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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-26
(45)【発行日】2024-10-04
(54)【発明の名称】鍛造成形装置及び鍛造成形方法
(51)【国際特許分類】
   B21J 5/12 20060101AFI20240927BHJP
   B21K 1/30 20060101ALI20240927BHJP
【FI】
B21J5/12 A
B21K1/30 B
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2024055745
(22)【出願日】2024-03-29
【審査請求日】2024-04-03
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000207816
【氏名又は名称】大豊精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000969
【氏名又は名称】弁理士法人中部国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 敏孝
(72)【発明者】
【氏名】築山 悦久
【審査官】豊島 唯
(56)【参考文献】
【文献】特開昭55-57341(JP,A)
【文献】特開平07-009066(JP,A)
【文献】特許第3906998(JP,B2)
【文献】特開平11-138232(JP,A)
【文献】特開2008-126231(JP,A)
【文献】特開2019-038032(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21J 5/12
B21K 1/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
素材に鍛造成形を施す成形ダイと、
前記素材を成形方向にて前方に配置された前記成形ダイに向けて押し込むパンチと、を備え、
前記成形ダイが、
前記鍛造成形後の外寸法よりも小さな外寸法の前記素材に対し、前記鍛造成形に伴って前記素材に生じる材料流動のうち前記成形方向に直交する方向に沿った分流によって前記素材の外面を成形するものであり、
前記素材から中間形状を有する中間成形物を成形する第一成形ダイと、
前記中間成形物から前記中間形状の外寸法よりも小さな外寸法の最終形状を有する最終成形物を成形する第二成形ダイと、を含む、鍛造成形装置。
【請求項2】
前記第一成形ダイが、
前記素材に対して前記中間形状を成形する成形対象部分において前記成形方向に直交する方向に沿った前記素材の断面積に対する前記中間成形物の断面積の比を表す第一断面減少率が10%から40%となるように、前記素材に対して前記中間形状を成形し、
前記第二成形ダイが、
前記中間成形物に対して前記最終形状を成形する成形対象部分において前記成形方向に直交する方向に沿った前記中間成形物の断面積に対する前記最終成形物の断面積の比を表す第二断面減少率が10%から40%となるように、前記中間成形物に対して前記最終形状を成形する、請求項1に記載の鍛造成形装置。
【請求項3】
前記第一断面減少率が、
前記第二断面減少率よりも小さく設定された、請求項2に記載の鍛造成形装置。
【請求項4】
前記第一成形ダイが、
前記最終成形物の外寸法よりも大きな外寸法を有するように前記素材に前記中間形状を成形し、
前記第二成形ダイが、
前記中間成形物の前記中間形状に対して絞り加工を施して前記最終形状を成形する、請求項1に記載の鍛造成形装置。
【請求項5】
前記第一成形ダイと前記第二成形ダイとが、
前記成形方向に沿って直列に配置された、請求項1に記載の鍛造成形装置。
【請求項6】
前記成形方向にて後方に前記第一成形ダイが配置され、
前記成形方向にて前方に前記第二成形ダイが配置された、請求項5に記載の鍛造成形装置。
【請求項7】
前記第一成形ダイと前記第二成形ダイとが、
前記成形方向における前記中間成形物の大きさよりも長く離間するように配置された、請求項5に記載の鍛造成形装置。
【請求項8】
前記第一成形ダイが、
前記パンチによって押し込まれる前記素材を案内するガイド部と、
前記ガイド部によって案内された前記素材に前記鍛造成形を施す成形空間と、を有し、
前記第二成形ダイが、
前記パンチによって押し込まれる前記中間成形物を案内するガイド部と、
前記ガイド部によって案内された前記中間成形物に前記鍛造成形を施す成形空間と、を有する、請求項1に記載の鍛造成形装置。
【請求項9】
前記第二成形ダイの前記ガイド部の内寸法のうちの少なくとも一部が、
前記第一成形ダイの前記成形空間に設定された内寸法を有する、請求項8に記載の鍛造成形装置。
【請求項10】
前記中間成形物の前記中間形状及び前記最終成形物の前記最終形状が、
歯車形状であり、
前記歯車形状における周方向の歯幅に関して前記中間形状が前記最終形状よりも大きく、
前記歯車形状における径方向の歯高に関して前記中間形状が前記最終形状よりも大きい、請求項1に記載の鍛造成形装置。
【請求項11】
素材に鍛造成形を施す成形ダイと、
前記素材を成形方向にて前方に配置された前記成形ダイに向けて押し込むパンチと、を備え、
前記成形ダイが、
前記鍛造成形後の外形寸法よりも小さな外形寸法の前記素材に対し、前記鍛造成形に伴って前記素材に生じる材料流動のうち前記成形方向に直交する方向に沿った分流によって前記素材の外面を成形するものであり、
前記素材から中間形状を有する中間成形物を成形する第一成形ダイと、
前記中間成形物から前記中間形状の外形寸法よりも小さな外形寸法の最終形状を有する最終成形物を成形する第二成形ダイと、を含み、
前記第一成形ダイが、
前記素材に対して前記中間形状を成形する成形対象部分において前記成形方向に直交する方向に沿った前記素材の断面積に対する前記中間成形物の断面積の比を表す第一断面減少率が10%から40%となるように、前記素材に対して前記中間形状を成形し、
前記第二成形ダイが、
前記中間成形物に対して前記最終形状を成形する成形対象部分において前記成形方向に直交する方向に沿った前記中間成形物の断面積に対する前記最終成形物の断面積の比を表す第二断面減少率が10%から40%となるように、前記中間成形物に対して前記最終形状を成形する、鍛造成形装置。
【請求項12】
前記第一断面減少率が、
前記第二断面減少率よりも小さく設定された、請求項11に記載の鍛造成形装置。
【請求項13】
前記第一成形ダイが、
前記最終成形物の外形寸法よりも大きな外形寸法を有するように前記素材に前記中間形状を成形し、
前記第二成形ダイが、
前記中間成形物の前記中間形状に対して絞り加工を施して前記最終形状を成形する、請求項11に記載の鍛造成形装置。
【請求項14】
前記第一成形ダイと前記第二成形ダイとが、
前記成形方向に沿って直列に配置された、請求項11に記載の鍛造成形装置。
【請求項15】
前記成形方向にて後方に前記第一成形ダイが配置され、
前記成形方向にて前方に前記第二成形ダイが配置された、請求項14に記載の鍛造成形装置。
【請求項16】
前記第一成形ダイと前記第二成形ダイとが、
前記成形方向における前記中間成形物の大きさよりも長く離間するように配置された、請求項14に記載の鍛造成形装置。
【請求項17】
前記第一成形ダイが、
前記パンチによって押し込まれる前記素材を案内するガイド部と、
前記ガイド部によって案内された前記素材に前記鍛造成形を施す成形空間と、を有し、
前記第二成形ダイが、
前記パンチによって押し込まれる前記中間成形物を案内するガイド部と、
前記ガイド部によって案内された前記中間成形物に前記鍛造成形を施す成形空間と、を有する、請求項11に記載の鍛造成形装置。
【請求項18】
前記第二成形ダイの前記ガイド部の内形寸法のうちの少なくとも一部が、
前記第一成形ダイの前記成形空間に設定された内形寸法を有する、請求項17に記載の鍛造成形装置。
【請求項19】
