(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-26
(45)【発行日】2024-10-04
(54)【発明の名称】PLL回路およびその制御方法
(51)【国際特許分類】
H03L 7/083 20060101AFI20240927BHJP
【FI】
H03L7/083
(21)【出願番号】P 2021562619
(86)(22)【出願日】2020-11-27
(86)【国際出願番号】 JP2020044205
(87)【国際公開番号】W WO2021112000
(87)【国際公開日】2021-06-10
【審査請求日】2023-10-27
(31)【優先権主張番号】P 2019220372
(32)【優先日】2019-12-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000116024
【氏名又は名称】ローム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100133215
【氏名又は名称】真家 大樹
(72)【発明者】
【氏名】辻 将信
【審査官】柳下 勝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-5141(JP,A)
【文献】特開2011-130047(JP,A)
【文献】特開2012-227779(JP,A)
【文献】特開2017-143398(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03L 7/083
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
PLL(Phase Locked Loop)回路であって、
選択信号がアサートされる間、リングオシレータが形成されて制御コードに応じた周波数で発振し、前記選択信号がネゲートされる間、基準クロックにもとづく注入エッジを注入可能に構成されるデジタル制御発振器と、
前記デジタル制御発振器を制御するコントローラと、
を備え、
前記コントローラは、
(A)前記PLL回路の起動期間に第1モードとなり、(i)前記選択信号をアサートして前記デジタル制御発振器を発振させて、前記デジタル制御発振器が発生するオシレータクロックと基準クロックの位相比較を行う処理と、(ii)前記選択信号をネゲートして前記デジタル制御発振器を停止し、前記位相比較の結果にもとづくバイナリサーチにより前記制御コードを更新する処理と、を含むサイクルを繰り返すことを特徴とするPLL回路。
【請求項2】
前記コントローラは、前記第1モードにおいて、前記基準クロックの周期毎に、前記選択信号のアサートとネゲートを切り替えることを特徴とする請求項1に記載のPLL回路。
【請求項3】
前記コントローラは、前記PLL回路の停止指示に応答して、そのときの前記制御コードを保持し、次の前記PLL回路の起動指示に際して、保持した制御コードを初期値として、直ちに前記制御コードのフィードバック制御を開始することを特徴とする請求項1または2に記載のPLL回路。
【請求項4】
前記コントローラは、(B)前記バイナリサーチの完了後に第2モードとなり、前記デジタル制御発振器を連続動作させ、前記オシレータクロックの位相が前記基準クロックの位相に近づくように前記制御コードを変化させるとともに、周期的に前記選択信号をネゲートすることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のPLL回路。
【請求項5】
前記コントローラは、前記デジタル制御発振器の内部クロックを受け、1パルスを切り出してウィンドウ信号を生成するウィンドウ発生器を含み、
前記第2モードにおいて、前記選択信号は前記ウィンドウ信号に応じていることを特徴とする請求項4に記載のPLL回路。
【請求項6】
PLL(Phase Locked Loop)回路の制御方法であって、
前記PLL回路は、選択信号がアサートされる間、リングオシレータが形成され制御コードに応じた周波数で発振し、前記選択信号がネゲートされる間、基準クロックにもとづく注入エッジを注入可能に構成されるデジタル制御発振器を含み、
前記制御方法は、
前記PLL回路の1回目の起動時に、(i)前記選択信号をアサートして前記デジタル制御発振器を発振させて、前記デジタル制御発振器が発生するオシレータクロックと基準クロックの位相比較を行う第1処理と、(ii)前記選択信号をネゲートして前記デジタル制御発振器を停止し、前記位相比較の結果にもとづくバイナリサーチにより前記制御コードを更新する第2処理と、を含むサイクルを繰り返す起動ステップと、
前記バイナリサーチの完了後に、前記デジタル制御発振器を連続動作させ、前記オシレータクロックの位相と基準クロックの位相が近づくように、前記制御コードを変化させるステップと、
を備えることを特徴とする制御方法。
【請求項7】
前記起動ステップにおいて、前記基準クロックの周期毎に、前記選択信号のアサートとネゲートが切り替えられることを特徴とする請求項6に記載の制御方法。
【請求項8】
前記PLL回路の停止指示に応答して、そのときの前記制御コードを保持するステップと、
次の前記PLL回路の起動指示に際して、前記デジタル制御発振器が、保持された前記制御コードに応じた周波数から発振をスタートするステップと、
をさらに備えることを特徴とする請求項6または7に記載の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、PLL(Phase Locked Loop)回路に関する。
【背景技術】
【0002】
さまざまなIC(Integrated Circuit)に、基準クロックから任意周波数のクロックを生成する周波数シンセサイザが利用される。こうした周波数シンセサイザとして、PLL回路が広く用いられる。
図1(a)~(c)は、PLL回路の基本アーキテクチャを説明するブロック図である。
【0003】
図1(a)には、アナログPLL回路1が示される。アナログPLL回路1は、位相比較器(PFD:Phase Frequency Detector)10、チャージポンプ回路12、ローパスフィルタ14、電圧制御発振器(VCO:Voltage Controlled Oscillator)16、分周器18を備える。VCO16は、アナログの制御電圧V
CTRLに応じた周波数で発振する。VCO16の出力クロックCLK_VCOは、分周器18により1/N分周される。位相比較器10は、分周後のクロックCLK_DIVと基準クロックCLK_REFの位相差を検出し、チャージポンプ回路12を制御する。ローパスフィルタ14はチャージポンプ回路12の出力電圧を平滑化するループフィルタであり、制御電圧V
CTRLを生成する。
【0004】
図1(a)のアナログPLL回路1は古くからさまざまなアプリケーションで用いられており信頼性が高いが、ループフィルタに起因してチップサイズが大きくなるという問題がある。また、十分な性能を発揮するためには、回路設計者が回路のレイアウトを最適化する必要がある。
【0005】
