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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-26
(45)【発行日】2024-10-04
(54)【発明の名称】ステータ、及び、回転電機
(51)【国際特許分類】
   H02K 3/34 20060101AFI20240927BHJP
   H02K 3/12 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
H02K3/34 C
H02K3/12
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021157638
(22)【出願日】2021-09-28
(65)【公開番号】P2023048366
(43)【公開日】2023-04-07
【審査請求日】2023-11-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100154852
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 太一
(74)【代理人】
【識別番号】100194087
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 伸一
(72)【発明者】
【氏名】白砂 貴盛
(72)【発明者】
【氏名】江西 達矢
【審査官】三澤 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-103712(JP,A)
【文献】国際公開第2017/179115(WO,A1)
【文献】特開2018-093594(JP,A)
【文献】実開昭52-138216(JP,U)
【文献】特開2002-101590(JP,A)
【文献】特開2020-025428(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0052539(US,A1)
【文献】特開2009-089584(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0036253(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 3/34
H02K 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円環状のコア本体部から略矩形断面の複数のティース部が径方向内側に突出して成るステータコアと、
各前記ティース部の突出方向周りの側面のうちの、コア軸方向を向く二つの軸端部面を夫々覆う一対のインシュレータと、
各前記ティース部に一対の前記インシュレータを介して巻回されるコイル導線と、を備え、
各前記インシュレータは、前記コイル導線が巻回される前の状態において、前記ティース部の前記軸端部面のコア周方向の端部に対し、コア軸方向に隙間を持たせた状態で先端部が当該端部よりもコア周方向外側に延びる延出部を備え
前記延出部は、前記軸端部面とコア周方向でラップする領域に、当該軸端部面とのコア軸方向の隙間が前記先端部での前記隙間よりも大きい基部領域を備えていることを特徴とするステータ。
【請求項2】
前記インシュレータは、コア周方向の中央領域で前記軸端部面に当接する脚部を備えていることを特徴とする請求項に記載のステータ。
【請求項3】
前記インシュレータは、
前記ティース部の前記軸端部面を覆うティース覆い部と、
前記ティース覆い部のコア径方向の外側に設けられて前記コイル導線の巻回位置を規制する外フランジと、を備え、
前記外フランジには、前記コア本体部の内周面に設けられた係止部に嵌合される位置決め突起が突設されていることを特徴とする請求項1または2に記載のステータ。
【請求項4】
前記延出部には、コア径方向に沿って延びる撓み許容溝が設けられていることを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載のステータ。
【請求項5】
前記インシュレータは、
前記ティース部の前記軸端部面を覆うティース覆い部と、
前記ティース覆い部のコア径方向外側に設けられて前記コイル導線の巻回位置を規制する外フランジと、
