(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-26
(45)【発行日】2024-10-04
(54)【発明の名称】防振装置
(51)【国際特許分類】
F16F 15/08 20060101AFI20240927BHJP
F16F 1/387 20060101ALI20240927BHJP
F16F 1/38 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
F16F15/08 K
F16F15/08 C
F16F1/387 F
F16F1/38 U
(21)【出願番号】P 2021116709
(22)【出願日】2021-07-14
【審査請求日】2024-04-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001966
【氏名又は名称】弁理士法人笠井中根国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100103252
【氏名又は名称】笠井 美孝
(74)【代理人】
【識別番号】100147717
【氏名又は名称】中根 美枝
(72)【発明者】
【氏名】安田 恭宣
【審査官】杉山 豊博
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-089630(JP,A)
【文献】特開2009-216126(JP,A)
【文献】特開2014-043881(JP,A)
【文献】特開2014-134260(JP,A)
【文献】特開2000-145855(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/08
F16F 1/387
F16F 1/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インナ軸部材の外周面に本体ゴム弾性体が固着された構造を有する防振装置本体が、アウタ部材の筒状部に挿入されて、該インナ軸部材と該アウタ部材が該本体ゴム弾性体によって弾性連結された防振装置において、
前記本体ゴム弾性体は、前記インナ軸部材の径方向の両側へ突出する一組のゴム腕部と、該一組のゴム腕部の周方向間において該一組のゴム腕部とは異なる該インナ軸部材の径方向の両側へ突出する一組のストッパ突部とを備えており、
該一組のゴム腕部が該インナ軸部材と前記アウタ部材の前記筒状部との間において予圧縮された状態で該筒状部の内周面に接着されており、各該ゴム腕部の圧縮率が7%未満とされていると共に、
該一組のストッパ突部と該筒状部の当接によって該インナ軸部材と該筒状部の径方向の相対変位量を制限するストッパ機構が構成される防振装置。
【請求項2】
前記インナ軸部材と前記筒状部との連結方向に延びる前記ゴム腕部の弾性主軸が、該インナ軸部材側から該筒状部側へ向けて一方の前記ストッパ突部の突出先端側へ傾斜しており、
一方の該ストッパ突部は他方の該ストッパ突部よりも突出方向のばね定数が小さくされている請求項1に記載の防振装置。
【請求項3】
前記筒状部の軸方向開口部には、内周へ突出する抜止片が一体形成されており、
該抜止片と前記本体ゴム弾性体との当接によって該本体ゴム弾性体の該筒状部からの抜けを防止する抜止部が構成される請求項1又は2に記載の防振装置。
【請求項4】
各前記ゴム腕部の前記筒状部への接着面積が各前記ストッパ突部の突出先端面の面積よりも大きくされている請求項1~3の何れか一項に記載の防振装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車のトルクロッド、エンジンマウント、サスペンションリンク等に適用され得る防振装置に関するものであって、特にインナ部材とアウタ部材が本体ゴム弾性体に接着された接着タイプの防振装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば、車両等においてパワーユニット等の振動源と車両ボデー等の防振対象との防振連結に用いられる防振装置が知られている。防振装置は、様々な構造が提案されているが、例えば、特開2000-145855号公報(特許文献1)にも示されているように、インナ部材とアウタ部材が本体ゴム弾性体に対して接着された接着タイプの防振装置が一般的に知られている。接着タイプの防振装置は、インナ部材とアウタ部材が本体ゴム弾性体に対して強固に固着されていることにより、大きな入力荷重に対応することが可能であり、本体ゴム弾性体のアウタ部材からの抜け等が問題になり難い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、接着タイプの防振装置は、本体ゴム弾性体がインナ部材及びアウタ部材から離れないことから、振動入力時に本体ゴム弾性体に引張応力が発生し易い。そこで、本体ゴム弾性体をインナ部材とアウタ部材の間で予圧縮しておくことにより、引張応力の低減を図ることが従来から行われている。具体的には、例えば、本体ゴム弾性体を治具によって圧縮して縮径させた状態でアウタ部材に挿入することにより、本体ゴム弾性体がアウタ部材の内周において弾性的な形状復元によって拡径して、アウタ部材の内周面に当接する。この際に、本体ゴム弾性体が初期形状まで復元することなく圧縮された状態でアウタ部材の内周面に押し当てられることにより、本体ゴム弾性体が予圧縮された状態でアウタ部材に組み付けられる。
【0005】
しかし、引張応力を十分に低減するために本体ゴム弾性体の予圧縮量(圧縮率)を大きくすると、接着層の破壊、アウタ部材の材質の制限などが問題になり易い。また、低はね特性が要求される場合には、要求される低ばね特性の実現が難しくなったり、ゴムボリュームの確保が難しくなって耐久性が問題になるおそれもあった。
【0006】
