(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-26
(45)【発行日】2024-10-04
(54)【発明の名称】摺動部材用組成物とその製造方法、及び摺動部材
(51)【国際特許分類】
C08L 23/08 20060101AFI20240927BHJP
C08L 83/04 20060101ALI20240927BHJP
C08L 27/12 20060101ALI20240927BHJP
C08K 5/14 20060101ALI20240927BHJP
C08J 3/20 20060101ALI20240927BHJP
B60J 10/76 20160101ALI20240927BHJP
【FI】
C08L23/08
C08L83/04
C08L27/12
C08K5/14
C08J3/20 Z CES
C08J3/20 CEW
C08J3/20 CFH
B60J10/76
(21)【出願番号】P 2021126714
(22)【出願日】2021-08-02
【審査請求日】2023-10-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000190116
【氏名又は名称】信越ポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【氏名又は名称】伏見 俊介
(72)【発明者】
【氏名】三井 崇
(72)【発明者】
【氏名】真貝 美智子
(72)【発明者】
【氏名】池田 昌男
【審査官】仁科 努
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-095900(JP,A)
【文献】特開平09-176408(JP,A)
【文献】国際公開第2016/052029(WO,A1)
【文献】特開2002-294002(JP,A)
【文献】特開2003-155387(JP,A)
【文献】特開2008-196057(JP,A)
【文献】特開2015-189774(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 23/08
C08L 83/04
C08L 27/12
C08K 5/14
C08J 3/20
B60J 10/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
動的架橋体(A)とポリオレフィン樹脂(B)を含む樹脂成分(但し、シリコーンオイル及びフッ素樹脂を含まない。以下同じ。)と、シリコーンオイルと、フッ素樹脂を含み、
前記動的架橋体(A)は、エチレンプロピレンジエンゴム(A1)と、エチレンに基づく構成単位を60質量%以上含むポリオレフィン樹脂(A2)と、プロピレンに基づく構成単位を60質量%以上含むポリオレフィン樹脂(A3)と、架橋剤(A4)を含む原料を混練しながら架橋させたものであり、
前記樹脂成分の総質量に占める前記動的架橋体(A)の割合が50~92質量%であり、前記ポリオレフィン樹脂(B)の割合が8~50質量%であり、
前記樹脂成分100質量部に対して、前記シリコーンオイルを5~20質量部、前記フッ素樹脂を1~22質量部含む、摺動部材用組成物。
【請求項2】
前記動的架橋体(A)を得るための原料の総質量に占める、前記エチレンプロピレンジエンゴム(A1)の割合が15~40質量%であり、前記ポリオレフィン樹脂(A2)の割合が25~60質量%であり、前記ポリオレフィン樹脂(A3)の割合が15~40質量%であり、前記架橋剤(A4)の割合が1~10質量%である、請求項1に記載の摺動部材用組成物。
【請求項3】
前記フッ素樹脂の平均粒径が、50μm以下である、請求項1または2に記載の摺動部材用組成物。
【請求項4】
前記動的架橋体(A)が、ドメインを形成し、前記ポリオレフィン樹脂(B)を含むマトリックス中に分散されている、請求項1~3のいずれか一項に記載の摺動部材用組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の摺動部材用組成物の製造方法であって、
前記エチレンプロピレンジエンゴム(A1)と、前記ポリオレフィン樹脂(A2)と、前記ポリオレフィン樹脂(A3)と、前記架橋剤(A4)を含む原料を混練しながら架橋して前記動的架橋体(A)を得る動的架橋工程と、
得られた前記動的架橋体(A)と、前記動的架橋体(A)以外の前記樹脂成分と、前記シリコーンオイルと、前記フッ素樹脂とを混合する混合工程とを備える、摺動部材用組成物の製造方法。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか一項に記載の摺動部材用組成物によって形成された摺動部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摺動部材用組成物とその製造方法、及び摺動部材に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用ドアのサッシュに取り付けられるウェザーストリップは、窓ガラスの外周縁部をシールすることにより、窓ガラスをしっかりと保持し、雨、風、異物等の車内への侵入を防止すると共に、窓ガラスの開閉を円滑に行わせるために使用される自動車部品である。
