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特許7561838部材の付加製造用の3Dプリンタおよび印刷方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-26
(45)【発行日】2024-10-04
(54)【発明の名称】部材の付加製造用の3Dプリンタおよび印刷方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 64/357 20170101AFI20240927BHJP
   B29C 64/106 20170101ALI20240927BHJP
   B29C 64/209 20170101ALI20240927BHJP
   B29C 64/232 20170101ALI20240927BHJP
   B29C 64/236 20170101ALI20240927BHJP
   B29C 64/245 20170101ALI20240927BHJP
   B29C 64/264 20170101ALI20240927BHJP
   B29C 64/321 20170101ALI20240927BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20240927BHJP
   B33Y 30/00 20150101ALI20240927BHJP
【FI】
B29C64/357
B29C64/106
B29C64/209
B29C64/232
B29C64/236
B29C64/245
B29C64/264
B29C64/321
B33Y10/00
B33Y30/00
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2022518001
(86)(22)【出願日】2021-01-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-26
(86)【国際出願番号】 EP2021051342
(87)【国際公開番号】W WO2021151777
(87)【国際公開日】2021-08-05
【審査請求日】2022-05-18
【審判番号】
【審判請求日】2023-10-19
(31)【優先権主張番号】GM50014/2020
(32)【優先日】2020-01-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AT
(73)【特許権者】
【識別番号】300002160
【氏名又は名称】ティーディーケイ・エレクトロニクス・アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】TDK ELECTRONICS AG
【住所又は居所原語表記】Rosenheimer Strasse 141e, 81671 Muenchen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】レンツェン, トーマス
(72)【発明者】
【氏名】ノイライター, ラインハルト
(72)【発明者】
【氏名】レシェル, クリストフ
【合議体】
【審判長】神谷 健一
【審判官】清水 康司
【審判官】宮澤 浩
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0272608(US,A1)
【文献】特開2016-74178(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C64/00-64/40
B33Y10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1原料および第2原料をコンベヤベルト(3)にコーティングするための、互いに分離した第1ディスペンサ(2)および第2ディスペンサであって、前記第1原料をコーティングするための前記第1ディスペンサおよび前記第2原料をコーティングするための前記第2ディスペンサと、
その内部において、前記第1原料または前記第2原料それぞれの少なくとも一部を新しい層として、既に形成された部材(8)に接合する製造ユニットと、
前記部材(8)へ前記新しい層を接合するとき、未使用の前記第1原料および前記第2原料を選択的に回収し、回収した前記第1原料および前記第2原料を対応する前記第1ディスペンサおよび前記第2ディスペンサに返送するための、互いに分離した第1回収装置および第2回収装置であって、前記第1原料を回収する前記第1回収装置および前記第2原料を回収する前記第2回収装置と、
横方向に沿って前記第1原料および前記第2原料それぞれ、対応する前記第1ディスペンサおよび前記第2ディスペンサから前記製造ユニットへ搬送し、さらに対応する前記第1回収装置および前記第2回収装置へ搬送するコンベヤベルト(3)と、
