IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社アドバンテストの特許一覧

<>
  • 特許-電源装置、電源ユニット、試験装置 図1
  • 特許-電源装置、電源ユニット、試験装置 図2
  • 特許-電源装置、電源ユニット、試験装置 図3
  • 特許-電源装置、電源ユニット、試験装置 図4
  • 特許-電源装置、電源ユニット、試験装置 図5
  • 特許-電源装置、電源ユニット、試験装置 図6
  • 特許-電源装置、電源ユニット、試験装置 図7
  • 特許-電源装置、電源ユニット、試験装置 図8
  • 特許-電源装置、電源ユニット、試験装置 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-26
(45)【発行日】2024-10-04
(54)【発明の名称】電源装置、電源ユニット、試験装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 3/28 20060101AFI20240927BHJP
   G01R 31/26 20200101ALI20240927BHJP
   G01R 31/28 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
H02M3/28 W
H02M3/28 B
G01R31/26 B
G01R31/28 P
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020198413
(22)【出願日】2020-11-30
(65)【公開番号】P2022086417
(43)【公開日】2022-06-09
【審査請求日】2023-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】390005175
【氏名又は名称】株式会社アドバンテスト
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100109047
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 雄祐
(74)【代理人】
【識別番号】100109081
【弁理士】
【氏名又は名称】三木 友由
(74)【代理人】
【識別番号】100133215
【弁理士】
【氏名又は名称】真家 大樹
(72)【発明者】
【氏名】清水 貴彦
(72)【発明者】
【氏名】今井 祥一朗
【審査官】武内 大志
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-147196(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0295563(US,A1)
【文献】特開2016-208742(JP,A)
【文献】特開平1-129718(JP,A)
【文献】特開昭62-221872(JP,A)
【文献】特開2017-127195(JP,A)
【文献】特開2015-65738(JP,A)
【文献】特開平8-289541(JP,A)
【文献】特開2003-304688(JP,A)
【文献】特開2017-33422(JP,A)
【文献】特開2002-165441(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 3/28
G01R 31/26
G01R 31/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スタック接続される複数チャンネルの電源ユニットを備え、
前記複数チャンネルの電源ユニットはそれぞれ、
正極出力および負極出力と、
制御信号に応じて、前記正極出力と前記負極出力の間に出力電圧を発生する出力段と、
前記出力電圧を示す電圧検出信号を生成する電圧検出器と、
を備え、
前記複数チャンネルのひとつであるマスターチャンネルの電源ユニットは、
前記複数チャンネルの残りであるスレーブチャンネルの電源ユニットから前記電圧検出信号を受信し、全チャンネルの前記電圧検出信号にもとづくフィードバック信号を生成するフィードバック信号生成部と、
前記フィードバック信号が目標値に近づくように、前記制御信号を生成するフィードバックコントローラと、
をさらに備え、
全チャンネルの前記出力段は、前記マスターチャンネルの前記フィードバックコントローラが生成する前記制御信号にもとづいて動作することを特徴とする電源装置。
【請求項2】
前記マスターチャンネルの電源ユニットは、前記出力段の出力電流を示す電流検出信号を生成する電流検出器をさらに備え、
前記フィードバックコントローラは、前記電流検出信号が所定のリミット値を超えるとき、前記電流検出信号が前記リミット値に近づくように、前記制御信号を生成することを特徴とする請求項1に記載の電源装置。
【請求項3】
