(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-26
(45)【発行日】2024-10-04
(54)【発明の名称】双安定形状記憶合金慣性アクチュエータ
(51)【国際特許分類】
F03G 7/06 20060101AFI20240927BHJP
【FI】
F03G7/06 C
F03G7/06 E
(21)【出願番号】P 2022546098
(86)(22)【出願日】2021-03-24
(86)【国際出願番号】 EP2021057648
(87)【国際公開番号】W WO2021197980
(87)【国際公開日】2021-10-07
【審査請求日】2024-03-06
(31)【優先権主張番号】102020000006634
(32)【優先日】2020-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】511020829
【氏名又は名称】サエス・ゲッターズ・エッセ・ピ・ア
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】マルコ・チトロ
(72)【発明者】
【氏名】ステファノ・アラックア
(72)【発明者】
【氏名】サルヴァトーレ・ココ
(72)【発明者】
【氏名】ジョルジョ・ヴェルガニ
【審査官】櫻田 正紀
(56)【参考文献】
【文献】特表2004-510288(JP,A)
【文献】特開2005-320960(JP,A)
【文献】特開2004-100537(JP,A)
【文献】特表2016-501338(JP,A)
【文献】特開平07-119619(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F03G 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子回路で生成された電流パルスによって作動可能な1または複数のSMAワイヤ(12;32,32’,32”;62)に接続されたアクチュエータ本体(11;31;61)を含む双安定SMA慣性アクチュエータ(10;30;60)であって、
前記1または複数のSMAワイヤ(12;32,32’,32”;62)は、第1の安定位置と第2の安定位置との間及びその逆を移動する慣性要素(13;33;63)と動作可能に接触されており、
前記アクチュエータは、g/mm(0.0098N/mm)で表される弾性定数Kで係止力を受けており、
前記慣性要素(13;33;63)は、0.025mm~0.5mmの直径を有する前記1または複数のSMAワイヤ(12;32,32’,32”;62)の同時作動の下で、前記第1の安定位置と前記第2の安定位置との間及びその逆を移動可能であり、
前記アクチュエータは、前記弾性定数の逆数に、グラムで表される前記慣性要素(13;33;63)の質量Mと、前記慣性要素(13;33;63)と動作可能に接触している前記1または複数のSMAワイヤ(12;32,32’,32”;62)のmm
2で表される総断面積Aとの間の比を乗じたものとして定義され、P=(1/K)*(M/A)である特性パラメータPを有しており、
該特性パラメータPが、23.31
mm
-1~653mm
-1の間であり、
前記電子回路は、0.1ミリ秒~50ミリ秒の間の作動期間の電流パルスを生成するように構成されていることを特徴とする双安定SMA慣性アクチュエータ。
【請求項2】
前記特性パラメータPが、25mm
-1~500mm
-1の間である、請求項1に記載の双安定SMA慣性アクチュエータ。
【請求項3】
前記電子回路は、1ミリ秒~25ミリ秒の間の作動期間の電流パルスを生成するように構成されている、請求項1または2に記載の双安定SMA慣性アクチュエータ。
【請求項4】
前記電流パルスを生成する前記電子回路の少なくとも1つの要素は前記アクチュエータ本体(11;31;61)に取り付けられている、請求項1~3のいずれか一項に記載の双安定SMA慣性アクチュエータ。
【請求項5】
前記電子回路の前記少なくとも1つの要素はコンデンサである、請求項4に記載の双安定SMA慣性アクチュエータ。
【請求項6】
並列または直列に接続された複数のSMAワイヤ(12;32,32’,32”;62)を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の双安定SMA慣性アクチュエータ。
【請求項7】
弾性定数Kを有する前記係止力が、前記アクチュエータ本体(11;61)に接続された弾性要素(14;64)によって提供されるか、または前記アクチュエータ本体(31)自身によって提供される、請求項1~6のいずれか一項に記載の双安定SMA慣性アクチュエータ。
