IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アシスタンス ピュブリク−オピトー ドゥ パリの特許一覧 ▶ ソルボンヌ・ユニヴェルシテの特許一覧 ▶ アンセルムの特許一覧

特許7561893自己免疫関連障害または炎症性障害の治療のための低用量IL-2の使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-26
(45)【発行日】2024-10-04
(54)【発明の名称】自己免疫関連障害または炎症性障害の治療のための低用量IL-2の使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/20 20060101AFI20240927BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20240927BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20240927BHJP
   A61P 9/14 20060101ALI20240927BHJP
   A61P 11/06 20060101ALI20240927BHJP
   A61P 17/06 20060101ALI20240927BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20240927BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20240927BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20240927BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20240927BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20240927BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
A61K38/20
A61P3/10
A61P9/10
A61P9/14
A61P11/06
A61P17/06
A61P21/00
A61P25/28
A61P27/02
A61P29/00
A61P29/00 101
A61P37/06
A61P37/08
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2023002251
(22)【出願日】2023-01-11
(62)【分割の表示】P 2020177184の分割
【原出願日】2012-03-09
(65)【公開番号】P2023029565
(43)【公開日】2023-03-03
【審査請求日】2023-02-10
(31)【優先権主張番号】11305269.0
(32)【優先日】2011-03-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】61/451,663
(32)【優先日】2011-03-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】591140123
【氏名又は名称】アシスタンス ピュブリク-オピトー ドゥ パリ
【氏名又は名称原語表記】ASSISTANCE PUBLIQUE - HOPITAUX DE PARIS
(73)【特許権者】
【識別番号】518059934
【氏名又は名称】ソルボンヌ・ユニヴェルシテ
【氏名又は名称原語表記】SORBONNE UNIVERSITE
(73)【特許権者】
【識別番号】591049848
【氏名又は名称】アンセルム
【氏名又は名称原語表記】INSERM
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100126778
【弁理士】
【氏名又は名称】品川 永敏
(74)【代理人】
【識別番号】100162684
【弁理士】
【氏名又は名称】呉 英燦
(72)【発明者】
【氏名】ダヴィッド・クラッツマン
(72)【発明者】
【氏名】ダヴィッド・サアドゥーン
(72)【発明者】
【氏名】パトリス・カクー
(72)【発明者】
【氏名】ミシェル・ローザンズワージ
(72)【発明者】
【氏名】エリアネ・ピアッジョ
(72)【発明者】
【氏名】ジルベール・バンシモン
(72)【発明者】
【氏名】クロード・ベルナール
【審査官】愛清 哲
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/085495(WO,A1)
【文献】特表2008-528621(JP,A)
【文献】国際公開第2002/078624(WO,A2)
【文献】特表2006-510629(JP,A)
【文献】JOURNAL OF EXPERIMENTAL MEDICINE,2010年08月,V207 N9,P1871-1878
【文献】日本循環器学会,血管炎症候群の診療ガイドライン2017年改訂版,2018年06月29日,pp.1,6-8
【文献】Frontiers in Immunology,2015年,Vol.6,Article No.184
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00-38/58
A61P 9/00- 9/14
A61P 29/00-29/02
A61P 37/00-37/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インターロイキン-2が1MIU/日~3.5MIU/日の用量で投与されるように用いられることを特徴とする、インターロイキン-2を含有する、ヒトにおける自己免疫性全身性血管炎の治療用組成物。
【請求項2】
インターロイキン-2が3MIU/日未満の用量で投与される、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
インターロイキン-2が2MIU/日未満の用量で投与される、請求項1記載の組成物。
【請求項4】
繰り返し投与のための、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
インターロイキン-2を少なくとも3日連続して一日に一回投与する第一治療単位を少なくとも1回含む治療において用いるための、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
インターロイキン-2を3~7日間一日に一回投与する第一治療単位を少なくとも1回含む治療において用いるための、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
第一治療単位の後、続いて1~4週間後に維持用量を投与することを含む治療において用いるための、請求項5または6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
治療が治癒的治療である、請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
治療が予防的治療である、請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
治療が自己免疫性全身性血管炎の発症または進行を予防している、請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
注射用、経口用、経鼻用または局所投与用である、請求項1~10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
皮下投与用である、請求項1~10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
さらに医薬的に許容される担体または賦形剤を含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
インターロイキン-2が1~1.5MIU/日の用量で投与される、請求項1~13のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項15】
インターロイキン-2がアルデスロイキンである、請求項1~14のいずれか一項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はヒト疾患の新規なIL-2療法に関する。さらに具体的には、本発明はヒト対象における炎症を含む、自己免疫疾患、免疫関連性疾患または炎症性疾患の低用量でのIL-2療法に関する。
【背景技術】
【0002】
インターロイキン-2(IL-2)はおよそ30年前に同定されており[1]、最初は、それがインビトロにてTリンパ球刺激能を有するためT細胞成長因子と称された。それは分子量が約13kda~17kdaと報告されており[2]、等電点が約6~8.7の蛋白である。
【0003】
IL-2は癌および感染症におけるエフェクターの免疫応答を強化するために診療にて使用されてきた[3、4]。現在では、癌の治療にてヒトへの使用が認可されている。
【0004】
その公認されている適応症の一で、腎細胞癌(RCC)の補助治療にて、10%に満たない患者が治療に応答する。IL-2のこの限定された効能は、現在では、IL-2がまた、抗腫瘍エフェクター応答を抑制することが知られている、制御性T細胞(Treg)の末梢での生存および抑制機能にて主たる役割を果たすとの最近の知見によってある程度は説明される[5、6]。
【0005】
実際、IL-2/IL-2受容体(IL-2R)のシグナル伝達は、エフェクターT細胞(Teff)とTregの両方での免疫応答において重要である。広範囲に及ぶIL-2Rのシグナル伝達は、一方で、機能的活動の強化を示す最終的に分化した短寿命のTeff細胞を成長させるために、および適切なT細胞記憶を発揮するために不可欠である[7]。他方、IL-2/IL-2Rのシグナル伝達は、IL-2ノックアウトマウスがTregを欠くことから分かるように、Tregの成長および恒常性のために不可欠である。注目に値するのは、IL-2またはIL-2R欠損マウスが、重度のT-細胞介在性自己免疫疾患(AID)の発症により特に裏付けられるように、エフェクター免疫応答を亢進させうることである。
【0006】
IL-2のシグナル伝達が異常であるこれらの異なる結果は、今では、IL-2/IL-2Rのシグナル伝達における定量的かつ定性的な違いがTregおよびTeffを制御することにより説明される。TregはIL-2/IL-2Rのシグナル伝達の閾値が低いことを必要とし、その成長および末梢での恒常性を支持するようである[6]。IL-2の投与がマウスおよびヒトにてTregの著しい増殖および活性化をもたらすことが明らかにされた[3、4、8]。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
今日、IL-2は癌免疫療法における独占的使用に寄与しており、ヒト自己免疫疾患では、より一般的には、望ましくない免疫応答により惹起されるヒト疾患では研究されていない。これはかかる治療に付随する危険性が認識かつ予想されるからである。実際、IL-2の有するTeff刺激能は、該疾患を媒介する強力なエフェクターT細胞を活性化し、したがって該疾患を一層悪化させる危険性がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明の目的はヒト対象において望ましくない免疫応答を軽減または予防する方法であって、制御性Tリンパ球(Treg)を刺激するのに効果的で、実質的にエフェクターTリンパ球(Teff)を誘発しない量のインターロイキン-2(IL-2)を該対象に投与することを特徴とする方法に関する。
