IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社クボタの特許一覧

<>
  • 特許-作業機 図1
  • 特許-作業機 図2
  • 特許-作業機 図3
  • 特許-作業機 図4
  • 特許-作業機 図5
  • 特許-作業機 図6
  • 特許-作業機 図7
  • 特許-作業機 図8
  • 特許-作業機 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-26
(45)【発行日】2024-10-04
(54)【発明の名称】作業機
(51)【国際特許分類】
   A01C 11/02 20060101AFI20240927BHJP
【FI】
A01C11/02 313C
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2022111864
(22)【出願日】2022-07-12
(62)【分割の表示】P 2018065772の分割
【原出願日】2018-03-29
(65)【公開番号】P2022132386
(43)【公開日】2022-09-08
【審査請求日】2022-08-10
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】瀧尾 和弘
(72)【発明者】
【氏名】松井 裕佑
(72)【発明者】
【氏名】松木 直樹
【審査官】小島 洋志
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-223949(JP,A)
【文献】特開2011-206032(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01C 11/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
農用資材供給部と田面との間を上下に回転運動しつつ農用資材を田面に供給する作業部と、
原動機からの駆動力を前記作業部に向けて出力する作業用動力伝達系と、前記原動機からの駆動力を走行装置に向けて出力する走行用動力伝達系とを有する動力伝達装置と、が備えられ、
前記作業用動力伝達系と前記走行用動力伝達系とは、原動機からの動力伝達経路の中途部で分岐し、
分岐後の前記作業用動力伝達系に、静油圧式の無段変速装置と、前記静油圧式の無段変速装置よりも動力伝達方向における下流側に設けられた減速機構と、が備えられている作業機。
【請求項2】
前記作業用動力伝達系に、前記減速機構よりも動力伝達方向における下流側に設けられ前記作業部の一回転の回転速度に緩急を付ける作業部変速装置が備えられている請求項1に記載の作業機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農用資材を田面に供給する作業機に関する。
【背景技術】
【0002】
作業機の一例である乗用型田植機では、特許文献1に開示されるものがある。特許文献1では、エンジンの動力が主変速装置に伝達され、主変速装置によって変速されて出力される変速動力が走行用動力と作業用動力とに分岐され、走行用動力が前車輪及び後車輪に伝達され、作業用動力が作業変速ギヤミッションを介して苗植付け機構に伝達される。
【0003】
これにより、主変速装置が操作されて機体の走行速度が変化しても、苗植付け装置に伝達される動力も主変速装置の変速動力であるので、苗植付け機構による株間は、作業変速ギヤミッションによって設定される設定間隔に維持される。そして、作業変速ギヤミッションを変速操作することにより、苗植付け機構による株間を変更して設定できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-70653号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の技術を採用した場合、田面に農用資材が供給される機体進行方向での間隔(供給間隔)の変更設定がギヤミッションによって段階的に行われる。近年では、田面や農用資材の性状等に応じて、農用資材の供給間隔を適切に設定したいという要望が高まっている。
【0006】
本発明は、田面や農用資材の性状等に対応させて、農用資材の供給間隔を適切に設定できる作業機を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の作業機は、農用資材供給部と田面との間を上下に回転運動しつつ農用資材を田面に供給する作業部と、原動機からの駆動力を前記作業部に向けて出力する作業用動力伝達系と、前記原動機からの駆動力を走行装置に向けて出力する走行用動力伝達系とを有する動力伝達装置と、が備えられ、前記作業用動力伝達系と前記走行用動力伝達系とは、原動機からの動力伝達経路の中途部で分岐し、分岐後の前記作業用動力伝達系に、静油圧式の無段変速装置と、前記静油圧式の無段変速装置よりも動力伝達方向における下流側に設けられた減速機構と、が備えられている。
また、本発明の作業機は、農用資材供給部と田面との間で上下に回転運動しつつ農用資材を田面に供給する作業部と、原動機の動力が入力され、入力された動力を変速して変速動力を出力する変速装置と、前記変速装置が出力する変速動力を走行用動力と作業用動力とに分岐させる分岐部、前記分岐部からの走行用動力を走行装置に向けて出力する走行用動力伝達系、及び、前記分岐部からの作業用動力を前記作業部に向けて出力する作業用動力伝達系を有する動力伝達装置と、が備えられ、前記作業用動力伝達系に、前記作業部に向けて動力伝達する順番に、無段変速装置と、減速機構と、前記作業部の一回転の回転速度に緩急を付ける作業部変速装置と、が備えられている。
