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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-26
(45)【発行日】2024-10-04
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20240927BHJP
【FI】
H02M7/48 R
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023531154
(86)(22)【出願日】2021-06-28
(86)【国際出願番号】 JP2021024372
(87)【国際公開番号】W WO2023275937
(87)【国際公開日】2023-01-05
【審査請求日】2023-12-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松本 航輝
(72)【発明者】
【氏名】井上 禎之
【審査官】上野 力
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-011929(JP,A)
【文献】特開2017-208932(JP,A)
【文献】特開2015-100234(JP,A)
【文献】特開2019-080476(JP,A)
【文献】特開2014-128178(JP,A)
【文献】国際公開第2020/021925(WO,A1)
【文献】特開2015-211617(JP,A)
【文献】特開2005-295648(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電源からの直流電圧を交流電力系統に向けて交流電圧に変換する電力変換装置であって、
前記直流電圧を前記交流電圧に変換するインバータと、
前記インバータと前記交流電力系統との接続状態を導通状態と非導通状態との間で選択的に切り替えるリレーと、
前記リレーと前記交流電力系統との間の第1電圧の第1測定値と、前記リレーと前記インバータとの間の第2電圧の第2測定値と、前記インバータと前記交流電力系統との間を流れる電流の測定値とを受けて、前記インバータおよび前記リレーを制御する制御部とを備え、
前記制御部は、
電圧振幅目標値に近づくように前記第2電圧の振幅を制御する電圧制御部と、
前記第1測定値と前記電流の測定値とを用いて、前記交流電力系統へ出力される有効電力値を計算する有効電力計算部と、
前記有効電力値および有効電力目標値を同期発電機の回転子の運動方程式の電気的エネルギーおよび機械的エネルギーにそれぞれ対応させて前記同期発電機の動作を模擬することにより、前記第2電圧の周波数の第1指令値および前記第2電圧の位相の第2指令値を生成する仮想同期発電機制御部と、
前記第1測定値から前記第1電圧の位相を検出する検出部と、
投入条件が成立する場合に前記リレーを制御して前記接続状態を前記非導通状態から前記導通状態に切り替える判定部とを含み、
前記投入条件は、前記第1測定値の絶対値と前記第2測定値の絶対値との振幅差が第1許容範囲に含まれるという第1条件、および前記第1電圧の位相と前記第2指令値との位相差が第2許容範囲に含まれるという第2条件を含む、電力変換装置。
【請求項2】
前記検出部は、前記第1測定値から前記第1電圧の周波数を検出し、
前記投入条件は、前記第1電圧の周波数と前記第1指令値との周波数差が第3許容範囲に含まれるという第3条件をさらに含む、請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記第1条件が成立し、かつ前記第2条件が成立していない場合、前記検出部によって検出された前記第1電圧の位相を前記第2指令値に設定する、請求項1または2に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記判定部は、前記投入条件が継続して成立している時間間隔が基準時間間隔を超えた場合に、前記リレーを制御して前記接続状態を前記非導通状態から前記導通状態に切り替える、請求項1~3のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記第1電圧の周波数と前記第2電圧の周波数との周波数差を用いて、前記有効電力目標値を計算する周波数同期制御部をさらに含み、
前記仮想同期発電機制御部は、前記接続状態が前記非導通状態である場合、前記周波数同期制御部によって計算された前記有効電力目標値を用い、前記接続状態が前記導通状態である場合、予め定められた値あるいは前記制御部の外部から入力される値を前記有効電力目標値として用いる、請求項2~4のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項6】
前記電圧制御部は、前記接続状態が前記非導通状態である場合、前記第1電圧の振幅を前記電圧振幅目標値として用い、前記接続状態が前記導通状態である場合、予め定められた値あるいは前記制御部の外部から入力される値を前記電圧振幅目標値として用いる、請求項1~5のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、交流電力系統と連系するように構成された電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、交流電力系統と連系するように構成された電力変換装置が知られている。たとえば、特許第5969094号(特許文献1)には、直流電力を交流電力に変換するインバータと、インバータの出力から高調波成分を除去するLCフィルタとを備え、商用系統に交流電力を供給する系統連系インバータ装置が開示されている。当該系統連系インバータ装置においては、商用系統と連系する場合に、自立運転が行なわれた後、自立系統電圧の振幅、位相、および周波数が商用系統電圧の振幅、位相および周波数と整合するように調整されて、整合状態が維持されたまま系統連系運転制御に切り替えられる。その結果、突入電流防止回路を設けることなく、LCフィルタを構成するコンデンサへの突入電流を抑制しながら、商用系統との連系を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5969094号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されている系統連系インバータ装置においては、系統連係リレーの投入以後のインバータ制御方式が電流制御であるため、商用系統の電圧を安定的に維持することが困難になり得る。