【0009】
発明のさらなる目的はヒト対象において望ましくない免疫応答を軽減または予防する方法であって、制御性Tリンパ球(Treg)を刺激するのに効果的で、実質的にIL-2関連の副作用を誘発しない量のインターロイキン-2(IL-2)を該対象に投与することを特徴とする方法に関する。
【0010】
発明のさらなる目的はヒト対象において望ましくない免疫応答を軽減または予防する方法であって、制御性Tリンパ球(Treg)を刺激するのに効果的で、実質的にエフェクターTリンパ球(Teff)およびIL-2関連の副作用を誘発しない量のインターロイキン-2(IL-2)を該対象に投与することを特徴とする方法に関する。
【0011】
発明のさらなる目的はヒト対象において望ましくない免疫応答を軽減または予防する方法であって、制御性Tリンパ球(Treg)とエフェクターTリンパ球(Teff)の間のバランス(または割合)(Treg/Teffバランス)を、該対象にてTregの方にシフトさせるのに効果的な量のインターロイキン-2(IL-2)を該対象に投与することを特徴とする方法に関する。
【0012】
発明のさらなる目的はヒト対象において望ましくない免疫応答を軽減または予防する方法であって、該対象における制御性Tリンパ球(Treg)とエフェクターTリンパ球(Teff)の間のバランス(または割合)を増加させるのに効果的な量のインターロイキン-2(IL-2)を該対象に投与することを特徴とする方法に関する。
【0013】
本発明は新規なIL-2に基づいた療法を提案する。該発明はIL-2が特異的なTregの増殖/活性化によって作用する新規な一連の免疫制御性および抗炎症性薬として使用され得ることを初めて示すものである。
【0014】
発明のさらなる目的はヒト対象における自己免疫性、免疫関連性または炎症性障害を治療する方法であって、制御性Tリンパ球(Treg)とエフェクターTリンパ球(Teff)の間のバランス(Treg/Teffバランス)を、該対象にてTregの方にシフトさせるのに効果的な量のインターロイキン-2(IL-2)を該対象に投与することを特徴とする方法に関する。
【0015】
発明のさらなる目的はヒト対象における自己免疫性、免疫関連性または炎症性障害を治療する方法であって、実質的にエフェクターTリンパ球(Teff)を誘発することなく、制御性Tリンパ球(Treg)を刺激し、および/または炎症を鎮めるのに効果的な量のインターロイキン-2(IL-2)を該対象に投与することを特徴とする方法に関する。
【0016】
発明はかかる障害の治癒的または予防的治療に使用されてもよい。さらに詳細には、本発明の方法は対象における自己免疫性、免疫関連性または炎症性障害の発症または進行を防止する。
【0017】
IL-2は、典型的には、繰り返して投与される。
【0018】
請求項1に記載の自己免疫性、免疫関連性または炎症性障害の治療における使用のためのインターロイキン-2は、約0.05~約2百万国際単位(MIU)/m/日、好ましくは約0.1または0.2~約1MIU/m/日の用量で、あるいは約3.5MIU/日未満の用量で投与される。
【0019】
好ましい態様において、IL-2は、約3MIU/日の用量で、あるいは約2MIU/日未満の用量で、好ましくは約0.1MIU~約2MIU/日の、好ましくは約0.3MIU~約1MIU/日の用量で投与される。
【0020】
治療は、好ましくは、インターロイキン-2が、少なくとも3日連続して、好ましくは3~7日、さらに好ましくは4~5日連続して、一日に一回投与される、第一治療単位を含んでもよい。好ましくは、続いて2~4週間後に維持量で投与される。維持量は週に一回あるいは月に一回または二回投与され得る。
【0021】
好ましい態様において、治療は、約0.2MIU/mの用量のインターロイキン-2が、少なくとも3日連続して、好ましくは3~7日、さらに好ましくは4~5日連続して一日に一回投与され、続いて1~3週間後に約0.2MIU/mの維持量で投与され、その維持投与が1~3週間毎に繰り返され得る、第一治療単位を少なくとも1回含む。
好ましい態様において、対象は、0.2MIU/mの日用量として、約0.3MIUで投与される成人である。
【0022】
もう一つ別の好ましい実施態様において、治療は、約0.6MIU/mの用量のインターロイキン-2が、少なくとも3日連続して、好ましくは3~7日、さらに好ましくは4~5日連続して一日に一回投与され、続いて2~4週間後に約0.6MIU/mの維持量で投与され、その維持量が2~4週間毎に繰り返され得る、第一治療単位を少なくとも1回含む。好ましい態様にて、対象は、0.6MIU/mの日用量として、約1MIUで投与される成人である。
【0023】
さらにもう一つ別の好ましい実施態様において、
治療は、約1.8MIU/mの用量のインターロイキン-2が、少なくとも3日連続して、好ましくは3~7日、さらに好ましくは4~5日連続して一日に一回投与され、続いて約1~2ヶ月後に約1.8MIU/mの維持量で投与され、その維持量が1~2ヶ月毎に繰り返され得る、第一治療単位を少なくとも1回含む。好ましい態様にて、対象は、1.8MIU/mの日用量として、約3MIUで投与される成人である。
【0024】
概して、IL-2は、D/10~20xDの、好ましくはD/5~10xDの用量で投与され、ここでDは、Tregの増殖を誘発することなく、TregでのCD25の発現のアップレギュレーションを開始させる最小量である。CD25の発現のアップレギュレーションは少なくとも33%、好ましくは少なくとも50%であることが好ましい。
【0025】
本発明は、ヒト対象にて、エフェクターTリンパ球(Teff)を実質的に誘発することなく、制御性Tリンパ球(Treg)を刺激する。本発明の方法は、対象におけるTreg/Teffのバランスを増加させることを、あるいは抑制性T細胞集団の強度を増加させることを可能とする。
【0026】
IL-2はヒト対象における炎症を軽減または予防するためにさらに投与される。
【0027】
本発明は望ましくない免疫応答に関与するか、該応答により惹起される症状を治療または予防するために使用されてもよい。本発明は、限定されないが、HCV関連性血管炎、ブドウ膜炎、筋炎、I型糖尿病、全身性エリトマトーゼス、全身性血管炎、乾癬、アレルギー、喘息、クローン病、多発性硬化症、関節リウマチ、アテローム性動脈硬化症、自己免疫甲状腺疾患、神経変性疾患、アルツハイマー病、対宿主移植片疾患、自然流産および同種移植片拒絶反応を含む、炎症性、免疫関連性または自己免疫性疾患の治療に特に適している。
【0028】
本発明のもう一つ別の対象は、Tregの量および/またはTregでのCD25の発現レベルをモニター観察することを特徴とする、IL-2の治療計画または投与量が、IL-2を用いて治療される自己免疫性、免疫関連性または炎症性障害の患者にて修飾されるべきかどうかを決定する方法であって、対照値と比べて下回るTregの量および/またはTregにおけるCD25の発現レベルはIL-2の投与量を増やすべきことを意味する、方法である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1A-C】低用量のIL-2のHCV関連性自己免疫血管炎の生物学的マーカーに対する効果を示す。 HCVウイルス量(パネルA)、クリオグロブリン(パネルB)および補体C4の血清中レベル(パネルC)の経時的変化を示す。データは平均値±標準誤差で表される(n=10、*:p<0.05、**p<0.01、***p<0.001)。
【0030】
図2A-D】低用量のIL-2のリンパ球部分母集団に対する効果を示す。 CD4CD25hiCD127FoxP3のCD4T細胞中の、およびCD8CD25Foxp3のCD8T細胞中の百分率(パネルA)、Treg/Teffの全体割合(パネルB)、CD19全体的B細胞および辺縁帯B細胞の絶対数(パネルC)ならびにNK細胞およびCD56brightNK細胞の絶対数(パネルD)の経時的変化を示す。データは平均値±標準誤差で表される(n=10、*:p<0.05、**p<0.01、***p<0.001)。
【0031】
図3-1-2】フローサイトメトリーによるCD4Tregの表現型の特徴を示す。 CD3CD4T細胞の部分的集団を同定するための代表的なリンパ球のゲートを示す。CD3CD4T細胞内で、TregはCD25highCD127FoxP3細胞として同定された。
【0032】
図4】IL-2治療下にあるHCV関連の自己免疫血液炎の患者におけるTreg細胞の抑制活性を示す。 FACS精製したTregを、同種異系刺激の下、種々の割合(1/1~1/8)で自己エフェクターT細胞を抑制するその能力についてアッセイした。結果をcpmで表す。図示される実験結果は4つの代表値である。
【0033】
図5】フローサイトメトリーによるCD8Tregの表現型の特徴を示す。 CD3CD8Tregを同定するための代表的なリンパ球のゲートを示す。CD3CD8T細胞内で、TregはCD25FoxP3細胞として同定された。
【0034】
図6】フローサイトメトリーによるCD19B細胞の部分的集団の特徴を示す。 B細胞部分的集団をナイーブ(IgDCD27)、記憶(IgDCD27)、辺縁帯(IgDCD27)として定義した。
【0035】
図7】低用量のIL-2は炎症の減少を広範囲に誘発し、そのことはPBMCのトランスクリプトーム解析により明らかにされる。 IL-2処理の前後の階層的クラスタ分析(パネルA)は、主にB細胞関連性遺伝子および前炎症性遺伝子に影響を及ぼす遺伝子のダウンレギュレーションを反転表示する。データマイニングは前炎症性応答の低下にて中心的役割を果たすNFKB経路を同定した(パネルB)。IL-2治療された患者にてダウンレギュレートされた遺伝子をレッドボックスで特徴付ける。転写シグナチャーに存在する遺伝子(パネルA)をフィルド丸型ボックスで概略的に示す。2個の遺伝子産物の間の(例えば、リン酸化、切断等による)転写後活性化は、シャープ矢印で表され、フィルド矢印は直接転写活性化を表す。ドット矢印は間接的シグナル伝達を示す。
【0036】
表(パネルC)はこれらのデータのICAの結果を示す。炎症、免疫応答、および自己免疫(I型糖尿病、全身性エリテマトーデス、自己免疫甲状腺疾患)、移植(対宿主移植片疾患および同種移植拒絶反応)または炎症性感染関連性病理(シャーガス病、リシューマニア症、ヘリコバクター・ピロリ・感染、マラリア、アメーバ症、細菌性赤痢、高度の炎症により特徴付けられる全ての疾患)に関連付けられるGO語彙およびKEGG経路について有意に富むIL-2処理群にてアップレギュレートまたはダウンレギュレートされているシグナチャーの数を示す。対照として、同数の無作為にピックアップしたGO語彙を、細胞周期関連のGO語彙および対照となる病理と一緒に試験した。GO語彙またはKEGG経路の各々で、Khi2試験のp値は、アップ-(2527)またはダウン-(3429)レギュレートされた全体のシグナチャーと比べて、アップ-またはダウン-レギュレートされたシグナチャーについてバイアスに富む可能性のあることを示す。
【0037】