図1(b)には、完全デジタルPLL回路(ADPLL:All Digital PLL)2が示される。ADPLL回路2は、FCW(Frequency Control Word)および基準クロックCLK_REFを受け、基準クロックCLK_REFをFCWに応じて逓倍した出力クロックCLK_DCOを生成する。ADPLL回路2は、周波数位相比較器20、デジタルフィルタ22、デジタル制御発振器(DCO:Digital Controlled Oscillator)24を備える。DCO24は、入力された制御コードD
CTRLに応じた周波数で発振する。周波数位相比較器20は、
図1の位相比較器10、チャージポンプ回路12、分周器18に相当する機能を有し、TDC(時間-デジタル変換器)、加算器、カウンタ等で構成される。周波数位相比較器20が生成するデジタル信号は、デジタルフィルタ22によってフィルタリングされ、DCO24に入力される。
【0006】
図1(b)のADPLL回路2は、CMOSプロセスで構成できるため、微細化が容易であり、チップ面積を小さくできるという利点がある。一方、オールデジタルとはいいつつも、周波数位相比較器20やDCO24については、所望の仕様を満たすために回路設計者が回路のレイアウトを最適化する必要がある。
【0007】
図1(c)に、注入同期型PLL回路3(IL-PLL(Injection Locked PLL)とも称する)を示す。IL-PLL回路3は、アナログ回路あるいはデジタル回路のアーキテクチャで設計することができるが、ここではデジタル回路で構成する場合を説明する。IL-PLL回路3は、フィードバック回路30、DCO32、エッジ注入回路34を備える。IL-PLL回路3は、フィードバック制御とフィードフォワード制御のハイブリッドと把握され、
図1(b)の周波数位相比較器20、デジタルフィルタ22に相当するフィードバック回路30によるフィードバック制御によって、DCO32の発振周波数を安定化する。エッジ注入回路34は、基準クロックCLK_REFのエッジを切り出し、切り出したエッジをDCO32に注入して出力クロックCLK_DCOの位相を再アライメントする。IL-PLL回路は、エッジの注入の方法に応じて、MDLL(Multiplying Delay Locked Loop)回路とも称される場合もある。
【0008】
IL-PLL回路は、(i)注入同期によりループ帯域が広帯域化されるため、低位相(低ジッタ)化が可能であり、またデジタル回路で構成した場合、(ii)
図1(a)の位相比較器10やチャージポンプ回路12が存在しないことから低雑音化が可能であるという利点を有する。加えて、(iii)フィードバック経路が雑音の影響を受けにくいことから、レイアウトの自由度が高いといえ、したがってP&R(Place and Route)ツールなどの設計支援ツールを用いた自動配置配線でも所望の特性を得られるという特徴を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【非特許文献】
【0010】
【文献】F. u. Rahman, G. Taylor and V. Sathe, "A 1-2 GHz Computational-Locking ADPLL With Sub-20-Cycle Locktime Across PVT Variation", IEEE Journal of Solid-State Circuits
【文献】K. Okuno, K. Masaki, S. Izumi, T. Konishi, H. Kawaguchi and M. Yoshimoto, "A 2.23 ps RMS jitter 3 μs fast settling ADPLL using temperature compensation PLL controller", 2014 21st IEEE International Conference on Electronics, Circuits and Systems (ICECS), Marseille, 2014, pp. 68-71
【文献】C. Chung and C. Ko, "A Fast Phase Tracking ADPLL for Video Pixel Clock Generation in 65 nm CMOS Technology", IEEE Journal of Solid-State Circuits, vol. 46, no. 10, pp. 2300-2311, Oct. 2011
【文献】S. Hoppner, S. Haenzsche, G. Ellguth, D. Walter, H. Eisenreich and R. Schuffny, "A Fast-Locking ADPLL With Instantaneous Restart Capability in 28-nm CMOS Technology", IEEE Transactions on Circuits and Systems II: Express Briefs, vol. 60, no. 11, pp. 741-745, Nov. 2013
【文献】J. Lin and C. Yang, "A Fast-Locking All-Digital Phase-Locked Loop With Dynamic Loop Bandwidth Adjustment", IEEE Transactions on Circuits and Systems I: Regular Papers, vol. 62, no. 10, pp. 2411-2422, Oct. 2015
【文献】Y. Ho and C. Yao, "A Low-Jitter Fast-Locked All-Digital Phase-Locked Loop With Phase-Frequency-Error Compensation", IEEE Transactions on Very Large Scale Integration (VLSI) Systems, vol. 24, no. 5, pp. 1984-1992, May 2016
【文献】C. Wu, W. Shen, W. Wang and A. Wu, "A Two-Cycle Lock-In Time ADPLL Design Based on a Frequency Estimation Algorithm", IEEE Transactions on Circuits and Systems II: Express Briefs, vol. 57, no. 6, pp. 430-434, June 2010
【文献】R. B. Staszewski and P. T. Balsara, "All-Digital PLL With Ultra Fast Settling", IEEE Transactions on Circuits and Systems II: Express Briefs, vol. 54, no. 2, pp. 181-185, Feb. 2007
