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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-26
(45)【発行日】2024-10-04
(54)【発明の名称】作業車用動力伝達装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 57/04 20100101AFI20240927BHJP
【FI】
F16H57/04 N
F16H57/04 J
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020218795
(22)【出願日】2020-12-28
(65)【公開番号】P2022103893
(43)【公開日】2022-07-08
【審査請求日】2022-12-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】土田 友也
(72)【発明者】
【氏名】速水 敦郎
(72)【発明者】
【氏名】定本 浩幸
(72)【発明者】
【氏名】森永 啓太郎
(72)【発明者】
【氏名】和田 航洋
(72)【発明者】
【氏名】荒木 陸人
【審査官】増岡 亘
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-3761(JP,A)
【文献】国際公開第2020/137059(WO,A1)
【文献】特開2019-52711(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 57/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミッションケースと、
前記ミッションケースに収容され、走行装置に動力伝達するギヤミッションと、
前記ミッションケースの内部空間に貯留される潤滑油に入り込む状態で前記ギヤミッションに設けられる伝動ギヤと、
前記ギヤミッションに設けられ、前記走行装置に出力する差動機構と、が備えられ、
前記ミッションケースに、前記伝動ギヤと隣り合う状態で前記伝動ギヤの支軸を支持する壁部が備えられ、
前記壁部から前記伝動ギヤの外周に向けて突設され、前記伝動ギヤを覆う覆部が備えられており、
前記覆部は、前記壁部に片持ち状態で保持されており、
前記伝動ギヤの前記支軸は、前記差動機構の入力軸である作業車用動力伝達装置。
【請求項2】
ミッションケースと、
前記ミッションケースに収容され、走行装置に動力伝達するギヤミッションと、
前記ミッションケースの内部空間に貯留される潤滑油に入り込む状態で前記ギヤミッションに設けられる伝動ギヤと、
前記ギヤミッションに設けられ、前記走行装置に出力する差動機構と、が備えられ、
前記ミッションケースに、前記伝動ギヤと隣り合う状態で前記伝動ギヤの支軸を支持する壁部が備えられ、
前記壁部から前記伝動ギヤの外周に向けて突設され、前記伝動ギヤを覆う覆部が備えられており、
前記覆部の上端の位置は、前記支軸の軸芯の位置よりも高く配置され、
前記伝動ギヤの前記支軸は、前記差動機構の入力軸である作業車用動力伝達装置。
【請求項3】
前記覆部は、前記支軸の軸芯に沿う方向視において弧状である請求項1または2に記載の作業車用動力伝達装置。
【請求項4】
前記覆部は、前記壁部に一体成形されている請求項1または2に記載の作業車用動力伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業車用動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
