なお、かかるバルブ開閉試験は、開閉サイクル操作圧:0.4MPa、1分間の開作動、1分間の閉作動の条件下において、繰返し実施し、所定回数の開閉操作後に、バルブを分解して、ダイヤフラム30における中間シート層34の状態を調べ、更にその後、ダイヤフラム30、更にはダイヤフラムバルブ10を再度組み立てて、その開閉試験を続行して、かかる中間シート層34にマイクロクラックが発生するまでの回数を測定し、その結果を、下記表1に示した。また、このバルブ開閉試験は、流路(14,16)に薬液が存在していない状態下において(空気の存在下)、実施された。更に、接液シート層32は、ポリテトラフルオロエチレンがその材質とされる一方、クッションゴム層36は、EPDMがその材質とされてなるものであった。
【0032】
【表1】
【0033】
かかる表1の結果より明らかな如く、本発明に従って、ダイヤフラム30を構成する接液シート層32とクッションゴム層36との間に介在せしめられる中間シート層34の材質として、引張弾性率が1000MPa以下のポリフッ化ビニリデン系樹脂が用いられていることにより、中間シート層34におけるマイクロクラックの発生が効果的に抑制され得ることとなるのであり、これによって、ポリフッ化ビニリデン系樹脂の優れた耐薬品特性や低ガス透過特性を、有利に確保しつつ、マイクロクラックの発生を長期間に亘って阻止して、そのようなマイクロクラックを通じての、塩素の如きハロゲンガス等の腐食性ガスの透過により、クッションゴム層36の劣化、更には、そのようなダイヤフラム30の周りに配置される金属部品の腐食性ガスによる薬品劣化を効果的に抑制乃至は防止し、以て、耐久性に優れたダイヤフラム30、更にはダイヤフラムバルブ10が、有利に提供され得ることとなるのである。
【0034】
また、本発明に従う耐食性・耐ガス透過性接液部材は、上述の如きダイヤフラムバルブ10におけるダイヤフラム30の他にも、各種の機器や器械等において、腐食性の薬液に接触する各種の部材として、好適に使用され得るものであって、例えば、図3に示される如きバタフライバルブにおける弁座(バルブシート)としても、有利に用いられ得るものである。
【0035】
具体的には、図3に示されるバタフライバルブ50は、薬液の流路内に位置せしめられる開口部を有するバルブ本体52と、このバルブ本体52内に装入されて、軸回りに回動せしめられるステム54と、このステム54に一体的に設けられて、バルブ本体52の薬液流路内に位置する開口部内において回動せしめられることによって、かかる開口部の開放又は遮断を行なう円盤形状のディスク56とを有し、更に、かかるバルブ本体52の開口部の周縁部を覆うように取り付けられた弁座60とを含んで、構成されている。なお、ディスク56の薬液に接する両側の表面には、ポリテトラフルオロエチレンからなるライナー58が、所定厚さにおいて、それぞれ、設けられている。また、図3に示されるディスク56の配設形態は、薬液流路に配置されるバルブ本体52の開口部を閉塞する状態、従って薬液の流通を遮断する状態を示しており、このディスク56が約90°回動せしめられることによって、バルブ本体52の開口部は、全開状態(薬液の流通状態)となるようになっている。
【0036】
そして、ディスク56がその外周部において着座せしめられる弁座60は、図4に拡大して示されるように、薬液流路における薬液に接触せしめられることとなる接液シート層62と、この接液シート層62の内側に位置する中間シート層64と、更に、この中間シート層64の内側に位置するクッションゴム層66との所定形状の積層構造体にて構成され、このような積層形態において、バルブ本体52の開口部の内周縁部の全体を取り囲むように、円環状形態において配設されているのである。なお、かかる弁座60において、接液シート層62は、本発明に従って、パーフルオロカーボン系樹脂にて構成され、また、中間シート層64にあっても、引張弾性率が1000MPa以下のポリフッ化ビニリデン系樹脂にて構成されており、更に、クッションゴム層66は、所定のゴム弾性体にて構成されている。