を備える、多層部材の付加製造用の3Dプリンタ(1)。
【請求項2】
前記コンベヤベルト(3)は放射線透過性の薄膜を含み、前記薄膜は回転するローラによって移動される、請求項1に記載の3Dプリンタ(1)。
【請求項3】
前記薄膜は循環作動が可能であり、それにより前記薄膜に再コーティングすることができる、請求項2に記載の3Dプリンタ(1)。
【請求項4】
前記第1原料および前記第2原料は、それぞれスラリーを含み、前記スラリーはセラミックまたは金属または有機の粉末と、光重合有機接着剤とを含む、請求項1から3のいずれか1項に記載の3Dプリンタ(1)。
【請求項5】
前記第1ディスペンサおよび前記第2ディスペンサは、それぞれ、前記第1原料または前記第2原料を貯蔵するための容器と、前記コンベヤベルト(3)に前記第1原料または前記第2原料をコーティングするためのコーティング装置とを含む、請求項1から4のいずれか1項に記載の3Dプリンタ(1)。
【請求項6】
前記製造ユニットは、
その上で前記コンベヤベルト(3)が案内され、放射線が透過する窓を含む作業面(6)と、
前記窓の下方に配置され、前記窓および前記コンベヤベルト(3)を透過して前記コンベヤベルト上の前記第1原料および前記第2原料を露光して硬化させることができる放射源(7)と、
その下側に前記部材(8)が付着し、前記作業面(6)上で前記作業面に対して平行して配置されている構造板(9)と、
前記構造板(9)を前記作業面に対して直交して昇降させることができ、前記部材(8)と前記コンベヤベルト(3)との間の間隔を設定するように構成された位置決めシステム(10)と、
を備える、請求項1から5のいずれか1項に記載の3Dプリンタ(1)。
【請求項7】
前記製造ユニットは、対応する前記第1原料および前記第2原料それぞれ前記部材(8)から除去するための2つのクリーニング装置(11)を含む、請求項1から6のいずれか1項に記載の3Dプリンタ(1)。
【請求項8】
2つの前記クリーニング装置(11)は駆動システムによって前記部材(8)の表面に沿って横方向に移動することができる、請求項7に記載の3Dプリンタ(1)。
【請求項9】
2つの前記クリーニング装置(11)ごとに1台の返送装置が設けられており、
各返送装置(11)は、回収された前記第1原料および前記第2原料それぞれに対応する前記第1ディスペンサおよび前記第2ディスペンサに返送する輸送ユニットを含む、請求項7または8に記載の3Dプリンタ(1)。
【請求項10】
第1ディスペンサによって、コンベヤベルト(3)に第1原料を1層塗工するステップであって、塗布される前記第1原料の層厚が、少なくとも既に形成された部材(8)に添加される層の所望の層厚に相当するステップと、
前記第1原料の層を添加した前記コンベヤベルト(3)を作業面(6)に搬送するステップと、
前記第1原料の層と前記部材(8)の被コーティング面とを前記作業面(6)において接触させ、構造化により前記第1原料の一部を硬化させることで、前記部材(8)の構造化された新しい層を形成するステップと、
前記新しい層を含む前記部材(8)を前記作業面(6)から持ち上げるステップと、
前記コンベヤベルト(3)上の余剰の前記第1原料を第1回収装置へ搬送するステップと、
前記第1回収装置により、前記余剰の前記第1原料を前記コンベヤベルト(3)から取り除き、取り除いた前記第1原料を前記第1ディスペンサに返送するステップと、
第2原料第2ディスペンサおよび第2回収装置によって前記ステップを繰り返すステップを含む3次元多層部材の付加製造および未使用原料の回収方法。
【請求項11】
前記作業面(6)は放射線が透過する窓を有し、寸法の点から、前記窓のサイズは、少なくとも前記添加される層の外形サイズに相当し、
前記部材(8)を取り付け済みの構造板(9)を前記窓の上方に位置決めし、
前記部材(8)の表面と前記コンベヤベルト(3)の最上側との間の距離が、前記部材(8)に添加される構造化された新しい層の所望の層厚になるまで、前記構造板(9)を前記窓と直交して降下させ、
前記窓を透過した前記部材(8)への放射線によって、前記第1原料および前記第2原料それぞれ構造化および固化させて新しい層とし、
前記部材(8)を取り付け済みの前記構造板および前記部材に付着した新しい層を前記コンベヤベルト(3)から持ち上げる、
請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記方法は、さらに、
前記部材(8)から前記第1原料および前記第2原料それぞれ除去するための2つのクリーニング装置(11)を提供するステップと、
2つの前記クリーニング装置(11)を前記部材(8)の表面に沿って横方向に移動させることで、前記部材(8)の表面からそれぞれ過剰な前記第1原料および前記第2原料を取り除くステップと、
