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特許7561638リスク影響評価方法、リスク影響評価装置及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-26
(45)【発行日】2024-10-04
(54)【発明の名称】リスク影響評価方法、リスク影響評価装置及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G06Q 10/20 20230101AFI20240927BHJP
【FI】
G06Q10/20
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021007114
(22)【出願日】2021-01-20
(65)【公開番号】P2022111584
(43)【公開日】2022-08-01
【審査請求日】2023-06-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】杉田 昂平
(72)【発明者】
【氏名】平井 俊輔
【審査官】牧 裕子
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-190402(JP,A)
【文献】特開2011-076210(JP,A)
【文献】特開2004-227298(JP,A)
【文献】特開2012-008744(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0070108(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00 - 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータによって実行されるリスク影響評価方法であって、
前記コンピュータによって、フォルトツリーを構成する基事象のそれぞれにランダムに故障の確率を設定するステップと、
前記コンピュータによって、前記基事象ごとのRAW(Risk Achievement Worth)値を、前記フォルトツリーおよび前記確率に基づいて算出するステップと、
前記コンピュータによって、前記RAW値が所定の範囲内となる前記基事象同士でグルーピングするステップと、
前記コンピュータによって、前記グルーピングしたグループ毎のFV(Fussell-Vesely)重要度を算出するステップと、
を有し、
前記基事象ごとのRAW値を算出するステップでは、前記フォルトツリーを構成する前記基事象iの前記RAW値をRAWiとし、P(TOP/i=1)を前記フォルトツリーにおいて前記基事象iの発生確率が1となったときの頂上事象の発生確率とし、P(TOP)を前記フォルトツリーにおける前記頂上事象の発生確率とした場合に、RAWi=P(TOP/i=1)÷P(TOP)によって前記RAW値を算出し、
前記FV重要度を算出するステップでは、前記グループiの前記FV重要度をFViとし、Pi(TOP)を前記グループiに属するすべての前記基事象が発生しない場合の前記頂上事象の発生確率と前記P(TOP)の差とした場合に、FVi=Pi(TOP)÷P(TOP)によって前記FV値を算出する、
リスク影響評価方法。
【請求項2】
前記コンピュータによって、前記FV重要度が所定値以上の前記グループを選択するステップ
をさらに有する請求項1に記載のリスク影響評価方法。
【請求項3】
前記FV重要度が所定の閾値未満の場合、前記グループを統合し、再度、FV重要度を算出する、
請求項2に記載のリスク影響評価方法。
【請求項4】
前記確率を設定するステップでは、乱数を発生させて前記基事象に前記確率を設定する処理を複数回実行し、
前記基事象ごとのRAW値を算出するステップでは、複数回の実行により設定された複数の前記確率のそれぞれについて前記RAW値を算出し、
前記グルーピングするステップでは、複数算出した前記RAW値に基づいて、グルーピングを行う、
請求項1から請求項3の何れか1項に記載のリスク影響評価方法。
【請求項5】
前記FV重要度を算出するステップでは、前記グループに属する前記基事象が全て生じない場合のリスクの低下度を算出する、
請求項1から請求項4の何れか1項に記載のリスク影響評価方法。
【請求項6】
前記フォルトツリーは、原子力プラントが備える機器に火災が発生した場合に生じる頂上事象をモデル化したフォルトツリーである、
請求項1から請求項5の何れか1項に記載のリスク影響評価方法。
【請求項7】
フォルトツリーを構成する基事象のそれぞれにランダムに故障の確率を設定する確率設定部と、
前記基事象ごとのRAW(Risk Achievement Worth)値を、前記フォルトツリーおよび前記確率に基づいて算出するRAW値算出部と、
前記RAW値が所定の範囲内となる前記基事象同士でグルーピングするグルーピング部と、
前記グルーピングしたグループ毎のFV重要度を算出するFV重要度算出部と、
を備え
前記RAW値算出部は、前記フォルトツリーを構成する前記基事象iの前記RAW値をRAWiとし、P(TOP/i=1)を前記フォルトツリーにおいて前記基事象iの発生確率が1となったときの頂上事象の発生確率とし、P(TOP)を前記フォルトツリーにおける前記頂上事象の発生確率とした場合に、RAWi=P(TOP/i=1)÷P(TOP)によって前記RAW値を算出し、
前記FV重要度を算出するステップでは、前記グループiの前記FV重要度をFViとし、Pi(TOP)を前記グループiに属するすべての前記基事象が発生しない場合の前記頂上事象の発生確率と前記P(TOP)の差とした場合に、FVi=Pi(TOP)÷P(TOP)によって前記FV値を算出する、
