(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-26
(45)【発行日】2024-10-04
(54)【発明の名称】変流器一体形電流センサおよび遮断器
(51)【国際特許分類】
G01R 15/18 20060101AFI20240927BHJP
H01H 73/36 20060101ALI20240927BHJP
H01F 38/30 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
G01R15/18 B
H01H73/36 A
H01F38/30
(21)【出願番号】P 2021161878
(22)【出願日】2021-09-30
【審査請求日】2023-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118762
【氏名又は名称】高村 順
(72)【発明者】
【氏名】栗原 秀平
(72)【発明者】
【氏名】濱野 恵太
(72)【発明者】
【氏名】岡田 泰行
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 佳正
【審査官】青木 洋平
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-180790(JP,A)
【文献】特開2007-057282(JP,A)
【文献】特開2000-147024(JP,A)
【文献】実開昭63-185220(JP,U)
【文献】特開平05-159680(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0176166(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 15/18
H01H 73/36
H01F 38/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次導体が挿通される貫通孔を有する鉄心と前記鉄心に巻かれた
第1二次巻線とを有する変流器と、
前記一次導体が挿通され前記一次導体の挿通方向において前記鉄心に隣接して配置される電流検出用コイルと、を備え、
前記鉄心は、
前記貫通孔が形成され且つ
U状に形成された第1主鉄心部と、前記第1主鉄心部の端部間に接続され且つ前記第1二次巻線が巻かれる第2主鉄心部と、を有する主磁気回路部と、
前記第1主鉄心部の一端部から前記貫通孔と前記第1二次巻線との間の第1領域に向けて分岐して延在する第1磁気分路部と、前記第1主鉄心部の他端部から前記第1領域に向けて分岐して延在する第2磁気分路部と、を有し、前記第1磁気分路部と前記第2磁気分路部との間に空隙を有する磁気分路部と、を備え、
前記電流検出用コイルは、
コアと前記コアにトロイダル状に巻き付けられた
第2二次巻線とを有し、且つ、
前記
第2二次巻線のうち引き出し線が引き出され且つ巻きムラがある巻きムラ部が、前記一次導体の挿通方向において
前記第1主鉄心部の前記一端部および前記第1主鉄心部の前記他端部のうちの何れか一方に重なる位置に設けられる
ことを特徴とする変流器一体形電流センサ。
【請求項2】
一次導体が挿通される貫通孔を有する鉄心と前記鉄心に巻かれた第1二次巻線とを有する変流器と、
前記一次導体が挿通され前記一次導体の挿通方向において前記鉄心に隣接して配置される電流検出用コイルと、を備え、
前記鉄心は、
前記貫通孔が形成され且つU状に形成された第1主鉄心部と、前記第1主鉄心部の端部間に接続され且つ前記第1二次巻線が巻かれる第2主鉄心部と、を有する主磁気回路部と、
前記第1主鉄心部の一端部から前記貫通孔と前記第1二次巻線との間の第1領域を介して前記第1主鉄心部の他端部に向けて延在する第1磁気分路部を有し、前記第1磁気分路部の端部と前記第1主鉄心部の他端部との間に空隙を有する磁気分路部と、を備え、
前記電流検出用コイルは、
コアと前記コアにトロイダル状に巻き付けられた第2二次巻線とを有し、且つ、
前記第2二次巻線のうち引き出し線が引き出され且つ巻きムラがある巻きムラ部が、前記一次導体の挿通方向において前記第1主鉄心部の前記一端部に重なる位置に設けられる
ことを特徴とする変流器一体形電流センサ。
【請求項3】
前記コアは、
磁性体である
ことを特徴とする請求項1
または2に記載の変流器一体形電流センサ。
【請求項4】
請求項1から
3のいずれか1つに記載の変流器一体形電流センサと、
固定接点に接触している可動接点を前記固定接点から離すトリップ動作を行わせる引き外し装置と、
前記変流器一体形電流センサの前記変流器から供給される電力で動作し、前記変流器一体形電流センサの前記電流検出用コイルによって検出される前記一次導体の過電流に基づいて、前記引き外し装置を動作させる引き外しリレー部と、を備える
ことを特徴とする遮断器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、変流器と電流検出用コイルとが一体に構成された変流器一体形電流センサおよび遮断器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電路に過電流が流れた場合に、設定された時限特性で引き外し装置を動作させる過電流引き外し処理を行う制御回路を備える遮断器が知られている。この種の遮断器では、電路に流れる電流を変流する変流器と、変流器の二次側導体に接続され変流器の二次側導体から出力される電流に基づいて制御回路に電源電圧を供給する電源回路と、電路に流れる電流を検出し、検出結果を制御回路に出力する電流検出用コイルとを備える。
【0003】
例えば、特許文献1には、変流器と電流検出用コイルとが一体に構成された変流器一体形電流センサと、変流器によって変流された電流に基づいて電源電圧を生成する電源回路と、電源回路から供給される電源電圧で動作し電流検出用コイルによって検出された電流に基づいて過電流引き外し処理を行う処理回路とを備える装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の遮断器では、変流器一体形電流センサの変流器のうち二次巻線が巻かれた主磁気回路部から分岐し且つ空隙を有する磁気分路部によって、変流器一体形電流センサの電流検出用コイルを通る磁界が歪められ、電流の検出精度が悪化するという課題があった。
