(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-26
(45)【発行日】2024-10-04
(54)【発明の名称】半導体装置
(51)【国際特許分類】
H01L 29/739 20060101AFI20240927BHJP
H01L 29/78 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
H01L29/78 655E
H01L29/78 652Q
H01L29/78 655G
H01L29/78 652C
H01L29/78 652J
H01L29/78 652K
H01L29/78 652M
H01L29/78 653A
H01L29/78 657A
(21)【出願番号】P 2021003840
(22)【出願日】2021-01-14
【審査請求日】2023-07-05
(32)【優先日】2020-02-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】302062931
【氏名又は名称】ルネサスエレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長田 尚
【審査官】西村 治郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-201024(JP,A)
【文献】特開2019-029434(JP,A)
【文献】特開2011-187693(JP,A)
【文献】特開平07-135309(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/336
H01L 21/8232
H01L 21/8249
H01L 27/06
H01L 27/07
H01L 27/085
H01L 27/118
H01L 29/739
H01L 29/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板と、
前記半導体基板に形成され、互いに向かい合った部分を有する第1と第2のトレンチ電極と、
前記第1と第2のトレンチ電極の周囲に形成される第1導電型のフローティング層と、
前記第1導電型のフローティング層に接合し、かつ、前記第1と第2のトレンチ電極間に形成される第2導電型のドリフト層と、
前記第2導電型のドリフト層に接合し、かつ、前記第1と第2のトレンチ電極間に形成される第1導電型の不純物層と、
少なくとも前記第1導電型の不純物層の上部に位置する部分を有するフローティング層制御ゲートと、
前記半導体基板の第1の面に形成されるエミッタ電極と、
前記半導体基板の第1の面に形成されるゲート電極と、
前記半導体基板の第2の面に形成されるコレクタ電極と、
を有し、
前記第2導電型のドリフト層は、前記コレクタ電極の上層に形成され、
前記第1と第2のトレンチ電極は、前記ゲート電極に接続され、
前記第1導電型の不純物層は、前記エミッタ電極に接続され、
前記第1導電型の不純物層は、前記第1のトレンチ電極に接合する第1の不純物層と、前記第2のトレンチ電極に接合する第2の不純物層とを有し、
前記第1と第2の不純物層の間に、第2導電型の不純物層が形成され、
前記フローティング層制御ゲートは、前記第1と第2の不純物層と前記第2導電型の不純物層の上部に配置される、
半導体装置。
【請求項2】
前記第1と第2の不純物層の下層に、前記第2導電型の不純物層が形成される、
請求項
1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記第1と第2の不純物層を覆うように、前記第2導電型の不純物層が形成される、
請求項
1に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記半導体装置は、IE型のIGBTである、
請求項
1に記載の半導体装置。
【請求項5】
半導体基板と、
前記半導体基板に形成され、互いに向かい合った部分を有する第1と第2のトレンチ電極と、
前記第1と第2のトレンチ電極の周囲に形成される第1導電型のフローティング層と、
前記第1導電型のフローティング層に接合し、かつ、前記第1と第2のトレンチ電極間に形成される第2導電型のドリフト層と、
前記第2導電型のドリフト層に接合し、かつ、前記第1と第2のトレンチ電極間に形成される第1導電型の不純物層と、
少なくとも前記第1導電型の不純物層の上部に位置する部分を有するフローティング層制御ゲートと、
前記半導体基板の第1の面に形成されるエミッタ電極と、
前記半導体基板の第1の面に形成されるゲート電極と、
前記半導体基板の第2の面に形成されるコレクタ電極と、
を有し、