前記中間成形物の前記中間形状及び前記最終成形物の前記最終形状が、
歯車形状であり、
前記歯車形状における周方向の歯幅に関して前記中間形状が前記最終形状よりも大きく、
前記歯車形状における径方向の歯高に関して前記中間形状が前記最終形状よりも大きい、請求項11に記載の鍛造成形装置。
【請求項20】
請求項1-19の何れか一項に記載の前記鍛造成形装置を用いて前記素材に前記鍛造成形を施す鍛造成形方法であって、
前記第一成形ダイを用いて前記素材に鍛造成形を施すことによって前記素材から前記中間成形物を成形する第一鍛造成形工程と、
前記第二成形ダイを用いて前記中間成形物に鍛造成形を施すことによって前記中間成形物から前記最終成形物を成形する第二鍛造成形工程と、を備えた、鍛造成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鍛造成形装置及び鍛造成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば、特許文献1に開示された鍛造成形方法及び鍛造成形装置(以下、「鍛造成形方法等」と称呼する。)が知られている。従来の鍛造成形方法等は、一つの鍛造成形工程において、成形ダイの成形空間に押し込まれる前の素材の外径を拘束して成形空間に素材を押し込んで鍛造成形を施すようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-38032号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の鍛造成形方法等においては、一つの鍛造成形工程において、外径を拘束した素材に鍛造成形を施して製品を成形する。この場合、成形ダイに押し込まれる前の素材の外径を拘束することによって、成形空間の内部において素材が据え込まれることを抑制して鍛造成形が施されるようになっている。
【0005】
しかしながら、一つの鍛造成形工程を経ることのみで製品の形状を成形する場合には、鍛造成形によって生じさせる材料流動が多く、即ち、成形量が多くなるため、成形荷重を低減させることには限度がある。その結果、鍛造成形に伴って成形ダイに負荷がかかり、型寿命が短くなる虞がある。従って、従来の鍛造成形方法等については、型寿命を延ばす点で、改良の余地がある。
【0006】
本発明の目的は、成形ダイの型寿命を延ばすことができる鍛造成形装置及び鍛造成形方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の鍛造成形装置は、素材に鍛造成形を施す成形ダイと、素材を成形方向にて前方に配置された成形ダイに向けて押し込むパンチと、を備え、成形ダイが、鍛造成形後の外寸法よりも小さな外寸法の素材に対し、鍛造成形に伴って素材に生じる材料流動のうち成形方向に直交する方向に沿った分流によって素材の外面を成形するものであり、素材から中間形状を有する中間成形物を成形する第一成形ダイと、中間成形物から中間形状の外寸法よりも小さな外寸法の最終形状を有する最終成形物を成形する第二成形ダイと、を含む。
【0008】
又、本発明の鍛造成形方法は、上記した鍛造成形装置を用いて、第一成形ダイを用いて素材に鍛造成形を施すことによって素材から中間成形物を成形する第一鍛造成形工程と、第二成形ダイを用いて中間成形物に鍛造成形を施すことによって中間成形物から最終成形物を成形する第二鍛造成形工程と、を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、第一鍛造成形工程において第一成形ダイを用いて成形後の中間成形物や最終成形物よりも外形寸法の小さい素材から中間形状を有する中間成形物を成形し、第二鍛造成形工程において第二成形ダイを用いて中間成形物から最終形状を有する最終成形物を成形することができる。これにより、一工程当たりの材料流動を少なく、即ち、成形量を少なくすることにより、成形荷重を低減することができ、その結果、鍛造成形に伴うダイへの負荷を低減して型寿命を延ばすことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】鍛造成形装置を説明するための図である。
図2】中間成形物を説明するための図である。
図3】最終成形物(製品)を説明するための図である。
図4】断面減少率を説明するための図である。
図5】断面減少率の上下限を外れた場合の成形可否を説明するための図である。
図6】第一実施例の第一鍛造成形工程を実施する鍛造成形装置を説明するための図である。
図7】第一実施例の第二鍛造成形工程を実施する鍛造成形装置を説明するための図である。
図8】第一実施例の素材を説明するための図である。
図9】第一実施例の第一成形ダイを説明するための断面図である。
図10】第一実施例の第二成形ダイを説明するための断面図である。
図11】第一実施例の中間成形物を説明するための図である。
図12】第一実施例の最終成形物(製品)を説明するための図である。
図13】第一実施例の変形例に係る第二成形ダイを説明するための断面図である。
図14】第一実施例の変形例に係る最終成形物(製品)を説明するための図である。
図15】第二実施例の第一鍛造成形工程及び第二鍛造成形工程を実施する鍛造成形装置を説明するための図である。
図16】第二実施例の素材を説明するための図である。
図17】第二実施例の第一成形ダイを説明するための断面図である。
図18】第二実施例の第二成形ダイを説明するための断面図である。
図19】第二実施例の中間成形物を説明するための図である。
図20】第二実施例の最終成形物(製品)を説明するための図である。
図21】第二実施例の変形例に係る素材を説明するための図である。
図22】第二実施例の変形例に係る中間成形物及び最終成形物(製品)の外形形状を説明するための図である。
図23】第二実施例の変形例に係る第一鍛造成形工程及び第二鍛造成形工程を実施する鍛造成形装置を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.本発明の鍛造成形装置Kによる鍛造成形の概要
本発明の鍛造成形装置Kによる鍛造成形の概要について図面を参照して説明する。鍛造成形装置Kは、図1に示すように、製品Wの外形寸法よりも小さい外形寸法を有する素材Mに対して、外形を拘束することなく、鍛造成形を施す。即ち、鍛造成形装置Kは、パンチPと、成形空間を有する成形ダイSと、を備えており、パンチPが外形を拘束することなく素材Mを成形ダイSの成形空間に押し込むことにより、素材Mにおいて軸線方向に直交する方向(外方)に向けた材料流動を生じさせて、外面に鍛造成形、特に、絞りを含む冷間鍛造成形を施す。ここで、素材M及び製品Wの形状としては、素材M及び製品Wの軸線方向に直交する断面形状が、例えば、円板状、円環形状、多角形状等を例示することができる。又、製品Wとしては、歯車、スプライン軸、キー溝、キー等を例示することができる。更に、「外形寸法」としては、素材M及び製品Wの断面形状が円形状や円環形状の場合には「外径寸法」が対応し、素材M及び製品Wの断面形状が多角形状の場合には「幅寸法」が対応する。
【0012】
ところで、鍛造成形装置Kによる鍛造成形に供される素材Mにおいては、成形ダイSの成形空間に押し込まれることによって軸線方向及び外方への材料流動、所謂、分流が生じ、断面形状における断面積を減少させながら外面が成形される。つまり、鍛造成形の前後においては、素材Mは、軸線方向に沿って全長の伸びが生じると共に外方に向けた広がりが生じる。
【0013】
一般に、成形前の素材Mの外形寸法が成形後の製品Wの外形寸法に対して大きい程、鍛造成形時の断面減少率は大きくなる。つまり、断面減少率は、下記の式に示すように成形前の断面積に対する成形後の断面積の比を表し、絞りを伴う鍛造成形を行う際の変形の難しさ(断面減少率が大きいほど、変形が難しい)を示している。
断面減少率={1-(成形後の断面積/成形前の断面積)}×100[%]
【0014】
