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特許7561603点火制御装置、及びそれを備えたエンジンシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-26
(45)【発行日】2024-10-04
(54)【発明の名称】点火制御装置、及びそれを備えたエンジンシステム
(51)【国際特許分類】
   F02P 3/045 20060101AFI20240927BHJP
   F02P 17/00 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
F02P3/045 301B
F02P3/045 302Z
F02P17/00 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020212821
(22)【出願日】2020-12-22
(65)【公開番号】P2022099066
(43)【公開日】2022-07-04
【審査請求日】2023-06-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】村井 則通
(72)【発明者】
【氏名】徳田 有佑
【審査官】上田 真誠
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-291721(JP,A)
【文献】特開2015-190393(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0094475(US,A1)
【文献】特開2019-065734(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02P 1/00- 3/12
F02P 7/00-17/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンに備えられる点火プラグで放電するための電圧を作り出すイグニッションコイルと当該イグニッションコイルへの通電時間を調整して前記点火プラグの放電電圧を制御するイグナイタを備え、当該イグナイタにより所定の点火タイミングで前記点火プラグへ放電電圧を付与して燃焼室の混合気を火花点火する点火制御装置であって、
前記点火プラグの電極間の実放電電圧を計測する実放電電圧計測部と、
前記実放電電圧計測部にて計測された前記実放電電圧に基づいて、前記イグニッションコイルへの通電時間として修正放電電圧通電時間を導出する実放電電圧追従型通電時間導出部と
前記エンジンの単位時間当たりのエンジン回転数を計測する回転数計測部と、
前記単位時間よりも長い変動量導出期間において、前記回転数計測部にて計測された前記エンジン回転数の変動量を導出する変動量導出部と、
前記変動量導出部にて導出された変動量が基準変動量閾値を超える場合に、前記実放電電圧追従型通電時間導出部にて導出された前記修正放電電圧通電時間を長い側へ補正する通電時間補正部とを備え、
前記実放電電圧追従型通電時間導出部は、予め取得された放電電圧と当該放電電圧を得るための通電時間である設定通電時間との電圧通電時間関係に基づいて、前記修正放電電圧通電時間を導出するものであり、
前記電圧通電時間関係は、前記実放電電圧が大きくなるに従って前記設定通電時間が長くなる関係である点火制御装置。
【請求項2】
前記設定通電時間は、前記点火プラグの電極間での放電電圧を発生するための最低の通電時間である請求項に記載の点火制御装置。
【請求項3】
前記通電時間補正部は、前記変動量導出部にて導出された変動量が基準変動量閾値を超える場合で、且つ前記エンジンの燃焼室内での空燃比が所定の適正範囲内である場合に、前記実放電電圧追従型通電時間導出部にて導出された前記修正放電電圧通電時間を長い側へ補正する請求項1又は2に記載の点火制御装置。
【請求項4】
前記点火プラグの電極間の電圧が前記点火プラグの耐電圧に1未満の安全率を乗算した上限電圧値となる上限通電時間以下となるように、前記修正放電電圧通電時間を制限する通電時間制限部を備える請求項1~の何れか一項に記載の点火制御装置。
【請求項5】
前記エンジンの運転状態に基づいて、前記イグニッションコイルへの通電時間の基準となる基準通電時間を設定する基準通電時間設定部を備え、