【請求項8】
前記アクチュエータ本体(11;31)が、完全な円の2/3から5/6である円形セグメントのジオメトリを有する主要部分を有している、請求項1~7のいずれか一項に記載の双安定SMA慣性アクチュエータ。
【請求項9】
円形セグメントのジオメトリを有する前記アクチュエータ本体(11;31)上に複数のヒンジ(15,16,16’;36,36’)が配されている、請求項8に記載の双安定SMA慣性アクチュエータ。
【請求項10】
装置の作動を制御するための、請求項1~9のいずれか一項に記載の双安定SMA慣性アクチュエータの使用。
【請求項11】
前記装置が、エアバッグ(40)、ダンパー(50)、フローダイバータバルブ(600)、電気回路スイッチ、パドロックまたはロックである、請求項10に記載の双安定SMA慣性アクチュエータの使用。
【請求項12】
前記1または複数のSMAワイヤ(12;32,32’,32”;62)を作動させるための前記電流パルスの作動期間が、0.1ミリ秒~50ミリ秒である、請求項1~9のいずれか一項に記載の双安定SMA慣性アクチュエータの作動方法。
【請求項13】
前記1または複数のSMAワイヤ(12;32,32’,32”;62)を作動させるための前記電流パルスの作動期間が、1ミリ秒~25ミリ秒である、請求項12に記載の双安定SMA慣性アクチュエータの作動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、双安定電流制御慣性アクチュエータ(bistable current-controlled inertial actuator)、その動作方法、及びデバイスでのその使用、特に、被駆動要素が形状記憶合金(shape memory alloy、以下「SMA」)で作られた1または複数のワイヤによって動かされるアクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
形状記憶現象は、この現象を示す合金で作製された機械要素(mechanical piece)が、温度変化時に、製造時に事前設定された2つの形状間を、非常に短い時間且つ中間的な平衡位置(intermediate equilibrium positions)無しで転移(transitioning)できるという事実にあることが知られている。現象が発生し得る最初のモードは「一方向(one-way)」と呼ばれ、当該機械要素は温度変化時に一方向に形状を変化させる、すなわち形状Aから形状Bに変態するのに対し、形状Bから形状Aへの反対方向への転移には、機械的な力を加える必要がある。
【0003】
これとは異なり、いわゆる「双方向(two-way)」モードでは、両方の転移は温度変化によって生じさせることが可能であり、本発明ではこれを適用することを意図している。これは、マルテンサイト系(martensitic)と呼ばれる低温で安定な状態(type)からオーステナイト系(austenitic)と呼ばれる高温で安定な状態に、またはその逆に転移する要素の微結晶構造の変態(transformation)により発生する(M/A転移及びA/M転移)。
【0004】
SMAワイヤは、形状記憶要素の機能を発揮できるように調製される(trained)必要がある。SMAワイヤの調製プロセスでは、通常、良好な再現性で、ワイヤが加熱されるとマルテンサイト/オーステナイト(M/A)相転移を生じさせ、ワイヤが冷却されるとオーステナイト/マルテンサイト(A/M)相転移を生じさせることができる。M/A転移では、3%~5%のワイヤの短縮が起きるが、ワイヤが冷却されると、A/M転移によってこの短縮から回復し、ワイヤは元の長さに戻る。
【0005】
加熱すると収縮し、冷却すると再伸長するSMAワイヤのこの特性は、非常にシンプルでコンパクト、信頼性が高く、安価なアクチュエータを得るために長い間利用されている。特に、この種のアクチュエータは、一部の双安定電気スイッチで、駆動要素を第1の安定位置から第2の安定位置に、またはその逆に移動させるのに使用されている。「駆動要素」という用語は、その動きが2つの安定した操作位置の間でのスイッチの切り替わりを決定する要素である限り、特定の製造ニーズに応じて無数の形状をとることができるため、ここでは非常に一般的な意味を持つことを意図している。
【0006】
SMAワイヤの別の用途は特許文献1に記載されており、同文献では、双安定動作を達成することなく、SMA及び付勢ばねからなるアクチュエータによってプランジャが第1のリミットから第2のリミットに移動される流体送達デバイスを開示している。
