(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-26
(45)【発行日】2024-10-04
(54)【発明の名称】液圧マスタシリンダ
(51)【国際特許分類】
B60T 11/22 20060101AFI20240927BHJP
【FI】
B60T11/22 Z
(21)【出願番号】P 2020218705
(22)【出願日】2020-12-28
【審査請求日】2023-10-17
(73)【特許権者】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100128358
【氏名又は名称】木戸 良彦
(74)【代理人】
【識別番号】100086210
【氏名又は名称】木戸 一彦
(72)【発明者】
【氏名】町田 裕二
【審査官】後藤 健志
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-359202(JP,A)
【文献】特開2009-061841(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0031279(US,A1)
【文献】実公昭48-33498(JP,Y1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 11/22
B60T 11/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に縦長のシリンダ孔を有する縦長のシリンダボディの周壁の一部と、内部に縦長の貯液室を有するとともに、上部開口部をキャップで閉塞した縦長のリザーバタンクの周壁の一部とを一体に連結し、前記シリンダボディと前記リザーバタンクの連結部分に、前記シリンダ孔と前記貯液室とを連通させる液通孔を形成した液圧マスタシリンダにおいて、前記貯液室は、下部側に、上部側よりも大径に形成した大径貯液室を形成し
、
前記貯液室は上部側に、前記上部開口部を備える小径貯液室と、該小径貯液室と前記大径貯液室との間に設けられ、前記小径貯液室よりも小径に形成されるくびれ部とを備えていることを特徴とする液圧マスタシリンダ。
【請求項2】
前記大径貯液室は、下端部を開口させて下部開口部を形成し、該下部開口部を閉塞部材で閉塞したことを特徴とする
請求項1記載の液圧マスタシリンダ。
【請求項3】
前記閉塞部材は外周にねじ部を備え、前記大径貯液室の下端部内周に設けたねじ部に螺合されることを特徴とする請求項
2記載の液圧マスタシリンダ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動二輪車に搭載されるブレーキ用の液圧マスタシリンダに関し、詳しくは、縦長のシリンダ孔を備えたシリンダボディの一側に、縦長の貯液室を備えたリザーバタンクを一体に備えた液圧マスタシリンダに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動二輪車に搭載されるブレーキ用の液圧マスタシリンダとして、内部に縦長のシリンダ孔を有する縦長のシリンダボディの周壁と、内部に縦長の貯液室を有するとともに、上部開口部をキャップで閉塞して形成された縦長のリザーバタンクの周壁とを一体に連結し、シリンダボディとリザーバタンクとの連結部分に、シリンダ孔に内挿されたピストンとシリンダ孔の上壁との間に画成される液圧室と、リザーバタンクの貯液室とを連通させる液通孔を形成したものがあった。また、このような液圧マスタシリンダでは、リザーバタンクの上部開口部とキャップとの間に、作動液が外気と接触することを回避するとともに、作動液の液量の変化に応じて作動液に作用する圧力に変化が生じることがないようにダイヤフラムやダイヤフラムプレートが介装されていた(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の特許文献1の液圧マスタシリンダでは、リザーバタンクの貯液量を増大させたい場合、車両のレイアウト構成上、リザーバタンクの高さを高くすることが難しいことから、リザーバタンクを大径に形成することが考えられるが、リザーバタンクを大径にすると、キャップや、ダイヤフラムや、ダイヤフラムプレートの形状や径を変更しなければならず、従来品を利用できないことからコストが嵩んでいた。
