(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-26
(45)【発行日】2024-10-04
(54)【発明の名称】複合材の分断方法
(51)【国際特許分類】
B23K 26/364 20140101AFI20240927BHJP
C03B 33/09 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
B23K26/364
C03B33/09
(21)【出願番号】P 2022505761
(86)(22)【出願日】2020-12-02
(86)【国際出願番号】 JP2020044790
(87)【国際公開番号】W WO2021181766
(87)【国際公開日】2021-09-16
【審査請求日】2023-10-04
(31)【優先権主張番号】P 2020042084
(32)【優先日】2020-03-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001748
【氏名又は名称】弁理士法人まこと国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】篠▲崎▼ 貴博
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 賢
(72)【発明者】
【氏名】菅野 敏広
(72)【発明者】
【氏名】仲井 宏太
(72)【発明者】
【氏名】大峰 俊樹
【審査官】岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-122966(JP,A)
【文献】特開2019-025539(JP,A)
【文献】特開2017-145188(JP,A)
【文献】特開2014-043363(JP,A)
【文献】特開2018-170475(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/364
C03B 33/09
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脆性材料層の一方の面側に樹脂製の光学機能層が積層され、前記脆性材料層の他方の面側に樹脂製の保護層が積層された複合材を分断する方法であって、
第1レーザ光源から発振したレーザ光を前記複合材の分断予定線に沿って前記光学機能層に照射して前記光学機能層を形成する樹脂を除去することで、前記分断予定線に沿った第1加工溝を形成すると共に、第2レーザ光源から発振したレーザ光を前記分断予定線に沿って前記保護層に照射して前記保護層を形成する樹脂を除去することで、前記分断予定線に沿った第2加工溝を形成する加工溝形成工程と、
前記加工溝形成工程の後、超短パルスレーザ光源から発振したレーザ光を前記第2加工溝側から前記分断予定線に沿って前記脆性材料層に照射して前記脆性材料層を形成する脆性材料を除去することで、前記分断予定線に沿った加工痕を形成する加工痕形成工程と、を含み、
前記加工溝形成工程において、前記第2加工溝の幅が、前記加工痕形成工程で前記超短パルスレーザ光源から発振したレーザ光の前記脆性材料層への照射位置におけるスポット径以上となるように、前記保護層を形成する樹脂を除去
し、
前記加工溝形成工程において、前記第2レーザ光源から発振したレーザ光の前記保護層への照射位置を前記分断予定線に直交する方向にずらして、各照射位置で前記分断予定線に沿って前記レーザ光を前記保護層に照射した後、前記各照射位置の間に存在する前記保護層を形成する樹脂を剥離することで、前記第2加工溝を形成する、
複合材の分断方法。
【請求項2】
前記加工溝形成工程において、前記第2加工溝の幅が100μm以上となるように、前記保護層を形成する樹脂を除去する、
請求項
1に記載の複合材の分断方法。
【請求項3】
前記保護層は、基材層と、前記脆性材料層側に配置された粘着剤層と、を具備し、
前記加工溝形成工程において、前記粘着剤層の厚み方向の一部が残存するように、前記保護層を形成する樹脂を除去する、
請求項1
又は2に記載の複合材の分断方法。
【請求項4】
前記保護層は、基材層と、前記脆性材料層側に配置されたウレタン系粘着剤層と、を具備する、
請求項1から
3の何れかに記載の複合材の分断方法。
【請求項5】
前記第2レーザ光源がCO
2レーザ光源である、
請求項1から
4の何れかに記載の複合材の分断方法。
【請求項6】
前記脆性材料層がガラスを含み、前記光学機能層が偏光フィルムを含む、
請求項1から
5の何れかに記載の複合材の分断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脆性材料層の一方の面側に樹脂製の光学機能層(例えば、偏光フィルム)が積層され、脆性材料層の他方の面側に樹脂製の保護層(例えば、保護フィルム)が積層された複合材を分断する方法に関する。特に、本発明は、脆性材料層の端面にクラックを生じさせることなく、複合材を分断可能な方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶パネルの薄型化や高精細化が進んでいることに加え、インタフェースに多様性を持たせるために画面上にタッチセンサ機能を搭載した液晶パネルが、携帯電話からインフォメーションディスプレイまで、幅広い分野において用いられるようになっている。
最近では、薄型化や軽量化の観点から、タッチセンサを液晶セルのガラス基板に組み込んだインセルタイプの液晶セルを有する液晶パネルが登場している。
【0003】
一方、薄ガラスと呼ばれるフィルム状のガラスが、液晶パネルの最表面に配置される前面板として注目されつつある。薄ガラスはロール状に巻き取ることができるため、いわゆるロール・ツー・ロール方式の製造プロセスにも適応できる利点があり、偏光フィルムと一体化したガラス偏光フィルムが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
ガラス偏光フィルムは、インセルタイプの液晶セルに貼り合わせるだけでタッチセンサ機能を搭載した液晶パネルを得ることができるため、前面板として強化ガラスを用いた一般的な液晶パネルに比べて、製造プロセスをはるかに簡略化できる。
【0004】
上記のガラス偏光フィルムのように、ガラス等から形成された脆性材料層と偏光フィルム等から形成された光学機能層とが積層された複合材を、用途に応じた所望の形状・寸法に分断する方法として、特許文献2に記載の方法が提案されている。
特許文献2に記載の方法は、CO2レーザ光源等のレーザ光源から発振したレーザ光を複合材の分断予定線に沿って複合材の光学機能層(特許文献2では、樹脂層)に照射して光学機能層を形成する樹脂を除去した後、超短パルスレーザ光源から発振したレーザ光(超短パルスレーザ光)を複合材の分断予定線に沿って脆性材料層に照射して脆性材料層を形成する脆性材料を除去することで、複合材を分断する方法である。
特許文献2に記載の方法によれば、分断後の脆性材料層の端面にクラックが生じないという利点を有する。
【0005】
ここで、上記のガラス偏光フィルムのように、ガラス等から形成された脆性材料層と偏光フィルム等から形成された光学機能層とが積層された複合材は、分断後の複合材片における光学機能層が積層された脆性材料層の面と反対側の面に、保護フィルム等の保護層が積層されて出荷されるのが一般的である。分断後の複合材片毎に保護層を積層する工程を実行するには手間を要するため、この手間を無くして工数を削減するために、脆性材料層の一方の面側に光学機能層が積層され、脆性材料層の他方の面側に保護層が積層された複合材を一度に分断する方法が望まれている。
【0006】
しかしながら、特許文献2には、脆性材料層の一方の面側に光学機能層が積層され、脆性材料層の他方の面側に保護層が積層された複合材を一度に分断する方法について提案されていない。
【0007】
なお、非特許文献1には、超短パルスレーザ光を用いた加工技術において、超短パルスレーザ光のフィラメンテーション現象を利用することや、超短パルスレーザ光源にマルチ焦点光学系又はベッセルビーム光学系を適用することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開第2013/175767号
【文献】特開2019-122966号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】ジョン ロペス(John Lopez)他、“超短パルスベッセルビームを用いたガラス切断(GLASS CUTTING USING ULTRASHORT PULSED BESSEL BEAMS)”、[online]、2015年10月、International Congress on Applications of Lasers & Electro-Optics (ICALEO)、[令和1年7月8日検索]、インターネット(URL:https://www.researchgate.net/publication/284617626_GLASS_CUTTING_USING_ULTRASHORT_PULSED_BESSEL_BEAMS)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記のような従来技術の問題点を解決するためになされたものであり、脆性材料層の一方の面側に樹脂製の光学機能層が積層され、脆性材料層の他方の面側に樹脂製の保護層が積層された複合材を分断可能な方法であって、脆性材料層の端面にクラックが生じない複合材の分断方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するため、本発明者らは、前述の特許文献2に記載の方法を適用することを検討した。
具体的には、脆性材料層の一方の面側に樹脂製の光学機能層が積層され、脆性材料層の他方の面側に樹脂製の保護層が積層された複合材において、CO2レーザ光源等から発振したレーザ光によって複合材の分断予定線に沿って光学機能層に加工溝(第1加工溝)を形成すると共に、CO2レーザ光源等から発振したレーザ光によって複合材の分断予定線に沿って保護層に加工溝(第2加工溝)を形成することを考えた。そして、分断後の光学機能層の端面に深刻な熱劣化が生じない(熱劣化に伴う変色領域が少ない)ようにするために、第2加工溝を通じて超短パルスレーザ光源から発振したレーザ光(超短パルスレーザ光)を複合材の分断予定線に沿って脆性材料層に照射すれば良いのではないかと考えた。