双安定SMAワイヤアクチュエータのいくつかの例は、本願の出願人による特許文献2~特許文献5に記載されており、これらは全て2本のSMAワイヤを使用した解決策に言及している。
【0007】
これら全ての解決策に共通する主な欠点の1つは、SMAワイヤの作動が温度に基づいているため、周囲の環境の変化に関連する意図しない作動を防ぐことができないことにある。この問題は、SMAベースのアクチュエータの温度が動作中に上昇するデバイス内にある場合に、非常に深刻になる可能性がある。
【0008】
双安定SMAアクチュエータの別の例は、特許文献6に記載されており、双安定動作は、拮抗的な構成(antagonistic configuration)でSMAワイヤを使用することによって実現されている。
【0009】
異なる原理を利用するSMAベースの解決策は、慣性質量がアクチュエータ本体から分離され、衝撃作動(impulse activation)によってより長い距離にわたって駆動される慣性アクチュエータを開示する特許文献7に記載されている。同文献に記載の発明においては、例えば、後に説明するフローダイバータ(flow diverters)のような特定の用途では、リターンメカニズムを適切に設計するための高度なカスタマイズと、システムを開始位置に戻す必要がある場合の不可避の遅延、及び2つの安定した構成間の「対称性」の欠如を伴うこととなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】国際公開第2004/032994号
【文献】米国特許第4544988号明細書
【文献】米国特許第5977858号明細書
【文献】米国特許第6943653号明細書
【文献】欧州特許第2735013号明細書
【文献】米国特許第4965545号明細書
【文献】米国特許第8656713号明細書
【文献】特開2003-278051号公報
【文献】米国特許第9068561号明細書
【文献】米国特許第6835083号明細書
【非特許文献】
【0011】
【文献】“The Mechanical Response of Shape Memory Alloys Under a Rapid Heating Pulse” by Vollach et al published in 2010 on Experimental Mechanics
【文献】“High-speed and high-efficiency shape memory alloy actuation” by Motzki et al. published in 2018 on Smart Materials and Structures
【文献】”A Study of the Properties of a High Temperature Binary Nitinol Alloy Above and Below its Martensite to Austenite Transformation Temperature” by Dennis W. Norwich presented at the SMST 2010 conference
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、迅速なスイッチング及び偶発的な作動を防止することができる解決策で従来技術の欠点を克服することであり、その第1の態様は、短い電流パルスによって作動可能な1または複数のSMAワイヤに接続された本体を含む双安定SMA慣性アクチュエータ(inertial actuator)である。前記1または複数のSMAワイヤは、0.025mm~0.5mmの直径を有すると共に、前記1または複数のSMAワイヤの同時作動の下で、第1の安定位置と第2の安定位置との間及びその逆を移動する質量Mを有する慣性要素(inertial element)と動作可能に接触されている。前記慣性アクチュエータは、g/mmで表される弾性定数Kを有する弾性的な係止力(elastic locking force)を受ける。これは、最も好ましい実施形態では、本体に取り付けられたばねによって提供される。
【課題を解決するための手段】
【0013】
