(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-26
(45)【発行日】2024-10-04
(54)【発明の名称】鉄道車両の構体
(51)【国際特許分類】
B61D 17/08 20060101AFI20240927BHJP
B61D 17/00 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
B61D17/08
B61D17/00 C
(21)【出願番号】P 2022019278
(22)【出願日】2022-02-10
【審査請求日】2023-10-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000163372
【氏名又は名称】近畿車輌株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118924
【氏名又は名称】廣幸 正樹
(72)【発明者】
【氏名】川口 順平
(72)【発明者】
【氏名】マイ ザ・クェン
(72)【発明者】
【氏名】岩田 貴
(72)【発明者】
【氏名】長尾 和幸
【審査官】西中村 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-070422(JP,A)
【文献】特開2020-128128(JP,A)
【文献】中国実用新案第203439041(CN,U)
【文献】特開平02-045258(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0020325(US,A1)
【文献】特開2014-162254(JP,A)
【文献】実開昭59-070869(JP,U)
【文献】特開2000-002212(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61D 17/00-17/08
B62D 31/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
隅柱が側構体側及び妻構体側に分割して構成された鉄道車両の構体であって、
背切り構造で上下に継ぎ合わされた側外板と、
前記隅柱のうち前記側構体側に位置し、前記背切り構造と交差する領域が切り欠かれ
、且つ前記背切り構造の段差と同じ厚みを有する板状の接合部で前記側外板の車内側に接合される側隅柱と、
前記妻構体側に位置し、前記側隅柱の前記接合部の車内側に接合される
平坦面を有する妻隅柱と
を備えたことを特徴とする鉄道車両の構体。
【請求項2】
前記側隅柱は、前記接合部をフランジ部分とする断面ハット型の鋼材で形成されていることを特徴とする請求項1に記載の鉄道車両の構体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、背切り構造によって継ぎ合わされた側外板に対する隅柱の接合構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両の側構体の製造方法の一つとして、一方の板材の端縁に他方の板材の板厚分の段差を設けて重ね合わせる背切り構造により幕板と腰板とを継ぎ合わせる側外板の構成が知られている。そして、このような側外板において、背切り構造の部分は、断面ハット型の横骨によって一対のフランジ部の間の空間に覆い隠されるようにして構成されることが多い。背切り構造を覆う横骨の構造については特許文献1(
図7)に記載がある。
【0003】
上述のような横骨の端部側で断面ハット型の縦骨を交差させる場合、縦骨の一対のフランジ部のうち一方を横骨の上に重ね、他方を側外板に接合するようにして溶接される。
【0004】
この場合、側外板と接合される縦骨のフランジ部は、背切り構造を横切るので、重なり領域の板厚分の隙間を詰める必要がある。
【0005】
従来は、この隙間をなくすために、縦骨のフランジ部が接合される領域だけ、背切り構造の代わりに、板材の端縁同士を突き合わせる平接ぎ構造で継合わせる構成が採用されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述のように、縦骨のフランジ部が接合される領域だけ、平接ぎ構造で上下の側外板(幕板と腰板)を継ぎ合わせる場合、水密性が低下する。よって、この平接ぎ構造の領域だけシール加工を施す必要がある。このように一部だけシール加工を施す場合、工数が増加するだけでなく、車体の側面の美観も損なわれる。
【0008】
