(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-26
(45)【発行日】2024-10-04
(54)【発明の名称】電機子、回転電機及び電機子の製造方法
(51)【国際特許分類】
H02K 1/18 20060101AFI20240927BHJP
H02K 3/34 20060101ALI20240927BHJP
H02K 3/46 20060101ALI20240927BHJP
H02K 15/12 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
H02K1/18 C
H02K3/34 B
H02K3/46 Z
H02K15/12 E
(21)【出願番号】P 2021562511
(86)(22)【出願日】2020-11-02
(86)【国際出願番号】 JP2020041119
(87)【国際公開番号】W WO2021111790
(87)【国際公開日】2021-06-10
【審査請求日】2023-06-05
(31)【優先権主張番号】P 2019219159
(32)【優先日】2019-12-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004640
【氏名又は名称】日本発條株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 敬一
(72)【発明者】
【氏名】亀田 洋平
【審査官】稲葉 礼子
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-153290(JP,A)
【文献】特開2011-045178(JP,A)
【文献】特開2009-261086(JP,A)
【文献】特開2004-236497(JP,A)
【文献】特開2013-066314(JP,A)
【文献】特開2013-236430(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/18
H02K 3/34
H02K 3/46
H02K 15/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヨーク部及び複数のティース部を有する電機子鉄心が一または複数個の前記ティース部毎に周方向に分割されたうちの一つである分割鉄心と、
前記ティース部が内側に挿入され且つ前記分割鉄心に対して非接触の状態で配置されたコイルと、
熱伝導性及び絶縁性を有する単一の成形樹脂からなり、前記分割鉄心と前記コイルとの間及び前記コイルの素線間に充填されたモールド樹脂部と、
を備えた電機子分割体
を複数備え、当該複数の電機子分割体が環状に並べられて互いに結合されて構成された電機子であって、
隣り合う一対の前記電機子分割体は、各々の前記モールド樹脂部同士が溶着されており、
前記一対の電機子分割体は、一方の前記電機子分割体における電機子軸方向の端部から延出された溶着用延出片が、他方の前記電機子分割体における電機子軸方向の端部に溶着されている電機子。
【請求項2】
界磁と、
請求項1に記載された電機子と、
を備えた回転電機。
【請求項3】
ヨーク部及び複数のティース部を有する電機子鉄心が前記ティース部毎に周方向に分割されたうちの一つである分割鉄心をモールド金型にセットする鉄心セット工程と、
コイルの内側に前記ティース部を挿入し、前記コイルを前記分割鉄心に対して非接触の状態で前記モールド金型に保持させるコイルセット工程と、
前記分割鉄心と前記コイルとの間及び前記コイルの素線間に熱伝導性及び絶縁性を有する樹脂を充填し、単一の成形樹脂からなるモールド樹脂部を成形し、電機子分割体を製造するモールド工程と、
複数の前記電機子分割体を環状に並べる工程と、
隣り合う一対の前記電機子分割体の一方の前記電機子分割体における電機子軸方向の端部から延出させた溶着用延出片を、前記隣り合う一対の電機子分割体の他方の前記電機子分割体における電機子軸方向の端部に溶着する工程と、
を有する電機子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機に関し、特に電機子及び電機子分割体並びに電機子分割体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2009-022088号公報に記載された回転電機は、素線を巻回したコイルと、このコイルを配設した回転電機コアを備えており、コイルと回転電機コアとの間と、素線同士の間との双方が熱伝導性絶縁樹脂で充填されている。これにより、回転電機内部の熱抵抗値を低減するようにしている。この回転電機の製造方法は、隣接する素線の間を熱伝導性絶縁樹脂で樹脂含浸する第1の工程と、回転電機コアとコイルとの間を熱伝導性絶縁樹脂で樹脂含浸する第2の工程とを備えている。
