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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-26
(45)【発行日】2024-10-04
(54)【発明の名称】電磁波遮蔽体の成形方法及び電磁遮蔽体
(51)【国際特許分類】
   H05K 9/00 20060101AFI20240927BHJP
   B29C 45/14 20060101ALI20240927BHJP
   B29C 43/18 20060101ALI20240927BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
H05K9/00 D
B29C45/14
B29C43/18
B32B15/08 M
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021046058
(22)【出願日】2021-03-19
(65)【公開番号】P2022144867
(43)【公開日】2022-10-03
【審査請求日】2023-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】390026538
【氏名又は名称】ダイキョーニシカワ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安田 周平
(72)【発明者】
【氏名】中村 晴彦
【審査官】板澤 敏明
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-347493(JP,A)
【文献】特開平03-230918(JP,A)
【文献】特開2002-240196(JP,A)
【文献】特開2017-126756(JP,A)
【文献】特開2001-353748(JP,A)
【文献】特開2005-229007(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 9/00
B29C 45/00-45/24
B29C 43/00-43/34
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂製の基材(29)と金属シート(21,23,25)とを積層して側部(7a,7b,9a,9b)及び底部(7,9,10)を有するように立体形状に形成される電磁波遮蔽体(1)の成形方法であって、
上記基材(29)に対する積層領域がそれぞれ異なる又は互いに少なくとも部分的にラップする上記金属シート(21,23,25)を複数枚用意する準備工程と、
上記複数枚の金属シート(21,23,25)の周縁に形成されたフランジ部(21c,23c,25c)をそれぞれ賦形型(33)に固定する金属シート固定工程と、
上記複数枚の金属シート(21,23,25)を上記賦形型(33)の側部(7a,7b,9a,9b)又は底部(7,9,10)に沿うようにして賦形し、賦形体(27)を形成する賦形体形成工程と、
上記賦形体(27)を基材成形用の金型(41,43)にセットし上記基材(29)をインサート成形するインサート成形工程とを含み、
上記金属シート固定工程において、前記フランジ部(21c,23c,25c)にそれぞれ形成された貫通孔(21d,23d,25d)を上記賦形型(33)の上面にそれぞれ設けた固定ピン(35)に通すようにしながら、上記複数枚の金属シート(21,23,25)を上記賦形型(33)に固定し、
上記賦形体形成工程において、他方の賦形型(31)によって上記複数枚の金属シート(21,23,25)を上記賦形型(33)との間に挟み込むようにして賦形する際に、上記賦形型(31)に形成した貫通孔を上記固定ピン(35)に通す
ことを特徴とする電磁波遮蔽体(1)の成形方法。
【請求項2】
請求項1に記載の電磁波遮蔽体(1)の成形方法であって、
上記賦形体形成工程において、上記複数枚の金属シート(21,23,25)のうち、上記電磁波遮蔽体(1)の深さのより浅い側部(9a,9b)又は底部(9)に対応する金属シート(21,23)から順番に上記賦形型(33)の側部又は底部に沿うようにして賦形する
ことを特徴とする電磁波遮蔽体(1)の成形方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の電磁波遮蔽体(1)の成形方法であって、
上記準備工程において、基材(29)側にホットメルト層(26)が積層された金属シート(21,23,25)を複数枚用意し、