【0008】
本構成によると、無段変速装置を変速操作することにより、作業部に伝達される作業用動力の速度が走行用動力の速度とは無関係に無段階に変速され、作業部によって田面に農用資材が供給される機体進行方向での間隔(供給間隔)が無段階に変化する。
【0009】
供給間隔を広く設定するには、作業部に伝達される作業用動力を低速にすることになるので、無段変速装置を低速の変速状態に設定すればよいのであるが、作業用動力の低速に合わせた低速の変速状態に設定した場合、無段変速装置から低トルク・低速の動力が出力されることになり、作業部の駆動抵抗によっては、作業部がスムーズに作動しないことがある。また、無段変速装置によっては、無段変速装置が振動するなどスムーズに作動しないことがある。本構成によると、作業部に伝達されるべき作業用動力の低速に比して高速の変速状態に無段変速装置を設定しても、無段変速装置が出力する変速動力が減速機構によって減速されて作業部に伝達されるので、作業部や無段変速装置の作動不良を回避しつつ供給間隔を広く設定できる。
【0010】
また、供給間隔を広く設定するには、作業部が低速で一回転するように作業部の作動速度を低速に設定すればよいのであるが、作業部の作動速度を単に低速に設定しただけの場合、作業部が田面に到達してから田面に対して上昇するまでの経過時間が長くなり、機体走行によって牽引されることになる作業部によって田面が広い範囲に亘ってかき乱されて田面に供給されるべき農用資材が所定の供給箇所から拡散したり移動したりするなどの供給不良が起こる。供給間隔を狭く設定するには、作業部が高速で一回転するように作業部の作動速度を高速に設定すればよいのであるが、作業部の作動速度を単に高速に設定しただけの場合、作業部が田面に到達してから田面に対して上昇するまでの経過時間が短くなり、作業部によって田面に供給されるべき農用資材が作業部によって田面から持ち上げられるなどの供給不良が起こる。本構成によると、設定する供給間隔に対応させて作業部変速装置を変速操作することにより、作業部の一回転の回転速度に緩急が付けられ、作業部が田面に到達してから田面に対して上昇するまでの経過時間を長くなり過ぎないように、短くなり過ぎないように調節できるので、農用資材の供給不良を回避しつつ供給間隔を広く設定したり、狭く設定したりできる。
【0011】
従って、農用資材の機体進行方向での供給間隔を細かく変更して設定することが可能なので、田面や農用資材の性状等に対応させて、農用資材の供給間隔を適切に設定できる。
【0012】
本発明において、前記無段変速装置は、静油圧式の無段変速装置であると好適である。
【0013】
本構成によると、変速装置から出力される変速動力を少しだけ高速側に変速したり、少しだけ低速側に変速したりする細かな変速を無理なく行うことができるので、農用資材の供給間隔をより細かく変更して設定することが可能となり、農用資材の供給間隔をより適切に設定できる。
【0014】
本発明において、前記無段変速装置に、当該無段変速装置の出力軸に相対回転可能に外嵌された伝動筒軸が備えられ、前記減速機構は、前記出力軸と前記伝動筒軸とに亘って設けられ、前記作業部変速装置の入力側部材が前記伝動筒軸に設けられていると好適である。
【0015】
本構成によると、無段変速装置、減速機構及び作業部変速装置を無段変速装置の出力軸の軸芯方向に沿う方向に寄り合った状態で設けることができるので、動力伝達装置をコンパクトに得ることができる。
【0016】
本発明において、前記作業部変速装置及び前記減速機構を収容するミッションケースが備えられ、前記ミッションケースは、前記作業部変速装置が内部に位置するケース本体と、前記減速機構が内部に位置するケース蓋部とに分割可能に構成されていると好適である。
【0017】
本構成によると、作業部変速装置及び減速機構をミッションケースに組み込む際、入力側部材と出力側部材との高精度な位相合わせが必要である作業部変速装置よりも手前側に減速機構が位置し、作業部変速装置を容易に見通しながらできるので、組み込み作業を行いやすい。
【0018】
本発明において、前記無段変速装置は、前記ケース蓋部の外部に支持されており、前記無段変速装置の出力軸は、前記ケース蓋部を外側から内側へ挿通している出力軸本体と、前記出力軸本体のうちの前記ミッションケース内に位置する部位に相対回転不能にかつ分離自在に連結された延長出力軸とを備え、前記減速機構、及び、前記出力軸に相対回転可能に外嵌された伝動筒軸は、前記延長出力軸に設けられていると好適である。
【0019】
本構成によると、延長出力軸を出力軸本体から分離させることにより、減速機構、及び、作業部変速装置の入力側部材を延長出力軸と共に無段変速装置から分離させることができるので、減速機構及び作業部変速装置の点検などのメンテナンスを行いやすい。
【0020】
本発明において、前記作業部変速装置よりも伝動方向下手側に設けられ、前記作業部に対する動力伝達を入り切りする作業部クラッチが備えられていると好適である。
【0021】
本構成によると、作業部変速装置よりも伝動方向下手側で作業部への動力伝達を切って作業部を停止させるので、作業部クラッチの切り操作を行うと作業部が一回転のうちの特定位置で停止する定位置停止機構を装備するのに、作業部変速装置の設定されている変速状態を考慮することなくできるので、定位置停止機構を装備しやすい。
【0022】