【0006】
本開示は、上記に鑑みてなされたものであって、電流検出用コイルによる電流の検出精度の悪化を抑制することができる変流器一体形電流センサを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本開示の変流器一体形電流センサは、一次導体が挿通される貫通孔を有する鉄心と鉄心に巻かれた二次巻線とを有する変流器と、一次導体が挿通され一次導体の挿通方向において鉄心に隣接して配置される電流検出用コイルとを備える。鉄心は、貫通孔が形成され且つU状に形成された第1主鉄心部と、第1主鉄心部の端部間に接続され且つ第1二次巻線が巻かれる第2主鉄心部と、を有する主磁気回路部と、第1主鉄心部の一端部から貫通孔と第1二次巻線との間の第1領域に向けて分岐して延在する第1磁気分路部と、第1主鉄心部の他端部から第1領域に向けて分岐して延在する第2磁気分路部と、を有し、第1磁気分路部と第2磁気分路部との間に空隙を有する磁気分路部と、を備える。電流検出用コイルは、コアとコアにトロイダル状に巻き付けられた第2二次巻線とを有し、且つ、第2二次巻線のうち引き出し線が引き出され且つ巻きムラがある巻きムラ部が、一次導体の挿通方向において第1主鉄心部の一端部および第1主鉄心部の他端部のうちの何れか一方に重なる位置に設けられる。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、電流検出用コイルによる電流の検出精度の悪化を抑制することができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施の形態1にかかる遮断器の構成の一例を示す図
【
図2】実施の形態1にかかる遮断器における電源側端子、負荷側端子、開閉接点部、および変流器一体形電流センサの配置を説明するための図
【
図3】実施の形態1にかかる変流器の構成の一例を示す正面図
【
図4】実施の形態1にかかる電流検出用コイルの構成の一例を示す正面図
【
図5】実施の形態1にかかる変流器一体形電流センサの一例を示す正面図
【
図6】実施の形態1にかかる変流器一体形電流センサに負荷側導体が挿通されている状態の一例を示す正面図
【
図7】実施の形態1にかかる遮断器の定格電流の1/2倍の電流、定格電流の1倍の電流、および定格電流の2倍の電流の各々が電路に流れた場合の変流器一体形電流センサにおける電流検出用コイルの磁界強度の特性を示す図
【
図8】実施の形態1にかかる遮断器の定格電流の1/2倍の電流、定格電流の1倍の電流、および定格電流の2倍の電流の各々が電路に流れた場合の変流器一体形電流センサにおける電流検出用コイルの出力直線性の特性を示す図
【
図9】実施の形態1にかかる遮断器の定格電流の1/2倍の電流、定格電流の1倍の電流、および定格電流の2倍の電流の各々が電路に流れた場合における変流器がない場合の電流検出用コイルの磁界強度の特性を示す図
【
図10】実施の形態1にかかる遮断器の定格電流の1/2倍の電流、定格電流の1倍の電流、および定格電流の2倍の電流の各々が電路に流れた場合における変流器がない場合の電流検出用コイルの出力直線性の特性を示す図
【
図11】実施の形態2にかかる変流器一体形電流センサの一例を示す正面図
【
図12】実施の形態2にかかる変流器の構成の一例を示す正面図
【
図13】実施の形態2にかかる遮断器の定格電流の1/2倍の電流、定格電流の1倍の電流、および定格電流の2倍の電流の各々が電路に流れた場合の変流器一体形電流センサにおける電流検出用コイルの磁界強度の特性を示す図
【
図14】実施の形態2にかかる遮断器の定格電流の1/2倍の電流、定格電流の1倍の電流、および定格電流の2倍の電流の各々が電路に流れた場合の変流器一体形電流センサにおける電流検出用コイルの出力直線性の特性を示す図
【
図15】実施の形態3にかかる変流器一体形電流センサの一例を示す正面図
【
図16】実施の形態3にかかる変流器の構成の一例を示す正面図
【
図17】実施の形態3にかかる遮断器の定格電流の1/2倍の電流、定格電流の1倍の電流、および定格電流の2倍の電流の各々が電路に流れた場合の変流器一体形電流センサにおける電流検出用コイルの磁界強度の特性を示す図
【
図18】実施の形態3にかかる遮断器の定格電流の1/2倍の電流、定格電流の1倍の電流、および定格電流の2倍の電流の各々が電路に流れた場合の変流器一体形電流センサにおける電流検出用コイルの出力直線性の特性を示す図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、実施の形態にかかる変流器一体形電流センサおよび遮断器を図面に基づいて詳細に説明する。
【0011】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1にかかる遮断器の構成の一例を示す図である。
図1に示すように、遮断器100は、不図示の電源装置と不図示の負荷装置との間の電路1の開閉を行う。かかる遮断器100は、開閉接点部2と、変流器一体形電流センサ3a,3b,3cと、引き外しリレー部6と、引き外し装置7と、電源側端子部8と、負荷側端子部9とを備える。
【0012】
開閉接点部2は、後述する固定接点および可動接点を備え、可動接点が固定接点に接触することで電路1が閉状態になり、可動接点が固定接点から離間することで電路1が開状態になる。電路1が閉状態になることで、不図示の電源装置から不図示の負荷装置への電力供給が行われ、電路1が開状態になることで、不図示の電源装置から不図示の負荷装置への電力供給が停止される。
【0013】
変流器一体形電流センサ3a,3b,3cは、電路1の中途部に設けられ、電路1に流れる電流の時間微分値であるdi/dtに比例した電圧を出力する電流検出機能と、電路1に流れる電流を変流する変流機能とを有する。
【0014】
変流器一体形電流センサ3aは、電流検出用コイル4aと変流器5aとを備える。同様に、変流器一体形電流センサ3bは、電流検出用コイル4bと変流器5bとを備え、変流器一体形電流センサ3cは、電流検出用コイル4cと変流器5cとを備える。以下において、変流器一体形電流センサ3a,3b,3cの各々を個別に区別せずに示す場合、変流器一体形電流センサ3と記載する場合がある。