図8】低用量のIL-2がI型糖尿病患者にてTregを誘発することを示す。 図8は0.33、1または3MIU/日のIL-2(プロロイキン(登録商標))を5日間投与した患者におけるTreg/TCD4の割合を示す。ピークTreg増加は異なる用量で相対的に似ているが、その作用時間は用量依存的であり、維持療法の治療計画を定めるための情報を提供する(すなわち、用量が低いほど、維持注射間の遅れは短くなる)。
【0038】
図9】低用量のIL-2はC-ペプチド産生を減少させなかったことを示す。 図9AはIL-2(プロロイキン(登録商標))を5日間投与した患者におけるTreg/TCD4の割合を示す。図9Bは、同じ患者で、IL-2を投与した前後での血清中C-ペプチドの濃度を示す。処理する間はTregの増加があり、それはCペプチドの産生の増加と2ヶ月で相関関係にある。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本発明は、予期せぬことに、ヒト自己免疫患者にて、低用量のIL-2免疫療法を介して、Teffを増殖することも、有害事象を生じさせることもなく、極めて有効な抑制性Tregのインビボでの増殖を初めて示すものである。
【0040】
IL-2は癌免疫療法に独占的に使用され、ヒトにおけるヒト自己免疫疾患にて単独では研究されていない。実際、IL-2のTeffを刺激する能力は、自己免疫を媒介する極めて強力なエフェクターT細胞を活性化する危険がある。ここで、本発明者らは、免疫活性化関連の有害事象が観察されないことを示す臨床的証拠と一致する、IL-2がTeffを誘発することなくTregを誘発する条件下で使用され得るとの生物学的証拠を示す。本発明によれば、IL-2療法の間に炎症の程度が大きく減少することでも支持されるように、IL-2がTreg/TeffのバランスをTregが大きくなるように傾けることは明らかである。
【0041】
HCV関連の患者での第一実験にて、本発明者らは、低用量のIL-2が良好な耐容性を示し、Treg細胞の劇的かつ選択的な増加を誘発し、患者の80%にて臨床的改善に至ることを明らかにした。
【0042】
1.5MIU/日での5日の治療単位で、Tregの有意な増加(2倍増)が、副作用なしで、すべての患者にて観察された。付加的な3MIU/日の5日の治療単位の後で、Tregのさらなる増加が指摘された。
【0043】
本発明者らの結果は、該治療が顆粒球、赤血球または肝酵素にて有意な変化がなく、良好な耐容性を示したことを明らかにした。さらには、1.5MIU/日の用量で、無力症、注射部位での一過性局所反応、インフルエンザ様症候群、筋肉痛または高血圧症などの副作用は指摘されなかった。
【0044】
重要なことは、治療全体および経過観察の間に、病原T細胞の活性化を示す生物学的または臨床的徴候が認められなかった。
【0045】
5日間の1.5MIU/日の治療単位が、今までのところ、ヒトにてTregの誘発を目的として証明された効能および安全性を有する最も低いIL-2用量である。
【0046】
加えて、本発明は、初めて、IL-2の著しい抗炎症活性を明らかにした。本発明者らによって管理されていないトランスクリプトーム解析は、多くの自己免疫性および炎症性疾患、ならびに対宿主移植片疾患および同種移植片拒絶反応などの免疫関連性疾患に付随するシグナチャー/経路の明らかなダウンレギュレーションを示した。ヒトにてTeffを刺激することなく、Tregを刺激するのにIL-2を用いることが可能であることを示すこの実験で、本発明者らは低用量のIL-2治療がこれらすべての疾患のための予防的および治療的パラダイムを大いに変化させるであろうことを提案する。
【0047】
本発明者らはさらに、もう一つ別の自己免疫疾患、すなわちI型糖尿病にて低用量のIL-2で試験することを進め、それにより自己免疫性、免疫関連性または炎症性障害の治療における低用量のIL-2の利益を確認した。
【0048】
したがって、本発明は、IL-2を用いる、自己免疫性、免疫関連性または炎症性障害の新規な治療方法を提供する。本発明は、IL-2が、低用量で、自己免疫性、免疫関連性または炎症性障害の対象にて制御性Treg細胞の母集団を効果的に活性化または増殖させうることを開示する。
【0049】
該対象は、年齢または性別を問わず、いずれかのヒト患者である。個々の実施態様において、患者は子供または青年であってもよい。
【0050】
インターロイキン-2(IL-2)
本発明の脈路の中で、「IL-2」なる語は、例えばヒト、マウス、ラット、霊長類およびブタなどの哺乳動物の供給源を含め、いずれの供給源のIL-2も示し、それは天然物であってもよく、あるいは微生物宿主により産生される組換えIL-2ポリペプチドを含む、組換え技法または合成方法により得られるものであってもよい。IL-2は天然ポリペプチド配列であっても、含んでいてもよく、あるいは天然IL-2ポリペプチドの活性変異体とすることができる。好ましくは、IL-2ポリペプチドまたは活性変異体は、ヒト供給源より由来し、組換えヒトIL-2、特に微生物宿主により産生される組換えヒトIL-2を包含する。
【0051】
IL-2の活性変異体は文献に開示されている。天然IL-2の変異体はそのフラグメント、アナログおよび誘導体であり得る。「フラグメント」とは、無傷のポリペプチド配列の一部のみを含むポリペプチドを意図とする。「アナログ」は一または複数のアミノ酸が置換、添加または欠失されている、天然ポリペプチド配列を含むポリペプチドを示す。変異蛋白および疑似ペプチドはアナログの具体例である。「誘導体」は、グリコシル化、リン酸化、もう一つ別のポリペプチドまたは分子に融合した、高分子化等などの修飾された天然IL-2ポリペプチドまたはそのフラグメントもしくはアナログを、あるいは化学的または酵素的修飾または付加を介してIL-2の特性(例えば、安定性、特異性等)を改善するように修飾された天然IL-2ポリペプチドまたはそのフラグメントもしくはアナログを包含する。標準となるIL-2ポリペプチドの活性変異体は、一般に、標準となるIL-2ポリペプチドのアミノ酸配列に対して、少なくとも75%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%のアミノ酸配列の同一性を有する。
【0052】
IL-2ポリペプチド変異体が活性であるかどうかを決定する方法は当該分野で利用可能であり、本明細書にて具体的に記載されている。活性変異体は、最も好ましくは、Tregを活性化する変異体である。
【0053】
IL-2変異体の例が、例えば、EP109748、EP136489、US4,752,585;EP200280またはEP118,617にて開示されている。
【0054】
好ましくは、本発明者らは、組換えIL-2、すなわち、組換えDNA技法[9]により調製されるIL-2を用いる。IL-2をコードする組換えDNAを発現するのに使用される宿主有機体は原核生物(イー・コリなどの微生物)または真核生物(例えば、酵母、真菌、植物または哺乳動物細胞)であってもよい。IL-2を産生する方法は、例えば、出典明示により本明細書の一部とされる、US4,656,132;US4,748,234;US4,530,787;またはUS4,748,234に記載されている。
【0055】
好ましい実施態様において、本発明はヒト起源のIL-2、またはその活性変異体を、より好ましくは組換え技法により産生された変異体を使用する。ヒトIL-2のヌクレオチドおよびアミノ酸配列は、例えば、各々、ジンバンク・レフ番号3558またはP60568にて開示される。本発明は好ましくはヒトIL-2を用いる。
【0056】
本発明で用いるIL-2は、本質的に、純粋な形態、例えば、純度が95%以上、さらに好ましくは96、97、98または99%純粋な形態であろう。
【0057】
本発明で用いるには、IL-2は、典型的には、Teff抑制剤と組み合わせ、または共投与されない。しかし、好ましくは、または必要ではないが、薬物の併用は考慮されてもよい。
【0058】
IL-2は単量体または多量体の形態にて使用されてもよい。
【0059】
IL-2は医薬的使用を含め市販品として入手可能であり、ヒト患者で用いることが認可されている。適当な市販形態は、例えば、
-プロロイキン(登録商標)、組換えヒトIL-2組成物、
アルデスロイキン、イー・コリにて産生される、非グリコシル化デス-アラニル-1、セリン-125ヒトインターロイキン-2;
-ロンコロイキン(登録商標)、酵母で産生される組換えヒトIL-2
を包含する。
【0060】
インターロイキン-2は単独で、またはいずれか他の治療的に活性な薬剤と組み合わせて使用されてもよい。好ましい実施態様において、I型糖尿病の予防または治療に使用される場合、IL-2はラパマイシンと併用して投与されない。
【0061】
制御性T細胞
制御性T細胞は免疫抑制活性を有するTリンパ球である。天然TregはCD4+CD25+Foxp3+として特徴付けられる。Tregにて遺伝的欠損を示すヒトおよびマウスは複数のT-細胞介在性器官特異的自己免疫疾患を発症する。Tregの定性的または定量的な欠陥が、全身性エリトマトーゼス(SLE)、1型糖尿病、多発性硬化症、ブドウ膜炎および筋炎を含む、多くの自己免疫疾患にて説明されている。反対に、Tregの増加/復元はこれら疾患の大部分の動物実験にて臨床的改善を誘発する。
【0062】
Tregはまた炎症性疾患の調節にて主たる役割を果たすが、かかる疾患におけるその作用機序は十分には認識されていない。事実、大部分の炎症性疾患にて、Tregの枯渇は疾患を悪化させるのに対して、Tregの増加は該疾患を軽減させる。このことは、例えば、アテローム性動脈硬化症との関連で明らかにされている。この疾患はそもそも炎症性疾患ではないが、その発症は炎症性成分/ループに関与する。自然発生的にアテローム性動脈硬化症を発症するアポリポ蛋白E(ApoE)欠損マウスにて、Tregの枯渇はプラーク形成を有意に悪化させるが、ポリクローナルTregの注入は該疾患を有意に改善した。
【0063】
大部分のTregはCD4+細胞であるが、抑制活性を有するCD8+Foxp3+Tリンパ球の希少集団も存在する。
【0064】
エフェクターT細胞
本明細書の脈路の中で、「エフェクターT細胞」(または「Teff」)は、一または複数のT細胞受容体(TCR)を発現し、エフェクター機能(例えば、細胞毒性活性、サイトカイン分泌、抗自己認識等)を発揮する、Treg以外の通常のTリンパ球(時に、文献にてTconvとも称される)を示す。本発明のヒトTeffの主たる集団は、CD4+Tヘルパーリンパ球(例えば、Th0、Th1、Th17)およびCD4+またはCD8+細胞傷害性Tリンパ球を包含し、それらは自己または非自己抗原に対して特異的であり得る。
【0065】
自己免疫疾患の個々の状況において、Teff細胞は該疾患の原因であるか、または該疾患に関与するT細胞集団を包含する。例えば、T細胞のかかる集団は、甲状腺抗原、関節抗原、β-ランゲルハンス島抗原等などの自己抗原を認識するTリンパ球を包含する。GVHD疾患にて、Teff細胞は移植片からのTリンパ球を包含する。
【0066】
Tregの選択的増殖
本明細書の脈路の中で、Tregの刺激(あるいは誘発または活性化または増殖)は、抑制アッセイにより、あるいは患者におけるCD25、IL-2受容体のアルファ鎖などのTregの活性を反映する分子の発現により試験されるような、数または活性にて、Treg細胞のTeffに対する割合の増加を示す。その割合の増加は、好ましくは、治療前のレベルと比べて少なくとも20%の、より好ましくは少なくとも40%の、さらにより好ましくは少なくとも60%の増加である。特に好ましい実施態様において、刺激はTreg/TeffのバランスのTregの方へのシフトまたはTreg/Teffの割合の増加を示す。
