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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-26
(45)【発行日】2024-10-04
(54)【発明の名称】光変調器
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/025 20060101AFI20240927BHJP
【FI】
G02F1/025
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2024520553
(86)(22)【出願日】2023-12-01
(86)【国際出願番号】 JP2023043047
【審査請求日】2024-04-03
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002941
【氏名又は名称】弁理士法人ぱるも特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山路 和樹
【審査官】林 祥恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-115726(JP,A)
【文献】国際公開第2022/269773(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/029767(WO,A1)
【文献】特開2015-115395(JP,A)
【文献】国際公開第2010/038871(WO,A1)
【文献】特開2019-056881(JP,A)
【文献】特開2023-070255(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0341496(US,A1)
【文献】国際公開第2005/071807(WO,A1)
【文献】国際公開第2022/138845(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第111562688(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/00-1/125
G02F 1/21-1/39
G02B 6/12-6/14
H01S 5/00-5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板の端部に設けられ、外部から光が入射する光入力部と、
前記基板上に設けられ、前記光入力部と光導波路を介して接続され、入射した光の位相を変調する複数の位相変調器と、
前記基板上に設けられ、前記複数の位相変調器と前記光導波路を介してそれぞれ接続され、前記位相変調器から出射した光の位相を調整する複数の位相調整器と、
前記基板の端部に設けられ、前記複数の位相調整器から出力された光を、前記光導波路を介して外部に出射する光出力部と、
前記基板の端部に沿って配置された複数の信号電極パッドと、
前記複数の信号電極パッドと前記位相調整器とを電気的に接続し、前記光導波路と交差する交差部を有する信号配線路と、を備え、
前記光導波路は、前記基板上に形成された導電層と、絶縁層と、第1クラッド層と、光導波層と、第2クラッド層とからなり、
前記交差部において、前記導電層と信号配線路用導電層が埋込層を介して交差することを特徴とする光変調器。
【請求項2】
前記埋込層は、絶縁性半導体層からなることを特徴とする請求項1に記載の光変調器。
【請求項3】
前記埋込層はp型半導体層からなり、前記導電層はn型半導体層からなることを特徴とする請求項1に記載の光変調器。
【請求項4】
前記信号配線路用導電層の端部と前記信号配線路の端部が電気的に接続されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の光変調器。
【請求項5】
前記信号配線路用導電層は前記信号配線路の一部であり、前記導電層及び前記信号配線路は高濃度のn型半導体層からなることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の光変調器。
【請求項6】
少なくとも前記光導波路及び前記信号配線路が表面保護膜で被覆されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の光変調器。
【請求項7】
前記複数の位相調整器はそれぞれ第1位相調整器及び前記第1位相調整器に前記光導波路を介して接続される第2位相調整器からなることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の光変調器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光変調器に関する。
【背景技術】
【0002】
スマートフォンに代表される移動体通信端末の普及、クラウドサービスの拡張によるデータサービスの多様化などにより、近年、通信トラフィックは急速に増大している。これにともない、さらなる光通信システムの高速化及び大容量化が要求されている。
【0003】
光通信システムの高速化及び大容量化の要求に対応するために、光ファイバ中を強度及び位相の両方を変調した光信号が偏波多重されて伝送されるデジタルコヒーレント通信技術を用いた多値化技術が進展している。多値光変調器においては、光の振幅及び位相をそれぞれ制御でき、ゼロチャープの光変調信号が生成可能なマッハツェンダ型光変調器が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2022/138845号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