前記エンジンの起動時に、前記イグニッションコイルへの通電時間を、前記基準通電時間設定部により設定された前記基準通電時間とした後に、前記修正放電電圧通電時間へ切り替え制御する請求項1~の何れか一項に記載の点火制御装置。
【請求項6】
請求項1~の何れか一項に記載の点火制御装置を備えたエンジンシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンに備えられる点火プラグで放電するための電圧を作り出すイグニッションコイルと当該イグニッションコイルへの通電時間を調整して前記点火プラグの放電電圧を制御するイグナイタを備え、当該イグナイタにより所定の点火タイミングで前記点火プラグへ放電電圧を付与して燃焼室の混合気を火花点火する点火制御装置、及びそれを備えたエンジンシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、所定の点火タイミングで電圧を付与して燃焼室にて混合気に火花点火する点火プラグの点火制御装置として、燃焼室での点火プラグの電極間の放電による着火性や、点火プラグの耐久性を確保するべく、点火エネルギを制御するものが知られている。(特許文献1を参照)。
当該特許文献1に開示の技術では、点火プラグで放電するための電圧を作り出すイグニッションコイルへの通電時間を、エンジンの回転数及びバッテリー電圧により決定し制御する。更に、当該特許文献1に開示の技術では、エンジンの運転状態や点火プラグの電極間のギャップに応じて通電時間を補正する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平6-129333号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
点火プラグの電極間での絶縁破壊による放電電圧は、エンジンの外部環境に起因する燃焼用空気の温湿度やエンジン自体の温度等の種々の条件により変化するため、上述の特許文献1に係る技術に基づいて制御する場合、その通電時間及び当該通電時間により決定される放電電圧は、上述の種々の条件を加味したものにはなっておらず、改善の余地があった。
【0005】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、エンジンにおける実体的な種々の条件も加味して点火プラグの放電電圧を設定でき、点火における点火エネルギの不要な消費を低減できると共に不要な点火プラグの消耗を抑制できる点火制御装置、及びそれを備えたエンジンシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための点火制御装置は、
エンジンに備えられる点火プラグで放電するための電圧を作り出すイグニッションコイルと当該イグニッションコイルへの通電時間を調整して前記点火プラグの放電電圧を制御するイグナイタを備え、当該イグナイタにより所定の点火タイミングで前記点火プラグへ放電電圧を付与して燃焼室の混合気を火花点火する点火制御装置であって、その特徴構成は、
前記点火プラグの電極間の実放電電圧を計測する実放電電圧計測部と、
前記実放電電圧計測部にて計測された前記実放電電圧に基づいて、前記イグニッションコイルへの通電時間として修正放電電圧通電時間を導出する実放電電圧追従型通電時間導出部と
前記エンジンの単位時間当たりのエンジン回転数を計測する回転数計測部と、
前記単位時間よりも長い変動量導出期間において、前記回転数計測部にて計測された前記エンジン回転数の変動量を導出する変動量導出部と、
前記変動量導出部にて導出された変動量が基準変動量閾値を超える場合に、前記実放電電圧追従型通電時間導出部にて導出された前記修正放電電圧通電時間を長い側へ補正する通電時間補正部とを備え、
前記実放電電圧追従型通電時間導出部は、予め取得された放電電圧と当該放電電圧を得るための通電時間である設定通電時間との電圧通電時間関係に基づいて、前記修正放電電圧通電時間を導出するものであり、
前記電圧通電時間関係は、前記実放電電圧が大きくなるに従って前記設定通電時間が長くなる関係である点にある。
【0007】
上記特徴構成によれば、実放電電圧追従型通電時間導出部が、実放電電圧計測部にて計測された実放電電圧に基づいて、イグニッションコイルへの通電時間として修正放電電圧通電時間を導出するから、実際に吸気される燃焼用空気の温湿度、燃焼室の温度や圧力等の種々の条件も加味して点火プラグの放電電圧を決定するイグニッションコイルへの通電時間を導出できる。
