(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-26
(45)【発行日】2024-10-04
(54)【発明の名称】清掃範囲特定方法および清掃範囲特定装置
(51)【国際特許分類】
A47L 9/28 20060101AFI20240927BHJP
【FI】
A47L9/28 E
(21)【出願番号】P 2023568948
(86)(22)【出願日】2021-12-23
(86)【国際出願番号】 JP2021047938
(87)【国際公開番号】W WO2023119572
(87)【国際公開日】2023-06-29
【審査請求日】2024-06-20
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000236056
【氏名又は名称】三菱電機ビルソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 嘉人
【審査官】村山 達也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/154420(WO,A1)
【文献】特開2019-84165(JP,A)
【文献】特開2020-187532(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47L 9/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
施設内の床面における清掃範囲を特定する清掃範囲特定方法であって、
前記施設内に設置される位置検出器により前記施設内における人または移動体の移動軌跡を検出するステップと、
前記施設の床材を示す床材情報を取得するステップと、
前記移動軌跡および前記床材情報を用いて、前記清掃範囲をコンピュータにより算出するステップとを備え
、
前記清掃範囲を算出するステップは、前記床材が起毛材料で形成されていない場合に、前記床面から前記移動軌跡を除外した範囲を前記清掃範囲として算出するステップを含む、清掃範囲特定方法。
【請求項2】
施設内の床面における清掃範囲を特定する清掃範囲特定方法であって、
前記施設内に設置される位置検出器により前記施設内における人または移動体の移動軌跡を検出するステップと、
前記施設の床材を示す床材情報を取得するステップと、
前記移動軌跡および前記床材情報を用いて、前記清掃範囲をコンピュータにより算出するステップとを備え
、
前記清掃範囲を算出するステップは、
前記移動軌跡から清掃作業を阻害する障害物の設置範囲を推定するステップと、
前記床材が起毛材料で形成されていない場合に、前記床面から前記移動軌跡および前記障害物の設置範囲を除外した範囲を前記清掃範囲として算出するステップとを含む、清掃範囲特定方法。
【請求項3】
前記障害物の設置範囲を推定するステップは、前記移動軌跡によって囲まれた範囲を前記設置範囲と推定する、請求項
2に記載の清掃範囲特定方法。
【請求項4】
前記清掃範囲を特定するステップは、前記床材が前記起毛材料で形成されている場合に、前記移動軌跡を含む範囲を前記清掃範囲として算出するステップを含む、請求項
1または
2に記載の清掃範囲特定方法。
【請求項5】
前記施設の属性を取得するステップをさらに備え、
前記清掃範囲を算出するステップは、前記施設がデータセンターであり、かつ、前記床材が起毛材料で形成されていない場合に、前記床面から前記移動軌跡を除外した範囲を前記清掃範囲として算出する、請求項
1に記載の清掃範囲特定方法。
【請求項6】
前記位置検出器は、前記施設内を撮像するカメラ、または、前記移動体と無線通信する無線通信機を含み、
前記移動軌跡を検出するステップは、前記カメラによる撮像画像および前記移動体からの無線信号を用いて前記移動軌跡を検出するステップを含む、請求項1から
5のいずれか1項に記載の清掃範囲特定方法。
【請求項7】
施設内の床面における清掃範囲を特定する清掃範囲特定装置であって、
前記施設内に設置され、前記施設内における人または移動体の移動軌跡を検出する位置検出器と、
プロセッサと、
前記プロセッサによって実行されるプログラムを記憶するメモリとを備え、
前記プロセッサは、前記プログラムに従って、
前記施設の床材を示す床材情報を取得し、
前記位置検出器により検出される前記移動軌跡および前記床材情報を用いて、前記清掃範囲を算出
するように構成され、
前記プロセッサは、前記床材が起毛材料で形成されていない場合に、前記床面から前記移動軌跡を除外した範囲を前記清掃範囲として算出する、清掃範囲特定装置。
【請求項8】
施設内の床面における清掃範囲を特定する清掃範囲特定装置であって、
前記施設内に設置され、前記施設内における人または移動体の移動軌跡を検出する位置検出器と、
プロセッサと、
前記プロセッサによって実行されるプログラムを記憶するメモリとを備え、
前記プロセッサは、前記プログラムに従って、
