(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-26
(45)【発行日】2024-10-04
(54)【発明の名称】不溶性薬物用の水性製剤
(51)【国際特許分類】
A61K 47/24 20060101AFI20240927BHJP
A61K 47/14 20170101ALI20240927BHJP
A61K 47/46 20060101ALI20240927BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20240927BHJP
A61K 31/506 20060101ALI20240927BHJP
A61K 31/5513 20060101ALI20240927BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
A61K47/24
A61K47/14
A61K47/46
A61K9/08
A61K31/506
A61K31/5513
A61K45/00
(21)【出願番号】P 2020570411
(86)(22)【出願日】2019-03-06
(86)【国際出願番号】 US2019021029
(87)【国際公開番号】W WO2019173526
(87)【国際公開日】2019-09-12
【審査請求日】2022-03-04
(32)【優先日】2018-03-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520341566
【氏名又は名称】アンドリュー シアン チェン
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【氏名又は名称】武居 良太郎
(72)【発明者】
【氏名】アンドリュー シアン チェン
(72)【発明者】
【氏名】モハマド サイフル イスラム
(72)【発明者】
【氏名】チャン-チョン チュー
(72)【発明者】
【氏名】チエンミン シュイ
【審査官】金子 亜希
(56)【参考文献】
【文献】特表2001-527577(JP,A)
【文献】特開昭60-042325(JP,A)
【文献】特表2016-515530(JP,A)
【文献】特表2009-525342(JP,A)
【文献】特開平02-290809(JP,A)
【文献】International Journal of Pharmaceutics,2012年,436:536-544
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 47/00-47/69
A61K 9/00- 9/72
A61K 31/00-31/80
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
注射用可溶化剤組成物であって、
a.6%~72.5%の濃度で、レシチンの重量を基準としてホスファチジルコリンの含有量が75パーセント以上であるレシチン;
b.0%~32.5%の濃度で、鎖長が6~12個の炭素である脂肪酸を有する中鎖トリグリセリド(MCT);
c.11.5%~
94%の濃度で、胆汁酸塩;及び
d.水
を含み、
ここで、%は、レシチン、MCT及び胆汁酸塩の総重量に対する重量パーセントであり、組成物は透明であり、単相の水溶液であり、直径が5ナノメートルを超える大きさの固体粒子又は油滴を実質的に含まず、
レシチン、MCT及び胆汁酸塩の濃度が、3つの成分としてレシチン、MCT及び胆汁酸塩を有する三元状態図(
図1)内のゾーン内にあり、ゾーンは以下の組成:
【表1】
によって囲まれている、上記組成物。
【請求項2】
前記水は、レシチン、MCT及び胆汁酸塩の総重量に対する水の重量比が約0.1/1以上である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
組成物は、直径が5ナノメートルを超える大きさのリポソーム、エマルジョン、リン脂質粒子又は油滴を実質的に含まない、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
レシチンが、天然源に由来するか又は合成的に製造される、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
MCTが、天然源に由来するか又は合成的に製造される、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
胆汁酸塩が、コール酸、グリコール酸、タウロコール酸、デオキシコール酸、グリコデオキシコール酸若しくはタウロデオキシコール酸、ケノデオキシコール酸、グリコケノキシデオキシコール酸又はタウロケノキシデオキシコール酸のナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム、アルギニン、リジン又はアンモニウム塩、あるいはそれらの混合物からなる群より選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
エタノール、ベンジルアルコール、プロピレングリコール、低分子量(100~5,000g/mol)のポリエチレングリコール、又はそれらの組み合わせからなる群から選択されるアルコールをさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
アルコール濃度が、レシチン、MCT及び胆汁酸塩の総重量に対するアルコールの重量比が約1.6/1以下である、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
組成物が汎用の可溶化剤である、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
不溶性薬物又は可溶性薬物をさらに含有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
薬物が、低分子、ペプチド、タンパク質、又はそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項
10に記載の組成物。
【請求項12】
アミオダロン、アンホテリシン、アプレピタント、カンプトテシン、カンナビジオール、カゼイン、セレコキシブ、クラリスロマイシン、シクロスポリン、ジアゼパム、ドセタキセル、イブプロフェン、ヨウ素、イトラコナゾール、ヨウ素、イリノテカン、レボドパ、パクリタキセル、フィトナジオン、ポサコナゾール、酢酸プレドニソロン、プロゲステロン、ドプロプロノール、プロトアネプロドプロポフォール、レスベラトロール、テトラヒドロカンナビトール、チロシン、ボリコナゾール、PGE2、PGE1、オパールモン、ピロキシカム、ベネキサート、デキサメタゾン、ニトログリセリン、セフォチアム-ヘキセチル、セファロスポリン、チアプロフェン酸、ジフェンヒドラミン及びクロルテオフィリン、クロルジアゼポキシド、ヒドロコルチゾン、シサプリド、ニメスリド、アルプロスタジル、クロルアンフェニコール、ジクロフェナク、エストラジオール、インドメタシン、オメプラゾール、ジプラシドン、デキストロメトルファン、セチルジン、マイトマイシン、メロキシカム、アリピプラゾール又はその塩からなる群から選択される1つ以上の不溶性薬物を含有する、請求項
10に記載の組成物。
【請求項13】
0.01~3%の濃度のボリコナゾール、6%~72.5%の濃度のレシチン、0%~32.5%の濃度のMCT、11.5%~94%の濃度のグリココール酸を含み、%は、レシチン、MCT及びグリココール酸の総重量に対する重量パーセントであり、溶液のpHは3.5~7.5である、請求項1に記載の組成物。
【請求項14】
0.01%~3%の濃度のジアゼパム、6%~72.5%の濃度のレシチン、0%~32.5%の濃度のMCT、11.5~94%の濃度のグリココール酸を含み、%は、レシチン、MCT及びグリココール酸の総重量に対する重量パーセントであり、溶液のpHは6~8.5である、請求項1に記載の組成物。
【請求項15】
組成物が、10mgジアゼパム用量のヒトへの皮下注射後に、以下の薬物動態パラメータ:
(a)AETQ
(0-t)は約6194ng×h/mLであり、
(b)AUC
(0-inf)は約6688ng×h/mLであり、及び
(c)C
maxは約122.65ng/mLである
の少なくとも1つを有する、請求項
14記載の組成物。
【請求項16】
組成物のpHが3~10である、請求項1に記載の組成物。
【請求項17】
クレゾール、フェノール、ベンジルアルコール、エタノール、クロロブタノール、パラベン、イミジュラ、塩化ベンジルコニウム、EDTA又はそれらの塩若しくは組み合わせからなる群から選択される保存剤をさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項18】
マンニトール、ソルビトール、キシリトール、ラクトース、フルクトース、キシロース、ショ糖、トレハロース、マンノース、マルトース、デキストロース、デキストラン、デキストリン、又はこれらの組み合わせからなる群から選択される増量剤をさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項19】
EDTA、クエン酸、グリシン、ブチル化ヒドロキシアニソール、ブチル化ヒドロキシトルエン、システイン、メチオニン、チオグリセロール、重亜硫酸塩、メタ重硫酸塩、アスコルビン酸塩、没食子酸プロピル、トコフェロール、還元糖、又はそれらの塩若しくは組み合わせから選択される酸化防止剤をさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項20】
前記組成物が、経口投与、針による注射、カテーテルによる点滴、又は皮膚、粘膜、創傷、眼、耳、膣、尿道若しくは直腸への適用によって、ヒト又は動物の対象に投与される、請求項1に記載の組成物。
【請求項21】
前記組成物が80%以上の光透過率(T800)を有する、請求項
13又は
14に記載の組成物。
【請求項22】
前記組成物が、約10~1000cPの範囲の粘度を有する、請求項
13又は
14に記載の組成物。
【請求項23】
(a)透明な単相水溶液組成物を形成するために、レシチン、MCT及び胆汁酸塩の総重量に対する水の重量比が0.1/1以上になるようにした水に、レシチンを6%~72.5%の濃度に溶解し、中鎖トリグリセリド(MCT)を0%~32.5%の濃度に溶解し、及び胆汁酸塩を11.5%~94%の濃度に溶解し、%は、レシチン、MCT及び胆汁酸塩の総重量に対する重量パーセントであり;ならびに(b)pHを3~10に調整することを含む、請求項1に記載の組成物を調製する方法。
【請求項24】
ヒト又は動物における疾患の治療に使用するための、請求項1に記載の注射用可溶化剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2018年3月7日に出願された米国仮特許出願第62/639,710号に対する優先権を主張し、この開示は、全ての目的のために、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
発明の分野
本発明は、レシチン、中鎖トリグリセリド、胆汁酸塩、及び医薬用途のための薬物を溶解するための製剤ビヒクルとしての有用性を有する水を含む透明で単相の水溶液組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
不溶性分子は、現在発見又は商業的に開発されている原薬の約40~60%を占める。注射及び他の多くの投与経路に適するためには、これらの薬物は、まず液体ビヒクルに溶解しなければならない。安全性の理由から、非水性ビヒクルよりも水性ビヒクルが好ましい。
【0004】
レシチン、油、胆汁酸塩又はシクロデキストリンを使用するものを含む、不溶性薬物を溶解するために種々の薬物溶解剤が開発されている。これらの従来技術のすべての可溶化剤は、以下の欠点の1つ以上を有する:
1.透明又は単相の溶液ではなく、
2.一般的に有用と考えられる多くの薬物を溶解することができず、
3.薬物を溶解するには高エネルギーを必要とし、
4.水又は点滴静注液で希釈すると、薬物が沈殿し、
5.ヒト又は動物に注射した場合の安全性は不良である。
【0005】
本発明は、レシチン、中鎖トリグリセリド(MCT)、胆汁酸塩、及び水を含む4成分溶液組成物に関する。便宜上、本発明の組成物は、本明細書では、LMBW製剤、LMBW組成物又はLMBWとも呼ばれる。
【0006】
LMBW組成物は、薬物製剤、特に不溶性薬物に非常に有用な特定の物理的及び生物学的特性を有する。LMBW組成物は、他の可溶化剤に関連する上述の欠点を含まない。
【発明の概要】
【0007】
本開示は、以下:
a.レシチン;
b.MCT;
c.胆汁酸塩;及び
d.水
を含む、それらから本質的になる、またはそれらからなる透明な単相の水溶液組成物を提供する。
【0008】
ある態様では、本発明は、以下:
a.約6%~約72.5%の濃度のレシチン;
b.0%~約32.5%の濃度のMCT;
c.約11.5%~約94%の胆汁酸塩
を含む、透明で単相の水性液体組成物を提供し、ここで、水は、レシチン、MCT及び胆汁酸塩の総重量に対する水の重量比が約0.1/1(w/w)以上の濃度であり、ここで%は、レシチン、MCT及び胆汁酸塩の総重量に対する重量パーセント(w/w)である。
【0009】
一態様では、本発明は、LMBW組成物中の4成分:レシチン、MCT、胆汁酸塩、及び水を含む透明で単相の水性液体組成物を提供する。
【0010】
ある態様では、本発明で提供されるLMBW組成物は、単相の溶液であり、エマルジョン、リポソーム、混合ミセル分散及び懸濁液のような多相系ではない。
【0011】
ある態様では、本発明で提供されるLMBW組成物は、薬物を含まない製剤ビヒクルである。
【0012】
ある態様では、本発明で提供されるLMBW組成物は、さらに、薬物、化粧料、診断薬、又は栄養補助食品(すなわち、活性成分)を含む。
【0013】
ある態様では、本発明で提供されるLMBW組成物は、不溶性又は可溶性薬物を含む。
【0014】
一態様では、本発明で提供されるLMBW組成物は、さらに、アルコール、保存剤、酸化防止剤、増量剤、又はそれらの混合物を含むが、これらに限定されない賦形剤を含む。
【0015】
本発明はまた、液体ビヒクル、可溶化剤又は可溶性エンハンサーとしてLMBW組成物を使用して、不溶性薬物の溶解度を増加させる方法を提供する。
【0016】
ある態様では、本発明で提供されるLMBW組成物は、pH3~pH10である。
【0017】
本発明はまた、LMBW組成物を作製する方法を提供する。
【0018】
本発明はまた、水なし又は実質的に水を含まないLMBW組成物を作製する方法を提供する。
【0019】
さらに別の態様では、本発明は、薬物を伴う又は伴わないLMBW組成物の投与による患者の診断、治療又は予防としての方法を提供する。
【0020】
ある態様では、本発明で提供されるLMBW組成物は、医薬、化粧品又は栄養補給用途である。
【0021】
ある態様では、本発明で提供されるLMBW組成物は、水中の薬物の溶解度を増加させるために使用される。
【0022】
ある態様では、LMBW組成物は、ヒト又は動物の患者における注射又は経口、局所、吸入、眼、耳、鼻腔内、膣内投与、又は他の投与経路に適している。
【0023】
これら及び他の態様、対象及び実施形態は、以下の詳細な説明及び図を読むと、より明白になる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、本発明による一定量の水と組み合わせた3つの成分(L、M及びB)の濃度(乾燥重量又はL、M及びBの組み合わせ重量に基づく%w/w)をグラフで示す正三角形プロットにおける三元状態図を示す。
【
図2】
図2は、本発明による3つの成分(L、M及びB)の組み合わせにおける濃度(乾燥重量又はL、M及びBの組み合わせ重量に基づく%w/w)をグラフで示す正三角形プロットにおける三元状態図を示す。
【
図3】
図3は、本発明による一定量の水と組み合わせた3つの成分(L、M及びB)の濃度(乾燥重量又はL、M及びBの組み合わせ重量に基づく%w/w)をグラフで示す正三角形プロットにおける三元状態図を示す。
【
図4】
図4は、本発明による一定量の水と組み合わせた3つの成分(L、M及びB)の濃度(乾燥重量又はL、M及びBの合計重量に基づく%w/w)をグラフ的に示す正三角形プロットにおける三元状態図を示す。