前記第2導電型のドリフト層は、前記コレクタ電極の上層に形成され、
前記第1と第2のトレンチ電極は、前記ゲート電極に接続され、
前記第1導電型の不純物層は、前記エミッタ電極に接続され、
前記第1導電型の不純物層の下層に、第2導電型の不純物層が形成される、
半導体装置。
【請求項6】
半導体基板と、
前記半導体基板に形成され、互いに向かい合った部分を有する第1と第2のトレンチ電極と、
前記第1と第2のトレンチ電極の周囲に形成される第1導電型のフローティング層と、
前記第1導電型のフローティング層に接合し、かつ、前記第1と第2のトレンチ電極間に形成される第2導電型のドリフト層と、
前記第2導電型のドリフト層に接合し、かつ、前記第1と第2のトレンチ電極間に形成される第1導電型の不純物層と、
少なくとも前記第1導電型の不純物層の上部に位置する部分を有するフローティング層制御ゲートと、
前記半導体基板の第1の面に形成されるエミッタ電極と、
前記半導体基板の第1の面に形成されるゲート電極と、
前記半導体基板の第2の面に形成されるコレクタ電極と、
を有し、
前記第2導電型のドリフト層は、前記コレクタ電極の上層に形成され、
前記第1と第2のトレンチ電極は、前記ゲート電極に接続され、
前記第1導電型の不純物層は、前記エミッタ電極に接続され、
前記第1導電型の不純物層を覆うように、第2導電型の不純物層が形成される、
半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体装置及びその製造方法に関し、特に絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT:Insulated Gate Bipolar Transistor)を備えた半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
オン抵抗の低いIGBT、すなわち、順方向飽和電圧Vce(sat)の低いIGBTとしてトレンチゲート型IGBTが広く使用されている。また、トレンチゲート型IGBTのオン状態での導通抵抗とオン電圧を低減する目的で、IE(Injection Enhancement)効果を利用したIE型IGBTが開発されている。IE型IGBTでは、アクティブセルとインアクティブセル(フローティング層とも呼ぶ)とが交互に配置されている。フローティング層を設けることで、IGBTがオン状態のときに、正孔がエミッタ電極から排出されにくくなり、ドリフト層に蓄積されるキャリア(正孔)の濃度を高めることができる。
【0003】
特許文献1には、アクティブセル領域とインアクティブセル領域をX軸方向に交互に配置したIGBT構造が開示されている。また、アクティブセル領域には、エミッタ領域が設けられたアクティブセクションと、ボディコンタクト部が設けられたインアクティブセクションが配置されている。この構造により、キャリア(ホール)の排出経路を少なくすることができ、IGBTのターンオン時のスイッチング損失が改善される。
【0004】
特許文献2には、アクティブセル領域とインアクティブセル領域をX軸方向に交互に配置したIGBTの構造が開示されている。また、アクティブセル領域には、ボディコンタクトを有するハイブリッドセル領域、n型の分離領域、ボディコンタクトを有しないフローティング領域がY軸方向に配置されている。この構造により、キャリア(ホール)の排出経路を少なくすることができ、IGBTのターンオン時のスイッチング損失が改善される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-258190号公報
【文献】特開2019-102759号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1、2に記載された技術により、IE効果、すなわちキャリア(ホール)蓄積能力を高めることが可能となる。しかしながら、キャリア蓄積量増加に伴い、ターンオフ時のスイッチング損失(Eoff)が増加してしまう。IE効果向上とEoff低減の両立が求められる。
【0007】
その他の課題および新規な特徴は、本明細書および図面の記載から明らかになる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一実施の形態に係る半導体装置は、半導体基板と、半導体基板に形成され、互いに向かい合った部分を有する第1と第2のトレンチ電極と、第1と第2のトレンチ電極の周囲に形成される第1導電型のフローティング層と、第1導電型のフローティング層に接合し、かつ、第1と第2のトレンチ電極間に形成される第2導電型のドリフト層と、第2導電型のドリフト層に接合し、かつ、第1と第2のトレンチ電極間に形成される第1導電型の不純物層と、少なくとも第1導電型の不純物層の上部に位置する部分を有するフローティング層制御ゲートと、を有する。