対応する返送装置によって、前記部材(8)の表面から取り除いた過剰な前記第1原料および前記第2原料それぞれ、前記第1原料および前記第2原料に対応する前記第1ディスペンサおよび前記第2ディスペンサに返送するステップと、
を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記コンベヤベルト(3)は、横方向に沿って前記第1原料および前記第2原料、対応する前記第1ディスペンサおよび前記第2ディスペンサから前記作業面(6)へ搬送し、さらに対応する前記第1回収装置および前記第2回収装置へ搬送する、請求項10から12のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層部材の付加製造用の3Dプリンタ、3次元多層部材の付加製造方法および3D印刷の多層部材に関する。
【背景技術】
【0002】
浴中での光重合に用いられる印刷設備(DIN EN ISO 17296を参照)は、原料を浴中に送り、または他の作業面に塗布してから、多層部材との接触によって、構造化および硬化させることを特徴とする。原料を作業面に層ごとに塗布する方法もある。原料の構造化および硬化の通常の方法は光造形法(SLA)またはデジタルライトプロセッシング(DLP)である。これらの方法において、通常プログラム可能なデジタル放射源によって原料を照射する。そのために、SLA法では、通常、偏向可能なレーザ装置が用いられるが、DLP法では、例えばプロジェクタが用いられる。照射は所定のパターンに従って行われる。そしてこのとき、感光性原料は含まれる接着剤の光重合によって硬化される。
【0003】
国際特許出願WO 2015/107066 A1には、原料がコンベヤベルトに塗布され、このコンベヤベルトによって作業面まで搬送されるDLP-3Dプリンタが開示されている。通常提供される原料のうち、新しい層の構造化に用いられるのは一部のみであるため、部材製造よりも多くの原料を使用する必要がある。この印刷方法は、使用する原料が過剰なため、効率が低く、コストが高くなる。
【0004】
国際特許出願WO 2017/009368 A1には、別の3Dプリンタが開示されている。この印刷方法では、残った原料は回収装置によって収集されてから、再び製造プロセスに用いることができる。第2原料によって印刷するために、回収装置を含めたプリンタ全体をクリーニングし、第1原料の残留物を除去する必要がある。そのため、1回の印刷プロセスで、異なる材料からなる複数層の部材の印刷を実現することができない。
【0005】
米国特許出願US 2017/0182708 A1には、横方向に移動する作業面を有する3Dプリンタが開示されている。本発明では、複数の原料ディスペンサによって異なる原料を塗布することができる。毎回材料交換の前に作業面と部材をクリーニングしなければならない。開示された装置では、余剰原料の回収について考慮していない。
【0006】
素子の数が多い場合、異なる材料からなる複数の層が含まれる。これを実現するために、通常、複雑な製造プロセスを経る必要があり、これらの製造プロセスでは、例えば各部材をそれぞれ印刷してから、それらを組み合わせる。従来技術には、異なる材料からなる多層素子を印刷する最初の技術手段が含まれるが、これらの技術手段は、過剰な原料を使用するため効率が低く、コストが高い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2015/107066号
【文献】国際公開第2017/009368号
【文献】米国特許出願公開第2017/0182708号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
これに鑑みて、本発明は、より効率的で、資源をより節約し、かつコストのより低い方法によって異なる材料からなる多層部材を製造可能な3Dプリンタおよび印刷方法を開示することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の本発明は、上記問題を一部解決している。
【0010】
本発明は、多層部材の付加製造用の3Dプリンタを開示する。
【0011】
3Dプリンタは、それぞれ異なる原料をコンベヤベルトにコーティングするための、互いに分離した少なくとも2つのディスペンサを備える。ディスペンサは、原料が貯蔵されている貯蔵装置と、コンベヤベルトに原料を1層塗布するコーティング装置とを含む。ディスペンサは、異なる技術の実施形態を含んでもよい。ディスペンサは、例えば、ノズルコーティング装置、シリンジポンプ、ベリスタポンプ、インクジェットヘッド、ローラ転写装置または転写フィルムとして実現されてもよい。例として、ノズルコーティング装置を用いる実施形態を詳しく説明する。
