(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-26
(45)【発行日】2024-10-04
(54)【発明の名称】撓み噛合い式歯車装置
(51)【国際特許分類】
F16H 1/32 20060101AFI20240927BHJP
【FI】
F16H1/32 B
(21)【出願番号】P 2021170593
(22)【出願日】2021-10-19
【審査請求日】2024-01-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】南雲 稔也
【審査官】藤村 聖子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-120325(JP,A)
【文献】特開2019-60423(JP,A)
【文献】特開2012-241865(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
起振体と、前記起振体により撓み変形される外歯歯車と、前記外歯歯車と噛み合う第1内歯歯車と、前記第1内歯歯車と軸方向に並べて配置され、前記外歯歯車と噛み合う第2内歯歯車と、を備える撓み噛合い式歯車装置であって、
前記外歯歯車は、前記第1内歯歯車と噛み合う第1外歯部と、前記第2内歯歯車と噛み合う第2外歯部と、を有し、
前記第1外歯部は、歯厚が最大となる第1歯厚最大部と、前記第1歯厚最大部から軸方向内側に向かって歯厚が減少する第1内側歯厚減少部と、を有し、
前記第1内側歯厚減少部は、前記第1内歯歯車との噛合い範囲において、外側領域と、前記外側領域の軸方向内側に設けられ、前記外側領域よりも歯厚の減少割合が大きい内側領域と、を有し、
前記外側領域と前記内側領域との境界は、歯厚の減少割合の変化率が不連続な箇所であり、前記外側領域の軸方向長さが、前記内側領域の軸方向長さよりも大きい、
撓み噛合い式歯車装置。
【請求項2】
前記第1外歯部は、前記噛合い範囲の内側端から前記外歯歯車の軸方向中央までに第1追加内側領域を有し、前記内側領域と前記第1追加内側領域との軸方向長さの合計よりも前記外側領域の軸方向長さが大きい、
請求項1記載の撓み噛合い式歯車装置。
【請求項3】
前記内側領域の減少割合は、前記外側領域の減少割合の2.5倍以上である、
請求項1又は請求項2に記載の撓み噛合い式歯車装置。
【請求項4】
前記外側領域の軸方向長さが、前記内側領域の軸方向長さの2倍以上である、
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の撓み噛合い式歯車装置。
【請求項5】
起振体と、前記起振体により撓み変形される外歯歯車と、前記外歯歯車と噛み合う第1内歯歯車と、前記第1内歯歯車と軸方向に並べて配置され、前記外歯歯車と噛み合う第2内歯歯車と、を備える撓み噛合い式歯車装置であって、
前記外歯歯車は、前記第1内歯歯車と噛み合う第1外歯部と、前記第2内歯歯車と噛み合う第2外歯部と、を有し、
前記第1外歯部は、歯厚が最大となる第1歯厚最大部と、前記第1歯厚最大部から軸方向内側に向かって歯厚が減少する第1内側歯厚減少部と、を有し、
前記第1内歯歯車と前記第1外歯部との噛合い範囲の内側端と、前記第1歯厚最大部との間において、軸方向内側1/3範囲の前記第1内側歯厚減少部の歯厚の減少割合が、軸方向外側2/3範囲の前記第1内側歯厚減少部の歯厚の減少割合の2.5倍以上である、
撓み噛合い式歯車装置。
【請求項6】
起振体と、前記起振体により撓み変形される外歯歯車と、前記外歯歯車と噛み合う第1内歯歯車と、前記第1内歯歯車と軸方向に並べて配置され、前記外歯歯車と噛み合う第2内歯歯車と、を備える撓み噛合い式歯車装置であって、
前記第1内歯歯車は、前記外歯歯車と噛み合う第1内歯部を有し、
前記第1内歯部は、歯厚が最大となる第1歯厚最大部と、前記第1歯厚最大部から軸方向内側に向かって歯厚が減少する第1内側歯厚減少部と、を有し、
前記第1内側歯厚減少部は、前記外歯歯車との噛合い範囲において、外側領域と、前記外側領域の軸方向内側に設けられ、前記外側領域よりも歯厚の減少割合が大きい内側領域と、を有し、
前記外側領域と前記内側領域との境界は、歯厚の減少割合の変化率が不連続な箇所であり、前記外側領域の軸方向長さが、前記内側領域の軸方向長さよりも大きい、
撓み噛合い式歯車装置。
【請求項7】
前記内側領域の減少割合は、前記外側領域の減少割合の2.5倍以上である、
請求項6記載の撓み噛合い式歯車装置。
【請求項8】
前記外側領域の軸方向長さが、前記内側領域の軸方向長さの2倍以上である、
請求項6又は請求項7に記載の撓み噛合い式歯車装置。
【請求項9】
起振体と、前記起振体により撓み変形される外歯歯車と、前記外歯歯車と噛み合う第1内歯歯車と、前記第1内歯歯車と軸方向に並べて配置され、前記外歯歯車と噛み合う第2内歯歯車と、を備える撓み噛合い式歯車装置であって、
前記第1内歯歯車は、前記外歯歯車と噛み合う第1内歯部を有し、
前記第1内歯部は、歯厚が最大となる第1歯厚最大部と、前記第1歯厚最大部から軸方向内側に向かって歯厚が減少する第1内側歯厚減少部と、を有し、
前記第1内歯部と前記外歯歯車との噛合い範囲の内側端と、前記第1歯厚最大部との間において、軸方向内側1/3範囲の前記第1内側歯厚減少部の歯厚の減少割合が、軸方向外側2/3範囲の前記第1内側歯厚減少部の歯厚の減少割合の2.5倍以上である、
撓み噛合い式歯車装置。
【請求項10】
前記第1外歯部は、外径が最大となる第1外径最大部と、前記第1外径最大部から軸方向内側に向かって外径が減少する第1内側外径減少部と、を有し、
前記第1内側外径減少部は、前記第1内歯歯車との噛合い範囲において、外側領域と、該外側領域の軸方向内側に設けられ、該外側領域よりも外径の減少割合が大きい内側領域と、を有し、
前記第1内側外径減少部の前記外側領域と前記第1内側外径減少部の前記内側領域との境界は、外径の減少割合の変化率が不連続な箇所であり、
前記第1内側外径減少部の前記外側領域の軸方向長さが、前記第1内側外径減少部の前記内側領域の軸方向長さよりも大きい、
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の撓み噛合い式歯車装置。
【請求項11】
前記第1外歯部は、外径が最大となる第1外径最大部と、前記第1外径最大部から軸方向内側に向かって外径が減少する第1内側外径減少部と、を有し、
前記第1内歯歯車と前記第1外歯部との噛合い範囲の内側端と、前記第1外径最大部との間において、軸方向内側1/3範囲の前記第1内側外径減少部の外径の減少割合が、軸方向外側2/3範囲の前記第1内側外径減少部の外径の減少割合の2.5倍以上である、
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の撓み噛合い式歯車装置。
【請求項12】
前記第1内歯部は、外径が最大となる第1外径最大部と、前記第1外径最大部から軸方向内側に向かって外径が減少する第1内側外径減少部と、を有し、
前記第1内側外径減少部は、前記外歯歯車との噛合い範囲において、外側領域と、該外側領域の軸方向内側に設けられ、該外側領域よりも外径の減少割合が大きい内側領域と、を有し、
前記第1内側外径減少部の前記外側領域と前記第1内側外径減少部の前記内側領域との境界は、外径の減少割合の変化率が不連続な箇所であり、
前記第1内側外径減少部の前記外側領域の軸方向長さが、前記第1内側外径減少部の前記内側領域の軸方向長さよりも大きい、
請求項6から請求項9のいずれか一項に記載の撓み噛合い式歯車装置。
【請求項13】
前記第1内歯部は、外径が最大となる第1外径最大部と、前記第1外径最大部から軸方向内側に向かって外径が減少する第1内側外径減少部と、を有し、
前記第1内歯部と前記外歯歯車との噛合い範囲の内側端と、前記第1外径最大部との間において、軸方向内側1/3範囲の前記第1内側外径減少部の外径の減少割合が、軸方向外側2/3範囲の前記第1内側外径減少部の外径の減少割合の2.5倍以上である、
請求項6から請求項9のいずれか一項に記載の撓み噛合い式歯車装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撓み噛合い式歯車装置に関する。
【背景技術】
【0002】
起振体と、起振体により撓み変形される外歯歯車と、外歯歯車と噛み合う第1内歯歯車と、第1内歯歯車と軸方向に並べて配置され、前記外歯歯車と噛み合う第2内歯歯車と、を備える、いわゆるフラット型の撓み噛合い式歯車装置が知られている。