【
図5】
図5は、本発明による一定量の水と組み合わせた3つの成分(L、M及びB)の濃度(乾燥重量又はL、M及びBの合計重量に基づく%w/w)をグラフ的に示す正三角形プロットにおける三元状態図を示す。
【
図6】
図6は、3mg/kg用量でビーグル犬に静脈内注射した後のVFEND(登録商標)(Rで示される)及びLMBW製剤(F96、実施例5、Tで示される)におけるボリコナゾールの経時的血漿中濃度プロファイルを示す。
【
図7】
図7は、透明、非晶質及びガラス様である固体LMBW(F95、実施例28)を示す。
【
図8】
図8A及び8Bは、上部パネル(8A)における非晶質固体LMBW(F95、実施例28)のXRPDスペクトルを、固体LMBWと同じ成分を有するが下部パネル(8B)における成分の直接混合によって調製された結晶性物理混合物と比較して示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
I.定義
本明細書で使用される様々な用語は、以下の定義を有するものとする。
【0026】
本明細書で使用される「約」は、目標値の両側から10%の膨張をカバーする範囲を有する量を記載する。例えば、「約100」は、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、100、101、102、103、104、105、106、107、108、109、及び/又は110などの90及び110の間の任意の値、及びその間の画分を意味する。
【0027】
本明細書で使用される「酸」とは、医薬用途に適した任意の有機酸又は無機酸を指す。注射剤又は他の溶液ベースの薬物に使用するためにFDAにより以前に承認された酸、又はFDAの不活性成分リストに記載されている酸が好ましい。LMBWに特に有用な酸としては、酢酸、アスコルビン酸、アスパラギン酸、ベンゼンスルホン酸、安息香酸、クエン酸、クエン酸、ギ酸、フマル酸、塩酸、臭化水素酸、乳酸、乳酸イオン酸、マレイン酸、リンゴ酸、メタンスルホン酸、メタンスルホン酸、リン酸、プロピオン酸、コハク酸、硫酸及び酒石酸が挙げられるが、これらに限定されない。
【0028】
「酸化防止剤」は、薬分子又は不活性成分の酸化を防止するために液体組成物に添加され得る薬学的添加剤である。酸化防止剤としては、還元剤、金属イオンキレート剤及び不活性ガスが挙げられるが、これらに限定されない。LMBWのための好ましい酸化防止剤としては、EDTA、クエン酸、グリシン、ブチル化ヒドロキシアニソール、ブチル化ヒドロキシトルエン、システイン、メチオニン、チオグリセロール、重亜硫酸塩、メタ重硫酸塩、アスコルビン酸塩、没食子酸プロピル、トコフェロール、還元糖、又はそれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0029】
本明細書で使用する場合、「水性」とは、組成物が、他の液体溶媒の濃度よりも高い濃度で、主溶媒として水で作られることを意味する。
【0030】
本明細書中で使用される「アルコール」は、1つのヒドロキシル官能基(-OH)が炭素原子に結合し、この炭素が飽和され、他の3つの原子との単結合を有する有機溶媒である。LMBWでは、アルコールは主に薬物の溶解度を高めるために添加される賦形剤である。LMBWに有用なアルコールは、エタノール、ベンジルアルコール、プロピレングリコール、低分子量(100~5,000)のポリエチレングリコール、又はそれらの組み合わせである。
【0031】
本明細書中で使用される場合、用語「アルコール対乾燥重量比」又は「アルコール/LBM」は、LMBW中の乾燥重量に対するアルコール重量の比を指す。例えば、61gのレシチン、21gのMCT、18gの胆汁酸塩及び49gのアルコールを含むLMBW組成物については、乾燥重量は100g(=61g+21g+18g)であり、アルコール/乾燥重量比又はアルコール/LBMは49/100又は0.49/1である。
【0032】
本明細書で使用される「塩基」は、LMBWのpHを調節するために使用されるアルカリ化剤である。有機塩基と無機塩基の両方を用いることができる。好ましい塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化アンモニウム、リジン、アルギニン、又はそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0033】
本明細書で使用される「胆汁酸塩」又は「B」とは、LMBW組成物において使用されるアルカリ塩、例えば、コール酸、グリコール酸、タウロコール酸、デオキシコール酸、グリコ-又はタウロデオキシコール酸、ケノデオキシコール酸及びグリコ-又はタウロケノキシデオキシコール酸のナトリウム塩を指す。グリココール酸ナトリウム及びデオキシコール酸ナトリウムは胆汁酸塩として好ましい。カリウム、リチウム、カルシウム、アルギニン、リシン又はアンモニウム塩を含むが、これらに限定されない他のカチオンも胆汁酸塩に使用することができる。LMBWでの使用のために、胆汁酸又は胆汁酸塩のいずれかを出発物質として用いることができる。出発物質として胆汁酸を使用する場合、通常、LMBWの調製前又は調製中にpHを上方に調整することにより、胆汁酸は胆汁酸塩(すなわち、共役塩基)に(完全又は部分的に)変換される。出発物質として胆汁酸塩を使用する場合、LMBWの調製中にpHを下方に調節することにより、胆汁酸(すなわち、抱合酸)に変換することができる(完全又は部分的に)。1つの局面において、本出願で使用される用語「胆汁酸塩」又は「B」は、胆汁酸塩及びその抱合酸の混合物も指す。例えば、デオキシコール酸のpKaは6.58である(Merck Index, 12thEd,Entry #12946)。Henderson-Hasselbalch式によれば、pH4.58の水中のデオキシコール酸の溶液は、プロトン化された99%のデオキシコール酸(胆汁酸)と1%の脱プロトン化されたデオキシコール酸(胆汁酸塩)の混合物を含むであろう。このような胆汁酸/胆汁酸塩混合物は、LMBWでの使用に適している。明瞭にするために、LMBWにおいて使用される胆汁酸塩の濃度は、本明細書中では、結合体胆汁酸の濃度として提供される。
【0034】
本明細書で使用される「境界点」とは、三元状態図(例、図面)における非LMBW組成に非常に近いLMBW組成を指す(実施例、
図1-5)。各境界点は、実験的に決定され、他の境界点と共に使用されて、全ての組成が透明で単相、すなわちLMBWである「LMBWゾーン」を、三元状態図においてマップする。
【0035】
本発明の「増量剤」とは、凍結又は乾燥(通常は凍結乾燥により)中及び後にその成分を保護し、乾燥後に固体バルクを提供するために、LMBW組成物に添加される賦形剤を指す。LMBWに有用な増量剤としては、単糖類、二糖類、多糖類、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセロール、ポリオール、デキストリン、シクロデキストリン、デンプン、セルロース及びセルロース誘導体、タンパク質、ペプチド、アミノ酸、塩化ナトリウム、ポリビニルピロリドン、又はそれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。LMBWのための好ましい増量剤は、マンニトール、ソルビトール、キシリトール、ラクトース、フルクトース、キシロース、ショ糖、トレハロース、マンノース、マルトース、デキストロース、デキストラン、又はそれらの混合物のような炭水化物である。LMBWにおいて有用な増量剤の濃度は、LMBW組成物の重量に基づいて、約1%から約30%w/w、好ましくは約2%w/wから約10%w/w、より好ましくは約3%w/wから8%w/wであり得る。
【0036】
本明細書で使用される場合、用語「透明」及び「透明」は、互換的に使用され、組成物が、70%、好ましくは80%、より好ましくは90%を超えるUV-vis分光光度計による10mm石英キュベットを使用して、800nm光波長(T800)で測定された光透過率値を有することを意味する。
【0037】
このような高い光透過率により、透明ガラスバイアル中の透明な組成物を通して見ることができ、これにより、注射に対して安全でない異物粒子(例えば、破損したガラス又は金属粒子)又は他の異常な欠陥(例えば、微生物増殖)の存在を検査することができる。対照的に、DIPRIVAN(登録商標)(T800値10%未満のエマルジョン)及びEXPAREL(登録商標)(T800値70%未満のリポソーム)のような多相注射用組成物は、白色、不透明又は濁った液体であり、有害な異物の良好な目視検査を可能にしない。医薬用途では、透明で単相の溶液が、濁った多相組成物よりも好ましい。
【0038】
本明細書中で使用され、別段の記載がない限り、用語「濃度」は、対象組成物中の乾燥重量に基づく重量パーセント濃度を指す。例えば、20gのL、6gのM及び11gのBを含有する組成物については、乾燥重量は37g(=20+6+11)であり、L、M及びBの濃度は、それぞれ54.1%(=20/37)、16.2%(=6/37)及び29.7%(=11/37)である。
【0039】
本明細書中で使用されるように、Valium(登録商標)としても知られるジアゼパムは、典型的には鎮静効果をもたらすベンゾジアゼピンファミリーの医薬である。不安、アルコール離脱症候群、ベンゾジアゼピン離脱症候群、筋痙攣、痙攣、睡眠障害、レストレスレッグス症候群など、さまざまな病態の治療によく用いられる。クラスター発作(発作活動亢進のエピソード)を止めるために、緊急時に使用される。Diazepam直腸用ゲル(Diastat(登録商標))は、この緊急又は救援用としてFDAにより承認されているが、直腸用ゲルの使用は不便である。すぐに使用でき、好ましい自己投与注射は、より良い投与形態である。ジアゼパムは水に非常に不溶であり、現在市販されているジアゼパム注射剤(ジアゼパム注射液、ETSP)は、約5mg/mLのジアゼパムしか溶解できない。発作に対するレスキュー用量20mgでは、現在市販されている製剤を使用する場合、4mLの注射容量が必要であり、筋肉内注射又は皮下注射には容量が多すぎる。したがって、ジアゼパムの溶解度を著しく増加させ、約1~2mLの容量で20mgのジアゼパムの送達を可能にする、新しい注射用ジアゼパム製剤を開発する必要がある。このようにして、ジアゼパムを17mg/mLに可溶化し、1.2mL容積で20mgを送達することができるLMBW組成物を開発し、優れた安全性転帰を有するヒトで試験した(実施例25)。
【0040】
本明細書中で使用される場合、「薬物」は、生物学的に活性である任意の化学物質を意味する。
【0041】
本明細書中で使用される「乾燥重量」という語句は、本発明の対象組成物中のL、M及びBの総重量を指す。乾燥重量は、組成物中にも存在し得る他の成分を含まない。例えば、61g L、21g M、18g B、50gアルコール、1gの防腐剤、1gの酸化防止剤及び150gの水を含有する組成物については、乾燥重量は100g(=61+21+18)である。乾燥重量は、本発明の対象組成物中のL、M又はBの重量パーセント濃度を計算するための重量ベースとして使用される。
【0042】
本明細書中で使用される「賦形剤」とは、ビヒクル、媒体、安定剤、保存剤などの薬物製剤中で種々の機能を果たす生物学的に不活性な物質を指す。LMBWは、4つの賦形剤(L、M、B及びW)のユニークに定義された組み合わせである。LMBWに有用な他の賦形剤としては、アルコール、pH緩衝液、浸透調節剤、保存剤、酸化防止剤、増量剤が挙げられるが、これらに限定されない。
【0043】
本明細書で使用される「エマルジョン」は、通常は非混和性(混合不可能又は2つの相を有する)の2つの液体の混合物である。エマルジョンでは、一方の液体(分散相)が他方の液体(連続相)に分散される。2つの液体は、異なるタイプのエマルジョンを形成することができる。一例として、油及び水は、まず、油が分散相であり、水が分散相である水中油型エマルジョンを形成することができる。第2に、それらは油中水エマルジョンを形成することができ、ここで、水は分散相であり、油は分散相である。注射可能な薬物製剤では、水中油型がより一般的である。水中油型エマルジョンでは、油相は水中に懸濁した直径50~5000nmの小さな油滴として存在する(水相)。例えば、注射用乳剤「DIPROVAN」(注射用プロポフォール乳剤)及び「INTRALIPID(登録商標)」(注射用プロポフォール乳剤)の液滴サイズは、直径約150~500nmであり、いずれもレシチン及び油を含み、T800が10%未満の白色及び不透明である。本発明のLMBW組成物はエマルジョンではない。
【0044】
本明細書で使用される場合、「製剤」とは、特定の処方及び調製手順にしたがって調製された賦形剤又は他の化学物質の混合物を指す。製剤は、錠剤、カプセル、ローションなどの薬物、化粧品又はサプリメント製品の最終形態又は中間形態を構成する。製剤は、場合により、薬物を含有することができる。「組成物」及び「製剤」の用語は、本出願において互換的に使用される。
【0045】
本明細書中で使用される場合、「FDA」は、米国食品医薬品局を指す。
【0046】
本明細書中で使用される場合、「濾過可能」とは、0.2ミクロンのような一定の孔径のフィルターメンブレンを通過する液体の能力を意味する。本発明のLMBW組成物は濾過可能である。
【0047】
本明細書で使用される「高エネルギー均質化」の用語は、高圧又は超音波化機構を使用して粒子の低減及び混合をもたらす装置を使用する任意の均質化方法を指す。高圧ホモジナイザーは、高圧(例えば、>10,000psi)を使用して、液体試料を小さなチャネルを通して強制的に作動させて、高いせん断効果を生じさせ、粒子又は油を小粒子/小滴に破壊することによって作用する。高圧装置の例としては、マイクロ流動化装置、APVホモジナイザー、Gaulinホモジナイザー及びRannieホモジナイザーが挙げられるが、これらに限定されない。本明細書で言及する超音波化ホモジナイザーは、プローブタイプ又はバスタイプを含み得る。本発明のLMBW組成物の形成は、高エネルギー均質化を必要としない。
【0048】
本明細書で使用される「低エネルギー混合器」とは、5000RPM未満の速度で作動する回転攪拌器、又は5000サイクル/分未満の周波数で作動する一次元又は多次元振盪器を指す。回転撹拌機は、限定されるものではないが、単純なプロペラ又はインペラタイプのミキサー、又は高せん断ミキサーのローター-ステータタイプを含んでもよい。高せん断ミキサーは、流体を「作動させ、流れ及びせん断を発生させる」ために、回転インペラ又は高速ローター、又は通常は電気モーターによって動力供給される一連のこのようなインペラ又はインラインロータを使用する。固定部品は、ローターと組み合わせて使用することができ、固定子と呼ばれる。ステーターは、ローターとそれ自身との間に密接なクリアランスギャップを形成し、ローターを出るときに材料に対して高いせん断ゾーンを形成する。本発明のLMBW組成物の形成は、低エネルギーミキサーによって促進され得る。
【0049】
本明細書中で使用される「注射可能」又は用語「注射に適する」とは、(1)製剤中の成分の各々が、本出願時にFDAにより承認された市販の注射薬中で使用された場合、(2)製剤は、21ゲージ未満、好ましくは25ゲージ未満、より好ましくは27ゲージより小さい注射針を通して注射器を用いて手動で排出することができ、(3)製剤は、直径が10ミクロンを超える粒子を含まず、(4)製剤の粘度は、10,000センチポアズ未満、好ましくは1,000センチポアズ未満、より好ましくは100センチポアズ未満である場合、皮下注射針を介してヒト又は動物患者に安全に注射できる製剤を指す。
【0050】
本明細書中で使用する場合、用語「注射」は、静脈内、動脈内、皮下、筋肉内、皮内、海綿体内、腔内、膀胱内、間質、関節内、皮内、嚢内、病変内、腫瘍内、腹腔内、胸膜内、滑膜内、髄腔内、気管内、または浸潤、神経ブロック、静脈内注入、またはその他の注射経路を含むが、これらに限定されない、1つ以上の異なる位置への皮下注射針を介した体内への液体の挿入を意味する。
【0051】