【0012】
前記3Dプリンタは、その内部において原料の少なくとも一部を新しい層として部材に接合する製造ユニットをさらに備える。ここで、製造プロセスは光重合付加プロセスである。部材の第1層は、該部材の第1層のために設けられた構造板に直接接合することができる。
【0013】
3Dプリンタは、部材へ層を接合するとき、未使用の異なる原料を選択的に回収するための互いに分離した少なくとも2つの回収装置をさらに備える。そして、回収された原料は対応するディスペンサに返送される。即ち、各原料はその原料のみを供給する1つのディスペンサに対応する一方、その原料のみを回収して、対応するディスペンサに返送する1つの回収装置に対応する。
【0014】
このようにして、製造期間および返送期間のいずれにおいても異なる原料が互いに混合されないように確保できる。即ち、品質を変えずに過剰な原料を回収して、再び製造プロセスに利用することができる。これによってプリンタは、効率的かつ資源を節約する方法で、1回の印刷プロセスで異なる材料を有する複数層の部材を印刷することができる。
【0015】
プリンタは、コンベヤベルトをさらに備え、該コンベヤベルトによって、原料をディスペンサから製造ユニットへ横方向に沿って搬送し、さらに回収装置へ搬送する。コンベヤベルトによって、材料供給の場所と製造・材料回収の場所を分離させる。このように、コンベヤベルトでプリンタの柔軟な構成を実現することができる。
【0016】
一実施形態において、前記ディスペンサの貯蔵装置は混合装置を含み、該混合装置によって、返送された原料と任意に添加される新しい原料とを十分に攪拌することで、印刷される各層の成分が確実に均一になるよう保証する。
【0017】
一実施形態において、前記コンベヤベルトは放射線透過性の薄膜を含み、該薄膜は回転するローラによって移動される。コンベヤベルトの放射線透過性はコンベヤベルト自体までも透過することができ、放射源による照射によって原料を硬化させることもできる。一実施形態において、薄膜は任意の高放射線透過性を有する重合体薄膜であってもよい。放射線は、ここおよび以下の説明において、可視光、赤外線(IR)および紫外線(UV)域の光、およびあらゆる他の形式の電磁放射線を含む。
【0018】
また、コンベヤベルトは循環作動が可能であるため、1循環が完全に終了した後に該コンベヤベルトに再コーティングしてもよい。例えば、薄膜を使用する場合、コンベヤベルトの循環により、新たな薄膜を持続的に輸送する必要がなくなり、これによって、該プロセスを省資源および低コストの方式で実施することができる。
【0019】
印刷プロセスに使用される原料は、セラミックまたは金属または有機の粉末と、光重合接着剤、即ち放射線により重合(光重合)可能な有機接着剤とを含み得るスラリーを含む。このような原料を放射線によって構造化および硬化させることができる。放射線は、例えば光重合性の有機接着剤を活性化して重合させることで、原料において硬化構造を形成する。
【0020】
印刷の直後、脱脂プロセスと焼結プロセスを行う。これらのプロセスを実施することによって、有機接着剤を取り除き、セラミックまたは金属素子において所望の構造を形成する。
【0021】
一実施形態において、3Dプリンタの製造ユニットは、DLP法またはSLA法に従って部材を製造するためのユニットを含む。
【0022】
この実施形態において、製造ユニットは作業面を備え、該作業面上でコンベヤベルトが案内される。作業面は放射線が透過する窓を含む。製造ユニットは、窓の下方に配置された放射源をさらに備える。このようにすれば、放射源は窓および放射線透過性のコンベヤベルトを透過して、コンベヤベルト上の原料を露光して硬化させることができる。適切なパターンで原料を照射して硬化させるように、放射源を設計またはプログラムしてもよい。放射源とは、例えばレーザ装置(SLA法)またはプロジェクタ(DLP法)である。例えば、可視光範囲、UVまたはIR域の電磁放射線であってもよい。
【0023】
また、製造ユニットは、構造板を備え、部材は該構造板の下側において製造され、そこに付着する。また、該構造板は作業面においてこの作業面に平行して配置されている。位置決めシステムは、構造板を作業面と直交して昇降させることができ、このように、部材の予め印刷された層とコンベヤベルトとの間の間隔を設定することができる。第1層は構造板に直接印刷される。この場合、部材に接合される層の厚さは設定された間隔によって予め決められている。
【0024】
構造板には複数の部材を付着させてもよく、これらの部材に平行して新しい層を接合してもよい。この技術手段において、全ての部材は作業面であって放射線が透過する窓の表面内部に設けられる必要がある。
【0025】
