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特許7562038電流検出装置、モータ制御装置及び電動パワーステアリング装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-26
(45)【発行日】2024-10-04
(54)【発明の名称】電流検出装置、モータ制御装置及び電動パワーステアリング装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 6/08 20160101AFI20240927BHJP
【FI】
H02P6/08
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2024500970
(86)(22)【出願日】2022-12-08
(86)【国際出願番号】 JP2022045301
(87)【国際公開番号】W WO2023157432
(87)【国際公開日】2023-08-24
【審査請求日】2024-04-25
(31)【優先権主張番号】P 2022023749
(32)【優先日】2022-02-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】小林 敬幸
(72)【発明者】
【氏名】瓜生 恭正
【審査官】若林 治男
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-072151(JP,A)
【文献】特開2010-207087(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 6/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
PWM制御される多相インバータの上側アーム又は下側アームのいずれか一方のアームのスイッチング素子に直列接続される抵抗素子の電圧降下に基づいて前記スイッチング素子に流れる電流を検出する電流検出部と、
PWM制御中に前記スイッチング素子がオフである期間に前記電流検出部により検出された電流の検出値に基づいてオフセット補正値を算出し、算出した前記オフセット補正値を保持及び更新する補正値算出部と、
前記補正値算出部に保持された前記オフセット補正値によって、前記スイッチング素子がオンである期間に前記電流検出部により検出された電流の検出値を補正する補正部と、を備え、
前記スイッチング素子が下側アームのスイッチング素子であり前記PWM制御のデューティ比がデューティ比下限値以下である場合、又は前記スイッチング素子が上側アームのスイッチング素子であり前記デューティ比がデューティ比上限値以上である場合に、前記補正値算出部が前記オフセット補正値の更新を実施せず、
前記スイッチング素子が下側アームのスイッチング素子であり前記多相インバータの少なくとも1相において前記デューティ比が前記デューティ比下限値以下である場合、又は前記スイッチング素子が上側アームのスイッチング素子であり前記多相インバータの少なくとも1相において前記デューティ比が前記デューティ比上限値以上である場合に、前記補正値算出部が前記多相インバータの他の相における前記オフセット補正値の更新を実施しない、ことを特徴とする電流検出装置。
【請求項2】
前記補正値算出部は、前記スイッチング素子がオフである所定長の期間に前記電流検出部により検出された電流の検出値の平均を前記オフセット補正値として算出することを特徴とする請求項1に記載の電流検出装置。
【請求項3】
前記補正値算出部は、前記スイッチング素子がオフである期間に前記電流検出部により検出された電流の検出値が上限値を超える場合に、前記上限値を超える検出値による前記オフセット補正値を更新しないことを特徴とする請求項1又は2に記載の電流検出装置。
【請求項4】
前記補正値算出部は、前記多相インバータのいずれかの相において前記スイッチング素子がオフである期間に前記電流検出部により検出された電流の検出値が前記上限値を超え、且つ前記多相インバータの他の相において前記スイッチング素子がオフである期間に前記電流検出部により検出された電流の検出値が前記上限値を超えない場合に、前記他の相における前記オフセット補正値を更新することを特徴とする請求項に記載の電流検出装置。
【請求項5】
スイッチング素子を有する多相インバータと、
前記スイッチング素子に流れる電流を検出する請求項1又は2に記載の電流検出装置と、
前記電流検出装置による検出電流値に基づいて前記多相インバータを制御するコントローラと、
を備えることを特徴とするモータ制御装置。
【請求項6】
請求項に記載のモータ制御装置と、
前記モータ制御装置により制御される多相モータと、を備え、
前記多相モータによって車両の操舵系に操舵補助力を付与することを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項7】
PWM制御される多相インバータの上側アーム又は下側アームのいずれか一方のアームのスイッチング素子に直列接続される抵抗素子の電圧降下に基づいて前記スイッチング素子に流れる電流を検出する電流検出部と、
PWM制御中に前記スイッチング素子がオフである期間に前記電流検出部により検出された電流の検出値に基づいてオフセット補正値を算出し、算出した前記オフセット補正値を保持及び更新する補正値算出部と、
前記補正値算出部に保持された前記オフセット補正値によって、前記スイッチング素子がオンである期間に前記電流検出部により検出された電流の検出値を補正する補正部と、を備え、
前記スイッチング素子が下側アームのスイッチング素子であり前記PWM制御のデューティ比がデューティ比下限値以下である場合、又は前記スイッチング素子が上側アームのスイッチング素子であり前記デューティ比がデューティ比上限値以上である場合に、前記補正値算出部が前記オフセット補正値の更新を実施せず、
前記補正値算出部は、前記スイッチング素子がオフである期間に前記電流検出部により検出された電流の検出値が上限値を超える場合に、前記上限値を超える検出値による前記オフセット補正値を更新しないことを特徴とする、
ことを特徴とする電流検出装置。
【請求項8】
前記補正値算出部は、前記多相インバータのいずれかの相において前記スイッチング素子がオフである期間に前記電流検出部により検出された電流の検出値が前記上限値を超え、且つ前記多相インバータの他の相において前記スイッチング素子がオフである期間に前記電流検出部により検出された電流の検出値が前記上限値を超えない場合に、前記他の相における前記オフセット補正値を更新することを特徴とする請求項に記載の電流検出装置。
【請求項9】
スイッチング素子を有する多相インバータと、
前記スイッチング素子に流れる電流を検出する請求項7又は8に記載の電流検出装置と、