前記ティース覆い部のコア径方向内側に設けられて前記コイル導線の巻回位置を規制する内フランジと、を備え、
前記延出部と前記外フランジの間、及び、前記延出部と前記内フランジの間には、コア周方向に沿って延びるスリットが設けられていることを特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載のステータ。
【請求項6】
ステータと、
前記ステータの径方向内側に回転可能に配置されるロータと、を備えた回転電機であって、
前記ステータは、
円環状のコア本体部から略矩形断面の複数のティース部が径方向内側に突出して成るステータコアと、
各前記ティース部の突出方向周りの側面のうちの、コア軸方向を向く二つの軸端部面を夫々覆う一対のインシュレータと、
各前記ティース部に一対の前記インシュレータを介して巻回されるコイル導線と、を備え、
各前記インシュレータは、前記コイル導線が巻回される前の状態において、前記ティース部の前記軸端部面のコア周方向の端部に対し、コア軸方向に隙間を持たせた状態で先端部が当該端部よりもコア周方向外側に延びる延出部を備え
前記延出部は、前記軸端部面とコア周方向でラップする領域に、当該軸端部面とのコア軸方向の隙間が前記先端部での前記隙間よりも大きい基部領域を備えていることを特徴とする回転電機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステータ、及び、回転電機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
回転電機として、円環状のステータの内周側にロータが回転可能に配置されたものがある。ステータは、例えば、円環状のコア本体部から略矩形断面の複数のティース部が径方向内側に突出し、各ティース部に樹脂製のインシュレータを介してコイル導線が巻回されている。インシュレータは、通常、ティース部の突出方向の周域全体を覆うようにティース部に被着される。
【0003】
しかし、ティース部の突出方向の周域全体がインシュレータによって覆われると、コイル導線からティース部(ステータコア)への伝熱効率が低下し易く、また、コイル導線の占積率の面においても不利となり易い。
【0004】
この対策として、ティース部の突出方向周りの側面のうちの、一部の側面にのみインシュレータを被着するようにしたステータの構造が案出されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
特許文献1に記載のステータは、ティース部の突出方向周りの側面のうちの、コア軸方向(ステータコアの軸方向に沿う方向)を向く二つの軸端部面に、これらの側面を覆うように夫々キャップ状のインシュレータが取り付けられている。本構成を採用した場合、各ティース部の突出方向周りの残余の二つの側面がインシュレータによって被覆されないため、コイル導線からティース部(ステータコア)への伝熱効率が改善され、コイル導線の占積率も高まる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第6479179号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に記載のステータは、各インシュレータのティース覆い部のコア周方向(ステータコアの周方向に沿う方向)の幅が、ティース部の軸端部面のコア周方向の幅と同幅に設定され、ティース覆い部のコア周方向の外側の端部が、ティース部の軸端部面の角部に接するようになっている。このため、インシュレータの外側にコイル導線が巻回されるときに、インシュレータに変形や位置ずれ等が生じると、コイル導線がティース部の角部に直接当たり、コイル導線の劣化を招くことが懸念される。
【0008】
また、ティース覆い部(インシュレータ)のコア周方向の幅を、ティース部の軸端部面のコア周方向の幅よりも大きく設定すれば、コイル導線の巻回時に、コイル導線がティース部の角部に直接当たるのを防止することができる。しかし、この場合、ティース覆い部(インシュレータ)のコア周方向の端部がティース部の軸端部面の角部よりも外側に突出することになる。このため、コイル導線をティース部に巻回するときに、ティース部の側面(軸端部面に隣接する側面)の角部の近傍にコイル導線が浮き上がる空隙部ができ易い。この空隙部は、コイル導線からティース部(ステータコア)への伝熱効率の低下や、コイル導線の占積率の低下の原因となり易い。
