(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-26
(45)【発行日】2024-10-04
(54)【発明の名称】ヨーク一体型シャフト
(51)【国際特許分類】
F16D 3/26 20060101AFI20240927BHJP
B62D 1/16 20060101ALI20240927BHJP
F16D 1/072 20060101ALI20240927BHJP
F16D 1/06 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
F16D3/26 X
B62D1/16
F16D1/072
F16D1/06 230
(21)【出願番号】P 2020203932
(22)【出願日】2020-12-09
【審査請求日】2023-11-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森山 誠一
(72)【発明者】
【氏名】小池 康男
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第06234907(US,B1)
【文献】特開2012-122526(JP,A)
【文献】特開平06-255498(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 3/26
B62D 1/16
F16D 1/072
F16D 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端が第1方向を指し、他端が第2方向を指すシャフトと、
前記シャフトの一端の外側に嵌められるヨークと、
溶接により前記ヨークの
前記第2方向の端部に固定され、前記シャフトに貫通される環状のスペーサと、
を備え、
前記ヨークは、
貫通孔を有する環状の基部と、
前記基部から前記第1方向に突出する一対のアームと、
を備え、
前記貫通孔は、
前記シャフトを収容するシャフト収容部と、
前記シャフト収容部よりも前記第2方向に配置され、前記スペーサを収容するスペーサ収容部と、
を有し、
前記シャフトの外周面は、非円形状を成し、
前記スペーサの内周面及び前記シャフト収容部の内周面は、前記シャフトの外周面に対応して非円形状を成し
、
前記シャフトは、
前記ヨーク及び前記スペーサに嵌合する嵌合部と
前記嵌合部から前記第2方向に延在し、中間シャフトのアウタチューブに摺動自在に支持される軸部と、
を備え、
前記嵌合部と前記軸部との境界には、前記第1方向を向く突き当て面が形成されている
ヨーク一体型シャフト。
【請求項2】
前記スペーサは、全周が溶接されて前記基部に固定している
請求項1に記載のヨーク一体型シャフト。
【請求項3】
前記シャフトは、外周面を覆う樹脂製のコーティング層を有し、
前記スペーサは、前記スペーサ収容部よりも軸方向の長さが長い
請求項1又は請求項2に記載のヨーク一体型シャフト。
【請求項4】
前記シャフトの外周面は、軸方向から視て十字形状を成し、
前記スペーサの内周面及び前記シャフト収容部の内周面は、前記シャフトの外周面に対応して十字形状を成している
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のヨーク一体型シャフト。
【請求項5】
前記シャフトの外周面は、径方向外側に突出する突起が周方向に4つ配置されて前記十字形状を成し、
前記スペーサの内周面は、径方向内側に突出する内側突起が周方向に4つ配置されて前記十字形状を成し、
前記内側突起の歯丈は、前記突起の歯丈よりも短い
請求項4に記載のヨーク一体型シャフト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヨーク一体型シャフトに関する。
【背景技術】
【0002】
車両は、運転者によるステアリングホイールの操作を車輪に伝えるため、ステアリング装置を備える。ステアリング装置は、一端がステアリングホイールと連結されるステアリングシャフトと、一端がステアリングシャフトの他端と連結する中間シャフトと、一端が中間シャフトの他端と連結されるピニオンシャフトと、を備える。
【0003】
下記特許文献1に示すように、中間シャフトは、筒状のアウタチューブと、インナシャフトと、を備える。インナシャフトは、アウタチューブに収容され、アウタチューブに摺動自在に支持される。これにより、中間シャフトは、伸縮して走行中の振動を吸収する。又は、車両がキャブチルトされた場合(運転席が前方に持ち上げられた場合)、中間シャフトは伸長する。