【0005】
そこで本発明は、リザーバタンクの上部側の径を変えることなく、リザーバタンクの貯液量を増大させることができる液圧マスタシリンダを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の液圧マスタシリンダは、内部に縦長のシリンダ孔を有する縦長のシリンダボディの周壁の一部と、内部に縦長の貯液室を有するとともに、上部開口部をキャップで閉塞した縦長のリザーバタンクの周壁の一部とを一体に連結し、前記シリンダボディと前記リザーバタンクの連結部分に、前記シリンダ孔と前記貯液室とを連通させる液通孔を形成した液圧マスタシリンダにおいて、前記貯液室は、下部側に、上部側よりも大径に形成した大径貯液室を形成し、前記貯液室は上部側に、前記上部開口部を備える小径貯液室と、該小径貯液室と前記大径貯液室との間に設けられ、前記小径貯液室よりも小径に形成されるくびれ部とを備えていることを特徴としている。
【0008】
さらに、前記大径貯液室は、下端部を開口させて下部開口部を形成し、該下部開口部を閉塞部材で閉塞すると好適である。
【0009】
また、前記閉塞部材は外周にねじ部を備え、前記大径貯液室の下端部内周に設けたねじ部に螺合されること好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の液圧マスタシリンダによれば、貯液室の下部側に大径貯液室を形成したことにより、リザーバタンクの高さを高くすることなく貯液量を従来よりも増大させることができる。さらに、リザーバタンクの上部開口部の径は、貯液量の少ない従来のリザーバタンクの径を維持することができ、貯液量の少ない従来のリザーバタンクのキャップや、ダイヤフラムや、ダイヤフラムプレートを、貯液量を増大させたリザーバタンクのキャップや、ダイヤフラムや、ダイヤフラムプレートに兼用させることができ、コストが嵩む虞がない。
【0011】
また、大径貯液室の下端部を開口させて、下部開口部を形成するとともに、該下部開口部を閉塞部材で閉塞したことにより、リザーバタンクを製造する際に、下部開口部側から工具を挿入して大径貯液室を、上部開口部側から工具を挿入して小径の上部側をそれぞれ加工することができ、加工性の向上を図ることができる。
【0012】
さらに、閉塞部材は外周にねじ部を備え、大径貯液室の下端部内周に設けたねじ部に螺合されることにより、閉塞部材を容易に取り付けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】本発明の第1形態例を示す液圧マスタシリンダの平面図である。
【
図3】同じくシリンダボディとリザーバタンクとを示す正面図である。
【
図5】本発明の第1形態例を示す要部説明図である。
【
図6】本発明の第2形態例を示す液圧マスタシリンダの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1乃至
図5は本発明の液圧マスタシリンダの第1形態例を示す図である。本形態例の液圧マスタシリンダ1は、例えば、自動二輪車の後輪を制動するためのブレーキ液を出力するためのものであって、縦長略円筒状のシリンダボディ2の一側に、縦長略円筒状のリザーバタンク3が一体に形成されている。液圧マスタシリンダ1は、シリンダボディ2に形成されたブラケット2a,2aを車体フレームにボルト止めすることにより車体に取り付けられる。
【0015】
シリンダボディ2は、縦長有底のシリンダ孔2bが下端を開口して設けられ、該シリンダ孔2bに、ピストン4がプライマリカップ5とセカンダリカップ6とを介して移動可能に内挿され、ピストン4とシリンダ孔2bの上壁との間に液圧室7が画成されている。
【0016】