マッハツェンダ型光変調器では、単一の基板上に、多数の部品が光導波路及び信号配線路を介して相互に接続されている。したがって、光導波路と信号配線路が交差する部分が不可避的に発生する。
【0006】
かかる交差部では、光導波路の上方側で交差する信号配線路から下方側の光導波路に、信号配線路を流れる信号電流に起因して発生する電界がかかる。交差部の光導波路を伝搬する光の位相は、電界の影響を受けて、わずかではあるが変化する。つまり、信号配線路で発生する電界は光導波路を伝搬する光の位相を意図せずに変調する。また、信号配線路に起因して発生する応力が光導波路にかかることによっても、光導波路を伝搬する光の位相が意図せずに変調する。
【0007】
交差部において、信号配線路に起因する電界及び応力の影響によって、交差する光導波路内で信号光の位相変調が発生する。光導波路を伝搬する信号光に対する交差部での意図しない位相変調は雑音となり、光変調動作を擾乱するおそれがある。このような交差部において発生する意図しない位相変調は、擾乱変調と呼ばれる。
【0008】
特許文献1に記載の光導波路素子では、光導波路と信号電極(信号配線路)の交差部において、中間層の層厚を厚くすることにより、光導波路にかかる電界を低減している。この結果、凸部光導波路と電気信号を伝搬する信号電極(信号配線路)との交差部における擾乱変調の発生を効果的に抑制する。
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載の光導波路素子における凸部光導波路と信号電極の交差部の構成では、凸部光導波路にかかる電界は低減されるものの応力はむしろ増大する。この結果、信号光が導波する凸部光導波層の屈折率の本来の数値からのずれが依然として発生するため、光導波路素子の光学特性、具体的には光変調特性に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0010】
本開示は上記のような問題点を解消するためになされたもので、光導波路と信号配線路の交差部において光導波層にかかる電界及び応力が緩和され、光変調特性に優れた光変調器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示に係る光変調器は、
基板と、
前記基板の端部に設けられ、外部から光が入射する光入力部と、
前記基板上に設けられ、前記光入力部と光導波路を介して接続され、入射した光の位相を変調する複数の位相変調器と、
前記基板上に設けられ、前記複数の位相変調器と前記光導波路を介してそれぞれ接続され、前記位相変調器から出射した光の位相を調整する複数の位相調整器と、
前記基板の端部に設けられ、前記複数の位相調整器から出力された光を、前記光導波路を介して外部に出射する光出力部と、
前記基板の端部に沿って配置された複数の信号電極パッドと、
前記複数の信号電極パッドと前記位相調整器とを電気的に接続し、前記光導波路と交差する交差部を有する信号配線路と、を備え、
前記光導波路は、前記基板上に形成された導電層と、絶縁層と、第1クラッド層と、光導波層と、第2クラッド層とからなり、
前記交差部において、前記導電層と信号配線路用導電層が埋込層を介して交差することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本開示に係る光変調器によれば、信号配線路の交差部分を半導体材料によって構成し、かつ光導波路の下方側に設けたので、光導波路と信号配線路の交差部において光導波層にかかる電界及び応力が緩和されるため、光変調特性に優れた光変調器を得ることができる効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施の形態1から4に係る光変調器の上面図である。
図2】実施の形態1に係る光変調器において、光導波路と信号配線路が交差する交差部の概観図である。
図3】実施の形態1に係る光変調器の一部を構成する光導波路において、光の伝搬方向に垂直な方向の光導波路の断面図である。
図4】実施の形態1に係る光変調器の一部を構成する光導波路において、交差部における光の伝搬方向に垂直な方向の光導波路の断面図である。
図5】実施の形態1に係る光変調器の一部を構成する光導波路において、交差部における光の伝搬方向に沿った光導波路の断面図である。
図6】比較例である光変調器において、光導波路と信号配線路が交差する交差部の概観図である。
図7】比較例である光変調器の一部を構成する光導波路において、光の伝搬方向に垂直な方向の光導波路の断面図である。
図8】比較例である光変調器において、交差部における光の伝搬方向に垂直な方向の光導波路の断面図である。
図9】実施の形態2に係る光変調器において、光導波路と信号配線路が交差する交差部の概観図である。
図10】実施の形態2に係る光変調器の一部を構成する光導波路において、交差部における光の伝搬方向に垂直な方向の光導波路の断面図である。
図11】実施の形態2に係る光変調器の一部を構成する光導波路において、交差部における光の伝搬方向に沿った光導波路の断面図である。
図12】実施の形態3に係る光変調器において、光導波路と信号配線路が交差する交差部の概観図である。
図13】実施の形態3に係る光変調器の一部を構成する光導波路において、交差部における光の伝搬方向に垂直な方向の光導波路の断面図である。
図14】実施の形態3に係る光変調器の一部を構成する光導波路において、交差部における光の伝搬方向に沿った光導波路の断面図である。
図15】実施の形態4に係る光変調器において、光導波路と信号配線路が交差する交差部の概観図である。
図16】実施の形態4に係る光変調器の一部を構成する光導波路において、交差部における光の伝搬方向に垂直な方向の光導波路の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
実施の形態1.