前記複数チャンネルの電源ユニットは、前記フィードバック信号生成部、前記フィードバックコントローラおよび前記電流検出器を備え、同様に構成されており、
各電源ユニットは、マスターモードとスレーブモードが選択可能であり、前記マスターモードに設定されたとき、前記フィードバック信号生成部、前記フィードバックコントローラが有効化され、前記スレーブモードに設定されたとき、前記フィードバック信号生成部と前記フィードバックコントローラが無効化されることを特徴とする請求項2に記載の電源装置。
【請求項4】
前記フィードバック信号は、前記全チャンネルの前記電圧検出信号の平均値であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の電源装置。
【請求項5】
前記マスターチャンネルは、前記複数チャンネルのうち最上段に位置することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の電源装置。
【請求項6】
複数個をスタックして電源装置を構成可能な電源ユニットであって、
正極出力および負極出力と、
制御信号に応じて、前記正極出力と前記負極出力の間に出力電圧を発生する出力段と、
前記出力電圧を示す電圧検出信号を生成する電圧検出器と、
マスターチャンネルに設定されたときにアクティブとなり、全チャンネルの前記電圧検出信号にもとづくフィードバック信号を生成するフィードバック信号生成部と、
前記マスターチャンネルに設定されたときにアクティブとなり、前記フィードバック信号が目標値に近づくように、制御信号を生成するフィードバックコントローラと、
前記マスターチャンネルに設定されたとき、他のチャンネルから前記電圧検出信号を受信するとともに、他のチャンネルに前記制御信号を送信し、スレーブチャンネルに設定されたとき、前記マスターチャンネルから前記制御信号を受信するとともに、前記マスターチャンネルに前記電圧検出信号を送信するインタフェース回路と、
を備えることを特徴とする電源ユニット。
【請求項7】
前記出力段の出力電流を示す電流検出信号を生成する電流検出器をさらに備え、
前記マスターチャンネルに設定されたとき、前記フィードバックコントローラは、前記電流検出信号が所定のリミット値を超えるとき、前記電流検出信号が前記リミット値に近づくように、前記制御信号を生成することを特徴とする請求項6に記載の電源ユニット。
【請求項8】
前記フィードバック信号は、前記全チャンネルの前記電圧検出信号の平均値であることを特徴とする請求項6または7に記載の電源ユニット。
【請求項9】
請求項6から8のいずれかに記載の電源ユニットを複数個、スタック接続して構成される電源装置。
【請求項10】
被試験デバイスに対して電力を供給する請求項1から5、9のいずれかに記載の電源装置を備えることを特徴とする試験装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デバイスに電源電圧もしくは電源電流を供給する電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、省エネルギー化を目的として、高電圧を高速にスイッチングすることで高効率な電力変換が可能なSiC(炭化ケイ素)FET(Field-Effect Transistor)やGaN(窒化ガリウム)HEMT(High Electron Mobility Transistor)などのパワーデバイスの研究開発が盛んになっている。それにともない、高電圧を印加するデバイス試験の需要も増大し、試験時間短縮の要求が強くなっている。それらのデバイス試験においては1000V、デバイスによっては2000Vの高電圧かつ高精度な直流電圧印加が必要である。
【0003】
試験装置用の電源装置の最高出力電圧が、負荷に供給すべき高電圧に満たない場合、複数のチャンネルの電源装置(以下、電源ユニットと称する)を直列接続(以下、スタック接続)する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-138557号公報
【文献】特表2013-535949号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図1は、高電圧電源100Rのブロック図である。図1を参照すると、高電圧電源100Rは、スタック接続された複数チャンネルCH1~CHNの電源ユニット110_1~110_Nを備える。各チャンネルの電源ユニット110は、一次側Pと二次側Sを有し、一次側Pと二次側Sは、トランスやキャパシタなどのアイソレーションバリア112を介して絶縁されている。複数の電源ユニット110_1~110_Nの一次側Pの接地端子GND同士は、共通に接続される。
【0006】
電源ユニット110の二次側Sには、正極出力OUTPと負極出力OUTNが設けられ、正極出力OUTPと負極出力OUTNの間には、出力段120が設けられる。図1の構成では、全チャンネルが独立に動作し、i番目(i=1~N)のチャンネルの出力段120は、自身の出力電圧Vが目標値VREFに近づくように定電圧制御される。