アクチュエータは、前記弾性定数の逆数、すなわち、mm/gで表される1/Kに、グラムで表される慣性要素の質量Mと、質量Mの慣性要素と動作可能に接触しているSMAワイヤのmm2で表される総断面積Aとの間の比を乗じたものとして定義される特性パラメータPを有しており、すなわちP=(1/K)*(M/A)である。本発明者らは、驚くべきことに、システムが、上記で定義された特性パラメータPが特定の範囲内、すなわち、15mm-1~750mm-1、好ましくは25mm-1~500mm-1の間に含まれる限り、双安定挙動を確立することができるという点で、ワイヤの直径、弾性定数K、及び慣性要素質量Mに関して本質的に不変であることを発見した。
【0014】
電流パルスの発生源については本発明の対象ではなく、(本体に取り付けられている)双安定慣性アクチュエータの一部または単に外部にあって良いことは当該技術分野で広く知られており、適切な配線(cabling)によって1または複数のSMAワイヤに接続されている。例えば、形状記憶要素に短い作動パルスを提供する最も簡単な方法の1つは、前述の特許文献7に記載されているように、コンデンサ放電を介することである。このようなコンデンサは、アクチュエータ本体に簡単に一体化して取り付けることも、アクチュエータ本体の外部に取り付けることもできる。
【0015】
本発明において、複数のSMAワイヤが質量Mの慣性要素と動作可能に接触している場合、SMAワイヤは同一または非常に類似した直径(±10%)を有しており、そうでなければ、システムはSMAワイヤの電流制御と調整に関して複雑になってしまう。更に作業の多くは最大直径のワイヤによって実行され、追加の作業は、操作上の貢献が限られ、対処するのが面倒な追加の複雑さをもたらす。
【0016】
全てのSMAワイヤが同時に本体の質量変位(mass displacement)に寄与するため、現在の構成はSMAワイヤの引っ張りを最大化し、さまざまな利点(より高い質量変位能力、小型化、簡素化された制御電子機器)を実現できることを明確化(underline)することが重要である。SMAワイヤが拮抗的な構成になっているため、前述の特許文献6に示されている構造ではこれら全てを実現することはできない。
【0017】
実際のSMAワイヤでは、円形断面から逸脱する可能性があり、従って、直径という用語は、最小の囲み円の直径として意図されることを明確化しておくことも重要である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】慣性要素がそれぞれその2つの安定した位置にある、本発明によるアクチュエータの第1の実施形態の上方からの概略図である。
【
図2】慣性要素がそれぞれその2つの安定した位置にある、本発明によるアクチュエータの第1の実施形態の上方からの概略図である。
【
図3A】
図1~
図2のアクチュエータの変形例の上方からの概略図である。
【
図4】本発明による双安定SMA慣性アクチュエータを組み込んだエアバッグの概略断面図である。
【
図5】本発明による双安定SMA慣性アクチュエータを組み込んだダンパーの概略シースルー図である。
【
図6】第2の実施形態による双安定SMA慣性アクチュエータを組み込んだフローダイバータバルブの概略断面図である。
【
図7】第2の実施形態による双安定SMA慣性アクチュエータを組み込んだフローダイバータバルブの概略断面図である。
【
図8】第1の実施形態による双安定SMA慣性アクチュエータを組み込んだパドロックの概略斜視図である。
【
図9】第1の実施形態による双安定SMA慣性アクチュエータを組み込んだパドロックの概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、以下の図を参照しつつ更に説明される。
【0020】
図では、理解を容易にするために、場合によっては示されているさまざまな要素のサイズと寸法比が変更されており、特に、限定はしないが双安定アクチュエータの他の要素に対するSMAワイヤの直径が該当する。また、電流供給源、ワイヤ圧着/固定要素等、本発明の理解に必要の無いいくつかの補助要素は、当該技術分野で知られている通常の手段であるため示されていない。
【0021】
図1及び
図2は、2つの安定した位置にある本発明の第1の実施形態による双安定SMA慣性アクチュエータ10の上方からの概略図を示している。円形セグメント形状を有する主要箇所の大部分(main/major portion)を有するアクチュエータ本体11上で、SMAワイヤ12は、本体11の終端部分に近い点111、111’に固定されている。本体11の円形セグメント部分には3つのヒンジ15、16、16’があり、そのうちの最初のヒンジ15はアクチュエータ本体11の下部中央部分に位置し、本体円形セグメント部分の直径の一時的な拡大を可能且つ容易にする。他の2つのヒンジ16、16’は、本体の円形セグメント部分の終端部分に対応して対称的に配置されている。等しい長さの2つのアーム17、17’は、ヒンジ16、16’を質量Mの慣性要素13と枢動可能に(pivotably)接続している。係止弾性要素(locking elastic element)として作用する弾性定数Kを有するばね14は、本体の円形セグメント部分(割線(secant))の反対側を接続している。