【0005】
本開示は、上述のような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、電力変換装置が交流電力系統と連係する場合において、突入電流を抑制しながら、交流電力系統の電圧を安定的に維持することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る電力変換装置は、直流電源からの直流電圧を交流電力系統に向けて交流電圧に変換する。電力変換装置は、インバータと、リレーと、制御部とを備える。インバータは、当該直流電圧を当該交流電圧に変換する。リレーは、インバータと交流電力系統との接続状態を導通状態と非導通状態との間で選択的に切り替える。制御部は、リレーと交流電力系統との間の第1電圧の第1測定値と、リレーとインバータとの間の第2電圧の第2測定値と、インバータと交流電力系統との間を流れる電流の測定値とを受けて、インバータおよびリレーを制御する。制御部は、電圧制御部と、有効電力計算部と、仮想同期発電機制御部と、検出部と、判定部とを含む。電圧制御部は、電圧振幅目標値に近づくように第2電圧の振幅を制御する。有効電力計算部は、第1測定値と電流の測定値とを用いて、交流電力系統へ出力される有効電力値を計算する。仮想同期発電機制御部は、有効電力値および有効電力目標値を同期発電機の回転子の運動方程式の電気的エネルギーおよび機械的エネルギーにそれぞれ対応させて同期発電機の動作を模擬することにより、第2電圧の周波数の第1指令値および第2電圧の位相の第2指令値を生成する。検出部は、第1測定値から第1電圧の位相を検出する。判定部は、投入条件が成立する場合にリレーを制御して接続状態を非導通状態から導通状態に切り替える。投入条件は、第1測定値の絶対値と第2測定値の絶対値との振幅差が第1許容範囲に含まれるという第1条件、および第1電圧の位相と第2指令値との位相差が第2許容範囲に含まれるという第2条件を含む。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、仮想同期発電機制御部および判定部により、電力変換装置が交流電力系統と連係する場合において、突入電流を抑制しながら、交流電力系統の電圧を安定的に維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施の形態1に係る電力変換装置の全体構成を示すブロック図である。
図2図1の制御部の内部構成の一例を示すブロック図である。
図3図2の周波数同期制御部、VSG制御部、および有効電力指令値切替部の具体的な構成の一例を示す制御ブロック図である。
図4図2の電圧制御部および電圧振幅指令値切替部の内部構成の一例を示す制御ブロック図である。
図5図2の投入判定部によって行われる投入判定処理(投入判定シーケンス)の流れを説明するフローチャートである。
図6】実施の形態2に係る電力変換装置の制御部の内部構成の一例を示すブロック図である。
図7図6の電圧制御部の内部構成の一例を示す制御ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は原則として繰り返さない。
【0010】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係る電力変換装置100の全体構成を示すブロック図である。なお、図1においては、1相のみの回路に対応するブロック図が示されているが、当該ブロック図は三相系統連系インバータ、または単相系統連系インバータに適用されてもよい。実施の形態1においては、三相系統への連系インバータを例に説明する。
【0011】
図1に示されるように、電力変換装置100は、入力端子Tmiと、出力端子Tmoと、インバータ102と、LCフィルタ120と、投入リレー105と、系統電圧測定部106と、インバータ電圧測定部107と、電流測定部108と、制御部110とを備える。電力変換装置100は、直流電源800からの直流電圧を交流電力系統900に向けて交流電圧に変換する。
【0012】
入力端子Tmiには、直流電源800から直流電圧が入力される。直流電源800は、直流電圧を発生させる電源装置である。直流電源800は、たとえば、太陽光発電装置、直流リンク方式の風力発電機、または蓄電池を含む。
【0013】
インバータ102は、入力端子Tmiから直流電圧を受ける。インバータ102は、制御部110からのゲート駆動信号Sggに応じてスイッチング動作を行って、当該直流電圧を交流電圧に変換する。インバータ102に適用される回路方式、またはスイッチング素子の種類は、回路方式またはスイッチング素子の種類に限定されない。
【0014】
LCフィルタ120は、インバータ102と電流測定部108との間に接続されている。LCフィルタ120は、リアクトル103と、コンデンサ104とを含む。リアクトル103は、インバータ102と電流測定部108との間に接続されている。コンデンサ104は、接地点と、リアクトル103および電流測定部108の接続点との間に接続されている。LCフィルタ120は、インバータ102におけるスイッチングに伴って発生する電流のリプル成分を抑制(フィルタリング)する。
【0015】
投入リレー105は、電流測定部108と出力端子Tmoとの間に接続されている。投入リレー105は、インバータ102と出力端子Tmoとの接続状態を決定する。すなわち、投入リレー105は、制御部110からの投入リレー制御信号Sgrに応じて、当該接続状態を非導通(遮断または開放)状態(開)と導通状態(閉)との間で選択的に切り替える。以下では、当該接続状態が導通状態である場合を投入リレー105が投入状態である場合とも称するとともに、当該接続状態が非導通状態である場合を投入リレー105が非投入状態である場合とも称する。
【0016】