本明細書中で使用される「不溶性薬物」とは、水溶液(例えば、水、生理食塩水、注射用デキストロース溶液など)への溶解性を欠く薬物又は薬理学的に活性な物質を指す。USP/NFは、一般に、特定の温度(例えば、1gのアスピリンを水300mlに溶解し、5mlのエタノールを25℃にて)で1gの薬理活性物質を溶解するのに必要な溶媒の容積の観点から溶解度を表す。他の参考文献は、Remington's Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Co., Easton, Pa(最新版)の下表に示されているような、より主観的な用語を用いて溶解性を記述することができる。
【0052】
【0053】
したがって、本明細書で使用される場合、本発明の「不溶性薬物」は、その溶解度が上の表の下の4つの溶解度カテゴリーにそれを位置する薬物、すなわち、水を溶媒として使用する場合、「難溶性」、「難溶性」、「非常に溶けにくい」、及び「実質的に不溶性又は不溶性」を含む。本明細書中で使用される場合、用語「不溶性」は、疎水性、親油性、親油性、及び他の類似の用語と互換的に使用することができる。LMBWによって溶解することができる不溶性薬物の例としては、アミオダロン、アムホテリシン、アプレピタント、カンプトテシン、クラリスロマイシン、シクロスポリン、ジアゼパム、ドセタキセル、イブプロフェン、セレコキシブ、イトラコナゾール、イリノテカン、ヨードパ、レボドパ、パクリタキセル、フィトナジオン、ポサコナゾール、酢酸プレドニゾロン、プロゲステロン、プロポフォール、レスベラトロール及びボリコナゾールが挙げられるが、これらに限定されない。
【0054】
本明細書中で使用される、語句「IV注入流体」は、静脈注入のための薬物を希釈するために一般に使用される無菌水溶液を指す。LMBWを希釈するのに有用なIV注入流体の例としては、5%デキストロース注射、USP、5%デキストロース注射、USP及び0.9%塩化ナトリウム注射、USP、乳酸リンゲル注射、USP、5%デキストロース及び乳酸リンゲル注射、USP、ノルモソール-M及び5%デキストロース、0.9%塩化ナトリウム注射、USP及びISOLYTEが挙げられるが、これらに限定されない。
【0055】
本明細書で使用される場合、用語「レーザー光散乱」又は「動的光散乱」は、物理学において、タンパク質、ポリマー、ミセル、混合ミセル、リポソーム、エマルジョン、小胞、炭水化物、ナノ粒子、生物学的細胞及びゲルを含む液体中の小粒子のサイズ分布プロファイルを決定するために使用することができる技術である。DLSは、小粒子を検出するための最も感度の高いツールの1つである。例えば、0.6nm~10ミクロンのサイズ範囲で、LMBW組成を調べるために使用されるDLS分光法(実施例13及び実施例16マルバーンゼタサイザー、モデルナノZSを参照)は、リポソーム、エマルジョン、ミセル、混合ミセル又はナノ粒子などの任意のナノメートル及びマイクロメートルサイズの粒子、小滴又は超分子集合体を検出することができる。
【0056】
本明細書で使用する場合、「長鎖トリグリセリド」又は「LCT」は、18~24炭素の長鎖を有する飽和及び不飽和脂肪酸を有するグリセロールのトリエステルである。LCTはほとんどの食品に含まれ、自然界に豊富に存在する。LCTは、ゴマ油、大豆油、コム油、ベニバナ油、ヒマシ油、オリーブ油などの植物油の主成分である。興味深いことに、LCT又はゴマ油のような植物油はLMBWを形成できないことが発明者によって発見された。したがって、本発明では、MCTをLCTに置き換えることはできない。
【0057】
本明細書中で使用する場合、「レシチン」又は「L」は、天然源に由来するリン脂質の混合物である。注射可能なレシチンは、卵、ダイズ、ヒマワリ種子又は他の天然源から誘導され、さらに精製され、他の有害な生物学的反応を引き起こすタンパク質又は他の刺激性、アレルゲン性、炎症性物質又は物質を実質的に含まないレシチンを含む。本発明のために好ましいレシチンは、75%を超える(レシチンの全重量を超える重量)ホスファチジルコリンを含むものを含む。好ましいレシチンの例としては、限定されるものではないが、LIPOID 75、LIPOID 100、LIPOID E80、及びPhospholipon 90Gの商品名で使用される市販のレシチン製品が挙げられる。LMBW組成物に有用なレシチンはまた、合成リン脂質、好ましくはPC又は75%を超える(混合物の総重量に対して重量)PCを有する合成リン脂質の混合物を含んでもよい。
【0058】
本明細書で使用される用語「光透過率(%)」は、液体の透明度の測定であり、透明キュベット(例えば、経路長10mmの石英キュベット)に含まれる試料を通過する、特定の波長(すなわち、800nm又はラムダ)における入射光の割合として定義される。次式により計算する。
T(λ)I÷I0×100
ここで、I0は入射光の強度であり、Iは試料から出る光の強度であり、T(λ)は波長ラムダにおける透過率である。T(λ)値は、固定波長の紫外可視分光光度計で容易に測定できる。本発明の透明な組成物については、T800は、UV可視分光光度計を用いて、経路長10mmの石英キュベット中で800nmで測定されたT(λ)値である。
【0059】
本明細書で使用される「リポソーム」は、レシチン又はリン脂質分子によって形成される二重層膜を有する球状のナノメートル及びマイクロメートルサイズの固体粒子である。自己組織化二分子膜はリポソームの特徴的な構造的特徴である。リポソームは、最もしばしばリン脂質、特にホスファチジルコリンから構成されるが、脂質二重層構造に適合する限り、卵ホスファチジルエタノールアミンのような他の脂質を含んでもよい。主なタイプのリポソームは、多重ラメラ小胞(MLV、いくつかのラメラ相脂質二重層を伴う)、小型単層リポソーム小胞(SUV、1つの脂質二重層を伴う)、大型単層小胞(LUV)、及びコクリレート小胞である。リポソームは、単層からなるミセル又は混合ミセルと混同してはならない。リポソーム粒子サイズは、直径20nm~40pmの範囲であり得る。例えば、リポソーム薬剤AmBisome(登録商標)、Doxil(登録商標)、Caelyx(登録商標)、EXPAREL(登録商標)のリポソーム粒子サイズは、それぞれ77.8nm、80~85nm、80~85nm、及び24~31pmであると報告されている。リポソーム製剤又はリポソーム組成物は、しばしばリポソーム粒子の水性懸濁液と呼ばれる。明らかに、リポソーム製剤又はリポソーム組成物は、2相系であり、粒子の存在のために、通常、外見上、混濁しているか、又は透明ではない。本発明のLMBW組成物はリポソームではない。
【0060】
本明細書中で使用される「LMBW」とは、LMBWゾーン内で量的に構築されたレシチン、中鎖トリグリセリド(MCT)、及び胆汁酸塩を含む組成物を指す。
【0061】
本明細書中で使用される「LMBW特性」という用語は、LMBWの以下の望ましい基本的な物理的及び生物学的特性を指し、それらは、(1)透明で単相の溶液、(2)広く異なる構造の不溶性薬物、すなわち、汎用可溶化剤、(3)水中で自発的に自己形成すること(すなわち、その調製のために高エネルギー均質化を必要としない)、(4)沈殿又は相分離なしに水又はIV注入流体中でさらに希釈することができる、すなわち、水で希釈された後に単相溶液として残る、及び(5)注射可能である。
【0062】
本明細書中で使用される「LMBWゾーン」とは、種々の組み合わせのL、M、B及び水を乾燥重量比に固定した水を有する三元状態図中のゾーンを指す。LMBWゾーンは実験的に決定され、本出願の発明者によって体系的にマッピングされた。LMBWゾーンの例を
図1-5にグラフで示す。LMBWゾーンは、L、M、Bの各成分の上限及び下限濃度を定義するために使用される。LMBWゾーン内でのみ、L、M及びBの混合物は、水又はLMBW中で透明で単相の溶液を形成することができる。
【0063】
本明細書で使用する「中鎖トリグリセリド」、「MCT」又は「M」は、「中鎖トリグリセリド油」としても知られているが、グリセロールのトリエステルであり、中鎖長が6~12炭素の脂肪酸である。MCTは、天然源から誘導することも、合成的に作製することもできる。天然MCTは一般にココナッツ油に由来し、異なる鎖長(6~12炭素C6、C7、Cs、C9、C10、C11及び/又はC12)、又はモノ-、ジ-及びトリ-グリセリドを有する脂肪酸のグリセリルトリエステルの混合物を含有する。天然MCTの例としては、商品名CRODAMOL GTCC-PN、Miglyol 812、CAPMUL MCM及びNeobees M-5を有する市販製品が挙げられる。合成MCTは、本質的に1分子を含有することができる。合成MCTの例としては、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナンチル酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸又はそれらの混合物のグリセリルトリエステルが挙げられるが、これらに限定されない。LMBWのための好ましいMCTの例としては、ミグリオール812及び6、8、10又は12個の炭素脂肪酸を有する合成トリグリセリドが挙げられる。
【0064】
本明細書中で使用される「ミセル」は、水のような液体中に分散された界面活性剤分子の単層膜を有する凝集体又は超分子集合体である。水溶液中の典型的なミセルは、水と接触する親水性の「頭部」領域と凝集体を形成し、ミセル中心に疎水性のシングルテール領域を隔離する。ミセルは、一般に、HLB又は親水性-親油性バランス値が7より大きい水溶性界面活性剤によって形成される。レシチンは水に不溶であるため(油と結合するとリポソーム、固体脂質粒子又はエマルジョンを形成する)、レシチン単独では一般に水中でミセルを形成できない。しかし、水溶性界面活性剤と組み合わせると、レシチンは水中で混合ミセルを形成することができる。
【0065】
本明細書中で使用される「混合ミセル」は、それ自身を水中の水溶性界面活性剤ミセルに取り込むことによって、レシチンの単層膜を有する凝集体又は超分子集合体である。胆汁酸塩(水溶性界面活性剤である)とレシチンの組み合わせで作られた混合ミセルは、薬物を可溶化するために使用されてきた。例えば、VALIUM(登録商標)MM(ジアゼパム注射剤)及びKONAKION(登録商標)MM(ビタミンK注射剤)は、レシチン-胆汁酸塩ベースの混合ミセル(MM)製剤である。レシチン-胆汁酸塩混合ミセルの粒径は、レーザー光散乱(J. Wylie Nichols and Justyna Ozarowski,“Sizing of lecithin-bile salt mixed micelles by size-exclusion high-performance liquid chromatography” Biochemistry 1990, 29, 4600-4606)を含む種々の分析技術によって測定された直径約8nm以上、又は別の研究者グループ(Biochimica et Biophysica Acta 1808 (2011) 140-153)によって確認された胆汁酸塩濃度に依存して~5nmから~14nmの平均サイズであることが報告されている。単相溶液であるLMBWとは異なり、混合ミセル組成物中にこれらの5nm以上の粒子が存在することは、それが単相溶液ではないことを明確に示す。
【0066】
本明細書中で使用される「浸透圧調節剤」とは、本発明の組成物に添加され、その浸透圧を増加させる成分を指す。LMBWは、約100~1000mOsmの浸透圧を有し得、好ましい範囲は、225、250、275、300、325、350、又は400mOmなどの200~400mOsmであり得、最も好ましい値は、約300mOsmである。LMBWのための有用な浸透圧調節剤としては、塩化カリウム又はナトリウム、トレハロース、ショ糖、ソルビトール、グリセロール、マンニトール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、アルブミン、アミノ酸及びそれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0067】
本明細書中で使用される場合、用語「単相」は、ナノメートル(>5nm及び<1000nm)、ミクロン又はミクロメートル(>1ミクロン及び<1ミリメートル)又はそれ以上(>1ミリメートル)のサイズ範囲において、固体粒子、油滴、又は他の検出可能な凝集体又は超分子構造を実質的に含まない液体を表す。したがって、5nm未満の水中の物体は、単一又は非凝集分子のサイズ範囲内にあり、真の溶液又は単相の溶液とみなされる。
【0068】
本明細書で使用される場合、「pH」は、水溶液の酸性度又は塩基性度の尺度である。本発明の組成物のpH測定は、典型的には、pH読み取り値を測定し、表示する電子計器に接続されたガラス電極からなるpH計を用いて行われる。pHメーターは、標準pH緩衝液を用いて較正される。pHが7未満の溶液は酸性であるといい、pHが7を超える溶液は塩基性又はアルカリ性である。純水(すなわち純水H2O)のpHは7に近い。
【0069】
本明細書中で使用される「pH緩衝液」とは、溶液のpHを安定化するために使用される食品、化粧品又は医薬製剤において使用される一般的なpH緩衝液を意味する。LMBWのための好ましい緩衝液としては、リン酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、TRIS、重炭酸塩、コハク酸塩、ヒスチジン、又は他のアミノ酸が挙げられるが、これらに限定されない。
【0070】
本明細書で使用される場合、「相図」又は「三元状態図」は、組み合わせにおける対象の3つの成分の濃度をグラフで示す正三角形プロットである。本発明のLMBW組成物については、3つの成分は、L、M及びBである。
図1-4はL、M、Bの三元状態図の例であり、各軸は1成分の濃度(乾燥重量に基づく重量パーセント)を表す。三元状態図中の各点は、L、M及びBを含む独特の組成を表す。例えば、
図1中の点「E」は、乾燥重量に基づいて、50%L、10%M及び40%Bを含有する組み合わせを表す。本発明における三元状態図の目的は、実験的に決定されたLMBWゾーンの視覚的及び定量的表現を提供することである。三元状態図に表示されたLMBWゾーンでは、L、M及びBの所与の混合物がLMBWゾーン内にあるかどうかを容易にチェックすることができ、もしそうであれば、そのような混合物が水中で透明で単相の溶液を形成し、LMBW特性を有すると期待することができる。
【0071】
本明細書中で使用される場合、「保存剤」は、細菌及び真菌の増殖を阻害するために組成物に加えることができる医薬添加剤である。LMBWにおいて有用な抗菌防腐剤としては、クレゾール、フェノール、ベンジルアルコール、エタノール、クロロブタノール、パラベン、イミジュラ、塩化ベンジルコニウム、EDTA又はその塩、又はそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0072】
本明細書中で使用される場合、用語「固体LMBW」は、固体形態で存在するLMBW組成物を指す。典型的には、固体LMBWは、水/乾燥重量比が0.1/1未満の低い水を含み、実質的にアルコールからなる。固体LMBWは、それらが直接混合される場合(「物理的混合物」)、その出発成分(L、M、及びB)とは異なる物理的構造を有する非晶質透明ガラス様固体である(実施例28)。固体LMBWは、最初に水及び/又はアルコールでLMBW溶液を作製し、次いで、水及びアルコールを真空乾燥又は他の乾燥方法によって除去して、最終的な水含有量、すなわち、水/乾燥重量比0.1/1未満に到達することによって調製することができる。固体LMBWを使用して、薬物を可溶化し、錠剤又はカプセルのような固体投与形態に組み込むことができる。水と混合すると、固体LMBWは、同じLMBW特性を有する通常のLMBW溶液に容易に変換できる。
【0073】
本明細書中で使用される「溶解度」という用語は、溶質(例えば、薬物)が溶媒中でその最大濃度に達したことを意味する。
【0074】
本明細書中で使用される場合、用語「可溶化剤」又は「可溶性増強剤」は、対象化合物の水への溶解度を増加させるために使用される賦形剤又は賦形剤の組み合わせを指す。対象化合物は、薬物、化粧料、栄養補助食品、コレステロールのような内因性体成分、及びそれらの混合物を含み得るが、これらに限定されない。
【0075】
本明細書で使用する場合、「実質的にない」という用語は、対象組成物の総重量の1%未満を含有することを意味する。
【0076】
本明細書で使用される「溶液」とは、単相の液体を指す。
【0077】