【0007】
i番目(1≦i≦N-1)のチャンネルの電源ユニット110_iの負極出力OUTNは、i+1番目のチャンネルの電源ユニット110_(i+1)の正極出力OUTPと接続される。1番目のチャンネルの電源ユニット110_1の正極出力OUTPは負荷1と接続され、N番目のチャンネルの電源ユニット110の負極出力OUTNは接地される。
【0008】
負荷1の両端間に供給される高電圧VOUTHは、各チャンネルの出力段120の発生電圧V~Vの和であり、以下の式で表される。
OUTH=Σ1:N
~VそれぞれがVREFに安定化される定常状態では、出力電圧VOUTHは、N×VREFとなる。
【0009】
複数のチャンネルの電源ユニットをスタック接続する場合の問題を説明する。図2(a)は、高電圧電源の出力電圧の波形図(シミュレーション結果)であり、図2(b)は、スタック段数Nとセトリング時間の関係を示す図である。なお、電圧波形は、セトリング後の電圧レベルで除算して正規化している。"simulation"は、図2(a)の波形から得られるスタック段数Nとセトリング時間の関係を示しており、スタック段数Nを増やすほど、セトリング時間が長くなってしまう。一方で、"expectation"で示すように、セトリング時間はスタック段数Nに係わらず一定であることが望まれる。
【0010】
本開示の一態様は係る状況においてなされたものであり、その例示的な目的のひとつは、セトリング時間を短縮した高電圧電源の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示のある態様の電源装置は、スタック接続される複数チャンネルの電源ユニットを備える。複数チャンネルの電源ユニットはそれぞれ、正極出力および負極出力と、制御信号に応じて、正極出力と負極出力の間に出力電圧を発生する出力段と、出力電圧を示す電圧検出信号を生成する電圧検出器と、を備える。複数チャンネルのひとつであるマスターチャンネルの電源ユニットは、複数チャンネルの残りであるスレーブチャンネルの電源ユニットから電圧検出信号を受信し、全チャンネルの電圧検出信号にもとづくフィードバック信号を生成するフィードバック信号生成部と、フィードバック信号が目標値に近づくように、制御信号を生成するフィードバックコントローラと、をさらに備える。全チャンネルの出力段は、マスターチャンネルのフィードバックコントローラが生成する制御信号にもとづいて動作する。
【0012】
本開示のある態様は、電源ユニットである。この電源ユニットは、複数個をスタックして電源装置を構成可能である。電源ユニットは、正極出力および負極出力と、制御信号に応じて、正極出力と負極出力の間に出力電圧を発生する出力段と、出力電圧を示す電圧検出信号を生成する電圧検出器と、マスターチャンネルに設定されたときにアクティブとなり、全チャンネルの電圧検出信号にもとづくフィードバック信号を生成するフィードバック信号生成部と、マスターチャンネルに設定されたときにアクティブとなり、フィードバック信号が目標値に近づくように、制御信号を生成するフィードバックコントローラと、マスターチャンネルに設定されたとき、他のチャンネルから電圧検出信号を受信するとともに、他のチャンネルに制御信号を送信し、スレーブチャンネルに設定されたとき、マスターチャンネルから制御信号を受信するとともに、マスターチャンネルに電圧検出信号を送信するインタフェース回路と、を備える。
【0013】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや、本発明の構成要素や表現を、方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0014】
本開示のある態様によれば、スタック段数が多いときのセトリング時間を短縮できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】高電圧電源のブロック図である。
図2図2(a)は、高電圧電源の出力電圧の波形図(シミュレーション結果)であり、図2(b)は、スタック段数Nとセトリング時間の関係を示す図である。
図3図1の高電圧電源の等価回路図である。
図4】実施の形態に係る電源装置を備える試験装置を示すブロック図である。
図5】実施例1に係るマスターチャンネルの電源ユニットの構成例を示すブロック図である。
図6】実施例2に係る電源ユニットのブロック図である。
図7図7(a)、(b)は、マスターモード、スレーブモードにおける図6の電源ユニットの状態を示す図である。
図8】電源ユニットの具体的な構成例を示すブロック図である。
図9図8の電源ユニットを2個組み合わせた電源装置の動作波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(実施形態の概要)