上記賦形体形成工程において、上記賦形型(31,33)を加熱して上記ホットメルト層(26)を溶かしながら賦形体(27)を形成する
ことを特徴とする電磁波遮蔽体(1)の成形方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1つに記載の電磁波遮蔽体(1)の成形方法であって、
上記準備工程において、上記基材(29)と反対側の面に保護層(28)が積層したものを準備する
ことを特徴とする電磁波遮蔽体(1)の成形方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1つに記載の電磁波遮蔽体(1)の成形方法によって成形された
ことを特徴とする電磁波遮蔽体(1)。
【請求項6】
請求項5に記載の電磁波遮蔽体(1)において、
バッテリケースであり、
周縁のフランジ部(5)が、相手側部材(11)との締結部を構成し、
前記貫通孔(21d,23d,25d)が、締結ボルトが挿通される締結孔である
ことを特徴とする電磁波遮蔽体(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂製の基材と金属シートとを積層して側部及び底部を有するように立体形状に形成される電磁波遮蔽体の成形方法及び電磁遮蔽体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、筐体の外壁を成型するための雌型と、筐体の内壁と一体の突起を成型するための凹部を有する雄型とを開いた状態で、雄型と雌型との間の雄型側に金属箔を配置すると共に、雌型側に熱可塑性又は熱硬化性を有する樹脂材を配置し、次に、雄型及び雌型を閉じることにより樹脂材と金属箔とを加圧して、樹脂材と金属箔とが対向している面のいずれか一方又は双方に塗布された接着剤により樹脂材と金属箔とを接着しつつ成型すると同時に、樹脂材が金属箔を突破して金属箔の破断端部と共に凹部に侵入することにより突起を成型し、その後、雄型又は雌型を開いて、成型された筐体を離型してなる電磁波遮蔽体の成形方法は知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2001-230586号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の電磁波遮蔽体の成形方法では、電磁波遮蔽体が複雑な凹凸形状であったり、底が深かったりした場合に、1枚の金属箔で樹脂材(基材)を覆うようにすると、金属箔が破れたり、金属箔の形状が複雑になって賦形が困難になったりするという問題がある。
【0005】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、電磁波遮蔽体が複雑な凹凸形状であったり、底が深かったりした場合でも金属シートを容易に賦形してインサート成形できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、この発明では、複数枚の金属シートを上記賦形型の側部又は底部に沿うようにして賦形するようにした。
【0007】
具体的には、第1の発明では、樹脂製の基材と金属シートとを積層して側部及び底部を有するように立体形状に形成される電磁波遮蔽体の成形方法であって、
上記基材に対する積層領域がそれぞれ異なる又は互いに少なくとも部分的にラップする上記金属シートを複数枚用意する準備工程と、
上記複数枚の金属シートの周縁に形成されたフランジ部をそれぞれ賦形型に固定する金属シート固定工程と、
上記複数枚の金属シートを上記賦形型の側部又は底部に沿うようにして賦形し、賦形体を形成する賦形体形成工程と、
上記賦形体を基材成形用の金型にセットし上記基材をインサート成形するインサート成形工程とを含む。
【0008】
上記の構成によると、複数枚の金属シートで構成することで、電磁波遮蔽体の側部や底部に対応する部位を分担できるので、それぞれの金属シートの形状が複雑になるのが避けられ、賦形時に金属シートが破れず、賦形も容易になって確実に金属シートの積層を行える。また、金属シートのフランジ部を賦形型に保持することで、金属シートのずれが抑えられ、その後の賦形が容易である。なお、底部というのは開口部分から見て奥側の壁部を意味し、電磁波遮蔽体の使用時にその底部が天井部になってもよい意味である。
【0009】
第2の発明では、第1の発明において、
上記賦形体形成工程において、上記複数枚の金属シートのうち、上記電磁波遮蔽体の深さのより浅い側部又は底部に対応する金属シートから順番に上記賦形型の側部又は底部に沿うようにして賦形する構成とする。
【0010】
上記の構成によると、浅い位置にある側部又は底部の方から順に賦形型で賦形していくことにより、金属シートの皺や破れが抑制される。