作業車用動力伝達装置には、ミッションケースと、ミッションケースに収容され、走行装置に動力伝達するギヤミッションと、が備えられたものがある。この種の作業車用動力伝達装置には、ミッションケースの内部空間に貯留される潤滑油に入り込む状態でギヤミッションに設けられる伝動ギヤが備えられるものがある。この種の作業車用動力伝達装置としては、例えば、特許文献1に示されるものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-95058号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
作業が能率よく進むように高速走行を行える作業車が要望されている。上記した作業車用動力伝達装置においては、走行可能な速度を高速にした場合、潤滑油に入り込む状態の伝動ギヤが潤滑油を撹拌しつつ回転する速度が速くなって伝動ギヤに大きい駆動負荷が掛かるのでギヤミッションにおける伝動ロスが増加する。
【0005】
本発明は、潤滑油に入り込む状態の伝動ギヤに起因するギヤミッションの伝動ロスの増加を抑制しつつ、かつ、対策構造を簡素に済ませつつ走行装置の高速駆動を可能にできる作業車用動力伝達装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による作業車用動力伝達装置は、
ミッションケースと、前記ミッションケースに収容され、走行装置に動力伝達するギヤミッションと、前記ミッションケースの内部空間に貯留される潤滑油に入り込む状態で前記ギヤミッションに設けられる伝動ギヤと、前記ギヤミッションに設けられ、前記走行装置に出力する差動機構と、が備えられ、前記ミッションケースに、前記伝動ギヤと隣り合う状態で前記伝動ギヤの支軸を支持する壁部が備えられ、前記壁部から前記伝動ギヤの外周に向けて突設され、前記伝動ギヤを覆う覆部が備えられており、前記覆部は、前記壁部に片持ち状態で保持されており、前記伝動ギヤの前記支軸は、前記差動機構の入力軸である
【0007】
本構成によると、伝動ギヤが回転されることによって行う潤滑油の撹拌の潤滑油貯留領域への広がりが覆部によって抑制されるので、伝動ギヤに掛かる駆動負荷の増加を抑制しつつ伝動ギヤの回転速度を増速でき、ギヤミッションにおける伝動ロスの増加を抑制しつつ走行装置を高速駆動することが可能になる。壁部から覆部を突設すればよく、かつ、覆部を伝動ギヤと隣り合う壁部から突設するので覆部の突出長さが短くて済むので簡素な対策構造で済ませられる。
別の本発明による作業車用動力伝達装置は、
ミッションケースと、前記ミッションケースに収容され、走行装置に動力伝達するギヤミッションと、前記ミッションケースの内部空間に貯留される潤滑油に入り込む状態で前記ギヤミッションに設けられる伝動ギヤと、前記ギヤミッションに設けられ、前記走行装置に出力する差動機構と、が備えられ、前記ミッションケースに、前記伝動ギヤと隣り合う状態で前記伝動ギヤの支軸を支持する壁部が備えられ、前記壁部から前記伝動ギヤの外周に向けて突設され、前記伝動ギヤを覆う覆部が備えられており、前記覆部の上端の位置は、前記支軸の軸芯の位置よりも高く配置され、前記伝動ギヤの前記支軸は、前記差動機構の入力軸である
【0008】
本発明においては、
前記覆部は、前記支軸の軸芯に沿う方向視において弧状であると好適である。
【0009】
本構成によると、覆部を全長にわたって伝動ギヤに近づけることができるので、伝動ギヤによる潤滑油の撹拌が潤滑油貯留領域へ広がることの覆部による抑制を効果的にできる。
【0010】
本発明においては、
前記覆部は、前記壁部に一体成形されていると好適である。
【0011】
本構成によると、覆部を壁部に支持させる支持構造を簡素に済ませられるので、必要な部品点数の増加を抑制しつつ、伝動ギヤによる潤滑油の撹拌が潤滑油貯留領域へ広がることを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】トラクタの全体を示す左側面図である。
図2】走行伝動装置を示す線図である。
図3】無段変速装置の変速状態と、速度レンジと、段階分け伝動部の出力軸の回転速度との関係を示す説明図である。
図4】第1中継ギヤを示す断面図である。