前記施設の床材を示す床材情報を取得し、
前記位置検出器により検出される前記移動軌跡および前記床材情報を用いて、前記清掃範囲を算出
するように構成され、
前記床材が起毛材料で形成されていない場合に、前記プロセッサは、
前記移動軌跡から清掃作業を阻害する障害物の設置範囲を推定し、
前記床面から前記移動軌跡および前記障害物の設置範囲を除外した範囲を前記清掃範囲として算出する、清掃範囲特定装置。
【請求項9】
前記プロセッサは、前記移動軌跡によって囲まれた範囲を前記設置範囲と推定する、請求項
8に記載の清掃範囲特定装置。
【請求項10】
前記床材が前記起毛材料で形成されている場合に、前記プロセッサは、前記移動軌跡を含む範囲を前記清掃範囲として算出する、請求項
7または
8に記載の清掃範囲特定装置。
【請求項11】
前記プロセッサは、前記プログラムに従って、前記施設の属性を示す情報をさらに取得し、
前記プロセッサは、前記施設がデータセンターであり、かつ、前記床材が起毛材料で形成されていない場合に、前記床面から前記移動軌跡を除外した範囲を前記清掃範囲として算出する、請求項
7に記載の清掃範囲特定装置。
【請求項12】
前記位置検出器は、前記施設内を撮像するカメラ、または、前記移動体と無線通信する無線通信機を含み、
前記プロセッサは、前記カメラによる撮像画像および前記移動体からの無線信号を用いて前記移動軌跡を検出する、請求項
7から
11のいずれか1項に記載の清掃範囲特定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、清掃範囲特定方法および清掃範囲特定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
国際公開第2020/158275号(特許文献1)には、自律移動型の清掃装置により施設の内部を清掃するための清掃ルートを決定する方法が開示される。特許文献1に記載される方法は、フロア毎または時間毎の人の往来の頻度が閾値以上である領域を清掃すべき領域であると決定する。
【0003】
特開2019-84165号公報(特許文献2)には、自走式掃除機による建物内の掃除を支援する掃除支援システムが開示される。特許文献2では、建物内における人の移動軌跡を、人の移動に伴い汚れが発生した汚れ範囲であると推定する。そして、推定された汚れ範囲と、自走式掃除機により掃除が行われた範囲とを重ね合わせ、汚れ範囲のうち、掃除範囲と重複しない部分を、汚れの残る汚れ残留範囲に特定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2020/158275号
【文献】特開2019-84165号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように自律移動型の清掃ロボットによる自動清掃を実施する場合には、人の往来がない時間帯(例えば、夜間)等の限られた時間内で効率良く清掃作業を実施するためには、施設内の塵埃が溜まりやすい部分を重点的に清掃するように清掃範囲を特定することが求められる。
【0006】
このような清掃範囲の特定を施設の管理者または作業員が手作業で行う場合、フロア内の設備の配置を示したレイアウトに基づいて、清掃範囲を特定することができる。ただし、レイアウトには表示されていない、椅子やデスク等の清掃ロボットの走行を妨げる障害物がフロアに設置されている場合がある。そのため、障害物の有無を予め確認し、障害物の設置場所を清掃範囲から除外する作業が必要となり、清掃範囲の特定に時間および手間がかかることが懸念される。また、フロアの床材によって塵埃が溜まりやすい部分が異なる場合があるため、人の往来の頻度または人の移動軌跡のみでは清掃範囲を適切に特定できないことが懸念される。
【0007】
本開示は、かかる問題を解決するためになされたものであり、本開示の目的は、施設内における清掃範囲を適切かつ簡易に特定することができる清掃範囲特定方法および清掃範囲特定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一態様に係る清掃範囲特定方法は、施設内の床面における清掃範囲を特定する清掃範囲特定方法である。清掃範囲特定方法は、施設内に設置される位置検出器により施設内における人または移動体の移動軌跡を検出するステップと、施設の床材を示す床材情報を取得するステップと、移動軌跡および床材情報を用いて、清掃範囲をコンピュータにより算出するステップとを備える。
【0009】