【0003】
特許文献1には、フラット型の撓み噛合い式歯車装置において、外歯歯車、第1内歯歯車又は第2内歯歯車の歯筋形状を工夫することで、歯の過度な摩耗を抑制する技術が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の撓み噛合い式歯車装置においては、歯の過度な摩耗を抑制するという効果が奏されるが、撓み噛合い式歯車装置のねじり剛性の観点において改善の余地があった。
【0006】
本発明は、歯の寿命の低下を抑制しつつ、ねじり剛性を向上できる撓み噛合い式歯車装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る撓み噛合い式歯車装置は、
起振体と、前記起振体により撓み変形される外歯歯車と、前記外歯歯車と噛み合う第1内歯歯車と、前記第1内歯歯車と軸方向に並べて配置され、前記外歯歯車と噛み合う第2内歯歯車と、を備える撓み噛合い式歯車装置であって、
前記外歯歯車は、前記第1内歯歯車と噛み合う第1外歯部と、前記第2内歯歯車と噛み合う第2外歯部と、を有し、
前記第1外歯部は、歯厚が最大となる第1歯厚最大部と、前記第1歯厚最大部から軸方向内側に向かって歯厚が減少する第1内側歯厚減少部と、を有し、
前記第1内側歯厚減少部は、前記第1内歯歯車との噛合い範囲において、外側領域と、前記外側領域の軸方向内側に設けられ、前記外側領域よりも歯厚の減少割合が大きい内側領域と、を有し、
前記外側領域と前記内側領域との境界は、歯厚の減少割合の変化率が不連続な箇所であり、前記外側領域の軸方向長さが、前記内側領域の軸方向長さよりも大きい。
【0008】
本発明のもう一つの態様に係る撓み噛合い式歯車装置は、
起振体と、前記起振体により撓み変形される外歯歯車と、前記外歯歯車と噛み合う第1内歯歯車と、前記第1内歯歯車と軸方向に並べて配置され、前記外歯歯車と噛み合う第2内歯歯車と、を備える撓み噛合い式歯車装置であって、
前記外歯歯車は、前記第1内歯歯車と噛み合う第1外歯部と、前記第2内歯歯車と噛み合う第2外歯部と、を有し、
前記第1外歯部は、歯厚が最大となる第1歯厚最大部と、前記第1歯厚最大部から軸方向内側に向かって歯厚が減少する第1内側歯厚減少部と、を有し、
前記第1内歯歯車と前記第1外歯部との噛合い範囲の内側端と、前記第1歯厚最大部との間において、軸方向内側1/3範囲の前記第1内側歯厚減少部の歯厚の減少割合が、軸方向外側2/3範囲の前記第1内側歯厚減少部の歯厚の減少割合の2.5倍以上である。
【0009】
本発明のもう一つの態様に係る撓み噛合い式歯車装置は、
起振体と、前記起振体により撓み変形される外歯歯車と、前記外歯歯車と噛み合う第1内歯歯車と、前記第1内歯歯車と軸方向に並べて配置され、前記外歯歯車と噛み合う第2内歯歯車と、を備える撓み噛合い式歯車装置であって、
前記第1内歯歯車は、前記外歯歯車と噛み合う第1内歯部を有し、
前記第1内歯部は、歯厚が最大となる第1歯厚最大部と、前記第1歯厚最大部から軸方向内側に向かって歯厚が減少する第1内側歯厚減少部と、を有し、
前記第1内側歯厚減少部は、前記外歯歯車との噛合い範囲において、外側領域と、前記外側領域の軸方向内側に設けられ、前記外側領域よりも歯厚の減少割合が大きい内側領域と、を有し、
前記外側領域と前記内側領域との境界は、歯厚の減少割合の変化率が不連続な箇所であり、前記外側領域の軸方向長さが、前記内側領域の軸方向長さよりも大きい。
【0010】
本発明のもう一つの態様に係る撓み噛合い式歯車装置は、
起振体と、前記起振体により撓み変形される外歯歯車と、前記外歯歯車と噛み合う第1内歯歯車と、前記第1内歯歯車と軸方向に並べて配置され、前記外歯歯車と噛み合う第2内歯歯車と、を備える撓み噛合い式歯車装置であって、
前記第1内歯歯車は、前記外歯歯車と噛み合う第1内歯部を有し、
前記第1内歯部は、歯厚が最大となる第1歯厚最大部と、前記第1歯厚最大部から軸方向内側に向かって歯厚が減少する第1内側歯厚減少部と、を有し、
前記第1内歯部と前記外歯歯車との噛合い範囲の内側端と、前記第1歯厚最大部との間において、軸方向内側1/3範囲の前記第1内側歯厚減少部の歯厚の減少割合が、軸方向外側2/3範囲の前記第1内側歯厚減少部の歯厚の減少割合の2.5倍以上である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、歯の寿命の低下を抑制しつつ、ねじり剛性を向上できる撓み噛合い式歯車装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施形態1に係る撓み噛合い式歯車装置を示す断面図である。
【
図2】
図1の外歯歯車、第1内歯歯車及び第2内歯歯車の形状を説明するための図である。
【
図3】
図1の外歯歯車の歯厚の減少割合及び減少割合の変化率を示す図である。
【
図4】
図1の外歯歯車、第1内歯歯車及び第2内歯歯車の形状を説明するための図である。
【
図5】
図1の外歯歯車の外径の減少割合及び減少割合の変化率を示す図である。
【
図6】実施形態2に係る撓み噛合い式歯車装置の外歯歯車、第1内歯歯車及び第2内歯歯車の形状を説明するための図である。
【
図7】実施形態2に係る撓み噛合い式歯車装置の外歯歯車、第1内歯歯車及び第2内歯歯車の形状を説明するための図である。
【
図8】実施形態3に係る撓み噛合い式歯車装置の外歯歯車、第1内歯歯車及び第2内歯歯車の形状を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の各実施形態について図面を参照して詳細に説明する。各図面に示される同一又は同等の構成要素、部材、工程には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図面における部材の寸法は、理解を容易にするために適宜拡大、縮小して示される。また、各図面において実施形態を説明する上で重要ではない部材の一部は省略して表示する。
【0014】
(実施形態1)
図1は、実施形態1に係る撓み噛合い式歯車装置100を示す断面図である。撓み噛合い式歯車装置100は、入力された回転を減速して出力する。撓み噛合い式歯車装置100は、いわゆるフラット型の撓み噛合い式歯車装置であり、波動発生器2と、波動発生器2により撓み変形される外歯歯車4と、外歯歯車4と噛み合う第1内歯歯車6と、第1内歯歯車6と軸方向に並べて(隣接して)配置され、外歯歯車4と噛み合う第2内歯歯車8と、ケーシング10と、第1規制部材12と、第2規制部材14と、主軸受16と、第1軸受ハウジング18と、第2軸受ハウジング20と、を備える。撓み噛合い式歯車装置100には、潤滑剤(例えばグリース)が封入されている。潤滑剤は、外歯歯車4と第1内歯歯車6及び第2内歯歯車8との噛み合い部や各軸受等を潤滑する。
【0015】
波動発生器2は、起振体軸22と、起振体軸22と外歯歯車4(の第1外歯部4a)との間に配置される第1起振体軸受21aと、起振体軸22と外歯歯車4(の第2外歯部4b)との間に配置される第2起振体軸受21bと、を有する。第1起振体軸受21aは、複数の第1転動体24aと、複数の第1転動体24aを保持する第1保持器26aと、外歯歯車4に内嵌される第1外輪部材28aと、を含む。第2起振体軸受21bは、複数の第2転動体24bと、複数の第2転動体24bを保持する第2保持器26bと、外歯歯車4に内嵌される第2外輪部材28bとを含む。起振体軸22は、入力軸であり、例えばモータ等の回転駆動源に接続され、回転軸Rを中心に回転する。起振体軸22には、回転軸Rに直交する断面が略楕円形状である起振体22aが一体に形成されている。
【0016】
複数の第1転動体24aはそれぞれ、略円柱形状を有し、軸方向が回転軸R方向と略平行な方向を向いた状態で周方向に間隔を空けて設けられる。第1転動体24aは、第1保持器26aにより転動自在に保持され、起振体22aの外周面22bを転走する。つまり、第1起振体軸受21aの内輪は、起振体22aの外周面22bと一体的に構成されているが、これに限らず、起振体22aとは別体の専用の内輪を備えてもよい。第2転動体24bは、第1転動体24aと同様に構成される。複数の第2転動体24bは、第1保持器26aと軸方向に並ぶように配置された第2保持器26bにより転動自在に保持され、起振体22aの外周面22bを転走する。つまり、第2起振体軸受21bの内輪は、起振体22aの外周面22bと一体的に構成されているが、これに限らず、起振体22aとは別体の専用の内輪を備えてもよい。以降では、第1転動体24aと第2転動体24bとをまとめて「転動体24」とも呼ぶ。また、第1保持器26aと第2保持器26bとをまとめて「保持器26」とも呼ぶ。