一実施形態において、製造ユニットは、部材から過剰な原料を除去するためのクリーニング装置を含む。クリーニング装置は駆動システムを含んでもよい。クリーニング装置は、該駆動システムによって部材の表面に沿って横方向に移動することができる。
【0026】
クリーニング装置は、例えば吸引ノズル、ブレードまたはローラであってもよい。クリーニング装置は、受動状態で部材の隣に横方向に位置決めされ、能動状態で部材の表面において横方向に移動するように配置されることが好ましい。
【0027】
材料ごとに単独のクリーニング装置が設けられ、製造ユニットに少なくとも2つのクリーニング装置が含まれてもよい。
【0028】
クリーニング装置ごとに1台の返送装置があり、各返送装置は、回収された原料をそれぞれに対応するディスペンサに返送する輸送ユニットを含む。輸送装置は例えばポンプであり、返送装置は例えばホースである。互いに分離した返送装置によって、原料が混合されないように確実に保たれるため、原料を再使用することができる。
【0029】
一実施形態において、返送装置とクリーニング装置は一体化されていてもよい。例えば、付着性の表面を有し、部材表面を走行することで部材表面に残った原料を取り除くローラを利用してもよい。そして、ローラは位置決めシステムによってディスペンサへ移動し、原料はここでローラによって取り除かれ、該ディスペンサに収容される。このような装置はローラ転写装置と呼ばれる。
【0030】
転写フィルムの付着性表面によって類似した技術手段を実施することもできる。クリーニング装置が吸引ノズルである場合、返送装置はホースとして実現されてもよい。該ホースは、例えば輸送装置としてポンプまたはファンを含む。クリーニング装置が部材表面を掻き取るブレードとして実現される場合、返送装置は、部材の下方に設けられ位置決めシステムによってディスペンサへ移動可能なトレイであってもよい。
【0031】
本発明は、以下のステップを含む3次元多層部材の付加製造および未使用原料の回収方法をさらに開示する。
【0032】
ディスペンサによって、コンベヤベルトに原料を1層塗布し、塗布された原料の層厚は、少なくとも部材に添加される層の所望の層厚に相当する。
【0033】
通常、所望のサイズを有する完全な層を製造するには、過剰な原料が必要となる。
【0034】
原料層を添加したコンベヤベルトを作業面に搬送する。
【0035】
コンベヤベルトによって原料の塗布場所と製造場所を分離させ、それによって該方法をより柔軟にすることができる。
【0036】
原料層と部材の被コーティング面とを作業面において接触させ、構造化により原料の一部を硬化させることで、該部材の構造化された新しい層を形成する。
【0037】
部材の第1層のために設けられた構造板の表面と接触するように、部材の第1層を製造する。
【0038】
新しい層を含む部材を作業面から持ち上げる。
【0039】
持ち上げることで、硬化した部材と硬化していない原料を分離する。部材に一部過剰な原料が付着している可能性がある。
【0040】
コンベヤベルト上の余剰原料を回収装置へ搬送する。
【0041】
回収装置は、例えば吸引ノズル、ブレードまたはローラとして実現されてもよく、材料をディスペンサに返送するための装置をさらに含んでもよい。
【0042】
回収装置により、コンベヤベルトから余剰原料を取り除き、原料をディスペンサに返送する。
【0043】
返送に用いられる装置は、例えばホースシステムまたはパイプシステムであってもよい。該システムは、輸送装置、例えばポンプまたはファンを含んでもよい。
【0044】
回収装置がローラである場合、このローラは転写ローラ装置として実現されてもよい。転写ローラは、その付着性表面によって原料を吸収し、そして、ディスペンサへ移動し、そこで原料を再び対応するディスペンサに解放してもよい。
【0045】
第2原料と第2ディスペンサを用いて上記方法ステップを繰り返す。第1原料および第2原料をそれぞれ対応するディスペンサに選択的に返送できる第2回収装置が設けられている。
【0046】
前記方法の別の技術手段においては、第3原料または他の原料、第3ディスペンサまたは他のディスペンサ、および第3回収装置または他の回収装置を用いて、上記方法ステップを繰り返す。第3原料を対応するディスペンサに選択的に返送する。同様に、他の原料を対応する他のディスペンサに選択的に返送する。原料は混合されないため、前記印刷方法に再利用されることができる。
【0047】
前記方法の一実施形態において、作業面は放射線が透過する窓を有する。寸法の点から、該窓のサイズは少なくとも添加される層の外形サイズに相当する。部材を取り付け済みの構造板を窓の上方に位置決めする。部材の表面とコンベヤベルトの最上側との間の距離が、部材に添加される構造化された新しい層の所望の層厚になるまで、構造板を窓と直交して降下させる。部材の第1層の印刷時、構造板の表面とコンベヤベルトとの間の間隔が第1層の所望の厚さになるように、構造板を降下させる。