【文献】K. Okuno, S. Izumi, T. Konishi, S. Dae-Woo, M. Yoshimoto and H. Kawaguchi,"Temperature compensation using least mean squares for fast settling all-digital phase-locked loop", 2013 IEEE 11th International New Circuits and Systems Conference (NEWCAS), Paris, 2013, pp. 1-4
【文献】K. J. Shen et al., "A 0.17-to-3.5mW 0.15-to-5GHz SoC PLL with 15dB built-in supply noise rejection and self-bandwidth control in 14nm CMOS", 2016 IEEE International Solid-State Circuits Conference (ISSCC), San Francisco, CA, 2016, pp. 330-331
【文献】F. Ahmad et al. "A 0.5-9.5-GHz, 1.2-us Lock-Time Fractional-N DPLL With ±1.25%UI Period Jitter in 16-nm CMOS for Dynamic Frequency and Core-Count Scaling", IEEE Journal of Solid-State Circuits, vol. 52, no. 1, pp. 21-32, Jan. 2017
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
図1(a)、(b)のPLL回路は、ループフィルタを有するため、起動開始から位相同期するまでの時間(起動時間という)が長いという問題がある。起動時間を短縮するために、さまざまな技術が提案されている。
【0012】
従来の高速起動の技術は、ループフィルタの特性を、周波数引き込み状態に応じて動的に制御するものが主流であるが(たとえば非特許文献2,5,8,9,10,11)、フィードバック制御を利用しているため、周波数引き込みまでに、依然として無視できない遅れが存在している。また位相同期までの時間が、そのときの条件によって変動するという問題がある。
【0013】
非特許文献1,3,4,6,7では、起動直後は、フィードフォワードによって可変周波数発振器に対する制御信号を変化させ、ロック判定がなされると、フィードバック制御に切り替える。この方式では、周波数引き込みの時間を短縮できるが、周波数引き込みの完了後、位相同期まではフィードバック制御が行われるため、遅延が存在し、また位相同期に要する時間は、そのときの条件によって変動する。
【0014】
本開示は係る課題に鑑みてなされたものであり、そのある態様の例示的な目的のひとつは、所定時間で高速に起動可能な注入同期型PLL回路の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本開示のある態様は、注入同期型のPLL(Phase Locked Loop)回路に関する。PLL回路は、選択信号がアサートされる間、リングオシレータが形成されて制御コードに応じた周波数で発振し、選択信号がネゲートされる間、基準クロックにもとづく注入エッジを注入可能に構成されるデジタル制御発振器と、デジタル制御発振器を制御するコントローラと、を備える。コントローラは、(A)PLL回路の起動期間に第1モードとなり、(i)選択信号をアサートしてデジタル制御発振器を発振させて、デジタル制御発振器が発生するオシレータクロックと基準クロックの位相比較を行うステップと、(ii)選択信号をネゲートしてデジタル制御発振器を停止し、位相比較の結果にもとづくバイナリサーチにより制御コードを更新するステップと、を含むサイクルを繰り返す。
【0016】
本開示の別の態様は、PLL回路の制御方法に関する。PLL回路は、選択信号がアサートされる間、リングオシレータが形成され制御コードに応じた周波数で発振し、選択信号がネゲートされる間、基準クロックにもとづく注入エッジを注入可能に構成されるデジタル制御発振器を含む。制御方法は、PLL回路の1回目の起動時に、(i)デジタル制御発振器を発振させて、デジタル制御発振器が発生するオシレータクロックと基準クロックの位相比較を行うステップと、(ii)デジタル制御発振器を停止し、位相比較の結果にもとづくバイナリサーチにより制御コードを更新するステップと、を含むサイクルを繰り返すステップと、バイナリサーチの完了後に、デジタル制御発振器を連続動作させ、オシレータクロックの位相が基準クロックの位相に近づくように、制御コードを変化させるステップと、を備える。
【0017】
なお、以上の構成要素を任意に組み合わせたもの、あるいは本開示の表現を、方法、装置などの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0018】
本開示のある態様によれば、PLL回路を所定時間で高速起動できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1(a)~(c)は、PLL回路の基本アーキテクチャを説明するブロック図である。
【
図2】実施形態に係るPLL回路の基本構成を示すブロック図である。
【
図4】バイナリサーチにもとづく制御コードの遷移を説明する図である。
【
図7】バイナリサーチにもとづく周波数の遷移を示す図である。
【
図8】PLL回路の2回目以降の起動を説明するタイムチャートである。
【
図9】
図5のウィンドウ発生器の構成例を示す回路図である。
【
図12】PLL回路の具体的な構成例を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(実施形態の概要)
本開示のいくつかの例示的な実施形態の概要を説明する。この概要は、後述する詳細な説明の前置きとして、実施形態の基本的な理解を目的として、1つまたは複数の実施形態のいくつかの概念を簡略化して説明するものであり、発明あるいは開示の広さを限定するものではない。またこの概要は、考えられるすべての実施形態の包括的な概要ではなく、実施形態の欠くべからざる構成要素を限定するものではない。便宜上、「一実施形態」は、本明細書に開示するひとつの実施形態(実施例や変形例)または複数の実施形態(実施例や変形例)を指すものとして用いる場合がある。
【0021】
本明細書に開示される一実施形態は、PLL(Phase Locked Loop)回路に関する。PLL回路は、デジタル制御発振器と、デジタル制御発振器を制御するコントローラと、を備える。デジタル制御発振器は、選択信号がアサートされる間、リングオシレータが形成されて制御コードに応じた周波数で発振し、選択信号がネゲートされる間、基準クロックにもとづく注入エッジを注入可能に構成されるコントローラは、(A)PLL回路の起動期間に第1モードとなり、(i)選択信号をアサートしてデジタル制御発振器を発振させて、デジタル制御発振器が発生するオシレータクロックと基準クロックの位相比較を行うステップと、(ii)選択信号をネゲートしてデジタル制御発振器を停止し、位相比較の結果にもとづくバイナリサーチにより制御コードを更新するステップと、を含むサイクルを繰り返す。
