(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-27
(45)【発行日】2024-10-07
(54)【発明の名称】抗CD45RC抗体を用いる単一遺伝子疾患の処置
(51)【国際特許分類】
A61K 39/395 20060101AFI20240930BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20240930BHJP
A61P 31/10 20060101ALI20240930BHJP
A61P 21/04 20060101ALI20240930BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20240930BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240930BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20240930BHJP
A61K 35/12 20150101ALI20240930BHJP
A61P 5/02 20060101ALI20240930BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20240930BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20240930BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20240930BHJP
【FI】
A61K39/395 N ZNA
A61P37/02
A61P31/10
A61P21/04
A61K47/68
A61K45/00
A61K48/00
A61K35/12
A61P5/02
A61K39/395 L
C07K16/28
C07K16/46
C12N15/13
(21)【出願番号】P 2022201777
(22)【出願日】2022-12-19
(62)【分割の表示】P 2020531978の分割
【原出願日】2018-12-14
【審査請求日】2022-12-19
(32)【優先日】2017-12-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】514203362
【氏名又は名称】インセルム(インスティチュート ナショナル デ ラ サンテ エ デ ラ リシェルシェ メディカル)
(73)【特許権者】
【識別番号】516200884
【氏名又は名称】センター ホスピタリア ユニバーシタイア デ ナント
(73)【特許権者】
【識別番号】505028222
【氏名又は名称】ナント ユニベルシテ
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ギロノー,キャロル
(72)【発明者】
【氏名】アネゴン,イグナシオ
【審査官】伊藤 良子
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-527541(JP,A)
【文献】J Immunol,2007年,Vol.178, No.2,pp.1208-1215
【文献】J ALLERGY CLIN IMMUNOL,2005年,VOLUME 116, NUMBER 5,pp.1158-1159
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
免疫系に関与しておりその欠損が炎症および/もしくは自己免疫反応をもたらす遺伝子により引き起こされる単一遺伝子疾患であって、APECED(自己免疫性多腺性内分泌不全症・カンジダ症・外胚葉ジストロフィー)である単一遺伝子疾患
の処置のための、抗CD45RC抗体を含む医薬組成物。
【請求項2】
前記抗CD45RC抗体がモノクローナル抗体である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記抗CD45RC抗体が抗ヒトCD45RCモノクローナル抗体である、請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記抗CD45RC抗体がキメラ抗体、二重特異性抗体、ヒト化抗体、または完全にヒトの抗体である、請求項1~3のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記単一遺伝子疾患
の処置が、前記単一遺伝子疾患に関連する症状または兆候の低減、軽減、緩和、および/または阻害を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記単一遺伝子疾患
の処置が、自己免疫性および/または炎症性の症状または兆候の低減、軽減、緩和、および/または阻害を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記単一遺伝子疾患に関連する症状または兆候が、体重減少、脱力、疲労、微熱、筋肉もしくは関節の疼痛、下痢、糖尿病、ホルモン変化、脱毛症、皮膚色素脱失、およびリンパ球浸潤物を伴う組織構造の悪化、を含む群から選択される、請求項5または6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記単一遺伝子疾患に関連する症状または兆候が、CD45RC
+細胞の頻度の増加、CD45RC
-細胞の頻度の減少、CD4
+およびCD8
+のTエフェクター細胞の頻度の増加、ならびにFoxP3
+ T
regの減少を含む群から選択される、請求項5~7のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記抗CD45RC抗体が、T CD45RC
high細胞を枯渇させる、請求項1~8のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記抗CD45RC抗体が、CDR45RCに対する第1の抗原結合部位と、直接的な結合、抗体依存性細胞傷害(ADCC)、補体依存性細胞傷害(CDC)、および/または抗体依存性貪食作用を介してT CD45RC
high細胞の枯渇を媒介できるエフェクター細胞に対する少なくとも1つの第2の抗原結合部位と、を含む多重特異性抗体である、請求項1~9のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記抗CD45RC抗体が、細胞傷害性部分にコンジュゲートされている、請求項1~10のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項12】
免疫抑制薬および/または抗炎症薬と併用して投与される、請求項1~11のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項13】
遺伝子療法または細胞療法と併用して投与される、請求項1~12のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記遺伝子療法または細胞療法が、前記医薬組成物の投与の前または後に行われる、請求項13に記載の医薬組成物。
【請求項15】
前記遺伝子療法または細胞療法が、前記医薬組成物の投与の前に行われる、請求項13または14に記載の医薬組成物。
【請求項16】
免疫系に関与しておりその欠損が炎症および/もしくは自己免疫反応をもたらす遺伝子により引き起こされる単一遺伝子疾患に関連する症状または兆候の低減、軽減、緩和、および/または阻害のための、抗CD45RC抗体を含む医薬組成物
であって、前記単一遺伝子疾患がAPECED(自己免疫性多腺性内分泌不全症・カンジダ症・外胚葉ジストロフィー)である、医薬組成物。
【請求項17】
前記単一遺伝子疾患に関連する症状または兆候が、体重減少、脱力、疲労、微熱、筋肉もしくは関節の疼痛、下痢、糖尿病、ホルモン変化、脱毛症、皮膚色素脱失、およびリンパ球浸潤物を伴う組織構造の悪化、を含む群から選択される、請求項16に記載の医薬組成物。
【請求項18】
前記単一遺伝子疾患に関連する症状または兆候が、CD45RC
+細胞の頻度の増加、CD45RC
-細胞の頻度の減少、CD4
+およびCD8
+のTエフェクター細胞の頻度の増加、ならびにFoxP3
+ T
regの減少を含む群から選択される、請求項16または17に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)またはAPECED(自己免疫性多腺性内分泌不全症・カンジダ症・外胚葉ジストロフィー)、および関連する症状などの単一遺伝子疾患を予防および/または処置するための抗CD45RC抗体の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
単一遺伝子疾患は、1つの遺伝子の欠損により引き起こされる。4000超のヒトの疾患が、1つの特定の遺伝子に関連するこれら欠損によって引き起こされている。現在までに、ほとんどの処置の選択肢は、この障害の症状の、患者のクオリティオブライフを改善するための処置を中心に展開している。この種類の疾患の長期間持続できる処置として、遺伝子療法、すなわち、健常な遺伝子が患者の体内に導入される処置の形態に期待が集まっている。しかしながら、この障害に冒されている適切な細胞へ遺伝子を送達するための技術の開発において、深刻な障害に直面している。
【0003】
単一遺伝子疾患の中の一部は、免疫系に関連しており、その欠損が炎症および/または自己免疫反応をもたらす遺伝子に関連している。このような疾患の例として、APECED(自己免疫性多腺性内分泌不全症・カンジダ症・外胚葉ジストロフィー)がある。他の単一遺伝子疾患は、免疫機能に関連していないがその欠損が炎症および/または免疫反応に関連している遺伝子に関連している。このような疾患の例として、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)がある。
【0004】
DMDは、タンパク質ジストロフィンをコードするDMD遺伝子の変異が、全ての随意筋に影響を与え、後期では心筋および呼吸筋に影響を与える重篤なX連鎖性筋ジストロフィーをもたらす、単一遺伝子疾患である。
【0005】
免疫応答は、DMD患者およびヒト患者と同じジストロフィン変異を有するmdxマウスの両方において、疾患の病態生理に関与している(レビューでは、Rosenberg et al., 2015. Sci Transl Med. 7(299):299rv4を参照されたい)。標準的なDMD患者の管理は、プレドニゾロンなどのコルチコイドを使用する。mdxマウスでは、制御性T細胞(Treg)を増幅させるため、静脈内イムノグロブリン、トラニラスト、ヘムオキシゲナーゼ-1誘導因子、IL-1受容体アンタゴニスト、およびIL-2などの、エフェクター免疫応答または炎症を減少させる処置も使用されている(Rosenberg et al., 2015. Sci Transl Med. 7(299):299rv4; Villalta et al., 2014. Sci Transl Med. 6(258):258ra142)。
【0006】
しかしながら、近年見込みのある新規の処置が存在するにも関わらず、DMD患者の平均余命は、著しく低いままである。よって、DMDおよび関連する疾患で免疫応答を低減または阻害できる処置が、依然として必要とされている。
【0007】
自己免疫疾患は、免疫系の機能不全をもたらし、重篤な身体障害性、さらには致死性の結果の原因である、自己免疫寛容の崩壊により引き起こされる。寛容に関与する免疫機構の多くの知識により、自己免疫疾患の理解および処置の両方を改善するための重大な課題が示されている。
【0008】
この平衡において鍵となるプレイヤーは、AIREという、胸腺髄質上皮細胞(mTEC)における組織特異的自己抗原(TRA)の発現および自己反応性T細胞の欠失を可能にする転写調節因子である。
【0009】
APECED(自己免疫性多腺性内分泌不全症・カンジダ症・外胚葉ジストロフィー)は、多腺性自己免疫症候群I型(APS1)としても知られている、AIRE遺伝子の変異により引き起こされる、希少な常染色体劣性の多臓器自己免疫疾患である。
【0010】
ヒトにおいて、この遺伝子は、遺伝子座21q22.3に位置しており、100超の変異が、1~9:1000000の有症率でAPECEDをもたらすことが記載されている(Orphanet, http://www.orpha.net)。この有症率は、たとえばフィンランド人、ノルウェー人、サルディーニャ人、およびイラン系ユダヤ人といった特定の集団で増加している。例として、サルディーニャ人において、APECED患者のうち90%に、R139X変異の過剰発現(overrepresentation)が存在している。
【0011】
APECEDの臨床表現型は、通常、主な3つの症状:副甲状腺機能低下症、副腎不全(アジソン病)、および慢性皮膚粘膜カンジダ症(CMC)のうちの2つの存在により定義される。またこの疾患は、複数の自己免疫および外胚葉性の特性に関連しており、例として、1型糖尿病、エナメル質形成不全、白斑、早期卵巣機能不全、角膜炎、悪性貧血、脱毛症、外分泌膵炎(exocrine pancreatitis)、間質性肺疾患、腎炎、および他の障害がある。
【発明の概要】
【0012】
本明細書において、本発明者らは、抗CD45RC抗体でのDmdmdxラットの処置を用いることにより、特異的に、CD45RCを発現する細胞(本明細書中CD45RC+細胞と称される)、特に、高いレベルのCD45RCを発現する細胞(本明細書では、CD45RChigh細胞またはCD45RC+high細胞と称される)で作用することによってDMDを処置できることを証明した。
【0013】
さらに本発明者らは、抗CD45RCモノクローナル抗体をAire-/-(KO)ラットに投与することが、CD45RChigh Tリンパ球の強力な枯渇をもたらし、APECEDに特徴的な症状を阻害することを示した。
【0014】
本発明は、
免疫機能に関連していないがその欠損が炎症および/もしくは免疫反応に関連している遺伝子により引き起こされ、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)、嚢胞性線維症、ライソゾーム病、およびα1-アンチトリプシン欠損症から選択される単一遺伝子疾患、ならびに/または、
免疫系に関与しておりその欠損が炎症および/もしくは自己免疫反応をもたらす遺伝子により引き起こされ、IPEX症候群(多腺性内分泌不全症、腸疾患を伴う免疫調節異常(X連鎖性)症候群:IPEX)、APECED(自己免疫性多腺性内分泌不全症・カンジダ症・外胚葉ジストロフィー)、B細胞の原発性免疫不全、Muckle-Wells症候群、混合型自己炎症性および自己免疫性症候群、NLRP12関連の遺伝性周期性発熱症候群、および腫瘍壊死因子受容体1関連周期性症候群から選択される単一遺伝子疾患
を含む群から選択される単一遺伝子疾患の予防および/または処置に使用するための、抗CD45RC抗体に関する。
【0015】
一部の実施形態では、抗CD45RC抗体は、モノクローナル抗体である。
【0016】
一部の実施形態では、抗CD45RC抗体は、抗ヒトCD45RCモノクローナル抗体である。
【0017】
一部の実施形態では、抗CD45RC抗体は、キメラ抗体、二重特異性抗体、ヒト化抗体、または完全にヒトの抗体である。
【0018】
一部の実施形態では、単一遺伝子疾患の予防および/または処置は、単一遺伝子疾患に関連する症状または兆候、好ましくは自己免疫および/または炎症の症状または兆候の低減、軽減、緩和、および/または阻害を含む。
【0019】
一部の実施形態では、抗CD45RC抗体は、T CD45RChigh細胞を枯渇させる。
【0020】
一部の実施形態では、抗CD45RC抗体は、CDR45RCに対する第1の抗原結合部位と、直接的な結合、抗体依存性細胞傷害(ADCC)、補体依存性細胞傷害(CDC)、および/または抗体依存性貪食作用を介してT CD45RChigh細胞の枯渇を媒介できるエフェクター細胞に対する少なくとも1つの第2の抗原結合部位とを含む多重特異性抗体である。
