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特許7561894チタン系焼結体の製造方法、およびチタン系焼結体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-26
(45)【発行日】2024-10-04
(54)【発明の名称】チタン系焼結体の製造方法、およびチタン系焼結体
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/14 20220101AFI20240927BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20240927BHJP
   B22F 3/04 20060101ALI20240927BHJP
   B22F 3/15 20060101ALI20240927BHJP
   B22F 3/24 20060101ALI20240927BHJP
   C22C 1/04 20230101ALI20240927BHJP
   C22C 1/05 20230101ALI20240927BHJP
   C22C 14/00 20060101ALN20240927BHJP
【FI】
B22F1/14 500
B22F1/00 R
B22F3/04 B
B22F3/15 M
B22F3/24 F
C22C1/04 E
C22C1/05 E
C22C14/00 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2023006375
(22)【出願日】2023-01-19
(65)【公開番号】P2024102474
(43)【公開日】2024-07-31
【審査請求日】2024-07-18
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】390007227
【氏名又は名称】東邦チタニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116366
【弁理士】
【氏名又は名称】二島 英明
(72)【発明者】
【氏名】江頭 繁樹
(72)【発明者】
【氏名】伊志嶺 朝之
(72)【発明者】
【氏名】早川 昌志
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第114182125(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第101135016(CN,A)
【文献】特開昭57-171644(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109136608(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00- 8/00
C22C 1/04- 1/059
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一粉末とセラミックス粉末とを混合して混合粉末を作製する工程と、
前記混合粉末と第二粉末とを混合して、原料粉末を作製する工程と、
前記原料粉末を加圧成形して圧粉成形体を作製する工程と、
前記圧粉成形体を焼結してチタン系焼結体を作製する工程と、を備え、
前記第一粉末は、アルミニウムとバナジウムとを含む合金によって構成されており、
前記第二粉末は、チタンによって構成されている、
チタン系焼結体の製造方法。
【請求項2】
第一粉末とセラミックス粉末とを混合して混合粉末を作製する工程と、
前記混合粉末と第二粉末とを混合して、原料粉末を作製する工程と、
前記原料粉末を加圧成形して圧粉成形体を作製する工程と、
前記圧粉成形体を焼結してチタン系焼結体を作製する工程と、を備え、
前記第一粉末は、チタンによって構成されており、
前記第二粉末は、アルミニウムとバナジウムとを含む合金によって構成されている、
チタン系焼結体の製造方法。
【請求項3】
前記セラミックス粉末は二ホウ化チタンによって構成されている、請求項1または請求項2に記載のチタン系焼結体の製造方法。
【請求項4】
前記第一粉末と前記セラミックス粉末とを、ボールミル、アトライター、またはジェットミルによって混合する、請求項1または請求項2に記載のチタン系焼結体の製造方法。
【請求項5】
前記混合粉末と前記第二粉末とを、V型混合機によって混合する、請求項4に記載のチタン系焼結体の製造方法。
【請求項6】
前記圧粉成形体を作製する工程では、冷間静水圧プレスによって前記圧粉成形体を製造する、請求項1または請求項2に記載のチタン系焼結体の製造方法。
【請求項7】
さらに、前記チタン系焼結体を熱間静水圧プレスによって圧縮する工程を備える、請求項1または請求項2に記載のチタン系焼結体の製造方法。
【請求項8】
チタンとアルミニウムとバナジウムとを含む合金によって構成されたマトリックスと、
セラミックス粉末由来の化合物によって構成され、前記マトリックス中に分散する複数の析出物と、を備え、
断面における50以上の異なる複数の測定範囲のそれぞれから得られた複数の存在比率の平均値R0、最大値R1、および最小値R2が、以下の式を満たし、
R1≦R0+4.5
R2≧R0-4.5
前記複数の存在比率のそれぞれは、前記複数の測定範囲のそれぞれにおける前記マトリックスと前記複数の析出物との合計面積を100%としたときの前記複数の析出物の面積割合である、