【0022】
デジタル制御発振器の制御コードがMビットであるとき、起動開始からMサイクル後に、制御コードが最適な値となり、周波数引き込みが完了する。そして、注入同期型であるがゆえに、次のサイクルでは、注入エッジと位相同期した状態で、発振を開始することができる。つまり、フィードバックによる位相同期の遅延時間がゼロであり、また起動時間は、Mサイクルの時間であり不変となる。
【0023】
一実施形態において、コントローラは、第1モードにおいて、基準クロックの周期毎に、選択信号のアサートとネゲートを切り替えてもよい。この場合、1サイクルは、基準クロックの2周期となり、起動時間は、2×M×TREFとなる。
【0024】
一実施形態において、コントローラは、PLL回路の停止指示に応答して、そのときの制御コードを保持し、次のPLL回路の起動指示に際して、保持した制御コードを初期値として直ちに制御コードのフィードバック制御を開始してもよい。これにより、イネーブル信号が取り込まれた基準クロックの1サイクル目から、位相同期した状態でリスタートできる。つまり、このPLL回路を備えるシステムでは、PLL回路の動作、停止を積極的に切り替えることができ、消費電力を大幅に削減できる。
【0025】
一実施形態において、コントローラは、(B)バイナリサーチの完了後に第2モードとなり、デジタル制御発振器を連続動作させ、オシレータクロックの位相が基準クロックの位相に近づくように制御コードを変化させるとともに、周期的に選択信号をネゲートしてもよい。
【0026】
一実施形態において、コントローラは、デジタル制御発振器の内部クロックを受け、1パルスを切り出してウィンドウ信号を生成するウィンドウ発生器をさらに備えてもよい。通常動作期間において、選択信号はウィンドウ信号に応じていてもよい。ウィンドウ信号が規定する窓の開く(アサート)タイミング、窓の閉じる(ネゲート)タイミングは、基準クロックに依存しない。したがって、デジタル制御発振器が発振している間は基準クロックの有無にかかわらず窓を確実に開閉させることができる。また、窓の開いている期間に基準クロックの注入エッジが確実に含まれるようにタイミング調整できるため、ウィンドウ信号に由来するグリッジや高調波発振は発生しない。もし、窓の開いている期間に基準クロックの遷移(エッジ)が発生しない場合には、所定サイクル(逓倍数)に1回の割合で、内部クロックの周期が長くなるが、発振が停止することはない。
【0027】
一実施形態において、ウィンドウ発生器は、内部クロックのNサイクル(N≧2)に1回、内部クロックの半サイクルの間アサートされるパルス信号を生成し、パルス信号を内部クロックの周期のK倍の時間(0<K<1)、遅延させて、ウィンドウ信号を生成してもよい。これにより注入エッジがウィンドウ信号のアサート期間に存在するように、ウィンドウ信号のタイミングを調節できる。
【0028】
一実施形態において、K=1/4としてもよい。これによりウィンドウ信号のアサート期間の実質的に中央に注入エッジが存在するように、ウィンドウ信号のタイミングを調節できる。なおKは厳密に1/4であることを要しない。
【0029】
一実施形態において、ウィンドウ発生器は、内部クロックをカウントし、Nサイクルあたり内部クロックの1周期の間、出力をアサートするカウンタと、カウンタの出力と内部クロックを論理合成し、パルス信号を生成する論理ゲートと、パルス信号を内部クロックの周期の1/4の遅延量、遅延させる遅延ラインと、を備えてもよい。
【0030】
一実施形態において、デジタル制御発振器は、可変遅延回路を含んでもよい。遅延ラインは、可変遅延回路と同じ回路形式のレプリカであってもよい。
【0031】
一実施形態において、遅延ラインは、可変遅延回路の1/2倍の遅延を与えてもよい。リングオシレータでは、可変遅延回路の遅延量は、内部クロックの実質的に半周期に相当する。したがって、可変遅延回路の1/2倍の遅延は、内部クロックの1/4周期となる。
【0032】
一実施形態において、デジタル制御発振器は、可変遅延回路と、一方の入力に可変遅延回路の出力である内部クロックを受け、他方の入力に注入エッジを受け、その出力が可変遅延回路の入力と接続され、ウィンドウ信号に応じた一方を選択するマルチプレクサと、を含んでもよい。
【0033】
一実施形態において、ウィンドウ発生器は、ウィンドウ信号が通過するマルチプレクサのレプリカを含んでもよい。これにより、マルチプレクサに起因するタイミングズレの影響を低減できる。
【0034】
一実施形態において、マルチプレクサは、第1入力に内部クロックを受け、第2入力にウィンドウ信号を受ける第1NANDゲートと、第1入力に基準クロックを受け、第2入力に反転されたウィンドウ信号を受ける第2NANDゲートと、第1入力に第1NANDゲートの出力を受け、第2入力に第2NANDゲートの出力を受ける第3NANDゲートと、第1入力に第1NANDゲートの出力を受け、第2入力に第2NANDゲートの出力を受け、出力が第3NANDゲートの出力と接続される第4NANDゲートと、を含んでもよい。一般的なマルチプレクサは、初段の2個のNANDゲートのペアと、後段の1個のNANDゲートを含む。NANDゲートは、その構成の非対称性に由来する2つの入力信号の遅延差が存在するため、一般的なマルチプレクサにおいては、出力段のNANDゲートにおいて、マルチプレクサの2つの入力信号に遅延差が生じる。そこでこの出力段のNADゲートをペアで2個配置し、それぞれの入力を入れ替えて接続することにより、2つの入力信号の遅延差を相殺できる。
【0035】
一実施形態において、可変遅延回路は、粗い遅延制御量を与える第1遅延回路と、第1遅延回路の制御量1LSBに相当する遅延量をフルスケールで満たせる、十分短い遅延制御量を与える第2遅延回路と、を含んでもよい。遅延ラインは、第1遅延回路のレプリカを含み、第1遅延回路に与える第1制御コードの1/2の値を有する第2制御コードが与えられてもよい。この場合、可変遅延回路の遅延量は、第1遅延回路による遅延が支配的であるから、その部分のレプリカを用いることで、内部クロックの1/4周期の遅延を生成できる。
【0036】
一実施形態において、注入エッジとして基準クロックが直接注入されてもよい。これにより、基準クロックは、遅延回路や論理ゲートを通過しないため、電源ノイズが注入エッジにもたらす位相雑音を低減できる。
【0037】
一実施形態において、フィードバック回路は、ウィンドウ信号がアサートされる間、イネーブル状態となり、デジタル制御発振器が生成するクロック信号と基準クロックの位相を比較し、比較結果を示すアップダウン信号を生成する対称型位相検出器と、アップダウン信号に応じた制御コードを生成するデジタルフィルタと、を含んでもよい。ウィンドウ信号がアサートされる間だけ、対称型位相検出器をイネーブルとすることで、位相引き込み範囲を、基準クロックの1周期の範囲に広げることができる。
【0038】