リスク影響評価装置。
【請求項8】
コンピュータに、
フォルトツリーを構成する基事象のそれぞれにランダムに故障の確率を設定するステップと、
前記基事象ごとのRAW(Risk Achievement Worth)値を、前記フォルトツリーおよび前記確率に基づいて算出するステップと、
前記RAW値が所定の範囲内となる前記基事象同士でグルーピングするステップと、
前記グルーピングしたグループ毎のFV重要度を算出するステップと、
を有し、
前記基事象ごとのRAW値を算出するステップでは、前記フォルトツリーを構成する前記基事象iの前記RAW値をRAWiとし、P(TOP/i=1)を前記フォルトツリーにおいて前記基事象iの発生確率が1となったときの頂上事象の発生確率とし、P(TOP)を前記フォルトツリーにおける前記頂上事象の発生確率とした場合に、RAWi=P(TOP/i=1)÷P(TOP)によって前記RAW値を算出し、
前記FV重要度を算出するステップでは、前記グループiの前記FV重要度をFViとし、Pi(TOP)を前記グループiに属するすべての前記基事象が発生しない場合の前記頂上事象の発生確率と前記P(TOP)の差とした場合に、FVi=Pi(TOP)÷P(TOP)によって前記FV値を算出する処理、
を実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、リスク上重要な機器を特定するためのリスク影響評価方法、リスク影響評価装置及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
機器故障の組合せによって起こり得る頂上事象をフォルトツリー(FT:Fault Tree)によってモデル化し、リスク評価を行うことがある。原子力プラントのように多数の機器を含むシステムをFTでモデル化する場合、頂上事象に至る機器故障の組合せは多数生成される。FTで定義される頂上事象を生じさせる基事象(機器故障など)の組合せをカットセットと呼ぶ。多数生成された全てのカットセットに対し、各カットセットに含まれる機器故障が同時に生じる確率を解析(詳細解析)したり、機器故障が同時に生じないよう設備側での対策を検討したりすることは多大な労力を要する。
【0003】
特許文献1には、リスク項目を、重要度や関連度に基づいて複数のグループに分類し、グループごとのリスク評価値を算出するリスク評価の方法が記載されている。特許文献1の方法によれば、リスク項目間の影響関係を反映したリスク評価が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-190402号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
多数の基事象が存在する場合、リスクへの影響が大きい基事象又は基事象のグループを抽出することができれば、効率的に詳細解析や対策の検討を行うことができる。膨大な基事象の中から、リスク評価を行うために有効な基事象を特定する方法が求められている。
【0006】
本開示は、上記課題を解決することができるリスク影響評価方法、リスク影響評価装置及びプログラムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示のリスク影響評価方法は、コンピュータによって実行されるリスク影響評価方法であって、前記コンピュータによって、フォルトツリーを構成する基事象のそれぞれにランダムに故障の確率を設定するステップと、前記コンピュータによって、前記基事象ごとのRAW値を、前記フォルトツリーおよび前記確率に基づいて算出するステップと、前記コンピュータによって、前記RAW値が所定の範囲内となる前記基事象同士でグルーピングするステップと、前記コンピュータによって、前記グルーピングしたグループ毎のFV重要度を算出するステップと、を有し、前記基事象ごとのRAW値を算出するステップでは、前記フォルトツリーを構成する前記基事象iの前記RAW値をRAWiとし、P(TOP/i=1)を前記フォルトツリーにおいて前記基事象iの発生確率が1となったときの頂上事象の発生確率とし、P(TOP)を前記フォルトツリーにおける前記頂上事象の発生確率とした場合に、RAWi=P(TOP/i=1)÷P(TOP)によって前記RAW値を算出し、前記FV重要度を算出するステップでは、前記グループiの前記FV重要度をFViとし、Pi(TOP)を前記グループiに属するすべての前記基事象が発生しない場合の前記頂上事象の発生確率と前記P(TOP)の差とした場合に、FVi=Pi(TOP)÷P(TOP)によって前記FV値を算出する。
【0008】
また、本開示のリスク影響評価装置は、フォルトツリーを構成する基事象のそれぞれにランダムに故障の確率を設定する確率設定部と、前記基事象ごとのRAW値を、前記フォルトツリーおよび前記確率に基づいて算出するRAW値算出部と、前記RAW値が所定の範囲内となる前記基事象同士でグルーピングするグルーピング部と、前記グルーピングしたグループ毎のFV重要度を算出するFV重要度算出部と、を備え、前記RAW値算出部は、前記フォルトツリーを構成する前記基事象iの前記RAW値をRAWiとし、P(TOP/i=1)を前記フォルトツリーにおいて前記基事象iの発生確率が1となったときの頂上事象の発生確率とし、P(TOP)を前記フォルトツリーにおける前記頂上事象の発生確率とした場合に、RAWi=P(TOP/i=1)÷P(TOP)によって前記RAW値を算出し、前記FV重要度を算出するステップでは、前記グループiの前記FV重要度をFViとし、Pi(TOP)を前記グループiに属するすべての前記基事象が発生しない場合の前記頂上事象の発生確率と前記P(TOP)の差とした場合に、FVi=Pi(TOP)÷P(TOP)によって前記FV値を算出する。