【0004】
下記特許文献1に示すように、ステアリング装置では、ステアリングシャフトと中間シャフトを繋いだり、中間シャフトとピニオンシャフトを繋いだりするための継手として、ユニバーサルジョイントが用いられる。ユニバーサルジョイントのヨークは、インナシャフトの一端に固定され、インナシャフトとヨークとが一体化している。以下、インナシャフトとヨークとが一体化したものをヨーク一体型シャフトと呼ぶ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、ヨークは、一対のアームと、シャフトが貫通する貫通孔を有する基部と、を備える。また、確実にトルクを伝達するため、基部の貫通孔は、シャフトの断面形状に対応し、例えば十字形状など、非円形状となっていることがある。そして、基部の貫通孔を十字形状等に形成する場合、ブローチ加工が必要となる。しかし、貫通孔の軸方向の長さが比較的長いため、一度のブローチ加工で十字形状等とすることができない。よって、ブローチ加工を複数回実施したり、長尺化した専用のブローチ盤を使用したりする必要があり、製造コストが上昇した。一方、製造コストの上昇を回避するため、基部の貫通孔を円形状とすることが考えられる。しかしながら、円形状の貫通孔にインナシャフトを圧入しただけでは、ヨークに対しインナシャフトが相対回転する可能性があり、トルク伝達の信頼性が低い。
【0007】
本開示は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、製造コストの上昇を抑えつつ、かつトルク伝達の信頼性が高いヨーク一体型シャフトを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、本開示の一態様に係るヨーク一体型シャフトは、一端が第1方向を指し、他端が第2方向を指すシャフトと、前記シャフトの一端の外側に嵌められるヨークと、溶接により前記ヨークの第2方向の端部に固定され、前記シャフトに貫通される環状のスペーサと、を備える。前記ヨークは、貫通孔を有する環状の基部と、前記基部から前記第1方向に突出する一対のアームと、を備える。前記貫通孔は、前記シャフトを収容するシャフト収容部と、前記シャフト収容部よりも前記第2方向に配置され、前記スペーサを収容するスペーサ収容部と、を有する。前記シャフトの外周面は、非円形状を成す。前記スペーサの内周面及び前記シャフト収容部の内周面は、前記シャフトの外周面に対応して非円形状を成している。
【0009】
貫通孔は、シャフト収容部以外にスペーサ収容部を有する。つまり、貫通孔のうちシャフト収容部が占める割合が低減し、シャフト収容部の長さが短い。よって、非円形状のシャフト収容部を形成するためのブローチ加工の回数が低減し、製造コストの上昇が抑制される。また、トルク伝達に関し、ヨークが回転すると、シャフト収容部に嵌合するシャフトにトルクが伝達される。また、溶接により固定されたスペーサを介して、ヨークからシャフトにトルクが伝達される。つまり、シャフトに伝達されるトルクは、基部からシャフトに直接作用する伝達経路と、スペーサを介してシャフトに間接的に作用する伝達経路との、2つとなる。よって、トルク伝達の信頼性が向上する。
【0010】
また、上記のヨーク一体型シャフトの望ましい態様として、前記スペーサは、全周が溶接されて前記基部に固定している。
【0011】
先行技術文献の技術は、ヨークの基部と、シャフトの十字形状を構成する複数の突起と、を接合するように溶接し、環状に溶接していなかった。そして、溶接部の強度を確保するため、溶接ビードを基部から第2方向に大きく突出するように形成していた。一方で、本開示のヨーク一体型シャフトでは、スペーサの全周を溶接し、溶接部の十分な強度が確保される。よって、基部から第2方向に突出する溶接ビードの量を小さくなる。この結果、シャフトは、アウタチューブに収容可能なスライド有効長が長くなり、中間シャフトの短縮時の長さを短くすることができる。
【0012】
また、上記のヨーク一体型シャフトの望ましい態様として、前記シャフトは、外周面を覆う樹脂製のコーティング層を有する。前記スペーサは、前記スペーサ収容部よりも前記軸方向の長さが長い。
【0013】
これによれば、スペーサの容積が増え、溶接時の熱がコーティング層に伝達し難い。よって、コーティング層の溶解を抑制できる。
【0014】