一実施形態において、フィードバック回路は、ウィンドウ信号がアサートされる間、イネーブル状態となり、デジタル制御発振器が生成するクロック信号と基準クロックの位相および周波数を比較し、比較結果を示すアップパルスおよびダウンパルスを生成する位相周波数検出器と、アップパルスおよびダウンパルスにもとづくアップダウン信号に応じた制御コードを生成するデジタルフィルタと、を含んでもよい。もともと広い位相引き込み範囲を有し、周波数引き込み機能を有する位相周波数検出器を採用し、さらにウィンドウ信号がアサートされる間だけ、位相周波数検出器をイネーブルとすることで、位相引き込み範囲を実質的に無限に広げることができる。
【0039】
ウィンドウが開いたにも関わらず、注入エッジが発生しないと、基準クロックの周期ごとに、デジタル制御発振器の周波数が短期的に変動する。そこでウィンドウ発生器は、基準クロックのエッジを検出できないとき、ウィンドウ信号のネゲートを維持してもよい。これにより基準クロックが停止したときにも、PLL回路によるクロック生成を継続できる。またデジタル制御発振器の周波数は、基準クロックが欠落した直後だけ変動するが、その後は一定に保つことができる。
【0040】
一実施形態において、PLL回路は、基準クロックが正常入力されるとき、アサートされ、基準クロックが停止するとき、ネゲートされるクロックイネーブル信号を生成するクロック監視回路をさらに備えてもよい。クロックイネーブル信号に応じて、カウンタの出力をマスクしてもよい。
【0041】
(実施形態)
以下、実施形態について、図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0042】
本明細書において、「部材Aが、部材Bと接続された状態」とは、部材Aと部材Bが物理的に直接的に接続される場合のほか、部材Aと部材Bが、それらの電気的な接続状態に実質的な影響を及ぼさない、あるいはそれらの結合により奏される機能や効果を損なわせない、その他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
【0043】
同様に、「部材Cが、部材Aと部材Bの間に設けられた状態」とは、部材Aと部材C、あるいは部材Bと部材Cが直接的に接続される場合のほか、それらの電気的な接続状態に実質的な影響を及ぼさない、あるいはそれらの結合により奏される機能や効果を損なわせない、その他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
【0044】
図2は、実施形態に係るPLL回路100の基本構成を示すブロック図である。PLL回路100は注入同期型であり、デジタル制御発振器(DCO:Digital Controlled Oscillator)200、コントローラ500および出力ゲート102を備える。
【0045】
DCO200は、選択信号SELがアサート(たとえばハイ=1)される間、リングオシレータが形成されて、Mビットの制御コードDCO_CODE[M-1:0]に応じた周波数で発振し、選択信号SELがネゲート(たとえばロー=0)される間、基準クロックCLK_REFにもとづく注入エッジを注入可能に構成される。
【0046】
DCO200は、主として、インバータ202、可変遅延回路210、マルチプレクサ(セレクタ)220を含む。マルチプレクサ220は、可変遅延回路210の出力信号(内部クロック)CLK_INTと、基準クロックCLK_REFにもとづく注入エッジINJ_EDGEを受け、制御信号SELに応じた一方を選択する。マルチプレクサ220の出力CLK_DCOは、インバータ202によって反転され、可変遅延回路210の入力にフィードバックされる。なお、このインバータ202の挿入位置は限定されず、可変遅延回路の入力側に設けてもよいし、出力側に設けてもよいし、可変遅延回路やマルチプレクサに組み込んでもよい。
【0047】
この構成では、注入エッジINJ_EDGEとして、基準クロックCLK_REFが直接注入される。これにより、基準クロックCLK_REFは、遅延回路や論理ゲートを通過しないため、その経路からの電源ノイズが注入エッジにもたらす位相雑音を低減できる。
【0048】
コントローラ500は、DCO200を制御する。具体的には、可変遅延回路210に対する制御コードDCO_CODE、マルチプレクサ220に対する選択信号SEL、出力ゲート102に対するスタート信号STARTを生成する。
【0049】
コントローラ500は、第1モードφ1と第2モードφ2が切り替え可能であり、ICの電源投入時においてPLL回路100の起動期間に第1モードφ1となり、起動完了後に第2モードφ2となる。ここでは第1モードφ1を、バイナリサーチモードとも称する。
【0050】
第1モードφ1においてコントローラ500は、2つの処理(i)、(ii)を含むサイクルを繰り返し実行する。
第1処理: 選択信号SELをアサートしてDCO200を発振させて、DCO200が発生するオシレータクロックである内部クロックCLK_INT(あるいは出力クロックCLK_DCO)と基準クロックCLK_REFの位相比較を行う。
第2処理: 選択信号SELをネゲートしてDCO200を停止し、ステップ(i)位相比較の結果にもとづくバイナリサーチにより制御コードDCO_CODEを更新する。
【0051】
たとえばコントローラ500は、第1モードφ1において、基準クロックCLK_REFの周期毎に、選択信号SELのアサートとネゲートを切り替えてもよい。すなわち第1モードφ1では、基準クロックCLK_REFの周期毎に、DCO200は、発振と停止を交互に繰り返し、その発振周波数が更新されていく。
【0052】
第2モードφ2においてコントローラ500は、DCO200を連続動作させ、オシレータクロックCLK_INTの位相および周波数と基準クロックCLK_REFの位相および周波数が近づくように制御コードDCO_CODEを変化させる。またコントローラ500は周期的に選択信号SELをネゲートして、基準クロックCLK_REFにもとづく注入エッジをDCO200に注入し、位相同期をかける。
【0053】
コントローラ500は、第1モードφ1においてスタート信号STARTをネゲート(ロー)し、第2モードφ2においてSTART信号をアサート(ハイ)する。出力ゲート102は、DCO200が発生するクロックCLK_DCOとSTART信号を受け、START信号がネゲートされる期間、すなわち、PLL回路100の起動期間中は、クロックCLK_DCOを遮断し、START信号がアサートされる期間、すなわち、PLL回路100の起動完了後に、クロックCLK_DCOを通過させ、出力クロックCLK_OUTを出力する。
【0054】
第1モードに関連して、コントローラ500は、位相周波数比較器(位相周波数検出器)502および信号処理部504を備える。位相周波数比較器502は、基準クロックCLK_REFとDCO200の内部クロックCLK_INTの周波数および位相を比較する。なお、位相周波数比較器502は、位相比較器(位相検出器)と周波数比較器(周波数検出器)の組み合わせで構成してもよい。信号処理部504は、第1モードφ1において、位相周波数比較器502の出力にもとづいて、制御コードDCO_CODEをバイナリサーチによって変化させる。また信号処理部504は、第2モードφ2において、位相周波数比較器502の出力を積分(平滑化)し、制御コードDCO_CODEを生成する。第2モードφ2に関連する信号処理部504の構成は、公知技術を採用すればよく、典型的にはデジタルフィルタを含む。また信号処理部504は、第1モードφ1と第2モードφ2を制御するためのステートマシンを含んでもよい。