【0021】
一部の実施形態では、抗CD45RC抗体は、細胞傷害性部分にコンジュゲートされる。
【0022】
一部の実施形態では、抗CD45RC抗体は、上記抗CD45RC抗体と、薬学的に許容される担体または賦形剤またはビヒクルとを含む医薬組成物の形態にある。
【0023】
一部の実施形態では、抗CD45RC抗体は、免疫抑制薬および/または抗炎症薬と併用して投与される。
【0024】
一部の実施形態では、抗CD45RC抗体は、遺伝子療法または細胞療法と併用して投与される。
【0025】
一部の実施形態では、上記遺伝子療法または細胞療法は、抗CD45RC抗体の投与の前または後、優先的には抗CD45RC抗体の投与の前に投与される。
【0026】
一部の実施形態では、上記単一遺伝子疾患は、DMD、嚢胞性線維症、リソソーム蓄積症、およびα1-アンチトリプシン欠損症から選択され、好ましくは、上記単一遺伝子疾患は、DMDである。
【0027】
一部の実施形態では、上記単一遺伝子疾患は、IPEX、APECED、B細胞の原発性免疫不全、Muckle-Wells症候群、混合型自己炎症性および自己免疫性症候群、NLRP12関連の遺伝性周期性発熱症候群、および腫瘍壊死因子受容体1関連周期性症候群から選択され、好ましくは、上記単一遺伝子疾患は、APECEDである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
定義
「抗体」または「イムノグロブリン」
本明細書中使用される場合、用語「抗体」および「イムノグロブリン」は、何らかの関連する特定の免疫反応性を有するかどうかにかかわらず、2つの重鎖および軽鎖の組み合わせを有するタンパク質を表す。「抗体」は、目的の抗原(たとえば配列番号1)に特異的な有意な既知の免疫反応活性を有する上記の構築物を表す。用語「抗CD45RC抗体」は、本明細書において、ヒトのCD45RCタンパク質に対して免疫特異性を呈する抗体を表すように使用される。本明細書中他で説明されるように、CD45RCに対する「特異性」は、CD45RCのホモログ種との交差反応を排除するものではない。
【0029】
また用語「抗体」および「イムノグロブリン」は、本明細書中使用される場合、抗体結合フラグメントをも含むように意図されている。
【0030】
また、用語「抗体」および「イムノグロブリン」は、本明細書中使用される場合に、既知の方法を使用して修飾された抗体または抗体結合フラグメントを包有することが予測されるであろう。たとえば、in vivoでのクリアランスを遅くするため、およびより望ましい薬物動態プロファイルを得るために、抗体またはその結合フラグメントは、ポリエチレングリコール(PEG)で修飾され得る。PEGを抗体またはその結合フラグメントに結合および部位特異的にコンジュゲートするための方法は、たとえばLeong et al., 2001. Cytokine. 16(3):106-19; Delgado et al., 1996. Br J Cancer. 73(2):175-82に記載されている。
【0031】
抗体およびイムノグロブリンは、その間に鎖間共有結合を伴うかまたは伴わずに、軽鎖および重鎖を含む。脊椎動物系における基本的なイムノグロブリンの構造は、比較的良好に理解されている。総称「イムノグロブリン」は、生化学的に区別できる、5つの明確に異なるクラスの抗体を含む。以下の論述は、全般的に、IgGクラスのイムノグロブリン分子を対象としているが、5つ全てのクラスの抗体が、本発明の範囲内にある。IgGに関しては、イムノグロブリンは、分子量約23kDaの2つの同一の軽鎖ポリペプチドと、分子量約53~70kDaの2つの同一の重鎖ポリペプチドとを含む。この4つの鎖は、「Y」の構造でジスルフィド結合により結合しており、ここで軽鎖は、「Y」の口から開始し可変領域にわたり続くように重鎖を囲んでいる。抗体の軽鎖は、カッパ(κ)またはラムダ(λ)に分類される。各重鎖のクラスは、κまたはλの軽鎖のいずれかと結合し得る。全般に、軽鎖および重鎖は互いに共有結合し、2つの重鎖の「尾」領域は、共有ジスルフィド結合、またはイムノグロブリンがハイブリドーマ、B細胞、もしくは遺伝子操作された宿主細胞により産生される場合は非共有結合により、互いに結合する。重鎖では、アミノ酸配列は、Yの構造のまた状の末端にあるN末端から、各鎖の底部にあるC末端へと続いている。当業者は、重鎖が、その中にいくつかの下位クラス(例えばγ1~γ4)を伴うガンマ(γ)、ミュー(μ)、アルファ(α)、デルタ(δ)、またはイプシロン(ε)と分類されることを理解している。これは、抗体の「クラス」を、それぞれIgG、IgM、IgA、IgD、またはIgEと決定するこの鎖の性質である。イムノグロブリンの下位クラスまたは「アイソタイプ」(たとえばIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1など)は、十分性質決定されており、機能的な特性を提供することが知られている。これらクラスおよびアイソタイプのそれぞれの修飾されたバージョンは、当業者によって、本開示の観点から容易に識別することができ、よってこれらは本発明の範囲内にある。上述のように、抗体の可変領域は、抗体を、抗原上のエピトープに選択的に認識および特異的に結合させる。すなわち、抗体の軽鎖可変ドメイン(VLドメイン)および重鎖可変ドメイン(VHドメイン)は、3次元の抗原結合部位を画定する可変領域を形成するために組み合わさる。この四次の抗体構造は、「Y」の各アームの末端に抗原結合部位の提示を形成する。より具体的には、抗原結合部位は、VH鎖およびVL鎖のそれぞれにある3つの相補性決定領域(CDR)により定義される。
【0032】
「抗体結合フラグメント」
用語「抗体結合フラグメント」は、本明細書中使用される場合、抗体全体よりも少ないアミノ酸残基を含む、抗体の一部または領域を表す。「結合フラグメント」は、抗原(たとえば配列番号1)に結合し、かつ/または、抗原結合に関して派生元である抗体全体に匹敵する。抗体結合フラグメントは、限定するものではないが、数例ではあるが、一本鎖抗体、二量体の一本鎖抗体、シングルドメイン抗体、Fv、Fab、Fab’、Fab’-SH、F(ab)’2、Fd、脱フコシル化抗体、二重特異性抗体、ジアボディ、トリアボディ、およびテトラボディを包有する。
【0033】
「一本鎖抗体」は、限定するものではないが、(1)一本鎖Fv分子(scFv);(2)1つの軽鎖可変ドメインのみを含む一本鎖のタンパク質、または関連する重鎖部分を伴うことなく軽鎖可変ドメインの3つのCDRを含むそのフラグメント;および(3)1つのみの重鎖可変領域のみを含む一本鎖のタンパク質、または関連する軽鎖部分を伴うことなく重鎖可変領域の3つのCDRを含むそのフラグメントを含む、連続するアミノ酸残基である1つの中断されていない配列を含むかまたはからなる一次構造を有するタンパク質である、いずれかの抗体またはそのフラグメントを表す。
【0034】
「sFv」または「scFv」とも略される「一本鎖Fv」は、一本鎖のアミノ酸に結合したVH抗体ドメインおよびVL抗体ドメインを含む抗体フラグメントを表す。好ましくは、scFvアミノ酸配列はさらに、scFvが抗原結合にとって望ましい構造を形成することを可能にする、VHドメインとVLドメインとの間にあるペプチドリンカーを含む(Pluckthun, 1994. Antibodies from Escherichia coli. In Rosenberg & Moore (Eds.), The pharmacology of monoclonal antibodies. Handbook of Experimental Pharmacology, 113:269-315. Springer: Berlin, Heidelberg)。
【0035】
「Fv」は、完全な抗原認識および結合部位を含む最小限の抗体フラグメントを表す。このフラグメントは、タイトな非共有結合での1つのHCVRおよび1つのLCVRの二量体からなる。これら2つのドメインのフォールディングから、抗原結合に寄与し、抗体への抗原結合の特異性を提供する6つの超可変ループ(重鎖および軽鎖からそれぞれ3つのループ)がもたらされる。しかしながら、さらに単一の可変ドメイン(または抗原に特異的な3つのCDRのみを含むFvのうちの半分)は、結合部位全体よりも低い親和性ではあるが、抗原を認識および結合する特性を有する。
【0036】
「ジアボディ」は、鎖内ではなく鎖間での可変ドメインの対形成が達成されるようにHCVRとLCVRとの間に短いリンカー(約5~10残基)を有し、二価のフラグメント、すなわち2つの抗原結合部位を有するフラグメントをもたらす、scFvフラグメントを構築することにより調製される小分子の抗体フラグメントを表す。二重特異的なジアボディは、2つの抗体のHCVRおよびLCVRが、異なるポリペプチド鎖に存在する2つのクロスオーバーscFvフラグメントのヘテロダイマーである。ジアボディは、欧州特許第0404097号、国際特許公開公報第1993011161号、およびHolliger et al., 1993. Proc Natl Acad Sci USA. 90(14):6444-8により完全に記載されている。
【0037】
抗体結合フラグメントは、標準的な方法を使用して得ることができる。たとえば、FabまたはF(ab’)2フラグメントは、従来の技術により、単離されている抗体のプロテアーゼ消化により産生され得る。
【0038】
「抗体依存性細胞傷害」または「ADCC」
本明細書中使用される場合、用語「抗体依存性細胞傷害」または「ADCC」は、特定の細胞傷害性細胞(たとえばNK細胞、好中球、単球、およびマクロファージ)に存在するFc受容体(FcR)に結合した分泌される抗体が、これら細胞傷害性のエフェクター細胞を、抗原を有する標的細胞に特異的に結合させ、その後標的細胞を殺滅させることを可能にする、細胞傷害性の形態を表す。目的の分子のADCC活性を評価するために、in vitroでのADCCアッセイ、たとえば米国特許第5,500,362号または同第5,821,337号に記載されるアッセイなどが行われ得る。
【0039】
「抗体依存性貪食作用」または「オプソニン化」
本明細書中使用される場合、用語「抗体依存性貪食作用」または「オプソニン化」は、FcγRを発現する非特異的な細胞傷害性細胞が、標的細胞に結合した抗体を認識し、その後標的細胞の貪食作用をもたらす、細胞により行われる反応を表す。
【0040】
「CD45」
本明細書中使用される場合、用語「CD45」(CD45RまたはPTPRCとしても知られている)は、異なるアイソフォームで存在する膜貫通糖タンパク質を表す。これらのCD45の明確に異なるアイソフォームは、CD45細胞外領域のA、B、およびCの決定因子をそれぞれコードする3つの可変エクソン(エクソン4、5、および6)の選択的スプライシングから生じる細胞外ドメイン構造において、異なっている。CD45の様々なアイソフォームは異なる細胞外ドメインを有しているが、同一の、膜の近位にある細胞外配列、および膜貫通ドメインに、約300残基であるタンデム相同性の著しく保存されている2つのホスファターゼドメインを含む大きな細胞質尾部セグメント(cytoplasmic tail segment)を有する。CD45およびそのアイソフォームは、Tリンパ球およびBリンパ球の上にあるLPAP(lymphocyte phosphatase-associated phosphoprotein)と非共有結合する。CD45は、CD1、CD2、CD3、およびCD4を含むいくつかの他の細胞表面抗原に結合することが報告されている。CD45は、リンパ球活性化のシグナリングに関与している。
【0041】
「CD45RC」
本明細書中使用される場合、用語「CD45RC」は、当業者によく知られている200~220kDaの一本鎖のI型膜糖タンパク質を表す。CD45RCは、C決定因子をコードするエクソン6を含むが、それぞれAおよびBの決定因子をコードするエクソン4および5を欠いている(よって、専門用語CD45RC、すなわちC決定因子に限定されたCD45)、CD45の選択的スプライシングアイソフォームである。CD45RCアイソフォームは、B細胞、およびCD8+T細胞およびCD4+T細胞のサブセットで発現するが、CD8+またはCD4+のTreg、CD14+単球、またはPMNでは発現しない(Picarda et al., 2017. JCI Insight. 2(3):e90088)。いくつかのモノクローナル抗体が、異なるアイソフォーム全てに共通するCD45の一部にあるエピトープを認識できる(これらは、抗CD45抗体と称される)が、他のモノクローナル抗体は、それらが認識する決定因子(A、B、またはC)に応じて、所定のアイソフォームに限定される特異性を有する。
【0042】
「CD45RC+細胞抗原」または「CD45RC+細胞表面マーカー」
本明細書中使用される場合、用語「CD45RC+細胞抗原」または「CD45RC+細胞表面マーカー」は、CD45RC+細胞に結合する抗CD45RC作用物質(抗体またはアプタマーなど)で標的とされ得るCD45RC+細胞(T細胞、B細胞、およびナチュラルキラー(NK)細胞を含む)の表面に発現または提示する、配列番号1の配列の抗原(またはエピトープ)を表す。例示的なCD45RC+T細胞表面マーカーとして、限定するものではないが、前述のCD45RCまたは上記T細胞の集団を特徴づける他の抗原が挙げられる。特定の目的のCD45RC+T細胞表面マーカーは、他の哺乳類の非CD45RC+T細胞と比較して優先的にCD45RC+T細胞で発現する。
【0043】
よって、当業者は、上述のCD45RC細胞表面マーカーを対象とする抗体を増加させた後に、CD45RC+細胞で作用し、抗体依存性細胞傷害(ADCC)、補体依存性細胞傷害(CDC)、または抗体の直接的な結合の後のCD45RClow/-細胞死ではなくCD45RChigh細胞死の誘導(例えばアポトーシスによる)を介してCD45RChigh細胞を枯渇させるために使用できる抗体を容易に選択することができる(Picarda et al., 2017. JCI Insight. 2(3):e90088)。
【0044】
「CDR」または「相補性決定領域」
本明細書中使用される場合、用語「CDR」または「相補性決定領域」は、重鎖ポリペプチドおよび軽鎖ポリペプチドの可変領域内で見出される非連続的な抗原結合部位を意味する。CDRは、Kabat et al., 1991. Sequences of proteins of immunological interest (5
th ed.). Bethesda, MD: U.S. Dep. of Health and Human Services;およびChothia and Lesk, 1987. J Mol Biol. 196(4):901-17から推論されるように、表1の原則によって同定された。
【表1】
【0045】
「キメラ抗体」
「キメラ」抗体は、所定の種とは異種である種の抗体の軽鎖および重鎖の定常領域と結合された当該所定の種の抗体に由来する天然の可変領域(軽鎖および重鎖)を含む抗体を意味する。好適には、本発明に係るモノクローナル抗体がキメラモノクローナル抗体である場合、この定常領域は、ヒトの定常領域を含む。非ヒト抗体から出発する場合、キメラ抗体は、当業者によく知られている遺伝子組み換え技術を使用して調製され得る。たとえば、キメラ抗体は、重鎖および軽鎖に関して、プロモーターおよび非ヒト抗体の可変領域をコードする配列、ならびにヒト抗体の定常領域をコードする配列を含む組み換えDNAをクローニングすることにより産生され得る。キメラ抗体を調製するための方法に関しては、たとえば、Verhoeyn et al.(1988. Science. 239(4847):1534-6)が参照され得る。
【0046】
「補体依存性細胞傷害」または「CDC」