そして、導出された修正放電電圧通電時間を通電時間として設定することで、点火における点火エネルギの不要な消費を低減できると共に不要な点火プラグの消耗を抑制できる点火制御装置を実現できる。
【0009】
更に、上記特徴構成の如く、実放電電圧追従型通電時間導出部は、予め取得された放電電圧と当該放電電圧を得るための通電時間である設定通電時間との電圧通電時間関係に基づいて、修正放電電圧通電時間を導出するから、修正放電電圧通電時間を、放電電圧と1対1対応の関係にある通電時間に常に設定できる。
ここで、上記特徴構成によれば、変動量導出部が、単位時間よりも長い変動量導出期間において、回転数計測部にて計測されたエンジン回転数の変動量を導出し、通電時間補正部が、変動量導出部にて導出された変動量が基準変動量閾値を超える場合に、実放電電圧追従型通電時間導出部にて導出された修正放電電圧通電時間を長い側へ補正するから、エンジンが不安定状態にある場合には、通電時間を長めに設定して、失火が起きやすい運転状態において、放電電圧を高めに設定して点火プラグの電極間での絶縁破壊を生じやすくさせ、失火を防いで運転状態の安定化を図ることができる。
【0010】
点火制御装置の更なる特徴構成は、
前記設定通電時間は、前記点火プラグの電極間での放電電圧を発生するための最低の通電時間である点にある。
【0011】
通常、点火プラグの電極間での放電において、電極間で絶縁破壊が生じた後に電極に残る残留エネルギは、絶縁破壊後に緩慢に電極間を通電することになり、点火(絶縁破壊)に対してほぼ寄与しない。
説明を追加すると、点火プラグの電極間での放電電圧と当該放電電圧を発生するための最低の通電時間である設定通電時間との関係を示す電圧通電時間関係は、図3に示す関係となる。図3に示すように、所定の燃焼室の環境条件において、所定の放電電圧Vαを出力するための最低の通電時間(設定通電時間)はT1であるが、制御の状態によっては、最低の通電時間T1よりも長いTαの通電時間が設定されている場合もある。即ち、Tαの通電時間とT1の通電時間の何れを設定していたとしても、所定の燃焼室の環境条件では、放電電圧Vαのときに絶縁破壊がおきるため、(Tα―T1)の時間分のエネルギが絶縁破壊に寄与しない無駄なエネルギとなる。
上記特徴構成によれば、設定通電時間は、点火プラグの電極間での放電電圧を発生するための最低の通電時間であるから、絶縁破壊後に電極間に通電する電流を抑制し、点火エネルギの最適化を図ることができる。
【0014】
点火制御装置の更なる特徴構成は、
前記通電時間補正部は、前記変動量導出部にて導出された変動量が基準変動量閾値を超える場合で、且つ前記エンジンの燃焼室内での空燃比が所定の適正範囲内である場合に、前記実放電電圧追従型通電時間導出部にて導出された前記修正放電電圧通電時間を長い側へ補正する点にある。
【0015】
上記特徴構成であれば、通電時間補正部は、変動量導出部にて導出された変動量が基準変動量閾値を超える場合であって、更に、エンジンの燃焼室内での空燃比が所定の適正範囲内である場合に、実放電電圧追従型通電時間導出部にて導出された修正放電電圧通電時間を長い側へ補正するから、空燃比が適正範囲内にないときであって、燃焼室での燃焼状態が不安定である状態における修正放電電圧通電時間が補正されることを防止できる。
【0016】
点火制御装置の更なる特徴構成は、
前記点火プラグの電極間の電圧が前記点火プラグの耐電圧に1未満の安全率を乗算した上限電圧値となる上限通電時間以下となるように、前記修正放電電圧通電時間を制限する通電時間制限部を備える点にある。
【0017】
例えば、点火タイミングが上死点付近となり、空燃比が高くなるような場合で、電極間での絶縁破壊が起き難くなり、実放電電圧が異常に高くなる場合であっても、通電時間制限部は、点火プラグの電極間の電圧が点火プラグの耐電圧に1未満の安全率を乗算した上限電圧値となる上限通電時間以下となるように、修正放電電圧通電時間を制限するから、点火プラグの電極間に耐電圧以上の電圧が印可されることを防止でき、電極の不要な消耗を抑制できる。
【0018】
点火制御装置の更なる特徴構成は、
前記エンジンの運転状態に基づいて、前記イグニッションコイルへの通電時間の基準となる基準通電時間を設定する基準通電時間設定部を備え、
前記エンジンの起動時に、前記イグニッションコイルへの通電時間を、前記基準通電時間設定部により設定された前記基準通電時間とした後に、前記修正放電電圧通電時間へ切り替え制御する点にある。
【0019】
