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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-26
(45)【発行日】2024-10-04
(54)【発明の名称】正極及び電気化学装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/131 20100101AFI20240927BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20240927BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20240927BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20240927BHJP
   C01G 51/00 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
H01M4/131
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/13
C01G51/00 A
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2023513778
(86)(22)【出願日】2020-12-24
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-13
(86)【国際出願番号】 CN2020138985
(87)【国際公開番号】W WO2022133894
(87)【国際公開日】2022-06-30
【審査請求日】2023-02-27
(73)【特許権者】
【識別番号】514257398
【氏名又は名称】東莞新能源科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】DONGGUAN AMPEREX TECHNOLOGY LIMITED
【住所又は居所原語表記】No.1 Industrial West Road,Songshan Lake High-tech Industrial Development Zone, Dongguan City, Guangdong Province, People’s Republic of China
(74)【代理人】
【識別番号】100166338
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 正夫
(72)【発明者】
【氏名】王 凱
(72)【発明者】
【氏名】呉 霞
【審査官】窪田 陸人
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-151546(JP,A)
【文献】特開2007-173210(JP,A)
【文献】特開平09-199127(JP,A)
【文献】特開2019-179682(JP,A)
【文献】特開2014-164836(JP,A)
【文献】特開2002-279985(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
C01G 51/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体上に位置する正極活物質層を含み、
前記正極活物質層はリチウム遷移金属複合酸化物を含み、
前記リチウム遷移金属複合酸化物の前記集電体が位置する平面に平行する方向における平均粒子径をDpとし、前記リチウム遷移金属複合酸化物の前記集電体が位置する平面に垂直する方向における平均粒子径がDvとした場合、1.1≦Dp/Dv≦2.3を満た
前記リチウム遷移金属複合酸化物は、長軸平均粒子径D と短軸平均粒子径D とを有し、1.4≦(D /D )≦5.5を満たす、
正極。
【請求項2】
前記リチウム遷移金属複合酸化物は5μm≦Dp≦25μmを満たす、請求項1に記載の正極。
【請求項3】
前記リチウム遷移金属複合酸化物は、0.8≦(Dp+Dv)/2DN50≦1.25を満たし、DN50は前記リチウム遷移金属複合酸化物のメディアン径である、請求項1に記載の正極。
【請求項4】
a)前記リチウム遷移金属複合酸化物は、R-3m空間群構造を有し、前記リチウム遷移金属複合酸化物は、Lix1Niy1Coz1Mnb-aを含み、ZはB、Mg、Al、Si、P、S、Ti、Cr、Fe、Cu、Zn、Ga、Y、Zr、Mo、Ag、W、In、Sn、Pb、Sb及びCeからなる群より選ばれる少なくとも1種を含み、Tはハロゲンであり、かつ、x1、y1、z1、k、q、a及びbは、それぞれ0.2<x1≦1.2、0≦y1≦1、0≦z1≦1、0≦k≦1、0≦q≦1、1≦b≦2及び0≦a≦1を満たすことと、
b)前記リチウム遷移金属複合酸化物は、P63mc空間群構造を有し、前記リチウム遷移金属複合酸化物は、Lix2Naz2Co1-y2y22±nを含み、0.6<x2<0.95、0≦y2<0.15、0≦z2<0.03、0≦n≦0.2であり、MはAl、Mg、Ti、Mn、Fe、Ni、Zn、Cu、Nb、Cr及びZrからなる群より選ばれる少なくとも1種を含み、Xはハロゲンであることと、
のうち少なくとも一つを満たす、請求項1に記載の正極。
【請求項5】
前記リチウム遷移金属複合酸化物は、7μm≦D≦28μmを満たす、請求項に記載の正極。
【請求項6】
前記正極を含む電気化学装置を4.6Vの電圧まで充電したとき、前記正極は、X線回折スペクトルが17°から20°までの範囲に少なくとも特徴的なピークPと特徴的なピークPとを有し、前記Pのピーク強度Iが前記Pのピーク強度Iより大きいことを満たし、且つ、
前記電気化学装置を3.0Vの電圧まで放電したとき、前記正極は、X線回折スペクトルが17°から20°までの範囲に特徴的なピークPを有し、前記Pのピーク強度Iは(I-I)≦I≦(I+I)を満たす、請求項1に記載の正極。