【0012】
しかしながら、本発明者らが実際に上記の方法について試験を行ったところ、第2加工溝を形成するレーザ光の出力が小さく、第2加工溝の深さが小さすぎると、超短パルスレーザ光を脆性材料層に照射した際に、脆性材料層にその厚み方向に貫通する加工痕を形成することができず、複合材を分断できないことが分かった。一方、第2加工溝を形成するレーザ光の出力が大き過ぎると、脆性材料層が熱ダメージを受け、超短パルスレーザ光を脆性材料層に照射した際に、熱ダメージを受けた箇所を起点として、脆性材料層の端面にクラックが生じることが分かった。そして、脆性材料層に加工痕を形成することができ、なお且つ、脆性材料層の端面にクラックを生じさせないように、第2加工溝を形成するためのレーザ光の出力を適切な値に設定するには、極めて微妙な調整を必要とし、自動化が困難であることが分かった。
【0013】
このため、本発明者らは更に鋭意検討した結果、第2加工溝の幅が超短パルスレーザ光の脆性材料層への照射位置におけるスポット径以上となるように、第2加工溝を形成すれば、第2加工溝を形成するためのレーザ光の出力の微妙な調整を必要とせずに、脆性材料層の端面にクラックを生じさせることなく複合材を分断できることを見出し、本発明を完成した。
【0014】
本発明は、上記の本発明者らの知見に基づき完成したものである。
すなわち、前記課題を解決するため、本発明は、脆性材料層の一方の面側に樹脂製の光学機能層が積層され、前記脆性材料層の他方の面側に樹脂製の保護層が積層された複合材を分断する方法であって、第1レーザ光源から発振したレーザ光を前記複合材の分断予定線に沿って前記光学機能層に照射して前記光学機能層を形成する樹脂を除去することで、前記分断予定線に沿った第1加工溝を形成すると共に、第2レーザ光源から発振したレーザ光を前記分断予定線に沿って前記保護層に照射して前記保護層を形成する樹脂を除去することで、前記分断予定線に沿った第2加工溝を形成する加工溝形成工程と、前記加工溝形成工程の後、超短パルスレーザ光源から発振したレーザ光を前記第2加工溝側から前記分断予定線に沿って前記脆性材料層に照射して前記脆性材料層を形成する脆性材料を除去することで、前記分断予定線に沿った加工痕を形成する加工痕形成工程と、を含み、前記加工溝形成工程において、前記第2加工溝の幅が、前記加工痕形成工程で前記超短パルスレーザ光源から発振したレーザ光の前記脆性材料層への照射位置におけるスポット径以上となるように、前記保護層を形成する樹脂を除去し、前記加工溝形成工程において、前記第2レーザ光源から発振したレーザ光の前記保護層への照射位置を前記分断予定線に直交する方向にずらして、各照射位置で前記分断予定線に沿って前記レーザ光を前記保護層に照射した後、前記各照射位置の間に存在する前記保護層を形成する樹脂を剥離することで、前記第2加工溝を形成する、複合材の分断方法を提供する。
【0015】
本発明に係る方法によれば、加工溝形成工程において、光学機能層を形成する樹脂及び保護層を形成する樹脂を除去することで、分断予定線に沿った第1加工溝及び第2加工溝を形成した後、加工痕形成工程において、第2加工溝側から脆性材料層を形成する脆性材料を除去することで、同じ分断予定線に沿った加工痕を形成する。そして、加工溝形成工程で形成される第2加工溝は、その幅が加工痕形成工程で超短パルスレーザ光源から発振したレーザ光(超短パルスレーザ光)の脆性材料層への照射位置におけるスポット径以上となるように形成される。これにより、前述の本発明者らの知見通り、脆性材料層の端面にクラックを生じさせることなく、脆性材料層を分断可能である。
本発明に係る方法のように、第2加工溝の幅を超短パルスレーザ光の脆性材料層への照射位置におけるスポット径以上とすることにより、超短パルスレーザ光のエネルギーが保護層を形成する樹脂を除去するのに消費され難くなり、脆性材料層を形成する脆性材料を除去するのに十分に使用されるため、脆性材料層に加工痕を形成することができ、なお且つ、脆性材料層の端面にクラックを生じさせないようにできる。
【0016】
なお、本発明に係る方法において、「レーザ光を前記複合材の分断予定線に沿って前記光学機能層に照射」とは、複合材の厚み方向(光学機能層、脆性材料層及び保護層の積層方向)から見て、分断予定線に沿ってレーザ光を光学機能層に照射することを意味する。また、本発明に係る方法において、「レーザ光を前記分断予定線に沿って前記保護層に照射」とは、複合材の厚み方向(光学機能層、脆性材料層及び保護層の積層方向)から見て、分断予定線に沿ってレーザ光を保護層に照射することを意味する。さらに、「レーザ光を前記第2加工溝側から前記分断予定線に沿って前記脆性材料層に照射」とは、複合材の厚み方向(光学機能層、脆性材料層及び保護層の積層方向)から見て、分断予定線に沿ってレーザ光を第2加工溝側から保護層に照射することを意味する。
また、本発明に係る方法において、「分断予定線に沿って・・・照射」とは、分断予定線上に照射、又は、分断予定線の近傍位置において分断予定線に平行に照射することを意味する。
さらに、本発明に係る方法において、「第2加工溝の幅」とは、分断予定線に直交する方向の第2加工溝の底部の寸法を意味する。
【0017】
また、本発明に係る方法において、加工溝形成工程において用いる第1レーザ光源及び第2レーザ光源の種類は、発振したレーザ光で樹脂を除去できるものである限りにおいて、特に限定されるものではない。ただし、複合材に対するレーザ光の相対的な移動速度(加工速度)を高めることが可能である点で、赤外域の波長のレーザ光を発振するCO2レーザ光源やCOレーザ光源を用いることが好ましい。第1レーザ光源及び第2レーザ光源は、同一の種類であってもよいし、異なる種類であってもよい。また、第1レーザ光源及び第2レーザ光源は必ずしも別に用意する必要はなく、第1レーザ光源を第2レーザ光源として兼用することも可能である。
第1レーザ光源及び第2レーザ光源を別に用意する場合には、第1レーザ光源を光学機能層側に配置し、第2レーザ光源を保護層側に配置して、第1レーザ光源を用いて光学機能層に第1加工溝を形成した後、第2レーザ光源を用いて保護層に第2加工溝を形成すればよい。また、第2レーザ光源を用いて保護層に第2加工溝を形成した後、第1レーザ光源を用いて光学機能層に第1加工溝を形成してもよい。さらに、第1レーザ光源及び第2レーザ光源を用いて、第1加工溝及び第2加工溝を同時に形成することも可能である。
また、第1レーザ光源を第2レーザ光源として兼用する場合には、光学機能層及び保護層のうち何れか一方に対向する側に第1レーザ光源(第2レーザ光源)を配置し、第1レーザ光源(第2レーザ光源)を用いて光学機能層に第1加工溝を形成(又は保護層に第2加工溝を形成)した後、光学機能層及び保護層のうち何れか他方に第1レーザ光源(第2レーザ光源)が対向するように複合材を反転させて、第1レーザ光源(第2レーザ光源)を用いて保護層に第2加工溝を形成(又は光学機能層に第1加工溝を形成)することも可能である。
【0018】
さらに、本発明に係る方法において、加工痕形成工程で形成する加工痕としては、例えば、特許文献2に記載のような分断予定線に沿ったミシン目状の貫通孔を例示できる。この場合、加工痕形成工程の後に、分断予定線に沿って外力を加えることで、複合材を分断することができる。複合材への外力の付加方法としては、機械的なブレイク(山折り)、赤外域レーザ光による切断予定線の近傍部位の加熱、超音波ローラによる振動付加、吸盤による吸着及び引き上げ等を例示できる。複合材への外力の付加方法として、赤外域レーザ光による切断予定線の近傍部位の加熱を用いる場合には、脆性材料層に生じた熱応力により、ミシン目状の貫通孔を繋ぐように分断予定線に沿って亀裂が進展し、脆性材料層が分断(割断)されることになる。なお、第1加工溝の底部に樹脂の残渣が残っている場合には、上記のように外力を加えて脆性材料層を分断した後、例えば、光学機能層に更に機械的な外力を加えて複合材を分断すればよい。光学機能層ひいては脆性材料層に更なる機械的な外力が加わっても、この時点では、脆性材料層が既に分断されているため、脆性材料層の端面にクラックが生じることはない。
本発明に係る方法において、加工痕形成工程で形成する加工痕は、必ずしもミシン目状の貫通孔に限るものではない。加工痕形成工程において、超短パルスレーザ光源から発振したレーザ光と脆性材料層との分断予定線に沿った相対移動速度を小さく設定するか、超短パルスレーザ光源のパルス発振の繰り返し周波数を大きく設定すれば、加工痕として、分断予定線に沿って一体的に繋がった貫通孔(長孔)が形成される。この場合、加工痕形成工程の後に、分断予定線に沿って外力を加えなくても、脆性材料層を分断することができる。ただし、第1加工溝の底部に樹脂の残渣が残っている場合には、脆性材料層を分断した後、例えば、光学機能層に機械的な外力を加えて複合材を分断すればよい。
【0019】
本発明に係る方法において、加工溝形成工程で形成する第2加工溝の幅を、加工痕形成工程で超短パルスレーザ光源から発振したレーザ光(超短パルスレーザ光)の脆性材料層への照射位置におけるスポット径以上とするには、例えば、第2レーザ光源から発振したレーザ光の照射位置を分断予定線に直交する方向にずらして、各照射位置でレーザ光を保護層に照射した後、各照射位置の間に存在する保護層を形成する樹脂を剥離することが考えられる。この樹脂を剥離する部分の寸法(分断予定線に直交する方向の寸法)を超短パルスレーザ光の脆性材料層への照射位置におけるスポット径以上とすれば、第2加工溝の幅を超短パルスレーザ光の脆性材料層への照射位置におけるスポット径以上にすることができる。
そこで、本発明は、前記加工溝形成工程において、前記第2レーザ光源から発振したレーザ光の前記保護層への照射位置を前記分断予定線に直交する方向にずらして、各照射位置で前記分断予定線に沿って前記レーザ光を前記保護層に照射した後、前記各照射位置の間に存在する前記保護層を形成する樹脂を剥離することで、前記第2加工溝を形成する。
