(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-26
(45)【発行日】2024-10-04
(54)【発明の名称】エレベータ装置
(51)【国際特許分類】
B66B 5/22 20060101AFI20240927BHJP
【FI】
B66B5/22 Z
(21)【出願番号】P 2023543572
(86)(22)【出願日】2021-08-26
(86)【国際出願番号】 JP2021031300
(87)【国際公開番号】W WO2023026423
(87)【国際公開日】2023-03-02
【審査請求日】2024-01-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】沼田 聡志
【審査官】吉川 直也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/110437(WO,A1)
【文献】特開2014-65589(JP,A)
【文献】国際公開第2005/115904(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0207576(US,A1)
【文献】特表2007-521203(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 5/06; 5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗りかごと、
前記乗りかごの下方の左右両側に設けられる第1および第2の非常止め装置と、
前記乗りかごに設けられ、前記非常止め装置を動作させる電動作動器と、
を備えるエレベータ装置において、
前記電動作動器は、
可動部材と、
前記電動作動器の待機状態において、前記可動部材を吸引する電磁石と、
前記可動部材に接続される第1のロッドと、
前記第1のロッドの端部に接続される第1の制動子起動部材と、
リンク機構によって前記第1のロッドと連動可能な第2のロッドと、
前記第2のロッドの端部に接続される第2の制動子起動部材と、
を備え、
前記電磁石の励磁が停止され、前記第1のロッドが駆動されると、前記第1の制動子起動部材によって前記第1の非常止め装置の制動子が押し上げられるとともに、前記第1のロッドに連動する前記第2のロッドが駆動されて、前記第2の制動子起動部材によって前記第2の非常止め装置の制動子が押し上げられ、
前記電動作動器は、
前記電磁石と螺合する送りねじと、
前送りねじを回転駆動するモータと
を備え、
前記電動作動器は、前記乗りかごの下方に設けられ、
前記第1および第2のロッドと、前記送りねじとは、長手方向において平行に配置されていることを特徴とするエレベータ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のエレベータ装置において、
前記第1および第2の制動子起動部材はテーパ面を有し、
前記テーパ面によって前記制動子が押し上げられることを特徴とするエレベータ装置。
【請求項3】
請求項2に記載のエレベータ装置において、
前記テーパ面は、前記制動子の下部に直接接触していることを特徴とするエレベータ装置。
【請求項4】
請求項2に記載のエレベータ装置において、
前記テーパ面は、前記制動子に接続され、前記制動子の側方へ延びるレバーに接触していることを特徴とするエレベータ装置。
【請求項5】
請求項1に記載のエレベータ装置において、
前記第1および第2のロッドは、ばね力によって駆動されることを特徴とするエレベータ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動で作動する非常止め装置を備えるエレベータ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エレベータ装置には、乗りかごの昇降速度を常時監視して、所定の過速状態に陥った乗りかごを非常停止させるために、ガバナおよび非常止め装置が備えられている。一般に、乗りかごとガバナはガバナロープによって結合されており、過速状態を検出すると、ガバナがガバナロープを拘束することで乗りかご側の非常止め装置を動作させ、乗りかごを非常停止するようになっている。
【0003】
このようなエレベータ装置では、昇降路内に長尺物であるガバナロープを敷設するため、省スペース化および低コスト化が難しい。また、ガバナロープが振れる場合、昇降路内における構造物とガバナロープとが干渉しやすくなる。
【0004】
これに対し、ガバナロープを用いない非常止め装置が提案されている。
【0005】