又、鍛造成形の前後においては、体積一定の原理が成立する。これにより、上述した素材Mにおける全長の伸び量及び外方に向けた広がり量、即ち、鍛造成形による成形量は、断面減少率が大きい程大きくなる。換言すれば、断面減少率が大きい程、外方に向けた広がり量が大きくなり、素材Mの外面(外周面)における成形形状、つまり、成形ダイSの成形空間の転写形状であって所謂肉張りが良好になる傾向がある。
【0015】
しかしながら、断面減少率を大きくすれば、素材Mにおける鍛造成形に伴う材料の総移動量が増え、又、成形空間内への据え込みが生じる場合があり、その結果、鍛造成形における成形荷重が大きくなる。そして、成形荷重が大きい場合、成形ダイSには、成形荷重に対する反力が大きく作用するため、型寿命が短くなる。
【0016】
そこで、鍛造成形装置Kは、第一鍛造成形工程及び第二鍛造成形工程を経て、製品Wの外形寸法よりも小さい外形寸法を有する素材Mに鍛造成形(冷間鍛造成形)を施す。つまり、鍛造成形装置Kは、第一鍛造成形工程として、図2に示すように、素材Mの外周面に、製品Wの最終形状に対して相似形状である中間形状を有する中間成形物Fiを成形する。続いて、鍛造成形装置Kは、第二鍛造成形工程として、図3に示すように、第一鍛造成形工程において成形した中間成形物Fiに冷間鍛造成形として絞り加工を施して最終形状を有する最終成形物Ffを成形する。即ち、鍛造成形装置Kは、第一鍛造成形工程及び第二鍛造成形工程を経ることにより、各々の工程にて最終形状を成形するまでの成形量を分配する。
【0017】
これにより、鍛造成形装置Kにおいては、例えば、一つの鍛造成形工程を経て素材Mから製品Wを成形する場合に生じる成形荷重に比べて、各々の工程において生じる成形荷重を小さくすることができ、その結果、総成形荷重も小さくすることができる。即ち、鍛造成形装置Kにおいては、各々の工程における断面減少率を相対的に小さくすることができる一方で、第一鍛造成形工程において成形した中間成形物Fiに対して第二鍛造成形工程において絞り加工を施すことで肉張りの良好な最終成形物Ff即ち製品Wを成形することができる。
【0018】
尚、中間成形物Fiの中間形状及び最終成形物Ffの最終形状が歯車形状である場合、歯車形状における周方向の歯幅に関しては、図4にて一点鎖線により示す中間成形物Fiの中間形状が実線により示す最終成形物Ffの最終形状よりも大きい。又、中間成形物Fiの中間形状及び最終成形物Ffの最終形状が歯車形状である場合、歯車形状における径方向の歯高に関しては、図4にて一点鎖線により示す中間成形物Fiの中間形状が実線により示す最終成形物Ffの最終形状よりも大きい。従って、第一鍛造成形工程において成形した中間成形物Fiに対して第二鍛造成形工程において絞り加工を施すことで肉張りの良好な最終成形物Ff即ち製品Wを成形することができる。
【0019】
ここで、鍛造成形装置Kは、第一鍛造成形工程及び第二鍛造成形工程における各々の成形荷重を低減することが可能となるように、工程ごとに異なる成形ダイSを用いる。具体的に、鍛造成形装置Kは、図1に示すように、成形ダイSとして、第一鍛造成形工程において用いる第一成形ダイS1と、第二鍛造成形工程において用いる第二成形ダイS2と、を有する。
【0020】
そして、鍛造成形装置Kにおいては、第一成形ダイS1及び第二成形ダイS2を用いて鍛造成形する場合、図4にてドットの塗りつぶしによって示すように、素材Mの加工対象部分MAにおける第一断面減少率及び中間成形物Fiの加工対象部分MBにおける第二断面減少率が、各々、10%から40%となるように設定される。つまり、鍛造成形装置Kは、素材Mの加工対象部分MAにおける第一断面減少率及び中間成形物Fiの加工対象部分MBにおける第二断面減少率が各々10%から40%となるように、第一成形ダイS1及び第二成形ダイS2の成形空間における内形寸法が設定される。尚、「内形寸法」としては、素材M及び中間成形物Fiの断面形状が円形状又は円環状である場合には「内径寸法」が対応し、素材M及び中間成形物Fiの断面形状が多角形状の場合には「幅寸法」が対応する。
【0021】
尚、加工対象部分MA,MBについては、図4に示すように、例えば、歯車のように複数の外歯を成形する場合には、一つの外歯を成形する部分を加工対象部分としたり、全部の外歯を成形する部分を加工対象部分としたりすることができる。又、加工対象部分MA,MBについては、例えば、一つのキー溝やキーを成形する場合には、キー溝やキーを成形する部分を加工対象部分とすることができる。
【0022】
ここで、断面減少率が10%未満になると、例えば、第一鍛造成形工程において中間成形物Fiを成形する際の材料流動が少なくて(成形量が少なくて)成形荷重が小さくなるものの、第二鍛造成形工程において最終成形物Ff即ち製品Wを成形する際の材料流動が多くなって(成形量が多くなって)成形荷重が大きくなる。その結果、図5に示すように、第二鍛造成形工程において用いる第二成形ダイの成形空間に押し込まれる前の中間成形物Fiが据え込まれて外方に向けて広がるため、鍛造成形が不能になる。又、断面減少率が10%未満に設定された場合おいて、仮に、第二鍛造成形工程を経て最終成形物Ff即ち製品Wを成形した場合であっても、外方に向けた、つまり、第二成形ダイの成形空間に向けて流動する材料が不足し、製品Wにおける肉張りが十分実現できなくなる。
【0023】
他方、断面減少率が40%よりも大きくなると、例えば、第一鍛造成形工程において中間成形物Fiを成形する際の材料流動が多くなって(成形量が多くなって)成形荷重が大きくなる。その結果、図5に示すように、第一鍛造成形工程において用いる第一成形ダイの成形空間に押し込まれる前の素材Mが据え込まれて外方に向けて広がるため、鍛造成形が不能になる。又、断面減少率が40%よりも大きく設定された場合において、仮に、第一鍛造成形工程を経て中間成形物Fiを成形した場合であっても、第二鍛造成形工程において用いる第二成形ダイの成形空間に押し込まれる前の中間成形物Fiが据え込まれて外方に向けて広がるため、鍛造成形が不能になる。
【0024】
ここで、断面減少率については、上述したように、鍛造成形可能性の観点から10%から40%となるように設定されることが好ましいが、成形荷重の低減及び肉張りの観点から10%から30%となるように設定されることがより好ましく、更には10%から20%となるように設定されることがより好ましい。
【0025】
ところで、鍛造成形装置Kにおいては、上述したように、第一鍛造成形工程及び第二鍛造成形工程を経た素材M及び中間成形物Fiの断面減少率が総量として10%から40%となるように設定される。このため、第一断面減少率及び第二断面減少率の一方の断面減少率、即ち、素材M及び中間成形物Fiに対する成形量は、第一断面減少率及び第二断面減少率の他方の断面減少率(成形量)に応じて設定される。つまり、第一鍛造成形工程における第一断面減少率(成形量)が大きく設定された場合には第二鍛造成形工程における第二断面減少率(成形量)が小さく設定され、第一鍛造成形工程における第一断面減少率(成形量)が小さく設定された場合には第二鍛造成形工程における第二断面減少率(成形量)が大きく設定される。
【0026】
2.第一実施例
2-1.鍛造成形装置10の構成
第一実施例の鍛造成形装置10の構成について、図6及び図7を参照して説明する。鍛造成形装置10は、パンチ11、駆動装置12、テーブル13及び圧力板14と、成形ダイ20と、を備えており、被成形物に対して冷間鍛造成形を施す。ここで、第一実施例においては、被成形物として、図8に示すように、大径円板部M11及び小径軸部M12を有する素材M1を例示し、素材M1の小径軸部M12の外面である外周面に対して冷間鍛造成形を施して製品W1を成形する場合を説明する。
【0027】
尚、説明を省略するが、素材M1は、大径円板部M11に平歯又ははす歯の外歯が成形されて製品W1となる。この場合、大径円板部M11については、例えば、ホブカッタやフレージングカッタ等を用いた切削加工によって外歯を形成しても良いし、後述する鍛造成形方法を用いた冷間鍛造成形によって外歯を形成しても良い。
