(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-26
(45)【発行日】2024-10-04
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
H02M 7/12 20060101AFI20240927BHJP
【FI】
H02M7/12 601D
H02M7/12 A
(21)【出願番号】P 2021092225
(22)【出願日】2021-06-01
【審査請求日】2024-01-26
(73)【特許権者】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中原 瑞紀
(72)【発明者】
【氏名】嶋田 尊衛
(72)【発明者】
【氏名】床井 博洋
(72)【発明者】
【氏名】池田 賢二
(72)【発明者】
【氏名】榎本 裕治
【審査官】尾家 英樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-151993(JP,A)
【文献】特開2011-55568(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103973136(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
三相交流電圧を直流電圧へと変換する電力変換装置であって、
それぞれが、前記三相交流電圧が入力される各相の端子に接続された複数のインダクタと、
前記複数のインダクタの後段に接続された三相ダイオードブリッジと、
前記三相ダイオードブリッジの出力側の二端子間に直列に接続された第一コンデンサおよび第二コンデンサと、
それぞれが、前記各相について、前記インダクタと前記三相ダイオードブリッジとの接続点である第1の接続点と、前記第一コンデンサと前記第二コンデンサとの接続点である第2の接続点との間に接続された、複数の双方向スイッチと、
前記複数の双方向スイッチのスイッチングを制御するコントローラと、を備え、
前記コントローラは、前記三相交流電圧の各相のうち入力電圧の絶対値が最大である相の前記双方向スイッチを、前記入力電圧の絶対値が最大である期間の全部または一部において、オン状態に固定するよう前記スイッチングを制御するオン固定モードを、動作モードとして有する、電力変換装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電力変換装置において、
前記コントローラは、前記動作モードが前記オン固定モードであるときに、前記三相ダイオードブリッジの各相に対する指令電圧に補正電圧を加算することにより、前記入力電圧の絶対値が最大である相の前記双方向スイッチを前記オン状態に固定する、電力変換装置。
【請求項3】
請求項1に記載の電力変換装置において、
前記コントローラは、前記動作モードが前記オン固定モードであるときに、前記入力電圧の絶対値が最大である相の前記双方向スイッチを、前記入力電圧の絶対値が最大である期間の全部において、前記オン状態に固定する、電力変換装置。
【請求項4】
請求項1に記載の電力変換装置において、
前記コントローラは、前記入力電圧の絶対値が最大である相の前記双方向スイッチをオフ状態に固定するオフ固定モードを前記動作モードとして有し、前記三相交流電圧と前記直流電圧との比率に基づいて、前記動作モードを、前記オン固定モードまたは前記オフ固定モードにする、電力変換装置。
【請求項5】
請求項1に記載の電力変換装置において、
前記コントローラは、前記各相の前記双方向スイッチをスイッチングする三相変調モードを前記動作モードとして有し、前記三相交流電圧と前記直流電圧との比率に基づいて、前記動作モードを、前記オン固定モードまたは前記三相変調モードにする、電力変換装置。
【請求項6】
請求項1に記載の電力変換装置において、
前記コントローラは、前記入力電圧の絶対値が最大である相の前記双方向スイッチをオフ状態に固定するオフ固定モードと、前記各相の前記双方向スイッチをスイッチングする三相変調モードとを前記動作モードとして有し、前記三相交流電圧と前記直流電圧との比率に基づいて、前記動作モードを、前記オン固定モード、前記三相変調モード、または前記オフ固定モードにする、電力変換装置。
【請求項7】
請求項1に記載の電力変換装置において、
前記各相の前記双方向スイッチは、それぞれ、直列に接続された2個のスイッチング素子を含む、電力変換装置。
