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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-26
(45)【発行日】2024-10-04
(54)【発明の名称】樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/301 20060101AFI20240927BHJP
   C08F 283/00 20060101ALI20240927BHJP
   C08L 83/00 20060101ALI20240927BHJP
   C08L 33/14 20060101ALI20240927BHJP
   C08L 53/00 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
H01L21/78 S
C08F283/00
C08L83/00
C08L33/14
C08L53/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020210787
(22)【出願日】2020-12-18
(65)【公開番号】P2022097284
(43)【公開日】2022-06-30
【審査請求日】2023-10-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000237237
【氏名又は名称】フジコピアン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西田 京平
(72)【発明者】
【氏名】清水 隆史
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 教一
【審査官】小山 和俊
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-226664(JP,A)
【文献】特開平03-109553(JP,A)
【文献】国際公開第2015/093508(WO,A1)
【文献】国際公開第2006/126406(WO,A1)
【文献】特開2006-307151(JP,A)
【文献】特開2002-196494(JP,A)
【文献】特開2011-180269(JP,A)
【文献】特開2003-327782(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/301
C08F 283/00
C08L 83/00
C08L 33/14
C08L 53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の重合体と、第2の重合体とを含有し、
前記第1の重合体は、ポリシラン骨格を有する第1のブロックと、ビニルモノマーの共重合体であり、紫外線吸収作用を有する紫外線吸収性モノマーに由来する紫外線吸収性モノマー単位を含む第2のブロックとを有し、
前記第2の重合体は、アクリレート系モノマー又はメタアクリレート系モノマーの共重合体であり、紫外線吸収作用を有する第1のモノマーに由来する第1のモノマー単位と、紫外線吸収作用を有さない第2のモノマーに由来する第2のモノマー単位とを有し、
前記第2の重合体は、前記第1の重合体100質量部に対し、3質量部以上、50質量部以下である、紫外線レーザ加工レジスト用の樹脂組成物。
【請求項2】
前記紫外線吸収性モノマー及び前記第1のモノマーは、紫外線吸収基を有し、
前記紫外線吸収性モノマーにおける紫外線吸収基と、前記第1のモノマーにおける紫外線吸収基とは、同一であり且つベンゾトリアゾール骨格、ベンゾフェノン骨格及びトリアジン骨格のいずれかである、請求項1に記載の紫外線レーザ加工レジスト用の樹脂組成物。
【請求項3】
前記第1のモノマー単位の前記第2の重合体に占める割合は40質量%以上、80質量%以下である、請求項1又は2に記載の紫外線レーザ加工レジスト用の樹脂組成物。
【請求項4】
前記紫外線吸収性モノマー単位の前記第1の重合体に占める割合は、3質量%以上、70質量%以下であり、
前記ポリシラン骨格の前記第1の重合体に占める割合は、30質量%以上、97質量%以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の紫外線レーザ加工レジスト用の樹脂組成物。