本開示の一態様に係る清掃範囲特定装置は、施設内の床面における清掃範囲を特定する。清掃範囲特定装置は、施設内に設置され、施設内における人または移動体の移動軌跡を検出する位置検出器と、プロセッサと、プロセッサによって実行されるプログラムを記憶するメモリとを備える。プロセッサは、プログラムに従って、施設の床材を示す床材情報を取得する。プロセッサは、位置検出器により検出される移動軌跡および床材情報を用いて、清掃範囲を算出する。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、施設内における清掃範囲を適切かつ簡易に特定することができる清掃範囲特定方法および清掃範囲特定装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施の形態に従う清掃範囲特定装置が適用される清掃システムの全体構成図である。
【
図3】清掃ロボットおよびサーバの構成例を示す図である。
【
図4】サーバにより実行される、清掃範囲を特定する処理の手順の一例を説明するフローチャートである。
【
図7】
図4のステップS03の処理の詳細な手順を説明するフローチャートである。
【
図8】
図5に示した動線マップを用いて作成された清掃範囲マップを示す図である。
【
図9】
図6に示した動線マップを用いて作成された清掃範囲マップを示す図である。
【
図10】変更例に従う清掃システムにおける清掃ロボットおよびサーバの構成例を示す図である。
【
図11】
図4のステップS03の処理の詳細な手順を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中の同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0013】
図1は、本開示の実施の形態に従う清掃範囲特定装置が適用される清掃システムの全体構成図である。清掃システムは、施設100内のフロア20(床面)を清掃するためのシステムである。
【0014】
図1を参照して、清掃システムは、清掃ロボット10と、複数の無線通信機30-1,30-2,30-3・・・と、カメラ32と、サーバ40とを備える。
【0015】
清掃ロボット10は、自律移動型の掃除機である。清掃ロボット10は、バッテリを搭載しており、バッテリに蓄えられた電力を用いて清掃対象のフロア20を走行することができる。清掃ロボット10は、自律的に移動しながら清掃部材を用いてフロア20の清掃を行うことができる。
【0016】
清掃ロボット10には、無線通信機11が設けられている。無線通信機11は、例えばBLE(Bluetooth Low Energy、「Bluetooth」は登録商標)通信規格に従う通信方式を用いて、清掃ロボット10の位置を検出するための信号を発信する。BLE通信規格に代えて、UWB(Ultra Wide Band)通信規格等に従う通信方式を用いてもよい。また、無線通信機11は、例えばLTE(Long Term Evolution)等の無線通信規格に従う通信方式を用いて、清掃ロボット10を識別するためのIDや、清掃ロボット10の清掃の開始/終了を示す信号等をサーバ40へ送信する。
【0017】
無線通信機30-1,30-2,30-3・・・(以下、包括的に「無線通信機30」と称する場合がある。)は、例えば施設100の天井35に適当な距離をおいて配置され、清掃ロボット10の無線通信機11と同じ通信規格に従う通信方式を用いて、清掃ロボット10から発信される信号を受信するとともにその受信強度を検知する。各無線通信機30における受信強度から、フロア20における清掃ロボット10の位置を測定することができる。無線通信機30は、清掃ロボット10から受信した信号の受信強度をサーバ40へ出力する。無線通信機30は、壁に設置されてもよい。
【0018】
カメラ32は、例えば天井35に配置され、フロア20を含む施設100内を撮像する。カメラ32は、撮像画像を示すデータをサーバ40へ出力する。カメラ32の台数は限定されない。また、カメラ32は、壁に設置されてもよい。
【0019】
サーバ40は、フロア20における清掃範囲を特定する。サーバ40は、後述する手順に従って、フロア20において塵埃が溜まりやすい部分を検出し、当該部分を清掃範囲に特定するように構成される。そして、サーバ40は、特定した清掃範囲を示すデータを清掃ロボット10へ送信する。サーバ40は「清掃範囲特定装置」の一実施例に対応する。
【0020】
また、サーバ40は、清掃ロボット10による清掃作業を管理する。サーバ40は、無線通信機30における受信される信号の受信強度を各無線通信機30から受信し、各無線通信機30における受信強度からフロア20における清掃ロボット10の位置を測定する。そして、サーバ40は、清掃ロボット10による清掃作業が、特定された清掃範囲を含む清掃条件に従って正常に実施されたか否かを判定する。
【0021】
図2は、サーバ40のハードウェア構成を示す図である。
図2を参照して、サーバ40は、CPU(Central Processing Unit)41と、RAM(Random Access Memory)2と、ROM(Read Only Memory)43と、I/F(Interface)装置44と、記憶装置45とを含んで構成される。CPU41、RAM42、ROM43、I/F装置44、および記憶装置45は、通信バス46を通じて各種データを遣り取りする。