上記特徴構成によれば、エンジンの起動時に、イグニッションコイルへの通電時間を、基準通電時間設定部により設定された基準通電時間とした後に、修正放電電圧通電時間へ切り替え制御するから、比較的エンジンの運転状態が不安定となる起動時には、比較的長い通電時間である基準通電時間で点火し、運転状態が安定してきた場合に、修正放電電圧通電時間へ切り替えることで、起動時の点火の安定化を図ると共に通常運転時の省電力化を図ることができる。
【0020】
上記目的を達成するためのエンジンシステムの特徴構成は、上述した点火制御装置を備える点にある。
【0021】
上記特徴構成によれば、これまで説明してきた特異な作用効果を発揮することができるエンジンシステムを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の実施形態に係る点火制御装置、エンジンシステムの概略構成図である。
図2】本発明の実施形態に係る制御フロー図である。
図3】通電時間と放電電圧との関係を示すグラフ図である。
図4】本発明の別実施形態に係る点火制御装置、エンジンシステムの概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の実施形態に係る点火制御装置100及びそれを備えたエンジンシステム200は、エンジン10における実体的な種々の条件も加味して点火プラグ57の放電電圧を設定でき、点火における点火エネルギの不要な消費を低減できると共に不要な点火プラグ57の消耗を抑制できるものに関する。
以下、図面に基づいてその実施形態を説明する。
【0024】
エンジンシステム200は、図1に示すように、混合気Mを燃焼室11で圧縮して燃焼させて軸動力を出力するエンジンシステム200、及び負荷に応じてエンジンシステム200を制御するECUとしての制御装置S等を備えるものであり、ヒートポンプシステム40は、エンジンシステム200の軸動力を駆動源とする圧縮機41と、当該圧縮機41にて圧縮される冷媒を循環するヒートポンプ回路C等を備えて構成されている。
【0025】
エンジンシステム200の燃焼室11には、混合気Mを吸気する吸気路20と、排ガスEが通流する排気路25とが接続されている。
吸気路20には、ベンチュリーミキサ23を介して、天然ガス系都市ガス等の燃料ガスGを供給する燃料供給路21が接続されており、当該燃料供給路21には、燃料ガスGの供給量を調整することにより、当該燃料ガスGと吸気路20に吸気される燃焼用空気Aとの比である空燃比を調整可能な燃料流量調整弁22が設けられている。吸気路20でベンチュリーミキサ23の下流側には、吸気路20を通流する混合気Mの吸気量を調整可能なスロットルバルブ24が設けられている。
これにより、燃料供給路21から燃料流量調整弁22の開度が調整される状態で供給される燃料ガスGが、ベンチュリーミキサ23にて燃焼用空気Aと混合され、所望の空燃比に調整された混合気Mが、スロットルバルブ24にて吸気量を調整された状態で、燃焼室11に吸気される。吸気された混合気Mは、燃焼室11にて圧縮されると共に、イグナイタ51にて点火制御される点火プラグ57により点火され燃焼・膨張することにより、クランクシャフト35が回転されて軸動力が出力され、燃焼により発生した排ガスEが排気路25を通して排気される。つまり、このエンジンシステム200は、通常の4サイクルエンジンとして構成されている。
【0026】
点火制御装置100は、以下のイグナイタ51とそれを制御する制御装置Sとから構成されている。
イグナイタ51は、制御装置Sとしての運転制御部S1からの制御信号に基づいて、所定の点火タイミングで放電電圧を付与して点火プラグ57を制御する装置であって、運転制御部S1からの制御信号を検出する信号検出回路を有するスイッチ制御装置52と、点火プラグ57で放電するための電圧を作り出すイグニッションコイル54と、スイッチ制御装置52の出力に基づいてイグニッションコイル54に流れる電流を通電・遮断するスイッチ素子53とを備える。
スイッチ制御装置52は、ECUからの制御信号を検出する信号検出回路を有する装置であり、具体的にはIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)ゲートドライバから構成される。スイッチ素子53は、スイッチ制御装置52の出力に基づいて、イグニッションコイル54に流れる電流を通電・遮断する素子であり、具体的にはIGBTから構成される。イグニッションコイル54は、点火プラグ57で放電するための電圧を作り出す変圧器である。