本開示のいくつかの例示的な実施形態の概要を説明する。この概要は、後述する詳細な説明の前置きとして、実施形態の基本的な理解を目的として、1つまたは複数の実施形態のいくつかの概念を簡略化して説明するものであり、発明あるいは開示の広さを限定するものではない。またこの概要は、考えられるすべての実施形態の包括的な概要ではなく、実施形態の欠くべからざる構成要素を限定するものではない。便宜上、「一実施形態」は、本明細書に開示するひとつの実施形態(実施例や変形例)または複数の実施形態(実施例や変形例)を指すものとして用いる場合がある。
【0017】
はじめに、スタック段数Nが大きいほど、セトリング時間が長くなる理由について、本発明らが考察した結果を説明する。
【0018】
図3は、図1の高電圧電源100Rの等価回路図である。図1に示すように、各チャンネルの電源ユニット110は、一次側Pの接地端子GNDと二次側Sの負極出力OUTNの間に、アイソレーション容量CISOが存在する。図3に示すように、アイソレーション容量CISOは、出力段120から静電容量負荷として見え、スタックの段数(チャンネル数)Nが増えるほど、静電容量負荷が大きくなる。
【0019】
チャンネルごとに、静電容量負荷の大きさが異なるため、セトリング性能は、チャンネルごとにばらつくこととなる。このセトリング性能のばらつきが、高電圧電源100Rの出力電圧VOUTHのセトリング時間が長くなる原因のひとつとなる。
【0020】
加えて、電源ユニット110(出力段120)には、電流クランプ機能(過電流保護機能)が実装される場合が多い。具体的には、電源ユニット110の出力段120は、その出力電流が所定のリミット値より低い状態では、定電圧制御が有効であるが、出力電流がリミット値を超えると、定電圧制御が無効となり、出力電流がリミット値に制限される(電流クランプ制御あるいは定電流制御ともいう)。
【0021】
静電容量負荷が存在する状態で電圧印加を行うと、静電容量負荷に対して突入電流が流れ込む。各出力段120の出力電流は、負荷に流れる負荷電流と、突入電流の合計であるところ、突入電流の大きさは、チャンネルごとに異なる場合がある。すなわち1段目のチャンネルではアイソレーション容量CISOが見えないため、突入電流が発生しにくいのに対して、2段目以降のチャンネルでは、静電容量CISOが見えるため、突入電流が発生しやすい。
【0022】
一部のチャンネルで大きな突入電流が発生すると、そのチャンネルの出力段120の動作モードが、定電圧制御から電流クランプ制御に移行する。電流クランプ制御と定電圧制御が併存すると、図2(a)に示したように、高電圧電源100Rの出力電圧VOUTHに変曲点が現れて波形が歪む。そしてスタック段数が増えるほど、充電すべき静電容量が増えるため、出力電圧VOUTHが上昇する傾きは小さくなるため、セトリング時間が長くなる。
【0023】
以下では、セトリング時間の増加を抑制するための技術を説明する。
【0024】
一実施形態に係る電源装置は、スタック接続される複数チャンネルの電源ユニットを備える。複数チャンネルの電源ユニットはそれぞれ、正極出力および負極出力と、制御信号に応じて、正極出力と負極出力の間に出力電圧を発生する出力段と、出力電圧を示す電圧検出信号を生成する電圧検出器と、を備える。複数チャンネルのひとつであるマスターチャンネルの電源ユニットは、複数チャンネルの残りであるスレーブチャンネルの電源ユニットから電圧検出信号を受信し、全チャンネルの電圧検出信号にもとづくフィードバック信号を生成するフィードバック信号生成部と、フィードバック信号が目標値に近づくように、制御信号を生成するフィードバックコントローラと、をさらに備える。全チャンネルの出力段は、マスターチャンネルのフィードバックコントローラが生成する制御信号にもとづいて動作する。
【0025】
この構成によると、複数チャンネルの電源ユニットの出力段が、同じ制御信号にもとづいて動作する。そのため、チャンネルごとのセトリング性能のばらつきを解消することができ、これにより、チャンネル数を増やしたときにセトリング時間が増加するのを抑制できる。
【0026】
一実施形態において、マスターチャンネルの電源ユニットは、出力段の出力電流を示す電流検出信号を生成する電流検出器をさらに備えてもよい。フィードバックコントローラは、電流検出信号が所定のリミット値を超えるとき、電流検出信号がリミット値に近づくように、制御信号を生成してもよい。
【0027】
電流クランプ制御は、マスターチャンネルが主導して全チャンネルで一斉に有効となる。したがって、電流クランプ制御と定電圧制御との混在を防止でき、セトリング時間が長くなるのを抑制できる。
【0028】
複数チャンネルの電源ユニットはそれぞれ、フィードバック信号生成部とフィードバックコントローラを備え、同様に構成されてもよい。各電源ユニットは、マスターモードとスレーブモードが選択可能であり、マスターモードに設定されたとき、フィードバック信号生成部とフィードバックコントローラが有効化され、スレーブモードに設定されたとき、フィードバック信号生成部とフィードバックコントローラが無効化されてもよい。なお、「ある回路ブロックを無効化する」ことは、当該ブロックを動作させない場合のみでなく、動作はさせるが、その出力を遮断あるいはマスクするなどして使用しない場合も含みうる。