用語「補体依存性細胞傷害」または「CDC」は、補体の存在下での標的細胞の溶解を表す。古典的な補体経路の活性化は、同種抗原に結合している抗体への補体系の第1の成分の結合により開始される。補体の活性化を評価するために、CDCアッセイ、たとえばGazzano-Santoro et al., 1997. J Immunol Methods. 202(2):163-71に記載されるアッセイなどが行われ得る。
【0047】
「欠損した遺伝子」
本明細書中使用される場合、用語「欠損した遺伝子」は、変異しているか、存在しないか、または非機能的である遺伝子に関する。結果として、上記欠損した遺伝子がコードするタンパク質は、失われているか、または少なく有効ではない量で存在しているか、または変異した不活性な形態下にある。
【0048】
「エピトープ」
本明細書中使用される場合、用語「エピトープ」は、抗体またはその結合フラグメントが結合するタンパク質に位置するアミノ酸の特定の配列を表す。多くの場合、エピトープは、アミノ酸または糖の側鎖などの分子の化学的に活性の表面の基からなり、特有の3次元の構造上の特徴および特有の電荷の特徴を有する。エピトープは、直鎖状(もしくは連続的)かまたは立体構造的であり得、すなわち、必ずしも連続的ではない場合がある抗原の様々な領域にある2つ以上のアミノ酸の配列を含み得る。
【0049】
「結晶可能フラグメント領域」または「Fc」
本明細書中使用される場合、用語「結晶可能フラグメント領域」または「Fc」または「Fc領域」は、第1の定常領域のイムノグロブリンドメインを除く、抗体の定常領域を含むポリペプチドを包有する。よってFcは、IgA、IgD、およびIgGの最後の2つの定常領域のイムノグロブリンドメイン、ならびに、IgEおよびIgMの最後の3つの定常領域のイムノグロブリンドメイン、ならびにこれらドメインに対しN末端側の可動性のヒンジを表す。
【0050】
IgAおよびIgMでは、Fcは、J鎖を含み得る。IgGでは、Fcは、イムノグロブリンドメインのCγ2およびCγ3、ならびにCγ1およびCγ2の間のヒンジを含む。
【0051】
Fc領域の境界は変動し得るが、ヒトのIgG重鎖のFc領域は、通常、そのカルボキシル末端に残基C226またはP230を含むように定義されている(この番号付けは、Kabat et al., 1991 (Sequences of proteins of immunological interest (5th ed.). Bethesda, MD: U.S. Dep. of Health and Human Services)に記載されるEUインデックスによるものである)。Kabatに記載されるこのEUインデックスは、Kabat et al., 1991 (上記)に記載されるように、ヒトのIgG1EU抗体の残基の番号付けを表す。Fcは、単離におけるこの領域、または抗体、抗体フラグメント、もしくはFc融合タンパク質の観点でのこの領域を表し得る。
【0052】
Fcフラグメントは、天然では、ドメインCH1を除く重鎖の定常領域、すなわち下位の境界領域ならびに定常ドメインCH2およびCH3またはCH2~CH4(アイソタイプに応じて変化)からなる。
【0053】
本発明の意味では、抗体のFcフラグメントは、天然であってもよく、または様々な方法で修飾されていてもよい(ただしこれはFcR受容体(IgGではFcγR受容体)に結合するための機能的なドメイン、好ましくは受容体FcRnに結合するための機能的なドメインを含む)。この修飾は、Fcフラグメントの特定の部分の欠失を含み得る(ただしこれは、FcR受容体(IgGではFcγR受容体)に結合するための機能的なドメイン、好ましくは受容体FcRnに結合するための機能的なドメインを含む)。また、抗体または抗体のFcフラグメントの修飾は、抗体の生物学的な特性に影響を与えることができる様々なアミノ酸の置換を含んでもよく、ただしこれは、FcR受容体に結合するための機能的なドメイン、好ましくは受容体FcRnに結合するための機能的なドメインを含む。
【0054】
特に、抗体がIgGである場合、これは、国際特許公開公報第2000042072号、同第2004029207号、同第2004063351号、または同第2004074455号に記載されるように、受容体FcγRIII(CD16)への結合性を高めるように意図されている変異を含み得る。受容体FcRnへの結合性、よって抗体のin vivoでの半減期を高めることを可能にする変異もまた、たとえば国際特許公開公報第2000042072号、同第2002060919号、同第2010045193号、または同第2010106180号に記載されるように、存在し得る。たとえば国際特許公開公報第1999051642号または同第2004074455号に記載されるような、他の変異、たとえば補体のタンパク質に対する結合性、よって補体依存性細胞傷害(CDC)応答を低減または増大させることを可能にする変異が、存在してもよくまたは存在していなくてもよい。
【0055】
「フレームワーク領域」または「FR」
本明細書中使用される場合、用語「フレームワーク領域」または「FR」は、可変領域の一部ではあるが、CDRの一部ではない(たとえばKabat/ChothiaのCDRの定義を使用)アミノ酸残基を含む。よって、可変領域のフレームワークは、約100~120アミノ酸長であるが、CDR以外のアミノ酸のみを含む。
【0056】
Kabat/Chothiaにより定義されるHCVRの具体的な例およびCDRでは、
FR1は、Chothia/AbMの定義によるアミノ酸1~25、またはKabatの定義による5残基以降を包有する可変領域のドメインに対応し得る;
FR2は、アミノ酸36~49を包有する可変領域のドメインに対応し得る;
FR3は、アミノ酸67~98を包有する可変領域のドメインに対応し得る;
FR4は、可変領域のアミノ酸104~110から末端までの可変領域のドメインに対応し得る。
【0057】
軽鎖のフレームワーク領域もまた、LCVRの各CDRにより分けられる。天然に存在する抗体では、各単量体の抗体に存在する6つのCDRは、抗体が水性環境において3次元の構造を形成する際に抗原結合部位を形成するように特に配置されている、短い非連続的なアミノ酸配列である。残りの重鎖および軽鎖の可変ドメインは、アミノ酸配列において少ない分子間のばらつきを示し、フレームワーク領域と称される。このフレームワーク領域は、主にβ-シートの構造を取り、CDRは、接続するループを形成し、場合によってはβシート構造の一部を形成する。よって、これらフレームワーク領域は、鎖間の非共有結合性の相互作用により6つのCDRを正確な配向で配置することを提供するスキャフォールドを形成するように作用する。配置されたCDRにより形成された抗原結合部位は、免疫反応性抗原上のエピトープに相補的な表面を画定する。この相補的な表面は、免疫反応性抗原エピトープに対する抗体の非共有結合を促進する。CDRの配置は、当業者によって容易に同定することができる。
【0058】
「重鎖領域」
本明細書中使用される場合、用語「重鎖領域」は、イムノグロブリン重鎖の定常ドメイン由来のアミノ酸配列を含む。重鎖領域を含むタンパク質は、CH1ドメイン、ヒンジ(たとえば上部、中央、および/または下部のヒンジ領域)ドメイン、CH2ドメイン、CH3ドメイン、またはそれらのバリアントもしくはフラグメントのうちの少なくとも1つを含む。一実施形態では、本発明に係る抗体またはその結合フラグメントは、イムノグロブリン重鎖のFc領域(たとえばヒンジ部分、CH2ドメイン、およびCH3ドメイン)を含み得る。別の実施形態では、本発明に係る抗体またはその結合フラグメントは、定常ドメインのうち少なくとも1つの領域(たとえばCH2ドメインの全てまたは一部)を欠いている。特定の実施形態では、少なくとも1つ、好ましくは全ての定常ドメインは、ヒトのイムノグロブリン重鎖に由来している。たとえば、1つの好ましい実施形態では、重鎖領域は、完全にヒトのヒンジドメインを含む。他の好ましい実施形態では、重鎖領域は、完全にヒトのFc領域(たとえばヒトのイムノグロブリン由来のヒンジ、CH2、およびCH3のドメイン配列)を含む。特定の実施形態では、重鎖領域の構成要素の定常ドメインは、異なるイムノグロブリン分子由来である。たとえば、タンパク質の重鎖領域は、IgG1分子由来のCH2ドメインおよびIgG3分子またはIgG4分子由来のヒンジ領域を含み得る。他の実施形態では、定常ドメインは、異なるイムノグロブリン分子の領域を含むキメラドメインである。たとえば、ヒンジは、IgG1分子由来の第1の領域と、IgG3分子またはIgG4分子由来の第2の領域とを含み得る。上述のように、重鎖領域の定常ドメインは、これらが天然に存在する(野生型の)イムノグロブリン分子とアミノ酸配列において変動するように修飾され得ることは、この分野の当業者に理解されている。すなわち、本発明に係る抗体またはその結合フラグメントは、重鎖定常ドメイン(CH1、ヒンジ、CH2、もしくはCH3)、および/または軽鎖定常ドメイン(CL)のうちの1つ以上に対する変更または修飾を含み得る。例示的な修飾として、1つ以上のドメインの1つ以上のアミノ酸の付加、欠失、または置換が挙げられる。
【0059】
「ヒンジ領域」
本明細書中使用される場合、用語「ヒンジ領域」は、CH1ドメインとCH2ドメインとを結合する重鎖分子の領域を含む。このヒンジ領域は、約25の残基を含み、可動性であり、よって、2つのN末端の抗原結合領域を独立して移動させる。ヒンジ領域は、3つの明確に異なるドメイン:上部、中央、および下部のヒンジドメインに細分することができる(Roux et al., 1998. J Immunol. 161(8):4083-90)。
【0060】
「ヒト化抗体またはその結合フラグメント」
「ヒト化抗体またはその結合フラグメント」は、本明細書中使用される場合、非ヒトのイムノグロブリン由来の最小限の配列を含むキメラ抗体またはその結合フラグメントを表す。これは、ヒトの細胞によって作られるものとより密接に類似する抗体に変えられている可変領域および定常領域を有する非ヒト細胞によって作られる抗体、たとえば非ヒトの抗体のアミノ酸配列をヒトの生殖系列のイムノグロブリン配列で見出されるアミノ酸が組み込まれるように変化させることによって作られる、抗体を含む。本発明に係るヒト化抗体またはその結合フラグメントは、たとえばCDRにおいて、ヒトの生殖系列のイムノグロブリン配列によりコードされないアミノ酸残基(たとえばin vitroでのランダムもしくは部位特異的な変異誘発またはin vivoでの体細胞変異により導入される変異)を含み得る。また用語「ヒト化抗体またはその結合フラグメント」は、マウスなどの別の種の哺乳類の生殖系列由来のCDR配列が、ヒトのフレームワーク配列に移植されている抗体およびその結合フラグメントを含む。言い換えると、用語「ヒト化抗体またはその結合フラグメント」は、レシピエントのヒトの抗体のCDRが、ドナーの非ヒトの抗体、たとえばマウスの抗体由来のCDRにより置き換えられている抗体またはその結合フラグメントを表す。またヒト化抗体またはその結合フラグメントは、フレームワーク配列にドナー起源の残基を含み得る。また、ヒト化抗体またはその結合フラグメントは、ヒトのイムノグロブリンの定常領域の少なくとも一部を含み得る。ヒト化抗体およびその結合フラグメントはまた、レシピエント抗体でも組み込まれるCDRもしくはFRの配列でも見出されない残基をも含み得る。ヒト化は、当該分野で知られている方法を使用して行われ得る(たとえば、抗体を「超ヒト化(superhumanizing)」する技術(たとえばTan et al., 2002. J Immunol. 169(2):1119-25)および「再表面処理(resurfacing)」する技術(たとえばStaelens et al., 2006. Mol Immunol. 43(8):1243-57; Roguska et al., 1994. Proc Natl Acad Sci USA. 91(3):969-73)などの技術を含む、Jones et al., 1986. Nature. 321(6069):522-5; Riechmann et al., 1988. Nature. 332(6162):323-7; Verhoeyen et al., 1988. Science. 239(4847):1534-6; Presta, 1992. Curr Opin Biotechnol. 3(4):394-8;米国特許第4,816,567号)。
【0061】
本発明に係る抗体またはその結合フラグメントをヒト化するための方法は、当該分野でよく知られており、以下の実施例のセクションで詳述されている。ヒト化抗体またはその結合フラグメントの作製に使用するためのヒトの軽鎖および重鎖の可変ドメインの選択は、抗原性を低減するために非常に重要である。いわゆる「ベストフィット」法により、本発明に係る抗体またはその結合フラグメントの可変ドメインの配列は、既知のヒトの可変ドメイン配列の全ライブラリーに対してスクリーニングされる。次に、マウスの配列に最も近いヒトの配列が、ヒト化抗体用のヒトのフレームワーク(FR)として認容される(Sims et al., 1993. J Immunol. 151(4):2296-308; Chothia & Lesk, 1987. J Mol Biol. 196(4):901-17)。
【0062】
本発明に係る抗体またはその結合フラグメントをヒト化するための別の方法は、軽鎖または重鎖の特定の下位グループである全てのヒト抗体のコンセンサス配列由来の特定のFRを使用する。同じフレームワークが、いくつかの異なるヒト化抗体で使用され得る(Carter et al., 1992. Proc Natl Acad Sci USA. 89(10):4285-9; Presta et al., 1993. J Immunol. 151(5):2623-32)。さらに、抗体が、hCD45RCに対する高い親和性の保持および他の好ましい生物学的な性質を伴いヒト化されることが重要である。この目的を達成するために、好ましい方法によって、ヒト化抗体およびその結合フラグメントは、親の配列およびヒト化された配列の3次元モデルを使用して親の配列および様々な概念上のヒト化産物の解析のプロセスにより、調製される。3次元のイムノグロブリンモデルは市販されており、当業者によく知られている。選択された候補のイムノグロブリン配列の可能性のある3次元構造を図示および表示するコンピュータプログラムが利用可能である。これら表示の調査は、候補のイムノグロブリン配列の機能における残基の可能性のある役割の解析、すなわち、そのエピトープに結合する候補のイムノグロブリンの特性に影響を与える残基の解析を可能にする。この方法で、CDR残基を、コンセンサスであり重要な配列から選択および組み合わせることにより、hCD45RCに対する親和性の増大などの望ましい抗体の特徴を得ることができる。一般的に、CDR残基は、抗原結合に影響を与えることに直接および最も実質的に関与している。
【0063】
本発明に係る抗体またはその結合フラグメントをヒト化するための別の方法は、免疫化のためヒトの免疫系の一部を担持するトランスジェニック動物またはトランスクロモソミックス動物を使用することである。宿主として、これら動物のイムノグロブリン遺伝子は、機能的なヒトのイムノグロブリン遺伝子と置き換えられている。よって、これら動物により産生される抗体またはこれら動物のB細胞から作製されたハイブリドーマにおける抗体は、すでにヒト化されている。このようなトランスジェニック動物またはトランスクロモソミックス動物の例として、限定するものではないが、以下が挙げられる:
XenoMouse(Abgenix, Fremont, CA)(米国特許第5,939,598号、同第6,075,181号、同第6,114,598号、同第6,150,584号、および同第6,162,963号に記載);
