(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-26
(45)【発行日】2024-10-04
(54)【発明の名称】コンクリート組成物
(51)【国際特許分類】
C04B 28/02 20060101AFI20240927BHJP
C04B 24/06 20060101ALI20240927BHJP
C04B 24/12 20060101ALI20240927BHJP
C04B 24/16 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B24/06 A
C04B24/12 A
C04B24/16
(21)【出願番号】P 2021021897
(22)【出願日】2021-02-15
【審査請求日】2023-05-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000140292
【氏名又は名称】株式会社奥村組
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 清孝
(72)【発明者】
【氏名】岩永 直
(72)【発明者】
【氏名】中村 誠喜
【審査官】浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-128661(JP,A)
【文献】特開2018-135222(JP,A)
【文献】特開2010-037129(JP,A)
【文献】特開2013-023418(JP,A)
【文献】特開昭61-132554(JP,A)
【文献】特開2003-165755(JP,A)
【文献】AE減水剤 フローリックSV・RV,2012年,第2頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00-32/02
C04B 40/00-40/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水、セメント、骨材及び混和材料を含み、
前記混和材料として
、減水剤又は流動化剤と
、凝結遅延剤と、増粘剤とを含む、コンクリート組成物
であって、
前記減水剤又は流動化剤は、JIS A6204に規定される高性能減水剤、高性能AE減水剤標準形、又は流動化剤標準形であり、且つ、JIS A6204に準じて測定される凝結時間の始発の差が+60分未満であり、
前記凝結遅延剤は、JIS A6204に準じて測定される減水率が4%未満である、コンクリート組成物。
【請求項2】
水セメント比が30~60%である、請求項1に記載のコンクリート組成物。
【請求項3】
前記減水剤又は流動化剤は、JIS A6204に規定される高性能減水剤である、請求項1
又は2に記載のコンクリート組成物。
【請求項4】
前記増粘剤は、アルキルアリルスルホン酸塩とアルキルアンモニウム塩とを含み、
更にノニオン系界面活性剤を含む、請求項1~
3のいずれか一項に記載のコンクリート組成物。
【請求項5】
水、セメント、骨材及び混和材料を含み、前記混和材料として、減水剤又は流動化剤と、凝結遅延剤と、増粘剤とを含む、コンクリート組成物の製造方法であって、
前記減水剤又は流動化剤が、JIS A6204に規定される高性能減水剤、高性能AE減水剤標準形、又は流動化剤標準形であり、前記凝結遅延剤が、JIS A6204に準じて測定される減水率が4%未満のものであり、
前記コンクリート組成物の水セメント比が30~60%の範囲内で、JIS A1150に準じて測定されるスランプフロー値が650±50mmの範囲内、且つ、JSCE-F516に準じて測定される練り上がり時点から4時間経過後における500mmフロー到達時間が180秒以内となるように、前記減水剤又は流動化剤及び前記凝結遅延剤の含有割合を調整する、コンクリート組成物の製造方法。
【請求項6】
前記増粘剤が、アルキルアリルスルホン酸塩とアルキルアンモニウム塩とを含み、
JSCE-D104(付属書2)に準じて測定されるpHが12以下となるように、前記増粘剤の含有割合を調整する、請求項5に記載のコンクリート組成物の製造方法。
【請求項7】
前記混和材料が更にノニオン系界面活性剤を含み、
JSCE-D104(付属書2)に準じて測定されるpHが12以下となるように前記ノニオン系界面活性剤の含有割合を調整する、請求項5又は6に記載のコンクリート組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