<実施の形態1に係る光変調器の構成>
図1は、実施の形態1に係る光変調器500の上面図である。
実施の形態1に係る光変調器500は、Feドープ半絶縁性InP基板1と、Feドープ半絶縁性InP基板1の端部に設けられ、外部から光が入射する光入力部2と、光入力部2と光導波路10を介して接続され、入射した光を位相変調する8つの位相変調器20と、8つの位相変調器20と光導波路10を介してそれぞれ接続され位相変調器20から出射した光の位相を調整する8つの第1位相調整器30と、8つの第1位相調整器30と光導波路10を介してそれぞれ接続され8つの第1位相調整器30から出射した光の位相をさらに調整する4つの第2位相調整器40と、Feドープ半絶縁性InP基板1の端部に設けられ4つの第2位相調整器40から出力された光を光導波路10を介して外部に出射する2つの光出力部3と、Feドープ半絶縁性InP基板1の端部に沿って配置された複数の信号電極パッド50と、複数の信号電極パッド50と第1位相調整器30及び第2位相調整器40とを電気的に接続し、光導波路10と交差する交差部70を有する信号配線路60と、を備える。
【0015】
位相変調器20は、2つの位相変調器が一対のペアとなってそれぞれマッハツェンダ型位相変調器を構成する。図1に示す光変調器500の一例では、位相変調器20は、XIチャネルに対応する第1マッハツェンダ型位相変調器と、XQチャネルに対応する第2マッハツェンダ型位相変調器と、YIチャネルに対応する第3マッハツェンダ型位相変調器と、YQチャネルに対応する第4マッハツェンダ型位相変調器と、で構成される。
【0016】
図2は、実施の形態1に係る光変調器500における、光導波路10と信号配線路60が交差する交差部70の概観図である。図3は、実施の形態1に係る光変調器500の一部を構成する光導波路10において、光の伝搬方向に垂直な方向の光導波路10の断面図である。図4は、実施の形態1に係る光変調器500の一部を構成する光導波路10において、交差部70における光の伝搬方向に垂直な方向の光導波路10の断面図である。図5は、実施の形態1に係る光変調器500の一部を構成する光導波路10において、交差部70における光の伝搬方向に沿った光導波路10の断面図である。なお、図2では、説明の便宜上、表面保護膜61は省略している。
【0017】
光導波路10は、Feドープ半絶縁性InP基板1に形成されたn型InP導電層110と、Feドープ半絶縁性InP絶縁層120と、n型InP第1クラッド層130と、i型InGaAsP-MQW(Multi Quantum Well:多重量子井戸)光導波層140と、p型InP第2クラッド層150と、を備える。Feドープ半絶縁性InP基板1の表面が露出した部分、及び光導波路10の表面及び両側面は、表面保護膜61で覆われている。表面保護膜61の一例としてSiO2膜が挙げられる。しかしながら、表面保護膜61はSiO2膜以外でも良く、例えば、SiN膜でも良い。
【0018】
なお、n型InP導電層110は導電層の一例であり、また、Feドープ半絶縁性InP絶縁層120は絶縁層の一例であり、他の半導体材料からなる導電層、絶縁層であっても良い。また、n型InP導電層110を構成するn型InP層は、n型半導体層の一例であり、他のn型半導体層で構成されても良い。
【0019】
光の伝搬方向に垂直な方向における光導波路10の断面形状は、図3に示すように、メサ形状を呈している。半導体基板の一例として、Feドープ半絶縁性InP基板を挙げたが、半導体基板は、Feドープ半絶縁性InP基板以外であっても良い。さらには、半導体材料以外の材料からなる基板であっても良い。
【0020】
<実施の形態1に係る光変調器の交差部の構成>
図2及び図5に示すように、交差部70では、光導波路10のn型InP導電層110と、交差部70に特化して設けられたn型InP信号配線路用導電層200が、n型InP導電層110とn型InP信号配線路用導電層200とを電気的に絶縁するために設けられたFeドープ半絶縁性InP絶縁性埋込層210を介して交差する。
【0021】
n型InP信号配線路用導電層200は、光導波路10と重複する部位、及び、光導波路10の両側面側に延在する部位を有する。n型InP信号配線路用導電層200の端部、つまり、光導波路10の両側面側に延在する部位の端部と信号配線路60の端部とは、電気的に接続されている。信号配線路60を構成する金属膜の一例として、チタン(Ti)と金(Au)の2層からなる金属膜が挙げられる。
【0022】