【請求項7】
前記Pのピーク強度Iに対する前記Pのピーク強度Iの比I/Iは0.8以上である、請求項に記載の正極。
【請求項8】
前記正極を含む電気化学装置を3.0Vから4.6Vまでの範囲で8回充放電サイクルを行い、3.0Vの電圧まで放電したとき、前記正極は、サイクル後の前記正極のX線回折スペクトルにおける最も高いピークのピーク位置シフト量が、サイクル前の前記正極に比べて0.1°以下であり、前記最も高いピークの半値幅の変化率が5%より低い、ことを満たす、請求項1に記載の正極。
【請求項9】
請求項1~のいずれか1項に記載の正極と、負極と、セパレータとを含む、電気化学装置。
【請求項10】
3.0Vの電圧まで放電したとき、前記負極の表面にストライプを有する、請求項に記載の電気化学装置。
【請求項11】
請求項10のいずれか1項に記載の電気化学装置を含む、電子装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、電池技術分野に関し、具体的に、正極及び電気化学装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
新エネルギー技術の発展及びエネルギー貯蔵材料の研究の進展に伴い、例えばリチウムイオン電池等のような二次電池は、幅広く適用されている。二次電池の性能に対する市場の要求も厳しくなっている。正極は二次電池の性能に影響する重要な要素であり、リチウム遷移金属複合酸化物の形状は正極の容量と安定性に重要な影響を与える。
【0003】
従って、現在の正極及び二次電池に改善の余地がある。
【発明の概要】
【0004】
本願は、関連技術における技術的課題を少なくともある程度解決することを目的とする。そのために、本願の一目的は、リチウム遷移金属複合酸化物の形態、及び集電体の表面におけるリチウム遷移金属複合酸化物の配向状況を制御することにより、電解液と接触する側のリチウム遷移金属複合酸化物のリチウムイオン放出能力を向上させ、正極安定性を向上させ、粒子の相転移による粉化等の問題を軽減することができる、正極を提供する。
【0005】
本願の一形態において、本願は、集電体上に位置する正極活物質層を含み、正極活物質層はリチウム遷移金属複合酸化物を含み、リチウム遷移金属複合酸化物の集電体が位置する平面に平行する方向における平均粒子径をDpとし、リチウム遷移金属複合酸化物の集電体が位置する平面に垂直する方向における平均粒子径をDvとした場合、1.1≦Dp/Dv≦2.3を満たす、正極を提供する。本発明者は、リチウム遷移金属複合酸化物粒子の形状を制御し、かつ集電体の表面における当該リチウム遷移金属複合酸化物の分布の配向状況を制御することにより、使用過程(充放電)で、リチウム遷移金属複合酸化物が相転移や割れを起こることによる正極の粉化等の問題を軽減することができ、これによって、当該正極は良好な高圧サイクル性能を有する、ことを見出した。
【0006】
本願のいくつかの実施例によれば、リチウム遷移金属複合酸化物は、5μm≦Dp≦25μmを満たす。これによって、当該リチウム遷移金属複合酸化物は、集電体に良好な配向を有させるため、粒子における優勢な結晶面と非優勢な結晶面をより合理的に配列させて、当該正極に良好な高圧サイクル性能を有させることができる。
【0007】
本願のいくつかの実施例によれば、リチウム遷移金属複合酸化物は、0.8≦(Dp+Dv)/2DN50≦1.25を満たし、DN50はリチウム遷移金属複合酸化物のメディアン径である。
【0008】
本願のいくつかの実施例によれば、リチウム遷移金属複合酸化物は、R-3m空間群構造を有する。
【0009】
本願のいくつかの実施例によれば、リチウム遷移金属複合酸化物は、Lix1Niy1Coz1Mnb-aを含み、ZはB、Mg、Al、Si、P、S、Ti、Cr、Fe、Cu、Zn、Ga、Y、Zr、Mo、Ag、W、In、Sn、Pb、Sb及びCeからなる群より選ばれる少なくとも1種を含み、Tはハロゲンであり、かつ、x1、y1、z1、k、q、a及びbは、それぞれ0.2<x1≦1.2、0≦y1≦1、0≦z1≦1、0≦k≦1、0≦q≦1、1≦b≦2及び0≦a≦1を満たす。
【0010】
本願のいくつかの実施例によれば、リチウム遷移金属複合酸化物は、P63mc空間群構造を有する。
【0011】
本願のいくつかの実施例によれば、リチウム遷移金属複合酸化物は、Lix2Naz2Co1-y2y22±nを含み、0.6<x2<0.95、0≦y2<0.15、0≦z2<0.03、0≦n≦0.2であり、MはAl、Mg、Ti、Mn、Fe、Ni、Zn、Cu、Nb、Cr及びZrからなる群より選ばれる少なくとも1種を含み、Xはハロゲンである。
【0012】
本願のいくつかの実施例によれば、正極を含む電気化学装置を4.6Vの電圧まで充電したとき、正極は、X線回折スペクトルが17°から20°までの範囲に少なくとも特徴的なピークPと特徴的なピークPとを有し、Pのピーク強度IがPのピーク強度Iより大きいことを満たす。
【0013】
本願のいくつかの実施例によれば、正極を含む電気化学装置を3.0Vの電圧まで放電したとき、正極は、X線回折スペクトルが17°から20°までの範囲に特徴的なピークPを有することを満たす。Pのピーク強度Iは、(I-I)≦I≦(I+I)を満たす。これによって、当該正極は、より良好なサイクル安定性を有することができる。
【0014】
本願のいくつかの実施例によれば、Pのピーク強度Iに対するPのピーク強度Iの比I/Iは0.8以上である。これによって、当該正極におけるリチウム遷移金属複合酸化物はサイクル中に良好な結晶性を維持することができる。
【0015】
本願のいくつかの実施例によれば、リチウム遷移金属複合酸化物は、長軸平均粒子径Dと短軸平均粒子径Dとを有し、かつ、長軸平均粒子径Dと短軸平均粒子径Dは1.4≦(D/D)≦5.5を満たす。本願のいくつかの実施例によれば、リチウム遷移金属複合酸化物は、長軸平均粒子径Dと短軸平均粒子径Dとを有し、かつ、長軸平均粒子径Dと短軸平均粒子径Dは1.4≦(D/D)≦3.8を満たす。これによって、当該リチウム遷移金属複合酸化物は、良好な粒子形態を有し、活性結晶面と非活性結晶面との割合が適切である。