ガバナロープを用いない非常止め装置に関する従来技術として、特許文献1に記載された技術が知られている。
【0006】
本従来技術では、乗りかご上に、非常止め装置を駆動する駆動軸と、駆動軸を作動させる作動機構が設けられる。作動機構は、接続片を介して駆動軸に機械的に接続される可動鉄心と、可動鉄心を吸着する電磁石を備えている。駆動軸は、駆動バネによって付勢されているが、通常時は、電磁石が通電され可動鉄心が吸着されているため、作動機構によって駆動軸の動きが拘束されている。
【0007】
非常時には、電磁石が消磁されて駆動軸の拘束が解かれ、駆動バネの付勢力によって駆動軸が駆動される。これにより、非常止め装置の引上げロッドが引き上げられるので、非常止め装置が動作して、乗りかごが非常停止する。
【0008】
また、非常止め装置を通常状態に復帰させるときには、非常時に移動した可動鉄心に、電磁石を移動して近付ける。電磁石が可動鉄心に当接したら、電磁石を通電し、可動鉄心を電磁石に吸着する。さらに、可動鉄心が電磁石に吸着された状態で、電磁石を駆動して、可動鉄心および電磁石を通常時の待機位置に戻す。なお、電磁石の移動機構は、電磁石が螺合する送りねじ軸と、送りねじ軸を回転させるモータとを有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記従来技術では、作動機構が、非常止め装置の引上げロッドを引き上げるように構成されるため、作動機構の設置の自由度が制限されたり、作動機構の設置スペースが大きくなったりする。
【0011】
そこで、本発明は、設置の自由度が向上でき、省スペース化に適した、電動の非常止め装置を備えるエレベータ装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明によるエレベータ装置は、乗りかごと、乗りかごに設けられる非常止め装置と、乗りかごに設けられ、非常止め装置を動作させる電動作動器と、を備えるものであって、電動作動器は、可動部材と、電動作動器の待機状態において、可動部材を吸引する電磁石と、可動部材に接続されるロッドと、ロッドの端部に接続される制動子起動部材と、を備え、電磁石の励磁が停止され、ロッドが駆動されると、制動子起動部材によって非常止め装置の制動子が押し上げられる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、非常止め装置の作動機構が占有するスペースを低減できるとともに、作動機構の設置位置の自由度が向上する。
【0014】
上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施例であるエレベータ装置の概略構成図である。
【
図2】実施例における電動作動器の機構部を示す正面図である。
【
図3】実施例における電動作動器の機構部を示す正面図である。
【
図4】実施例における電動作動器の機構部を示す側面図である。
【
図5】変形例における電動作動器の機構部を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態であるエレベータ装置について、実施例により、図面を用いながら説明する。なお、各図において、参照番号が同一のものは同一の構成要件あるいは類似の機能を備えた構成要件を示している。
【0017】
図1は、本発明の一実施例であるエレベータ装置の概略構成図である。
【0018】
図1に示すように、エレベータ装置は、乗りかご1と、電動作動器10と、駆動機構(12,100など)と、非常止め装置2とを備えている。
【0019】
乗りかご1は、建築物に設けられる昇降路内に主ロープ(図示せず)により吊られており、ガイド装置(図示せず)を介してガイドレール4に摺動可能に係合している。駆動装置(巻上機:図示せず)により主ロープが摩擦駆動されると、乗りかご1は昇降路内を昇降する。
【0020】
図示しない速度検出装置が、乗りかご1に備えられ、昇降路内における乗りかご1の昇降速度を常時検出する。したがって、速度検出装置により、乗りかご1の昇降速度が所定の過速度を超えたことを検出することができる。
【0021】
本実施例では、速度検出装置は、画像センサを備え、画像センサによって取得されるガイドレール4の表面状態の画像情報に基づいて、乗りかご1の速度を検出する。例えば、速度検出装置は、所定時間における画像特徴量の移動距離から速度を算出する。
【0022】
なお、速度検出装置は、乗りかごの移動とともに回転するロータリーエンコーダの出力信号に基づいて、乗りかごの速度を算出してもよい。
【0023】
電動作動器10は、本実施例では電磁作動器であり、乗りかご1の下部に配置される。また、駆動機構(12,100など)も乗りかご1の下部に配置される。