信号配線路用導電層と信号配線路60とを電気的に接続する構造として、例えば、n型InP信号配線路用導電層200の端部において信号配線路60に対向する側面及び先端部から予め設定された距離までn型InP信号配線路用導電層200の表面上に、信号配線路60を構成する金属膜を形成する構造が挙げられる。なお、n型InP信号配線路用導電層200の表面上を延在する金属膜からなる信号配線路60は、光導波路10側のFeドープ半絶縁性InP絶縁層120には接触しないように形成される。
【0023】
図2及び図5に示すように、n型InP信号配線路用導電層200の両側面にはFeドープ半絶縁性InP絶縁性埋込層210が設けられている。つまり、交差部70において、導電層であるn型InP導電層110とn型InP信号配線路用導電層200が、埋込層であるFeドープ半絶縁性InP絶縁性埋込層210を介して交差している。なお、Feドープ半絶縁性InP絶縁性埋込層210は、絶縁性半導体層の一例であり、他の半導体材料からなる埋込層であっても良い。
【0024】
また、光導波路10と交差するn型InP信号配線路用導電層200の上方側には、Feドープ半絶縁性InP絶縁層120が設けられているため、n型InP信号配線路用導電層200は、n型InP導電層110及びn型InP第1クラッド層130とは電気的に絶縁されている。したがって、信号配線路60からn型InP信号配線路用導電層200に流れる信号電流は、光導波路10を構成するn型InP導電層110及びn型InP第1クラッド層130の側には流れない。
【0025】
<実施の形態1に係る光変調器の動作>
実施の形態1に係る光変調器500の動作について、以下に説明する。
光変調器500の外部から光入力部2に入射した光は、光導波路10によって導波及び分岐され、8つの位相変調器20、すなわち4組のマッハツェンダ型位相変調器にそれぞれ入射して、位相変調器20によって光の位相が変調される。
【0026】
位相変調された光は、光導波路10を介して8つの第1位相調整器30に入射する。第1位相調整器では、信号電極パッド50に入力した信号電流が信号配線路60を流れ、さらに信号配線路60と電気的に接続された第1位相調整器30に流れることにより、入射した光の位相調整が行われる。
【0027】
第1位相調整器30によって位相が調整された光は、光導波路10を介して4つの第2位相調整器40にそれぞれ入射する。第2位相調整器40では、信号電極パッド50に入力された信号電流が信号配線路60を流れ、さらに信号配線路60と電気的に接続された第2位相調整器40に流れることにより、入射した光を再度、位相調整する。
【0028】
第2位相調整器40によって再度、位相調整された光は、光導波路10を介して2つの光出力部3から、光変調器500の外部に出力される。
以上が、実施の形態1に係る光変調器500の動作の概要である。
【0029】
<実施の形態1に係る光変調器の作用及び効果>
実施の形態1に係る光変調器500の作用及び効果を説明する前に、比較例の光変調器550における、光導波路10aと信号配線路60aが交差する交差部70aについて、以下に説明する。
【0030】
図6は、比較例である光変調器550において、光導波路10aと信号配線路60aが交差する交差部70aの概観図である。図7は、比較例である光変調器550の一部を構成する光導波路10aにおいて、光の伝搬方向に垂直な方向の光導波路10aの断面図である。図8は、比較例である光変調器550において、交差部70aにおける光の伝搬方向に垂直な方向の光導波路10aの断面図である。
【0031】
比較例である光変調器550の光導波路10aは、図7に示すように、Feドープ半絶縁性InP基板1aに形成されたn型InP第1クラッド層130aと、i型InGaAsP-MQW光導波層140aと、p型InP第2クラッド層150aと、を備える。Feドープ半絶縁性InP基板1aの表面が露出した部分、及び光導波路10aの表面及び両側面は、表面保護膜61aで覆われている。光の伝搬方向に垂直な方向における光導波路10aの断面形状は、図7に示すように、メサ形状を呈している。
【0032】
比較例である光変調器550の光導波路10aは、図6及び図8に示すように、光導波路10aと信号配線路60aが交差する交差部70aでは、光導波路10aの上方側及び両側面に信号配線路60aが形成されている。すなわち、信号配線路60aが光導波路10aを跨ぐ状態で形成されている。
【0033】
上述したように、このような交差部70aでは、光導波路10aの上方側で交差する信号配線路60aから下方側の光導波路10aのi型InGaAsP-MQW光導波層140aに、信号配線路60aから発生する電界及び応力の両方がかかる。i型InGaAsP-MQW光導波層140aに電界がかかるのは、信号配線路60aとn型InP第1クラッド層130aの間に電位差が発生するが、i型InGaAsP-MQW光導波層140aは、信号配線路60aとn型InP第1クラッド層130aの間に位置しているため、両者の電位差により発生した電界がかかるからである。