トンネルなどのコンクリート構造物の構築にあたり、構造物の建設予定地における地盤からの水圧等の外的要因や、採用された工法に応じて、コンクリートの強度発現とともに、コンクリート打設時の流動性やフレッシュ保持性、水中不分離性等の諸性能が同時に要求されることがある。このような諸物性が要求されるコンクリート構造物としては、例えば、地下水位下のシールドトンネル工事において現地で打設される覆工コンクリート等が挙げられる。
【0003】
特許文献1には、フレッシュ性状の保持及びその調整を目的として、セメント、骨材、水、及び少なくとも2種類の分散剤を含有し、初期のスランプフローの値と、50cm到達時間の値とが所定の関係にあるコンクリート組成物が開示されている。
同文献によれば、分散剤として遅延形に分類される剤と標準形に分類される剤を用いることで、初期流動性及び流動保持性を調整可能であるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載の技術に用いられる分散剤は、いずれも初期流動性と流動保持性としての凝結遅延性双方の性能を具備するものであり(JIS A6204に規定)、初期流動性能や凝結遅延性能が過剰又は不足となるとともに、強度発現に悪影響を与えやすく、且つこれらの物性の調整が極めて困難である。また上述の分散剤は、セメント粒子に吸着して粒子同士を反発させる働きがあり、セメント凝集によって閉じ込められた余剰水が開放され、この水と増粘剤とが反応するため、粘性にも影響を及ぼしやすい。
このように、特許文献1に記載の技術は、コンクリートの強度発現とともに、コンクリート打設時の流動性やフレッシュ保持性、水中不分離性等の諸性能を安定的に兼ね備えるようにすることができないものであった。
【0006】
したがって、本発明は、打設時の流動性やフレッシュ保持性、水中不分離性を良好に兼ね備え、且つ硬化後に優れた強度を発現できるコンクリート組成物を安定的に提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、水、セメント、骨材及び混和材料を含み、
前記混和材料として、凝結遅延性能を有さない減水剤又は流動化剤と、減水性能を有さない凝結遅延剤と、増粘剤とを含む、コンクリート組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、打設時の流動性やフレッシュ保持性、水中不分離性を良好に兼ね備え、且つ硬化後に優れた強度を安定的に発現できるコンクリート組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明を好ましい実施形態に基づき説明する。本発明のコンクリート組成物は、水、セメント、骨材及び混和材料を含む。
以下の説明において、特に断りのない限り、本明細書のコンクリート組成物は、骨材として細骨材のみを含むモルタルと、細骨材及び粗骨材をともに含むコンクリートとの双方が包含される。また文脈に応じて、コンクリート組成物として、硬化前の流動体(いわゆるフレッシュコンクリート)を指す場合と、硬化後の硬化物(いわゆる硬化コンクリート)を指す場合とがある。
【0010】
水は、例えば上水道水、井戸水、蒸留水、精製水等の本技術分野において通常用いられる水を特に制限なく用いることができる。
【0011】
セメントは、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント等の各種のポルトランドセメント、高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメント等の混合セメント、エコセメント、アルミナセメント等の特殊セメント等を用いることができる。これらは単独で使用してもよく、複数組み合わせて用いることができる。これらのセメントとして、例えばJIS R5210~R5214にそれぞれ規定されるセメントを用いてもよい。
【0012】
骨材としては、細骨材及び粗骨材が挙げられる。これらの骨材は、目的とする組成物の性状に応じて、細骨材のみを使用したモルタルの態様とするか、あるいは、細骨材及び粗骨材をともに使用したコンクリートの態様とすることができる。
【0013】
細骨材としては、例えば、川砂、山砂、海砂等の天然骨材や、砕石、砕砂、高炉スラグ細骨材等の人工骨材、コンクリート廃材から取り出した再生骨材等が挙げられる。これらは単独で、又は複数組み合わせて用いることができる。