【0003】
特開2010-28914号公報に記載された樹脂モールドコイルは、樹脂でモールドされているとともに、内周部にコアが挿入される穴部を有するモールドコイルであって、コイルエンド部の外側から上記穴部に通じ、上記コア外周部と上記穴部内周部との間に形成される隙間に樹脂を導入する樹脂導入路を設けて構成されている。これにより、コアとコイルとの取り付け位置がずれることがなく、また、コアへの放熱性を高めるようにしている。この樹脂モールドコイルを複数備えたステータの製造方法では、組み付け工程において、複数の樹脂モールドコイルをコアに組み付けて環状に配置する。次いで、樹脂充填工程では、少なくとも各樹脂モールドコイル内周部と上記コア外周部との間の隙間に樹脂を充填する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記各特許文献に記載された先行技術では、樹脂成形(射出成形)の工程が2回必要であるため、製造工程を簡素化する観点で改善の余地がある。
【0005】
本発明は上記事実を考慮し、製造工程を簡素化することができる電機子分割体、電機子、回転電機及び電機子分割体の製造方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の態様の電機子分割体は、ヨーク部及び複数のティース部を有する電機子鉄心が一または複数個の前記ティース部毎に周方向に分割されたうちの一つである分割鉄心と、前記ティース部が内側に挿入され且つ前記分割鉄心に対して非接触の状態で配置されたコイルと、熱伝導性及び絶縁性を有する単一の成形樹脂からなり、前記分割鉄心と前記コイルとの間及び前記コイルの素線間に充填されたモールド樹脂部と、を備えている。
【0007】
第1の態様の「単一の成形樹脂」は、分割鉄心とコイルとの間に充填された樹脂と、コイルの素線間に充填された樹脂との間に、それらの樹脂同士が熱溶着(熱融着)した部分が存在していない成形樹脂のことであり、一回の射出成形で成形された成形樹脂のことである。言い換えると、請求項1に記載の電機子分割体では、モールド樹脂部とは別に成形された樹脂部が、分割鉄心とコイルとの間及びコイルの素線間に存在していない構成になっている。
【0008】
第1の態様の電機子分割体は、分割鉄心と、コイルと、モールド樹脂部とを備えている。分割鉄心は、ヨーク部及び複数のティース部を有する電機子鉄心が一または複数個のティース部毎に周方向に分割されたうちの一つである。コイルは、上記のティース部が内側に挿入され且つ分割鉄心に対して非接触の状態で配置されている。モールド樹脂部は、分割鉄心とコイルとの間及びコイルの素線間に充填されている。このモールド樹脂部は、熱伝導性及び絶縁性を有しているので、分割鉄心とコイルとを絶縁しつつ、コイルから分割鉄心への放熱性を高めることができる。しかも、上記のモールド樹脂部は、単一の成形樹脂からなるものであるため、一回の射出成形で成形することができる。これにより、製造工程を簡素化することができる。
【0009】
第2の態様の電機子は、第1の態様の電機子分割体を複数備え、当該複数の電機子分割体が環状に並べられて互いに結合されて構成されている。
【0010】
第2の態様の電機子は、複数の電機子分割体が環状に並べられて互いに結合されて構成されている。これらの電機子分割体は、第1の態様のものであるため、前述した作用効果が得られる。
【0011】
第3の態様の電機子は、第2の態様において、隣り合う一対の前記電機子分割体は、各々の前記モールド樹脂部同士が溶着されている。
【0012】
第3の態様の電機子によれば、環状に並んだ複数の電機子分割体において、隣り合う一対の電機子分割体は、各々のモールド樹脂部同士が溶着されている。これにより、複数の電機子分割体を簡単な構成で互いに結合することができる。
【0013】
第4の態様の電機子は、第3の態様において、前記一対の電機子分割体は、一方の前記電機子分割体における電機子軸方向の端部から延出された溶着用延出片が、他方の前記電機子分割体における電機子軸方向の端部に溶着されている。
【0014】