【0022】
CPU41は、ROM43に格納されているプログラムをRAM42に展開して実行する。ROM43に格納されているプログラムには、サーバ40によって実行される処理が記述されている。
【0023】
I/F装置44は、無線通信機30、カメラ32および清掃ロボット10と信号やデータを遣り取りするための入出力装置である。I/F装置44は、無線通信機30において受信される信号の受信強度を各無線通信機30から受信する。また、I/F装置44は、カメラ32から撮像画像を示すデータを受信する。さらに、I/F装置44は、LTE等の無線通信規格に従う通信方式を用いて、清掃ロボット10を識別するためのIDや、清掃ロボット10の清掃の開始/終了を示す信号等を清掃ロボット10から受信する。
【0024】
記憶装置45は、各種情報を記憶するストレージであって、清掃ロボット10の情報、フロア20の情報(床材情報等)、清掃条件(清掃範囲、頻度、日時等)を定めた清掃契約情報、清掃ロボット10の位置情報および移動履歴(軌跡)等を記憶する。記憶装置45は、例えば、ハードディスクドライブ(HDD:Hard Disk Drive)やソリッドステートドライブ(SSD:Solid State Drive)等である。
【0025】
図3は、清掃ロボット10およびサーバ40の構成例を示す図である。
図3を参照して、清掃ロボット10は、無線通信機11と、カメラ12と、制御部13と、駆動部14と、バッテリ15と、清掃部材16とを含む。
【0026】
無線通信機11は、
図1で説明したように、例えばBLE通信規格に従う通信方式を用いて、清掃ロボット10の位置を検出するための信号を発信する。また、無線通信機11は、例えば、LTE等の無線通信規格に従う通信方式を用いて、清掃ロボット10を識別するためのID、清掃ロボット10による清掃の開始を示す清掃開始信号、および清掃の終了を示す清掃終了信号等の各種情報をサーバ40へ送信する。
【0027】
カメラ12は、清掃ロボット10の周囲を撮像し、撮像画像を制御部13へ出力する。カメラ12に代えて、清掃ロボット10の周辺に存在する物体と清掃ロボット10との距離を測定するレーザ距離計等が設けられてもよい。
【0028】
制御部13は、清掃ロボット10による清掃の開始および終了を制御する。そして、制御部13は、カメラ12からの撮像画像に基づいて、清掃ロボット10が自律的に移動しながら清掃を行うように駆動部14および清掃部材16を制御する。
【0029】
駆動部14は、清掃ロボット10が走行するための駆動力を発生する。駆動部14は、例えば、清掃ロボット10が移動するための車輪と、車輪を駆動するためのモータとを含む。駆動部14(モータ)は、バッテリ15から電力の供給を受けて作動することができる。バッテリ15は、駆動部14その他清掃ロボット10の各機器が作動するための電力を供給する。
【0030】
清掃部材16は、清掃ロボット10の底面に設けられ、フロア20(床面)の塵埃を吸引するための部材である。清掃部材16は、例えば、吸込口と、吸込口から塵埃を吸引するための送風機と、吸込口に設けられる回転ブラシと、回転ブラシを駆動するモータとを含んで構成される。
【0031】
データセンターやショッピングモール等の施設において、上記のような自律移動型の清掃ロボットによる自動清掃を実施する場合には、各フロア20における清掃範囲を特定する必要がある。特に、人の往来がない時間帯(例えば、夜間)等の限られた時間内で効率良く清掃作業を実施するためには、フロア20における塵埃が溜まりやすい部分を重点的に清掃するように清掃範囲を特定することが求められる。
【0032】
このような清掃範囲の特定を施設の管理者または作業員が手作業で行う場合、フロア20内の設備の配置を示したレイアウトに基づいて、清掃範囲を特定することができる。ただし、レイアウトには表示されていない、椅子やデスク等の清掃ロボット10の走行を妨げる障害物がフロア20に設置されている場合がある。そのため、障害物の有無を予め確認し、障害物の設置場所を清掃範囲から除外する作業が必要となる。したがって、清掃範囲の特定に時間および手間がかかることが懸念される。
【0033】
また、フロア20の床材によって塵埃が溜まりやすい部分が異なる場合がある。例えば、タイルやクッションフロアのような滑らかな床材でフロア20が形成されている場合には、フロア20を人が歩行したときに生じる風を受けて塵埃が移動するため、通路から離れた部分に塵埃が溜まりやすくなる傾向がある。反対に、床材がカーペットのような起毛材料である場合には、通行する人の靴底等に付着している塵埃が毛に捕捉されるために、通路に塵埃が溜まりやすくなる傾向がある。
【0034】