【請求項5】
波長355nmにおける紫外線透過率が2%以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の紫外線レーザ加工レジスト用の樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の樹脂組成物と、溶媒とを含有する、レジスト剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、樹脂組成物に関し、特に紫外線レーザ加工レジスト用の樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ウェーハを個々のデバイスに分割するためにダイシングが行われる。ダイシングは、一般的にはスクライビングまたはソーイングにより行われている。近年、プラズマによりウェーハの所定部分をエッチングするプラズマダイシングが注目されている。
【0003】
プラズマダイシングの際には、ウェーハ上にレジスト膜からなるマスクを形成し、ウェーハのマスクから露出した部分をプラズマエッチングすることにより個々のデバイスに分割する。マスクには、エッチングするためのパターンを正確に形成できる機能と、ウェーハ上の素子をプラズマから保護する機能とが求められる。
【0004】
マスクは、標準的なリソグラフィーの操作によりフォトレジスト膜をパターニングして形成することができる。しかし、この手法ではマスク形成のコストが問題となる。フォトレジスト膜に変えてポリビニルアルコール(PVA)からなるレジスト膜を紫外線(UV)レーザにより直接パターニングしてマスクを形成することも検討されている(例えば、特許文献1を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-165963号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のPVA等からなるレジスト膜は、耐熱性に乏しくUVレーザの吸収性も低いため、加工速度を上げることができず、高精度の加工も困難であるという問題を有する。レジスト膜に紫外線吸収剤を添加することも検討されているが、添加量を増やすと紫外線吸収剤の析出が生じるため、UVレーザの吸収性を十分に向上させることができない。また、紫外線吸収剤を添加してもレジスト膜の耐熱性が低いという問題は解決できない。
【0007】
さらに、ウェーハ上の素子をプラズマから保護するためには、レジスト膜の膜厚を十分に厚くすることが求められるが、従来のPVAからなるレジスト膜の場合、膜厚を厚くするとさらに加工性が低下してしまい、十分に膜厚を厚くすることが困難である。
【0008】
本開示は、高速で高精度の加工が可能な紫外線レーザ加工レジストを実現できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の紫外線レーザ加工レジスト用の樹脂組成物の一態様は、第1の重合体と、第2の重合体とを含有し、第1の重合体は、ポリシラン骨格を有する第1のブロックと、ビニルモノマーの共重合体であり、紫外線吸収作用を有する紫外線吸収性モノマーに由来する紫外線吸収性モノマー単位を含む第2のブロックとを有し、第2の重合体は、アクリレート系モノマー又はメタアクリレート系モノマーの共重合体であり、紫外線吸収作用を有する第1のモノマーに由来する第1のモノマー単位と、紫外線吸収作用を有さない第2のモノマーに由来する第2のモノマー単位とを有し、第2の重合体は、第1の重合体100質量部に対し、3質量部以上、50質量部以下である。
【0010】
紫外線レーザ加工レジスト用の樹脂組成物の一態様において、紫外線吸収性モノマー及び第1のモノマーは、紫外線吸収基を有し、紫外線吸収性モノマーにおける紫外線吸収基と、第1のモノマーにおける紫外線吸収基とは、同一であり且つベンゾトリアゾール骨格、ベンゾフェノン骨格及びトリアジン骨格のいずれかとすることができる。
【0011】
紫外線レーザ加工レジスト用の樹脂組成物の一態様において、第1のモノマー単位の第2の重合体に占める割合は40質量%以上、80質量%以下とすることができる。
【0012】
紫外線レーザ加工レジスト用の樹脂組成物の一態様において、紫外線吸収性モノマー単位の第1の重合体に占める割合は、3質量%以上、70質量%以下であり、ポリシラン骨格の第1の重合体に占める割合は、30質量%以上、97質量%以下とすることができる。