第4の態様の電機子によれば、隣り合う一対の電機子分割体は、一方の電機子分割体における電機子軸方向の端部から延出された溶着用延出片が、他方の電機子分割体における電機子軸方向の端部に溶着されている。このような溶着用延出部を設けることにより、例えば溶着強度を確保し易くなる。
【0015】
第5の態様の電機子は、第2の態様において、隣り合う一対の前記電機子分割体は、一方の前記電機子分割体の前記モールド樹脂部に形成された嵌合部と、他方の前記電機子分割体の前記モールド樹脂部に形成された被嵌合部とが互いに嵌合することで機械的に結合されている。
【0016】
第5の態様の電機子では、隣り合う一対の電機子分割体は、一方の電機子分割体のモールド樹脂部に形成された嵌合部と、他方の電機子分割体のモールド樹脂部に形成された被嵌合部とが互いに嵌合することで機械的に結合されている。これにより、複数の電機子分割体を簡単な構成で互いに結合させることができる。
【0017】
第6の態様の回転電機は、界磁と、第2の態様~第5の態様の何れか1つの態様に記載された電機子と、を備えている。
【0018】
第6の態様の回転電機は、界磁と、電機子とを備えている。この電機子は、第2の態様~第5の態様の何れか1つの態様のものであるため、前述した作用効果が得られる。
【0019】
第7の態様の電機子分割体の製造方法は、ヨーク部及び複数のティース部を有する電機子鉄心が前記ティース部毎に周方向に分割されたうちの一つである分割鉄心をモールド金型にセットする鉄心セット工程と、コイルの内側に前記ティース部を挿入し、前記コイルを前記分割鉄心に対して非接触の状態で前記モールド金型に保持させるコイルセット工程と、前記分割鉄心と前記コイルとの間及び前記コイルの素線間に熱伝導性及び絶縁性を有する樹脂を充填し、単一の成形樹脂からなるモールド樹脂部を成形するモールド工程と、を有している。
【0020】
第7の態様の電機子分割体の製造方法では、先ず鉄心セット工程において、分割鉄心をモールド金型にセットする。この分割鉄心は、ヨーク部及び複数のティース部を有する電機子鉄心がティース部毎に周方向に分割されたうちの一つである。次いでコイルセット工程では、コイルの内側に分割鉄心のティース部を挿入し、コイルを分割鉄心に対して非接触の状態でモールド金型に保持させる。次いでモールド工程では、分割鉄心とコイルとの間及びコイルの素線間に熱伝導性及び絶縁性を有する樹脂を充填し、単一の成形樹脂からなるモールド樹脂部を成形する。このモールド樹脂部は、一回の射出成形で成形することができるので、製造工程を簡素化することができる。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように、本発明に係る電機子分割体、電機子、回転電機及び電機子分割体の製造方法では、製造工程を簡素化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る回転電機の主要部の構成を示す断面図である。
【
図2】第1実施形態に係る電機子の構成を示す斜視図である。
【
図3】第1実施形態に係る電機子分割体の構成を示す斜視図である。
【
図4】第1実施形態に係る電機子分割体の構成を示す平面図である。
【
図5】第1実施形態に係る電機子分割体が有する分割鉄心とコイルを示す斜視図である。
【
図6】分割鉄心のティース部がコイルの内側に挿入された状態を示す斜視図である。
【
図7】
図6のF7-F7線に沿った切断面を示す断面図である。
【
図8】
図3のF8-F8線に沿った切断面を示す
図7に対応した断面図である。
【
図9B】同上型に分割鉄心がセットされた状態を示す断面図である。
【
図9C】同分割鉄心にコイルがセットされた状態を示す断面図である。
【
図9D】モールド金型の上型と下型とが閉じた状態を示す断面図である。
【
図9E】モールド金型の位置決めピンによりコイルが位置決めされた状態を示す断面図である。
【
図9F】モールド金型内に樹脂が射出された状態を示す断面図である。
【
図10】本発明の第2実施形態に係る電機子の構成を示す斜視図である。
【
図11】第2実施形態に係る電機子分割体の構成を示す斜視図である。
【
図12】第2実施形態に係る電機子分割体の構成を示す平面図である。
【
図13】本発明の第3実施形態に係る電機子の構成を示す斜視図である。
【
図14】第3実施形態に係る電機子分割体の構成を示す斜視図である。
【
図15】第3実施形態に係る電機子分割体の構成を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