【0020】
上記の方法(以下、適宜、「剥離法」という)によれば、例えば、加工溝形成工程において、第2レーザ光源から発振したレーザ光を、分断予定線を基準として分断予定線に直交する方向に等距離の位置にそれぞれ照射し、その間に存在する保護層を形成する樹脂を剥離することが考えられる。これにより、分断予定線を幅方向の中心とする第2加工溝を形成した後、分断予定線上に超短パルスレーザ光を照射すれば、第2レーザ光源から発振したレーザ光の照射位置と、超短パルスレーザ光の照射位置とが、第2加工溝の幅の1/2だけずれることになる。
したがい、仮に、加工溝形成工程において、第2レーザ光源から発振したレーザ光の出力がある程度大きく設定され、保護層を形成する樹脂が除去されて脆性材料層の表面が露出して熱ダメージを多少受けたとしても、同じ箇所に超短パルスレーザ光が照射され難いため、脆性材料層の端面にクラックが生じ難い。
なお、各照射位置の間に存在する保護層を形成する樹脂の剥離は、公知の剥離装置を適宜用いて行うことが可能である。
【0021】
加工溝形成工程で形成する第2加工溝の幅を超短パルスレーザ光の脆性材料層への照射位置におけるスポット径以上とする方法としては、本発明で用いる上記の剥離法に限るものではない。
例えば、前記加工溝形成工程において、前記第2レーザ光源から発振したレーザ光の前記保護層への照射位置を前記分断予定線に直交する方向に順次ずらして、各照射位置で前記分断予定線に沿って前記レーザ光を前記保護層に照射することで、前記第2加工溝を形成する方法(以下、適宜、「オフセット法」という)でもよい。
第2レーザ光源から発振したレーザ光の照射位置をずらす範囲(分断予定線に直交する方向の範囲)を超短パルスレーザ光の脆性材料層への照射位置におけるスポット径以上とすれば、第2加工溝の幅を超短パルスレーザ光の脆性材料層への照射位置におけるスポット径以上にすることができる。
【0022】
本発明において、超短パルスレーザ光の脆性材料層への照射位置におけるスポット径は、例えば、100μmとされる。
したがい、前記加工溝形成工程において、前記第2加工溝の幅が100μm以上となるように、前記保護層を形成する樹脂を除去することが好ましく、前記第2加工溝の幅が150μm以上となるように、前記保護層を形成する樹脂を除去することがより好ましい。
なお、超短パルスレーザ光の脆性材料層への照射位置におけるスポット径が100μmである場合、脆性材料層の光学機能層側の面におけるスポット径は、集光されて、例えば、1.2μmとなる。また、超短パルスレーザ光の脆性材料層への照射位置におけるスポット径が100μmである場合、保護層の表面(脆性材料層側の面と反対側の面)に相当する位置におけるスポット径は、例えば、154μmとなる。
【0023】
好ましくは、前記保護層は、基材層と、前記脆性材料層側に配置された粘着剤層と、を具備し、前記加工溝形成工程において、前記粘着剤層の厚み方向の一部が残存するように、前記保護層を形成する樹脂を除去する。
【0024】
上記の好ましい方法によれば、加工溝形成工程において、粘着剤層の厚み方向の一部が残存するように、保護層を形成する樹脂を除去するため、脆性材料層が熱ダメージを受け難く、脆性材料層の端面により一層クラックが生じ難い。
【0025】
保護層が具備する粘着剤層を形成する粘着剤としては、例えば、アクリル系粘着剤を用いることができるものの、加工溝形成工程で保護層に第2加工溝を形成する際のヒュームの発生を防止するには、粘着剤としてヒュームが発生し難いウレタン系粘着剤を用いることが好ましい。
すなわち、好ましくは、前記保護層は、基材層と、前記脆性材料層側に配置されたウレタン系粘着剤層と、を具備する。
【0026】
上記の好ましい方法によれば、加工溝形成工程において、保護層が具備する粘着剤層からのヒュームの発生を防止可能である。上記の好ましい方法は、加工溝形成工程において前述のオフセット法を適用する場合に特に有効である。すなわち、オフセット法を適用する場合には、剥離法を適用する場合に比べて、第2レーザ光源から発振したレーザ光の保護層への照射箇所が多いため、保護層が具備する粘着剤層からヒュームが発生し易い状況にある。したがい、ヒュームの発生を防止可能な上記の好ましい方法は、オフセット法を適用する場合に特に有効である。
【0027】
本発明に係る方法は、例えば、前記脆性材料層がガラスを含み、前記光学機能層が偏光フィルムを含む場合に好適に用いられる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、脆性材料層の一方の面側に樹脂製の光学機能層が積層され、脆性材料層の他方の面側に樹脂製の保護層が積層された複合材を、脆性材料層の端面にクラックを生じさせることなく分断可能である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明の一実施形態に係る分断方法を適用する複合材の概略構成を模式的に示す断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る複合材の分断方法の概略手順を模式的に説明する説明図である。
【
図3】加工溝形成工程での剥離法の概略手順を模式的に説明する断面図である。
【
図4】複合材を4つの矩形の複合材片に分断する場合における加工溝形成工程での剥離法及び加工痕形成工程の概略手順を模式的に説明する平面図である。
【
図5】加工溝形成工程でのオフセット法の概略手順を模式的に説明する断面図である。
【
図6】複合材を4つの矩形の複合材片に分断する場合における加工溝形成工程でのオフセット法及び加工痕形成工程の概略手順を模式的に説明する平面図である。
【
図7】実施例として、加工溝形成工程において剥離法を適用した場合の結果の一例を示す。
【
図8】実施例として、加工溝形成工程においてオフセット法を適用した場合の試験条件及び試験結果の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、添付図面を適宜参照しつつ、本発明の一実施形態に係る複合材の分断方法について説明する。
【0031】
<複合材の構成>
最初に、本実施形態に係る分断方法を適用する複合材の構成について説明する。
図1は、本実施形態に係る分断方法を適用する複合材の概略構成を示す断面図である。
なお、
図1は、参考的に表したものであり、図に表された部材などの寸法、縮尺及び形状は、実際のものとは異なっている場合があることに留意されたい。他の図についても同様である。
図1に示すように、複合材10は、脆性材料層1と、脆性材料層1の一方の面側(
図1に示す例では下側)に積層された樹脂製の光学機能層2と、脆性材料層1の他方の面側(
図1に示す例では上側)に積層された樹脂製の保護層3とが積層された構成を有する。保護層3は、基材層3aと、脆性材料層1側に配置された粘着剤層3bと、を具備する。
本実施形態に係る分断方法は、この複合材10を厚み方向(光学機能層2、脆性材料層1及び保護層3の積層方向、
図1の上下方向、Z方向)に分断する方法である。
【0032】
脆性材料層1、光学機能層2及び保護層3は、任意の適切な方法によって積層される。例えば、脆性材料層1、光学機能層2及び保護層3は、いわゆるロール・ツー・ロール方式によって積層可能である。例えば、長尺の脆性材料層1と、長尺の光学機能層2の本体(例えば、光学機能層2を構成する、
図1の上から順に偏光フィルム、粘着剤及び離型フィルム。ただし、
図1では、偏光フィルム、粘着剤及び離型フィルムの図示を省略する)とを長手方向に搬送しながら、互いの長手方向を揃えるようにして、接着剤(図示せず)を介して互いに貼り合わせることで、脆性材料層1と光学機能層2(光学機能層2の本体及び接着剤)とを積層可能である。次いで、長尺の脆性材料層1及び光学機能層2の積層体と、長尺の保護層3の基材層3aとを長手方向に搬送しながら、互いの長手方向を揃えるようにして、粘着剤層3bを介して互いに貼り合わせることで、脆性材料層1、光学機能層2及び保護層3を積層可能である。ただし、脆性材料層1と光学機能層2の本体とをそれぞれ所定形状に切断した後、接着剤を介して積層してもよい。また、脆性材料層1及び光学機能層2の積層体と保護層3の基材層3aとをそれぞれ所定形状に切断した後、粘着剤層3bを介して積層してもよい。
【0033】
脆性材料層1を形成する脆性材料としては、ガラス、及び単結晶又は多結晶シリコンを例示できる。好適には、ガラスが用いられる。
ガラスとしては、組成による分類によれば、ソーダ石灰ガラス、ホウ酸ガラス、アルミノ珪酸ガラス、石英ガラス、及びサファイアガラスを例示できる。また、アルカリ成分による分類によれば、無アルカリガラス、低アルカリガラスを例示できる。ガラスのアルカリ金属成分(例えば、Na2O、K2O、Li2O)の含有量は、好ましくは15重量%以下であり、更に好ましくは10重量%以下である。
【0034】
脆性材料層1の厚みは、好ましくは150μm以下であり、より好ましくは120μm以下であり、更に好ましくは100μm以下である。一方、脆性材料層1の厚みは、好ましくは30μm以上であり、より好ましくは80μm以上である。脆性材料層1の厚みがこのような範囲であれば、ロール・ツー・ロールによる光学機能層2との積層が可能になる。
【0035】
脆性材料層1を形成する脆性材料がガラスである場合、脆性材料層1の波長550nmにおける光透過率は、好ましくは85%以上である。脆性材料層1を形成する脆性材料がガラスである場合、脆性材料層1の波長550nmにおける屈折率は、好ましくは1.4~1.65である。脆性材料層1を形成する脆性材料がガラスである場合、脆性材料層1の密度は、好ましくは2.3g/cm3~3.0g/cm3であり、更に好ましくは2.3g/cm3~2.7g/cm3である。
【0036】
脆性材料層1を形成する脆性材料がガラスである場合、脆性材料層1として、市販のガラス板をそのまま用いてもよく、市販のガラス板を所望の厚みになるように研磨して用いてもよい。市販のガラス板としては、例えば、コーニング社製「7059」、「1737」又は「EAGLE2000」、旭硝子社製「AN100」、NHテクノグラス社製「NA-35」、日本電気硝子社製「OA-10G」、ショット社製「D263」又は「AF45」が挙げられる。