ウェザーストリップは、動的架橋型熱可塑性エラストマー(Thermoplastic Vulcanizates:TPV)を含有する摺動部材用組成物で構成されることが一般的である。その摺動性を高める観点からシリコーンオイル等のシリコーン化合物をTPVに添加して使用されることがある。例えば、特許文献1には、動的架橋型のオレフィン系熱可塑性エラストマーにシリコーン化合物が高含有量で添加された摺動材料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
夏場の炎天下に曝された自動車において窓ガラスが開閉された場合、高温状態のウェザーストリップが窓ガラスによって摺動される。このような高温環境下で摺動されると、ウェザーストリップの表面の摩擦係数が上昇し、そのまま高止まりして摺動性が低下する問題がある。摺動性が低下すると、窓ガラスの開閉時に異音が発生したり、より大きな力が必要になったりする。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、高温環境下で摺動された後の摺動性の低下が低減された摺動部材と、摺動部材用組成物及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を達成するために、本発明は以下の構成を採用した。
[1]動的架橋体(A)とポリオレフィン樹脂(B)を含む樹脂成分(但し、シリコーンオイル及びフッ素樹脂を含まない。以下同じ。)と、シリコーンオイルと、フッ素樹脂を含み、
前記動的架橋体(A)は、エチレンプロピレンジエンゴム(A1)と、エチレンに基づく構成単位を60質量%以上含むポリオレフィン樹脂(A2)と、プロピレンに基づく構成単位を60質量%以上含むポリオレフィン樹脂(A3)と、架橋剤(A4)を含む原料を混練しながら架橋させたものであり、
前記樹脂成分の総質量に占める前記動的架橋体(A)の割合が50~92質量%であり、前記ポリオレフィン樹脂(B)の割合が8~50質量%であり、
前記樹脂成分100質量部に対して、前記シリコーンオイルを5~20質量部、前記フッ素樹脂を1~22質量部含む、摺動部材用組成物。
[2]前記動的架橋体(A)を得るための原料の総質量に占める、前記エチレンプロピレンジエンゴム(A1)の割合が15~40質量%であり、前記ポリオレフィン樹脂(A2)の割合が25~60質量%であり、前記ポリオレフィン樹脂(A3)の割合が15~40質量%であり、前記架橋剤(A4)の割合が1~10質量%である、[1]に記載の摺動部材用組成物。
[3]前記フッ素樹脂の平均粒径が、50μm以下である、[1]または[2]に記載の摺動部材用組成物。
[4]前記動的架橋体(A)が、ドメインを形成し、前記ポリオレフィン樹脂(B)を含むマトリックス中に分散されている、[1]~[3]のいずれか一項に記載の摺動部材用組成物。
[5][1]~[4]のいずれか一項に記載の摺動部材用組成物の製造方法であって、
前記エチレンプロピレンジエンゴム(A1)と、前記ポリオレフィン樹脂(A2)と、前記ポリオレフィン樹脂(A3)と、前記架橋剤(A4)を含む原料を混練しながら架橋して前記動的架橋体(A)を得る動的架橋工程と、
得られた前記動的架橋体(A)と、前記動的架橋体(A)以外の前記樹脂成分と、前記シリコーンオイルと、前記フッ素樹脂とを混合する混合工程とを備える、摺動部材用組成物の製造方法。
[6][1]~[4]のいずれか一項に記載の摺動部材用組成物によって形成された摺動部材。
【発明の効果】
【0006】
本発明の摺動部材にあっては、高温環境下で摺動された後の摺動性の低下が低減されている。本発明の摺動部材用組成物とその製造方法によれば、高温環境下で摺動された後の摺動性の低下が低減された摺動部材を形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の摺動部材が備えられたウェザーストリップの模式断面図である。
【
図2】実施例1の組成物で構成された成形品の電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)によるフッ素原子濃度分布図であって、(a)表面近傍における断面のフッ素原子濃度分布図、(b)表面のフッ素原子濃度分布図である。
【
図3】実施例2の組成物で構成された成形品の電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)によるフッ素原子濃度分布図であって、(a)表面近傍における断面のフッ素原子濃度分布図、(b)表面のフッ素原子濃度分布図である。
【
図4】比較例2の組成物で構成された成形品の電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)によるフッ素原子濃度分布図であって、(a)表面近傍における断面のフッ素原子濃度分布図、(b)表面のフッ素原子濃度分布図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<摺動部材用組成物>
本発明の摺動部材用組成物は、動的架橋体(A)とポリオレフィン樹脂(B)を含む樹脂成分と、シリコーンオイルと、フッ素樹脂を含む。樹脂成分は、任意に動的架橋体(A)以外の動的架橋体である動的架橋体(C)を含んでもよい。
【0009】
[動的架橋体(A)]
動的架橋体(A)は、エチレンプロピレンジエンゴム(A1)と、エチレンに基づく構成単位を60質量%以上含むポリオレフィン樹脂(A2)と、プロピレンに基づく構成単位を60質量%以上含むポリオレフィン樹脂(A3)と、架橋剤(A4)を含む原料を混練しながら架橋させたものである。
【0010】