粗骨材としては、例えば、川砂利、海砂利、山砂利、砕石、スラグ砕石等が挙げられる。これらは単独で、又は複数組み合わせて用いることができる。粗骨材として、JIS A 5005に規定される粗骨材を用いることもできる。
【0014】
本発明のコンクリート組成物は、混和材料の一種である混和剤として、凝結遅延性能を有さない減水剤又は流動化剤と、減水性能を有さない凝結遅延剤とを含むことを特徴の一つとしている。
減水剤又は流動化剤は、例えばJIS A6204に規定されるものが挙げられ、これらはコンクリート組成物におけるセメント粒子の水中分散性を高める等して、コンクリート組成物の流動性を高めることを目的とするものである。また、凝結遅延剤は、コンクリート組成物の硬化を遅延させることを目的とするものである。しかし、減水剤又は流動化剤は、その種類によって、流動性向上性能の発現という主たる性能に加えて、凝結遅延性能を併せ持ったものが存在することが本発明者の検討により明らかとなった。同様に、凝結遅延剤の種類によっては、凝結遅延性能の発現という主たる性能に加えて、減水性能などの流動性向上性能を併せ持ったものが存在することが本発明者の検討により明らかとなった。このことに起因して、流動性向上性能と凝結遅延剤との混合割合やその種類の組み合わせによっては、目的とする流動性向上性能及び遅延性能が過剰に発現してしまう。その結果、コンクリート組成物の取り扱い性や、充填性及び管内滞留性等といった施工時に要求される諸物性が悪化したり、硬化後のコンクリートの強度発現に悪影響を与えたりする。
【0015】
これらの点を改善することに関して本発明者が鋭意検討したところ、減水剤又は流動化剤として凝結遅延性能を有さないものを選択して用い、且つ凝結遅延剤として減水性能を有さないものを選択して用いることによって、コンクリート組成物に適度な流動性を発現させつつ、該組成物のフレッシュ性状を適度な時間保持でき、また硬化後の強度の発現が良好になることを見出した。つまり、本発明は、流動性向上性能の発現を減水剤又は流動化剤自体に担わせるとともに、凝結遅延性能の発現を凝結遅延剤自体に担わせるようにして、コンクリート組成物の目的とする物性を簡便に調整可能にし、且つ該物性を効果的に発現可能にしたものである。
【0016】
上述のとおり、コンクリート組成物は、凝結遅延性能を有さない減水剤又は流動化剤を含む。なお本発明における減水剤又は流動化剤は、上述の凝結遅延剤からは除外される。
本明細書における「凝結遅延性能を有さない」とは、厳密な意味で凝結遅延性能を全く有さないことと、減水剤又は流動化剤によって発現する凝結遅延性能が凝結遅延剤によって発現する凝結遅延性能と比較して無視できるほど小さいこととの双方を包含する。上述の減水剤又は流動化剤において、凝結促進性能が発現することは妨げられないが、凝結性を凝結遅延剤によって適切に制御する観点から、好ましくは凝結促進性能を有さない。
【0017】
具体的には、「凝結遅延性能を有さない」とは、JIS A6204に準じて測定される凝結時間の始発の差が+90分以下であることをいい、好ましくは+60分未満、より好ましくは+30分以下、更に好ましくは0分以下であり、好ましくは-60分以上、より好ましくは-30分以上、更に好ましくは0分以上である。なお、JIS A6204において、凝結時間が遅延する場合には符号「+」で表され、凝結時間が促進する場合には符号「-」で表される。
このような凝結時間を有する減水剤又は流動化剤を用いることによって、コンクリート組成物の流動性を適度に発現させて、型枠内あるいは地盤と型枠との間において該組成物を隙間なく充填させることができるので、施工性が向上する。
【0018】
凝結遅延性能を有さない減水剤又は流動化剤としては、JIS A6204に規定される高性能減水剤、減水剤、AE減水剤、高性能AE減水剤、及び流動化剤のうち、遅延形以外のものを一種又は二種以上を用いることができる。これらのうち、減水剤又は流動化剤として、高性能減水剤、高性能AE減水剤標準形、又は流動化剤標準形を用いることが好ましく、高性能減水剤を用いることが更に好ましい。