<第1の実施形態>
以下、
図1~
図9Fを用いて、本発明の第1実施形態に係る回転電機10について説明する。なお、各図においては、図面を見やすくする関係から、一部の符号を省略している場合がある。
【0024】
図1に示されるように、回転電機10は、界磁であるロータ12が、電機子(固定子)である樹脂モールドステータ20の内側に配置されたインナロータ型のモータとされている。ロータ12及び樹脂モールドステータ20は、有底の筒状に形成されたケース16内に収容されている。なお、
図1において14は、ロータ12の回転軸である。
【0025】
図2に示されるように、樹脂モールドステータ20は、複数の電機子分割体である複数(ここでは6つ)のステータ分割体28が環状に並べられて互いに結合されて構成されている。
図3及び
図4に示されるように、ステータ分割体28は、分割鉄心30と、コイル34と、モールド樹脂部38とを備えている。分割鉄心30は、ヨーク部24及び複数のティース部26を有する電機子鉄心としての固定子鉄心22(
図2参照)が一または複数個のティース部26毎に樹脂モールドステータ20の周方向(電機子周方向;以下、単に「周方向」と称する)に等分割されたうちの一つである。
【0026】
この分割鉄心30は、固定子鉄心22のヨーク部24が周方向に複数(ここでは6つ)に等分割された分割ヨーク部32と、ティース部26とによって構成されている。分割ヨーク部32は、周方向を長手方向とする円弧状をなしており、ティース部26は、分割ヨーク部32の内周側における周方向の中央部から延出されている。
【0027】
上記の分割ヨーク部32及びティース部26からなる分割鉄心30は、樹脂モールドステータ20の軸方向(電機子軸方向;以下、単に「軸方向」と称する)から見て略T字状をなしている。この分割鉄心30は、電磁鋼板からなる複数枚の鉄心片が積層されて構成されている。なお、分割鉄心30は、磁性金属粉体を圧粉成形して形成されたものでもよい。
【0028】
コイル34は、例えば銅、アルミ、銀又はこれらの合金線材からなる素線36が巻回されて形成されたものである。この素線36は、ここでは丸線とされているが、平角線や六角線等であってもよい。このコイル34は、樹脂モールドステータ20の軸方向を長手とする長尺な長円形状に巻回された巻回部34Aと、巻回部34Aの長手方向一端部側から延出された一対のコイルエンド部34Bとによって構成されている。各ステータ分割体28のコイル34は、コイルエンド部34B同士が所定の結線方法により結線される構成になっている。
【0029】
上記のコイル34は、その内側(すなわち巻回部34Aの内側)に分割鉄心30のティース部26が挿入され且つ分割鉄心30のヨーク部24及びティース部26に対して非接触の状態で配置されている。なお、
図5には、分割鉄心30のティース部26がコイル34の内側に挿入される前の状態が斜視図にて示されており、
図6には、分割鉄心30のティース部26がコイル34の内側に挿入された状態が斜視図にて示されている。また、
図7には、
図6のF7-F7線に沿った切断面が断面図にて示されており、
図8には、
図3のF8-F8線に沿った切断面が
図7に対応した断面図にて示されている。このコイル34は、一対のコイルエンド部34Bの先端側を除く大部分が、分割鉄心30にモールド成形されたモールド樹脂部38内に埋設されている。
【0030】
モールド樹脂部38は、例えばエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂やポリフェニレンスルファイド(PPS)等の熱可塑性樹脂等に、非磁性体の粉末がフィラーとして混練されたものであり、熱伝導性及び絶縁性を有している。このモールド樹脂部38によって、コイル34の巻回部34A及び一対のコイルエンド部34Bの基端側が外側から覆われている。また、このモールド樹脂部38は、分割鉄心30とコイル34との間及びコイル34の素線36の間に充填されている。
【0031】
上記のモールド樹脂部38は、単一の成形樹脂によって構成されており、分割鉄心30とコイル34との間及びコイル34の素線36の間には、モールド樹脂部38とは別に成形された樹脂部が存在していない構成になっている。つまり、本実施形態では、分割鉄心30とコイル34との間及びコイル34の素線36の間には、一回の射出成形で成形された樹脂のみが存在している。このモールド樹脂部38では、分割鉄心30とコイル34との間に充填された樹脂と、コイル34の素線36の間に充填された樹脂との間に、それらの樹脂同士が熱溶着(熱融着)した部分が存在していない構成になっている。