【0037】
従って、このような構成のバタフライバルブ50において、薬液の流通を阻止すべく、ステム54がその軸回りに回動せしめられて、ディスク56が、図3に示される如き位置に配置されることにより、ディスク56の外周部における膨出部56a,56a上に設けられたライナー58が、弁座60における円環状の接液シート層62に対して、その全周に亘って当接せしめられることとなるのであり、これによって、バルブ本体52における開口部の閉鎖が実現されることとなるのである。その際、弁座60には、クッションゴム層66が設けられていることによって、接液シート層62は、ディスク56の周縁部に対して、所定の圧力をもって弾性的に当接し、弁座60とディスク56との間に間隙が生じないようにして、より有効な薬液の流通の遮断が行なわれることとなるのであるが、そこでは、接液シート層62とクッションゴム層66との間に、本発明に従う中間シート層64が介在せしめられており、それによって、薬液から生じる腐食性ガスが接液シート層62を透過しても、クッションゴム層66に至るようなことが効果的に抑制乃至は阻止されることとなるのであり、以て、腐食性ガスによるクッションゴム層66の劣化が効果的に阻止され得て、その耐久性が有利に向上せしめられ得ることとなるのである。
【0038】
以上、本発明の代表的な実施形態について詳述してきたが、それは、あくまでも、例示に過ぎないものであって、本発明は、そのような実施形態に係る具体的な記述によって、何等限定的に解釈されるものではないことが、理解されるべきである。
【0039】
例えば、上述せるダイヤフラムバルブ10やバタフライバルブ50は、本発明に従う耐食性・耐ガス透過性接液部材が有利に用いられ得るものの例として挙げられているのであるが、その他の機器や器械等にも、同様に適用され得るものであることは、言うまでもないところであり、そして、例示のダイヤフラムバルブ10やバタフライバルブ50にあっても、例示の構造のみならず、公知の各種のダイヤフラムバルブやバタフライバルブの構造に適用可能であることは、言うまでもないところである。
【0040】
また、例示のダイヤフラムバルブ10におけるダイヤフラム30を構成する接液シート層32、中間シート層34及びクッションゴム層36や、バタフライバルブ50における弁座(バルブシート)60を構成する接液シート層62、中間シート層64及びクッションゴム層66は、何れも、別個に成形された後、積層されて、3層構造の積層体として用いられているのであるが、それら接液シート層32,62と中間シート層34,64とクッションゴム層36,66とを相互に固着一体化してなる形態の積層構造において、用いることも可能である。
【0041】
さらに、それら接液シート層32,62、中間シート層34,64及びクッションゴム層36,66のうちの少なくも何れか一層を、所定の製品形状に成形することなく、平坦なシート状形態のままにおいて、用いることも可能である。
【0042】
加えて、クッションゴム層36,66は、ゴム弾性体のみにて構成される他、ゴム弾性体内に補強繊維を混在させたり、補強繊維層を介在させて、クッションゴム層36,66の補強を行なうことも可能である。
【0043】
更にまた、例示のダイヤフラムバルブ10におけるコンプレッサ28の駆動形式にあっても、例示の如きハンドル26の手動による回動操作に代えて、空気圧による空圧駆動方式やモータ等による電気駆動方式も採用可能であり、その駆動形式には、公知のものが適宜に採用されることとなる。
【符号の説明】
【0044】
10 ダイヤフラムバルブ 12 弁本体 14 入口流路 16 出口流路 18 仕切壁 20,60 弁座 22 ボンネット 24 スピンドル 26 ハンドル 28 コンプレッサ 30 ダイヤフラム 32,62 接液シート層 34,64 中間シート層 36,66 クッションゴム層 38 連結金具 40 周縁突条 42 線状突条 50 バタフライバルブ 52 バルブ本体 54 ステム 56 ディスク 58 ライナー
図1
図2
図3
図4