【0011】
第3の発明では、第1又は第2の発明において、
上記準備工程において、基材側にホットメルト層が積層された金属シートを複数枚用意し、
上記賦形体形成工程において、上記賦形型を加熱して上記ホットメルト層を溶かしながら賦形体を形成する構成とする。
【0012】
上記の構成によると、各金属シートの重なり部分において、ホットメルト層が溶融して互いに接着するので、賦形体の形状保持が容易となる。
【0013】
第4の発明では、第1から第3のいずれか1つの発明において、
上記準備工程において、上記基材と反対側の面に保護層が積層したものを準備する構成とする。
【0014】
上記の構成によると、保護層が金属シートを覆って保護するので、金属シートが露出せず、確実に防錆される。なお、保護層として、例えば、PET(ポリエチレンテレフタラート)のほかに、ポリプロピレン(PP)、ポリカーボネート(PC)、ナイロン(PA)、ポリスチレン(PS)等の樹脂を積層してもよい。基材の成形温度(130℃~190℃)よりも高い融点を有する材料であれは、基材のインサート成形時でも溶けない。
【0015】
第5の発明の電磁波遮蔽体は、第1から第4のいずれか1つの発明の電磁波遮蔽体の成形方法によって成形される。
【0016】
上記の構成によると、深い形状や複雑な凹凸形状であっても、皺や破れのない金属シートで覆われた、電磁波を効果的に遮蔽可能な電磁波遮蔽体が得られる。
【0017】
第6の発明では、第5の発明の電磁波遮蔽体は、
バッテリケースであり、
周縁のフランジ部が、相手側部材との締結部を構成する。
【0018】
上記の構成によると、相手側部品との締結に用いるフランジ部も金属シートが積層されるので、より電磁波遮蔽性の高い電磁波遮蔽体が得られる。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように、本発明によれば、電磁波遮蔽体が複雑な凹凸形状であったり、底が深かったりした場合でも金属シートを容易に賦形してインサート成形できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施形態に係るバッテリケースを底部側から見た斜視図である。
図2図1のII-II線断面図である。
図3A図2のIIIA部拡大断面図である。
図3B図9のIIIB部拡大断面図である。
図3C】各金属シートの拡大断面図である。
図4】第1金属シートを示す斜視図であり、(a)が折り曲げ前を、(b)が折り曲げ後を、(c)が積層エリアをそれぞれ示す。
図5】第2金属シートを示す斜視図であり、(a)が折り曲げ前を、(b)が折り曲げ後を、(c)が積層エリアをそれぞれ示す。
図6】第3金属シートを示す斜視図であり、(a)が折り曲げ前を、(b)が折り曲げ後を、(c)が積層エリアをそれぞれ示す。
図7図4のVIIC断面に相当する賦形体形成工程の概略を示す断面図であり、(a)が上型の下降を開始する工程を、(b)が金属シートを変形させながら上型を下型に向かって徐々に下降させる工程を、(c)が上型を下型に向かって型締めする工程を、それぞれ示す。
図8】インサート成形工程において、賦形体及び樹脂をセットしたセットの概略を示す断面図である。
図9】インサート成形工程において、型締め完了した状態を示す断面図である。
図10】本発明の変形例に係る賦形体形成工程の概略を示す断面図であり、(a)がスライド型を収納した上型を下型に向かって下降させる工程を、(b)が金属シートを変形させながら上型を下型に向かって型締めする工程を、(c)がスライド型のみを下型に向かって型締めする工程を、それぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0022】
図1及び図2は、本発明の実施形態の電磁波遮蔽体としてのバッテリアッパケース1を示す。このバッテリアッパケース1は、樹脂製の基材29とアルミシート等で構成された金属シート21,23,25とを積層して側部及び底部を有するように立体形状に形成されている。このバッテリアッパケース1は、1つの面が開口した直方体状の上側バッテリ収容部3とその外周を囲む上側フランジ部5とを備えている。なお、バッテリアッパケース1は、第1底部7、第2底部9等が実際には、車体等に載置したバッテリ50の上面側を覆うが、成形時に底部となる第1底部7、第2底部9等を便宜上、底部と呼んでいる。
【0023】