ピストン4とシリンダボディ2の底部2cとの間には、リターンスプリング8が縮設され、ピストン4は、リターンスプリング8の弾発力によって、非作動方向である車体下方向に付勢され、その後退限が、シリンダ孔2bの開口部に係着したサークリップ9に係止されるプッシュロッド10の頭部10aとの当接によって規制されている。また、液圧室7には、ユニオン孔11が連通して設けられている。
【0017】
リザーバタンク3は、内部に縦長の貯液室3aを有し、該貯液室3aの下部側には、上部側よりも大径に形成された大径貯液室3bが形成される。さらに、貯液室3aの上部側には、大径貯液室3bよりも小径に形成され、上端部に上部開口部A1を備える小径貯液室3cと、小径貯液室3cと大径貯液室3bとの間に設けられ、小径貯液室3cよりも小径に形成されたくびれ部3dとが形成されている。小径貯液室3cの上端部には、一対のボルト締結部3e,3eが外周側に突出して形成される。大径貯液室3bの下端部には、下部開口部A2が形成され、下部開口部A2の内周に雌ねじ部3fが形成される。
【0018】
リザーバタンク3の上部開口部A1は、ダイヤフラム12とダイヤフラムプレート13とを介してキャップ14が被着されることにより閉塞され、また、雌ねじ部3fに閉塞部材15を螺着することにより下部開口部A2が閉塞される。
【0019】
キャップ14は、リザーバタンク3の上端部と同一の径に形成され、ボルト締結部3e,3eに対応する位置に、ボルト挿通孔を備えた取付片14a,14aが突設されている。
【0020】
ダイヤフラム12は、蛇腹部12aと、該蛇腹部12aの下方に連続形成される小径筒部12bと、該小径筒部12bの下端を閉塞する円板部12cとを備えている。蛇腹部12aは、ボルト締結部3e,3eに載置され、ボルト挿通孔を備えた一対のフランジ部12d,12dを上端に備え、小径貯液室3aの上下方向へ伸縮自在に設けられる。円板部12cは、小径貯液室3aの内径よりも小径に形成され、円板部12cの外周と小径貯液室3aとの間の隙間を介して作動液Fが流通できるようにしている。
【0021】
ダイヤフラム12と、ダイヤフラムプレート13と、キャップ14とは、ボルト締結部3e,3eの上部にダイヤフラム12のフランジ部12d,12dを載置し、フランジ部12d,12dの上部にダイヤフラムプレート13を載置した上から、キャップ14の取付片14a,14aをボルト締結部3e,3eに位置に合わせて載置し、取付片14a,14aの上方からボルト16,16を挿通してボルト締結部3e,3eに締結することにより、シリンダボディ2の上端部に取り付けられ、この取付により、蛇腹部12aが小径貯液室3cに、小径筒部12bがくびれ部3dにそれぞれ配置される。
【0022】
閉塞部材15は、円柱状に形成され、側面に雌ねじ部3fに螺合する雄ねじ部15aが形成され、一方の底面に工具を挿入して閉塞部材15を回転させる六角穴15bが形成されている。
【0023】
シリンダボディ2とリザーバタンク3とは、リザーバタンク3の上端部が、シリンダボディ2の上端部よりも上方に突出する状態で連結され、リザーバタンク3の軸線CL1に対して、シリンダボディ2の軸線CL2が、下方に向けて漸次、リザーバタンク3から離反する方向に傾けて配置されている。大径貯液室3bの周壁とシリンダボディ2の周壁とが連結される連結部分2dには、大径貯液室3bとシリンダ孔2bとを連結するリリーフポート17a(本発明の液通孔)と、サプライポート17b(本発明の液通孔)とが形成されている。
【0024】
このような液圧マスタシリンダ1は、例えば、鋳造により形成され、リザーバタンク3は、上部開口部側から工具を挿入して小径液圧室3cとくびれ部3dとが加工されるとともに、下部開口部側から工具を挿入して大径貯液室3bが加工される。また、シリンダボディ2は、下端の開口から工具を挿入してシリンダ孔2bが加工される。さらに、リザーバタンク3の側部3gから、大径貯液室3bを貫通して、シリンダ孔2bに到達する2本の貫通孔が穿設され、該貫通孔の側部3gと大径貯液室3bとの間をシール部材18でシールすることにより、前記リリーフポート17aとサプライポート17bとが形成される。
【0025】
上述のように形成された液圧マスタシリンダ1は、