そこで、本実施の形態では、サーバ40は、フロア20における人または移動体の移動軌跡を検出し、検出された移動軌跡およびフロア20の床材を示す情報を用いて、清掃範囲を特定するように構成される。これによると、フロア20における塵埃が溜まりやすい部分を適切に清掃範囲に特定することができる。また、作業員等による障害物の設置場所を確認するための作業が不要となるため、簡易に清掃範囲を特定することが可能となる。
【0035】
図3を参照して、サーバ40は、入力部52と、制御部50と、記憶装置45と、出力部54とを含む。
【0036】
入力部52は、無線通信機30およびカメラ32に接続されている。無線通信機30は、施設100内で使用される移動体22に搭載される無線通信機24と同じ通信規格に従う通信方式を用いて、移動体22から発信される信号を受信するとともにその受信強度を検知する。移動体22は、荷物を運搬するために使用されるいわゆる手押し車であり、荷物を積載するための籠、車輪およびハンドル等で構成されている。無線通信機24は、例えば、籠またはハンドルに取り付けられている。無線通信機24は、例えばBLE通信規格に従う通信方式を用いて、移動体22の位置を検出するための信号を発信する。BLE通信規格に代えて、UWB通信規格等に従う通信方式を用いてもよい。無線通信機30は、無線通信機24から受信した信号の受信強度をサーバ40へ出力する。
【0037】
カメラ32は、フロア20を含む施設100内を撮像する。カメラ32による撮像画像には、施設100内を通行する人の画像が含まれている。カメラ32は、撮像画像を示すデータをサーバ40へ出力する。入力部52は、無線通信機30により検知された受信強度を示す信号、および、カメラ32による撮像画像を示すデータを受け付け、受け付けた信号を制御部50へ転送する。
【0038】
制御部50は、無線通信機24における受信強度から、フロア20における移動体22の位置を測定する。また、制御部50は、公知の画像解析技術を用いて、撮像画像からフロア20における人の位置を測定する。制御部50は、移動体22および人の位置の測定結果に基づいて、移動体22および人の移動軌跡を検出する。制御部50は、検出された移動体22および人の移動軌跡を用いて、フロア20における人の流れ(人流)を表した動線マップを作成する。
【0039】
記憶装置45は、制御部50により作成された動線マップを記憶する。さらに記憶装置45は、フロアごとの床材に関する情報(床材情報)を記憶している。床材には、例えば、フロアタイル、クッションフロア、フローリング、カーペット等がある。フロアタイルは、ポリ塩化ビニルまたはセラミック等で作られている。クッションフロアは、塩化ビニル樹脂で作られたシート状の床材である。フローリングは、木材を用いた床材である。カーペットは、表面が繊維の束であるパイルで形成された床材である。
【0040】
制御部50は、記憶装置45に記憶されている動線マップおよび床材情報を用いて、フロア20における清掃範囲を特定する。制御部50は、特定した清掃範囲を表した清掃範囲マップを作成する。制御部50は、作成した清掃範囲マップを記憶装置45に記憶する。
【0041】
出力部54は、作成した清掃範囲マップを座標データに変換し、変換された座標データを清掃ロボット10へ送信する。
【0042】
清掃ロボット10において、無線通信機11は、サーバ40から受信した座標データを制御部13へ転送する。制御部13は、座標データに示される清掃範囲に従って清掃ロボット10が自律的に移動しながら清掃を行うように駆動部14および清掃部材16を制御する。
【0043】
次に、サーバ40にて実行される清掃範囲を特定する処理について説明する。
図4は、サーバ40により実行される、清掃範囲を特定する処理の手順の一例を説明するフローチャートである。このフローチャートに示される一連の処理は、フロアごとに実行される。
【0044】
図4を参照して、サーバ40は、カメラ32から撮像画像を取得するとともに、無線通信機30により検知された、移動体22から受信した信号の受信強度を取得する(ステップS01)。
【0045】
次に、サーバ40は、取得した情報を用いて、フロア20における人流を表した動線マップを作成する(ステップS02)。具体的には、サーバ40は、公知の画像解析技術を用いて、撮像画像から人を抽出し、抽出した人の位置の時系列変化を測定することにより、フロア20において人が移動する流れを検出する。また、サーバ40は、移動体22の無線通信機24から受信した信号の受信強度に基づいて移動体22の位置を測定し、測定した移動体22の位置の時系列変化を測定することにより、フロア20において移動体22が移動する流れを検出する。そして、サーバ40は、検出された人および移動体22が移動する流れを用いて動線マップを作成する。サーバ40は、作成した動線マップを記憶装置45に格納する。
【0046】
図5は、動線マップの第1の例を示す図である。
図5には、施設100内のフロア20を天井から見た平面図が模式的に示されている。