本発明において、前記農用資材供給部は、農用資材としての苗を貯留する苗載台であり、前記作業部は、前記苗載台から苗を取り出し、取り出した苗を田面に供給する苗植付機構であると好適である。
【0023】
本構成によると、株間を細かく変更設定した状態での苗植作業を行える。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】乗用型田植機の全体を示す左側面図である。
図2】乗用型田植機の全体を示す平面図である。
図3】ミッションケースの断面図である。
図4】ミッションケースの断面図である。
図5】ミッションケースの断面図である。
図6】動力伝達装置を示すブロック図である。
図7】変速キーの作用を示す説明図である。
図8】変速キーの構造及び作用を示す説明図である。
図9】変速キーの構造及び作用を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態を作業機の一例としての乗用型田植機に適用した場合について、図面に基づいて説明する。
〔乗用型田植機の全体の構成について〕
以下の説明では、乗用型田植機の機体1に関し、図1,2に示される矢印Fの方向を「機体前方」、矢印Bの方向を「機体後方」、図2に示される矢印Rの方向を「機体右方」、矢印Lの方向を「機体左方」とする。
【0026】
図1,2に示されるように、乗用型田植機は、走行装置としての右及び左の前車輪2が操向可能かつ駆動可能に装備され、走行装置としての右及び左の後車輪3が駆動可能に装備された機体1を備えている。機体1の前部に、原動機としてのエンジン4を有する原動部5が形成されている。機体1の後部に、運転座席6、及び、前車輪2を操向操作するステアリングホィール7を備える搭乗型の運転部8が形成されている。
【0027】
機体1の後部にリンク機構9を介して苗植付装置20が連結されている。苗植付装置20は、リンク機構9の機体1に対する上下揺動作動によって下降作業状態と上昇非作業状態とに亘って昇降操作される。機体1の前部の左右両横側に予備苗貯留装置10が設けられている。左右の予備苗貯留装置10のそれぞれは、3つの予備苗載台11を備えている。3つの予備苗載台11は、機体1の前後方向に沿う方向に一列に並んだ使用のための伸展状態と、上下3段に重なり合った折り畳み状態とに切り替え可能になっている。左の予備苗貯留装置10の支柱12と、右の予備苗貯留装置10の支柱12とに亘って衛星航法用のアンテナユニット13が支持されている。機体1の後部に施肥装置14が設けられている。苗植付装置20による苗植付けが行われるとき、植付苗の近くに肥料を供給することが施肥装置14によって可能になっている。
【0028】
〔苗植付装置20の構成について〕
苗植付装置20は、図1,2に示されるように、機体1の横幅方向に間隔を開けて並ぶ4つの植付駆動ケース21などによって構成された植付機体20Aを備えている。4つの植付駆動ケース21のそれぞれの後部の両横側に作業部としての苗植付機構22が設けられている。合計8つの苗植付機構22が設けられている。8つの苗植付機構22のそれぞれは、図2,6に示されように、植付駆動ケース21に回転可能に支持された回転ロータ22a、及び、回転ロータ22aの両端部分のそれぞれに回転可能に支持された植付アーム22bを備えている。一対の植付アーム22bのそれぞれに植付爪22cが備えられている。
【0029】
植付機体20Aの前部の上方に1つの農用資材供給部としての苗載台23が設けられている。図2に示されるように、苗載台23に、8つの苗植付機構22のそれぞれに1つずつ対応させて設けられた8つの苗載置部23aが形成されている。すなわち、8つの苗植付機構22に供給する苗を苗載台23に植付機体20Aの横幅方向に並べて載置して貯留しておくようになっている。8つの苗載置部23aのそれぞれに苗縦送りベルト24が設けられている。
【0030】
苗植付装置20が下降作業状態に下降されると共に駆動状態に操作されると、植付機体20Aの前部に支持されているフィードケース25(図1参照)にエンジン4から動力が伝達され、フィードケース25から4つの植付駆動ケース21のそれぞれに入力され、8つの苗植付機構22のそれぞれが植付駆動ケース21の動力によって駆動されて苗載台23の下端側と田面との間で苗植付けのための回転運動を行う。苗植付機構22が回転運動すると、一対の植付アーム22bの植付爪22cが交互に苗載台23の下端側にガイドレール26によって形成されている苗取出口と田面との間を上下に回転移動し、一対の植付アーム22bのそれぞれの植付爪22cが苗取出口において苗載台23の苗から植付用苗を取り出し、取り出した植付用苗を下降搬送して田面に植え付ける。
【0031】
苗載台23とフィードケース25とに亘って設けられている苗横送り機構(図示せず)がフィードケース25の動力によって苗植付機構22の回転運動に連動させて駆動され、苗載台23が苗横送り機構によって苗植付機構22の回転運動に連動させて植付機体20Aの横幅方向に往復移送される。これにより、8つの苗載置部23aのそれぞれに載置されている苗が苗植付機構22に対して横方向に往復移送され、8つの苗植付機構22のそれぞれが苗載置部23aに載置されている苗の横幅方向での一端側から他端側に向けて順次に植付用苗を取り出していく。
【0032】