前記電流検出装置による検出電流値に基づいて前記多相インバータを制御するコントローラと、
を備えることを特徴とするモータ制御装置。
【請求項10】
請求項に記載のモータ制御装置と、
前記モータ制御装置により制御される多相モータと、を備え、
前記多相モータによって車両の操舵系に操舵補助力を付与することを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項11】
スイッチング素子を有する多相インバータと、
前記スイッチング素子に流れる電流を検出する請求項3に記載の電流検出装置と、
前記電流検出装置による検出電流値に基づいて前記多相インバータを制御するコントローラと、
を備えることを特徴とするモータ制御装置。
【請求項12】
スイッチング素子を有する多相インバータと、
前記スイッチング素子に流れる電流を検出する請求項4に記載の電流検出装置と、
前記電流検出装置による検出電流値に基づいて前記多相インバータを制御するコントローラと、
を備えることを特徴とするモータ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電流検出装置、モータ制御装置及び電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電動モータの駆動する手段としてパルス幅変調(PWM:Pulse Width Modulation)制御が知られている。PWM制御では、指令値に応じたデューティ比のPWM信号によりスイッチング素子をオンオフして、デューティ比に応じた電圧を電動モータに印加する。この電圧印加によって電動モータに流れる電流は電流検出器によって検出され、目標値と電流検出値との差が指令値を生成するための偏差として使用される。
このような構成において、電動モータに流すべき電流がゼロであるにも関わらず、電流検出器による電流の検出値がゼロでないことがある。このような電流はオフセット電流と呼ばれ、電流検出器によって検出される検出電流値は、実際に電動モータに流れている電流にオフセット電流を加えたものとなる。このためオフセット電流は、電流検出器における検出電流値に誤差を発生させる原因となる。
【0003】
オフセット誤差(すなわちオフセット電流に起因する誤差)が発生すると、検出された電流値と実際に電動モータに流れる電流の値とが一致しないので、電動モータの電流制御を設定通りに行うことができなくなる。例えば、車両の操舵を補助する電動パワーステアリング装置において、操舵補助力を発生する電動モータの制御中にオフセット誤差が発生すると、操舵時にトルクリップルが生じて運転者に違和感を与えることがある。
【0004】
このため、下記特許文献1のパワーステアリング装置は、電動モータに流れる電流としてスイッチング素子に流れる電流を検出する電流検出手段と、電流検出手段による検出値を補正する補正手段を備えている。この補正手段は、PWM制御中のスイッチング素子がオフである期間に電流検出手段により検出された電流の検出値に基づいてオフセット補正値を取得し、スイッチング素子がオンである期間に電流検出手段により検出される電流をオフセット補正値で補正する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第4474896号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、スイッチング素子に流れる電流を検出する電流検出器に生じるオフセット電流をPWM制御中に検出しようとすると、オフセット電流を正確に検出できないことがある。
本発明は、上記課題に着目してなされたものであり、多相インバータのスイッチング素子に流れる電流を検出する電流検出器に生じるオフセット電流を、PWM制御中に精度よく検出することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の一態様による電流検出装置は、PWM制御される多相インバータの上側アーム又は下側アームのいずれか一方のアームのスイッチング素子に直列接続される抵抗素子の電圧降下に基づいてスイッチング素子に流れる電流を検出する電流検出部と、PWM制御中にスイッチング素子がオフである期間に電流検出部により検出された電流の検出値に基づいてオフセット補正値を算出し、算出したオフセット補正値を保持及び更新する補正値算出部と、補正値算出部に保持されたオフセット補正値によって、スイッチング素子がオンである期間に電流検出部により検出された電流の検出値を補正する補正部を備える。スイッチング素子が下側アームのスイッチング素子でありPWM制御のデューティ比がデューティ比下限値以下である場合、又はスイッチング素子が上側アームのスイッチング素子でありデューティ比がデューティ比上限値以上である場合に、補正値算出部がオフセット補正値の更新を実施しない。
【0008】
本発明の他の一態様によるモータ制御装置は、スイッチング素子を有する多相インバータと、スイッチング素子に流れる電流を検出する上記の電流検出装置と、電流検出装置による検出電流値に基づいて多相インバータを制御するコントローラを備える。
本発明のさらに他の一態様による電動パワーステアリング装置は、上記のモータ制御装置と、モータ制御装置により制御される多相モータと、を備え、多相モータによって車両の操舵系に操舵補助力を付与する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、多相インバータのスイッチング素子を流れる電流を検出する電流検出器に生じるオフセット電流を、PWM制御中に精度よく検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態の電動パワーステアリング装置の一例の概要を示す構成図である。
図2】電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)の一例の概要を示す構成図である。
図3】電子制御ユニット(ECU)の他の一例の概要を示す構成図である。
図4】電流検出部の構成の一例を示す回路図である。
図5】制御演算部の機能構成の一例のブロック図である。
図6】電流検出値補正部の一例のブロック図である。
図7】(a)は下側アームのスイッチング素子のオン期間とオフ期間を示すタイムチャートであり、(b)は電流検出部の出力値の模式的なタイムチャートであり、(c)はオフセット補正値の模式的なタイムチャートである。
図8】(a)はデューティ比が小さい場合の下側アームのスイッチング素子のオン期間とオフ期間を示すタイムチャートであり、(b)は電流検出部の出力値の模式的なタイムチャートである。
図9】オフセット補正値の設定方法の一例のフローチャートである。
図10】電動パワーステアリング装置の第1変形例の概要を示す構成図である。