エチレンプロピレンジエンゴム(A1)は、エチレン、プロピレン、ジエンの三元共重合体である。ジエンとしては、主として、5-エチリデン-2-ノルボルネン、ジシクロペンタジエン、1,4-ヘキサジエンが使用される。中でも、エチレンプロピレンジエンゴム(A1)の製造が容易であることから、市販されている殆どのエチレンプロピレンジエンゴム(A1)のジエン部分は5-エチリデン-2-ノルボルネンである。
【0011】
エチレンプロピレンジエンゴム(A1)の全構成単位に占めるエチレンに由来する単位の割合は、50~80質量%であることが好ましく、60~70質量%であることがより好ましい。エチレンに由来する単位の割合が好ましい範囲の下限値以上であることにより耐摩耗性が向上する。好ましい範囲の上限値以下であることにより加工性が向上する。
【0012】
エチレンプロピレンジエンゴム(A1)の全構成単位に占めるプロピレンに由来する単位の割合は、15~45質量%であることが好ましく、25~35質量%であることがより好ましい。プロピレンに由来する単位の割合が好ましい範囲の下限値以上であることにより加工性が向上する。好ましい範囲の上限値以下であることにより耐摩耗性が向上する。
【0013】
エチレンプロピレンジエンゴム(A1)の全構成単位に占めるジエンに由来する単位の割合は、1~20質量%であることが好ましく、1~11質量%であることがより好ましい。ジエンに由来する単位の割合が好ましい範囲の下限値以上であることにより靭性が向上する。好ましい範囲の上限値以下であることにより加工性が向上する。
【0014】
エチレンプロピレンジエンゴム(A1)のムーニー粘度は、40~80であることが好ましく、50~70であることがより好ましい。エチレンプロピレンジエンゴム(A1)の分子量が好ましい範囲の下限値以上であることにより、耐摩耗性が向上する。エチレンプロピレンジエンゴム(A1)の分子量が好ましい範囲の上限値以下であることにより、加工性が向上する。
なお、エチレンプロピレンジエンゴム(A1)のムーニー粘度は、125℃、余熱1分、ロータ回転開始後4分時で測定した粘度である。
【0015】
動的架橋体(A)を得るための原料の総質量に対するエチレンプロピレンジエンゴム(A1)の割合(配合量)は、15~40質量%が好ましく、18~30質量%がより好ましく、24~30質量%がさらに好ましい。ここで、前記総質量は、前記原料に含まれる樹脂と架橋剤と必要に応じて添加されるその他の添加剤の合計質量である(以下同じ。)。
エチレンプロピレンジエンゴム(A1)の配合量が好ましい範囲の下限値以上であることにより伸び率が向上する。好ましい範囲の上限値以下であることにより加工性が向上する。
エチレンプロピレンジエンゴム(A1)は、2種以上を併用してもよい。
【0016】
ポリオレフィン樹脂(A2)は、エチレンに基づく構成単位を60質量%以上含むポリオレフィン樹脂である。
ポリオレフィン樹脂(A2)の全構成単位に占めるエチレンに由来する単位の割合は、60質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、100質量%であることが特に好ましい。エチレンに由来する単位の割合が好ましい範囲の下限値以上であることにより耐摩耗性が向上する。
【0017】
ポリオレフィン樹脂(A2)を構成するエチレンに基づく構成単位以外の構成単位としは、プロピレン、α-オレフィン(1-ブテンや1-オクテン、あるいはより長鎖のものなど)に基づく構成単位が挙げられる。これらは、一種又は二種以上を含んでいてもよい。
【0018】
ポリオレフィン樹脂(A2)は、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、リニア低密度ポリエチレン(LLDPE)のいずれでもよいが、耐摩耗性摺動部材であるため、高密度ポリエチレン(HDPE)が好ましい。
【0019】
ポリオレフィン樹脂(A2)のメルトフローレイト(以下、「MFR値」という。)は、50g/10分以下であることが好ましく、30g/10分以下であることがより好ましい。ポリオレフィン樹脂(A2)のMFR値が好ましい範囲の下限値以上であることにより、耐摩耗性が向上する。ポリオレフィン樹脂(A2)のMFR値が好ましい範囲の上限値以下であることにより、加工性が向上する。
なお、ポリオレフィン樹脂(A2)のMFR値は、JIS K 7210に準拠して、カットオフ式フローテスターにおいて、190℃、10.0kg荷重下で、直径2.095mm、長さ8.000mmのオリフィスから流出する樹脂の換算質量(g/10分)である。
【0020】
動的架橋体(A)を得るための原料の総質量に対するポリオレフィン樹脂(A2)の割合(配合量)は、25~60質量%が好ましく、31~52質量%がより好ましく、31~45質量%がさらに好ましい。
ポリオレフィン樹脂(A2)の配合量が好ましい範囲の下限値以上であることにより耐摩耗性が向上する。好ましい範囲の上限値以下であることにより加工性が向上する。
ポリオレフィン樹脂(A2)は、2種以上を併用してもよい。
【0021】
ポリオレフィン樹脂(A3)は、プロピレンに基づく構成単位を60質量%以上含むポリオレフィン樹脂である。
ポリオレフィン樹脂(A3)の全構成単位に占めるプロピレンに由来する単位の割合は、60質量%以上であることが好ましく、80質量%であることがより好ましく、100質量%であることが特に好ましい。プロピレンに由来する単位の割合が好ましい範囲の下限値以上であることにより加工性が向上する。
【0022】
ポリオレフィン樹脂(A3)を構成するプロピレンに基づく構成単位以外の構成単位としは、エチレン、α-オレフィン(1-ブテンや1-オクテン、あるいはより長鎖のものなど)に基づく構成単位が挙げられる。これらは、一種又は二種以上を含んでいてもよい。