一方、接着タイプの防振装置において圧縮率が小さすぎると、接着時に本体ゴム弾性体とアウタ部材の内周壁面との接触圧が不十分になる等して、高い接着強度を安定して得ることが難しくなるおそれがあると共に、振動入力時に大きな引張応力が生じやすくなって本体ゴム弾性体の耐久性が低下するおそれもあった。
【0007】
なお、ばね比を調節するなどの目的で、本体ゴム弾性体におけるインナ部材とアウタ部材とを連結する部分が周方向で部分的に設けられたゴム腕部とされる場合がある。この場合に、接着タイプの防振装置でゴム腕部の圧縮率が小さいと、ゴム腕部とアウタ部材の接着面積が制限されることから接着強度を大きく得ることがより難しくなり得ると共に、ゴム腕部の断面積が小さくゴムボリュームが小さいこと等から、ゴム腕部に大きな引張応力が発生し易く、引張応力による損傷等がより問題になり易かった。
【0008】
本発明の解決課題は、接着タイプの防振装置において問題となる、接着不良や設計自由度の制限、本体ゴム弾性体の耐久性の低下等を防ぐことができる、新規な構造の防振装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以下、本発明を把握するための好ましい態様について記載するが、以下に記載の各態様は、例示的に記載したものであって、適宜に互いに組み合わせて採用され得るだけでなく、各態様に記載の複数の構成要素についても、可能な限り独立して認識及び採用することができ、適宜に別の態様に記載の何れかの構成要素と組み合わせて採用することもできる。それによって、本発明では、以下に記載の態様に限定されることなく、種々の別態様が実現され得る。
【0010】
第一の態様は、インナ軸部材の外周面に本体ゴム弾性体が固着された構造を有する防振装置本体が、アウタ部材の筒状部に挿入されて、該インナ軸部材と該アウタ部材が該本体ゴム弾性体によって弾性連結された防振装置において、前記本体ゴム弾性体は、前記インナ軸部材の径方向の両側へ突出する一組のゴム腕部と、該一組のゴム腕部の周方向間において該一組のゴム腕部とは異なる該インナ軸部材の径方向の両側へ突出する一組のストッパ突部とを備えており、該一組のゴム腕部が該インナ軸部材と前記アウタ部材の前記筒状部との間において予圧縮された状態で該筒状部の内周面に接着されており、各該ゴム腕部の圧縮率が7%未満とされていると共に、該一組のストッパ突部と該筒状部の当接によって該インナ軸部材と該筒状部の径方向の相対変位量を制限するストッパ機構が構成されるものである。
【0011】
本態様に従う構造とされた防振装置によれば、ゴム腕部がアウタ部材の筒状部に接着された接着タイプの防振装置において、ゴム腕部の圧縮率が7%未満と小さくされていることから、接着層の破壊が防止されて有効な接着が可能とされると共に、ゴム腕部の弾性による筒状部の歪などが問題になり難く、アウタ部材の形成材料の選択自由度を大きく得ることができる。
【0012】
また、ゴム腕部の圧縮率が小さいことによって、ゴム腕部のばねが予圧縮によって硬くなるのを抑えることができて、低ばね特性が要求される場合にも対応が容易である。更に、予圧縮によるゴム腕部の高ばね化が抑えられることから、例えばゴム腕部の断面積を大きくしながらゴム腕部のばねが過剰に硬くなるのを防ぐことができて、ゴム腕部のゴムボリュームを大きく得ることによる耐久性の向上等が図られる。
【0013】
ゴム腕部は、筒状部への組み付け状態で予圧縮されていることから、接着強度が確保される。特に、ゴム腕部の圧縮率が7%未満の範囲内でゴム腕部の筒状部に対する接触圧を十分に確保できるように設定されることにより、必要な接着強度を実現することができる。
【0014】
また、接着タイプの防振装置において問題となり易いゴム腕部への引張入力時のゴム腕部の筒状部からの剥離や損傷等は、ストッパ機構によってゴム腕部の変形量が制限されていることで防止される。即ち、インナ部材と筒状部がストッパ突部の突出方向で相対変位すると、例えばゴム腕部の周方向端部が筒状部の内周面に対して捲り上がるように変形して、接着面の周方向端部に引張応力が集中的に作用することで剥離が発生するおそれがある。そこで、ストッパ機構によってインナ部材と筒状部の相対変位量をストッパ突部の突出方向で制限して、接着面に大きな引張応力が作用するのを防ぐことにより、ゴム腕部と筒状部との接着面の剥離を防ぐことができる。更に、ゴム腕部に作用する引張応力が低減されることにより、ゴム腕部の耐久性の向上も図られる。
【0015】
第二の態様は、第一の態様に記載された防振装置において、前記インナ軸部材と前記筒状部との連結方向に延びる前記ゴム腕部の弾性主軸が、該インナ軸部材側から該筒状部側へ向けて一方の前記ストッパ突部の突出先端側へ傾斜しており、一方の該ストッパ突部は他方の該ストッパ突部よりも突出方向のばね定数が小さくされているものである。
【0016】
本態様に従う構造とされた防振装置によれば、一方のストッパ突部の突出側へ向けた入力時には、ゴム腕部が圧縮による硬いばね特性を発揮することから、一方のストッパ突部のばね定数が比較的に小さくても、ゴム腕部の変形量ひいてはゴム腕部に作用する引張応力を制限することができる。他方のストッパ突部の突出側へ向けた入力時には、一方のストッパ突部の突出側へ向けた入力時に比して、ゴム腕部のばね定数が小さくなるが、他方のストッパ突部は一方のストッパ突部よりもばね定数が大きく硬いばね特性を有することから、ゴム腕部に作用する引張応力がストッパ機構によって有効に制限される。従って、ストッパ突部の突出方向両側への入力に際して、引張応力によるゴム腕部と筒状部の接着面の剥離やゴム腕部の損傷が、ストッパ機構によって有効に防止される。また、弾性主軸の傾斜によってストッパ突部の突出方向両側でばね定数が異なるゴム腕部のばね特性を考慮して、一方のストッパ突部の圧縮ばね定数が他方のストッパ突部の圧縮ばね定数よりも小さくされていることから、両側のストッパ突部の筒状部への当接に際して過度な高ばね化が回避される。