【0034】
交差部70aの光導波路10aを伝搬する光の位相は、電界及び応力の影響を受けて、わずかではあるが意図せずに変化する。つまり、i型InGaAsP-MQW光導波層140aにかかる電界及び応力は、光導波路10aを伝搬する光の位相を意図せずに変調する。
【0035】
交差部70aにおいて、信号配線路60aに起因する電界及び応力の影響によって、交差する光導波路10a内で信号光の位相変調が発生する。光導波路10aを伝搬する信号光に対する交差部70aでの意図しない位相変調は雑音となり、光変調動作を擾乱するおそれがある。
【0036】
一方、実施の形態1に係る光変調器500では、図2図4、及び図5に示すように、交差部70では、光導波路10のn型InP導電層110と、交差部70に特化して設けられたn型InP信号配線路用導電層200が、n型InP導電層110とn型InP信号配線路用導電層200とを電気的に絶縁するために設けられたFeドープ半絶縁性InP絶縁性埋込層210を介して交差する。
【0037】
Feドープ半絶縁性InP基板1の表面に垂直な方向において、n型InP信号配線路用導電層200とn型InP第1クラッド層130との間には、Feドープ半絶縁性InP絶縁層120が設けられている。Feドープ半絶縁性InP絶縁層120は、n型InP信号配線路用導電層200とn型InP第1クラッド層130とを電気的に絶縁するように機能する。n型InP信号配線路用導電層200を流れる信号電流が、光導波路側に流れないようにするためである。
【0038】
また、図5に示すように、交差部70における光の伝搬方向に沿って、n型InP信号配線路用導電層200の両側面にはFeドープ半絶縁性InP絶縁性埋込層210がそれぞれ設けられている。したがって、n型InP信号配線路用導電層200は、n型InP導電層110と電気的に絶縁されている。
【0039】
交差部70においては、信号配線路を兼ねるn型InP信号配線路用導電層200とn型InP第1クラッド層130の間に電位差が発生するが、i型InGaAsP-MQW光導波層140は、n型InP信号配線路用導電層200とn型InP第1クラッド層130の間に位置してはいないため、両者の電位差により発生した電界はi型InGaAsP-MQW光導波層140には直接かからない。
【0040】
さらに、n型InP信号配線路用導電層200とn型InP第1クラッド層130の間に設けられたFeドープ半絶縁性InP絶縁層120によって電界が低減されるため、i型InGaAsP-MQW光導波層140に間接的にかかる電界を弱める効果も生じるので、結果的に、i型InGaAsP-MQW光導波層140にかかる電界は著しく低減される。つまり、Feドープ半絶縁性InP絶縁層120は、n型InP信号配線路用導電層200において信号電流が流れるにともない発生する電界のうち、i型InGaAsP-MQW光導波層140にかかる電界を低減するように機能する。
【0041】
また、n型InP信号配線路用導電層200を構成する半導体材料の熱膨張係数は、光導波路10を構成するi型InGaAsP-MQW光導波層140を構成する半導体材料の熱膨張係数と極めて近い。n型InP信号配線路用導電層200及びi型InGaAsP-MQW光導波層140を構成する半導体材料は、共通するInP系化合物半導体材料であるからである。よって、n型InP信号配線路用導電層200を設けることによって発生する応力は著しく小さい。
【0042】
つまり、信号配線路60は、光導波路10の下方側に設けられたn型InP信号配線路用導電層200を経由することにより光導波路10を貫通するように配置されているので、比較例のような信号配線路60aが光導波路10aの上方側で交差するような構成と比べて、信号配線路60からi型InGaAsP-MQW光導波層140にかかる電界及び応力が著しく低減できる。
【0043】
なお、実施の形態1に係る光変調器500の一部である、光導波路10と信号配線路60が交差する交差部70は、公知の製造方法によって形成される。
【0044】
<実施の形態1の効果>
以上、実施の形態1に係る光変調器によると、光導波路に交差する信号配線路を半導体材料からなる信号配線路用導電層を介して接続し、かつ光導波路の下方側に設けたので、光導波路と信号配線路の交差部において光導波層にかかる電界及び応力が緩和されるため、光変調特性に優れた光変調器を得ることができる効果を奏する。
【0045】
実施の形態2.