ポリオレフィン樹脂(A3)がプロピレンのホモポリマーである場合の立体規則性に特に限定はなく、アイソタクチックポリプロピレン、シンジオタクチックポリプロピレン、アタクチックポリプロピレン、またはこれらの混合物を適宜使用できる。
【0023】
ポリオレフィン樹脂(A3)のMFR値は、50g/10分以下であることが好ましく、30g/10分以下であることがより好ましい。ポリオレフィン樹脂(A3)のMFR値が好ましい範囲の下限値以上であることにより、加工性が向上する。ポリオレフィン樹脂(A3)のMFR値が好ましい範囲の上限値以下であることにより、耐摩耗性が向上する。
なお、ポリオレフィン樹脂(A3)のMFR値は、JIS K 7210に準拠して、カットオフ式フローテスターにおいて、230℃、2.16kg荷重下で、直径2.095mm、長さ8.000mmのオリフィスから流出する樹脂の換算質量(g/10分)である。
【0024】
動的架橋体(A)を得るための原料の総質量に対するポリオレフィン樹脂(A3)の割合(配合量)は、15~40質量%が好ましく、20~36質量%がより好ましく、29~36質量%がさらに好ましい。
ポリオレフィン樹脂(A3)の配合量が好ましい範囲の下限値以上であることにより加工性が向上する。好ましい範囲の上限値以下であることにより耐摩耗性が向上する。
ポリオレフィン樹脂(A3)は、2種以上を併用してもよい。
【0025】
架橋剤(A4)としては、例えば、有機過酸化物、ヒドロシリル化剤(及びヒドロシリル化触媒)、フェノール樹脂硬化剤、イオウ、含イオウ化合物、有機多価アミン、金属酸化物等が挙げられる。なかでも、有機過酸化物を用いることが好ましい。有機過酸化物は、メチル基やメチレン基等の炭化水素部分からの水素引き抜きに基づくラジカル架橋を起すことができるため、高粘度の架橋体を形成することができる。
有機化酸化物を用いて架橋体を形成する場合、ヒドロシリル基(Si-H)を含むオルガノシロキサン(ヒドロシリル化剤)を併用することが好ましい。これによって架橋効率が向上するとともに、熱処理を伴う動的架橋における「樹脂焼け」が防止される。
【0026】
有機過酸化物としては、パーオキシケタール、ジアルキルパーオキサイド、パーオキシエステル、ジアシルパーオキサイド、パーオキシジカーボネート等が好適である。
具体的には、1,1-ジ(t-ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1-ジ(t-ヘキシルパーオキシ)3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ジ(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、n-ブチル-4,4-ジ(t-ブチルパーオキシ)バレレート、ジクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジ(2-t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、t-ブチルクミルパーオキサイド、ジ-t-ヘキシルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン-3、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t-ヘキシルパーオキシベンゾエート、t-ブチルパーオキシ-3-メチルベンゾエイト、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、1,6-ビス(t-ブチルパーオキシカルボニルオキシ)ヘキサンが挙げられる。
【0027】
ヒドロシリル化剤としては、例えば、メチルハイドロジェンポリシロキサン、メチルハイドロジェンアルキルメチルポリシロキサン等の水素化ケイ素化合物が挙げられる。また、ヒドロシリル化触媒としては、例えば、ヘキサクロロ白金酸、塩化白金、酸化白金、白金錯体等の白金含有触媒が挙げられる。
【0028】
フェノール樹脂硬化剤としては、アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂、メチロール化アルキルフェノール樹脂、及び臭化アルキルフェノール樹脂などのハロゲン化フェノール樹脂が挙げられる。一般に、非ハロゲン化フェノール樹脂の場合、触媒として塩化第二スズなどのハロゲンドナー、及び酸化亜鉛などのハロゲン化水素除去剤とともに用いる。ハロゲン化フェノール樹脂の場合は、必要であれば、ハロゲン化水素除去剤とともに用いる。
【0029】
動的架橋体(A)を得るための原料の総質量に対する架橋剤(A4)の割合(配合量)は、1~10質量%が好ましく、2~6質量%がより好ましく、3~4質量%がさらに好ましい。
架橋剤(A4)の配合量によって動的架橋体(A)の架橋の程度を制御することができる。
架橋剤(A4)の配合量が好ましい範囲の下限値以上であることにより耐摩耗性が向上する。好ましい範囲の上限値以下であることにより加工性が向上する。
架橋剤(A4)は、2種以上を併用してもよい。
【0030】
動的架橋体(A)を得るための原料は、公知の添加剤を適宜含んでいてもよい。添加剤しては、架橋助剤が挙げられる。
【0031】
動的架橋体(A)の架橋の程度は、熱キシレン還流による残分比率が20~80%であることが好ましく、30~75%であることがより好ましい。残分比率が好ましい範囲の下限値以上であることにより耐摩耗性が向上する。好ましい範囲の上限値以下であることにより加工性が向上する。