【0017】
第1外輪部材28aは、複数の第1転動体24aを環囲する。第1外輪部材28aは、可撓性を有し、複数の第1転動体24aを介して起振体22aにより楕円状に撓められる。第1外輪部材28aは、起振体22a(すなわち起振体軸22)が回転すると、起振体22aの形状に合わせて連続的に撓み変形する。第2外輪部材28bは、第1外輪部材28aと同様に構成される。第2外輪部材28bは、第1外輪部材28aとは別体として形成される。なお、第2外輪部材28bは、第1外輪部材28aと一体に形成されてもよい。以降では、第1外輪部材28aと第2外輪部材28bとをまとめて「外輪部材28」とも呼ぶ。
【0018】
外歯歯車4は、可撓性を有する環状の部材であり、その内側には起振体22a、転動体24及び外輪部材28が嵌まる。外歯歯車4は、起振体22a、転動体24及び外輪部材28が嵌まることによって楕円状に撓められる。外歯歯車4は、起振体22aが回転すると、起振体22aの形状に合わせて連続的に撓み変形する。外歯歯車4は、第1外輪部材28aの外側に位置する第1外歯部4aと、第2外輪部材28bの外側に位置する第2外歯部4bと、基材4cと、を含む。第1外歯部4aと第2外歯部4bは単一の基材である基材4cに形成されており、同歯数である。
【0019】
第1内歯歯車6は、剛性を有する環状の部材であり、その内周に第1内歯部6aが形成されている。第1内歯部6aは、楕円状に撓められた外歯歯車4の第1外歯部4aを環囲し、起振体22aの長軸近傍の所定領域(2領域)で第1外歯部4aと噛み合う。第1内歯部6aは、第1外歯部4aよりも多くの歯を有する。
【0020】
第2内歯歯車8は、第1内歯歯車6と軸方向に並べて(隣接して)配置される。第2内歯歯車8は、剛性を有する円筒状の部材であり、その内周に第2内歯部8aが形成されている。第2内歯部8aは、楕円状に撓められた外歯歯車4の第2外歯部4bを環囲し、起振体22aの長軸方向の所定領域(2領域)で第2外歯部4bと噛み合う。第2内歯部8aは、第2外歯部4bと同数の歯を有する。したがって、第2内歯歯車8は、第2外歯部4bひいては外歯歯車4の自転と同期して回転する。
【0021】
第1規制部材12は、平たいリング状の部材であり、外歯歯車4、第1外輪部材28a及び第1保持器26aと第1軸受ハウジング18との間に配置される。第2規制部材14は、平たいリング状の部材であり、外歯歯車4、第2外輪部材28b及び第2保持器26bと第2軸受ハウジング20との間に配置される。第1規制部材12及び第2規制部材14は、外歯歯車4、外輪部材28及び保持器26の軸方向の移動を規制する。
【0022】
ケーシング10は、略円筒状の部材であり、第2内歯歯車8を環囲する。ケーシング10には、第1内歯歯車6がインロー嵌合され、ボルト(不図示)により一体化される。ケーシング10と第2内歯歯車8との間には主軸受16が配置される。主軸受16は、本実施形態ではクロスローラ軸受であり、周方向に間隔を空けて設けられる複数のローラ(転動体)46を含む。複数のローラ46は、第2内歯歯車8の転走面8b及びケーシング10の転走面10aを転走する。つまり、第2内歯歯車8の外周側は主軸受16の内輪として機能し、ケーシング10の内周側は主軸受16の外輪として機能する。ケーシング10は、主軸受16を介して、第2内歯歯車8を相対回転自在に支持する。なお、主軸受16の軸受の種類は特に限定されるものではなく、例えば4点接触ボール軸受であってもよい。
【0023】
第1軸受ハウジング18は、環状の部材であり、起振体軸22を環囲する。同様に、第2軸受ハウジング20は、環状の部材であり、起振体軸22を環囲する。第1軸受ハウジング18と第2軸受ハウジング20とは、外歯歯車4、転動体24、保持器26、外輪部材28、第1規制部材12及び第2規制部材14を軸方向に挟むよう配置される。第1軸受ハウジング18は、第1内歯歯車6に対してインロー嵌合されボルト固定される。第2軸受ハウジング20は、第2内歯歯車8に対してインロー嵌合されボルト固定される。第1軸受ハウジング18の内周には軸受30が組み込まれ、第2軸受ハウジング20の内周には軸受32が組み込まれており、起振体軸22は、軸受30及び軸受32を介して、第1軸受ハウジング18及び第2軸受ハウジング20に対して回転自在に支持される。
【0024】
起振体軸22と第1軸受ハウジング18の間にはオイルシール40が配置され、第1軸受ハウジング18と第1内歯歯車6の間にはOリング34が配置され、第1内歯歯車6とケーシング10との間にはOリング36が配置され、ケーシング10と第2内歯歯車8との間にはオイルシール42が配置され、第2内歯歯車8と第2軸受ハウジング20との間にはOリング38が配置され、第2軸受ハウジング20と起振体軸22との間にはオイルシール44が配置される。これにより、撓み噛合い式歯車装置100内の潤滑剤が漏れるのを抑止できる。
【0025】
以上のように構成された撓み噛合い式歯車装置100の動作を説明する。ここでは、第1外歯部4aの歯数が100、第2外歯部4bの歯数が100、第1内歯部6aの歯数が102、第2内歯部8aの歯数が100の場合を例に説明する。また、第2内歯歯車8及び第2軸受ハウジング20が被駆動部材に連結される場合を例に説明する。
【0026】
第1外歯部4aが楕円形状の長軸方向の2箇所で第1内歯部6aと噛み合っている状態で、起振体軸22が回転すると、これに伴って第1外歯部4aと第1内歯部6aとの噛み合い位置も周方向に移動する。第1外歯部4aと第1内歯部6aとは歯数が異なるため、この際、第1内歯部6aに対して第1外歯部4aが相対的に回転する。第1内歯歯車6及び第1軸受ハウジング18が固定状態にあるため、第1外歯部4aは、歯数差に相当する分だけ自転することになる。つまり、起振体軸22の回転が大幅に減速されて第1外歯部4aに出力される。その減速比は以下のようになる。
減速比=(第1外歯部4aの歯数-第1内歯部6aの歯数)/第1外歯部4aの歯数
=(100-102)/100
=-1/50
【0027】
第2外歯部4bは、第1外歯部4aと一体的に形成されているため、第1外歯部4aと一体に回転する。第2外歯部4bと第2内歯部8aは歯数が同一であるため、相対回転は発生せず、第2外歯部4bと第2内歯部8aとは一体に回転する。このため、第1外歯部4aの自転と同一の回転が第2内歯部8aに出力される。結果として、第2内歯歯車8からは起振体軸22の回転を-1/50に減速した出力を取り出すことができる。
【0028】
続いて、外歯歯車4、第1内歯歯車6及び第2内歯歯車8の構成をさらに詳細に説明する。
【0029】
<歯筋形状>
図2は、
図1の外歯歯車、第1内歯歯車及び第2内歯歯車の歯筋形状を説明するための図である。
図2は、外歯歯車4のピッチ円を通る仮想円筒で切断した、外歯歯車4、第1内歯歯車6及び第2内歯歯車8の断面図を示す。
図2では、外歯歯車4の外歯の一つと周方向に隣接する二つの内歯を示しており、理解を容易にするため、第1内歯部6a及び第2内歯部8aを外歯歯車4から離れるように周方向にスライドさせた状態を示し、また歯部の歯面の形状を誇張して描いている。
図2において、横軸は、ある基準位置からの軸方向の位置である。縦軸は、周方向の寸法を示す。つまり、縦軸は、外歯歯車4の外歯の歯厚を示しているとも言える。また、
図2において、平面P1は、回転軸R(
図2では不図示)に直交する仮想平面であって、第1外歯部4aと第1内歯部6aとの噛合い範囲Waの軸方向における中央を通る仮想平面を示す。本実施形態では、第1内歯部6aは、第1外歯部4aよりも軸方向の長さが短く、軸方向における全範囲で第1外歯部4aと噛み合っている。したがって、第1外歯部4aと第1内歯部6aとの噛合い範囲Waの軸方向の長さは第1内歯部6aの軸方向の長さと等しく、平面P1は第1内歯部6aの軸方向における中央を通る。また、平面P2は、回転軸Rに直交する仮想平面であって、第2外歯部4bと第2内歯部8aとの噛合い範囲Wbの軸方向における中央を通る仮想平面を示す。本実施形態では、第2内歯部8aは、第2外歯部4bよりも軸方向の長さが短く、軸方向における全範囲で第2外歯部4bと噛み合っている。したがって、第2外歯部4bと第2内歯部8aとの噛合い範囲Wbの軸方向の長さは第2内歯部8aの軸方向の長さと等しく、平面P2は第2内歯部8aの軸方向における中央を通る。
【0030】