また、上記のヨーク一体型シャフトは、前記シャフトの外周面は、軸方向から視て十字形状を成し、前記スペーサの内周面及び前記シャフト収容部の内周面は、前記シャフトの外周面に対応して十字形状を成していてもよい。
【0015】
また、上記のヨーク一体型シャフトの望ましい態様として、前記シャフトは、前記軸を中心に径方向外側に突出する突起が周方向に4つ配置されて前記十字形状を成している。前記スペーサは、前記軸を中心に径方向内側に突出する内側突起が周方向に4つ配置されて前記十字形状を成す。前記内側突起の歯丈は、前記突起の歯丈よりも短い。
【0016】
これによれば、スペーサの加工が容易となり、スペーサの生産効率が向上する。
【発明の効果】
【0017】
本開示のヨーク一体型シャフトによれば、製造コストの上昇を抑制しつつ、トルク伝達の信頼性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、実施形態1のステアリング装置の模式図である。
【
図2】
図2は、実施形態1のステアリング装置の斜視図である。
【
図3】
図3は、実施形態1のヨーク一体型シャフトを径方向外側から視た全体図である。
【
図4】
図4は、実施形態1のインナシャフトとヨークとを組み合わせる前の斜視図である。
【
図5】
図5は、実施形態1のヨーク一体型シャフトを軸方向に切った断面図である。
【
図7】
図7は、実施形態1のヨーク一体型シャフトを第1方向から視た図である。
【
図8】
図8は、実施形態1のスペーサのみを抽出し、第1方向から視た図である。
【
図10】
図10は、変形例1のヨーク一体型シャフトを軸方向に切った断面図である。
【
図11】
図11は、変形例2のヨーク一体型シャフトからスペーサを抽出し、そのスペーサを第1方向から視た図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、下記の発明を実施するための形態(以下、実施形態という)により本発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、下記実施形態で開示した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0020】
図1は、実施形態1のステアリング装置の模式図である。
図2は、実施形態1のステアリング装置の斜視図である。ステアリング装置80の基本的な構造について、
図1、
図2を参照しながら説明する。ステアリング装置80は、操作者から付与される操作力(操舵トルク)が伝達する順に、ステアリングホイール81、ステアリングシャフト82、操舵力アシスト機構83、第1ユニバーサルジョイント84、中間シャフト85、及び第2ユニバーサルジョイント86を備える。
【0021】
操舵力アシスト機構83は、ECU(Electronic Control Unit)90と、減速装置92と、電動モータ93と、トルクセンサ94と、図示しないトーションバーと、を備える。ECU90には、イグニッションスイッチ98がオンの状態で、電源装置99(例えば車載のバッテリ)から電力が供給される。なお、本実施形態のヨーク一体型シャフト4は、操舵力アシスト機構83を備えたステアリング装置80(電動パワーステアリング装置)に適用した例を挙げているが、本開示のヨーク一体型シャフトは、操舵力アシスト機構83を備えていないステアリング装置に適用してもよい。
【0022】
ステアリングシャフト82は、入力軸82aと、出力軸82bと、を備える。入力軸82aの一方の端部は、ステアリングホイール81と連結している。また、入力軸82aの他方の端部は、操舵力アシスト機構83のトーションバー(不図示)を介して、出力軸82bの一方の端部と連結している。操舵トルクにより入力軸82aが回転すると、トーションバーが捻じれ、入力軸82aと出力軸82bとの回転に角度差が生じる。
【0023】
トルクセンサ94は、入力軸82aと出力軸82bとの角度差を検出し、その結果をECU90に送信する。ECU90は、車両の車速センサ95から車両の走行速度を取得する。ECU90は、入力軸82aと出力軸82bとの角度差と、車両の走行速度とに基づいて、電動モータ93を駆動させる。減速装置92は、電動モータ93の出力軸に連結する図示しないウォームと、出力軸82bと連結する図示しないウォームホイールと、を備える。よって、電動モータ93が駆動すると、減速装置92を介して出力軸82bに操舵補助トルクが付与され、入力軸82aと出力軸82bとの回転に角度差がなくなる。
【0024】