図5】第1中継ギヤを示す後面図である。
図6】第2中継ギヤ、第1覆部および第2壁部を示す断面図である。
図7】第2中継ギヤ、第1覆部および第2壁部を示す前面図である。
図8】伝動ギヤ、逆転ギヤ、第2覆部、第3覆部および第3壁部を示す断面図である。
図9】伝動ギヤおよび第2覆部を示す前面図である。
図10】逆転ギヤおよび第3覆部を示す後面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一例である実施形態を図面に基づいて説明する。
なお、以下の説明では、トラクタ(「作業車」の一例)の走行車体に関し、図1に示される矢印Fの方向を「車体前方」、矢印Bの方向を「車体後方」、矢印Uの方向を「車体上方」、矢印Dの方向を「車体下方」、紙面表側の方向を「車体左方」、紙面裏側の方向を「車体右方」とする。
【0014】
〔トラクタの全体〕
トラクタの走行車体は、エンジン1などによって構成された車体フレーム5、車体フレーム5の前部に駆動可能に備えられた走行装置としての左右一対の前車輪6、車体フレーム5の後部に駆動可能に備えられた走行装置としての左右一対の後車輪7を有している。
車体フレーム5は、エンジン1、エンジン1の後部に備えられたクラッチハウジング2、クラッチハウジング2に連結されたミッションケース3、および前部フレーム4などによって構成されている。左右一対の前車輪6は、車体上下向きの操向軸芯(図示せず)を揺動支点にして揺動操作されることによって操向される。走行車体の前部に、エンジン1を有する原動部8が形成されている。走行車体の後部に運転部9が形成されている。運転部9に、運転座席10、前車輪6を操向操作するステアリングホィール11、搭乗空間を覆うキャビン12が備えられている。車体フレーム5の後部に、ロータリ耕耘装置(図示せず)などの各種の作業装置を昇降操作可能に連結するリンク機構13、エンジン1からの動力を取り出し、取り出した動力を連結された作業装置に伝達する動力取出軸14が備えられている。
【0015】
〔動力伝達装置〕
エンジン1からの動力が図2に示される動力伝達装置15によって前車輪6および後車輪7に伝達されるように構成されている。動力伝達装置15に備えられるミッションケース3は、ミッションケース3の前後方向と走行車体の前後方向とが一致する状態で備えられる。
【0016】
図2に示されるように、動力伝達装置15は、ミッションケース3、ミッションケース3に収容されたギヤミッション15Mを備えている。ギヤミッション15Mは、ミッションケース3の入力軸17に連結された主変速部18、主変速部18の出力が入力される段階分け伝動部19、段階分け伝動部19の出力が入力される前後進切換装置20、前後進切換装置20の出力が入力される後輪差動機構22、前後進切換装置20の出力が入力される前輪伝動装置26を備えている。
【0017】
主変速部18には、遊星ギヤ装置18Aおよび無段変速装置18Bが備えられている。
遊星ギヤ装置18Aの前部に、入力軸17の動力を遊星ギヤ装置18Aに入力する第1ギヤ連動機構34が連結されている。無段変速装置18Bの後部に、入力軸17の動力を無段変速装置18Bに入力する第2ギヤ連動機構35が連結されている。無段変速装置18Bの前部に、無段変速装置18Bの出力を遊星ギヤ装置18Aに入力する第3ギヤ連動機構36が連結されている。前後進切換装置20の前部に、前後進切換装置20の出力を後輪差動機構22に伝達する後輪ギヤ連動機構21が連結されている。前輪伝動装置26の後部に、前後進切換装置20の出力を前輪伝動装置26に入力する前輪ギヤ連動機構25が連結されている。
【0018】