このような減水剤又は流動化剤を用いることによって、コンクリート組成物の流動性を適度に発現させて、型枠内あるいは地盤と型枠との間において該組成物を隙間なく簡便に充填させることができる。その結果、硬化後において高密度で高強度のコンクリートを効率的に得ることができる。また、上述した凝結遅延性能を有さない条件を他の原材料を別途用いなくとも容易に達成することができるので、製造や施工に要するコストを低減できる点でも有利である。
【0019】
また上述のとおり、コンクリート組成物は、減水性能を有さない凝結遅延剤を含む。なお凝結遅延剤は、上述の減水剤又は流動化剤からは除外される。
本明細書における「減水性能を有さない」とは、厳密な意味で減水性能を全く有さないことと、凝結遅延剤によって発現する減水性能が上述の減水剤又は流動化剤によって発現する減水性能と比較して無視できるほど小さいこととの双方を包含する。
具体的には、「凝結遅延性能を有さない」とは、JIS A6204に準じて測定される減水率が4%未満であることをいい、好ましくは2%以下であり、0%以上が現実的である。このような減水率を有する凝結遅延剤を用いることによって、コンクリート組成物の圧送時における配送管内の滞留性を維持して、コンクリート組成物のフレッシュ性状を配送管内で所定時間保持した状態で、目的とする打設場所に圧送させることができる。その結果、コンクリート組成物の取り扱い性及び施工性が向上する。
【0020】
凝結遅延剤としては、減水性能を有さないことを条件として、スクロース、ラフィノース等の糖類や、グルコン酸、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸などのオキシカルボン酸及びその塩、リグニンスルホン酸及び塩などの有機系凝結遅延剤や、珪弗化物等の無機系凝結遅延剤等が挙げられる。これらは単独で又は複数組み合わせて用いることができる。これらのうち、凝結遅延の効果を一層発現させる観点から、凝結遅延剤として、オキシカルボン酸及びその塩を主成分として含むものを用いることが好ましい。
なお、本明細書における凝結遅延剤は、JIS A6204に規定される「遅延形」に分類される遅延剤は除外されることも好ましい。
【0021】
またコンクリート組成物は、混和材料の一種である混和剤として、増粘剤を更に含む。なお増粘剤は、上述の凝結遅延剤及び減水剤又は流動化剤からは除外される。増粘剤を含むことによって、コンクリート組成物の適度な流動性を発現しつつ、適度な粘性を発現させることができる。その結果、被水圧条件や被流水条件下においても優れた水中不分離性を発現させることができる。
【0022】
本発明における増粘剤は、水中不分離性を発現可能なものであり、いわゆる水中不分離性混和剤に分類されるものである。このような増粘剤としては、例えば、セルロース系増粘剤、バイオポリマー系増粘剤、アクリル系増粘剤、特殊増粘剤等が挙げられる。これらは単独で又は複数組み合わせて用いることができる。これらのうち、最終的に得られるコンクリート組成物のポンプ圧送性や流動性の向上を一層発現させる観点から、増粘剤として、アルキルアリルスルホン酸塩とアルキルアンモニウム塩とを主成分として含む特殊増粘剤を用いることが好ましい。
【0023】
コンクリート組成物における水セメント比(セメントの含有質量に対する水の含有質量の百分率)は、好ましくは30~60%、より好ましくは30~45%である。このような水セメント比であることによって、上述した各種の混和材料を含む場合であっても、コンクリート組成物が有する流動性、フレッシュ保持性及び水中不分離性を効果的に発現しつつ、硬化後の強度に優れたものとなる。これに加えて、脱型をより早期に行うことができるので、施工スピードを高めて、施工期間を短縮させることができる。更に、JIS A1107に準じて測定される圧縮強度を要求水準以上に簡便且つ効率的に発現させることができる。
上述の水セメント比は、その逆数であるセメント水比と、所定の経過時間における発現強度との相関関係を予備的試験において予め求めておき、また安全率を加味した上で決定することも、硬化後の優れた強度を適切な打設場所に発現させる点で好ましい。
【0024】
コンクリート組成物における減水剤又は流動化剤の含有量は、セメントに対する質量割合で表して、好ましくは1.4~3.3質量%、より好ましくは1.7~3.0質量%である。減水剤又は流動化剤を二種以上含む場合は、その総量が上述の範囲であればよい。減水剤又は流動化剤の含有量をこのような範囲とすることによって、上述した各種の混和材料を含む場合であっても、コンクリート組成物に優れた流動性を付与することができ、取り扱い性、打設箇所における充填性及び施工性が更に向上する。