図2に示すように、出力軸82bの他方の端部は、第1ユニバーサルジョイント84を介して、中間シャフト85の一方の端部と連結している。中間シャフト85の他方の端部は、第2ユニバーサルジョイント86を介して、ピニオンシャフト87の一方の端部と連結している。ピニオンシャフト87の他方の端部は、ピニオン88aを備える。ピニオン88aは、ラック88bと噛み合っている。ステアリングギヤ88は、ピニオン88aに伝達された回転運動をラック88bで直進運動に変換する。ラック88bは、タイロッド89に連結される。ラック88bが移動することで車輪の角度が変化する。なお、ピニオン88aと、ラック88bとを合わせてステアリングギヤ88と呼ばれることがある。
【0025】
中間シャフト85は、第1ユニバーサルジョイント84と接合されるインナシャフト1と、第1ユニバーサルジョイント84と接合されるアウタチューブ2と、を備える。インナシャフト85aは、アウタチューブ85bに摺動自在に支持されている。よって、中間シャフト85は、車両の振動により長さ方向に伸縮し、車体に歪を吸収する(
図2の矢印A1参照)。また、キャブチルトにより運転席が前方に持ち上がった場合(
図2の矢印A2参照)、中間シャフト85は、長さ方向に短縮する。次に、インナシャフト1と第1ユニバーサルジョイント84のヨーク3とを接合してなるヨーク一体型シャフト4について説明する。なお、本実施形態において、インナシャフト1が入力軸となっており、アウタチューブ2が出力軸となっているが、本開示のヨーク一体型シャフトは、出力軸のインナシャフトに適用してもよい。
【0026】
図3は、実施形態1のヨーク一体型シャフトを径方向外側から視た全体図である。
図4は、実施形態1のインナシャフトとヨークとを組み合わせる前の斜視図である。
図5は、実施形態1のヨーク一体型シャフトを軸方向に切った断面図である。
図6は、
図5のVI-VI線の矢視断面図である。
図7は、実施形態1のヨーク一体型シャフトを第1方向から視た図である。
図8は、実施形態1のスペーサのみを抽出し、第1方向から視た図である。
図9は、
図5のIX-IX線の矢視断面図である。
【0027】
図3に示すように、ヨーク一体型シャフト4は、インナシャフト1と、ヨーク3と、スペーサ50と、溶接部5(
図5を参照)と、カシメ部15(
図5を参照)と、を備える。インナシャフト1とヨーク3とスペーサ50は、機械構造用炭素鋼(Carbon Steel for Machine Structural Use)で製造されている。以下、インナシャフト1の軸Xと平行な方向を軸方向と呼ぶ。インナシャフト1の軸方向の中央部から視てヨーク3が配置される方向を第1方向X1と呼び、ヨーク3が配置されていない方向を第2方向X2と呼ぶ。
【0028】
インナシャフト1は、ヨーク3及びスペーサ50に挿入される嵌合部10と、スペーサ50から第2方向X2に延在する軸部20と、を備える。軸部20は、アウタチューブ2に収容され、アウタチューブ2に摺動自在に支持される。よって、軸部20がアウタチューブ2に収容される軸方向の長さが増加すると、中間シャフト85が短縮する。
【0029】
軸部20は、アウタチューブ2との摺動性を確保するため、軸部20の外周面を被覆する樹脂製のコーティング層25を有している。このコーティング層25は、インナシャフト1とスペーサ50とヨーク3とを組み合わせる前からインナシャフト1を被覆している。
【0030】
図4、
図6に示すように、インナシャフト1の断面形状は、十字形状を成している。つまり、インナシャフト1の外周面は、軸方向から視て十字形状を成している。このため、嵌合部10は、径方向外側に突出し、かつ軸Xを中心に周方向に90度間隔で配置される4つの第1突起11を備える(
図6を参照)。同様に、軸部20は、第1突起11と軸方向に連続する4つの第2突起21を備える(
図4では2つのみ図示)。
【0031】
図5に示すように、第2突起21は、第1突起11よりも径方向外側への突出量が大きい。よって、インナシャフト1は、嵌合部10と軸部20との境界で第1方向X1を向く突き当て面22を有している。
【0032】
図6に示すように、第1突起11は、径方向外側を向く外向面12と、周方向を向く一対の13、13を備える。第1突起11の周面13は、径方向内端が隣り合う第1突起11の周面13と連続している。
【0033】
図4に示すように、ヨーク3は、基部30と、基部30から第1方向X1に突出する一対のアーム31、31を備える。基部30は、軸方向に貫通する貫通孔32を有し、環状体となっている。基部30は、第1方向X1を向く第1面33(