【0016】
本願のいくつかの実施例によれば、7μm≦D≦28μmである。
【0017】
本願のいくつかの実施例によれば、正極は、正極を含む電気化学装置を3.0Vから4.6Vまでの範囲で8回充放電サイクルを行い、3.0Vの電圧まで放電したときのサイクル後の正極のX線回折スペクトルにおける最も高いピークのピーク位置シフト量が、サイクル前の正極に比べて0.1°以下であり、最も高いピークの半値幅の変化率が5%より低い、ことを満たす。これによって、当該正極粒子は、良好なサイクル性能を有する。
【0018】
本願の他の形態において、本願は、上記した正極と、負極と、セパレータとを含む電気化学装置を提供する。これによって、当該二次電池は、上記した正極が有する全ての特徴と利点を有し、ここではその説明を省略する。
【0019】
本願のいくつかの実施例によれば、3.0Vの電圧まで放電したとき、負極の表面にストライプを有する。
【0020】
本願の別の形態において、本願は、上記した正極を調製する方法を提供する。当該方法は、リチウム遷移金属複合酸化物を提供し、リチウム遷移金属複合酸化物を導電剤及びバインダーと配合して正極スラリーを形成することと、正極スラリーを集電体の表面に塗布することと、正極スラリーを有する集電体に対して冷間圧延処理を行い、冷間圧延処理は30~40トンの圧力で行われ、冷間圧延の速度は3~4メートル/分であり、圧縮密度を4.05~4.25g/cmに制御することとを含む。これによって、上記した正極が簡単に得られるとともに、当該正極に良好なサイクル性能を有させることができる。
【0021】
本願のいくつかの実施例によれば、正極スラリーにおけるリチウム遷移金属複合酸化物と導電剤とバインダーとの重量比は(94~99):(0.5~3):(0.5~3)である。これによって、導電剤とリチウム遷移金属複合酸化物とバインダーとの配合比が適当な正極スラリーが得られる。
【0022】
本願のいくつかの実施例によれば、方法は、正極スラリーを集電体の表面に塗布した後、冷間圧延処理を行う前に、集電体の表面の正極スラリーを乾燥させることをさらに含み、そして、冷間圧延処理を行った後、集電体を裁断することをさらに含む。
【0023】
本願の別の形態において、本願は、負極修飾方法を提供する。当該負極修飾方法は、負極活物質層の表面に添加剤を展延し、ロールプレス処理を行うことを含む。前記添加剤はリチウム粉末、リチウムリボン及びリチウム含有化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は本願の一実施例における正極の構造模式図である。
図2図2は本願の一実施例における電気化学装置の構造模式図である。
図3図3は本願の一実施例における正極を調製する方法の模式的フロー図である。
図4図4は本願の実施例1における正極の走査電子顕微鏡写真である。
図5図5は本願の実施例1における正極のX線回折スぺクトルである。
図6図6は本願の比較例1における正極のX線回折スぺクトルである。
図7図7は本願の実施例1における負極の光学的写真である。
図8図8は本願の比較例1における負極の光学的写真である。
図9図9は本願の実施例1と比較例1のサイクル性能の測定結果の図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下では、本願の実施例を詳しく説明する。以下に説明される実施例は例示的なものであり、本願を解釈するのみに用いられるが、本願を制限するものと理解できない。実施例に具体的な技術または条件が明記されない場合、当分野の文献に記載の技術又は条件に従って、或いは製品の明細書に従って行う。使用される試薬または機器は、製造メーカーが明記されない場合、いずれも市販されている一般的な製品である。
【0026】
本願は、発明者の以下の知見と研究に基づいて完成されたものである。
【0027】
現在の正極、例えば、リチウムイオン二次電池の正極は、リチウム遷移金属複合酸化物における活性Li含有物質の粒子のサイズや形態を制御することで、正極の性能に対する制御を達成することができる。しかしながら、現在の正極には、依然として、サイクル性能を向上させる課題がある。本発明者は、リチウム遷移金属複合酸化物自身の形態特性以外、集電体におけるリチウム遷移金属複合酸化物の配向も正極の性能に影響を与える、ことを見出した。特に、リチウム遷移金属複合酸化物は、通常、完全に対称な球状粒子ではなく、正極材料の形状は、その結晶面の成長制御に制限され、粒子における優勢な結晶面はより速く成長し、他の結晶面はより遅く成長する。そのため、リチウム遷移金属複合酸化物は、ほとんどの場合、完全な球状ではなく、楕円球状である。合成条件に対して制御を行うと、得られたリチウム遷移金属複合酸化物の結晶面の割合も変化する。例えば、リチウム遷移金属複合酸化物における優勢な結晶面が多すぎると、得られたリチウム遷移金属複合酸化物の楕円球の長辺は短辺より遥かに大きい。そして、優勢な結晶面の割合を減らし、他の結晶面を増やすことを制御することにより、球状に近い粒子が得られる。コバルト酸リチウムなどのコバルト系材料に対して、優勢な結晶面は、リチウムを放出できないが非常に安定であり、そして、非優勢な結晶面における割合が最大な結晶面、例えば104結晶面は、リチウムを放出できるが、安定ではなく相転移しやすい。このため、優勢な結晶面が多過ぎると、材料のリチウム放出が影響を受けるとともに、形状が扁平すぎて加工されにくい。逆に、非優勢な結晶面が多過ぎると、粒子表面は安定ではなく相転移しやすいので失効する。正極を形成する際に、一般的に、リチウム遷移金属複合酸化物を導電粒子とバインダー等の成分とともにスラリーとして混合し、続いてスラリーを正極集電体の表面に塗布し、乾燥、冷間圧延等の一連の処理を経った後、リチウム遷移金属複合酸化物は、集電体的表面に一定の配向で分布している。
【0028】