【0067】
本発明の本質的態様は、実際は、自己免疫性、免疫関連性または炎症性障害のヒト患者にて、実質的にTeffを誘発することなく、Tregを刺激するその能力にある。
【0068】
Tregの誘発(あるいは活性化または増殖)は、実施例に開示されるように、例えば、治療される対象から由来のサンプル中の(例えば、CD25、FoxP3・・・の発現に基づく)Tregの数および/またはTregの活性を測定することにより査定され得る。Teffの実質的な誘発(あるいは活性化または増殖)のないことはまた、実施例に開示されるように、例えば、治療される対象から由来のサンプル中のTeffの数および/またはTeffの活性を測定することにより査定され得る。好ましくは、実質的な誘発のないことは、全トランスクリプトーム解析によって評価されるように、標的とするTeff細胞集団がCD25、CD69および/またはHLA-DRなどの活性化のマーカーを獲得しないことを示す。TregおよびTeff細胞を検出、測定および定量する詳細な方法は当該分野で自体周知であり、そのいくつかが実施例に開示されている。
【0069】
Tregの刺激は、患者におけるTregの数を、典型的には少なくとも10%増やすことにより、あるいはCD25発現の強度などのマーカーの活性化を亢進することにより測定されてもよい。Teff誘発のないことは、典型的には、Teff細胞集団が治療の結果として該対象にて10%を越えて増加しないことを示す。
【0070】
Tregが刺激され、かつTeffが実質的に誘発されないことは、好ましくは、治療された対象におけるTreg/Teffの割合またはバランスを測定することにより評価される。このバランスは、例えば、対象から由来のサンプル中のTregの数またはTeffの数に基づいて計算される。実施例に示されるように、かかるバランスは、典型的には、治療患者にて少なくとも20%、より好ましくは少なくとも30%、40%または60%増加する。
【0071】
ヒト対象におけるTregの基線%、すなわち、Treg/CD4+Teffの割合は約4.6±0.6%である(自己免疫疾患の患者の基線%は実施例1に示されるように極めて低くてもよく、HCV誘発の自己免疫血管炎の患者では、たった3.6%±0.23の基線%レベルしかないが、これらの数値は、測定の技術態様に基づいて、個々の研究室で相互に変化してもよい)。
【0072】
本願にて示される結果は、1.5MIU/日の治療を1治療単位行った後、Tregの基線%にて2倍(100%)の増加が得られ、それは付加的な治療でさらに増幅されてもよい。プロトコルに応じて、300%を越える増加が得られた。どのような用量が使用されても(0.33;1および3MIU/日)、5日治療単位を一回行った後、T1Dの患者で同様に2倍増が観察された。
【0073】
好ましい実施態様において、該方法は、患者にて20%、30%、40%、50%、75%、100%またはそれ以上のTreg/Teffの割合を可能とする。
【0074】
さらには、本発明はCD4 Tregの増加だけでなく、CD8+であるTregの希少集団の増加も示す。
【0075】
特定の実施態様において、本発明は循環性CD4CD25hiCD127Foxp3Tregを増加させる。
【0076】
もう一つ別の特定の実施態様において、本発明は循環性CD8CD25hiFoxp3Tregを増加させる。
【0077】
もう一つ別の重要な態様は、増殖したTreg細胞集団が極めて抑制的であることである。実際、提示される結果は、本発明の治療を行うと、TregはTeff細胞に対して強力な抑制活性があるように活性化されることを示す。本発明者らの実験では、実質的な抑制活性(>75%)が、非処理の正常な個体から由来のTregが1/2~1/4の割合で抑制を付与する、典型的な抑制アッセイにて1/8のTreg/Teffの割合で検出され得た。
【0078】
したがって、本発明は、自己免疫疾患のヒト患者にて、エフェクターTリンパ球の実質的な改変または活性化なしで、Tregの実質的な増加を可能とする。好ましい実施態様において、本発明の方法は、対象にてCD25+Foxp3+Tregを少なくとも30%増加させ、該対象にて標的Teffの5%未満の増加を引き起こす方法である。
【0079】
また、本発明は、予期せぬことに、好ましい投与量で、本発明のIL-2に基づいた療法が本質的に動脈性高血圧症;頭痛、吐き気、関節痛、筋肉痛またはインフルエンザ様症候群を、あるいはIL-2 Summary of Product Characteristics of the FDAに記載されるようなIL-2の既知の他の多数の副作用を誘発しないことを明らかにする。従って、免疫関連性障害のヒト対象にて、IL-2療法を用いて、Teff細胞を実質的に活性化することなく、IL-2が関連する副作用を実質的に誘発することなく、その一方でTregおよび抗炎症性作用を極めて実質的に誘発することが可能である。
【0080】
IL-2の投与量
本発明で用いるのに、IL-2は、Teffを実質的に活性化することなく、Tregを効果的に活性化する投与量で投与される。結果として、対象にてTreg/Teffのバランスが劇的に増加する。
【0081】
効果的な投与量は、本願に含まれる情報に基づき、当業者が調節できる。特に、本発明が分かった上で、自己免疫性疾患の患者にて、IL-2はTregを活性化し、本質的にTeffを活性化しない条件下で投与されてもよく、当業者は患者および症状の各々に対して投与量を調節しうる。
【0082】
典型的には、IL-2は約0.05~約2MIU/m/日、好ましくは0.2~約1MIU/m/日の用量で投与される。
【0083】
かくして、IL-2の投与量は、好ましくは、対象の体表面積に依存する。体表面積(BSA)は人体の測定または計算された表面積である。
【0084】
直接測定することなく、BSAに到達する種々の計算法が公表されている:
デュボイス&デュボイスの式[18]:
【数1】
は一般に成人に使用される
【0085】
もう一つ別の一般に使用される式が、Pharmacy and Therapeutics Committee of the Cross Cancer Institute, Edmonton, Alberta, Canadaでの使用に適用される、モステラーの式[19]:
【数2】
である。
【0086】
より詳細には、子供に使用される。
【0087】
平均BSAは、成人の場合、一般に1.73mで取り扱われる。
【0088】
【表1】

【0089】
典型的には、本発明に従う投与量は3.5百万IU以下/日/患者、より好ましくは3.0百万IU以下/日/患者、さらにより好ましくは2.5百万IU以下/日/患者、さらに好ましくは2.0百万IU以下/日/患者である。
【0090】
治療は、典型的には、繰り返され、すなわち上記した低用量のIL-2を対象に数回投与し、斬新的に最も実用的な利益を得る。投与量および計画は、治療目的が予防であるかまたは治療であるか、ならびに治療/予防を予定する疾患で変化する。治療の効果はTregを測定することでモニター観察され、したがって用量および投与計画は調節され得る。
【0091】
投与量は、例えば、0.1~3MIU、好ましくは0.1~1.5MIU、より好ましくは0.25~1MIUである。好ましい投与量は:
【表2】

【0092】
これらの投与量は対象および疾患の進行に応じて組み合わされてもよい。
【0093】
治療は、数日に及ぶ治療単位で、例えば1-7日、好ましくは3~5日間毎日投与するものとして提供されてもよい。かかる治療単位は、治療を行わない期間を挟んで、異なる期間で引き継がれてもよい。予防の場合には、IL-2は上記した投与量を種々の間隔にて一回の投与で、例えば長期間にわたって一週間に一度の投与でなされてもよい。患者および疾患に応じて異なるプロトコルが調節されてもよい。
【0094】
維持用量は最初の周期が完了した2ないし8週後に投与され得る。好ましくは、維持用量は最初の用量と同量である。
【0095】
投与量の決定:
概して、IL-2はD/10~20xD、好ましくはD/5~10xDの用量で投与されてもよく、ここでDはTregの増殖を誘発することなく、TregにおけるCD25の発現の誘発を開始する最終容量である。
【0096】
皮下経路と異なる投与経路が考えられる場合に、適切な低用量のIL-2を決定する方法が特に有用である。
【0097】
特に、かかる投与量は経口、経鼻または直腸デリバリーにて有用である。
【0098】
CD25レベルの決定はフローサイロメトリーにて抗CD25抗体を用いて達成され得る。
【0099】
この点で、リンパ球含有サンプルは適当な固定剤(例えば、パラホルムアルデヒドであり、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中1%で使用されてもよい)で固定され、(例えば、リンパ球含有サンプルを収集および培養する場所からフローサイトメトリーの実験室まで移動の後で)都合のよいように、(例えば、フローサイトメトリーの使用による)その後の細胞表面マーカーの定量または定性的測定に供されてもよい。Alexa488(Molecular Probes, Oregon, USA)およびFITC(Sigma)などの種々の蛍光色素で標識された市販の抗CD25モノクローナル抗体(mAb)が利用可能である。
【0100】
用量および投与計画の例が以下に示される。
【0101】
1型糖尿病の治療
1型糖尿病(T1D)は膵臓におけるインスリン産生細胞の自己免疫破壊に起因する。多くの患者で、IL-2/IL-2受容体活性化経路の異常が見受けられる。さらには、IL-2はT1Dのマウス実験(NODマウス)にて1型糖尿病の発生を予防し、糖尿病の発症直後にIL-2を投与すると糖尿病は反転されうる。
【0102】
しかしながら、低用量のIL-2を用いて癌を治療する患者で、新たにT1Dが発症することが記載されている。したがって、ヒトT1D患者をIL-2を用いて治療することは容易ではなく、そのようにIL-2単独で治療することは未だ誰も行ったことがない。実施例2は低用量のIL-2(0.33、1または3MIU/日)を5日間投与したT1D患者における二重盲検試験の結果を初めて示すものである。
【0103】
かくして、この度、本発明者らは、低用量のIL-2を用いてT1Dを、特に発症したばかりのT1Dを1)予防および2)治療する方法を開示する。
【0104】
インターロイキン-2はI型糖尿病を発症する危険のある対象にて特に推奨される。その場合、IL-2を用いる治療は該対象での糖尿病の発症の予防である。予防の場合、T1Dの危険のある患者(家族でT1Dの病歴のある患者、または高頻度のT1Dと関連付けられる遺伝的多型のIL-2/IL-2受容体の活性化経路のある患者、および/またはインスリン、GAD、インスリノーマと関連した蛋白2(IA2)およびチロシンホスファターゼまたは亜鉛トランスポーター8(ZnT8)などの抗原に対する自己抗体(またはT1Dに付随する抗体)が検出される患者)は低用量のIL-2で治療され、それによりT1Dを発症するであろうエフェクターT細胞の活性化を予防する。
【0105】
この場合、治療では、3MIU/日以下の、あるいは好ましい実施態様において1または0.5MIU/日より少ない用量を使用し、2週間に一度、好ましくは3週間に一度、または好ましくは1ヶ月に一度の割合で治療剤が投与される。Tregの割合および機能に基づいて治療(用量および計画)は調整され得る。