【0013】
紫外線レーザ加工レジスト用の樹脂組成物の一態様において、波長355nmにおける紫外線透過率が2%以下とすることができる。
【0014】
本開示のレジスト材の一態様は、本開示の樹脂組成物と、溶媒とを含有する。
【発明の効果】
【0015】
本開示の樹脂組成物によれば、高速で高精度の加工が可能な紫外線レーザ加工レジストを実現できる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本実施形態のレジスト剤は、樹脂組成物(レジストポリマー)と溶媒とを含有する。本実施形態のレジスト剤は、紫外線(UV)レーザにより直接パターニングすることができ、例えばプラズマダイシングのマスクの形成に用いることができる。本実施形態のレジスト剤に含まれるレジストポリマーは、第1の重合体と第2の重合体を含む。
【0017】
第1の重合体は、ポリシラン骨格を有する第1のブロックと、ビニルモノマーの重合体からなる第2のブロックとを含む共重合体である。
【0018】
第1のブロックは、ポリシランからなり、シリコン-シリコン結合により形成された主鎖を有し、側鎖に有機置換基を有する。シリコン-シリコン結合により形成された主鎖は、直鎖であっても分岐鎖を有していてもよく、環構造を有していてもよい。側鎖の有機置換基は特に限定されず、好ましくはアルキル基、アリール基、及びアラルキル基等とすることができる。アルキル基は直鎖であっても分岐鎖を有していてもよく、環構造を有していてもよい。また、ヘテロ原子を含む有機置換基であってもよい。第1のブロックであるポリシランの分子量は特に限定されないが、レジスト剤としての取り扱い性の観点から、数平均分子量(Mn)として好ましくは500以上、より好ましくは800以上で、好ましくは3000以下、より好ましくは2500以下である。重量平均分子量(Mw)として好ましくは800以上、より好ましくは1000以上で、好ましくは4000以下、より好ましくは3000以下である。
【0019】
第2のブロックは、ビニルモノマーの重合体からなり、第2のブロックを構成するモノマー単位の少なくとも一部は、紫外線吸収基を有する紫外線吸収性モノマーに由来する紫外線吸収性モノマー単位である。このため、第2のブロックは紫外線吸収作用を有する。紫外線吸収基は、特に限定されないが、例えば、ベンゾトリアゾール骨格、ベンゾフェノン骨格又はトリアジン骨格とすることができる。紫外線吸収性モノマーは、ビニル基と紫外線吸収基とを有していればよいが、重合性等の観点からアクリル酸エステルの誘導体(アクリレート)又はメタクリル酸エステルの誘導体(メタアクリレート)であるアクリル系モノマーが好ましい。具体的には、紫外線吸収性モノマーとして、3-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-ヒドロキシフェネチル=メタクリラート、2-(4-ベンゾイル-3-ヒドロキシフェノキシ)エチルアクリレート又は2-[4-(4,6-ジフェニル)-[1,3,5]トリアジン-2-イル]-3-ヒドロキシ-フェノキシ}-エチルプロプ-2-エノエート等を用いることができる。以下において、アクリレート又はメタアクリレートを(メタ)アクリレートと表記する。
【0020】
ポリシラン骨格を有する第1のブロックと、紫外線吸収作用を有する第2のブロックとを含む第1の重合体は、ポリシランと、紫外線吸収性モノマーとを混合して反応させることにより調製することができる。紫外線照射等により、ポリシランにラジカルを発生させることができるので、紫外線吸収性モノマーをポリシランと共重合させることができる。
【0021】
ポリシラン骨格を有する第1のブロックの、第1の重合体全体に占める割合は、耐熱性の観点から好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上、さらに好ましくは60質量%以上である。また、紫外線吸収作用を発揮させる観点から好ましくは97質量%以下、より好ましくは90質量%以下、さらに好ましくは85質量%以下である。
【0022】
紫外線吸収性モノマーに由来するモノマー単位の、第1の重合体全体に占める割合は、紫外線吸収作用を発揮させる観点から好ましくは3質量%以上、より好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上、よりさらに好ましくは15質量%以上である。また、耐熱性の観点から好ましくは70質量%以下、より好ましくは60質量%以下、さらに好ましくは40質量%以下である。