【0015】
電流検出用コイル4a,4b,4cは、空芯コイルやロゴスキーコイルと呼ばれる、プラスチックなどの非磁性コアにコイルが巻き付けられたものが主流であるが、磁性体のコアを用いる場合もある。かかる電流検出用コイル4a,4b,4cは、電路1の中途部に設けられ、電路1に流れる電流の時間微分値であるdi/dtに比例した電圧を出力する。以下において、電流検出用コイル4a,4b,4cの各々を個別に区別せずに示す場合、電流検出用コイル4と記載する場合がある。
【0016】
図1に示す電路1は、3相3線式の交流電路であり、U相の電路10aと、V相の電路10bと、W相の電路10cとを備える。電流検出用コイル4aは、電路1のうちU相の電路10aに流れる電流の時間微分値であるdi/dtに比例した電圧を出力する。また、電流検出用コイル4bは、電路1のうちV相の電路10bに流れる電流の時間微分値であるdi/dtに比例した電圧を出力し、電流検出用コイル4cは、電路1のうちW相の電路10cに流れる電流の時間微分値であるdi/dtに比例した電圧を出力する。
【0017】
変流器5a,5b,5cは、電路1の中途部に設けられ、電路1に流れる電流を変流する。以下において、変流器5a,5b,5cの各々を個別に区別せずに示す場合、変流器5と記載する場合がある。
【0018】
変流器5aは、U相の電路10aに流れる電流を変流し、変流器5bは、V相の電路10bに流れる電流を変流し、変流器5cは、W相の電路10cに流れる電流を変流する。以下において、電路10a,10b,10cの各々を個別に区別せずに示す場合、電路10と記載する場合がある。
【0019】
電流検出用コイル4aと変流器5aとは、一体に構成されて変流器一体形電流センサ3aを構成する。同様に、電流検出用コイル4bと変流器5bとは、一体に構成されて変流器一体形電流センサ3bを構成し、電流検出用コイル4cと変流器5cとは、一体に構成されて変流器一体形電流センサ3cを構成する。なお、電流検出用コイル4と変流器5との一体化は、例えば、電流検出用コイル4と変流器5とをモールド樹脂で覆うことで行ったり、電流検出用コイル4と変流器5とを樹脂ケースに収納したりすることによって行われるが、かかる例に限定されない。
【0020】
また、電路1は、
図1に示す3相3線式の交流電路に限定されず、単相2線式の電路、単相3線式の電路、または3相4線式の電路などの交流電路であってもよく、電路1に応じた数の変流器一体形電流センサ3が遮断器100に設けられる。
【0021】
引き外しリレー部6は、整流回路60と、電源回路61と、計測回路62と、制御回路63とを備える。整流回路60は、変流器5a,5b,5cの二次巻線に一次側端子が接続され、変流器5a,5b,5cの二次巻線から出力される交流電流を直流電流に変換する。整流回路60は、例えば、ダイオードブリッジ回路によって構成される。
【0022】
電源回路61は、整流回路60の二次側端子に接続され、整流回路60の二次側端子から出力される直流電流から定電圧の電源電圧を生成する。電源回路61は、生成した電源電圧を遮断器100が動作するために必要な回路、例えば、制御回路63、計測回路62、引き外し装置7に出力する。なお、電源回路61は、整流回路60を含んでいてもよい。
【0023】
計測回路62は、電流検出用コイル4a,4b,4cに接続され、電流検出用コイル4a,4b,4cから出力される電圧信号を、積分器を通すことによって測定電流に比例した出力信号に変換する。計測回路62は、変換した電圧信号を制御回路63に出力する。
【0024】
制御回路63は、電源回路61から出力される電源電圧で動作し、計測回路62から出力される電圧信号に基づいて、開閉接点部2をトリップさせるためのトリップ信号を引き外し装置7に出力する。例えば、制御回路63は、計測回路62から出力される電圧信号に基づいて、電路1に流れる過電流の実効値である電流実効値を算出し、算出した電流実効値を累積した電流累積値を算出する。そして、制御回路63は、電流累積値が予め設定された定格電流値を超える場合に、トリップ信号を引き外し装置7に出力する。
【0025】
なお、制御回路63は、電流累積値および定格電流値に代えて電流累積値を2乗した値と定格電流値を2乗した値とを算出し、電流累積値を2乗した値が予め設定された定格電流値を2乗した値を超える場合に、トリップ信号を引き外し装置7に出力することもできる。
【0026】
引き外し装置7は、引き外しリレー部6の制御回路63から出力されるトリップ信号に基づき、開閉接点部2をトリップさせる。開閉接点部2のトリップは、開閉接点部2における可動接点を固定接点から離すことによって行われる。
【0027】
電源側端子部8は、電源側端子80a,80b,80cを備え、これら電源側端子80a,80b,80cは、不図示の電源装置から交流電圧が供給され電路1の一部を形成する複数の電源側導体に接続される。以下において、電源側端子80a,80b,80cの各々を個別に区別せずに示す場合、電源側端子80と記載する場合がある。
【0028】
負荷側端子部9は、負荷側端子90a,90b,90cを備え、これら負荷側端子90a,90b,90cは、不図示の負荷装置に接続され電路1の一部を形成する不図示の複数の負荷側導体に接続される。以下において、負荷側端子90a,90b,90cの各々を個別に区別せずに示す場合、負荷側端子90と記載する場合がある。
【0029】
開閉接点部2によって電路1が閉状態になることで、開閉接点部2によって電源側端子80と負荷側端子90とが電気的に接続される。具体的には、開閉接点部2によって電源側端子80aと負荷側端子90aとが電気的に接続され、開閉接点部2によって電源側端子80bと負荷側端子90bとが電気的に接続され、開閉接点部2によって電源側端子80cと負荷側端子90cとが電気的に接続される。
【0030】
図2は、実施の形態1にかかる遮断器における電源側端子、負荷側端子、開閉接点部、および変流器一体形電流センサの配置を説明するための図である。