図11】電動パワーステアリング装置の第2変形例の概要を示す構成図である。
図12】電動パワーステアリング装置の第3変形例の概要を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下に示す本発明の実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の構成、配置等を下記のものに特定するものではない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0012】
(構成)
図1は、実施形態の電動パワーステアリング(EPS:Electric Power Steering)装置の一例の概要を示す構成図である。ステアリングホイール(操向ハンドル)1の操舵軸(ステアリングシャフト、ハンドル軸)2は、減速機構を構成する減速ギア(ウォームギア)3、ユニバーサルジョイント4a及び4b、ピニオンラック機構5、タイロッド6a、6bを経て、更にハブユニット7a、7bを介して操向車輪8L、8Rに連結されている。
【0013】
ピニオンラック機構5は、ユニバーサルジョイント4bから操舵力が伝達されるピニオンシャフトに連結されたピニオン5aと、このピニオン5aに噛合するラック5bとを有し、ピニオン5aに伝達された回転運動をラック5bで車幅方向の直進運動に変換する。
操舵軸2には操舵トルクThを検出するトルクセンサ10が設けられている。また、操舵軸2には、ステアリングホイール1の操舵角θhを検出する操舵角センサ14が設けられている。
【0014】
また、ステアリングホイール1の操舵力を補助するモータ20は、減速ギア3を介して操舵軸2に連結されている。本明細書では、モータ20が3相モータである場合の例について説明するが、モータ20の相数は3相でなくてもよい。
電動パワーステアリング装置を制御する電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)30には、バッテリ13から電力が供給されるとともに、イグニションスイッチ11を経てイグニションキー信号が入力される。
【0015】
ECU30は、トルクセンサ10で検出された操舵トルクThと、車速センサ12で検出された車速Vhと、操舵角センサ14で検出された操舵角θhに基づいてアシスト制御指令の電流指令値の演算を行い、電流指令値に補償等を施した電圧制御指令値によってモータ20に供給する電流(U相電流I1u、V相電流I1v、W相電流I1w)を制御する。
なお、操舵角センサ14は必須のものではなく、モータ20の回転軸の回転角度を検出する回転角センサ21から得られるモータ回転角θmに、トルクセンサ10のトーションバーの捩れ角を加えて操舵角θhを算出してもよい。
また、操舵角θhに代えて、操向車輪8L、8Rの転舵角を用いてもよい。例えばラック5bの変位量を検出することにより転舵角を検出してもよい。
【0016】
ECU30は、例えば、プロセッサと、記憶装置等の周辺部品とを含むコンピュータを含む。プロセッサは、例えばCPU(Central Processing Unit)、やMPU(Micro-Processing Unit)であってよい。
記憶装置は、半導体記憶装置、磁気記憶装置及び光学記憶装置のいずれかを備えてよい。記憶装置は、レジスタ、キャッシュメモリ、主記憶装置として使用されるROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等のメモリを含んでよい。
以下に説明するECU30の機能は、例えばECU30のプロセッサが、記憶装置に格納されたコンピュータプログラムを実行することにより実現される。
【0017】
なお、ECU30を、以下に説明する各情報処理を実行するための専用のハードウエアにより形成してもよい。
例えば、ECU30は、汎用の半導体集積回路中に設定される機能的な論理回路を含んでいてもよい。例えばECU30はフィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(FPGA:Field-Programmable Gate Array)等のプログラマブル・ロジック・デバイス(PLD:Programmable Logic Device)等を有していてもよい。
【0018】
図2は、実施形態のECU30の一例の概要を示す構成図である。ECU30は、制御演算部31と、ゲート駆動回路32aと、インバータ33aと、モータ回転数演算部34と、電流検出部35a~35cを備える。
制御演算部31は、少なくとも操舵トルクThに基づいて、モータ20の駆動電流の制御目標値である電流指令値を演算し、電流指令値に補償等を施して得られる電圧制御指令値V1u、V1v、V1wを、ゲート駆動回路32aに出力する。電圧制御指令値V1u、V1v、V1wは、それぞれU相コイルのU相電圧制御指令値、V相コイルのV相電圧指令値、W相コイルのW相電圧指令値である。
【0019】
ゲート駆動回路32aは、電圧制御指令値V1u、V1v、V1wに基づいてU相コイル、V相コイル、W相コイルを駆動するPWM信号のデューティ比Du、Dv、Dwを算出する。ゲート駆動回路32aは、算出したデューティ比Du、Dv、Dwに従うPWM信号をインバータ33aに出力する。
インバータ33aは、直流電源Vdcに接続されて直流電力が供給される正極側ラインと接地線との間に接続される3相ブリッジを備える。
【0020】
3相ブリッジは、U相、V相、W相の上側アームのスイッチング素子Q1u1、Q1v1、Q1w1と、U相、V相、W相の下側アームのスイッチング素子Q1u2、Q1v2、Q1w2とがそれぞれ互いに直列接続されたスイッチング素子対を含む。モータ20のU相コイルに供給されるU相電流I1uはスイッチング素子Q1u1及びQ1u2の接続点から供給され、V相コイルに供給されるV相電流I1vはスイッチング素子Q1v1及びQ1v2の接続点から供給され、W相コイルに供給されるW相電流I1wはスイッチング素子Q1w1及びQ1w2の接続点から供給される。
【0021】
U相、V相、W相の下側アームのスイッチング素子Q1u2、Q1v2、Q1w2と接地線との間にはシャント抵抗r1u、r1v、r1wが直列接続される。後述の電流検出部35a~35cは、シャント抵抗r1u、r1v、r1wに生じる電圧降下を検出することにより、下側アームのスイッチング素子Q1u2、Q1v2、Q1w2を流れる電流を検出することができる。
なお、シャント抵抗r1u、r1v、r1wを、U相、V相、W相の上側アームのスイッチング素子Q1u1、Q1v1、Q1w1と正極側ラインとの間に設けてもよく、電流検出部35a~35cは、上側アームのスイッチング素子Q1u1、Q1v1、Q1w1に流れる電流を検出してもよい。
【0022】