本明細書中で使用される場合、用語「ユニバーサル溶解剤」とは、その構造、MW又は物理化学的特性にかかわらず、対象化合物の溶解度を増加させることができる溶解剤を指す。より具体的には、用語「普遍的可溶化剤」は、水中の無機元素、小又は非高分子有機分子、ペプチド、又はタンパク質の>1mg/mLへの溶解度を増加させることができる可溶化剤を指す。>1mg/mLの濃度は、ほとんどの薬物の医薬用途において有用な濃度とみなされる。
【0078】
本明細書で使用する場合、「USP」とは、米国薬局方の最新版を意味する。
【0079】
本明細書中で使用され、特に断りのない限り、用語「%」は、重量パーセント、%wt又は%w/wを意味する。
【0080】
本明細書中で使用される場合、用語「水/乾燥重量比」又は「水/LBM」は、水/乾燥重量の重量比(w/w)、又は対象のL、M及びB組成物を指す。例えば、61g L、21g M、18g B及び150gの水を含有する組成物については、乾燥重量は100g(=61g+21g+18g)であり、水/乾燥重量比又は水/LBM比は150/100又は1.5/1である。
【0081】
II.実施形態の説明
レシチンは不溶性薬物の有用な可溶化剤であることが広く知られている。医薬製剤の実施において、レシチンは、エマルジョン、リポソーム、混合ミセル及びナノ粒子製剤を形成するために使用されてきた。薬物製剤中で最も一般的に使用されるレシチンは、天然源、典型的には大豆又は卵黄由来のリン脂質の混合物である。大豆又は卵レシチン自体は水に不溶である。水中では、レシチンは一般に、エマルジョン(油と共に)、リポソーム、混合ミセル(可溶性界面活性剤と共に)、又はナノ粒子懸濁液のような二相系を形成する。
【0082】
レシチンは水中油又は油中水エマルジョンを形成することができる。注入可能なエマルジョン組成物は、一般に、レシチン、油及び水(4成分L、M、B及びWを有するLMBWとは異なる)からなる3つの部材からなる水中油型である。エマルジョンは、一般に約50~5000nmのサイズを有する水相及び油滴からなる2相系である。注射用エマルジョンは白色であり、不透明であり、T800は一般に50%未満である。対照的に、LMBWは明らかであり、T800は一般に90%を超える(実施例16)。さらに、LMBWは、5nmより大きいサイズの油滴を含まない単相溶液であり(実施例16)、同じレシチン濃度を有するエマルジョン組成物(実施例2)よりもかなり多くの不溶性薬物を溶解することができる。
【0083】
レシチンは水中でもリポソームを形成することができる。リポソームは、ナノメートル及びマイクロメートルサイズの固体粒子又はレシチンリン脂質分子によって形成された二重層膜を有する小胞である。二分子膜はリポソームの特徴的な構造的特徴である。リポソーム粒子は、直径が20nmから40pmの範囲であり得る。リポソームを含む水組成物は明らかに2相系又は懸濁液であり、一方、LMBWは5nmより大きいサイズの固体粒子を含まない単相溶液である(実施例16)。
【0084】
レシチンは水に不溶であるため、透明な溶液又は水中に分散しない。しかし、胆汁酸塩のような水溶性界面活性剤と組み合わせると、水中で混合ミセルを形成することができる。ミセルは水中ではっきりした別の相である。レシチン-胆汁酸塩混合ミセルの粒径は、レーザー光散乱(J. Wylie Nichols and Justyna Ozarowski,“Sizing of lecithin-bile salt mixed micelles by size- exclusion high-performance liquid chromatography” Biochemistry 1990, 29, 4600-4606)などの種々の分析技術によって測定した場合、直径約8nm又はそれ以上であることが報告され、別のグループの研究者らによった確認された胆汁酸塩濃度に依存して5nm~14nmの平均サイズ(Biochimica et Biophysica Acta 1808 (2011) 140-153)であることが報告されている。
【0085】
対照的に、LMBWは5nmより大きい粒子を含まない(Ex16)。混合ミセル組成物はレシチン、胆汁酸及び水からなる三成分混合物(3成分)であるが、LMBWは4成分:レシチン、胆汁酸、MCT及び水からなる四元混合物(4成分)である。さらに、LMBWは、同じ胆汁酸塩及びレシチン濃度を有する混合ミセル組成物(実施例2)よりも、かなり多くの量の不溶性薬物を溶解することができる。
【0086】
レシチンはまた、水中で懸濁液を形成するために使用されており、そこではレシチンリン脂質が水中でホモジナイズされて小さなリン脂質粒子を形成する(米国特許第5,785,976号)。場合によっては、これらの懸濁されたレシチン粒子は、約20~500nm A懸濁液のサイズの固体脂質粒子とも呼ばれ、2相の液体である。
【0087】
これらのレシチン系組成物(エマルジョン、リポソーム、混合ミセル、固体脂質粒子)はすべて2つ以上の相を有するという共通の構造的特徴を共有しており、これらの2相系は自己形成ではなく、それらの形成に高いエネルギー入力を必要とする。したがって、それらは物理的に不安定であり、経時的に劣化(粒子凝集、相分離)し、それが薬物処方に望ましくない。
【0088】
レシチンは、植物油、又はアルコールなどの油に溶解して、透明で単相の溶液を形成することができる。しかしながら、このようなレシチンの油又はアルコール溶液は、水で希釈すると直ちに沈殿し、又はクリーム/ペースト状の塊に変わり、静脈注射のために安全ではない。対照的に、LMBWは水溶液であり、水で希釈すると透明で単相の溶液として残る。
【0089】
上述のレシチンベースではあるが非LMBW製剤は溶解度向上の可能性が限られている(実施例2)。多くの不溶性薬物に対して、そのような製剤は、治療用量要求を満たすのに十分な薬物を溶解できないので、薬学的に有用ではない。
【0090】
要約すると、これらの一般的に使用されるレシチンベースの薬物製剤はいずれもLMBWと同じ構造的特徴と物理的特性を共有せず、LMBWは可溶化剤として他のレシチンベースの製剤よりも一般的に優れている。
【0091】
以下の実施例に示されるように、LMBW製剤は、治療用途、特に不溶性薬物化合物を処方するために非常に望ましい物理的及び生物学的特性を有する。これらのLMBWプロパティは次の通りである:
1.透明な単相溶液であり、
2.沈殿又は相分離なしに(すなわち、水で希釈した後に単相溶液として残る)、水又は静注輸液でさらに希釈することができ、
3.広く異なる構造の不溶性薬物、すなわちユニバーサル溶解剤を溶解することができ、
4.自然に形成されるか、又は水中で自己形成され(すなわち、その調製に高せん断/高圧均質化を必要としない)、
5.ヒト又は動物への注射、又は注射が安全である。
【0092】
LMBWを形成し得るL、M、Bのすべての可能な混合物又は組成物を見出すために、本出願の発明者らは、水中にL、M、及びBを含有する多数の組成物を系統的に調製し、組成物が透明で単相の溶液であるかどうかを決定するために、視覚的、顕微鏡的及び/又は動的光散乱分光法を用いて調製された各組成物を調べた。透明で単相であることが確認されたら、組成物をさらに水中で希釈し、透明度及び相分離について再度検査した。組成が透明で単相のままであれば、三元状態図(実施例1)上に開いた円でLMBWとしてマークした。
【0093】
調製及び試験された各組成物は、L、M及びBの濃度(乾燥重量に基づく重量パーセント濃度)で定量的に表され、三元状態図(
図1-4参照)の白丸又は黒丸でグラフにて示される。三元状態図中のすべての組成物を、固定水/乾燥重量比及び任意選択的に固定アルコール/乾燥重量比で調製した。
図4では、いずれの組成物にもアルコールを添加しなかった(すなわち、アルコール対乾燥重量比=0/1)。
【0094】
白丸は、水及びアルコールの固定レベルで透明で単相の溶液を生成し、水中でさらに希釈した後も透明で単相のままであった組成物を表し、黒丸は透明でない組成物又は単単相として存在しなかった組成物を表す。
【0095】
黒丸にグラフィック的に非常に近い白丸を準備し、テストし、確認するために特別な努力がなされた。確認後、これらの白丸を「境界点」と表示した。境界点を接続して閉じたセクションを形成することにより、LMBWゾーンは、三値相図(
図1-5中の影付き領域を参照)において、グラフィック的に定義されるか、又は「マップアウト」される。
【0096】
図1-4に示す各LMBWゾーンにおいて、含水率又は水/乾燥重量比を1.5/1に固定した。各LMBWゾーンについて、LMBWゾーン内の任意の組成はLMBW特性を失うことなく水で希釈できるので、水分含有量は自由に上方に増加する可能性がある。同様に、LMBW組成物は、沈殿又は相分離なしに、高程度に(例えば、10倍又は100倍)、生理食塩水又は5%デキストロース溶液のようなIV注入流体で希釈することができる(実施例11)。希釈されたLMBW(水又はIV注入液による)は、LMBW特性を保持する。
【0097】
LMBWが形成するために最小量の水を必要とすることも、本発明の発明者らによって発見された。最小水量は約0.1/1(水/乾燥重量比)と決定した。含水率が0.1/1未満に低下すると、LMBWは固体になる(実施例14及び18)。
【0098】
アルコールは任意選択の賦形剤としてLMBWに添加することができる。アルコールを添加する主な目的は、LMBW中の不溶性薬物の溶解度をさらに増加させることである。さらに、アルコールはLMBWの粘度を低下させることができ、注入又は移送を容易にする。ベンジルアルコールのようないくつかのアルコールはまた、LMBW製剤が複数回の注射又は投与に適することを可能にする保存剤として機能することができる。
【0099】
アルコール濃度が増加すると、LMBWゾーンの面積も増加する。例えば、
図1(アルコール対乾燥重量比の0.49/1)中のLMBWゾーンの面積は、
図3(アルコール/乾燥重量比0.24/1)中のそれよりも大きい。しかし、アルコール濃度が0.36/1(
図2)から0.49/1(
図1)にさらに増加するにつれて、LMBW面積は0.49/1(アルコール対乾燥重量比)で最大に達すると思われたが、LMBWゾーンの有意な増加をもたらさなかった。したがって、
図1(又はクレーム1及び2に記載)に示されるLMBWゾーンは、可能な限り最大のLMBWゾーンを表すと考えられる。
【0100】
一態様では、最大のLMBWゾーンは、水に、約6%~約72.5%L、例えば、6%、10%、15%、20%、25%、40%、35%、50%、55%、60%、65%、60%、65%、70%、又は約72.5%L;0%~約32.5%M、例えば0.1%、2%、5%、10%、15%、20%、25%、30%、又は約32.5%M、及び約11.5%~約94%B、例えば、11.5%、15%、20%、25%、30%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、又は約94%Bを含む。
【0101】
別の態様では、最大LMBWゾーンは、以下の境界点によって囲まれたセクション内にある(ただし、値が0である境界点は含まない)。
【0102】
【0103】
図1では、各側面又は軸は、標識された成分の濃度を示す。各軸のラベルの下にある矢印は、標識された成分の100%w/wを表す角度を指している。例えば、頂角は、レシチンでは100%w/w、胆汁酸塩では0%の組成を表す。同様に、下角と右角は胆汁酸塩で100%w/w、MCTで0%w/w、左下角は100%w/w MCTと0%w/wレシチンを表す。軸上の任意の点は、境界点A&Fなどの二値混合であり、三角形内の各点は三値混合を表す。たとえば、境界点Bには61%w/w L、27%M、12%Bが含まれており、三元状態図の目的は、LMBWゾーンの視覚的及び定量的な表現を提供することである。LMBWゾーンは、境界点(白円)で囲まれたグレー領域です。境界点を結ぶ線は、LMBWゾーンと非LMBWゾーンを分離する境界を形成し、実線によってマッピングされる。各オープンサークル又は固体サークル組成物を実験的に調製し、それが透明で単相の溶液であるかどうかを決定するために試験した。なお、A-F線上にある組成物は、MCTが存在しないため、LMBWとはみなされない。
【0104】
三元状態図に表示されたLMBWゾーンでは、L、M及びBの所与の混合物がLMBWを形成できるかどうかを容易にチェックすることができ、もしそうであれば、そのような混合物がLMBW特性を有すると期待できる。各三元状態図(
図1~4)について、水濃度は、水/乾燥重量比又は水/LMB(w/w)にも記載され、同様に、アルコール濃度は、アルコール/乾燥重量比又はアルコール/LMB比(w/w)で表される。
【0105】
最大LMBWゾーンに由来するLMBW組成物には、溶液の透明性と単相性を維持しながら、より多くのアルコールを添加することができる。しかし、安全性を考慮して、FDAは、血管(例えば、静脈内)又は軟部組織(例えば、筋肉内)に直接注射可能な薬物について、アルコール含有量の上限を製剤の最終重量の約20%に設定している。したがって、LMBW中の好ましいアルコール濃度は約20%までである(注射時の製剤の最終重量に基づく)。それにもかかわらず、注射前に製剤を希釈すると、さらに多くのアルコールを加えることができる。
【0106】
注目すべきは、(1)アルコールの添加はLMBW組成物に対して任意であり、(2)アルコール含有LMBW組成物は全てのLMBW特性を保持することである。
【0107】
図5は、アルコール又はアルコール/LMB(w/w)=0/1のないL、M及びBの三元状態図を示し、ここで、LMBWゾーン(ゾーンIV)内でのみ、組成物は透明で単相の溶液である。他の領域(I、II又はIII)では、組成物は不明瞭であるか、又は2つ以上の相を有する。
【0108】
LMBWゾーンの外側のL、M及びBの任意の組成物は、水中で多相液体又は半固体、すなわち、エマルジョン、懸濁液、ゲルなどを形成することも観察された(
図5)。
【0109】
LMBWは水中で自発的に形成できるか、又は自己形成性である。LMBWゾーン内の透明で単相の組成物は、L、M及びBを水中に分散及び溶解するために低エネルギーミキサーを用いて容易に形成できる。特別な高温、高速、高圧、押出、微小流動化又は高エネルギー均質化は必要ない。LMBWのこの特徴は、エマルジョン、懸濁液、又はリポソームのような他のレシチンベースの組成物とは対照的であり、これらの組成物は全て、それらの調製のために高エネルギー均質化方法を必要とする。
【0110】
同様に、LMBWを水又は静注輸液で希釈するには、穏やかな混合のみが必要である。LMBWのこの容易に水希釈可能な特徴は、IV注入に特に有用であり、ここで、LMBWは「濃縮物」製剤として提供され、そして投与前に水又はIV注入液で希釈される。
【0111】
LMBWの自己形成性(高エネルギー均質化を必要としない)は、それが熱力学的に好ましい系であり、物理的に安定であることも示唆する。他のレシチンベースの製剤とは異なり、LMBWは透明で単相の溶液として残り、時間をかけて沈殿物を形成したり、凝集又は相分離を起こさない(実施例12)。対照的に、エマルジョン、リポソーム、ミセル又は懸濁組成物は、熱力学的に好ましいシステムではなく、経時的に、これらのシステム中の成分は凝集し、システムは異なる相に分離する。例えば、経時的に、エマルジョンは、凝集相及び分離相に「クリームアウト」する。
【0112】
LMBW組成物が透明で単相の溶液であるという事実は、患者、看護師、又は医師にとって非常に望ましい。溶液の透明性により、使用前に薬物調製物を目視で検査し、固形粒子、微生物の増殖又は他の異常な含有物がないことを確認することができる。これは、先行技術に記載されている他のほとんどのレシチン、MCT、又は胆汁酸塩ベースの組成物とは対照的であり、それらは、本質的に不透明又は濁り(例えば、リポソーム、エマルジョン)、又は水中での希釈後に乳白色又は沈殿(例えば、溶媒ベース又はミセル溶液)のいずれかである。
【0113】
LMBWは、予め希釈することなく直接注入することができる、すぐに使用できる製剤である。このようなすぐに使用できる製剤は、面倒であったり、医学的過誤を起こしやすい調製又は希釈の特定の段階を排除するので、望ましい。緊急事態下で即時投与を必要とし、希釈の時間がほとんど又は全くない救助薬には、すぐに使用できるLMBW製剤が重要である。
【0114】
LMBWゾーン内で、異なる薬物を含む種々の組成物が選択され、調製され、所望のLMBW特性を有することが実証された(実施例4-29参照)。