【発明の効果】
【0009】
一実施の形態に係る半導体装置では、IGBTにおいて、IE効果向上とターンオフ時のスイッチング損失(Eoff)低減の両立を可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は実施の形態1に係る半導体チップの平面図である。
【
図2A】
図2Aは実施の形態1に係る半導体チップの平面図である。
【
図2B】
図2Bは実施の形態1に係る半導体チップの断面図である。
【
図3】
図3は実施の形態1に係る半導体チップの断面図である。
【
図4】
図4は実施の形態1に係る半導体チップの断面図である。
【
図5】
図5は実施の形態1の係る半導体チップの断面図である。
【
図6】
図6は実施の形態1の係る半導体チップの断面図である。
【
図7】
図7は実施の形態1の係る半導体チップの動作を説明するための図である。
【
図8】
図8は実施の形態1の係る半導体チップの動作を説明するための図である。
【
図9】
図9は実施の形態1の係る半導体チップの動作を説明するための図である。
【
図10】
図10は実施の形態1の係る半導体チップの動作を説明するための図である。
【
図12】
図12は実施の形態2に係る半導体チップの断面図である。
【
図13】
図13は実施の形態2に係る半導体チップの断面図である。
【
図14】
図14は実施の形態2に係る半導体チップの断面図である。
【
図15】
図15は実施の形態3に係る半導体チップの断面図である。
【
図16】
図16は実施の形態4に係る半導体チップの平面図である。
【
図17】
図17は実施の形態4に係る半導体チップの断面図である。
【
図18】
図18は実施の形態4に係る半導体チップの平面図である。
【
図19】
図19は実施の形態5に係る半導体チップの平面図である。
【
図20】
図20は実施の形態5に係る半導体チップの断面図である。
【
図21】
図21は実施の形態6に係る半導体チップの断面図である。
【
図22】
図22は実施の形態7に係る半導体チップの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、一実施の形態に係る半導体装置について、図面を参照して詳細に説明する。なお、明細書および図面において、同一の構成要件または対応する構成要件には、同一の符号を付し、重複する説明は省略する。また、図面では、説明の便宜上、構成を省略または簡略化している場合もある。また、各実施の形態の少なくとも一部は、互いに任意に組み合わされてもよい。
【0012】
[実施の形態1]
(半導体装置の構成)
図1は、本実施の形態1に係る半導体装置である半導体チップ100の平面図である。
【0013】
図1では、理解を簡単にするために絶縁膜を透過にした状態としている。
図1で示される通り、半導体チップ100の表面の大部分はエミッタ電極1で覆われており、エミッタ電極1の外周には、ゲート電極2が形成されている。また、半導体チップ100の裏面にはコレクタ電極3が形成されている。エミッタ電極1にはエミッタ電位が供給され、ゲート電極2にはゲート電位が供給される。
【0014】
図2Aは、本実施の形態1に係る半導体チップ100の要部平面図で、
図1の領域4を拡大したものである。なお、わかりやすくするために、
図2Aは、層間絶縁膜を透過にした状態で示している。
図2Bは、
図2AのA-A’線に沿った断面図である。
【0015】
本実施の形態1に係る半導体チップ100は、IE型のIGBTの一種であるGE-S型(GE型のシュリンク構造)のIGBTである。
図2A、2Bで示される通り、半導体チップ100は、半導体基板に、エミッタ電極1、コレクタ電極3、p+型のコレクタ層18、n+型のフィールドストップ層19、n-型のドリフト層15が形成される。半導体チップ100は、更に、ゲート電位が供給されるゲート電位トレンチ電極(以降、ゲート電位トレンチと呼ぶ。あるいはゲート電位のトレンチゲートとも呼ぶ)10、エミッタ電位が供給されるエミッタ電位トレンチ電極(以降、エミッタ電位トレンチと呼ぶ。あるいはエミッタ電位のトレンチゲートとも呼ぶ)11を有する。ゲート電位トレンチ10とエミッタ電位トレンチ11の間には、高濃度n+型のホールバリア層20が形成される。ゲート電位トレンチ10、エミッタ電位トレンチ11、ホールバリア層20で形成される領域がアクティブセル領域である。2つのアクティブセル領域の間には、p+型(第1導電型)のフローティング層12(ノンアクティブセル領域)が形成される。
【0016】