【0055】
以上がPLL回路100の構成である。続いてその動作を説明する図である。
図3は、
図2のPLL回路100の動作波形図である。時刻t
0にPLL回路100が起動し、第1モードφ
1となる。
【0056】
第1モードφ1の間は、第1処理を行う第1期間T1と、第2処理を行う第2期間T2を1サイクルとして、それを繰り返し実行し、バイナリサーチにもとづいて、DCO200に対する制御コードDCO_CODE[M-1:0]が更新される。そしてMサイクルの繰り返しの後、すなわち、基準クロックCLK_REFの(2×M)周期経過後の時刻t1に、サーチした最適な制御コードDCO_CODEで第2モードφ2に移行する。第2モードφ2では、START信号がアサートされ、PLL回路100の外部のブロックに出力クロックCLK_OUTが供給され、位相同期ループによって制御コードDCO_CODEが最適化され、出力クロックCLK_OUTの周波数が、基準クロックCLK_REFのN倍に安定化される。
【0057】
図4は、バイナリサーチにもとづく制御コードの遷移を説明する図である。ここでは制御コードDCO_CODEのビット数Mが4の場合であって、ターゲットコードが[1011](10進数で11の場合)を示している。
【0058】
以上がPLL回路100の動作である。このPLL回路100によれば、DCO200の制御コードDCO_CODEがMビットであるとき、起動開始からMサイクル後に、制御コードDCO_CODEが最適な値となり、周波数引き込みが完了する。そして、注入同期型であるがゆえに、次のサイクルでは、注入エッジと位相同期した状態で、発振を開始することができる。つまり、フィードバックによる位相同期の遅延時間がゼロであり高速起動が可能である。また起動時間は、Mサイクルの時間であり不変となる。
【0059】
図5は、PLL回路100の構成例(100A)を示す図である。コントローラ500のうち、位相周波数比較器502を除く部分が、
図2の信号処理部504に対応する。コントローラ500は、PLL回路100の起動、停止を指示するイネーブル信号ENを受け、イネーブル信号ENのアサート(ハイ)をトリガとして第1モードφ
1となり、起動を開始する。
【0060】
フリップフロップ530およびインバータ532は、イネーブル信号ENを、基準クロックCLK_REFのエッジ(この例ではネガティブエッジ)でリタイミングし、ENREG信号を生成する。
【0061】
ANDゲート534は、ENERG信号がハイの期間、基準クロックCLK_REFを、バイナリサーチ部512およびループフィルタ514に動作クロックとして供給する。
【0062】
ウィンドウ発生器400は、ENREG信号がアサート(ハイ)のときにアクティブとなる。ウィンドウ発生器400は、DCO200の内部クロックCLK_INTを受け、N個に1個の割合でパルスを切り出し、内部クロックCLK_INTの1/4周期、遅延させることにより、ウィンドウ信号INJ_WINDBを生成する。Nは、PLL回路100の逓倍比である。ウィンドウ信号INJ_WINDBは、第2モードφ2においてセレクタ522により選択され、選択信号SELとしてマルチプレクサ220に供給される。
【0063】
また、ウィンドウ信号INJ_WINDBは、位相周波数比較器502に供給される。位相周波数比較器502は、ウィンドウ信号INJ_WINDBが指定するタイミング(期間)において、2つのクロック信号CLK_REFとCLK_INTの位相を比較し、比較結果を示す信号UP_DOWNを出力する。
【0064】
バイナリサーチ部512は、PLL回路100の起動直後の第1モードφ1においてアクティブとなり、位相周波数比較器502の出力UP_DOWNにもとづいて、制御コードDCO_CODEをバイナリサーチによって変化させる。バイナリサーチ部512は、第1モードφ1の間、サーチイネーブル信号SARENをアサート(ハイ)し、バイナリサーチが完了すると、SAREN信号をネゲート(ロー)し、第2モードφ2に移行する。
【0065】
第1モードφ1の間、バイナリサーチ部512が生成するコードCODE_BSは、セレクタ516を介して、制御コードDCO_CODEとして可変遅延回路210に供給される。また第1モードφ1が終了すると、コードCODE_BSは、ループフィルタ514の初期値に設定される。
【0066】
またバイナリサーチ部512は、基準クロックCLK_REFの1周期ごとに、レベルが反転する選択信号SEL_BSを生成する。第1モードφ1の間、SEL_BS信号はセレクタ522によって選択され、選択信号SELとしてマルチプレクサ220に供給される。
【0067】
ループフィルタ514は、第2モードφ2においてアクティブとなり、位相周波数比較器502の出力UP_DOWNにもとづいて、制御コードCODE_FBを生成する。第2モードφ2の間、ループフィルタ514が生成するコードCODE_FBは、セレクタ516を介して、制御コードDCO_CODEとして可変遅延回路210に供給される。
【0068】
SAREN信号は、インバータ518によって反転され、START信号として出力ゲート102に供給される。
【0069】
以上がPLL回路100Aの構成である。続いてその動作を説明する。
図6は、
図5のPLL回路100Aの動作波形図である。ここでは制御コードDCO_CODEのビット数はM=4である。
図7は、バイナリサーチにもとづく周波数の遷移を示す図である。
【0070】
図6を参照する。時刻t
0に、イネーブル信号ENがハイとなり、時刻t
1に基準クロックCLK_REFのネガティブエッジに応答してイネーブル信号ENが取り込まれ、ENREG信号がハイとなって、第1モードφ
1となる。SEL_BS信号は、基準クロックCLK_REFの周期ごとに反転し、SEL信号となる。
【0071】
時刻t2,t4,t6,t8とSEL信号がハイとなるたびに、基準クロックCLK_REFのポジティブエッジがDCO200に注入され、DCO200が発振する。また時刻t3,t5,t7,t9とSEL信号がローとなるたびに、位相比較が行われる。位相比較の結果、UP_DOWN信号がハイであるとき、制御コードDCO_CODE(CODE_BS)は増加し、UP_DOWN信号がローであるとき、制御コードDCO_CODE(CODE_BS)は減少する。1回の位相比較ごとに、制御コードDCO_CODEの最上位ビットMSBから最下位ビットLSBに向かって値が確定していく。STATE_COUNTは、バイナリサーチにおける対象ビットを指定するカウント値である。
【0072】