【0029】
同じ電源ユニットを複数用意し、接続関係を組み替えて、モードを適切に設定することにより、負荷の個数を変化させたりすることが可能となる。たとえばN個の電源ユニットがある場合に、N個をスタックしてそのうちのひとつをマスターモード、残りをスレーブモードとすれば、1個の負荷に対して電力を供給できる。あるいは、N個すべてをマスターモードとして独立に使用すれば、N個の負荷に対して電力を供給できる。
【0030】
フィードバック信号は、全チャンネルの電圧検出信号の平均値であってもよい。これにより、全チャンネルの出力段や電圧検出器の特性のばらつきを加味して、正確な電圧を生成できる。
【0031】
マスターチャンネルは、複数チャンネルのうち最上段に位置してもよい。突入電流がもっとも少ない最上段をマスターチャンネルとすることにより、電流クランプがかかりにくくなり、セトリング時間を短くできる。
【0032】
一実施形態に係る電源ユニットは、複数個をスタックして電源装置を構成可能である。電源ユニットは、正極出力および負極出力と、制御信号に応じて、正極出力と負極出力の間に出力電圧を発生する出力段と、出力電圧を示す電圧検出信号を生成する電圧検出器と、マスターチャンネルに設定されたときにアクティブとなり、全チャンネルの電圧検出信号にもとづくフィードバック信号を生成するフィードバック信号生成部と、マスターチャンネルに設定されたときにアクティブとなり、フィードバック信号が目標値に近づくように、制御信号を生成するフィードバックコントローラと、マスターチャンネルに設定されたとき、他のチャンネルから電圧検出信号を受信するとともに、他のチャンネルに制御信号を送信し、スレーブチャンネルに設定されたとき、マスターチャンネルから制御信号を受信するとともに、マスターチャンネルに電圧検出信号を送信するインタフェース回路と、を備える。
【0033】
この構成によると、複数チャンネルをスタックした場合に、すべての電源ユニットの出力段が、同じ制御信号にもとづいて動作する。そのため、チャンネルごとのセトリング性能のばらつきを解消することができ、これにより、チャンネル数を増やしたときにセトリング時間が増加するのを抑制できる。また、同じ電源ユニットを複数用意し、接続関係を組み替えて、モードを適切に設定することにより、負荷の個数を変化させたりすることが可能となる。
【0034】
(実施形態)
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0035】
本明細書において、「部材Aが、部材Bと接続された状態」とは、部材Aと部材Bが物理的に直接的に接続される場合のほか、部材Aと部材Bが、それらの電気的な接続状態に実質的な影響を及ぼさない、あるいはそれらの結合により奏される機能や効果を損なわせない、その他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
【0036】
同様に、「部材Cが、部材Aと部材Bの間に設けられた状態」とは、部材Aと部材C、あるいは部材Bと部材Cが直接的に接続される場合のほか、それらの電気的な接続状態に実質的な影響を及ぼさない、あるいはそれらの結合により奏される機能や効果を損なわせない、その他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
【0037】
図4は、実施の形態に係る電源装置100を備える試験装置2を示すブロック図である。試験装置2は、DUT(被試験デバイス)1に電圧信号や電流信号などの試験信号を印加し、DUT1の応答を測定する。DUT1の種類は特に限定されないが、高耐圧パワートランジスタやパワーモジュールなどの1000Vを超えるような高電圧の電圧印加を必要とするデバイス、あるいはそうしたデバイスを含む回路、もしくは回路システムが、本試験装置2の試験対象として好適である。
【0038】
試験装置2は、DUT1に電源信号を供給する電源装置100を備える。電源信号は、典型的には、所定の電圧レベルに安定化された電圧信号VOUTHである。なお、図4では、DUT1に直接、電源信号VOUTHが供給されているが、その限りでなく、この電源信号VOUTHは、DUT1の周辺回路や、DUT1を駆動する回路、DUT1とのインタフェースとなる回路に供給されてもよい。
【0039】
試験装置2は、電源装置100に加えて、電圧センサや電流センサ、信号発生器やドライバ、コンパレータ、A/Dコンバータ、D/Aコンバータなどを備えるが、それらはDUT1の種類や試験項目に応じており、図4では省略している。
【0040】