図5に示すように、施設100には、人または移動体22が施設内に出入りするための複数の出入口、および、人または移動体22が階上または階下に移動するためのエレベータが設けられている。また、フロア20には、複数の店舗110が設営されている。
図5中に太線で示されたライン120は、人または移動体22の移動軌跡(動線)を示している。ライン120は、人または移動体が出入口、エレベータおよび店舗110の間を移動する様子を表している。
【0047】
図6は、動線マップの第2の例を示す図である。
図6には、フロア20に設けられた廊下150を天井から見た平面図が模式的に示されている。
図6中に太線で示されたライン120は、人または移動体22の移動軌跡(動線)を示している。
【0048】
図4に戻って、次に、サーバ40は、S02にて作成された動線マップを用いて、フロア20における清掃範囲を表した清掃範囲マップを作成する(ステップS03)。サーバ40は、作成された清掃範囲マップを座標データに変換し(ステップS04)、生成された座標データを清掃ロボット10へ送信する(ステップS05)。
【0049】
図7は、
図4のステップS03の処理の詳細な手順を説明するフローチャートである。
図7を参照して、サーバ40は、
図4のS02で作成された、施設100内の動線マップを記憶装置45から取得する(ステップS31)。動線マップは、
図5および
図6に例示したように、フロア20における人および移動体22の移動軌跡を表している。また、サーバ40は、フロア20の床材情報を記憶装置45から取得する(ステップS32)。上述したように、床材情報は、フロア20の床材に関する情報であり、例えば、タイル、クッションフロア、フローリング、カーペット等である。
【0050】
次に、サーバ40は、S32で取得した床材情報を用いて、フロア20の床材が起毛材料で形成されているか否かを判定する(ステップS33)。例えば、床材がカーペットである場合、サーバ40は、床材が起毛材料で形成されていると判定する。一方、床材がタイル、クッションフロアまたはフローリングで形成されている場合には、サーバ40は、床材が起毛材料で形成されていないと判定する。
【0051】
フロア20の床材が起毛材料で形成されていない場合(S33のNO判定時)、サーバ40は、S31で取得した動線マップを用いて、フロア20のうち人流の無い範囲を検出する(ステップS34)。人流の無い範囲とは、人または移動体22が移動する流れに含まれていない範囲に相当する。サーバ40は、動線が存在する範囲を抽出し、抽出した範囲をフロア20から除外することにより、人流の無い範囲を検出する。
【0052】
ここで、人流の無い範囲には、出入口、エレベータ、および設備等が設置されている範囲が含まれる。また人流の無い範囲には、施設の壁際の範囲が含まれる。なお、椅子やデスク等の清掃ロボット10の走行を妨げる障害物がフロア20に設置されている場合には、人または移動体22は当該障害物を避けて移動するため、当該障害物が設置されている範囲も人流の無い範囲に含まれることになる。ただし、障害物はフロア20内の設備の配置を示したレイアウトには示されていないため、障害物の存在を把握することができない。
【0053】
そこで、サーバ40は、動線マップを用いて、障害物の設置範囲を推定する(ステップS35)。S35では、サーバ40は、動線で四方を囲まれた範囲を障害物の設置範囲と推定する。これは、人または移動体22が障害物を迂回するように移動することに基づいている。設備が設置されていないにもかかわらず動線が折れ曲がっている範囲については、障害物を迂回するために、人または移動体22が移動したことによるものと判断し、障害物の設置範囲と推定することができる。
【0054】
次に、サーバ40は、S34にて検出された人流の無い範囲、および、S35にて推定された障害物の設置範囲に基づいて、フロア20における清掃範囲を特定する(ステップS36)。具体的には、サーバ40は、検出された人流の無い範囲から障害物の設置範囲を除外した範囲を清掃範囲として特定する。サーバ40は、特定された清掃範囲を示す清掃範囲マップを作成し(ステップS37)、作成された清掃範囲マップを記憶装置45に格納する。
【0055】
図8は、
図5に示した動線マップを用いて作成された清掃範囲マップを示す図である。
図8には、施設100内のフロア20を天井から見た平面図が模式的に示されている。
図8中の太線で示されたライン120は、人または移動体22の移動軌跡(動線)に相当する。
【0056】
図8中の斜線で示された領域130は、ライン120(動線)に基づいて作成された清掃範囲を示している。領域130は、フロア20のうち、ライン120(動線)が存在しない範囲を含んでいる。ただし、領域130からは、出入口、エレベータおよび設備110の設置範囲が除かれている。
【0057】
図8中の領域140は、ライン120(動線)から推定された障害物の設置範囲を示している。
図8に示すように、領域140の周囲では動線が折れ曲がっており、領域140の四方が動線によって囲まれている。領域130は、領域140を含まないように設定されている。このように