第1外歯部4aは、軸方向において、歯厚が最大となる第1歯厚最大部4a1と、第1歯厚最大部4a1から軸方向内側に向かって(すなわち第1外歯部4aと第2外歯部4bの間の中央に近づく方向に向かって)歯厚が減少する第1内側歯厚減少部4a2と、を有する。
【0031】
第1歯厚最大部4a1は、軸方向において、第1外歯部4aと第1内歯部6aとの噛合い範囲Wa内に位置し、かつ、当該噛合い範囲Waの軸方向における中央(P1)よりも外側に位置する。第1歯厚最大部4a1は、軸方向において、1点であってもよいし長さを有していてもよい。
【0032】
第1内側歯厚減少部4a2は、第1内歯部6aとの噛合い範囲Waにおいて、軸方向外側の外側領域4a2oと、外側領域4a2oの軸方向内側に設けられ、外側領域4a2oよりも歯厚の減少割合が大きい内側領域4a2iと、を有する。外側領域4a2oと内側領域4a2iとの境界E1は、歯厚の減少割合の変化率が不連続な箇所である。外側領域4a2oの軸方向長さは、内側領域4a2iの軸方向長さよりも大きい。
【0033】
上記のように、第1内側歯厚減少部4a2があることで、第1外歯部4a及び第1内歯部6aの内側歯幅端に生じる片当たり荷重を低減でき、歯車の過度な摩耗を低減できる。さらに、第1内側歯厚減少部4a2が、上記の歯厚の減少割合を有する外側領域4a2oと内側領域4a2iとを有することで、歯厚を内側歯幅端にかけて減少させつつ、歯幅中央の歯厚の減少を抑えられる。したがって、外歯歯車4の剛性が向上し、撓み噛合い式歯車装置100のねじり剛性が向上する。さらに、歯厚の減少割合の変化率が不連続に変わる内側領域4a2iにより、上記剛性の向上を達成しつつ、噛合い範囲Waの内側の領域における歯面圧の上昇を抑えることができる。当該領域に生じる歯面圧は、第1外歯部4a及び第1内歯部6aのピッチング疲労を進行させる要素を含むことから、上記面圧の上昇を抑えることで歯面のピッチング寿命の低下を抑制することができる。
【0034】
ここで、外側領域4a2oと内側領域4a2iとの境界E1が、歯厚の減少割合の変化率が不連続な箇所であることを示す。
図3は、
図1の外歯歯車の歯厚の減少割合及び減少割合の変化率を示す図である。歯厚とは、歯厚中心面S4から歯面までの距離を意味する。
図3の「減少割合」のグラフに示すように、第1内側歯厚減少部4a2の歯厚の減少割合は、連続し、かつ、軸方向内側に近いほど大きくなっている。さらに、「減少割合の変化率」のグラフに示すように、減少割合の変化率は、境界E1において不連続になっている。なお、減少割合の変化率が不連続とは、完全な不連続に限られず、変化率がステップ状に変化しているものを含むものとする。ステップ状の変化とは、例えば軸方向の微小区間Δxの一端と他端との間にΔy以上の変化率の差異が含まれる場合と定義されてもよい。微小区間Δxは、内側領域4a2iと外側領域4a2oとの合計の軸方向長さの5%の区間とし、差異Δyは、内側領域4a2i及び外側領域4a2oにおける変化率の最大値と最小値との差異の30%とする。
【0035】
さらに第1外歯部4aの詳細な形状について説明する。
図2に示すように、第1外歯部4aは、噛合い範囲Waの内側端から外歯歯車4の軸方向中央までに歯厚を有する第1追加内側領域4a4を有し、内側領域4a2iと第1追加内側領域4a4との軸方向長さの合計よりも外側領域4a2oの軸方向長さが大きくてもよい。当該構成によれば、第1内歯部6aと第2内歯部8aとの離間距離に応じた外歯歯車4の剛性向上と各歯面のピッチング寿命の向上を図ることができる。第1追加内側領域4a4は、内側領域4a2iに連続する歯厚の減少割合を有していてもよいし、外歯歯車4の軸方向中央の近傍で歯厚が一定又は中央に近づくほど歯厚が増加していてもよい。第1追加内側領域4a4は、第1内側歯厚減少部4a2の一部とオーバーラップしていてもよい。
【0036】
内側領域4a2iの減少割合は、外側領域4a2oの減少割合の2.5倍以上であってもよく、3.1倍以上であると好ましい。当該構成によれば、第1外歯部4a及び第1内歯部6aのピッチング寿命の低下を抑制しつつ、外歯歯車4の剛性をより向上できる。ここで、軸方向の任意の領域について歯厚の減少割合と言ったとき、当該減少割合は「(上記領域の一端の歯厚と他端の歯厚との差)/(上記領域の一端から他端までの軸方向長さ)」と定義される。したがって、外側領域4a2oの歯厚の減少割合は、点p1、点p2の間の線分q1の傾きに相当する。内側領域4a2iの歯厚の減少割合は、点p2、点p3の間の線分q2の傾きに相当する。なお、前述の
図3に示した減少割合は、軸方向における各点の減少割合を意味する。歯厚の減少割合と減少割合の変化率とを求める場合には、歯厚に対して軸方向に一定間隔でとった各位置での減少量を求め、求めた各位置での減少量から、前述の各位置間における減少割合および減少割合の変化率を算出すればよい。上記の一定間隔の例としては、0.1mmや0.2mm間隔を採用してもよい。
【0037】
外側領域4a2oの軸方向長さは、内側領域4a2iの軸方向長さの2倍以上であってもよい。当該構成によれば、第1外歯部4a及び第1内歯部6aのピッチング寿命の低下を抑制しつつ、外歯歯車4の剛性をより向上できる。
【0038】
内側領域4a2iの歯筋形状を示す曲線と、外側領域4a2oの歯筋形状を示す曲線とは、異なる関数によって表わされる曲線であってもよい。
【0039】
なお、第1内歯歯車6と第1外歯部4aとの噛合い範囲Waの内側端(点p3)と、第1歯厚最大部4a1との間において、軸方向内側1/3範囲T1の第1内側歯厚減少部4a2の歯厚の減少割合が、軸方向外側2/3範囲T2の第1内側歯厚減少部4a2の歯厚の減少割合の2.5倍以上であってもよく、3.1倍以上であると好ましい。当該構成によっても、第1外歯部4a及び第1内歯部6aの内側歯幅端に生じる片当たり荷重を低減でき、歯車の過度な摩耗を低減できる。さらに、軸方向外側2/3範囲T2の歯厚の減少により、歯厚を内側歯幅端にかけて減少させつつ、歯幅中央の歯厚の減少を抑えることができ、外歯歯車4の剛性を向上できる。したがって、撓み噛合い式歯車装置100のねじり剛性が向上する。さらに、軸方向内側1/3範囲T1の歯厚の減少により、上記剛性の向上を達成しつつ、噛合い範囲Waの内側の領域における歯面圧の上昇を抑えることができる。当該領域に生じる歯面圧は、第1外歯部4a及び第1内歯部6aのピッチング疲労を進行させる要素を含むことから、上記面圧の上昇を抑えることで歯面のピッチング寿命の低下を抑制することができる。
【0040】
第1外歯部4aは、さらに、第1歯厚最大部4a1から軸方向外側に向かって(すなわち第1外歯部4aと第2外歯部4bの間の中央から遠ざかる方向に向かって)、歯厚が減少する第1外側歯厚減少部4a3を備えていてもよい。当該構成によれば、第1外歯部4a及び第1内歯部6aの外側歯幅端に生じる片当たり荷重を低減でき、外側歯幅端においても歯車の過度な摩耗を低減できる。
【0041】
<第2外歯部4bの歯筋形状>
第2外歯部4bは、
図2に示すように、軸方向において、歯厚が最大となる第2歯厚最大部4b1と、第2歯厚最大部4b1から軸方向内側に向かって(すなわち第1外歯部4aと第2外歯部4bの間の中央に近づく方向に向かって)歯厚が減少する第2内側歯厚減少部4b2と、第2歯厚最大部4b1から軸方向外側に向かって(すなわち第2外歯部4bと第2外歯部4bの間の中央から遠ざかる方向に向かって)歯厚が減少する第2外側歯厚減少部4b3とを備える。
【0042】
第2内側歯厚減少部4b2は、第2内歯部8aとの噛合い範囲Wbにおいて、軸方向外側の外側領域4b2oと、外側領域4b2oの軸方向内側に設けられ、外側領域4b2oよりも歯厚の減少割合が大きい内側領域4b2iと、を有する。外側領域4b2oと内側領域4b2iとの境界E2は、歯厚の減少割合の変化率が不連続な箇所である。
【0043】
第2内側歯厚減少部4b2は、さらに、噛合い範囲Wbの内側端から外歯歯車4の軸方向中央までに歯厚を有する第2追加内側領域4b4を有する。
【0044】
第2外歯部4bの各構成要素(第2歯厚最大部4b1、第2内側歯厚減少部4b2、第2外側歯厚減少部4b3、第2外歯部4bと第2内歯部8aとの噛合い範囲Wb、外側領域4b2o、内側領域4b2i及び第2追加内側領域4b4)は、第1外歯部4aの各構成要素(第1歯厚最大部4a1、第1内側歯厚減少部4a2、第1外側歯厚減少部4a3、第1外歯部4aと第1内歯部6aとの噛合い範囲Wa、外側領域4a2o、内側領域4a2i及び第1追加内側領域4a4)と、同様の特徴及び各構成要素間の同様の関係を有していてもよい。当該同様の特徴又は当該同様の関係を有することにより、第2外歯部4b及び第2内歯部8aの噛合い箇所においても同様の作用効果が奏される。