【0023】
第1の重合体は、ベンゾトリアゾール骨格等の紫外線吸収基を有さず、紫外線吸収作用を示さない紫外線非吸収性モノマーに由来するモノマー単位を含んでいてもよい。紫外線非吸収性モノマーは、特に限定されないが(メタ)アクリル酸エステルや(メタ)アクリルアミド誘導体等のアクリル系モノマーとすることができる。アルキル基の炭素数が4以上の(メタ)アクリル酸アルキルエステルを加えることにより、レジスト膜を柔軟にしてウェーハに対する密着性を向上させることができ、加工性をさらに向上させることができる。また、ポリシランよりもプラズマエッチング耐性が高い炭化水素系のモノマーを加えることにより、レジスト膜の耐プラズマ性を向上させることができる。
【0024】
紫外線非吸収性モノマーは、紫外線吸収性モノマーと共にポリシランと共重合させて、第2のブロックの構成単位とすることができる。また、第2のブロックとは異なるブロックの構成単位として第1の重合体に含まれていてもよい。
【0025】
紫外線非吸収性モノマーに由来するモノマー単位の、第1の重合体全体に占める割合は、好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下である。
【0026】
第2の重合体は、第1の重合体と相溶性を有し且つ紫外線吸収作用を有するビニルモノマーの重合体である。本実施形態において第2の重合体は、紫外線吸収作用を有する第1のモノマーに由来する第1のモノマー単位と、紫外線吸収作用を有さない第2のモノマーに由来する第2のモノマー単位とを含む共重合体である。第1のモノマー及び第2のモノマーは、第1の重合体との相溶性の観点から(メタ)アクリレートであるアクリル系のモノマーが好ましい。
【0027】
第1の重合体との相溶性の観点から、第1のモノマーは、第1の重合体の重合に用いる紫外線吸収性モノマーと同一の紫外線吸収基を有することが好ましい。第1のモノマーとして紫外線吸収性モノマーと同一のモノマーを用いることができる。
【0028】
第2のモノマーは、紫外線吸収基を有さない第1のモノマーと共重合する(メタ)アクリレート系のモノマーが好ましい。具体的には、第2のモノマーとして、メチルメタアクリレート等を用いることができる。第2のモノマーは、1種類に限らず、2種類以上のモノマーが混合されていてもよい。
【0029】
第1のモノマーと第2のモノマーとは、交互共重合していても、ランダム共重合していても、ブロック共重合していてもよい。
【0030】
第1のモノマー単位の第2の重合体に占める割合は、第2の重合体に紫外線吸収性を付与できる範囲とすることができるが、好ましくは40質量%以上、より好ましくは50質量%以上、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下である。
【0031】
第2の重合体の重量平均分子量(Mw)は、特に限定されないが、第1の重合体との相溶性の観点から、好ましくは20000以上、より好ましくは30000以上、好ましくは80000以下、より好ましくは60000以下である。
【0032】
なお、第1の重合体及び第2の重合体における各ブロック及び各モノマー単位の割合は、重合体を重合する際の仕込み量に基づくものであるが、重合体の組成分析により求めることもできる。
【0033】
本実施形態のレジストポリマーにおける第2の重合体の第1の重合体100質量部に対する割合は、加工速度及び加工精度を向上させる観点から、好ましくは3質量部以上、より好ましくは5質量部以上、さらに好ましくは10質量部以上、好ましくは50質量部以下、より好ましくは45質量部以下である。
【0034】
本実施形態のレジストポリマーは、紫外線吸収作用を有する第1の重合体と、紫外線吸収作用を有する第2の重合体を含むため、紫外線吸収性に優れている。また、第1の重合体及び第2の重合体の相溶性が高いため、低分子の紫外線吸収剤を添加した場合に生じる、紫外線吸収剤のブリードも生じない。さらに、第1の重合体が、ポリシラン骨格を有する第1のブロックを含むため、耐熱性及び耐プラズマ性に優れている。従って、本実施形態のレジストポリマーを用いたレジスト膜は、UVレーザを用いてパターニングを高速で且つ高精度に行うことができる。本実施形態のレジストポリマーを用いたレジスト膜は、レーザ加工する場合の加工速度を600mm/sよりも速くすることができ、700mm/s又は800mm/sであっても良好な加工ができ、1000mm/s程度までであれば、十分な加工性を示す。600mm/s以下の加工速度でレーザ加工することも可能である。