エミッタ電位トレンチ11には、エミッタ電極1がコンタクトホールを介して接続される。エミッタ電極1は、コンタクトホールとボディコンタクトを介してp+型のボディ層25に接続される。ゲート電位トレンチ10とエミッタ電極1のコンタクトホールとの間には、n+型のエミッタ層23、p+型のベース層24が形成される。なお、
図2Aの17はボディコンタクトSi(Silicon)溝である。
図2Bの21はゲート絶縁膜、22は層間絶縁膜である。
【0017】
次に本実施の形態1の特長である、ダイオードとフローティング層制御ゲート(FC-GATE:Floating layer Control GATE)について説明する。
図2Aで示される通り、ゲート電位トレンチ10は、Y軸方向(第1の方向)に伸びる直線部分とX軸方向(第2の方向)に伸びる折れ曲がり部分を持つ形状、端的に言えばL字形状(第1の形状)を有し、第1のトレンチ電極(第1のゲート電位トレンチ電極)を形成している。更に、ゲート電位トレンチ10は、第1の形状とX軸に平行な線で線対称な形状(第2の形状)を有し、第2のトレンチ電極(第2のゲート電位トレンチ電極)を形成している。ゲート電位トレンチ10の第1と第2の形状で挟まれる領域には、2つのp+型の不純物層13とn+型の不純物層14が形成される。また、少なくとも2つのp+型の不純物層13とn+型の不純物層14を覆うようにFC-GATE16が形成される。FC-GATE16は、Poly-Si(Polycrystalline Silicon)であり、ゲート電極2に接続される。
【0018】
図3~6を用いて更に詳細に説明する。
図3は、
図2AのB-B’線に沿った断面図である。
図4は、
図2AのC-C’線に沿った断面図である。
図5は、
図2AのD-D’線に沿った断面図である。
図6は、
図2AのE-E’線に沿った断面図である。
図3で示される通り、p+型のボディ層25に接触するようにn+型の不純物層14が形成される。
図4で示される通り、p+型のボディ層25に接触するようにp+型の不純物層13が形成される。なお、ボディ層25と不純物層13は同じp+型であるため、あわせてp+型の不純物層ともよぶ。p+型の不純物層13とフローティング層12の間にはn-型のドリフト層15が形成されているため、p+型の不純物層13とn-型のドリフト層15とでダイオード26が形成される(点線で囲った部分)。
図6で示される通り、2つのp+型の不純物層13のそれぞれは、ゲート電位トレンチ10に接触するように形成される。n+型の不純物層14は、2つのp+型の不純物層13で挟まれるように形成される。
【0019】
(半導体装置の動作)
次に本実施の形態1に係る半導体チップ100の動作について説明する。なお、p+型の不純物層13、n+型の不純物層14、FC-GATE16以外のIGBTの基本動作については従来と同じであるため、IGBTの基本動作説明は省略する。従って、ここではフローティング層12、p+型の不純物層13、n+型の不純物層14、FC-GATE16に特化して、
図7~
図10を用いて説明する。
【0020】
まず、IGBTをターンオンする時について説明する。この時、ゲートには正電圧(例:+15V)が印可される。ゲートに正電圧が印可されると、FC-GATE16にも正電圧が印可される。また、ターンオン中(オフからオンになる期間)は、コレクタ電極3の電圧(VCE)は徐々に下がるものの高電圧がまだ印可されている。
【0021】
図7で示される通り、ダイオード26のpn接合部(p+型の不純物層13とn-型のドリフト層15の接合部)には空乏層ができる。n-型のドリフト層15の不純物濃度は低いため、空乏層の拡大が促進される。フローティング層12内のキャリア(ホール)から見ると、ダイオード26は逆バイアスとなるため、空乏層はフローティング層12に向かって更に広がっていく(
図7の矢印)。コレクタ電極3(VCE)に高電圧が印可されていることも、この空乏層の拡大に寄与する。
【0022】
ダイオード26の空乏層の拡大により、フローティング層12とボディ層25との間に、フローティング層12のキャリア(ホール)を排出する経路が形成されない状態となる。この状態では、フローティング層12のキャリア排出抑制機能(キャリア蓄積機能)は機能し、IE効果を得ることができる。
【0023】
ダイオード26に形成される空乏層について更に説明する。
図8は、FC-GATE16に正電圧が印可された状態を示している。