【0115】
水中で不安定な薬物については、無水(無水)LMBW組成物を使用してもよい。無水LMBWは、乾燥重量に対する水の重量比が0.1/1未満の水分含有量に水を含まないLMBWである。水と混合すると、無水LMBWは、同じLMBW特性を有するLMBW溶液を形成することができる。
【0116】
無水LMBWは、凍結乾燥又は他の乾燥方法(例えば、真空乾燥)を用いて水を除去することによって製造することができる。凍結乾燥又は他の乾燥製剤と同様に、無水LMBWは、水感受性薬物を処方するための新しい選択肢を提供する。無水LMBWは、液体ビヒクルとしてのアルコール、不透明な固体又は透明なガラス様固体(固体LMBWを参照)を有する溶液として存在し得る。
【0117】
あるいは、無水LMBWは、LMBWゾーン内の濃度で各々とL、M、及びBを直接混合することによって生成され得る。
【0118】
ある態様では、LMBWは、薬物なしで提供され得る。薬物はLMBWの必須成分ではない。薬物を含まないLMBW賦形剤(パート1)を調製し、その後、投与前に薬物(パート2)と混合することができる。この2つの部分からなるシステムは、2つの部分を組み合わせた後に長期間の安定性を持たない薬物に対して望ましい場合がある。
【0119】
ある態様では、LMBWに薬物を入れることができる。LMBWビヒクルに薬物を組み込むために、原薬をLMBWに添加し、薬物が溶解するまで混合する。原薬は、あらかじめ製造されたLMBWビヒクルに添加して溶解するか、又はLMBWの調製中の任意の段階で添加することができる(実施例2、3、4及び15)。
【0120】
ある態様では、LMBW組成物は、単相の液体であり、肉眼で検出可能な、又は顕微鏡又はDLS分光計(実施例13及び実施例16)などの特定の粒子検出分析装置を使用することによって検出可能な、任意の油滴、固体粒子、凝集体又は超分子構造を含まない。LMBWの透明性、物理的安定性、及び簡単な製造プロセスのために、LMBWのような単相の組成物が多相組成物よりも好ましい。
【0121】
ある態様では、LMBW組成物は、単相の液体であり、DLS検出可能な油滴、固体粒子、凝集体、又は直径が5nmより大きいサイズ、好ましくは2nmより大きいサイズ、又はより好ましくは1nmより大きい超分子構造を含まない。
【0122】
ある態様では、LMBW組成物は透明であり、T800が70%を超え、好ましくは80%を超え、又はより好ましくは90%を超えている。
【0123】
別の態様では、LMBWは、約1~10,000センチポアズ又はcP、好ましくは10~1,000cP又はより好ましくは10~100cPの粘度を有する。
【0124】
ある態様では、LMBWは、0.2ミクロンフィルターメンブレンを通過させることができる。これにより、単純濾過によるLMBD組成物の滅菌が可能となる(実施例3)。
【0125】
ある態様では、LMBWビヒクル(薬物なし)は、オートクレーブのような加熱殺菌方法によっても滅菌することができる。薬物が熱感受性でない場合、薬物を含むLMBWも加熱殺菌に適している場合がある。
【0126】
ある態様では、LMBWはさらに、酸、酸化防止剤、塩基、pH緩衝剤、増量剤、金属キレート剤、保存剤、粘度増強剤、浸透圧調整剤、又は不活性ガス、例えば窒素などの賦形剤を含む。
【0127】
ある態様では、LMBW中の全ての構成要素は、注射又は注射可能であると見なされる。主要成分L、M、Bは、注射薬としてFDAにより以前に承認されている。ホスファチジルコリン、胆汁酸塩、及びトリグリセリドは、ヒトの血液中に存在するため、ヒトの体に内因性である。実験的には、LMBW組成物は、軟組織(皮下注射を介する)及び血管(静脈注射を介する)への注射後、動物及びヒトの両方において安全であることが示されている(実施例5、6及び15)。
【0128】
不溶性精神活性薬ジアゼパムを含むLMBWについて、皮下注射後の安全性と薬物動態プロファイルについてヒトで試験した。本試験は、FDAにより承認されたINDの下で実施された第単相試験であった。LMBW製剤は、重大な有害事象が観察されることなく、ヒト被験者において良好な忍容性が認められた。同じ製剤をげっ歯類及びイヌでも試験し、皮下注射後に安全であることがわかった(実施例15)。ある態様では、ジアゼパムを含有するLMBW組成物は、静脈内、筋肉内、皮下注射、経口摂取、及び/又は直腸挿入によって投与される。ある態様では、ジアゼパムを含むLMBW組成物は、不安、アルコール離脱症候群、ベンゾジアゼピン離脱症候群、筋痙攣、痙攣、睡眠障害、レストレスレッグス症候群、又はクラスター発作を止める緊急事態において使用される。ある態様では、LMBW組成物は、0.1、0.5、1、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2、2.1、2.2、2、4、2.5及び/又は3mg/mLのような0.1~3mg/mLのジアゼパムを含有する。ある態様では、LMBW組成物は、ジアゼパム用量1~20mg、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20mgを含有する。ある態様では、ジアゼパムを含有するLMBW組成物は、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.1、1.2、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0、2.5、3、4又は5mLのような0.1~5mLで投与される。ある態様では、ジアゼパムを含有するLMBW組成物は、発作の開始時に、又は1~24時間ごとの頻度で投与される。
【0129】
驚くべきことに、LMBW組成物は、それが含有する胆汁酸塩の溶血性又は刺激性の可能性を低下させたようであった(実施例17)。胆汁酸塩は溶血及び組織刺激を引き起こすことが知られている(Cell Mol Biol Lett. 200l;6(4):88l-95)。このような毒性は一般に注射部位反応として現れる。例えば、活性成分として胆汁酸塩デオキシコール酸を含有するBELKYRA(商標)注射剤は、重度の注射部位反応を伴う。ベルキラ(商標)注射剤の添付文書から、本剤を皮下投与した患者の61%に注射部位出血・血腫が認められた。しかしながら、このような注射部位毒性は、皮下注射後のLMBWについて動物又はヒトのいずれにおいても観察されなかったことから(実施例15)、胆汁酸塩とLMBW組成物中のM及びLとの組み合わせが、明らかに胆汁酸塩に関連する溶血/組織刺激性の問題を減少又は排除していることが示された。
【0130】
LMBW組成は、(1)LMBWゾーン内でL、M、及びBでのみ製造でき、(2)これら3成分のいずれも類似した構造又は物理的性質を有する他の成分で容易に置換することができないため、独特である。例えば、レシチンは親油性界面活性剤であるが、スパン40のような他の親油性界面活性剤はレシチンを置換してLMBWを形成することができない。LMBWにおいて異なるレシチン挙動でさえ、LMBWのための好ましいレシチンは、レシチン重量に基づいて75%以上のホスファチジルコリンを有する大豆レシチンである(実施例7)。同様に、LMBW中のMはゴマ油(実施例8)のような長鎖トリグリセリド(LCT)で置換できず、LMBW中のBは脂肪酸のナトリウム塩のような他の水溶性界面活性剤で置換できない。
【0131】
LMBW組成物の固有性及び有用性をさらに実証するために、本発明者らは、同じL、M、B、アルコール及び水成分を用いて、多数の他の可能な2成分(2成分)又は3成分(3成分)の組合せを調製及び試験し、2成分又は3成分組成物のいずれも同じLMBW特性を有しないことを見出した(実施例2)。これらの非LMBW組成物のいずれも、以下の欠点の1つ以上を有する:
a.不明瞭又は透明である;
b.単相の溶液ではない;
c.水で薄めると濁り、沈殿する;
d.形成には高いせん断又は高エネルギーの均質化が必要である;
e.LMBWと同程度に不溶性薬物を溶解しない;及び
f.注射部位の組織に溶血性又は刺激性を示す(実施例17)。
【0132】
驚くべきことに、成分(L、M、B)は、単独又はLMBW以外の組み合わせよりも、一緒にLMBW組成物中にあるとき、不溶性薬物(例えば、ボリコナゾール)に対して非常に高い溶解度を相乗的に提供する(実施例2)。
【0133】
ある態様では、製剤中の同量のレシチンについて、LMBWは、リポソーム、エマルジョン、アルコール溶液又は混合ミセルのような他のレシチンベースの可溶化製剤と比較して、より大量の不溶性薬物を溶解することができる。
【0134】
ある態様では、製剤中の同量のMCTについて、LMBWは、エマルジョンのような他のMCTベースの可溶化製剤よりも、より大量の不溶性薬物を溶解することができる。
【0135】
ある態様では、配合物中の同量の胆汁酸塩について、LMBWは、ミセル又は混合ミセル溶液のような他の胆汁酸塩ベースの可溶化配合物よりも多量の不溶性薬物を溶解することができる。
【0136】
ある態様では、配合物中の同量のアルコールについて、LMBWは、アルコール-水共溶媒のような一般的に使用される他のアルコールベースの可溶化配合物よりも大量の不溶性薬物を溶解することができる。
【0137】
ある態様では、L、M、B、及びWをLMBW製剤中で組み合わせると、不溶性薬物の溶解度が増大し、これは、通常、各成分によって個別に達成される溶解度の合計よりもはるかに大きく、成分がリポソーム、エマルジョン、ミセル、懸濁液、混合ミセル又はアルコール溶液の形態で組み合わされる場合よりも大きい(実施例2)。ある態様では、LMBW中のL、M及びBは、水中の不溶性薬物の溶解度を相乗的に高めることができる。
【0138】
ある態様では、LMBWは、可溶性薬物を溶解して、透明な溶液製剤を得ることができる。L、M、及びBの存在のために、LMBWは、軟部組織に一旦注射されると、速い又は遅い放出性の製剤として作用し得る。
【0139】
また、好ましくは、LMBWは多くの他の既知の薬物可溶化剤と比較する。例えば、LMBWは、市販されている製剤(「VFEND(登録商標)LV」)に溶解剤としてシクロデキストリンを使用してボリコナゾールを溶解するのと同じ薬物濃度に、高度に不溶性の薬物ボリコナゾールを溶解することができる。驚くべきことに、ボリコナゾールのLMBW製剤は、VFEND(登録商標)同じ薬物動態プロファイルを示した(
図6)。I.V.製剤はなおも、シクロデキストリンベースの製剤に一般的に関連する腎毒性はない(実施例6)。ある態様では、ボリコナゾールを含有するLMBW組成物は、静脈内、筋肉内、皮下注射、経口摂取、眼又は耳への設置、及び/又は直腸挿入によって投与される。一態様では、ボリコナゾールを含有するLMBW組成物は、アスペルギルス症、カンジダ症、コクシジオイデス症、ヒストプラスマ症、ペニシリウム症、及びScedosporium又はFusariumによる感染症を含むが、これらに限定されない、多くの真菌感染症を治療するために使用される抗真菌薬として使用される。ある態様では、LMBW組成物は、1~60mg/mLのボリコナゾール、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30、35、40、45、50、55、又は60mg/mLを含有する。ある態様では、LMBW組成物は、0.027/1~0.16/1の間の薬物対乾燥重量比でボリコナゾールを含有する。ある態様では、LMBW組成物は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、50、100、又は200mgのような1~200mgのボリコナゾール用量を含む。ある態様では、ボリコナゾールを含有するLMBW組成物は、0.1、0.2、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.0、1.2、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0、3、4、5、10又は20mLのような0.1~20mLで投与される。別の態様では、ボリコナゾールを含有するLMBW組成物は、凍結乾燥されるか、又は実質的に水を含まない。別の態様では、ボリコナゾールを含有するLMBW組成物は、6~24時間ごとの頻度で投与される。さらに別の態様では、ボリコナゾールを含有するLMBW組成物は、VFEND(登録商標)I.V.製剤と生物学的に同等である。
【0140】
ある態様では、LMBW製剤中の薬物は、同じ薬物のシクロデキストリンベースの製剤よりも安全である。
【0141】
ある態様では、LMBWはビーグル犬に毎日4~6mLを反復静脈内注射するのに安全である。
【0142】
ある態様では、LMBWは、同じ薬物を含有するシクロデキストリン製剤と薬物動態学的に同等又は生物学的に同等である。
【0143】
ある態様では、LMBWは、シクロデキストリン製剤よりも、不溶性薬物に対してより高い溶解度を提供することができる(実施例25)。
【0144】
ある態様では、LMBWは、シクロデキストリンと現在配合されている製剤のための可溶化剤としてシクロデキストリンを置換することができる。シクロデキストリン可溶化薬物には、限定されないが、カンナビジオール、PGE2、PGE1、オパールモン、ピロキシカム、ベネキセートHC1、ヨウ素、デキサメタゾン、ニトログリセリン、セフォチアムヘキセチル、セファロスポリン、チアプロフェン酸、ジフェンヒドラミンとクロルテオフィリン、クロルジアゼピルニクロルフェニドナトリウム、イトラコナゾール、イトラコナゾール、イトラコナゾール、エストラジオール、インドメタシン、オメプラゾール、ポサコナゾール、テトラヒドロカンナビノール、ボリコナゾール、メシル酸ジプラシドン、デキストロメトルファン、セチルジン、マイトマイシン、メロキシカム、アリピプラゾールが含まれる。
【0145】
ある態様では、LMBWは、以下の不溶性薬物、診断薬又は栄養補助食品の各々を、水中におけるその固有の溶解度よりも有意に高いレベルに溶解することができる:アミオダロン、アムホテリシン、アプレピタント、バシトラシン、カンプトテシン、カゼイン、クラリスロマイシン、シクロスポリン、ジアゼパム、ジアゼパム、ドセタキセル、イブプロフェン、イブプロフェン、イリコナゾール、イリノテカン、ヨードパ、レボドパ、パクリタキセル、フィトナジオン、ポサコナゾール、酢酸プレドニゾロン、プロゲステロン、プロゲステロン、レスベラトロール、チロシン、オリコナゾール、又はそれらの塩若しくは組み合わせ(実施例4)。
【0146】
実施例4では、LMBW組成物は、広範囲の分子量、化学構造、物理化学的特性及び治療用途にわたって薬物分子の溶解度を増加させることが示された。これらの観察に基づいて、LMBW組成物を不溶性薬物の可溶化における広範な有用性のための「普遍的な可溶化剤」とみなすことは合理的である。
【0147】
ある態様では、LMBWは実質的に薬物を含まない、すなわち、LMBWは0%薬物を含有する。他の態様では、LMBW組成物は、0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25%w/wの薬物などの0~25%w/wの薬物を含む。特定の態様では、薬物または活性薬剤の量は、約0.1%~約5%、または約0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、1.1、1.2、1.3、1.4、 1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、3、3.1、3.2、3.3、3.4、3.5、3.6、3.7、3.8、3.9、4、4.1、4.2、4.3、4.4、4.5、4.6、4.7、4.8、4.9、および/または5%w/wであり、すべて組成物の最終重量に基づく。他の態様では、LMBW組成物は、0/1、0.1/1、0.2/1、0.3/1、0.4/1、0.5/1、0.6/1、0.7/1、0.8/1、0.9/1、および/または1/1などの乾燥重量に対する薬物重量比で0/1~0.5/1の薬物を含む。別の態様では、LMBW組成物は、0.001mg~100gの範囲の薬物用量を含有する。別の態様では、薬物含有LMBW組成物は、0.001mL~10Lの範囲の容量で提供される。さらに別の態様では、薬物含有LMBW組成物は、連続的に、1時間、1日4回、1日3回、1日2回、1日1回、2日1回、3日ごとに1回、4日ごとに1回、5日ごとに1回、6日ごとに1回、週1回、2週間ごとに1回、及び/又は月1回投与される。