【請求項8】
請求項1に記載の電力変換装置において、
前記各相の前記双方向スイッチは、それぞれ、1個のスイッチング素子と、前記第1の接続点から前記スイッチング素子の一端に順方向に接続された第1のダイオードと、前記スイッチング素子の他端から前記第1の接続点に順方向に接続された第2のダイオードと、前記第2の接続点から前記一端に順方向に接続された第3のダイオードと、前記他端から前記第2の接続点に順方向に接続された第4のダイオードとを含む、電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置に関し、より詳しくは、Vienna整流器を用いた電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
三相系統を受電し、直流電圧へ変換する整流回路として、力率改善機能を有した三相PFC(Power Factor Correction)コンバータが提案されている(特許文献1)。特許文献1では、三相ダイオードブリッジの各相入力(三相系統側各端子)と、直流部の端子間に直列接続された2個のコンデンサの接続点との間に、それぞれスイッチを設けた回路方式となっている。この回路方式は、Vienna(ビエナ、ヴィエナ、ウィーン等といわれる)整流器と呼ばれている。
【0003】
Vienna整流器では、各相のスイッチをPWM(Pulse Width Modulation)で高速スイッチングすることにより、三相系統の各相において電流を電圧と相似な正弦波に制御でき、力率を改善することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、Vienna整流器では、上述のとおり、各相のスイッチをPWMにより高速スイッチングする。そのため、スイッチング損失が生じ、電力の変換効率が低下する。
【0006】
このような事情により、Vienna整流器を用いた電力変換装置において、スイッチング損失を低減する手法の提供が望まれている。
【0007】
なお、Vienna整流器を用いた電力変換装置において、スイッチング損失を低減する手法の一例が、特許文献である特開2004-343975号公報に記載されているが、この手法は、本願が開示する手法とは異なるものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、以下のとおりである。
【0009】
本発明の代表的な実施の形態による電力変換装置は、三相交流電圧を直流電圧へと変換する電力変換装置であって、それぞれが、前記三相交流電圧が入力される各相の端子に接続された複数のインダクタと、前記複数のインダクタの後段に接続された三相ダイオードブリッジと、前記三相ダイオードブリッジの出力側の二端子間に直列に接続された第一コンデンサおよび第二コンデンサと、それぞれが、前記各相について、前記インダクタと前記三相ダイオードブリッジとの接続点である第1の接続点と、前記第一コンデンサと前記第二コンデンサとの接続点である第2の接続点との間に接続された、複数の双方向スイッチと、前記複数の双方向スイッチのスイッチングを制御するコントローラと、を備え、前記コントローラは、前記三相交流電圧の各相のうち入力電圧の絶対値が最大である相の前記双方向スイッチを、前記入力電圧の絶対値が最大である期間の全部または一部において、オン状態に固定するよう前記スイッチングを制御するオン固定モードを、動作モードとして有する。
【発明の効果】
【0010】
本願において開示される発明のうち、代表的なものによって得られる効果を簡単に説明すれば、以下のとおりである。
【0011】
本発明の代表的な実施の形態によれば、Vienna整流器を用いた電力変換装置においてスイッチング損失を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施形態1に係る電力変換装置の回路構成の一例を示す図である。
【
図2】実施形態1に係る電力変換装置における各種波形の一例を示した図である。
【
図3】実施形態1におけるコントローラの制御ブロックの一例を示した図である。
【
図4】補正電圧演算器の動作を示す制御ブロックの一例を示した図である。
【
図5】実施形態2に係る電力変換装置における入力電圧とduty比固定値との関係の一例を示した図である。
【
図6】実施形態2における入力電圧と効率との関係の一例を示した図である。
【
図7】実施形態3に係る電力変換装置における入力電圧とduty比固定値との関係の一例を示した図である。