図2に示されるように、動力伝達装置15においては、エンジン1の出力軸1aの動力が主クラッチ16を介してミッションケース3の入力軸17に伝達される。入力軸17の動力が主変速部18に入力され、主変速部18の出力が段階分け伝動部19に入力され、段階分け伝動部19の出力が前後進切換装置20に入力される。前後進切換装置20の出力が後輪ギヤ連動機構21を介して後輪差動機構22の入力軸22aに伝達される。後輪差動機構22の出力を後車輪7に伝達する動力伝達系に、操向ブレーキ23および減速機構24が設けられている。減速機構24は、遊星歯車機構によって構成されている。後輪差動機構22の入力軸22aの動力が前輪ギヤ連動機構25を介して前輪伝動装置26に入力され、前輪伝動装置26から回転軸27を介して前輪差動機構28に伝達される。前輪ギヤ連動機構25に、駐車ブレーキ29が設けられている。
【0019】
図2に示される30は、作業変速装置である。作業変速装置30においては、入力軸17の動力が回転軸31および後回転軸32を介して入力され、入力された動力が変速されて動力取出軸14に伝達される
【0020】
〔主変速部〕
主変速部18は、図2に示されるように、遊星ギヤ装置18Aおよび無段変速装置18Bを備えている。遊星ギヤ装置18Aは、ミッションケース3の前後方向に並ぶ二つの遊星ギヤ装置部50,60を備えている。二つの遊星ギヤ装置部50,60のうちの前の遊星ギヤ装置部50と入力軸17とが第1ギヤ連動機構34を介して連結されている。無段変速装置18Bは、静油圧式の無段変速装置によって構成され、可変容量型の油圧ポンプP、および油圧モータMを備えている。無段変速装置18Bのポンプ軸と入力軸17とが第2ギヤ連動機構35および回転軸31を介して連結されている。無段変速装置18Bのモータ軸と二つの遊星ギヤ装置部50,60のうちの前の遊星ギヤ装置部50とが第3ギヤ連動機構36を介して連結されている。
【0021】
主変速部18においては、エンジン1からの動力が無段変速装置18Bによって変速され、変速された動力と、エンジン1から第3ギヤ連動機構36を介して伝達される動力とが遊星ギヤ装置18Aに入力されて二つの遊星ギヤ装置部50,60によって合成され、合成動力が同芯状に重なる第1出力軸37a、第2出力軸37b、第3出力軸37cから出力される。
【0022】
〔段階分け伝動部〕
段階分け伝動部19は、図2に示されるように、遊星ギヤ装置18Aの出力が入力される四つの段階分けクラッチCL1ないしCL4、四つの段階分けクラッチCL1ないしCL4が設けられた出力軸38を備えている。
【0023】
段階分け伝動部19においては、無段変速装置18Bおよび四つの段階分けクラッチCL1ないしCL4が適切に操作されることにより、遊星ギヤ装置18Aからの合成動力が4段階の速度レンジに段階分けされて出力軸38から出力される。
【0024】
図3は、無段変速装置18Bの変速状態と、速度レンジと、段階分け伝動部19の出力軸38の回転速度Vとの関係を示す説明図である。図3の縦軸は、出力軸38の回転速度Vを示す。図3の横軸は、無段変速装置18Bの変速状態を示し、「N」は、中立状態を示し、「-MAX」は、逆回転方向における最高速の変速状態を示す。「+MAX」は、正回転方向における最高速の変速状態を示す。
【0025】
四つの段階分けクラッチCL1ないしCL4のうち、第1クラッチCL1が入り状態にされ、無段変速装置18Bが変速操作されると、第1出力軸37aの動力が1速ギヤ連動機構39aおよび第1クラッチCL1によって変速されて出力軸38から出力される。図3に示されるように、出力軸38の回転速度が1速レンジの回転速度になり、無段変速装置18Bが「-MAX」から「+MAX」に向けて変速されるに伴い、出力軸38の回転速度Vが零速度[0]から1速レンジの最高速[V1]まで無段階に増速する。
【0026】
四つの段階分けクラッチCL1ないしCL4のうち、第2クラッチCL2が入り状態にされ、無段変速装置18Bが変速操作されると、第3出力軸37cの動力が2速ギヤ連動機構39bおよび第2クラッチCL2によって変速されて出力軸38から出力される。図3に示されるように、出力軸38の回転速度が1速レンジより高速の2速レンジの回転速度になり、無段変速装置18Bが「+MAX」から「-MAX」に向けて変速されるに伴い、出力軸38の回転速度Vが2速レンジの最低速[V1]から2速レンジの最高速[V2]まで無段階に増速する。