【0148】
シクロデキストリンの薬物可溶化能は、シクロデキストリンと包接錯体を形成する薬物の能力によって制限される。封入体複合体は、薬物分子が特定の分子量、サイズ及び構造を有することを必要とする。言い換えれば、LMBWとは異なり、シクロデキストリンは汎用可溶化剤とは考えられない。
【0149】
別の態様では、LMBWを使用して、化粧品、診断剤又は栄養補助食品を溶解及び/又は送達することもできる。このような目的のためのLMBWは、注射又は点滴によって、又は経口、局所、眼、耳、鼻、吸入、膣、又は直腸投与によって、ヒト又は動物の患者に投与することができる。
【0150】
一態様では、薬物を含まないLMBWビヒクルのみもまた、医学的有用性を有し得る。例えば、LMBWを脂肪組織に注入して、BELKYRA(商標)(実施例29)のような治療目的又は化粧目的のために脂肪を溶解することができる。さらに、LMBW溶液は、皮膚、眼、耳、鼻、膣、直腸、創傷(酵素を伴う又は伴わない創傷清拭)、粘液、軟組織、又は毛髪などの身体部品を、治療、個人的ケア又は美容目的のために清浄化するための生体適合性洗浄液として使用することができる。
【0151】
ある態様では、LMBW組成物を使用して、痛風、腎臓結石、アテローム性動脈硬化症又は黄色板症におけるコレステロール沈着物、及びアルツハイマー病(アミロイド)におけるタンパク質沈着物のような、ヒト又は動物の体内の望ましくない不溶性固体沈着物を溶解及び除去することができる(実施例29)。
【0152】
ある態様では、LMBWは、そのまま、又は使用可能な状態で注入され得る。別の態様では、LMBWは濃縮物であり、さらに別の態様では、LMBWは、すぐに使用できるものと濃縮物との両方であり、さらに別の態様では、LMBWは、まず、無水形態で提供され、水と混合すると形成される。
【0153】
ある態様では、本発明は、(a)6%から72.5%の間の濃度のレシチン、(b)0%から32.5%の間の濃度のMCT、及び(c)11.5%から94%の間の濃度の胆汁酸塩、を含む、透明で単相の水溶液組成物を提供し、ここで、全ての濃度は、乾燥重量に対する重量パーセントであり、溶液組成物は、アルコール対乾燥重量比が0.49/1以下の濃度のアルコールをさらに含む。
【0154】
一態様では、本発明は、(a)約8%から約61.5%の間の濃度のレシチン、(b)約0%から約23%の間の濃度のMCT、及び(c)約22%から約92%の間の濃度の胆汁酸塩、を含む、透明で単相の水溶液組成物を提供し、ここで、全ての濃度は乾燥重量に対する重量パーセントであり、溶液組成物は実質的にアルコールを含まない。
【0155】
ある態様では、本発明は、3つの成分としてレシチン、MCT及び胆汁酸塩を有する三元状態図中のLMBWゾーン内の組成物中のレシチン、MCT及び胆汁酸塩を含む、透明で単相の水溶液組成物を提供し、ここで、LMBWゾーンは、以下の境界点によって囲まれる。
【0156】
【0157】
さらに、溶液組成物はアルコール/乾燥重量比が0.49/1以下の濃度のアルコールを含む。
【0158】
ある態様では、本発明は、3つの成分としてレシチン、MCT及び胆汁酸塩を有する三元状態図中のLMBWゾーン内の組成物中のレシチン、MCT及び胆汁酸塩を含む、透明で単相の水溶液組成物を提供し、ここで、LMBWゾーンは、以下の境界点を円で接続することによって画定される。
【0159】
【0160】
さらに、溶液組成物は、実質的にアルコールを含まない(「アルコールを含まない」)。
【0161】
別の態様では、本発明のLMBW組成物は、アルコール対乾燥重量比の0/1~0.49/1の濃度のアルコールを含有する。0/1のアルコール対乾燥重量比で、最小のLMBWゾーンが得られ(
図4)、及び0.49/10/49アルコール/乾燥重量比で、最大のLMBWゾーンが得られた(
図1)。
【0162】
これらのLMBWゾーンは、特に不溶性薬物を可溶化するための製剤ビヒクルの選択のための薬物製剤において非常に有用である。いくつかのアルコールを含有することができる薬物製剤については、最大のLMBWゾーン内の異なる位置でいくつかの(3又は4)LMBW組成物を製剤ビヒクルとし選択することができる(
図1)。これらのLMBWビヒクルによって達成された不溶性薬物の溶解度を測定し、比較し、最大の溶解度を提供する1つの好ましいビヒクルを選択する。
【0163】
別の態様では、本発明のLMBW組成物は、アルコール対乾燥重量比が1.6/1以下の濃度のアルコールを含有する。アルコール濃度が高くなると沈殿する(実施例18)。
【0164】
別の態様では、本発明のLMBW組成物は、最終製剤の総重量の10%、20%、30%、40%、50%、60%、又は70%以下の濃度のアルコールを含有する。
【0165】
別の態様では、アルコールは、エタノール、ベンジルアルコール、プロピレングリコール、低分子量(100~5,000)のポリエチレングリコール、又はそれらの組み合わせからなる群から選択される。LMBWのための好ましいアルコールは、エタノール、ベンジルアルコール、プロピレングリコール又はそれらの組み合わせである。
【0166】
アルコールが望ましくない薬物製剤については、
図4中のLMBWゾーンを用いて同様の選択プロセスを適用することができる。製剤ビヒクルとしてLMBWゾーン内の異なる位置でいくつかの(3又は4)LMBW組成物を選択し、次いで、これらのビヒクルによって達成される不溶性薬物の溶解度を測定し比較し、最も溶解度が高い1つの好ましいビヒクルを選択することができる。
【0167】
別の態様では、本発明のLMBW組成物は、約3~約10のpHを有する。好ましい態様では、本発明の組成物は約4~約9のpHを有する。より好ましい態様では、本発明の組成物は約4~約8のpHを有する。別の態様では、LMBW組成物は、本発明のLMBW組成物は、3.3、3.4、3.5、3.6、3.7、3.8、3.9、4、4.1、4,2、4.3、4.4、4.5、4.6、4.7、4.8、4.9、5、5.1、5.2、5.3、5.4、5.5、5.6、5.7、5.8、5.9、6、6.0、6.1、6.2、6.3、6.4、6.5、6.6、6.7、6.8、6.9、7、7.1、7.2、7.3、7.4、7.5、7.6、7.7、7.8、7.9、8.8、8.1、8.2、8.3、8.4、8.5、8.6、8.7、8.8、8.9、または9.0を有する。
【0168】
別の態様では、LMBWの組成物は、pH調整のための酸及び/又は塩基を有する。好ましい酸は塩酸であり、好ましい塩基は水酸化ナトリウムである。
【0169】
さらに別の態様では、LMBWは保存剤を含む。好ましい保存剤は、塩化ベンザルコニウム、クレゾール、メタクレゾール、フェノール、パラベン、ベンジルアルコール、EDTA又はそれらの混合物である。使用できる濃度は、塩化ベンザルコニウムで約0.01%~1%、クレゾール/メタクレゾールで約0.08%~0.315%、フェノールで0.06%~1.3%、パラベンで約0.01%~1.5%、ベンジルアルコールで約0.05%~10%、EDTA二ナトリウムで約0.005%~0.2%、EDTA二ナトリウムで約0.005%~0.34%である。すべてのパーセンテージは、組成ベースの重量に対する個々の成分の重量に基づいている。
【0170】
一態様では、LMBWは、酸化防止剤をさらに含む。有用な酸化防止剤としては、不活性ガス、メチオニン、システイン、デキストロース、フルクトース、ラクトース、及びエデト酸塩(EDTA)のような金属キレート剤、又はそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。好ましい酸化防止剤は、メチオニンとEDTAの組み合わせである。各酸化防止剤の濃度は、本発明の組成物中の任意の成分に対するその安定化効果及び患者に対するその安全性に基づいて決定することができる。各酸化防止剤の正常な濃度範囲は、FDAの不活性成分リストに記載されている。例えば、注射用製剤に有用なメチオニン濃度範囲は、組成物の0.01~49.2重量%である。
【0171】
さらに別の態様では、LMBWは、増量剤を含む。好ましい増量剤は、マンニトール、ショ糖、ラクトース、トレハロース、マルトース、デンプン又はそれらの混合物である。濃度は組成物の約1~20重量%である。
【0172】
別の態様では、LMBWは、(1)レシチン、MCT及び胆汁酸塩及び水を混合するステップ、及び(2)レシチン、MCT及び胆汁酸塩を水に溶解して透明な単相の液体を形成するステップを含む、薬物を含まないLMBW組成物を調製する方法を提供する。
【0173】
別の態様では、本発明は、(1)レシチン、MCT及び胆汁酸塩及び水を混合するステップ、及び(2)レシチン、MCT及び胆汁酸塩を水に溶解させて透明及び単相の液体を形成するステップを含む、薬物含有LMBW組成物を調製する方法を提供し、ここで、薬物は、LMBW組成物に添加され、任意のステップで溶解するために混合され得る。
【0174】
別の態様では、本発明は、(1)レシチン、MCT及び胆汁酸塩及び水を混合するステップ、及び(2)レシチン、MCT及び胆汁酸塩を水に溶解させて透明及び単相液体を形成するステップを含む、薬物含有LMBW組成物を調製する方法を提供し、ここで、薬物又は医薬賦形剤をLMBW組成物に添加し、任意のステップで溶解させることができる。薬学的賦形剤は、アルコール、酸、塩基、pH緩衝液、酸化防止剤、増量剤、粘度増強剤、浸透圧調整剤、保存剤、又はそれらの組み合わせであってもよい。
【0175】
別の態様では、本発明は、(1)薬物、レシチン、MCT及び胆汁酸塩及び水を混合するステップ、及び(2)レシチン、MCT及び胆汁酸塩を水に溶解して透明で単相の液体を形成するステップを含む、薬物含有LMBW組成物を調製する方法を提供し、ここで、液体のpHは、いずれのステップにおいても酸又は塩基で調整される。
【0176】
別の態様では、本発明は、(1)薬物、レシチン、MCT及び胆汁酸塩及び水を混合するステップ、ならびに(2)レシチン、MCT及び胆汁酸塩を水に溶解させて透明な単相の液体を形成し、次いで膜を通して濾過するステップを含む、薬物含有LMBW組成物を調製する方法を提供する。
【0177】
本発明の溶液製剤は、投与前にそのまま(希釈せず)又は水で希釈して投与することができる。また、静注輸液を用いて希釈することもできる。投与経路としては、注射及び吸入、又は経口、耳、鼻、局所、眼、膣及び直腸投与が挙げられるが、これらに限定されない。本発明の溶液製剤は、限定されるものではないが、針/シリンジ、輸液セット、輸液ポンプ、カテーテル、アプリケーター、ボトル、スプレー装置、吸入装置、及び創傷包帯を含む装置を用いて送達することができる。
【0178】
一態様では、本発明の溶液組成物は、オートクレーブ処理される。
【0179】
一態様では、本発明の溶液組成物は、6ヶ月以上安定である。
【0180】
一態様では、本発明の組成物は、約100~600mOsmol/Lの浸透圧を有する。
【0181】
一態様では、本発明の組成物は、薬物をヒト又は動物の患者に送達するために使用される。
【0182】
一態様でが、本発明の組成物は、ヒト又は動物における疾患の治療、予防又は診断に使用される。
【0183】
一態様では、本発明の組成物は、化粧品又は栄養補助食品製剤に使用される。
【0184】
本発明は、以下の非限定的な実施例を参照することによってさらに理解されるであろう。
【実施例】
【0185】
III.実施例
実施例1
本研究の目的は、レシチン、MCT、及び胆汁酸塩からなる三元状態図中のLMBWゾーンを明らかにすることであった。ホスホリポン90Gはレシチンとして、ミグリオール812はMCTとして、グリココール酸ナトリウムは胆汁酸塩として使用した。対象とする各組成物について、計算された量のレシチン、MCT及び胆汁酸塩及び水をガラス容器中に秤量し、以下のステップで調製及び試験した。
【0186】
A:アルコールを含まないLMBWの調製
1.3成分(L、M、B)すべてを量り取り、水と混合する。
2.HCl/NaOHでpHを7.2に調整する。
3.所望の水/乾燥重量比にさらに水を加える。
4.混合してL、M、Bを溶解する。
5.液体を室温で15~30分間放置し、可能な相分離を行う。
6.視覚的及び顕微鏡的に、透明性及び相分離を観察する。
7.透明で単相の液が得られた場合は、10倍及び100倍に希釈し、点滴静注液(5%デキストロース水溶液又はD5W)を使用する。
8.ステップ5~6を繰り返す。
【0187】
B.アルコールを含むLMBWの調製
9.上記ステップ4で調製した試料を入手する。
10.所望のアルコール/乾燥重量比にアルコールを加える。
11.よく混ぜる。
12.遠心分離して、起こり得るあらゆる相分離を強制する。
13.遠心分離後、透明な単相液が残っている場合は、10倍及び100倍に希釈し、点滴静注液(5%デキストロース水溶液又はD5W)で希釈する。
14.ステップ12を繰り返す。
15.添加されたアルコールの各レベル(アルコールを含まない)について、三元状態図(図面)上で調製及び試験された全ての組成物をプロットする(
図1~4)。透明で単相の溶液として白丸で残った組成物のプロット点、及び透明でない組成物又は固体サークルによる単相の組成物を注目されたい。
16.実線に最も近い開いた円を境界点として選択する。
17.境界点を、塗りつぶされた円が含まれていない最大の領域を包含するように接続して、LMBWの製剤化が成功する可能性のある範囲を示すグラフ領域(「LMBWゾーン」)を境界付けする。
【0188】
下の表は、4段階のアルコール含量における境界点を示している。これらの境界点は、
図1~4にグラフで表示される。
【0189】
【0190】
0/1アルコール/乾燥重量比で、得られたLMBWゾーンは最小である(
図4のゾーン)。0.49/1アルコール/乾燥重量比では、得られたLMBWゾーンが最大である(
図1のゾーン)。アルコールを含む製剤については、不溶性薬物の製剤を開発するための出発点として、最大のLMBWゾーンを使用することが合理的である。
【0191】
実施例2
本研究の目的は、LMBWによる不溶性薬物の溶解度増強を、同じ成分、すなわちL、M、B及びアルコールの他の混合物と比較することであった。
【0192】
本研究では、不溶性薬物としてボリコナゾールを使用した。LMBWは、大豆レシチン、MCT、胆汁酸(水中のpH調整原液として)、及びアルコール(エチル及びベンジル)を水中に含有する。他の混合物は、LMBWと同じ濃度の各成分と水中のこれらの成分の2成分又は3成分の組み合わせであった。
【0193】
本研究で調製したLMBWは、乾燥重量に基づいて49.4% L、29.7% M及び20.9% B、アルコール対乾燥重量比0.22/1及び水対乾燥重量比0.98/1を含む。この組成は、
図1のようにLMBWゾーン内にある。
【0194】
各組合せにおける溶解度を決定するために、ボリコナゾールを各組合せに添加し、もはや溶解しなくなるまで混合した。各混合物について、pHをpH4.5~5に調整し、室温で平衡化し、次いで、0.2ミクロンフィルターを通過させた。濾液をHPLCで分析し、ボリコナゾール濃度を測定した。各HPLCで測定したボリコナゾール濃度は、下記の表に「ボリコナゾールの溶解度」として記載されている。
【0195】
【0196】
【0197】
結果は、(1)LMBW組成物が水中のL、M、B及び/又はアルコールの他の組合せよりもはるかに高い5濃度にボリコナゾールを溶解し、(2)アルコールのみの組合せを除いて、LMBW組成物のみが透明で単相の溶液であったことを示す。
【0198】
実施例3
この実験の目的は、VFEND(登録商標)I.V.注射に代わる適切なIV注射製剤を得るためにボリコナゾール0を溶解するためにLMBWビヒクルを使用することであった。VFEND(登録商標)I.V.注射は、FDAにより承認され、米国ではPfizer,Inc.により販売されている抗真菌薬である。VFEND(登録商標)I.V.は、ボリコナゾール200mg及びスルホブチルエーテルベータ-シクロデキストリンナトリウム(SBECD)3200mgに相当する無菌凍結乾燥粉末を含む使い捨てバイアルに入れて供給される。高用量では、シクロデキストリンは腎毒性を引き起こすことが知られている。F96はシクロデキストリンを含まないので、LMBWビヒクル(F96)中の以下のボリコナゾール製剤は、VFEND(登録商標)I.V.のより安全な代替物として開発することができた。
【0199】
【0200】