出力端子Tmoには、交流電力系統900が接続されている。交流電力系統900には、電力変換装置100から交流電圧が供給される。交流電力系統900は、電力変換装置100が連系する電力系統である。交流電力系統900は、たとえば、電力会社が管理する通常の商用電力系統、町単位で独立して自立管理されるマイクログリッド、あるいはビルまたは建物単位で独立して自立運転される独立系統を含む。ただし、交流電力系統900の交流電圧は、投入リレー105が遮断状態であって電力変換装置100から交流電圧が供給されていない場合でも、電力変換装置100以外の電源要素によって交流電圧が維持されているものとする。
【0017】
以下では、投入リレー105を基準として、投入リレー105とインバータ102との間の構成をインバータ側とも称し、投入リレー105と出力端子Tmoとの間の構成を系統側とも称する。
【0018】
系統電圧測定部106は、出力端子Tmoの電圧(第1電圧)を測定し、当該電圧の測定値である系統電圧測定値Vo(第1測定値)を制御部110に出力する。インバータ電圧測定部107は、投入リレー105に入力される電圧(第2電圧)を測定し、当該電圧の測定値であるインバータ電圧測定値Vfo(第2測定値)を制御部110に出力する。電流測定部108は、投入リレー105に入力される電流を測定し、当該電流の測定値である電流測定値Ioを制御部110に出力する。
【0019】
制御部110は、測定値Vo,Vfo,Ioを用いて、インバータ102の駆動および投入リレー105の開閉を制御する。制御部110は、ゲート駆動信号Sggをインバータ102に出力する。制御部110は、投入リレー制御信号Sgrを投入リレー105に出力する。CPU(Central Processing Unit)等を含む処理回路、および各種プログラムが保存されたメモリを含む。制御部110の機能は、専用のハードウェア、またはプログラム(ソフトウェア)を実行する処理回路によって実現される。なお、制御部110へ入力される情報は、系統電圧測定値Vo、インバータ電圧測定値Vfo、および電流測定値Ioに限定されない。
【0020】
図2は、図1の制御部110の内部構成の一例を示すブロック図である。図2に示されるように、制御部110は、周波数・位相検出部204(検出部)と、有効電力計算部205と、VSG(Virtual Synchronous Generator)制御部207(仮想同期発電機制御部)と、周波数同期制御部206と、投入判定部208(判定部)と、電圧制御部209と、電圧指令値計算部210と、ゲート駆動信号生成部211と、有効電力指令値切替部212と、電圧振幅指令値切替部213とを含む。
【0021】
周波数・位相検出部204は、系統電圧測定値Vo(系統電圧)の系統電圧周波数f_pllおよび系統電圧位相θ_pllを逐次計算する。周波数・位相検出部204の機能を実現するための構成としては、たとえば、三相系統連系において、系統電圧測定値Voに対してd-q変換を行い、比例積分制御を用いて系統電圧測定値Voのq軸成分が0に近づくよう系統電圧測定値Voを制御する構成を挙げることができる。周波数・位相検出部204の機能を実現するために、ゼロクロス点検出を用いる方法などが実行されてもよい。
【0022】
有効電力計算部205は、系統電圧測定値Voおよび電流測定値Ioを用いて、交流電力系統900に出力される(交流電力系統900において消費される)有効電力値Poutを計算する。有効電力値Poutの計算方法としては、たとえば、系統電圧測定値Voおよび電流測定値Ioの各々にd-q変換を行い、系統電圧測定値Voのd軸電圧および電流測定値Ioのd軸電流の積と、系統電圧測定値Voのq軸電圧および電流測定値Ioのq軸電流の積との和から有効電力値Poutを求める方法を挙げることができる。
【0023】
周波数同期制御部206は、周波数・位相検出部204によって計算された系統電圧測定値Voの系統電圧周波数f_pllと、VSG制御部207によって決定されたインバータ電圧周波数f_vsgとを比較して、インバータ電圧周波数f_vsgが系統電圧周波数f_pllに近づくようインバータ電圧周波数f_vsgを制御する。より具体的には、周波数同期制御部206は、系統電圧周波数f_pllとインバータ電圧周波数f_vsgとの周波数差に応じて、VSG制御部207において用いられる有効電力指令値Pref(有効電力目標値)を増加または減少させることによって、VSG制御部207を介して間接的にインバータ電圧周波数f_vsgを調整する。
【0024】
有効電力指令値切替部212は、投入判定部208から投入リレー105の状態が投入状態か非投入状態かを示す切替信号Sgs1を受ける。有効電力指令値切替部212は、投入リレー105が非投入状態である場合、周波数同期制御部206からの有効電力指令値PrefをVSG制御部207に出力する。有効電力指令値切替部212は、投入リレー105が非投入状態である場合、予め定められた値または通信等によって制御部110の外部から指定された値を有効電力指令値PrefとしてVSG制御部207に出力する。
【0025】
VSG制御部207は、有効電力値Poutおよび有効電力指令値Prefを用いて、インバータ102の出力電圧指令値のインバータ電圧周波数f_vsg(第1指令値)およびインバータ電圧位相θ_vsg(第2指令値)を生成する。
【0026】
電圧振幅指令値切替部213は、投入判定部208から投入リレー105の状態が投入状態か非投入状態かを示す切替信号Sgs2を受ける。電圧振幅指令値切替部213は、投入リレー105が非投入状態である場合、系統電圧測定値Voの振幅|Vo|を電圧振幅指令値|V|ref(電圧振幅目標値)として電圧制御部209に出力する。電圧振幅指令値切替部213は、投入リレー105が投入状態である場合、予め定められた値または通信等によって制御部110の外部から指定された値を電圧振幅指令値|V|refとして電圧制御部209に出力する。
【0027】
電圧制御部209は、電圧振幅指令値|V|refおよびインバータ電圧測定値Vfoを受けて、インバータ電圧測定値Vfoの振幅が電圧振幅指令値|V|refに近づくように、インバータ電圧振幅|Vinv|を制御する。インバータ電圧測定値Vfoの振幅を計算する方法としては、たとえば、インバータ電圧測定値Vfoにd-q変換を行って、インバータ電圧測定値Vfoのd軸電圧を用いる方法を挙げることができる。また、インバータ電圧測定値Vfoの振幅に替えて電圧実効値を用いる制御が行われてもよい。