チタン系焼結体。
【請求項9】
前記析出物は、ホウ化チタンによって構成されている、請求項8に記載のチタン系焼結体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、チタン系焼結体の製造方法、およびチタン系焼結体に関する。
【背景技術】
【0002】
チタンを含むチタン合金は機械的特性に優れる。そのため、チタン合金によって構成されたチタン系溶製体またはチタン系焼結体などが、種々の機械の構成部品に利用されている。
【0003】
特許文献1は、金属およびセラミックス粉末を含む原料粉末を加圧成形して成形体を作製し、その成形体を焼結して粉末焼結インペラーを作製する粉末焼結インペラーの製造方法を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平8-120307号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載される粉末焼結インペラーは、いわゆるメタルマトリックスコンポジット(以下、MMC)と呼ばれる構造を備える。MMCは、金属を含むマトリックスと、マトリックス中に分散する複数の析出物と、を備える。析出物はセラミックス粉末由来の化合物である。
【0006】
MMCにおいて、微細な析出物をマトリックス中に均一に分散させることは困難である。マトリックスにおける析出物のバラツキは、MMCの機械的特性を低下させる。
【0007】
本開示は、マトリックス中に複数の析出物が均一に分散したチタン系焼結体を作製することができるチタン系焼結体の製造方法を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示のチタン系焼結体の製造方法は、
第一粉末とセラミックス粉末とを混合して混合粉末を作製する工程と、
前記混合粉末と第二粉末とを混合して、原料粉末を作製する工程と、
前記原料粉末を加圧成形して圧粉成形体を作製する工程と、
前記圧粉成形体を焼結してチタン系焼結体を作製する工程と、を備え、
前記第一粉末および前記第二粉末の組合わせは、下記(A)または(B)である。
(A)前記第一粉末がチタンまたはチタン合金によって構成された粉末であり、前記第二粉末がチタンと合金化することができる元素を含む粉末である組合わせ。
(B)前記第二粉末がチタンまたはチタン合金によって構成された粉末であり、前記第一粉末がチタンと合金化することができる元素を含む粉末である組合わせ。
【発明の効果】
【0009】
本開示のチタン系焼結体の製造方法は、マトリックス中に複数の析出物が均一に分散したチタン系焼結体を作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施形態に係るチタン系焼結体の製造方法の工程を示すフローチャートである。
図2図2は、試験例2に記載される試料No.21の試験結果を示すグラフである。
図3図3は、試験例2に記載される試料No.22の試験結果を示すグラフである。
図4図4は、試験例3に記載される試料No.31のチタン系焼結体の断面写真である。
図5図5は、試験例3に記載される試料No.32のチタン系焼結体の断面写真である。
図6図6は、試験例3に記載される試料No.33のチタン系焼結体の断面写真である。
図7図7は、試験例3に記載される試料No.34のチタン系焼結体の断面写真である。
図8図8は、試験例3に記載される試料No.35のチタン系焼結体の断面写真である。
図9図9は、試験例4に記載される引張り試験の試験片を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
【0012】
<1>本開示のチタン系焼結体の製造方法は、
第一粉末とセラミックス粉末とを混合して混合粉末を作製する工程と、
前記混合粉末と第二粉末とを混合して、原料粉末を作製する工程と、
前記原料粉末を加圧成形して圧粉成形体を作製する工程と、
前記圧粉成形体を焼結してチタン系焼結体を作製する工程と、を備え、
前記第一粉末および前記第二粉末の組合わせは、下記(A)または(B)である。
(A)前記第一粉末がチタンまたはチタン合金によって構成された粉末であり、前記第二粉末がチタンと合金化することができる元素を含む粉末である組合わせ。
(B)前記第二粉末がチタンまたはチタン合金によって構成された粉末であり、前記第一粉末がチタンと合金化することができる元素を含む粉末である組合わせ。
【0013】
原料粉末にセラミックス粉末を混合することで、チタン合金のマトリックス中にセラミックス粉末由来の化合物が析出した構造を備えるメタルマトリックスコンポジット(以下、MMC)からなるチタン系焼結体が得られる。MMCは軽量で、耐熱性および耐摩耗性に優れる。
【0014】
上記製造方法では、原料粉末が複数種の粉末によって構成され、かつ混合が二段階に分けられている。このように複数種の粉末を段階的に混合することで、チタン系焼結体のマトリックスにおいて微細な複数の析出物が均一に分散する。また、複数種の粉末を段階的に混合した原料粉末を用いて圧粉成形体を作製することで、その圧粉成形体を焼結することで得られるチタン系焼結体の相対密度を劇的に向上させることができる。
【0015】
<2>上記<1>に記載されるチタン系焼結体の製造方法において、
前記第一粉末は、アルミニウムとバナジウムとを含む合金によって構成されており、
前記第二粉末は、チタンによって構成されていても良い。
【0016】