【0025】
コンクリート組成物における凝結遅延剤の含有量は、セメントに対する質量割合で表して、好ましくは0.3~1.7質量%、より好ましくは0.5~1.5質量%である。凝結遅延剤を二種以上含む場合は、その総量が上述の範囲であればよい。凝結遅延剤の含有量をこのような範囲とすることによって、上述した各種の混和材料を含む場合であっても、コンクリート組成物の圧送時において、意図しない凝結が生じずに、配送管内の滞留性及びフレッシュ性状を適切な状態で維持しながら圧送させることができるので、コンクリート組成物の取り扱い性及び施工性が更に向上する。
【0026】
コンクリート組成物における増粘剤の含有量は、水に対する質量割合で表して、好ましくは3.5~5.5質量%、より好ましくは4.0~5.0質量%である。増粘剤を二種以上含む場合は、その総量が上述の範囲であればよい。増粘剤の含有量をこのような範囲とすることによって、上述した各種の混和材料を含む場合であっても、被水圧条件や被流水条件下において優れた水中不分離性をより効果的に発現させることができる。
【0027】
またコンクリート組成物は、ノニオン系界面活性剤を更に含むことが好ましい。ノニオン系界面活性剤は、増粘剤による増粘効果を適度に低減するように調整する粘性調整剤として、コンクリート組成物の粘性を制御する機能を主に有する。ノニオン系界面活性剤を含むことによって、増粘剤による粘性変化を適度に緩和して、コンクリートに水中不分離性を発現させながら、該コンクリートの取り扱い性や施工性を高めることができる。なお、本明細書におけるノニオン系界面活性剤は、上述の減水剤、流動化剤、凝結遅延剤及び増粘剤からは除外される。
【0028】
ノニオン系界面活性剤としては、ポリエチレンオキシドアルキルエーテル(ポリオキシエチレンアルキルエーテル)、ポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシプロピレンアルキルフェニルエーテル等のアルキルエーテル類;アルキルグリコシド等の多価アルコールエーテル類;グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシプロピレン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル等の脂肪酸エステル;脂肪酸アルカノールアミド等のアミド類等が挙げられる。これらは単独で又は二種以上組み合わせて用いることができる。
【0029】
これらのノニオン系界面活性剤のうち、アルキルエーテル類及び脂肪酸エステルのうち少なくとも一種を用いることが好ましく、ポリエチレンオキシドアルキルエーテル及び脂肪酸エステルのうち少なくとも一種を用いることがより好ましい。
このようなノニオン系界面活性剤を用いることによって、剤として高い安定性を有し、増粘剤による粘性変化を適度に緩和して、コンクリートに水中不分離性を発現させながら、該コンクリートの良好な流動性やフレッシュ保持性を得ることができる。
【0030】
増粘剤に対するノニオン系界面活性剤の質量割合は、好ましくは0.5~4.5質量%、より好ましくは1.0~4.0質量%、更に好ましくは2.0~3.5質量%である。このような割合でノニオン系界面活性剤を配合することによって、増粘剤による粘性変化を適度に緩和して、コンクリートに水中不分離性を発現させながら、該コンクリートの取り扱い性や施工性を一層高めることができる。
【0031】
上述した実施形態におけるコンクリート組成物は、水、セメント、骨材及び混和材料を、任意の順序で、あるいはこれらを同時に投入して練り混ぜる等の公知の混合方法によって調製することができる。本発明の効果が奏される限りにおいて、必要に応じて、上述したセメント、水、骨材及び混和材料以外の他の混和材料を更に添加してもよい。他の混和材料としては、例えばJIS R5212に規定されるシリカ質混合材、石膏、炭酸カルシウム、石灰石等が挙げられる。
【0032】
このように得られたコンクリート組成物は、その強度の指標として、JIS A1107に準じて測定される、練り上がり時点から24時間経過後における一軸圧縮強度が、好ましくは15N/mm2以上、より好ましくは20N/mm2以上、更に好ましくは25N/mm2以上である。この一軸圧縮強度が高いほど、硬化後のコンクリートの強度が高いことを意味する。このような強度は、例えば水セメント比を上述の好適な範囲にすることで容易に達成することができる。またこれに加えて、各混合材料の種類や含有量を上述した範囲としたりすることによっても達成することができる。