苗載台23が左右の横移送でのストロークエンドに到達すると、苗載台23とフィードケース25とに亘って設けられている苗縦送り機構(図示せず)がフィードケース25の動力によって駆動され、8つの苗載置部23aのそれぞれの苗縦送りベルト24が苗縦送り機構(図示せず)によって駆動される。すなわち、苗載台23が左右の横移送でのストロークエンドに到達する都度、8つの苗載置部23aのそれぞれに載置されている苗が苗縦送りベルト24によって苗植付機構22に向けて、苗植付機構22によって取り出される植付用苗の苗縦方向での長さに対応する分だけ縦送りされる。
【0033】
苗植付装置20においては、下降作業状態に下降された状態で機体1が走行されることにより、エンジン4からフィードケース25に伝達される動力によって8つの苗植付機構22、苗載台23及び苗縦送りベルト24が駆動され、8つの苗植付機構22によって8条植えの苗植え付けが行われる。8つの苗植付機構22のそれぞれによる1条分の苗植付けは、一対の植付爪22cの交互の苗植付けによって株間D(図6参照)で行われる。株間Dは、機体1の進行方向での植付け間隔である。
【0034】
〔動力伝達の構成について〕
図1に示されるように、エンジン4の後方にミッションケース30が設けられている。
ミッションケース30は、機体1の前部分を構成している。図3に示されるように、ミッションケース30の下部の両横部分から前輪駆動ケース部31が機体横外側に向けて延出されている。ミッションケース30は、左右の前輪駆動ケース部31によって左右の前車輪2を回転可能に支持している。
【0035】
図3,4に示されるように、ミッションケース30に走行用及び作業用の変速装置としての静油圧式の第1無段変速装置32が支持されている。第1無段変速装置32は、ミッションケース30のうちの上部の左横外側の部分に支持されている。図1に示されるように、エンジン4の出力軸と第1無段変速装置32の入力軸32a(図3参照)とが動力伝達ベルト33によって連動連結されている。エンジン4の動力が動力伝達ベルト33によって第1無段変速装置32に入力される。第1無段変速装置32の入力軸32aは、第1無段変速装置32を構成する油圧ポンプに備えられたポンプ軸である。
【0036】
第1無段変速装置32においては、ケーシングに回転可能に支持されている変速操作軸32b(図3参照)が回転操作されることにより、油圧ポンプ(図示せず)の斜板角が変更されて中立の変速状態、前進側の変速状態、及び、後進側の変速状態に変速される。第1無段変速装置32が中立の変速状態に変速されると、第1無段変速装置32の出力軸32c(図3参照)が停止する。第1無段変速装置32の出力軸32cは、第1無段変速装置32を構成する油圧モータに備えられたモータ軸である。第1無段変速装置32が前進側の変速状態に変速されると、エンジン4からの動力が油圧ポンプ及び油圧モータによって前進動力に変換されて、かつ、回転速度が無段階に変速した変速動力にして出力軸32cから出力される。第1無段変速装置32が後進側の変速状態に変速されると、エンジン4からの動力が油圧ポンプ及び油圧モータによって後進動力に変換されて、かつ、回転速度が無段階に変速した変速動力にして出力軸32cから出力される。
【0037】
図4に示されるように、ミッションケース30に作業用の無段変速装置としての静油圧式の第2無段変速装置35が支持されている。第2無段変速装置35は、ミッションケース30のうちの上部における右横外側の部分に支持されている。第2無段変速装置35の入力軸35aのうち、ハウジング外に突出している部分に冷却ファン36が相対回転不能に支持されている。第2無段変速装置35の入力軸35aは、第2無段変速装置35を構成する油圧ポンプに備えられたポンプ軸である。
【0038】
図3,4に示されるように、ミッションケース30の内部に、分岐部としての分岐軸37、走行用の副変速装置40、前輪差動機構50、作業用の減速機構60、作業部変速装置70が設けられている。図3に示されるように、ミッションケース30の後部に形成された第1出力ボス部30cに後輪用出力軸80が回転可能に支持されている。図4に示されるように、ミッションケース30の後部に形成された第2出力ボス部30dに作業用出力軸89が回転可能に支持されている。作業用出力軸89のうち、第2出力ボス部30dの内部に位置する部分に作業部クラッチ90が設けられている。
【0039】
図6に示されるように、分岐軸37、副変速装置40、第2無段変速装置35、減速機構60、作業部変速装置70及び作業部クラッチ90などによって走行用及び作業用の動力伝達装置Sが構成されている。副変速装置40などによって動力伝達装置Sにおける走行用動力伝達系Xが構成されている。第2無段変速装置35、減速機構60、作業部変速装置70及び作業部クラッチ90などによって、動力伝達装置Sにおける作業用動力伝達系Yが構成されている。
【0040】
動力伝達装置Sにおいては、第1無段変速装置32によって変速された変速動力が出力軸32cから分岐軸37に入力されて分岐軸37によって走行用動力と作業用動力とに分岐され、分岐された走行用動力が走行用動力伝達系Xによって前車輪2及び後車輪3に向けて出力される。詳しくは、分岐された走行用動力が走行用の副変速装置40に入力され、副変速装置40から前車輪2及び後車輪3に向けて出力される。分岐された作業用動力が作業用動力伝達系Yによって苗植付装置20の苗植付機構22などに向けて出力される。詳しくは、分岐された作業用動力が先ず第2無段変速装置35に入力され、次に第2無段変速装置35から減速機構60に入力され、次に減速機構60から作業部変速装置70に入力され、次に作業部変速装置70から作業部クラッチ90に入力され、作業部クラッチ90から苗植付装置20の苗植付機構22などに向けて出力される。すなわち、作業用動力伝達系Yに設けられた第2無段変速装置35と減速機構60と作業部変速装置70と作業部クラッチ90とは、この記載の順番と、第2無段変速装置35、減速機構60、作業部変速装置70、作業部クラッチ90が苗植付装置20の苗植付機構22などに向けて出力する順番とが一致する状態で設けられている。