【0106】
もう一つ別の特定の実施態様において、治療の候補は、好ましくは、IL-2の生産力低下およびインスリン残産生を示すものである。
【0107】
実際、該治療的療法にて、本発明の好ましい使用は、膵臓にまだ多くのインスリン産生細胞が残っていることが分かっているT1Dと正に診断された患者に関するものである。特定の実施態様において、この場合にはインターロイキン2を3百万単位/日の用量で3~7日間投与することができ、付加的なIL-2治療単位が上記したように少なくとも一ヶ月に1回付与され得る。Tregの割合および機能に基づいて治療(用量および計画)は調整され得る。
【0108】
好ましい実施態様において、治療は約0.2MIU/mの用量のインターロイキン-2を少なくとも3日連続して、好ましくは3~7日間、さらに好ましくは4~5日連続して一日に一回投与する、第一治療単位を少なくとも1回含み、続いて1~3週間後に約0.2MIU/mの維持用量を投与し、その維持用量の投与が1~3週間毎に繰り返されうることを含む。好ましい態様にて、対象は0.2MIU/mの日用量として約0.3MIUで投与される成人である。
【0109】
もう一つ別の好ましい実施態様において、治療は約0.6MIU/mの用量のインターロイキン-2を少なくとも3日連続して、好ましくは3~7日間、さらに好ましくは4~5日連続して一日に一回投与する、第一治療単位を少なくとも1回含み、続いて約2~4週間後に約0.6MIU/mの維持用量を投与し、その維持用量の投与が2~4週間毎に繰り返されうることを含む。好ましい態様にて、対象は0.6MIU/mの日用量として約1MIUで投与される成人である。
【0110】
さらなるもう一つ別の実施態様において、治療は約1.8MIU/mの用量のインターロイキン-2を少なくとも3日連続して、好ましくは3~7日間、さらに好ましくは4~5日連続して一日に一回投与する、第一治療単位を少なくとも1回含み、続いて約1または2ヶ月後に約1.8MIU/mの維持用量を投与し、その維持用量の投与が1または2ヶ月毎に繰り返されうることを含む。好ましい態様にて、対象は1.8MIU/mの日用量として約3MIUで投与される成人である。
【0111】
皮下経路が好ましい。
【0112】
多発性硬化症の再発の治療および予防
多発性硬化症(MS)の患者はその再発を予防または治療するのにIL-2を用いて治療され得る。多発性硬化症の患者は再発しやすい。
【0113】
好ましい実施態様において、治療は約0.2MIU/mの用量のインターロイキン-2を少なくとも3日連続して、好ましくは3~7日間、さらに好ましくは4~5日連続して一日に一回投与する、第一治療単位を少なくとも1回含み、続いて1~3週間後に約0.2MIU/mの維持用量を投与し、その維持用量の投与が1~3週間毎に繰り返されうることを含む。好ましい態様にて、対象は0.2MIU/mの日用量として約0.3MIUで投与される成人である。
【0114】
もう一つ別の好ましい実施態様において、治療は約0.6MIU/mの用量のインターロイキン-2を少なくとも3日連続して、好ましくは3~7日間、さらに好ましくは4~5日連続して一日に一回投与する、第一治療単位を少なくとも1回含み、続いて約2~4週間後に約0.6MIU/mの維持用量を投与し、その維持用量の投与が2~4週間毎に繰り返されうることを含む。好ましい態様にて、対象は0.6MIU/mの日用量として約1MIUで投与される成人である。
【0115】
さらなるもう一つ別の実施態様において、治療は約1.8MIU/mの用量のインターロイキン-2を少なくとも3日連続して、好ましくは3~7日間、さらに好ましくは4~5日連続して一日に一回投与する、第一治療単位を少なくとも1回含み、続いて約1または2ヶ月後に約1.8MIU/mの維持用量を投与し、その維持用量の投与が1または2ヶ月毎に繰り返されうることを含む。好ましい態様にて、対象は1.8MIU/mの日用量として約3MIUで投与される成人である。
【0116】
本発明に係る予防の場合には、MS患者は低用量のIL-2で治療して再発を予防する。この場合、治療では、3MIU/日以下の、あるいは好ましい実施態様において1.5MIU/日より少ない用量を使用し、2週間に一度、好ましくは3週間に一度、または好ましくは1ヶ月に一度の治療で投与される。Tregの割合および機能に基づいて治療(用量および計画)は調整され得る。
【0117】
治療の場合には、再発を経験しているMS患者はIL-2を3百万単位/日の用量で5~7日間付与され得、ついで上記したように付加的なIL-2治療単位を月に一度付与され得る。Tregの割合および機能に基づいて治療(用量および計画)は調整され得る。
【0118】
アテローム性動脈硬化症の予防および治療
(限定されるものではないが)一例が、1)中程度のアテローム性動脈硬化症、すなわち非症候性動脈狭窄症であって、その症状の悪化を妨げるのに低用量のIL-2を毎月注射され得る患者;2)動脈瘤の患者で、動脈瘤の大きさの漸進的増大および症状の悪化を妨げるのに低用量のIL-2を毎月注射されうる患者;3)冠動脈または末梢血管狭窄の患者であって、ステント移植とともに/なしで血管形成し、炎症および再狭窄の危険を減らし、IL-2を3百万単位/日で5~7日間受け、一ヶ月に1回IL-2治療単位を付加的に受けて治療される患者;4)炎症および再狭窄の危険性を減少させるのに動脈性バイパス術を受けた後、IL-2を3百万単位/日で5~7日間受け、ついで一ヶ月に1回IL-2治療単位を付加的に受けて治療される患者について用いることである。
【0119】
好ましい実施態様において、治療は約0.2MIU/mの用量のインターロイキン-2を少なくとも3日連続して、好ましくは3~7日間、さらに好ましくは4~5日連続して一日に一回投与する、第一治療単位を少なくとも1回含み、続いて1~3週間後に約0.2MIU/mの維持用量を投与し、その維持用量の投与が1~3週間毎に繰り返されうることを含む。好ましい態様にて、対象は0.2MIU/mの日用量として約0.3MIUで投与される成人である。
【0120】
もう一つ別の好ましい実施態様において、治療は約0.6MIU/mの用量のインターロイキン-2を少なくとも3日連続して、好ましくは3~7日間、さらに好ましくは4~5日連続して一日に一回投与する、第一治療単位を少なくとも1回含み、続いて約2~4週間後に約0.6MIU/mの維持用量を投与し、その維持用量の投与が2~4週間毎に繰り返されうることを含む。好ましい態様にて、対象は0.6MIU/mの日用量として約1MIUで投与される成人である。
【0121】
さらなるもう一つ別の実施態様において、治療は約1.8MIU/mの用量のインターロイキン-2を少なくとも3日連続して、好ましくは3~7日間、さらに好ましくは4~5日連続して一日に一回投与する、第一治療単位を少なくとも1回含み、つづいて約1または2ヶ月後に約1.8MIU/mの維持用量を投与し、その維持用量の投与が1または2ヶ月毎に繰り返されうる。好ましい態様にて、対象は1.8MIU/mの日用量として約3MIUで投与される成人である。
【0122】
度重なる自然流産の予防
ある夫婦は、免疫学的原因であると考えられる、反復性自然流産で出産の難しさを感じている。
【0123】
反復性流産のマウス実験にて、本発明者らは、交尾の前にIL-2を投与することで正常な妊娠の成果が得られることを示した。
【0124】
反復性自然流産の女性患者にて、プログラムされた受胎またはインビトロ受精により得られる胚の着床の前に、IL-2を付与し、胎児の着床を有利にすることができる。一例として、計画された交尾または着床の1ヶ月ないし1週間前に3MIU/日の5日間にわたるIL-2治療単位が付与され得る。
【0125】
細胞または器官拒絶反応の予防
免疫原性の可能性のある同種異系細胞または組織あるいはトランス遺伝子で遺伝的に修飾された細胞を移植した後に、本発明に従うIL-2の投与は拒絶反応の割合を軽減するのに使用され得る。
【0126】
炎症を制御するための治療計画の付加的な例:
-0.1~3.5または3MIU/日で5~7日間、24時間の持続注入;
-0.1~3.5または3MIU/日の一日投与量で5~30日間、一日一回の繰り返し投与;
-0.1~3.5または3MIU/日の一日投与量で15~30日間、二日毎に一回の繰り返し投与;
-0.1~3.5または3MIU/日の一日投与量で2~4週間連続して、週に3日連続して一日一回の繰り返し投与
が挙げられる。
【0127】
維持および/または予防のための投与計画の例:
-0.1~3.5または3MIU/日の一日投与量で2~6週間毎に一週間に1~7日間、毎日の繰り返し投与;
-0.1~3.5または3MIU/日の一日投与量で3~6ヶ月毎に5~30日間、一日一回の繰り返し投与;
-0.1~3.5または3MIU/日の一日投与量で一年に一回5~30日間、一日一回の繰り返し投与;
-0.1~3.5または3MIU/日の一日投与量で1~3ヶ月毎に1~3日間、一日一回の繰り返し投与;
-週毎に一日、0.01~1MIU/日の維持用量の投与
が挙げられる。
【0128】
一定量のIL-2投与処方を複数のサイクルで、または複数レベルのIL-2投与処方を複数のサイクルで投与することの必要性は管理医師の裁量であり、本発明の方法の治療を受けている対象にてTreg細胞をモニター観察することにより評価され得る。
【0129】
好ましい実施態様において、自己免疫疾患の患者で、Tregの%レベルをT細胞全体の5-10%に達する、および/または維持するのが最良である。
【0130】
予防の場合には、Tregの%レベルをT細胞全体の4.5-7%に達する、および/または維持するのが望ましい。
【0131】
IL-2用量は、患者の応答、すなわちTregの%およびその活性化状態(CD25)についての効果に基づいて適合されてもよい。
【0132】
かくして、Tregの量および/またはTregでのCD25の発現レベルをモニター観察することを含む方法であって、IL-2の治療計画または投与量が、IL-2を用いて治療される自己免疫性、免疫関連性または炎症性障害の患者にて修飾されるべきかどうかを決定する方法が記載される。
【0133】
対照値と比べて下回るTregの量および/またはTregにおけるCD25の発現レベルはIL-2の投与量を増やすべきことを意味する。対照値は、一般に、治療する前の患者での基線となるTregの量および/またはCD25発現レベルである。
【0134】
特定の実施態様にて、かかる定量化は、治療が開始された場合に(例えば、第一投与の3~5日後に)行われうる。Treg%またはCD25発現レベルが、基線と比べて20%増より低い場合、IL-2の用量を増やし(例えば、x2)、適切なTreg応答を誘発する用量(3.5MIU/日未満)が認められるまで、該工程を繰り返すことができる。
【0135】
好ましくは、この方法はまた、IL-2を投与した後、2~6ヶ月毎に、好ましくは1~5日の間に、Tregの数および/またはTreg中のCD25の発現レベルを定量することを含め、維持期間の間実施される。Tregの%またはCD25発現レベルが基線と比べて20%増より小さいならば、IL-2の量は増加(例えば、x2)させうる。
【0136】
投与形および経路