【0037】
光学機能層2の本体としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)などのアクリル樹脂、環状オレフィンポリマー(COP)、環状オレフィンコポリマー(COC)、ポリカーボネート(PC)、ウレタン樹脂、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリイミド(PI)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリスチレン(PS)、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、エチレン-酢酸ビニル(EVA)、ポリアミド(PA)、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、液晶ポリマー、各種樹脂製発泡体などのプラスチック材料で形成された単層フィルム、又は複数の層からなる積層フィルムを例示できる。
【0038】
光学機能層2の本体が複数の層からなる積層フィルムである場合、層間に、アクリル粘着剤、ウレタン粘着剤、シリコーン粘着剤などの各種粘着剤や、接着剤が介在してもよい。
また、光学機能層2の本体表面に、酸化インジウムスズ(ITO)、Ag、Au、Cuなどの導電性の無機膜が形成されていてもよい。
本実施形態に係る分断方法は、特に光学機能層2の本体がディスプレイに用いられる偏光フィルムや位相差フィルム等である場合に好適に用いられる。
光学機能層2の本体の厚みは、好ましくは20~500μmであり、より好ましくは50~300μmである。
【0039】
本実施形態では、前述のように、光学機能層2の本体が、
図1の上から順に、偏光フィルム、粘着剤及び離型フィルムが積層された積層フィルムである。光学機能層2の本体は、接着剤(図示せず)を介して脆性材料層1と積層されている。本実施形態では、光学機能層2の本体(偏光フィルム、粘着剤及び離型フィルム)と接着剤との組み合わせを光学機能層2と称する。
【0040】
光学機能層2の本体を構成する偏光フィルムは、偏光子と、偏光子の少なくとも一方に配置された保護フィルムとを有する。偏光子の厚みは特に制限されず、目的に応じて適切な厚みを採用できる。偏光子の厚みは、代表的には、1~80μm程度である。一態様においては、偏光子の厚みは、好ましくは30μm以下である。偏光子は、ヨウ素系偏光子である。より詳細には、上記偏光子は、ヨウ素を含むポリビニルアルコール系樹脂フィルムから構成することができる。
【0041】
上記偏光フィルムを構成する偏光子の製造方法としては、例えば、以下のような方法1、2等が挙げられる。
(1)方法1:ポリビニルアルコール系樹脂フィルム単体を延伸、染色する方法。
(2)方法2:樹脂基材とポリビニルアルコール系樹脂層とを有する積層体(i)を延伸、染色する方法。
方法1は、当業界で周知慣用の方法であるため、詳細な説明は省略する。
方法2は、好ましくは、樹脂基材と該樹脂基材の片側に形成されたポリビニルアルコール系樹脂層とを有する積層体(i)を延伸、染色して、前記樹脂基材上に偏光子を作製する工程を含む。積層体(i)は、樹脂基材上にポリビニルアルコール系樹脂を含む塗布液を塗布・乾燥して形成することができる。また、積層体(i)は、ポリビニルアルコール系樹脂膜を樹脂基材上に転写して形成してもよい。方法2の詳細は、例えば、特開2012-73580号公報に記載されており、この公報は、本明細書に参考として援用される。
【0042】
上記偏光フィルムを構成する保護フィルムは、偏光子の一方面又は両面に配置される。保護フィルムとしては、トリアセチルセルロース系フィルム、アクリル系フィルム、シクロオレフィン系フィルム、ポリエチレンテレフタレート系フィルムなどを用いることもできる。なお、偏光フィルムは、適宜、位相差フィルムを更に備えていてもよい。位相差フィルムは、目的に応じて任意の適切な光学的特性及び/又は機械的特性を有することができる。
【0043】
光学機能層2の本体を構成する離型フィルムは、複合材10が実用に供されるまで、光学機能層2の本体を構成する粘着剤層を保護する役割を有する。離型フィルムの構成材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエステルフィルムなどのプラスチックフィルムや、紙、布、不織布などの多孔質材料、ネット、発泡シート、金属箔、及びこれらのラミネート体などの適宜な薄葉体などを挙げることができるが、表面平滑性に優れる点から、プラスチックフィルムが好適に用いられる。
【0044】
光学機能層2を構成する接着剤としては、例えば、ポリエステル系接着剤、ポリウレタン系接着剤、ポリビニルアルコール系接着剤、エポキシ系接着剤を用いることができる。特に、良好な密着性が得られるという点で、エポキシ系接着剤を用いることが好ましい。
接着剤が熱硬化型接着剤である場合、加熱して硬化(固化)させることで剥離抵抗力を発揮できる。また、接着剤が紫外線硬化型等の光硬化型接着剤である場合、紫外線等の光を照射して硬化させることで剥離抵抗力を発揮できる。さらに、接着剤が湿気硬化型接着剤である場合、雰囲気中の水分等と反応して硬化し得るので、放置することでも硬化して剥離抵抗力を発揮できる。
接着剤としては、例えば、市販の接着剤を使用してもよく、各種硬化型樹脂を溶媒に溶解又は分散し、接着剤溶液(又は分散液)として調製してもよい。
接着剤の厚みは、好ましくは10μm以下であり、より好ましくは1~10μmであり、更に好ましくは1~8μmであり、特に好ましくは1~6μmである。
【0045】
本実施形態では、保護層3の基材層3aは、粘着剤層3bを介して脆性材料層1に積層されている。保護層3の基材層3aを自己粘着型のフィルムで構成し、粘着剤層を介することなく脆性材料層1に積層することも可能であるが、脆性材料層1を保護する観点からは、本実施形態のように、粘着剤層3bを介して脆性材料層1に積層することが好ましい。
基材層3aとしては、検査性や管理性などの観点から、等方性を有する又は等方性に近いフィルム材料が選択される。そのフィルム材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム等のポリエステル系樹脂、セルロース系樹脂、アセテート系樹脂、ポリエーテルサルホン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂のような透明なポリマーが挙げられる。これらの中でもポリエステル系樹脂が好ましい。基材層3aとしては、1種又は2種以上のフィルム材料のラミネート体を用いることもでき、前記フィルムの延伸物を用いることもできる。基材層3aの厚みは、35μm~100μm以下であることが好ましく、更には38μmを超えて100μm以下であることが好ましい。
【0046】
粘着剤層3bを形成する粘着剤としては、(メタ)アクリル系ポリマー、シリコーン系ポリマー、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド、ポリエーテル、フッ素系やゴム系などのポリマーをベースポリマーとする粘着剤を適宜に選択して用いることができる。透明性、耐候性、耐熱性などの観点からは、アクリル系ポリマーをベースポリマーとするアクリル系粘着剤が好ましい。ただし、後述のように、保護層3に第2加工溝31を形成する際のヒュームの発生を防止するには、粘着剤層3bを形成する粘着剤として、ポリウレタンをベースポリマーとするウレタン系粘着剤を用いることが好ましい。粘着剤層3bの厚み(乾燥膜厚)は、必要とされる粘着力に応じて決定される。通常1~100μm程度、好ましくは5~50μmである。
【0047】
<複合材の分断方法>
以下、上記の構成を有する複合材10の分断方法について説明する。
本実施形態に係る分断方法は、加工溝形成工程と、加工痕形成工程と、を含んでいる。また、本実施形態に係る分断方法は、必要に応じて、複合材分断工程を含んでいる。以下、各工程について順に説明する。
【0048】
[加工溝形成工程]
図2は、本実施形態に係る分断方法の概略手順を模式的に説明する説明図である。
図2(a)及び(b)は、本実施形態に係る分断方法の加工溝形成工程を示す断面図である。
図2(c)は、本実施形態に係る分断方法の加工痕形成工程を示す断面図である。
図2(d)は、本実施形態に係る分断方法の複合材分断工程を示す断面図である。
図2(a)に示すように、加工溝形成工程では、第1レーザ光源20から発振したレーザ光L1を複合材10の分断予定線に沿って光学機能層2に照射して光学機能層2を形成する樹脂を除去する。これにより、分断予定線に沿った第1加工溝21を形成する。
図2に示す例では、便宜上、複合材10の面内(XY2次元平面内)の直交する2方向(X方向及びY方向)のうち、Y方向に延びる直線DLが分断予定線である場合を図示しているが、本発明はこれに限るものではなく、例えばX方向に延びる複数の直線DLとY方向に延びる複数の直線DLとが格子状に設定された分断予定線など、種々の分断予定線を設定可能である。以下、この直線DLを「分断予定線DL」と呼ぶ。
分断予定線DLは、視覚的に認識できる表示として実際に複合材10に描くことも可能であるし、レーザ光L1と複合材10とのXY2次元平面上での相対的な位置関係を制御する制御装置(図示せず)にその座標を予め入力しておくことも可能である。
図2に示す分断予定線DLは、制御装置にその座標が予め入力されており、実際には複合材10に描かれていない仮想線である。なお、分断予定線DLは、直線に限るものではなく、曲線であってもよい。複合材10の用途に応じて分断予定線DLを決定することで、複合材10を用途に応じた任意の形状・寸法に分断可能である。
【0049】
本実施形態では、第1レーザ光源20として、発振するレーザ光L1の波長が赤外域の9~11μmであるCO2レーザ光源を用いている。