【0009】
また、本開示のプログラムは、コンピュータに、フォルトツリーを構成する基事象のそれぞれにランダムに故障の確率を設定するステップと、前記基事象ごとのRAW値を、前記フォルトツリーおよび前記確率に基づいて算出するステップと、前記RAW値が所定の範囲内となる前記基事象同士でグルーピングするステップと、前記グルーピングしたグループ毎のFV重要度を算出するステップと、を有し、前記基事象ごとのRAW値を算出するステップでは、前記フォルトツリーを構成する前記基事象iの前記RAW値をRAWiとし、P(TOP/i=1)を前記フォルトツリーにおいて前記基事象iの発生確率が1となったときの頂上事象の発生確率とし、P(TOP)を前記フォルトツリーにおける前記頂上事象の発生確率とした場合に、RAWi=P(TOP/i=1)÷P(TOP)によって前記RAW値を算出し、前記FV重要度を算出するステップでは、前記グループiの前記FV重要度をFViとし、Pi(TOP)を前記グループiに属するすべての前記基事象が発生しない場合の前記頂上事象の発生確率と前記P(TOP)の差とした場合に、FVi=Pi(TOP)÷P(TOP)によって前記FV値を算出する処理、を実行させる。
【発明の効果】
【0010】
上述のリスク影響評価方法、リスク影響評価装置及びプログラムによれば、リスク上重要な機器や基事象を特定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態に係るリスク影響評価装置の一例を示すブロック図である。
図2A】フォルトツリーの一例を示す図である。
図2B図2Aのフォルトツリーに係るカットセットを示す図である。
図3】実施形態に係る基事象への確率設定とRAW値の算出について説明する図である。
図4A】実施形態に係るグルーピングについて説明する図である。
図4B】実施形態に係るグループを用いたリスク評価モデルの一例を示す図である。
図5】実施形態に係るグルーピング処理の一例を示す図である。
図6】実施形態に係るグループ統合処理の一例を示す図である。
図7】実施形態に係るリスク影響評価処理の一例を示すフローチャートである。
図8】実施形態のリスク影響評価装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<実施形態>
以下、本開示のリスク影響評価方法について、図1図8を参照しながら説明する。
(構成)
図1は、実施形態に係るリスク影響評価装置の一例を示すブロック図である。
リスク影響評価装置10は、FT情報取得部11と、確率設定部12と、RAW値算出部13と、グルーピング部14と、FV重要度算出部15と、グループ選択部16と、出力部17と、記憶部18と、を備える。
【0013】
FT情報取得部11は、FT(フォルトツリー)の情報を取得する。FTは、頂上事象を引き起こす基事象の組合せの関係を木構造によって表したリスク評価モデルである。頂上事象とは、例えば、原子力プラントにおける重大な事故事象である。基事象とは、例えば、ポンプの起動失敗、逆止弁の開失敗、制御盤内の部品の火災など、頂上事象に繋がる個々の事故事象である。ここで、図2A図2Bを参照する。図2AにFTの一例を示す。図2AのFTにおいて、基事象A1は機器Aの故障、基事象B1は機器Bの故障、基事象C1は機器Cの故障、基事象D1は機器Dの故障である。図2AのFTは、基事象A1と、基事象B1および基事象C1の何れかが同時に生じるか、基事象D1と、基事象B1および基事象C1の何れかが同時に生じると、頂上事象が発生することを示している。図2B図2AのFTのカットセットを示す。カットセットとは、頂上事象を引き起こす1または複数の基事象の組合せである。本例におけるカットセットは、(1)基事象A1と基事象B1の組合せ、(2)基事象A1と基事象C1の組合せ、(3)基事象D1と基事象B1の組合せ、(4)基事象D1と基事象C1の組合せ、の4つである。例えば、カットセット(1)の場合、基事象A1と基事象B1が同時に発生すると、頂上事象TEが発生する。FT情報取得部11は、FTの情報として、図2Aに例示するようなFTの構造情報を取得する。この構造情報には、基事象B1と基事象C1がFTにおいてORゲートで接続され、基事象A1と基事象B1、C1がANDゲートで接続されることなど木構造を定義する情報が含まれる。また、FT情報取得部11は、FTの情報として、基事象A1~D1の発生確率(実際の発生確率)を取得する。基事象A1~D1の発生確率は、知見を有する技術者の分析結果等に基づいて予め設定されている。以下、図2Aに例示するFTを例として説明を行う。
【0014】
確率設定部12は、FT情報取得部11が取得したFTの基事象A1~D1の各々について、ランダムに確率を設定する。一般に、PRA(確率論的リスク評価)等では、カットセットの実際の発生確率に基づいてリスク評価を行う。カットセットの実際の発生確率は、そのカットセットを構成する基事象の発生確率の実績値や基事象に関係する機器の故障率などに基づいて設定することが多い。その為、例えば、機器Aと機器Dが同じ種類の場合、基事象A1と基事象D1の発生確率には同程度の値が設定されることが多い。これに対し、確率設定部12は、カットセットを構成する基事象の内容に関係なく、例えば、乱数を発生させることにより、各カットセットに任意の値の確率を設定する。ここで、図3を参照する。図3に示す表100の上段には、機器A~Dの故障確率が示されている。機器A~Dの故障確率は、それぞれ基事象A1~D1の発生確率である。確率設定部12は、乱数を発生させて機器A~Dの故障確率を算出する。例えば、確率設定部12は、乱数“2.10E-05”を算出して機器Aの故障確率として設定し、乱数“7.40E-06”を算出して機器Bの故障確率に設定する。確率設定部12は、各基事象を含むカットセットがカットオフされないよう、発生させた乱数が過度に低い値の場合(乱数が閾値以下の場合)、再び乱数を発生させて、その値を機器の故障確率(基事象の発生確率)として設定する。