上記<2>に記載のチタン系焼結体の製造方法によれば、チタン系焼結体のマトリックスが、チタン(Ti)とアルミニウム(Al)とバナジウム(V)とを含むチタン合金によって構成される。チタン合金は例えば、Ti-6Al-4V、いわゆる64チタンである。64チタンは極めて強度に優れる。
【0017】
<3>上記<1>に記載されるチタン系焼結体の製造方法において、
前記第一粉末は、チタンによって構成されており、
前記第二粉末は、アルミニウムとバナジウムとを含む合金によって構成されていても良い。
【0018】
上記<3>に記載のチタン系焼結体の製造方法によれば、チタン系焼結体のマトリックスが、TiとAlとVとを含むチタン合金によって構成される。チタン合金は例えば64チタンである。64チタンは極めて強度に優れる。
【0019】
<4>上記<1>から<3>のいずれかに記載されるチタン系焼結体の製造方法において、
前記セラミックス粉末は二ホウ化チタンによって構成されていても良い。
【0020】
二ホウ化チタン(TiB)は、チタン系焼結体においてホウ化チタン(TiB)として析出する。析出物としてホウ化チタンを含むチタン系焼結体は軽量で、耐摩耗性および耐熱性に優れる。
【0021】
<5>上記<1>から<4>に記載されるチタン系焼結体の製造方法において、
前記第一粉末と前記セラミックス粉末とを、ボールミル、アトライター、またはジェットミルによって混合しても良い。
【0022】
ボールミル、アトライター、およびジェットミルは、セラミックス粉末に大きな応力を作用させながら第一粉末とセラミックス粉末とを混合することができる。そのため、混合粉末中にセラミックス粉末が微細な状態で均一に分散し易い。その結果、チタン系焼結体のマトリックス中にセラミックス由来の析出物が均一に分散配置され易い。
【0023】
<6>上記<1>から<5>のいずれかに記載されるチタン系焼結体の製造方法において、
前記混合粉末と前記第二粉末とを、V型混合機によって混合しても良い。
【0024】
V型混合機は、混合粉末と第二粉末とを均一的に混合できる。混合粉末に含まれる第一粉末と、第二粉末とによって、マトリックスのチタン合金が形成される。従って、混合粉末と第二粉末とが均一的に混合されることで、均質なマトリックスが得られ易い。
【0025】
<7>上記<1>から<6>のいずれかに記載されるチタン系焼結体の製造方法において、
前記圧粉成形体を作製する工程では、冷間静水圧プレスによって前記圧粉成形体を製造しても良い。
【0026】
冷間静水圧プレスの成形型は金属ではないので、原料粉末に含まれるチタンが成形型に焼き付かない。従って、プレスの圧力を高め易く、圧粉成形体の密度が高くなり易い。
【0027】
<8>上記<1>から<7>のいずれかに記載されるチタン系焼結体の製造方法において、
さらに、前記チタン系焼結体を熱間静水圧プレスによって圧縮する工程を備えていても良い。
【0028】
熱間静水圧プレスによってチタン系焼結体がさらに高密度化し、チタン系焼結体の強度が向上する。
【0029】
<9>本開示のチタン系焼結体は、
チタンを含むマトリックスと、
セラミックス粉末由来の化合物によって構成され、前記マトリックス中に分散する複数の析出物と、を備え、
断面における50以上の異なる複数の測定範囲のそれぞれから得られた複数の存在比率の平均値R0、最大値R1、および最小値R2が、以下の式を満たし、
R1≦R0+4.5
R2≧R0-4.5
前記複数の存在比率のそれぞれは、前記複数の測定範囲のそれぞれにおける前記マトリックスと前記複数の析出物との合計面積を100%としたときの前記複数の析出物の面積割合である。
【0030】
本開示のチタン系焼結体は、代表的にはチタン合金のマトリックス中にセラミックスからなる析出物が析出した構造を備えるMMCである。MMCは軽量で、耐熱性および耐摩耗性に優れる。
【0031】
平均値R0、最大値R1、および最小値R2の単位は%(パーセント)である。すなわち、R1≦R0+4.5は、最大値R1が平均値R0プラス4.5%以下を意味し、R2≧R0-4.5は、最小値R2が平均値R0マイナス4.5%以上を意味する。例えば、平均値R0が10%であれば、最大値R1は14.5%以下、最小値R2は5.5%以上である。析出物の存在比率の最大値R1と最小値R2とが上記式を満たすということは、各測定範囲の存在比率が平均値R0から大きく乖離していないことを意味する。つまり、上記式の規定は、複数の測定範囲における析出物の存在比率のバラツキが小さいこと示している。従って、本開示のチタン系焼結体では、チタン系焼結体の全域にわたって複数の析出物が均一に分散している。そのため、チタン系焼結体全体の機械的特性が均一である。このようなチタン系焼結体は、使用に伴い局所的に損傷し難く、長寿命である。
【0032】
<10>上記<9>に記載されるチタン系焼結体において、
前記マトリックスは、チタンとアルミニウムとバナジウムとを含む合金によって構成されていても良い。
【0033】
TiとAlとVとを含むチタン合金は強度に優れる。そのようなチタン合金は例えば64チタンである。64チタンは極めて強度に優れる。
【0034】
<11>上記<9>または<10>に記載されるチタン系焼結体において、
前記析出物は、ホウ化チタンによって構成されていても良い。
【0035】
ホウ化チタンは、チタン系焼結体の耐熱性および耐摩耗性を向上させる。