図1及び
図2の第1の実施形態では、ばね14は直径に等しい長さを有するが、アクチュエータ本体の円形部分の上部または下部に配置された場合、ばね14の長さは短くなる場合がある。
【0022】
SMAワイヤ12を急速に作動させて短縮すると、本体の円形要素部分が拡大し、
図1に示す内部位置から
図2に示す外部位置に移動する質量Mに加速度が伝達される。次に、質量Mの慣性要素13は、2つのヒンジ16、16’を互いに向かって引っ張るばね14の作用によって、その外部位置に安定してしっかりと保持される。ワイヤ12が再び急速に作動させると、アクチュエータ本体11の同じ変形メカニズムによって慣性要素13が加速され、
図1に示される内部位置に戻る。
【0023】
この種のアクチュエータ構成では、円形セグメントのジオメトリの長さを有する主要部分は、好ましくは、完全な円の約2/3から5/6である。
【0024】
円の直径は、好ましくは、1mm~2mmから20cmまたはそれ以上で構成され、円の直径の変形は、本発明による双安定慣性アクチュエータの使用から利益を得ることができる異なる用途、小さい物としての用途にはモバイルカメラオートフォーカスアクチュエータ、大きい物としての用途にはピストン等の油圧機器可動部品の摩擦調整、を考慮に入れて適宜行われる。
【0025】
本発明は、
図1及び
図2に示されるような要素及び構成に厳密に限定されないことを強調されるべきであり、例えば、第1の変形例(図示せず)としては、中央のばね14を、アクチュエータ本体11の輪郭に沿ったフレクシャ(flexure)のような平らな弾性要素と置き換えることができる。
【0026】
別な類似の変形例が
図3A及び
図3Bに示され、それぞれ上方からの概略図及び双安定SMA慣性アクチュエータ30の概略斜視図を示しており、変形に対するその抵抗、すなわち直径の拡大によるフレクシャではなく、アクチュエータ本体31自体によって、慣性質量33に弾性的な付勢力/係止力を提供している。更に、この解決策は、本体31の下部に配置されたヒンジ(すなわち、
図1及び
図2の要素15)を必要とせず、等しい長さのアーム37、37’を通る慣性要素33の移動のために単にヒンジ36、36’を必要とする。
【0027】
この変形例には、並列に接続された3つのSMAワイヤ32、32’、32’’も含まれる。
【0028】
上記の実施形態は、本発明の進歩性のある概念に含まれる多くの変形例及び可能な要素の組み合わせが存在することを示している。例えば、別の直接の変形例では、SMAワイヤを直列に使用しており、すなわち
図1及び
図2では、2本のSMAワイヤをそれぞれヒンジ15とポイント111、111’との間に接続するか、例えば、特許文献8に記載されているような生地(cloth)等の適切な保持要素に埋め込まれた(embedded)所与のパターンで複数のワイヤを使用しても構わない。
【0029】
更に、好ましくは、ヒンジ16、16’を2つのアーム17、17’に沿って慣性要素13を介して接続する経路、及びヒンジ36、36’を2つのアーム37、37’に沿って慣性要素33を介して接続する経路の長さは、前記ヒンジを接続する直線の長さの1.1倍~3倍の間である。
【0030】
既に述べたように、本発明に従って作製されたアクチュエータは、環境温度変動等の外部要因に関連する意図しない作動を防止することができる。この側面は、偶発的な作動がデバイスの動作に有害であるだけでなく、安全上の問題を引き起こす可能性がある幅広い用途で最も重要であり、エアバッグは、この問題に適切に対処する必要がある用途の1つと言える。
【0031】
これに関して、
図4は、
図1及び
図2に示される実施形態による、双安定SMA慣性アクチュエータ10を組み込んだエアバッグの加圧部分40を示している。そのようなアクチュエータ10は、破壊可能なシール44が設けられ、密封且つ加圧された気体容器43と(図示しない)膨張されるエアバッグとを連通させるチャネル42を有するフレーム41に取り付けられている。双安定SMA慣性アクチュエータ10は、負荷がかけられたばね(loaded spring)45とパンチ46との間に挿入され、負荷がかけられたばねが解放され、SMAワイヤ12の(高速)作動時にパンチ46に作用してシール44を破壊する。既に述べたように、この用途は、意図しない作動を防止するので、本発明による双安定SMA慣性アクチュエータの使用から大いに利益を得る。