【0028】
パンチ11は、図6及び図7に示すように、駆動装置12によって軸線方向に沿って駆動されて、成形ダイ20に向けて素材M1を押し込むための部材である。ここで、以下の説明においては、パンチ11が素材M1を成形ダイ20に向けて押し込む方向を「成形方向」と称呼する。尚、第一実施例においては、図1に示すように、鉛直方向に沿った成形方向にて、パンチ11が素材M1を成形ダイ20に押し込む場合を例示する。しかしながら、成形方向については、鉛直方向に沿った方向に限られず、例えば、水平方向に沿った方向であっても良い。
【0029】
又、図6及び図7(後述する図15及び図23)においては、理解を容易とするために、軸線を境にしてパンチ11(パンチ16)を仮想的に二つに分割して示す。この場合、図において左側はパンチ11(パンチ16)が上昇した状態を示し、図において右側はパンチ11(パンチ16)が下降した状態を示す。尚、実際のパンチ11(パンチ16)は、左右で分割されておらず、駆動装置12によって一体で上昇又は下降することは言うまでもない。
【0030】
駆動装置12は、パンチ11を軸線方向即ち成形方向に沿って駆動する。駆動装置12は、例えば、図示を省略する油圧機構や、電動機構、油圧機構及び電動機構を合わせた機構等を主要素として備え、これらの機構が発生した駆動力をパンチ11に伝達するようになっている。尚、第一実施例においては、成形方向である鉛直方向に沿って上昇又は下降させるように、駆動装置12がパンチ11に駆動力を伝達する。
【0031】
テーブル13は、パンチ11に対して、成形方向にて前方、即ち、第一実施例においては鉛直方向にて下方に配置される板状部材であり、駆動装置12を支持する。又、テーブル13は、中央部分に貫通孔を有しており、環状(筒状)の成形ダイ20、圧力板14及び保持板15を貫通孔に対して同軸的に支持する。更に、テーブル13は、後述する冷間鍛造成形において発生する成形荷重も支持する。
【0032】
圧力板14は、内側に貫通孔を有する環状部材である。圧力板14は、成形方向にて後方に配置される成形ダイ20を支持する。又、後述するように、圧力板14は、テーブル13に支持された状態でテーブル13の貫通孔と同軸的に配置された貫通孔を介して、成形ダイ20によって冷間鍛造成形の施された中間成形物Fi及び最終成形物Ff(製品W1)の小径軸部M12を挿通させる。
【0033】
2-2.成形ダイ20の構成
次に、成形ダイ20の構成を説明する。第一実施例の成形ダイ20は、第一成形ダイ21及び第二成形ダイ22を含んで構成される。
【0034】
第一成形ダイ21は、図9に示すように、成形方向にて後方(第一実施例においては鉛直方向にて上方)に配置されるガイド部211と、ガイド部211に対して成形方向にて前方(第一実施例においては鉛直方向にて下方)に配置される成形空間212と、を有する。ガイド部211は、成形方向にて前方(鉛直方向にて下方)に進行する素材M1の小径軸部M12を挿通させて成形空間212に案内する。このため、ガイド部211は、素材M1の小径軸部M12を傾くことなく成形空間212に向けて案内するように、内周面に沿って案内部211Aを有する。成形空間212は、小径軸部M12に回転軸に対してツルマキ線状(螺旋状)の暫定外歯M13(図11を参照)を成形するように、内周面に沿って成形部212Aを有する。
【0035】
ここで、図9に示すように、ガイド部211における案内部211Aの内径寸法D0は、素材M1の小径軸部M12の外径寸法Dm1(図8を参照)よりも大きく(又は、同一に)設定される。又、成形空間212の成形部212Aの内径寸法D1は、素材M1の小径軸部M12の外径寸法Dm1よりも小さく設定される。更に、成形空間212の成形部212Aの内径寸法D2は、中間成形物Fiの外形寸法(第一実施例においては中間形状である暫定外歯M13の外径寸法)よりも大きく設定される。つまり、第一成形ダイ21の内径寸法については、D1<Dm1≦D0<D2の関係が成立する。
【0036】
これにより、パンチ11によって素材M1の小径軸部M12が第一成形ダイ21に押し込まれた場合、先ずガイド部211の案内部211Aが小径軸部M12を成形空間212に向けて案内する。この場合、案内部211Aは、小径軸部M12が傾くことなく(所謂、座り良く)、小径軸部M12を成形空間212に向けて案内する。そして、案内部211Aによって案内されて成形空間212に進入した小径軸部M12に対して、成形空間212の成形部212Aが暫定外歯M13を絞り加工により鍛造成形する。ここで、暫定外歯M13の外周面は、成形空間212のうちの内径寸法D2の部分には当接しない。
【0037】
第二成形ダイ22は、図10に示すように、成形方向にて後方(第一実施例においては鉛直方向にて上方)に配置されるガイド部221と、ガイド部221に対して成形方向にて前方(第一実施例においては鉛直方向にて下方)に配置される成形空間222と、を有する。ガイド部221は、成形方向にて前方(鉛直方向にて下方)に進行する中間成形物Fiの小径軸部M12に形成された暫定外歯M13に嵌合するように内周面に設けられて、成形空間222に案内するための案内部221Aを有する。成形空間222は、中間成形物Fiの暫定外歯M13から最終成形物Ff即ち製品W1の回転軸に対してツルマキ線状(螺旋状)のはす歯である外歯M14(図12を参照)を成形するように、内周面に沿って成形部222Aを有する。
【0038】
ここで、第一実施例においては、図10に示すように、第二成形ダイ22のガイド部221における案内部221Aの内径寸法D3は、第一成形ダイ21のガイド部211における案内部211Aの内径寸法D0よりも小さく即ち小径軸部M12の外径寸法Dm1よりも小さく、成形空間212の成形部212Aの内径寸法D1よりも大きく設定される。又、第一実施例においては、図10に示すように、第二成形ダイ22の成形空間222の成形部222Aの内径寸法D4は、第一成形ダイ21の成形空間212の成形部212Aの内径寸法D1よりも小さく設定される。更に、成形空間222の内径寸法D5は、中間成形物Fiの外形寸法(第一実施例においては中間形状である暫定外歯M13の外径寸法)よりも小さく設定される。つまり、第二成形ダイ22の内径寸法については、D4<D1<D3<Dm1≦D0<D5の関係が成立する。
【0039】
これにより、中間成形物Fiの暫定外歯M13が第二成形ダイ22に押し込まれた場合、先ずガイド部221の案内部221Aが暫定外歯M13と嵌合して暫定外歯M13を成形空間222に向けて案内する。そして、案内されて成形空間222に進入した暫定外歯M13に対して、成形空間222の成形部222Aが最終形状である外歯M14を絞り加工により鍛造成形する。ここで、暫定外歯M13の外周面は、成形空間222のうちの内径寸法D5の部分に当接することにより拘束される。
【0040】
尚、軸方向長さの違いは、断面減少率の違い、即ち、外方に向けた肉張りの違いに基づいて設定され、例えば、断面減少率が大きい程、冷間鍛造成形中の素材M1及び中間成形物Fiを保持するように軸方向長さが長く設定される。本実施形態においては、第二工程における断面減少率が大きくなる場合を例示するため、第二成形ダイ22の方が長くなっている。
【0041】
このため、成形ダイ20は、第一鍛造成形工程及び第二鍛造成形工程において鍛造成形装置10を共用できるように、図6に示す第一成形ダイ21に組み合わされるスペーサ23と、図7に示す第二成形ダイ22に組み合わされるスペーサ24と、を有する。尚、これらの場合は、保持板15は、圧力板14、第一成形ダイ21及びスペーサ23をテーブル13と共に挟持し、又は、圧力板14、第二成形ダイ22及びスペーサ24をテーブル13と共に挟持して保持する。
【0042】
2-3.鍛造成形方法