リチウム遷移金属複合酸化物は対称な粒子ではないため、集電体に分布するリチウム遷移金属複合酸化物の配向を制御しなければ、リチウム遷移金属複合酸化物の性能を十分に発揮させることができない。例えば、優勢な結晶面は、集電体の電解液に向く側に露出され過ぎると、正極の安定性は良好であるが、非優勢な結晶面と電解液との距離が大きくなるので、正極のリチウム放出性能が影響を受ける。それに対し、非優勢な結晶面は、集電体の電解液に向く側に露出され過ぎると、当該正極の安定性が劣り、正極材料は粉化しやすい。また、リチウム遷移金属複合酸化物は加工中に破損したり、正極集電体の表面に不均一に分布したり、配向が乱れたりすることは、リチウム遷移金属複合酸化物の電気化学性能の発揮に不利である。
【0029】
これに鑑み、本願の一形態において、本願は正極を提供する。図1を参照して、当該正極100は、集電体110と活物質層120とを含み、活物質層120は集電体110に位置し、活物質層120は、リチウム遷移金属複合酸化物120Aとリチウム遷移金属複合酸化物120Bとリチウム遷移金属複合酸化物120Cとを含む。リチウム遷移金属複合酸化物120A、120B、120Cの集電体110が位置する平面に平行する方向(図に示すA-A’方向)における平均粒子径Dpと、集電体110が位置する平面に垂直する方向(図に示すB-B’方向)における平均粒子径Dvとの比Dp/Dvは、1.1≦Dp/Dv≦2.3を満たす。本発明者は、当該正極が良好な高圧サイクル性能を有し、リチウム遷移金属複合酸化物粒子の形状を制御し、かつ、集電体の表面に分布する配向を制御することにより、使用過程(充放電)で、リチウム遷移金属複合酸化物が相転移や割れを起こることによる正極の粉化等の問題を軽減することができる、ことを見出した。
【0030】
前述したように、リチウム遷移金属複合酸化物は、一定の配向で集電体に分布するため、リチウム遷移金属複合酸化物のDpとDvとの割合を制御して、リチウム遷移金属複合酸化物が集電体の表面に分布する状況をより適切に把握できる。これによって、リチウム遷移金属複合酸化物の電気化学性能が正極で十分に反映させることができる。具体的に、楕円球状または扁平の粒子に対して、リチウム遷移金属複合酸化物の多くは、粒子の長軸の直径が集電体110が位置する平面と平行になるように分布している(図1に示す120B)場合、非活性面が電池負極に対向し、このとき、リチウムの移動経路が増加し、この状態での粒子の安定性が良好で、粉化しにくい。リチウム遷移金属複合酸化物の多くは、粒子の長軸の直径が集電体110が位置する平面と垂直になるように分布している場合、図に示す120Aのように、このとき、活性面が電池負極と対向し、粒子が加工中に破損されやすく、正極の性能に影響を与える。リチウム遷移金属複合酸化物自身の粒子の形態に対して制御を行い、加工中の、冷間圧延の圧力及び加圧方向等を含むがこれらに限定しないパラメーターを調整することで、DpとDvとの割合が一定の範囲であることを確保できる。つまり、このときのリチウム遷移金属複合酸化物には、電池負極に対向する十分な非優勢な結晶面を有するので、当該正極に良好な電気化学性能を持たせるとともに、優勢な結晶面が電解液側に露出され過ぎることによるサイクル性能の劣化もない。
【0031】
本願のいくつかの実施例によれば、Dp/Dvが1.1~2.3の範囲であると、正極材料粒子が集電体110上に均一に分布している。また、Dp/Dvが1.1~2.3の範囲であると、電池負極に対向する方向において、リチウム遷移金属複合酸化物の活性面と非活性面が合理的な範囲であり、加工された後も維持することができる。Dp/Dvが1.1より小さいと、正極における、電池負極に対向する部分の非活性結晶面が少なすぎて、リチウム遷移金属複合酸化物は破損され粉化しやすい。Dp/Dvが2.3より大きいと、正極表面におけるリチウム遷移金属複合酸化物が扁平すぎたり、過圧したりするので、当該正極の電気化学性能に影響を与える。
【0032】
なお、本願では、別に断らない限り、平均粒子径は粒子の平均直径である。平均直径の測定方法は、以下のようにすることができる。ランダムに正極の1箇所を選択し、ミクロトームで加工し、断面が得られる。断面における粒子に対して、それぞれ平行及び垂直する方向でその直径を測定し記録する。直径とは、定義される方向における粒子の最大長さである。統計方法は、左から右へ、上から下への順に粒子を選択し、平均粒子径の統計数は100粒子である。図1に示す傾斜状のリチウム遷移金属複合酸化物120CのDpは、正極の断面(図1に示す視野角)におけるA-A’方向に沿う当該粒子の長さの最大値であり、リチウム遷移金属複合酸化物120CのDvは、B-B’方向に沿う当該粒子の長さの最大値である。
【0033】
本願のいくつかの実施例によれば、上記したリチウム遷移金属複合酸化物は、長軸平均粒子径Dと短軸平均粒子径Dとを有し、長軸平均粒子径Dと短軸平均粒子径Dが1.4≦(D/D)≦5.5を満たす。本願のいくつかの実施例によれば、長軸平均粒子径Dと短軸平均粒子径Dが1.4≦(D/D)≦3.8を満たす。これによって、当該リチウム遷移金属複合酸化物は、良好な粒子形態を有し、活性結晶面と非活性結晶面との割合が適切である。
【0034】
本願のいくつかの実施例によれば、長軸平均粒子径Dは、7μm≦D≦28μmを満たす。これによって、当該リチウム遷移金属複合酸化物は、良好な粒子形態を有し、活性結晶面と非活性結晶面との割合が適切である。
【0035】
本願のいくつかの実施例によれば、上記したリチウム遷移金属複合酸化物はさらに、5μm≦Dp≦25μmを満たす。これによって、当該リチウム遷移金属複合酸化物は集電体に良好な配向を有させ、粒子における優勢な結晶面と非優勢な結晶面をより合理的に配列させるため、当該正極に良好な高圧サイクル性能に持たせる。
【0036】