【0028】
電圧指令値計算部210は、インバータ電圧振幅|Vinv|およびインバータ電圧位相θ_vsgを用いて、インバータ102に対するインバータ電圧指令値Vinvrefを計算する。インバータ電圧指令値Vinvrefの振幅はインバータ電圧振幅|Vinv|に等しく、インバータ電圧指令値Vinvrefの位相はインバータ電圧位相θ_vsgと等しい。すなわち、インバータ電圧指令値Vinvrefは、インバータ電圧振幅|Vinv|とインバータ電圧位相θ_vsgとを有する正弦波信号となる。
【0029】
ゲート駆動信号生成部211は、インバータ電圧指令値Vinvrefを用いるPWM(Pulse Width Modulation)制御によって、インバータ102に含まれる複数のスイッチング素子の駆動パターンを決定して、当該パターンに対応するゲート駆動信号Sggをインバータ102に出力する。
【0030】
投入判定部208は、系統電圧測定値Vo、系統電圧周波数f_pll、系統電圧位相θ_pll、インバータ電圧測定値Vfo、インバータ電圧周波数f_vsg、およびインバータ電圧位相θ_vsgを用いて、投入リレー105の投入条件が成立しているか否かを判定する。投入判定部208は、投入リレー105の投入条件の判定処理の結果に応じて、投入リレー105に投入リレー制御信号Sgrを出力する。投入判定部208は、投入リレー制御信号Sgrに対応する切替信号Sgs1,Sgs2を、有効電力指令値切替部212、および電圧振幅指令値切替部213にそれぞれ出力する。
【0031】
太陽光発電など、インバータを用いた分散型電源の増加に伴い、電力系統の総電源量に占める、電力変換装置100のようなインバータ電源の比率が増加している。通常、インバータ電源が、交流電力系統と連系しながら運転する場合、電流制御(系統連系モードとも呼ばれる。)が適用されることが多い。電流制御の下でインバータ電源が動作する場合、インバータ電源の系統接続端の電圧は系統内の他の電源(たとえば、同期発電機)によって維持されていることが多い。インバータ電源は、同機発電機の電圧の位相を基準として所望の電流を流す。すなわちインバータ電源を電流制御によって動作させる場合、インバータ電源は系統電圧維持能力(慣性)を持たないため、インバータ電源の比率の増加に伴って系統電圧の安定性が低下し得る。
【0032】
このような系統電圧の安定性の低下を防止するためには、インバータ電源が交流電力系統と連系する場合にも、インバータ電源が電圧制御(自立運転モードとも呼ばれる。)によって動作させる必要がある。しかし、CVCF(Constant Voltage Constant Frequencyの)運転の電圧制御の下でインバータ電源が交流電力系統と連系する場合、インバータ電源から交流電力系統に供給される交流電圧の位相を交流電力系統内の他の電圧源の位相と同期させることができず、当該交流電圧の位相と他の電圧源の位相との間の位相差によって大きな横流が発生し得る。当該位相差は、仮想同期発電機制御によって抑制され得る。仮想同期発電機制御によれば、インバータ電源に同期発電機が有する動作特性を模擬して他の電圧源との同期をとる能力(同期化力)をインバータ電源に付与することにより、電圧制御により系統電圧維持に寄与(慣性力を付与)しながら交流電源系統との連系運転が可能となる。
【0033】
このような仮想同期発電機制御を行うVSG制御部207について詳細に説明する。VSG制御部207は、同期発電機の有する動作特性をインバータ102に模擬的に持たせることにより、同期発電機が有する慣性力、同期化力、および制動力等の能力をインバータ102に付与する制御方法を実現する。同期発電機の能力は同期発電機の構造および動作原理から導かれるため、まず、実際の同期発電機の構造および動作原理について概略的に説明する。
【0034】
同期発電機は、火力発電、原子力発電、または水力発電等に広く用いられている。同期発電機は、燃料の燃焼によって発生する水蒸気の運動エネルギー、または水の位置エネルギーを利用して巨大な回転子を回転させる。回転子には界磁巻線が巻き付けられている。回転子に界磁電流を流すことにより、回転子は電磁石として機能する。回転子によって回転磁界が生成されて回転子の周囲に配置された固定子コイルに電磁誘導によって電圧が誘起される。当該誘起電圧が電力系統の電圧を担う。したがって、誘起電圧の周波数は回転子の回転速度と対応する。
【0035】
次に、同期発電機が有する慣性力、同期化力、および制動力について説明する。慣性力とは出力電圧を一定の振幅および一定の周波数に維持する能力である。同期発電機の回転子の回転運動の慣性が誘起電圧の維持能力に関係していることが同機発電機の動作原理から説明することができる。また、同期化力は、同機発電機と同一の系統に並列に接続されている他の電圧源の電圧の周波数および位相と、同機発電機の電圧の周波数および位相を他の電圧源と同期させて同機発電機と当該他の電圧源との間の横流を解消する能力である。同期化力も回転子の回転運動の加減速によって実現されている。同様に、制動力は、系統電圧、または電流の振動現象を減衰させる能力である。制動力は、回転子の回転運動に対する摩擦、抵抗、または熱的損失等に起因している。以上のように、同期発電機の回転子の回転運動が、慣性力、同期化力、および制動力とう能力と強く関連している。したがって、VSG制御部207においては、同期発電機の回転子の回転運動の特性を模擬することが重要である。同期発電機の回転子の回転運動を支配している運動方程式は、以下の式(1)に示されるような動揺方程式として表現される。
【0036】
【数1】
【0037】
式(1)において、Pmは、回転子が受ける機械的入力エネルギーである。Peは系統に電力として出力される電気的出力エネルギーである。ωは、回転子の回転速度である。ωは、回転子の定格回転速度である。Mは、慣性定数である。Dは、制動係数である。すなわち、機械的入力エネルギーPmおよび電気的出力エネルギーPeが等しい場合、回転子の回転速度は一定速度に保たれる。機械的入力エネルギーPmが電気的出力エネルギーPeより大きい場合、回転子は加速する。機械的入力エネルギーPmが電気的出力エネルギーPeより小さい場合、回転子は減速する。
【0038】