【0009】
そこで本発明は、コイル導線とティース部の側面の間の空隙部の増大を招くことなく、ティース部の角部に対するコイル導線の当接を抑制することができるステータ、及び、回転電機を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るステータ、及び、回転電機は、上記課題を解決するために、以下の構成を採用した。
即ち、本発明に係るステータは、円環状のコア本体部(例えば、実施形態のコア本体部12)から略矩形断面の複数のティース部(例えば、実施形態のティース部13)が径方向内側に突出して成るステータコア(例えば、実施形態のステータコア14)と、各前記ティース部の突出方向周りの側面のうちの、コア軸方向(例えば、実施形態のコア軸方向Ax)を向く二つの軸端部面(例えば、実施形態の軸端部面19)を夫々覆う一対のインシュレータ(例えば、実施形態のインシュレータ15A,15B)と、各前記ティース部に一対の前記インシュレータを介して巻回されるコイル導線(例えば、実施形態のコイル導線16)と、を備え、各前記インシュレータは、前記コイル導線が巻回される前の状態において、前記ティース部の前記軸端部面のコア周方向(例えば、実施形態のコア周方向C)の端部(例えば、実施形態の端部25)に対し、コア軸方向に隙間(例えば、実施形態の隙間d1)を持たせた状態で先端部(例えば、実施形態の先端部30b)が当該端部よりもコア周方向外側に延びる延出部(例えば、実施形態の延出部30)を備え、前記延出部は、前記軸端部面とコア周方向でラップする領域に、当該軸端部面とのコア軸方向の隙間(例えば、実施形態の隙間d2)が前記先端部での前記隙間よりも大きい基部領域(例えば、実施形態の基部領域30a)を備えていることを特徴とする。
【0011】
上記の構成により、コイル導線がインシュレータとティース部に巻回される前の状態では、各インシュレータの延出部の先端部は、ティース部の軸端部面よりもコア周方向の外側に延出し、かつ、軸端部面との間にコア軸方向の隙間を形成している。この状態からインシュレータの外側にコイル導線が巻回されると、コイル導線による締め込みにより、インシュレータの延出部がティース部の軸端部面の端部(角部)に近接するように撓み変形する。これにより、インシュレータの延出部の先端部が軸端部面の端部(角部)に当接若しくは近接するようになり、その結果、軸端部面のコア周方向の端部(角部)に対するコイル導線の当接が規制される。一方、インシュレータの延出部の先端部は、軸端部面の端部の角部に当接若しくは近接するため、巻回されたコイル導線とティース部の側面との間には、空隙部が生じにくくなる。
【0013】
この場合、コイル導線の巻回時にコイル導線の締め込みによる荷重が延出部に作用すると、延出部の基部領域から先端部にかけてが大きく撓み変形するようになる。この結果、延出部の先端部が、ティース部の軸端部面の角部に確実に当接若しくは近接するようになる。
【0014】
前記インシュレータは、コア周方向の中央領域で前記軸端部面に当接する脚部(例えば、実施形態の脚部29)を備えるようにしても良い。
【0015】
この場合、インシュレータのコア周方向の中央領域の脚部がティース部の軸端部面に当接することにより、コイル導線の巻回時に、当該脚部を中心として延出部の先端部がティース部の軸端部面の角部に向かってより確実に撓み変形するようになる。
【0016】
前記インシュレータは、前記ティース部の前記軸端部面を覆うティース覆い部(例えば、実施形態のティース覆い部39)と、前記ティース覆い部のコア径方向(例えば、実施形態のコア径方向R)の外側に設けられて前記コイル導線の巻回位置を規制する外フランジ(例えば、実施形態の外フランジ40fo)と、を備え、前記外フランジには、前記コア本体部の内周面に設けられた係止部(例えば、実施形態の係止溝42)に嵌合される位置決め突起(例えば、実施形態の突起41)が突設されるようにしても良い。
【0017】
この場合、外フランジ部に設けられた位置決め突起がコア本体部の内周面の係止部に嵌合されることにより、各ティース部に対するティース覆い部の位置ずれが抑制される。また、位置決め突起が嵌合される係止部は、コイル導線が巻回されないコア本体部の内周面に設けられているため、係止部を形成したことによってコイル導線の占積率に悪影響を及ぼすことがない。