【0032】
このモールド樹脂部38は、分割鉄心30よりも軸方向の長さ寸法が長く設定されており、分割鉄心30に対して軸方向の両側に突出している。このモールド樹脂部38は、軸方向から見て略台形状(略扇形状)をなしており、周方向の両端面が分割ヨーク部32の周方向両端面と同じ角度で傾斜している。分割ヨーク部32の周方向両端面は、モールド樹脂部38の周方向両端面よりも僅かに周方向の両側に突出している。また、ティース部26の先端は、モールド樹脂部38の外側に露出している。なお、モールド樹脂部38の樹脂使用量を抑えるために、例えばモールド樹脂部38の周方向の両端面をティース部26側へ窪ませて、モールド樹脂部38の形状を分割鉄心30の外形に沿った略T字状としてもよい。
【0033】
上記構成のステータ分割体28を複数備える樹脂モールドステータ20において、周方向に隣り合う一対のステータ分割体28は、各々のモールド樹脂部38同士が溶着されている。具体的には、モールド樹脂部38の軸方向の両端面には、それぞれ溶着用延出片40と溶着用凸部44とが形成されている。溶着用延出片40は、モールド樹脂部38の周方向一端部から周方向の外側へ突出している。この溶着用延出片40の先端部には、軸方向から見て周方向の外側が開放された切込部42が形成されている。この切込部42の奥側の面は、軸方向から見て円弧状をなす円弧面とされている。溶着用凸部44は、モールド樹脂部38の周方向他端部から軸方向の外側へ突出している。この溶着用凸部44は、樹脂モールドステータ20の軸方向を自らの軸方向とする円柱状をなしている。この溶着用凸部44の直径は、切込部42の幅寸法と同等に設定されている。
【0034】
そして、周方向に隣り合う一対のステータ分割体28のうち、一方のステータ分割体28に形成された溶着用延出片40の切込部42に、他方のステータ分割体28に形成された溶着用凸部44が挿入されており、それらの溶着用延出片40と溶着用凸部とが軸方向の外側から溶着されている。つまり、本実施形態では、上記一対のステータ分割体28は、一方のステータ分割体28における軸方向の端部から延出された溶着用延出片40が、他方のステータ分割体28における軸方向の端部に溶着されている。これにより、周方向に隣り合う一対のステータ分割体28が互いに結合されている。なお、上記の溶着は、図示しない治具内で複数のステータ分割体28が正確に位置決めされた状態で行われる。
【0035】
上記構成の樹脂モールドステータ20が製造される際には、複数のステータ分割体28を製造する分割体製造工程と、複数のステータ分割体28を結合する結合工程とが行われる。そして、分割体製造工程は、本発明における電機子分割体の製造方法に基づいて行われる。この製造方法では、先ず鉄心セット工程において、
図9Aに示されるモールド金型50の上型52に対して、
図9Bに示されるように分割鉄心30をセットする。次いでコイルセット工程において、
図9Cに示されるように、コイル34の内側に分割鉄心30のティース部26を挿入する。その後、
図9Dに示されるように、モールド金型50の上型52と下型54とを閉じると共に、
図9Eに示されるように、下型54に設けられた位置決めピン56により、コイル34を分割鉄心30に対して非接触の状態に保持させる。次いでモールド工程において、下型54に形成された樹脂注入口58からモールド金型50内に樹脂を注入し、
図9Fに示されるように、分割鉄心30とコイルとの間及びコイルの素線間に樹脂を充填する。これにより、一回の射出成形でモールド樹脂部38が成形される構成になっている。なお、上記のモールド金型50は、上記の上型52及び下型54の他、左右のスライド型を備えた上下左右4方向スライドの金型である。また、
図9E及び
図9Fには、コイル34が位置決めピン56で左右方向(1方向)に保持されている状態が図示されているが、コイル34は前後左右上下の3方向から保持することが好ましい。
【0036】
上記のようにして製造された複数のステータ分割体28は、回転電機10の組み立て前に溶着によって互いに結合され、樹脂モールドステータ20とされる。その後、回転電機10の組み立て時には、樹脂モールドステータ20がケース16内に挿入され、例えば接着等の手段で樹脂モールドステータ20がケース16に固定される。この固定に接着剤を用いる場合、熱伝導性を有する粉末を接着剤に混ぜることが好ましい。
【0037】
(作用及び効果)