図2に示すように、電源側端子80と負荷側端子90とは、遮断器100の外部から遮断器100の内部にかけて遮断器100の筐体14を貫通している。電源側端子80の一端部は、遮断器100の外部において、不図示の電源側導体に接続され、負荷側端子90の一端部は、遮断器100の外部において、不図示の負荷側導体に接続されている。
【0031】
開閉接点部2は、固定接点20と、可動子21と、可動接点22とを備える。遮断器100の内部において、電源側端子80の他端部には固定接点20が固定されており、負荷側端子90の他端部には可動子21の一端部が接続されている。可動子21の他端部には、固定接点20に対向する位置に可動接点22が固定されている。
【0032】
可動子21は、引き外し装置7による動作によって、可動接点22が固定接点20に接触する位置から可動接点22が固定接点20から開離する位置に回転する。これにより、電路1に流れる電流が遮断されて導通状態から非導通状態になる。以下において、可動接点22が固定接点20に接触した状態を遮断器100がオン状態であると記載し、可動接点22と固定接点20とが開離した状態を遮断器100がオフ状態であると記載する。なお、
図2に示す例では、遮断器100がオフ状態を示している。
【0033】
また、
図2に示すように、変流器一体形電流センサ3には、負荷側端子90が挿通されており、負荷側端子90が挿通される電流検出用コイル4が、負荷側端子90の挿通方向において、電流検出用コイル4と同様に負荷側端子90が挿通される変流器5と隣接する位置に配置されている。変流器一体形電流センサ3の電流検出用コイル4は、負荷側端子90に流れる電流の時間微分値であるdi/dtに比例した電圧を出力する。また、変流器一体形電流センサ3の変流器5は、負荷側端子90に流れる電流を変流する。
【0034】
負荷側端子90は、一次導体の一例である。なお、図示していないが、固定接点20、可動子21、可動接点22、電源側端子80、負荷側端子90、および変流器一体形電流センサ3は、電路10毎に設けられる。
【0035】
図3は、実施の形態1にかかる変流器の構成の一例を示す正面図である。
図3に示すように、変流器5は、鉄心50と、二次巻線55とを備える。鉄心50は、主磁気回路部51と、主磁気回路部51から分岐され、空隙523を有する磁気分路部52とを備える。磁気分路部52は、主磁気回路部51の内側の領域を分割するように形成される。
【0036】
主磁気回路部51は、負荷側端子90が挿通される貫通孔514を有しており、一部に二次巻線55が巻かれている。主磁気回路部51は、U状に形成された第1主鉄心部511と、第1主鉄心部511の端部間に接続され且つ二次巻線55が巻かれるU状に形成された第2主鉄心部512とを備える。なお、
図3に示す例では、貫通孔514は、円形に形成されるが、貫通孔514の形状は
図3に示す例に限定されない。また、第1主鉄心部511は弧状部分を有し、第2主鉄心部512は弧状部分を有しないが、第1主鉄心部511および第2主鉄心部512の形状は
図3に示す例に限定されない。
【0037】
磁気分路部52は、貫通孔514と二次巻線55との間の領域に向けて主磁気回路部51の第1主鉄心部511の一端部と他端部とから分岐される分路部521と分路部522とを備える。また、磁気分路部52は、分路部521と分路部522との間に、空隙523を有する。
【0038】
分路部521と分路部522とは、
図3における左右方向において線対称であり、分路部521と分路部522との間に空隙523が形成されている。以下において、主磁気回路部51から分路部521および分路部522が分岐する位置を分岐位置531,532と記載する。
【0039】
二次巻線55の一端には引き出し線56の一端が接続され二次巻線55の他端には引き出し線57の一端が接続される。なお、引き出し線56,57の他端は、
図1に示す整流回路60に接続される。
【0040】
遮断器100がオン状態のとき、各電路10に流れる電流により、各電路10を取り囲む主磁気回路部51および磁気分路部52に磁束φが流れる。磁束φは、第1主鉄心部511から第2主鉄心部512と磁気分路部52とで分岐し、磁束φの一部である磁束φ1は、第2主鉄心部512を通過し、磁束φの残りである磁束φ2は、磁気分路部52を通過する。
【0041】
第2主鉄心部512を磁束φ1が通過することで、磁束φ1の時間微分値であるdφ1/dtに比例する電流が二次巻線55から二本の引き出し線56,57を介して出力される。二次巻線55から引き出し線56,57を介して出力される電流を用いて、引き外しリレー部6の電源電圧が生成される。
【0042】
負荷側端子90に流れる電流である一次電流の値が小さい場合、空隙523によって磁気分路部52への磁束の通過が大幅に抑制されて磁束φの大部分は主磁気回路部51によって形成される磁路を流れるが、一次電流の値が大きくなるほど、誘導によって磁気分路部52への磁束の通過比率が大きくなる。
【0043】
そして、空隙523を通過する磁束φ2は、一次電流によって生じる磁気誘導が、空隙523の大きさおよび形状によって決定される所定のしきい値を超えると、急速に増加する。このように、磁気分路部52の空隙523は、変流器5の非線形挙動を生じさせるため、変流器5は、過剰電力を制限する非線形電流応答性を有する。
【0044】
図4は、実施の形態1にかかる電流検出用コイルの構成の一例を示す正面図である。
図4に示すように、電流検出用コイル4は、電路10に流れる電流を検出する電流センサであり、一次導体の一例である負荷側端子90が挿通される貫通孔43を有するコア41と、巻き始め42aから巻き終わり42bまでトロイダル状にコア41に巻き付けられる二次巻線42とを備える。一般的に、コア41にはプラスチックなどの非磁性コアが用いられるが、感度調整のため、1よりも大きい比透磁率を有する磁性体のコアを用いる場合がある。
【0045】
巻き始め42aと巻き終わり42bとの間には、巻きムラ部42cが形成される。巻きムラ部42cは、巻線工程における巻き不足による隙間または巻線工程における過剰巻きによる巻き重なりによって生じる。二次巻線42における巻きムラ部42c以外の部分は、コア41の周方向において均等間隔でコア41に巻き付けられている。なお、