図7参照)と、第2方向X2を向く第2面34と、を有している。
【0034】
図3に示すように、一対のアーム31、31は、基部30の第1面33に設けられている。アーム31は、軸Xを中心に径方向に貫通する円形状の円形孔31aを有する。円形孔31aには、第1ユニバーサルジョイント84の図示しない十字軸が挿入される。以下、円形孔31aの中心線Oと平行な方向を第3方向Yと呼ぶ。また、軸方向と第3方向Yとのそれぞれに直交する方向を第4方向Zと呼ぶ。
【0035】
図4に示すように、貫通孔32には、インナシャフト1の嵌合部10が挿入される。貫通孔32は、軸方向から視て形状が異なるシャフト収容部35とスペーサ収容部37とを有する。シャフト収容部35は、第1面33(第1方向X1)側に位置し、スペーサ収容部37は、第2面34(第2方向X2)に位置している。つまり、スペーサ収容部37は、シャフト収容部35よりも第2方向X2に配置されている。スペーサ収容部37は、軸Xを中心に円形状を成し、第2面34から第1方向X1に窪んだ形状となっている。
【0036】
図6に示すように、シャフト収容部35の内周面は、インナシャフト1の外周面に対応して十字形状を成している。つまり、シャフト収容部35は、径方向内側に突出し、軸Xを中心に周方向に90度間隔で配置された4つの内側突起36を有している。内側突起36は、2つの第1突起11の間に入り込み、内側突起36の周面36aが第1突起11の周面13と当接している。また、シャフト収容部35の内形は、嵌合部10の外形より僅かに小さい。よって、シャフト収容部35に嵌合部10が圧入され、シャフト収容部35から嵌合部10が脱落し難い。
【0037】
図7に示すように、第1面33は、貫通孔32との境界に、第2方向X2に窪む環状の内縁部33aを有している。第1方向X1から視て、第1面33の内周側には、インナシャフト1の第1端面14が配置されている。この第1端面14は、第1面33よりも第1方向に突出している。そして、第1端面14には、第1端面14の外縁を潰して径方向外側に変形させてなる4つのカシメ部15が設けられている。
図5に示すように、第1突起11の外向面12よりも径方向外側に突出し、基部30の第1面33の内縁部33aに当接している。よって、インナシャフト1は、基部30から脱落しない。
【0038】
図8に示すように、スペーサ50は、ヨーク3とインナシャフト1との間で、トルクを伝達する役割を有する環状の部品である。
【0039】
スペーサ50は、中央部を貫通する貫通孔51を有する環状の本体部52と、本体部52から径方向内側に突出する4つの内側突起53と、を備える。本体部52の外周面55は、スペーサ収容部37の形状に対応して円形状となっている。4つの内側突起53は、軸Xを中心に周方向に90度間隔で配置されている。このため、貫通孔51は、軸方向から視て十字形状を成している。つまり、スペーサ50の内周面は、インナシャフト1の外周面に対応して十字形状を成している。また、内側突起53は、径方向内側に向かうにつれて周方向の幅が小さくなり、軸方向から視て略三角形状を成している。また、内側突起53は、周方向を向く一対の周面53a、53aを有している。
【0040】
このようなスペーサ50は、
図4に示すように、基部30の第2方向X2に配置される。また、
図5に示すように、スペーサ50は、基部30の貫通孔32に挿入され、本体部52がスペーサ収容部37に嵌合している。このため、スペーサ50が径方向に位置ずれしないようになっている。また、スペーサ収容部37は、軸Xを中心に円形状に形成されているため、基部30に対するスペーサ50の同芯度が高い。さらに、上記したスペーサ収容部37によれば、スペーサ50の位置決めが容易となる。
【0041】
スペーサ50は、スペーサ収容部37よりも軸方向の長さが長い。よって、スペーサ50の第2方向X2を向く第2端面54は、基部30の第2面34よりも第2方向X2に位置している。スペーサ50の第2端面54は、インナシャフト1の突き当て面22と当接している。よって、インナシャフト1を貫通孔51及び貫通孔32に挿入した場合、基部30及びスペーサ50に対するインナシャフト1の軸方向の位置決めが容易である。
【0042】
図5に示すように、基部30の第2面34には、溶接部5が設けられている。溶接部5は、スペーサ50の外周面55と、基部30のスペーサ収容部37と、の突合せ面を溶接して生成される。