ところで、出入口の枠材は車外側から嵌め込まれるので、シール加工の有無に関わらず側外板の長手方向の端縁を覆い隠すことができる。しかし、側構体側と妻構体側とに分割して構成される隅柱を接合する側外板に対しては、車内側から接合する必要があるため、側外板の外面を覆うことはできない。
【0009】
そこで、本発明では、隅柱接合領域においても背切り構造により側外板を継ぎ合わせることができる鉄道車両の構体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の鉄道車両の構体は、隅柱が側構体側及び妻構体側に分割して構成された鉄道車両の構体であって、背切り構造で上下に継ぎ合わされた側外板と、前記隅柱のうち前記側構体側に位置し、前記背切り構造と交差する領域が切り欠かれ、且つ前記背切り構造の段差と同じ厚みを有する板状の接合部で前記側外板の車内側に接合される側隅柱と、前記妻構体側に位置し、前記側隅柱の前記接合部の車内側に接合される平坦面を有する妻隅柱とを備えたことを特徴とする。
【0011】
また、本発明の鉄道車両の構体は、上記構成に加えて、前記側隅柱が、前記接合部をフランジ部分とする断面ハット型の鋼材で形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
以上のように、本発明によれば、側隅柱の接合部が背切り構造の影響を受けないので、背切り構造の周辺で接合部に段差や隙間が形成されることを防止できる。これにより、接合部で形成される平坦な面に妻隅柱を接合することが可能となる。延いては、背切り構造を隅柱の形成される端縁まで形成することが可能となる。
【0013】
また、本発明によれば、上記の効果に加えて、背切り構造に相当する当板をスペーサとして設ける必要がない。これにより、工数を少なく抑えることができ、コストの削減と車両重量の低減が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の鉄道車両の構体のうち隅柱周辺の部分拡大斜視図である。
【
図5】
図3の構造の横断面図を示し、(a)はB-B線で切断した断面図、(b)はC-C線で切断した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態に係る鉄道車両の構体について図を用いて説明する。
【0016】
図1は、本発明の鉄道車両の構体のうち隅柱周辺の部分拡大斜視図である。また、
図2は、
図1の構造の隅柱を分解した斜視図である。これら
図1、2において、車両長手方向の向きを外側L1、内側L2で表し、車幅方向の向きを外側W1、内側W2で表している。
【0017】
図1に示すように、本発明に係る鉄道車両の構体において、隅柱8は側構体1側の側隅柱10と、妻構体2側の妻隅柱12とから構成されている。
【0018】
図1では、幕板である側外板4と腰板である側外板6とが上下に継ぎ合わされた部分の周辺を拡大して示している。側外板6側には上端に背切り部6aが形成されており、側外板4と側外板6とは背切り構造により継合わされているのが見て取れる。
【0019】
また
図2からわかるように、側構体1側には、断面ハット型の2本の横骨14が配置されている領域が表されており、このうち上方の横骨14の一対のフランジ部14aの間に跨ぐように背切り構造(背切り部6a)が形成されている。
【0020】
隅柱8を分解した状態の
図2に示すように、側隅柱10は、断面ハット型の鋼材で形成されている。
図1を合わせて参照するとわかるように、側隅柱10は、一方のフランジ部10aが横骨14に接合され、他方のフランジ部10b(接合部)が側外板4、6に接合される。
【0021】
ところで、本実施の形態に係る構成の側隅柱10では、側外板4、6に接合されるフランジ部10bのうち背切り構造(背切り部6a)と交差する領域に切り欠き10cが形成されている。このような構成により、背切り部6aの厚み分だけ持ち上げられることがないので、側外板4、6に対してスペーサーなどの別部材を介在させずに、そのままフランジ部10bを接合させることができる。そして、背切り部6aを側外板6の端縁まで形成
することが可能となる。これにより、背切り構造の形成する水密構造が側外板4、6の端縁まで途切れることなく形成されることになるので、側外板4と側外板6との間にシール加工を施す必要がなくなる。したがって、工数を減らすことができる上に、側構体1の外面の美観を損ねることを防ぐことができる。
【0022】