電源装置100は、スタック接続される複数Nチャンネル(CH1~CHN)の電源ユニット200_1~200_Nを備える。各電源ユニット200は、正極出力OUTPと負極出力OUTNを有している。電源ユニット200は、図1の電源ユニット110と同様に、絶縁された1次側と2次側を有しているが、図4には二次側の構成のみを示す。負極出力OUTNは、二次側の基準電位(グランド)をなす。
【0041】
i番目(1≦i≦N-1)のチャンネルの電源ユニット110_iの負極出力OUTNは、i+1番目のチャンネルの電源ユニット110_(i+1)の正極出力OUTPと接続される。1番目のチャンネルの電源ユニット110_1の正極出力OUTPは負荷1と接続され、N番目のチャンネルの電源ユニット110の負極出力OUTNは接地される。
【0042】
複数チャンネルの電源ユニット200はそれぞれ、出力段210、電圧検出器220を備える。i番目(i=1~N)の電源ユニット200_iの出力段210は、制御信号Vctrlに応じて、正極出力OUTPと負極出力OUTNの間に出力電圧Vを発生する。またi番目の電源ユニット200_iの電圧検出器220は、対応する出力電圧Vを示す電圧検出信号Vsを生成する。
【0043】
本実施形態において、複数NチャンネルCH1~CHNは、ひとつがマスターチャンネルに、残りがスレーブチャンネルに設定される。その限りでないが、図4では1番目のチャンネルCH1がマスターチャンネルであり、2番目~N番目のチャンネルCH2~CHNがスレーブチャンネルである。
【0044】
マスターチャンネルとスレーブチャンネルとの間は、信号の送受信が可能となっている。スレーブチャンネルの電源ユニット200_2~200_Nは、電圧検出信号Vs~Vsを、マスターチャンネルの電源ユニット200_1に送信する。
【0045】
マスターチャンネルの電源ユニット200_1は、出力段210および電圧検出器220に加えて、フィードバック信号生成部230およびフィードバックコントローラ240を備える。
【0046】
フィードバック信号生成部230は、スレーブチャンネルの電源ユニット200_2~200_Nから電圧検出信号Vs~Vsを受信し、全チャンネルCH1~CHNの電圧検出信号Vs~Vsにもとづくフィードバック信号Vfbを生成する。たとえばフィードバック信号Vfbは、複数の電圧検出信号Vs~Vsの単純平均値であってもよい。なお、フィードバック信号Vfbはそれに限定されない。
【0047】
たとえば複数のチャンネルの電源ユニット200_1~200_Nにバラツキが存在する場合、バラツキを考慮した係数を利用して、重み付け平均を取ってもよい。
【0048】
フィードバックコントローラ240には、目標値Vrefが入力される。フィードバックコントローラ240は、フィードバック信号Vfbが目標値Vrefに近づくように、制御信号Vctrlの信号レベル(大きさ)をフィードバック制御する。
【0049】
フィードバックコントローラ240が生成した制御信号Vctrlは、マスターチャンネルの出力段210に供給される。さらにこの制御信号Vctrlは、マスターチャンネルの電源ユニット200_1から、スレーブチャンネルの電源ユニット200_2~200_Nに伝送される。そして全チャンネルCH1~CHNの出力段210は、マスターチャンネルCH1のフィードバックコントローラ240が生成する制御信号Vctrlにもとづいて動作する。
【0050】
以上が電源装置100の基本構成である。
【0051】
この構成によると、複数チャンネルCH1~CHNの電源ユニット200_1~200_Nの出力段210が、同じ制御信号Vctrlにもとづいて動作する。そのため、チャンネルごとのセトリング性能のばらつきを解消することができ、これにより、チャンネル数Nを増やしたときにセトリング時間が増加するのを抑制できる。
【0052】
本開示は、図4のブロック図や回路図として把握され、あるいは上述の説明から導かれるさまざまな装置、方法に及ぶものであり、特定の構成に限定されるものではない。以下、本発明の範囲を狭めるためではなく、発明の本質や動作の理解を助け、またそれらを明確化するために、より具体的な構成例や実施例を説明する。
【0053】
(実施例1)
図5は、実施例1に係るマスターチャンネルの電源ユニット200_1の構成例を示すブロック図である。この電源ユニット200_1は電流クランプ機能を有する。具体的には電源ユニット200_1は、図4の電源ユニット200_1に加えて、電流検出器250を備える。電流検出器250は、出力段210の出力電流IOUTを示す電流検出信号Isを生成する。この電流検出信号Isは、フィードバックコントローラ240に入力される。
【0054】
フィードバックコントローラ240は、電流検出信号Isが所定のリミット値より低い状態では、上述のように、フィードバック信号Vfbが目標値Vrefに近づくように、制御信号Vctrlを生成する(定電圧制御)。一方、電流検出信号Isがリミット値を超えた状態では、定電圧制御が無効となり、電流検出信号Isがリミット値に近づくように、制御信号Vctrlを生成する(電流クランプ制御)。
【0055】