【0015】
RAW値算出部13は、基事象A1~D1のRAW値(Risk Achievement Worth)を算出する。RAW値は、リスク増加価値とも称され、以下の式(1)によって算出することができる。
RAWi=P(TOP/i=1)÷P(TOP)・・・(1)
ここで、P(TOP)は、システムのアンアベイラビリティ(頂上事象が発生する確率)を表す。また、P(TOP/i=1)は、要素iの故障確率が1になったとき(つまり、要素iが故障したとき)のシステムのアンアベイラビリティを表す。RAWiは、システムの要素iが故障している場合のシステムのアンアベイラビリティの増分を示す指標である。要素iとは、例えば、機器A~Dの何れかである。RAWiは、要素iが故障した場合のリスクの増加分を表すことから、機器のリスク緩和による影響把握に有効である。RAW値算出部13は、機器A~Dのそれぞれについて、各機器が故障した場合のRAW値を算出する。図3の表の下段に、図2AのFTにおいて、図3の表の上段の確率で機器A~Dが故障したと仮定した場合のRAW値を示す。例えば、基事象A1のRAW値の算出において、P(TOP/i=1)は、図2AのFTの構造から機器B又は機器Cが故障する確率である。また、P(TOP)は、機器A~Dの何れかが故障する確率である。RAW値算出部13は、確率設定部12が基事象A1~D1にランダムに設定した確率を用いて、FTと式(1)により、基事象A1のRAW値“3.52E+04” を算出する。同様にRAW値算出部13は、基事象B1~D1のRAW値を算出する。表100の下段に示すように、基事象B1~D1のRAW値は、それぞれ“3.52E+04”、“1.76E+03”、“1.76E+03”となる。
【0016】
グルーピング部14は、RAW値算出部13が算出したRAW値に基づいて、基事象A1~D1を、RAW値が近接するもの同士でグルーピングする。図3の表100の場合、グルーピング部14は、RAW値が“3.52E+04”で一致するため、基事象A1と基事象D1を同一グループにグルーピングする。また、RAW値が“1.76E+03”で一致するため、グルーピング部14は、基事象B1と基事象C1を同一グループにグルーピングする。グルーピング部14によるグルーピングの結果を図4Aに示す。便宜的に、基事象A1、D1のグループをグループ1、基事象B1、C1のグループをグループ2とする。基事象をグルーピングすると、元のFTをより簡潔な構造で書き換えることができる。図4Bに今回の例のグループ1とグループ2を用いて図2AのFTを書き換えた簡易なFTを示す。図4BのFTによれば、グループ1の機器故障(機器A、Dの何れかの故障)とグループ2の機器故障(機器B、Cの何れかの故障)が同時に発生すると、頂上事象が発生することを容易に把握することができる。
【0017】
例えば、図2AのFTの場合、理論的には、確率設定部12が各基事象に対して全くランダムに確率を設定したとしても、基事象A1と基事象D1のRAW値は一致し、基事象B1と基事象C1のRAW値は一致する。しかし、乱数の影響で、基事象A1と基事象D1のRAW値や基事象B1と基事象C1のRAW値に誤差が生じる可能性がある。また、乱数の影響で、他のグループに属するはずの基事象のRAW値が偶然近接する可能性がある。そこで、本実施形態では、確率設定部12が1つの基事象に対して複数回、確率の算出を試行し、RAW値算出部13は、複数の確率それぞれについてRAW値を算出する。つまり、1つの基事象について複数個のRAW値が算出される。グルーピング部14は、複数個のRAW値に基づいて、例えば、毎回RAW値が近接する基事象を同じグループへグルーピングする。
【0018】
グルーピング処理の例を図5に示す。図5の表101のINST_001,002、CABLE_001,002,100,101,102,200,201,202,310,311,312、VALVE_100,200はそれぞれが基事象である。図5の例では、各基事象に対して、5回、確率の設定とその確率に基づくRAW値の算出が実行されている。例えば、1回目の試行において、INST_001とCABLE_001のRAW値が一致し、INST_002とCABLE_002のRAW値が一致し、VALVE_100とCABLE_100,101,102のRAW値が一致し、VALVE_200とCABLE_200,201,202のRAW値が一致する。グルーピング部14は、これらをそれぞれ1つの仮グループにまとめる。順に仮グループG1、G2、G3、G4とする。例えば5回を通じて、上記の各基事象が同様に仮グループG1、G2、G3、G4に分類される場合、グルーピング部14は、これらそれぞれを最終的に1つのグループとして設定する。順に、グループG_001、G_002、G_003、G_004とする。
【0019】
また、1回目、5回目の試行において、CABLE_301のRAW値が他と異なり、CABLE_310,311,312のRAW値が一致する。これらの結果、グルーピング部14は、例えば、CABLE_301を仮グループG5へ分類し、CABLE_310,311,312を仮グループG6へ分類する。2回目の試行においては、CABLE_301,310,311,312のRAW値が一致する。グルーピング部14は、CABLE_301,310,311,312を仮グループG5へ分類する。最終的にグルーピング部14は、5回を通じて、RAW値の値が一致した、CABLE_310,311,312を1つのグループG_006として設定し、CABLE_301を1つのグループG_005として設定する。