【0018】
前記延出部には、コア径方向に沿って延びる撓み許容溝(例えば、実施形態の撓み許容溝35)が設けられるようにしても良い。
【0019】
この場合、コイル導線の巻回に伴う延出部の撓み変形が、コア径方向に沿って延びる撓み許容溝によってより容易になる。
【0020】
前記インシュレータは、前記ティース部の前記軸端部面を覆うティース覆い部(例えば、実施形態のティース覆い部39)と、前記ティース覆い部のコア径方向外側に設けられて前記コイル導線の巻回位置を規制する外フランジ(例えば、実施形態の外フランジ40fo)と、前記ティース覆い部のコア径方向内側に設けられて前記コイル導線の巻回位置を規制する内フランジ(例えば、実施形態の内フランジ40fi)と、を備え、前記延出部と前記外フランジの間、及び、前記延出部と前記内フランジの間には、コア周方向に沿って延びるスリット(例えば、実施形態のスリット38)が設けられるようにしても良い。
【0021】
この場合、延出部と外フランジの間と、延出部と内フランジの間に夫々スリットが設けられているため、コイル導線の巻回時における延出部の撓み変形が外フランジや内フランジによって阻害されにくくなる。したがって、コイル導線の巻回時には、延出部の先端部がティース部の軸端部面の角部に確実に当接若しくは近接するようになる。
【0022】
また、本発明に係る回転電機は、ステータと、前記ステータの径方向内側に回転可能に配置されるロータと、を備えた回転電機であって、前記ステータは、円環状のコア本体部から略矩形断面の複数のティース部が径方向内側に突出して成るステータコアと、各前記ティース部の突出方向周りの側面のうちの、コア軸方向を向く二つの軸端部面を夫々覆う一対のインシュレータと、各前記ティース部に一対の前記インシュレータを介して巻回されるコイル導線と、を備え、各前記インシュレータは、前記コイル導線が巻回される前の状態において、前記ティース部の前記軸端部面のコア周方向の端部に対し、コア軸方向に隙間を持たせた状態で先端部が当該端部よりもコア周方向外側に延びる延出部を備え、前記延出部は、前記軸端部面とコア周方向でラップする領域に、当該軸端部面とのコア軸方向の隙間が前記先端部での前記隙間よりも大きい基部領域を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係るステータ、及び、回転電機は、コイル導線がインシュレータとティース部に巻回される前の状態において、各インシュレータの延出部の先端部が、ティース部の軸端部面よりもコア周方向の外側に延出し、かつ、軸端部面との間にコア軸方向の隙間を形成する。このため、コイル導線の巻回時には、インシュレータの延出部の先端部がティース部の軸端部面の角部に近接するように撓み変形することにより、軸端部面の角部に対するコイル導線の当接が抑制され、コイル導線とティース部の側面との間にも空隙部が生じにくくなる。
したがって、本発明に係るステータや回転電機を採用した場合には、コイル導線とティース部の側面の間の空隙部の増大を招くことなく、ティース部の角部に対するコイル導線の当接を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】実施形態の回転電機の一部を仮想線で示した断面図。
図2】実施形態のステータの巻線ブロックの斜視図。
図3】実施形態の巻線ブロックのコイル導線を除いた分解斜視図。
図4】実施形態のインシュレータの斜視図。
図5図2のV-V線に沿う断面図。
図6】コイル導線を巻回する前の図7と同様の断面図。
図7図2のVII-VII線に沿う断面図。
図8】他の実施形態のステータの図6と同様の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態の回転電機1の一部を仮想線で示した断面図である。回転電機1は、略円筒状(略円環状)のステータ10と、ステータ10の内周側に同心に配置されたロータ11と、を備えている。ステータ10は、図示しないケーシングに固定され、ロータ11は図示しない軸受を介してケーシングに回転可能に支持されている。したがって、ロータ11は、ステータ10に対して回転可能とされている。