図9に示すように、溶接部5は、環状となっている。つまり、スペーサ50は、外周面55の全周が基部30と溶接されている。
【0043】
図9に示すように、スペーサ50の貫通孔51に、インナシャフト1の嵌合部10が挿入される。スペーサ50の内側突起53は、2つの第1突起11の間に入り込み、内側突起53の周面53aが第1突起11の周面13と当接している。また、スペーサ50の内径は、嵌合部10の外形より僅かに小さい。よって、スペーサ50に嵌合部10が圧入され、スペーサ50から嵌合部10が脱落し難い。
【0044】
次に実施形態1のヨーク一体型シャフト4の効果について説明する。実施形態1において、ヨーク3が軸Xを中心に回転すると、基部30の内側突起36が第1突起11を周方向に押圧する。また、溶接によりヨーク3に固定されたスペーサ50の内側突起53も、第1突起11を周方向に押圧する。よって、ヨーク3からインナシャフト1へのトルク伝達経路は、基部30からインナシャフト1に直接作用する経路と、スペーサ50を介してインナシャフト1に間接的に作用する経路の、2つとなっている。
【0045】
また、従来の溶接部5は、基部30とインナシャフト1とを接合し、インナシャフト1に伝わる熱量が大きかった。このため、インナシャフト1の熱がコーティング層25に伝達し、コーティング層25が溶融した。しかしながら、本実施形態によれば、溶接部5は、スペーサ50と基部30とを接合しており、溶接時の溶け込みがインナシャフト1に到達していない。よって、溶接時にインナシャフト1に伝わる熱量は小さく、コーティング層25が溶融する可能性が低い。
【0046】
また、スペーサ50は、スペーサ収容部37よりも軸方向の長さが長い。言い換えると、スペーサ50は、基部30の第2面34から第2方向X2に突出し、大型化している。よって、スペーサ50の容積は大きく、多くの溶接時の熱を吸収する。よって、スペーサ50からインナシャフト1に伝わる熱量が小さくなり、コーティング層25が溶融する可能性が低い。
【0047】
なお、先行技術文献の技術では、基部30の第2面34と、インナシャフト1の5つの第2突起21と、が直接溶接されていた。よって、溶接部は、5か所あり、周方向に点在していた。そして、5つの溶接部の強度を確保するため、溶接部を基部30から第2方向X2の方に大きく突出するように形成していた。一方、本実施形態では、スペーサ50の全周に亘って溶接し、溶接個所が周方向に分散している。このため、溶接部5の強度を確保する必要性が小さく、本実施形態の溶接部5は、第2方向X2への突出量が小さい。このため、インナシャフト1の軸部20の外周面に、溶接部5が設けられていない。
【0048】
また、基部30の貫通孔32の加工方法は、基部30の中央部に円形の下孔を形成する。次に、下穴のうち第2方向X2寄りの部分を拡径するように切削し、スペーサ収容部37を形成する。そして、下穴のうちスペーサ収容部37以外の部分にブローチ加工を行い、シャフト収容部35を形成し、貫通孔32が完成する。よって、ブローチ加工が必要な範囲は、下穴の一部、言い換えると、基部30の軸方向の厚みの一部となる。このため、貫通孔32全体にシャフト収容部35を形成する必要がないため、ブローチ加工を実施する回数が低減し、製造コストの上昇が抑制される。
【0049】
以上、実施形態1のヨーク一体型シャフト4は、一端が第1方向X1を指し、他端が第2方向X2を指すシャフト(インナシャフト1)と、シャフト(インナシャフト1)の一端の外側に嵌められるヨーク3と、溶接によりヨーク3の第2方向X2の端部に固定され、シャフトに貫通される環状のスペーサ50と、を備える。ヨーク3は、貫通孔32を有する環状の基部30と、基部30から第1方向X1に突出する一対のアーム31、31と、を備える。貫通孔32は、シャフト(インナシャフト1)を収容するシャフト収容部35と、シャフト収容部35よりも第2方向X2に配置され、スペーサ50を収容するスペーサ収容部37と、を有する。シャフト(インナシャフト1)の外周面は、非円形状を成している。スペーサ50の内周面及びシャフト収容部35の内周面は、シャフト(インナシャフト1)の外周面に対応して非円形状を成している。また、非円形状に関し、シャフト(インナシャフト1)の外周面は、軸方向から視て十字形状を成している。スペーサ50の内周面及びシャフト収容部35の内周面は、シャフト(インナシャフト1)の外周面に対応して十字形状を成している。
【0050】