【0041】
〔分岐軸37の構成について〕
具体的には、図3,4に示されるように、分岐軸37は、ミッションケース30の左右の横壁部に回転可能に支持されている。分岐軸37の左横壁部側の端部と、第1無段変速装置32の出力軸32cとがスプライン係合によって相対回転不能に連結されている。分岐軸37の右横壁部側の端部と、第2無段変速装置35の入力軸35aとが連結部材38によって相対回転不能に連結されている。分岐軸37の中間部に、走行用の副変速装置40の2つの入力ギヤ41,42が相対回転不能に設けられている。第1無段変速装置32が出力する変速動力が分岐軸37によって走行用動力と作業用動力とに分岐され、分岐された走行用動力が走行用の副変速装置40に入力され、分岐された作業用動力が第2無段変速装置35に入力される。
【0042】
〔走行用の副変速装置40について〕
走行用の副変速装置40は、図3に示されるように、分岐軸37に相対回転不能に設けられた2つの入力ギヤ41,42を備える他、分岐軸37に平行な出力軸43、出力軸43のスプライン部に相対回転不能かつスライド可能に支持されたシフトギヤ44を備えている。
【0043】
走行用の副変速装置40においては、シフトギヤ44がスライド操作され、シフトギヤ44の大径側のギヤ部44aが小径側の入力ギヤ41に係合されることによって低速側の変速状態になり、シフトギヤ44の小径側のギヤ部44bが大径側の入力ギヤ42に係合されることによって高速側の変速状態になる。走行用の副変速装置40においては、低速側及び高速側のいずれの変速状態に変速操作された場合でも、分岐軸37によって分岐された走行用動力がシフトギヤ44によって出力軸43に伝達され、出力軸43からギヤ連動機構45を介して前輪差動機構50の入力軸51に伝達される。
【0044】
〔前輪差動機構50の構成について〕
前輪差動機構50においては、図3に示されるように、入力軸51に伝達された走行用動力が入力軸51と相対回転不能なギヤケース52に伝達され、ギヤケース52から差動ギヤ機構部53を介して左右の前輪駆動軸54に伝達される。
【0045】
〔後輪用出力軸80の構成について〕
後輪用出力軸80は、図3に示されるように、後輪用出力軸80のうちのミッションケース内の端部に相対回転不能に形成された入力ギヤ82を備えている。入力ギヤ82は、前輪差動機構50の入力軸51に相対回転不能に設けられた動力伝達ギヤ55に咬み合っている。
【0046】
後輪用出力軸80においては、走行用の副変速装置40から前輪差動機構50の入力軸51に伝達された走行用動力が動力伝達ギヤ55及び入力ギヤ82によって入力され、入力された走行用動力が後輪用出力軸80の入力側と反対側の端部から出力される。後輪用出力軸80から出力される走行用動力は、図1に示される如く後輪用出力軸80から後輪駆動ケース83へ延出された回転軸84によって後輪駆動ケース83に伝達される。
【0047】
後輪用出力軸80に多板式の摩擦ブレーキ85が装着されている。摩擦ブレーキ85においては、第1出力ボス部30cに回転可能に支持されている操作軸86が操作アーム87によって回転操作されることにより、摩擦プレートが押圧部材88によって圧接された入り状態と、摩擦プレートの押圧部材88による圧接が解除された切り状態とに切り替えられる。
【0048】
〔第2無段変速装置35の構成について〕
第2無段変速装置35は、図4,5に示されるように、ケーシングに回転可能に支持された変速操作軸35bを備えている。第2無段変速装置35においては、変速操作軸35bが回転操作されることにより、油圧ポンプの斜板角が変更されて中立の変速状態、正回転側の変速状態、及び、逆回転側の変速状態に変速される。第2無段変速装置35が中立の変速状態に変速されると、第2無段変速装置35の出力軸39が停止する。第2無段変速装置35が正回転側の変速状態に変速されると、分岐軸37から入力軸35aに入力された作業用動力が正回転動力に変換されて、かつ、回転速度が無段階に変速した変速動力にして出力軸39から出力される。
【0049】
〔作業用の減速機構60について〕
作業用の減速機構60は、図4,5に示されるように、第2無段変速装置35の出力軸39と、この出力軸39に相対回転可能に外嵌された伝動筒軸61とに亘って設けられている。詳述すると、第2無段変速装置35の出力軸39は、図3に示されるように、出力軸本体39Aと延長出力軸39Bとを備えている。作業用の減速機構60は、出力軸39のうちの延長出力軸39Bと、伝動筒軸61の第2無段変速装置側の端部とに亘って設けられている。
【0050】
具体的には、減速機構60は、図5に示されるように、出力軸39に相対回転不能に設けられた入力ギヤ62、作業部変速装置70の出力軸71に相対回転可能に支持された第1中間ギヤ63、第1中間ギヤ63のボス部に相対回転不能に設けられた第2中間ギヤ64、第2中間ギヤ64に咬み合った状態で伝動筒軸61に相対回転不能に設けられた出力ギヤ65を備えている。入力ギヤ62は、出力軸71のうちの延長出力軸39Bに設けられている。出力ギヤ65は、伝動筒軸61のうちの第2無段変速装置側の端側部分に設けられている。
【0051】