次に、本実施形態の作用及び効果について説明する。
【0038】
上記構成の回転電機10では、樹脂モールドステータ20が複数のステータ分割体28を備えている。各ステータ分割体28は、分割鉄心30と、コイル34と、モールド樹脂部38とを備えている。分割鉄心30は、ヨーク部24及び複数のティース部26を有する固定子鉄心22がティース部26毎に周方向に分割されたうちの一つである。コイル34は、上記のティース部26が内側に挿入され且つ分割鉄心30に対して非接触の状態で配置されている。モールド樹脂部38は、分割鉄心30とコイル34との間及びコイル34の素線間に充填されている。
【0039】
上記のモールド樹脂部38は、熱伝導性及び絶縁性を有しているので、分割鉄心30とコイル34とを絶縁しつつ、コイル34から分割鉄心30への放熱性を高めることができる。しかも、上記のモールド樹脂部38は、単一の成形樹脂からなるものであるため、一回の射出成形で成形することができる。これにより、製造工程を簡素化することができる。その結果、例えば製造コストを低減することが可能となる。
【0040】
また、この実施形態では、樹脂モールドステータ20は、複数のステータ分割体28が環状に並べられて互いに結合されて構成されている。具体的には、この樹脂モールドステータ20において、周方向に隣り合う一対のステータ分割体28は、各々のモールド樹脂部38同士が溶着されている。これにより、複数のステータ分割体28を簡単な構成で互いに結合することができる。
【0041】
しかも、上記の溶着は、図示しない治具内で複数のステータ分割体28が正確に位置決めされた状態で行われるので、例えば各ステータ分割体28のモールド樹脂部38の成形精度が低い場合でも、複数のステータ分割体28の精度良く結合することができ、樹脂モールドステータ20としての成形精度を向上させることが容易になる。言い換えると、複数のステータ分割体28の結合精度が、各ステータ分割体28の成形精度のみに依存する構成ではないため、各ステータ分割体28の成形精度を低くすることができ、各ステータ分割体28の成形が容易になる。
【0042】
また、回転電機10の組み立て前に、複数のステータ分割体28が結合されて樹脂モールドステータ20とされるので、回転電機10の組み立て工数を減らすことができ、回転電機10の組み立てが容易になる。しかも、本実施形態では、樹脂モールドステータ20が例えば接着によりケース16に固定されるので、樹脂モールドステータ20(固定子)が圧入や焼き嵌めのみによりケース16に固定される場合と比較して、固定子鉄心の電磁鋼板に圧縮応力が加わることを抑制できる。その結果、鉄損を少なくすることができ、回転電機10の効率を向上させることができる。
【0043】
また、本実施形態では、周方向に隣り合う一対のステータ分割体28は、一方のステータ分割体28における軸方向の端部から延出された溶着用延出片40が、他方のステータ分割体28における軸方向の端部に溶着される。このような溶着用延出片40を設けることにより、例えば溶着強度を確保し易くなる。
【0044】
次に、本発明の他の実施形態について説明する。なお、説明済みの実施形態と基本的に同様の構成及び作用については、説明済みの実施形態と同符号を付与しその説明を省略する。
【0045】
<第2の実施形態>
図10には、本発明の第2実施形態に係る電機子としての樹脂モールドステータ60の構成が斜視図にて示されており、
図11及び
図12には、第2実施形態に係る電機子分割体としてのステータ分割体62の構成が斜視図及び平面図にて示されている。この実施形態に係る樹脂モールドステータ60及びステータ分割体62は、第1実施形態に係る樹脂モールドステータ20及びステータ分割体28と基本的に同様の構成とされているが、以下の点が相違している。
【0046】
この実施形態に係るステータ分割体62では、第1実施形態に係る溶着用延出片40及び溶着用凸部44が省略されている。そして、この実施形態に係る樹脂モールドステータ60では、隣り合う一対のステータ分割体62は、一方のステータ分割体62のモールド樹脂部38に形成された嵌合部としての嵌合用延出片64と、他方のステータ分割体62のモールド樹脂部38に形成された被嵌合部としての嵌合用凸部68とが互いに嵌合することで機械的に結合されている。
【0047】