図9は、実施の形態2に係る光変調器600における、光導波路10bと信号配線路60bが交差する交差部70bの概観図である。図10は、実施の形態2に係る光変調器600の一部を構成する光導波路10bにおいて、交差部70bにおける光の伝搬方向に垂直な方向の光導波路10bの断面図である。図11は、実施の形態2に係る光変調器600の一部を構成する光導波路10bにおいて、交差部70bにおける光の伝搬方向に沿った光導波路10bの断面図である。なお、図9では、説明の便宜上、表面保護膜61bは省略している。
【0046】
<実施の形態2に係る光変調器の交差部の構成>
実施の形態2に係る光変調器600と実施の形態1に係る光変調器500の構成上の相違点は、実施の形態1に係る光変調器500のn型InP信号配線路用導電層200の両側面に設けられたFeドープ半絶縁性InP絶縁性埋込層210の代りに、実施の形態2に係る光変調器600のn型InP信号配線路用導電層200bの両側面には、p型InP埋込層210bが設けられている点である。なお、p型InP埋込層210bは埋込層の一例であり、他の半導体材料からなる埋込層であっても良い。また、p型InP埋込層210bを構成するp型InP層はp型半導体層の一例であり、他のp型の半導体材料であっても良い。
【0047】
図11に示すように、実施の形態2に係る光変調器600の交差部70bでは、光の伝搬方向に沿って、n型InP信号配線路用導電層200bの両側面にp型InP埋込層210bがそれぞれ設けられている。つまり、交差部70bでは、光の伝搬方向に沿って、n型InP導電層110b、p型InP埋込層210b、n型InP信号配線路用導電層200b、p型InP埋込層210b、及びn型InP導電層110bの順序で配置されている。n型InP導電層110bとp型InP埋込層210bとn型InP信号配線路用導電層200bとは、導電型を鑑みると、n-p-n構造となっている。よって、n型InP導電層110bからn型InP信号配線路用導電層200bの間では、逆バイアスとなるため電流が流れない。
【0048】
交差部70bにおいては、信号配線路を兼ねるn型InP信号配線路用導電層200bとn型InP第1クラッド層130bの間に電位差が発生するが、i型InGaAsP-MQW光導波層140bは、n型InP信号配線路用導電層200bとn型InP第1クラッド層130bの間に位置してはいないため、両者の電位差により発生した電界はi型InGaAsP-MQW光導波層140bには直接かからない。
【0049】
さらに、n型InP信号配線路用導電層200bとn型InP第1クラッド層130bの間に設けられたFeドープ半絶縁性InP絶縁層120bによって電界が低減されるため、i型InGaAsP-MQW光導波層140bに間接的にかかる電界を弱める効果も生じるので、結果的に、i型InGaAsP-MQW光導波層140bにかかる電界は著しく低減される。
【0050】
<実施の形態2の効果>
以上、実施の形態2に係る光変調器によると、光導波路に交差する信号配線路を半導体材料からなる信号配線路用導電層を介して接続し、かつ光導波路の下方側に設けたので、光導波路と信号配線路の交差部において光導波層にかかる電界及び応力が緩和されるため、光変調特性に優れた光変調器を得ることができる効果を奏する。
【0051】
実施の形態3.