なお、図1は、ステータ10及びロータ11を、これらの軸方向と直交する方向で切断した断面を示している。
【0026】
ステータ10は、円筒状(円環状)のコア本体部12から複数のティース部13が径方向内側に向かって突出するステータコア14と、各ティース部13の一部を覆うようにステータコア14に装着されたインシュレータ15A,15Bと、一部が各インシュレータ15A,15Bの外側を覆うように各ティース部13に巻回されたコイル導線16と、を備えている。インシュレータ15A,15Bは、絶縁性の樹脂材料によって構成されている。コイル導線16は、集中巻き方式により各ティース部13の突出方向の周域に巻回されている。
以下の説明では、ステータコア14の中心軸線(ロータ11の回転軸線)に沿う方向を「コア軸方向」と称し、ステータコア14の円周方向に沿う方向を「コア周方向」、ステータコア14の径方向に沿う方向を「コア径方向」と夫々称する。なお、図面の適所には、コア軸方向を指すAxと、コア周方向を指す矢印Cと、コア径方向を指す矢印Rが記されている。
【0027】
本実施形態のステータコア14は、周方向に分割可能な分割コア方式が採用されている。即ち、ステータコア14は、ティース部13毎に周方向に分割された分割コア14aを環状に連結して構成されている。各分割コア14aは、例えば、複数の電磁鋼板が積層されて構成されている。各分割コア14aの基本構成はほぼ同様とされている。
【0028】
図2は、分割コア14aにインシュレータ15A,15Bを介してコイル導線16を巻回した巻線ブロック17の斜視図である。図3は、巻線ブロック17のコイル導線16を除いた分解斜視図である。
分割コア14aは、コア周方向Cに沿って円弧状の延びるバックヨーク部18と、バックヨーク部18のコア周方向Cの中央からコア径方向Rの内側に向かって突出するティース部13と、を備えている。バックヨーク部18は、分割コア14aを環状に連結したときにステータコア14の環状のコア本体部12を形成する箇所である。バックヨーク部18は、コア軸方向Axと直交する断面形状が略円弧状に形成されている。隣接する分割コア14a同士は、バックヨーク部18のコア周方向Cの端面同士を突合せ、凹凸嵌合によって相互に連結される。
【0029】
ティース部13は、コア径方向Rと直交する断面が略矩形状に形成され、その略矩形状の断面がコア径方向Rに沿って延びている。ティース部13のより詳細な断面形状は、コア軸方向Axに沿う辺が長辺、コア軸方向Axと直交する辺が短辺となる長方形状の断面形状とされている。以下、ティース部13の突出方向周りの四つの側面のうちの、断面の短辺に相当する二つの側面を「軸端部面19」と称し、断面の長辺に相当する側面を単に「側面20」と称する。軸端部面19は、ティース部13のコア軸方向Axの両側の端部に配置され、側面20は、ティース部13のコア周方向Cの両側の端部に配置されている
また、ティース部13のコア径方向Rの内側の端部には、コア周方向Cの両側に突出する鍔部21が延設されている。
【0030】
図4は、インシュレータ15Aの斜視図であり、図5は、巻線ブロック17の図2のV-V線に沿う断面図である。また、図7は、巻線ブロック17の図2のVII-VII線に沿う断面図である。図6は、コイル導線16を巻回する前の巻線ブロック17の図7と同様の断面図である。
インシュレータ15A,15Bは、ティース部13の軸端部面19を覆うティース覆い部39と、ティース覆い部39のコア径方向Rの外側に一体に設けられてコイル導線16の径方向外側の巻回位置を規制する外フランジ40foと、ティース覆い部39のコア径方向Rの内側に一体に設けられてコイル導線16の径方向内側の巻回位置を規制する内フランジ40fiと、を備えている。一方のインシュレータ15Aは、ティース部13の一方の軸端部面19の外側を覆い、他方のインシュレータ15Bは、ティース部13の他方の軸端部面19の外側を覆う。外フランジ40foと内フランジ40fiは、ティース覆い部39に対してコア軸方向Axの外側と、コア周方向Cの一方側と他方側に張り出している。
【0031】