【0048】
前記方法において、多層部材に向けて窓を透過した放射線により、原料を構造化および硬化させ、新しい層とする。そのために、原料は感光性を有する接着剤を含む。放射線によって接着剤の光重合を行う。
【0049】
また、前記方法において、部材を取り付け済みの構造板および部材に付着した新しい層をコンベヤベルトから持ち上げる。そのために、部材と構造板との間の付着力は、部材とコンベヤベルトとの間の付着力よりも大きくする必要がある。構造板の材料を選択すること、および薄膜に対して構造板の表面粗さを高くすることにより、構造板に対する部材の大きな付着力を確保する。粗さが高ければ、部材が構造板により付着しやすくなる。構造板の材料を選択する際に、部材の材料と類似する特性を持つ材料、または表面の粗い金属板を選択することが好ましい。
【0050】
一方法において、続いて以下のステップを実施する。
【0051】
部材から原料を除去するためのクリーニング装置を提供する。
【0052】
好ましくは、該クリーニング装置は、この場合、部材の隣に横方向に位置決めされる。
【0053】
クリーニング装置を部材の表面に沿って横方向に移動させることによって、部材の表面から過剰な原料を取り除く。
【0054】
クリーニング装置は、例えば吸引ノズル、ブレードまたはローラであってもよい。
【0055】
対応する返送装置によって、原料を該原料に対応するディスペンサに返送する。
【0056】
吸引ノズルを採用する場合、返送装置は、例えばホースシステムまたはパイプシステムであってもよい。ローラを採用する場合、該ローラは転写ローラ装置であってもよい。それぞれの材料に対して対応する返送装置を有するクリーニング装置が割り当てられれば、原料が混合されることはない。
【0057】
本発明は、複数の層を含む部材をさらに含み、前記層は、
平坦な表面においてそれぞれに区切られ、
異なる材料を含み、
化学的に直接接続されている。
【0058】
本発明は、上記特性を有する部材をさらに含み、その層はそれぞれ最大300 μmの厚さを有する。好ましくは、部材は5 μm~200 μmの層厚を有する。
【0059】
これらの層は、横方向および縦方向のいずれにおいても並列配置されてもよい。異なる層の間の境界面は部材の外面に平行であってもよい。部材の材料は、異なる金属、セラミックおよびプラスチックを含んでもよく、またはそれらのうちのいずれか1つを含んでもよい。各層の間に他の粘着剤、例えばバインダは一切存在しない。印刷方法において層厚を可変に調整することによって、部材の柔軟な構造化を実現することができる。
【0060】
一実施形態において、部材は、印刷後に第1構造体として存在し、接着剤を含む。プラスチックのみからなる部材においては、この第1構造体は即ち所望の部材構造体である。金属部材またはセラミック部材においては、焼結ステップによって接着剤を取り除き、部材の構造を変更してもよい。焼結後、部材は所望の第2構造体として存在する。
【図面の簡単な説明】
【0061】
次に、図面を参照しながら本発明の実施例を詳しく説明する。しかし、本発明は記載された、または図示された態様および例に限定されない。本発明の保護範囲は特許請求の範囲に開示された特徴のみによって決定される。
【0062】
図1】製造ステップを示す前記3Dプリンタの第1実施形態の模式図である。
図2】前記3Dプリンタに係る第1実施例の印刷方法の模式図である。
図3】薄膜が循環作動する前記3Dプリンタの第2実施例の模式図である。
図4】印刷された多層部材の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0063】
図面は模式図である。図面に示しているのは、3Dプリンタの実際の比に基づくものではない。実際のサイズおよびサイズ比は図示と異なることがある。
【0064】
図1は3Dプリンタ1の第1実施例を示す。3Dプリンタ1は、互いに分離した3つのディスペンサ2を含み、これらのディスペンサは並列に配置されている。ディスペンサ2はコンベヤベルト3に配置されており、それぞれ異なる原料をコンベヤベルトに塗布できるように構成されている。ディスペンサ2は、ここでは、ノズルコーティング装置として実現されている。
【0065】
コンベヤベルト3は、複数のローラ4によって案内される薄膜を含む。該薄膜は、重合体、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)によって形成されている。この例において、図示された4つのローラ4は、同じ速度で反時計回りに回転し、これによってコンベヤベルト3を移動させる。薄膜は、印刷の前に一番右側のローラ4aに巻回され、第1転向ローラ4bによって所望の方向へ偏向されて3Dプリンタ1を通過する前に、プロセスの中でこのローラから繰り出される。