モータ回転数演算部34は、回転角センサ21の検出信号に基づいてモータ20のモータ回転角θm(例えばモータ電気角)を演算し制御演算部31に出力する。
電流検出部35a~35cは、シャント抵抗r1u、r1v、r1wに生じる電圧降下に基づいて、下側アームのスイッチング素子Q1u2、Q1v2、Q1w2に流れる電流の検出値I1ud、I1vd、I1wdを出力する。
図4は、電流検出部35aの構成の一例を示す回路図である。電流検出部35aは、シャント抵抗r1uに生じる電圧降下の大きさに応じた電流検出信号を生成する差動増幅回路36と、差動増幅回路36の出力に接続されたローパスフィルタ(LPF)37を含んでいる。電流検出部35b、35cも同様である。なお、図4においてVccは、電源生成回路で生成した所定電圧であり、例えば5[V]であってよい。
【0023】
このような構成の電流検出部35aでは、シャント抵抗r1uに生じる電圧降下がゼロ(すなわちシャント抵抗r1uを流れる電流がゼロ)であっても、電流検出部35aによる検出値がゼロにならない(すなわち検出値がオフセット電流を含む)ことがある。
このようなオフセット電流は、例えば差動増幅回路36の経年劣化や、電流検出部35aの温度変化によって発生する。
【0024】
図3は、実施形態のECU30の他の例の概要を示す構成図である。図3のECU30は、モータ20として2重巻線モータを制御する。2重巻線モータは、同じモータハウジング内に第1系統コイルと第2系統コイルが巻き回されて2つの系統のコイルにより共通のロータを回転させる2重巻線を有する。ECU30は、制御演算部31と、モータ20の第1系統コイルを駆動する第1系統ゲート駆動回路32a及び第1系統インバータ33aと、第2系統コイルを駆動する第2系統ゲート駆動回路32b及び第2系統インバータ33bと、モータ回転数演算部34と、電流検出部35a~35fを備える。図3のモータ回転数演算部34の構成は、図2のモータ回転数演算部34の構成と同様である。
【0025】
制御演算部31は、少なくとも操舵トルクThに基づいて、モータ20の駆動電流の制御目標値である電流指令値を演算し、電流指令値に補償等を施して得られる電圧制御指令値V1u、V1v、V1w、V2u、V2v、V2wを、第1系統ゲート駆動回路32aと第2系統ゲート駆動回路32bとに出力する。電圧制御指令値V1u、V1v、V1wは、それぞれ第1系統コイルのU相電圧制御指令値、V相電圧指令値、W相電圧指令値であり、電圧制御指令値V2u、V2v、V2wは、それぞれ第2系統コイルのU相電圧制御指令値、V相電圧指令値、W相電圧指令値である。
第1系統ゲート駆動回路32aは、電圧制御指令値V1u、V1v、V1wに基づいて第1系統コイルを駆動するPWM信号のU相、V相及びW相のデューティ比Du、Dv、Dwを算出する。第1系統ゲート駆動回路32aは、算出したデューティ比Du、Dv、Dwに従うPWM信号を第1系統インバータ33aに出力する。
図3の第1系統ゲート駆動回路32a、第1系統インバータ33a、及び電流検出部35a~35cの構成は、図2の駆動回路32a、インバータ33a、及び電流検出部35a~35cの構成と同様である。
【0026】
第2系統ゲート駆動回路32bは、電圧制御指令値V2u、V2v、V2wに基づいて第2系統コイルを駆動するPWM信号のU相、V相及びW相のデューティ比Du、Dv、Dwを算出する。第2系統ゲート駆動回路32bは、算出したデューティ比Du、Dv、Dwに従うPWM信号を第2系統インバータ33bに出力する。
第2系統インバータ33bは、直流電源Vdcに接続されて直流電力が供給される正極側ラインと接地線との間に接続される3相ブリッジを備える。
【0027】
3相ブリッジは、U相、V相、W相の上側アームのスイッチング素子Q2u1、Q2v1、Q2w1と、U相、V相、W相の下側アームのスイッチング素子Q2u2、Q2v2、Q2w2とがそれぞれ互いに直列接続されたスイッチング素子対を含む。モータ20の第1系統コイルに供給されるU相電流I2uはスイッチング素子Q2u1及びQ2u2の接続点から供給され、V相電流I2vはスイッチング素子Q2v1及びQ2v2の接続点から供給され、W相電流I2wはスイッチング素子Q2w1及びQ2w2の接続点から供給される。
【0028】
U相、V相、W相の下側アームのスイッチング素子Q2u2、Q2v2、Q2w2と接地線との間にはシャント抵抗r2u、r2v、r2wが直列接続される。後述の電流検出部35d~35fは、シャント抵抗r2u、r2v、r2wに生じる電圧降下を検出することにより、下側アームのスイッチング素子Q2u2、Q2v2、Q2w2を流れる電流を検出することができる。
なお、シャント抵抗r2u、r2v、r2wを、U相、V相、W相の上側アームのスイッチング素子Q2u1、Q2v1、Q2w1と正極側ラインとの間に設けてもよく、電流検出部35d~35fは、上側アームのスイッチング素子Q2u1、Q2v1、Q2w1に流れる電流を検出してもよい。
電流検出部35d~35fは、シャント抵抗r2u、r2v、r2wに生じる電圧降下に基づいて、下側アームのスイッチング素子Q2u2、Q2v2、Q2w2に流れる電流の検出値I2ud、I2vd、I2wdを出力する。電流検出部35d~35fの構成は、図4を参照して説明した電流検出部35aの構成と同様である。
【0029】
図5は、制御演算部31の機能構成の一例のブロック図である。なお、以下の説明では単一系統のインバータ33aを制御する機能構成のみ記載する。図3のように2系統のインバータ33a及び33bを有する構成では、2系統のインバータに対して、以下に説明する機能構成を各々個別に備える。
制御演算部31は、電流指令値演算部40と、減算器41及び42と、電流制限部43と、比例積分(PI:Proportional-Integral)制御部44と、2相/3相変換部45と、電流検出値補正部46a~46cと、3相/2相変換部47と、角速度変換部48を備えており、モータ20をベクトル制御で駆動する。
【0030】
電流指令値演算部40は、操舵トルクThと、車速Vhと、モータ20のモータ回転角θmと、モータ20の回転角速度ωに基づいてモータ20に流すべきq軸電流指令値Iq0及びd軸電流指令値Id0を演算する。
一方で、電流検出部35a~35cによるモータ20のU相電流、V相電流及びW相電流の検出値I1ud、I1vd、I1wdは、電流検出値補正部46a~46cに入力される。
電流検出値補正部46a~46cは、検出値I1ud、I1vd、I1wdからオフセット電流を除去する補正を行うことにより、U相電流I1u、V相電流I1v及びW相電流I1wを算出する。電流検出値補正部46a~46cの構成及び動作については後述する。
【0031】
U相電流I1u、V相電流I1v及びW相電流I1wは、3相/2相変換部47でd-q2軸の電流id、iqに変換される。