残分比率は、主として、架橋体含有量や架橋度を反映している。つまり、前記残分比率が大きいほど、架橋体含有量が多く、架橋度が高いことを意味する。
残分比率は、以下の「熱キシレン還流による残分比率の測定方法」により測定できる。
【0032】
「熱キシレン還流による残分比率の測定方法」
動的架橋体(A)のサンプル約3gを秤量して正確な重量(W1)を得る。そのサンプルを円筒形ろ紙に入れ、ソックスレー抽出器にセットし、キシレンで6時間還流抽出を行う。抽出後、サンプルの入ったろ紙を取り出し、120℃のホットプレート上に5時間置いてキシレンを充分蒸発させ、放冷した後にサンプルの正確な重量(W2)を測定する。蒸発のための加熱時間は、キシレンが蒸発しサンプル重量が十分安定するような時間が確保されるように適宜調整される。例えば、加熱時間が5時間である場合、5時間加熱した時と、更に5時間(計10時間)加熱した時の「熱キシレン還流による残分比率%」の変化率が+5%~-8%の範囲であれば、5時間の加熱時間が適切であると判断される。変化率が大きい場合は、1回目に5時間加熱した時と比較して変化率が+5%~-8%の範囲になるように、加熱時間を延長する。「熱キシレン還流による残分比率」は100×W2/W1で求められる。
【0033】
動的架橋体(A)のせん断速度-溶融粘度測定により測定した200℃、せん断速度121.6sec-1における粘度は、300~3,000Pa・sであることが好ましく、800~2,500Pa・sであることがより好ましい。粘度が好ましい範囲の下限値以上であることにより加工性が向上する。好ましい範囲の上限値以下であることにより耐摩耗性が向上する。
【0034】
動的架橋体(A)は一種を使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
本発明の摺動部材用組成物において、樹脂成分の総質量に占める動的架橋体(A)の割合(配合量)は、50~92質量%であり、55~87質量%であることが好ましく、60~82質量%であることがより好ましい。
動的架橋体(A)の配合量が50質量%以上であることにより耐摩耗性が向上する。92%質量%以下であることにより加工性が向上する。
【0035】
[ポリオレフィン樹脂(B)]
ポリオレフィン樹脂(B)としては、エチレンに基づく構成単位を60質量%以上含むポリオレフィン樹脂(B1)、又はプロピレンに基づく構成単位を60質量%以上含むポリオレフィン樹脂(B2)が好ましく、ポリオレフィン樹脂(B1)とポリオレフィン樹脂(B2)とを併用することがより好ましい。
【0036】
ポリオレフィン樹脂(B1)としては、前述のポリオレフィン樹脂(A2)と同様のものが挙げられ、好ましい態様も同様ある。ポリオレフィン樹脂(B2)としては、前述のポリオレフィン樹脂(A3)と同様のものが挙げられ、好ましい態様も同様である。
ポリオレフィン樹脂(B)は一種を使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0037】
本発明の摺動部材用組成物において、樹脂成分の総質量に占めるポリオレフィン樹脂(B)の割合(配合量)は、8~50質量%であり、13~45質量%であることが好ましく、18~40質量%であることがより好ましい。
ポリオレフィン樹脂(B)の配合量が8質量%以上であることにより摺動部材用組成物の成形性が向上する。50質量%以下であることにより耐摩耗性が向上する。
【0038】
[熱可塑性エラストマー(C)]
本発明の摺動部材用組成物は、樹脂成分として動的架橋体(A)以外の熱可塑性エラストマー(C)を含んでいてもよい。
熱可塑性エラストマー(C)としては、スチレン系熱可塑性エラストマー、動的架橋型オレフィン系熱可塑性エラストマーが挙げられる。
スチレン系熱可塑性エラストマーは、ハードセグメントがポリスチレンであり、ソフトセグメントの違いにより、SBS(S:スチレン、B:ブタジエン)、SIS(I:イソプレン)と、これらを水添したSEBS(E:エチレン、B:ブチレン)、SEPS(P:プロピレン)などに大別される。中でも耐摩耗性に優位であることからSEBS(水添TPS)が好ましい。
動的架橋型オレフィン系熱可塑性エラストマーは、成形性、表面摺動性に優位であることから、EPDM架橋粒子がオレフィン系樹脂に分散している構造が好ましい。
熱可塑性エラストマー(C)は一種を使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0039】
本発明の摺動部材用組成物において、樹脂成分の総質量に占める熱可塑性エラストマー(C)の割合(配合量)は、0~10質量%であることが好ましく、2~8質量%であることがより好ましい。
熱可塑性エラストマー(C)の配合量が2質量%以上であることにより伸び率の向上が期待できる。10質量%以下であることにより摺動性が向上する。
【0040】
[その他の樹脂成分]
本発明の摺動部材用組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、樹脂成分として動的架橋体(A)、ポリオレフィン樹脂(B)、及び熱可塑性エラストマー(C)以外のその他の樹脂成分を含んでいてもよい。
【0041】
[シリコーンオイル]
シリコーンオイルとしては、ストレートシリコーンオイルと、側鎖、末端に有機が導入されている変性シリコーンオイルが挙げられる。