【0017】
なお、本態様においては、例えば以下の(i)~(iv)に記載の態様の少なくとも一つが任意に且つ好適に採用され得る。(i)筒状部に接着されるゴム腕部の外周端部の軸方向側面に対して抜止片が接触している態様。(ii)筒状部に接着されるゴム腕部の外周端部の周方向で部分的に抜止片が設けられている態様。(iii)筒状部の軸方向両側に抜止片が設けられている態様。(iv)主たる荷重(想定される最も大きな荷重)の入力方向に対して一組のストッパ突部が突出して設けられており、かかる主たる荷重の入力方向に対して略直交する両側に向かって一組のゴム腕部が突出するように設けられている態様。接着タイプの防振装置では不要と考えられていた抜止片を敢えて採用することで、例えばゴム腕部全体では低圧縮率としながら接着部分の圧縮率を効率的に又は安定して確保したり、ゴム腕部への過度の拘束を回避して接着部分における適切な状態の維持を図ったり、ゴム腕部への直接的な圧縮/引張荷重の作用を軽減したりすることなども可能になる。
【0018】
第三の態様は、第一又は第二の態様に記載された防振装置において、前記筒状部の軸方向開口部には、内周へ突出する抜止片が一体形成されており、該抜止片と前記本体ゴム弾性体との当接によって該本体ゴム弾性体の該筒状部からの抜けを防止する抜止部が構成されるものである。
【0019】
本態様に従う構造とされた防振装置によれば、仮にゴム腕部と筒状部の接着面が剥離したとしても、本体ゴム弾性体の筒状部からの抜けが本体ゴム弾性体と抜止片の当接によって防止される。なお、本態様においては、例えば以下の(i)~(ii)に記載の態様の少なくとも一つが任意に且つ好適に採用され得る。(i)ストッパ突部の突出先端面が筒状部に対して隙間をもって対向している態様。(ii)ストッパ突部の突出端部の少なくとも一方の軸方向外側には、筒状部から内周へ突出形成された抜止片が設けられた態様。かかる(i)の態様では、例えば低圧縮率が設定されたゴム腕部によって発揮されるばね特性が、ストッパ突部の圧縮ばねによって影響を受けることを軽減できるし、(ii)の態様では、例えばストッパ突部の変形量を制限して非線形な荷重-ばね特性などを与えることで、大きな外力作用時にゴム腕部に発生する引張応力の軽減を図ることなども可能になる。
【0020】
また、前記各態様に従う構造とされた防振装置では、例えば一対のゴム腕部の連結方向に延びる弾性主軸が、軸方向一方の側に向かって傾斜している態様も、任意に採用され得る。例えば過大な軸直角方向荷重の入力時に、弾性主軸の傾斜角度に対応する径方向と軸方向の分力作用によってゴム腕部の径方向に作用する圧縮/引張の応力を軽減することで接着面の保護や著しい高ばね化の回避などを図ることも可能になる。
【0021】
第四の態様は、第一~第三の何れか1つの態様に記載された防振装置において、各前記ゴム腕部の前記筒状部への接着面積が各前記ストッパ突部の突出先端面の面積よりも大きくされているものである。
【0022】
本態様に従う構造とされた防振装置によれば、ゴム腕部と筒状部の接着面積が大きく確保されることから、ゴム腕部と筒状部の接着強度を大きく得ることができる。また、ストッパ突部の突出先端面の面積が、ゴム腕部のインナ部材からの突出先端面の面積である筒状部への接着面積よりも小さいことから、ストッパ突部が筒状部に当接してストッパ作用を発揮する際に、急激なばねの上昇による衝撃や異音等の発生を防ぐことができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、接着タイプの防振装置において問題となる、接着不良や設計自由度の制限、本体ゴム弾性体の耐久性の低下等を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の第一の実施形態としてのトルクロッドを示す斜視図
【
図7】本発明の第二の実施形態としてのトルクロッドを示す平面図
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0026】
図1~
図5には、本発明に従う構造とされた防振装置の第一の実施形態として、自動車用のトルクロッド10が示されている。トルクロッド10は、
図6にも示すように、防振装置本体12が、アウタ部材としてのロッド本体14に組み付けられた構造を有している。以下の説明において、原則として、上下方向とは後述するインナ軸部材16及び筒状部34の軸方向である
図4中の上下方向を、左右方向とはロッド本体14のロッド長さ方向である
図2中の左右方向を、幅方向とはロッド本体14の幅方向である
図2中の上下方向を、それぞれ言う。また、原則として、軸方向とは後述するインナ軸部材16及び筒状部34の軸方向を、周方向とは後述するインナ軸部材16及び筒状部34の周方向を、それぞれ言う。
【0027】
防振装置本体12は、インナ軸部材16に本体ゴム弾性体18が固着された構造を有している。インナ軸部材16は、金属や繊維補強された合成樹脂等で形成された高剛性の部材とされている。インナ軸部材16は、上下方向に直線的に延びる柱状の部材であって、上下方向に貫通するボルト孔20を備えている。インナ軸部材16は、上下方向視において略等脚台形状とされており、左右方向の一方から他方(
図2中の左方から右方)へ向けて幅寸法(
図2中の上下寸法)が大きくなっている。従って、インナ軸部材16の外周面は、左右方向で並んで互いに略平行に広がる幅寸法の異なる幅広面22と幅狭面24と、それら幅広面22と幅狭面24とを相互につなぐ一組の傾斜固着面26,26とを備えている。
【0028】
本体ゴム弾性体18は、インナ軸部材16の一組の傾斜固着面26,26から外周へ向けて突出する一組のゴム腕部28,28を備えている。ゴム腕部28は、一組の傾斜固着面26,26に固着されており、例えば本体ゴム弾性体18の成形時に加硫接着されている。ゴム腕部28は、