これによれば、ヨーク3からインナシャフト1にトルクが伝達されるトルク伝達経路が2つとなり、トルク伝達の信頼性が高い。また、製造コストの上昇が抑えられる。
【0051】
また、実施形態1のスペーサ50は、全周が溶接されて基部30に固定している。
【0052】
これによれば、溶接ビードの第2方向X2への突出量が小さい。言い換えると、シャフト(インナシャフト1)の軸部20の外周面に、溶接部5が設けられていない。これより、軸部20のスライド有効長(アウタチューブ2に収容可能な長さ)が長くなり、短縮時の中間シャフト85の軸方向の長さが短くなる。
【0053】
また、実施形態1のシャフト(インナシャフト1)は、外周面を覆う樹脂製のコーティング層25を有する。スペーサ50は、スペーサ収容部37よりも軸方向の長さが長い。
【0054】
これによれば、スペーサ50の容積が増え、溶接時の熱がコーティング層25に伝達し難い。よって、コーティング層25が溶解し難い。
【0055】
次に、実施形態1のヨーク一体型シャフト4の変形例を説明する。なお、以下の説明においては、上述した実施形態1で説明したものと同じ構成要素には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0056】
(変形例1)
図10は、変形例1のヨーク一体型シャフトを軸方向に切った断面図である。
図10に示すように、変形例1のヨーク一体型シャフト4Aは、溶接部5Aの溶け込みの大きさが異なる点で、実施形態1のインナシャフト1と異なる。変形例1において、溶接部5Aの溶け込みは、本体部52を貫き、第1突起11の外向面12に到達している。つまり、溶接部5Aは、ヨーク3とスペーサ50とインナシャフト1とを接合している。これによれば、トルク伝達の信頼性がさらに高くなる。なお、スペーサ50Aの本体部52の径方向の厚みを小さく設計すると、溶接部5Aの溶け込みが本体部52を貫いて、第1突起11の外向面12に到達し易くなる。
【0057】
(変形例2)
図11は、変形例2のヨーク一体型シャフトからスペーサを抽出し、そのスペーサを第1方向から視た図である。
図11に示すように、変形例2のヨーク一体型シャフト4Bは、スペーサ50に代えてスペーサ50Bを備えている点において、実施形態1のインナシャフト1と異なる。スペーサ50Bの内側突起53Bは、本体部52から径方向内側に向かう突出量Lが実施形態1よりも小さい。このような変形例2によっても、内側突起53Bの周面53aが第1突起11の周面と当接し、基部30のトルクをインナシャフト1に伝達する。また、スペーサ50Bの貫通孔51を形成する方法は、最初に円形状の下穴を形成し、その後に内周縁を4か所切り欠くブローチ加工を行う。変形例2の内側突起53Bは、歯丈(突出量L)が小さいため、ブローチ加工の回数が低減する。よって、製造コストの上昇を抑制できる。
【0058】
以上、実施形態1と、変形例1、変形例2とについて説明したが、本開示のヨーク一体型シャフトは、実施形態及び変形例に示した例に限定されない。例えば、実施形態及び変形例では、ヨーク一体型シャフトのシャフトとして、中間シャフト85のインナシャフト1に適用しているが、本開示のヨーク一体型シャフトは、他のシャフトに適用してもよい。
【0059】
また、実施形態において、シャフト(インナシャフト1)の外周面と、スペーサ50の内周面と、シャフト収容部35の内周面は、十字形状を成しているが、本開示のヨーク一体型シャフトはこれに限定されない。つまり、スペーサ50からシャフト(インナシャフト1)へのトルク伝達と、基部30(シャフト収容部35)からシャフト(インナシャフト1)へのトルク伝達と、をそれぞれ確実に行える形状であればよい。つまり、シャフト(インナシャフト1)の外周面は非円形状を成しており、スペーサ50の内周面及びシャフト収容部35の内周面は、シャフト(インナシャフト1)の外周面に対応して非円形状を成していてもよい。
【符号の説明】
【0060】
1 インナシャフト(シャフト)
2 アウタチューブ
3 ヨーク
4、4A、4B ヨーク一体型シャフト
5、5A 溶接部
10 嵌合部
11 第1突起
12 外向面
13 周面
15 カシメ部
20 軸部
21 第2突起
25 コーティング層
30 基部
31 アーム
32 貫通孔
33 第1面
34 第2面
35 シャフト収容部
36 内側突起
37 スペーサ収容部
50、50A、50B スペーサ
51 貫通孔
53 内側突起
80 ステアリング装置
84 第1ユニバーサルジョイント
85 中間シャフト
86 第2ユニバーサルジョイント