本願のいくつかの実施例によれば、リチウム遷移金属複合酸化物は、さらに、0.8≦(Dp+Dv)/2DN50≦1.25を満たす。ここで、DN50は前記リチウム遷移金属複合酸化物のメディアン径である。当業者は、一般的なコバルト系正極材料の粒子サイズが完全に均一ではなく、正極におけるリチウム遷移金属複合酸化物には、大粒子、小粒子、又は大粒子と小粒子の混合物、と理解される。しかし、その粒子径は一定の範囲にあってもよい。本願に前記したDN50は、その中位サイズの粒子の平均粒子径である。上記したDpとDvとDN50との関係から、当該リチウム遷移金属複合酸化物は、加工中に、設計された粒子の形状の特徴が保留されたか、ということを確定できる。具体的に、Dp+Dvの数値が2DN50より遥かに大きい又は小さいことは、当該粒子が加工中に破損したり、リチウム遷移金属複合酸化物が集電体の表面に不均一に分布したり、配向が乱れたりすることを示す。これらは、いずれもその電気化学性能の発揮に不利である。(Dp+Dv)/2DN50が0.8~1.25であると、当該リチウム遷移金属複合酸化物が加工中に破損されないか、得られた正極の性能に深刻な影響を与えるほど破損されないことが確保され、当該リチウム遷移金属複合酸化物は一定の配向で比較的均一に集電体の表面に分布していることができる。
【0037】
本願のいくつかの実施例によれば、リチウム遷移金属複合酸化物の具体的な化学組成及び構造は特に制限されず、当業者は実際の電池性能の需要に応じて選択することができる。例えば、本願のいくつかの実施例によれば、前記リチウム遷移金属複合酸化物は、R-3m空間群構造を有する。本願のいくつかの実施例によれば、当該リチウム遷移金属複合酸化物の化学組成は、Lix1Niy1Coz1Mnb-aであり、ZはB、Mg、Al、Si、P、S、Ti、Cr、Fe、Cu、Zn、Ga、Y、Zr、Mo、Ag、W、In、Sn、Pb、Sb及びCeからなる群より選ばれる少なくとも1種を含み、Tはハロゲンであり、かつ、x1、y1、z1、k、q、a及びbは、それぞれ、0.2<x1≦1.2、0≦y1≦1、0≦z1≦1、0≦k≦1、0≦q≦1、1≦b≦2及び0≦a≦1を満たしてもよい。本願のいくつかの実施例によれば、前記リチウム遷移金属複合酸化物は、P63mc空間群構造を有する。本願のいくつかの実施例によれば、当該リチウム遷移金属複合酸化物の化学組成は、Lix2Naz2Co1-y2My2±nであり、0.6<x2<0.95、0≦y2<0.15、0≦z2<0.03、0≦n≦0.2であり、MはAl、Mg、Ti、Mn、Fe、Ni、Zn、Cu、Nb、Cr及びZrからなる群より選ばれる少なくとも1種を含み、例えば、Mの元素種類は1つ、2つ、または3つ及び3つ以上であってもよい。複数のM元素を含むと、yは複数のM元素の原子比の和である。より具体的に、Lix2Naz2Co1-y2y22±nにおけるxは、0.6<x<0.85を満たしてもよい。
【0038】
本願のいくつかの実施例によれば、前記正極を含む電気化学装置を3.0Vの電圧まで放電したとき、リチウム遷移金属複合酸化物のX線回折スペクトルが17°から20°までの範囲に特徴的なピークPを有する。また、前記正極を含む電気化学装置を4.6Vの電圧までに充電したとき、リチウム遷移金属複合酸化物が二相を呈し、二相におけるリチウム含有量に差があり、リチウム含有量が低い部分の割合が大きい。即ち、当該正極を有するセルを4.6Vの電圧まで充電したとき、X線回折スペクトルが17°から20°までの範囲に少なくとも特徴的なピークPと特徴的なピークPを有し、前記Pのピーク強度Iが前記Pのピーク強度Iより大きい。前述したように、結晶性は、材料の性能を定め、結晶性が良いほど、材料が粉化しにくく、サイクル安定性が良い。具体的に、Pのピーク強度Iに対するPのピーク強度Iの比I/Iは0.8以上である。つまり、その結晶性は、ピーク強度Iが初期のピーク強度Iに近い範囲にあることに反映される。例えば、ピーク強度Iがピーク強度Iの0.8倍より小さい場合、材料の結晶性の低下がより顕著になることを示す。3.0Vまでに放電したとき、リチウム遷移金属複合酸化物は初期状態に戻り、このときの材料に歪みによる割れが発生すると、IはI-Iより低い。しかし、初期状態のピーク強度がI+Iを超えると、高電圧で粉化する恐れがある、ことを示す。具体的に、粉化とは、リチウム遷移金属複合酸化物の割れ、分解、相転移等の結晶性が低下する過程である。このため、Pのピーク強度Iは、(I-I)≦I≦(I+I)を満たすことにより、当該正極に良好な結晶性と良好なサイクル性能とを有させることができる。
【0039】
本願のいくつかの実施例によれば、当該電気化学装置を満充電して3.0Vまで放電した後、負極の表面に折り目方向に平行するストライプを有する。当該ストライプは、負極に添加の添加剤が消費された後に残した痕跡に由来する。これによって、当該正極におけるリチウム遷移金属複合酸化物は、負極の構造(例えば添加剤)と合わせて、当該正極を、サイクル性能がより安定である特徴を有するものとする。さらに、当該正極は、その適用中に正極活性材料の充放電状態の構造安定性を維持することができる。即ち、材料の結晶構造に変化が小さく、I、I及びIはより安定である。また、それを初期状態まで満放電した後、そのIピークのシフトと広がりのいずれも小さい。一般的に、XRDの特徴的なピークのシフトは、活性リチウムの損失を意味し、広がりは、材料の粉化を意味する。
【0040】
本願が例示する正極は、前記正極を含む電気化学装置を3.0Vから4.6Vまでの範囲で10回充放電サイクルを行い、3.0Vの電圧まで放電したときのX線回折スペクトルにおける最も高いピークのピーク位置シフト量が0.1°以下であり、最も高いピークの半値幅の変化率が5%より低い、ことを満たす。これによって、本願が提供する正極は、良好な安定性を有し、使用中の材料の活性リチウムの損失及び正極活性材料(リチウム遷移金属複合酸化物)の粉化状況はいずれも少ない、ことが分かる。
【0041】
本願の他の形態において、本願は電気化学装置を提供する。図2を参照して、当該電気化学装置1000は、正極100と、セパレータ200と、負極300とを含む。正極100は上記したものであり、セパレータ200は正極100と負極300とを離隔するものである。これによって、当該電気化学装置は、上記した正極が有する全ての特徴と利点を有し、ここではその説明を省略する。いずれにしても、当該電気化学装置は、良好なサイクル性能及び容量を有するものである。