F96は、乾燥重量、アルコール対乾燥重量比0.42/1、及び水対乾燥重量比約1.2/1に基づいて、54.3%L、17.4%M、及び28.3%Bを含む。F96は、
図1及び2のようにLMBWゾーン内にある。
【0201】
F96は以下のように調製した:
1.レシチン、MCT、胆汁酸(pH調整水原液)、エタノール、ベンジルアルコール及びプロピレングリコールをガラス容器1個にとり、秤量し、合わせる。
2.透明な単相溶液又はLMBW溶媒(F96溶媒)が得られるまで穏やかに混合する。注:このステップには、高エネルギーミキサー又はホモジナイザーを必要としない。
3.HCl/NaOHを用いてpHを約4に調整する。
4.LMBWビヒクルにボリコナゾールを加える。
5.ボリコナゾールが溶解するまで混合する。
6.最終重量に注射用滅菌水を加える。
7.穏やかに混合し、透明で単相の溶液、すなわち薬物含有LMBWを得る。
8.この溶液を滅菌済みの0.2ミクロンフィルターに通す。
9.濾液をタイプのガラスバイアルに充填し、バイアルをゴム栓で密封する。
【0202】
バイアルF96製剤は、わずかに黄色で透明で単相の溶液であった。F96は、水、生理食塩水、D5W又は他の静注輸液で自由に希釈することができる。希釈した溶液は透明で単相のままであった。
【0203】
実施例4
本研究の目的は、広範囲の不溶性薬物の溶解における実施例3のF96 LMBWビヒクルの有用性を実証することであった。多種多様な化学構造(化学元素、小分子、ペプチド及びタンパク質を含む)、特性及び生物学的活性(薬物、診断薬及び栄養補助剤を含む)を有する22の不溶性薬物を選択し、F96 LMBWビヒクルへの溶解度を以下のように試験した。
1.固定量のF96車を測定する。
2.不溶性の原薬を既知量加える。
3.混和して原薬を溶解する。
4.原薬が完全に溶解した場合は、F96 LMBW溶媒が添加された原薬を溶解できなくなるまで、ステップ1~3を繰り返す。
5.F96 LMBWビヒクルが溶解する可能性のある不溶性原薬の最大量を記録し、この値を用いてF96 LMBWビヒクル中の薬物の溶解度を算出する。
【0204】
【0205】
【0206】
上記の薬物はすべて水への溶解度が非常に低いことが知られている。それらの化学構造又は生物学的活性にかかわらず、試験されたすべての薬物に対する溶解度はF96 LMBW溶媒中で実質的に増加した。上記表のF96 LMBWによって達成された薬物濃度は、0.5mg/mLから118mg/mL(全組成体積に基づくと0.05%から11.8%w/vに相当する、又は全組成重量に基づくと約0.05%から11.8%w/w、又は乾燥重量に対する薬物重量比では0.0015/1から0.36/1の範囲であった。これらの知見は、LMBWsが汎用可溶化剤であることを示している。
【0207】
実施例5
実施例3で調製したF96ボリコナゾール製剤の薬物動態試験をビーグル犬で行った。本試験では8匹のイヌ(雄4匹、雌4匹)を用いた。試験では、F96中の3.0mgボリコナゾール/kgを各イヌに単回静脈内(IV)投与し、静脈内投与後0.083、0.25、0.50、1.0、1.5、2、4、6、8、12、24時間に血液サンプルを採取した。比較のために、参考品リストに記載されたVFEND(登録商標)、注射用I.V.の薬物動態試験を、同じ手順及びイヌを用いて実施した。血漿中のボリコナゾール濃度をHPLC-質量分析により分析した。得られた結果を表に示す。
【0208】
F96は、注射用VFEND(登録商標)、I.V.と非常に類似した薬物動態プロファイルを示す。F96投与群では副作用は認められなかった。これらの知見は、F96が静脈内注射に対して安全であり、注射のためのシクロデキストリン含有VFEND(登録商標)、I.Vと同じ薬物動態プロファイル(すなわち、生物学的に同等)を提供できることを示す。
【0209】
【0210】
F96は、注射用VFEND(登録商標)、I.V.と非常に類似した薬物動態プロファイルを示す(
図6)。F96投与群では副作用は認められなかった。これらの知見は、F96が静脈内注射に対して安全であり、注射のためのシクロデキストリン含有VFEND(登録商標)、I.Vと同じ薬物動態プロファイル(すなわち、生物学的に同等)を提供し得ることを示す。
【0211】
実施例6
この実験の目的は、静脈注射後のビーグル犬(雄2匹と雌2匹)におけるF96 LMBW(薬物なし)の安全性を評価することであった。生理食塩水で希釈し、0(F96 LMBW溶媒のみ)、8mg/kg及び12mg/kg(F96 LMBW/日の約4~6mLに相当)で4週間毎日静注投与した。臨床所見及び剖検所見は、体重、体重、体温、眼科学的検査、心電図、血球数、血液生化学、尿検査、骨髄塗抹、肉眼的解剖学、臓器重量(12臓器)及び組織学的検査(肝臓、腎臓、肺)であった。
【0212】
F96は、4週間の試験中に観察された溶血又は急性有害事象を伴わない試験動物において良好な忍容性を示した。試験終了時の剖検では、特記すべき病理学的所見は認められなかった。これらの知見は、LMBW組成が注射に安全であることを示している。
【0213】
実施例7
本実験の目的は、天然源(大豆又は卵)又は合成(DMPC)リン脂質からのレシチンを用いてLMBWを成功裏に作製できるかどうかを決定することであった。以下の組成物を実施例1の方法と同様の方法を用いて調製し、次いで視覚的及び顕微鏡的に検査した。
【0214】
【0215】
上記組成物(F100、F102、F104、F106及びF116)の各々は、乾燥重量に基づいて54.3%のレシチン(大豆レシチン、卵レシチン又はDMPC)、17.4%のMCT及び28.3%の胆汁酸塩、0.28/1のアルコール対乾燥重量比及び約1.39/1の水対乾燥重量比を含む。上記の組成物の各々は、
図1で定義されるように、LMBWゾーン内にある。
【0216】
異なるダイズレシチン(ホスホリポン90G、LIPOID S100及びLIPOID S75)で作製した全組成物は透明で単相溶液であった。ホスホリポン90G、LIPOID S100及びLIPOID S75中のホスファチジルコリン(PC)含量は、それぞれ約90%、100%及び75%である。卵レシチン組成は混濁し、DMPC組成相は分離した。これらの知見は、大豆レシチンがLMBWの好ましい成分であることを示している。
【0217】
実施例8
本研究の目的は、植物油中に見出されるような長鎖トリグリセリド(LCT)がLMBW中のMCTの代わりになるかどうかを決定することであった。以下の組成物を調製し、実施例7と同じプロトコールを用いて試験した。
【0218】
【0219】
上記組成物(F100及びF101)の各々は、乾燥重量に基づく54.3重量%のレシチン、17.4重量%のMCT又はLCT、及び28.3重量%の胆汁酸、0.28/1のアルコール対乾燥重量比及び約1.39/1の水対乾燥重量比を含む。上記の組成物の各々は、
図2及び3に定義されるように、LMBWゾーン内にある。
【0220】
MCTで作製したF100組成物は透明で単相の溶液であった。同量のLCTを用いて作製したF101を異なる相に分離した。これらの知見は、MCTがLMBWのための好ましい成分であることを示している。
【0221】
実施例9
本実験の目的は、異なる供給源及び一般的に使用されている2つの薬学的胆汁酸塩、すなわちグリココール酸ナトリウム及びデオキシコール酸ナトリウムのいずれかのレシチンを用いてLMBWを作製できるかどうかを決定することであった。2種類の異なる胆汁酸塩の各々を2種類のLMBW組成で試験した。以下の組成物を調製し、実施例7と同じプロトコールを用いて試験した。
【0222】
【0223】
上記組成物(F100、F110、F116及びF117)の各々は、乾燥重量及び乾燥重量比0.28/1及び水/乾燥重量比約1.39/1に基づいて、54.3%のレシチン、17.4%のMCT及び28.3%の胆汁酸塩を含有する。上記の組成物の各々は、
図1で定義されるように、LMBWゾーン内にある。
【0224】
試験した組成物(F100、F110、F116及びF117)は全て透明であり単相の溶液を生成した。これらの知見は、異なる供給源からのレシチン及びグリココール酸又はデオキシコール酸から作られた胆汁酸塩がLMBWを作るために使用できることを示している。
【0225】
実施例10
この実験の目的は、pH3.9、4.1、4.4、4.8、6.9又は8.7でF100組成物(実施例7のように)中でLMBWを製造できるかどうかを決定することであった。各組成物を調製し、実施例7と同じプロトコールを用いて試験した。
【0226】
pH3.9~8.7で調製した全てのF100組成物は透明で単相の溶液であった。これらの知見は、LMBWに対する許容可能なpH範囲が約pH3.5~pH9であることを示す。
【0227】
実施例11
この実験の目的は、LMBW組成物(実施例7のようなF100)を水又はIV注入液で希釈し、透明な単相の溶液として残すことができるかどうかを決定することであった。F100は、実施例7と同じ手順にしたがって調製され、次いで、注射用USP(SWFI)用滅菌水又は5%デキストロース注射USP(「D5W」)及び0.9%塩化ナトリウム注射USP(「生理食塩水又はNS」)と、容量比1:10及び1:100で混合された。各混合物を穏やかに混合した(手で10回反転)。室温で0、2、4、及び24時間後、各混合物の外観を、透明度、沈殿、及び相分離について視覚的及び顕微鏡的に検査した。また、24時間後に各希釈液の浸透圧を測定した。
【0228】
すべての希釈混合物は無色、透明及び単相の液体であった。浸透圧測定値(mOsm/kg)を下表に示す。
【0229】
【0230】
これらの知見は、LMBWが水又は静注輸液で自由に希釈できることを示している。D5W-及びNS-希釈LMBW混合物は、ほぼ等張であり、したがって、IV注入に適している。
【0231】
実施例12
本実験の目的は、LMBW組成物(F100)の安定性を決定することであった。F100は、実施例7と同じ手順にしたがって調製した。組成物のpHをNaOHで7.2に調整し、0.2ミクロンフィルターを通して濾過し、1型ガラスバイアル(5mL/バイアル)に充填し、ゴム栓(Flurotec(登録商標)栓)でシールした。バイアルは、2-8℃、25℃、30℃、及び40℃の安定チャンバー内で、直立位置及び反転位置の両方に配置した。0、1、2、3、6、12ヵ月目にサンプル評価を行い、目視検査及びpH測定を行った。
【0232】
12か月後、F100 LMBWは、粒子、沈殿又は濁った外観の徴候なしに、全てのバイアル中で透明で単相の溶液として残った。試験したすべてのバイアルにおいて、pHは6.0~7.0の間に留まった。
【0233】
これらの知見は、LMBW組成が、その明瞭な単相特性と長期間のpHを維持する点で安定であることを示している。
【0234】
実施例13
本実験の目的は、LMBW組成物中の任意の粒子の存在を決定することであった。LMBW組成物(F100)を実施例7と同じ手順で調製し、以下の3つの試験方法を用いて評価した。
・方法#1:約50ミクロンまでの粒子を検出できる目視検査。
・方法#2:光学顕微鏡(ニコン、ECLIPSE 50i)。約0.1ミクロンまでの粒子を検出することができる。
・方法#3:ダイナミックレーザー光散乱分光法(Malvern Zetasizer,Model Nano-ZS)。粒子サイズ範囲は0.3~10ミクロンである。
【0235】
F100は、未希釈及び希釈形態(F100:希釈剤の体積における希釈比1:10及び1:100の水で)のいずれの3つの方法によっても評価された。試験したすべての試料において、いずれの方法も粒子の存在を検出しなかった。これらの知見は、LMBWが、いかなるナノメートルからミクロンサイズの粒子、液滴又は構造も実質的に含まないことを示す。この観察は、LMBW組成物が、リポソーム、エマルジョン、懸濁液、ミセル分散、又は上記の方法で容易に検出できる他の多相系ではないことを明確に示している。
【0236】
実施例14
本実験の目的は、LMBWの最小水分含有量を決定することであった。以下のLMBW組成物を、実施例7と同じ手順を用いて調製した。L、M及びBの濃度は、
図1に示されるように、全てLMBWゾーン内にある。各組成物をpH7.2に調整したところ、透明で単相、すなわちLMBWであることがわかった。
【0237】
【0238】
透明で単相の外観を維持するのに必要な最少量の水を試験するために、各組成物を真空乾燥して水とエタノールを除去し、無水LMBWを得た。無水LMBWのいくつかは透明でなく、相分離を受けた。各無水LMBWに、エタノールを元の濃度(最終重量の5%重量)に戻し、次いで、透明で単相の溶液が得られるまで少量の混合と共に水を再添加した。添加された水の量を記録し、再水和LMBW中のその濃度を計算し(下表に列挙)、LMBWを形成するのに必要な最小限の水とみなした。
【0239】
【0240】
これらの知見は、LMBW組成物が水/乾燥重量比において0.1/1の最小量の水を必要とすることを示す。
【0241】
実施例15
不溶性薬物ジアゼパムを含むLMBW製剤を、皮下注射後の安全性と薬物動態プロファイルについて動物とヒトで試験した。ベンゾジアゼピンの水に対する溶解度は約0.05mg/mLである。LMBW製剤は、以下の組成を有する調製済み水溶液として提供される。
【0242】
【0243】
上記製剤中のL、M及びBの濃度は、乾燥重量に基づいてそれぞれ54.3%、17.4%及び28.3%であり、
図1に示すようにLMBWゾーン内にある。
【0244】
上記製剤は、以下のステップによって調製された。
1.秤量し、第1容器に胆汁酸塩を加える。
2.第1容器に秤量し、注射用滅菌水を加えて混和し、均一な懸濁液とする。
3.第1容器に秤量し、NaOH溶液を加え、透明な溶液が得られるまで混合する。
4.第1容器に秤量し、エデト酸カルシウム二ナトリウム及びメチオニンを加え、混合して溶解する。
5.秤量し、ジアゼパム原液を第2容器に加える。
6.第2容器に量り取り、エタノール、ベンジルアルコール及びMCTを加え、混和して溶かす。
7.第2容器に秤量し、レシチンを加え、混和して溶かす。
8.第1容器の内容物と第2容器の内容物を合わせる。
9.HCl/NaOHを用いてpHを約8に調整する。
10.透明な単相溶液が得られるまで混合する。最終重量に注射用滅菌水を加える。
11.0.2pmの滅菌フィルターに通す。濾液を滅菌ガラスバイアルに充填し、バイアルをゴム栓で密封する。
12.必要に応じて、密封バイアルをオートクレーブで滅菌する。蓋をし、室温に保つ。
【0245】
この製剤は最初にげっ歯類(2.25mL/kg)とウサギ(0.57mL/注射部位)で試験され、全身及び注射部位の両方で安全であることがわかった。その後、FDAにより承認されたINDの下で米国の第単相臨床試験において、安全性及び薬物動態について、この製剤をヒト被験者(10mg用量)を対象に試験した。この製剤は、ヒト被験者において一般に安全であり、忍容性が良好であることがわかり、ジアゼパム10mgを皮下注射することにより、以下の薬物動態パラメータが得られた。
【0246】
【0247】
実施例16
以下の4種類のLMBW製剤を粘度、粒径及び光透過率について試験した。
【0248】
【0249】
上記各製剤は、乾燥重量に基づいて、54.3%のレシチン、17.4%のMCT及び28.3%の胆汁酸塩を含み、
図1に定義されるようにLMBWゾーン内にある。
【0250】
使用される機器は、以下の通りである。
【0251】
【0252】
粘度試験法及び試験結果:
1.レオメーターは25℃に設定する。
2.レオメーターに円錐プレート40ウェルを取り付ける。
3.粘度標準0.5mLを加えて校正し、ウェルを清掃して乾燥させる。
4.試料0.5mLをウェルにセットし、速度を10rpmに設定し、試験を開始する。
【0253】
【0254】
光透過率試験法及び結果
1.空の10mm光路長石英キュベット(空白)で装置をブランクにする。
2.キュベットに製剤(20倍希釈又は5%デキストロース溶液で希釈)を充填する。
3.波長700、800、900、1000nmでの光透過率を測定する。
【0255】
【0256】
【0257】
粒子径測定試験方法および結果:
1.1mLの試料(D5Wで希釈した原液又は20X又は100X)をキュベットにセットする。
2.上記粘度試験で測定した粘度値を入力する。
3.測定を開始する。
【0258】
【0259】
実施例17