【0045】
なお、実施形態1における第1外歯部4aは、本発明に係る第1外歯部の一例に相当するが、実施形態1における第2外歯部4bが、本発明に係る第1外歯部の一例に相当すると見なすこともできる。
【0046】
<歯先形状>
図4は、
図1の外歯歯車、第1内歯歯車及び第2内歯歯車の歯先形状を説明するための図である。
図4では、周方向から見た第1外歯部4a及び第2外歯部4bの歯先と、第1内歯部6aと第2内歯部8aとの歯先とを示す。
図4では、理解を容易にするため、第1内歯部6aの歯先及び第2内歯部8aの歯先を、外歯歯車4から離れるように径方向外側にスライドさせた状態を示す。
図4において、横軸は、ある基準位置からの軸方向の位置である。縦軸には、径方向の寸法を示す。また、
図4において、中心線C1は、回転軸R(
図3では不図示)に直交する線であって、第1外歯部4aと第1内歯部6aとの噛合い範囲Waの軸方向における中央を通る線を示す。本実施形態では、第1内歯部6aは、第1外歯部4aよりも軸方向の長さが短く、軸方向における全範囲で第1外歯部4aと噛み合っている。したがって、第1外歯部4aと第1内歯部6aとの噛合い範囲Waの軸方向の長さは第1内歯部6aの軸方向の長さと等しく、中心線C1は第1内歯部6aの歯先の軸方向における中央を通る。また、中心線C2は、回転軸Rに直交する線であって、第2外歯部4bと第2内歯部8aとの噛合い範囲Wbの軸方向における中央を通る線を示す。本実施形態では、第2内歯部8aは、第2外歯部4bよりも軸方向の長さが短く、軸方向における全範囲で第2外歯部4bと噛み合っている。したがって、第2外歯部4bと第2内歯部8aとの噛合い範囲Wbの軸方向の長さは第2内歯部8aの軸方向の長さと等しく、中心線C2は第2内歯部8aの歯先の軸方向における中央を通る。
【0047】
第1外歯部4aは、軸方向において、外径が最大となる第1外径最大部4a6と、第1外径最大部4a6から軸方向内側に向かって(すなわち第1外歯部4aと第2外歯部4bの間の中央に近づく方向に向かって)外径が減少する第1内側外径減少部4a7と、を有する。
【0048】
第1外径最大部4a6は、軸方向において、第1外歯部4aと第1内歯部6aとの噛合い範囲Wa内に位置し、かつ、当該噛合い範囲Waの軸方向における中央(C1)よりも外側に位置する。第1外径最大部4a6は、軸方向において、1点であってもよいし長さを有していてもよい。
【0049】
第1内側外径減少部4a7は、第1内歯部6aとの噛合い範囲Waにおいて、軸方向外側の外側領域4a7oと、外側領域4a7oの軸方向内側に設けられ、外側領域4a7oよりも外径の減少割合が大きい内側領域4a7iと、を有する。外側領域4a7oと内側領域4a7iとの境界E6は、外径の減少割合の変化率が不連続な箇所である。外側領域4a7oの軸方向長さは、内側領域4a7iの軸方向長さよりも大きい。
【0050】
上記のように、第1内側外径減少部4a7があることで、第1外歯部4a及び第1内歯部6aの内側歯幅端に生じる片当たり荷重を低減でき、歯車の過度な摩耗を低減できる。さらに、第1内側外径減少部4a7が、上記の外径の減少割合を有する外側領域4a7oと内側領域4a7iとを有することで、外径を内側歯幅端にかけて減少させつつ、歯幅中央の外径の減少を抑えられる。したがって、外歯歯車4の剛性が向上し、撓み噛合い式歯車装置100のねじり剛性が向上する。さらに、外径の減少割合の変化率が不連続に変わる内側領域4a7iにより、上記剛性の向上を達成しつつ、噛合い範囲Waの内側の領域における歯面圧の上昇を抑えることができる。当該領域に生じる歯面圧は、第1外歯部4a及び第1内歯部6aのピッチング疲労を進行させる要素を含むことから、上記面圧の上昇を抑えることで歯面のピッチング寿命の低下を抑制することができる。
【0051】
ここで、外側領域4a2oと内側領域4a2iとの境界E6が、外径の減少割合の変化率が不連続な箇所であることを示す。
図5は、
図1の外歯歯車の外径の減少割合及び減少割合の変化率を示す図である。
図5の「外径の減少割合」のグラフに示すように、第1内側外径減少部4a7の外径の減少割合は、連続し、かつ、軸方向内側に近いほど大きくなっている。さらに、「減少割合の変化率」のグラフに示すように、減少割合の変化率は、境界E6において不連続になっている。なお、減少割合の変化率が不連続とは、完全な不連続に限られず、変化率がステップ状に変化しているものを含むものとする。ステップ状の変化とは、例えば軸方向の微小区間Δxの一端と他端との間にΔy以上の変化率の差異が含まれる場合と定義されてもよい。微小区間Δxは、内側領域4a7iと外側領域4a7oとの合計の軸方向長さの5%の区間とし、差異Δyは、内側領域4a7i及び外側領域4a7oにおける変化率の最大値と最小値との差異の30%とする。なお、外径の減少割合と減少割合の変化率とを求める場合には、外径に対して軸方向に一定間隔でとった各位置での減少量を求め、求めた各位置での減少量から、前述の各位置間における減少割合および減少割合の変化率を算出すればよい。上記の一定間隔の例としては、0.1mmや0.2mm間隔を採用してもよい。
【0052】
さらに第1外歯部4aの詳細な形状について説明する。
図4に示すように、第1外歯部4aは、噛合い範囲Waの内側端から外歯歯車4の軸方向中央までに外径を有する第1追加内側領域4a9を有し、内側領域4a7iと第1追加内側領域4a9との軸方向長さの合計よりも外側領域4a7oの軸方向長さが大きくてもよい。当該構成によれば、第1内歯部6aと第2内歯部8aとの離間距離に応じた外歯歯車4の剛性向上と各歯面のピッチング寿命の向上を図ることができる。第1追加内側領域4a9は、内側領域4a7iに連続する外径の減少割合を有していてもよいし、外歯歯車4の軸方向中央の近傍で外径が一定又は中央に近づくほど外径が増加していてもよい。第1追加内側領域4a9は、第1内側外径減少部4a7の一部とオーバーラップしていてもよい。
【0053】
内側領域4a7iの減少割合は、外側領域4a7oの減少割合の2.5倍以上であってもよく、3.1倍以上であると好ましい。当該構成によれば、第1外歯部4a及び第1内歯部6aのピッチング寿命の低下を抑制しつつ、外歯歯車4の剛性をより向上できる。ここで、軸方向の任意の領域について外径の減少割合と言ったとき、当該減少割合は「(上記領域の一端の外径と他端の外径との差)/(上記領域の一端から他端までの軸方向長さ)」と定義される。したがって、外側領域4a7oの外径の減少割合は、点p5、点p6の間の線分q5の傾きに相当する。内側領域4a7iの外径の減少割合は、点p6、点p7の間の線分q6の傾きに相当する。なお、前述の
図5に示した減少割合は、軸方向における各点の減少割合を意味する。
【0054】
外側領域4a7oの軸方向長さは、内側領域4a7iの軸方向長さの2倍以上であってもよい。当該構成によれば、第1外歯部4a及び第1内歯部6aのピッチング寿命の低下を抑制しつつ、外歯歯車4の剛性をより向上できる。
【0055】
内側領域4a7iの歯先形状を示す曲線と、外側領域4a7oの歯先形状を示す曲線とは、異なる関数によって表わされる曲線であってもよい。
【0056】
なお、第1内歯歯車6と第1外歯部4aとの噛合い範囲Waの内側端(点p7)と、第1外径最大部4a6との間において、軸方向内側1/3範囲T5の第1内側外径減少部4a7の外径の減少割合が、軸方向外側2/3範囲T6の第1内側外径減少部4a7の外径の減少割合の2.5倍以上であってもよく、3.1倍以上であると好ましい。当該構成によっても、第1外歯部4a及び第1内歯部6aの内側歯幅端に生じる片当たり荷重を低減でき、歯車の過度な摩耗を低減できる。さらに、軸方向外側2/3範囲T6の外径の減少により、外径を内側歯幅端にかけて減少させつつ、歯幅中央の外径の減少を抑えることができ、外歯歯車4の剛性を向上できる。したがって、撓み噛合い式歯車装置100のねじり剛性が向上する。さらに、軸方向内側1/3範囲T5の外径の減少により、上記剛性の向上を達成しつつ、噛合い範囲Waの内側の領域における歯面圧の上昇を抑えることができる。当該領域に生じる歯面圧は、第1外歯部4a及び第1内歯部6aのピッチング疲労を進行させる要素を含むことから、上記面圧の上昇を抑えることで歯面のピッチング寿命の低下を抑制することができる。
【0057】