HuMAb Mouse(登録商標)(Medarex, Inc.)(Lonberg et al., 1994. Nature. 368(6474):856-859; Lonberg & Huszar, 1995. Int Rev Immunol. 13(1):65-93; Harding & Lonberg, 1995. Ann N Y Acad Sci. 764:536-46; Taylor et al., 1992. Nucleic Acids Res. 20(23):6287-95; Chen et al., 1993. Int Immunol. 5(6):647-56; Tuaillon et al., 1993. Proc Natl Acad Sci USA. 90(8):3720-4; Choi et al., 1993. Nat Genet. 4(2):117-23; Chen et al., 1993. EMBO J. 12(3):821-30; Tuaillon et al., 1994. J Immunol. 152(6):2912-20; Taylor et al., 1994. Int Immunol. 6(4):579-91; Fishwild et al., 1996. Nat Biotechnol. 14(7):845-51に記載);
KM Mouse(登録商標)(国際特許公開公報第2002043478号に記載);
TCマウス(Tomizuka et al., 2000. Proc Natl Acad Sci USA. 97(2):722-7に記載);および
OmniRat(商標)(OMT, Inc.)(国際特許公開公報第2008151081号;Geurts et al., 2009. Science. 325(5939):433; Menoret et al., 2010. Eur J Immunol. 40(10):2932-41; Osborn et al., 2013. J Immunol. 190(4):1481-90に記載)。
【0064】
ヒト化抗体およびその結合フラグメントはまた、免疫化のため、ヒトの抗体のレパートリーを発現するように操作されている他のトランスジェニック動物を使用すること(Jakobovitz et al., 1993. Nature. 362(6417):255-8)によるか、またはファージディスプレイ法を使用する抗体のレパートリーの選択によるものなどの様々な他の技術により、産生され得る。このような技術は当業者に知られており、本出願で開示されるモノクローナル抗体またはその結合フラグメントから出発して実施され得る。
【0065】
一部の実施形態では、HCVRおよびLCVR(またはそれらのCDR)を含む本発明に係る抗体またはその結合フラグメントは、完全にまたは実質的にヒトであるアミノ酸配列の、第1の定常ドメイン(CH1および/またはCL)を含み得る。
【0066】
一部の実施形態では、特に本発明に係る抗体またはその結合フラグメントが、ヒトの治療で使用を意図している場合、通常、定常領域全体またはその少なくとも一部は、完全にまたは実質的にヒトのアミノ酸配列を有する。よって、CH1ドメイン、ヒンジ領域、CH2ドメイン、CH3ドメイン、およびCLドメイン(および存在する場合はCH4ドメイン)の1つ以上またはいずれかの組み合わせは、そのアミノ酸配列に関して、完全にまたは実質的にヒトであり得る。好適には、CH1ドメイン、ヒンジ領域、CH2ドメイン、CH3ドメイン、およびCLドメイン(および存在する場合はCH4ドメイン)は、全て、完全にまたは実質的にヒトのアミノ酸配列を有し得る。
【0067】
ヒト化抗体またはキメラ抗体またはそれらの結合フラグメントの定常領域の文脈における用語「実質的にヒト」は、ヒトの定常領域と少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、またはそれ以上のアミノ酸配列同一性を表す。
【0068】
この文脈での用語「ヒトのアミノ酸配列」は、生殖系列の再配置されている遺伝子および体細胞で変異した遺伝子を含むヒトのイムノグロブリン遺伝子によりコードされるアミノ酸配列を表す。本発明はまた、「完全にヒトのヒンジ領域」の存在が明らかに必要とされる実施形態を除き、ヒトの配列に関して1つ以上のアミノ酸の付加、欠失、または置換によって変更されている「ヒト」の配列の定常ドメインを含むタンパク質をも企図している。
【0069】
本発明に係る抗体またはその結合フラグメントにおける「完全にヒトのヒンジ領域」の存在は、免疫原性を最小限にし、かつ、抗体の安定性を最適化するために好適であり得る。1つ以上のアミノ酸の置換、挿入、または欠失が、重鎖および/または軽鎖の定常領域の中、特にFc領域の中でなされ得ることが企図されている。アミノ酸の置換は、異なる天然に存在するアミノ酸または非天然もしくは修飾されたアミノ酸で置換されたアミノ酸の置き換えをもたらし得る。また、たとえばグリコシル化パターンの変化(たとえばNまたはOが結合したグリコシル化部位の付加または欠失による)などの他の構造的な修飾も許容される。抗体またはその結合フラグメントの意図される使用に応じて、本発明に係る抗体またはその結合フラグメントを、そのFc受容体に対する結合特性に関して、たとえばエフェクター機能を調節するために、修飾することが望ましいとされ得る。たとえば、システイン残基をFc領域に導入することにより、この領域に鎖間ジスルフィド結合の形成が可能となり得る。このように作製されるホモ二量体の抗体は、エフェクター機能を改善している可能性がある(Caron et al., 1992. J Exp Med. 176(4):1191-5; Shopes, 1992. J Immunol. 148(9):2918-22)。
【0070】
「超可変ループ」
用語「超可変ループ」は、厳密には相補性決定領域(CDR)と同義ではなく、これは超可変ループ(HV)が構造に基づき定義され、CDRが配列の多様性に基づき定義されるためであり(Kabat et al., 1991. Sequences of proteins of immunological interest (5th ed.). Bethesda, MD: U.S. Dep. of Health and Human Services)、HVおよびCDRの限定は、一部のVHドメインおよびVLドメインで異なる場合があるためである。VLドメインおよびVHドメインのCDRは、通常、本明細書中上記ですでに説明されているように、Kabat/Chothiaの定義により定義され得る。
【0071】
「同一性」または「同一な」
本明細書中使用される場合、用語「同一性」または「同一な」は、2つ以上のアミノ酸の配列間または2つ以上の核酸配列の配列間の関係に使用される場合、2つ以上のアミノ酸残基の鎖間または核酸残基の鎖間の一致数により決定される、アミノ酸配列間または核酸配列間の配列の関連性の度合いを表す。「同一性」は、特定の数学モデルまたはコンピュータプログラム(すなわち「アルゴリズム」)により提示されるギャップアライメント(存在する場合)を有する2つ以上の配列のうちの小さな方に合わせた配列間の同一である一致のパーセントを測定する。
【0072】
関連するアミノ酸配列または核酸配列の同一性は、既知の方法により容易に計算され得る。このような方法として、限定するものではないが、Lesk A. M. (1988). Computational molecular biology: Sources and methods for sequence analysis. New York, NY: Oxford University Press; Smith D. W. (1993). Biocomputing: Informatics and genome projects. San Diego, CA: Academic Press; Griffin A. M. & Griffin H. G. (1994). Computer analysis of sequence data, Part 1. Totowa, NJ: Humana Press; von Heijne G. (1987). Sequence analysis in molecular biology: treasure trove or trivial pursuit. San Diego, CA: Academic press; Gribskov M. R. & Devereux J. (1991). Sequence analysis primer. New York, NY: Stockton Press; Carillo et al., 1988. SIAM J Appl Math. 48(5):1073-82に記載されるものが挙げられる。
【0073】
同一性を決定するための好ましい方法は、試験される配列間に最大の一致を提供するように設計される。同一性を決定する方法は、公開されているコンピュータプログラムで記載されている。2つの配列間の同一性を決定するための好ましいコンピュータプログラムの方法として、GAP(Genetics Computer Group, University of Wisconsin, Madison, WI; Devereux et al., 1984. Nucleic Acids Res. 12(1 Pt 1):387-95)、BLASTP、BLASTN、およびFASTA(Altschul et al., 1990. J Mol Biol. 215(3):403-10)を含む、GCGプログラムパッケージが挙げられる。BLASTXプログラムは、アメリカ国立生物工学情報センター(NCBI)および他のソース(BLAST Manual, Altschul et al. NCB/NLM/NIH Bethesda, Md. 20894)から公的に入手可能である。よく知られているSmith Watermanアルゴリズムもまた同一性を決定するために使用され得る。
【0074】
「免疫寛容」
用語「免疫寛容」は、本明細書中使用される場合、他の物質または組織に対する免疫応答を保存しつつ、免疫応答を誘発する特性を有する特定の物質または組織に対する免疫系の無応答性の状態に関する。
【0075】
「免疫応答」
用語「免疫応答」は、本明細書中使用される場合、T細胞および/またはB細胞が媒介する免疫応答を含む。例示的な免疫応答として、限定するものではないが、T細胞の応答(たとえばサイトカイン産生および細胞傷害活性)が挙げられるが、同様に、T細胞の活性化(たとえばマクロファージ)により間接的に達成される免疫応答も含む。免疫応答に関与する免疫細胞として、リンパ球(たとえばCD4+、CD8+、Th1、およびTh2細胞を含む、B細胞およびT細胞)、抗原提示細胞(たとえば樹状細胞などのプロフェッショナル抗原提示細胞)、ナチュラルキラー細胞、骨髄系細胞(マクロファージ、好酸球、マスト細胞、好塩基球、および顆粒球など)が挙げられる。
【0076】
「免疫特異的」、「~に特異的」、または「特異的に結合する」
本明細書中使用される場合、抗原(たとえば配列番号1)と検出可能なレベル、好ましくは約106M-1以上、好ましくは約107M-1、108M-1、5×108M-1、109M-1、5×109M-1、またはそれ以上の値以上の親和性定数(KA)で反応する場合、抗体またはその結合フラグメントは、上記抗原に「免疫特異的」であるか、「特異的」であるか、または「特異的に結合する」と言われる。
【0077】
同種抗原に対する抗体またはその結合フラグメントの親和性はまた、一般に、平衡解離定数(KD)としても表される。抗原(たとえば配列番号1)と検出可能なレベル、好ましくは10-6M以下、好ましくは10-7M、5×10-8M、10-8M、5×10-9M、10-9M、またはそれより低い値以下のKDで反応する場合、抗体またはその結合フラグメントは、上記抗原に「免疫特異的」であるか、「特異的」であるか、または「特異的に結合する」と言われる。
【0078】
抗体またはその結合フラグメントの親和性は、従来技術、たとえばScatchard, 1949. Ann NY Acad Sci. 51:660-672により記載される技術を使用して容易に決定され得る。抗体またはその結合フラグメントの抗原、細胞、または組織に対する結合特性は、全般的に、たとえばELISA、免疫蛍光ベースのアッセイ、たとえば免疫組織化学法(IHC)および/もしくは蛍光活性化セルソーティング(FACS)を含む免疫検出方法を使用するか、または表面プラズモン共鳴(SPR、たとえばBIAcore(登録商標)を使用)により、決定および評価され得る。
【0079】
「モノクローナル抗体」
本明細書中使用される場合、用語「モノクローナル抗体」は、実質的に同種の抗体の集団から得られる抗体、すなわち、最小量で存在し得る天然に存在する可能性のある変異を除き同一である集団で構成される個別の抗体を表す。たとえば、個別の抗体は、翻訳後修飾に関して、特にそのグリコシル化構造または等電点に関して変動し得るが、そのすべては、同じ重鎖および軽鎖の配列によりコードされており、よって、翻訳後修飾の前には、同じタンパク質配列を有し得る。とはいえ、翻訳後修飾(たとえば重鎖のC末端のリジンの切断、アスパラギン残基の脱アミド、および/またはアスパラギン酸残基の異性化)に関連するタンパク質配列の特定の差異は、モノクローナル抗体組成物に存在する個別の抗体間に存在し得る。
【0080】
モノクローナル抗体は、著しく特異的であり、単一の抗原部位を対象とする。さらに、異なる決定因子(エピトープ)を対象とする異なる抗体を含むポリクローナル抗体調製物とは対照的に、各モノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定因子を対象とする。その特異性に加え、モノクローナル抗体は、他の抗体が混入せずに合成され得る点で好適である。修飾語「モノクローナル」は、何らかの特定の方法による抗体の生成を必要とすると解釈するべきではない。たとえば、本発明に係るモノクローナル抗体またはその結合フラグメントは、Kohler et al., 1975. Nature. 256(5517):495-7により最初に記載されたハイブリドーマの方法により調製されてもよく、または細菌、真核の動物細胞または植物細胞における組み換えDNA方法を使用して作製されてもよい(米国特許第4,816,567号)。また「モノクローナル抗体」は、たとえばClackson et al., 1991. Nature. 352(6336):624-8およびMarks et al., 1991. J Mol Biol. 222(3):581-97に記載の技術を使用して、ファージ抗体ライブラリーから単離され得る。
【0081】
「単一遺伝子疾患」
用語「単一遺伝子疾患」は、「単一遺伝子障害」とも呼ばれており、単一の遺伝子の修飾が、対象の障害、疾患、または病態に関連する遺伝子障害を表す。比較的希ではあるが、世界中で何百万人もの人々が単一遺伝子疾患に冒されている。現在、科学者らは、10,000超のヒトの疾患が、単一遺伝子性であることが知られていると推定している。純粋な遺伝子疾患は、ヒトのDNAにおける単一の遺伝子の単一のエラーにより引き起こされる。疾患の性質は、修飾された遺伝子により行われる機能に応じて変化する。単一遺伝子性疾患または単一遺伝子疾患(single-gene or monogenic diseases)は、変異した遺伝子自体および1つまたは2つのアレルでのその発生に応じて、6つのカテゴリー:常染色体優性、常染色体劣性、X連鎖性優性、X連鎖性劣性、Y連鎖性、およびミトコンドリア性(mitochondrial)に分類され得る。
【0082】