ただし、本発明はこれに限るものではなく、第1レーザ光源20として、発振するレーザ光L1の波長が5μmであるCOレーザ光源を用いることも可能である。
また、第1レーザ光源20として、可視光及び紫外線(UV)パルスレーザ光源を用いることも可能である。可視光及びUVパルスレーザ光源としては、発振するレーザ光L1の波長が532nm、355nm、349nm又は266nm(Nd:YAG、Nd:YLF、又はYVO4を媒質とする固体レーザ光源の高次高調波)であるもの、発振するレーザ光L1の波長が351nm、248nm、222nm、193nm又は157nmであるエキシマレーザ光源、発振するレーザ光L1の波長が157nmであるF2レーザ光源を例示できる。
また、第1レーザ光源20として、発振するレーザ光L1の波長が紫外域以外であり、なお且つパルス幅がフェムト秒又はピコ秒オーダーのパルスレーザ光源を用いることも可能である。このパルスレーザ光源から発振するレーザ光L1を用いれば、多光子吸収過程に基づくアブレーション加工を誘発可能である。
さらに、第1レーザ光源20として、発振するレーザ光L1の波長が赤外域である半導体レーザ光源やファイバーレーザ光源を用いることも可能である。
【0050】
レーザ光L1を複合材10の分断予定線に沿って照射する態様(レーザ光L1を走査する態様)としては、例えば、枚葉状の複合材10をXY2軸ステージ(図示せず)に載置して固定(例えば、吸着固定)し、制御装置からの制御信号によってXY2軸ステージを駆動することで、レーザ光L1に対する複合材10のXY2次元平面上での相対的な位置を変更することが考えられる。また、複合材10の位置を固定し、制御装置からの制御信号によって駆動するガルバノミラーやポリゴンミラーを用いて第1レーザ光源20から発振したレーザ光L1を偏向させることで、複合材10に照射されるレーザ光L1のXY2次元平面上での位置を変更することも考えられる。更には、上記のXY2軸ステージを用いた複合材10の走査と、ガルバノミラー等を用いたレーザ光L1の走査との双方を併用することも可能である。
【0051】
第1レーザ光源20の発振形態は、パルス発振でも連続発振でもよい。レーザ光L1の空間強度分布は、ガウシアン分布でもよいし、レーザ光L1の除去対象外である脆性材料層1の熱ダメージを抑制するため、回折光学素子(図示せず)等を用いて、フラットトップ分布に整形してもよい。レーザ光L1の偏光状態に制約はなく、直線偏光、円偏光及びランダム偏光の何れであってもよい。
【0052】
レーザ光L1を複合材10の分断予定線DLに沿って光学機能層2に照射することで、光学機能層2を形成する樹脂のうち、レーザ光L1が照射された樹脂の赤外光吸収に伴う局所的な温度上昇が生じて当該樹脂が飛散することで、当該樹脂が複合材10から除去され、複合材10に第1加工溝21が形成される。複合材10から除去される樹脂の飛散物が複合材10に再付着することを抑制するには、分断予定線DLの近傍に集塵機構を設けることが好ましい。第1加工溝21の幅が大きくなり過ぎるのを抑制するには、光学機能層2への照射位置におけるスポット径(光学機能層2の脆性材料層1側の面と反対側の面におけるスポット径)が300μm以下となるようにレーザ光L1を集光することが好ましく、スポット径が200μm以下となるようにレーザ光L1を集光することがより好ましい。
光学機能層2への照射位置におけるレーザ光L1のスポット径は、例えば、150μm程度とされ、このとき、光学機能層2の脆性材料層1側の面におけるスポット径は、集光されて、例えば、30~40μmになる。これにより、幅(分断予定線DLに直交する方向の第1加工溝21の底部の寸法)が30~40μmの第1加工溝21が形成される。
第1加工溝21の幅は、例えば、100μm以下であり、好ましくは、50μm以下である。
【0053】
なお、本発明者らの知見によれば、レーザ光L1が照射された樹脂の赤外光吸収に伴う局所的な温度上昇を原理とする樹脂の除去方法の場合、樹脂の種類や光学機能層2の層構造に関わらず、光学機能層2の厚みによって、第1加工溝21を形成するのに必要な投入エネルギーを概ね見積もることが可能である。具体的には、第1加工溝21を形成するのに必要な以下の式(1)で表わされる投入エネルギーを、光学機能層2の厚みに基づき、以下の式(2)によって見積もることが可能である。
投入エネルギー[mJ/mm]=レーザ光L1の平均パワー[mW]/加工速度[mm/sec] ・・・(1)
投入エネルギー[mJ/mm]=0.5×光学機能層2の厚み[μm] ・・・(2)
実際に設定する投入エネルギーは、上記の式(2)で見積もった投入エネルギーの20~180%に設定することが好ましく、50~150%に設定することがより好ましい。このように見積もった投入エネルギーに対してマージンを設けるのは、光学機能層2を形成する樹脂の光吸収率(レーザ光L1の波長における光吸収率)や、樹脂の融点・分解点等の熱物性の違いによって、第1加工溝21を形成するのに必要な投入エネルギーに差異が生じることを考慮しているからである。具体的には、例えば、本実施形態に係る分断方法を適用する複合材10のサンプルを用意し、上記の好ましい範囲内の複数の投入エネルギーでこのサンプルの光学機能層2に第1加工溝21を形成する予備試験を行って、適切な投入エネルギーを決定すればよい。
【0054】
また、
図2(b)に示すように、加工溝形成工程では、第2レーザ光源30から発振したレーザ光L2を複合材10の分断予定線に沿って保護層3に照射して保護層3を形成する樹脂を除去する。これにより、分断予定線に沿った第2加工溝31(
図2(c)参照)を形成する。第2加工溝31を形成する際、本実施形態では、剥離法又はオフセット法を用いるが、これらの具体的内容については、後述する。
本実施形態では、第1加工溝21を形成した後、第2加工溝31を形成しているが、本発明はこれに限るものではなく、第2加工溝31を形成した後、第1加工溝21を形成することも可能である。また、
図2に示すように、第1レーザ光源20及び第2レーザ光源30を別に用意する場合には、第1加工溝21及び第2加工溝31を同時に形成することも可能である。
【0055】
本実施形態では、第2レーザ光源30として、第1レーザ光源20と同一の種類のCO2レーザ光源を用いている。ただし、本発明はこれに限るものではなく、第1レーザ光源20について前述したのと同様に、COレーザ光源等の他のレーザ光源を用いることも可能である。第2レーザ光源30は、第1レーザ光源20と同一の種類であってもよいし、異なる種類であってもよい。レーザ光L2を分断予定線DLに沿って照射する態様(レーザ光L2を相対的に走査する態様)としては、レーザ光L1について前述したのと同様に、XY2軸ステージやガルバノミラー等を用いた態様を採用可能である。
レーザ光L2は、保護層3への照射位置におけるスポット径(保護層3の脆性材料層1側の面と反対側の面におけるスポット径)が、例えば、120~130μmとなるように集光される。これにより、底部での幅が20~30μmの溝が形成される。
【0056】
第2加工溝31は、その幅W(
図2(c)参照)が、後述の加工痕形成工程で超短パルスレーザ光源40から発振したレーザ光L3の脆性材料層1への照射位置におけるスポット径D(
図2(c)参照)以上となるように形成される。
具体的には、本実施形態の第2加工溝31の幅Wは、100μm以上にすることが好ましく、150μm以上であることがより好ましい。第2加工溝31の幅Wの上限は、例えば、1000μm以下であり、好ましくは500μm以下であり、より好ましくは300μm以下である。
上記のように、第2加工溝31の幅Wは、好ましくは100μm以上であり、好ましくは100μm以下である第1加工溝21の幅よりも大きいことが好ましい。
【0057】
図2に示す例では、光学機能層2に対向する側に第1レーザ光源20を配置し、保護層3に対向する側に第1レーザ光源20とは別の第2レーザ光源30を配置しているが、本発明はこれに限るものではなく、第1レーザ光源20を第2レーザ光源30として兼用することも可能である。
第1レーザ光源20を第2レーザ光源30として兼用する場合には、例えば、
図2(a)に示すように、光学機能層2に対向する側に第1レーザ光源20(第2レーザ光源30)を配置し、第1レーザ光源20(第2レーザ光源30)を用いて光学機能層2に第1加工溝21を形成した後、保護層3に第1レーザ光源20(第2レーザ光源30)が対向するように、公知の反転機構を用いて複合材10を上下反転させて、第1レーザ光源20(第2レーザ光源30)を用いて保護層3に第2加工溝31を形成すればよい。或いは、
図2(b)に示すように、保護層3に対向する側に第1レーザ光源20(第2レーザ光源30)を配置し、第1レーザ光源20(第2レーザ光源30)を用いて保護層3に第2加工溝31を形成した後、光学機能層2に第1レーザ光源20(第2レーザ光源30)が対向するように、公知の反転機構を用いて複合材10を上下反転させて、第1レーザ光源20(第2レーザ光源30)を用いて光学機能層2に第1加工溝21を形成すればよい。
【0058】
なお、加工溝形成工程では、好ましい態様として、光学機能層2の厚み方向の一部が残渣として残存するように、光学機能層2を形成する樹脂を除去することも可能である。また、本実施形態では、好ましい態様として、保護層3の粘着剤層3bの厚み方向の一部が残渣として残存するように、保護層3を形成する樹脂を除去している。残渣の厚みは、光学機能層2及び保護層3のいずれについても、好ましくは、1~30μmであり、より好ましくは、1~10μmである。
このように、残渣が残存するように樹脂を除去することで、分断予定線DLに沿って光学機能層2及び保護層3を形成する樹脂を完全に除去する場合に比べて、脆性材料層1に与えられる熱ダメージが低減し、脆性材料層1の端面により一層クラックが生じ難いという利点が得られる。
【0059】
[加工痕形成工程]
図2(c)に示すように、加工痕形成工程では、加工溝形成工程の後、超短パルスレーザ光源40から発振(パルス発振)したレーザ光(超短パルスレーザ光)L3を第2加工溝31側から分断予定線DLに沿って脆性材料層1に照射して脆性材料層1を形成する脆性材料を除去することで、分断予定線DLに沿った加工痕11を形成する。