【0020】
論理的には、リスクへの影響が同様な基事象についてRAW値は一致する。しかし、基事象が膨大な数となる場合にFTの構造を解析して基事象をグループ化する作業にはコストが掛かる。これに対し、本実施形態では、ランダムに設定した基事象の発生確率に基づいて算出したRAW値を用いて、RAW値が近似する基事象を1つのグループにまとめる。これにより、FTの構造を解析することなく単純な計算によって、多数の基事象のうちリスクへの影響が同様なもの同士をグループ化することができる。また、基事象にランダムに確率を設定することで、例えば、同一種類の機器の故障についても異なる任意の確率を設定し、その値に基づいてRAW値を算出する。これにより、機器の種類に関係なく、フォルトツリーの構造上、リスク影響の観点で同様に扱えるもの同士をグループ化することができる。
【0021】
FV重要度算出部15は、グルーピング部14が作成した各グループについて、FV(Fussell-Vesely)重要度を算出する。FV重要度は、以下の式(2)によって算出することができる。
FVi=Pi(TOP)÷P(TOP)・・・(2)
ここで、P(TOP)はシステムのアンアベイラビリティを表し、Pi(TOP)は、要素iが故障する確率が0になったとき(つまり、要素iが故障していないとき)のシステムのアンアベイラビリティとシステムのアンアベイラビリティ(=P(TOP))の差を表す。FV重要度は、頂上事象が発生する確率のうち、要素iの故障が原因となる割合を示し、FV重要度が大きい要素iの方が、FV重要度が小さい要素iよりもリスクへの影響が大きい。FV重要度は、当該システムにおける機器の対策効果の把握などに用いられる。また、FV重要度算出部15は、機器A~Dについて、FV重要度を算出するのではなく、グルーピング部14によってグルーピングされた機器の全体を対象としてFV重要度を算出する。例えば、FV重要度算出部15は、グループ1について、機器Aと機器Dの両方が故障していない場合のシステムのアンアベイラビリティとP(TOP)の差を、式(2)のPi(TOP)としてFV重要度を算出する。つまり、FV重要度算出部15は、機器Aと機器Dが両方故障していない場合(基事象A1、D1が共に発生しない場合)、そうでない場合と比べてどれだけリスクが低下するかを式(2)によって算出する。なお、グルーピング処理の場合とは異なり、FV重要度算出部15は、機器A,Dの実際の故障率(基事象A1,D1の実際の発生確率)に基づいて、グループ1のFV重要度を算出する。例えば、FV重要度算出部15は、FT情報取得部11が取得したFTの情報に含まれる各基事象の実際の発生確率に基づいて、グループ1のFV重要度を算出する。同様に、FV重要度算出部15は、グループ2について、機器Bと機器Cが両方故障していない場合のリスクの低下度(FV重要度)を算出する。なお、算出したFV重要度が、有意な値ではない場合、FV重要度算出部15は、グループ同士を統合し、統合後のより大きなグループに対してFV重要度を算出する。グループ同士を統合する例を図6を用いて説明する。
【0022】
図6の表102に、図5で説明したグルーピング処理によって作成された各グループG_001~006について算出したFV重要度を示す。G_003のFV重要度は“1.19E-01”、G_004のFV重要度は“2.22E-16”、他のグループについては0である。例えば、FV重要度算出部15は、各グループのFV重要度と、所定の閾値とを比較して、算出したFV重要度が閾値以下であれば有意な値が得られなかったとして、グループ同士を統合し、統合後のグループについて同様にしてFV重要度を算出する。統合後のグループおよびFV重要度の一例を図6の表103に示す。例えば、FV重要度算出部15は、グループG_001~006のうちの2つの組合せを全パターン作成し、それぞれについてFV重要度を算出する。FV重要度算出部15は、統合後のグループを含む全てのFV重要度と閾値とを比較して、有意な値が得られたかどうかを判定する。例えば、FV重要度算出部15は、グループG_003+G_004のFV重要度“6.87E-01”を閾値と比較する。表103に示すFV重要度は、全て閾値以下であるとする。すると、FV重要度算出部15は、さらにグループ同士を統合し、再度、FV重要度を算出する。例えば、FV重要度算出部15は、先の例と同様、作成済みのグループの全ての組合せを作成して、FV重要度を算出してもよい。あるいは、グループ数が増えると計算量が膨大となるため、FV重要度が大きいグループの構成要素(例えば、最もFV重要度が大きいグループG_003+G_004の構成要素はG_003とG_004である。)に着目してグループの統合を実施してもよい。例えば、FV重要度の大きさが上位の所定数のグループの構成要素同士を組み合わせるようにしてもよいし、FV重要度の値が所定値以上のグループの構成要素同士を組み合わせるようにしてもよい。ランキング上位のグループの構成要素同士を追加で組み合わせてFV重要度を算出する場合の例を表104に示す。例えば、FV重要度算出部15は、統合後のグループG_003+G_004+G_001について、このグループに属する機器故障が無いとした場合のリスクの低減度(FV重要度)を算出する。FV重要度算出部15は、有意な値が得られるまで、グループの統合とFV重要度の算出を行う。
【0023】
グループ選択部16は、FV重要度の値が大きい順番にグループを並べ替え、ランキング上位のグループを選択する。FV重要度の値が大きいグループとは、リスクへの影響が大きい(リスク上重要な)基事象のグループである。グループ選択部16は、FV重要度が大きいものから順に所定数のグループを選択してもよいし、FV重要度が所定の閾値以上のグループを選択してもよい。図4Aの例の場合、グループ選択部16は、例えば、グループ1とグループ2を選択する。図6の表104の場合、グループ選択部16は、例えば、上位2つのグループを選択する。