作業用の減速機構60においては、第2無段変速装置35が出力する変速動力が入力ギヤ62と第1中間ギヤ63との間で減速され、さらに第2中間ギヤ64と出力ギヤ65との間で減速されて出力ギヤ65から伝動筒軸61に伝達される。
【0052】
〔作業部変速装置70の構成について〕
作業部変速装置70は、図4,5に示されるように、伝動筒軸61に相対回転不能に設けられた4つの入力側部材としての入力側ギヤ72、出力軸71に相対回転可能に設けられた4つの出力側ギヤ73を備えている。入力側ギヤ72は、伝動筒軸61のうち、減速機構60が設けられている端側と反対の端側の部分に設けられている。4つの入力側ギヤ72は、図7に示されるように、スペーサ98によって間隔を隔てた状態で並んでいる。
【0053】
4つの入力側ギヤ72のうちの第1入力側ギヤ72aと4つの出力側ギヤ73のうちの第1出力側ギヤ73aとが咬み合い、4つの入力側ギヤ72のうちの第2入力側ギヤ72bと4つの出力側ギヤ73のうちの第2出力側ギヤ73bとが咬み合い、4つの入力側ギヤ72のうちの第3入力側ギヤ72cと4つの出力側ギヤ73のうちの第3出力側ギヤ73cとが咬み合い、4つの入力側ギヤ72のうちの第4入力側ギヤ72dと4つの出力側ギヤ73のうちの第4出力側ギヤ73dとが咬み合っている。
【0054】
第1入力側ギヤ72a及び第1出力側ギヤ73aは、外径が同じ円形ギヤによって構成されている。第2、第3、第4入力側ギヤ72b,72c,72d、及び、第2、第3、第4出力側ギヤ73b,73c,73dは、楕円ギヤ、偏心ギヤ、あるいは、非円形ギヤによって構成されている。
【0055】
作業部変速装置70は、図5,7に示されるように、出力軸71に形成されたキー溝74、キー溝74にスライド可能に収容された変速キー75、ミッションケース30のボス部30eと出力軸71とに亘ってスライド可能に支持された変速操作軸76を備えている。変速操作軸76の出力軸側の端部が変速キー75の端部に押し引き操作可能に係合されている。
【0056】
作業部変速装置70においては、変速操作軸76のスライド操作によって変速キー75がキー溝74で移動操作され、変速キー75のキー突部77が4つの出力側ギヤ73に択一的に対向され、キー突部77が出力ギヤ73の係合溝78に係入されることによって4種の変速状態に変速される。キー突部77が4つの出力側ギヤ73のそれぞれの係合溝78に係合した場合、位置決め球体96が位置決めバネ97によって変速キー75に押し付けられ、変速キー75がそれぞれの変速位置に位置決め球体96によって位置決めされる。キー突部77は、ファインブランキング加工、または、焼結によって作製されている。
図7に示されるように、キー突部77の裾の部分77aは、キー突部77が係入される出力側ギヤ73の隣りの出力側ギヤ73の係合溝78に入らないように崖状に形成されている。
【0057】
すなわち、作業部変速装置70においては、キー突部77が第1出力側ギヤ73aの係合溝78に係入されると、第1変速状態に変速される。第1変速状態に変速された場合、第1出力側ギヤ73aと出力軸71とがキー突部77によって相対回転不能に連結され、減速機構60によって伝動筒軸61に伝達された作業用動力が第1入力側ギヤ72a、第1出力側ギヤ73a及びキー突部77を介して出力軸71に伝達され、出力軸71の一回転の角速度が変化せず、一回転の回転速度が等速度である等速回転の作業用動力が出力軸71の出力ギヤ79から出力される。
【0058】
作業部変速装置70においては、キー突部77が第2出力側ギヤ73bの係合溝78に係入されると、第2変速状態に変速され、キー突部77が第3出力側ギヤ73cの係合溝78に係入されると、第3変速状態に変速され、キー突部77が第4出力側ギヤ73dの係合溝78に係入されると、第4変速状態に変速される。第2変速状態、第3変速状態及び第4変速状態のいずれの変速状態に変速された場合においても、その変速状態に対応する出力側ギヤ73b,73c,73dと出力軸71とがキー突部77によって相対回転不能に連結され、減速機構60によって伝動筒軸61に伝達された作業用動力がその変速状態に対応する入力側ギヤ72b,72c,72d、出力側ギヤ73b,73c,73d及びキー突部77を介して出力軸71に伝達され、出力軸71の一回転の角速度が高低に変化し、一回転の回転速度に緩急が付けられた不等速回転の作業用動力が出力ギヤ79から出力される。第2変速状態に変速された場合と、第3変速状態に変速された場合と、第4変速状態に変速された場合とでは、一回転のうちの急速になる部分の箇所が異なったり、急速になる部分が同じでも、急速部分での速度が異なったりする。
【0059】
〔作業部クラッチ90の構成について〕
作業部クラッチ90は、図5に示されるように、作業部変速装置70よりも伝動方向下手側に設けられている。具体的には、作業部クラッチ90は、作業部変速装置70の出力ギヤ79と作業用出力軸89との間に設けられている。作業部変速装置70から出力される等速回転及び不等速回転の作業用動力がそのままの回転状態で作業部クラッチ90の入力側クラッチ部材91に入力され、作業部クラッチ90の出力側クラッチ部材92から作業用出力軸89に伝達される。
【0060】
作業部クラッチ90においては、第2出力ボス部30dにスライド可能に支持された操作軸93が第2出力ボス部30dの内側に向けて押し操作されることにより、操作軸93の先端部93aが出力側クラッチ部材92の定位置停止カム部92aに当って出力側クラッチ部材92がスプリング94に抗して入力側クラッチ部材91から離し操作されて切り状態になり、苗植付装置20に対する動力伝達が作業部クラッチ90によって切られる。