次に、上述した鍛造成形装置10及び成形ダイ20を用いた第一実施例の鍛造成形方法について説明する。第一実施例の鍛造成形方法においては、図6に示すように、鍛造成形装置10に第一成形ダイ21を取り付けた状態で素材M1の小径軸部M12に冷間鍛造成形を施して中間成形物Fiを成形する第一鍛造成形工程と、図7に示すように、鍛造成形装置10に第二成形ダイ22を取り付けた状態で中間成形物Fiに冷間鍛造成形を施して最終成形物Ff即ち製品W1を成形する第二鍛造成形工程と、を順に実施する。
【0043】
先ず、第一鍛造成形工程から説明する。第一鍛造成形工程を実施するに当たり、鍛造成形装置10においては、図6に示すように、第一成形ダイ21及びスペーサ23が組み付けられる。そして、第一鍛造成形工程においては、小径軸部W12に対する冷間鍛造成形がなされていない素材M1を、パンチ11と第一成形ダイ21とで挟持するようにセットする。
【0044】
第一鍛造成形工程においては、素材M1が第一成形ダイ21に当接するようにセットされた状態で、成形方向にて前方(鉛直方向にて下方)に向けて、駆動装置12がパンチ11に駆動力を伝達する。その結果、パンチ11は、成形方向にて前進(鉛直方向にて下降)し、素材M1を第一成形ダイ21のガイド部211に押し込む。これにより、ガイド部211の案内部211Aは、小径軸部M12が傾かないように、小径軸部M12を成形空間212に向けて案内する。
【0045】
そして、鍛造成形装置10のパンチ11は、素材M1の小径軸部M12を第一成形ダイ21の成形空間212に対して押し込む。これにより、小径軸部M12が成形空間212の成形部212Aに対して相対移動する過程において、図11に示すように、小径軸部M12の外周面に暫定外歯M13が成形される。つまり、第一鍛造成形工程を経ることにより、小径軸部W12に暫定外歯M13を有する中間成形物Fiが成形される。
【0046】
中間成形物Fiが成形されると、中間成形物Fiは第一成形ダイ21から取り外される。この場合、小径軸部M12には暫定外歯M13が成形されているため、例えば、中間成形物Fiを軸線回りに回転させることによって中間成形物Fiを成形方向にて後進(鉛直方向にて上方)に移動させ、中間成形物Fiを第一成形ダイ21から取り外す。尚、中間成形物Fiを回転させる際には、図示を省略するが、例えば、パンチ11を回転させることによって中間成形物Fiを連れ回りさせたり、第一成形ダイ21を回転させることによって第一成形ダイ21を中間成形物Fiに対して相対的に回転させたりすることができる。
【0047】
ここで、第一成形ダイ21における成形空間212の成形部212Aの内径寸法D1は、小径軸部M12の加工対象部分MAにおける第一断面減少率が上述したように10%から40%の範囲内となるように設定される。具体的に、第一実施例においては、上述したように、第一成形ダイ21における成形部212Aの内径寸法D1は、第二成形ダイ22における成形部222Aの内径寸法D2よりも大きく設定される。つまり、第一実施例においては、第一鍛造成形工程における第一断面減少率は第二鍛造成形工程における第二断面減少率よりも小さくなるように設定される。
【0048】
従って、第一実施例においては、第一鍛造成形工程にて未加工の素材M1の小径軸部M12に冷間鍛造成形を施す場合、第二鍛造成形工程に比べて第一断面減少率が相対的に小さく設定されることにより、駆動装置12がパンチ11に伝達する駆動力、換言すれば、パンチ11のストロークに対する成形荷重を相対的に小さくすることができる。これにより、第一成形ダイ21が冷間鍛造成形に伴う成形荷重によって受ける反力即ち負荷を小さくすることができ、第一成形ダイ21の型寿命を長期化することが可能になる。
【0049】
次に、第二鍛造成形工程を説明する。第二鍛造成形工程を実施するに当たり、鍛造成形装置10においては、図7に示すように、第一成形ダイ21及びスペーサ23に代えて第二成形ダイ22及びスペーサ24が組み付けられる。そして、第二鍛造成形工程においては、第一鍛造成形工程にて小径軸部W12に暫定外歯M13が成形された中間成形物Fiを、パンチ11と第二成形ダイ22とで挟持するようにセットする。
【0050】
第二鍛造成形工程においては、中間成形物Fiが第二成形ダイ22に当接するようにセットされた状態で、成形方向にて前方(鉛直方向にて下方)に向けて、駆動装置12がパンチ11に駆動力を伝達する。その結果、パンチ11は、成形方向にて前進(鉛直方向にて下降)し、中間成形物Fiを第二成形ダイ22のガイド部221に押し込む。これにより、ガイド部221の案内部221Aは、中間成形物Fiの暫定外歯M13に嵌合して、暫定外歯M13を成形空間212に向けて案内する。
【0051】
そして、鍛造成形装置10のパンチ11は、中間成形物Fiの暫定外歯M13を第二成形ダイ22の成形空間222に対して押し込む。これにより、暫定外歯M13が成形空間222の成形部222Aに対して相対移動する過程において、暫定外歯M13に絞り加工が施されることにより、図12に示すような外歯M14が成形される。つまり、第二鍛造成形工程を経ることにより、最終形状である外歯M14を有する最終成形物Ff即ち製品W1が成形される。そして、最終成形物Ffが成形されると、上述した第一鍛造成形工程と同様に、最終成形物Ffは第二成形ダイ22から取り外される。
【0052】
ここで、第二成形ダイ22における成形空間222の成形部222Aの内径寸法D4は、暫定外歯M13の加工対象部分MBにおける第二断面減少率が上述したように10%から40%の範囲内となるように設定される。具体的に、第一実施例においては、上述したように、第二成形ダイ22おける成形部222Aの内径寸法D4は、第一成形ダイ21における成形部212Aの内径D1よりも小さく設定される。つまり、第一実施例においては、第二鍛造成形工程における第二断面減少率は第一鍛造成形工程における第一断面減少率よりも大きくなるように設定されており、中間成形物Fiの暫定外歯M13に絞り加工を施すことにより最終形状である外歯M14を成形する。
【0053】
従って、第一実施例においては、第一鍛造成形工程にて成形された暫定外歯M13に冷間鍛造成形としての絞り加工を施すため、一つの鍛造成形工程にて素材M1から外歯M14を成形する場合に比べて、駆動装置12がパンチ11に伝達する駆動力、換言すれば、パンチ11のストロークに対する成形荷重を相対的に小さくすることができる。これにより、第二成形ダ2が冷間鍛造成形に伴う成形荷重によって受ける反力即ち負荷を小さくすることができ、第二成形ダイ22の型寿命を長期化することが可能になる。
【0054】
2-4.第一実施例の変形例
上述したように、成形ダイ20を構成する第二成形ダイ22は、成形空間222に対して成形方向にて後方側に、小径軸部M12の外径寸法Dm1よりも小径の内径寸法D3に設定されたガイド部221の案内部221Aを有する。このため、上述した第二鍛造成形工程において外歯M14が成形される際には、図12に示すように、小径軸部M12のうちの素材M1の大径円盤部M11側の端部において、案内部221Aが小径軸部M12に暫定外歯M13よりも浅い案内溝M15を成形する。
【0055】
このため、第一実施例の第一成形ダイ21を用いた第一鍛造成形工程及び第二成形ダイ22を用いた第二鍛造成形工程を経た場合、図12に示すように、最終成形物Ff(製品W1)に対する外歯M14の成形範囲Rのうち、大径円板部M11側の端部に案内溝M15がそのまま存在する。つまり、案内溝M15がそのまま成形範囲Rに含まれる場合、成形範囲Rは、機能上利用されない案内溝M15の部分M16(以下、この部分を「未利用部分M16」と称呼する。)だけ、軸線方向の長さが長くなってしまい、ひいては、製品W1の軸線方向の長さが長くなってしまう。
【0056】
そこで、第一実施形態の変形例においては、成形範囲Rに含まれる未利用部分M16を減少させるために、図13に示すように、第二成形ダイ22におけるガイド部221の案内部221Aの少なくとも一部に内径がD1となる成形部223を設ける。これにより、成形部223は、案内部221Aにおいて内径寸法D3に設定される部分の成形方向に沿った長さを実質的に短くすることができる。そして、成形部223は、未利用部分W16を形成する案内溝M15に沿って、第一成形ダイ21における成形空間212の成形部212Aと同様に、暫定外歯M13を成形することができる。