【0027】
四つの段階分けクラッチCL1ないしCL4のうち、第3クラッチCL3が入り状態にされ、無段変速装置18Bが変速操作されると、第2出力軸37bの動力が3速ギヤ連動機構39cおよび第3クラッチCL3によって変速されて出力軸38から出力される。図3に示されるように、出力軸38の回転速度が2速レンジより高速側の3速レンジの回転速度になり、無段変速装置18Bが[-MAX」から「+MAX」に向けて変速されるに伴い、出力軸38の回転速度Vが3速レンジの最低速[V2]から3速レンジの最高速[V3]まで無段階に増速する。
【0028】
四つの段階分けクラッチCL1ないしCL4のうち、第4クラッチCL4が入り状態にされ、無段変速装置18Bが変速操作されると、第3出力軸37cの動力が4速ギヤ連動機構39dおよび第4クラッチCL4によって変速されて出力軸38から出力される。図3に示されるように、出力軸38の回転速度が3速レンジより高速側の4速レンジの回転速度になり、無段変速装置18Bが「+MAX」から「-MAX」に向けて変速されるに伴い、出力軸38の回転速度Vが4速レンジの最低速[V3]から4速レンジの最高速[V4]まで無段階に増速する。
【0029】
〔前後進切換装置〕
前後進切換装置20は、図2に示されるように、段階分け伝動部19の出力軸38に連結された入力軸40、入力軸40に設けられた前進クラッチCLFおよび後進クラッチCLR、前進クラッチCLFに前進ギヤ機構41fを介して連結され、後進クラッチCLRに後進ギヤ機構41rを介して連結された出力軸42を備えている。
【0030】
前後進切換装置20においては、前進クラッチCLFが入り状態にされると、段階分け伝動部19から入力軸40に伝達された動力が前進クラッチCLFおよび前進ギヤ機構41fによって前進動力に変換して出力軸42から出力される。後進クラッチCLRが入り状態にされると、段階分け伝動部19から入力軸40に伝達された動力が後進クラッチCLRおよび後進ギヤ機構41rによって後進動力に変換して出力軸42から出力される。
出力軸42から出力される前進動力および後進動力が後輪ギヤ連動機構21に伝達され、後輪ギヤ連動機構21によって後輪差動機構22の入力軸22aに伝達される。
【0031】
〔前輪伝動装置〕
前輪伝動装置26は、図2に示されるように、後輪差動機構22の入力軸22aに前輪ギヤ連動機構25を介して連結された入力軸43、入力軸43に設けられた等速クラッチCLTおよび増速クラッチCLH、等速クラッチCLTに等速ギヤ機構44aを介して連結され、かつ増速クラッチCLHに増速ギヤ機構44bを介して連結された出力軸45を備えている。
【0032】
前輪伝動装置26においては、等速クラッチCLTが入り状態にされると、後輪差動機構22の入力軸22aから入力軸43に伝達される動力が等速クラッチCLTおよび等速ギヤ機構44aを介して出力軸45に伝達されて出力軸45から前輪差動機構28に伝達される。この場合、左右一対の前車輪6の平均周速度と左右一対の後車輪7の平均周速度とがほぼ等しい状態で左右一対の前車輪6および左右一対の後車輪7が駆動される状態、いわゆる前後輪等速度の四輪駆動状態が現出される。増速クラッチCLHが入り状態にされると、後輪差動機構22の入力軸22aから入力軸43に伝達される動力が増速クラッチCLHおよび増速ギヤ機構44bを介して出力軸45に伝達されて出力軸45から前輪差動機構28に伝達される。この場合、左右一対の前車輪6の平均周速度が左右一対の後車輪7の平均周速度よりも速い状態で左右一対の前車輪6および左右一対の後車輪7が駆動される状態、いわゆる、前輪増速の四輪駆動状態が現出される。
【0033】
〔遊星ギヤ装置〕