図2,
図3に示すように、インナ軸部材16から外周へ向けて左方へ傾斜しながら突出しており、
図2中に二点鎖線で示すゴム腕部28の突出方向に延びる弾性主軸Lが、インナ軸部材16から外周へ向けて左方へ傾斜している。ゴム腕部28の弾性主軸Lは、
図4に示すように、インナ軸部材16から外周へ向けて上傾している。ゴム腕部28は、インナ軸部材16への固着端面である内周端面よりも突出先端面である外周端面の方が、周方向の幅寸法が大きくされている。また、ゴム腕部28は、インナ軸部材16への固着端面である内周端面よりも突出先端面である外周端面の方が、上下方向の厚さ寸法が小さくされている。
【0029】
本体ゴム弾性体18は、インナ軸部材16の幅広面22から突出する第一のストッパ突部30と、インナ軸部材16の幅狭面24から突出する第二のストッパ突部32とを、備えている。第一のストッパ突部30と第二のストッパ突部32は、幅広面22と幅狭面24とが並ぶ左右方向で互いに反対向きに突出している。第一のストッパ突部30と第二のストッパ突部32は、インナ軸部材16の周方向においてゴム腕部28,28の間に設けられている。第一のストッパ突部30と第二のストッパ突部32は、ゴム腕部28,28に対して、基端部分でインナ軸部材16の周方向に連続していると共に、先端部分ではインナ軸部材16の周方向で相互に離隔して独立している。
図2,
図3に示すように、第一のストッパ突部30の幅寸法は、第二のストッパ突部32の幅寸法よりも大きくされている。
図5に示すように、第一のストッパ突部30と第二のストッパ突部32は、インナ軸部材16に固着された基端面の上下寸法が相互に略同じとされていると共に、突出先端面の上下寸法が相互に略同じとされている。第一のストッパ突部30のインナ軸部材16からの突出寸法は、第二のストッパ突部32のインナ軸部材16からの突出寸法以上とされている。第一のストッパ突部30の突出方向での圧縮ばね定数は、第二のストッパ突部32の突出方向での圧縮ばね定数よりも大きくされており、第一のストッパ突部30が第二のストッパ突部32よりも突出方向の圧縮ばね特性が硬くされている。
【0030】
ゴム腕部28の突出先端面の面積は、第一のストッパ突部30の突出先端面の面積と、第二のストッパ突部32の突出先端面の面積との何れよりも大きくされている。ゴム腕部28の突出先端面の周方向寸法は、第一のストッパ突部30の突出先端面の周方向寸法よりも大きくされており、好適には、第一のストッパ突部30の突出先端面の周方向寸法の2倍以上とされている。なお、第一,第二のストッパ突部30,32の突出先端面とは、好適には、入力が想定されるストッパ荷重の作用状態下における筒状部34(後述)への当接領域であって、例えば、筒状部34の内周面に対応する形状の対向面よりも広い範囲とされる。また、第一,第二のストッパ突部30,32の突出先端面とは、例えば、筒状部34との当接に際して当接初期段階で筒状部34に当接する部分である。
【0031】
ロッド本体14は、アルミニウム合金や鉄などの金属、或いは繊維補強された合成樹脂等で形成された高剛性の部材であって、好適には、ダイカスト成形や射出成形などによって製造される型成形品とされている。ロッド本体14は、筒状部34から右方へ向けて一組の軸状部36,36が延び出した構造とされている。
【0032】
筒状部34は、略円筒形状とされており、上下方向に貫通する装着孔38を備えている。そして、筒状部34の装着孔38には、インナ軸部材16と本体ゴム弾性体18を備える防振装置本体12が挿入されている。筒状部34の内周面は、防振装置本体12におけるゴム腕部28,28の突出先端面を含む仮想的な筒状面よりも小径とされている。従って、防振装置本体12が筒状部34の装着孔38へ挿入されると、ゴム腕部28,28の突出先端面が筒状部34の内周面に押し当てられて、ゴム腕部28,28が突出方向で圧縮された状態となる。要するに、ゴム腕部28,28は、防振装置本体12がロッド本体14の筒状部34に装着された状態において、インナ軸部材16と筒状部34との間で予圧縮されている。
【0033】
防振装置本体12は、例えば、ゴム腕部28,28が図示しない筒状の治具によって圧縮された状態で、筒状部34へ挿入される。これにより、防振装置本体12の筒状部34への挿入時に、ゴム腕部28,28と筒状部34の間で作用する摩擦抵抗が低減されて、防振装置本体12の筒状部34への挿入が容易になる。治具によって圧縮された状態のゴム腕部28,28は、突出先端面が後述する第一の抜止片42の突出先端面よりも内周に位置していることが望ましく、これによって防振装置本体12の筒状部34への挿入がより容易になると共に、ゴム腕部28,28が第一の抜止片42を乗り越えることによるゴム腕部28,28の損傷が回避される。
【0034】
ゴム腕部28,28は、防振装置本体12が筒状部34に装着された状態において、突出方向での圧縮率が7%未満、より好適には5%以下とされており、小さな圧縮率で予圧縮されている。なお、ゴム腕部28の圧縮率とは、防振装置本体12単体におけるゴム腕部28のインナ軸部材16からの突出寸法と、筒状部34へ組み付けられて圧縮された状態におけるゴム腕部28のインナ軸部材16からの突出寸法との差を、防振装置本体12単体におけるゴム腕部28の突出寸法で除した値を言う。
【0035】