レーザ光L3を分断予定線DLに沿って照射する態様(レーザ光L3を相対的に走査する態様)としては、前述のレーザ光L1を分断予定線DLに沿って照射する態様と同じ態様を採用できるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0060】
脆性材料層1を形成する脆性材料は、超短パルスレーザ光源40から発振したレーザ光L3のフィラメンテーション現象を利用して、或いは、超短パルスレーザ光源40にマルチ焦点光学系(図示せず)又はベッセルビーム光学系(図示せず)を適用することで、除去される。
なお、超短パルスレーザ光のフィラメンテーション現象を利用することや、超短パルスレーザ光源にマルチ焦点光学系又はベッセルビーム光学系を適用することについては、非特許文献1に記載されている。また、ドイツのTrumpf社から、超短パルスレーザ光源にマルチ焦点光学系を適用したガラス加工に関する製品が販売されている。このように、超短パルスレーザ光のフィラメンテーション現象を利用することや、超短パルスレーザ光源にマルチ焦点光学系又はベッセルビーム光学系を適用することについては公知であるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0061】
本実施形態の加工痕形成工程で形成する加工痕11は、例えば、特許文献2に記載のような分断予定線DLに沿ったミシン目状の貫通孔とされる。分断予定線DLに沿った貫通孔のピッチは、パルス発振の繰り返し周波数と、複合材10に対するレーザ光L3の相対的な移動速度(加工速度)とによって決まる。後述の複合材分断工程を簡便且つ安定的に行うために、貫通孔のピッチは、好ましくは10μm以下に設定される。より好ましくは5μm以下に設定される。貫通孔の直径は5μm以下で形成される場合が多い。
ただし、加工痕11は、分断予定線DLに沿ったミシン目状の貫通孔に限られるものではない。超短パルスレーザ光源40から発振したレーザ光L3と脆性材料層1との分断予定線DLに沿った相対移動速度を小さく設定するか、超短パルスレーザ光源40のパルス発振の繰り返し周波数を大きく設定すれば、加工痕11として、分断予定線DLに沿って一体的に繋がった貫通孔(長孔)が形成される。
【0062】
超短パルスレーザ光源40から発振するレーザ光L3の波長は、脆性材料層1を形成する脆性材料がガラスである場合に高い光透過率を示す500nm~2500nmであることが好ましい。非線形光学現象(多光子吸収)を効果的に引き起こすため、レーザ光L3のパルス幅は、100ピコ秒以下であることが好ましく、50ピコ秒以下であることがより好ましい。レーザ光L3の発振形態は、シングルパルス発振でも、バーストモードのマルチパルス発振でもよい。
図2(c)に示すように、レーザ光L3の脆性材料層1への照射位置におけるスポット径Dは、例えば、100μmとされ、前述のように、第2加工溝31の幅Wは、このスポット径D以上となっている。
【0063】
なお、加工溝形成工程で形成した第2加工溝31を加工痕形成工程の前に、各種ウェット方式又はドライ方式のクリーニングを適用することで、保護層3を形成する樹脂の残渣を除去するクリーニング工程を更に含んでもよい。クリーニング工程において、保護層3を形成する樹脂の残渣を除去すれば、加工痕形成工程において、第2加工溝31側から脆性材料層1に超短パルスレーザ光源40から発振したレーザ光L3を照射しても、レーザ光L3が樹脂の残渣の影響を受けず、脆性材料層1により一層適切な加工痕11を形成可能である。
【0064】
[複合材分断工程]
図2(d)に示すように、複合材分断工程では、加工痕形成工程の後、分断予定線DLに沿って外力を加えることで、複合材10を分断する。
図2(d)に示す例では、複合材10は、複合材片10a、10bに分断される。
複合材分断工程は、加工痕形成工程で形成する加工痕11が分断予定線DLに沿ったミシン目状の貫通孔である場合や、光学機能層2の厚み方向の一部が残渣として残存するように光学機能層2を形成する樹脂を除去する(第1加工溝21の底部に残渣が残存する)場合に、特に必要となる。加工痕11が分断予定線DLに沿って一体的に繋がった貫通孔(長孔)であり、なお且つ、第1加工溝21の底部に残渣が残存しない場合には、加工痕形成工程を実行すると同時に複合材10を分断可能であるため、必ずしも複合材分断工程は必要ではない。
複合材10への外力の付加方法としては、機械的なブレイク(山折り)、赤外域レーザ光による切断予定線DLの近傍部位の加熱、超音波ローラによる振動付加、吸盤による吸着及び引き上げ等を例示できる。
【0065】
以下、本実施形態に係る分断方法の加工溝形成工程において、第2加工溝31を形成する際に用いる剥離法及びオフセット法について、順に説明する。
【0066】
(剥離法)
図3は、加工溝形成工程での剥離法の概略手順を模式的に説明する断面図である。剥離法は、
図3(a)、(b)及び(d)の順に実行する。なお、
図3(c)は
図3(b)の破線Cで囲った領域の拡大図である。
図3(a)、(b)に示すように、剥離法では、第2レーザ光源30から発振したレーザ光L2の保護層3への照射位置を分断予定線DLに直交する方向(
図3に示す例ではX方向)にずらして、各照射位置(
図3(a)に示すA1の位置、
図3(b)に示すA2の位置)で分断予定線DLに沿ってレーザ光L2を保護層3に照射する。具体的には、本実施形態では、第2レーザ光源30から発振したレーザ光L2を、分断予定線DLを基準として分断予定線DLに直交する方向(X方向)に等距離の位置A1、A2にそれぞれ照射する。これにより、各照射位置A1、A2に加工溝31a、31bが形成される。そして、X方向についての加工溝31a、31bの離間距離(各照射位置A1、A2の離間距離)が、加工痕形成工程における超短パルスレーザ光L3の脆性材料層1への照射位置におけるスポット径D(
図2(c)参照)以上とされている。
なお、前述のように、本実施形態では、好ましい態様として、レーザ光L2を保護層3に照射することで、保護層3の粘着剤層3bの厚み方向の一部が残渣として残存するように、保護層3を形成する樹脂を除去している(
図3(c)参照)。前述のように、残渣の厚みTは、好ましくは、1~30μmであり、より好ましくは、1~10μmである。
【0067】
次に、
図3(d)に示すように、剥離法では、各照射位置A1、A2の間に存在する保護層3を形成する樹脂を剥離することで、第2加工溝31を形成する。樹脂の剥離は、公知の剥離装置を適宜用いて行うことが可能である。前述のように、加工溝31a、31bの離間距離が、超短パルスレーザ光L3のスポット径D以上であるため、第2加工溝31の幅W(
図2(c)参照)も超短パルスレーザ光L3のスポット径D以上となる。
なお、剥離法で各照射位置A1、A2の間に存在する保護層3を形成する樹脂を剥離すると、
図3(c)又は(d)からも分かるように、各照射位置A1、A2の近傍では、粘着剤層3bの厚み方向の一部が残渣として残存するものの、その他の部分では粘着剤層3bを含む保護層3全体が剥離し、脆性材料層1の表面が露出することが期待できる。
【0068】
以上に説明した剥離法によれば、分断予定線DL上に超短パルスレーザ光L3を照射すれば(
図2(c)参照)、第2レーザ光源30から発振したレーザ光L2の照射位置A1、A2と、超短パルスレーザ光L3の照射位置とが、第2加工溝31の幅Wの1/2だけずれることになる。
したがい、仮に、加工溝形成工程において、第2レーザ光源30から発振したレーザ光L2の出力がある程度大きく設定され、保護層3を形成する樹脂が除去されて脆性材料層1の表面が露出して熱ダメージを多少受けたとしても、同じ箇所に超短パルスレーザ光L3が照射され難いため、脆性材料層1の端面にクラックが生じ難い。
【0069】
図4は、複合材10を4つの矩形の複合材片に分断する場合における加工溝形成工程での剥離法及び加工痕形成工程の概略手順を模式的に説明する平面図である。
図4(a)~(c)は剥離法の概略手順を、
図4(d)は加工痕形成工程の概略手順を示す。なお、
図4において、第2レーザ光源30及び超短パルスレーザ光源40は、便宜上、斜視で図示している。
図4(a)に示すように、剥離法では、第2レーザ光源30から発振したレーザ光L2の保護層3への照射位置を分断予定線DLに直交する方向にずらして、各照射位置で分断予定線DLに沿ってレーザ光L2を保護層3に照射する。具体的には、
図4(a)に示す例では、分断予定線DLよりも、第2加工溝31の幅W(
図2(c)参照)の1/2だけ内側にずれた位置(実線で示す位置)にレーザ光L2を照射している。
図4(a)に符号31a、31bで示す部位が、
図3に示す加工溝31a、31bに相当する。
【0070】
次に、剥離法では、各照射位置の間に存在する保護層3を形成する樹脂を剥離することで、第2加工溝31を形成する。
図4(b)は剥離した保護層3を形成する樹脂を、
図4(c)は剥離後の複合材10を示す。
図4(b)に示す例では、各照射位置の間に存在する保護層3を形成する樹脂(
図4(b)の十字状の領域に存在する樹脂)だけではなく、照射位置の外側に位置する保護層3を形成する樹脂も同時に剥離している。
【0071】
次に、
図4(d)に示すように、加工痕形成工程では、分断予定線DL上に超短パルスレーザ光源40から発振した超短パルスレーザ光L3を照射する。
これにより(或いは、複合材分断工程を更に実行することにより)、4つの矩形の複合材片に分断可能である。
【0072】
(オフセット法)
図5は、加工溝形成工程でのオフセット法の概略手順を模式的に説明する断面図である。オフセット法は、
図5(a)~(d)の順に実行する。
図5(a)~(c)に示すように、オフセット法では、第2レーザ光源30から発振したレーザ光L2の保護層3への照射位置を分断予定線DLに直交する方向(
図5に示す例ではX方向)に順次ずらして、各照射位置(
図5(a)に示すB1の位置、
図5(b)に示すB2の位置及び