具体的には、モールド樹脂部38の軸方向の両端面には、それぞれ嵌合用延出片64と嵌合用凸部68とが形成されている。嵌合用延出片64は、モールド樹脂部38の周方向一端部から周方向の外側へ突出している。この嵌合用延出片64の先端部には、軸方向から見て矩形の貫通孔66が形成されている。嵌合用延出片64は、モールド樹脂部38の周方向他端部から軸方向の外側へ突出している。この嵌合用凸部68は、嵌合用凸部68は、軸方向から見て矩形状をなしており、周方向他端側へ向かうほど高さ寸法が減少するように先端面が傾斜している。
【0048】
そして、周方向に隣り合う一対のステータ分割体62のうち、一方のステータ分割体62に形成された嵌合用延出片64の貫通孔66に、他方のステータ分割体62に形成された嵌合用凸部68が嵌合されている。これにより、上記一対のステータ分割体62が互いに結合されている。この実施形態においては、上記以外の構成は、第1実施形態の構成と同様とされている。この実施形態においても、モールド樹脂部38を一回の射出成形で成形することができるので、製造工程を簡素化することができる。
【0049】
<第3の実施形態>
図13には、本発明の第3実施形態に係る電機子としての樹脂モールドステータ70の構成が斜視図にて示されており、
図14及び
図15には、第3実施形態に係る電機子分割体としてのステータ分割体72の構成が斜視図及び平面図にて示されている。この実施形態に係る樹脂モールドステータ70及びステータ分割体72は、第1実施形態に係る樹脂モールドステータ20及びステータ分割体28と基本的に同様の構成とされているが、以下の点が相違している。
【0050】
この実施形態に係るステータ分割体72では、第1実施形態に係る溶着用延出片40及び溶着用凸部44が省略されている。そして、この実施形態に係る樹脂モールドステータ70では、隣り合う一対のステータ分割体72は、一方のステータ分割体72のモールド樹脂部38に形成された嵌合部としての嵌合用突条74と、他方のステータ分割体72のモールド樹脂部38に形成された被嵌合部としての嵌合用溝76とが互いに嵌合することで機械的に結合されている。
【0051】
具体的には、モールド樹脂部38の周方向の一端面には、嵌合用突条74が形成されており、モールド樹脂部38の周方向の他端面には、嵌合用溝が形成されている。嵌合用突条74は、軸方向に延在しており、軸方向視で略台形状をなしている。この嵌合用突条74は、周方向の外側へ向かうほど幅が広くなるように形成されている。嵌合用溝76は、軸方向に延在しており、軸方向視で略台形状をなしている。この嵌合用溝76には、嵌合用突条74を軸方向に挿入可能とされている。この挿入により、周方向に隣り合う一対のステータ分割体72が互いに結合されている。この実施形態においては、上記以外の構成は、第1実施形態の構成と同様とされている。この実施形態においても、モールド樹脂部38を一回の射出成形で成形することができるので、製造工程を簡素化することができる。
【0052】
<実施形態の補足説明>
上記第1実施形態では、隣り合うステータ分割体28(電機子分割体)が溶着により結合される構成とし、上記第2及び第3実施形態では、隣り合うステータ分割体62、72(電機子分割体)が機械的に結合される構成としたが、これに限るものではない。例えば隣り合う電機子分割体が接着や両面テープ等の手段により互いに結合される構成にしてもよい。
【0053】
また、上記各実施形態では、インナロータ型の回転電機10に対して本発明が適用された場合について説明したが、これに限らず、本発明はアウタロータ型の回転電機に対しても適用可能である。
【0054】
また、上記各実施形態では、固定子である樹脂モールドステータ20、60、70に対して本発明が適用された場合について説明したが、これに限らず、本発明は回転子に対しても適用可能である。
【0055】
以上、幾つかの実施形態を挙げて本発明について説明したが、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更して実施できる。また、本発明の権利範囲が上記各実施形態に限定されないことは勿論である。
【0056】
なお、2019年12月3日に出願された日本国特許出願2019-219159号の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。本明細書に記載された全ての文献、特許出願、および技術規格は、個々の文献、特許出願、および技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個別に記載された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。