筒状部34に押し当てられるゴム腕部28,28の突出先端面は、筒状部34の内周面に接着される接着面40とされており、ゴム腕部28,28が筒状部34に接着されている。ゴム腕部28,28の接着面40に塗布される接着剤は、特に限定されないが、防振装置本体12の治具による筒状部34への挿入作業を考慮すると、例えば、塗布後に乾燥状態とすることが可能であり、且つ防振装置本体12の筒状部34への挿入後に接着力を発揮させることが可能な接着剤が望ましい。具体的には、例えば、熱硬化性の樹脂接着剤が好適に採用される。そして、接着剤をゴム腕部28,28の接着面40に塗布した後に乾燥状態とし、ゴム腕部28を後述する治具で圧縮しながら防振装置本体12を筒状部34へ挿入した後、接着剤が塗布されたゴム腕部28,28と筒状部34との当接面を加熱することにより、ゴム腕部28,28と筒状部34が接着される。インナ軸部材16に加硫接着されたゴム腕部28,28が筒状部34に接着されることにより、インナ軸部材16と筒状部34がゴム腕部28,28を備えた本体ゴム弾性体18によって弾性連結されている。
【0036】
ゴム腕部28,28の圧縮率が7%未満と小さく設定されていることにより、ゴム腕部28,28の接着面40に塗布された接着剤の層が、ゴム腕部28,28の大きな変形によって破損したり剥離するのを防ぐことができる。それゆえ、ゴム腕部28,28の予圧縮による引張応力の低減によって耐久性の向上を図りつつ、ゴム腕部28,28の筒状部34に対する安定した接着を可能とすることができる。
【0037】
また、第一,第二のストッパ突部30,32の突出先端面は、筒状部34の内周面に対して所定のストッパクリアランスだけ内周側へ離隔している。従って、第一,第二のストッパ突部30,32は、防振装置本体12の筒状部34への装着状態において、突出方向で予圧縮されていない。
【0038】
筒状部34の周方向においてゴム腕部28,28と対応する部分には、第一の抜止片42がそれぞれ設けられている。第一の抜止片42は、上下方向が厚さ方向とされた板状であって、筒状部34の軸方向端部において筒状部34から内周へ向けて突出している。第一の抜止片42は、ゴム腕部28に対して上下方向の投影において重なり合う位置に設けられている。第一の抜止片42は、ゴム腕部28に対して軸方向外側へ離れた位置に設けられていてもよいが、本実施形態ではゴム腕部28に対して予め当接しており、ゴム腕部28が第一の抜止片42に押し当てられている。第一の抜止片42は、筒状部34の軸方向両端の開口部にそれぞれ設けられている。第一の抜止片42は、筒状部34と一体形成されている。
【0039】
筒状部34の上側の開口部には、ゴム腕部28と重ね合わされる2つの第一の抜止片42a,42aが設けられている。第一の抜止片42a,42aは、周方向において相互に離れて設けられており、ゴム腕部28の周方向両端部分に対して筒状部34の軸方向で重ね合わされている。複数の第一の抜止片42aは、本実施形態において略同一の形状や大きさで形成されているが、互いに異なる形状や大きさであってもよい。筒状部34の上側の開口部に設けられる第一の抜止片42aは、各ゴム腕部28に対して2つが設けられていることから、筒状部34全体に対しては4つが周方向で相互に離れた位置に設けられている。
【0040】
筒状部34の下側の開口部には、周方向においてゴム腕部28の中央部分に重ね合わされる1つの第一の抜止片42bが設けられている。第一の抜止片42bは、筒状部34の軸方向投影において、第一の抜止片42a,42aの周方向間に位置している。第一の抜止片42a,42aと第一の抜止片42bは、筒状部34の周方向で相互に異なる位置に設けられており、筒状部34の軸方向投影において相互に重なり合わない位置に配されている。本実施形態では、第一の抜止片42a,42aがゴム腕部28の上面に当接していると共に、第一の抜止片42bがゴム腕部28の下面に当接している。第一の抜止片42a,42a,42a,42aとゴム腕部28との重ね合わせ面積の総和は、第一の抜止片42b,42bとゴム腕部28との重ね合わせ面積の総和よりも大きくされている。なお、第一の抜止片42aと第一の抜止片42bは、本実施形態において略同一の形状や大きさとされているが、例えば、想定される入力荷重の違い等に基づいて、第一の抜止片42aと第一の抜止片42bの形状や大きさなどを相互に異ならせることもできる。
【0041】
筒状部34の周方向において第一,第二のストッパ突部30,32と対応する部分には、第二の抜止片44がそれぞれ設けられている。第二の抜止片44は、上下方向が厚さ方向とされた板状であって、筒状部34の軸方向端部において筒状部34から内周へ向けて突出している。第二の抜止片44は、第一,第二のストッパ突部30,32の突出先端部分に対して上下方向の投影において重なり合う位置に設けられている。第二の抜止片44は、第一,第二のストッパ突部30,32に対して当接していてもよいが、本実施形態では第一,第二のストッパ突部30,32から筒状部34の軸方向で外側へ離れて設けられている。第二の抜止片44は、筒状部34の軸方向両側の開口部にそれぞれ設けられている。第二の抜止片44は、筒状部34と一体形成されている。
【0042】
第一のストッパ突部30と重ね合わされる第二の抜止片44aと、第二のストッパ突部32と重ね合わされる第二の抜止片44bは、筒状部34の軸方向各一方の開口部に設けられている。即ち、本実施形態では、第二の抜止片44aが筒状部34の上側の開口部に設けられていると共に、第二の抜止片44bが筒状部34の下側の開口部に設けられている。第二の抜止片44aと第二の抜止片44bは、本実施形態では互いに略同一の形状及び大きさとされているが、例えば、周方向で幅広の第一のストッパ突部30と重ね合わされる第二の抜止片44aの周方向寸法が、周方向で幅狭の第二のストッパ突部32と重ね合わされる第二の抜止片44bの周方向寸法よりも大きくされていてもよい。なお、第二の抜止片44aの周方向寸法は、第二の抜止片44aと重ね合わされる第一のストッパ突部30の突出先端部分の周方向寸法よりも大きくされていることが望ましい。同様に、第二の抜止片44bの周方向寸法は、第二の抜止片44bと重ね合わされる第二のストッパ突部32の突出先端部分の周方向寸法よりも大きくされていることが望ましい。
【0043】