【0042】
当業者が、電気化学装置の機能を達成するために、当該電気化学装置は電解質をさらに有することができる、と理解される。当該電気化学装置の具体的な形状は特に制限されず、当業者は、実際の需要に応じて選択及び設計することができる。
【0043】
本願の別の形態において、本願は、上記した正極を調製する方法を提供する。図3を参照して、当該方法は以下のステップを含むことができる。
【0044】
S100:正極材料を提供し、正極スラリーを形成すること
【0045】
本願のいくつかの実施例によれば、当該ステップは、リチウム遷移金属複合酸化物を提供し、正極スラリーを形成することを含むことができる。具体的に、上記したリチウム遷移金属複合酸化物と導電剤とバインダーとを配合してスラリーを形成することができる。
【0046】
本願のいくつかの実施例によれば、正極スラリーにおけるリチウム遷移金属複合酸化物と導電剤とバインダーとの重量比は(94~99):(0.5~3):(0.5~3)であってもよい。これによって、導電剤とリチウム遷移金属複合酸化物とバインダーとの配合比が適当な正極スラリーが得られる。例えば、具体的に、正極スラリーにおけるリチウム遷移金属複合酸化物と導電剤とバインダーとの重量比は97:1.4:1.6であってもよい。
【0047】
リチウム遷移金属複合酸化物の組成及び形態は、以上で詳細に説明されたので、ここで説明を省略する。当業者は正極の具体的な性能に対する需要に応じて適当なリチウム遷移金属複合酸化物を選択することができる。導電剤の具体的な類型も特に制限されず、例えば、導電性カーボンブラック、グラフェン等であってもよい。バインダーは、ポリフッ化ビニリデン等であってもよいが、これに限定されない。
【0048】
S200:前記正極スラリーを集電体の表面に塗布すること
【0049】
本願のいくつかの実施例によれば、当該ステップにおいて、先に形成された正極スラリーを集電体の表面に塗布してもよい。正極スラリーを塗布する具体的なパラメーター及び方式は特に制限されず、正極スラリーを均一に集電体の片側の表面に塗布できればよい。
【0050】
S300:前記正極スラリーを有する前記集電体に対して冷間圧延処理を行うこと
【0051】
本願のいくつかの実施例によれば、当該ステップにおいて、正極スラリーを有する集電体に対して冷間圧延処理を行う。具体的に、冷間圧延処理は、30~40トンの圧力で行われ、冷間圧延速度が3~4メートル/分であり、圧縮密度を4.05~4.25g/cmに制御するものであってもよい。
【0052】
これによって、集電体が位置する平面に平行する方向におけるリチウム遷移金属複合酸化物平均粒子径Dpと、集電体が位置する平面に垂直する方向におけるリチウム遷移金属複合酸化物平均粒子径Dvとが上記した条件を満たす、正極が得られる。当該正極は、上記した正極が有する全ての特徴と利点を有し、ここではその説明を省略する。いずれにしても、当該方法で得られた正極は、良好なサイクル性能を有するものである。
【0053】
本発明者は、冷間圧延処理における圧力の数値と冷間圧延の速度と冷間圧延の圧縮密度とを調整することで、適当な粒子形状を持つリチウム遷移金属複合酸化物を、一定の配向で集電体の表面に均一に分布するように制御することができる、ことを見出した。これによって、リチウム遷移金属複合酸化物の形態が冷間圧延等の調製プロセスによって破損されないことを維持するとともに、リチウム遷移金属複合酸化物における優勢な結晶面と非優勢な結晶面が集電体の表面に配列される状況を調整することができる。その結果、サイクル性能及び電気性能のいずれも良好な正極が得られる。
【0054】
本願のいくつかの実施例によれば、正極スラリーを集電体の表面に塗布した後、前記冷間圧延処理を行う前に、集電体の表面に塗布された前記正極スラリーを乾燥させることをさらに含んでもよい。乾燥処理の具体的なパラメーターは、特に制限されず、厚さが均一なスラリー層を得るために、当業者は、実際の状況に応じて乾燥処理のパラメーター及び方式を選択することができる。
【0055】
冷間圧延処理を行った後、さらに集電体に対して裁断処理を行ってもよい。これによって、寸法が適当な正極が得られる。
【0056】
本願のいくつかの実施例によれば、電気化学装置の負極は、添加剤をさらに含んでもよい。これによって、負極活物質層の表面に添加剤を覆う操作をさらに含む。具体的に、ロールプレス処理を行うことにより、添加剤を負極活物質層上に形成することができる。例えば、添加剤を有する負極を5~30トンの圧力で、0.5~2メートル/秒の速度でロールプレスすることができる。本願のいくつかの実施例によれば、添加剤は、リチウム粉末、リチウムリボン、及びリチウム含有化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種を含んでもよい。これによって、当該方法で得られた電気化学装置の品質をさらに向上させることができる。
【0057】
〔実施例〕
正極片の調製:以下の例で得られた正極材料、導電剤である導電性カーボンブラック、バインダーであるポリフッ化ビニリデンを重量比97:1.5:1.5でN-メチルピロリドン(NMP)溶媒系に十分に攪拌して、均一に混合した後、正極スラリーを形成した。アルミニウム箔を集電体として、正極スラリーを塗布重量が17.2mg/cmとなるように集電体上に塗布し、乾燥、冷間圧延、裁断を経って、正極片を得た。
【0058】
負極片の調製:銅箔を集電体として、人造黒鉛を負極活性材料として、スチレンブタジエンゴムとカルボキシメチルセルロースナトリウムをバインダーとした。人造黒鉛とスチレンブタジエンゴムとカルボキシメチルセルロースナトリウムとを重量比96:2:2で混合して脱イオン水に分散してスラリーを形成し、均一に攪拌した後、銅箔に塗布し、乾燥して、負極活性材料層を形成し、冷間圧延を経って、負極片を得た。実施例の一部は、負極活性材料層表面に添加量2.5mg/cmで単体リチウムリボンをさらに添加し、冷間圧延を経って、添加剤を含有する負極片を得た。