図4に示す巻き始め42aの位置は、巻き始め42aの一端部を示し、巻き終わり42bの位置は、巻き終わり42bの一端部を示している。巻き始め42aの他端部および巻き終わり42bの他端部とは、コア41の周方向で互いに対向する位置または重なる位置にあるが、かかる例に限定されない。
【0046】
電流検出用コイル4は、遮断器100がオン状態のとき、電路10に流れる交流電流による磁界が二次巻線42と鎖交することで二次巻線42に誘起電圧が発生する。二次巻線42の誘起電圧は、電流検出用コイル4の引き出し線44,45から出力される。これにより、負荷側端子90に流れる電流である測定電流iの時間微分値であるdi/dtに比例する電圧が二次巻線42から引き外しリレー部6の計測回路62へ出力される。
【0047】
計測回路62は、電流検出用コイル4から出力される電圧を積分する不図示の積分器を有しており、電流検出用コイル4から出力される電圧を積分器によって積分することで、測定電流iに比例した電圧信号を得ることができる。なお、積分器は、計測回路62に代えて、変流器一体形電流センサ3に設けられてもよい。この場合、電流検出用コイル4および積分器を含む構成が、変流器一体形電流センサ3の電流センサを構成する。
【0048】
図5は、実施の形態1にかかる変流器一体形電流センサの一例を示す正面図である。
図5に示す例では、変流器一体形電流センサ3は、電流検出用コイル4の空芯部分である貫通孔43の中心Oと、変流器5の貫通孔514の中心とが実質的に一致するように、電流検出用コイル4と変流器5との位置関係が設定されている。なお、電流検出用コイル4と変流器5との位置関係は、
図5に示す例に限定されない。
【0049】
また、
図5に示すように、本実施の形態1では、二次巻線55から最も遠い位置の中心Oに対する角度を0°とし、二次巻線55から最も近い位置の中心Oに対する角度を180°としている。また、
図5に示すように、中心Oに対する角度は、0°,90°,180°,270°の順に
図5に示す時計回りに増加する。
【0050】
図6は、実施の形態1にかかる変流器一体形電流センサに負荷側導体が挿通されている状態の一例を示す正面図である。
図6に示すように、変流器一体形電流センサ3には、一次導体の一例である負荷側端子90が挿通されており、変流器一体形電流センサ3において、負荷側端子90に流れる電流に応じた変流と、負荷側端子90に流れる電流の検出とが行われる。
図6に示すように、負荷側端子90は、電流検出用コイル4の貫通孔43および変流器5の貫通孔514の各々の中心を含む領域に挿通されている。
【0051】
ところで、電流検出用コイル4では、出力直線性が良好に保たれることが望ましい。出力直線性が良好である場合、測定電流iの時間微分値(di/dt)に実質的に比例する電圧が電流検出用コイル4の二次巻線42から出力される。
【0052】
電流検出用コイル4において出力直線性が良好に保たれるか否かは、電路10に流れる電流の大きさと、巻きムラ部42cに流入する磁界の強度との相関によって決まる。測定電流iと、巻きムラ部42cに流入する磁界の強度とが、実質的に比例関係となっている場合は、電流検出用コイル4の出力直線性が保たれる。逆に、測定電流iと、巻きムラ部42cに流入する磁界の強度とが、実質的に比例関係になっていない場合は、巻きムラ部42cの出力直線性が悪化する。以下において、磁界の強度を電界強度と記載する場合がある。
【0053】
図7は、実施の形態1にかかる遮断器の定格電流の1/2倍の電流、定格電流の1倍の電流、および定格電流の2倍の電流の各々が電路に流れた場合の変流器一体形電流センサにおける電流検出用コイルの磁界強度の特性を示す図である。
図7において、横軸は、電流検出用コイル4の巻きムラ部42cの角度αを示し、縦軸は、遮断器100の定格電流の1倍の電流が電路10に流れた定格電流通電時における電界強度の最大値を1としたときの電界強度を示す。電界強度は、電流検出用コイル4の中心部を鎖交する磁界の強度である。巻きムラ部42cの角度αは、中心Oに対する角度で表される。なお、
図7を含む複数の図において、定格電流の1/2倍の電流を「定格電流×1/2」、および定格電流の1倍の電流を「定格電流」、定格電流の2倍の電流を「定格電流×2」と記載する。
【0054】
図7に示す磁界強度の特性から分かるように、定格電流の1/2倍の電流、定格電流の1倍の電流、および定格電流の2倍の電流に共通して、巻きムラ部42cの角度αが180°付近である場合に最大の磁界強度となっている。これは、変流器5の磁気ギャップである空隙523からの漏れ磁界によって、空隙523の近傍の磁界強度が大きくなっているからである。それ以外の角度の磁界は、鉄心50に吸収される方向に磁界が変化し、電流検出用コイル4に鎖交する成分が減少している。
【0055】
図8は、実施の形態1にかかる遮断器の定格電流の1/2倍の電流、定格電流の1倍の電流、および定格電流の2倍の電流の各々が電路に流れた場合の変流器一体形電流センサにおける電流検出用コイルの出力直線性の特性を示す図である。
図8において、横軸は、電流検出用コイル4の巻きムラ部42cの角度αを示し、縦軸は、電流検出用コイル4の二次巻線42からの出力の直線性である出力直線性を示す。ここでの出力直線性は、定格電流の1倍の電流が電路10に流れた場合に電流検出用コイル4から出力される電圧を基準電圧とし、定格電流の1/2倍の電流または定格電流の2倍の電流が電路10に流れた場合に電流検出用コイル4から出力される電圧の基準電圧に対する比例関係のずれ分を誤差%として表したものである。例えば、定格電流の1/2倍の電流が電路10に流れた場合に電流検出用コイル4から出力される電圧が基準電圧の1/2倍である場合、出力直線性は、0%で示される。
【0056】
図8に示す出力直線性の特性から分かるように、出力直線性が最も良くなる条件は、巻きムラ部42cの角度αが120°または240°である場合である。言い換えると、出力直線性が最も良くなる条件は、電流検出用コイル4の巻きムラ部42cと、鉄心50における主磁気回路部51の第1主鉄心部511から第2主鉄心部512側と磁気分路部52側とに磁路が分岐する位置である分岐位置531または分岐位置532とが負荷側端子90の延伸方向において重なった場合である。
【0057】