筒状部34から延び出す一組の軸状部36,36は、ロッド状乃至は長手板状とされており、本実施形態では板厚方向で互いに対向して略平行に延びる長手板状の部材とされている。軸状部36,36の筒状部34からの延出方向は、第一のストッパ突部30のインナ軸部材16からの突出方向と略同じとされている。軸状部36は、長手方向一端が筒状部34と一体的につながっていると共に、長手方向他端に取付部46を備えている。取付部46は、略円環板状とされており、板厚方向である軸状部36,36の対向方向に貫通する取付用孔48を備えている。そして、一組の軸状部36,36の取付部46,46間に図示しないブッシュが配されて、当該ブッシュの内筒部材が取付部46,46に対してボルト固定されるようになっている。
【0044】
したがって、軸状部36,36の長手方向一端には、防振装置本体12と筒状部34によって構成された第一のブッシュが設けられており、軸状部36,36の長手方向他端には、取付部46,46に取り付けられる図示しない第二のブッシュが設けられる。そして、例えば、第一のブッシュのインナ軸部材16が車両ボデーに取り付けられると共に、取付部46,46に取り付けられた第二のブッシュの外筒部材がパワーユニットに取り付けられることにより、パワーユニットと車両ボデーがトルクロッド10によって防振連結される。このように、パワーユニットと車両ボデーがトルクロッド10で防振連結されることにより、パワーユニットの発生力に対する反力(トルク反力)がトルクロッド10によって受けられて、パワーユニットの変位が規制される。また、トルクロッド10の両端部分にそれぞれブッシュが設けられていることから、パワーユニットから車両ボデーに伝達される振動が低減されて、良好な乗り心地等が実現される。
【0045】
防振装置本体12の本体ゴム弾性体18は、ゴム腕部28,28がロッド本体14の筒状部34に挿入されて接着されている。これにより、防振装置本体12と筒状部34の相対変位量が制限されており、防振装置本体12の筒状部34からの抜けや、防振装置本体12の筒状部34に対する相対回転などが防止されている。
【0046】
防振装置本体12は、ゴム腕部28,28の筒状部34への接着によって、筒状部34からの抜けを防止されているが、本実施形態では、防振装置本体12の筒状部34からの抜けが抜止部によっても防止される。
【0047】
すなわち、第一の抜止片42がゴム腕部28の突出先端部分と当接して係止されることによって、防振装置本体12の筒状部34に対する上下方向の変位量を制限して防振装置本体12の筒状部34からの抜けを防止する第一の抜止部が構成される。そして、ゴム腕部28,28を含む本体ゴム弾性体18を備えた防振装置本体12が、非接着で組み付けられたロッド本体14の筒状部34から抜けるのを、第一の抜止部によって防ぐことができる。
【0048】
第一の抜止片42は、筒状部34の軸方向両側の開口部にそれぞれ設けられていることから、防振装置本体12の筒状部34からの抜けが、筒状部34の軸方向両側において防止されている。即ち、4つの第一の抜止片42a,42a,42a,42aとゴム腕部28との当接によって、防振装置本体12の筒状部34から上側への抜けを防止する上側の第一の抜止部が構成されると共に、2つの第一の抜止片42b,42bとゴム腕部28との当接によって、防振装置本体12の筒状部34から下側への抜けを防止する下側の第一の抜止部が構成される。
【0049】
特に防振装置本体12の抜け出しが問題となり易い筒状部34の上側開口部では、各ゴム腕部28に対して2つの第一の抜止片42a,42aが設けられている。そして、上側の第一の抜止部における第一の抜止片42a,42a,42a,42aとゴム腕部28との当接面積の総和は、下側の第一の抜止部における第一の抜止片42b,42bとゴム腕部28との当接面積の総和よりも大きくされている。それゆえ、防振装置本体12の筒状部34に対する上側への抜けが、各ゴム腕部28が2つの第一の抜止片42a,42aによって変位規制されることによって、より効果的に防止される。しかも、それら2つの第一の抜止片42a,42aは、周方向で相互に離れた位置においてゴム腕部28に重ね合わされている。これにより、ゴム腕部28が周方向で相互に離れた2箇所において第一の抜止片42a,42aに当接係止されて、ゴム腕部28の筒状部34に対する変位が効果的に規制される。
【0050】
本実施形態では、インナ軸部材16と筒状部34との連結方向に延びるゴム腕部28,28の弾性主軸(
図4中の二点鎖線)Lが、インナ軸部材16側から筒状部34側である外周側へ向けて上傾している。これにより、ゴム腕部28がインナ軸部材16と筒状部34との間で圧縮される際に、ゴム腕部28の外周端部には上向きの分力が作用することから、ゴム腕部28が筒状部34から上側へ変位し易い。ここにおいて、筒状部34の上側開口部には、ゴム腕部28に対する当接面積が大きく且つゴム腕部28を周方向の二箇所において変位規制する第一の抜止片42aが設けられていることから、防振装置本体12の抜け出しが問題となり易い筒状部34の上側開口部において、防振装置本体12の筒状部34からの抜けが効果的に防止される。
【0051】
一方、筒状部34の下側開口部には、各ゴム腕部28に対して1つの第一の抜止片42bだけが設けられており、第一の抜止片42bとゴム腕部28の重ね合わせ面積が、第一の抜止片42a,42aとゴム腕部28の重ね合わせ面積の総和よりも小さくされている。これにより、防振装置本体12の抜け出しが生じ難い筒状部34の下側開口部では、第一の抜止片42bの数が少なくされることによって、有効な抜止効果を得ながら、軽量化や構造の簡単化等を図ることができる。
【0052】