IL-2は当該分野にて自体公知の許容される方法を用いて投与されてもよい。かくして、例えば、IL-2またはIL-2含有の医薬組成物は、静脈内(IV)、筋肉内(IM)あるいは経皮または皮下(SC)注射を含む、いずれかの形態の注射により、あるいは経口または経鼻経路により、ならびに局所投与(クリーム、デポー等)により投与され得る。本発明の特定の実施態様において、IL-2は持続放出性製剤、または持続放出装置を用いて投与される製剤として使用される。かかる装置は当該分野にて周知であり、例えば、経皮パッチ、および薬物送達を持続的で安定した状態にて種々の用量にて経時的に提供し、持続放出効果を得ることのできる小型埋め込みポンプを包含する。舌下用または点眼用製剤も考慮されてもよい。
【0137】
IL-2は、医薬的に許容されるベヒクル、担体または賦形剤と共同して(例えば、溶液、懸濁液または混合液にて)局所的に投与される。適当な賦形剤は、等張溶液、生理食塩水溶液、緩衝液、遅延放出製剤等を包含する。IL-2またはその類似体を含む液体、凍結乾燥または噴霧乾燥組成物は当該分野にて公知であり、水性または非水性溶液または懸濁液として調製されてもよい。
【0138】
医薬組成物は適切な安定化剤、緩衝剤、増量剤またはその組み合わせを含み、製造および貯蔵の間の蛋白安定性および生物活性の喪失に付随する問題を最小にすることが好ましい。
【0139】
緩衝剤を用い、液体組成物のpHをIL-2の安定のために許容される範囲内に維持する。緩衝剤は、例えばコハク酸、クエン酸、リン酸およびグルタミン酸などの酸であってもよい。
【0140】
適当な増量剤の例として、例えばグリシン、マンニトールまたはバリン、あるいはその組み合わせが挙げられる。
【0141】
安定化剤として使用され得る不活性担体の例として、糖(例えば、シュークロース、グルコース、デキストロース)および糖アルコール、ならびにアミノ酸が挙げられる。
【0142】
医薬組成物は、付加的に、メチオニンなどの他の安定化剤、ポリソルベート80などの非イオン性界面活性剤等が配合されてもよい。
【0143】
IL-2製剤の特定の例が[10]および米国特許第4,604,377号に記載されている。
【0144】
IL-2がモノマー形態である場合、貯蔵の間のIL-2の凝集を減らすのに十分なアミノ酸基剤を該組成物に加えることが好ましい。アミノ酸基剤はアミノ酸またはアミノ酸の組み合わせとすることができ、所定のいずれのアミノ酸もその遊離塩基の形態またはその塩の形態にて存在する。かかるアミノ酸の例として、アルギニン、リジンおよびアスパラギン酸が挙げられる。
【0145】
特定の実施態様において、組成物は、例えば凍結乾燥された多量体IL-2を含む。
【0146】
かかる組成物の具体例がプロロイキン(登録商標)IL-2である。凍結乾燥製剤は、嵩をなすマンニトール、およびIL-2を水溶解性とするSDSなどの水可溶性担体と混合して選択的に酸化されている組換えIL-2を含む。この組成物は非経口注射用水溶液中に復元するのに適する。
【0147】
パッケージング
IL-2の現行のパッケージングは18MIUのIL-2を含有するバイアルである。少量にて使用されて投与される場合、0.01MIU、0.02MIU、0.5MIU、0.1MIU、 0.2MIU、0.5MIU、1MIUおよび3または3.5MIUの用量のパッケージングを製造するのが好ましい。
【0148】
従って、本発明の具体的な目的はまた、IL-2を3MIUまたはそれ以下の単位用量で含む医薬組成物にある。該組成物はバイアル、カプセル、シリンジ等の形態であってもよい。
【0149】
自己免疫疾患および炎症疾患の治療
本発明は、望ましくない免疫応答に付随するまたはそれにより惹起される、および/またはTregの定量的または定性的な異常が示される、症状の治療に使用されてもよい。かかる疾患の例として、自己免疫疾患、炎症疾患(炎症プロセスが重要な役割を果たすヒト疾患を含む)ならびに免疫関連性疾患が挙げられる。
【0150】
該治療は治癒的または予防的であってもよい。特定の実施態様において、該治療は治癒的であり、すなわち、かなり初期の段階であっても、疾患が特定されている対象に関する。かかる患者では、治療は疾患の進行を遅らせまたは停止させること、および/または疾患の症候または原因を抑制することを目的とする。治療は、実施例で説明されるように、患者にて疾患の完全な消失をもたらすものであってもよい。
【0151】
治療は、疾患が特定されていない患者では、あるいは多発性硬化症のように、疾患を緩和して再発を防止する患者では予防的であってもよい。かかる患者では、治療はTregを高レベルに維持すること、および/または望ましくない免疫反応により惹起される疾患の発症を回避するのに炎症を緩和することを目的とする。
【0152】
治療により、患者の症状にて、疼痛の軽減、組織障害の減少等などのなんらかの改善が示される。
【0153】
Tregの異常は、種々の自己免疫ヒト疾患にて報告されており、本発明は、限定されないが、そのすべてが、術後局所炎症などの療法に影響を及ぼす炎症性要素と関与する、高度の炎症または症状により特徴付けられる、HCV関連性血管炎、ブドウ膜炎、筋炎、I型糖尿病、全身性エリトマトーゼス、全身性血管炎、乾癬、アレルギー、喘息、クローン病、多発性硬化症、関節リウマチ、アテローム性動脈硬化症、自己免疫甲状腺疾患、自己炎症疾患、神経変性疾患、アルツハイマー疾患、対宿主移植片疾患、自然流産および同種移植拒絶反応を含む、炎症または自己免疫疾患の治療に特に適する。本発明は、シャーガス病、リシューマニア症、ヘリコバクター・ピロリ感染症、慢性バイアル肝炎(B、C、D型)、HIV、HTLV、マラリア、アメーバー症または細菌性赤痢などの炎症性感染関連性病状の補助治療剤として使用されてもよい。
【0154】
慢性HCV感染は、その発症機序が大いに免疫学的に活性化されると思われる、多数の肝外合併症と独自に関連付けられる。これらの合併症のうち、クリオグリブリン血症およびその臨床的続発症は最も強い関連性を保持する。クリオグリブリン血症はHCV感染の患者の40-60%にて容易に検出可能であり[11、20、21、22]、それに対して顕性クリオグリブリン血症血管炎(混合型クリオグリブリン血症:MC)はそのような患者の5-10%が発症するに過ぎない[11]。最大頻度の標的器官は皮膚、関節、神経および腎臓である。病気発現は緩やかな臨床症状(紫斑病、関節痛)から致命的な劇症合併症(糸球体腎炎、広汎性血管炎)の範囲まで可変しうる。T細胞の血管浸潤での観察、自己抗体の存在およびあるHLA基がHCV感染患者にてMCに感受性を付与するとの観察は、このウイルス関連の病状の自己免疫特性を支持するものである[12、13]。MC病態生理はHCVとリンパ球の間の相互作用より由来するようであり、それはB-およびT-細胞機能を直接制御し、ポリクローナル抗体の活性化およびリウマチ因子(RF)の活動でIgMを産生するB細胞の増殖をもたらす[23]。本発明者らはこれまでにTregがHCV-MC患者にて顕著に減少していると報告した[12、14、15]。その上、HCVについて治療するのに成功したMC患者にて、ウイルスのクリアランスは血管炎の治癒およびTregの回復と関連付けられた。
【0155】
実験セクションは、自己免疫性疾患に伴うHCV感染の患者にて、低用量のIL-2を繰り返し投与する療法の安全性、免疫効果および臨床的効能を評価するように設計されたフェーズI/IIa実験の結果を報告する。本発明者らは低用量のIL-2が十分に耐性であり、Treg細胞の劇的かつ選択的な増加を誘発し、治療したすべての患者で臨床的改善に至ることを明らかにする。このことは、ヒト自己免疫疾患にてIL-2の免疫療法に付した後、インビボでのTregの誘発および回収を示す第一の実証結果である。
【0156】
実施例にて示されるように、治療は十分に耐性であり、エフェクターT細胞の活性化、血管炎のフレアおよびHCVウイルス血症の悪化を誘発しなかった。低用量のIL-2はすべての患者にて強い抑制活性のあるCD4+CD25hiCD27-Foxp3+Tregの割合を劇的に増加させ、付随して辺縁帯B細胞の割合を減少させた。末梢血単核細胞のトランスクリプトーム実験は、IL-2が炎症/酸化ストレス媒介物質の広範囲に及ぶ減衰を誘発することを示した。クリオグリブリン血症の軽減および/または血管炎の臨床的改善が、各々、90%(9/10)および80%(8/10)の患者で観察された。
【0157】
このことは、ヒト免疫疾患にて、十分に耐性である低用量のIL-2免疫療法に付した後、Treg細胞の回収および臨床的改善を示す第一の実証結果である。それは炎症および自己免疫疾患の治療用のIL-2の幅広い使用のための道を開くものである。
【0158】
他の疾患は:
- 全身性炎症応答症候群(SIRS)(choc)(アジュバント);
- 肝移植片拒絶反応-炎症性肝線維症を予防するためのネオアジュバントおよびアジュバント療法、-臓器提供者および/または移植片の制御を改善するのに受容者を治療する
- 肝硬変-炎症性肝線維症および関連する合併症を予防するため
- 自己炎症性全身性疾患-臨床的/生物学的フレアとの炎症反応の軽減または予防
- 急性呼吸窮迫症候群(ARDS)(アジュバント)
- 急性膵炎-炎症性反応および続発性壊死の軽減
- ステントの血管手術-ステントの挿入に対する炎症反応を妨げることによるステント閉塞の予防
- 心筋梗塞後の心臓リモデリングの改善
- 整形外科-OS後の炎症反応の軽減
- 歯学-歯周炎の治療
- スティル病
- 精神科:鬱病
を包含する。
【0159】
次に実施例を用いて本発明を説明するが、何ら本発明を制限するものではない。
【実施例
【0160】
実施例1:HCV関連性血管炎における低用量のIL-2
ここで、本発明者らは、IL-2が自己免疫力のある患者にてTeffを誘発することなく、Tregを誘発する条件下で使用され得るとの第一の生物学的証拠をヒト対象にて提供する。本発明者らは、ここで、ヒト自己免疫疾患にて、IL-2免疫療法を介して、臨床的改善に至る極めて強力な制御性Tregのインビボにおける増殖を示す第一の実証結果を報告する。IL-2療法の終わりにTregを増加させるとする実験の主要評価項目、およびその臨床応答を含むすべての副次的評価項目はすべて適合した。本発明者らは低用量のIL-2が十分に耐性であり、Treg細胞の劇的かつ選択的増加を誘発し、患者の80%にて臨床的改善に至ることを示す。これは、ヒト自己免疫疾患にて、IL-2免疫療法の後でインビボにてTregの誘発および回収を示す第一の実証結果である。さらには、本発明者らは、低用量のIL-2のヒトでの著しい抗炎症作用を初めて示す。
【0161】
方法
患者
該実験の選考基準は次のとおりであった:1)陽性HCV RNAにより規定される慢性活性HCVに感染していること;(i)少なくとも2回測定して血清クリオグロブリン0.05g/lの存在、および(ii)三つ組の紫斑病-関節痛-無力症の存在、または(iii)紫斑がなく血管炎と証明された生検(腎臓、神経線維または皮膚)により規定されるMC血管炎の病歴のあること[16、17];3)臨床的に活性な血管炎を含める際に、通常の療法、すなわち抗ウイルス療法(ペグインターフェロン-αおよびリバビリン)および/またはリツキシマブに対して抵抗力があるか、不耐であること;5)リツキシマブまたは抗ウイルス療法を止めた、各々、6ヶ月または2ヶ月後に最小となること。
【0162】
除外基準は、B型肝炎ウイルスまたはHIVとの共同感染、肝硬変、癌またはリンパ腫、少なくとも6ヶ月の免疫抑制剤の使用、薬物中毒、アルコール依存症または妊娠を包含した。
【0163】
実験計画