図8で示される通り、FC-GATE16に正電圧が印可されると、FC-GATE16とp+型の不純物層13の間には空乏層が形成される(FC-GATE16及びゲート電位トレンチ10からp+型の不純物層13向きの矢印)また、p+型の不純物層13にはn+型の不純物層14が接しているため、p+型の不純物層13とn+型の不純物層14の間にも空乏層が形成される(n+型の不純物層14からp+型の不純物層13向きの矢印)。従って、JFETのように、p+型の不純物層13内のホール経路が狭まることになる。これにより、フローティング層12のキャリア排出抑制機能が更に高まることになる。
【0024】
次に、IGBTをターンオフする時について説明する。この時、ゲートには負電圧(例:-15V)が印可される。ゲートに負電圧が印可されると、FC-GATE16にも負電圧が印可される。ターンオフ中は、コレクタ電極3の電圧(VCE)は、徐々に上昇する。
【0025】
図9で示される通り、コレクタ電極3の電圧(VCE)が徐々に上昇すると、ダイオード26のn-の部分(n-型のドリフト層15の表面)にはホールが集まり、ホール経路が形成される。ドリフト層15の不純物濃度が低いこともホール経路形成に寄与する。ホール経路が形成されると、フローティング層12とp+型の不純物層13との間に、フローティング層12のキャリア(ホール)を排出する経路が形成される。
【0026】
図10は、FC-GATE16に負電圧が印可されている時のダイオード26のp+の部分(p+型の不純物層13)を示している。
図10で示される通り、FC-GATE16に負電圧が印可されると、p+型の不純物層13の表面、p+型の不純物層13とゲート電位トレンチ10との接触面、n+型の不純物層14の表面には、ホール経路が形成される。ターンオン時と比べると、広いホール経路が形成されることになる。
【0027】
従って、ターンオフ時には、フローティング層12からボディ層25までのホール経路が形成されることになり、フローティング層12のキャリア(ホール)がボディ層25、エミッタ電極1に排出される。この状態では、フローティング層12のキャリア排出抑制機能は機能しない。ターンオフ時には、キャリアの排出が促進されるため、高速なスイッチングが可能となる。なお、FC-GATE16に印可する電圧は負電圧でなくてもよい。上述した通り、コレクタ電極3に高電圧が印可され、ドリフト層15の不純物濃度が低いため、FC-GATE16に負電圧を印可しなくてもホール経路が形成されるからである。
【0028】
ここまで、半導体チップ100の
図1の領域4について説明してきた。ここで、半導体チップ100の別の領域について説明する。
【0029】
図11Aは、
図1の領域4よりも広い領域の拡大図である。
図2A、
図11Aで示される通り、半導体チップ100は、アクティブセル領域と、アクティブセル領域に隣接したノンアクティブセル領域(フローティング層12)とがY軸方向に伸びて形成されている。そして、本実施の形態1では、前述した通り、ゲート電位トレンチ10がX軸方向に折り曲げられ、ダイオード26とFC-GATE16が形成される。ダイオード26とFC-GATE16は複数配置される。例えば、
図11Aで示される通り、ダイオード26とFC-GATE16はY軸方向でd1の間隔で配置される。
【0030】
ここで、アクティブセル領域と終端領域について説明する。アクティブセル領域の外側(半導体チップ100の周辺部)には、アクティブセル領域を囲むようにp+型のセル周辺接合領域やターミネーション領域(いずれも不図示)が配置される。これらの領域(終端領域と呼ぶ)は、ノンアクティブセル領域でありホール排出経路がないため、アクティブセル領域内で終端領域に隣接する領域には電流が集中し、素子破壊などを引き起こす可能性がある。従って、本実施の形態1では、電流集中を緩和するために、アクティブセル領域内で終端領域に隣接する領域にはダイオード26とFC-GATE16の配置密度を高くする。
【0031】
図11Bは、
図1の領域5(終端領域に隣接するアクティブセル領域)の拡大図である。
図11Bで示される通り、ダイオード26とFC-GATE16はY軸方向でd2の間隔で配置される。ここで、d1>d2である。すなわち、半導体チップ100の終端領域に隣接するアクティブセル領域のダイオード26とFC-GATE16の配置密度>半導体チップ100中心部のアクティブセル領域のダイオード26とFC-GATE16の配置密度、である。
【0032】
(効果)
以上のように、本実施の形態1に係る半導体チップ100では、フローティング層12とボディ層25の間にダイオード26を設けた。また、p+型の不純物層13の上部にFC-GATE16を設け、フローティング層12を機能させるかどうかを制御可能とした。これにより、IE効果向上とターンオフ時のスイッチング損失(Eoff)低減の両立を達成できる。
【0033】
[実施の形態2]
(半導体装置の構成)
本実施の形態2に係る半導体チップの平面図は
図1と同じである。また、