一方で、出力直線性が最も悪くなる条件は、巻きムラ部42cの角度αが180°である場合である。言い換えると、最も出力直線性が悪い条件は、電流検出用コイル4の巻きムラ部42cと、鉄心50における磁気分路部52の空隙523が負荷側端子90の延伸方向において重なった場合である。
【0058】
図9は、実施の形態1にかかる遮断器の定格電流の1/2倍の電流、定格電流の1倍の電流、および定格電流の2倍の電流の各々が電路に流れた場合における変流器がない場合の電流検出用コイルの磁界強度の特性を示す図である。
図9において、横軸は、電流検出用コイル4の巻きムラ部42cの角度αを示し、縦軸は、遮断器100の定格電流の1倍の電流が電路10に流れた定格電流通電時における電界強度の最大値を1としたときの電界強度を示す。
【0059】
図9に示す磁界強度の特性から分かるように、定格電流の1/2倍の電流、定格電流の1倍の電流、および定格電流の2倍の電流に共通して、巻きムラ部42cの角度αが0°=360°付近である場合に最大の磁界強度となっている。これは、
図6に示す電源側端子80と負荷側端子90にそれぞれ逆向きの電流が流れることにより、変流器5の内側は磁界が強め合う方向に働き、且つ変流器5の外側は磁界が弱め合う方向に働くからである。また、変流器5がない場合の構成で巻きムラ部42cに流入する磁界の強度は、巻きムラ部42cの角度αがいずれの角度においても電路10に流れる電流の大きさに比例する。
【0060】
図10は、実施の形態1にかかる遮断器の定格電流の1/2倍の電流、定格電流の1倍の電流、および定格電流の2倍の電流の各々が電路に流れた場合における変流器がない場合の電流検出用コイルの出力直線性の特性を示す図である。
図10において、横軸は、電流検出用コイル4の巻きムラ部42cの角度αを示し、縦軸は、電流検出用コイル4の二次巻線42からの出力の直線性である出力直線性を示す。
【0061】
図10に示す出力直線性の特性から分かるように、変流器5がない場合、巻きムラ部42cの角度αがいずれの角度であった場合でも、電流検出用コイル4の出力直線性は、一定の直線性が保たれる。これは、巻きムラ部42cの角度αがいずれの角度であった場合でも、電路10に流れる電流の大きさと巻きムラ部42cに流入する磁界の強度が比例しているからである。
【0062】
図8と
図10との比較から分かるように、電流検出用コイル4に隣接して変流器5を設けていない場合には、電流検出用コイル4の出力直線性は良好に保たれるが、電流検出用コイル4に隣接して変流器5を設けると、電流検出用コイル4の出力直線性が悪化する。すなわち、二次巻線42が巻かれた主磁気回路部51と空隙523を有する磁気分路部52とを有する変流器5に隣接して電流検出用コイル4を設けた変流器一体形電流センサ3では、電流検出用コイル4の配置によって電流検出精度が大きく悪化する。
【0063】
そこで、実施の形態1にかかる変流器一体形電流センサ3では、電流検出用コイル4の巻きムラ部42cを、一次導体の延伸方向において、分岐位置531または分岐位置532と重なる位置に配置している。これにより、変流器一体形電流センサ3では、電流検出用コイル4の出力直線性を良好に保つことができ、電流検出用コイル4による電流の検出精度の悪化を抑制することができる。
【0064】
また、電流検出用コイル4の巻きムラ部42cを、一次導体の延伸方向において、分岐位置531または分岐位置532と重なる位置に配置しているため、実施の形態1にかかる変流器一体形電流センサ3では、引き出し線44,45の処理を容易に行うことができる。
【0065】
例えば、電流検出用コイル4における巻き始め42aおよび巻き終わり42bを引き出し線44,45とはんだ付けし、引き出し線44,45をより線にした状態で引き出す際に、変流器5の二次巻線55に邪魔されることなく、引き出し線44,45の処理を行うことができる。また、変流器一体形電流センサ3が、鉄心50の外形寸法よりもわずかに大きなモールドケースに収納されている場合においても、モールドケースに邪魔されることなく、引き出し線44,45の処理を行うことができる。
【0066】
以上のように、実施の形態1にかかる変流器一体形電流センサ3は、一次導体が挿通される貫通孔514を有する鉄心50と鉄心50に巻かれた二次巻線55とを有する変流器5と、一次導体が挿通され一次導体の挿通方向において鉄心50に隣接して配置される電流検出用コイル4とを備える。鉄心50は、貫通孔514が形成され且つ一部に二次巻線55が巻かれた主磁気回路部51と、貫通孔514と二次巻線55との間の領域に向けて主磁気回路部51から分岐され、空隙523を有する磁気分路部52とを備える。電流検出用コイル4は、コア41とコア41にトロイダル状に巻き付けられた二次巻線42とを有し、且つ、二次巻線42のうち引き出し線44,45が引き出され且つ巻きムラがある巻きムラ部42cが、一次導体の挿通方向において主磁気回路部51からの磁気分路部52の分岐位置に重なる位置に設けられる。これにより、変流器一体形電流センサ3では、電流検出用コイル4の出力直線性を良好に保つことができ、電流検出用コイル4による電流の検出精度の悪化を抑制することができる。
【0067】
また、空隙523は、磁気分路部52の中央に設けられる。これにより、変流器一体形電流センサ3では、引き出し線44,45の処理を容易に行うことができる。これは、電流検出用コイル4の巻きムラ部42cを、一次導体の延伸方向において、分岐位置531または分岐位置532と重なる位置に配置しているからである。
【0068】
また、遮断器100は、変流器一体形電流センサ3と、引き外し装置7と、引き外しリレー部6とを備える。引き外し装置7は、固定接点20に接触している可動接点22を固定接点20から離すトリップ動作を行わせる。引き外しリレー部6は、変流器一体形電流センサ3の変流器5から供給される電力で動作し、変流器一体形電流センサ3の電流検出用コイル4によって検出される一次導体の過電流に基づいて、引き外し装置7を動作させる。これにより、遮断器100は、トリップ動作を精度よく行うことができる。
【0069】
実施の形態2.
実施の形態2にかかる変流器一体形電流センサは、変流器における磁気分路部の空隙の位置が、実施の形態1にかかる変流器一体形電流センサの変流器における磁気分路部の空隙の位置と異なる。以下においては、実施の形態1と同様の機能を有する構成要素については同一符号を付して説明を省略し、実施の形態1の変流器一体形電流センサ3と異なる点を中心に説明する。