【
図8】実施形態4に係る電力変換装置における入力電圧とduty比固定値との関係の一例を示した図である。
【
図9】実施形態5に係る電力変換装置の回路構成の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
これより、本発明の実施形態について説明する。なお、以下で説明する各実施形態は、本発明を実現するための一例であり、本発明の技術範囲を限定するものではない。
【0014】
また、以下の各実施形態において、同一の機能を有する構成要素には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は、特に必要な場合を除き省略する。
【0015】
(実施形態1)
実施形態1に係る電力変換装置について説明する。この電力変換装置は、Vienna整流器を用いて三相交流電圧を直流電圧に変換する装置である。Vienna整流器では、6個のスイッチを使用した三相PWMコンバータと比較して、スイッチの耐圧をおよそ1/2に低減できる。例えば、三相400V系統を受電するVienna整流器では、600Vから650V耐圧のスイッチを使用することができ、1.2kV耐圧のスイッチが必要な三相PWMコンバータよりもコスト面で有利となる。実施形態1に係る電力変換装置では、このVienna整流器を用いつつ、スイッチの制御を行うコントローラの動作モードとして、相電圧の絶対値が最大となる相の双方向スイッチをオン状態に固定するオン固定モードを有する点に特徴がある。
【0016】
〈装置の構成〉
図1は、実施形態1に係る電力変換装置の回路構成の一例を示す図である。
図1に示すように、電力変換装置100は、インダクタ102r,102s,102tと、三相ダイオードブリッジ103と、コンデンサ104,105と、双方向スイッチ106r,106s,106tと、を備えている。なお、双方向スイッチとは、電流が双方向に流れるスイッチを意味し、例えば、トランジスタなどのスイッチング素子である。
【0017】
三相系統101は、その電圧が国や地域によって異なるが、概ね三相200Vから400Vの間である。
【0018】
インダクタ102r,102s,102tは、三相系統101からの三相交流電圧が入力される各相の端子にそれぞれ接続されている。インダクタ102r,102s,102tは、例えば、コイル素子などにより構成される。
【0019】
三相ダイオードブリッジ103は、インダクタ102r,102s,102tの後段に接続されている。
【0020】
コンデンサ104,105は、三相ダイオードブリッジ103の出力側の二端子間、すなわち直流出力部の端子Pと端子Nとの間に、直列に接続されている。
【0021】
双方向スイッチ106rは、r相について、インダクタ102rと三相ダイオードブリッジ103との接続点(第1の接続点)と、コンデンサ104とコンデンサ105との接続点(第2の接続点)Mとの間に接続されている。同様に、双方向スイッチ106sは、s相について、インダクタ102sと三相ダイオードブリッジ103との接続点と、コンデンサの接続点Mとの間に接続されている。また、双方向スイッチ106tは、t相について、インダクタ102tと三相ダイオードブリッジ103との接続点と、コンデンサの接続点Mとの間に接続されている。本実施形態では、双方向スイッチ106rは、MOSFET111,112の直接接続により構成される。同様に、双方向スイッチ106sは、MOSFET113,114の直接接続により構成され、双方向スイッチ106tは、MOSFET115,116の直接接続により構成される。
【0022】
また、
図1に示すように、電力変換装置100は、電圧センサ107r,107sと、電流センサ108r,108sと、電圧センサ109と、コントローラ110とを備えている。
【0023】
電圧センサ107rは、r相の電圧Vrを検出するセンサである。電圧センサ107sは、s相の電圧Vsを検出するセンサである。
【0024】
電流センサ108rは、r相の電流Irを検出するセンサである。電流センサ108sは、s相の電流Isを検出するセンサである。
【0025】
電圧センサ109は、直流出力部の電圧を検出するセンサである。
【0026】
これらの各センサは、コントローラ110と接続されている。電流センサは、例えば、シャント抵抗および絶縁型アンプを用いたもの、コア付き電流センサまたはコアレス電流電サなどの磁気式センサ等により構成される。また、電圧センサは、例えば、抵抗分圧器および絶縁アンプを用いるもの、あるいは、コンデンサ分圧器および絶縁アンプを用いるもの、高感度非接触電流センサおよび直列抵抗を用いるもの等により構成される。