図1の領域4の拡大図も
図2Aと同じである。
図12は、
図2AのB-B’線に沿った断面図である。
図13は、
図2AのC-C’線に沿った断面図である。
図14は、
図2AのE-E’線に沿った断面図である。
図2AのD-D’線に沿った断面図は
図5と同じである。
【0034】
実施の形態1との違いは、n+型の不純物層14aの形状である。本実施の形態2では、n+型の不純物層14とn+型のホールバリア層20とをつなげて、n+型の不純物層14aとしている。ボディ層25の下部全面に高濃度n+の層が形成されることにより、実施の形態1よりもIE効果を向上させることができる。
【0035】
プロセスコストを抑えるためには、不純物層14とホールバリア層20とを同時形成することで、不純物層14aを形成することが望ましい。ただし、不純物層14とホールバリア層20の不純物濃度を変更したい場合は、個別に形成してもよい。
【0036】
(半導体装置の動作)
本実施の形態2に係る半導体チップの動作は、実施の形態1と同じであるため、説明は省略する。
【0037】
(効果)
以上のように、本実施の形態2に係る半導体チップは、実施の形態1と同様に、IE効果向上とターンオフ時のスイッチング損失(Eoff)低減の両立を達成できる。更に、本実施の形態2では、IE効果を向上させることができる。
【0038】
[実施の形態3]
(半導体装置の構成)
本実施の形態3に係る半導体チップの平面図は
図1と同じである。また、
図1の領域4の拡大図も
図2Aと同じである。
図15は、
図2AのB-B’線に沿った断面図である。それ以外の断面図は実施の形態2と同じである。
【0039】
実施の形態2との違いは、n+型の不純物層14bの形状である。p+型の不純物層13の先にもn+型の不純物層を追加することで、n+型の不純物層14bがp+型の不純物層13を覆うような形状になっている。実施の形態1、2のダイオード26はp+、n-で構成されるが、本実施の形態3のダイオード26bはp+、n+、n-で構成される。実施の形態1、2と比べて、ホール経路が更に形成しにくくなるため、IGBTのオン時におけるIE効果を高めることができる。
【0040】
(効果)
以上のように、本実施の形態3に係る半導体チップは、実施の形態1、2と同様に、IE効果向上とターンオフ時のスイッチング損失(Eoff)低減の両立を達成できる。更に、本実施の形態3では、IGBTのオン時におけるIE効果を向上させることができる。
【0041】
[実施の形態4]
(半導体装置の構成)
本実施の形態4に係る半導体チップの平面図は
図1と同じである。
図16は、
図1の領域4の拡大図である。実施の形態1との違いは、n+型の不純物層14を省略し、p+型の不純物層13cが1つになっていることである。また、FC-GATE16cは、p+型の不純物層13cと、フローティング層12とp+型の不純物層13cとの間のドリフト層15を覆うように形成される。
【0042】
図17は、
図16のB-B’線に沿った断面図である。
図17で示される通り、ダイオード26cは、ボディ層25に接触するp+型の不純物層13cとn-型のドリフト層15とで形成される。
【0043】
(半導体装置の動作)
本実施の形態4における半導体チップの動作は、ダイオード26cについてはダイオード26(実施の形態1)と同様である。ただし、本実施の形態4では、n+型の不純物層14は省略されているため、n+型の不純物層14に関わる動作はない。
【0044】
実施の形態1で説明した通り、ダイオード26cの空乏層がIGBTのターンオン時に拡大するため、フローティング層12のキャリア排出抑制機能(キャリア蓄積機能)は機能する。従って、ターンオン時にはIE効果を得ることができる。一方、ターンオフ時には、ダイオード26cのn-の部分(n-型のドリフト層15の表面)にホール経路が形成されるため、フローティング層12のキャリア排出抑制機能は機能しない。ターンオフ時にはキャリアの排出が促進されるため、高速なスイッチングが可能となる。
【0045】
本実施の形態4では、ダイオード26cのn-の部分(n-型のドリフト層15の表面)もFC-GATE16cが覆っている。ターンオフ時にはFC-GATE16cには負電圧が印可されるため、ホール経路が更に形成されやすくなる。
【0046】
(効果)
以上のように、本実施の形態4に係る半導体チップは、実施の形態1と同様に、IE効果向上とターンオフ時のスイッチング損失(Eoff)低減の両立を達成できる。また、実施の形態1よりも単純な構造になるため、製造コストを抑制することができる。
【0047】
なお、
図18で示される通り、ゲート電位トレンチ10の第1と第2の形状の間隔を狭めるようにすると、ホール排出経路が狭まり、IE効果を向上することが可能である。