筒状部34の下側開口部に設けられた第一の抜止片42bは、周方向においてゴム腕部28の中央部分に重ね合わされている。これにより、1つの第一の抜止片42bによってゴム腕部28の下方への抜けをバランスよく防ぐことができる。また、筒状部34の上側開口部に設けられた第一の抜止片42aと、筒状部34の下側開口部に設けられた第一の抜止片42bは、筒状部34の軸方向の投影において互いに重なり合うことなく配置されている。それゆえ、例えば、上側の第一の抜止片42aと下側の第一の抜止片42bとを備える筒状部34が型成形によって形成される場合に、筒状部34の軸方向で分割される簡単な金型構造を採用しても、第一の抜止片42がアンダーカットになるのを防ぐことができる。
【0053】
本実施形態では、防振装置本体12のロッド本体14への装着状態において、ゴム腕部28の外周端部が第一の抜止片42に予め当接していることから、防振装置本体12の筒状部34に対する位置ずれもゴム腕部28,28の第一の抜止片42への当接によって抑えられる。
【0054】
また、防振装置本体12は、第一,第二のストッパ突部30,32と筒状部34に設けられた第二の抜止片44との当接により構成される第二の抜止部によっても、筒状部34からの抜けが防止される。
【0055】
すなわち、第一のストッパ突部30の突出先端部の上側に設けられた第二の抜止片44aと第一のストッパ突部30とが軸方向で当接して係止されることにより、防振装置本体12の筒状部34に対する上側への相対変位量を制限する上側の第二の抜止部が構成される。また、第二のストッパ突部32の突出先端部の下側に設けられた第二の抜止片44bと第二のストッパ突部32とが軸方向で当接して係止されることにより、防振装置本体12の筒状部34に対する下側への相対変位量を制限する下側の第二の抜止部が構成される。このように、第一,第二のストッパ突部30,32と第二の抜止片44との当接係止により構成される第二の抜止部によっても、防振装置本体12の筒状部34からの抜けが防止される。
【0056】
第二の抜止片44aが第一のストッパ突部30の上側に設けられていると共に、第二の抜止片44bが第二のストッパ突部32の下側に設けられていることにより、防振装置本体12の筒状部34からの抜けが、第二の抜止部によって筒状部34の軸方向両側で防止される。また、例えば、筒状部34に対して第一のストッパ突部30が上側へ変位し且つ第二のストッパ突部32が下側へ変位するこじり方向の荷重が入力される場合に、第一,第二のストッパ突部30,32と第二の抜止片44a,44bとの当接によって、インナ軸部材16と筒状部34のこじり変位量も制限され得る。
【0057】
筒状部34の周方向における第二の抜止片44aの幅寸法が、第一のストッパ突部30の幅寸法よりも大きくされており、第一のストッパ突部30の突出先端部が幅方向の全体にわたって第二の抜止片44aと重ね合わされている。また、筒状部34の周方向における第二の抜止片44bの幅寸法が、第二のストッパ突部32の幅寸法よりも大きくされており、第二のストッパ突部32の突出先端部が幅方向の全体にわたって第二の抜止片44bと重ね合わされている。これらによって、ゴム腕部28よりも周方向の幅寸法が小さい第一,第二のストッパ突部30,32を利用した第二の抜止部において、抜止効果を有効に得ることができる。
【0058】
このように、第一,第二の抜止部によって防振装置本体12の筒状部34からの抜けが補助的に防止されることにより、軸方向の荷重入力に際して、ゴム腕部28,28と筒状部34との接着部分におけるせん断応力が低減されて、ゴム腕部28,28の筒状部34からの剥離が防止される。
【0059】
ところで、本体ゴム弾性体18のゴム腕部28,28は、内周側の端部がインナ軸部材16に加硫接着されていると共に、外周側の端部が筒状部34に接着剤で接着されていることから、振動入力時に引張応力が発生し得る。ここにおいて、ゴム腕部28,28は、筒状部34への挿入によって、インナ軸部材16と筒状部34との間で予圧縮されている。これにより、トルクロッド10では、ゴム腕部28,28に発生する引張応力が低減されて、ゴム腕部28,28の耐久性の向上が図られる。また、防振装置本体12が筒状部34に装着された状態において、ゴム腕部28,28の接着面40が筒状部34の内周面に押し当てられていることから、ゴム腕部28,28と筒状部34の接着部分が押圧状態で接触して、接着時の接着不良が防止され、必要な接着強度を得ることができる。
【0060】
また、インナ軸部材16の幅広面22と筒状部34の内周面とが第一のストッパ突部30を介して当接することによる第一のストッパ機構と、インナ軸部材16の幅狭面24と筒状部34の内周面とが第二のストッパ突部32を介して当接することによる第二のストッパ機構とによって、インナ軸部材16と筒状部34の相対変位量が制限されている。これにより、ゴム腕部28,28の弾性変形量が過度に大きくなり難く、ゴム腕部28,28に作用する引張応力が低減されることから、ゴム腕部28,28の耐久性の向上が図られる。
【0061】
本実施形態では、インナ軸部材16と筒状部34との連結方向に延びるゴム腕部28,28の弾性主軸(
図2中の二点鎖線)Lが、インナ軸部材16側から筒状部34側である外周側へ向けて第二のストッパ突部32の突出方向(
図2中の左方)へ傾斜している。これにより、インナ軸部材16が筒状部34に対して第二のストッパ突部32側へ変位する場合には、ゴム腕部28,28の圧縮ばね成分によってもインナ軸部材16と筒状部34の相対変位量が制限される。一方、インナ軸部材16が筒状部34に対して第一のストッパ突部30側へ変位する場合には、ゴム腕部28,28の圧縮ばね成分が小さく、インナ軸部材16と筒状部34の相対変位量はゴム腕部28,28のばねによっては制限され難い。そこで、第一のストッパ突部30は、幅寸法が第二のストッパ突部32よりも大きくされており、突出方向の圧縮ばね定数が第二のストッパ突部32よりも大きくされている。それゆえ、ゴム腕部28,28のばね定数が小さいことでインナ軸部材16と筒状部34の相対変位量が大きくなり易い方向において、第一のストッパ突部30による優れたストッパ作用が発揮される。なお、インナ軸部材16におけるゴム腕部28,28の固着面は、幅広面22と幅狭面24とをつなぐ傾斜固着面26,26とされていることから、インナ軸部材16が筒状部34に対して第二のストッパ突部32側へ変位する際に、ゴム腕部28,28において圧縮ばね成分による硬いばね特性を得ることができる。