操作軸93が第2出力ボス部30dの外側に向けて引き操作されることにより、操作軸93の先端部93aが出力側クラッチ部材92から外れ、出力側クラッチ部材92がスプリング94によって入力側クラッチ部材91に咬み合い操作されて入り状態になり、苗植付装置20に対する動力伝達が作業部クラッチ90によって入りにされる。
【0061】
〔作業用出力軸89の構成について〕
作業用出力軸89は、回転軸81(図1参照)を介してフィードケース25の入力軸に連動連結されている。作業部クラッチ90から作業用出力軸89に伝達された等速回転及び不等速回転の作業用動力がそのままの回転状態で回転軸81を介してフィードケース25に伝達される。フィードケース25に伝達された等速回転及び不等速回転の作業用動力がそのままの回転状態で8つの苗植付機構22のそれぞれに植付駆動ケース21を介して伝達される。
【0062】
移動走行など、植付作業を行わないときは、走行用の副変速装置40を高速側の変速状態にした状態で走行され、植付作業をするときは、走行用の副変速装置40を低速側の変速状態にした状態で走行される。植付作業時において、第1無段変速装置32を変速操作することにより、エンジン4の動力が第1無段変速装置32によって変速されて前車輪2及び後車輪3に伝達され、機体1の走行速度を変更できる。機体1の走行速度を変更しても、第1無段変速装置32の変速動力が苗植付機構22に伝達されて苗植付機構22の一回転の回転速度が機体1の走行速度変化に連動して変化し、苗植付機構22による苗植付けは、機体1の走行速度の変更にかかわらず、予め変速操作してある第2無段変速装置35の変速状態によって設定される広さの株間D1を維持しつつ行われる。
【0063】
第2無段変速装置35を変速操作することにより、分岐軸37からの作業用動力が第2無段変速装置35によって変速されて苗植付機構22に伝達され、苗植付機構22の一回転の回転速度が機体1の走行速度に無関係に変化する。これにより、苗植付機構22による苗植付けは、変速操作した第2無段変速装置35の変速状態によって設定される広さの株間D2であって、第2無段変速装置35を変速操作する前の広さの株間D1と異なる広さの株間で行われる。
【0064】
株間Dをあまり広くない株間や、あまり狭くない株間に変更する場合、作業部変速装置70を第1変速状態に変速しておく。すると、作業部変速装置70によって設定される等速回転の作業用動力が苗植付機構22に伝達され、すなわち、苗植付機構22の一回転の回転速度が作業部変速装置70の第1変速状態によって等速の回転速度に設定され、苗植付機構22は、一回転の回転速度が等速度の回転速度で回転運動しつつ苗植付けを行う。
【0065】
株間Dを広い株間や狭い株間に変更する場合、作業部変速装置70を第2変速状態、第3変速状態、第4変速状態のうち、変更する株間Dの広さに対応した変速状態に変速しておく。すると、作業部変速装置70の変速状態によって設定される不等速回転の作業用動力が苗植付機構22に伝達され、すなわち、苗植付機構22の一回転の回転速度に株間Dの広さに対応した緩急が作業部変速装置70によって付けられ、植付爪22cが田面に苗植付けするときの移動速度が植付爪22cが田面よりも上方箇所に位置するときの移動速度よりも高速になる状態で、あるいは、植付爪22cが苗植付けするときの移動速度が植付爪22cが田面よりも上方箇所に位置するときの移動速度よりも低速になる状態で苗植付機構22が苗植付けを行う。株間Dの広さや狭さにかかわらず、田面が植付爪22cによって掻き乱されたり、植付用苗が植付爪22cによって田面から持ち上げられたりすることがない状態で苗植付けが行われる。
【0066】
作業部クラッチ90を切り状態に切り替え操作することにより、苗植付装置20に対する動力伝達が作業部クラッチ90によって切られ、苗植付機構22が停止する。このとき、定位置停止カム部92aの作用により、一対の植付爪22cのそれぞれが田面よりも上方に位置する回転位置で苗植付機構22が停止する。
【0067】
ミッションケース30は、図3,4に示されるように、ケース本体30Aと、ケース本体30Aの横向き開口を閉じているケース蓋部30Bとを備えている。ケース蓋部30Bは、ケース本体30Aの横向き開口を有する端部に連結ボルト(図示せず)によって連結されている。ミッションケース30は、ケース本体30Aとケース蓋部30Bとに分割可能になっている。
【0068】
第1無段変速装置32は、図3,4に示されるように、ケース本体30Aの外部に支持されている。第2無段変速装置35は、図4に示されるように、ケース蓋部30Bの外部に支持されている。作業部変速装置70及び走行用の副変速装置40は、図3,4に示されるように、ケース本体30Aの内部に設けられている。減速機構60は、図4に示されるように、ケース蓋部30Bの内部に設けられている。
【0069】
図3に示されるように、第2無段変速装置35の出力軸39の出力軸本体39Aは、ケース蓋部30Bを外部から内側へ挿通している。出力軸39の延長出力軸39Bは、出力軸本体39Aのうちのミッションケース内の位置する部位に相対回転不能にかつ分離自在に連結されている。減速機構60及び伝動筒軸61は、延長出力軸39Bに設けられているので、延長出力軸39Bを出力軸本体39Aから分離させることにより、減速機構60、及び、作業部変速装置70の入力側ギヤ72が延長出力軸39Bと共に第2無段変速装置35から分離する。
【0070】
〔変速キー75の構成について〕