図3は、図2の周波数同期制御部206、VSG制御部207、および有効電力指令値切替部212の具体的な構成の一例を示す制御ブロック図である。まず、VSG制御部207の構成について説明する。図3に示されるように、VSG制御部207は、減算器304,305,306と、積分器307と、フィードバックゲインブロック308と、一次遅れブロック309と、加算器310と、換算ゲインブロック311と、積分器312とを含む。ラプラス変換された動揺方程式(式(1))の両辺が、制御ブロックである積分器307とフィードバックゲインブロック308とによって模擬されている。
【0039】
減算器304は、有効電力指令値切替部212から有効電力指令値Prefを受けて、有効電力指令値Prefと有効電力値Poutとの差ΔP(=Pref-Pout)を減算器305に出力する。減算器305は、差ΔPと指令値補正項Pgovとの差ΔP1(=ΔP-Pgov)を減算器306に出力する。減算器306は、差ΔP1と、周波数差ΔfおよびフィードバックゲインD(式(1)の制動係数)の積D・Δfとの差ΔP2(=ΔP1-D・Δf)を積分器307に出力する。積分器307は、差ΔP2を積分することによって計算された周波数差Δfを加算器310に出力する。なお、図3の積分器307に記載されている係数Mは、同期発電機の慣性定数Mに対応する。慣性定数Mは、VSG制御部207の応答速度を決定する。すなわち、慣性定数Mが大きいほどVSG制御部207の応答速度は遅くなり、慣性定数Mが小さいほどVSG制御部207の応答速度は速くなる。
【0040】
加算器310は、周波数差Δfと基準周波数f0との和をインバータ電圧周波数f_vsgとして換算ゲインブロック311およびVSG制御部207の外部に出力する。換算ゲインブロック311は、インバータ電圧周波数f_vsgに2πを乗じた角周波数ω_vsg(=2π・f_vsg)を積分器312に出力する。積分器312は、角周波数ω_vsgを積分することによって計算されたインバータ電圧位相θ_vsgを出力する。
【0041】
フィードバックゲインブロック308は、周波数差ΔfとフィードバックゲインDの積D・Δfを減算器306に出力する。一次遅れブロック309は、周波数差Δfに応じた指令値補正項Pgovを減算器305に出力する。
【0042】
同期発電機と、インバータ電源としての電力変換装置100との類比(対応関係)に関して、電力変換装置100の有効電力値Poutが電気的出力エネルギーPeに対応する。一方で、電力変換装置100は、機械的入力エネルギーPmに対応するエネルギー要素を有さない。ただし、電力変換装置100の定常動作においては電力変換装置100から出力される交流電力の周波数を一定に保つことが求められる。そのため、定常動作においては、機械的入力エネルギーPmは電気的出力エネルギーPeとほとんど等しくなる。機械的入力エネルギーPmを電気的出力エネルギーPeの指令値(目標値)と解釈することができる。したがって、電力変換装置100においては、有効電力指令値Prefを機械的入力エネルギーPmに対応させることができる。有効電力値Poutが有効電力指令値Prefと等しい場合、インバータ電圧周波数f_vsgは基準周波数f0(定格周波数)となる。有効電力値Poutが有効電力指令値Prefより小さい場合、VSG制御部207はインバータ電圧周波数f_vsgを現在の値よりも増加させて、有効電力値Poutを有効電力指令値Prefに近づける。有効電力値Poutが有効電力指令値Prefより大きい場合、VSG制御部207はインバータ電圧周波数f_vsgを現在の値よりも減少させて、有効電力値Poutを有効電力指令値Prefに近づける。VSG制御部207がこのように実際の同期発電機の動作特性を模擬する制御を行うことにより、慣性力、同期化力、および制動力という同期発電機の有する能力が電力変換装置100によって発揮される。その結果、電力変換装置100が交流電力を供給する交流電力系統900の安定性を向上させることができる。
【0043】
また、同期発電機は、回転子の回転速度を定格速度に維持するために、ガバナー(調速機)と呼ばれる機械的な機構を備える。ガバナーは、同期発電機において回転子の回転速度の定格回転速度からの偏差に応じて機械的入力エネルギーPmの大きさを調整する。一次遅れブロック309は、ガバナーによる回転速度の調整機能を、インバータ電圧周波数f_vsgの調整機能として模擬する。一次遅れブロック309は、インバータ電圧周波数f_vsgの基準周波数f0からの周波数差Δfに応じて、指令値補正項Pgovを決定する。指令値補正項Pgovは、減算器305において有効電力指令値Prefから減算される。ガバナーを模擬する制御により、有効電力指令値Prefと有効電力値Poutとが大きく異なる場合でも、インバータ電圧周波数f_vsgの基準周波数f0からの周波数差Δfを低減することができる。
【0044】
次に、周波数同期制御部206の構成について説明する。周波数同期制御部206は、減算器301と、PI(Proportional-Integral)制御器302とを含む。減算器301は、系統電圧周波数f_pllとインバータ電圧周波数f_vsgとの周波数差Δf10をPI制御器302に出力する。PI制御器302は、周波数差Δf10を積分することによって計算された有効電力指令値Prefを有効電力指令値切替部212に出力する。
【0045】
周波数同期制御部206は、投入リレー105が非投入状態である場合に動作する。周波数同期制御部206の目的は、VSG制御部207によって決定されたインバータ電圧周波数f_vsgが、周波数・位相検出部204によって検出された系統電圧周波数f_pllに近づくように有効電力指令値Prefを制御することである。すなわち、当該目的は、インバータ側の電圧と系統側の電圧との周波数差を解消することである。図3に示される構成においては、系統電圧周波数f_pllとインバータ電圧周波数f_vsgとの差Δf10がPI制御器302に入力され、PI制御器302によって計算される差Δf10の積分値が仮想同期発電機制御によって用いられる有効電力指令値Prefとされる。
【0046】