【0024】
出力部17は、グルーピング部14によるグルーピングの結果および各グループについて算出されたFV重要度、グループ選択部16によって選択されたグループ等を表示装置や電子ファイルなどに出力する。
記憶部18は、リスク上重要な基事象のグループの選択に必要な情報を記憶する。例えば、記憶部18は、FT情報取得部11が取得したFTの情報を記憶する。
【0025】
(動作)
次に図7を用いて、リスク影響評価装置10の動作について説明する。
図7は、実施形態に係るリスク影響評価処理の一例を示すフローチャートである。
まず、FT情報取得部11が、評価対象のFTの情報を取得する(ステップS10)。FT情報取得部11は、FTの情報を記憶部18に記録する。
【0026】
次に確率設定部12が、ステップS10で取得されたFTの各基事象にランダムに確率を設定する(ステップS11)。確率設定部12は、記憶部18が記憶するFTの情報を解析して、基事象を抽出し、各基事象に対してランダムに乱数を発生させて、その乱数を基事象の発生確率として設定する。確率設定部12は、乱数が所定の基準値未満の場合、再度乱数を発生させる。また、確率設定部12は、1つの基事象に対して複数回、確率を設定する。例えば、確率設定部12は、基事象A1~D1の各々に対して5個の確率を設定する。確率設定部12は、設定した確率を対象とする基事象と対応付けて、試行回数別に(例えば、1回目に設定した確率~5回目に設定した確率を別々に)記憶部18へ記録する。
【0027】
RAW値算出部13は、各基事象のRAW値を算出する(ステップS12)。例えば、RAW値算出部13は、ステップS10で取得されたFTに基づいて、基事象A1について設定された5個の確率のそれぞれと式(1)とを用いて、5個のRAW値を算出する。RAW値算出部13は、基事象B1~D1についても5個ずつのRAW値を算出する。RAW値算出部13は、算出したRAW値を対象とする基事象と対応付けて、試行回数別に(例えば、1回目に設定された確率に基づくRAW値~5回目に設定された確率に基づくRAW値を別々に)記憶部18へ記録する。
【0028】
次にグルーピング部14は、RAW値が近接した基事象同士でグルーピングする(ステップS13)。例えば、グルーピング部14は、互いの同じ試行回数目のRAW値の差が、5回を通じて全て所定の範囲内に収まる基事象同士を同じグループとしてグルーピングする。1つのグループに属する基事象の数に制限はなく、1つだけでもよいし、3個以上であってもよい。また、作成するグループの数に制限は無い。
【0029】
次にグルーピング部14は、統一性のあるグルーピング結果が得られたか否かを判定する(ステップS14)。例えば、試行回数1~5回目のそれぞれにて作成したグループの数や各グループを構成する基事象がすべて異なるような場合、グルーピング部14は、統一性のあるグルーピング結果が得られないと判定する。例えば、図5に示した例のように、5回のうち4回のグルーピングの結果が同じ場合、グルーピング部14は、統一性のあるグルーピング結果が得られたと判定する。統一性のあるグルーピング結果が得られない場合(ステップS14;No)、ステップS11~S14の処理を再度行う。
【0030】
統一性のあるグルーピング結果が得られた場合(ステップS14;Yes)、統一性のあるグルーピング結果によって示される各グループについて、FV重要度算出部15がグループ毎のFV重要度を算出する(ステップS15)。FV重要度算出部15は、各グループに属する基事象の実際の発生確率を用いて、FTと式(2)により、グループに属する基事象が占めるリスクへの貢献度の総和(グループ内の全ての基事象が発生しない場合のリスクの低減度)を算出する。FV重要度算出部15は、算出したFV重要度を記憶部18へ記録する。
【0031】
FV重要度算出部15は、FV重要度を所定の閾値と比較して、有意な結果が得られたか否かを判定する(ステップS16)。有意な結果が得られなかった場合(ステップS16;No)、図6で説明したようにグループを統合する(ステップS17)。例えば、FV重要度算出部15は、FV重要度の大きさが上位のグループを選択して、さらに選択したグループから2つを選択して統合する組合せを全パターン作成する。そして、FV重要度算出部15は、統合後のグループに対して、FV重要度を算出し(ステップS15)、有意な結果が得られたか否かを判定する(ステップS16)。有意な結果が得られるまで、FV重要度算出部15は、ステップS17、S15、S16の処理を繰り返し行う。
【0032】
有意な結果が得られた場合(ステップS16;Yes)、グループ選択部16が、FV重要度の大きさが上位のグループをリスク上重要なグループと選択する(ステップS18)。次に出力部17が、グループ選択部16が選択したグループを出力する(ステップS19)。例えば、図6の場合、グループ選択部16は、“G_003+G_004+G_001”と“G_003+G_004+G_002”及び各グループに属する基事象を出力する。また、出力部17は、ステップS18で選択されたグループ以外にも、例えば、最終的に作成されたグループとそのグループのFV重要度、各グループを構成する基事象の一覧情報を出力してもよい。
【0033】
以上説明したように、本実施形態によれば、PRAにおける重要度解析で用いられる指標(RAW、FV重要度)を用いることで、多数の基事象のうち、リスクへの影響の観点で同様に扱える基事象同士をグループ化することができる。また、複数のグループの中からリスク上重要なグループを抽出することができる。これにより、リスク上重要なグループに属する基事象への詳細解析や対策検討を優先的に行うことで、効率的なリスク評価が可能になる。