この上側フランジ部5は、円形の上側ボルト挿通孔5aを有し、補強の役割も果たす金属製円筒状のインサートカラー5bを備える。車体等に設けた金属製の相手側部材としてのバッテリロアケース11の下側フランジ部15に形成した下側ボルト挿通孔15a及び下側ナット15bに上側ボルト挿通孔5aを重ね合わせ、締結ボルト17を挿通して締結することにより、バッテリ50を、直方体容器状の上側バッテリ収容部3及び下側バッテリ収容部13に電磁波を遮蔽した状態で密閉状に収容できるようになっている。本実施形態では、バッテリアッパケース1では、第1~第3金属シート21,23,25を賦形した賦形体27が樹脂製の基材29のほぼ全体を覆っている。この賦形体27は、上側フランジ部5も覆っている。なお、図3Aに示すように、上側フランジ部5の合わせ面に連続して溝部5cを形成し、この溝部5cにOリング5dを嵌め込むことで、バッテリアッパケース1がバッテリロアケース11を防水状に覆うようにしてもよい。
【0024】
電磁波遮蔽体の形状は特に限定されないが、本実施形態のバッテリアッパケース1の上側バッテリ収容部3は、深さの深い第1底部7及びそれよりも深さの浅い第2底部9を備えた深さの異なる段差容器形状となっている。第1底部7は、一対の第1縦側部7a及び一対の第1横側部7bに連続している。第2底部9は、一対の第2縦側部9a及び第2横側部9bに連続している。図1に示すように、第1底部7よりも浅く第2底部9よりも深い、第2底部9から膨出した第3底部10が形成されていてもよい。ここでは、説明を簡単にするために第3底部10を含む膨出部はないものとして扱うが、このような膨出部よりなる第3底部10があるような形状でも本発明の適用は可能である。
【0025】
次いで、電磁波遮蔽体としてのバッテリアッパケース1の成形方法について説明する。
【0026】
まず、準備工程において、基材29に対する積層領域がそれぞれ異なり、互いに少なくとも部分的にラップする第1金属シート21、第2金属シート23及び第3金属シート25を用意する。
【0027】
図3Cに拡大して示すように、第1~第3金属シート21,23,25は、基材29側にホットメルト層26が積層されている。ホットメルト層26は、例えば、EVA(エチレン酢酸ビニル共重合体)系、PO(ポリオレフィン)系、PES(ポリエステル)系、ACR(ポリアクリル)系、PUR(ポリウレタン)系等のフィルムよりなり、その厚さは、30μm~300μm程度である。
【0028】
また、第1~第3金属シート21,23,25において、基材29と反対側の面には、PET(ポリエチレンテレフタラート)樹脂層28が積層されている。保護層としてのPET樹脂層28の厚さは例えば、20μm~300μm程度である。
【0029】
図4(a)及び(b)に示すように、第1金属シート21は、平面視H形の一対の第1縦スリット21a及び1本の第1横スリット21bと、矩形枠状の第1シート側フランジ部21cを有する矩形状のアルミシートよりなる。アルミシートの厚さは、例えば、10μm~100μmである。第1シート側フランジ部21cには、例えば、12個の第1シート貫通孔21dが形成されている。
【0030】
同様に図5(a)及び(b)に示すように、第2金属シート23は、平面視「王」字形の1本の第2縦スリット23a及び3本の第2横スリット23bと、第2シート側フランジ部23cを有する矩形状のアルミシートよりなる。アルミシートの厚さは、例えば、10μm~100μmである。第2シート側フランジ部23cには、例えば、12個の第2シート貫通孔23dが形成されている。
【0031】
さらに図6(a)及び(b)に示すように、第3金属シート25は、第1金属シート21や第2金属シート23に比べて面積が小さい平面視T形のアルミシートよりなり、スリットは設けられていない。アルミシートの厚さは、例えば、10μm~100μmである。第3シート側フランジ部25cは、4辺のうちの第1底部7側の1辺にのみ直線状に設けられており、例えば3個の第3シート貫通孔25dが形成されている。
【0032】
次いで、金属シート固定工程において、図7(a)に示すように、第1~第3金属シート21,23,25の周縁に形成された第1~第3シート側フランジ部21c,23c,25cを下型33の上面に設けたフィルム固定ピン35にそれぞれの第1~第3シート貫通孔21d,23d,25dを通すようにしながら下型に固定する。第1~第3金属シート21,23,25の重ねる順番は特に限定されない。
【0033】
これら第1~第3シート貫通孔21d,23d,25dは、第1~第3金属シート21,23,25の位置決め孔としての役割を果たすが、成形後は、締結ボルト17が挿通される締結孔に対応する。
【0034】