電流クランプ機能に関するハードウェアはマスターチャンネルにのみ設けられ、あるいは、後述のように、設けられる場合であっても、スレーブチャンネルにおいて当該ハードウェアは無効化される。
【0056】
マスターチャンネルにおいて電流検出信号Isがリミット値を超えると、電流クランプ制御のための制御信号Vctrlが生成され、これによって、全チャンネルの出力段210が動作する。つまり電流クランプ制御は、マスターチャンネルが主導して全チャンネルで一斉に有効となる。したがって、図1の構成において生じていた、電流クランプ制御と定電圧制御との混在を防止でき、セトリング時間が長くなるのを抑制できる。
【0057】
なお、図3を参照して説明したように、複数チャンネルをスタックする場合、最も高電位側のチャンネルが、アイソレーション容量CISOの影響を受けにくく、したがって突入電流が発生しにくいといえる。したがって、マスターチャンネルに電流クランプ機能を実装する場合、突入電流が発生しにくい最上段のチャンネルをマスターチャンネルとすることで、電流クランプがかかりにくくなるため、セトリング時間をさらに短縮できる。
【0058】
(実施例2)
マスターチャンネルの電源ユニット200と、スレーブチャンネルの電源ユニット200は、はじめから別々の構成として設計しておいてもよいが、以下で説明するように、同じ構成として、マスターチャンネルとして動作させるときのモードと、スレーブチャンネルとして動作させるときのモードを、切りかえ可能に構成してもよい。
【0059】
図6は、実施例2に係る電源ユニット200のブロック図である。この電源ユニット200は、マスターチャンネル、スレーブチャンネルの両方で使用可能である。電源ユニット200は、モードセレクタ260、マルチプレクサ(スイッチ)270を備える。
【0060】
モードセレクタ260は、マスターチャンネルで使用されるときマスターモード、スレーブチャンネルで使用されるときスレーブモードであることを示すモード制御信号MODEを生成する。モード制御信号MODEは、フィードバック信号生成部230、フィードバックコントローラ240、電流検出器250のイネーブル端子に入力され、これらのブロックは、モード制御信号MODEがマスターモードを示すときにイネーブル、スレーブモードを示すときにディセーブルとなる。
【0061】
マルチプレクサ270のひとつの入力ノードには、同じ電源ユニット200内のフィードバックコントローラ240の出力が接続される。またマルチプレクサ270の別の入力ノードには、別の電源ユニット200において生成された制御信号Vctrlが入力可能となっている。マルチプレクサ270は、モード制御信号MODEがマスターモードを示すときに、同じ電源ユニット200内の制御信号(内部制御信号)Vctrl_intを選択し、スレーブモードを示すときに他の電源ユニット200で生成された外部からの制御信号Vctrl_extを選択する。
【0062】
また電源ユニット200は、その内部で生成した制御信号Vctrl_int、電圧検出信号Vsは、外部に出力可能となっている。また電源ユニット200は、外部で生成された制御信号Vctrl_ext、電圧検出信号Vsを受信可能となっている。
【0063】
図7(a)、(b)は、マスターモード、スレーブモードにおける図6の電源ユニット200の状態を示す図である。図7(a)、(b)において、ディセーブルとなるブロックや信号線は一点鎖線で示す。
【0064】
図8は、電源ユニット200の具体的な構成例を示すブロック図である。この電源ユニット200は、その制御系がデジタル回路のアーキテクチャで実装され、検出信号や制御信号はデジタル信号である。
【0065】
出力段210は、D/Aコンバータ212およびパワーアンプ214を含む。出力段210は、入力されたデジタルの制御信号Vctrlをアナログの制御信号に変換する。パワーアンプ214は、アナログの制御信号を増幅し、正極出力OUTPに出力する。
【0066】
電圧検出器220は、電圧センスアンプ222とA/Dコンバータ224を含む。電圧センスアンプ222は、2つの出力OUTPTとOUTN間の電圧Vを増幅する。A/Dコンバータ224は、センスアンプ222の出力をデジタルの電圧検出信号Vsに変換する。電圧検出信号Vsはインタフェース回路280を介して他のチャンネルと共有可能となっている。
【0067】
フィードバック信号生成部230は、加減算器232および除算器234を含む。加減算器232は、同じチャンネルおよび他のチャンネルの電圧検出信号Vsを加算する。除算器234は、加減算器232の出力を、チャンネル数Nで除算し、平均値にもとづくフィードバック信号Vfbを生成する。除算器234は、加減算器232の出力に係数1/Nを乗算する係数回路とも把握できる。
【0068】