【0048】
[実施の形態5]
(半導体装置の構成)
本実施の形態5に係る半導体チップの平面図は
図1と同じである。
図19は、
図1の領域4の拡大図である。実施の形態4との違いは、FC-GATE16dである。FC-GATE16dは、p+型の不純物層13cを覆うように形成される。
【0049】
図20は、
図19のB-B’線に沿った断面図である。
図20で示される通り、FC-GATE16dは、p+型の不純物層13cの上部に形成されている。
【0050】
なお、本実施の形態5に
図18を適用することが可能である。
【0051】
(半導体装置の動作)
本実施の形態5における半導体チップの動作は、実施の形態4と同様であるため、説明は省略する。実施の形態4と比べ、FC-GATE16dの面積が縮小されるため、ゲート容量を低減することができる(FC-GATE16dがIGBTのゲートに接続された場合)。ゲート容量が低減されると、IGBTのスイッチングスピードが改善される。
【0052】
(効果)
以上のように、本実施の形態5に係る半導体チップは、実施の形態4と同様に、IE効果向上とターンオフ時のスイッチング損失(Eoff)低減の両立を達成できる。更にゲート容量を低減することができる。
【0053】
[実施の形態6]
(半導体装置の構成)
本実施の形態6に係る半導体チップの平面図は
図1と同じである。
図21は、
図16のB-B’線に沿った断面図である。実施の形態4との違いは、ホールバリア層20eが、ボディ層25の下部全面を覆うように形成されていることである。
【0054】
なお、本実施の形態6に
図18を適用することが可能である。
【0055】
(半導体装置の動作)
本実施の形態6における半導体チップの動作は、実施の形態4と同様であるため、説明は省略する。ボディ層25の下部全面に高濃度n+層が形成されるため、実施の形態4よりもIE効果を向上させることができる。
【0056】
(効果)
以上のように、本実施の形態6に係る半導体チップは、実施の形態4と同様に、IE効果向上とターンオフ時のスイッチング損失(Eoff)低減の両立を達成できる。更に、実施の形態4よりもIE効果を向上させることができる。
【0057】
[実施の形態7]
(半導体装置の構成)
本実施の形態7に係る半導体チップの平面図は
図1と同じである。
図22は、
図16のB-B’線に沿った断面図である。実施の形態4~6との違いは、n+型のホールバリア層20fがp+型のボディ層25とp+型の不純物層13cの全体を覆うように形成されていることである。実施の形態4~6のダイオード26cは、p+、n-で構成されるが、本実施の形態7のダイオード26fは、p+、n+、n-で構成される。実施の形態4~6と比べて、ホール経路が更に形成しにくくなるため、IGBTのオン時におけるIE効果を高めることができる。
【0058】
なお、本実施の形態7に
図18を適用することが可能である。
【0059】
(効果)
以上のように、本実施の形態7に係る半導体チップは、実施の形態4~6と同様に、IE効果向上とターンオフ時のスイッチング損失(Eoff)低減の両立を達成できる。更に、本実施の形態7では、IGBTのオン時におけるIE効果を向上させることができる。
【0060】
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更され得る。
【0061】
例えば、実施の形態1~7においては、FC-GATEはゲート電極2に接続されていたが、ゲート電極2に接続せずに独立に制御するようにしてもよい。例えば、ゲート・オン時に+15V、ゲート・オフ時に0Vがゲート電極に印可されるIGBTの場合、ゲート・オン時に+15V、ゲート・オフ時に-15VをFC-GATEに印可することが可能となる。
【0062】
また、実施の形態1~7においては、ゲート電位トレンチをL字状としていたが、例えばP字状のループ形状を持つようにしてもよい。
【符号の説明】
【0063】
100 半導体チップ(半導体装置)
1 エミッタ電極
2 ゲート電極
3 コレクタ電極
10 ゲート電位トレンチ
11 エミッタ電位トレンチ
12 p+型のフローティング層(第1導電型のフローティング層)
13、13c p+型の不純物層
14、14a、14b n+型の不純物層
15 n-型のドリフト層
16、16c、16d FC-GATE
17 ボディコンタクトSi溝
18 p+型のコレクタ層
19 n+型のフィールドストップ層
20、20e、20f n+型のホールバリア層
21 ゲート絶縁膜
22 層間絶縁膜
23 n+型のエミッタ層
24 p+型のベース層
25 p+型のボディ層
26、26b、26c ダイオード