【0057】
これにより、第二鍛造成形工程において、例えば、上述した第一実施例の場合よりも第二成形ダイ22を中間成形物Fiの大径円板部M11の近傍まで相対移動させることにより、図14に示すように、成形部223が未利用部分M16の案内溝M15に沿って暫定外歯M13を成形することができる。その後、成形空間222の成形部222Aが未利用部分M16に新たに成形された暫定外歯M13に絞り加工を施して外歯M14が成形されることにより、図14に示すように、図12に示した第一実施例の場合に比べて、成形範囲Rのうち、外歯M14として有効に機能する有効成形部分M17を大径円板部M11側に広げることができる。これにより、製品W1の軸線方向の寸法を短くすることが可能となり、製品W1の小型化を実現することができる。
【0058】
3.第二実施例
上述した第一実施例においては、大径円板部M11及び小径軸部M12を有する素材M1を例示した。これに対し、第二実施例においては、図15に示す鍛造成形装置10が冷間鍛造を行う被成形物として、図16に示すように、貫通孔M21を有する環状の素材M2を例示し、素材M2の側部M22の外周面に対して冷間鍛造加工を施してピニオンギヤを製品W2として成形する場合を説明する。尚、素材M2は、図16に示すように、軸線方向の両端部に面取り部M23が予め成形されている。
【0059】
3-1.鍛造成形装置10の構成
第二実施例の鍛造成形装置10においては、図15に示すように、第一実施例において説明した鍛造成形装置10のパンチ11に代えて、冷間鍛造成形中において素材M2の貫通孔M21に挿通されるマンドレル15を有するパンチ16が設けられる。これにより、第二実施例においては、素材W2が中空状、より詳しくは、環状であるため、冷間鍛造成形中はマンドレル15が貫通孔M21に挿通された状態で第一鍛造成形工程及び第二鍛造成形工程が実行される。
【0060】
ここで、マンドレル15については、環状の素材M2の冷間鍛造成形時にパンチ16に取り付けられるようにしても良いし、環状の素材M2の冷間鍛造成形専用としてパンチ16と一体となるように設けられていても良い。汎用性を考慮する場合には、別体のマンドレル15がパンチ16に取り付けられる方式を採用することが好ましい。
【0061】
尚、第二実施例の鍛造成形装置10と、上述した第一実施例の鍛造成形装置10とは、マンドレル15及びパンチ16が異なるのみである。即ち、第二実施例の鍛造成形装置10も、第一実施例の鍛造成形装置10と同様に、駆動装置12、テーブル13、圧力板14及び保持板15を備えている。従って、駆動装置12、テーブル13、圧力板14及び保持板15の説明は省略する。
【0062】
3-2.成形ダイ20の構成
次に、第二実施例の成形ダイ20の構成を説明する。第二実施例の成形ダイ20は、第一成形ダイ25及び第二成形ダイ26を含んで構成される。
【0063】
第一成形ダイ25は、図17に示すように、成形方向にて後方(第二実施例においては鉛直方向にて上方)に配置されるガイド部251と、ガイド部251に対して成形方向にて前方(第二実施例においては鉛直方向にて下方)に配置される成形空間252と、を有する。ガイド部251は、成形方向にて前方(鉛直方向にて下方)に前進する素材M2を安定して挿通させて成形空間252に案内するように、内周面にて軸線方向に沿った保持部251Aを有する。成形空間252は、素材M2の側部M22に回転軸に対して平行な暫定外歯M23(図19を参照)を成形するように、内周面にて軸線方向に沿った成形部252Aを有する。
【0064】
ここで、図17に示すように、ガイド部251における保持部251Aの内径寸法D6は、素材M2の外径寸法Dm2(図16を参照)に対して僅かに大きく設定される。又、図17に示すように、ガイド部251の保持部251Aの内径寸法D6は、成形空間252の成形部252Aの内径寸法D7よりも大きく設定される。つまり、第一成形ダイ25の内径寸法については、D7<Dm2≦D6の関係が成立する。
【0065】
これにより、素材M2が第一成形ダイ25に押し込まれた場合、先ずガイド部251の保持部251Aが素材M2をガタツキなく保持する。そして、保持部251Aに保持されて成形空間252に進入した素材M2に対して、成形空間252の成形部252Aが暫定外歯M23を成形する。尚、保持部251Aは、上述した第一実施例の案内部221Aと同様に、素材M2の側部M22に案内溝を成形することも可能である。又、暫定外歯M23の外周面は、成形空間252の内周面には接触しない。
【0066】
第二成形ダイ26は、図18に示すように、成形方向にて後方(第二実施例においては鉛直方向にて上方)に配置されるガイド部261と、ガイド部261に対して成形方向にて前方(第二実施例においては鉛直方向にて下方)に配置される成形空間262と、を有する。ガイド部261は、成形方向にて前方(鉛直方向にて下方)に前進する中間成形物Fiの側部M22に形成された暫定外歯M23に嵌合するように内周面にて軸線方向に沿って設けられて、成形空間262に案内するための案内部261Aを有する。成形空間262は、中間成形物Fiの暫定外歯M23に絞り加工を施すことによって最終成形物Ff即ち製品W2の回転軸に対して平行な平歯M24(図20を参照)を成形するように、内周面にて軸線方向に沿った成形部262Aを有する。
【0067】
ここで、第二実施例においては、図18に示すように、第二成形ダイ26のガイド部261における案内部261Aの内径寸法D8は、第一成形ダイ25のガイド部251における保持部251Aの内径寸法D6(図17を参照)よりも小さく設定される。又、第二実施例においては、図18に示すように、第二成形ダイ26の成形空間262の成形部262Aの内径寸法D9は、第一成形ダイ25の成形空間252の成形部252Aの内径寸法D7よりも小さく設定される。つまり、第二成形ダイ26の内径寸法については、D9<D7<D8<Dm2≦D6の関係が成立する。
【0068】
これにより、中間成形物Fiの暫定外歯M23が第二成形ダイ26に押し込まれた場合、先ず、ガイド部261の案内部261Aが暫定外歯M23と嵌合して暫定外歯M23を成形空間262に向けて案内する。そして、成形空間262の成形部262Aが、案内されて成形空間262に進入した暫定外歯M23に対して絞り加工を施し、最終形状である平歯M24を成形する。ここで、暫定外歯M23の外周面は、成形空間262の内周面に当接することにより拘束される。
【0069】
尚、第二実施例の鍛造成形装置10においては、図15に示すように、第一成形ダイ25と第二成形ダイ26とが成形方向(鉛直方向)に沿って直列に配置される。つまり、第二実施例の鍛造成形装置10においては、素材M2は、パンチ16によって第一成形ダイ25に押し込まれ、続いて、パンチ16によって第二成形ダイ26に押し込まれる。これにより、素材M2には、暫定外歯M23と平歯M24とが連続して成形される。
【0070】
ここで、冷間鍛造成形中の中間成形物Fiにおいて、例えば、成形方向にて前方が第二成形ダイ26に進入し、且つ、成形方向にて後方が第一成形ダイ25を通過している状況を想定すると、第一成形ダイ25による暫定外歯M23の成形荷重と第二成形ダイ26による平歯M24の成形荷重の両方がパンチ16に作用することになる。又、第二実施例においても、第二成形ダイ26の内径寸法D9が第一成形ダイ25の内径寸法D7よりも小さいため、成形方向にて後方に材料流動が生じることにより、中間成形物Fiが第一成形ダイ25に据え込まれる場合もある。この場合、成形荷重が増加し、第一成形ダイ25等の型寿命に影響を及ぼす可能性がある。
【0071】