【0059】
セパレータの調製:厚さ8μmのポリエチレン製の多孔質ポリマーフィルムを使用した。
【0060】
電解液の調製:含水量が10ppmより小さい環境で、ヘキサフルオロリン酸リチウム(1.15mol/L)を非水有機溶媒(エチレンカーボネート(EC):プロピレンカーボネート(PC):ジエチルカーボネート(DEC)=1:1:1、重量比)と混合して、電解液を得た。
【0061】
リチウムイオン電池の調製:セパレータが正極と負極との間に介在して隔離の役割を果たすように、正極とセパレータと負極をこの順に積層し、巻き取って、電極アセンブリを得た。電極アセンブリをアルミニウム包材外装に置き、80℃で水分を除去した後、上記した電解液を注入して、封止し、化成、脱ガス、整形等のプロセスを経って、リチウムイオン電池を得た。
【0062】
負極の折り目の観測方法:リチウムイオン電池を満充電して3.0Vまで放電した後、乾燥室又はグローブボックスで分解され、負極を展延し平らにした後、カメラで撮影され鮮明な倍数が適当な画像が得られ、負極の表面にストライプを有するかを観察した。
【0063】
サイクル性能の測定方法:温度25℃で、0.7Cの定電流で4.6Vまで充電し、カットオフ電流が0.025Cまで定電圧にし、そして、0.5Cで3.0Vまで放電した。初回サイクルの放電容量を100%として、200回サイクルした後のリチウムイオン電池の容量維持率を記録した。
【0064】
X線粉末回折測定方法:リチウムイオン電池を10mA/sの電流密度で対応する電圧まで調整し、5分間静置した後、グローブボックス又は乾燥室で分解した。正極の中心部分を選択し、裁断して3×3cmサイズの片を得た。ブルカーX線粉末回折計を使用して、10~80°範囲での回折ピークを1°/分の収集速度で収集して、特性評価した。
【0065】
DpとDvの測定方法:ミクロトームで正極片に対して加工を行って、集電体の表面に垂直する断面を得た。截面における粒子に対して、それぞれ集電体が位置する平面に平行する方向及び集電体が位置する平面に垂直する方向でその直径を測定し記録した。直径とは、定義される方向における粒子の最大長さであった。統計方法は、左から右へ、上から下への順に粒子を選択し、平均粒子径の統計数は100粒子であった。
【0066】
実施例1
硝酸コバルトと硝酸アルミニウムとをモル比Co:Al=99:1で混合し、硝酸コバルトと硝酸アルミニウムとの合計質量の5倍の脱イオン水に溶解させ、炭酸ナトリウムとアンモニア水を入れて、反応系のpHを8.2まで調整し、24時間十分に攪拌し、沈殿物を得た。沈殿物に添加剤であるシュウ酸アンモニウムを0.5%の沈殿質量で入れて、均一に混合し、800℃で24時間焼成して、前駆体を得た。前駆体と炭酸ナトリウムとをCo:Na=0.99:0.75(化学量比)の割合で均一に混合して、800℃で36時間反応させて、粉体材料を得た。それを3時間十分に研磨して、それと硝酸リチウムとをモル比Na:Li=1:5で均一に混合し、250℃で8時間反応させ、反応生成物を脱イオン水で5回以上洗浄し、その後、粉体を乾燥して正極材料であるLi0.73Na0.01Co0.99Al0.01を得た。Li0.73Na0.01Co0.99Al0.01正極材料粉体と導電炭素とバインダーとを重量比97:1.5:1.5でNMPとともに混合し、スラリーを調製して、Al集電体の表面に塗布し、120℃のオーブン内で2時間乾燥され、この後、3.5メートル/分の冷間圧延の速度、4.15g/cmの圧縮密度、35トンの圧力で冷間圧延を行った。裁断して正極片を得た。
【0067】
負極活性材料物質層の表面に添加量2.5mg/cmで添加剤である単体リチウムリボンを添加し、ロールプレスを経って、添加剤を有する負極片を得た。
【0068】
実施例2
硝酸コバルトと硝酸チタンとをCo:Ti=95:5で混合し、硝酸コバルトと硝酸チタンとの合計質量の5倍の脱イオン水に溶解させ、炭酸ナトリウムとアンモニア水を入れて、反応系のpHを6.5まで調整し、12時間十分に攪拌し、沈殿物を得た。沈殿物に添加剤である炭酸水素ナトリウムを0.5%の沈殿質量で入れて、均一に混合し、750℃で24時間焼成して、前駆体を得た。前駆体と炭酸ナトリウムとをCo:Na=0.95:0.76(化学量比)の割合で均一に混合して、800℃で36時間反応させて、粉体材料を得た。それを3時間十分に研磨して、それと硝酸リチウムとをNa:Li=1:5で均一に混合し、250℃で8時間反応させ、反応生成物を脱イオン水で5回以上洗浄し、その後、粉体を乾燥して、正極材料であるLi0.74Na0.01Co0.95Ti0.05を得た。
【0069】
スラリーと冷間圧延パラメーターと添加剤は、いずれも実施例1と同じであった。
【0070】
実施例3:反応系のpHを8.7となるように調整し、24時間十分に攪拌したことと、900℃で36時間焼成して、前駆体を得、最終的に正極材料であるLi0.73Na0.01Co0.99Al0.01を得たこと以外、実施例1と同様の調製方法であった。
【0071】
実施例4:炭酸ナトリウムとアンモニア水とを添加して、反応系のpHを8.5となるように調整し、24時間十分に攪拌したことと、950℃で48時間焼成して、前駆体を得たこと以外、実施例2と同様の調製方法であった。
【0072】
実施例5:前駆体と炭酸ナトリウムとを均一に混合した後、850℃24時間反応させて、粉体材料を得たことと、それを3時間十分に研磨した後、硝酸リチウムとモル比Na:Li=1:5で均一に混合し、450℃で12時間反応させたことと、冷間圧延処理が3メートル/分の冷間圧延速度、4.16g/cmの圧縮密度、30トンの圧力で行われたこと以外、実施例1と同様の調製方法であった。
【0073】
実施例6:負極片に添加剤による修飾を行っていなかったこと以外、実施例1と同様の調製方法であった。
【0074】