本発明者らは、モノセンター・オープン・プロスペクティブ・フェーズI/IIトライアルを行った。4サイクルの5日皮下IL-2療法が施行された。第一の治癒は一週間の入院の間に1.5百万IU/日の用量で実施され、耐性を評価した。満足のいく耐性を基礎として、残りの3つの治癒は3百万IU/日mp用量で外来で行われた。第二の治癒は10日の洗い出しの後に開始され、つづいて17日の洗い出しの後で2つの治癒が開始された。該実験は制度倫理委員会が承認しており、すべての患者よりインフォームド・コンセントを得た。
【0164】
各治癒の1日目および5日目で、該治癒の第一および最後のIL-2を投与する前に患者を評価した。彼らはまた最後にIL-2投与した48~90日後にも評価された。
【0165】
治療に対する応答は、臨床的、免疫学的およびウイルス学的パラメータを、初期評価で、IL-2の各治療単位の最後で(1、3、6および9週間で)、および追跡期間の最後で比較することにより分析された。臨床的応答は、次の主要な臨床的サイン:皮膚への浸潤(紫斑病および/または下腿潰瘍の不在)、末梢神経障害(2回連続した試験での臨床的および電気生理学的改善)、腎臓への浸潤(血清中クレアチニン濃度の正常化および蛋白尿および/または血尿の消失)および関節痛の不在の経過を分析することにより定められた。
【0166】
主要評価項目は、IL-2療法の最後に(すなわち、W9で)CD4CD25Foxp3制御性T細胞(Treg)の割合の4%の絶対的増加であった。副次的評価項目は、安全性、W9での細胞性および体液性免疫の評価、治療から一定期間離れた時点(W19)でのTregのレベルの持続的増加、および血管炎の臨床的応答の評価を包含した。
【0167】
フローサイトメトリー分析
免疫モニターリングは、Pitie-Salpetriere Biotherapyにて使用される慣用的な公開方法に従って行われた。
【0168】
簡単には、末梢血単核細胞(PBMC)の部分集合(CD3、CD4、CD8Tリンパ球、CD19Bリンパ球およびCD3CD56NK細胞)の数(細胞/μl)は、メーカーの使用説明書(Beckman Coulter, Villepinte, France)に従って、内部標準としてフローカウント蛍光ビーズを用いるCYTO-STATテトラCHROMEキット、およびFC500サイトメーターでのテトラCXPソフトウェアを用い、新鮮血サンプルより決定された。これら細胞の部分集合を多色フローサイトメトリーおよび種々の蛍光マーカーと直接コンジュゲートしたmAbを用いて分析した。細胞獲得およびフローサイトメトリーによる分析をFCサイトメーター(Beckman Coulter)を用いて行った。機器の設定パラメータ(利益、補償、および閾値)を、キャリブレーションビーズ(フローセットビーズ、Cytocompキット、およびCYTO-TROL Control Cells)と合わせて機器ソフトウェア(CXPソフトウェア;Beckman Coulter)で設定した。機器の再現性は標準化されたビーズで確認された(フローチェック)。データをCXP分析用ソフトウェア(Beckman Coulter)を用いて分析した。
【0169】
これら細胞の部分集合は、多色フローサイトメトリーを用いて分析し、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、フィコエリトリン(PE)、フィコエリトリン-テキサス・レッド(ECD)、アロフィコシアニン(APC)またはフィコエリトリン-シアニン(PE-Cya7)のいずれかに直接コンジュゲートしたmAb:CD3-ECDまたは-PC7、CD4-ECDまたは-PC7、CD8-PC7、CD8-APC、CD14-PE、CD16-FITC、CD19-ECD、CD28-FITC、CD45RA-APC、CD45RO-FITC、CD56-PE、CD69-PE、CD152-PEおよびHLA-DR-PC7を用いた。そのすべてはBeckman Coulter(Villepinte、France)より入手した。CD25-PE、CD25APC、CD27-PE、CD62L-FITCおよびIgD-FITCはBD Biosciences(Le Pont De Claix, France)より入手した。CD127はe-Biosciences(San Diego, CA, USA)より、グルココルチコイド誘発性腫瘍壊死因子関連の蛋白(GITR)-PEはMiltenyi Biothech(Paris, France)より入手した。潜伏関連ペプチド(LAP)-PEおよびCCR7-PE抗体はR&D Systems(Abingdon, UK)より入手した。細胞内CD152標識化は、CD3、CD4、CD127およびCD25の膜染色の後に、Invitrogen(Cergy Pontoise, France)から由来のFixおよびPerm試薬を用いて行われた。適合マウスのアイソタイプの対照抗体を用いた。細胞内FOXP3の標識化は、メーカーの使用説明書にしたがって、APC抗ヒトFoxp3キット(PCH101クローン、eBiosciences)を用いて、CD3、CD4、CD127およびCD25の膜染色を行った後に実施される。ラットIgG2aAPCをアイソタイプの対照(eBiosciences)として用いた。
【0170】
フローサイトメトリーによる細胞獲得および分析はFC500サイトメーター(Beckman Coulter)を用いて実施された。機器の設定パラメータ(利益、補償、および閾値)を、キャリブレーションビーズ(フローセットビーズ、Cytocompキット、およびCYTO-TROL Control Cells)と合わせて機器ソフトウェア(CXPソフトウェア;Beckman Coulter)で設定した。機器の再現性は標準化されたビーズで確認された(フローチェック)。データをCXP分析用ソフトウェアおよびKaluzaソフトウェア(Beckman Coulter)で分析した。
【0171】
細胞内サイトカイン産生の検出には、PBMCを、ゴルジ-ストップ(BD Biosciences)の存在下、50ng/mlのPMAおよび1mMのイオノマイシンで4時間刺激し、ついでメーカーの使用説明書に従って、固定および透過化を行った後、抗-INF-g-FITC(eBioscience)または抗-IL-17-Alexa Fluor 647(e-Bioscience)を用いて染色した。
【0172】
制御性T細胞アッセイ
細胞制御アッセイを従前通りに行った。簡単には、PBMCを適当に組み合わせたmAbで染色し、フローサイトメーター(FACS Aria、BD Biosciences)によりCD3+CD4+CD25+CD127低レベル/-細胞、すなわちFACS-分類化Tregを精製した。その制御活性を試験するのに、Tregを、200μLの完全培地中、刺激細胞として10個の照射された(15グレイ)の同種異系PBMCの存在下で、応答細胞として5x10個の自己Facs-分類化CD4+CD25-細胞と、種々の細胞割合(1/1;1/2;1/4;1/8;1/16)にて混合した丸底の96-ウェル組織培養プレートにてアッセイした。各培養条件で3回重複して試験を行った。4日後に、1μCi(0.037MBq)のH-チミジン(Amersham, Buckinghamshire, UK)を付加的に16時間取り込むことにより細胞増殖を決定し、β-カウンター(counter-WALLAC)を用いて測定した。結果をカウント毎分(cpm)で表し、増殖の抑制%をtreg不含のエフェクター細胞の増殖/treg含有のエフェクター細胞の増殖の割合により決定した。
【0173】
トランスクリプトーム実験
メーカーの使用説明書に従って、RNeasy Mini Kit(QIAGEN, requis, CA)を用いてRNAを生成した。7-9.5のRNAインテグリティ・ナンバー(RIN)の性質を示すAgilent Bioanalyser(Agilent Technologies)を用いてRNAインテグリティを評価した。RNAの収量をNanoDrop1000分光光度計(NanoDrop Products、Thermo Fisher Scientific)を用いて評価した。
【0174】
全RNAを増幅し、メーカーのプロトコル(Illumina TotalPrep RNA Amplification Kit;Ambion)に従ってビオチニル化cRNAに変換した。
【0175】
標識化cRNAを、48000個以上のプローブを含有する、Illumina Human HT-12 V3 BeadChipアレイ(Illumina)と一夜にわたってハイブリダイズさせた。次に、該アレイを洗浄し、遮断し、染色し、メーカーのプロトコルに従って、Illumina BeadStation上でスキャンした。Illumina BeadStudioソフトウェア(Illumina)を用い、該スキャンからシグナル強度の数値を得た。
【0176】
データを分位方法に従って正規化し、管理された階層的クラスタ分析を、6人の患者のうち少なくとも3人で治療後に有意に調整されている、435個の選択された転写産物に対して行った。調整閾値の割合は、ダウンレギュレートおよびアップレギュレートされた転写産物に対して、各々、0.6および1.5に設定された。他人と違い過ぎる調整特性を示す一の患者はクラスタ分析から除外した。遺伝子特性を分析し、プレディクト・サーチー(登録商標)ソフトウェア(Prediguard)を用いて機能的ネットワークを作製し、遺伝子とコンセプトの間の関連的相関性を同定するのにささげられるデータマイニング生物情報操作を用いて機能的ネットワークを作製した。このツールはNCBI Pubmed全データベースで毎日アップデートされ、共引用の要約内で、遺伝子-遺伝子または遺伝子-コンセプトの間の関連的相関性を追求する。
【0177】
相関性はNCBI GEOデータベースに蓄積されている転写特性(>18000)を一切合切交互比較して検索され、DBF-MCLアルゴリズムでトランスクリプトーム・ブローサー・ツールを用いて抽出される。さらには、プレディクト・サーチー(登録商標)はKEGGおよびBiocarta経路に、ならびにGOオントロジーに従って調節された遺伝子の注釈を可能とする。
【0178】
管理されていない分析では、管理されていない独立成分分析(ICA)を用いて可能性のある分子特性を抽出した。それらの特性をジン・セット・エンリッチメント・アナリシス(GSEA)特性データベースに加え、GSEAソフトウェアを用い、マイクロアレイデータにおけるその有意性について試験した。最新のGSEAの統計学的に有意な分子特性(FDR q値<0.05)がそのGO語彙およびKEGG経路の豊富化のために注釈が付された。炎症、免疫応答および自己免疫の病状と関連付けられるGO語彙を豊富化する特性が選択された。Khi2試験を用いて、これらの選択された特性が、IL-2治療のサンプルにて、アップまたはダウンレギュレートされた特性の分布全体と比較して、優先的にアップレギュレートまたはダウンレギュレートされるかどうかを決定した。
【0179】
統計的分析
CD4CD25Foxp3の制御性T細胞の割合の実際の分布が正常であることを前提として、10人の標体の大きさで、ウィルコクソンの符号付き両側検定を用い、平均対差が4%で、標準偏差の推定量が3%で、0.05の有意水準(アルファ)の94%の検出力が達成される。
【0180】
基線のW9またはポストIL-2の測定値との比較をウィルコクソンの符号付き検定で行った。フリードマン検定のF近似を用いて、反復したすべての測定値を交差して比較した[24]。必要に応じて、臨界領域のフリードマンの統計的近似および複数回の比較を行った[25]。
【0181】
最大値に至るまでの時間(Tmax)を最大Treg割合の時間(Emax)として実験データより直接決定した。