このため、第二実施例の鍛造成形装置10においては、第一成形ダイ25及び第二成形ダイ26が成形方向にて互いに離間するように、成形ダイ20を構成するスペーサ27が設けられる。具体的に、スペーサ27は、中間成形物Fi(素材M2)の軸線方向の寸法、即ち、中間成形物Fi(素材M2)の厚み寸法よりも大きな距離となるように、第一成形ダイ25及び第二成形ダイ26を離間させる。これにより、スペーサ27は、鍛造成形中の中間成形物Fiにおいて、成形方向にて前方が第二成形ダイ26に進入し、且つ、成形方向にて後方が第一成形ダイ25を通過している状況が生じることを防止することができ、成形荷重の増加を抑制することができる。
【0072】
3-3.鍛造成形方法
次に、上述した鍛造成形装置10及び成形ダイ20を用いた第二実施例の鍛造成形方法について説明する。第二実施例の鍛造成形方法においては、図15に示すように、鍛造成形装置10に対して、成形方向にて後方(鉛直方向にて上方)に第一成形ダイ25を配置すると共に成形方向にて第一成形ダイ25よりも前方にスペーサ27を介して第二成形ダイ26を配置する、つまり、成形方向に沿って直列となるように第一成形ダイ25及び第二成形ダイ26を取り付ける。そして、第二実施例の鍛造成形方法は、鍛造成形装置10を用いて、素材M2の側部M22に冷間鍛造成形を施して中間成形物Fiを成形する第一鍛造成形工程と、中間成形物Fiに冷間鍛造成形を施して最終成形物Ff即ち製品W2を成形する第二鍛造成形工程と、を連続して実施する。
【0073】
第二実施例の鍛造成形装置10においては、図15に示すように、成形方向にて後方から前方(鉛直方向にて上方から下方)に沿って第一成形ダイ25、スペーサ27及び第二成形ダイ26の順に組み付けられる。そして、側部M22に対して冷間鍛造成形がなされていない素材M2は、貫通孔M21にマンドレル15が挿通された状態でパンチ16と第一成形ダイ25とで挟持するようにセットされる。
【0074】
第二実施例の第一鍛造成形工程においては、素材M2が第一成形ダイ25のガイド部251の保持部251Aに当接するようにセットされた状態で、成形方向にて前方(鉛直方向にて下方)に向けて、駆動装置12がパンチ16に駆動力を伝達する。これにより、パンチ16は、マンドレル15と共に成形方向にて前進(鉛直方向にて下降)し、保持部251Aによって案内される素材M2を成形空間252に向けて押し込む。
【0075】
成形空間252に押し込まれた素材M2は、成形空間252の成形部252Aに対して相対移動する過程において、側部M22に図19に示すような暫定外歯M23が成形される。つまり、第二実施例においても、第一鍛造成形工程を経ることにより、側部M22に暫定外歯M23を有する中間成形物Fiが成形される。
【0076】
中間成形物Fiは、パンチ16によって更に成形方向にて前進(鉛直方向にて下降)し、第一成形ダイ25の成形空間252から排出される。これにより、第二実施例においては、第一鍛造成形工程が終了する。そして、第一鍛造成形工程が終了した中間成形物Fiは、更にパンチ16によって成形方向にて前進(鉛直方向にて下降)し、スペーサ27を通過して第二成形ダイ26に到達する。
【0077】
ここで、上述したように、第二実施例においては、第一成形ダイ25における成形空間252の成形部252Aの内径寸法D7は、素材M2の側部M22の加工対象部分MAにおける断面減少率が10%から40%の範囲内となるように設定され、又、第二成形ダイ26における成形部262Aの内径寸法D9よりも大きく設定される。つまり、第二実施例においても、第一鍛造成形工程における第一断面減少率は第二鍛造成形工程における第二断面減少率よりも小さくなるように設定される。
【0078】
又、成形空間252から排出された中間成形物Fiがスペーサ27を通過することにより、中間成形物Fiには何ら鍛造成形がなされない状態が生じる。つまり、スペーサ27を設けることにより、連続して実行される第一鍛造成形工程と第二鍛造成形工程とを区切ることができる。これにより、第一鍛造成形工程における冷間鍛造成形に伴う成形荷重が高くなることを防止することができる。従って、第二実施例においても、第一鍛造成形工程にて未加工の素材M2の側部M22に冷間鍛造成形を施す場合、第二鍛造成形工程に比べて第一断面減少率が相対的に小さく設定されることにより、第一成形ダイ25が冷間鍛造成形に伴う成形荷重によって受ける反力即ち負荷を小さくすることができ、第一成形ダイ25の型寿命を長期化することが可能となる。
【0079】
スペーサ27を通過した中間成形物Fiは、第二成形ダイ26に到達する。これにより、第二実施例においては第二鍛造成形工程が実行される。第二鍛造成形工程においては、鍛造成形装置10のパンチ16が、成形方向にて前進(鉛直方向にて下降)し、中間成形物Fiを第二成形ダイ26のガイド部261に押し込む。これにより、ガイド部261の案内部261Aは、中間成形物Fiの暫定外歯M23と嵌合して、暫定外歯M23を成形空間262に向けて案内する。
【0080】
そして、パンチ16は、中間成形物Fiの暫定外歯M23を第二成形ダイ26の成形空間262に対して押し込む。これにより、暫定外歯M23が成形空間262の成形部262Aに対して相対移動する過程において、暫定外歯M23に絞り加工が施されることにより、図20に示すような平歯M24が成形される。つまり、第二実施例においても、第二鍛造成形工程を経ることにより、最終形状である平歯M24を有する最終成形物Ff即ち製品W2が成形される。そして、最終成形物Ffは、パンチ16が更に成形方向にて前進(鉛直方向にて下降)することによって、第二成形ダイ26の成形空間262から排出される。これにより、第二実施例においては、第二鍛造成形工程が終了する。
【0081】
ここで、第二成形ダイ26における成形空間262の成形部262Aの内径寸法D9は、暫定外歯M23の加工対象部分MBにおける断面減少率が上述したように10%から40%の範囲内となるように設定される。そして、第二実施例においても、上述したように、第二鍛造成形工程における第二断面減少率は第一鍛造成形工程における第一断面減少率よりも大きくなるように設定されており、中間成形物Fiの暫定外歯M23に絞り加工を施すことにより最終形状である平歯M24を成形する。
【0082】
従って、第二実施例においても、第一鍛造成形工程にて成形された暫定外歯M23に冷間鍛造成形としての絞り加工を施すため、一つの鍛造成形工程にて素材M2から平歯M24を成形する場合に比べて成形荷重を小さくすることができる。これにより、第二実施例においても、第二成形ダイ26が冷間鍛造成形に伴う成形荷重によって受ける反力即ち負荷を小さくすることができ、第二成形ダイ26の型寿命を長期化することが可能になる。
【0083】
又、第一鍛造成形工程にて暫定外歯M23を成形し、続く第二鍛造成形工程にて最終的な絞り加工を施すことにより、一つの鍛造成形工程にて素材M2から平歯M24を成形する場合に比べて、材料流動を緩やかに生じさせることができる。これにより、例えば、ピニオンギヤのような製品W2において、軸線方向の両端面におけるバリやタレの発生を抑制することが可能になる。従って、冷間鍛造成形した後の製品W2に対する追加加工(切削加工や研削加工等)の少なくとも一部を省略することが可能になり、ひいては、製品W2の製造コストの低減を実現することができる。
【0084】
3-4.第二実施例の変形例
上述したように、第二実施例においては、貫通孔M21を有する環状の素材M2の側部M22に暫定外歯M23を成形し、その後、最終形状である平歯M24を成形する場合を例示した。これに代えて、被成形物として、図21に示すように、軸部M31及び大径部M32を有する軸状の素材M3を採用することも可能である。この場合、鍛造成形装置10を用いて、図22に示すように、大径部M32の外周面において、第二実施例の場合と同様に、回転軸に対して平行な一点鎖線により示す暫定外歯M33を有する中間成形物Fiを成形し、その後、中間成形物Fiの暫定外歯M33に対して絞り加工を施して最終形状である平歯M34を有する最終成形物Ff即ち製品W3を成形することができる。
【0085】