ストレートシリコーンオイルとしては、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイルが挙げられる。
【0042】
変性シリコーンオイルは、置換される有機基の結合位置によって側鎖型、両末端型、片末端型、側鎖両末端型に分類される。
変性シリコーンオイルは、また、導入する有機基の性質によって反応性シリコーンオイルと非反応性シリコーンにも分類される。
【0043】
反応性シリコーンオイルとしては、アミノ変性、エポキシ変性、カルボキシ変性、カルビノール変性、メタクリル変性、メルカプト変性、フェノール変性、異種官能基変性等の各種変性タイプの反応性シリコーンオイルが挙げられる。
非反応性シリコーンオイルとしては、ポリエーテル変性、メチルスチリル変性、アルキル変性、高級脂肪酸エステル変性、親水性特殊変性、高級脂肪酸含有、フッ素変性等の各種変性タイプの反応性シリコーンオイルが挙げられる。
【0044】
本発明の摺動部材用組成物において使用するシリコーンオイルとしては、化学的安定性が優位であることから、ストレートシリコーンオイルが好ましくジメチルシリコーンオイルがより好ましい。
シリコーンオイルは一種を使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0045】
本発明の摺動部材用組成物において使用するシリコーンオイルの動的粘度は、10~106mPa・sであることが好ましく、102~105mPa・sであることがより好ましい。シリコーンオイルの動的粘度が好ましい範囲の下限値以上であることにより、長期摺動性が向上する。シリコーンオイルの動的粘度が好ましい範囲の上限値以下であることにより、初期摩擦係数が低下する。
なお、本明細書における動的粘度は、25℃におけるB型粘度計で測定した粘度である。
【0046】
本発明の摺動部材用組成物において使用するシリコーンオイルの分子量は、1000~15000であることが好ましく、6,000~100,000であることがより好ましい。シリコーンオイルの分子量が好ましい範囲内であることにより、シリコーンオイルの動的粘度を上記好ましい範囲としやすい。
なお、シリコーンオイルの分子量は、ポリスチレン標準ポリマーを基準とし、ゲル浸透クロマトグラフィーで測定した分子量である。
【0047】
本発明の摺動部材用組成物は、樹脂成分100質量部に対して、シリコーンオイルを5~20質量部含む。本発明の摺動部材用組成物は、樹脂成分100質量部に対して、シリコーンオイルを6~16質量部含むことが好ましく、7~13質量部含むことがより好ましい。
シリコーンオイルを樹脂成分100質量部に対して5質量部以上含むことにより、長期摺動性が改善される。シリコーンオイルの含有量が20質量%以下であることによりシリコーンオイルのブリードアウトを抑制しやすい。
【0048】
[フッ素樹脂]
フッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン、パーフルオロアルコキシアルカン、パーフルオロエチレンプロペンコポリマー、エチレン-テトラフルオロエチレンコポリマー、ポリビニリデンフルオライド、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリビニルフルオライド等のホモポリマー、コポリマーが挙げられる。中でも、自己潤滑性を有する樹脂であることから、ポリテトラフルオロエチレンが好ましい。
フッ素樹脂は、2種以上を併用してもよい。
【0049】
フッ素樹脂は、平均粒径が、50μm以下であることが好ましく、3~25μmであることがより好ましい。
フッ素樹脂は、平均粒径が好ましい範囲の下限値以上であることにより、初期摺動抵抗が低下しやすい。平均粒径が好ましい範囲の上限値以下であることにより、長期の摺動性を確保しやすい。
なお、フッ素樹脂の平均粒径は、レーザー回折・散乱法による体積基準のメジアン径(D50)である。
【0050】
本発明の摺動部材用組成物は、樹脂成分100質量部に対して、フッ素樹脂を1~22質量部含む。本発明の摺動部材用組成物は、樹脂成分100質量部に対して、フッ素樹脂を3~22質量部含むことが好ましく、3~19質量部含むことがより好ましい。
フッ素樹脂を樹脂成分100質量部に対して3質量以上部含むことにより、摺動抵抗係数の上昇を抑えられ、長期摺動性(耐久性)の改善効果が得られ、加熱摺動試験後の摩擦係数が低く抑えられる。フッ素樹脂の含有量を22質量%以下であることにより加工性が向上する。
【0051】
[添加剤]
本発明の摺動部材用組成物は、その他の添加剤を適宜含んでいてもよい。その他の添加剤としては、例えば、顔料、シリカ、カーボンブラック等の補強剤、酸化防止剤、耐候性向上剤、熱可塑性樹脂、エラストマー、防徽剤、抗菌剤、難燃剤、パラフィン系等の軟化剤、滑剤等が挙げられる。
その他の添加剤の配合量は、摺動性に対する影響を勘案しながら、樹脂成分100質量部に対して例えば0.1~10質量部で配合することができる。
【0052】
[摺動部材用組成物の構造]
摺動部材用組成物においては、動的架橋体(A)がドメインを形成し、ポリオレフィン樹脂(B)を含むマトリックス中に分散された構造となっている。
【0053】
動的架橋体(A)とマトリックスとの間には両者の物性の違いから微小な間隙が生じる。
摺動部材用組成物中のシリコーンオイルは、この動的架橋体(A)とマトリックスとの間隙に充填されるので、ブリードアウトが抑制されると考えられる。また、摺動部材用組成物の表面に分散して露出したシリコーンオイルは、摺動部材用組成物の摺動性を向上させると考えられる。