有効電力指令値切替部212は、ノードTA1,TB1,TC1を含む。有効電力指令値切替部212は、切替信号Sgs1に応じて、ノードTA1~TC1の接続状態を変化させる。すなわち、有効電力指令値切替部212は、投入リレー105が非投入状態である場合、ノードTC1とTA1とを接続する。有効電力指令値切替部212は、投入リレー105が投入状態である場合、ノードC1とTB1とを接続する。ノードTB1には、予め定められた値または通信等によって制御部110の外部から指定された値である有効電力指令値Prefが入力されている。
【0047】
次に、上記の構成によりインバータ電圧周波数f_vsgと系統電圧周波数f_pllとが同期されるする原理について説明する。たとえば、系統電圧周波数f_pllがインバータ電圧周波数f_vsgより高い場合、周波数同期制御部206の出力である有効電力指令値Prefは正の値を有する。この場合、投入リレー105は投入前の遮断状態(非投入状態)であるため、電力変換装置100と交流電力系統900とは接続されておらず、有効電力値Poutは0Vである。したがって、VSG制御部207の入力となる有効電力指令値Prefと有効電力値Poutとの差ΔPは有効電力指令値Pref(>0)となる。仮想同期発電機制御の効果によって出力電圧周波数f_vsgは増加するため、差Δf10が減少していく。系統電圧周波数f_pllがインバータ電圧周波数f_vsgより低い場合も同様にインバータ電圧周波数f_vsgは減少し、差Δf10が減少していく。PI制御器302が積分を含むため、十分時間が経過した後は差Δf10の定常偏差は解消され、系統電圧周波数f_pllおよびインバータ電圧周波数f_vsgは同期する。
【0048】
このようにして、VSG制御部207および周波数同期制御部206は、インバータ電圧周波数f_vsgを系統電圧周波数f_pllに追従させる。また、投入リレー105の投入以前からVSG制御部207を介してインバータ電圧周波数f_vsgを制御しておくことにより、投入リレー105の投入前後で電圧周波数を決定する方法が共通となる。その結果、投入リレー105の投入の瞬間にインバータ側電圧周波数f_vsgが不連続に変化することを予防することができる。
【0049】
さらに、周波数同期制御部206からVSG制御部207に入力される有効電力指令値Prefとして、投入リレー105が投入されていない間は周波数同期制御部206によって計算された値を用い、投入リレー105の投入されている間は予め定められた値または通信等によって制御部110の外部から指定された値を用いることにより、投入リレー105の投入がされていない間は周波数同期効果が得られるとともに、投入リレー105の投入されている間は仮想同期発電機制御による交流電力系統900の電圧を安定化することができる。
【0050】
図4は、図2の電圧制御部209および電圧振幅指令値切替部213の内部構成の一例を示す制御ブロック図である。図4に示されるように、有効電力指令値切替部212は、ノードTA2,TB2,TC2を含む。ノードTA2には、系統電圧測定値Voの振幅(絶対値)|Vo|が入力される。ノードTB2には、振幅指令値Vrefが入力される。有効電力指令値切替部212は、切替信号Sgs2に応じて、ノードTA2~TC2の接続状態を変化させる。すなわち、有効電力指令値切替部212は、投入リレー105が非投入状態である場合、ノードTC2とTA2とを接続する。有効電力指令値切替部212は、投入リレー105が投入状態である場合、ノードC2とTB2とを接続する。有効電力指令値切替部212は、振幅|Vo|および振幅指令値Vrefのいずれかである電圧振幅指令値|V|refをノードTC2から電圧制御部209に出力する。
【0051】
電圧制御部209は、減算器402と、PI制御器403と、加算器404とを含む。減算器402は、電圧振幅指令値|V|refとインバータ電圧測定値Vfoの振幅|Vfo|との振幅差Δ|V|をPI制御器403に出力する。PI制御器403は、振幅差Δ|V|を積分することによって計算された積分値を加算器404に出力する。加算器404は、当該積分値と電圧振幅指令値|V|refとの和をインバータ電圧振幅|Vinv|として出力する。
【0052】
電圧制御部209は、インバータ電圧測定値Vfoの振幅|Vfo|が電圧振幅指令値|V|refに近づくよにインバータ電圧測定値Vfoを制御する。電圧制御部209においては、電圧振幅指令値|V|refとして、投入リレー105が投入されていない間は系統電圧測定値Voの振幅|Vo|を用い、投入リレー105が投入されている間は予め定められた値あるいは通信等によって制御部110の外部から指定された値である振幅指令値Vrefを用いることにより、投入リレー105が投入されていない間はインバータ電圧測定値Vfoの振幅を系統電圧測定値Voの振幅に追従させる。その結果、投入リレー105のインバータ側の電圧の振幅と系統側の電圧の振幅とを等しい大きさに近づけることができるため、投入リレー105の投入条件を満たし易くすることができる。また、投入リレー105が投入されている間は、インバータ102から出力される電圧の振幅を所望の電圧振幅に維持することができる。
【0053】
図5は、図2の投入判定部208によって行われる投入判定処理(投入判定シーケンス)の流れを説明するフローチャートである。図5に示される投入判定処理は、制御部110において予め決定された時間周期(サンプリングタイム)毎に繰り返し実行される。たとえば、インバータ102のスイッチング周波数を20kHzとし、ゲート駆動信号Sggの生成にキャリア比較PWMを用いる場合、インバータ102のスイッチング周波数の1/20(キャリアの一周期)である5μsに合わせて、投入判定部208による投入判定処理が行われる。以下では、ステップを単にSと記載する。
【0054】
図5に示されるように、投入判定部208は、S501において、投入リレー105が非投入状態であるか否かを判定する。投入リレー105が導入状態である場合(S501においてNO)、投入判定部208は、投入判定処理を終了する。投入リレー105が非投入状態である場合(S501においてYES)、投入判定部208は、処理をS502に進める。
【0055】