時刻t10に、すべてのビットのサーチが完了すると、SAREN信号がローとなり、第2モードφ2に移行する。バイナリサーチによって得られた制御コードCODE_BSは、ループフィルタ514の初期値にセットされる。続く時刻t11に、基準クロックCLK_REFのエッジが注入されると、DCO200は発振を開始し、制御コードCODE_FBが、ループフィルタ514によって調整される。このとき、ループフィルタ514はバイナリサーチにより既に周波数ロックがかかった状態と等価である。そのためPLL回路100Aは、基準クロックCLK_REFが入力される時刻t11の瞬間に位相ロックと等価の状態からスタートするという利点を有する。また基準クロックCLK_REFのポジティブエッジを含むようなウィンドウ信号INJ_WINDBが生成され、基準クロックCLK_REFがDCO200に注入され、位相ロックが維持される。
【0073】
以上がPLL回路100Aの通常の起動動作である。続いて、PLL回路100(100A)の高速起動について説明する。
【0074】
コントローラ500は、初回起動時は第1モードφ1によりバイナリサーチによって最適な制御コードDCO_CODEを探索するが、2回目以降の起動時には、第1モードφ1を経由せずに、直ちに発振を開始する。具体的にはコントローラ500は、PLL回路100の停止指示(イネーブル信号ENのロー)に応答して、そのときの制御コードDCO_CODEを保持し、次のPLL回路100の起動指示(イネーブル信号ENのハイ)に際して、保持した制御コードを初期値として、直ちに第2モードに遷移する。
【0075】
図8は、PLL回路100の2回目以降の起動を説明するタイムチャートである。時刻t
0にイネーブル信号ENがローとなり、時刻t
1にENREG信号がローとなると、PLL回路100が停止する。PLL回路100が停止した後も、制御コードDCO_CODEの値は保持される。時刻t
2にイネーブル信号ENがハイとなり、時刻t
3にENREG信号がハイとなる。時刻t
4に基準クロックCLK_REFのエッジが注入されると、PLL回路100は発振を開始する。このように、2回目以降については、1サイクルで位相同期した状態からリスタートできる。
【0076】
つまり、この注入同期型のPLL回路100を備えるシステムでは、PLL回路の動作、停止を積極的に切り替えることができ、クロックCLK_OUTが供給される負荷が停止している期間は、イネーブル信号ENをローとすることにより、PLL回路100の消費電力を大幅に削減できる。
【0077】
図9は、
図5のウィンドウ発生器400の構成例を示す回路図である。
図9では、
図5のセレクタ522やバイナリサーチ部512などが省略されている。
【0078】
可変遅延回路210は、第1遅延回路212と第2遅延回路214の直列接続として構成することができ、第1遅延回路212は相対的に粗い分解能の遅延を与え、第2遅延回路214は相対的に高い分解能の遅延を与える。可変遅延回路210の出力は、内部クロックCLK_INTとして可変周波数発振器200の外部に引き出されている。リングオシレータである可変周波数発振器200は、論理反転のためのインバータを含むが、インバータの挿入位置は限定されず、可変遅延回路の入力側に設けてもよいし、出力側に設けてもよいし、可変遅延回路やマルチプレクサに組み込んでもよい。
【0079】
マルチプレクサ220は、一方の入力(1)に内部クロックCLK_INTを受け、他方の入力(0)に注入エッジINJ_EDGEを受け、選択信号SEL(ウィンドウ信号INJ_WINDB)に応じた一方を選択する。具体的にはウィンドウ信号INJ_WINDBがアサート(本実施形態では負論理系であり、ロー=0)のとき注入エッジINJ_EDGEを選択し、ウィンドウ信号INJ_WINDBがネゲート(ハイ=1)のとき内部クロックCLK_INTを選択する。マルチプレクサ220の出力は、可変遅延回路210の入力に戻されている。
【0080】
フィードバック回路300は、
図5の位相周波数比較器502およびループフィルタ514に対応する。可変周波数発振器200の発振周波数f
DCOが、基準クロックCLK_REFの周波数f
REFにもとづく目標周波数に近づくように、可変遅延回路210に与える制御コードをフィードバック制御する。たとえばフィードバック回路300には、目標周波数f
TGTを規定するFCW(Frequency Control Word)が入力されており、内部クロックCLK_INT(すなわち出力クロックCLK_DCO)の周波数f
DCOを、f
REF×FCWを目標周波数として安定化する。
【0081】
フィードバック回路300の構成や制御方式は特に限定されず、FLL(Frequency Locked Loop)方式やPLL(Phase Locked Loop)方式のいずれかを用い、あるいはそれらを併用することができる。たとえば、第1遅延回路212の遅延量をFLL方式によって制御し、第2遅延回路214の遅延量をPLL方式によって制御してもよい。あるいは、第1遅延回路212と第2遅延回路214の両方の遅延量を、PLL方式によって制御してもよい。
【0082】
ウィンドウ発生器400は、内部クロックCLK_INTを受け、1パルスを切り出すことによりウィンドウ信号INJ_WINDBを生成する。つまり本実施形態においてウィンドウ信号INJ_WINDBは、基準クロックCLK_REFとは無関係に生成される。
【0083】
以上がPLL回路100の基本構成である。続いてその動作を説明する。
図10は、
図9のPLL回路100の動作波形図である。可変周波数発振器200が生成する内部クロックCLK_INTおよび出力クロックCLK_DCOは、基準クロックCLK_REFをN逓倍した信号である。ウィンドウ信号INJ_WINDBは、内部クロックCLK_INTのパルス(半周期)を切り出し、適切にタイミングを合わせることにより生成され、したがって、ウィンドウ信号INJ_WINDBは、そのアサート期間(ロー区間)に、基準クロックCLK_REFのエッジを含むことができる。この注入エッジINJ_EDGEが可変周波数発振器200に注入され、可変周波数発振器200が生成する内部クロックCLK_INT(および出力クロックCLK_DCO)は、注入エッジINJ_EDGEによってリタイミングされる。
【0084】
以上がPLL回路100の動作である。このPLL回路100によれば、ウィンドウ信号INJ_WINDBが規定する窓の開く(アサート)タイミング、窓の閉じる(ネゲート)タイミングは、基準クロックCLK_REFに依存しない。したがって、可変周波数発振器200が発振している間は基準クロックCLK_REFの有無にかかわらず窓を確実に開閉させることができる。
【0085】
また、窓の開いている期間に基準クロックCLK_REFの注入エッジINJ_EDGEが確実に含まれるようにタイミング調整が可能であるため、ウィンドウ信号に起因するグリッジや高調波発振は発生しない。もし、窓の開いている期間に基準クロックの遷移(エッジ)が発生しない場合には、所定サイクル(逓倍数N)に1回の割合で、内部クロックCLK_INT(および出力クロックCLK_DCO)の周期が長くなるが、発振が停止することはない。
図9のPLL回路100によれば、従来の問題点のいくつかを解決できる。
【0086】