図8の例では、人流が無く、かつ、障害物が設置されていない範囲(領域130)が清掃範囲として特定されている。
【0058】
図9は、
図6に示した動線マップを用いて作成された清掃範囲マップを示す図である。
図9には、フロア20に設けられた廊下150を天井から見た平面図が模式的に示されている。
図9中に太線で示されたライン120は、人または移動体22の移動軌跡(動線)を示している。
【0059】
図9の斜線で示された領域130は、ライン120(動線)に基づいて作成された清掃範囲を示している。領域130は、廊下150のうち、ライン120(動線)が存在しない範囲を含んでいる。すなわち、領域130は、廊下150の両側の壁際の範囲を含んでいる。なお、
図6の例では、動線が迂回しておらず、動線で四方を囲まれた範囲が存在しないため、障害物が設置されていないと推定される。
【0060】
このようにフロア20の床材が起毛材料で形成されていない場合(S33のNO判定時)には、サーバ40は、フロア20のうち、人流が無く、かつ、障害物が設置されていない範囲を清掃範囲として特定するように構成される。
【0061】
床材が起毛材料で形成されていない場合、床面に存在する塵埃は、人が歩行したときに生じる風を受けて床面を転がるという性質を有している。そのため、人流が多い範囲には塵埃が溜まりにくくなる一方で、人流が少ない範囲に塵埃が溜まりやすい。そこで、サーバ40は、人流が無い範囲を清掃範囲に特定することにより、塵埃が溜まりやすい部分を清掃するように清掃範囲を特定することができる。
【0062】
なお、人流が無い範囲には障害物の設置範囲も含まれるため、サーバ40は、動線の形状に基づいて障害物の設置範囲を推定し、推定された障害物の設置範囲を清掃範囲から除外にするように構成される。これによると、清掃ロボット10は、障害物を回避しながら、塵埃の溜まりやすい部分を清掃することが可能となる。また、作業者等が障害物の有無を確認する作業が不要となるため、清掃範囲の特定にかかる時間および手間を削減することが可能となる。
【0063】
図7に戻って、S33においてフロア20の床材が起毛材料で形成されている場合(S33のYES判定時)、サーバ40は、S31で取得した動線マップを用いて、フロア20のうち人流の有る範囲を検出する(ステップS38)。人流の有る範囲とは、人または移動体22が移動する流れに含まれている範囲に相当する。サーバ40は、動線が存在する範囲を抽出することにより、人流の有る範囲を検出する。
【0064】
次に、サーバ40は、S38にて検出された人流の有る範囲に基づいて、フロア20における清掃範囲を特定する(ステップS39)。具体的には、サーバ40は、検出された人流の有る範囲を清掃範囲として特定する。サーバ40は、特定された清掃範囲を示す清掃範囲マップを作成し(ステップS37)、作成された清掃範囲マップを記憶装置45に格納する。
【0065】
なお、図示は省略するが、フロア20の床材が起毛材料で形成されている場合、
図5に示した動線マップを用いて作成される清掃範囲マップは、フロア20から、出入口、エレベータおよび設備110の設置範囲および
図8に示す領域130,140を除外した範囲を清掃範囲としている。
図6に示した動線マップを用いて作成される清掃範囲マップは、廊下150から
図9に示す領域130を除外した範囲を清掃範囲としている。
【0066】
このようにフロア20の床材が起毛材料で形成されている場合(S33のYES判定時)には、サーバ40は、フロア20のうち、人流が有る範囲を清掃範囲として特定するように構成される。床材が起毛材料で形成されている場合には、床面に存在する塵埃が毛に捕捉されるため、人が歩行する通路に塵埃が溜まりやすくなる。そのため、サーバ40は、人流が有る範囲を清掃範囲に特定することにより、塵埃が溜まりやすい部分を清掃するように清掃範囲を特定することができる。
【0067】
[実施の形態の変更例]
上述した実施の形態では、フロア20における人または移動体の移動軌跡、および、フロア20の床材情報を用いて、フロア20における清掃範囲を特定する構成について説明したが、施設の属性によって塵埃の成分が異なるために、床材が同じであっても、塵埃の溜まりやすい範囲が異なる場合がある。
【0068】
例えば、施設がサーバやネットワーク機器等が設置されたデータセンターである場合には、塵埃は繊維(綿埃)や毛髪等が大半を占めており、人または移動体の移動によって生じる風を受けて移動しやすい性質を有している。そのため、フロア20が起毛材料で形成されていない場合には、人流の無い範囲に塵埃が溜まりやすくなる。その一方で、施設がショッピングセンター等の商業施設である場合には、塵埃には繊維および毛髪の他に土砂埃も含まれる。土砂埃は風を受けて移動しにくい性質を有しているため、人流の有る範囲に塵埃が溜まりやすくなる。
【0069】