【0027】
コントローラ110は、各センサにて検出された検出値に基づいて、双方向スイッチ106r,106s,106tのスイッチングを制御する。コントローラ110は、例えば、集積回路、プログラマブル半導体チップ、マイコンチップ、あるいは、ディスクリート半導体を用いた回路により構成される。集積回路は、例えば、IC(Integrated Circuit),LSI(Large Scale Integration)などが挙げられる。プログラマブル半導体チップは、例えば、PLD(Programmable Logic Device)、FPGA(Field Programmable Gate Array)などが挙げられる。
【0028】
電力変換装置100は、三相系統101の三相交流電力を受電し、三相ダイオードブリッジ103および各相の双方向スイッチ106r,106s,106tによって直流電力に変換され、直流出力部の端子P,Nに接続されたコンデンサ104,105で平滑される。コンデンサ104,105の後段には、不図示のインバータやDC-DCコンバータ等の任意の負荷が接続され、この負荷に電力が送られる。
【0029】
コントローラ110には、外部から入力される不図示の直流電圧指令値と、電圧センサ107r、107sで検出されたr相およびs相の相電圧と、電流センサ108r,108sで検出されたr相およびs相の相電流と、電圧センサ109で検出された直流電圧が入力される。コントローラ110は、直流電圧指令値と、各センサから入力される検出値から演算した、t相を含む三相の相電圧および相電流に基づいて、双方向スイッチ106r,106s,106tのスイッチング周期におけるオン時間の比率(duty比)を演算する。duty比は、直流電圧を一定に制御しつつ、三相系統101の各相電流を正弦波に近づけるべく、演算・制御される。これにより、三相系統101から受電する電力の力率を1に近づける。
【0030】
なお、本実施形態では、r相とs相の二相について相電圧と相電流を検出しているが、これに限定されず、例えば三相全ての相電圧と相電流を検出してもよい。
【0031】
また、本実施形態では、直流出力部の端子Pの直流電圧を検出しているが、これに限定されず、例えばコンデンサ104,105の各電圧を検出してもよい。
【0032】
〈装置の動作〉
以下、実施形態1に係る電力変換装置100の動作について、
図2を用いて説明する。
【0033】
図2は、実施形態1に係る電力変換装置における各種波形の一例を示した図である。
図2では、同一時間軸上における、入力電圧指令値Vd、相電流I、補正電圧Voffset、およびduty比Dの時間変化を表している。
【0034】
入力電圧指令値Vdは、コントローラ110によって演算されるVienna整流器の入力電圧指令値である。入力電圧指令値Vdは、インダクタの後段すなわち三相ダイオードブリッジ103の前段における各相の入力電圧の目標値に相当する。入力電圧指令値Vdは、r相の入力電圧指令値Vdr、s相の入力電圧指令値Vds、t相の入力電圧指令値Vdtによって構成される。これらの指令値は、それぞれ、位相が120°ずつシフトした単純な正弦波になる。
【0035】
相電流Iは、各相の電流の総称であり、r相の電流Ir、s相の電流Is、t相の電流Itによって構成される。この相電流Iが相電圧Vの波形に近づくと、力率が1に近づき、力率が改善される。
【0036】
補正電圧Voffsetは、入力電圧指令値Vdに加算する補正電圧であり、コントローラによって演算される。補正電圧Voffsetの算出方法の詳細については後述する。
【0037】
duty比Dは、各相の双方向スイッチをPWMでスイッチングする際のデューティ比の総称である。デューティ比は、スイッチング周期に対して双方向スイッチがオンしている時間の割合である。duty比Dは、r相の双方向スイッチ106rのスイッチングにおけるduty比Dr、s相での同様のduty比Ds、t相での同様のduty比Dtによって構成される。
【0038】
なお、時刻t1~t2の期間A、時刻t2~t3の期間B、時刻t3~t4の期間Cは、それぞれ系統位相60度分の時間に相当する。
【0039】
《期間A:t1~t2》