【0036】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、本開示のチタン系焼結体の製造方法の具体例を図面に基づいて説明する。図中の同一符号は同一または相当部分を示す。各図面が示す部材の大きさは、説明を明確にする目的で表現されており、必ずしも実際の寸法を表すものではない。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0037】
<実施形態1>
実施形態に係るチタン系焼結体の製造方法は、図1のフローチャートに示されるように、以下の工程を備える。
・第一の混合工程
・第二の混合工程
・原料粉末を加圧成形する工程
・圧粉成形体を切削加工する工程
・潤滑剤を除去する工程
・圧粉成形体を焼結する工程
・チタン系焼結体を熱間静水圧プレスによって圧縮する工程
・仕上げ加工する工程
以下、各工程を詳細に説明する。
【0038】
≪第一の混合工程≫
第一の混合工程では、複数種の粉末からなる原料粉末のうち、第一粉末とセラミックス粉末とを混合して混合粉末を作製する。第一粉末は、純チタンからなる粉末でも良いし、チタン合金からなる粉末でも良い。第一粉末は、チタンと合金化することができる第一元素を含む粉末でも良い。上記第一元素は例えば、アルミニウム(Al)、バナジウム(V)、スズ(Sn)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、またはジルコニウム(Zr)である。第一元素は、どのような組成のチタン系焼結体を作製するかによって適宜選択される。第一元素を含む第一粉末の一例は、アルミニウムとバナジウムの化合物からなるAl-V粉末である。セラミックス粉末は例えば、二ホウ化チタン(TiB)である。
【0039】
第一粉末とセラミックス粉末とを混合する第一の混合工程は例えば、ボールミル、アトライター、またはジェットミルによって実施することができる。セラミックス粉末を含む2種類以上の粉末に高エネルギーを付与する方法で混合することでセラミックス粉末が微細に分散し易くなる。
【0040】
≪第二の混合工程≫
第二の混合工程では、第一の混合工程によって得られた混合粉末と、第二粉末とを混合して、原料粉末を作製する。第二粉末は、純チタンからなる粉末でも良いし、チタン合金からなる粉末でも良いし、上記第一元素を含む粉末でも良い。ここで、第一粉末がチタンまたはチタン合金によって構成される粉末である場合、第二粉末は第一元素を含む粉末である。第一粉末が第一元素を含む粉末である場合、第二粉末はチタンまたはチタン合金によって構成される粉末である。
【0041】
混合粉末と第二粉末とを混合する第二の混合工程は例えば、V型混合機によって実施することができる。V型混合機は、粉末を混合する能力に優れる。従って、混合粉末と第二粉末とが均一的に混合される。V型混合機による混合方法は、原料粉末に付与されるエネルギーが比較的低い混合方法である。
【0042】
原料粉末の粒径、すなわち第一粉末の粒径と第二粉末の粒径とセラミックス粉末の粒径は例えば、0.1μm以上100μm以下である。微細な原料粉末を加圧成形する際、圧粉成形体を構成する粒子の隙間に空気が含まれ易く、圧粉成形体の酸素濃度が高くなり易い。圧粉成形体に含まれる酸素は、圧粉成形体を焼結することで得られるチタン系焼結体の機械的特性を低下させる恐れがある。原料粉末の粒径が0.1μm以上であれば、混合の際に凝集を抑制できる。原料粉末の粒径が100μm以下であれば、圧粉成形体およびチタン系焼結体の密度が高くなり易い。原料粉末の粒径は例えば、0.5μm以上90μm以下でも良い。
【0043】
第二の混合工程において、混合粉末と第二粉末にさらに潤滑剤を混合しても良い。潤滑剤は、圧粉成形体の切削加工性を向上させる。圧粉成形体を切削加工しないのであれば、潤滑剤を圧粉成形体に含ませる必要はない。潤滑剤は例えば、ステアリン酸、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸アミド、またはエチレンスビスステアリン酸アミドである。
【0044】
原料粉末に対する潤滑剤の混合量は例えば、原料粉末を100質量%としたとき、0.05質量%以上0.5質量%以下である。100質量%の原料粉末に対する潤滑剤の混合量が0.05質量%以上であれば、後述する圧粉成形体を切削加工する工程において圧粉成形体を切削加工し易い。100質量%の原料粉末に対する潤滑剤の混合量が0.5質量%以下であれば、原料粉末に対する潤滑剤の量が多くなり過ぎず、圧粉成形体の密度が高くなり易い。潤滑剤の混合量は、0.2質量%以上0.5質量%以下でも良いし、0.3質量%以上0.4質量%以下でも良い。
【0045】
≪原料粉末を加圧成形する工程≫
加圧成形は例えば、冷間静水圧プレスによって実施される。成形温度は0℃以上50℃以下である。冷間静水圧プレスの成形型は、非金属の弾性体、例えばウレタンゴム、またはアクリル樹脂、エラストマーを含有するアクリル樹脂、ポリ乳酸(PLA)樹脂によって構成される。冷間静水圧プレスの成形型は金属ではないので、チタンは成形型に焼き付かない。冷間静水圧プレスによって得られる圧粉成形体の形状は比較的単純な形状を有する。例えば、圧粉成形体の形状は円柱状、または円筒状である。
【0046】
成形圧力は、原料粉末の材質、および圧粉成形体の密度によって適宜選択される。例えば成形圧力は200MPa以上である。成形圧力は350MPa以上でも良いし500MPa以上でも良い。成形圧力の上限は設備の能力に依存する。例えば、成形圧力の上限は800MPaである。成形圧力が高いほど、圧粉成形体の密度が高くなり易い。
【0047】