図12は、実施の形態3に係る光変調器700における、光導波路10cと信号配線路60cが交差する交差部70cの概観図である。図13は、実施の形態3に係る光変調器700の一部を構成する光導波路10cにおいて、交差部70cにおける光の伝搬方向に垂直な方向の光導波路10cの断面図である。図14は、実施の形態3に係る光変調器700の一部を構成する光導波路10cにおいて、交差部70cにおける光の伝搬方向に沿った光導波路10cの断面図である。なお、図12では、説明の便宜上、表面保護膜61cは省略している。
【0052】
<実施の形態3に係る光変調器の交差部の構成>
実施の形態3に係る光変調器700と実施の形態1に係る光変調器500の構成上の相違点を、以下に説明する。
【0053】
実施の形態1に係る光変調器500では、光導波路10と交差する部分にはn型InP信号配線路用導電層200が設けられ、n型InP信号配線路用導電層200と金属膜からなる信号配線路60とは、n型InP信号配線路用導電層200の先端部から予め設定された距離までn型InP信号配線路用導電層200の表面に信号配線路60を構成する金属膜を形成する構造となっている。
【0054】
一方、実施の形態3に係る光変調器700では、図12及び図14に示すように、信号配線路60c自体が、n型ドーパントの濃度が高いn型InPからなる高濃度n型InP配線層で構成されている。すなわち、信号配線路60cの一部が、実施の形態1及び2のような信号配線路用導電層としての機能を兼ねている。信号配線路60cは、実施の形態1のn型InP信号配線路用導電層200と同様、光導波路10dの下方側に設けられる。つまり、信号配線路60cが、実施の形態1のn型InP信号配線路用導電層200と同様の機能を果たしている。
【0055】
信号配線路60cを構成する高濃度n型InP配線層中のn型ドーパントのドーピング濃度は、例えば1×1019cm-3以上が望ましい。信号配線路として、配線抵抗をなるべく低減する必要があるからである。
【0056】
交差部70cにおける信号配線路60cの両側面には、実施の形態1と同様に、Feドープ半絶縁性InP絶縁性埋込層210cのような絶縁性半導体層からなる埋込層を設けている。なお、実施の形態2のように、Feドープ半絶縁性InP絶縁性埋込層210cの代りに、p型InP埋込層のようなp型半導体層からなる埋込層を設けても良い。
【0057】
交差部70cにおいては、信号配線路60cとn型InP第1クラッド層130cの間に電位差が発生するが、i型InGaAsP-MQW光導波層140cは、信号配線路60cとn型InP第1クラッド層130cの間に位置してはいないため、両者の電位差により発生した電界はi型InGaAsP-MQW光導波層140cには直接かからない。
【0058】
さらに、信号配線路60cとn型InP第1クラッド層130cの間に設けられたFeドープ半絶縁性InP絶縁層120cによって電界が低減されるため、i型InGaAsP-MQW光導波層140cに間接的にかかる電界を弱める効果も生じるので、結果的に、i型InGaAsP-MQW光導波層140cにかかる電界は著しく低減される。
【0059】
実施の形態3に係る光変調器700では、信号配線路60cとしてInP系化合物半導体で構成された高濃度n型InP配線層を適用したので、材料的には、光導波路10cとほぼ同一の半導体材料で構成される。したがって、実施の形態1及び2のような信号配線路を形成するために金属膜を成膜及び所望の形状にパターニングするといったプロセスを省略することができる。この結果、よりコストダウンが図られ、かつ光変調特性に優れた光変調器が得られる。
【0060】
<実施の形態3の効果>
以上、実施の形態3に係る光変調器によると、信号配線路を半導体材料で構成し、かつ光導波路の下部に設けたので、光導波路と信号配線路の交差部において光導波層にかかる電界及び応力が緩和されるため、よりコストダウンが図られ、かつ光変調特性に優れた光変調器を得ることができるという効果を奏する。
【0061】
実施の形態4.