【0024】
電動作動器10が作動すると、制動子起動部材100によって、非常止め装置2の制動子200が押し上げられる。すなわち、制動子起動部材100によって、制動子200が起動される。これにより、非常止め装置2が動作する。
【0025】
なお、電動作動器10および駆動機構(12,100など)の詳細については後述する。
【0026】
非常止め装置2は、乗りかご1の左右に一台ずつ配置される。各非常止め装置2が備える一対の制動子200は、制動位置および非制動位置の間で可動であり、制動位置においてガイドレール4を挟持する。さらに、非常止め装置2は、乗りかご1の下降により乗りかご1に対して相対的に上昇すると、制動子200とガイドレール4との間に作用する摩擦力により、制動力を生じる。これにより、非常止め装置2は、乗りかご1が過速状態に陥ったときに作動し、乗りかご1を非常停止させる。
【0027】
本実施例のエレベータ装置は、ガバナロープを用いない、いわゆるロープレスガバナシステムを備えるものであり、乗りかご1の昇降速度が定格速度を超えて第1過速度(例えば、定格速度の1.3倍を超えない速度)に達すると、駆動装置(巻上機)の電源およびこの駆動装置を制御する制御装置の電源が遮断される。また、乗りかご1の下降速度が第2過速度(例えば、定格速度の1.4倍を超えない速度)に達すると、乗りかご1に設けられる電動作動器10が非常止め装置2を作動させて、乗りかご1が非常停止される。
【0028】
本実施例において、ロープレスガバナシステムは、前述の速度検出装置と、速度検出装置の出力信号に基づいて乗りかご1の過速状態を判定する安全制御装置と、から構成される。この安全制御装置は、速度検出装置の出力信号に基づいて乗りかご1の速度を計測し、計測される速度が第1過速度に達したと判定すると、駆動装置(巻上機)の電源およびこの駆動装置を制御する制御装置の電源を遮断するための指令信号を出力する。また、安全制御装置は、計測される速度が第2過速度に達したと判定すると、電動作動器10を作動するための指令信号を出力する。
【0029】
前述のように、非常止め装置2が備える一対の制動子が制動子起動部材100によって起動されると、一対の制動子がガイドレール4を挟持する。
【0030】
図2は、本実施例における電動作動器10および駆動機構の機構部を示す、
図1の設置状態における正面図である。なお、
図2において、非常止め装置は非制動状態であり、電動作動器10は非作動状態(待機状態)にある。すなわち、エレベータ装置は通常状態である。
【0031】
エレベータ装置が通常運転されているとき、電動作動器10は待機状態にある。待機状態においては、可動部材34が、励磁されている電磁石35に吸引されている。これにより、駆動ばね13(圧縮ばね)の付勢力に抗して、可動部材34と押圧部材15(ばね座)を接続する接続ブラケット38の動きが拘束されている。なお、可動部材34における少なくとも電磁石35と吸着する部分は磁性体からなる。
【0032】
ロッド21は、押圧部材15を貫通している。押圧部材15は、ロッド21に固定されている。固定部材14は、かご下に位置する乗りかご1の構造部材(図示せず)、たとえば、かご下枠などに固定されている。ロッド21は、固定部材14を、摺動可能に貫通している。ロッド21は、駆動ばね13に挿通されている。駆動ばね13は、固定部材14と押圧部材15の間に位置している。駆動ばね13の一端および他端は、それぞれ、固定部材14および押圧部材15に当接する。電動作動器10の待機状態では、駆動ばね13は、固定部材14および押圧部材15によって押圧される。このため、駆動ばね13は、圧縮され、弾性エネルギを蓄積している。いわば、駆動ばね13は、付勢力を蓄えている。
【0033】
左右一対の制動子起動部材100の各々には、ロッド21が接続される。各ロッド21は、リンク12およびリンク抑えピン30からなるリンク機構により、連動して動作可能である。
【0034】
本実施例では、制動子起動部材100はテーパ部を有し、テーパ面が制動子200の底部に接触している。
【0035】
本実施例では、制動子起動部材100は、バー状の金属部材からなる。金属部材としては、バルク部材や、折り曲げ成形された板状部材などが適用できる。なお、制動子200を支持しかつ押し上げるのに十分な強度を有していれば、バー状の金属部材に限らず、様々な形状および材料の部材が適用できる。
【0036】
図3は、本実施例における電動作動器10および駆動機構の機構部を示す、
図1の設置状態における正面図である。なお、
図3において、非常止め装置は制動状態であり、電動作動器10は作動状態にある。すなわち、エレベータ装置は停止状態である。