【0032】
異なるタイプの装置における本発明による双安定SMA慣性アクチュエータ10の用途が
図5に示されている。この場合、ダンパー50は、固定フレーム51を有し、固定端52及び可動端53が、適切な開口を通ってフレーム51内を摺動するシャフト54に取り付けられている。摩擦、及び垂直移動/振動(vertical movement/oscillation)において摺動するシャフト54が遭遇する減衰挙動は、双安定SMA慣性アクチュエータ10によって調節され、アクチュエータ10は、2つの安定した位置のうちの1つで可動シャフトに一層高い圧縮を付与し、加えられる摩擦力を増大させ、これにより剛性を向上させる。
【0033】
図6及び
図7は、慣性質量63に動作可能に接続されたSMAワイヤ62を含む双安定SMA慣性アクチュエータ60によって入口601と選択的に連通される入口601並びに2つの出口602及び602’を有する流れ迂回弁(flow diverting valve)600を示しており、2つの出口のそれぞれに対して交互にシャッターとして作用している。第1のアーム66は慣性質量63をピボット65に連結し、アクチュエータ本体61内を摺動し、その周りにはSMAワイヤ62が巻かれている。第2のアーム67は、慣性質量63を固定ピボット68に連結しており、前記アーム66、67は枢動接合要素(pivoting joining element)69を介して慣性質量63に取り付けられている。第2のアーム67はまた、固定ピボット68の周りでアーム67の回転を可能にするために、要素69が摺動することができるスロット67aを備え、弾性的な係止力は、SMAワイヤ62の作用に反対する方向に、摺動しているピボット65に作用している付勢ばね64によって提供される。SMAワイヤ62が高速で作動すると、慣性質量63が垂直に摺動し、従って、出口602及び出口602’の一方を開き、他方の出口のシャッターとして機能する。これは、作動が調整された流れの温度には依存しないため、慣性質量移動を始動させるために高速作動を可能とでき、大いに恩恵を受ける別の用途である。
【0034】
バルブ内の流体的な連通について
図6及び
図7に詳述されているのと同じ原理を、他の分野、例えば低電圧/高電圧スイッチ用の電子回路、またはキーを挿入するために、キーロック開口部への物理的アクセスを可能にする機械式ロックにも適用することができ、これによりセキュリティレベルを向上させることができる。
【0035】
本発明の双安定アクチュエータが有利に適用される別の用途は、パドロック(padlocks)等のスマートロックである。SMA慣性双安定パドロック(SMA inertial bistable padlock)は、高速作動の利点を活用して1または複数の双安定メカニズムを動かし、パドロックの鋼製シャックル(steel shackle)をロック/ロック解除することにより、標準のSMAパドロックの限界を克服できる装置である。
【0036】
実際、SMA慣性メカニズムは、パドロックのケースに直接接触する火炎または別の外部熱源によって与えられる加熱速度は、双安定メカニズムの状態を切り替えるのに十分な速さではないため、熱自己作動の影響を受けることはない。更に、機械的衝撃による開口が起きることを回避するために、異なる作業方向(例えば、x、y、またはz)及び/または適用方向(南北、南北)でメカニズムを二重化(duplicate)または三重化(triplicate)することが可能である。SMA慣性パドロックは電気的に作動するため、電気入力を例えば指紋、顔認識、キーによって直接的に、または例えばWi-Fi、ブルートゥース(登録商標)、RFID、GSMによって間接的に制御することができる。
【0037】
パドロックにおける第1の実施形態による双安定SMAアクチュエータの使用例は、
図7及び
図8の斜視図に示されている。パドロック700は、
図7に示すように、摺動式シャックル702を保持する中実本体(solid body)701と、シャックルのくぼみ702’に係合する係止ピン10’を備えた双安定慣性SMAアクチュエータ10を備えている。
図8は、シャックル702がパドロック本体701から自由に滑り出ること(slide out)ができるように、係止ピン10’が窪み702’から外れた状態で第2の安定位置にある双安定慣性SMAアクチュエータ10を示している。
【0038】
図8及び