胆汁酸塩は溶血性であることが知られている。本研究では、以下の3種類の胆汁酸塩含有組成物を試験し、ウサギ赤血球(RBC)の溶血能を比較した。それらの溶血能をスルホブチルエーテル-P-シクロデキストリン(SBECD)水溶液と比較した。SBECDは、現在市販されているボリコナゾール製剤(水中に19.2%のSBECDを含有するVFEND(登録商標))及び他の薬物に使用される可溶化剤である。本明細書で試験したLMBW製剤は、乾燥重量に基づいて、54.3%のレシチン、17.4%のMCT及び28.3%の胆汁酸塩を含み、図あに定義したようにLMBWゾーン内にある。
【0260】
【0261】
各組成物を同じ量の赤血球と混合し、25倍に希釈し、又は生理食塩水で0.17%w/vの最終胆汁酸塩濃度に希釈した。生理食塩水及びジ水をそれぞれ陰性対照及び位置対照として用いる。この混合物を37℃で15分間インキュベートし、溶血が起こるようにした。インキュベーション後、各試料を5000rpmで遠心分離し、溶血した成分(上清中)から無傷の赤血球(ペレット中)を分離した。上清(溶血生成物又はヘムを含む)について、416nmの分光光度計を用いてETV吸光度を測定し、ヘム濃度を測定した。陽性対照又はDI-水試料からの吸光度値を100%溶血とみなし、他の試料の溶血の程度を計算するために使用した。
【0262】
【0263】
結果は、LMBW製剤が胆汁酸塩のみの溶液又は混合ミセル組成より溶血性が低く、生理食塩水又はSBECD溶液と同等であることを示した。これらの知見は、LMBW製剤が胆汁酸塩の溶血活性を有意に低下させることができ、胆汁酸塩のみの溶液又は混合ミセル溶液のような胆汁酸塩含有製剤よりもLMBWをより安全な製剤にすることを示唆する。
【0264】
実施例18
本研究は、LMBW組成物(実施例16のF95Vなど)中の水及びアルコール含有量の限界を調査するために実施した。異なる水又はアルコール含有量のLMBWを調製するために、以下の手順を使用した:
ステップ1.水相の調製:10N NaOHを用いて、グリコール酸及び他の水溶性成分を水中に添加し、pHを10~11に上げ、混合して透明な溶液を得る。
ステップ2.油相の調製:エタノール中にレシチン、MCT及び他の油溶性成分を添加し、混合して透明な溶液を形成する。
ステップ3:油相(ステップ2)に水相(ステップ1)を加え、混合して不均一な溶液を得る。
ステップ4:pHを4~8に調整する。
ステップ5:エタノールを減圧乾燥し、水分を所定の含量まで部分的に除去する。
ステップ6:必要に応じてエタノールを所定の含量に加える。
【0265】
このLMBW配合物中の水分は、約0.1/1(水/乾燥重量比の下限)から上限なしに調整することができ、アルコール含量は0/1から約1.6/1(アルコール/乾燥重量比の上限)に調整できることが分かった。水が下限値の0.1/1以下又はアルコールが上限値の1.6/1以上の場合、沈殿が生じた(下表参照)。
【0266】
【0267】
F145V中の0.2/1のような減少した水分含量は、ボリコナゾールのような水に感受性のある特定の原薬の化学的安定性を改善することができる。アルコールの添加は、LMBW中の不溶性薬物の溶解度をさらに増加させることができる。一方、アルコールの還元又は除去は、LMBWの安全性を改善することができる。
【0268】
実施例19
LMBW(実施例18におけるF145V、8%w/w水又は0.2/1水対乾燥重量比を含む)を用いて、不溶性薬物ボリコナゾールを約20mg/mLに可溶化した。可溶化溶液のpHをNaOHとHC1で調整し、2~8℃で保存したところ、pHが4未満のときに沈殿し、pHが8を超えると混濁、pHが4~8の間に透明で単相のままであることがわかった。したがって、F145V LMBW組成物については、好ましいpH範囲はpH約4~pH約8である。
【0269】
実施例20
ボリコナゾールの水への溶解度は、25℃で約0.7mg/mLで非常に低く、本試験は、F145V LMBW組成物(実施例18で調製)中のボリコナゾールの未希釈形態での溶解度及び静注液で希釈した後の溶解度を測定することを目的とした。様々な量のボリコナゾール(20~60mg/mL)を、最初にF145Vに溶解し、続いて、生理食塩水(NS)、5%デキストロース水(D5W)、注射用水(WFI)、又は乳酸リンゲル液のような静注液中で希釈し、最終ボリコナゾール濃度約0.5~5mg/mLにした。希釈せずに希釈した溶液及び希釈した溶液を、室温で24時間、沈殿の有無を目視で検査した。
【0270】
【0271】
所見は、未希釈形態のF145Vが、ボリコナゾールの溶解度を約0.7mg/mLから60mg/mL(86倍増加)以上に大幅に増加できることを示した。この原液は透明で単相であり、直接注射の準備ができている。静脈内注入液を用いて薬物を希釈し、より大きな容量を得るIV注入では、30mg/mLのボリコナゾールを含むF145V溶液を「濃縮物」製剤として用いることができ、これは沈殿することなく最終的なボリカオナゾール濃度0.5~5mg/mLで静注液中で自由に希釈することができる。
【0272】
実施例21
F95V(実施例16)及びF145V(実施例18)LMBWはいずれも最終組成物中に10.6%(w/w)の胆汁酸塩(グリコール酸)を含有する。それらの調製手順は、水酸化ナトリウムを添加することによってグリココール酸をグリココール酸ナトリウム(すなわち、胆汁酸塩)に変換することを含む。LMBWに対して、水酸化ナトリウムとグリコール酸の混合比は約1:8(w:w)と1:10(w:w)(水酸化ナトリウム:グリコール酸)の間でなければならないことが見出された。1:8(w:w)及び1:10(w:w)は、それぞれモル比で1.5:1及び1:1に対応する。水酸化ナトリウム:胆汁酸の混合比が1:10(w:w)未満の場合、沈殿が発生し、水酸化ナトリウム:胆汁酸の混合比が1:8(w:w)を超える場合、組成物は曇った。
【0273】
実施例22
LMBWビヒクル(F101V)を、バイアル中の凍結乾燥ボリコナゾール粉末を溶解する能力について試験した。
【0274】
【0275】
バイアル中で凍結乾燥ボリコナゾールを調製するために、ボリコナゾールをまずtert-ブタノールと水を含む共溶媒に溶解し、透明な溶液を形成した。溶液を0.2ミクロンのフィルターに通し、蒸気(200mgボリコナゾール/バイアル)に充填し、凍結乾燥して、粉末又はケーキ様固体形態の凍結乾燥ボリコナゾール(「好凍結性」)を得た。凍結乾燥菌は水に不溶である。
【0276】
バイアル中の凍結乾燥ボリコナゾールを溶解又は再構成するために、F101Vビヒクルを注射器及び針を介してバイアル中に添加した。F101Vは、凍結乾燥ボリコナゾールを完全に溶解して、1分以内に穏やかに振盪することにより透明で単相の溶液を形成することができた。最終的なボリコナゾール濃度は、目に見える粒子なしで約10~20mg/mLであった。したがって、LMBWは、不溶性薬物を凍結乾燥形態に溶解又は再構成するビヒクルとして使用することができ、使用可能な透明で単相の溶液を得ることができる。
【0277】
実施例23
LMBW F145V(実施例18)中のボリコナゾールの安定性を試験した。実施例18の手順にしたがって、F145Vのバッチを調製した。ボリコナゾールをF145Vに溶解し、30mg/mLボリコナゾールを含む透明で単相の溶液を形成した。溶液を0.2mサーロンフィルターに通して滅菌し、ガラスバイアル(200mg/バイアル)に充填した。密封バイアルは4つの異なる温度(2~8℃、25℃、30℃、40℃)で保存した。0、1及び2ヵ月後に、外観、pH、透明度、粒子状物質、ボリコナゾールアッセイ/不純物、浸透圧及び粘度についてサンプルバイアルを試験した。安定性試験の結果を以下の表にまとめた。
【0278】
【0279】
安定性の結果は、ボリコナゾールがF145V LMBW組成において安定であることを示す。これとは対照的に、凍結乾燥シクロデキストリン可溶化製剤(VFEND(登録商標))中の現在市販されているボリコナゾール薬物(LMBW)は、ボリカオナゾールのための新しい製剤を提供することができ、この製剤は液体であり、すぐに使用できる、すなわち、注射前又は静注液で希釈する前に水で再構成する必要がない。
【0280】
実施例24
LMBW中のボリコナゾールの安定性をさらに改善するために、ボリコナゾール及び溶解保護剤又は充填剤としてのショ糖をLMBWビヒクル(実施例18のF145V)に溶解し、30mg/mLボリコナゾール及び8%ショ糖を含む透明溶液を得た。溶液を0.1ミクロンフィルターに通し、ガラスバイアル中に充填し、凍結乾燥して、無水LMBW又は凍結乾燥し、LMBW可溶化したボリコナゾール製剤を得た。凍結乾燥製剤は、水を実質的に含まない。凍結乾燥製剤は、1~2分以内に速やかに水に溶解(再構成)して透明かつ単相の溶液を形成することができ、溶液は沈殿を生じることなくIV注入液で希釈することができる。したがって、LMBWは、水に容易に溶解して透明で単相の溶液又は容易に使用できる液体製剤を形成することができる無水形態で提供することができる。
【0281】
実施例25
本研究は、皮下及び筋肉内注射に望ましい約1~1.5mLの容量で10~20mgのジアゼパムを送達するために、市販の注射用製剤(「ジアゼパム注USP、5mg/mL」)の3倍高い少なくとも15mg/mLのジアゼパムを含む新しい水性製剤を開発することである。95種類の異なる水性組成物(F1-F95としてコード化)を設計し、調製し、ジアゼパムの溶解性を試験した。これらの組成物は、皮下及び筋肉内注射のために現在FDAにより承認されているほとんどすべての賦形剤又は可溶化剤を含んでいた。各組成物について、ジアゼパムを約1~2重量%に添加し、1種以上の賦形剤を含有する水性ビヒクルとよく混合し、室温で平衡化させ、0.2~又は0.45ミクロンのフィルターに通して、溶解していないジアゼパムを除去し、HPLCによりジアゼパム濃度(溶解度)について分析した。下記の表は、すべての組成物及びジアゼパム溶解度試験の結果をリストしたものである。溶解度の測定値の一部はmg/gで報告されており、これはすべての組成物の密度が1mg/mLに近いため、mg/mLに非常に近い。
【0282】
【0283】
【0284】
【0285】
【0286】
【0287】
【0288】
【0289】
【0290】
【0291】
【0292】
エマルジョン、混合ミセル、LMBW及び共溶媒製剤を含む試験されたすべての組成物の中で、LMBW組成物のみが15mg/mLより高い濃度にジアゼパムを溶解することができ、LMBWがエマルジョン、混合ミセル又は共溶媒ビヒクルよりも最も効果的な可溶化剤であることを示した。F92を除いて、LMBW溶液を含むジアゼパムは全て透明で、中性pHで単相であった。そのうちの1つ(F95)を、ヒトにおけるさらなる開発及び試験のために選択した(実施例15)。
【0293】
実施例26
17mg/mLジアゼパムを含むF95 LMBWを安定性のためにジアゼパム注射USP(5mg/mL)と比較した。バイアルのF95及びジアゼパム注射USPを25℃で6ヵ月間保存し、外観、pH、ジアゼパムアッセイ、純度及びHPLCによる不純物を含む安定性について試験した。その結果を下表に示す。
【0294】
【0295】
F95 LMBW中のジアゼパムは、市販のジアゼパム注射剤、ETSP製剤よりも安定である。
【0296】
実施例27
本研究の目的は、16%スルホブチルエーテルベータシクロデキストラン(SBECD)水溶液中の不溶性薬物の溶解度を測定し、F96 LMBW(実施例4)で得られたそれらの溶解度と結果を比較することであった。多種多様な化学構造(化学元素、小分子、ペプチド及びタンパク質を含む)、特性及び生物学的活性(薬物、診断薬及び栄養補助剤を含む)を有する21種の不溶性薬物を選択し、16%SBECDにおける溶解度を以下のように試験した:
1.16%SBECD水溶液を一定量測定する。
2.不溶性の原薬を既知量加える。
3.混和して原薬を溶解する。
4.原薬が完全に溶解した場合は、16%SBECDが添加した原薬を溶解しなくなるまで、ステップ1~3を繰り返す。
5.16%SBECDが溶解する不溶性原薬の最大量を記録し、この値を用いて16%SBECD中の薬物の溶解度を算出する。
【0297】
【0298】
プレドニゾロン酢酸エステル及びプロポフォールを除いて、何よりも薬物は16% SBECDよりもF96 LMBWビヒクル中ではるかに高い溶解度を有する。これらの知見は、試験したほとんどの不溶性薬物(20/22)について、LMBWはSBECDよりも良好な溶解剤であることを示している。単一のLMBW(F96)が広く異なる構造を有するすべての不溶性薬物(22/22)を可溶化(>1mg/mL)したが、SBECDはそれらのうちの少数(11/22)しか選択的に可溶化できないという事実は、LMBWがETniversal Solubilizerであることをさらに支持する。
【0299】
実施例28
本実験の目的は、固体LMBWを調製し、その物理的構造と形態を特性化することであった。実施例16に示すF95 LMBW組成物を調製し、いくつかの部分に分割し、各部分をpH5.5~7.0に調整し、次いで凍結乾燥して水及びエタノールを除去した。乾燥又は固体LMBW(F95)は、pHが5.5のとき、黄色透明ガラス状固体であった。より高いpHの試料では固体中のハジンネスが観察され、より高いpHではハジンネスがより強かった。比較のために、レシチン、MCT及び胆汁酸塩をF95と同じL/M/B比で直接混合することにより物理的混合物を調製した。F95固体LMBW及び物理的混合物の両方について、外観、XRPD及びDSC/TGAについて試験した。固体LF95は透明なガラス様固体であったが(
図7)、物理的混合物は油状で不透明なペーストであった。X線粉末回折(XRPD)は結晶性及び部分結晶性固体材料の研究のための強力な方法である。XRPDによる固体LMBW(F95)では結晶特性は観察されなかった。対照的に、物理的混合物のXRPDスペクトルは、特徴的な結晶ピークを示した(
図8)。XRPD結果は、固体LMBWが非晶質ガラスである一方、物理混合物はある種の結晶構造を有することを示唆する。加熱すると、固体LMBW(F95)は温度の上昇と共に軟化し、最終的に液化した。水と混合すると、固体LMBW(F95)は急速に溶解し、透明で単相のLMBW溶液に変化した。
【0300】
これらの知見は、(1)固体LMBWはその物理的構造において固有であり、そのような構造は全ての成分を単純に混合することによっては得られないこと、(2)開示されたLMBWの製造プロセスとその後の固体LMBWを得るための水及びアルコールの除去は、レシチン、MCT及び胆汁酸塩の間にユニークな錯体を生成し、そのような錯体は透明で非晶質であること、(3)固体LMBWは、錠剤又はカプセルのような固体投与形態での使用を可能にしながら、不溶性薬物を溶解するための固体ビヒクル又はマトリックスとして使用できること、及び(4)固体LMBWの融解特性は、改善された薬物溶解性、溶解又は吸収のために原薬を固体マトリックスに組み込むのに有用な技術であるホットメルト又はホットメルト押出に適していることを示唆する。
【0301】
実施例29
本研究の目的は、痛風関節に見られる尿酸一ナトリウム、アテローム性動脈硬化症病変又は黄色板症におけるコレステロール、アルツハイマー病患者の脳にタンパク質が沈着するβ-アミロイド、及び美容上の理由から望ましくない皮膚下の脂肪など、特定のヒト疾患に関連する一連の不溶性固体の溶解における実施例3のF95 LMBWビヒクルの有用性を実証することであった。これらの固体は体液への溶解度が非常に低く、したがって、それらは沈殿し、インビボで望ましくない固体沈着物を形成する高い傾向を有する。各固体について、F95 LMBW及びリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中での溶解度を決定するために、以下の手順を使用した:
1.目的の固体の一定量を秤量し、
2.pH7で既知量のF95ビヒクルを添加し、
3.混合して固体を溶解し、
4.固体が完全に溶解している場合は、溶媒に溶解しなくなるまでさらに添加し、
5.F95溶媒の添加量を記録し、その値を用いてF95溶媒中の固体の溶解度を算出する。
【0302】
【0303】
全ての試験固体は、生物学的流体に似たPBSへの非常に低い溶解度を有する。F96 LMBWは、それらの水への溶解度を著しく増加させることができ、したがって、インビボでこれらの望ましくない固体堆積物の除去剤として潜在的に使用される。