≪圧粉成形体を切削加工する工程≫
切削加工は例えば、旋盤またはマシニングセンタによって実施される。切削加工は、バイトなどによる連続切削でも良いし、回転工具などによる断続切削でも良い。圧粉成形体に潤滑剤が含まれることで、切削加工時に切削工具が損傷し難い。切削工具が損傷し難いことで、切削工具の交換に伴う切削加工のコストの上昇を抑制できる。また、切削精度が低下し難く、切削された圧粉成形体の表面性状が向上する。
【0048】
圧粉成形体における潤滑剤の含有量が多くなるほど、切削工具が損傷し難く、圧粉成形体の表面性状が向上し易い。圧粉成形体における原料粉末に対する潤滑剤の含有量は、原料粉末と潤滑剤との混合時における原料粉末に対する潤滑剤の混合量と同じとみなして良い。
【0049】
圧粉成形体を切削加工する工程は必須ではない。圧粉成形体は、切削加工されることなく焼結されても良い。
【0050】
≪潤滑剤を除去する工程≫
潤滑剤を除去する工程では、圧粉成形体を400℃以下の不活性雰囲気で熱処理する。不活性雰囲気は例えば、窒素雰囲気またはアルゴン雰囲気である。400℃以下の不活性雰囲気下では、圧粉成形体に含まれるチタンが窒化し難い。窒化チタンはもろいため、圧粉成形体に窒化チタンが生成されると、圧粉成形体を焼結することで得られるチタン系焼結体の機械的特性が低下する恐れがある。また、窒化チタンは、圧粉成形体の焼結を阻害し、チタン系焼結体の機械的特性を低下させる恐れがある。ここで、圧粉成形体がアルゴン雰囲気で熱処理される場合であっても、圧粉成形体に空気が含まれている場合があるため、400℃超のアルゴン雰囲気下において窒化チタンが生成され得る。
【0051】
ステアリン酸は270℃以上で気化する。従って、潤滑剤としてステアリン酸が含まれる圧粉成形体は例えば、270℃以上380℃以下の不活性雰囲気で熱処理される。不活性雰囲気の温度範囲が270℃以上380℃以下であれば、圧粉成形体からステアリン酸のほとんどが除去される。また、上記温度範囲では、圧粉成形体中に窒化チタンが生成されることを効果的に抑制できる。
【0052】
圧粉成形体が上記温度範囲に維持される時間、すなわち熱処理時間は例えば10分以上8時間以下である。熱処理時間が10分以上であれば、圧粉成形体の中心部の温度が十分に高くなり、圧粉成形体全体から潤滑剤が除去され易い。熱処理時間が8時間以下であれば、チタン系焼結体の作製時間が長くなり過ぎない。熱処理時間は3時間以上6時間以下でも良い。熱処理後の圧粉成形体は、炉内で常温まで冷却される。
【0053】
圧粉成形体に潤滑剤が含まれていない場合、潤滑剤を除去する工程は必要ない。
【0054】
≪圧粉成形体を焼結する工程≫
圧粉成形体を焼結する工程では、圧粉成形体を真空雰囲気で焼結する。雰囲気圧力は例えば0.1Pa以下である。雰囲気温度は、原料粉末の材質によって適宜選択される。例えば、雰囲気温度は1100℃以上1400℃以下である。
【0055】
焼結時間は例えば、1時間以上25時間以下である。焼結時間が1時間以上であれば、圧粉成形体全体が十分に焼結され易い。焼結時間が25時間以下であれば、チタン系焼結体の作製時間が長くなり過ぎない。焼結時間は8時間以上18時間以下でも良い。チタン系焼結体は、炉内で常温まで冷却される。
【0056】
真空雰囲気においても微量ながら空気が含まれている。従って、圧粉成形体の焼結時に空気中の窒素が、圧粉成形体に含まれるチタンと反応する恐れがある。圧粉成形体をジルコニアボール中に埋設し、さらにジルコニアボールの上にチタン片からなるゲッターを配置することで、チタン系焼結体における窒化チタンの量が低減される。
【0057】
チタン系焼結体の相対密度は例えば95体積%(パーセント)以上である。本例の相対密度は、測定対象の体積に占める実体部分の体積割合である。ここで、焼結前の圧粉成形体の相対密度が同じであっても圧粉成形体の作製方法が異なれば、チタン系焼結体の相対密度は変化する。例えば、プレアロイ粉末からなる原料粉末によって構成された圧粉成形体を焼結した場合、チタン系焼結体の相対密度は高くなり難い。プレアロイ粉末とは、チタン系焼結体を構成するチタン合金と同じ組成を有する粉末である。一方、複数種の粉末を混合した原料粉末によって構成される圧粉成形体を焼結した場合、チタン系焼結体の相対密度が高くなり易い。
【0058】
≪チタン系焼結体を熱間静水圧プレスによって圧縮する工程≫
熱間静水圧プレスによって、チタン系焼結体の相対密度がさらに高くなる。熱間静水圧プレスに供されるチタン系焼結体の相対密度は95%以上である。相対密度が95%未満のチタン系焼結体は、熱間静水圧プレスによる密度向上は困難である。
【0059】
熱間静水圧プレスの温度は、チタン系焼結体の組成によって適宜選択される。例えば、熱間静水圧プレスの温度は800℃以上1100℃以下である。処理時間は例えば30分以上6時間以下である。処理時間が30分以上であれば、チタン系焼結体の相対密度が十分に高くなる。処理時間が6時間以下であれば、チタン系焼結体の製作時間が長くなり過ぎない。処理時間は1時間以上4時間以下でも良い。チタン系焼結体は、熱間静水圧プレス装置内で常温まで冷却される。圧力は例えば、150MPa以上である。
【0060】
≪仕上げ加工する工程≫
仕上げ加工する工程では、例えばチタン系焼結体の表面を研削する。研削によって、チタン系焼結体の寸法が所望の寸法となると共に、チタン系焼結体の表面が滑らかになる。また、研削によってチタン系焼結体の表面に濃化した不純物がチタン系焼結体の表面から除去される。不純物は例えば、酸化チタン、炭化チタン、または窒化チタンなどである。チタン系焼結体の表面から不純物が除去されることで、チタン系焼結体の機械的特性が向上する。