【0035】
本実施形態のレジスト剤は、第1の重合体と第2の重合体とを溶媒に溶解させて調製することができる。第1の重合体を溶解させた溶液と、第2の重合体を溶解させた溶液とを混合して調製することもできる。
【0036】
溶媒は、レジストポリマーを溶解させることができれば特に限定されないが、例えばトルエン、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、シクロヘキサノン等とすることができる。溶媒は、2種類以上の溶媒が混合された混合溶媒とすることができる。
【0037】
レジスト剤全体に占めるレジストポリマーの割合は、形成するレジスト膜の膜厚等に応じて調整することができるが、好ましくは10質量%以上、より好ましくは25質量%以上、好ましくは70質量%以下、より好ましくは60質量%以下である。
【0038】
レジスト剤は、レジストポリマーと溶媒以外の成分を含まなくてよいが、他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、レベリング剤、光安定化剤、酸化防止剤等の添加剤成分や、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂等のポリマー成分などが挙げられる。他の成分の割合は、レジストポリマー100質量部に対して10質量部以下、より好ましくは5質量部以下である。また、レジスト剤が第1の重合体及び第2の重合体を重合する際に未重合のポリシラン及びビニルポリマー等の残留物を含んでいてもよい。
【0039】
本実施形態のレジスト剤は、ウェーハの表面にスピンコート等の方法によりコーティングしてレジスト膜を形成することができる。形成したレジスト膜は、UVレーザの照射によりストリート部分を除去してパターニングすることができる。パターニングしたレジスト膜をマスクとしてプラズマ照射を行いウェーハをエッチングすることにより、ウェーハのダイシングを行うことができる。ウェーハの表面に形成するレジスト膜の膜厚は、特に限定されないが、レジスト性の観点から好ましくは10μm以上、より好ましくは20μm以上、さらに好ましく25μm以上であり、レーザ加工性の観点から好ましくは50μm以下、より好ましくは40μm以下、さらに好ましくは35μm以下である。
【0040】
本実施形態のレジスト剤のパターニングに用いるUVレーザ光の波長は、特に限定されないが、波長200nm~400nm程度とすることができ、中でも波長355nmが好ましい。また、レーザ光の周波数も特に限定されないが、例えば、1kHz~300kHz程度とすることができ、高速加工を行う観点からは周波数が高いものが好ましい。
【0041】
本実施形態のレジスト剤は、ウェーハのプラズマダイシングに限らず、レーザパターニング可能なレジスト剤として、耐熱性が要求される工程などの保護膜として用いることができる。
【実施例
【0042】
以下に実施例を用いて、本開示の樹脂組成物をより詳細に説明する。以下の実施例は例示であり、本発明を限定することを意図しない。
【0043】
<レジスト膜の形成>
調製したレジスト剤をスピンコータを用いてシリコンウェーハ(φ8インチ、厚さ700μm)の表面に塗布し、溶剤を乾燥させてレジスト膜を形成した。スピンコータの回転数は200rpmとし、レジスト膜の厚さは30μmとした。
【0044】
<液経時安定性の評価>
製造した樹脂溶液を、透明な密閉容器に入れて室温で7日間静置した後、樹脂溶液の外観および沈殿物の有無を目視観察し、以下の評価基準に従って液経時安定性を評価した。
【0045】
(評価基準)
A:溶液の白濁および沈殿物がない。
【0046】
B:軽微な白濁があるが、沈殿物はない。
【0047】
C:分離もしくは沈殿物がある。
【0048】
<耐熱性の評価>
製造した樹脂溶液の5gをアルミカップに取り分けて、100℃のオーブンにて180分間乾燥させ溶剤を蒸発させた。アルミカップ内に残留した不揮発成分について熱重量示差熱分析装置(TG-DTA)により、10%重量減少温度を測定した。測定条件は、昇温速度20℃/min、窒素雰囲気下で30℃~600℃まで昇温とした。測定結果を以下の評価基準に従って耐熱性を評価した。