減算器41及び42は、フィードバックされた電流iq、idをq軸電流指令値Iq0及びd軸電流指令値Id0からそれぞれ減じることにより、q軸偏差電流Δq0及びd軸偏差電流Δd0を算出する。
電流制限部43は、q軸偏差電流Δq0及びd軸偏差電流Δd0の上限値を制限する。制限後のq軸偏差電流Δq及びd軸偏差電流Δdは、PI制御部44に入力される。
【0032】
PI制御部44は、q軸偏差電流Δq及びd軸偏差電流Δdを各々0とするような電圧指令値vq、vdを算出する。2相/3相変換部45は、電圧指令値vd、vqを、U相電圧制御指令値V1u、V相電圧指令値V1v、W相電圧指令値V1wにそれぞれ変換して、ゲート駆動回路32aに出力する。
角速度変換部48は、モータ回転角θmの時間的変化に基づいてモータ20の回転角速度ωを算出する。これらモータ回転角θm及び回転角速度ωは、電流指令値演算部40に入力されてベクトル制御に使用される。
【0033】
図6は、電流検出値補正部46aの一例のブロック図である。電流検出値補正部46b及び46cも、電流検出値補正部46aと同じ構成を備える。電流検出値補正部46aは、スケール変換部50aと、補正値算出部50bと、減算器50cと、ゲイン補正値記憶部50dと、乗算器50eを備える。
スケール変換部50aは、U相電流を検出する電流検出部35aから出力されてディジタル形式に変換された検出値I1udを電流値に変換する。例えばスケール変換部50aは、所定の係数を乗算することにより検出値I1udを電流値に変換してよい。
【0034】
補正値算出部50bは、ECU30によるPWM制御中において、電流検出部35aに生じるオフセット誤差(すなわちオフセット電流による誤差)を補正するためのオフセット補正値を動的に算出し、算出したオフセット補正値を保持及び更新する。すなわち補正値算出部50bは、PWM制御中においてオフセット誤差を定期的又は随時に算出し、以前算出して保持していたオフセット誤差を新たに算出したオフセット誤差で更新する。
【0035】
補正値算出部50bは、U相の下側アームのスイッチング素子Q1u2がオフである期間に電流検出部35aにより検出された電流の検出値I1udに基づいてオフセット補正値を算出する。例えば、スイッチング素子Q1u2がオフである期間に電流検出部35aにより検出された電流の検出値I1udをオフセット補正値としてよい。
例えば補正値算出部50bは、検出値I1udを収集する所定長の期間(以下「検出値収集期間P」と表記することがある)において、スイッチング素子Q1u2オフである期に電流検出部35aがN回出力した検出値の平均を、オフセット補正値として算出してよい(Nは1以上の自然数)。この場合、補正値算出部50bは、保持しているオフセット補正値を、検出値収集期間P毎に、新しく算出したオフセット補正値で更新する。
【0036】
例えば、検出値収集期間Pの長さを1[sec]秒とし、スイッチング素子Q1u2がオフである期間に補正値算出部50bが電流検出部35aの出力を取得する周期を1[ms]とすると、1000個の検出値の平均を、オフセット補正値として算出してよい。
なお補正値算出部50bは、PWM周期毎に電流検出部35aの出力を取得してもよいし、PWM周期の複数周期毎に取得してもよい。
図7(a)は、スイッチング素子Q1u2のオン期間とオフ期間を示すタイムチャートであり、図7(b)は電流検出部35aの出力値I1udの模式的なタイムチャートであり、図7(c)はオフセット補正値の模式的なタイムチャートである。図7(b)の出力値ION及びIOFFは、それぞれスイッチング素子Q1u2のオン期間における出力値I1udの定常値とオフ期間における出力値I1udの定常値である。
【0037】
補正値算出部50bは、時刻t0から開始し時刻t1で終了する1つの検出値収集期間Pにおいて、サンプリング時刻s1、s2、…sNのそれぞれで電流検出部35aの出力値I1udを取得し、取得したN個の出力値I1udの平均をオフセット補正値として算出してよい。
なお、サンプリング時刻s1、s2、…sNは、例えばスイッチング素子Q1u2のオフ期間POFFの中心の時刻に設定してよい。
【0038】
図8(a)は、U相のデューティ比Duが小さい場合におけるU相の下側アームのスイッチング素子Q1u2のオン期間とオフ期間を示すタイムチャートであり、図8(b)は電流検出部35aの出力値の模式的なタイムチャートである。
図4に示すように、電流検出部35aの出力部にはLPF37が配置されている。このためスイッチング素子Q1u2のスイッチング時には、図7(b)や図8(b)に示すように電流検出部35aの出力値の波形になまりが発生する。
したがって、U相のデューティ比Duが小さい場合には、オフで期間aの検出値I1udを適切にサンプリングできなくことがある。例えば図8(b)に示すサンプリング時刻s1に電流検出部35aの検出値I1udをサンプリングすると、オフ期間における定常値IOFFよりも大きな検出値をサンプリングすることになる。
【0039】
このため補正値算出部50bは、U相のデューティ比Duが下限値Dth(例えば14%)以下である場合にU相のオフセット補正値の更新を停止する(言い換えれば、デューティ比Duが下限値Dth以下である場合にはU相のオフセット補正値の更新を実施しない)。例えば、ある検出値収集期間P中のいずれかの時刻においてU相のデューティ比Duが下限値Dth以下となったことを検出した場合に、補正値算出部50bはデューティ低下検知フラグF1をオフからオンに設定する。検出値収集期間Pが満了時点でデューティ低下検知フラグF1がオンである場合、補正値算出部50bは、検出値収集期間Pにおいて収集した検出値I1udに基づいて算出したオフセット補正値で、現在保持しているU相のオフセット補正値を更新することを停止する(言い換えれば更新を実施しない)。補正値算出部50bは、デューティ比Du、Dv、Dwに関するデューティ情報をゲート駆動回路32aから受信してよい。
同様に、V相の電流検出値補正部46bにおいてもV相のデューティ比Dvが下限値Dt以下である場合にV相のオフセット補正値の更新を停止し(言い換えれば、デューティ比Dvが下限値Dt以下である場合にはV相のオフセット補正値の更新を実施しない)、W相の電流検出値補正部46cにおいてもW相のデューティ比Dwが下限値Dt以下である場合にW相のオフセット補正値の更新を停止する(言い換えれば、デューティ比Dwが下限値Dt以下である場合にはW相のオフセット補正値の更新を実施しない)。
【0040】