次いで、賦形体形成工程において、賦形型の上型31を徐々に下降させながら、図4(b)、図5(b)及び図6(b)に示すように、上型31の凹凸によって第1~第3金属シート21,23,25を賦形型の下型33の側部又は底部に沿うようにして賦形し、賦形体27を形成する。ここで、仮に第1及び第2金属シート21,23にスリットが設けられていないと、図7(b)に示すように、最初に当たった上型31の膨出部のコーナーによって第1金属シート21が拘束されて突っ張り、破れが発生してしまう。しかし、第1横スリット21b等を適切な位置に形成しておくことで、図4(b)及び図5(b)に示すように、第1及び第2金属シート21,23は破れることなく、図7(c)に示すように、適度に変形される。図6(b)に示すように、第3金属シート25については、もともとサイズが小さく、第1底部7に対応する部分のみを含み第2底部9に対応する部分は含まないので、第3金属シート25は破れることなく、底部及び側部に沿って適度に変形される。
【0035】
この賦形体形成工程において、上型31及び下型33を加熱してホットメルト層26を溶かしながら賦形体27を形成する。このとき、図3B及び図3Cに示すように、第1~第3金属シート21,23,25のうち互いに重なり合った部分のホットメルト層26によって第1~第3金属シート21,23,25同士が接着されてずれなくなる。
【0036】
そして、図7(c)に示す賦形完了状態では、図4(c)、図5(c)及び図6(c)に示すように、第1~第3金属シート21,23,25がそれぞれ第1底部7、第2底部9、第1縦側部7a、第1横側部7b、第2縦側部9a及び第2横側部9bの基材29を分担して覆うことで、第1~第3金属シート21,23,25で覆われていない部分が発生しないようにしている。
【0037】
次いで、インサート成形工程において、図8に示すように、賦形体27を基材29の成形用のプレス型(プレス上型41及びプレス下型43)にセットし熱硬化性樹脂45(例えば不飽和ポリエステル等)を賦形体27の上の適切な位置に載置する。
【0038】
次いで、プレス上型41とプレス下型43とを型締めし、図9に示すように、インサート成形する。インサート成形時、ホットメルト層26は、基材29との接着に有効に作用する。
【0039】
このように本実施形態では、金属シートを複数枚の第1~第3金属シート21,23,25に分けて構成することで、各第1~第3金属シート21,23,25の形状が複雑になるのが避けられる。このため、第1~第3金属シート21,23,25に無理な突っ張りが発生して破れることはなく、賦形も容易になって第1~第3金属シート21,23,25の積層が容易となる。
【0040】
また、第1~第3金属シート21,23,25のフランジ部を賦形型に保持することで、第1~第3金属シート21,23,25のずれが抑えられ、その後の賦形が容易である。
【0041】
そして、賦形体形成工程において、賦形型を加熱してホットメルト層26を溶かしながら賦形体27を形成したので、第1~第3金属シート21,23,25の重なり部分において、ホットメルト層26が溶融及び接着する。このため、第1~第3金属シート21,23,25がずれず、賦形体27の形状保持が容易となる。なお、ホットメルト層26は、上型31の下面に接触するが、第1~第3金属シート21,23,25をセットする際には上型31及び下型33の温度を下げ、セット完了後に温度を上昇させればホットメルト層26の上型31への貼り付きを抑えることができる。
【0042】
本実施形態では、PET樹脂層28が第1~第3金属シート21,23,25をすっぽりと覆うので、第1~第3金属シート21,23,25が露出せず、第1~第3金属シート21,23,25の防錆が可能となる。なお、PET樹脂の融点は250℃程度で、熱硬化性樹脂45である不飽和ポリエステルの成形温度(130℃~190℃)がそれよりも低いので、インサート成形時でもPET樹脂は溶けない。
【0043】
本実施形態では、相手側部品であるバッテリロアケース11との締結に用いる上側フランジ部5も第1~第3金属シート21,23,25が積層されるので、電磁波遮蔽性の高いバッテリアッパケース1が得られる。
【0044】
したがって、本実施形態に係るバッテリアッパケース1の成形方法によると、バッテリアッパケース1が複雑な凹凸形状であったり、底が深かったりした場合でも第1~第3金属シート21,23,25を容易に賦形してインサート成形できる。また、皺や破れのない第1~第3金属シート21,23,25で覆われた、電磁波の効果的な遮蔽が可能なバッテリアッパケース1が得られる。
【0045】
-変形例-
図10は本発明の実施形態の変形例を示し、特に賦形型の形状が異なる点で上記実施形態と異なる。なお、以下の各変形例では、図1図9と同じ部分については同じ符号を付してその詳細な説明は省略する。