【0061】
≪チタン系焼結体≫
本例のチタン系焼結体1は、図4に示されるように、マトリックス2と、マトリックス2中に分散する複数の析出物3と、を備えるMMCである。図4は、後述する試験例3において作製されたチタン系焼結体の断面写真である。MMCは、引張強度、耐熱性および耐摩耗性に優れる。
【0062】
マトリックス2はチタンを含む。マトリックス2は例えば、チタン合金からなる。チタン合金は例えば、Ti-5Al-2.5Sn、Ti-6Al-4V、Ti-3Al-2.5V、Ti-6Al-4V-2Sn、Ti-15V-3Cr-3Sn-3A、Ti-13V-11Cr-3Al、またはTi-3Al-8V-6Cr-4Mo-4Zrである。特に、Ti-6Al-4Vは強度に優れる。
【0063】
析出物3は、セラミックスによって構成される。析出物3は例えば、TiBである。セラミックス粉末由来の析出物3は、チタン系焼結体の引張強度、耐摩耗性および耐熱性の向上に寄与する。
【0064】
本例のチタン系焼結体1では、チタン系焼結体1の全域にわたって複数の析出物3が均一に分散しており、チタン系焼結体1全体の機械的特性が均一である。そのため、本例のチタン系焼結体1は、使用に伴い局所的に損傷し難く、長寿命である。
【0065】
チタン系焼結体1の均質性は、チタン系焼結体1の複数箇所における析出物3の存在比率のバラツキによって評価できる。本例では、複数の存在比率の平均値R0、最大値R1、および最小値R2が、以下の式を満たすことを、評価の指標とする。
R1≦R0+4.5
R2≧R0-4.5
【0066】
複数の存在比率のそれぞれは、複数の測定範囲のそれぞれにおけるマトリックス2と複数の析出物3との合計面積を100%としたときの前記複数の析出物の面積割合である。複数の測定範囲は、チタン系焼結体1の断面から得られる。測定範囲の数は10以上である。析出物3の存在比率の最大値R1と最小値R2とが上記式を満たすということは、各測定範囲の存在比率が平均値R0から大きく乖離していないことを意味する。つまり、上記式の規定は、複数の測定範囲における存在比率のバラツキが小さいことを表している。
【0067】
<試験例>
≪試験例1≫
試験例1では、潤滑剤の有無、および潤滑剤の量が、圧粉成形体の切削性に及ぼす影響を調べた。試験例1で用意した試料は以下の通りであった。
【0068】
[試料No.1]
Al-V合金からなる第一粉末を用意した。第一粉末の粒径は20μm以上90μm以下であった。第一粉末は、市販のAl-V合金粉末を分級することによって得た。
【0069】
純チタンからなる第二粉末を用意した。第二粉末の粒径は20μm以上45μm以下であった。第二粉末は、市販のチタン粉末を分級することによって得た。
【0070】
二ホウ化チタン(TiB)からなるセラミックス粉末を用意した。セラミックス粉末の粒径は0.7μm以上10μm以下であった。
【0071】
1221gの第一粉末と77.9gのセラミックス粉末とをボールミルによって混合し、第一粉末とセラミックス粉末とからなる混合粉末を作製した。ボールミルの容器は炭化タングステン製であった。また、ボールミルの容器に投入される粉砕ボールは炭化タングステン製であった。粉砕ボールの直径は10mm、粉砕ボールの数は50個であった。混合条件は、300rpmで1時間であった。『rpm』とは、1分間あたりの回転数である。
【0072】
154gの混合粉末と846gの第二粉末とをV型混合機によって混合し、原料粉末を作製した。この原料粉末を冷間静水圧プレスによって加圧成形し、円筒状の圧粉成形体を作製した。成形圧力は390MPa、保持時間は30秒であった。圧粉成形体の外径は40mm、内径は20mm、高さは30mmであった。圧粉成形体には潤滑剤は含まれていない。
【0073】
[試料No.2から試料No.5]
試料No.2から試料No.5の圧粉成形体は潤滑剤を含む。試料No.2から試料No.5と、試料No.1との相違点は、潤滑剤の有無のみである。潤滑剤はステアリン酸であった。潤滑剤は、混合粉末および第二粉末と共にV型混合機に投入された。試料No.2における潤滑剤の混合量は、原料粉末を100質量%としたとき、0.05質量%であった。試料No.3における潤滑剤の混合量は0.1質量%、試料No.4における潤滑剤の混合量は0.3質量%、試料No.5における潤滑剤の混合量は0.5質量%であった。
【0074】
[試料No.100]
試料No.100は試料No.3と同じ製法で作製した圧粉成形体を窒素雰囲気にて380℃×4時間熱処理し、さらに真空雰囲気にて1300℃×12時間焼結を行った焼結材である。
【0075】
[切削試験]
試料No.100の焼結材と試料No.1から試料No.5の圧粉成形体の表面を旋盤によって切削加工した。切削加工はドライ加工であった。周速Sは180m/min、送りFは0.2mm/rev、切り込みDは0.5mm/revであった。切削加工試験後の切削工具の摩耗量をマイクロスコープに備わる測定器によって測定した。その結果、試料No.2から試料No.5の切削加工に使用された切削工具の摩耗量は、試料No.1および試料No.100の摩耗量よりも小さかった。また、潤滑剤の混合量が多くなるほど、切削工具の摩耗量が小さくなった。ただし、潤滑剤の混合量が0.3質量%である試料No.4と、潤滑剤の混合量が0.5質量%である試料No.5と、では摩耗量にほとんど差はなかった。