【0054】
一方、固体状のフッ素樹脂は、前記間隙ではなくマトリックス全体に分散する。フッ素樹脂は、凝集力が小さいため、マトリックス中で良好な分散状態を保つことができるので、部分的な凝集が抑制されると考えられる。また、摺動部材用組成物の表面に分散して露出したフッ素樹脂は、摺動部材用組成物の摺動性を向上させると考えられる。
【0055】
摺動部材用組成物が押出機から押し出されたものである場合、その押出方向と平行な断面におけるドメインの平均粒径は、0.5~50μmであることが好ましく、1~30がより好ましい。
ドメインの平均粒径が好ましい範囲の下限値以上であることによりシリコーンオイルのブリードアウトが抑制しやすい。好ましい範囲の上限値以下であることにより機械的物性が向上しやすい。
【0056】
なお、ドメインの平均粒径は、その断面の0.5×0.5mmの範囲における電子顕微鏡写真を撮影し、画像処理により各ドメインの粒径を算出し全体の平均を計算すればよい。ここで、ドメインの粒径は、観測したドメインの面積から真円に換算して求めた直径とする。
【0057】
[摺動部材用組成物の物性]
本発明の摺動部材用組成物のMFR値は、2~41g/10分が好ましく、7~36g/10分がより好ましく、12~31g/10分がさらに好ましい。MFR値が好ましい範囲の下限値以上であれば、メルトフラクチャーを抑制しやすい。MFR値が好ましい範囲の上限値以下であれば、加工性が向上する。
なお、摺動部材用組成物のMFR値は、JIS K 7210に準拠して、カットオフ式フローテスターにおいて、230℃、5.00kg荷重下で、直径2.095mm、長さ8.000mmのオリフィスから流出する樹脂の換算質量(g/10分)である。
【0058】
本発明の摺動部材用組成物の硬度(ShoreD)は、35~60が好ましく、40~57がより好ましく、45~55がさらに好ましい。硬度が好ましい範囲の下限値以上であれば、摺動性が向上しやすい。硬度が好ましい範囲の上限値以下であれば、成形品の取り扱い性が向上する。
なお、本明細書における硬度は、JIS K 6253に準拠して測定したデュロメータ硬さである。
【0059】
本発明の摺動部材用組成物の破断強度は、3MPa以上が好ましく、5MPa以上がより好ましく、10MPa以上がさらに好ましい。破断強度が好ましい範囲の下限値以上であれば、成形品の取り扱い性が向上する。
なお、本明細書における破断強度は、JIS K 6251に準拠して測定した引張特性値である。
【0060】
本発明の摺動部材用組成物の破断時伸び率は、10%以上が好ましく、15%以上がより好ましく、20%以上がさらに好ましい。破断時伸び率が好ましい範囲の下限値以上であれば、成形品の取り扱い性が向上する。
なお、本明細書における破断時伸び率、JIS K 6251に準拠して測定した引張特性値である。
【0061】
本発明の摺動部材用組成物によれば、動摩擦係数、静摩擦係数が共に低く、加熱後も動摩擦係数、静摩擦係数が上昇しにくく、かつ長期に摺動性が持続する摺動部材を得られる。
【0062】
<摺動部材用組成物の製造方法>
本発明の摺動部材用組成物の製造方法は、動的架橋工程と混合工程とを備える。
【0063】
[動的架橋工程]
動的架橋工程は、エチレンプロピレンジエンゴム(A1)と、ポリオレフィン樹脂(A2)と、ポリオレフィン樹脂(A3)と、架橋剤(A4)を含む原料を混練しながら架橋して動的架橋体(A)を得る工程である。
【0064】
動的架橋工程の具体的な方法は、混錬しながら前記原料中のエチレンプロピレンジエンゴム(A1)と、ポリオレフィン樹脂(A2)と、ポリオレフィン樹脂(A3)とを架橋させられる方法であれば特に制限されず、公知のTPVを作製する動的架橋の方法を採用することができる。例えば、前記原料を二軸押出機で混錬しながら、必要に応じて加熱して、動的架橋させることができる。動的架橋により形成された架橋型TPVは、例えばペレットの形態で得ることができる。
【0065】
[混合工程]
混合工程は、動的架橋体(A)と、動的架橋体(A)以外の樹脂成分(少なくともポリオレフィン樹脂(B)を含む)と、シリコーンオイルと、フッ素樹脂と、必要に応じて添加するその他の添加剤を混合する工程である。
【0066】
混合する方法は特に制限されず、樹脂組成物を混練する一般的な方法を採用できる。例えば、2軸押出機、1軸押出機、ニーダー、バンバリーミキサー等の混練機を使用する混合方法が挙げられる。混合により形成された摺動部材用組成物は、例えばペレットの形態で得ることができる。
【0067】
<摺動部材>
本発明の摺動部材は、本発明の摺動部材用組成物によって形成された摺動部材である。
摺動部材を適用した一例として、
図1に示すウェザーストリップ10が挙げられる。ウェザーストリップ10は、ウェザーストリップ本体部20と、上述した摺動部材用組成物からなる摺動部材30とから構成される。ウェザーストリップ本体部20は、基底部20aと両側の側壁部20bと、両側壁部20bの先端から内部に延びるリップ部20cからなり、摺動部材30は、窓ガラス18と摺接するリップ部20cの摺接部及び窓ガラス18の外周縁端面と摺接する基底部20aの表面を被覆するように形成されている。
ウェザーストリップ10にあっては、本発明の摺動部材用組成物からなる摺動部材を使用しているため、シリコーン化合物のブリードが低減されており、高温環境下で摺動された後の摺動性の低下が低減されている。このため、水に濡れた状態においても安定した低摺動抵抗を維持し、異音の発生も抑制されている。
【実施例】
【0068】