実施例7:950℃で48時間反応させて、前駆体を得たこと以外、実施例1と同様の調製方法であった。
【0075】
実施例8:R-3m空間群構造のLi0.7CoOを正極材料とした。スラリーと冷間圧延パラメーターは実施例1と同じであった。負極片に添加剤による修飾を行っていなかった。
【0076】
実施例9:R-3m空間群構造のLi0.75Co0.86Mg0.14を正極材料とした。スラリーと冷間圧延パラメーターは実施例1と同じであった。負極片に添加剤による修飾を行っていなかった。
【0077】
実施例10:R-3m空間群構造のLi0.99Co0.99Al0.01を正極材料とした。スラリーと冷間圧延パラメーターは実施例1と同じであった。負極片に添加剤による修飾を行っていなかった。
【0078】
比較例1
硝酸コバルトと硝酸アルミニウムとをCo:Al=99:1で混合し、硝酸コバルトと硝酸アルミニウムとの合計質量の5倍の脱イオン水に溶解させ、炭酸ナトリウムとアンモニア水を入れて、反応系のpHを9.8まで調整し、36時間十分に攪拌し、沈殿物を得た。沈殿物に添加剤であるシュウ酸アンモニウムを0.5%の沈殿質量で入れて、均一に混合し、600℃で24時間焼成して、前駆体を得た。前駆体と炭酸ナトリウムとをCo:Na=0.99:0.77(化学量比)の割合で均一に混合して、1000℃で36時間反応させて、粉体材料を得た。それを3時間十分に研磨して、それと硝酸リチウムとをNa:Li=1:5で均一に混合し、600℃で8時間反応させ、反応生成物を脱イオン水で5回以上洗浄し、その後、粉体を乾燥して、正極材料であるLi0.76Na0.01Co0.99Ai0.01を得た。
【0079】
スラリーと、冷間圧延パラメーターは実施例1と同じである。負極片に添加剤の修飾を行わなかった。
【0080】
比較例2:水酸化ナトリウムを入れて、反応系のpHを11.8となるように調整したこと以外、比較例1と同様の調製方法であった。
【0081】
比較例3:1000℃で24時間焼成して、前駆体を得、そして、1050℃で24時間反応させて、粉体材料を得たことと、負極片に添加剤による修飾を行っていなかったこと以外、比較例1と同様の調製方法であった。
【0082】
比較例4:R-3m空間群構造のLi0.88CoOを正極材料としたこと以外、実施例8と同様の調製方法であった。
【0083】
比較例5:6メートル/分の冷間圧延の速度、4.29g/cmの圧縮密度、65トンの圧力で冷間圧延を行ったことと、負極片に添加剤による修飾を行っていなかったこと以外、実施例1と同様の調製方法であった。
【0084】
比較例6:D1が6.4μmであり、D2が4.6μmであるR-3m空間群構造のLi0.99Co0.99Al0.01を正極材料としたことと、冷間圧延の圧縮密度が3.94g/cmであったこと以外、実施例10と同様の調製方法であった。
【0085】
実施例1と比較例1に対して、X線粉末回折測定を行った。図5図6を参照して、対応する電圧(4.6Vと3.0V)で、比較例1に比べて、実施例1の特徴的なピークの広がりとピークシフトが小さい、ことが分かる。図7図8を参照して、比較例1の表面に、実施例1で見られたねじれたストライプが発生しなかったことが分かる。図9を参照して、比較例1のサイクル容量維持率が著しく低下した、ことが分かる。上記した各実施例及び比較例の測定結果は以下の表1に示す。表1では、Yは負極のストライプがあることを表し、Nは負極のストライプがないことを表す。
【0086】
【表1】
【0087】
表1より、P63mcまたはR-3m構造の正極材料を問わず、Dp/Dvが本願に限定された範囲における実施例はいずれも良好なサイクル性能を有し、比較例より優れる、ことが分かる。また、実施例1~10から、(Dp+Dv)/2DN50は0.8~1.25の範囲であることにより、より優れたサイクル安定性を有することができる。実施例1と実施例6との比較から、P63mc構造の正極材料に対して添加剤でリチウムを補給することにより、そのサイクル安定性をさらに向上させることができる、ことが分かる。
【0088】
なお、比較例1及び比較例5から、正極材料の長軸平均粒子径D1と短軸平均粒子径D2との比D1/D2が小さすぎる、及び/又は冷間圧延の条件が適当ではないと、本願に限定されたDp/Dvを達成しにくく、そのサイクル安定性も相応的に劣った、ことが分かる。
【0089】
実施例及び比較例のサンプルの一部に対してX線粉末回折測定を行った。測定結果は以下の表2に示す。
【0090】
【表2】
【0091】
以上の表2より、比較例1のI1/I3は0.8より小さい、ことが分かる。これは、高電圧で粉化する恐れがあることを示す。従って、比較例1のサイクル維持率も実施例より著しく低い。
【0092】
8回サイクルした後、X線粉末回折のI2/I3の変化率と、ピークシフト量と半値幅の変化率とを測定して、測定結果は以下の表3に示す。
【0093】
【表3】
【0094】
以上の表3より、実施例1、8及び9はいずれも比較的小さいピークシフト量を有し、I2/I3の変化率と半値幅の変化率も比較例4より著しく低い、ことがわかる。これは、良好な安定性を有する、ことを示す。4.6Vで200回サイクルした維持率からも上記した観点を証明した。
【0095】
以上の記載は本願の例示に過ぎず、本願に対するいずれかの制限ではない。本願は、好ましい実施例で以上のように開示されているが、これらの実施例は、本願を制限するものではない。当業者が本願発明の技術案から逸脱しない範囲以内に、上記に開示された技術的内容を用いて行った変更または修正は、いずれも、本願の実施形態と同等であり、本願発明の技術案の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0096】
100:正極、110:集電体、120A~120C:リチウム遷移金属複合酸化物、120:活物質層、200:セパレータ、300:負極、1000:電気化学装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9