単一遺伝子疾患の一部の例として、限定するものではないが、11-ヒドロキシラーゼ欠損症;17,20-デスモラーゼ欠損症;17-ヒドロキシラーゼ欠損症;3-ヒドロキシイソ酪酸性尿症;3-ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ欠損症;46,XY性器発育不全;AAA症候群;ABCA3欠損症;ABCC8-関連高インスリン症;無セルロプラスミン血症;軟骨無発生症2型;先端peeling skin症候群;腸性肢端皮膚炎;副腎皮質微小結節型過形成;副腎白質ジストロフィー;副腎脊髄ニューロパチー;エカルディ・グティエール症候群;Alagille病;Alpers症候群;α-マンノース症;Alstrom症候群;アルツハイマー病;遺伝性エナメル質形成不全症;アーミッシュ型小頭症;筋萎縮性側索硬化症;AD(anauxetic dysplasia);アンドロゲン不応症(androgen insentivity syndrome);アントレー・ビクスラー症候群;APECED;アペール症候群;涙腺および唾液腺の形成不全(aplasia of lacrimal and salivary glands);アルギニン血症;不整脈源性右室異形成(ARVD2);Arts症候群;アリールスルファターゼ欠失型異染性白質ジストロフィー;毛細血管拡張性運動失調症;自己免疫性リンパ増殖症候群;多腺性自己免疫症候群1型;常染色体優性無汗性外胚葉形成異常症;常染色体優性多発性嚢胞腎疾患;常染色体劣性小耳症;常染色体劣性腎性糖尿;常染色体性内臓逆位;バルデ・ビードル症候群;バーター症候群;基底細胞母斑症候群;バッテン病;良性再発性肝内胆汁うっ滞;βマンノース症;ベスレムミオパチー;ブラックファン・ダイアモンド貧血;瞼裂狭小;バイラー病;C症候群;CADASIL症候群;カルバミルリン酸合成酵素欠損症;心臓・顔・皮膚症候群;Carney triad;カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼ欠損症;軟骨毛髪低形成症;cblC型の複合型メチルマロン酸尿症;CD18欠損症;CD3Z-関連原発性T-細胞免疫不全;CD40L欠損症;CDAGS症候群;CDG1a;CDG1b;CDG1m;CDG2c;CEDNIK症候群;中心コア疾患;中心核ミオパチー;脳毛細血管奇形;脳・眼・顔・骨格症候群4型;脳・眼・顔(gacio)・骨格症候群;脳腱黄色腫症;CHARGE連合;ケルビズム;CHILD症候群;慢性肉芽腫症;慢性再発性多発性骨髄炎;シトリン欠損症;古典的ヘモクロマトーシス;CNPPB症候群;コバラミンC疾患;コケイン症候群;コエンザイムQ10欠損症;コフィン・ローリー症候群;コーエン症候群;凝固第V因子複合欠乏症;分類不能型免疫不全症;完全型アンドロゲン不応症;錐体杆体ジストロフィー;コンフォメーション病;先天性胆汁酸合成異常症1型;先天性胆汁酸合成異常症2型;先天性赤血球生成性ポルフィリン症;先天性全身性骨硬化症;コルネリア・デ・ランゲ症候群;Cousin症候群;カウデン病;COX欠損症;クリグラー・ナジャー病;Crigler-Najjar症候群1型;Crisponi症候群;クラリーノ症候群;Curth-Macklin型ヤマアラシ状魚鱗癬;皮膚弛緩症;シスチン症;d-2-ヒドロキシグルタル酸尿症;DDP症候群;デジェリン・ソッタス病;デニス・ドラッシュ症候群;デスミン心筋症;デスミンミオパチー;DGUOK-関連ミトコンドリアDNA欠乏;グルタミン酸塩代謝の障害;遠位型脊髄性筋萎縮症5型;DNA修復疾患;優性視神経萎縮症;Doyne蜂巣状網膜ジストロフィー(DHRD:Doyne honeycomb retinal dystrophy);デュシェンヌ型筋ジストロフィー;先天性角化異常症;エーラース・ダンロス症候群4型;エーラース・ダンロス症候群;Elejalde疾患;Ellis-van Creveld疾患;エメリー・ドレイフス型筋ジストロフィー;脳筋症性mtDNA枯渇症候群;酵素性疾患;EPCAM-関連の先天性タフティング腸症(tufting enteropathy);幽門閉鎖を伴う表皮水疱症;運動誘発性低血糖;顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー;Faisalabad組織球増殖症;家族性非定型ミコバクテリア症;家族性毛細血管奇形-動静脈;家族性食道アカラシア;家族性グロムス静脈奇形;家族性血球貪食性リンパ組織球症;家族性地中海熱;家族性巨大腎杯症;家族性神経鞘腫症;家族性二分脊椎症;家族性無脾症(splenic asplenia)/脾臓形成不全;家族性血栓性血小板減少性紫斑病;ファンコニ疾患;Feingold症候群;FENIB;進行性骨化性線維異形成症;FKTN;Francois-Neetens斑状角膜ジストロフィー(fleck corneal dystrophy);Frasier症候群;フリートライヒ運動失調症;FTDP-17;フコシドーシス;G6PD欠損症;ガラクトシアリドーシス;ギャロウェイ症候群;Gardner症候群;ゴーシェ病;ギッテルマン症候群;GLUT-1欠損症;糖原病1b型;糖原病2型;糖原病3型;糖原病4型;糖原病9a型;糖原病;GM1-ガングリオシドーシス;Greenberg症候群;グレイグ尖頭多合指症候群;遺伝性毛髪疾患(hair genetic diseases);HANAC症候群;道化師型先天魚鱗癬;HDR症候群;ヘモクロマトーシス3型;ヘモクロマトーシス4型;血友病A;遺伝性血管浮腫3型;遺伝性血管浮腫;遺伝性出血性毛細血管拡張症;遺伝性低フィブリノーゲン血症;遺伝性骨内血管奇形;遺伝性平滑筋腫症および腎細胞癌;遺伝性神経痛性筋萎縮症;遺伝性感覚性・自律神経性ニューロパチー型;Hermansky-Pudlak疾患;HHH症候群;HHT2;発汗性外胚葉形成異常症1型;発汗性外胚葉形成異常症;HNF4A-関連の高インスリン症;HNPCC;ヒトの小頭症を伴う免疫不全;ハンチントン病;高IgD症候群;高インスリン症-高アンモニア血症症候群;網膜色素上皮の肥大;軟骨低発生症(hypochondrogenesis:HCG);低汗性外胚葉形成異常症;ICF症候群;特発性先天性偽性腸閉塞;高IgM1型を伴う免疫不全;高IgM3型を伴う免疫不全;高IgM4型を伴う免疫不全;高IgM5型を伴う免疫不全;甲状腺ホルモン生合成の先天的なエラー;乳児性腹部ミオパチー;乳児性X連鎖性脊髄性筋萎縮症;妊娠者の肝内胆汁うっ滞;IPEX症候群;IRAK4欠損症;孤立性先天性無脾症;Jeune症候群;Johanson-Blizzard症候群;Joubert症候群;JP-HHT症候群;若年性ヘモクロマトーシス;若年性ヒアリン線維腫症;若年性ネフロン癆;歌舞伎顔貌症候群(Kabuki mask syndrome);カルマン症候群;カルタゲナー症候群;KCNJ11関連の高インスリン症;カーンズ・セイヤー症候群;Kostmann病;Kozlowski型の脊椎骨幹端異形成;Krabbe疾患;LADD症候群;後期乳児発症性神経セロイドリポフスチン症;LCK欠損症;LDHCP症候群;Legius症候群;リー症候群;致死性先天性拘縮症候群2;致死性先天性拘縮症候群;致死性拘縮症候群3型;致死性新生児CPT欠損症2型;致死性骨硬化性骨異形成;LIG4症候群;滑脳症1型;滑脳症3型;ロイス・ディーツ症候群;低リン脂質関連の胆石症;リジン尿性タンパク質不耐症;マフッチ症候群;マジード症候群;マンノース結合タンパク質欠損症;マルファン疾患;マーシャル症候群;MASA症候群;MCAD欠損症;マキューン・オルブライト症候群;MCKD2;Meckel症候群;Meesmann角膜変性症;巨大膀胱短小結腸腸管蠕動不全症;巨赤芽球性貧血1型;MEHMO;MELAS;メルニック・ニードルズ症候群;MEN2;メンケス病;異染性白質ジストロフィー;メチルマロン酸尿症;メチルマロン酸尿症(methylvalonic aciduria);小瞳孔症-先天性ネフローゼ症候群;微絨毛萎縮症(microvillous atrophy);ミトコンドリア神経性胃腸管系脳筋症;連珠毛;モノソミーX;モザイクトリソミー9症候群;モワット・ウィルソン症候群;ムコリピドーシス2型;ムコリピドーシスMa型;ムコリピドーシスIV型;ムコ多糖症;ムコ多糖症3A型;ムコ多糖症3C型;ムコ多糖症4B型;マルチミニコア疾患;多発性アシル-CoA脱水素欠損症;多発性皮膚性および粘膜性の静脈奇形;多発性内分泌腫瘍症1型;マルチプルスルファターゼ欠損症;NAIC;爪膝蓋骨症候群;ネマリンミオパチー;新生児真性糖尿病;新生児界面活性物質欠乏症;ネフロン癆(nephronophtisis);Netherton疾患;神経線維腫症(neurofibromatoses);神経線維腫症1型;ニーマン・ピック病A型;ニーマン・ピック病B型;ニーマン・ピック病C型;NKX2E;ヌーナン症候群;NAIC(North American Indian childhood cirrhosis);NROB1複製-関連のDSD;遺伝性眼疾患;眼耳症候群(oculo-auricular syndrome);OLEDAID;寡巨大糸球体症;乏巨ネフロン性腎形成不全;Ollier病;Opitz-Kaveggia症候群;口顔指症候群1型;口顔指症候群2型;パジェット骨病;耳・口蓋・指症候群2型;OXPHOS病;掌蹠角化症;汎小葉性腎芽腫症;パークスウェーバー症候群;パーキンソン病;21q22.2-q22.3の部分欠失;Pearson症候群;ペリツェウス・メルツバッハ病;ペンドレッド症候群;カントレル五徴症;ペルオキシソームアシルCoAオキシダーゼ欠損症;ポイツ・ジェガース(Peutz-Jeghers)症候群;ファイファー症候群;ピアソン症候群;色素性結節状副腎皮質病変;ピペコリン酸血症;ピット-ホプキンス症候群;プラズマローゲン欠損症;胸膜肺芽腫および嚢胞状腎腫;PLO(polycystic lipomembranous osteodysplasia);ポルフィリン症;早期卵巣機能不全;原発性肢端紅痛症;原発性ヘモクロマトーシス(hemochromatoses);原発性高シュウ酸尿症;進行性家族性肝内胆汁うっ滞;プロピオン酸血症;ピルビン酸デカルボキシラーゼ欠損症;RAPADILINO症候群;腎シスチン症;ラブドイド腫瘍素因症候群;Rieger症候群;環状染色体(ring chromosome)4;Roberts症候群;Robinow-Sorauf症候群;Rothmund-Thomson症候群;SCID;Saethre-Chotzen症候群;サンドホフ病;SC phocomelia症候群;SCAS;Schinzelアザラシ状奇形症候群;短肋骨多指症候群1型;短肋骨多指症候群4型;短肋骨多指症候群2型;短肋骨多指症候群3型;Shwachman病;Shwachman-Diamond病;鎌状赤血球症;シルバー・ラッセル症候群;シンプソン・ゴラビ・ベーメル症候群;スミス・レムリ・オピッツ症候群;SPG7-関連の遺伝性痙性対麻痺;球状赤血球症;長骨欠損症を伴う裂手裂足症(split-hand/foot malformation with long bone deficiencies);脊椎肋骨異形成症(spondylocostal dysostosis);封入体を伴う孤発性腹部ミオパチー;蓄積疾患;STRA6関連症候群;テイ=サックス病;致死性骨異形成症;甲状腺代謝疾患;トゥレット症候群;トランスサイレチン関連のアミロイドーシス;トリソミー13;トリソミー22;トリソミー2p症候群;結節性硬化症;タフティング腸症(tufting enteropathy);尿素回路疾患;Van Den Ende-Gupta症候群;Van der Woude症候群;多彩異数性モザイク症候群;VLCAD欠損症;フォンヒッペル・リンドウ病;ワールデンブルグ症候群;WAGR症候群;Walker-Warburg症候群;ウェルナー症候群;ウィルソン病;Wolcott-Rallison症候群;W
olfram症候群;X連鎖性無ガンマグロブリン血症;X連鎖性慢性特発性偽性腸閉塞;舌小帯短縮症を伴うX連鎖性口蓋裂;X連鎖性優性点状軟骨異形成症;X連鎖性外胚葉異形成症;X連鎖性Emery-Dreifuss筋ジストロフィー;X連鎖性滑脳症;X連鎖性リンパ増殖性疾患;X連鎖性内臓逆位;キサンチン尿症1型;キサンチン尿症2型;色素性乾皮症;XPV;ならびにZellweger病が挙げられる。
【0083】
「対象」
本明細書中使用される場合、用語「対象」は、哺乳類、好ましくはヒトを表す。一実施形態では、対象は、「患者」、すなわち、医療の受診を待機しているか、または医療を受診しているか、または過去/現在/将来に医療の対象であった/である/となりえるか、または疾患の発達に関してモニタリングされている温血動物、より好ましくはヒトであり得る。ここで用語「哺乳類」は、ヒト、飼育動物および家畜、ならびに、動物園用動物、スポーツ用動物、またはペットの動物、たとえばイヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、ウサギなどを含むいずれかの哺乳類を表す。好ましくは、哺乳類は、霊長類、より好ましくはヒトである。
【0084】
「治療上有効量」
本明細書中使用される場合、「治療上有効量」との表現は、対象に有意に負のまたは有害な副作用をもたらすことなく、(1)単一遺伝子疾患の発症の遅延もしくは予防;(2)単一遺伝子疾患の1つ以上の症状の進行、増悪、もしくは悪化の遅延もしくは停止;(3)単一遺伝子疾患の症状の寛解をもたらすこと、(4)単一遺伝子疾患の重症度もしくは発症率の低減;または(5)単一遺伝子疾患の治癒を目的とする作用物質(たとえば抗CD45RC抗体)のレベル、量、または濃度を意味する。治療上有効量は、防止的または予防的作用のため、単一遺伝子疾患の発症より前に投与され得る。あるいはまたはさらに、治療上有効量は、治療作用のため、単一遺伝子疾患の開始より後に投与され得る。
【0085】
「~を処置すること(treating)」または「処置(treatment)」または「軽減」
本明細書中使用される場合、用語「~を処置すること(treating)」または「処置(treatment)」または「軽減」は、治療的手段および防止的(または予防的)手段(この目的は、標的の病態または障害を遅らせる(または弱める)ことである)の両方を表す。処置の必要のあるものは、すでに単一遺伝子疾患を有するものおよび単一遺伝子疾患を罹患しやすいものを含む。作用物質(たとえば抗CD45RC抗体)の治療上有効量を投与した後に、対象が、以下:CD45RC+細胞数の減少;CD45RC+である細胞の総数のパーセントの減少;単一遺伝子疾患に関連する症状のうちの1つ以上のある程度までの緩和(たとえば低減、軽減、緩和、もしくは阻害);罹患率および死亡率の低下;ならびに/またはクオリティオブライフの問題の改善のうちの1つ以上の観察可能および/または測定可能な減少または不存在を示す場合、対象での標的の単一遺伝子疾患の「処置」が成功している。単一遺伝子疾患における処置の成功および改善を評価するための上記パラメータは、医師によく知られている規定の手法により容易に測定可能である。
【0086】
「可変領域」または「可変ドメイン」
本明細書中使用される場合、用語「可変」は、可変ドメインVHおよびVLの特定の領域が、抗体間で、配列において著しく異なり、各特定の抗体のその標的抗原に対する結合および特異性に使用されるという事実を表す。しかしながら、可変性は、抗体の可変ドメイン全体に一様に分布しているわけではない。これは、抗原結合部位の一部を形成する、VLドメインおよびVHドメインのそれぞれにおける「超可変ループ」と呼ばれる3つのセグメントに集中している。
【0087】
Vλ軽鎖ドメインの第1、第2、および第3の超可変ループは、本明細書において、L1(λ)、L2(λ)、およびL3(λ)と呼ばれ、VLドメインにおける残基24~33(L1(λ)、9、10、または11のアミノ酸残基からなる)、49~53(L2(λ)、3残基からなる)、および90~96(L3(λ)、6残基からなる)を含むと定義され得る(Morea et al., 2000. Methods. 20(3):267-79)。
【0088】
Vκ軽鎖ドメインの第1、第2、および第3の超可変ループは、本明細書において、L1(κ)、L2(κ)、およびL3(κ)と呼ばれ、VLドメインにおける残基25~33(L1(κ)、6、7、8、11、12、または13の残基からなる)、49~53(L2(κ)、3つの残基からなる)、および90~97(L3(κ)、6つの残基からなる)を含むと定義され得る(Morea et al., 2000. Methods. 20(3):267-79)。
【0089】