【0027】
イグニッションコイル54の一次側コイルの一端にはバッテリー56等の電源が接続され、他端にはスイッチ素子53が接続される。また、イグニッションコイル54の二次側コイルの一端には一次側コイルと同様にバッテリー56等の電源が接続され、他端には点火プラグ57が接続される。例えば、12~15Vのバッテリー56の電圧をイグニッションコイル54が2万~4万Vまで昇圧して点火プラグ57に供給する。
更に、エンジンシステム200は、点火プラグ57において点火火花が発生する電圧値(絶縁破壊が生じる電圧)である電極間の実放電電圧を逐次計測する実放電電圧計測部としての高電圧プローブ60が設けられている。
【0028】
エンジンシステム200の軸動力は、動力伝達機構30によりヒートポンプシステム40の圧縮機41に伝達される。
動力伝達機構30は、エンジンシステム200のクランクシャフト35に固定されたエンジン側プーリ31と、圧縮機41の駆動軸34に電磁クラッチ(図示せず)を介して連結された圧縮機側プーリ33と、エンジン側プーリ31と圧縮機側プーリ33とにわたって巻回されるリブドベルト32を備えている。
【0029】
ヒートポンプシステム40は、冷媒を循環するヒートポンプ回路Cと、当該ヒートポンプ回路Cを循環する冷媒を圧縮する圧縮機41と、室外空気と冷媒とを熱交換させる室外熱交換器42と、室内空気と冷媒とを熱交換させる室内熱交換器44と、冷媒を膨張させる膨張弁43と、ヒートポンプ回路Cにおける冷媒の循環方向を切り換える四方弁45とから構成されている。
当該ヒートポンプシステム40が、冷房運転を実行する場合、四方弁45は、図1で実線にて示されるように、圧縮機41の冷媒吐出側を室外熱交換器42へ接続すると共に、圧縮機41への冷媒流入側を室内熱交換器44へ接続する状態に切り換わる。これにより、ヒートポンプ回路Cを循環する冷媒は、圧縮機41で圧縮され昇温した状態で室外熱交換器42としての凝縮器に導かれ、当該室外熱交換器42としての凝縮器で室外空気と熱交換する形態で凝縮して放熱し、膨張弁43を通過した後に、室内熱交換器44としての蒸発器に導かれ、室内空気と熱交換する形態で蒸発して室内空気を冷却した後、圧縮機41の冷媒流入側に戻される。
一方、ヒートポンプシステム40が、暖房運転を実行する場合、四方弁45は、図1で破線にて示されるように、圧縮機41の冷媒吐出側を室内熱交換器44へ接続すると共に、圧縮機41の冷媒流入側を室外熱交換器42へ接続する状態に切り換わる。これにより、ヒートポンプ回路Cを循環する冷媒は、圧縮機41で圧縮され昇温した状態で室内熱交換器44としての凝縮器に導かれ、当該室内熱交換器44としての凝縮器で室内空気と熱交換する形態で凝縮して室内空気を加熱し、膨張弁43を通過した後に、室外熱交換器42としての蒸発器に導かれ、室外空気と熱交換する形態で蒸発して室内空気から熱を回収した後、圧縮機41の冷媒流入側に戻される。
【0030】
さて、当該実施形態に係る点火制御装置100、及びそれを備えたエンジンシステム200は、エンジン10における実体的な種々の条件も加味して点火プラグ57の放電電圧を設定でき、点火における点火エネルギの不要な消費を低減できると共に不要な点火プラグ57の消耗を抑制するべく、以下の構成を有する。
点火制御装置100は、高電圧プローブ60にて計測された点火プラグ57の電極間における現時点での実放電電圧に基づいて、イグニッションコイル54への通電時間として修正放電電圧通電時間を導出する実放電電圧追従型通電時間導出部S3を備える。
より詳細には、制御装置Sの記憶部S7には、予め取得された放電電圧と当該放電電圧を出力するための通電時間としての設定通電時間との関係である電圧通電時間関係が記憶されており、当該電圧通電時間関係は、点火プラグの電極間での放電電圧と、該放電電圧を発生するための最低の通電時間である設定通電時間とを示す関係であり、図3に示すように、放電電圧が高くなるに従って通電時間が長くなる関係であり、放電電圧をYとし通電時間をXとすると、Y=b×logX(a>1、b>0)にて近似できる関係である。
【0031】
即ち、設定通電時間は、前記点火プラグの電極間での放電電圧を発生するための最低の通電時間である。
【0032】
実放電電圧追従型通電時間導出部S3は、記憶部S7に記憶された電圧通電時間関係に基づいて、高電圧プローブ60にて計測された現時点での実放電電圧が高くなるに従って長くなる設定通電時間を、修正放電電圧通電時間として導出するように構成されている。