本実施の形態に係る構成のように、隅柱8が側構体1側と妻構体2側とに分割して構成される場合、妻隅柱12に一定以上の強度を持たせるためにリブ12aを形成しなければならない。そして、このリブ12aが形成されていることにより、妻隅柱12を側外板4、6の外面に接合することができない。しかし、本発明によれば、背切り部6aの影響を受けない平坦面を側隅柱10のフランジ部10bに形成することができる。これにより、側隅柱10に対して隙間なく妻隅柱12を密着させることができ、強度を低下させることなく隅柱8を構成することが可能となる。
【0023】
なお、側外板4、6の車両長手方向の端縁(
図2では外側L1の端縁)には、隅柱8との間を水密にするシール16が設けられている。このシール16については正面図を用いて説明する。
【0024】
図3は、
図1の構造の正面図である。ここでは、説明の便宜のため、シール16に斜線を施して示している。この正面図において、シール16周辺の構造は妻隅柱12の背面に隠れているため、点線で表されている。複数表れているこれらの点線の構造のうち、車両長手方向の最も外側(L1)に側外板4、6の線が表れている。そして、これら側外板4、6よりも僅かに内側(L2)に側隅柱10の端縁が表れている。すなわち、側隅柱10の端縁は側外板4、6の端縁よりも車両長手方向の内側(L2)に入り込んでいる。そして、シール16は、内側(L2)に入り込んだ側隅柱10の端縁から側外板4、6を外側(L1)に超える領域までの範囲に形成されている。
【0025】
なお、背切り部6aは上述のように車両長手方向の外側(L1)の側外板6の端縁の位置まで形成されている。よって、この背切り部6aの形成されている領域では、側隅柱10の端縁からではなく、側外板4、6の端縁の位置から外側(L1)へシール16が形成されている。
【0026】
図4は、
図3のAーA線で切断した縦断面図である。車幅方向の内側W2には側隅柱10が表れている。また、
図4において車幅方向の中央辺りには、妻隅柱12のリブ12aが表れている(
図2参照)。そして、車幅方向の外側(W1)辺りには、3層の断面形状が表れている。これら3層の断面のうち、最も内側(W2)に位置しているのは、リブ12aに繋がる妻隅柱12の断面である。一方、最も外側(W1)に位置している断面は、側外板4と側外板6である。側外板6は、上方の側外板4の下端に背切り部6aを重ねるように配置されている。この背切り部6aと同じ層内において上下に配置されているのは、側隅柱10の一方のフランジ部10bである。フランジ部10bの切り欠き10cの間に背切り部6aが位置しているのがわかる。
【0027】
図4に示すように、側外板6の背切り部6aと側隅柱10のフランジ部10bとは同じ厚みを有する板状に形成されているので、妻隅柱12を隙間なく接合することができる。また、背切り部6aは、側外板4に対して水密性を保つのに十分な範囲で重ね合わされているので、車両の長手方向の外側(L1)に設けたシール16(
図3参照)以外にシール加工を施す必要がない。
【0028】
図5は、
図3の構造の横断面図を示し、(a)はB-B線で切断した断面図、(b)はC-C線で切断した断面図である。
【0029】
図5(a)は、背切り部6aの位置で切断した横断面を示している。背切り部6aは横骨14の内側を通り、車両長手方向において側外板4と同じ外側(L1)の端縁まで延設されているのが見て取れる。側隅柱10は断面ハット型の鋼材で形成されており、一方のフランジ部10aを横骨14に載せるように配置されている。他方のフランジ部10bは、
図5(a)の切り欠き10cが形成されている断面図では、背切り部6aの後ろに隠れている。
図4を用いた説明でも上述したように、背切り部6aと妻隅柱12とが接合されているのがわかる。シール16は、側外板4と側外板6の背切り部6aの端縁を覆い、妻隅柱12との間で形成される隅の部分を埋めるように配置されている。
【0030】
図5(b)は、背切り部6aよりも下方側で切断した横断面を示している。
図5(b)の領域では側隅柱10のフランジ部10bに切り欠き10cが形成されていないので、フランジ部10bが側外板6と接合されている。フランジ部10aは、
図5(a)と同様に横骨14の上に接合されている。
図5(b)に表れているように、側隅柱10の車両長手方向における外側(L1)の端縁は、側外板6よりも僅かに内側(L2)の位置で止まっている。よって、側外板6の外側(L1)の端縁と妻隅柱12との間には隙間が形成されている。シール16は、この隙間を埋めるように配置されている。
【符号の説明】
【0031】
1 側構体
2 妻構体
4 側外板(幕板)
6 側外板(腰板)
6a 背切り部
8 隅柱
10 側隅柱
10a、10b フランジ部(接合部)
10c 切り欠き
12 妻隅柱
12a リブ
14 横骨
14a フランジ部
16 シール