投入判定部208は、S502において、系統電圧測定値Voの振幅|Vo|とインバータ電圧測定値Vfoの振幅|Vfo|との振幅差Δ|V1|(=|Vo|-|Vfo|)が予め定められた許容範囲(第1許容範囲)に含まれるという条件(第1条件)が成立するか否かを判定する。当該許容範囲は、実機実験あるいはシミュレーションによって適宜決定することができる。当該許容範囲は、振幅差Δ|V1|がいかなる範囲内にある場合に投入リレー105を投入すれば投入リレー105の投入時に発生する突入電流がインバータ102の動作可能電流範囲に含まれるかという観点から設定されることが望ましい。当該許容範囲のしきい値(最大値および最小値)は、たとえば、定格電圧比の±1%とすることができる。
【0056】
振幅差Δ|V1|が許容範囲に含まれていない場合(S502においてNO)、投入判定部208は、S503において、投入可能状態継続カウンタを0にリセットし、処理を終了する。投入可能状態継続カウンタは、投入リレー105を投入可能な状態が連続でどれだけの時間継続しているかを記録するためのカウンタである。振幅差Δ|V1|が許容範囲に含まれている場合(S502においてYES)、投入判定部208は、処理をS504に進める。
【0057】
投入判定部208は、S504において、周波数・位相検出部204によって検出された系統電圧周波数f_pllと、VSG制御部207によって生成されるインバータ電圧周波数f_vsgとの周波数差Δf1(=f_pll-f_vsg)が予め定められた許容範囲(第3許容範囲)に含まれるという条件(第3条件)が成立するか否かを判定する。当該許容範囲は、実機実験あるいはシミュレーションによって適宜決定することができる。当該許容範囲は、周波数差Δf1がいかなる範囲内にある場合に投入リレー105を投入すれば投入リレー105の投入時に発生する突入電流がインバータ102の動作可能電流範囲に含まれるかという観点から設定されることが望ましい。周波数差Δf1の許容範囲は、たとえば、±0.01Hzとすることができる。
【0058】
周波数差Δf1が許容範囲に含まれていない場合(S504においてNO)、投入判定部208は、S505において、投入可能状態継続カウンタを0にリセットし、処理を終了する。周波数差Δf1が許容範囲に含まれている場合(S504においてYES)、投入判定部208は、処理をS506に進める。
【0059】
投入判定部208は、S506において、周波数・位相検出部204によって検出された系統電圧位相θ_pllと、VSG制御部207によって生成されたインバータ電圧位相θ_vsgとの位相差Δθ1が予め定められた許容範囲(第2許容範囲)に含まれるという条件(第2条件)が成立するか否かを判定する。位相差Δθ1の許容範囲は、実機実験あるいはシミュレーションによって適宜決定することができる。位相差Δθ1の許容範囲は、位相差Δθ1がいかなる範囲内にある場合に投入リレー105を投入すれば投入リレー105の投入時に発生する突入電流がインバータ102の動作可能電流範囲に含まれるかという観点から設定されることが望ましい。位相差Δθ1の許容範囲は、たとえば、±5°以内とすることができる。
【0060】
位相差Δθ1が許容範囲に含まれていない場合(S506においてNO)、投入判定部208は、S507において、投入可能状態継続カウンタを0にリセットし、処理をS508に進める。投入判定部208は、S508において、インバータ電圧位相θ_vsgに系統電圧位相θ_pllを設定して、処理を終了する。位相差Δθ1が許容範囲に含まれている場合(S506においてYES)、投入判定部208は、処理をS509に進める。
【0061】
投入判定部208による処理がS509に至る場合、振幅差Δ|V1|、周波数差Δf1、および位相差Δθ1の各々が対応する許容範囲内に含まれるため、投入リレー105が投入可能な状態にある。投入判定部208は、投入可能状態継続カウンタを投入判定シーケンスの実行周期の1周期分(1演算時間)だけ増加させて、処理をS510に進める。
【0062】
投入判定部208は、S510において、投入可能状態継続カウンタが予め定められた基準時間間隔を超えているか否かを判定する。基準時間間隔は、実機実験あるいはシミュレーションによって適宜決定することができる。基準時間間隔は、投入リレー105に投入指令(オン指令)が出力された後から実際にリレーが投入されるまでの遅れ時間に対して十分長い時間に設定されることが望ましい。基準時間間隔は、たとえば5秒とすることができる。S510が行われる理由については後に説明する。
【0063】
投入判定部208による処理がS511に至る場合、投入リレー105を投入可能な状態が基準時間間隔より長く継続している。投入判定部208は、S510において、投入リレー105に投入リレー制御信号Sgrとして投入指令を出力し、処理をS512に進める。投入判定部208は、S512において、電圧振幅指令値|V|refを予め定められた値または通信等によって制御部110の外部から指定された値に切り替えることを指示する切替信号Sgs2を電圧振幅指令値切替部213に出力し、処理をS513に進める。投入判定部208は、S513において、有効電力指令値Prefを予め定められた値または通信等によって制御部110の外部から指定された値に切り替えることを指示する切替信号Sgs1を有効電力指令値切替部212に出力し、処理を終了する。S512およびS513の切替処理によって、投入リレー105を投入後も電圧制御および仮想同期発電機制御が継続される。
【0064】
なお、図5においては、電圧の振幅差Δ|V1|、電圧の周波数差Δf1、および電圧の位相差Δθ1の各々について、当該差が対応する許容範囲に含まれるか否かを判定する場合について説明した。しかし、周波数差Δf1が許容範囲に含まれているか否かの判定は行われなくてもよい。たとえば、投入リレー制御信号Sgrが投入リレー105に出力されてから投入リレー105が実際にオンとなる時間が十分に短く、投入リレー105の投入可否を電圧の瞬時値で判断することができるような場合には、振幅差Δ|V1|および位相差|θ1|を用いて投入リレー105の投入可否が判定されてもよい。
【0065】