【0034】
また、リスクへの影響が同程度の基事象をグループ化することで、多数の基事象から構成されるFTを、グループを単位としたリスク評価モデル(例えば、図4BのFT)へと単純化した上で、いずれのグループがリスク上重要かを判断することができる。また、単純化されたリスク評価モデルによれば、同時に故障した場合にリスクへの影響が大きいグループの組合せを把握することができる。これにより、どの機器が同時に故障すると頂上事象に至るかを効率的に解析したり、頂上事象が生じないような設備対応を効率的に検討したりすることができる。例えば、原子力プラントにおける火災のリスクを確率論的に評価(火災PRA)する場合、機器Aと機器Bの両方で火災が発生した場合、機器Aと機器Cに火災が発生した場合、機器A~Cで火災が発生した場合・・・など機器A~Dの組合せを全パターン作成し、それぞれの組合せごとに詳細解析や設備対応の検討を行う場合がある。機器の数が4つ程度であれば良いが、原子力プラントが備える機器の数は膨大であって、全ての機器の組合せについて詳細解析等を行うことは困難である。本実施形態によれば、リスクの影響が大きい機器(基事象)のグループを特定することができるので、特定したグループに属する機器(基事象)を含む組合せに限定して詳細解析を行うことにより、詳細解析を効率化することができる。また、図4Bにて例示するように、本実施形態によれば、元のFTを簡略化してモデル化することができる。例えば、簡略化したリスク評価モデルによれば、グループ1とグループ2の同時故障を防ぐことが重要であることを容易に把握することができる。同時に故障が生じると頂上事象が発生するようなグループを把握し、それらのグループに属する機器の故障が同時に発生しないような対策を検討することにより、効果的な設備対応を効率的に行うことができる。
【0035】
また、従来の火災のリスク評価では、原子力プラントを区画に分割し、区画内の1つの機器で火災が発生すると、その区画全体に火災が発生したものとみなしてリスク評価を行うことが多く、過度に保守的な評価結果が得られることが多かった。これに対し、本実施形態によれば、リスク上重要なグループに属する機器に絞って、効果的にリスク評価を行うことができるので、より精緻にリスク評価と対策の検討を行うことができる。なお、本実施形態のリスク影響評価の適用先は、火災のリスク評価に限定されない。
【0036】
また、RAW値やFV重要度は、何れもリスク評価に用いられる指標であるが、一般的には、これらの値をある基準値と比較してリスクの大小を評価する場合が多い。これに対し、本実施形態では、機器が故障した時のリスク上昇を示す指標であるRAW値に基づいて、基事象をグルーピングする。また、グルーピングされた基事象の各グループについて、機器が故障しなかった場合のリスク低減を示す指標であるFV重要度を算出し、FV重要度の値が大きいグループを選択する。このように本実施形態では、一般的な指標を組み合わせて使用することで、多数の基事象から構成されるFTを、グループを単位としたモデルへと単純化した上で、いずれのグループがリスク上重要かを判断することができる。
【0037】
図8は、実施形態のリスク影響評価装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
コンピュータ900は、CPU901、主記憶装置902、補助記憶装置903、入出力インタフェース904、通信インタフェース905を備える。
上述のリスク影響評価装置10は、それぞれコンピュータ900に実装される。そして、上述した各機能は、プログラムの形式で補助記憶装置903に記憶されている。CPU901は、プログラムを補助記憶装置903から読み出して主記憶装置902に展開し、当該プログラムに従って上記処理を実行する。また、CPU901は、プログラムに従って、記憶領域を主記憶装置902に確保する。また、CPU901は、プログラムに従って、処理中のデータを記憶する記憶領域を補助記憶装置903に確保する。
【0038】
なお、リスク影響評価装置10の全部または一部の機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより各機能部による処理を行ってもよい。ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータシステム」は、WWWシステムを利用している場合であれば、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)も含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、CD、DVD、USB等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。また、このプログラムが通信回線によってコンピュータ900に配信される場合、配信を受けたコンピュータ900が当該プログラムを主記憶装置902に展開し、上記処理を実行しても良い。また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良く、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよい。リスク影響評価装置10は、それぞれ通信可能な複数のコンピュータ900によって構成されていても良い。
【0039】