VHドメインの第1、第2、および第3の超可変ループは、本明細書において、H1、H2およびH3と呼ばれており、VHドメインにおける残基25~33(H1、7、8、または9つの残基からなる)、52~56(H2、3または4つの残基からなる)、および91~105(H3、著しく多様な長さ)を含むと定義され得る(Morea et al., 2000. Methods. 20(3):267-79)。
【0090】
他の記載がない限り、用語L1、L2、およびL3は、それぞれ、VLドメインの第1、第2、および第3の超可変ループを表し、VκおよびVλのアイソタイプから得られる超可変ループを包有する。用語H1、H2、およびH3は、それぞれ、VHドメインの第1、第2、および第3の超可変ループを表し、ガンマ(γ)、ミュー(μ)、アルファ(α)、デルタ(δ)、またはイプシロン(ε)を含む、既知の重鎖のアイソタイプのいずれかから得られる超可変ループを包有する。超可変ループL1、L2、L3、H1、H2、およびH3は、それぞれ、本明細書中上記で定義された「相補性決定領域」または「CDR」の一部を含み得る。
【0091】
詳細な説明
本発明は、単一遺伝子疾患の予防および/または処置に使用するための、抗CD45RC抗体またはその結合フラグメントに関する。
【0092】
一実施形態では、本発明に係る使用のための抗CD45RC抗体またはその結合フラグメントは、単離されている。用語「単離されている」は、抗体またはその結合フラグメントに関して本明細書で使用される場合、上記抗体またはその結合フラグメントが、異なる抗原特異性を有する他の抗体または結合フラグメントを実質的に含まないことを意味する(たとえばCD45RCに特異的に結合する単離されている抗体は、CD45RC以外の抗原に特異的に結合する抗体を実質的に含まない)。しかしながら、1つの種由来のCD45RCに特異的に結合する単離されている抗体は、他の種由来のCD45RCなどの他の抗原との交差反応性を有し得る。さらに、単離されている抗体は、他の細胞物質および/または化学物質、特に、限定するものではないが、酵素、ホルモン、および他のタンパク質性または非タンパク質性の成分を含む、抗体の診断または治療での使用を妨げる物質を実質的に含まなくてもよい。
【0093】
一実施形態では、本発明に係る使用のための抗CD45RC抗体またはその結合フラグメントは、精製されている。一実施形態では、本発明に係る使用のための抗CD45RC抗体またはその結合フラグメントは、
(1)ローリー法により決定されるように、80重量%超、85重量%超、90重量%超、91重量%超、92重量%超、93重量%超、94重量%超、95重量%超、またはそれ以上の抗体またはその結合フラグメント、最も好ましくは96重量%超、97重量%超、98重量%超、または99重量%超の抗体またはその結合フラグメントまで;
(2)スピニングカップシーケネーター(spinning cup sequenator)の使用により少なくとも15残基のN末端もしくは内部のアミノ酸配列を得るために十分な度合いまで;または
(3)還元条件または非還元条件下でのSDS-PAGEおよびクーマシーブルーまたは好ましくは銀染色を使用することにより示される均一性まで、
精製される。
【0094】
一実施形態では、本発明に係る使用のための抗CD45RC抗体またはその結合フラグメントは、CD45RCに結合する。一実施形態では、本発明に係る使用のための抗体またはその結合フラグメントは、ヒトのCD45RC(hCD45RC)に結合する。
【0095】
一実施形態では、本発明に係る使用のための抗CD45RC抗体またはその結合フラグメントは、hCD45RCのエクソン6によりコードされているC決定因子に結合する。一実施形態では、本発明に係る使用のための抗CD45RC抗体またはその結合フラグメントは、hCD45RCのエクソン6によりコードされているC決定因子上の少なくとも1つのエピトープに結合する。
【0096】
一実施形態では、hCD45RCのエクソン6によりコードされているC決定因子上のアミノ酸配列は、配列番号1を含むかまたはからなる。一実施形態では、hCD45RCのC決定因子をコードするエクソン6の核酸配列は、配列番号2を含むかまたはからなる。
配列番号1
DVPGERSTASTFPTDPVSPLTTTLSLAHHSSAALPARTSNTTITANTS
配列番号2
GATGTCCCAGGAGAGAGGAGTACAGCCAGCACCTTTCCTACAGACCCAGTTTCCCCATTGACAACCACCCTCAGCCTTGCACACCACAGCTCTGCTGCCTTACCTGCACGCACCTCCAACACCACCATCACAGCGAACACCTCA
【0097】
一実施形態では、本発明に係る使用のための抗CD45RC抗体またはその結合フラグメントは、配列番号1またはそのフラグメントを含むかまたはからなる少なくとも1つのエピトープに結合する。
【0098】
一実施形態では、本発明に係る使用のための抗CD45RC抗体またはその結合フラグメントは、配列番号1またはそのフラグメントと、少なくとも約70%、好ましくは少なくとも75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、またはそれ以上の同一性を共有する配列を含むかまたはからなる少なくとも1つのエピトープに結合する。
【0099】
一実施形態では、本発明に係る使用のための抗CD45RC抗体またはその結合フラグメントは、配列番号2またはそのフラグメントを含むかまたはからなる核酸配列によりコードされる少なくとも1つのエピトープに結合する。
【0100】
一実施形態では、本発明に係る使用のための抗CD45RC抗体またはその結合フラグメントは、配列番号2またはそのフラグメントと、少なくとも約70%、好ましくは少なくとも75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、またはそれ以上の同一性を共有する配列を含むかまたはからなる核酸配列によりコードされる少なくとも1つのエピトープに結合する。
【0101】
一実施形態では、本発明に係る使用のための抗CD45RC抗体またはその結合フラグメントは、配列番号1もしくはそのフラグメントのうち少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、もしくは47のアミノ酸を含むかもしくはからなる少なくとも1つのエピトープ;または配列番号1もしくはそのフラグメントと、少なくとも約70%、好ましくは少なくとも75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、もしくはそれ以上の同一性を共有する配列を含むかもしくはからなる少なくとも1つのエピトープに結合する。
【0102】
一実施形態では、本発明に係る使用のための抗CD45RC抗体またはその結合フラグメントは、配列番号1もしくはそのフラグメントのうち少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、もしくは47の連続したアミノ酸を含むかもしくはからなる少なくとも1つのエピトープ;または配列番号1もしくはそのフラグメントと、少なくとも約70%、好ましくは少なくとも75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、またはそれ以上の同一性を共有する配列を含むかもしくはからなる少なくとも1つのエピトープに結合する。
【0103】
一実施形態では、配列番号1を含むかまたはからなる少なくとも1つのエピトープのフラグメントは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、または47のアミノ酸残基を含むかまたはからなる。
【0104】
一実施形態では、配列番号1を含むかまたはからなる少なくとも1つのエピトープのフラグメントは、配列番号1を含むかまたはからなる配列の、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、210、220、230、240、250、260、270、280、290、300、310、320、330、340、350、360、370、380、390、400、410、420、430、440、450、460、470、480、490、500、510、520、530、540、550、560、570、580、590、600、610、620、630、640、650、660、670、680、690、700、710、720、73、740、750、760、770、780、790、800、810、820、830、840、850、860、870、880、890、900、910、920、930、940、950、960、970、980、990、1000、1010、1020、1030、1040、1050、1060、1070、1080、1090、1100、またはそれ以上の連続したアミノ酸残基にわたる、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、または47のアミノ酸残基を含むかまたはからなる。
【0105】
一実施形態では、配列番号1を含む配列は、UniProt Accession P08575-3(version 3, modified March 28, 2018-Checksum:6E942E2BF6B17AC5)に対応する配列番号3、または配列番号3と少なくとも約70%、好ましくは少なくとも75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、もしくはそれ以上の同一性を共有する配列である。
配列番号3
MTMYLWLKLLAFGFAFLDTEVFVTGQSPTPSPTGLTTAKMPSVPLSSDPLPTHTTAFSPASTFERENDFSETTTSLSPDNTSTQVSPDSLDNASAFNTTGVSSVQTPHLPTHADSQTPSAGTDTQTFSGSAANAKLNPTPGSNAISDVPGERSTASTFPTDPVSPLTTTLSLAHHSSAALPARTSNTTITANTSDAYLNASETTTLSPSGSAVISTTTIATTPSKPTCDEKYANITVDYLYNKETKLFTAKLNVNENVECGNNTCTNNEVHNLTECKNASVSISHNSCTAPDKTLILDVPPGVEKFQLHDCTQVEKADTTICLKWKNIETFTCDTQNITYRFQCGNMIFDNKEIKLENLEPEHEYKCDSEILYNNHKFTNASKIIKTDFGSPGEPQIIFCRSEAAHQGVITWNPPQRSFHNFTLCYIKETEKDCLNLDKNLIKYDLQNLKPYTKYVLSLHAYIIAKVQRNGSAAMCHFTTKSAPPSQVWNMTVSMTSDNSMHVKCRPPRDRNGPHERYHLEVEAGNTLVRNESHKNCDFRVKDLQYSTDYTFKAYFHNGDYPGEPFILHHSTSYNSKALIAFLAFLIIVTSIALLVVLYKIYDLHKKRSCNLDEQQELVERDDEKQLMNVEPIHADILLETYKRKIADEGRLFLAEFQSIPRVFSKFPIKEARKPFNQNKNRYVDILPYDYNRVELSEINGDAGSNYINASYIDGFKEPRKYIAAQGPRDETVDDFWRMIWEQKATVIVMVTRCEEGNRNKCAEYWPSMEEGTRAFGDVVVKINQHKRCPDYIIQKLNIVNKKEKATGREVTHIQFTSWPDHGVPEDPHLLLKLRRRVNAFSNFFSGPIVVHCSAGVGRTGTYIGIDAMLEGLEAENKVDVYGYVVKLRRQRCLMVQVEAQYILIHQALVEYNQFGETEVNLSELHPYLHNMKKRDPPSEPSPLEAEFQRLPSYRSWRTQHIGNQEENKSKNRNSNVIPYDYNRVPLKHELEMSKESEHDSDESSDDDSDSEEPSKYINASFIMSYWKPEVMIAAQGPLKETIGDFWQMIFQRKVKVIVMLTELKHGDQEICAQYWGEGKQTYGDIEVDLKDTDKSSTYTLRVFELRHSKRKDSRTVYQYQYTNWSVEQLPAEPKELISMIQVVKQKLPQKNSSEGNKHHKSTPLLIHCRDGSQQTGIFCALLNLLESAETEEVVDIFQVVKALRKARPGMVSTFEQYQFLYDVIASTYPAQNGQVKKNNHQEDKIEFDNEVDKVKQDANCVNPLGAPEKLPEAKEQAEGSEPTSGTEGPEHSVNGPASPALNQGS
【0106】
一実施形態では、少なくとも1つのエピトープは、立体構造的なエピトープである。別の実施形態では、少なくとも1つのエピトープは、連続的なエピトープ(sequential epitope)である。
【0107】
一実施形態では、本発明に係る使用のための抗CD45RC抗体またはその結合フラグメントは、約5×10-7M以下、好ましくは約2.5×10-7M以下、約1×10-7M以下、約7.5×10-8M以下、約5×10-8M以下、約1×10-8M以下の平衡解離定数(Kd)でhCD45RCに結合する。
【0108】
一実施形態では、本発明に係る使用のための抗CD45RC抗体またはその結合フラグメントは、約1×104M-1秒-1以上、より好ましくは約5×104M-1秒-1以上、約1×105M-1秒-1以上、約2.5×105M-1秒-1以上、約5×105M-1秒-1以上の結合速度(Kon)でhCD45RCに結合する。
【0109】
一実施形態では、本発明に係る使用のための抗CD45RC抗体またはその結合フラグメントは、約5×10-2秒-1以下、好ましくは約4×10-2秒-1以下、約3×10-2秒-1以下、約2×10-2秒-1以下、約1.5×10-2秒-1以下の解離速度(Koff)でhCD45RCに結合する。
【0110】
一実施形態では、本発明に係る使用のための抗CD45RC抗体またはその結合フラグメントは、
約5×10-7M以下、好ましくは約2.5×10-7M以下、約1×10-7M以下、約7.5×10-8M以下、約5×10-8M以下、約1×10-8M以下の平衡解離定数(Kd);
約1×104M-1秒-1以上、好ましくは約5×104M-1秒-1以上、約1×105M-1秒-1以上、約2.5×105M-1秒-1以上、約5×105M-1秒-1以上の結合速度(Kon);および
約5×10-2秒-1以下、好ましくは約4×10-2秒-1以下、約3×10-2秒-1以下、約2×10-2秒-1以下、約1.5×10-2秒-1以下の解離速度(Koff)
のうちの少なくとも1つ、好ましくは少なくとも2つ、より好ましくは3つを伴い、hCD45RCに結合する。
【0111】
抗体またはその結合フラグメントのそのリガンドに対する親和性を決定する(たとえばKd、koff、およびkonを決定することを含む)ための方法は、当該分野でよく知られており、限定するものではないが、表面プラズモン共鳴(SPR)、蛍光活性化セルソーティング(FACS)、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、AlphaLISA、およびKinExAを含む。
【0112】
好ましい方法は、BIAcore(登録商標)であり、これは、抗体またはその結合フラグメントの親和性を決定するために固定化したCD45RCを使用するSPRに依存している。この方法を実施する方法は、実施例のセクションでさらに例示されている。
【0113】
一実施形態では、本発明に係る使用のための抗体またはその結合フラグメントは、ポリクローナル抗体またはその結合フラグメントである。
【0114】
好ましい実施形態では、本発明に係る使用のための抗体またはその結合フラグメントは、モノクローナル抗体またはその結合フラグメントである。
【0115】