ここで、S510において、投入可能状態の継続時間を確認する理由について説明する。たとえば、或るタイミングにおける投入判定において投入リレー105の両端の電圧の振幅差Δ|V1|、周波数差Δf1、および位相差Δθ1のそれぞれが対応する許容範囲に含まれているという3つの条件がすべて成立している場合、当該電圧が比較的大きく変化する過渡現象の過程で偶発的に当該3つの条件が成立している可能性がある。偶発的に当該3つの条件が成立している場合、投入判定処理終了後の数μ秒後には過渡現象が進展して、振幅差Δ|V1|、周波数差Δf1、および位相差Δθ1のいずれかが、投入可能な許容範囲から逸脱する可能性がある。このような状況で投入判定後に投入リレー105へ投入指令が出力された場合、投入指令の出力から実際に投入リレー105が投入されるまでの時間遅れに起因して、投入リレー105が実際に投入される瞬間には投入リレー105の両端の電圧差が投入判定時よりも増大しており、その結果、突入電流が想定よりも増加し得る。そこで、図5においては、S510において投入可能状態が一定時間継続していることが確認されてから投入リレー105に投入指令が出力される。S510が行われることにより、投入リレー105の両端の電圧の振幅差Δ|V1|、周波数差Δf1、および位相差Δθ1のそれぞれが対応する許容範囲に含まれているという3つの条件がすべて成立している場合が、過渡現象の過程ではなく、当該3つの条件の成立が継続する定常状態であることを確認することができる。その結果、突入電流の発生を確実に予防することができる。
【0066】
以上の投入判定処理により、投入リレー105の両端の電圧の振幅差Δ|V1|、周波数差Δf1、および位相差Δθ1の各々が対応する許容範囲に一定時間継続的に含まれることが確認されてから投入リレー105が投入される。その結果、投入リレー105の投入時に突入電流が抑制され、過大な衝撃なく電力変換装置100を交流電力系統900へ追加的に連系することができる。また、交流電力系統900へ連系された後も、仮想同期発電機制御を用いる電圧制御を実施することができるため、交流電力系統900の安定性を向上させることができる。
【0067】
以上、実施の形態1に係る電力変換装置によれば、電力変換装置が交流電力系統と連係する場合において、突入電流を抑制しながら、商用系統の電圧を安定的に維持することができる。
【0068】
実施の形態2.
実施の形態1においては、電圧制御部において出力電圧振幅指令値とインバータ電圧測定値の振幅との振幅差を積分することによってインバータ電圧指令値の振幅が決定される構成について説明した。実施の形態2においては、電圧制御部において電流制御を介してインバータ電圧指令値の振幅が決定される構成について説明する。
【0069】
図6は、実施の形態2に係る電力変換装置の制御部110Bの内部構成の一例を示すブロック図である。制御部110Bの構成は、図2の電圧制御部209が209Bに置き換えられた構成である。これ以外の制御部110Bの構成は制御部110と同様であるため、同様の構成についての説明を繰り返さない。図6に示されるように、電圧制御部209Bには、電圧振幅指令値|V|refおよびインバータ電圧測定値Vfoに加えて、電流測定値Ioが入力される。
【0070】
図7は、図6の電圧制御部209Bの内部構成の一例を示す制御ブロック図である。電圧制御部209Bの構成は、図4のPI制御器403が、PI制御器601および電流制御部610に置き換えられた構成である。これ以外の電圧制御部209Bの構成は電圧制御部209と同様であるため、同様の構成についての説明を繰り返さない。
【0071】
図7に示されるように、PI制御器601は、振幅差Δ|V|を積分することによって計算された、インバータ102から出力される電流の振幅指令値|Io|refを電流制御部610に出力する。PI制御器601は、インバータ電圧測定値Vfoを指令値に近づけるために必要なインバータ側の電流値を決定する。
【0072】
電流制御部610は、減算器602とゲインブロック603とを含む。減算器602は、振幅指令値|Io|refと電流測定値Ioの振幅|Io|との振幅差Δ|I|をゲインブロック603に出力する。ゲインブロック603は、振幅差Δ|I|にゲインKを乗じて、加算器404に出力する。
【0073】
電圧制御部209Bは、電流測定値Ioを電流指令値Iorefに近づけるようにインバータ電圧振幅|Vinv|を制御する。電圧制御部209Bにおいては、部分的に電流制御が行われながら、全体としては電圧制御が行われる。電圧制御において電流制御が行われることにより、突入電流が収束する方向にインバータ電圧振幅|Vinv|を制御することが可能になる。その結果、突入電流の収束を高速化することができるとともに、突入電流の発生をさらに抑制することができる。
【0074】
以上、実施の形態2に係る電力変換装置によれば、電力変換装置が交流電力系統と連係する場合において、突入電流を抑制しながら、商用系統の電圧を安定的に維持することができる。
【0075】
今回開示された各実施の形態は、矛盾しない範囲で適宜組み合わせて実施することも予定されている。今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0076】
100 電力変換装置、102 インバータ、103 リアクトル、104 コンデンサ、105 投入リレー、106 系統電圧測定部、107 インバータ電圧測定部、108 電流測定部、110,110B,207 制御部、120 LCフィルタ、204 位相検出部、205 有効電力計算部、206 周波数同期制御部、208 投入判定部、209,209B 電圧制御部、210 電圧指令値計算部、211 ゲート駆動信号生成部、212 有効電力指令値切替部、213 電圧振幅指令値切替部、301,304~306,402,602 減算器、302,403,601 PI制御器、307,312 積分器、308 フィードバックゲインブロック、309 一次遅れブロック、310,404 加算器、311 換算ゲインブロック、603 ゲインブロック、610 電流制御部、800 直流電源、900 交流電力系統、Io 電流測定値、|Io|ref 電流指令値、Pe 電気的出力エネルギー、Pgov 指令値補正項、Pm 機械的入力エネルギー、Pout 有効電力値、Pref 有効電力指令値、Tmi 入力端子、Tmo 出力端子、Vfo インバータ電圧測定値、Vinvref インバータ電圧指令値、Vo 系統電圧測定値、Vref 振幅指令値、f_vsg インバータ電圧周波数、f_pll 系統電圧周波数。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7