以上のとおり、本開示に係るいくつかの実施形態を説明したが、これら全ての実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することを意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態及びその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0040】
<付記>
各実施形態に記載のリスク影響評価方法、リスク影響評価装置及びプログラムは、例えば以下のように把握される。
【0041】
(1)第1の態様に係るリスク影響評価方法は、フォルトツリー(図2A)を構成する基事象A1~D1のそれぞれにランダムに故障の確率を設定するステップと(S11)、前記基事象ごとのRAW値を前記フォルトツリーおよび前記確率に基づいて算出するステップと(S12)、前記RAW値の値が所定の範囲内となる基事象同士でグルーピングするステップと(S13)、前記グルーピングしたグループ毎のFV重要度を算出するステップと(S15)、を有する。
これにより、評価対象の機器や基事象が多数存在する場合でも、リスク影響の観点で同様に扱えるもの同士をグループ化することができる。各グループについてFV需要度を算出することにより、各グループのリスクへの影響度を評価することができる。各グループのリスクへの影響度を参照することにより、リスク評価を行うために有効な基事象を把握することができる。基事象をグループ化することで、元のFTをシンプルな形式へモデル化することができる。これにより、多数に存在する機器故障の組合せのうち、頂上事象に至る組合せの特定が容易になる。これらにより、FTに基づくリスク評価を効率的に行うことができるようになる。
【0042】
(2)第2の態様に係るリスク影響評価方法は、(1)のリスク影響評価方法であって、前記FV重要度が所定値以上のグループを選択するステップ(S18)、をさらに有する。
これにより、基事象の膨大な組み合わせの中からリスクへの影響が大きい基事象のグループを特定することができる。リスクへの影響が大きい基事象を把握することで、少ない労力で詳細解析を実施し、少ない労力で故障対策を検討することができる。
【0043】
(3)第3の態様に係るリスク影響評価方法は、(1)~(2)のリスク影響評価方法であって、前記FV重要度が所定の閾値未満の場合、前記グループを統合し、再度、FV重要度を算出する。
FV重要度が有意な値ではない場合、グループを統合し、再度、FV重要度を算出することで、リスク上重要なグループを作成し、抽出することができる。
【0044】
(4)第4の態様に係るリスク影響評価方法は、(1)~(3)のリスク影響評価方法であって、前記確率を設定するステップでは、乱数を発生させて前記基事象に前記確率を設定する処理を複数回実行し、前記基事象のRAW値を算出するステップでは、複数回実行して設定された複数の前記確率のそれぞれについて前記RAW値を算出し、前記グルーピングするステップでは、複数算出した前記RAW値に基づいて、グルーピングを行う。
複数回、確率を設定し、RAW値を算出することで、ランダムに確率を設定することによる影響(例えば、偶然、RAW値が近接すること)を除外することができる。
【0045】
(5)第5の態様に係るリスク影響評価方法は、(1)~(4)のリスク影響評価方法であって、前記FV重要度を算出するステップでは、前記グループに分類された基事象が全て生じなかった場合のリスクの低下度を算出する。
グループに属する基事象の故障確率が全て0の場合とそうでない場合の頂上事象に至る確率の差に基づいて、FV重要度を算出することで、グループ全体のリスクへの影響度を評価することができる。
【0046】
(6)第6の態様に係るリスク影響評価方法は、(1)~(5)のリスク影響評価方法であって、前記フォルトツリーは、原子力プラントが備える機器に火災が発生した場合に生じる頂上事象をモデル化したフォルトツリーである。
本実施形態のリスク影響評価方法は、原子力プラントが備える多数の機器の組合せごとにリスク評価を行う火災のリスク評価を行う場面で有効である。例えば、原子力プラントが備える機器のそれぞれに火災が発生した場合のリスクを評価するためのフォルトツリーに対して、図7に示す処理を行うことで、火災リスクへの影響が大きい機器の組合せを抽出することができる。
【0047】
(7)第7の態様に係るリスク影響評価装置10は、フォルトツリーを構成する基事象のそれぞれにランダムに故障の確率を設定する確率設定部12と、前記基事象ごとのRAW値を前記フォルトツリーおよび前記確率に基づいて算出するRAW値算出部13と、前記RAW値が所定の範囲内となる基事象同士でグルーピングするグルーピング部14と、前記グルーピングしたグループ毎のFV重要度を算出するFV重要度算出部15と、を備える。
【0048】
(8)第8の態様に係るプログラムは、コンピュータ900に、フォルトツリーを構成する基事象のそれぞれにランダムに故障の確率を設定するステップと、前記基事象ごとのRAW値を前記フォルトツリーおよび前記確率に基づいて算出するステップと、前記RAW値が所定の範囲内となる基事象同士でグルーピングするステップと、前記グルーピングしたグループ毎のFV重要度を算出するステップと、を実行させる。
【符号の説明】
【0049】
10・・・リスク影響評価装置
11・・・FT情報取得部
12・・・確率設定部
13・・・RAW値算出部
14・・・グルーピング部
15・・・FV重要度算出部
16・・・グループ選択部
17・・・出力部
18・・・記憶部
900・・・コンピュータ
901・・・CPU、
902・・・主記憶装置、
903・・・補助記憶装置、
904・・・入出力インタフェース
905・・・通信インタフェース
図1
図2A
図2B
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8