CD45RCを対象とする抗体は、適切な抗原またはエピトープ(配列番号1のペプチドなど)を、たとえば特に、ラット、ブタ、ウシ、ウマ、ウサギ、ヤギ、ヒツジ、ラクダ科(ラクダ、ヒトコブラクダ、ラマ)、およびマウスから選択される宿主動物に投与することによる既知の方法によって得ることができる。当該分野で知られている様々なアジュバントが、抗体産生を高めるために使用され得る。産生および単離に関する技術として、限定するものではないが、ハイブリドーマ技術、ヒトB細胞ハイブリドーマ技術、およびEBV-ハイブリドーマ技術が挙げられる。あるいは、一本鎖抗体の生成に関して記載されている技術(たとえば米国特許第4,946,778号に開示)は、CD45RCに対する一本鎖抗体を生成することに適切であり得る。
【0116】
一実施形態では、本発明に係る使用のための抗体は、キメラ抗体または二重特異性抗体またはヒト化抗体または完全にヒトの抗体、または抗体フラグメントもしくはそれらの誘導体である。実際にこれは、投与される抗体に対する患者の免疫反応を回避する可能性を提供する。
【0117】
抗体の「誘導体」は、担体のペプチドと元の抗体の少なくとも1つのCDRとから形成され、CD45RC、特に配列番号1などの抗原を特異的に認識する特性を保存している、結合タンパク質を意味する。
【0118】
可変ドメインは、抗原の認識に関与しており、定常ドメインは、抗体の生物学的な性質、薬物動態学的な性質、およびエフェクターの性質に関与している。配列が抗体ごとに著しく異なる可変ドメインとは異なり、定常ドメインは、任意選択で少数の体細胞変異を伴うが、種およびアイソタイプに特有である、抗体間で非常に類似するアミノ酸配列を特徴とする。
【0119】
一実施形態では、本発明に係る使用のための抗体は、CDR45RCに対する第1の抗原結合部位と、直接的な結合、抗体依存性細胞傷害(ADCC)、補体依存性細胞傷害(CDC)、および/または抗体依存性貪食作用を介してT CD45RChigh細胞の枯渇を媒介できるエフェクター細胞に対する少なくとも1つの第2の抗原結合部位とを含む多重特異性抗体である。
【0120】
上記実施形態では、第2の抗原結合部位は、たとえばヒトのエフェクター細胞上の抗原を結合することなどにより、殺滅機構を動員するために使用される。一部の実施形態では、エフェクター細胞は、ナチュラルキラー細胞などのADCCを誘導することができる。たとえば、FcRを発現する単球、マクロファージは、特定の標的細胞の殺滅および免疫系の他の成分に対する抗原の提示に関与している。一部の実施形態では、エフェクター細胞は、標的の抗原または標的の細胞を貪食し得る。エフェクター細胞上での特定のFcRの発現は、サイトカインなどの体液性因子により調節され得る。エフェクター細胞は、標的抗原を貪食し得、または標的の細胞を貪食もしくは溶解し得る。適切な細胞傷害性作用物質および第2の治療用作用物質は、以下に例示されており、毒素(たとえば放射標識されたペプチド)、化学療法剤、およびプロドラッグを含む。一部の実施形態では、第2の結合部位は、上記に定義されるFc受容体に結合する。一部の実施形態では、第2の結合部位は、NK細胞の表面分子に結合し、これにより上記細胞は活性化され得る。一部の実施形態では、第2の結合部位は、NKp46に結合する。
【0121】
本発明の多重特異性抗体分子の例示的な形式として、限定するものではないが、
(i)1つがILCの特異的な表面分子に対する特異性を有し、もう一方が第2の抗原に対する特異性を有する、化学的なヘテロ結合により架橋している2つの抗体;
(ii)2つの異なる抗原結合領域を含む単一の抗体;
(iii)2つの異なる抗原結合領域、たとえば外部のペプチドリンカーによりタンデムに結合した2つのscFvを含む一本鎖抗体;
(iv)各軽鎖および重鎖が短いペプチド結合を介してタンデムに2つの可変ドメインを含む、デュアル可変ドメイン抗体(DVD-Ig);
(v)化学的に結合した二重特異性(Fab’)2フラグメント;
(vi)標的抗原のそれぞれに対する2つの結合部位を有する四価の二重特異性抗体をもたらす二本鎖のジアボディの融合物である、Tandab;
(vii)多価分子をもたらす、ジアボディとscFvの組み合わせである、フレキシボディ(flexibody);
(viii)Fabに適用される際に、異なるFabフラグメントに結合した2つの同一のFabフラグメントからなる3価の二重特異性結合タンパク質をもたらし得る、プロテインキナーゼAの「二量体化およびドッキングドメイン(dimerization and docking domain)」に基づく、いわゆる「ドックアンドロック(dock and lock)」分子;
(ix)たとえばヒトのFabアームの両末端に融合した2つのscFvを含む、いわゆるスコーピオン分子(Scorpion molecule);ならびに
(x)ジアボディ
が挙げられる。
【0122】
二重特異性抗体の別の例示的な形式は、ヘテロ二量体化をもたらす相補的なCH3ドメインを有するIgG様分子である。このような分子は、既知の技術、たとえばTriomab/Quadroma(Trion Pharma/Fresenius Biotech)、Knob-into-Hole(Genentech)、CrossMAb(Roche)および静電マッチ(electrostatically-matched)(Amgen)、LUZ-Y(Genentech)、Strand Exchange Engineered Domain body(SEEDbody)(EMD Serono)、Biclonic(Merus)、ならびにDuoBody(Genmab A/S)の技術として知られている技術を使用して、調製され得る。
【0123】
一部の実施形態では、二重特異性抗体は、通常DuoBody(登録商標)技術を使用し、制御されたFabアームの交換を介して得られるかまたは入手可能である。制御されたFabアームの交換により二重特異性抗体を生成するためのin vitroでの方法は、国際特許公開公報第2008119353号および同第2011131746号(両方ともGenmab A/Sによる)に記載されている。
【0124】
国際特許公開公報第2008119353号に記載される1つの例示的な方法において、二重特異性抗体は、両方が還元条件下でのインキュベーション後にIgG4様のCH3領域を含む2つの単一特異的な抗体間の「Fabアーム」または「半分子(half-molecule)」の交換(重鎖および結合した軽鎖のスワッピング)により形成される。結果得られる生成物は、異なる配列を有し得る2つのFabアームを有する二重特異性抗体である。
【0125】
国際特許公開公報第2011131746号に記載される別の例示的な方法では、二重特異性抗体は、以下のステップを含む方法により調製される(ここで第1および第2の抗体のうち少なくとも1つは、本発明のヒトのモノクローナル抗体である):
a)Fc領域が第1のCH3領域を含む、イムノグロブリンのFc領域を含む第1の抗体を準備するステップ;
b)Fc領域が第2のCH3領域を含む、イムノグロブリンのFc領域を含む第2の抗体を準備するステップ;
(上記第1および第2のCH3領域の配列は、異なっており、よって第1のCH3領域と第2のCH3領域との間のヘテロ二量体の相互作用は、第1のCH3領域と第2のCH3領域との間のホモ二量体の各相互作用よりも強い)
c)還元条件下で上記第2の抗体と共に上記第1の抗体をインキュベートするステップ;および
d)上記二重特異性抗体を得るステップであって、第1の抗体が、本発明のヒトモノクローナル抗体であり、第2の抗体が、異なる結合特異性を有し、または逆も同様である、ステップ。
【0126】
還元条件は、たとえば2-メルカプトエチルアミン、ジチオスレイトール、およびトリス(2-カルボキシエチル)ホスフィンから選択される還元剤を添加することにより提供され得る。ステップd)はさらに、この条件を、たとえば脱塩により還元剤を除去することにより、非還元性となるかまたは還元性を少なくするように回復させることを含み得る。好ましくは第1および第2のCH3領域の配列は異なっており、ほんの数個の著しく保存されている非対称的な変異を含み、これにより、上記第1のCH3領域と第2のCH3領域との間のヘテロ二量体の相互作用は、第1のCH3領域と第2のCH3領域との間のそれぞれのホモ二量体の相互作用よりも強い。これら相互作用およびこれらがどの程度達成され得るかに関しては、全体が参照により本明細書に組み込まれている国際特許公開公報第2011131746号に詳述されている。
【0127】
以下は、このような非対称的な変異の組み合わせの例示的な実施形態である(ここで、任意選択で、1つまたは両方のFc領域はIgG1のアイソタイプである)。一部の実施形態では、第1のFc領域は、366、368、370、399、405、407、および409からなる群から選択される位置でのアミノ酸の置換を有し、第2のFc領域は、366、368、370、399、405、407、および409からなる群から選択される位置でアミノ酸の置換を有し、第1および第2のFc領域は、同じ位置で置換されていない。一部の実施形態では、第1のFc領域は、405位でアミノ酸の置換を有し、第2のFc領域は、366、368、370、399、407、および409からなる群から選択される位置、任意選択で409位にてアミノ酸の置換を有する。一部の実施形態では、第1のFc領域は、409位でアミノ酸の置換を有し、第2のFc領域は、366、368、370、399、405、および407からなる群から選択される位置、任意選択で405位または368位にてアミノ酸の置換を有する。一部の実施形態では、第1のFc領域および第2のFc領域の両方が、IgG1のアイソタイプであり、ここで第1のFc領域は、405位にLeuを有し、第2のFc領域は、409位にArgを有する。Kabatの番号付けにより示されるこれら点変異は、たとえば国際特許公開公報第2016091891号などのいくつかの特許出願に開示されているため、当業者によく知られている。
【0128】
抗体は、定常領域の性質に応じていくつかのアイソタイプであり得:定常領域γ、α、μ、ε、およびδは、それぞれ、IgG、IgA、IgM、IgE、およびIgDのイムノグロブリンに対応している。
【0129】
一実施形態では、本発明に係る使用のためのモノクローナル抗体は、IgGである。特に、IgGのアイソタイプは、最も多くの数の個体(ヒト)にADCCおよび/またはCDCの活性をもたらす特性を示している。γ定常領域は、いくつかのサブタイプ:γ1、γ2、γ3(これら3種類の定常領域はヒトの補体結合する特異性を有する)、およびγ4を有し、それにより、下位のアイソタイプのIgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4をもたらす。一実施形態では、本発明に係るモノクローナル抗体は、アイソタイプIgG1またはIgG3、好ましくはIgG1のモノクローナル抗体である。モノクローナル抗体は、当業者によく知られている技術により、細胞のクローン、非ヒトのトランスジェニック動物、またはトランスジェニック植物によって、生成され得る。
【0130】
別の実施形態では、本発明に係る使用のためのモノクローナル抗体は、Fcフラグメントを含まない。特に、Fcフラグメントを欠いているかまたはこれを枯渇させた抗体は、ADCCまたはCDCの活性をもたらさない。このような抗体は、その使用がADCCおよび/またはCDCに依存的ではない場合に特に適している。
【0131】
抗CD45RC抗体の適切な例は、その全体の内容が参照により本明細書に具体的に組み込まれている国際特許公開公報第2016016442号に記載されている。
【0132】
CD45RCを対象とするモノクローナル抗体の他の適切な例は、当業者によく知られており、市販の抗体を含む。このような抗体の例として、限定するものではないが、マウスモノクローナル抗体OX-22(抗ラットCD45RC)、OX-32(抗ラットCD45RC)、3H1437(抗マウス/ラット/ヒトCD45RC)、MT2(抗ヒトCD45RC)、およびRP1/12(抗ヒトCD45RC)またはそれらの誘導体、およびラットのモノクローナル抗体DNL 1.9(抗マウスCD45RC)、およびC455.1F(抗マウスCD45RC)が挙げられる。このようなモノクローナル抗体は、当業者によく知られており、いくつかの企業により商品化されている(Spickett et al., 1983. J Exp Med. 158(3):795-810)。
【0133】
特定の実施形態では、本発明に係る使用のための抗CDR45RC抗体は、モノクローナル抗体OX-22、OX-32、3H1437、MT2、RP1/12、DNL 1.9、C455.1F、またはそれらの誘導体である。このようなモノクローナル抗体は、当業者によく知られており、いくつかの企業により商品化されている。
【0134】
モノクローナル抗体に関連する「その誘導体」との表現は、CD45RC、好ましくはヒトのCD45RCに特異的に結合し、上記モノクローナル抗体の6つのCDRを含む、抗CD45RC抗体を表す。一実施形態では、「その誘導体」は、上記モノクローナル抗体のVL鎖およびVH鎖を含む抗体である。別の実施形態では、「その誘導体」は、上記モノクローナル抗体の可変ドメインを含む、キメラ抗体またはヒト化抗体である。
【0135】
一実施形態では、本発明に係る抗体は、抗体依存性細胞傷害(ADCC)、補体依存性細胞傷害(CDC)、および/または抗体依存性貪食作用を高めるように修飾され得る。このような修飾は、当該分野でよく知られている。
【0136】
たとえば、低いフコース含有量を含む抗体は、FcγRIII受容体を介してADCC応答を高めることが知られている(国際特許出願公開公報第2014140322号)。よって、本発明に係る抗体は、低いフコース含有量を含み得る。
【0137】
用語「フコース含有量」は、本明細書中使用される場合、各抗体の各重鎖のFcフラグメントのN297残基に結合したN-グリカンの中のフコシル化形態のパーセンテージを表す。
【0138】
用語「低いフコース含有量」は、本明細書中使用される場合、65%以下のフコース含有量を表す。好適には、フコース含有量は、65%以下、好ましくは60%、55%、もしくは50%以下、またはさらには45%、40%、35%、30%、25%、もしくは20%以下である。しかしながら、フコース含有量が0である必要はなく、これは、たとえば5%、35 10%、15%、または20%以上であり得る。
【0139】
一実施形態では、本発明に係る抗体はさらに、異なる種類のグリコシル化(オリゴマンノース型または二分岐複合型のN-グリカン、ここで二分岐複合型のN-グリカンの場合では、N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)残基またはガラクトース残基を二分する様々な性質を有する)を含み得、ただし、これらは低含有量のフコースを有する(国際特許公開公報第2007048077号)。たとえば、わずかにフコシル化されたN-グリカンを有する抗体は、欧州特許公開公報第1176195号または国際特許公開公報第2001077181号もしくは同第2012041768号に記載されるように入手され得る。
【0140】
オリゴマンノース型のN-グリカンは、二分岐複合型のN-グリカンと比較してin vivoにおいて短い半減期を有する。結果として、好適には、本発明に係る抗体は、上記に定義されるように、FcフラグメントのN-グリコシル化部位に、低いフコース含有量で、二分岐複合型のグリカン構造を有する。
【0141】
一部の実施形態では、本発明に係る抗体は、治療的な部分、すなわち薬物にコンジュゲートされる。一実施形態では、治療的な部分は、細胞毒、化学療法剤、サイトカイン、免疫抑制剤、免疫刺激因子、溶解性ペプチド、および放射性同位体から選択される。このようなコンジュゲートは、本明細書中、「抗体薬物コンジュゲート」または「ADC」と呼ばれる。
【0142】