図5(c)に示すB3の位置)で分断予定線DLに沿ってレーザ光L2を保護層3に照射する。具体的には、本実施形態では、第2レーザ光源30から発振したレーザ光L2を、分断予定線DLを基準として分断予定線DLに直交する方向(X方向)に等距離の位置B1から位置B3まで、所定のピッチ(例えば、レーザ光L2のスポット径と同等の大きさである30μm程度のピッチ)で順次ずらして、各位置にそれぞれ照射する。これにより、各照射位置で形成される加工溝31cの幅が順次大きくなり、最終的に、
図5(d)に示すように、第2加工溝31が形成される。レーザ光L2の照射位置をずらす範囲(照射位置B1、B3の離間距離)を、加工痕形成工程における超短パルスレーザ光L3の脆性材料層1への照射位置におけるスポット径D(
図2(c)参照)以上とすることで、第2加工溝31の幅W(
図2(c)参照)を超短パルスレーザ光L3のスポット径D以上にすることができる。
【0073】
なお、オフセット法でも、好ましい態様として、レーザ光L2を保護層3に照射することで、保護層3の粘着剤層3bの厚み方向の一部が残渣として残存するように、保護層3を形成する樹脂を除去している。特に、オフセット法を適用する場合には、剥離法を適用する場合に比べて、第2レーザ光源30から発振したレーザ光L2の保護層3への照射箇所が多いため、脆性材料層1が熱ダメージを受け易い状況になる。したがい、粘着剤層3bの厚み方向の一部を残渣として残存させることは、オフセット法を適用する場合に特に有効である。
また、オフセット法を適用する場合には、剥離法を適用する場合に比べて、第2レーザ光源30から発振したレーザ光L2の保護層3への照射箇所が多いため、保護層3が具備する粘着剤層3bからヒュームが発生し易い状況にある。したがい、オフセット法を適用する場合に、ヒュームの発生を防止するには、粘着剤層3bをウレタン系粘着剤層にすることが好ましい。
【0074】
図6は、複合材10を4つの矩形の複合材片に分断する場合における加工溝形成工程でのオフセット法及び加工痕形成工程の概略手順を模式的に説明する平面図である。
図6(a)はオフセット法の概略手順を、
図6(b)は加工痕形成工程の概略手順を示す。なお、
図6において、第2レーザ光源30及び超短パルスレーザ光源40は、便宜上、斜視で図示している。
図6(a)に示すように、オフセット法では、第2レーザ光源30から発振したレーザ光L2の保護層3への照射位置を分断予定線DLに直交する方向に順次ずらして、各照射位置で分断予定線DLに沿ってレーザ光L2を保護層3に照射する。具体的には、
図6(a)に示す例では、分断予定線DLよりも、第2加工溝31の幅W(
図2(c)参照)の1/2だけ内側及び外側にずれた位置(実線で示す位置)の範囲にレーザ光L2を照射して、各照射位置で形成される加工溝31cの幅を順次大きくしている。これにより、
図6(b)に示すように、第2加工溝31(
図6(b)において、斜線のハッチングが施されていない領域)が形成される。
【0075】
次に、
図6(b)に示すように、加工痕形成工程では、分断予定線DL上に超短パルスレーザ光源40から発振した超短パルスレーザ光L3を照射する。
これにより(或いは、複合材分断工程を更に実行することにより)、4つの矩形の複合材片に分断可能である。
【0076】
以上に説明した本実施形態に係る分断方法によれば、加工溝形成工程において、光学機能層2を形成する樹脂及び保護層3を形成する樹脂を除去することで、分断予定線DLに沿った第1加工溝21及び第2加工溝31を形成した後、加工痕形成工程において、第2加工溝31側から脆性材料層1を形成する脆性材料を除去することで、同じ分断予定線DLに沿った加工痕11を形成する。そして、加工溝形成工程で形成される第2加工溝31は、その幅Wが加工痕形成工程で超短パルスレーザ光源40から発振したレーザ光(超短パルスレーザ光)L3の脆性材料層1への照射位置におけるスポット径D以上となるように形成されるため、脆性材料層1の端面にクラックを生じさせることなく、脆性材料層1を分断可能である。
【0077】
以下、本実施形態に係る分断方法(実施例1~5)及び比較例(比較例1、2)に係る分断方法を用いて複合材10を分断する試験を行った結果の一例について説明する。
図7は、実施例として、加工溝形成工程において剥離法を適用した場合の主な試験条件及び試験結果の一例を示す。
図8は、実施例として、加工溝形成工程においてオフセット法を適用した場合の主な試験条件及び試験結果の一例を示す。
【0078】
<実施例1>
[光学機能層2の作製]
熱可塑性の樹脂基材として、長尺で、ガラス転移温度(Tg)が約75℃である、非晶質のイソフタル共重合ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚み:100μm)を用い、この樹脂基材の片面にコロナ処理を施した。
一方、ポリビニルアルコール(重合度4200、ケン化度99.2モル%)及びアセトアセチル変性PVA(日本合成化学工業社製、商品名「ゴーセファイマー」)を9:1で混合したPVA系樹脂100重量部に、ヨウ化カリウム13重量部を添加したものを水に溶かし、PVA水溶液(塗布液)を調製した。
そして、上記の樹脂基材のコロナ処理面に、上記のPVA水溶液を塗布して60℃で乾燥することにより、厚み13μmのPVA系樹脂層を形成し、積層体を作製した。
【0079】
上記のようにして作製した積層体を、130℃のオーブン内で縦方向(長手方向)に2.4倍に一軸延伸した(空中補助延伸処理)。
次に、一軸延伸後の積層体を、液温40℃の不溶化浴(水100重量部に対して、ホウ酸を4重量部配合して得られたホウ酸水溶液)に30秒間浸漬させた(不溶化処理)。
次に、上記の積層体を、液温30℃の染色浴(水100重量部に対して、ヨウ素とヨウ化カリウムを1:7の重量比で配合して得られたヨウ素水溶液)に、最終的に得られる偏光子の単体透過率(Ts)が所望の値となるように濃度を調整しながら60秒間浸漬させた(染色処理)。
次に、上記の積層体を、液温40℃の架橋浴(水100重量部に対して、ヨウ化カリウムを3重量部配合し、ホウ酸を5重量部配合して得られたホウ酸水溶液)に30秒間浸漬させた(架橋処理)。
次に、上記の積層体を、液温70℃のホウ酸水溶液(ホウ酸濃度4重量%、ヨウ化カリウム濃度5重量%)に浸漬させながら、周速の異なるロール間で縦方向(長手方向)に総延伸倍率が5.5倍となるように一軸延伸を行った(水中延伸処理)。
次に、上記の積層体を、液温20℃の洗浄浴(水100重量部に対して、ヨウ化カリウムを4重量部配合して得られた水溶液)に浸漬させた(洗浄処理)。
最後に、上記の積層体を、約90℃に保たれたオーブン中で乾燥させながら、表面温度が約75℃に保たれたステンレス鋼製の加熱ロールに接触させた(乾燥収縮処理)。
以上のようにして、樹脂基材上に厚み約5μmの偏光子を形成し、樹脂基材/偏光子の構成を有する積層体を作製した。
【0080】
次に、上記の積層体を構成する偏光子の一方の面(樹脂基材側の面と反対側の面)にアクリル系保護フィルム(厚み:40μm)を貼り合わせて偏光フィルムを作製した。そして、偏光フィルムから樹脂基材を剥離し、当該剥離面にアクリル系粘着剤(厚み:20μm)を介して、ポリエチレンテレフタレート離型フィルム(厚み:38μm)を貼り合わせることで、光学機能層2の本体を作製した。
また、接着剤として、セロキサイド2021P(ダイセル化学工業社製)を70重量部、EHPE3150を5重量部、アロンオキセタンOXT-221(東亜合成社製)19重量部、KBM-403(信越化学工業社製)を4重量部、CPI101A(サンアプロ社製)を2重量部配合したエポキシ系接着剤を用意した。
上記の光学機能層2の本体と、上記の接着剤との組み合わせが、光学機能層2を構成する。
【0081】
[脆性材料層1及び光学機能層2の積層体の作製]
脆性材料層1として、ガラスフィルム(日本電気硝子社製、商品名「OA-10G」、厚み:100μm)を用意した。
次に、上記の脆性材料層1と、上記の光学機能層2の本体とを、上記の接着剤を介して貼り合わせた。この際、光学機能層2の本体は、アクリル系保護フィルムが脆性材料層1側となるように配置した。次に、高圧水銀ランプにより上記の接着剤に紫外線を照射(500mJ/cm2)して接着剤を硬化させることで、脆性材料層1及び光学機能層2の積層体を作製した。硬化後の接着剤の厚みは5μmであった。
【0082】
[複合材10の作製]
次に、
図7に示すように、保護層3として、アクリル系粘着剤層を有する表面保護フィルム(日東電工社製、商品名「RP207」)を用意した。
この保護層3の基材層3aは、厚み38μmの未処理ポリエチレンテレフタレートフィルム(三菱化学ポリエステル社製、ダイアホイルT100 #38)から形成されている。
また、この保護層3の粘着剤層3bは、以下のようにして作製されている。まず、酢酸エチル中に、モノマーベースで35%となるように2-エチルヘキシルアクリレート100重量部及び2-ヒドロキシエチルアクリレート4重量部を共重合して重量平均分子量60万のアクリル系ポリマーを含有する溶液を得る。次に、この溶液に、アクリル系ポリマー(乾燥重量)100重量部に対して、イソシアヌレート環を有するイソシアネート系架橋剤(日本ポリウレタン工業社製、コロネートHX)4重量部を配合し、さらに酢酸エチルを加え固形分濃度を20% に調整した粘着剤溶液を調製する。最後に、この粘着剤溶液を、基材層3a上に乾燥膜厚が20μmになるように塗布し、140℃で2分間乾燥させて、粘着剤層3bを形成する。
保護層3(RP207)は、以上のようにして作製された基材層3a及び粘着剤層3bを具備する。そして、この保護層3の粘着剤層3bを介して、保護層3と、脆性材料層1及び光学機能層2の積層体の脆性材料層1とを貼り合わせることで、複合材10を作製した。
【0083】
[加工溝形成工程(第1加工溝21の形成)]