【0049】
(評価基準)
A:10%重量減少温度が250℃以上。
【0050】
B:10%重量減少温度が200℃以上250℃未満。
【0051】
C:10%重量減少温度が200℃未満。
【0052】
<塗布面質の評価>
形成したレジスト膜の表面状態を目視観察して、以下の評価基準に従って塗布面質を評価した。
【0053】
(評価基準)
A:凹凸がなく均一な塗膜である。
【0054】
B:軽微な凹凸(ゆず肌)が見られる。
【0055】
C:塗膜にひび割れ、粒状等の欠点が見られる。
【0056】
<レーザ加工性の評価>
形成したレジスト膜の表面にUVレーザ加工装置(AL300P、東京精密製)を用いて、線幅15μm、線長15mmで1mmピッチの碁盤目状になるようにパターン加工をした。このときの加工条件は、レーザ波長:355nm、パルス幅:<15ns、周波数:50kHzとした。加工速度は600mm/sec又は800mm/secとした。このレーザ加工部分について、マイクロスコープを用いて200倍で拡大観察し、以下の評価基準に従ってレーザ加工性を評価した。
【0057】
(評価基準)
A:レーザ加工端部の塗膜の剥がれがなく、レジスト残渣もない。
【0058】
B:レーザ加工端部にレジスト残渣が微量残っている。
【0059】
C:レーザ照射部分にレジスト膜の一部が残っている、又は、レーザ加工端部に塗膜の剥がれ、ひび割れ等の欠点が見られる。
【0060】
<レジスト性の評価>
レーザ加工性を評価した後、プラズマエッチング装置を用いて、レジスト膜側からプラズマエッチング処理を行った。このときの処理条件は、プラズマ源:ICPプラズマパワー2200W、プロセスガス:SF6ガス、ガス圧力:2Pa、処理時間:7分間とした。プラズマエッチング処理後のレジスト膜の表面をマイクロスコープにて200倍で拡大観察し、以下の評価基準に従ってレジスト性を評価した。
【0061】
(評価基準)
A:レジスト膜にプラズマエッチングによる侵食は見られない。
【0062】
B:プラズマエッチングによる侵食は見られるが、シリコンウェーハの露出はない。
【0063】
C:レジスト膜がなくなり、シリコンウェーハの露出が見られる。
【0064】
<UV透過率の測定>
製造した樹脂溶液を、厚さが50μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの表面に、スピンコータで塗布して樹脂膜を形成した。樹脂膜の乾燥後の膜厚は10μmとした。樹脂膜を形成したPETフィルムについて波長355nmの紫外光の透過率を分光光度計を用いて測定した。得られた透過率から樹脂膜を形成する前のPETフィルムの透過率をブランクとして差し引き、樹脂膜の透過率とした。
【0065】
(実施例1)
第1の重合体は、ポリシランとベンゾトリアゾール骨格を有するメタアクリレート系の紫外線吸収性モノマーとの共重合体とした。ポリシランは、数平均分子量(Mn)が900、重量平均分子量(Mw)が1100のもの(オグソールSI-20-10、大阪ガスケミカル製)を用いた。紫外線吸収性モノマーは、(3-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-ヒドロキシフェネチル=メタクリラート(RUVA-93、大塚化学製)とした。44.2gのポリシランと、15.8gの紫外線吸収性モノマーとを40gのトルエンに溶解させ、共重合させることにより、第1の重合体の溶液を得た。共重合は、窒素気流下で液温を60℃~70℃として、高圧水銀ランプ(UV強度:170mW/cm2)を用いて紫外線照射を60分間照射することにより行った。
【0066】
得られた第1の重合体の溶液からゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いて分取したポリマーについて赤外分光(IR)分析を行ったところ、ポリシランのスペクトルと、紫外線吸収性モノマーのスペクトルとを複合したスペクトルが得られた。また、1HNMR分光法によりケミカルシフト0.5ppm~4.5ppmでのアクリルポリマー鎖のピークが確認できた。これらの結果から、得られた第1の重合体は、ポリシランと紫外線吸収性モノマーとの共重合物であると判断した。得られた第1の重合体のMwは3900であった。
【0067】