【0066】
3Dプリンタ1を通過した後に、薄膜は、第2転向ローラ4cによって図1に示す一番左側のローラ4dの方向へ偏向され、ここで再び巻回されるようになる。プロセス終了後、右ローラ4aと左ローラ4dを交換すると、再利用のために薄膜を返送することができる。
【0067】
薄膜を支持するために、原料の塗布位置において、薄膜の下方であってディスペンサ2とは反対側に載置板5が取り付けられている。載置板5は薄膜と接続されていない。薄膜は載置板5に可動に水平載置されている。コンベヤベルトは、ディスペンサによって塗布された原料を載置板5の隣に横方向に配置された作業面6に搬送するために用いられる。薄膜は、同様に作業面6に可動に水平載置されている。
【0068】
作業面6は、放射線が透過する窓を含み、該窓は、該面の大部分を占める。窓の下方にプロジェクタ7が配置されており、プロジェクタ7は、薄膜と部材8との間に新しい層として部材8に添加される原料を所定のパターンで照射し、それによって原料を構造化および硬化させる。図面において、ビーム10bが例示的に示されている。パターンは、例えばプロジェクタ7に配置されたマスクとして定義されてもよい。代替的に、パターンは例えば予めデジタルプログラムされたものであってもよい。
【0069】
パターンは、新しい層が部材に印刷された後に、当該部材8の下側の一部の領域のみを覆うように設計されてもよい。したがって、その後の印刷プロセスにおいて、既存の層の隣に別の層を横方向に印刷してもよい。
【0070】
複数の部材8は構造板9に取り付けられている。取り付け可能な部材8の数は、部材8と構造板9の幾何形状による。この例では、構造板9に4つの部材8が取り付けられている。構造板9は、表面粗さの高い下側を含み、部材8は、該下側に好適に付着している。構造板9は作業面6に平行に、この作業面の上に配置されている。部材8を取り付け済みの構造板9は、位置決めシステム10によって、作業面6と直交して昇降することができる。そのために、位置決めシステム10は、作業面6の中央に位置決めされ、この作業面に対して垂直である。
【0071】
また、3Dプリンタ1はクリーニング装置11を含み、該クリーニング装置は、駆動システムによって部材8の下側に沿って移動することができる。したがって、上記駆動システムは、構造板9に平行して作業面6の上方において位置決めシステム10の前方または後方に十分な間隔で位置決めされる。この場合、クリーニング装置11は、未使用の原料を部材8からかき取ることができるブレードとして実現される。
【0072】
また、第1実施例において、3Dプリンタ1は、3つの回収装置12を含む。回収装置12は、移動しているコンベヤベルト3から余剰原料をかき取るブレードとして実現される。原料ごとに単独の回収装置12が設けられている。回収装置12は、コンベヤベルト3の、作業面6の隣に横方向に配置されるが載置板5とは異なる側にある箇所に取り付けられている。
【0073】
回収装置12は、それぞれ、対応するディスペンサ2に原料を返送するためのホース13をさらに含む。ホース13には、回収装置12から原料を吸い込み、ホース13を介して輸送するためのポンプが設けられている。ホース13は、回収装置12と対応するディスペンサ2とを接続する。
【0074】
図2のA、B、C、D、EおよびFは、第1実施例に応じた例示的な方法を示す。第1ステップAにおいて、第1ディスペンサ2aはコンベヤベルト3に第1原料を塗布する。コンベヤベルト3は原料を作業面6に搬送する。
【0075】
そして、位置決めシステム10は、ステップBにおいて、構造板とコンベヤベルトに塗布された原料とが接触し、且つ、構造板9とコンベヤベルト3との間の間隔が新しい層の所望の厚さになるまで、構造板9を降下させる。第1層の印刷時に、余剰原料がここで構造板9の縁に押し付けられる。
【0076】
そして、ステップCでは、構造板9の下方において、プロジェクタ7を用いて、所望のパターンまたは所望の構造に従って原料を照射する。有機接着剤の光重合により、入射した放射線が材料を硬化させ、構造板9に付着した部材8の第1層が形成される。ここで、位置決めシステム10によって構造板9を持ち上げることができ、硬化していない余剰原料の大部分がコンベヤベルト3に残る。
【0077】
ステップDにおいて、コンベヤベルト3に残った、構造板または部材に転写されなかった余剰原料は、このコンベヤベルトによりさらに搬送され、ブレードとして実現された回収装置12aによってコンベヤベルト3から取り除かれる。そして、ホース13aはホース13aに集積されたポンプの駆動により、原料を第1ディスペンサ2aに返送する。
【0078】