電流検出器250は、センス抵抗252、センスアンプ254、A/Dコンバータ256を含む。センス抵抗252は、出力段210の出力電流IOUTの経路上に設けられる。センス抵抗252には、出力電流IOUTに比例した電圧降下が発生する。センスアンプ254は、センス抵抗252の電圧降下を増幅する。A/Dコンバータ256は、センスアンプ254の出力をデジタルの電流検出信号Isに変換する。フィードバックコントローラ240には、電圧の目標値Vrefと、電流のリミット値Ilimが入力される。
【0069】
加減算器242は、目標値Vrefとフィードバック信号Vfbの差分(電圧誤差Verr)を生成する。加減算器246は、リミット値Ilimと電流検出信号Isの差分(電流誤差Ierr)を生成する。
【0070】
セレクタ248は、Is<Ilimのときに、電圧誤差Verrを選択し(定電圧制御)、Is>Ilimのときに、電流誤差Ierrを選択する(電流クランプ制御)。
【0071】
フィルタ244は、セレクタ248の出力にもとづいて、制御信号Vctrlを生成する。その限りでないが、フィルタ244は、PI(比例積分)制御器やPID(比例積分微分)制御器などで構成することができる。定電圧制御では、電圧誤差Verrがゼロに近づくように、制御信号Vctrlのレベルがフィードバックにより調節され、電流クランプ制御では、電流誤差Ierrがゼロに近づくように、制御信号Vctrlのレベルがフィードバックにより調節される。フィルタ244のパラメータは、定電圧制御と電流クランプ制御とで切りかえてもよい。
【0072】
フィードバックコントローラ240およびフィードバック信号生成部230は、CPU(Central Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)またはFPGA(Field Programmable Gate Array)などで構成することができる。
【0073】
インタフェース回路280は、他のチャンネルのインタフェース回路280との間で、電圧検出信号や制御信号Vctrlを送受信可能である。
【0074】
図9は、図8の電源ユニット200を2個組み合わせた電源装置の動作波形図である。実施形態に係る電源装置と従来の電源装置それぞれの波形が示される。1段1000V出力の電源ユニットが2チャンネルスタックされており、出力電圧は2000Vである。従来方式の波形(ii)では、電圧印加直後の立ち上がりが速いが、1000Vを超えたあたりからの上昇が緩やかとなっている。これは上段のチャンネルは電圧印加制御のセトリング波形となる一方で、下段のチャンネルが静電容量への突入電流による電流クランプ制御となりセトリング時間の増加を招いているためである。これに対して実施形態に係る波形(i)は、電圧印加制御で両者のチャンネルがバランスを取りながら動作するため、セトリング時間が短縮できていることが分かる。本実施形態によれば、2000Vへのセトリング時間を従来方式の12msから4msへと従来比1/3以下に短縮されていることが確認できた。
【0075】
以上、本発明について、実施の形態をもとに説明した。この実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセス、それらの組み合わせには、さまざまな変形例が存在しうる。以下、こうした変形例について説明する。
【0076】
図8では、その制御系がデジタル回路のアーキテクチャで実装される電源ユニット200について説明したが、その限りでなく、制御系をアナログ回路で構成してもよい。
【0077】
電流クランプ機能について、マスターチャンネルにおいて出力電流を監視することとしたがその限りでない。たとえば、ひとつのスレーブチャンネルにおいて出力電流を監視し、スレーブチャンネルにおいて得られた電流検出値を、マスターチャンネルに送信してもよい。マスターチャンネルのフィードバックコントローラ240は、スレーブチャンネルの電流検出信号Isにもとづいて、電流クランプ制御をかけてもよい。
【0078】
あるいは全チャンネルの電流検出器を有効化し、スレーブチャンネルからマスターチャンネルに電流検出信号を送信するようにしてもよい。マスターチャンネルのフィードバックコントローラ240は、全チャンネルの電流検出信号の最大値が、リミット値Ilimを超えないように、電流クランプ制御をかけてもよい。
【0079】
実施の形態にもとづき本発明を説明したが、実施の形態は、本発明の原理、応用を示しているにすぎず、実施の形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を逸脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が認められる。
【符号の説明】
【0080】
1…DUT、2…試験装置、100…電源装置、200…電源ユニット、210…出力段、220…電圧検出器、230…フィードバック信号生成部、240…フィードバックコントローラ、250…電流検出器、260…モードセレクタ、270…マルチプレクサ、280…インタフェース回路。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9