図1に示されるような非制動状態から、運転者がブレーキペダル19を操作すると、プッシュロッド10が上動して、ピストン4をシリンダ孔2bの上方向へ押動し、プライマリカップ5がリリーフポート17aを閉塞したのちは、液圧室7の作動液Fが徐々に昇圧される。液圧室で昇圧された作動液Fは、上部のユニオン孔11からブレーキホース20を通して後輪ブレーキのキャリパボディに送られ、後輪と一体に回転するディスクロータを制動する。また、制動を解除すると、ピストン4は、リターンスプリング8によって初期の位置に復帰する。
【0026】
本形態例は上述のように形成されることにより、リザーバタンク3の高さを高くすることなく貯液量を増大させることができる。さらに、リザーバタンク3の上部開口部A1の径は、貯液量の少ない従来のリザーバタンクの径を維持することができることから、貯液量の少ない従来のリザーバタンクのキャップや、ダイヤフラムや、ダイヤフラムプレートを、貯液量を増大させた本形態例のキャップ14や、ダイヤフラム12や、ダイヤフラムプレート13として利用することができ、コストが嵩む虞がない。
【0027】
また、大径貯液室3bの下端部を開口させて、下部開口部A2を形成するとともに、該下部開口部A2を閉塞部材15で閉塞したことにより、液圧マスタシリンダ1を製造する際に、上部開口部側から工具を挿入して小径液圧室3cとくびれ部3dとを、下部開口部側から工具を挿入して大径貯液室3bをそれぞれ加工することができ、加工性の向上を図ることができる。さらに、閉塞部材15は側面に雄ねじ部15aを備え、該雄ねじ部15aを雌ねじ部3fに螺合することにより、閉塞部材15を容易に取り付けることができる。
【0028】
図6は、本発明の第2形態例を示す液圧マスタシリンダ21で、第1形態例と同様の構成要素を示すものには、同一の符号をそれぞれ付して、その詳細な説明は省略する。本形態例のリザーバタンク22の貯液室22aは、縦長の有底円筒状に形成され、該貯液室22aの下部側には、上部側よりも大径に形成された大径貯液室22bが設けられている。さらに、貯液室22aの上部側には、大径貯液室22bよりも小径に形成され、上端部に上部開口部A3を備える小径貯液室22cと、小径貯液室22cと大径貯液室22bとの間に設けられ、小径貯液室22cよりも小径に形成されたくびれ部22dとが形成されている。また、リザーバタンク22の上部開口部A3は、ダイヤフラム23とダイヤフラムプレート24とを介してキャップ25が被着されることにより閉塞される。
【0029】
このような液圧マスタシリンダ21は、例えば、鋳造により形成され、リザーバタンク22は、上部開口部側から工具を挿入して、コンタリング加工により大径貯液室22bが加工される。
【0030】
なお、本発明は上述の形態例に限るものではなく、貯液室の上部側にくびれ部を備えているものに限らず、貯液室を上部側の小径貯液室と下部側の大径貯液室とで形成したものでもよい。また、ダイヤフラムやダイヤフラムプレートの形状は任意である。さらに、リザーバタンクの軸線とシリンダボディの軸線が平行であってもよい。
【符号の説明】
【0031】
1…液圧マスタシリンダ、2…シリンダボディ、2a…ブラケット、2b…シリンダ孔、2c…底部、2d…連結部分、3…リザーバタンク、3a…貯液室、3b…大径貯液室、3c…小径貯液室、3d…くびれ部、3e…ボルト締結部、3f…雌ねじ孔、3g…側部、4…ピストン、5…プライマリカップ、6…セカンダリカップ、7…液圧室、8…リターンスプリング、9…サークリップ、10…プッシュロッド、10a…頭部、11…ユニオン孔、12…ダイヤフラム、12a…蛇腹部、12b…小径筒部、12c…円板部、12d…フランジ部、13…ダイヤフラムプレート、14…キャップ、14a…取付片、15…閉塞部材、15a…雄ねじ部、15b…六角穴、16…ボルト、17a…リリーフポート、17b…サプライポート、18…シール部材、19…ブレーキペダル、20…ブレーキホース、21…液圧マスタシリンダ、22…リザーバタンク、22a…貯液室、22b…大径貯液室、22c…小径貯液室、22d…くびれ部、23…ダイヤフラム、24…ダイヤフラムプレート、25…キャップ