【0070】
図11は、実施の形態2にかかる変流器一体形電流センサの一例を示す正面図である。
図11に示すように、変流器一体形電流センサ3Aは、変流器5に代えて、変流器5Aを備える点で、実施の形態1にかかる変流器一体形電流センサ3と異なる。
図11に示す例では、電流検出用コイル4の空芯部分である貫通孔43の中心Oと、変流器5Aの貫通孔514Aの中心とが実質的に一致するように、電流検出用コイル4と変流器5Aとの位置関係が設定されている。
【0071】
図12は、実施の形態2にかかる変流器の構成の一例を示す正面図である。
図12に示すように、実施の形態2にかかる変流器5Aは、鉄心50に代えて、鉄心50Aを備える点で変流器5と異なる。鉄心50Aは、磁気分路部52に代えて、磁気分路部52Aを備える点で鉄心50と異なる。
【0072】
磁気分路部52では、幅の狭い空隙523が中央に設けられるが、磁気分路部52Aでは、同じく幅の狭い空隙523Aが磁気分路部52Aの2つの分岐位置の一方に偏った位置に設けられる点で、磁気分路部52と磁気分路部52Aとは異なる。
【0073】
具体的には、磁気分路部52Aは、貫通孔514Aと二次巻線55との間の領域に向けて主磁気回路部51の第1主鉄心部511の一端部から分岐される分路部521Aを備える。また、磁気分路部52Aは、第1主鉄心部511の他端部と分路部521Aとの間に空隙523Aを有する。以下において、主磁気回路部51から分路部521Aが分岐する位置を分岐位置531Aと記載し、主磁気回路部51から磁路が空隙523Aに分岐する位置を分岐位置532Aと記載する。
【0074】
図13は、実施の形態2にかかる遮断器の定格電流の1/2倍の電流、定格電流の1倍の電流、および定格電流の2倍の電流の各々が電路に流れた場合の変流器一体形電流センサにおける電流検出用コイルの磁界強度の特性を示す図である。
図13において、横軸は、電流検出用コイル4の巻きムラ部42cの角度αを示し、縦軸は、実施の形態2にかかる遮断器の定格電流の1倍の電流が電路10に流れた定格電流通電時における電界強度の最大値を1としたときの電界強度を示す。
【0075】
図13に示す磁界強度の特性から分かるように、定格電流の1/2倍の電流、定格電流の1倍の電流、および定格電流の2倍の電流に共通して、巻きムラ部42cの角度αが135°付近である場合に最大の磁界強度となっている。これは、変流器5Aの磁気ギャップである空隙523Aからの漏れ磁界によって、空隙523Aの近傍の磁界強度が大きくなっているからである。それ以外の角度の磁界は、鉄心50Aに吸収される方向に磁界が変化し、電流検出用コイル4に鎖交する成分が減少している。
【0076】
図14は、実施の形態2にかかる遮断器の定格電流の1/2倍の電流、定格電流の1倍の電流、および定格電流の2倍の電流の各々が電路に流れた場合の変流器一体形電流センサにおける電流検出用コイルの出力直線性の特性を示す図である。
図14において、横軸は、電流検出用コイル4の巻きムラ部42cの角度αを示し、縦軸は、電流検出用コイル4の二次巻線42からの出力の直線性である出力直線性を示す。
【0077】
図14に示す出力直線性の特性から分かるように、出力直線性が最も良くなる条件は、巻きムラ部42cの角度αが240°である場合である。言い換えると、出力直線性が最も良くなる条件は、電流検出用コイル4の巻きムラ部42cと、鉄心50Aにおける主磁気回路部51の第1主鉄心部511から第2主鉄心部512側と磁気分路部52A側とに磁路が分岐する分岐位置531Aまたは分岐位置532Aとが一次導体の延伸方向において重なった場合である。
【0078】
一方で、出力直線性が最も悪くなる条件は、巻きムラ部42cの角度αが135°である場合である。言い換えると、最も出力直線性が悪い条件は、電流検出用コイル4の巻きムラ部42cと、鉄心50Aにおける磁気分路部52Aの空隙523Aが一次導体の延伸方向において重なった場合である。
【0079】
そこで、変流器一体形電流センサ3Aでは、電流検出用コイル4の巻きムラ部42cを、一次導体の延伸方向において、分岐位置531Aと重なる位置に配置している。これにより、変流器一体形電流センサ3Aでは、電流検出用コイル4の出力直線性を良好に保つことができ、電流検出用コイル4による電流の検出精度の悪化を抑制することができる。
【0080】
また、電流検出用コイル4の巻きムラ部42cを、一次導体の延伸方向において、分岐位置531Aと重なる位置に配置しており、且つ、空隙523Aが磁気分路部52Aの2つの分岐位置の一方に偏った位置に設けられる。そのため、実施の形態2にかかる変流器一体形電流センサ3Aでは、引き出し線44,45の処理を容易に行うことができる。
【0081】
以上のように、実施の形態2にかかる変流器一体形電流センサ3Aは、一次導体が挿通される貫通孔514Aを有する鉄心50Aと鉄心50Aに巻かれた二次巻線55とを有する変流器5Aと、一次導体が挿通され一次導体の挿通方向において鉄心50Aに隣接して配置される電流検出用コイル4とを備える。鉄心50Aは、貫通孔514Aが形成され且つ一部に二次巻線55が巻かれた主磁気回路部51と、貫通孔514Aと二次巻線55との間の領域に向けて主磁気回路部51から分岐され、空隙523Aを有する磁気分路部52Aとを備える。電流検出用コイル4は、コア41とコア41にトロイダル状に巻き付けられた二次巻線42とを有し、且つ、二次巻線42のうち引き出し線44,45が引き出され且つ巻きムラがある巻きムラ部42cが、一次導体の挿通方向において主磁気回路部51からの磁気分路部52Aの分岐位置である分岐位置531Aに重なる位置に設けられる。これにより、変流器一体形電流センサ3Aでは、電流検出用コイル4の出力直線性を良好に保つことができ、電流検出用コイル4による電流の検出精度の悪化を抑制することができる。
【0082】
また、空隙523Aは、2つの分岐位置531A,532Aのうち巻きムラ部42cから離れた方の分岐位置531Aに偏った位置に設けられる。これにより、引き出し線44,45の処理を容易に行うことができる。
【0083】
実施の形態3.