また例えば補正値算出部50bは、U相のデューティ比Duが下限値Dthより大きくても、V相のデューティ比Dv又はW相のデューティ比Dwが下限値Dth以下である場合に、U相のオフセット補正値の更新を停止してもよい(言い換えれば、デューティ比Duが下限値Dthより大きくても、デューティ比Dv又はデューティ比Dwが下限値Dth以下である場合にはU相のオフセット補正値の更新を実施しない)。V相やW相のデューティ比Dv、Dwが小さい場合には、補正値算出部50bが電流検出部35aの検出値I1udを取得する時刻と、V相やW相においてスイッチング素子のオンオフが切り替わる時刻が近くなるため、スイッチングによるノイズの影響を避ける虞があるためである。
【0041】
例えば補正値算出部50bは、ある検出値収集期間P中のいずれかの時刻においてデューティ比DvやDwが下限値Dth以下となったことを検出した場合に、補正値算出部50bはデューティ低下検知フラグF1をオフからオンに設定する。検出値収集期間Pが満了時点でデューティ低下検知フラグF1がオンである場合、補正値算出部50bは、検出値収集期間Pにおいて収集した検出値I1udに基づいて算出したオフセット補正値で、現在保持しているU相のオフセット補正値を更新することを停止する(言い換えれば検出値収集期間Pにおいて収集した検出値I1udに基づいて算出したオフセット補正値で、現在保持しているU相のオフセット補正値の更新を実施しない)。
【0042】
同様に、V相の電流検出値補正部46bにおいて、V相のデューティ比Dvが下限値Dthより大きくてもU相やW相のデューティ比Du、Dwが下限値Dt以下である場合にV相のオフセット補正値の更新を停止してよい(言い換えれば、デューティ比Dvが下限値Dthより大きくてもデューティ比Du、Dwが下限値Dt以下である場合にはV相のオフセット補正値の更新を実施しない)。また、W相の電流検出値補正部46cにおいて、W相のデューティ比Dwが下限値Dtより大きくても、U相やV相のデューティ比Du、Dvが下限値Dt以下である場合にW相のオフセット補正値の更新を停止してよい(言い換えれば、デューティ比Dwが下限値Dtより大きくても、デューティ比Du、Dvが下限値Dt以下である場合にはW相のオフセット補正値の更新を実施しない)。
なお、シャント抵抗r1u、r1v、r1wを、U相、V相、W相の上側アームのスイッチング素子と正極側ラインとの間に設けた場合には、デューティ比が上限値以上である場合にオフセット補正値の更新を停止する(言い換えれば、デューティ比が上限値以上である場合にオフセット補正値の更新を実施しない)。
【0043】
また、補正値算出部50bは、スイッチング素子Q1u2がオフである期間に電流検出部35aにより検出された電流の検出値I1udが上限値Ithを超える場合に、検出値I1udによるU相のオフセット補正値の更新を禁止してもよい(言い換えれば、検出値I1udが上限値Ithを超える場合には検出値I1udによってU相のオフセット補正値を更新しない)。上限値Ithは、例えば、オフセット電流として発生することが想定し得ない大きさ(例えば1アンペア)に適宜設定してよい。
例えば補正値算出部50bは、ある検出値収集期間P中のいずれかの時刻において検出値I1udが上限値Ithを超えることを検出した場合に、U相異常値検出フラグF2uをオフからオンに設定する。検出値収集期間Pが満了時点でU相異常値検出フラグF2uがオンである場合、補正値算出部50bは、検出値収集期間Pにおいて収集した検出値I1udに基づいて算出したオフセット補正値で、現在保持しているU相のオフセット補正値を更新することを停止する(言い換えれば検出値収集期間Pにおいて収集した検出値I1udに基づいて算出したオフセット補正値で、現在保持しているU相のオフセット補正値を更新しない)。
【0044】
なお、補正値算出部50bは、V相のスイッチング素子Q1v2がオフである期間に電流検出部35bにより検出された電流の検出値I1vdが上限値Ithを超える場合や、W相のスイッチング素子Q1w2がオフである期間に電流検出部35cにより検出された電流の検出値I1wdが上限値Ithを超える場合であっても、U相のオフセット補正値の更新を禁止しなくてもよい(言い換えれば、検出値I1vdが上限値Ithを超える場合や検出値I1wdが上限値Ithを超える場合であってもU相のオフセット補正値を更新してよい)。V相やW相で異常値が検出されても、U相で異常値が検出されなければオフセット補正値の算出に支障はないからである。
【0045】
同様に、V相の電流検出値補正部46bにおいて、電流検出部35bの検出値I1vdが上限値Ithを超えることを検出した場合に、V相異常値検出フラグF2vをオフからオンに設定し、上限値Ithを超える検出値I1vdによるV相のオフセット補正値の更新を禁止してもよい(言い換えれば、上限値Ithを超える検出値I1vdによってV相のオフセット補正値を更新しない)。また、W相の電流検出値補正部46cにおいて、電流検出部35cの検出値I1wdが上限値Ithを超えることを検出した場合に、W相異常値検出フラグF2wをオフからオンに設定し、上限値Ithを超える検出値I1wdによるW相のオフセット補正値の更新を禁止してもよい(言い換えれば、上限値Ithを超える検出値I1wdによってW相のオフセット補正値を更新しない)。
【0046】
図6を参照する。減算器50cは、スイッチング素子Q1u2がオンである期間に電流検出部35aにより検出された電流の検出値I1udから、補正値算出部50bに保持されているオフセット補正値を減算することにより検出値I1udを補正する。
乗算器50eは、ゲイン補正値記憶部50dに記憶されている所定のゲインを、補正値算出部50bによる減算結果に乗算して得られた積を、補正後のU相電流I1uとして出力する。
【0047】
図9は、電流検出値補正部46a~46cにおけるオフセット補正値の設定方法の一例のフローチャートである。なお、以下のフローチャートの説明において、第1系統のU相の電流検出部35aの検出値I1udと第2系統のU相の電流検出部35dの検出値I2udを「検出値Iud」と総称し、第1系統のV相の電流検出部35bの検出値I1vdと第2系統のV相の電流検出部35eの検出値I2vdを「検出値Ivd」と総称し、第1系統のW相の電流検出部35cの検出値I1wdと第2系統のW相の電流検出部35fの検出値I2wdを「検出値Iwd」と総称する。
【0048】
ステップS1においてデューティ低下検知フラグF1、U相異常値検出フラグF2u、V相異常値検出フラグF2v、W相異常値検出フラグF2wをオフに設定する。またカウント変数CNTの値を0に初期化する。
ステップS2においてU相の検出値Iudを検出する。
ステップS3においてU相のデューティ比Duが下限値Dth以下であるか否かを判定する。U相のデューティ比Duが下限値Dth以下である場合(ステップS3:Y)に処理はステップS4へ進む。U相のデューティ比Duが下限値Dth以下でない場合(ステップS3:N)に処理はステップS5へ進む。
【0049】
ステップS4においてデューティ低下検知フラグF1をオンに設定する。その後に処理はステップS5へ進む。