回収と同時に、ステップAと同様に新しい原料をコンベヤベルト3に塗布することができる。ここで利用されるディスペンサは、ステップAで同じ原料を塗布する同一のディスペンサであってもよく、別の原料を塗布する別のディスペンサであってもよい。そしてコンベヤベルトは、未使用の前の原料を作業面6から第1回収装置12aに搬送すると同時に、新しい原料をディスペンサ2のうちの1つから作業面6に搬送する。
【0079】
同時に、ステップEにおいて、部材8が付着した構造板9を持ち上げた後、クリーニング装置11に部材8の表面を走行させることによって、新たに印刷された層の下側をクリーニングする。
【0080】
同様に、対応する第1ディスペンサ2aに原料を返送する。
【0081】
第1層の印刷およびクリーニングが完了し、第1原料がコンベヤベルト3から完全に取り除かれたら、上記方法ステップを繰り返し、場合によっては、第2層および他の層を他の硬化構造として部材8に塗布することができる。第2層または他の層に他の原料を用いる必要がある場合、第1ディスペンサ2aと第1回収装置12aを持ち上げ、代替として、第2ディスペンサまたは代替的な第3ディスペンサ、および第2回収装置または対応する第3回収装置をコンベヤベルト3まで降下させ、他の原料で方法全体を繰り返す。
【0082】
この場合、部材8の少なくとも1層が既に構造板9に付着しているため、ステップBに対応するステップFにおいて、部材8とコンベヤベルト3との間の間隔が所望の新しい層の厚さになるように、部材8を降下させる。余剰原料は、ここで部材8の先の層の縁に押し付けられる。
【0083】
第1原料は、例えば有機接着剤を含有するセラミック原料である。図2のFにおいて、網掛けで示されている第2原料は、例えば同様に有機接着剤を含有する重合体スラリーである。他の層は同じまたは他の異なる原料を含有してもよい。それぞれの層は、異なる構造で、または異なるパターンとして塗布されることができ、このようにして、任意の外部空間形状および任意の内部構造を有する部材を製造することができる。
【0084】
図3は3Dプリンタ1の第2実施形態を示し、該実施形態は第1実施例とほぼ同様である。しかし、第2実施形態では、コンベヤベルト3が循環作動することによって、該プロセスを中断または干渉せずに、コンベヤベルト3に用いられる薄膜をリサイクルして再使用することが可能となる点において、第1実施形態と異なる。そのために、コンベヤベルト3は、4つのローラ4によって案内され、この例では、これらのローラは適宜な速度で反時計回りに回転する。他の実施例において、これらのローラは時計回りに回転してもよい。ローラ4の配置は第1実施例の4つのローラの配置と同様である。しかし、この場合、全てのローラが転向ローラとして用いられる点で異なる。薄膜がローラに巻回されるまたはローラから繰り出されることはない。
【0085】
好ましい実施例においては、循環作動するコンベヤベルト3に沿って、回収装置の後方にクリーニング装置が設けられ、該クリーニング装置はコンベヤベルト3から最後の原料残留物を取り除くことによって、異なる原料が混合されないように確保する。
【0086】
図4は、印刷された多層部材8を例示的かつ模式的に示す。ここで該部材は、垂直に積層された4つの平面15aから15dに位置する6つの層14aから14fを含む。下から1番目と3番目の平面(15a、15c)は、それぞれ2つの層(14a、14b、14d、14e)を含む。最上層14fは印刷プロセスで最初に製造される層である。最下層14aと14bは印刷プロセスで最後に製造される層である。
【0087】
部材8は3つの異なる材料の層を含み、これらの材料は、異なる網掛けで示されている。3つの材料のうち、1つは金属であり、余剰材料は2つの異なる重合体またはセラミックである。
【0088】
層間の境界は部材8の外側16に平行する平坦境界面に沿って延伸する。各層は、本部材8の下から2番目および4番目の層(14c、14f)のように、部材8の1つの水平面全体を含んでもよい。ただし、部材8の第1平面および第3平面(15a、15c)のように、横方向に並列配置されてもよい。
【0089】
部材8の層厚は変えることができる。図示されている部材8の最上層14fは、部材8の他の層よりも薄く、最下方の2つの層14aと14bは、部材の他の層よりも厚い。
【0090】
上述した層の間に、他の中間層や接続層、例えば粘着層は一切存在しない。
【符号の説明】
【0091】
1 3Dプリンタ
2 ディスペンサ
2a 第1ディスペンサ
3 コンベヤベルト
4 コンベヤベルト3のローラ
4a 右ローラ
4b 第1転向ローラ
4c 第2転向ローラ
4d 左ローラ
5 載置板
6 作業面
7 プロジェクタ
8 部材
9 構造板
10 位置決めシステム
10b ビーム
11 クリーニング装置
12 回収装置
12a 第1回収装置
13 ホース
13a 第1ホース
14a~14f 部材8の層
15a~15d 部材8の平面
16 部材8の外側
図1
図2
図3
図4