【0062】
図7には、本発明に従う構造とされた防振装置の第二の実施形態として、自動車用のトルクロッド50を示す。以下の説明において、第一の実施形態と実質的に同一の部材及び部位には、図中に同一の符号を付すことにより、説明を省略する。
【0063】
トルクロッド50は、アウタ部材としてのロッド本体52において、第一の実施形態の如き第一の抜止片42と第二の抜止片44が設けられていない。従って、本実施形態において、防振装置本体12の筒状部34からの抜けは、ゴム腕部28,28と筒状部34の接着によって阻止されている。要するに、想定される軸方向の入力荷重に対する耐荷重性能がゴム腕部28,28と筒状部34の接着によって十分に得られるのであれば、第一の抜止部や第二の抜止部は省略することができる。なお、第一の抜止部と第二の抜止部の何れか一方だけを設けることもできる。また、例えば、想定される入力荷重の大きさが軸方向一方と他方で異なる場合などには、筒状部34の軸方向何れか一方の開口部にのみ第一の抜止部と第二の抜止部の少なくとも一方を設けることもできる。
【0064】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、ゴム腕部28,28と筒状部34を接着する接着剤としては、熱硬化性の樹脂接着剤が好適であるが、例えば、室温硬化性、ホットメルト型、感圧性等の接着剤であってもよい。また、接着剤が塗布後に乾燥状態とされることは必須ではなく、接着剤を乾燥状態とすることなく、ゴム腕部28を治具によって圧縮しながら防振装置本体12を筒状部34へ挿入することもできる。
【0065】
第一の抜止片42の数、配置、形状、大きさなどは、何れも限定されない。また、上側の第一の抜止片42aと下側の第一の抜止片42bは、互いに形状や大きさが異なっていてもよいし、筒状部34の軸方向投影において互いに重なる位置に設けられていてもよい。
【0066】
前記実施形態では、上側の第一の抜止片42aと下側の第一の抜止片42bが何れも筒状部34と一体形成された構造を例示したが、例えば、上側の第一の抜止片42aと下側の第一の抜止片42bとの少なくとも一方が筒状部34とは別体の部品に設けられていてもよい。具体的には、例えば、筒状部34の下面に重ね合わされて固定される円環板状の抜止部材を筒状部34とは別に形成し、当該抜止部材に第一の抜止片42bを一体的に形成することにより、抜止部材の筒状部34への固定をもって第一の抜止片42bを筒状部34に対して内周へ突出するように設けることができる。なお、第二の抜止片44を筒状部34とは別体で形成して、筒状部34に固定的に設けることもできる。
【0067】
前記実施形態では、防振装置本体12と筒状部34の周方向での相対回転が接着によって防止される例を示したが、例えば、回転制限機構を補助的に設けることもできる。即ち、筒状部34から内周へ向けて突出する回転制限突起を形成して、回転制限突起とゴム腕部28の周方向での当接係止によって防振装置本体12の筒状部34に対する周方向での回転変位量を制限する回転制限機構を設けることにより、接着による回転制限だけでは不十分な場合にも防振装置本体12の筒状部34に対する相対回転を防ぐことができる。なお、回転制限突起は、ゴム腕部28のインナ軸部材16からの突出先端部(外周端部)よりも軸方向の両外側まで延びていることが望ましく、例えば筒状部34の軸方向全長にわたって連続して設けられる。また、回転制限突起は、突出方向の少なくとも一部において、筒状部34に装着された防振装置本体12のゴム腕部28に対して、周方向で予め当接していることが望ましい。
【0068】
インナ軸部材16は、例えば、楕円筒状を含む円筒状、矩形筒状、四角形以外の多角柱状、異形筒状などであってもよく、形状を限定されるものではない。また、インナ軸部材16は、中実のロッド状であってもよく、その場合には、例えば、軸方向端部にねじなどの車両等への取付構造が設けられ得る。
【0069】
ゴム腕部28の弾性主軸Lは、必ずしも上下方向や長さ方向で傾斜していなくてもよい。ゴム腕部28は、3つ以上が設けられ得る。また、必ずしも全てのゴム腕部28と対応する部分に第一の抜止片42を設ける必要はなく、複数のゴム腕部の1つ又は幾つかと対応する部分において第一の抜止片42が設けられていなくてもよい。
【0070】
ロッド本体は、筒状部34を備えていれば、軸状部36等の具体的な構造は特に限定されない。具体的には、例えば、筒状部34の外周面から延び出す1つの軸状部を有しており、当該軸状部の筒状部34と反対側の端部には、筒状部34とは別の筒状のブッシュ圧入部が設けられていてもよい。
【0071】
本発明は、トルクロッド以外の防振装置にも適用することができる。具体的には、本発明は、例えば、サスペンションリンク、サスペンションブッシュ等の筒型防振装置などにも適用可能である。また、本発明は、内部に封入された液体の流動作用等による防振効果が発揮される流体封入式の防振装置にも適用可能である。
【符号の説明】
【0072】
10 トルクロッド(第一の実施形態 防振装置)
12 防振装置本体
14 ロッド本体(アウタ部材)
16 インナ軸部材
18 本体ゴム弾性体
20 ボルト孔
22 幅広面
24 幅狭面
26 傾斜固着面
28 ゴム腕部
30 第一のストッパ突部
32 第二のストッパ突部
34 筒状部
36 軸状部
38 装着孔
40 接着面
42 第一の抜止片
44 第二の抜止片
46 取付部
48 取付用孔
50 トルクロッド(第二の実施形態 防振装置)
52 ロッド本体(アウタ部材)