図3図4に示すように、各インシュレータ15A,15Bの外フランジ40foのうちの、ティース覆い部39よりもコア周方向Cの一方側に張り出した部分と他方側に張り出した部分には、分割コア14a方向に向かって突出する矩形板状の突起41が夫々設けられている。これに対し、分割コア14aのバックヨーク部18のうちの、ティース部13のコア周方向Cの両外側に位置される内周面には、コア軸方向Axに沿って延びる係止溝42が夫々形成されている。各インシュレータ15A,15Bの突起41は、バックヨーク部18の対応する係止溝42にコア軸方向Axから嵌合される。インシュレータ15A,15Bは、これによって分割コア14aに対して位置決めされる。
本実施形態では、外フランジ40foの突起41が位置決め突起を構成し、バックヨーク部18の係止溝42がコア本体部12側の係止部を構成している。
【0032】
また、各インシュレータ15A,15Bの内フランジ40fiのうちの、ティース覆い部39よりもコア周方向Cの一方側に張り出した部分と他方側に張り出した部分には、分割コア14a方向に向かって突出する板状の係止片43が夫々突設されている。各係止片43は、分割コア14aのティース部13の先端側の鍔部21に係止される。インシュレータ15A,15Bのコア径方向Rの内側の端部は、それによってティース部13の先端側に位置決めされる。
本実施形態では、二つのインシュレータ15A,15Bは、形状が対称形状であるもののほぼ同様の形状とされている。このため、以下では、一方のインシュレータ15Aを代表として詳細形状について説明し、他方のインシュレータ15Bの詳細形状の説明を省略する。
【0033】
インシュレータ15Aは、図4に示すように、ティース覆い部39が外フランジ40foと内フランジ40fiの間に配置されている。ティース覆い部39は、外側面(コア軸方向Axの外側に向く面)のコア周方向Cの中央領域が平坦に形成され、外側面のコア周方向Cの両外側の端縁がティース部13側(図4中の下方側)に向かって滑らかに湾曲している。
【0034】
インシュレータ15Aのティース覆い部39は、図6に示すように、ティース覆い部39のコア周方向Cの中央領域でティース部13の軸端部面19に当接する脚部29を備えている。脚部29は、外フランジ40foと内フランジ40fiを連結するようにコア径方向Rに延びている。また、ティース覆い部39は、脚部29のコア軸方向Axの端部(軸端部面19と離間する側の端部)からコア周方向Cの一方側と他方側に延びる二つの延出部30を備えている。
【0035】
ティース覆い部39の各延出部30は、脚部29の端部からティース部13の軸端部面19と略平行にコア周方向Cに延びた後に、軸端部面19に近接する側に向かって湾曲している。以下では、延出部30のうちの、脚部29の端部から軸端部面19と略平行に延びる領域を「基部領域30a」と称し、基部領域30aから軸端部面19側に湾曲して延びた端部を「先端部30b」と称する。本実施形態では、延出部30は、基部領域30aから先端部30bに亘るほぼ全域が略一定厚みとされている。
【0036】
図6に示すように、インシュレータ15Aの外側にコイル導線16が巻回される前の状態では、延出部30は、ティース部13側の軸端部面19のコア周方向Cの端部25(軸端部面19と側面20の境界の角部)に対し、先端部30bがコア周方向Cの外側に所定長L分だけ突出している。このとき、延出部30の先端部30bと、ティース部13の軸端部面19との間には、コア軸方向Axの隙間d1が確保される。つまり、延出部30は、軸端部面19のコア周方向Cの端部25に対し、コア軸方向Axに隙間d1を持たさせた状態で先端部30bが軸端部面19の端部25よりもコア周方向Cの外側に延びている。
【0037】
ここで、各延出部30の基部領域30aは、図6に示すように、ティース部13の軸端部面19とコア周方向Cでラップする領域にある。延出部30の基部領域30aは、軸端部面19とのコア軸方向Axの隙間d2が、延出部30の先端部30bと軸端部面19の間の隙間d1よりも大きくなっている。また、各延出部30の基部領域30aの先端部30b寄り部分(先端部30b側に向かう湾曲が開始する部分)には、コア径方向Rに沿って延びる撓み許容溝35が形成されている。撓み許容溝35は、延出部30の外面側(コア軸方向Axの外側を向く面)に凹状に窪んで形成されている。
【0038】
また、図4に示すように、インシュレータ15Aの各延出部30と外フランジ40foの間には、コア周方向Cに沿って延びるスリット38が形成されている。同様に、インシュレータ15Aの各延出部30と内フランジ40fiの間にも、コア周方向Cに沿って延びるスリット38が形成されている。各スリット38は、延出部30のコア径方向Rの外側端と内側端において基部領域30aから先端部30bに向かって延びている。