時刻t1~t2の期間Aでは、t相の入力電圧指令値Vdtは負であり、絶対値が三相の中で最大となっている。この時、後述するコントローラ110のスイッチング制御により、入力電圧指令値Vdtに補正電圧Voffsetが加算され、t相の双方向スイッチ106tのduty比Dtが1、すなわちオン状態に固定される。また、同時にr相の双方向スイッチ106rとs相の双方向スイッチ106sのduty比Dr,Dsにも同じ補正電圧Voffsetが加算され、t相の双方向スイッチ106tをスイッチングしなくても各相の電流Ir,Is,Itは正弦波となるように制御される。
【0040】
《期間B:t2~t3》
時刻t2~t3の期間Bでは、s相の入力電圧指令値Vdsの絶対値が三相の中で最大となっている。この時、補正電圧Voffsetは、s相の双方向スイッチ106sのduty比Dsを1に固定するように計算される。期間Aでオン状態に固定されていた双方向スイッチ106tは期間Bではスイッチングし、双方向スイッチ106sのみがオン状態に固定される。期間Aと同様に、期間Bにおいても三相の電流Ir,Is,Itは正弦波となるように制御される。
【0041】
《期間C:t3~t4》
時刻t3~t4の期間Cでは、r相の入力電圧指令値Vdrの絶対値が三相の中で最大となっている。この時、補正電圧Voffsetは、r相の双方向スイッチ106rのduty比Drを1に固定するように計算される。期間Bでオン状態に固定されていた双方向スイッチ106sは期間Cではスイッチングし、双方向スイッチ106rのみがオン状態に固定される。期間A、Bと同様に、期間Cにおいても三相の電流Ir,Is,Itは正弦波となるように制御される。
【0042】
上述したように、期間A~期間Cはそれぞれ系統位相60度分の時間であり、各相の双方向スイッチは系統1周期のうち2回スイッチングを停止する期間がある。すなわち、合計で120度分スイッチングを停止し、オン状態に固定される。オン状態に固定されることでインダクタ102r,102s,102tへ三相ダイオードブリッジ103を経由せずに線間電圧を印加でき、電流Ir,Is,Itを正弦波に制御することができる。以上から、実施形態1の構成によって双方向スイッチ106r,106s,106tのスイッチング損失を低減でき、変換効率を向上させることができる。
【0043】
《コントローラの動作》
実施形態1に係る電力変換装置のコントローラの動作について
図3を用いて説明する。
図3は、実施形態1におけるコントローラの制御ブロックの一例を示した図である。
【0044】
図3に示すように、まず、外部から入力された直流電圧指令値Vrefと電圧センサ109で検出された直流出力部の直流電圧Vpnとの差分Verrが算出される。
【0045】
PI(Proportion-Integral)制御器121は、一般的なフィードバック制御によく用いられる制御器であり,差分Verrに基づき、差分Verrをゼロにするように比例制御出力と積分制御出力とを足し合わせた電流振幅指令値Iamp_refを演算する。なお、PI制御器121は、電圧制御器に相当する。電流振幅指令値Iamp_refは、三相系統101の各相電圧の位相情報sinと乗算され、各相の電流指令値Irefが演算される。
【0046】
PI制御器122は、電流指令値Irefと電流センサ108r,108sで検出された相電流Iとの差分Ierrに基づき、入力電圧指令値Vdを演算する。
【0047】
補正電圧演算器123は、入力された入力電圧指令値Vdに基づいて、入力電圧指令値Vdのうち絶対値が最大である相の双方向スイッチのduty比を1に固定するような補正電圧Voffsetを演算する。
【0048】
補正電圧Voffsetは、各相の入力電圧指令値Vdに等しく加算され、補正後入力電圧指令値Vd2(Vdr2,Vds2,Vdt2の総称)が演算される。
【0049】
duty演算器124は、入力された補正後入力電圧指令値Vd2に基づいて、各相のduty比D(Dr,Ds,Dt)を演算し、双方向スイッチ106r,106s,106tを駆動するゲート信号を生成する。
【0050】
このように、電力変換装置100は、そのコントローラ110の動作モードとして、相電圧の絶対値が最大となる相の双方向スイッチをオン状態に固定するオン固定モードを有している。
【0051】
以上のような動作により、負荷変動等によって電流振幅指令値Iamp_refが変動しても常に適切な補正電圧Voffsetを演算することができる。
【0052】
なお、補正電圧Voffsetは、コンデンサ104とコンデンサ105との接続点Mに与えられるコモン電圧とも考えることができる。