【0037】
図示しない安全制御装置からの指令により、電磁石35の励磁が停止されると、可動部材34に作用する吸引力が消失するので、駆動ばね13の付勢力が開放されてロッド21が駆動される。このとき、リンク機構によって、接続ブラケット38と接続されないロッド21も、連動して駆動される。これにより、制動子起動部材100のテーパ面によって、制動子200が押し上げられる。
【0038】
電動作動器10を待機状態に復帰させるためには、次に述べるように、電動作動器10を動作させる。
【0039】
電動作動器10は、可動部材34を駆動するために基板部の平面部上に位置する送りねじ36(例えば、台形ねじ)を有する。送りねじ36は、基板部の平面上に固定される第1の支持部材41および第2の支持部材42によって回転可能に支持される。電磁石35は、ナット部を備えており、このナット部が送りねじ36と螺合する。送りねじ36は、モータ37によって回転駆動される。
【0040】
なお、基板部としては、金属板などの板状部材を用いてもよいし、かご下枠を構成する鋼材の平面部を用いてもよい。
【0041】
電動作動器10を待機状態に復帰させるには、まず、モータ37を駆動して送りねじ36を回転させる。回転する送りねじ36と電磁石35が備えるナット部とによって、モータ37の回転が、送りねじ36の軸方向に沿った電磁石35の直線的移動に変換される。これにより、電磁石35は、可動部材34に近づいて、可動部材34に接触する。図示されないスイッチ、もしくはモータ37の負荷電流によって、電磁石35と可動部材34の接触が検知されたら、電磁石35を励磁するとともに、モータ37を停止する。可動部材34は、電磁力が作用して、電磁石35に吸着する。可動部材34が電磁石35に吸着したら、電磁石35の励磁を継続しながら、モータ37の回転方向を逆にして、送りねじ36を逆転させる。これにより、可動部材34は、電磁石35とともに、待機時の位置まで移動する。
【0042】
図4は、本実施例における電動作動器10の機構部を示す、
図1の設置状態における側面図である。すなわち、
図4は、
図2におけるA視点図である。
【0043】
図4に示すように、ロッド21は、一対の制動子200の直下部に向かって延びている。したがって、ロッド21の端部に接続される制動子起動部材100は、制動子200と直接接触する。
【0044】
なお、本実施例における非常止め装置は、公知技術による非常止め装置と異なり、長手方向が乗りかごの高さ方向に延びる引上げロッドを有していない。他の構成は公知技術による非常止め装置と同様である。例えば、
図4に示すように、制動子200、並びに制動子200を押圧する板ばねなどの弾性体は、筐体201(もしくは枠体)に収納されている。
【0045】
図5は、一変形例であるエレベータ装置における電動作動器10の機構部を示す、
図4と同様の側面図である。
【0046】
本変形例では、一対の制動子200の下部にレバー203が接続される。レバー203は、一対の制動子200の側方、すなわち制動子200の下部からロッド21の長手方向に対して垂直な方向へ延びている。レバー203の延在部の端部すなわち自由端部が、制動子起動部材100のテーパ面に接触する。
【0047】
本変形例では、レバー203が制動子起動部材100によって押し上げられることにより、制動子200が押し上げられる。
【0048】
上述の実施例によれば、制動子起動部材100によって制動子200が押し上げられるので、非常止め装置の作動機構(電動作動器10および駆動機構(12,200など))が占有するスペースを低減できるとともに、作動機構の設置位置の自由度が向上する。
【0049】
なお、本発明は前述した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、前述した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置き換えをすることが可能である。
【0050】
例えば、非常止め装置が、かご上方に設置される場合、電動作動器はかご上に設けてもよい。
【0051】
また、エレベータ装置は、機械室を有するものでもよいし、いわゆる機械室レスエレベータでもよい。
【符号の説明】
【0052】
1…乗りかご、2…非常止め装置、4…ガイドレール、10…電動作動器、12…リンク、13…駆動ばね、14…固定部材、15…押圧部材、21…ロッド、30…リンク抑えピン、34…可動部材、35…電磁石、36…送りねじ、37…モータ、38…接続ブラケット、41…支持部材、42…支持部材、100…制動子起動部材、200…制動子、203…レバー