したがって、人または移動体の移動軌跡およびフロア20の床材情報に加えて、施設の属性に関する情報を用いて、清掃範囲を特定するように構成してもよい。
【0070】
図10は、本変更例に従う清掃システムにおける清掃ロボット10およびサーバ40の構成例を示す図である。
図10の構成例は、
図3に示した構成例と比較して、サーバ40の構成が異なる。
図10に示すサーバ40は、
図3に示したサーバ40における記憶装置45に代えて、記憶装置45Aを含んでいる。
【0071】
記憶装置45Aには、施設の属性情報が記憶されている。施設の属性には、例えば、データセンター、商業施設等が含まれる。なお、施設の属性は、施設内における塵埃の成分に基づいて区分してもよい。例えば、人の走行による風を受けて移動しやすい塵埃が多く存在する施設と、当該風を受けて移動しにくい塵埃が多く存在する施設とく区分してもよい。
【0072】
制御部50は、記憶装置45Aに記憶されている動線マップ、床材情報および施設の属性情報を用いて、フロア20における清掃範囲を特定する。制御部50は、特定した清掃範囲を表した清掃範囲マップを作成する。制御部50は、作成した清掃範囲マップを記憶装置45Aに記憶する。
【0073】
本変更例においても、サーバ40は、
図4に示すフローチャートに従って、清掃範囲を特定する処理を実行する。この処理はフロアごとに実行される。サーバ40は、
図4と同じS01,S02の処理を実行することにより、カメラ32からの撮像画像および、移動体22の無線通信機24から受信した信号の受信強度を用いて、フロア20における人流を表した動線マップを作成する。そして、サーバ40は、S02にて作成された動線マップを用いて、フロア20における清掃範囲を表した清掃範囲マップを作成する(ステップS03)。サーバ40は、作成された清掃範囲マップを座標データに変換し(ステップS04)、生成された座標データを清掃ロボット10へ送信する(ステップS05)。
【0074】
図11は、
図4のステップS03の処理の詳細な手順を説明するフローチャートである。
図11に示すフローチャートは、
図7に示したフローチャートに対してステップS40,S41の処理を追加したものである。
【0075】
図11を参照して、サーバ40は、
図7と同じS31,S32の処理を実行することにより、施設100内の動線マップおよびフロア20の床材情報を記憶装置45Aから取得する。さらに、サーバ40は、施設100の属性情報を記憶装置45Aから取得する(ステップS40)。
【0076】
サーバ40は、S32で取得した床材情報を用いて、フロア20の床材が起毛材料で形成されているか否かを判定する(ステップS33)。フロア20の床材が起毛材料で形成されていない場合(S33のNO判定時)、サーバ40は、ステップS41に進み、S40で取得した施設100の属性情報を用いて、清掃範囲を特定する。具体的には、施設100がデータセンターであると判定された場合には、
図7と同じS34~S36の処理を実行することにより、S34にて検出された人流の無い範囲から、S35にて推定された障害物の設置範囲を除外した範囲をフロア20における清掃範囲として特定する(ステップS36)。サーバ40は、特定された清掃範囲を示す清掃範囲マップを作成し(ステップS37)、作成された清掃範囲マップを記憶装置45に格納する。
【0077】
これに対して、施設100が商業施設であると判定された場合には、サーバ40は、
図7と同じS38,S39の処理を実行することにより、S38にて検出された人流の有る範囲を、フロア20における清掃範囲として特定する(ステップS39)。サーバ40は、特定された清掃範囲を示す清掃範囲マップを作成し(ステップS37)、作成された清掃範囲マップを記憶装置45に格納する。
【0078】
以上説明したように、本変更例に係る清掃システムによれば、人または移動体22の移動軌跡およびフロア20の床材情報に加えて、施設の属性に関する情報を用いて、清掃範囲を特定することにより、施設内に存在する塵埃の性質も考慮して、塵埃の溜まりやすい部分を清掃範囲に特定することができる。
【0079】
なお、上述した実施の形態および変更例では、自律移動型の清掃ロボットによる清掃作業を行う清掃システムにおける清掃範囲の特定方法について説明したが、本開示に係る清掃範囲特定方法は、作業者による清掃作業を行うために清掃範囲を特定する構成においても適用することが可能である。
【0080】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0081】
10 清掃ロボット、11,24,30 無線通信機、12,32 カメラ、13,50 制御部、14 駆動部、15 バッテリ、16 清掃部材、20 フロア、22 移動体、40 サーバ、41 CPU、42 RAM、43 ROM、44 I/F装置、45,45A 記憶装置、46 通信バス、52 入力部、54 出力部、100 施設、110 店舗、120 ライン、150 廊下。