実施の形態3にかかる変流器一体形電流センサは、変流器における磁気分路部の空隙の大きさが、実施の形態1にかかる変流器一体形電流センサの変流器における磁気分路部の空隙の大きさと異なる。以下においては、実施の形態1と同様の機能を有する構成要素については同一符号を付して説明を省略し、実施の形態1の変流器一体形電流センサ3と異なる点を中心に説明する。
【0084】
図15は、実施の形態3にかかる変流器一体形電流センサの一例を示す正面図である。
図15に示すように、変流器一体形電流センサ3Bは、変流器5に代えて、変流器5Bを備える点で、実施の形態1にかかる変流器一体形電流センサ3と異なる。
図15に示す例では、電流検出用コイル4の空芯部分である貫通孔43の中心Oと、変流器5Bの貫通孔514Bの中心とが実質的に一致するように、電流検出用コイル4と変流器5Bとの位置関係が設定されている。
【0085】
図16は、実施の形態3にかかる変流器の構成の一例を示す正面図である。
図16に示すように、実施の形態3にかかる変流器5Bは、鉄心50に代えて、鉄心50Bを備える点で変流器5と異なる。鉄心50Bは、磁気分路部52に代えて、磁気分路部52Bを備える点で鉄心50と異なる。
【0086】
磁気分路部52では、幅の狭い空隙523が中央に設けられるが、磁気分路部52Bでは、幅の広い空隙523Bが中央に寄って設けられる点で、磁気分路部52と磁気分路部52Bとは異なる。
【0087】
具体的には、磁気分路部52Bは、貫通孔514Bと二次巻線55との間の領域に向けて主磁気回路部51の第1主鉄心部511の一端部と他端部とから分岐される分路部521Bと分路部522Bとを備える。また、磁気分路部52Bは、分路部521Bと分路部522Bとの間に、空隙523に比べて幅の広い空隙523Bを有する。以下において、主磁気回路部51から分路部521Bが分岐する位置箇所を分岐位置531Bと記載し、主磁気回路部51から分路部522Bが分岐する位置箇所を分岐位置532Bと記載する。
【0088】
図17は、実施の形態3にかかる遮断器の定格電流の1/2倍の電流、定格電流の1倍の電流、および定格電流の2倍の電流の各々が電路に流れた場合の変流器一体形電流センサにおける電流検出用コイルの磁界強度の特性を示す図である。
図17において、横軸は、電流検出用コイル4の巻きムラ部42cの角度αを示し、縦軸は、実施の形態3にかかる遮断器の定格電流の1倍の電流が電路10に流れた定格電流通電時における電界強度の最大値を1としたときの電界強度を示す。
【0089】
図17に示す磁界強度の特性から分かるように、定格電流の1/2倍の電流、定格電流の1倍の電流、および定格電流の2倍の電流に共通して、巻きムラ部42cの角度αが150°~210°の範囲である場合に最大の磁界強度となっている。これは、変流器5Bの磁気ギャップである空隙523Bからの漏れ磁界によって、空隙523Bの近傍の磁界強度が大きくなっているからである。それ以外の角度の磁界は、鉄心50Bに吸収される方向に磁界が変化し、電流検出用コイル4に鎖交する成分が減少している。
【0090】
図18は、実施の形態3にかかる遮断器の定格電流の1/2倍の電流、定格電流の1倍の電流、および定格電流の2倍の電流の各々が電路に流れた場合の変流器一体形電流センサにおける電流検出用コイルの出力直線性の特性を示す図である。
図18において、横軸は、電流検出用コイル4の巻きムラ部42cの角度αを示し、縦軸は、電流検出用コイル4の二次巻線42からの出力の直線性である出力直線性を示す。
【0091】
図18に示す出力直線性の特性から分かるように、出力直線性が最も良くなる条件は、巻きムラ部42cの角度αが120°または240°である場合である。言い換えると、出力直線性が最も良くなる条件は、電流検出用コイル4の巻きムラ部42cと、鉄心50Bにおける主磁気回路部51の第1主鉄心部511から第2主鉄心部512側と磁気分路部52B側とに磁路が分岐する分岐位置531Bまたは分岐位置532Bとが一次導体の延伸方向において重なった場合である。
【0092】
一方で、出力直線性が最も悪くなる条件は、巻きムラ部42cの角度αが150°~210°の範囲である場合である。言い換えると、最も出力直線性が悪い条件は、電流検出用コイル4の巻きムラ部42cと、鉄心50Bにおける磁気分路部52Bの空隙523Bが一次導体の延伸方向において重なった場合である。
【0093】
そこで、変流器一体形電流センサ3Bでは、電流検出用コイル4の巻きムラ部42cを、一次導体の延伸方向において、分岐位置531Bと重なる位置に配置している。これにより、変流器一体形電流センサ3Bでは、電流検出用コイル4の出力直線性を良好に保つことができ、電流検出用コイル4による電流の検出精度の悪化を抑制することができる。なお、一次導体の延伸方向において、電流検出用コイル4の巻きムラ部42cを、分岐位置531Bに代えて、分岐位置532Bと重なる位置に配置しても同様の効果を得ることができる。
【0094】
また、実施の形態3にかかる変流器一体形電流センサ3Bでは、電流検出用コイル4の巻きムラ部42cを、一次導体の延伸方向において、分岐位置531Bまたは分岐位置532Bと重なる位置に配置することで、引き出し線44,45の処理を容易に行うことができる。なお、一次導体の延伸方向において、電流検出用コイル4の巻きムラ部42cを、分岐位置531Bに代えて、分岐位置532Bと重なる位置に配置しても同様の効果を得ることができる。
【0095】
以上のように、実施の形態3にかかる変流器一体形電流センサ3Bは、一次導体が挿通される貫通孔514Bを有する鉄心50Bと鉄心50Bに巻かれた二次巻線55とを有する変流器5Bと、一次導体が挿通され一次導体の挿通方向において鉄心50Bに隣接して配置される電流検出用コイル4とを備える。鉄心50Bは、貫通孔514Bが形成され且つ一部に二次巻線55が巻かれた主磁気回路部51と、貫通孔514Bと二次巻線55との間の領域に向けて主磁気回路部51から分岐され、空隙523Bを有する磁気分路部52Bとを備える。電流検出用コイル4は、コア41とコア41にトロイダル状に巻き付けられた二次巻線42とを有し、且つ、二次巻線42のうち引き出し線44,45が引き出され且つ巻きムラがある巻きムラ部42cが、一次導体の挿通方向において主磁気回路部51からの磁気分路部52Bの分岐位置である分岐位置531Bに重なる位置に設けられる。これにより、変流器一体形電流センサ3Bでは、電流検出用コイル4の出力直線性を良好に保つことができ、電流検出用コイル4による電流の検出精度の悪化を抑制することができる。
【0096】
以上の実施の形態に示した構成は、一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、実施の形態同士を組み合わせることも可能であるし、要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略、変更することも可能である。
【符号の説明】
【0097】
1 電路、2 開閉接点部、3,3a,3b,3c,3A,3B 変流器一体形電流センサ、4,4a,4b,4c 電流検出用コイル、5,5a,5b,5c,5A,5B 変流器、6 引き外しリレー部、7 引き外し装置、8 電源側端子部、9 負荷側端子部、14 筐体、20 固定接点、21 可動子、22 可動接点、41 コア、42,55 二次巻線、42c 巻きムラ部、43,514,514A,514B 貫通孔、44,45 引き出し線、50,50A,50B 鉄心、51 主磁気回路部、52,52A,52B 磁気分路部、60 整流回路、61 電源回路、62 計測回路、63 制御回路、80,80a,80b,80c 電源側端子、90,90a,90b,90c 負荷側端子、100 遮断器、511 第1主鉄心部、512 第2主鉄心部、521,521A,521B,522,522B 分路部、523,523A,523B 空隙、531,531A,531B,532,532A,532B 分岐位置。