具体的に、鍛造成形装置10においては、図23に示すように、第二実施例において説明したマンドレル15を取り外したパンチ16が軸状の素材M3の一端部を成形方向にて前方に向けて、即ち、第一成形ダイ25に向けて押し込む。尚、変形例の鍛造成形装置10においても、上述した第二実施例と同様に、成形ダイ20、即ち、第一成形ダイ25、スペーサ27及び第二成形ダイ26が取り付けられている。尚、スペーサ27は、第一成形ダイ25と第二成形ダイ26とが素材M3の大径部M32の軸線方向に沿った長さ以上離間するように配置される
【0086】
これにより、上述した第二実施例の場合と同様に、素材M3の大径部M32の外周面には、第一鍛造成形工程において第一成形ダイ25における成形空間252の成形部252Aが暫定外歯M33を成形する。そして、上述した第二実施例の場合と同様に、大径部M31に暫定外歯M33を有する中間成形物Fiがスペーサ27を通過した後、第二鍛造成形工程において第二成形ダイ26における成形空間262の成形部262Aが平歯M34を有する最終成形物Ff即ち製品W3を成形する。つまり、変形例においても、上述した第二実施例と同様に、素材M3の大径部M31の外周面に対して、第一鍛造成形工程において暫定外歯M33を成形し、第二鍛造成形工程において暫定外歯M33に対する絞り加工によって平歯M34を成形することができる。従って、変形例においても、第二実施例と同様の効果が得られる。
【0087】
4.その他の変形例
上述した第二実施例においては、素材M2の側部M22に回転軸に平行な平歯M24を成形する場合を例示した。しかしながら、上述した第一実施例の場合のように、素材M2の側部M22に回転軸に対してツルマキ線状(螺旋状)のはす歯を成形することも可能である。この場合、鍛造成形装置10は、例えば、上述した第一成形ダイ21と、上述した第二成形ダイ22と、がスペーサ27を介して直列に配置される。そして、この場合には、第一成形ダイ21によって成形された暫定外歯の周方向における位相と、第二成形ダイ22のガイド部221の案内部221Aの周方向における位相と、を一致させるべく、例えば、第二成形ダイ22が成形方向に対して自在回転可能に設けられる。これにより、第二成形ダイ22は、ガイド部221まで到達した暫定外歯を有する中間成形物Fiの位相に合わせて回転することにより、暫定外歯と案内部221Aとが嵌合することができて、暫定外歯を成形空間222に案内することができる。従って、この場合には、素材M2の側部M22にはす歯を冷間鍛造成形することができる。
【0088】
ここで、本発明の第一形態の鍛造成形装置は、素材に鍛造成形を施す成形ダイと、素材を成形方向にて前方に配置された成形ダイに向けて押し込むパンチと、を備え、成形ダイが、鍛造成形後の外形寸法よりも小さな外形寸法の素材に対し、鍛造成形に伴って素材に生じる材料流動のうち成形方向に直交する方向に沿った分流によって素材の外面を成形するものであり、素材から中間形状を有する中間成形物を成形する第一成形ダイと、中間成形物から中間形状の外形寸法よりも小さな外形寸法の最終形状を有する最終成形物を成形する第二成形ダイと、を含む。
【0089】
又、本発明の第二形態の鍛造成形装置は、上記第一形態の鍛造成形装置において、第一成形ダイが、素材に対して中間形状を成形する成形対象部分において成形方向に直交する方向に沿った素材の断面積に対する中間成形物の断面積の比を表す第一断面減少率が10%から40%となるように、素材に対して中間形状を成形し、第二成形ダイが、中間成形物に対して最終形状を成形する成形対象部分において成形方向に直交する方向に沿った中間成形物の断面積に対する最終成形物の断面積の比を表す第二断面減少率が10%から40%となるように、中間成形物に対して最終形状を成形する。
【0090】
又、本発明の第三形態の鍛造成形装置は、上記第二形態の鍛造成形装置において、第一断面減少率が、第二断面減少率よりも小さく設定される。
【0091】
又、本発明の第四形態の鍛造成形装置は、上記第一形態-上記第三形態の何れか一つの鍛造成形装置において、第一成形ダイが、最終成形物の外形寸法よりも大きな外形寸法を有するように素材に中間形状を成形し、第二成形ダイが、中間成形物の中間形状に対して絞り加工を施して最終形状を成形する。
【0092】
又、本発明の第五形態の鍛造成形装置は、上記第一形態-上記第四形態の何れか一つの鍛造成形装置において、第一成形ダイと第二成形ダイとが、成形方向に沿って直列に配置される。
【0093】
又、本発明の第六形態の鍛造成形装置は、上記第五形態の鍛造成形装置において、成形方向にて後方に第一成形ダイが配置され、成形方向にて前方に第二成形ダイが配置される。
【0094】
又、本発明の第七形態の鍛造成形装置は、上記第五形態又は第六形態の鍛造成形装置において、第一成形ダイと第二成形ダイとが、成形方向における中間成形物の大きさよりも長く離間するように配置される。
【0095】
又、本発明の第八形態の鍛造成形装置は、上記第一形態-上記第七形態の何れか一つの鍛造成形装置において、第一成形ダイが、パンチによって押し込まれる素材を案内するガイド部と、ガイド部によって案内された素材に鍛造成形を施す成形空間と、を有し、第二成形ダイが、パンチによって押し込まれる中間成形物を案内するガイド部と、ガイド部によって案内された中間成形物に鍛造成形を施す成形空間と、を有する。
【0096】
又、本発明の第九形態の鍛造成形装置は、上記第八形態の鍛造成形装置において、第二成形ダイのガイド部の内形寸法のうちの少なくとも一部が、第一成形ダイの成形空間に設定された内形寸法を有する。
【0097】
又、本発明の第十形態の鍛造成形装置は、上記第一形態-上記第九形態の何れか一つの鍛造成形装置において、中間成形物の中間形状及び最終成形物の最終形状が、歯車形状であり、歯車形状における周方向の歯幅に関して中間形状が最終形状よりも大きく、歯車形状における径方向の歯高に関して中間形状が最終形状よりも大きい。
【0098】
更に、本発明の鍛造成形方法は、上記第一形態-上記第十形態の何れか一つの鍛造成形装置を用いて素材に鍛造成形を施す鍛造成形方法であって、第一成形ダイを用いて素材に鍛造成形を施すことによって素材から中間成形物を成形する第一鍛造成形工程と、第二成形ダイを用いて中間成形物に鍛造成形を施すことによって中間成形物から最終成形物を成形する第二鍛造成形工程と、を備える。
【符号の説明】
【0099】
10…鍛造成形装置、11…パンチ、12…駆動装置、13…テーブル、14…圧力板、15…マンドレル、16…パンチ、20…成形ダイ、21…第一成形ダイ、211…ガイド部、211A…案内部、212…成形空間、212A…成形部、22…第二成形ダイ、221…ガイド部、221A…案内部、222…成形空間、222A…成形部、23…スペーサ、24…スペーサ、25…第一成形ダイ、251…ガイド部、251A…保持部、252…成形空間、252A…成形部、26…第二成形ダイ、261…ガイド部、261A…案内部、262…成形空間、262A…成形部、27…スペーサ、M,M1,M2,M3…素材、Fi…中間成形物、Ff…最終成形物、W1,W2,W3…製品、P…パンチ、S…成形ダイ、S1…第一成形ダイ、S2…第二成形ダイ、MA,MB…成形対象部分
【要約】
【課題】成形ダイの型寿命を延ばすことができる鍛造成形装置を提供すること。
【解決手段】鍛造成形装置Kは、素材Mに鍛造成形を施す成形ダイSと、素材Mを成形方向にて前方に配置された成形ダイSに向けて押し込むパンチPと、を備え、成形ダイSが、鍛造成形後の製品Wの外形寸法よりも小さな外形寸法の素材Mに対し、鍛造成形に伴って素材Mに生じる材料流動のうち成形方向に直交する方向に沿った分流によって素材Mの外面を成形するものであり、素材Mから中間形状を有する中間成形物を成形する第一成形ダイS1と、中間成形物から中間形状の外形寸法よりも小さな外形寸法の最終形状を有する最終成形物である製品Wを成形する第二成形ダイS2と、を含む。
【選択図】図1
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