【0076】
≪試験例2≫
試験例2では、原料粉末の混合方法が、チタン系焼結体の相対密度に及ぼす影響を調べた。試験例2で用意した試料は、以下の通りである。
【0077】
[試料No.21]
まず、試料No.3と同じ材料、同じ製造方法によって、試料No.21の圧粉成形体を作製した。従って、試料No.21の圧粉成形体は、純チタンからなる粉末と、Al-V合金からなる粉末と、TiBからなるセラミックス粉末と、潤滑剤と、を含む。
【0078】
イナートオーブン炉内に圧粉成形体を配置し、熱処理によって圧粉成形体からステアリン酸を除去した。イナートオーブン炉内の雰囲気は窒素雰囲気、熱処理温度は380℃、熱処理時間は4時間であった。イナートオーブン炉の昇温速度は5℃/minであった。
【0079】
焼結炉内に潤滑剤を除去した圧粉成形体を配置し、焼結によってチタン系焼結体を作製した。焼結炉の雰囲気は、0.1Pa以下の真空雰囲気、焼結温度は1300℃、焼結時間は12時間であった。焼結炉の昇温速度は1290℃までは6.7℃/min、1290℃から1300℃までは1℃/minであった。チタン系焼結体は、チタンを含むマトリックスと、マトリックス中に分散した複数の析出物と、を備えるMMCであった。マトリックスの組成は、Ti-6Al-4V合金、いわゆる64チタン合金であった。TiBに由来する析出物の組成はホウ化チタン(TiB)であった。
【0080】
試験例2では、圧粉成形体を焼結する前に圧粉成形体の相対密度を測定すると共に、チタン系焼結体の相対密度を測定した。相対密度は、測定対象の体積に占める実体部分の体積割合である。相対密度の単位は体積%である。相対密度はアルキメデス法により測定した。
【0081】
圧粉成形体の相対密度とチタン系焼結体の相対密度との関係を図2のグラフに示す。白丸のプロットは圧粉成形体の相対密度、黒丸のプロットはチタン系焼結体の相対密度を示す。図2の横軸は成形圧力、縦軸は相対密度である。成形圧力の単位はMPa(メガパスカル)である。図2には、成形圧力が100MPa、200MPa、300MPa、または390MPaである圧粉成形体の相対密度と、チタン系焼結体の相対密度を合わせて示す。
【0082】
図2に示されるように、成形圧力が高くなるほど、圧粉成形体の相対密度が高くなることが分かった。また、チタン系焼結体の相対密度は、焼結前の圧粉成形体の相対密度よりも15体積%以上上昇した。図2に示されるいずれのチタン系焼結体の相対密度も95体積%以上であった。これらのことから、圧粉成形体の相対密度が低くても、焼結によって95体積%以上の相対密度を有するチタン系焼結体を作製できることが分かった。一方、圧粉成形体を切削加工する際、圧粉成形体の相対密度が低いと、圧粉成形体が欠けたり割れたりする恐れがある。圧粉成形体の割れまたは欠けを抑制する観点から、圧粉成形体の相対密度は75体積%以上であることが望ましい。75体積%以上の相対密度を有する厚粉成形体を得るための成形圧力は例えば、300MPa以上である。
【0083】
[試料No.22]
試料No.22の圧粉成形体は、プレアロイ粉末とセラミックス粉末とステアリン酸との混合物を加圧成形することで得られたものである。プレアロイ粉末は、Ti-6Al-4V合金からなる粉末である。成形圧力は試料No.21と同じである。熱処理によって圧粉成形体から潤滑剤を除去し、焼結によってチタン系焼結体を作製した。熱処理の条件および焼結の条件は、試料No.21と同じである。試料No.22のチタン系焼結体も、マトリックス中に複数の析出物が分散したMMCであった。
【0084】
圧粉成形体の相対密度とチタン系焼結体の相対密度との関係を図3のグラフに示す。図3のグラフの見方は図2のグラフと同じである。図3に示されるように、成形圧力が高くなるほど、圧粉成形体の相対密度が高くなることが分かった。しかし、チタン系焼結体の相対密度は、焼結前の圧粉成形体の相対密度よりも5体積%程度しか上昇しなかった。図3に示されるいずれのチタン系焼結体の相対密度も85体積%以下であった。
【0085】
[まとめ]
試験例2の結果から、相対密度が95体積%以上のMMCを作製するには、複数種の粉末からなる原料粉末によって圧粉成形体を作製することが有効であることが分かった。
【0086】
<試験例3>
試験例3では、原料粉末の混合方法が、チタン系焼結体の組織に及ぼす影響を調べた。試験例3では、原料粉末の混合方法が異なる試料No.31から試料No.35を作製した。試料No.31から試料No.34の作製では、原料粉末を二回に分けて混合した。試料No.35の作製では、原料粉末を一度に混合した。各試料におけるボールミルの混合条件は300rpm×1時間、V型混合機による混合時間は1時間であった。
【0087】
[試料No.31]
1回目の混合では、Al-V合金からなる粉末とTiBからなるセラミックス粉末とをボールミルによって混合した混合粉末を作製した。2回目の混合では、混合粉末と純チタンからなる粉末とステアリン酸とをV型混合機によって混合した原料粉末を作製した。ステアリン酸の混合量は0.3質量%であった。
【0088】
[試料No.32]
1回目の混合では、純チタンからなる粉末とTiBからなるセラミックス粉末とをボールミルによって混合した混合粉末を作製した。2回目の混合では、混合粉末とAl-V合金からなる粉末とステアリン酸とをV型混合機によって混合した原料粉末を作製した。
【0089】
[試料No.33]