以下、本発明について実施例を示して具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の記載に限定されるものではない。
【0069】
<原料>
各実施例、比較例で使用した原材料の詳細は次の通りである。
「EPDM」:三井化学社製、エチレン-プロピレン-ジエンゴム、商品名:三井EPT(グレード:3092PM)
「PE」:プライムポリマー社製、ポリエチレンホモポリマー、商品名:ハイゼックス(グレード:2200J)
「PP」:日本ポリプロ社製、ポリプロピレンホモポリマー、商品名:ノバテックPP(グレード:MA3H)
「架橋剤」:日油社製、有機過酸化物(架橋剤)、商品名:パーヘキサ(グレード:25B)
「TPE」:JSR社製、動的架橋型オレフィン系熱可塑性エラストマー、商品名:エクセリンク(グレード:1300B)
「シリコーンオイル」:信越化学社製、シリコーンオイル、動的粘度10,000mPa・s、分子量60,000(グレード:KF96)
「PTFE(1)」:喜多村社製、四フッ化エチレン樹脂、商品名:KTL(グレード:450)、平均粒径22μm
「PTFE(2)」:喜多村社製、四フッ化エチレン樹脂、商品名:KTL(グレード:620)、平均粒径11μm
「PTFE(3)」:喜多村社製、四フッ化エチレン樹脂、商品名:KTL(グレード:8FH、平均粒径3.5μm
【0070】
<摺動部材用組成物の作製>
表1~4の「材料1」の内、EPDM、PE、PPを、各表に記載の量(質量部)でバンバリーミキサーを用いて混練し、ルーダーを通してペレットを作製した。続いて上記ペレットと各表の「材料1」に記載の量(質量部)の架橋剤を二軸押出機に投入し、混練しながら架橋させる動的架橋を行い、動的架橋体(A)のペレットを得た。
上記動的架橋体(A)のペレットと、各表の「材料2」に記載の量(質量部)のPE、PP、TPE及び「材料3」に記載の量(質量部)のPTFEを二軸押出機に投入して混練しながら、二軸押出機の中間部から定量ポンプを使って、各表の「材料3」に記載の量(質量部)のシリコーンオイルを注入して混練し、各例の摺動部材用組成物のペレットを作製した。
なお、表中の空欄は、その材料を添加していないことを示す。
【0071】
実施例1、実施例2、比較例2の摺動部材用組成物のペレットのフッ素原子濃度分布図を
図2~4に示す。
図2~4において、(a)はペレットの中間部分をミクロトームにより押出垂直方向に切断した断面において、表面近傍を電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)で撮影したものである。
(b)はペレットの表面を電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)で撮影したものである。
【0072】
図2~4において、白く見える部分(例えば符号Fを付した部分)がフッ素原子が検出された部分である。
図2、3に示すように、実施例1と実施例2とでは、フッ素原子が全体に満遍なく分散していた。なお、フッ素樹脂を添加していない比較例2では、フッ素原子は観察されなかった。
【0073】
<摺動部材用組成物の物性>
各例の摺動部材用組成物について、MFR(単位:g/10分)、硬度、破断強度(単位:MPa)、破断時伸び率(単位:%)、をそれぞれ測定した。その結果を1~4に示す。
【0074】
<二層成形品の作製>
平板状の二層成形ダイスに2台の押出機を接続し、一方からベース用材料となる市販のオレフィン系TPV(三井化学社製ミラストマー)を、もう一方から各例の摺動部材用組成物を吐出させて、ベースとその上に積層された摺動部材層からなる二層成形品を得た。
二層成形品のベース層の厚みは約2mm、摺動部材層の厚みは170±70μmとした。
【0075】
<摺動試験>
二層成形品を試料として、摺動部材層をコートした部分が可橈するように、治具で固定した。これを摺動試験機に固定し、試料に17Nの荷重を掛けて、モータを駆動させながらガラス板(長さ50mm)を水平運動させて(平均150mm/秒)、二層成形品の摺動部材層をガラス板で5,000回摺動した後、その静摩擦係数と動摩擦係数を新東科学社製HEIDON摩擦摩耗試験機にて測定した。
25℃の常温環境下で測定した結果(加熱摺動前)と、80℃の加熱環境下で60分静置し、試料が80℃に達してから摺動し、その後に25℃に冷ましてから測定した結果(加熱摺動後)を表1~4に示す。
【0076】
また、摺動試験機にて、前記二層成形品の摺動部材層とガラス板との摺動を行う際に、ロードセルを用いて摺動抵抗値を測定した。開始直後(初期値)、2,500回、5,000回、10,000回摺動した時の測定値を摺動抵抗係数として、摺動回数によって摺動抵抗がどの程度変化するかを測定した。結果を表1~4に示す。
【0077】
【0078】
【0079】
【0080】
【0081】
以上の通り、本発明に係る摺動部材用組成物は、高温環境下で摺動する前の摺動性が優れるだけでなく、高温環境下で摺動した後にも摺動性の劣化が低減されている。また、長期摺動性にも優れていた。
一方、フッ素樹脂を配合しなかった比較例1、2の摺動部材用組成物は、高温環境下で摺動する前においては、動摩擦係数が大きく、高温環境下で摺動した後の摺動性の劣化が著しい。また、摺動性の長期持続性が得られなかった。また、フッ素樹脂を過剰に配合した比較例3では、ペレット化ができなかった。
【符号の説明】
【0082】
10…ウェザーストリップ、20…ウェザーストリップ本体部、30…摺動部材
18…窓ガラス