【0033】
コンクリート組成物は、その流動性の指標として、JIS A1150に準じて測定されるスランプフロー値が、好ましくは650±50mmの範囲内である。スランプフロー値がこのような範囲であることによって、コンクリート組成物が優れた流動性を有することを意味する。このようなスランプフロー値は、例えば水セメント比を上述の好適な範囲としたり、減水剤又は流動化剤などの各混和材料の種類や含有量を上述した範囲としたりすることによって、容易に達成することができる。
【0034】
コンクリート組成物は、そのフレッシュ保持性の指標として、JSCE-F516に準じて測定される、練り上がり時点から4時間経過後における500mmフロー到達時間が、好ましくは180秒以内である。上述のフロー到達時間が短いほど、フレッシュ性状が長時間維持され、優れた圧送性及び施工性を有することを意味する。このようなフロー到達時間は、例えば水セメント比を上述の好適な範囲としたり、凝結遅延剤などの各混合材料の種類や含有量を上述した範囲としたりすることによって、容易に達成することができる。
【0035】
コンクリート組成物は、その水中不分離性の指標として、JSCE-D104(付属書2)に準じて測定されるpHが、好ましくは12以下である。この指標は、セメントミルクが強アルカリ性であることに鑑み、真水中に分散した懸濁物質量を表す間接的な指標である。したがって、上述のpHが所定の値以下であれば、打設場所が被水圧下や被流水下などの過酷な条件であっても、これらの条件に対する抵抗性を有し、硬化後の強度を発現可能であることを意味する。このようなpHは、例えば水セメント比を上述の好適な範囲としたり、増粘剤等の各混合材料の種類や含有量を上述した範囲としたりすることによって、容易に達成することができる。なお、上述のpHは真水の中性域を下回ることがないことは言うまでもなく、概ね10以上となる。
【0036】
以上のコンクリート組成物は、打設時の流動性やフレッシュ保持性、水中不分離性を良好に兼ね備え、且つ硬化後に優れた強度を安定的に発現できるものとなる。本発明の好適な態様によれば、通常の打設方法とは異なる施工方法を採用したり、あるいは、施工場所が被水圧下や被流水下などの水存在下の条件や、練り上がり時や養生における温度が高温又は低温になっている等の通常の施工場所と比較して過酷な環境条件であったりした場合でも、配合調整が容易な混和材料を組み合わせて用いることによって、これらの外的要因の影響を受けにくくして、打設時の流動性やフレッシュ保持性、水中不分離性の所望の性状が優れた状態で維持されながら、硬化後において優れた強度を早期に且つ効果的に発現させることができる。
【0037】
このようなコンクリート組成物は、例えば、水中コンクリートや水中不分離性コンクリートとして、地下水が多い地盤に施工されるトンネルや海底トンネルなどの水存在下でのコンクリート構造物の施工材料として好適に用いられる。また、コンクリート組成物は、シールドを用いた場所打ち支保システムに用いられる一次覆工コンクリート用の材料として更に好適に用いられる。更に、コンクリート組成物は、上述のシステムが採用されるコンクリートとして、地下水位下のシールドトンネル工事において、プレキャストではなく、施工現場で打設される覆工コンクリート用の材料として特に好適に用いられる。
【0038】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されない。
例えば、本発明によれば、外気温や、坑内温度等の打設場所の温度、コンクリートの練り上がり温度あるいはコンクリートの養生温度等の外的要因と、目的とするコンクリートの流動性、フレッシュ保持性、水中不分離性、及び硬化後の強度などのうち少なくとも一つの諸性能との相関関係に基づいて、コンクリートの流動性、フレッシュ保持性、水中不分離性、及び硬化後の強度に関する物性値が上述の好適な数値以上となるように、コンクリートの製造に用いる各原料の添加量を増減する等して調整する方法も提供する。また、前記の外的要因とコンクリート組成物の各原料の添加量との相関関係に基づいて、コンクリートの前記の諸性能を予測する方法も提供する。前記の各相関関係は、予備検討により関係を予め求めておくことも好ましい。