上記のようにして作製した複合材10を枚葉化した後、光学機能層2に第1加工溝21を形成した。具体的には、第1レーザ光源20及びレーザ光L1の走査を制御する光学系や制御装置を備えたレーザ加工装置として、武井電機社製のTLSUシリーズ(発振波長9.4μmのCO2レーザ光源、パルス発振の繰り返し周波数12.5kHz、レーザ光L1のパワー250W)を用い、第1レーザ光源20から発振したレーザ光L1の出力を11.8Wにし、集光レンズを用いて光学機能層2への照射位置においてスポット径150μmに集光し、複合材10の分断予定線(格子状に設定された複数の分断予定線)DLに沿って光学機能層2に照射した。複合材10に対するレーザ光L1の相対的な移動速度(加工速度)は400mm/secとした。これにより、光学機能層2を形成する樹脂を除去し、分断予定線DLに沿った第1加工溝21を形成した。この際、光学機能層2を形成する樹脂の一部が第1加工溝21の底部に残渣(厚み:10~20μm)として残るように樹脂を除去した。
【0084】
[加工溝形成工程(第2加工溝31の形成)]
次に、保護層3に第2加工溝31を形成した。具体的には、第1加工溝21を形成する場合と同様に、第2レーザ光源30及びレーザ光L2の走査を制御する光学系や制御装置を備えたレーザ加工装置として、武井電機社製のTLSUシリーズ(発振波長9.4μmのCO
2レーザ光源、パルス発振の繰り返し周波数12.5kHz、レーザ光L2のパワー250W)を用い、
図7に示すように、第2レーザ光源30から発振したレーザ光L2の出力を10.5Wにし、集光レンズを用いて保護層3への照射位置においてスポット径120~130μmに集光し、複合材10の分断予定線(格子状に設定された複数の分断予定線)DLに沿って保護層3に照射した。複合材10に対するレーザ光L2の相対的な移動速度(加工速度)は400mm/secとした。そして、剥離法を適用することで、
図7に示すように、幅が200μmの第2加工溝31を形成した。なお、レーザ光L2を保護層3に照射する際には、
図7に示すように、照射位置において保護層3を形成する樹脂の一部が残渣として残らない(厚み:0μm)ように樹脂を除去した。
【0085】
[加工痕形成工程]
上記の加工溝形成工程の後、加工痕形成工程を実行した。具体的には、超短パルスレーザ光源40として、発振波長1064nm、レーザ光L3のパルス幅10ピコ秒、パルス発振の繰り返し周波数50kHz 、平均パワー10Wのものを用い、超短パルスレーザ光源40から発振したレーザ光L3をマルチ焦点光学系を介して、第2加工溝31側から複合材10の脆性材料層1に照射した。レーザ光L3の脆性材料層1への照射位置におけるスポット径Dは、100μmとした。複合材10に対するレーザ光L3の相対的な移動速度(加工速度)を100mm/secとし、分断予定線DLに沿ってレーザ光L3を走査したところ、加工痕11として、ピッチが2μmのミシン目状の貫通孔(直径1~2μm程度)が形成された。
【0086】
[複合材分断工程]
上記の加工痕形成工程の後、複合材分断工程を実行した。具体的には、CO2レーザ光源及びレーザ光の走査を制御する光学系や制御装置を備えたレーザ加工装置として、キーエンス社製のMLG-9300(発振波長10.6μm、レーザ光のパワー30W)を用い、レーザ光源から発振したレーザ光の出力を80%(すなわち、出力24W)にして、集光レンズを用いてスポット径0.7mmに集光し(このときのエネルギー密度は62W/m2)、複合材10の分断予定線DLに沿って保護層3側から脆性材料層1に照射した。この際、複合材10に対するレーザ光の相対的な移動速度を500mm/secとした。
最後に、複合材10に機械的な外力を加えて、加工溝形成工程後に第1加工溝21の底部に残った樹脂の残渣を分断し、複合材10を分断した。
【0087】
実施例1に係る分断方法で分断された複合材10(複合材片)の脆性材料層1の端面を目視で観察したところ、
図7に示すように、脆性材料層1が問題なく分断できており、クラックが生じていなかった。
【0088】
<実施例2>
図7に示すように、第2加工溝31を形成する際、第2レーザ光源30から発振したレーザ光L2の出力を8.0Wにし、照射位置において保護層3を形成する樹脂(粘着剤層3b)の一部が残渣(厚み:10μm)として残るように樹脂を除去した点を除き、実施例1と同じ条件で複合材10を分断した。
実施例2に係る分断方法で分断された複合材10(複合材片)の脆性材料層1の端面を目視で観察したところ、
図7に示すように、脆性材料層1が問題なく分断できており、クラックが生じていなかった。
【0089】
<比較例1>
第2加工溝31を形成する際、第2レーザ光源30から発振したレーザ光L2を複合材10の分断予定線(格子状に設定された複数の分断予定線)DL上において保護層3に1回だけ照射した(剥離法を適用しなかった)点を除き、実施例1と同じ条件で複合材10の分断を試みた。
図7に示すように、比較例1で形成された第2加工溝31の幅は30μmであり、加工痕形成工程で超短パルスレーザ光源40から発振したレーザ光L3の脆性材料層1への照射位置におけるスポット径D(100μm)よりも小さかった。
図7に示すように、比較例1に係る分断方法では、脆性材料層1を貫通する加工痕11が形成されず、複合材10を分断することができなかった。
【0090】
<実施例3>
以下の(1)~(3)に示す点を除き、実施例1と同じ条件で複合材10を作製し、その複合材10を分断した。
(1)
図8に示すように、保護層3として、ウレタン系粘着剤層を有する表面保護フィルム(日東電工社製、商品名「AW700EC」)を用意した。
この保護層3の基材層3aは、ポリエステル樹脂からなる基材「ルミラーS10」(厚み38μm、東レ社製)から形成されている。
また、この保護層3の粘着剤層3bは、以下のようにして作製されている。まず、ポリオールとして、OH基を3個有するポリオールであるプレミノールS3011(旭硝子社製、Mn=10000)、OH基を3個有するポリオールであるサンニックスGP-3000(三洋化成社製、Mn=3000)、OH基を3個有するポリオールであるサンニックスGP-1000(三洋化成社製、Mn=1000)を用いる。また、多官能イソシアネート化合物として、多官能脂環族系イソシアネート化合物であるコロネートHX(日本ポリウレタン工業社製)を用いる。また、触媒として、日本化学産業社製の商品名「ナーセム第2鉄」を用いる。また、劣化防止剤として、Irganox1010(BASF製)を用いる。また、脂肪酸エステルとして、ミリスチン酸イソプロピル(花王社製、商品名「エキセパールIPM」、Mn=270)又は、2-エチルヘキサン酸セチル(日清オイリオグループ社製、商品名「サラコス816T」、Mn=368)を用いる。そして、これらに、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムビス(フルオロメタンスルホニル)イミド(第一工業製薬社製、商品名「AS110」)と、両末端型のポリエーテル変性シリコーンオイル(信越化学工業社製、商品名「KF-6004」)と、希釈溶剤として酢酸エチルとを加えて混合攪拌を行うことで、ウレタン系粘着剤組成物を作製する。そして、作製したウレタン系粘着剤組成物を、上記の基材層3a上に、ファウンテンロールで乾燥後の厚みが10μmとなるように塗布し、乾燥温度130℃、乾燥時間30秒の条件でキュアーして乾燥させて、粘着剤層3bを形成する。
保護層3(AW700EC)は、以上のようにして作製された基材層3a及び粘着剤層3bを具備する。そして、この保護層3の粘着剤層3bを介して、保護層3と、実施例1と同じ脆性材料層1及び光学機能層2の積層体の脆性材料層1とを貼り合わせることで、複合材10を作製した。
(2)第2加工溝31を形成する際、オフセット法を適用した。
(3)
図8に示すように、第2加工溝31を形成する際、第2レーザ光源30から発振したレーザ光L2の出力を4.3Wにし、照射位置において保護層3を形成する樹脂(粘着剤層3b)の一部が残渣(厚み:7.5μm)として残るように樹脂を除去した。
実施例3に係る分断方法で分断された複合材10(複合材片)の脆性材料層1の端面を目視で観察したところ、
図8に示すように、脆性材料層1が問題なく分断できており、クラックが生じていなかった。
【0091】
<実施例4>
図8に示すように、第2加工溝31を形成する際、第2レーザ光源30から発振したレーザ光L2の出力を4.9Wにし、照射位置において保護層3を形成する樹脂(粘着剤層3b)の一部が厚み2.1μmの残渣として残るように樹脂を除去した点を除き、実施例3と同じ条件で複合材10を分断した。
実施例4に係る分断方法で分断された複合材10(複合材片)の脆性材料層1の端面を目視で観察したところ、
図8に示すように、脆性材料層1が問題なく分断できており、クラックが生じていなかった。
【0092】
<実施例5>
図8に示すように、第2加工溝31を形成する際、第2レーザ光源30から発振したレーザ光L2の出力を5.1Wにし、照射位置において保護層3を形成する樹脂の一部が残渣として残らない(厚み:0μm)ように樹脂を除去した点を除き、実施例3と同じ条件で複合材10を分断した。
実施例5に係る分断方法で分断された複合材10(複合材片)の脆性材料層1の端面を目視で観察したところ、
図8に示すように、脆性材料層1が問題なく分断できており、クラックが生じていなかった。
【0093】
<比較例2>
第2加工溝31を形成する際、第2レーザ光源30から発振したレーザ光L2を複合材10の分断予定線(格子状に設定された複数の分断予定線)DL上において保護層3に1回だけ照射した(オフセット法を適用しなかった)点を除き、実施例5と同じ条件で複合材10の分断を試みた。
図8に示すように、比較例2で形成された第2加工溝31の幅は30μmであり、加工痕形成工程で超短パルスレーザ光源40から発振したレーザ光L3の脆性材料層1への照射位置におけるスポット径D(100μm)よりも小さかった。
図8に示すように、比較例2に係る分断方法では、脆性材料層1を貫通する加工痕11が形成されず、複合材10を分断することができなかった。
【符号の説明】
【0094】
1・・・脆性材料層
2・・・光学機能層
3・・・保護層
3a・・・基材層
3b・・・粘着剤層
10・・・複合材
11・・・加工痕
20・・・第1レーザ光源
21・・・第1加工溝
30・・・第2レーザ光源
31・・・第2加工溝
40・・・超短パルスレーザ光源
D・・・スポット径
DL・・・分断予定線
L1、L2、L3・・・レーザ光
W・・・第2加工溝の幅