第1外歯部4aは、さらに、第1外径最大部4a6から軸方向外側に向かって(すなわち第1外歯部4aと第2外歯部4bの間の中央から遠ざかる方向に向かって)、外径が減少する第1外側外径減少部4a8を備えていてもよい。当該構成によれば、第1外歯部4a及び第1内歯部6aの外側歯幅端に生じる片当たり荷重を低減でき、外側歯幅端においても歯車の過度な摩耗を低減できる。
【0058】
なお、第1外歯部4aは、前述した歯筋形状を有する一方、上記の歯先形状を有さなくてもよい。例えば歯先形状はフラットであってもよいし、他の凹凸及び/又は他の曲線を有する形状であってもよい。この場合でも、歯筋形状の説明で示した歯厚に基づく作用効果が奏される。
【0059】
<第2外歯部4bの歯先形状>
第2外歯部4bは、
図4に示すように、軸方向において、外径が最大となる第2外径最大部4b6と、第2外径最大部4b6から軸方向内側に向かって(すなわち第1外歯部4aと第2外歯部4bの間の中央に近づく方向に向かって)外径が減少する第2内側外径減少部4b7と、第2外径最大部4b6から軸方向外側に向かって(すなわち第2外歯部4bと第2外歯部4bの間の中央から遠ざかる方向に向かって)外径が減少する第2外側外径減少部4b8とを備える。
【0060】
第2内側外径減少部4b7は、第2内歯部8aとの噛合い範囲Wbにおいて、軸方向外側の外側領域4b7oと、外側領域4b7oの軸方向内側に設けられ、外側領域4b7oよりも外径の減少割合が大きい内側領域4b7iと、を有する。外側領域4b7oと内側領域4b7iとの境界E7は、外径の減少割合の変化率が不連続な箇所である。
【0061】
第2内側外径減少部4b7は、さらに、噛合い範囲Wbの内側端から外歯歯車4の軸方向中央までに外径を有する第2追加内側領域4b9を有する。
【0062】
第2外歯部4bにおける上記の構成要素(第2外径最大部4b6、第2内側外径減少部4b7、第2外側外径減少部4b8、第2外歯部4bと第2内歯部8aとの噛合い範囲Wb、外側領域4b7o、内側領域4b7i及び第2追加内側領域4b9)は、第1外歯部4aの各構成要素(第1外径最大部4a6、第1内側外径減少部4a7、第1外側外径減少部4a8、第1外歯部4aと第1内歯部6aとの噛合い範囲Wa、外側領域4a7o、内側領域4a7i及び第1追加内側領域4a9)と、同様の特徴及び各構成要素間の同様の関係を有していてもよい。当該同様の特徴又は当該同様の関係を有することにより、第2外歯部4b及び第2内歯部8aの噛合い箇所においても同様の作用効果が奏される。
【0063】
なお、第2外歯部4bは、前述の歯筋形状を有する一方、上記の歯先形状を有さなくてもよい。例えば歯先形状はフラットであってもよいし、他の凹凸及び/又は他の曲線を有する形状であってもよい。この場合でも、歯筋形状の説明で示した歯厚に基づく作用効果が奏される。
【0064】
<第1内歯部6a及び第2内歯部8aの形状>
第1内歯部6aの歯筋形状は、その歯厚中心面(不図示)に対して対称で、かつ、軸方向において歯厚が実質的に一定の形状である。第1内歯部6aの歯先形状はフラットである。同様に、第2内歯部8aの歯筋形状は、その歯厚中心面(不図示)に対して対称で、かつ、軸方向において歯厚が実質的に一定の形状である。第2内歯部8aの歯先形状はフラットである。
【0065】
<歯の全体的な形状>
第1外歯部4aは、歯厚中心面S4(
図2)に対して対称な形状を有していてもよいし、一部非対称な部分が含まれてもよい。歯厚中心面S4とは、回転軸Rを含む面であって、歯厚が最大である最厚部の歯厚方向における中央を通る面をいう。同様に、第2外歯部4bは、歯厚中心面S4(
図2)に対して対称な形状を有していてもよいし、一部非対称な部分が含まれてもよい。
【0066】
また、前述の第1外歯部4a及び第2外歯部4bの歯筋形状の説明では、外歯歯車4のピッチ円に沿った円筒断面の形状として説明した。しかし、ピッチ円に沿った円筒断面から径方向に変位した円筒断面においても、第1外歯部4a及び第2外歯部4bは、同様の歯筋形状を有する。同様の歯筋形状は、歯底から歯先近傍までのいずれの半径の円筒断面においても、同様に存在していてもよいし、いずれかの半径範囲に同様の歯筋形状を有さない円筒断面が含まれていてもよい。円筒断面とは回転軸Rを中心とする円筒面に沿った断面を意味する。
【0067】
なお、第1内側歯厚減少部4a2、第1外側歯厚減少部4a3、第2内側歯厚減少部4b2、第2外側歯厚減少部4b3の各減少部では、2つの歯面はそれぞれ、軸方向に対する歯厚中心面S4との距離の減少割合が次式を満たすように構成される。
減少割合=歯面と歯厚中心との距離の減少量(mm)/軸方向の移動量(mm)
≦0.05 (式1)
ここで、一般的に、面取りの場合の軸方向に対する歯面と歯厚中心面S4との距離の減少割合は次式を満たす。
面取りによる歯面と歯厚中心面S4との距離の減少量(mm)
/軸方向の移動量(mm)≧0.5 (式2)
したがって、各歯厚減少部と面取りとは、オーダーが異なり、明らかに区別される。
【0068】
また、第1内側外径減少部4a7、第1外側外径減少部4a8、第2内側外径減少部4b7及び第2外側外径減少部4b8の各減少部は、軸方向に対する外径の減少割合が次式を満たすように構成される。
減少割合=外径(直径)の減少量(mm)/軸方向の移動量(mm)
≦0.1 (式3)
ここで、一般的に、面取りの場合の軸方向に対する外径の減少割合は次式を満たす。
面取りの外径(直径)の減少量(mm)/軸方向の移動量(mm)
≧1.15 (式4)
したがって、各外径減少部と面取りとは、オーダーが異なり、明らかに区別される。
【0069】
(実施形態2)
図6は、実施形態2に係る撓み噛合い式歯車装置の外歯歯車、第1内歯歯車及び第2内歯歯車の形状を説明するための図である。実施形態2は、第1外歯部4a、第2外歯部4b、第1内歯部6a及び第2内歯部8aの形状が異なる一方、他の要素は実施形態1と同様である。
図6は、
図2に準じた方法で、外歯歯車4の第1外歯部4a及び第2外歯部4b、第1内歯歯車6の第1内歯部6a、並びに、第2内歯歯車8の第2内歯部8aの形状を示している。
図6において、中央面P0、平面P1、P2、歯厚中心面S4は、実施形態1で説明した通りである。歯厚中心面S6は、回転軸Rを含む面であって、第1内歯部6aの歯厚が最大である最厚部の歯厚方向における中央を通る面をいう。歯厚中心面S8は、回転軸Rを含む面であって、第2内歯部8aの歯厚が最大である最厚部の歯厚方向における中央を通る面をいう。
【0070】
<歯筋形状>
第1内歯部6aは、軸方向において、歯厚が最大となる第1歯厚最大部6a1と、第1歯厚最大部6a1から軸方向内側に向かって(すなわち第1内歯部6aと第2内歯部8aの間の中央に近づく方向に向かって)歯厚が減少する第1内側歯厚減少部6a2と、を有する。
【0071】
第1歯厚最大部6a1は、軸方向において、第1外歯部4aと第1内歯部6aとの噛合い範囲Wa内に位置し、かつ、当該噛合い範囲Waの軸方向における中央(P1)よりも外側に位置する。第1歯厚最大部6a1は、軸方向において、1点であってもよいし長さを有していてもよい。
【0072】
第1内側歯厚減少部6a2は、第1外歯部4aとの噛合い範囲Waにおいて、軸方向外側の外側領域6a2oと、外側領域6a2oの軸方向内側に設けられ、外側領域6a2oよりも歯厚の減少割合が大きい内側領域6a2iと、を有する。外側領域6a2oと内側領域6a2iとの境界E11は、歯厚の減少割合の変化率が不連続な箇所である。外側領域6a2oの軸方向長さは、内側領域6a2iの軸方向長さよりも大きい。
【0073】
上記のように、第1内側歯厚減少部6a2があることで、第1外歯部4a及び第1内歯部6aの内側歯幅端に生じる片当たり荷重を低減でき、歯車の過度な摩耗を低減できる。さらに、第1内側歯厚減少部6a2が、上記の歯厚の減少割合を有する外側領域6a2oと内側領域6a2iとを有することで、歯厚を内側歯幅端にかけて減少させつつ、歯幅中央の歯厚の減少を抑えられる。したがって、第1内歯歯車6の剛性が向上し、撓み噛合い式歯車装置100のねじり剛性が向上する。さらに、歯厚の減少割合の変化率が不連続に変わる内側領域6a2iにより、上記剛性の向上を達成しつつ、噛合い範囲Waの内側の領域における歯面圧の上昇を抑えることができる。当該領域に生じる歯面圧は、第1外歯部4a及び第1内歯部6aのピッチング疲労を進行させる要素を含むことから、上記面圧の上昇を抑えることで歯面のピッチング寿命の低下を抑制することができる。
【0074】