図9のパドロック700は、パドロック本体701から完全に取り出すことができる摺動式シャックル702を有するが、直接の変形例(図示せず)では、異なる長さの脚部を備えた摺動式シャックルを想定しており、シャックルの部分的な摺動によって短い方の脚部が自由に動けるようになり、パドロックを開くと同時に、長い方の脚部の上で適切なストッパーによってシャックルを保持する。
【0039】
当業者であれば、SMAワイヤの迅速な作動を達成する方法を理解していることは強調されるべきであり、例えば非特許文献1または非特許文献2を参照されたい。
【0040】
作動時間(actuation time)とは、SMAワイヤをオーステナイト相にある温度、いわゆるAf温度にするのに必要な時間を意図したものである。このような効果を達成するために、直径が100μm未満のワイヤ等の細いワイヤの場合でも、一部の電子回路はコンデンサ等のSMAワイヤ電流供給に関連付けられている場合があり、電池でもそのような短い作動時間を達成することができる。
【0041】
作動時間を駆動及び決定する実際のパラメータは、パルスの作動期間(actuation pulse duration)、すなわち、SMAワイヤに電流が供給される時間である。そのようなパルスの作動期間は、結果として、上で定義されたような作動時間よりもはるかに短い。
【0042】
その第2の態様では、本発明は、双安定SMA慣性アクチュエータを動作させる方法、より具体的には、作動パルスが短い、すなわち、SMAワイヤに印加される電流の期間が0.1ミリ秒~50ミリ秒、好ましくは1ミリ秒~25ミリ秒である方法に関する。
【0043】
本発明は、特定のSMA材料に限定されないが、その処理によれば代替的に超弾性ワイヤ挙動(superelastic wire behavior)またはSMA挙動を示し得るニチノール等のNi-Tiベースの合金が好ましい。ニチノールの特性及びそれらを達成することを可能にする方法は、当業者に広く知られており、例えば非特許文献3を参照されたい。
【0044】
ニチノールをそのまま使用することも、Hf、Nb、Pt、Cu等の元素を添加することで転移温度(transition temperature)の特性を調整することもできる。材料合金の適切な選択及びその特性は、当業者に一般に知られており、例えば、以下を参照されたい:
http://memry.com/nitinol-iq/nitinol-fundamentals/transformation-temperatures
【0045】
また、SMAワイヤは、「それ自体」またはコーティング/シースと共に使用して、それらの熱管理(thermal management)、すなわち、作動後のそれらの冷却を改善することができる。コーティングシースは、熱伝導体である電気絶縁コーティングを用いることによって残留熱を管理する方法を教示する特許文献9に記載されているように均一であり得るが、特許文献10は、SMAワイヤが、全ての作動サイクル後に冷却を改善することができる囲繞シース(enclosing sheath)を備えていることを開示している。また、出願人による国際公開第2019/003198号に記載されているような、相変化材料の適切な分散を伴うコーティングを有利に使用することができる。
【0046】
一連の実験は、
図1に示すように、単一のSMAワイヤ12を備え、直径155.03mmのプラスチック本体11と長さ45mmのアーム17、17’で作製された、本発明による双安定アクチュエータの試作品で行われた。
【0047】
異なる直径のSMAワイヤは、As=95°Cの同じ標準ニチノール材料で、異なる慣性質量を有すると共に、さまざまな弾性定数を持つ付勢ばねがテストされた。結果を下表に示すが、本発明に従って作成された実施例には接頭辞Sを使用し、本発明の範囲外の比較例には接頭辞Cが付されている。
【0048】
【0049】
上記のさまざまな例から観察できるように、特性パラメータPの適切な値との組み合わせのみが満足のいく双安定動作を達成できたが、特定の範囲を上回るかまたは下回る値では不満足な動作となった。
【0050】
上記の表に報告されている全ての結果は、13ミリ秒のパルス作動期間で行われた。
【0051】
異なるパルス作動期間でのSMAワイヤの影響の評価は、本発明によるサンプルのサブセット、すなわちサンプルS1、S4、S7について実施された。より具体的には、システムの挙動は、慣性質量が跳ね返りを伴う極めて速い作動(パルス作動期間<0.1ms)で評価されたが、極めて遅い作動(パルス作動期間>50ms)では、慣性質量は第2の安定位置に到達することができなかった。