【0053】
また、ここでは、電流振幅指令値Iamp_refから位相情報sinを用いて各相の電流指令値Irefを演算しているが、これに限定されず、例えばdq変換を用いて各相の電流指令値Irefを演算してもよい。
【0054】
また、ここでは、コンデンサ104,105の電圧バランスを制御するブロック等は組み込まれていないが、このようなブロック等を追加するようにしてもよい。
【0055】
《補正電圧演算器の動作》
ここで、補正電圧演算器123の動作について
図4を用いて説明する。
【0056】
図4は、補正電圧演算器の動作を示す制御ブロックの一例を示した図である。各相の入力電圧指令値Vdr,Vds,Vdtの絶対値が絶対値演算器によって算出され、最大電圧選択器131に入力される。
【0057】
相電圧の絶対値が最大となる相の双方向スイッチをオン状態に固定するためには、固定対象の入力電圧指令値(Vdr,Vds,Vdtのいずれか)の絶対値を小さくする必要がある。例えば、r相の電流Irが正の向きに流れている場合、r相の双方向スイッチ106rをオフするとr相の入力電圧は直流出力の端子Pの電位となり、オンするとコンデンサの接続点Mの電位(理想的には三相系統101の中性点と同電位でゼロ)と等しくなる。ここで、端子Pの電位>接続点Mの電位であるため、入力電圧指令値Vdrが小さい程双方向スイッチ106rのduty比Drは1に近づく。また、r相の電流Irが負の向きに流れている場合は、双方向スイッチ106rをオフするとr相の入力電圧は直流出力の端子Nの電位となり、同様に入力電圧指令値Vdrの絶対値がゼロに近い程双方向スイッチ106rのduty比Drは1に近づく。
【0058】
したがって、最大電圧選択器131は、入力電圧指令値Vdr,Vds,Vdtのうち最大絶対値を選択して出力し,入力電圧指令値Vdr,Vds,Vdtは、極性決定器132に入力される。極性決定器132は、絶対値が最大となる入力電圧指令値の正負を判定し、正なら-1、負なら+1を出力する。最大電圧選択器131の出力と、極性決定器132の出力とを乗算し、補正電圧Voffsetが演算される。
【0059】
演算された補正電圧Voffsetは、各相の入力電圧指令値Vdr,Vds,Vdtに等しく加算され、補正後の入力電圧指令値Vdr2,Vds2,Vdt2となる。こうすることで,例えば、r相の入力電圧指令値Vdrが正でかつ絶対値が最大となっている場合に、Vdr2=Vdr-Vdr=0となり、補正後の入力電圧指令値Vdr2をゼロにすることができ、r相の双方向スイッチ106rをオン状態に固定できる。また、他相についても等しく補正電圧Voffsetを加算するため、線間電圧に影響を与えない。
【0060】
以上のような動作により、入力電圧指令値Vdr,Vds,Vdtの極性に応じて加算すべき補正電圧Voffsetを適切に計算することができる。
【0061】
なお、本実施形態では、相電圧の絶対値が最大となる相の双方向スイッチを、その絶対値が最大である期間の全部において、オン状態に固定している。しかしながら、本発明はこれに限定されず、相電圧の絶対値が最大となる相の双方向スイッチを、その絶対値が最大である期間の一部、例えば、50%以上、100%未満において、オン状態に固定するようにしてもよい。このような場合であっても、力率を改善しつつスイッチング損失を低減することができる。
【0062】
(実施形態2)
実施形態2に係る電力変換装置について説明する。この電力変換装置は、実施形態1に係る電力変換装置を基礎に、コントローラの動作モードとして、オン固定モードのほかに、オフ固定モードを有している。オフ固定モードとは、相電圧の絶対値が最大となる相の双方向スイッチをオフ状態に固定する動作モードである。また、この電力変換装置は、入力電圧もしくは昇圧比に基づいて、コントローラの動作モードをオン固定モードとオフ固定モードとに切り替えるものである。なお、昇圧比とは、三相系統の入力電圧に対する出力直流電圧の比を意味する。
【0063】
実施形態1に係る電力変換装置、すなわちオン固定モードで動作する装置では、三相系統の入力電圧が出力直流電圧を基準にして相対的に低い条件、あるいは、入力電圧に対する出力直流電圧の比すなわち昇圧比が高い条件において、特に適した動作をする。
【0064】