【0039】
各インシュレータ15A,15Bが、分割コア14aのコア軸方向Axの各端部に取り付けられ、その状態でティース部13の突出方向周りにコイル導線16が巻回されると、図7に示すように、コイル導線16による締め込みによってインシュレータ15A,15Bの延出部30がティース部13側に湾曲変形する。具体的には、コイル導線16による締め込みによってインシュレータ15A,15Bの延出部30が外側から押圧されると、延出部30の先端部30bがティース部13の軸端部面19の端部25に当接、若しくは、近接するように延出部30が撓み変形する。このとき、延出部30の先端部30bの外面はティース部13の側面20とほぼ整合するようになる。このため、インシュレータ15A,15Bとティース部13の側面に跨って巻回されるコイル導線16は、ティース部13の角部(軸端部面19の端部25)にエッジ当たりすることなく、インシュレータ15A,15Bのティース覆い部39とティース部13の側面20とに密着する。
【0040】
本実施形態のステータ10(回転電機1)は、コイル導線16がインシュレータ15A,15Bとティース部13に巻回される前の状態において、各インシュレータ15A,15Bの延出部30の先端部30bが、ティース部13の軸端部面19よりもコア周方向Cの外側に延出し、かつ、軸端部面19との間にコア軸方向Axの隙間d1を形成する。このため、コイル導線16をティース部13に巻回する際には、インシュレータ15A,15Bの延出部30の先端部30bがティース部13の軸端部面19の角部(端部25)に近接するように撓み変形する。この結果、インシュレータ15A,15Bの延出部30の先端部30bによってティース部13の軸端部面19の角部(端部25)に対するコイル導線16の直接的な当接が抑制されるとともに、コイル導線16とティース部13の側面20との間に空隙部が生じにくくなる。
したがって、実施形態のステータ10(回転電機1)を採用した場合には、コイル導線16とティース部13の側面20の間の空隙部の増大を招くことなく、ティース部13の角部に対するコイル導線16の当接を抑制することができる。よって、コイル導線16の劣化の防止と、コイル導線16の占積率の向上を同時に図ることができる。
【0041】
また、本実施形態のステータ10(回転電機1)では、インシュレータ15A,15Bの延出部30の基部領域30aとティース部13の軸端部面19とのコア軸方向Axの隙間d2が、延出部30の先端部30bと軸端部面19とのコア軸方向Axの隙間d1よりも大きくなっている。このため、コイル導線16の巻回時にコイル導線16の締め込みによる荷重が延出部30に作用すると、延出部30の基部領域30aから先端部30bにかけてが大きく撓み変形し、延出部30の先端部30bが、ティース部13の軸端部面19の角部(端部25)に確実に当接若しくは近接するようになる。
したがって、本構成を採用した場合には、コイル導線16のティース部13の角部に対する直接接触の防止を図りつつ、コイル導線16とティース部13の側面20との間に空隙部が発生するのをより確実に抑制することができる。
【0042】
また、本実施形態のステータ10(回転電機1)では、インシュレータ15A,15Bに、コア周方向Cの中央領域でティース部13の軸端部面19に当接する脚部29が設けられている。このため、インシュレータ15A,15Bのコア周方向Cの中央領域の脚部29がティース部13の軸端部面19に当接することにより、コイル導線16の巻回時に、脚部29を中心として延出部30の先端部30bがティース部13の軸端部面19の角部(端部25)に向かってより確実に撓み変形するようになる。
したがって、本構成を採用した場合にも、コイル導線16のティース部13の角部に対する直接接触の防止を図りつつ、コイル導線16とティース部13の側面20との間に空隙部が発生するのをより確実に抑制することができる。
【0043】
本実施形態のステータ10(回転電機1)は、インシュレータ15A,15Bの外フランジ40foに、分割コア14a側の係止溝42に嵌合される突起41が設けられている。このため、インシュレータ15A,15B側の外フランジ40foの突起41を分割コア14a(コア本体部12)側の係止溝42に嵌合することにより、ティース部13に対するインシュレータ15A,15Bのティース覆い部39の位置ずれを抑制することができる。