第2の重合体は、ベンゾトリアゾール骨格を有するメタアクリレート系のモノマーを第1のモノマーとし、メチルメタアクリレートを第2のモノマーとして重合した共重合体(バナレジンUVA-7075、新中村化学工業製)とした。第1のモノマーの第2の重合体に対する比率は70質量%であり、重量平均分子量(Mw)は30000~50000であった。第2の重合体3.16gを含む溶液にトルエンを加えて溶媒量を23.1gとしたものを第2の重合体の溶液とした。
【0068】
第1の重合体の溶液及び第2の重合体の溶液を混合してレジスト剤を調製した。レジスト剤における第1の重合体100質量部に対する第2の重合体の割合は5.3質量部である。レジスト剤における第1の重合体と第2の重合体とを合わせた固形分の割合は50質量%である。得られたレジスト剤について、液経時安定性、塗布面質、レーザ加工性、レジスト性、耐熱性及びUV透過率を評価した。液経時安定性はA、レジスト膜の塗布面質はA、レーザ加工性は加工速度600mm/sの場合はA、800mm/s場合はB、レジスト性はA、耐熱性はA、UV透過率は0%であった。
【0069】
(実施例2)
第2の重合体の溶液を、第2の重合体6.68gと溶媒26.6gとした以外は、実施例1と同様にした。
【0070】
第1の重合体100質量部に対する第2の重合体の割合は11.1質量部であり、レジスト剤における固形分の割合は50質量%である。液経時安定性はA、塗布面質はA、レーザ加工性は加工速度600mm/s、800mm/sのいずれにおいてもA、レジスト性はA、耐熱性はA、UV透過率は0%であった。
【0071】
(実施例3)
第2の重合体の溶液を、第2の重合体15.0gと溶媒35.0gとした以外は、実施例1と同様にした。
【0072】
第1の重合体100質量部に対する第2の重合体の割合は25.0質量部であり、レジスト剤における固形分の割合は50質量%である。液経時安定性はA、塗布面質はA、レーザ加工性は加工速度600mm/s、800mm/sのいずれにおいてもA、レジスト性はA、耐熱性はA、UV透過率は0%であった。
【0073】
(実施例4)
第2の重合体の溶液を、第2の重合体25.7gと溶媒45.7gとした以外は、実施例1と同様にした。
【0074】
第1の重合体100質量部に対する第2の重合体の割合は42.8質量部であり、レジスト剤における固形分の割合は50質量%である。液経時安定性はA、塗布面質はB、レーザ加工性は加工速度600mm/s、800mm/sのいずれにおいてもA、レジスト性はA、耐熱性はA、UV透過率は0%であった。
【0075】
(実施例5)
第2の重合体を、第1のモノマーの第2の重合体に対する比率が50質量%であり、重量平均分子量(Mw)が40000~60000の樹脂(バナレジンUVA-8050、新中村化学工業製)とし、第2の重合体の溶液を第2の重合体6.68gと溶媒26.6gとした以外は、実施例1と同様にした。
【0076】
第1の重合体100質量部に対する第2の重合体の割合は11.1質量部であり、レジスト剤における固形分の割合は50質量%である。液経時安定性はA、塗布面質はA、レーザ加工性は加工速度600mm/s、800mm/sのいずれにおいてもA、レジスト性はA、耐熱性はA、UV透過率は0%であった。
【0077】
(実施例6)
57.0gのポリシランと、3.0gの紫外線吸収性モノマーとを40gのトルエンに溶解させ、共重合させて第1の重合体の溶液とした以外は、実施例2と同様にした。
【0078】
第1の重合体100質量部に対する第2の重合体の割合は11.1質量部であり、レジスト剤における固形分の割合は50質量%である。液経時安定性はA、塗布面質はA、レーザ加工性は加工速度600mm/sの場合はA、800mm/s場合はB、レジスト性はA、耐熱性はA、UV透過率は0%であった。
【0079】
(実施例7)
18.0gのポリシランと、42.0gの紫外線吸収性モノマーとを40gのトルエンに溶解させ、共重合させて第1の重合体の溶液とした以外は、実施例2と同様にした。
【0080】
第1の重合体100質量部に対する第2の重合体の割合は11.1質量部であり、レジスト剤における固形分の割合は50質量%である。液経時安定性はA、塗布面質はA、レーザ加工性は加工速度600mm/s、800mm/sのいずれにおいてもA、レジスト性はA、耐熱性はB、UV透過率は0%であった。
【0081】
(実施例8)