1回目の混合では、Al-V合金からなる粉末と純チタンからなる粉末とをボールミルによって混合した混合粉末を作製した。2回目の混合では、混合粉末とTiBからなるセラミックス粉末とステアリン酸と、をV型混合機によって混合した原料粉末を作製した。
【0090】
[試料No.34]
1回目の混合では、Al-V合金からなる粉末と純チタンからなる粉末とをボールミルによって混合した混合粉末を作製した。2回目の混合では、混合粉末とTiBからなるセラミックス粉末とステアリン酸とをボールミルによって混合した原料粉末を作製した。
【0091】
[試料No.35]
Al-V合金からなる粉末と純チタンからなる粉末とTiBからなるセラミックス粉末とをV型混合機によって混合した原料粉末を作製した。試料No.35にはステアリン酸は含まれていない。
【0092】
試料No.31から試料No.35の原料粉末からチタン系焼結体を作製した。各試料の冷間静水圧プレスの成形圧、潤滑剤を除去する熱処理の条件、および焼結の条件は同じであった。成形圧は390MPa、熱処理条件は380℃×4時間の窒素雰囲気、焼結条件は1300℃×12時間の真空雰囲気であった。
【0093】
各試料の断面を観察し、TiBからなる析出物の面積割合を測定した。試料No.31から試料No.35のチタン系焼結体の断面写真をそれぞれ、図4から図8に示す。断面写真における灰色の部分は64チタンからなるマトリックスであり、黒色の部分はTiBからなる析出物である。図4から図8を比較すると、試料No.31と試料No.32においてTiBの析出物が均一に分散していることが分かった。一方、試料No.33から試料No.35では、黒色の析出物が少ない領域が斑点状に多数認められることから、析出物が不均一に分散されていることが分かった。
【0094】
次に、TiBの分散状態を定量的に評価した。13.2mm×9.5mmの観察視野を64分割し、二値化処理によって各分割視野におけるマトリックスとTiBとを区別した。そして、画像解析ソフトによって、各分割視野におけるマトリックスと析出物の合計面積を100%としたときのTiBの面積割合を求めた。TiBの面積割合は、TiBの存在比率であり、単位は%である。各分割視野から得られた複数の存在比率の平均値R0、最大値R1、および最小値R2を求めた。各試料における平均値R0、最大値R1、および最小値R2を表1に示す。R1≦R0+4.5、かつR2≧R0-4.5を満たす試料の評価を『A』、満たさない試料の評価を『B』とした。R1≦R0+4.5、かつR2≧R0-4.5を満たす試料は、TiBの析出物がマトリックス中に均一に分散した試料と判断する。
【0095】
【表1】
【0096】
表1に示されるように、試料No.31および試料No.32では、マトリックス中にTiBが均一に分散していた。これらの試料は、第一の混合工程においてセラミックス粉末をボールミルによって混合した試料である。
【0097】
試料No.33および試料No.34では、マトリックス中におけるTiBの分散状態にバラツキがあった。これらの試料は、第二の混合工程においてセラミックス粉末を混合した試料である。
【0098】
試料No.35では、マトリックス中におけるTiBの分散状態にバラツキがあった。この試料は、チタン系焼結体を構成する全ての原料をボールミルによって一度に混合した試料である。
【0099】
これらの結果から、マトリックス中に析出物を均一に分散させるには、チタン系焼結体を構成する原料を複数回に分けて混合することが重要であることが分かった。また、セラミックス粉末は、第一の混合工程においてセラミックス粉末に高い応力を作用させる混合方法によって混合されることが重要であることが分かった。
【0100】
<試験例4>
試験例4では、MMCの機械的特性を調べた。試験例4で用意した試料は以下の通りであった。
【0101】
[試料No.40]
試料No.40は、64チタン合金からなる溶製体である。
【0102】
[試料No.41から試料No.44]
試料No.41、試料No.42、試料No.43、試料No.44、および試料No.45はそれぞれ、試験例3の試料No.31、試料No.32、試料No.33、試料No.34、および試料No.35と同じ構成を有するチタン系焼結体である。
【0103】
[引張試験]
各試料からなる試験片を作製し、引張試験を実施した。図9は、試験片5の形状を示す概略図である。試験片5は、第一グリップ部51と第二グリップ部52と中間部50とを備える。中間部50の直径は6.35mm(ミリメートル)、中間部50に設定される第一標点50Aと第二標点50Bとの間の標点間距離dは25.4mmであった。引張試験の温度は室温、0.2%耐力に至るまでのひずみ速度は1.2mm/min、0.2%耐力以降のひずみ速度は12.8mm/minであった。引張強さの単位はMPaであった。試験結果を表2に示す。
【0104】
【表2】
【0105】
表2に示されるように、試料No.41から試料No.45のチタン系焼結体の引張強さは、64チタンからなる溶製体の引張強さと同等、またはそれ以上であった。これらの結果から、本例のチタン系焼結体は、例えば自動車などの機械の構成部品の材料として有用であることが分かった。
【符号の説明】
【0106】
1 チタン系焼結体
2 マトリックス
3 析出物
5 試験片
50 中間部
50A 第一標点
50B 第二標点
51 第一グリップ部
52 第二グリップ部
d 標点間距離
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9