一方、入力電圧が出力直流電圧を基準にして相対的に高い、あるいは、昇圧比が低い条件においては、オフ固定モードで動作する方が安定した動作が期待できる。例えば、三相系統101の線間電圧の最大値がコンデンサ104もしくは105の電圧よりも高い場合、オン固定モードで動作させると、三相系統101からコンデンサ104もしくは105に電流が自動的に流れてしまい、相電流を制御することが難しくなる。このため、入力電圧もしくは昇圧比に基づいて、オン固定モードにするのかオフ固定モードにするのかを選択することで、広い入力電圧範囲でスイッチング損失を低減できる。
【0065】
図5は、実施形態2に係る電力変換装置における入力電圧とduty比固定値との関係の一例を示した図である。なお、
図5では、直流電圧は一定であると想定している。
【0066】
図5において、入力電圧が閾電圧Vthよりも低い場合は、コントローラ110の動作モードをオン固定モードとし、相電圧の絶対値が最大となる相の双方向スイッチのスイッチングにおけるduty比の固定値を1としている。一方、入力電圧が閾電圧Vth以上の領域では、コントローラ110の動作モードを、オフ固定モードとし、相電圧の絶対値が最大となる相の双方向スイッチのスイッチングにおけるduty比の固定値を0とする。
【0067】
以上のような動作をさせることで、広い入力電圧範囲で双方向スイッチ106r,106s,106tのスイッチング損失を低減できる。
【0068】
なお、閾電圧Vthは、力率を改善しつつスイッチング損失の低減度を最大化するという観点では、三相系統101の線間電圧の最大値が出力直流電圧のおおよそ1/2となる値に設定することが望ましい。しかしながら、閾電圧Vthは、これに限定されない。例えば、閾電圧Vthは、直流電圧の0%より大きく50%以下の範囲で設定してもよいし、直流電圧の45%以上、55%以下の範囲で設定するようにしてもよい。
【0069】
図6は、実施形態2における入力電圧と効率との関係の一例を示した図である。変換効率201は、入力電圧が閾電圧Vthよりも低い場合と高い場合とでオン固定モードとオフ固定モードとを切り替える場合の変換効率である。変換効率202は、全ての入力電圧範囲において、三相の双方向スイッチを全てスイッチングさせる三相変調モードを用いた場合の変換効率である。
図6に示すように、入力電圧に応じてオン固定モードとオフ固定モードとを切り替える場合の変換効率201は、全ての入力電圧範囲で三相変調モードを用いる場合の変換効率202よりも高くなる。
【0070】
(実施形態3)
実施形態3に係る電力変換装置について説明する。この電力変換装置は、実施形態1に係る電力変換装置を基礎に、コントローラの動作モードとして、オン固定モードのほかに、オフ固定モードと、三相変調モードとを有している。三相変調モードとは、三相の双方向スイッチを全てスイッチングさせる動作モードである。また、この電力変換装置は、実施形態2のように閾電圧を1点に設けず、入力電圧の大きさに対して、オン固定モードとオフ固定モードとの間に三相変調モードを設けた場合の装置である。
【0071】
図7は、実施形態3に係る電力変換装置における入力電圧とduty比固定値との関係の一例を示した図である。なお、
図7では、直流電圧は一定であると想定している。
【0072】
図7において、入力電圧が第一閾電圧Vth1よりも低い場合、コントローラ110は、動作モードをオン固定モードとする。入力電圧が第一閾電圧Vth1以上であり、かつ第二閾電圧Vth2よりも低い場合、コントローラ110は、動作モードを三相変調モードとする。入力電圧が第二閾電圧Vth2以上の場合、コントローラ110は、動作モードをオフ固定モードとする。
【0073】
以上のような動作をさせることで、三相系統101の電圧もしくは直流電圧が変化した場合における動作モードのチャタリングを防ぐことができる。また、三相変調では、実施形態1および実施形態2で示した1相の双方向スイッチを停止する場合と比較して、生じる高調波が少ないという特徴がある。したがって、スイッチング損失が問題にならない一定以上の入力電圧範囲では、あえて三相変調を用いることで高調波ノイズを低減できる。
【0074】
(実施形態4)
実施形態4に係る電力変換装置について説明する。この電力変換装置は、実施形態1に係る電力変換装置を基礎に、コントローラの動作モードとして、オン固定モードのほかに、三相変調モードを有している。この電力変換装置は、入力電圧もしくは昇圧比に基づいて、コントローラの動作モードをオン固定モードと三相変調モードとに切り替えるものである。
【0075】
このように、入力電圧もしくは昇圧比に基づいて、オン固定モードにするのか三相変調モードにするのかを選択することでも、広い入力電圧範囲でスイッチング損失を低減できる。