ポリシランをMnが1100、Mwが1800のポリシラン(オグソールSI-10-20、大阪ガスケミカル製)とした以外は実施例2と同様にした。
【0082】
第1の重合体100質量部に対する第2の重合体の割合は11.1質量部であり、レジスト剤における固形分の割合は50質量%である。液経時安定性はA、塗布面質はA、レーザ加工性は加工速度600mm/s、800mm/sのいずれにおいてもA、レジスト性はA、耐熱性はA、UV透過率は0%であった。
【0083】
実施例1~8の条件及び評価結果を表1に示す。
【0084】
【表1】
【0085】
(参考例1)
第1の重合体を52.5gのポリシランと、22.5gの紫外線吸収性モノマーとを75gのトルエンに溶解させ、共重合させたものとし、第2の重合体を加えずにレジスト剤を調製した。また、レジスト膜の厚さを10μmとして評価を行った。
【0086】
液経時安定性はA、塗布面質はA、レーザ加工性は加工速度600mm/sの場合はA、800mm/s場合はB、レジスト性はA、耐熱性はA、UV透過率は0%であった。
【0087】
(参考例2)
レジスト膜の厚さを30μmとして評価を行った以外は、参考例1と同様にした。
【0088】
液経時安定性はA、塗布面質はA、レーザ加工性は加工速度600mm/sの場合はA、800mm/s場合はC、レジスト性はA、耐熱性はA、UV透過率は0%であった。
【0089】
参考例1及び2の条件及び評価結果を表2に示す。
【0090】
【表2】
【0091】
(比較例1)
レジスト剤を、75.0gのポリビニルアルコール(PVA-205、クラレ製)を75.0gの蒸留水に溶解させたものとした。
【0092】
液経時安定性はA、塗布面質はA、レーザ加工性は加工速度600mm/sの場合はC、レジスト性はA、耐熱性はC、UV透過率は90%であった。なお、加工速度800mm/sにおける加工性は評価しなかった。
【0093】
(比較例2)
レジスト剤を、75.0gのポリシラン(オグソールSI-20-10、大阪ガスケミカル製)を75.0gのトルエンに溶解させたものとした。
【0094】
液経時安定性はA、塗布面質はA、レーザ加工性は加工速度600mm/sの場合はC、レジスト性はB、耐熱性はA、UV透過率は63%であった。なお、加工速度800mm/sにおける加工性は評価しなかった。
【0095】
(比較例3)
レジスト剤を、52.5gのポリシラン(オグソールSI-20-10、大阪ガスケミカル製)と、22.5gのベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(2-(2-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、Tinuvin PS、BASFジャパン製)とを75.0gのトルエンに溶解させたものとした。液経時安定性はC、塗布面質はCであり、他の項目は評価できなかった。
【0096】
比較例1~3の条件及び評価結果を表3に示す。
【0097】
【表3】
【0098】
(比較例4)
第2の重合体の溶液を、数平均分子量が30000のアクリル樹脂(ダイヤナールBR-113、三菱ケミカル製)3.2gをトルエン23.2gに溶解させたものとした以外は、実施例1と同様にした。液経時安定性はB、塗布面質はCであり、他の項目は評価できなかった。
【0099】
(比較例5)
57.0gのポリシランと、3.0gの紫外線吸収性モノマーとを40gのトルエンに溶解させ、共重合させて第1の重合体の溶液を調製した以外は、比較例4と同様にした。液経時安定性はB、塗布面質はCであり、他の項目は評価できなかった。
【0100】
(比較例6)
18.0gのポリシランと、42.0gの紫外線吸収性モノマーとを40gのトルエンに溶解させ、共重合させて第1の重合体の溶液を調製した以外は、比較例4と同様にした。液経時安定性はB、塗布面質はCであり、他の項目は評価できなかった。
【0101】
(比較例7)
数平均分子量が40000のポリエステル樹脂(バイロンUR-1400、東洋紡製)3.2g含む溶液にトルエンを加えて溶媒量を23.2gとして第2の重合体の溶液を調製した以外は、実施例1と同様にした。液経時安定性はC、塗布面質はCであり、他の項目は評価できなかった。
【0102】
比較例4~7の条件及び評価結果を表4に示す。
【0103】
【表4】
【産業上の利用可能性】
【0104】
本開示の樹脂組成物は、レーザ加工性に優れ、紫外線レーザ加工レジスト等として有用である。