図15は、実施の形態4に係る光変調器800における、光導波路10dと信号配線路60dが交差する交差部70dの概観図である。図16は、実施の形態4に係る光変調器700の一部を構成する光導波路10dにおいて、交差部70dにおける光の伝搬方向に垂直な方向の光導波路10dの断面図である。なお、図15では、説明の便宜上、表面保護膜61dは省略している。
【0062】
<実施の形態4に係る光変調器の交差部の構成>
実施の形態4に係る光変調器800では、図15及び図16に示すように、光導波路10dと信号配線路60dが交差する交差部70dの光導波路10dの両側面側に、Feドープ半絶縁性InP基板1dの表面側から裏面側に貫通する二つのビアホール220dが設けられている。また、Feドープ半絶縁性InP基板1dの裏面側に、二つのビアホール220d間を電気的に接続する裏面電極230dが設けられている。
【0063】
Feドープ半絶縁性InP基板1dの表面側に露出した二つのビアホール220dは、信号配線路60dに電気的にそれぞれ接続されている。
【0064】
実施の形態4に係る光変調器800の構成では、光導波路10dと、光導波路10dと交差する信号配線路の一部である裏面電極230dは、両者の間にFeドープ半絶縁性InP基板1dが存在するため、信号配線路に起因する電界の発生及び応力の発生が著しく低減する。よって、光変調特性に優れた光変調器を得ることができる。
【0065】
<実施の形態4の効果>
以上、実施の形態4に係る光変調器によると、交差部の光導波路の両側面側に、Feドープ半絶縁性InP基板の表面側から裏面側に貫通し信号配線路に電気的に接続する二つのビアホールを設け、また、Feドープ半絶縁性InP基板の裏面側に二つのビアホールを接続することにより信号配線路として機能する裏面電極を設けたので、より光変調特性に優れた光変調器を得ることができるという効果を奏する。
【0066】
本開示は、様々な例示的な実施の形態及び実施例が記載されているが、1つ、または複数の実施の形態に記載された様々な特徴、態様、及び機能は特定の実施の形態の適用に限られるのではなく、単独で、または様々な組み合わせで実施の形態に適用可能である。
【0067】
従って、例示されていない無数の変形例が、本開示の技術の範囲内において想定される。例えば、少なくとも1つの構成要素を変形する場合、追加する場合または省略する場合、さらには、少なくとも1つの構成要素を抽出し、他の実施の形態の構成要素と組み合わせる場合が含まれるものとする。
【符号の説明】
【0068】
1、1a、1d Feドープ半絶縁性InP基板、2 光入力部、3 光出力部、10、10a、10b、10c、10d 光導波路、20 位相変調器、30 第1位相調整器、40 第2位相調整器、50 信号電極パッド、60、60a、60b、60c、60d 信号配線路、61、61a、61b、61c、61d 表面保護膜、70、70a、70b、70c、70d 交差部、110、110b n型InP導電層、120、120b、120c Feドープ半絶縁性InP絶縁層、130、130a、130b、130c n型InP第1クラッド層、140、140a、140b、140c i型InGaAsP-MQW光導波層、150、150a p型InP第2クラッド層、200、200b n型InP信号配線路用導電層、210、210c Feドープ半絶縁性InP絶縁性埋込層、210b p型InP埋込層、220d ビアホール、230d 裏面電極、 500、550、600、700、800 光変調器
【要約】
本開示の光変調器(500)は、基板(1)と、基板(1)の端部に設けられた光入力部(2)と、光入力部(2)と光導波路(10)を介して接続された複数の位相変調器(20)と、複数の位相変調器(20)と光導波路(10)を介してそれぞれ接続された複数の位相調整器(30、40)と、基板(1)の端部に設けられ、複数の位相調整器(30、40)から出力された光を外部に出射する光出力部(3)と、基板(1)の端部に沿って配置された複数の信号電極パッド(50)と、複数の信号電極パッド(50)と位相調整器(30、40)とを電気的に接続し、光導波路(10)と交差する交差部(70)を有する信号配線路(60)と、を備え、交差部(70)において、導電層(110)と信号配線路用導電層(200)が埋込層(210)を介して交差することを特徴とする。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16