図7に実線で示される変速キー75は、キー突部77が第2出力側ギヤ73bの係合溝78に係入した変速位置に操作されたものであり、この変速位置に位置決め球体96及び位置決めバネ97によって位置決めされている。変速キー75は、第1出力側ギヤ73a乃至第4出力側ギヤ73dのいずれの出力側ギヤ73の係合溝78にキー突部77が係入りした変速位置に操作された場合でも、この変速位置に位置決め球体96及び位置決めバネ97によって位置決めされる。
【0071】
キー突部77は、図8,9に示されるように、引き側傾斜部K1及び押し側傾斜部K2を備えている。変速キー75を引き移動させる引き変速操作を行うとき、キー突部77の引き側傾斜部K1が出力側ギヤ間のスペーサ98から操作反力を受ける。変速キー75を押し移動させる押し変速操作を行うとき、図8,9に示されるように、キー突部77の押し側傾斜部K2が出力側ギヤ間のスペーサ98から操作反力Zを受ける。引き変速操作、押し変速操作のいずれを行うときも、図7に二点鎖線で示されるように、スペーサ98から受ける操作反力により、変速キー75のキー突部側が変速操作軸76によって支持される部位を揺動支点にして位置決め球体96の方に揺動し、この揺動により、位置決めバネ97を圧縮側に弾性変形させつつキー突部77が係合溝78から抜け出る。引き変速操作を行うとき、引き側傾斜部K1のスペーサ98に対する接触角が小さく変化していき、押し変速操作を行うとき、押し側傾斜部K2のスペーサ98に対する接触角が大きく変化していく。押し変速操作を行うとき、図8,9に示されるように、押し側傾斜部K2がスペーサ98から受ける操作反力Zの第1分力Zyが位置決めバネ97を弾性変形させる操作力になり、操作反力Zの第2分力Zxが変速操作の抵抗になる。
【0072】
図8に示される変速キー75では、押し側傾斜部K2の傾斜角Θ1が引き側傾斜部K1の傾斜角Θよりも緩傾斜角にされている。図9に示される変速キー75では、押し側傾斜部K2の傾斜角Θ2と、引き側傾斜部K1の傾斜角Θとが同じにされている。図8,9に示されるように、押し側傾斜部K2の傾斜角が引き側傾斜部K1の傾斜角よりも緩傾斜角である変速キー75が受ける操作反力Zの第2分力Zxは、押し側傾斜部K2の傾斜角と引き側傾斜部K1の傾斜角とが等しい変速キー75が受ける操作反力Zの第2分力Zxよりも小さい。
【0073】
キー突部77の押し側傾斜部K2の傾斜角を引き側傾斜部K1の傾斜角よりも緩傾斜角にすることにより、押し変速操作のときに変速キー75が受ける変速操作抵抗が、押し側傾斜部K2の傾斜角と引き側傾斜部K1の傾斜角とが等しい変速キー75が受ける変速操作抵抗よりも小さくなり、押し変速操作のときに受ける変速操作抵抗と、引き変速操作のときに受ける変速操作抵抗とが等しく、あるいはほぼ等しくすることが可能となり、良好な操作感覚で変速操作できる。
【0074】
(発明の別実施形態)(1)上記した実施形態では、走行用及び作業用の変速装置32が静油圧式の無段変速装置によって構成された例を示したが、これに限らず、ギヤ式の変速装置によって構成してもよい。また、ベルト式の無段変速装置と前後進切り替え装置とを組み合わせた無段変速装置によって構成してもよい。
【0075】
(2)上記した実施形態では、作業用の無段変速装置35が静油圧式の無段変速装置によって構成された例を示したが、これに限らず、ベルト式の無段変速装置によって構成してもよい。
【0076】
(3)上記した実施形態では、変速キー75が出力側ギヤ73に作用するよう構成した作業部変速装置70を採用した例を示したが、変速キー75が入力側ギヤ72に作用するよう構成した作業部変速装置を採用してもよい。
【0077】
(4)上記した実施形態では、作業用の無段変速装置35の出力軸39が出力軸本体39Aと延長出力軸39Bとを備える例を示したが、これに限らず、一つの出力軸を採用して実施してもよい。
【0078】
(5)上記した実施形態では、農用資材としての苗を圃面に供給する苗植付装置20が備えられている例を説明したが、これに限らない。農用資材としての種籾、液状や粉粒状の薬剤、液状や粉粒状の肥料を田面に供給する作業装置が備えられていてもよい。
【0079】
(6)上記した実施形態では、原動機としてエンジン4が備えられた例を示したが、これに限らず、電動モータを採用してもよい。また、エンジンと電動モータとが組み合わされたものを採用してもよい。
【0080】
(7)上記した実施形態では、走行装置として前車輪2及び後車輪3が採用された例を示したが、これに限らず、クローラ走行装置の採用が可能である。また、車輪とミニクローラとが組み合わされた走行装置の採用が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明は、乗用型田植機の他、乗用型播機等、種子、肥料や薬剤等の農用資材を面に供給する作業機に適用できる。
【符号の説明】
【0082】
2 走行装置(前車輪)
3 走行装置(後車輪)
4 原動機(エンジン)
23 農用資材供給部(苗載台)
22 作業部(苗植付機構)
30 ミッションケース
30A ケース本体
30B ケース蓋部
32 変速装置(第1無段変速装置)
35 無段変速装置(第2無段変速装置)
37 分岐部(分岐軸)
39 出力軸
39A 出力軸本体
39B 延長出力軸
60 減速機構
61 伝動筒軸
70 作業部変速装置
72 入力側部材(入力側ギヤ)
90 作業部クラッチ
S 動力伝達装置
X 走行用動力伝達系
Y 作業用動力伝達系
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9