また、本実施形態のステータ10(回転電機1)では、外フランジ40foの突起41が嵌合される係止溝42が、コイル導線16が巻回されない分割コア14a(コア本体部12)側のバックヨーク部18の内周面に設けられているため、係止溝42を形成したことによってコイル導線の占積率に悪影響を及ぼすことがない。
【0044】
また、本実施形態のステータ10(回転電機1)は、インシュレータ15A,15Bの延出部30に、コア径方向Rに沿って延びる撓み許容溝35が形成されている。このため、コイル導線16の巻回に伴う延出部30の撓み変形が、コア径方向Rに沿って延びる撓み許容溝35によってより容易になり、延出部30の先端部30bがティース部13の軸端部面19の角部に確実に当接若しくは近接するようになる。
したがって、本構成を採用した場合には、コイル導線16のティース部13の角部に対する直接接触の防止を図りつつ、コイル導線16とティース部13の側面20との間に空隙部が発生するのをより確実に抑制することができる。
【0045】
さらに、本実施形態のステータ10(回転電機1)は、インシュレータ15A,15Bの延出部30と外フランジ40foの間、及び、延出部30と内フランジ40fiの間に、コア周方向Cに沿って延びるスリット38が夫々形成されている。このため、コイル導線16の巻回時におけるインシュレータ15A,15Bの延出部30の撓み変形が外フランジ40foや内フランジ40fiによって阻害されにくくなり、延出部30の先端部30bがティース部13の軸端部面19の角部に確実に当接若しくは近接するようになる。
したがって、本構成を採用した場合にも、コイル導線16のティース部13の角部に対する直接接触の防止を図りつつ、コイル導線16とティース部13の側面20との間に空隙部が発生するのをより確実に抑制することができる。
【0046】
<他の実施形態>
図8は、他の実施形態のステータ(巻線ブロック)の図6と同様の断面図である。なお、図8では、上記の実施形態と同一部分に共通符号が付されている。
本実施形態のステータで採用するインシュレータ115A,115Bは、上記の実施形態と同様に、インシュレータ115A,115Bの外側にコイル導線16が巻回される前の状態において、延出部130と軸端部面19の間にコア軸方向Axの隙間d1ができ、かつ、延出部130の先端部130aが軸端部面19の端部25(角部)よりも外側に突出している。ただし、本実施形態の場合、延出部130の基部領域130aから先端部130bに亘る部位と、軸端部面19との間のコア軸方向Axの隙間d1がほぼ一定とされている。厳密には、本実施形態の場合、延出部130と軸端部面19との間のコア軸方向Axの隙間d1は、先端部130b付近で端末に向かって漸増している。
【0047】
本実施形態の場合も、基本構成は上記の実施形態とほぼ同様であるため、上記の実施形態と同様の基本的な効果を得ることができる。インシュレータの材質やサイズによる弾性変形のし易さ等に応じて、適宜本実施形態のインシュレータの構造を採用することができる。
【0048】
なお、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。
例えば、上記の実施形態では、分割コア方式のステータコアを採用しているが、ステータコアは、分割コア方式に限定されるものではなく、環状の一体構造のものを採用することも可能である。
【符号の説明】
【0049】
1…回転電機
10…ステータ
11…ロータ
12…コア本体部
13…ティース部
14…ステータコア
15A,15B,115A,115B…インシュレータ
16…コイル導線
19…軸端部面
20…側面
25…端部(角部)
29…脚部
30…延出部
30a…基部領域
30b…先端部
35…撓み許容溝
38…スリット
39…ティース覆い部
40fo…外フランジ
40fi…内フランジ
41…突起(位置決め突起)
42…係止溝(係止部)
Ax…コア軸方向
C…コア周方向
R…コア径方向
d1,d2…隙間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8