尚、実放電電圧追従型通電時間導出部S3は、一の電圧通電時間関係に基づいて修正放電電圧通電時間を導出する。
【0033】
運転制御部S1は、実放電電圧追従型通電時間導出部S3にて導出された修正放電電圧通電時間をスイッチ制御装置52に送信して、点火制御装置100としてのイグナイタ51にて実放電電圧を制御する。
【0034】
以上の構成により、当該実施形態に係るエンジンシステム200では、エンジン10の外部環境等の条件も含めた状態で、実放電電圧に対応した形で通電時間として修正放電電圧通電時間を導出できるのであるが、要求出力に応じてエンジン10はエンジン回転数や出力が変動するものであり、その変動は点火プラグ57の電極間での放電に影響を与えるものであるため、それらの変動の仕方によっては、放電をより確実に実現するべく、通電時間を安全側に制御することが好ましい。
そこで、当該実施形態に係るエンジンシステム200は、以下の如く構成されている。
エンジン10の単位時間当たりのエンジン回転数を計測する回転数計測センサ70(回転数計測部の一例)をエンジン側プーリ31に対して備え、単位時間よりも長い変動量導出期間において、回転数計測センサ70にて計測されたエンジン回転数の変動量を導出する変動量導出部S5と、当該変動量導出部S5にて導出された変動量が記憶部S7に記憶される基準変動量閾値を超える場合に、実放電電圧追従型通電時間導出部S3にて導出された修正放電電圧通電時間(図3でT1)を長い側(図3で補正後の通電時間T2)へ補正する通電時間補正部S6を備える。
また、当該通電時間補正部S6は、当該変動量導出部S5にて導出された変動量が記憶部S7に記憶される基準変動量閾値を超える場合で、且つスロットルバルブ24の開度及び燃料流量調整弁22の開度等から決定されるエンジン10の燃焼室11内での空燃比が適正範囲内である場合に、実放電電圧追従型通電時間導出部S3にて導出された修正放電電圧通電時間(図3でT1)を長い側(図3で補正後の通電時間T2)へ補正する制御を実行しても構わない。
【0035】
尚、これまで説明してきた実放電電圧追従型通電時間導出部S3にて導出される修正放電電圧通電時間については、点火プラグ57の耐久時間を向上するべく、その上限通電時間を通電時間制限部S4にて制限されている。詳細には、通電時間制限部S4は、点火プラグ57の電極間の電圧が点火プラグ57の耐電圧に1未満の安全率を乗算した上限電圧値(図3でV1)となる上限通電時間(図3でT4)以下となるように、修正放電電圧通電時間を制限する。
【0036】
〔制御フロー〕
以下、当該実施形態に係るエンジンシステム200の制御フローを図2のフロー図に基づいて説明する。
エンジンシステム200の制御装置Sには、エンジン10の運転状態としてのエンジン回転数及び出力に基づいてイグニッションコイル54への通電時間の基準となる基準通電時間を設定する基準通電時間設定部S2が備えられており、運転制御部S1は、当該基準通電時間設定部S2が設定した基準通電時間をイグナイタ51のスイッチ制御装置52に送信し、スイッチ制御装置52は、当該基準通電時間の間、イグニッションコイル54へ通電する(#01)。
【0037】
実放電電圧追従型通電時間導出部S3は、高電圧プローブ60にて点火プラグ57の電極間の実放電電圧を測定し(#02)、測定された実放電電圧に基づいて、修正放電電圧通電時間を導出する(#03)。
【0038】
通電時間制限部S4は、ステップ#03にて導出された修正放電電圧通電時間が、点火プラグ57の電極間の電圧が点火プラグ57の耐電圧に1未満の安全率を乗算した上限電圧値となる上限通電時間よりも高い場合(#04)、通電時間を上限通電時間へ再設定し(#05)、修正放電電圧通電時間が上限通電時間以下の場合(#04)、通電時間を修正放電電圧通電時間に維持する(#06)。
【0039】
通電時間補正部S6は、単位時間よりも長い変動量導出期間において、変動量導出部S5にて導出されるエンジン回転数の変動量が、記憶部S7に記憶される基準変動量閾値を超える場合で(#07)、且つスロットルバルブ24の開度及び燃料流量調整弁22の開度等から決定されるエンジン10の燃焼室11内での空燃比が所定の適正範囲内である場合に(#08)、修正放電電圧通電時間を長い側へ補正する(#10)。