ステップS5においてU相の検出値Iudが上限値Ithを超えるか否かを判定する。U相の検出値Iudが上限値Ithを超える場合(ステップS5:Y)に処理はステップS6へ進む。U相の検出値Iudが上限値Ithを超えない場合(ステップS5:N)に処理はステップS7へ進む。
ステップS6においてU相異常値検出フラグF2uをオンに設定する。その後に処理はステップS7へ進む。
【0050】
ステップS7においてV相の検出値Ivdを検出する。
ステップS8においてV相のデューティ比Dvが下限値Dth以下であるか否かを判定する。V相のデューティ比Dvが下限値Dth以下である場合(ステップS8:Y)に処理はステップS9へ進む。V相のデューティ比Dvが下限値Dth以下でない場合(ステップS8:N)に処理はステップS10へ進む。
ステップS9においてデューティ低下検知フラグF1をオンに設定する。その後に処理はステップS10へ進む。
【0051】
ステップS10においてV相の検出値Ivdが上限値Ithを超えるか否かを判定する。V相の検出値Ivdが上限値Ithを超える場合(ステップS10:Y)に処理はステップS11へ進む。V相の検出値Ivdが上限値Ithを超えない場合(ステップS10:N)に処理はステップS12へ進む。
ステップS11においてV相異常値検出フラグF2vをオンに設定する。その後に処理はステップS12へ進む。
【0052】
ステップS12においてW相の検出値Iwdを検出する。
ステップS13においてW相のデューティ比Dwが下限値Dth以下であるか否かを判定する。W相のデューティ比Dwが下限値Dth以下である場合(ステップS13:Y)に処理はステップS14へ進む。W相のデューティ比Dwが下限値Dth以下でない場合(ステップS13:N)に処理はステップS15へ進む。
ステップS14においてデューティ低下検知フラグF1をオンに設定する。その後に処理はステップS15へ進む。
【0053】
ステップS15においてW相の検出値Iwdが上限値Ithを超えるか否かを判定する。W相の検出値Iwdが上限値Ithを超える場合(ステップS15:Y)に処理はステップS16へ進む。W相の検出値Iwdが上限値Ithを超えない場合(ステップS15:N)に処理はステップS17へ進む。
ステップS16においてW相異常値検出フラグF2wをオンに設定する。その後に処理はステップS17へ進む。
【0054】
ステップS17においてカウント変数CNTがN以上であるか否かを判定する。カウント変数CNTがN以上である場合(ステップS17:Y)に1つの検出値収集期間Pが満了したと判断して処理はステップS19へ進む。カウント変数CNTがN以上でない場合(ステップS17:N)に処理はステップS18へ進む。
ステップS18においてカウント変数CNTの値を1つ増加させ、処理はステップS2へ戻る。
【0055】
ステップS19においてデューティ低下検知フラグF1がオンであるか否かを判定する。デューティ低下検知フラグF1がオンである場合(ステップS19:Y)に処理はステップS26へ進む。この場合はU相のオフセット補正値も、V相のオフセット補正値も、W相のオフセット補正値も更新されなくなる。
デューティ低下検知フラグF1がオンでない場合(ステップS19:N)に処理はステップS20へ進む。
【0056】
ステップS20においてU相異常値検出フラグF2uがオンであるか否かを判定する。U相異常値検出フラグF2uがオンである場合(ステップS20:Y)に処理はステップS22へ進む。この場合はU相のオフセット補正値が更新されなくなる。U相異常値検出フラグF2uがオンでない場合(ステップS20:N)に処理はステップS21へ進む。
ステップS21において新たなU相のオフセット補正値が算出されて、現在保持されていたオフセット補正値が更新される。その後に処理はステップS22へ進む。
【0057】
ステップS22においてV相異常値検出フラグF2vがオンであるか否かを判定する。V相異常値検出フラグF2vがオンである場合(ステップS22:Y)に処理はステップS24へ進む。この場合はV相のオフセット補正値が更新されなくなる。V相異常値検出フラグF2vがオンでない場合(ステップS22:N)に処理はステップS23へ進む。
ステップS23において新たなV相のオフセット補正値が算出されて、現在保持されていたオフセット補正値が更新される。その後に処理はステップS24へ進む。
【0058】
ステップS24においてW相異常値検出フラグF2wがオンであるか否かを判定する。W相異常値検出フラグF2wがオンである場合(ステップS24:Y)に処理はステップS26へ進む。この場合はW相のオフセット補正値が更新されなくなる。W相異常値検出フラグF2wがオンでない場合(ステップS24:N)に処理はステップS25へ進む。
ステップS25において新たなW相のオフセット補正値が算出されて、現在保持されていたオフセット補正値が更新される。その後に処理はステップS26へ進む。
ステップS26においてイグニションスイッチ11がオフになったか否かを判定する。イグニションスイッチ11がオフになった場合(ステップS26:Y)に処理は終了する。イグニションスイッチ11がオフでない場合(ステップS26:N)に処理はステップS1に戻る。
【0059】
(変形例)
以上の説明では、本発明の回転角検出装置を、いわゆる上流アシスト方式と呼ばれるコラムアシスト方式の電動パワーステアリング装置に適用する例について記載したが、本発明の回転角検出装置は、いわゆる下流アシスト方式の電動パワーステアリング装置に適用してもよい。以下、下流アシスト方式の電動パワーステアリング装置の例として、シングルピニオンアシスト方式、ラックアシスト方式、デュアルピニオンアシスト方式の電動パワーステアリング装置に、本発明の回転角検出装置を適用する構成例を説明する。
なお、下流アシスト方式の場合には、防水対策のためモータ20、回転角センサ21、ECU30は別体ではなく、図10図12の破線で示すように一体構造のMCU(Motor Control Unit)としてよい。
【0060】
図10は、シングルピニオンアシスト方式の電動パワーステアリング装置に、本発明の回転角検出装置を適用する構成例を示す。ステアリングホイール1は、操舵軸2を経て、インターミディエイトシャフトの一方のユニバーサルジョイント4aと連結されている。また、他方のユニバーサルジョイント4bには、トーションバー(図示せず)の入力側シャフト4cが連結されている。
ピニオンラック機構5は、ピニオンギア(ピニオン)5a、ラックバー(ラック)5b及びピニオン軸5cを備える。入力側シャフト4cとピニオンラック機構5とは、入力側シャフト4cとピニオンラック機構5との間の回転角のずれによってねじれるトーションバー(図示せず)によって連結されている。トルクセンサ10は、トーションバーのねじれ角を、ステアリングホイール1の操舵トルクThとして電磁気的に測定する。