遊星ギヤ装置18Aは、図2に示されるように、ミッションケース3の前後方向に並ぶ二つの遊星ギヤ装置部50,60を備えている。遊星ギヤ装置18Aは、複合遊星ギヤ装置に構成されている。以下において、二つの遊星ギヤ装置部50,60のうちの前の遊星ギヤ装置部50を第1遊星ギヤ装置部50と称し、二つの遊星ギヤ装置部50,60のうちの後の遊星ギヤ装置部60を第2遊星ギヤ装置部60と称して説明する。
【0034】
〔第1遊星ギヤ装置部〕
第1遊星ギヤ装置部50は、図2に示されるように、第1太陽ギヤ51と、第1太陽ギヤ51と噛合う第1遊星ギヤ52と、第1遊星ギヤ52と噛合う第1内歯ギヤ53と、第1遊星ギヤ52を回転可能に支持し、かつ、第1太陽ギヤ51の周りを公転する第1遊星ギヤ52と共に第1太陽ギヤ51の軸芯を回転中心にして回転する第1キャリヤ54と、を備えている。
【0035】
〔第2遊星ギヤ装置部〕
第2遊星ギヤ装置部60は、図2に示されるように、第2太陽ギヤ61と、第2太陽ギヤ61と噛合う第2遊星ギヤ62と、第2遊星ギヤ62と噛合う第2内歯ギヤ63と、第2遊星ギヤ62を回転可能に支持し、かつ、第2太陽ギヤ61の周りを公転する第2太陽ギヤ61と共に第2太陽ギヤ61の軸芯を回転中心にして回転する第2キャリヤ64と、を備えている。
【0036】
第1遊星ギヤ装置部50に、第1遊星ギヤ52に噛み合う伝動ギヤ(図示せず)が備えられ、第1遊星ギヤ装置部50と第2遊星ギヤ装置部60とにわたり、伝動ギヤと第2遊星ギヤ62とを連動連結する連結部材(図示せず)が設けられている。第1遊星ギヤ装置部50の第1キャリヤ54と、第2遊星ギヤ装置部60の第2キャリヤ64とは、一体回転可能に連結されている。
【0037】
〔第2速ギヤ連動機構〕
図2に示されるように、2速ギヤ連動機構39bには、第3出力軸37cに設けられた出力伝動ギヤ82と、出力伝動ギヤ82に噛み合った状態で第2クラッチCL2の入力部材に設けられた入力ギヤ82aと、が備えられている。
【0038】
〔第2ギヤ連動機構〕
第2に示されるように、第2ギヤ連動機構35には、出力伝動ギヤ82よりも後側において回転軸31に連結され、入力軸17から回転軸31に伝達された動力を回転軸31から取り出して油圧ポンプPに伝達するポンプ用伝動ギヤ86が備えられている。
【0039】
〔第1ギヤ連動機構〕
第1ギヤ連動機構34には、図2に示されるように、入力軸17に設けられた第1伝動ギヤ70と、第1内歯ギヤ53に連結された第2伝動ギヤ71と、第1伝動ギヤ70に噛み合う第1中継ギヤ72と、第2伝動ギヤ71に噛み合う第2中継ギヤ73と、が備えられている。第1中継ギヤ72と第2中継ギヤ73とは、カウンタ軸74によって連結された状態でカウンタ軸74に支持されている。
【0040】
図4に示されるように、伝動ギヤとしての第1中継ギヤ72と隣り合って位置する第1壁部75がミッションケース3に備えられている。第1壁部75は、第1中継ギヤ72よりも前側においてミッションケース3に備えられている。本実施形態では、第1壁部75は、ミッションケース3の前向き開口を閉じる状態でミッションケース3の前部に脱着可能に取付けられるフロントカバー76に備えられている。図4に示されるように、第1中継ギヤ72の支軸としてのカウンタ軸74が第1壁部75に支持されるように構成されている。具体的には、図4に示されるように、カウンタ軸74は、第1壁部75に形成された支持部75aとカウンタ軸74との間に位置するベアリング77を介して支持部75aに支持される。
【0041】
第1中継ギヤ72は、ミッションケース3の内部空間に貯留される潤滑油に入り込む状態で設けられている。
【0042】
詳述すると、図5に示されるように、ミッションケース3に貯留される潤滑油の油面Sの位置と、カウンタ軸74の位置とが同じになるように構成されている。第1中継ギヤ72の下部が潤滑油に入り込む。
【0043】