【0076】
図8は、実施形態4に係る電力変換装置における入力電圧とduty比固定値との関係の一例を示した図である。なお、
図8では、直流電圧は一定であると想定している。
【0077】
図8において、入力電圧が閾電圧Vthよりも低い場合は、コントローラ110の動作モードをオン固定モードとし、相電圧の絶対値が最大となる相の双方向スイッチのスイッチングにおけるduty比の固定値を1としている。一方、入力電圧が閾電圧Vth以上の領域では、コントローラ110の動作モードを、三相変調モードとし、各相の双方向スイッチのスイッチングを常に行うようにする。
【0078】
以上のような動作をさせることで、広い入力電圧範囲で双方向スイッチ106r,106s,106tのスイッチング損失を低減できる。
【0079】
なお、閾電圧Vthは、三相系統101の線間電圧の最大値が直流電圧のおおよそ1/2となる値に設定することが望ましいが、実施形態2と同様に、所定の範囲で設定するようにしてもよい。
【0080】
(実施形態5)
実施形態5は、実施形態1に係る電力変換装置の回路構成の変形例である。
【0081】
図9は、実施形態5に係る電力変換装置の回路構成の一例である。実施形態1では、双方向スイッチ106r,106s,106tを、それぞれ、2個のMOSFETの直列接続で構成されている。
【0082】
一方、
図9に示すように、実施形態5に係る電力変換装置500では、各双方向スイッチを、1個のスイッチと4個のダイオードで構成することができる。すなわち、実施形態1における双方向スイッチ106r,106s,106tを、それぞれ、
図9に示すような双方向スイッチ506r,506s,506tとすることができる。
【0083】
具体的には、インダクタ102r,102s,102tと三相ダイオードブリッジ103との接続点を第1の接続点とし、コンデンサ104とコンデンサ105との接続点を第2の接続点とする。このとき、各相の双方向スイッチ506r,506s,506tは、それぞれ、1個のスイッチング素子、例えばパワートランジスタと、第1の接続点から当該スイッチング素子の一端に順方向に接続された第1のダイオード、当該スイッチング素子の他端から第1の接続点に順方向に接続された第2のダイオードと、第2の接続点から上記一端に順方向に接続された第3のダイオードと、上記他端から第2の接続点に順方向に接続された第4のダイオードとを含む構成とすることができる。
【0084】
なお、スイッチング素子としては、MOSFETの代わりに、IGBT、サイリスタ、GTO、バイポーラトランジスタ等他のスイッチング素子を用いてもよい。
【0085】
このような回路構成とする実施形態5によれば、故障率が比較的高いスイッチング素子(ダイオードを除く)の数を減らすことができ、電力変換装置の故障率を低減することができる。
【0086】
また、スイッチング素子として高価な素子を使用する場合には、コストを低減することができる。
【0087】
また、スイッチング素子として、比較的大きな素子を使用する場合には、実装スペースを縮小することができる。
【0088】
以上、本発明の各種実施形態について説明したが、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。また、上記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。これらは全て本発明の範疇に属するものである。さらに文中や図中に含まれる数値や名称等もあくまで一例であり、異なるものを用いても本発明の効果を損なうものではない。
【0089】
また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。また、上記の各構成、機能、回路等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路あるいはプログラマブル半導体チップで設計する等により実現してもよい。
【符号の説明】
【0090】
100・・・電力変換装置、101…三相系統、102r,102s,102t…インダクタ、103…三相ダイオードブリッジ、104,105…コンデンサ、106r,106s,106t…双方向スイッチ、107r、107s…電圧センサ、108r,108s…電流センサ、109…電圧センサ、110…コントローラ、P,N…直流出力部の端子、M…コンデンサの接続中点