内側領域6a2iの減少割合は、外側領域6a2oの減少割合の2.5倍以上であってもよく、3.1倍以上であると好ましい。当該構成によれば、第1外歯部4a及び第1内歯部6aのピッチング寿命の低下を抑制しつつ、第1内歯歯車6の剛性をより向上できる。外側領域6a2oの歯厚の減少割合は、点p11、点p12の間の線分q11の傾きに相当する。内側領域6a2iの歯厚の減少割合は、点p12、点p13の間の線分q12の傾きに相当する。
【0075】
外側領域6a2oの軸方向長さは、内側領域6a2iの軸方向長さの2倍以上であってもよい。当該構成によれば、第1内歯部6a及び第1外歯部4aのピッチング寿命の低下を抑制しつつ、第1内歯歯車6の剛性をより向上できる。
【0076】
内側領域6a2iの歯筋形状を示す曲線と、外側領域6a2oの歯筋形状を示す曲線とは、異なる関数によって表わされる曲線であってもよい。
【0077】
なお、外歯歯車4と第1内歯歯車6との噛合い範囲Waの内側端(点p12)と、前記第1歯厚最大部6a1との間において、軸方向内側1/3範囲T11の第1内側歯厚減少部6a2の歯厚の減少割合が、軸方向外側2/3範囲T12の第1内側歯厚減少部6a2の歯厚の減少割合の2.5倍以上であってもよく、3.1倍以上であると好ましい。当該構成によっても、第1外歯部4a及び第1内歯部6aの内側歯幅端に生じる片当たり荷重を低減でき、歯車の過度な摩耗を低減できる。さらに、軸方向外側2/3範囲T12の歯厚の減少により、歯厚を内側歯幅端にかけて減少させつつ、歯幅中央の歯厚の減少を抑えることができ、第1内歯歯車6の剛性を向上できる。したがって、撓み噛合い式歯車装置100のねじり剛性が向上する。さらに、軸方向内側1/3範囲T11の歯厚の減少により、上記剛性の向上を達成しつつ、噛合い範囲Waの内側の領域における歯面圧の上昇を抑えることができる。当該領域に生じる歯面圧は、第1外歯部4a及び第1内歯部6aのピッチング疲労を進行させる要素を含むことから、上記面圧の上昇を抑えることで歯面のピッチング寿命の低下を抑制することができる。
【0078】
第1内歯部6aは、さらに、第1歯厚最大部6a1から軸方向外側に向かって(すなわち第1内歯部6aと第2内歯部8aの間の中央から遠ざかる方向に向かって)、歯厚が減少する第1外側歯厚減少部6a3を備えていてもよい。当該構成によれば、第1外歯部4a及び第1内歯部6aの外側歯幅端に生じる片当たり荷重を低減でき、外側歯幅端においても歯車の過度な摩耗を低減できる。
【0079】
<第2内歯部8aの歯筋形状>
第2内歯部8aは、軸方向において、歯厚が最大となる第2歯厚最大部8a1と、第2歯厚最大部8a1から軸方向内側に向かって(すなわち第1内歯部6aと第2内歯部8aの間の中央に近づく方向に向かって)歯厚が減少する第2内側歯厚減少部8a2と、第2歯厚最大部8a1から軸方向外側に向かって(すなわち第1内歯部6aと第2内歯部8aの間の中央から遠ざかる方向に向かって)歯厚が減少する第2外側歯厚減少部8a3とを備える。
【0080】
第2内側歯厚減少部8a2は、第2外歯部4bとの噛合い範囲Wbにおいて、軸方向外側の外側領域8a2oと、外側領域8a2oの軸方向内側に設けられ、外側領域8a2oよりも歯厚の減少割合が大きい内側領域8a2iと、を有する。外側領域8a2oと内側領域8a2iとの境界E12は、歯厚の減少割合の変化率が不連続な箇所である。
【0081】
第2内歯部8aの各構成要素(第2歯厚最大部8a1、第2内側歯厚減少部8a2、第2外側歯厚減少部8a3、第2外歯部4bと第2内歯部8aとの噛合い範囲Wb、外側領域8a2o及び内側領域8a2i)は、第1内歯部6aの各構成要素(第1歯厚最大部6a1、第1内側歯厚減少部6a2、第1外側歯厚減少部6a3、第1外歯部4aと第1内歯部6aとの噛合い範囲Wa、外側領域6a2o及び内側領域6a2i)と、同様の特徴及び各構成要素間の同様の関係を有していてもよい。当該同様の特徴又は当該同様の関係を有することにより、第2外歯部4b及び第2内歯部8aの噛合い箇所においても同様の作用効果が奏される。
【0082】
<歯先形状>
図7は、実施形態2に係る撓み噛合い式歯車装置の外歯歯車、第1内歯歯車及び第2内歯歯車の形状を説明するための図である。
図7は、
図3に準じた方法で、外歯歯車4の第1外歯部4a及び第2外歯部4b、第1内歯歯車6の第1内歯部6a、並びに、第2内歯歯車8の第2内歯部8aの形状を示している。
図7において、中央面P0、中心線C1、中心線C2は、実施形態1で示した通りである。
【0083】
第1内歯部6aは、軸方向において、外径が最大となる第1外径最大部6a6と、第1外径最大部6a6から軸方向内側に向かって(すなわち第1内歯部6aと第2内歯部8aの間の中央に近づく方向に向かって)外径が減少する第1内側外径減少部6a7と、を有する。
【0084】
第1外径最大部6a6は、軸方向において、第1外歯部4aと第1内歯部6aとの噛合い範囲Wa内に位置し、かつ、当該噛合い範囲Waの軸方向における中央(C1)よりも外側に位置する。第1外径最大部6a6は、軸方向において、1点であってもよいし長さを有していてもよい。
【0085】
第1内側外径減少部6a7は、第1外歯部4aとの噛合い範囲Waにおいて、軸方向外側の外側領域6a7oと、外側領域6a7oの軸方向内側に設けられ、外側領域6a7oよりも外径の減少割合が大きい内側領域6a7iと、を有する。外側領域6a7oと内側領域6a7iとの境界E16は、外径の減少割合の変化率が不連続な箇所である。外側領域6a7oの軸方向長さは、内側領域6a7iの軸方向長さよりも大きい。
【0086】
上記のように、第1内側外径減少部6a7があることで、第1外歯部4a及び第1内歯部6aの内側歯幅端に生じる片当たり荷重を低減でき、歯車の過度な摩耗を低減できる。さらに、第1内側外径減少部6a7が、上記の外径の減少割合を有する外側領域6a7oと内側領域6a7iとを有することで、外径を内側歯幅端にかけて減少させつつ、歯幅中央の外径の減少を抑えられる。したがって、第1内歯歯車6の剛性が向上し、撓み噛合い式歯車装置100のねじり剛性が向上する。さらに、外径の減少割合の変化率が不連続に変わる内側領域6a7iにより、上記剛性の向上を達成しつつ、噛合い範囲Waの内側の領域における歯面圧の上昇を抑えることができる。当該領域に生じる歯面圧は、第1外歯部4a及び第1内歯部6aのピッチング疲労を進行させる要素を含むことから、上記面圧の上昇を抑えることで歯面のピッチング寿命の低下を抑制することができる。
【0087】
内側領域6a7iの減少割合は、外側領域6a7oの減少割合の2.5倍以上であってもよく、3.1倍以上であると好ましい。当該構成によれば、第1外歯部4a及び第1内歯部6aのピッチング寿命の低下を抑制しつつ、第1内歯歯車6の剛性をより向上できる。外側領域6a7oの外径の減少割合は、点p15、点p16の間の線分q15の傾きに相当する。内側領域6a7iの外径の減少割合は、点p16、点p17の間の線分q16の傾きに相当する。
【0088】
外側領域6a7oの軸方向長さは、内側領域6a7iの軸方向長さの2倍以上であってもよい。当該構成によれば、第1外歯部4a及び第1内歯部6aのピッチング寿命の低下を抑制しつつ、第1内歯歯車6の剛性をより向上できる。
【0089】
内側領域6a7iの歯先形状を示す曲線と、外側領域6a7oの歯先形状を示す曲線とは、異なる関数によって表わされる曲線であってもよい。
【0090】
なお、第1内歯部6aと外歯歯車4の噛合い範囲Waの内側端(点p17)と、第1外径最大部6a6との間において、軸方向内側1/3範囲T15の第1内側外径減少部6a7の外径の減少割合が、軸方向外側2/3範囲T16の第1内側外径減少部6a7の外径の減少割合の2.5倍以上であってもよく、3.1倍以上であると好ましい。当該構成によっても、第1外歯部4a及び第1内歯部6aの内側歯幅端に生じる片当たり荷重を低減でき、歯車の過度な摩耗を低減できる。さらに、軸方向外側2/3範囲T16の外径の減少により、外径を内側歯幅端にかけて減少させつつ、歯幅中央の外径の減少を抑えることができ、第1内歯歯車6の剛性を向上できる。したがって、撓み噛合い式歯車装置100のねじり剛性が向上する。さらに、軸方向内側1/3範囲T15の外径の減少により、上記剛性の向上を達成しつつ、噛合い範囲Waの内側の領域における歯面圧の上昇を抑えることができる。当該領域に生じる歯面圧は、第1外歯部4a及び第1内歯部6aのピッチング疲労を進行させる要素を含むことから、上記面圧の上昇を抑えることで歯面のピッチング寿命の低下を抑制することができる。
【0091】