図6に示されるように、第2中継ギヤ73と隣り合って位置する第2壁部79がミッションケース3に備えられている。第2壁部79は、第2中継ギヤ73よりも後側においてミッションケース3に備えられている。本実施形態では、第2壁部79は、ミッションケース3とは、別部材に作製され、ミッションケース3の内部に脱着可能に連結されることによってミッションケース3に備えられる。図6に示されるように、第2中継ギヤ73の支軸としてのカウンタ軸74は、第2壁部79に支持されている。本実施形態では、カウンタ軸74は、第2壁部79に形成された支持部79aとカウンタ軸74との間に位置するベアリング80を介して支持部79aに支持される。
【0044】
第2中継ギヤ73は、ミッションケース3の内部空間に貯留される潤滑油に入り込む状態で設けられている。具体的には、図7に示されるように、第2中継ギヤ73の下部が潤滑油に入り込んでいる。図7に示されるように、第2壁部79の外周部に備えられたフランジ部90の下部90aが第2中継ギヤ73の下方に弧状で位置するように構成されている。下部90aは、第2中継ギヤ73の径方向での外側から中継ギヤ73を覆う第1覆部を構成している。第2中継ギヤ73が回転されることによって行う潤滑油の撹拌の潤滑油貯留領域への広がりが第1覆部(下部90a)によって抑制される。
【0045】
〔後輪ギヤ連動機構〕
図2に示されるように、後輪ギヤ連動機構21には、前後進切換装置20の出力ギヤ20aに噛み合い、出力ギヤ20aの動力を後輪差動機構22の入力軸22aに伝達する伝動ギヤ91が備えられている。伝動ギヤ91は、入力軸22aに支持されている。図8に示されるように、伝動ギヤ91と隣り合って位置する第3壁部83がミッションケース3に備えられている。第3壁部83は、伝動ギヤ91よりも後側においてミッションケース3に備えられている。本実施形態では、第3壁部83は、ミッションケース3とは、別部材に作製され、ミッションケース3の内部に脱着可能に連結されることによってミッションケース3に備えられる。図8に示されるように、伝動ギヤ91の支軸としての入力軸22aは、第3壁部83に支持されている。具体的には、図8に示されるように、入力軸22aは、第3壁部83と入力軸22aとの間に設けられたベアリング84を介して壁部83に支持されている。
【0046】
伝動ギヤ91は、図9に示されるように、ミッションケース3の内部空間に貯留される潤滑油に入り込む状態で設けられている。図8,9に示されるように、第3壁部83から伝動ギヤ91の外周に向けて第2覆部85が突設されている。第2覆部85は、伝動ギヤ91の径方向での外側から伝動ギヤ91を覆うように構成されている。伝動ギヤ91が回転されることによって行う潤滑油の撹拌の潤滑油貯留領域への広がりが第2覆部85によって抑制される。
【0047】
詳述すると、図9に示されるように、ミッションケース3に貯留される潤滑油の油面Sの位置と、入力軸22aの位置とが同じになるように構成されている。伝動ギヤ91の下部が潤滑油に入り込む。第2覆部85の下部が油面Sよりも下側に延ばされ、潤滑油に入り込む。
【0048】
第2覆部85は、入力軸22aの軸芯に沿う方向視において弧状であるように構成されている。第2覆部85は、第3壁部83と一体成形されている。図8に示されるように、第2覆部85は、突出端部が伝動ギヤ91の第3壁部側とは反対側の側部よりも第3壁部側とは反対側に位置するように構成されている。本実施形態では、第2覆部85の第3壁部83の前側部83aからの突出長さL2は、伝動ギヤ91の歯部の全幅にわたって伝動ギヤ91を覆う長さにされている。第2覆部85は、伝動ギヤ91の周囲のうちのギヤ周方向での約70パーセントの領域に位置するように構成されている。
【0049】
〔前後進切換装置〕
図2に示されるように、前後進切換装置20における後進ギヤ機構41rには、後進クラッチCLRの出力回転部材の歯部に噛み合う伝動ギヤとしての逆転ギヤ46が備えられている。逆転ギヤ46は、後輪差動機構22の入力軸22aに相対回転可能に支持されている。
【0050】