図9に戻る。ウィンドウ発生器400は、内部クロックCLK_INTのNサイクル(N≧2)に1回、内部クロックCLK_INTの半サイクル(すなわち内部クロックのハイ区間あるいはロー区間)の間、アサートされるパルス信号injwbを生成し、パルス信号injwbを内部クロックCLK_INTの周期のK倍(0<K<1)の時間、遅延させて、ウィンドウ信号INJ_WINDBを生成する。Nは、PLL回路100の逓倍数が好ましい。
【0087】
K=1/4とした場合、ウィンドウ信号INJ_WINDBのアサート期間(ロー)の中央に注入エッジINJ_EDGEが存在するように、ウィンドウ信号INJ_WINDBのタイミングを調節できる。
【0088】
ウィンドウ発生器400は、カウンタ402、論理ゲート404、遅延ライン406を含む。カウンタ402は、内部クロックCLK_INTをカウントし、N周期あたり1周期の間、その出力injw_enをアサートする。論理ゲート404は、カウンタ402の出力injw_enと内部クロックCLK_INTを論理演算し、パルス信号injwbを生成する。たとえば論理ゲート404は、内部クロックCLK_INTの反転信号とカウンタ402の出力injw_enの否定論理積を生成するNANDゲートを含んでもよい。
【0089】
以上がPLL回路100の基本構成である。続いてその動作を説明する。
図11は、
図9のPLL回路100の動作波形図である。ここではN=16の場合を示す。カウンタ402は4ビットで構成され、キャリー信号がinjw_enとされる。CLK_INTBは、内部クロックCLK_INTの反転信号であり、injw_en信号とDOC_INTB信号のNAND演算により、パルス信号injwbが生成される。このパルス信号injwbに、内部クロックCLK_INTの周期の約1/4(CLK_INTのパルス幅の1/2)に相当する遅延を与えることにより、ウィンドウ信号INJ_WINDBが生成される。基準クロックCLK_REFのポジエッジ(注入エッジ)は、INJ_WINDB信号の実質的にセンターに位置することとなるから、基準クロックCLK_REFにジッタが重畳された場合であっても、内部クロックCLK_INTのパルス幅(CLK_INTの1/4周期)の範囲であれば、注入エッジによってリタイミングをかけることができる。
【0090】
図12は、PLL回路100の具体的な構成例を示す回路図である。可変周波数発振器200について説明する。第1遅延回路212と第2遅延回路214は、上述のように分解能が異なっており、前者は低い分解能の遅延を与えるのに適した構成を有し、後者は高い分解能の遅延を与えるのに適した回路構成を有する。第2遅延回路214は、分解能の異なる2個の遅延回路214m、214fを含んでもよい。
【0091】
マルチプレクサ220は、第1NANDゲート222~第4NANDゲート228およびインバータ230を含む。一般的にはマルチプレクサ220は、2個のNANDゲートのペアで構成されるところ、素子ばらつきの影響で、2つの入力信号の遅延に差が生ずる場合がある。そこでこのペアを2個、対称に配置することにより、2つの入力信号の遅延差を低減できる。
【0092】
続いてウィンドウ発生器400について説明する。上述のように遅延ライン406が与える遅延は、内部クロックCLK_INTの周期の約1/4である。可変周波数発振器200において可変遅延回路210が与える遅延は、内部クロックCLK_INT(CLK_DCO)の周期の1/2に相当する。したがって、可変遅延回路210が与える遅延の半分が、injwb信号に与えるべき遅延となる。
【0093】
内部クロックCLK_INTの半周期の長さは、第1遅延回路212によるものが支配的となる。そこで遅延ライン406は、第2遅延回路214が与える遅延を無視し、第1遅延回路212の遅延の1/2倍の遅延を、injwb信号に与えるよう構成される。
【0094】
第1遅延回路212に与えられる制御コードは、サーモメータコードCODE_C[62:0]であり、サーモメータコードCODE_C[62:0]の値(1がマークされるビット数)に、単位遅延を乗じた遅延を発生可能に構成される。この例ではサーモメータコードは63ビットである。
【0095】
遅延ライン406は、第1遅延回路212と同じ回路形式を有するレプリカであり、単位遅延は、第1遅延回路212と同じに設計され、段数は第1遅延回路212の段数の1/2である。したがって遅延ライン406に与えるサーモメータコードCODE_D[31:0]のビット数は、第1遅延回路212に与えるサーモメータコードのビット数の1/2である。CODE_D[31:0]は、CODE_C[62:0]を1ビットおきに間引くことにより生成することができる。
【0096】
図12では、
図8の論理ゲート404が、インバータ404aとNANDゲート404bに分解して示される。ウィンドウ発生器400にはさらに、ダミーのマルチプレクサ410が設けられる。
【0097】
マルチプレクサ410は、可変周波数発振器200におけるマルチプレクサ220の影響をキャンセルするために設けられる。マルチプレクサ410はマルチプレクサ220のレプリカであり、遅延ライン406の出力injwb_dlyに、マルチプレクサ220と同じ遅延を与えて、マルチプレクサ220の影響をキャンセルする。
【0098】
実施形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組み合わせにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。以下、こうした変形例を説明する。
【0099】
実施形態では、基準クロックCLK_REFのエッジを、注入エッジとして用いたが、その限りでなく、基準クロックCLK_REFを逓倍し、逓倍後のクロックの注入エッジとして用いてもよい。
【0100】
実施形態にもとづき、具体的な語句を用いて本発明を説明したが、実施形態は、本発明の原理、応用を示しているにすぎず、実施形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を逸脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が認められる。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本開示は、PLL(Phase Locked Loop)回路に利用できる。
【符号の説明】
【0102】
100 PLL回路
102 出力ゲート
200 DCO
210 可変遅延回路
212 第1遅延回路
214 第2遅延回路
220 マルチプレクサ
222 第1NANDゲート
224 第2NANDゲート
226 第3NANDゲート
228 第4NANDゲート
230 インバータ
500 コントローラ
502 位相周波数比較器
504 信号処理部
512 バイナリサーチ部
514 ループフィルタ
516 セレクタ
522 セレクタ
530 フリップフロップ
532 インバータ
300 フィードバック回路
310 PFD
312 ゲーティング回路
314,316 ラッチ回路
318 デジタルフィルタ
320 対称型PD
400 ウィンドウ発生器
402 カウンタ
404 論理ゲート
406 遅延ライン
410 マルチプレクサ
412 マスク回路
420 クロック監視回路