ここで、空燃比が適切範囲内でない場合、空燃比を所定の適正範囲に調整した後(#09)、#07、#08のステップが再度実行される。
【0040】
運転制御部S1は、設定されている通電時間をイグナイタ51に送り、当該通電時間の間、イグニッションコイル54に通電する(#11)。
【0041】
制御装置Sは、ステップ#01~#10の処理を、各回転数における点火間隔に相当する時間毎に繰り返して実行する。
【0042】
〔別実施形態〕
(1)上記実施形態では、実放電電圧追従型通電時間導出部S3は、現時点での実放電電圧に基づいて、修正放電電圧通電時間を導出する構成例を示した。
しかしながら、実放電電圧追従型通電時間導出部S3は、現時点以外の実放電電圧に基づいて、修正放電電圧通電時間を導出しても良い。
例えば、点火回数で1回前~数十回前の実放電電圧や、点火回数で1回前~数十回前実放電電圧の推定値に基づいて、修正放電電圧通電時間を導出しても構わない。
また、実放電電圧追従型通電時間導出部S3は、一時点の実放電電圧のみならず、点火回数で数十回分で取得した実放電時間の平均値を用いても構わない。このように修正放電電圧通電時間を導出するのは、目標回転数等が変わらず一定の安定した運転をしている場合であることが好ましい。
【0043】
(2)上記実施形態では、基準通電時間設定部S2、通電時間制限部S4を備える構成を示したが、これらは必ずしも備える必要はなく、それらが実行する制御についても必ずしも実行する必要はない。
【0044】
(3)上記実施形態において、エンジンシステム200は、エンジン10の出力軸に空調機の圧縮機41が連結される構成、即ち、空調用のエンジンであるものを示した。
しかしながら、空調機のエンジン以外のエンジンシステムであっても、本発明は有効に機能する。
【0045】
(4)上記実施形態において、エンジンシステム200にて完結していた実放電時間追従型の通電時間の導出及びそれに基づく通電時間の制御については、例えば、複数のエンジンシステム200からの修正放電電圧通電時間に関する情報を監視センターにて集約する形で、監視センターにて実行する構成を採用しても構わない。
即ち、遠隔監視装置は、図4に示すように、高電圧プローブ60にて計測される実放電電圧、回転数計測センサ70にて計測されるエンジン回転数、エンジン回転数及びスロットル弁開度等と共に算出されるエンジン出力を送信するエンジン側送受信部ER1を有するエンジン側制御部ERとを備えると共に、エンジン側送受信部ER1から送信された各種信号を受信する監視側送受信部MR1を有する監視側制御部MRを備える。
当該監視側制御部MRは、上記実施形態の制御装置と同様に、基準通電時間設定部S2、実放電電圧追従型通電時間導出部S3、通電時間制限部S4、変動量導出部S5、通電時間補正部S6、記憶部S7を備えており、各種機能部位が演算に必要とする情報は、監視側送受信部MR1から受け取ることになる。
エンジン側送受信部ER1と監視側送受信部MR1とが、インターネット回線等を介してリアルタイムに通信することにより、遠隔地での実放電電圧に基づく通電時間の調整が実現する。
【0046】
(5)上記制御フローにおいて、失火が連続して生じている場合、即ち、#02のステップにて実放電電圧を測定できない場合、現状の通電時間を徐々に長くする処理を実行しても構わない。
【0047】
尚、上記実施形態(別実施形態を含む、以下同じ)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能であり、また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の点火制御装置、及びそれを備えたエンジンシステムは、エンジンにおける実体的な種々の条件も加味して点火プラグの放電電圧を設定でき、点火における点火エネルギの不要な消費を低減できると共に不要な点火プラグの消耗を抑制できる点火制御装置、及びそれを備えたエンジンシステムとして、有効に利用可能である。
【符号の説明】
【0049】
10 :エンジン
11 :燃焼室
51 :イグナイタ
54 :イグニッションコイル
57 :点火プラグ
60 :高電圧プローブ
70 :回転数計測センサ
100 :点火制御装置
200 :エンジンシステム
S :制御装置
S1 :運転制御部
S2 :基準通電時間設定部
S3 :実放電電圧追従型通電時間導出部
S4 :通電時間制限部
S5 :変動量導出部
S6 :通電時間補正部
S7 :記憶部
T2 :通電時間
図1
図2
図3
図4