図8に示されるように、逆転ギヤ46と隣り合って位置する第3壁部83がミッションケース3に備えられている。逆転ギヤ46は、図8に示されるように、逆転ギヤ46と入力軸22aとの間に設けられた2つのベアリング89を介して入力軸22aに支持されている。逆転ギヤ46の支軸としての入力軸22aは、逆転ギヤ46と伝動ギヤ91との間に位置するベアリング84を介して第3壁部83に支持されている。
【0051】
逆転ギヤ46は、ミッションケース3の内部空間に貯留される潤滑油に入り込む状態で設けられている。図8,10に示されるように、第3壁部83から逆転ギヤ46の外周に向けて第3覆部88が突設されている。第3覆部88は、逆転ギヤ46の径方向での外側から逆転ギヤ46を覆うように構成されている。第3覆部88は、第3壁部83の後側部から突設されている。逆転ギヤ46が回転されることによって行う潤滑油の撹拌の潤滑油貯留領域への広がりが第3覆部88によって抑制される。本実施形態では、第3覆部88に、逆転ギヤ46を後方から見て逆転ギヤ46の左横外側方に位置する左覆部88a、および、逆転ギヤ46を後方から見て逆転ギヤ46の右横外側方に位置する右覆部88bを備えている。
【0052】
詳述すると、ミッションケース3に貯留される潤滑油の油面Sの位置と、入力軸22aの位置とが同じになるように構成されている。逆転ギヤ46の下部が潤滑油に入り込む。
第3覆部88の中間部が油面Sよりも下側に延ばされ、潤滑油に入り込む。具体的には、左覆部88aおよびの右覆部88bの下部が潤滑油に入り込む。
【0053】
第3覆部88は、入力軸22aの軸芯に沿う方向視において弧状であるように構成されている。第3覆部88は、第3壁部83に一体成形されている。図8に示されるように、第3覆部88は、突出端部が逆転ギヤ46の第3壁部側とは反対側の側部よりも第3壁部側とは反対側に位置するように構成されている。本実施形態では、第3覆部88の第3壁部83の後側部83bからの突出長さL3は、逆転ギヤ46の歯部の全幅にわたって逆転ギヤ46を覆う長さにされている。
【0054】
〔別実施形態〕
(1)上記した実施形態では、遊星ギヤ装置18A、無段変速装置18B、段階分け伝動部19を設けた例を示したが、これに限らない。遊星ギヤ装置18A、無段変速装置18Bおよび段階分け伝動部19を備えず、シフトギヤの掛け替えのみで変速されるギヤミッション、あるいは、遊星ギヤ装置および無段変速装置のいずれか一方のみで変速されるギヤミッションであってもよい。
【0055】
(2)上記した実施形態では、第1覆部90a、第2覆部85および第3覆部88を弧状に構成した例を示したが、これに限らない。たとえば、平板状、U字状、折れ板状に構成されたものであってもよい。
【0056】
(3)上記した実施形態では、第1覆部90aおよび第3覆部88は、壁部に一体成形した例を示したが、これに限らず、第1覆部90aおよび第3覆部88は、壁部と別部材に作製して壁部にボルト連結されるものであってもよい。上記した実施形態では、第2覆部85は、第3壁部83と一体成形した例を示したが、第2覆部85は、第3覆部88とは別部材に作製されるものであってもよい。
【0057】
(4)上記した実施形態では、前車輪6および後車輪7が備えられた例を示した、これに限らない。たとえば、クローラ走行装置、あるいは、車輪とミニクローラとが組み合わされた走行装置が備えられたものであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、トラクタの他、コンバイン、多目的車両など、各種の作業車に用いられる作業車用動力伝達装置に適用できる。
【符号の説明】
【0059】
3 ミッションケース
6 走行装置(前車輪)
7 走行装置(後車輪)
46 伝動ギヤ(逆転ギヤ)
74 支軸(カウンタ軸)
22a 支軸(入力軸)
73 伝動ギヤ(第2中継ギヤ)
79 壁部(第2壁部)
83 壁部(第3壁部)
85 覆部(第2覆部)
88 覆部(第3覆部)
90a 覆部(第1覆部・下部)
91 伝動ギヤ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10