第1内歯部6aは、さらに、第1外径最大部6a6から軸方向外側に向かって(すなわち第1内歯部6aと第2内歯部8aの間の中央から遠ざかる方向に向かって)、外径が減少する第1外側外径減少部6a8を備えていてもよい。当該構成によれば、第1外歯部4a及び第1内歯部6aの外側歯幅端に生じる片当たり荷重を低減でき、外側歯幅端においても歯車の過度な摩耗を低減できる。
【0092】
なお、第1内歯部6aは、前述した歯筋形状を有する一方、前述の歯先形状を有さなくてもよい。例えば歯先形状はフラットであってもよいし、他の凹凸及び/又は他の曲線を有する形状であってもよい。この場合でも、歯筋形状の説明で示した歯厚に基づく作用効果が奏される。
【0093】
<第2内歯部8aの歯先形状>
第2内歯部8aは、軸方向において、外径が最大となる第2外径最大部8a6と、第2外径最大部8a6から軸方向内側に向かって(すなわち第1外歯部4aと第2内歯部8aの間の中央に近づく方向に向かって)外径が減少する第2内側外径減少部8a7と、第2外径最大部8a6から軸方向外側に向かって(すなわち第2内歯部8aと第2内歯部8aの間の中央から遠ざかる方向に向かって)外径が減少する第2外側外径減少部8a8とを備える。
【0094】
第2内側外径減少部8a7は、外歯歯車4との噛合い範囲Wbにおいて、軸方向外側の外側領域8a7oと、外側領域8a7oの軸方向内側に設けられ、外側領域8a7oよりも外径の減少割合が大きい内側領域8a7iと、を有する。外側領域8a7oと内側領域8a7iとの境界E17は、外径の減少割合の変化率が不連続な箇所である。
【0095】
第2内歯部8aにおける上記の構成要素(第2外径最大部8a6、第2内側外径減少部8a7、第2外側外径減少部8a8、第2内歯部8aと第2内歯部8aとの噛合い範囲Wb、外側領域8a7o及び内側領域8a7i)は、第1内歯部6aの各構成要素(第1外径最大部6a6、第1内側外径減少部6a7、第1外側外径減少部6a8、第1外歯部4aと第1内歯部6aとの噛合い範囲Wa、外側領域6a7o及び内側領域6a7i)と、同様の特徴及び各構成要素間の同様の関係を有していてもよい。当該同様の特徴又は当該同様の関係を有することにより、第2外歯部4b及び第2内歯部8aの噛合い箇所においても同様の作用効果が奏される。
【0096】
なお、第2内歯部8aは、上記の歯筋形状を有する一方、上記の歯先形状を有さなくてもよい。例えば歯先形状はフラットであってもよいし、他の凹凸及び/又は他の曲線を有する形状であってもよい。この場合でも、歯筋形状の説明で示した歯厚に基づく作用効果が奏される。
【0097】
<第1外歯部4a及び第2外歯部4bの形状>
第1外歯部4aの歯筋形状は、その歯厚中心面S4に対して対称で、かつ、軸方向において歯厚が実質的に一定の形状である。第1外歯部4aの歯先形状はフラットである。同様に、第2外歯部4bの歯筋形状は、その歯厚中心面S4に対して対称で、かつ、軸方向において歯厚が実質的に一定の形状である。第2外歯部4bの歯先形状はフラットである。
【0098】
<歯の全体的な形状>
第1内歯部6aは、歯厚中心面S6に対して対称な形状を有していてもよいし、一部非対称な部分が含まれてもよい。同様に、第2内歯部8aは、歯厚中心面S8に対して対称な形状を有していてもよいし、一部非対称な部分が含まれてもよい。歯厚中心面S6、S8とは、回転軸Rを含む面であって、歯厚が最大である最厚部の歯厚方向における中央を通る面をいう。
【0099】
また、前述の第1内歯部6a及び第2内歯部8aの歯筋形状の説明では、外歯歯車4のピッチ円に沿った円筒断面の形状として説明した。しかし、ピッチ円に沿った円筒断面から径方向に変位した円筒断面においても、第1内歯部6a及び第2内歯部8aは、同様の歯筋形状を有する。同様の歯筋形状は、歯底から歯先近傍までのいずれの半径の円筒断面においても、同様に存在していてもよいし、いずれかの半径範囲に同様の歯筋形状を有さない円筒断面が含まれていてもよい。円筒断面とは回転軸Rを中心とする円筒面に沿った断面を意味する。
【0100】
なお、第1内側歯厚減少部6a2、第1外側歯厚減少部6a3、第2内側歯厚減少部8a2、第2外側歯厚減少部8a3の各減少部では、2つの歯面はそれぞれ、軸方向に対する歯厚中心面S6、S8との距離の減少割合が次式を満たすように構成される。
減少割合=歯面と歯厚中心との距離の減少量(mm)/軸方向の移動量(mm)
≦0.05 (式5)
したがって、各歯厚減少部と面取りとは、オーダーが異なり、明らかに区別される。
【0101】
また、第1内側外径減少部6a7、第1外側外径減少部6a8、第2内側外径減少部8a7及び第2外側外径減少部8a8の各減少部は、軸方向に対する外径の減少割合が次式を満たすように構成される。
減少割合=外径(直径)の減少量(mm)/軸方向の移動量(mm)
≦0.1 (式6)
したがって、各外径減少部と面取りとは、オーダーが異なり、明らかに区別される。
【0102】
(実施形態3)
図8は、実施形態3に係る撓み噛合い式歯車装置の外歯歯車、第1内歯歯車及び第2内歯歯車の形状を説明するための図である。実施形態3では、第1外歯部4a及び第1内歯部6aの形状が実施形態1と同様に構成され、第2外歯部4b及び第2内歯部8aの形状が実施形態2と同様に構成されている。実施形態3の撓み噛合い式歯車装置においても、実施形態1及び実施形態2で示したものと同様の理由から、歯面のピッチング寿命の低下を抑制しつつ、撓み噛合い式歯車装置100のねじり剛性を向上できる。
【0103】
なお、図示は省略するが、第1外歯部4a及び第1内歯部6aの形状が実施形態2と同様に構成され、第2外歯部4b及び第2内歯部8aの形状が実施形態1と同様に構成されてもよい。この場合でも、実施形態1及び実施形態2で示したものと同様の理由から、歯面のピッチング寿命の低下を抑制しつつ、撓み噛合い式歯車装置100のねじり剛性を向上できる。
【0104】
以上、本発明の各実施形態について説明した。しかし、本発明は上記の実施形態に限られない。例えば、実施形態1では、歯筋形状として、第1外歯部4aが第1内側歯厚減少部4a2と第1外側歯厚減少部4a3とを有する構成を示した。しかし、第1外歯部4aは、第1内側歯厚減少部4a2を有する一方、第1歯厚最大部4a1よりも軸方向外側の歯厚が一定であってもよい。この場合、第1内歯部6aは、実施形態2の第1外側歯厚減少部6a3を有する一方、第1歯厚最大部6a1よりも軸方向内側の歯厚が一定であってもよい。第2外歯部4b及び第2内歯部8aについても同様である。また、実施形態1では、歯先形状として、第1外歯部4aが第1内側外径減少部4a7と第1外側外径減少部4a8とを有する構成を示した。しかし、第1外歯部4aは、第1内側外径減少部4a7を有する一方、第1外径最大部4a6よりも軸方向外側の外径が一定であってもよい。この場合、第1内歯部6aは、実施形態2の第1外側外径減少部6a8を有する一方、第1外径最大部6a6よりも軸方向内側の外径が一定であってもよい。第2外歯部4b及び第2内歯部8aについても同様である。その他、実施形態で示した細部は、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0105】
4 外歯歯車
4a 第1外歯部
4b 第2外歯部
4a1 第1歯厚最大部
4a2 第1内側歯厚減少部
4a2i 内側領域
4a2o 外側領域
4a3 第1外側歯厚減少部
4a4 第1追加内側領域
4b1 第2歯厚最大部
4b2 第2内側歯厚減少部
4b2i 内側領域
4b2o 外側領域
4b3 第2外側歯厚減少部
4b4 第2追加内側領域
4a6 第1外径最大部
4a7 第1内側外径減少部
4a7i 内側領域
4a7o 外側領域
4a8 第1外側外径減少部
4a9 第1追加内側領域
4b6 第2外径最大部
4b7 第2内側外径減少部
4b7i 内側領域
4b7o 外側領域
4b8 第2外側外径減少部
4b9 第2追加内側領域
6 第1内歯歯車
6a 第1内歯部
6a1 第1歯厚最大部
6a2 第1内側歯厚減少部
6a2i 内側領域
6a2o 外側領域
6a3 第1外側歯厚減少部
6a6 第1外径最大部
6a7 第1内側外径減少部
6a7i 内側領域
6a7o 外側領域
6a8 第1外側外径減少部
8 第2内歯歯車
8a 第2内歯部
8a1 第2歯厚最大部
8a2 第2内側歯厚減少部
8a2i 内側領域
8a2o 外側領域
8a3 第2外側歯厚減少部
8a6 第2外径最大部
8a7 第2内側外径減少部
8a7i 内側領域
8a7o 外側領域
8a8 第2外側外径減少部
R 回転軸
22a 起振体
100 撓み噛合い式歯車装置