ピニオン軸5cには、ステアリングホイール1の操舵力を補助するモータ20が減速ギア3を介して連結されており、回転角センサ21は、上記実施形態と同様にモータ20のモータ回転軸の回転角情報を算出する。
【0061】
図11は、ラックアシスト方式の電動パワーステアリング装置に、本発明の回転角検出装置を適用する構成例を示す。ラックバー5bの外周面には螺旋溝(図示せず)が形成され、これと同様のリードの螺旋溝(図示せず)がナット51の内周面にも形成されている。これら螺旋溝によって形成される転動路に複数の転動体が配置されることによりボールネジが形成されている。
ステアリングホイール1の操舵力を補助するモータ20の回転軸20aに連結する駆動プーリ52と、ナット51に連結する従動プーリ53にはベルト54が巻きかけられており、回転軸20aの回転運動がラックバー5bの直進運動に変換される。回転角センサ21は、上記実施形態と同様にモータ20のモータ回転軸の回転角情報を算出する。
【0062】
図12は、デュアルピニオンアシスト方式の電動パワーステアリング装置に、本発明の回転角検出装置を適用する構成例を示す。デュアルピニオンアシスト方式の電動パワーステアリング装置は、ピニオン軸5c、ピニオンギア5aに加えて、第2ピニオン軸55、第2ピニオンギア56を有し、ラックバー5bは、ピニオンギア5aと噛合する第1ラック歯(図示せず)と、第2ピニオンギア56と噛合する第2ラック歯(図示せず)を有する。
第2ピニオン軸55には、ステアリングホイール1の操舵力を補助するモータ20が減速ギア3を介して連結されており、回転角センサ21は、上記実施形態と同様にモータ20のモータ回転軸の回転角情報を算出する。
【0063】
(実施形態の効果)
(1)ECU30は、PWM制御される多相インバータの上側アーム又は下側アームのいずれか一方のアームのスイッチング素子に直列接続される抵抗素子の電圧降下に基づいてスイッチング素子に流れる電流を検出する電流検出部35a~35fと、PWM制御中にスイッチング素子がオフである期間に電流検出部35a~35fにより検出された電流の検出値に基づいてオフセット補正値を算出し、算出したオフセット補正値を保持及び更新する補正値算出部50bと、補正値算出部50bに保持されたオフセット補正値によって、スイッチング素子がオンである期間に電流検出部35a~35fにより検出された電流の検出値を補正する補正部50cと、を備える。上記のいずれか一方のスイッチング素子が下側アームのスイッチング素子でありPWM制御のデューティ比がデューティ比下限値以下である場合、又は上記のいずれか一方のスイッチング素子が上側アームのスイッチング素子でありデューティ比がデューティ比上限値以上である場合に、補正値算出部50bがオフセット補正値の更新を実施しない。
【0064】
これにより、デューティ比が小さい場合に下側アームのスイッチング素子がオフである期間に電流検出部35a~35fの検出値が適切にサンプリングできずにオフセット電流の検出精度が低下するのを回避できる。または、デューティ比が大きい場合に上側アームのスイッチング素子がオフである期間に電流検出部35a~35fの検出値が適切にサンプリングできずにオフセット電流の検出精度が低下するのを回避できる。この結果、多相インバータのスイッチング素子に流れる電流を検出する電流検出器に生じるオフセット電流を、PWM制御中に精度よく検出できる。
【0065】
(2)上記のいずれか一方のスイッチング素子が下側アームのスイッチング素子であり多相インバータの少なくとも1相においてデューティ比がデューティ比下限値以下である場合、又は上記のいずれか一方のスイッチング素子が上側アームのスイッチング素子であり多相インバータの少なくとも1相においてデューティ比がデューティ比上限値以上である場合に、多相インバータの他の相におけるオフセット補正値の更新を実施しなくてもよい。
これにより、他の相におけるオフセット補正値の算出時にスイッチング素子のスイッチングによるノイズの影響を避けることができる。
【0066】
(3)補正値算出部50bは、スイッチング素子がオフである所定長の期間に電流検出部35a~35fにより検出された電流の検出値の平均をオフセット補正値として算出してもよい。
これにより、電流検出部35a~35fの検出値の微小なノイズを除去できる。
【0067】
(4)補正値算出部50bは、スイッチング素子がオフである期間に電流検出部35a~35fにより検出された電流の検出値が上限値を超える場合に、上限値を超える検出値によるオフセット補正値を更新しなくてもよい。
これにより、電流検出部35a~35fの異常な検出値によりオフセット電流の検出精度が低下するのを回避できる。
【0068】
(5)多相インバータのいずれかの相においてスイッチング素子がオフである期間に電流検出部35a~35fにより検出された電流の検出値が上限値を超え、且つ多相インバータの他の相においてスイッチング素子がオフである期間に電流検出部35a~35fにより検出された電流の検出値が上限値を超えない場合に、他の相におけるオフセット補正値を更新してもよい。
ある相で異常値が検出されても、他の相で異常値が検出されなければオフセット補正値の算出に支障はない。このため、他の相におけるオフセット補正値の更新を禁止しないことにより、必要な範囲でオフセット補正値の更新を禁止できる。
【符号の説明】
【0069】
1…ステアリングホイール、2…操舵軸、3…減速ギア、4a、4b…ユニバーサルジョイント、4c…入力側シャフト、5…ピニオンラック機構、5a…ピニオン、5b…ラック、5c…ピニオン軸、6a、6b…タイロッド、7、7b…ハブユニット、8L、8R…操向車輪、10…トルクセンサ、11…イグニションスイッチ、12…車速センサ、13…バッテリ、14…操舵角センサ、20…モータ、20a…回転軸、21…回転角センサ、30…電子制御ユニット、31…制御演算部、32a…第1系統ゲート駆動回路、32b…第2系統ゲート駆動回路、33a…第1系統インバータ、33b…第2系統インバータ、34…モータ回転数演算部、35a~35f…電流検出部、36…差動増幅回路、37…ローパスフィルタ(LPF)、40…電流指令値演算部、41、42、50c…減算器、43…電流制限部、44…比例積分制御部、45…2相/3相変換部、46a~46c…電流検出値補正部、47…3相/2相変換部、48…角速度変換部、50a…スケール変換部、50b…補正値算出部、50c…補正部、50d…ゲイン補正値記憶部、50e…乗算器、51…ナット、52…駆動プーリ、53…従動プーリ、54…ベルト、55…第2ピニオン軸、56…第2ピニオンギア
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