【0182】
結果
患者
10人の患者を用いた(表1)。男性/女性の割合が50/50%で、メディアン(Q1-Q3)の年齢が58.5(49.5-66.2)歳であった。MC血管炎の臨床症状として、末梢神経障害(n=8)、紫斑病(n=8)、無力症(n=6)、関節痛(n=3)および腎臓への浸潤(n=1)[毎日の蛋白尿1.5g、顕微鏡的血尿およびクレアチニン血症74マイクロモル/L]が挙げられる。メディアン(Q1-Q3)のクリオグリブリンレベルがあらゆるケースで0.53(0.26-2.77)g/LのII型IgMカッパである。メディアン(Q1-Q3)のC4補体因子のレベルが0.065(0.02-0.16)mg/Lであり、関節リウマチ因子活性が90%のケースで存在し、抗核抗体が一の患者にて陽性であった(1/640力価)。メディアンHCVウイルス負荷は6.25(5.5-6.8)の対数コピー数/mLであった;患者は肝硬変ではなかった。
【0183】
低用量IL-2の安全性
治療に対するコンプライアンスは良好であり、全ての患者がIL-2の4つの全ての治療単位を終了した。IL-2は臨床的かつ生物学的に十分に耐性であった(表1)。顆粒球、赤血球または肝酵素にて有意な変化は実験を通して観察されなかった。無力症(n=4)、注射部位での一過性局所反応(n=4)、インフルエンザ様症候群(n=4)、筋肉痛(n=1)および高血圧症(n=1)を含む、ささいな臨床的グレード1の副作用に気づいたに過ぎず、自然に解消した。とりわけ、これらの副作用のいずれも最も低い1.5百万IU/日のIL-2投与量では生じなかった(表1)。治療およびその後の全体を通して、病原性T細胞の活性化を示す生物学的または臨床的徴候はなく:血管炎フレアは指摘されず;リンパ系器官の試験はリンパ球増殖活性障害の誘発の示唆を異常なまでに示さず;HCVウイルス負荷の増加は観察されなかった(表1および図1A)。
【0184】
低用量のIL-2のHCV-MCに対する生物学的および臨床的効能
HCVウイルス負荷はIL-2の治療期間の間に減少し続け、抗ウイルス治療なしで、W9で有意に低下した。クリオグリブリン血清中濃度も減少し続け(P=0.014、W9)、1.5MIUの第一のIL-2治療単位の後でC4が逆に増加しても(P=0.027)、なおも減少した(P=0.003)(図1)IL-2療法で患者は抗核抗体を産生せず、患者#1では抗核抗体は消滅した。
【0185】
HCV-MC血管炎の生物パラメータの改善と一致して(図1)、10人の患者のうち8人はIL-2療法の後で、紫斑病および関節痛の消失(各々、8/8および3/3の患者)と共に、著しい臨床的改善を示した。患者#10にて腎パラメータは正規化された(毎日の蛋白尿<0.3gおよび血尿はなし)。著しい臨床的応答のなかった患者だけがインクルージョンの際に神経障害だけを示す患者であった(n=2)。
【0186】
低用量のIL-2はCD4 およびCD8 の制御性T細胞の劇的な増加を誘発する
IL-2は循環性CD4CD25hiCD127Foxp3のTregの劇的な増加を誘発した(図2Aおよび図3)。この群の患者におけるTregの基線%は3.6%±0.23(平均+/-標準偏差)であり、正常な値(4.6±0.6)よりも有意に低く、本発明者らが以前に報告した実験と一致するものであった。W9で、Tregの割合は、主要な効能の基準となる評価項目に達する、11.8%±1.96(P=0.004)であった。特筆すべきは、Tregの割合は、IL-2の1.5百万IUの第一の5日の治療単位の後で約2倍に既に増加した(図2A)。治療単位の間の洗い流し間にもTregの割合は増加し続け、その後の治療単位でさらにブーストされた(図2A)。基線値と比較した場合、これらのTregの割合の増加は治療全体を通して統計学的に有意であった(P=0.016、W1およびP<0.001、W3、6および9)。Tregの割合のメディアン最大値(Emax=14%)には第三のIL-2治療単位の最後に到達し(メディアン Temax2.9)、それは基線と比べて10.3%の増加(Emax-基線)に相当し、あるいはTregの350%増(Emax/基線)に相当する。治療から離れて(129~150日)、Tregの割合は、正常な血液ドナー値の範囲にある、基線値の2倍で(6.1%±0.51、P=0.008)、有意に高度に維持された。最後に、本発明者らは、IL-2増殖性Tregの機能性を評価し、それらが高度に抑制性であることを見出した(図4)。
【0187】
抑制性機能を有するレア-なCD8CD25hiFoxp3T細胞の集団が正常な個体にて検出され得る[26](図5)。本発明者らはこれらの細胞をIL-2治療の間にモニター観察し、CD4 Tregの増加に付随して、その著しい増加を観察した。第一の治療単位の後で、その割合が約500%まで増加し、治療の間を通して高度を維持した(図2A、表2)。要するに、CD4およびCD8Tregの増加は、CD4/CD8の割合を修飾することなく、グローバルなTreg/Teffの割合の著しい増加をもたらす(図2B、表2)。
【0188】
第一治療単位の直後、B細胞の全体数はIL-2の治療の間に減少し、治療から一定期間経過後に回復した。この減少は、血管炎の病態生理学に関与するIgDCD27辺縁帯B細胞に特に影響を及ぼした[27](図2C図6)。反対に、NK細胞にて有意な増加があり、それは第一のIL-2治療単位の後にすでに検出されており、経時的に持続的増加の明瞭な傾向を示し;この増加は、IL-2の中断の後、速やかに停止した。とりわけ、高レベルの免疫抑制性サイトカインを産生し、細胞傷害性の少ない、CD56brightNK細胞の特異的な増加があった(図2D、表2)。
【0189】
低用量のIL-2はPBMCのトランスクリプトーム解析により明らかにされる炎症の広範囲に及ぶ減少を誘発する
本発明者らは、IL-2の治療単位の前後で、PBMCのトランスクリプトームを分析した(図3)。本発明者らは、まず、2セットのデータを直接比較し、2種の条件間でアップレギュレートまたはダウンレギュレートする遺伝子を探す、管理分析を行った。この実験は、TregおよびNK細胞の機能と関連付けられる遺伝子の発現の増加を示し、同時にB細胞機能に関連付けられる遺伝子の発現の減少を示す表現型観察(図示せず)をまず行った。階層的クラスタ分析およびデータマイニング技法は、炎症/酸化ストレスメディエータに関与する遺伝子の発現における顕著な減少を明らかにした(図7A)。NFKB経路はこの制御と大きく関与しているようである(図7B)。本発明者らはこれらの結果を管理されていない(すなわち、仮定なしで進められる)分析で確認した。この方法で、すべてのIL-2の前-および後-トランスクリプトームデータを一緒に混合し、独立した群のデータの分離を最大にする特性を独立成分分析(ICA)に基づき追求した[28]。次に遺伝子オントロジー(GO)の語彙および経路(GOTP)を治療前および後の群を区別する特性の中から検索した。アップ-対ダウン-レギュレートされたGOTPの割合は、炎症で0/251(p=1、3E-40)、免疫応答で16/684(p=3、4E-94)およびリンパ球活性化で77/555(p=7、0E-49)であった(図3C)。反対に、本発明者らは細胞周期と関連付けられるGOTPに富む1701のアップ-および208のダウン-レギュレートされた特性を得た(p=1、5E-138)。無作為に選択された対照語彙を用いて同様を分析を行っても豊富化を示されなかった。
【0190】
ついで、同様の分析を、自己免疫、炎症および移植関連の病状、および感染疾患と関連付けられる経路および語彙でKyoto Encyclopedia of Genes and Genomes(KEGG)にて行った。これらの特性はIL-2治療の後に優先的にダウンレギュレート(各々、p=7.6E-09およびp=7.6E-36)されるのに対して、対照となる病状はダウンレギュレートされなかった。
【0191】
【表3】
【0192】
【表4】

【0193】
実施例2:1型糖尿病における低用量のIL-2
本発明者らは、成人T1D患者にてTregを安全に誘発しうる最小の活性用量を定めることを目的とした、T1DでのIL-2用量測定臨床試験を開始した。
【0194】
DF-IL2実験は、プラセボ、0.3、1および3MIU/日の用量のプロロイキン(登録商標)(各々、1.5、5および15MIUの累積用量)を比較する、二重盲検である。
【0195】
該実験の目的は、T1Dと診断されたばかりの患者にて残っている内因性インスリン分泌を保持することであろう。
【0196】
患者の主たる特徴:成人、男女、WHO-ADAとしてのT1D診断、診断から最初にIL-2を投与して12週間に満たない罹患期間、および開始時にC-ペプチドが検出可能であることである。
【0197】
臨床的に有意義な効果についての現行の推奨事項は、活性な治療薬を用いて、少なくとも膵臓β-細胞塊の保存、すなわち基線と比べてC-ペプチドのAUC0-120の維持を標的とすることである。
【0198】
24人すべての患者が含まれる。治験責任者は依然としてIL-2の投与量について分かっていないが、これまでに得られた結果はIL-2が安全であることを示す(いずれの患者においてもSAEはない)。副次的な有害事象(軽い発熱、注射部位での中程度の痛み等)が数人の患者で観察され、以前の臨床実験40からの安全性のデータに基づき、3MIU/日の用量と関連付けられそうである。その治療を終えた最初の16人の患者について動的なTregの中間分析は、(規制当局からの承諾に従って)その実験を治験責任者に対して盲検とすることなく、独立した統計学者によりなされた。この中間実験は(i)IL-2がT1D患者にて実際にTregを誘発しうること、および(ii)1MIU/日の用量が2週間以上にわたって持続する良好なTreg応答を誘発することを示す(図8を参照のこと)。
【0199】
重要なこととして、C-ペプチド産生の有意な減少が患者にて検出されなかった。MMTT(混合食耐性検定)の後のC-ペプチド測定は、図9Bの患者1について示されるように、患者に5日間のIL-2治療を行った2ヶ月後にC-ペプチド産生を少なくとも保持し、あるいは時に増加させることを示す(本発明者らはこの患者に投与される投与量を知らないが、治療の間に観察されるTregの増加は該患者がプラセボではなく、IL-2を受領したことを示すことに留意している)。
【0200】
成人T1D患者を用いるこの第一実験に従って、本発明者らは、7歳からの患者(DF-IL2-子供)を含めた、子供T1Dについての第二用量測定実験を思いついた。本発明者らは上記した実験の結果に基づいて用量測定実験を精緻化した。一連の用量の0.125~1MIU/m/日(ここで、超低用量と称される)を、耐性およびTreg誘発に関する効能を確認するのに、一年の治療期間にわたって検査した(16回の注射)。これは、上記した実験よりも100倍以上少ない、2~16MIU/mの累積用量に相当する。
【0201】
本発明の臨床結果は、IL-2/IL-2Rの活性化経路が変更されているT1D患者にてIL-2がTregを誘発するのに効果的でないかもしれないとの懸念を払拭する。その結果はまた、使用される用量でIL-2の優れた耐性を確認し、0.5MIU/m/日が、T1D患者と診断されたばかりの子供および成人にてIL-2の効能を評価する適切な用量であることを支持する。
【0202】


図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図2C
図2D
図3-1】
図3-2】
図4
図5
図6
図7
図8
図9