【0046】
すなわち、本変形例の上型31は、最も深い第1底部7、一対の第1縦側部7a及び一対の第1横側部7bに対応する部分に上型31とは独立して昇降可能なスライド型37が設けられている。
【0047】
このため、本変形例の賦形体形成工程においては、まず、図10(a)に示すように、スライド型37が引っ込んだ状態で上型31が下型33に向かって降下する。
【0048】
すると、上記実施形態のときと違って第1底部7に対応するスライド型37の部分も第2底部9に対応する部分とほぼ同時に第1~第3金属シート21,23,25に当接し、図10(b)に示すように、まず、より浅い第2底部9並びに一対の第2縦側部9a及び第2横側部9bに対応する部分が型締めされる。
【0049】
次いで、スライド型37のみが徐々に下降し、図10(c)に示すように、より深い位置にある第1底部7、一対の第1縦側部7a及び一対の第1横側部7bに該当する部分も型締めされる。
【0050】
本変形例のように、上型31においてスライド型37を用いて浅い形状の方から順にプレスしていくことにより、第1~第3金属シート21,23,25の突っ張りが防止され、それらの皺や破れが確実に防止される。
【0051】
(その他の実施形態)
本発明は、上記実施形態について、以下のような構成としてもよい。
【0052】
すなわち、上記実施形態では、電磁波遮蔽体は、バッテリ50を収容するバッテリアッパケース1としたが、これに限定されず、電磁波を遮蔽すべき収容物を収容するものであれば、本発明を適用できる。
【0053】
上記実施形態では、第1~第3金属シート21,23,25がバッテリアッパケース1のほぼ全体を覆っており、一部がラップするようにしているが、ラップする部分がなかったり、一部覆っていない領域があったりしてもよい。
【0054】
上記実施形態では、第1~第3金属シート21,23,25がホットメルト層26やPET樹脂層28で覆われているが、いずれかがなくてもよいし、いずれもなくてもよい。
【0055】
上記実施形態では、保護層は、PET(ポリエチレンテレフタラート)としたが、ポリプロピレン(PP)、ポリカーボネート(PC)、ナイロン(PA)、ポリスチレン(PS)等の樹脂を積層してもよい。基材29の成形温度(130℃~190℃)よりも高い融点を有する材料であれは、基材29のインサート成形時でも溶けないので、利用可能である。
【0056】
上記実施形態では、金属シートをアルミシートで構成したが、これに限定されず、他の金属材料で構成される金属シートでもよい。例えば、金、銀、銅、ステンレス、ニッケル、鉄、パーマロイ等のシートで構成してもよい。
【0057】
なお、上記実施形態では、第1~第3シート21,23,25を下型33に全て固定した後、賦形体成形工程を行ったが、第1~第3シート21,23,25を1枚ずつ下型33に固定し、1枚ずつ賦形体成形工程を行ってもよい。
【0058】
上記実施形態では、基材29は、熱硬化性樹脂45から形成したが、熱可塑性樹脂から形成してもよい。
【0059】
なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物や用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【符号の説明】
【0060】
1 バッテリアッパケース(電磁波遮蔽体)
3 上側バッテリ収容部
5 上側フランジ部
5a 上側ボルト挿通孔
5b インサートカラー
5c 溝部
5d Oリング
7 第1底部
7a 第1縦側部
7b 第1横側部
9 第2底部
9a 第2縦側部
9b 第2横側部
10 第3底部
11 バッテリロアケース(相手側部材)
13 下側バッテリ収容部
15 下側フランジ部
15a 下側ボルト挿通孔
15b 下側ナット
17 締結ボルト
21 第1金属シート
21a 第1縦スリット
21b 第1横スリット
21c 第1シート側フランジ部
21d 第1シート貫通孔
23 第2金属シート
23a 第2縦スリット
23b 第2横スリット
23c 第2シート側フランジ部
23d 第2シート貫通孔
25 第3金属シート
25c 第3シート側フランジ部
25d 第3シート貫通孔
26 ホットメルト層
27 賦形体
28 PET樹脂層(保護層)
29 基材
31 上型(賦形型)
33 下型(賦形型)
35 フィルム固定ピン
41 プレス上型(金型)
43 プレス下型(金型)
45 熱硬化性樹脂
50 バッテリ
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10