一部の実施形態では、本発明の抗体は、細胞傷害性部分にコンジュゲートされる。一実施形態では、細胞傷害性部分は、タキソール;サイトカラシンB;グラミシジンD;臭化エチジウム;エメチン;マイトマイシン;エトポシド;テノポシド(tenoposide);ビンクリスチン;ビンブラスチン;コルヒチン;ドキソルビシン;ダウノルビシン;ジヒドロキシアントラシンジオン(dihydroxyanthracin dione);チューブリン阻害剤(たとえば、マイタンシンまたはその類縁体もしくは誘導体など);有糸分裂阻害剤(たとえば、モノメチルオーリスタチンEまたはFまたはそれらの類縁体もしくは誘導体など);ドラスタチンまたはその類縁体;イリノテカンまたはその類縁体;ミトキサントロン;ミスラマイシン;アクチノマイシンD;1-デヒドロテストステロン(dehydrotestosterone);グルココルチコイド;プロカイン;テトラカイン;リドカイン;プロプラノロール;ピューロマイシン;カリケアマイシンまたはその類縁体もしくは誘導体;代謝拮抗薬(たとえば、メトトレキサート、メルカプトプリン、6-チオグアニン、シタラビン、フルダラビン、5-フルオロウラシル、デカルバジン、ヒドロキシウレア、アスパラギナーゼ、ゲムシタビン、またはクラドリビンなど);アルキル化剤(たとえば、メクロレタミン、チオエパ(thioepa)、クロラムブシル、メルファラン、カルムスチン、ロムスチン、シクロホスファミド、ブスルファン、ジブロモマンニトール、ストレプトゾトシン、ダカルバジン、プロカルバジン、またはマイトマイシンCなど);白金誘導体(たとえば、シスプラチンまたはカルボプラチンなど);デュオカルマイシンA、デュオカルマイシンSA、ラシェルマイシン(rachelmycin)、またはそれらの類縁体もしくは誘導体;抗生物質(たとえば、ダクチノマイシン、ブレオマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、イダルビシン、ミスラマイシン、マイトマイシン、ミトキサントロン、プリカマイシン、またはアントラマイシンなど);ピロロ[2,1-c][1,4]-ベンゾジアゼピン;ジフテリア毒素および関連する分子(たとえば、ジフテリアA鎖およびその活性フラグメント、およびハイブリッド分子、リシンAまたは脱グリコシル化リシンA鎖毒素などのリシン毒素、コレラ毒素、志賀様毒素、たとえばSLT I、SLT II、SLT IIV、LT毒素、C3毒素、志賀毒素、百日咳毒素、破傷風毒素、ダイズBowman-Birkプロテアーゼ阻害剤、シュードモナス外毒素、アロリン(alorin)、サポリン、モデシン(modeccin)、ゼラニン(gelanin)、アブリンA鎖、モデシン(modeccin)A鎖、アルファサルシン(alphasarcin)、Aleurites fordiiのタンパク質、ダイアンシン(dianthin)タンパク質、ヨウシュヤマゴボウ(Phytolacca americana)のタンパク質、たとえばPAPI、PAPII、およびPAP-S、ニガウリ(momordica charantia)阻害剤、クルシン(curcin)、クロチン、サボンソウ(sapaonaria officinalis)阻害剤、ゲロニン、マイトゲリン(mitogellin)、レストリクトシン(restrictocin)、フェノマイシン(phenomycin)、およびエノマイシン(enomycin)の毒素);リボヌクレアーゼ;DNase I;ブドウ球菌のエンテロトキシンA;ヤマゴボウ抗ウイルスタンパク質;ジフテリン(diphtherin)毒素;ならびにシュードモナス属内毒素から選択される。
【0143】
一部の実施形態では、本発明に係る抗体は、オーリスタチン(auristatin)またはそのペプチド類縁体、誘導体、もしくはプロドラッグにコンジュゲートされる。オーリスタチンは、微小管の動態、GTPの加水分解、ならびに核および細胞の分裂に干渉することが示されており(Woyke et al., 2001. Antimicrob Agents Chemother. 46(12):3802-8)、抗癌活性(米国特許第5,663,149号)および抗真菌活性(Pettit et al., 1998. Antimicrob Agents Chemother. 42(11):2961-5)を有する。たとえば、オーリスタチンEは、パラ-アセチル安息香酸またはベンゾイル吉草酸とそれぞれ反応して、AEBおよびAEVBを生成し得る。他の典型的なオーリスタチン誘導体として、AFP、MMAF(モノメチルオーリスタチンF)、およびMMAE(モノメチルオーリスタチンE)が挙げられる。適切なオーリスタチンおよびオーリスタチンの類縁体、誘導体、およびプロドラッグ、ならびにオーリスタチンの抗体へのコンジュゲートに適切なリンカーは、たとえば米国特許第5,635,483号、同第5,780,588号、および同第6,214,345号、ならびに国際特許公開公報第2002088172号、同第2004010957号、同第2005081711号、同第2005084390号、同第2006132670号、同第2003026577号、同第200700860号、同第2007011968号、および同第2005082023号に記載されている。
【0144】
一部の実施形態では、本発明に係る抗体は、ピロロ[2,1-c][1,4]-ベンゾジアゼピン(PDB)、またはその類縁体、誘導体、もしくはプロドラッグにコンジュゲートされる。適切なPDBおよびPDB誘導体および関連する技術は、当該分野で記載されている。
【0145】
一部の実施形態では、本発明に係る抗体は、アントラサイクリン、マイタンシン、カリケアマイシン、デュオカルマイシン、ラシェルマイシン(rachelmycin)(CC-1065)、ドラスタチン10、ドラスタチン15、イリノテカン、モノメチルオーリスタチンE、モノメチルオーリスタチンF、PDB、またはそれらの類縁体、誘導体、もしくはプロドラッグから選択される細胞傷害性部分にコンジュゲートされる。
【0146】
一部の実施形態では、本発明に係る抗体は、アントラサイクリン、またはその類縁体、誘導体、もしくはプロドラッグにコンジュゲートされる。
【0147】
一部の実施形態では、本発明に係る抗体は、マイタンシン、またはその類縁体、誘導体、もしくはプロドラッグにコンジュゲートされる。
【0148】
一部の実施形態では、本発明に係る抗体は、カリケアマイシン、またはその類縁体、誘導体、もしくはプロドラッグにコンジュゲートされる。
【0149】
一部の実施形態では、本発明に係る抗体は、デュオカルマイシン、またはその類縁体、誘導体、もしくはプロドラッグにコンジュゲートされる。
【0150】
一部の実施形態では、本発明に係る抗体は、ラシェルマイシン(rachelmycin)(CC-1065)、またはその類縁体、誘導体、もしくはプロドラッグにコンジュゲートされる。
【0151】
一部の実施形態では、本発明に係る抗体は、ドラスタチン、またはその類縁体、誘導体、もしくはプロドラッグにコンジュゲートされている。
【0152】
一部の実施形態では、本発明に係る抗体は、モノメチルオーリスタチンE、またはその類縁体、誘導体、もしくはプロドラッグにコンジュゲートされる。
【0153】
一部の実施形態では、本発明に係る抗体は、モノメチルオーリスタチンF、またはその類縁体、誘導体、もしくはプロドラッグにコンジュゲートされる。
【0154】
一部の実施形態では、本発明に係る抗体は、イリノテカン、またはその類縁体、誘導体、もしくはプロドラッグにコンジュゲートされる。
【0155】
分子を抗体にコンジュゲートするための技術は、当該分野でよく知られている(たとえば、Arnon, 1985. In Reisfeld & Sell, Monoclonal antibodies and cancer therapy (Vol. 27, UCLA symposia on molecular and cellular biology, pp. 243-256). New York, NY: Alan R. Liss;および国際特許公開公報第1989012624号を参照)。通常、核酸分子は、N-ヒドロキシスクシンイミドエステルまたはマレイミドの官能性を介して、それぞれ、抗体上のリジンまたはシステインに共有結合する。操作されたシステインを使用するコンジュゲーションまたは非天然のアミノ酸の組み込みの方法は、コンジュゲートの均質性を改善することが報告されている。Junutulaら(2008. J Immunol Methods. 332(1-2):41-52)は、従来のコンジュゲーション方法と比較して改善された治療指数を呈すると主張されている「THIOMAB」(TDC)と呼ばれるシステインベースの部位特異的なコンジュゲーションを開発した。抗体に組み込まれている非天然のアミノ酸に対するコンジュゲーションもまた、ADCで調査されているが;しかしながらこの手法の普遍的な原理は未だ解明されていない。特に、当業者は、アシルドナーグルタミン含有タグ(たとえばGin含有ペプチドタグまたはQタグ)またはポリペプチドの操作(たとえばポリペプチド上のアミノ酸の欠失、挿入、置換、もしくは変異を介する)により反応性とされる内在性のグルタミンで操作されたFc含有ポリペプチドをも予想し得る。次に、トランスグルタミナーゼはアミンドナー作用物質(たとえば反応性アミンを含むかまたはこれと結合した小分子)と共有結合的に架橋することにより、アミンドナー作用物質が、アシルドナーグルタミン含有タグまたは入手可能/曝露した/反応性の内在性グルタミンを介してFc含有ポリペプチドと部位特異的にコンジュゲートされている、操作されたFc含有ポリペプチドコンジュゲートの安定した同種の集団を形成し得る(例えば、国際特許公開公報第2012059882号を参照されたい)。
【0156】
一実施形態では、本発明に係る使用のための抗CD45RC抗体は、単一遺伝子疾患を予防および/または処置するために使用される。
【0157】
一部の実施形態では、本発明に係る使用のための抗CD45RC抗体は、免疫機能に関連していないがその欠損が炎症および/または免疫反応に関連している遺伝子が関与する単一遺伝子疾患を予防および/または処置するために使用される。
【0158】
このような、免疫機能に関連していないがその欠損が炎症および/または免疫反応に関連している遺伝子が関与する単一遺伝子疾患の例として、限定するものではないが、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)、嚢胞性線維症、リソソーム蓄積症、およびα1-アンチトリプシン欠損症が挙げられる。
【0159】
一実施形態では、免疫機能に関連していないがその欠損が炎症および/または免疫反応に関連している遺伝子が関与する単一遺伝子疾患は、DMDである。
【0160】
一部の実施形態では、本発明に係る使用のための抗CD45RC抗体は、免疫系に関与しておりその欠損が炎症および/もしくは自己免疫反応をもたらす遺伝子が関与する単一遺伝子疾患を予防および/または処置するために使用される。
【0161】
このような、免疫系に関与しておりその欠損が炎症および/もしくは自己免疫反応をもたらす遺伝子が関与する単一遺伝子疾患の例として、限定するものではないが、T細胞の原発性免疫不全(たとえば、IPEX症候群[IPEX]、および自己免疫性多腺性内分泌不全症・カンジダ症・外胚葉ジストロフィー[APECED]など)、B細胞の原発性免疫不全、Muckle-Wells症候群、混合型自己炎症性および自己免疫性症候群、NLRP12関連の遺伝性周期性発熱症候群、および腫瘍壊死因子受容体1関連周期性症候群が挙げられる。
【0162】
一実施形態では、免疫系に関与しておりその欠損が炎症および/もしくは自己免疫反応をもたらす遺伝子が関与する単一遺伝子疾患は、APECEDである。
【0163】
一実施形態では、本発明に係る使用のための抗CD45RC抗体は、
免疫機能に関連していないがその欠損が炎症および/または免疫反応に関連している遺伝子、たとえば以下の疾患:デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)、嚢胞性線維症、ライソゾーム病、およびα1-アンチトリプシン欠損症で欠損している遺伝子など;ならびに/または
免疫系に関与しておりその欠損が炎症および/もしくは自己免疫反応をもたらす遺伝子、たとえば、以下の疾患:T細胞の原発性免疫不全(たとえば、IPEX症候群[IPEX]および自己免疫性多腺性内分泌不全症・カンジダ症・外胚葉ジストロフィー[APECED]など)、B細胞の原発性免疫不全、Muckle-Wells症候群、混合型自己炎症性および自己免疫性症候群、NLRP12関連の遺伝性周期性発熱症候群、および腫瘍壊死因子受容体1関連周期性症候群で欠損している遺伝子など
に関与する疾患から選択される単一遺伝子疾患を予防および/または処置するために使用される。
【0164】
一実施形態では、本発明に係る使用のための抗CD45RC抗体は、DMDおよび/またはAPECEDを予防および/または処置するために使用される。
【0165】
さらなる実施形態では、本発明に係る使用のための抗CD45RC抗体は、単一遺伝子疾患に関連する症状および/または兆候を低減、軽減、減少、または阻害するために使用される。
【0166】
自己免疫応答および/または炎症が関与する単一遺伝子疾患に関連する症状および兆候として、限定するものではないが、体重減少、脱力、疲労、微熱、筋肉、関節の疼痛、下痢、糖尿病、ホルモン変化、脱毛症、皮膚色素脱失、およびリンパ球浸潤物を伴う異なる組織の組織構造の悪化が挙げられる。
【0167】
特に、単一遺伝子性の症状は、限定するものではないが、CD45RC+細胞(特にT CD45RC+細胞)の頻度の増加、CD45RC-細胞(特に、T、B、およびNKのCD45RC-細胞)の頻度の減少、T CD4+およびCD8+のエフェクターの頻度の増加、ならびにFoxP3+ Tregの減少を含む、いくつかの分子の調節不全に関連することが示されている。
【0168】
一部の実施形態では、本発明に係る使用のための抗体は、対象に免疫寛容を誘導する。一部の実施形態では、本発明に係る使用のための抗体は、対象に免疫寛容を誘導する。
【0169】
一部の実施形態では、本発明に係る使用のための抗体は、高いまたは中間のレベルでCD45RCを発現するT細胞の枯渇を媒介する。
【0170】
CD45RCの発現の相対的なレベルは、限定するものではないが、細胞蛍光測定を含む当業者に知られている技術を使用して測定され得る。
図9に示されるように、3種類の細胞:CD45RC発現において高いレベルを提示する細胞(CD45RC
high)、中間のレベルを提示する細胞(CD45RC
int)、および負のレベルを提示する細胞(CD45RC
neg)が区別され得る。本明細書中使用される場合、「CD45RC
+」と示された細胞は、CD45RC
high細胞およびCD45RC
int細胞を含む。
【0171】
一実施形態では、本発明に係る使用のための抗CD45RC抗体は、T CD45RChigh細胞を枯渇させる抗CD45RC抗体である。T CD45RChigh細胞は、上記に定義されるように、著しい量でCD45RCマーカーを発現する(CD45RC+)Tリンパ球である。上記T CD45RC+high細胞を枯渇させる抗体は、他の種類のCD45RC+細胞、たとえばNKまたはBのCD45RC+細胞を枯渇させることが可能であり得ることを理解されたい。
【0172】
本明細書中使用される場合、用語「枯渇させる(deplete)」または「枯渇(depleting)」は、CD45RCを発現する細胞に関しては、対象における細胞の数の測定可能な減少を表す。この減少は、少なくとも約10%、たとえば少なくとも約20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、またはそれ以上であり得る。一部の実施形態では、この用語は、対象またはサンプルにおけるCD45RC+細胞数の、検出可能な限界を下回る量までの減少を表す。本発明では、本発明に係る使用のための抗CD45RC抗体は、CD45RCを強力に発現するエフェクター細胞、特に、CD45RChigh Teffと称される細胞の枯渇を特異的に媒介する。
【0173】
特に、上記本発明に係る使用のための抗CD45RC抗体は、hCD45RCに結合し、アポトーシス誘導シグナルを伝達し、および/または抗体依存性細胞傷害(ADCC)、補体依存性細胞傷害(CDC)、および/または抗体依存性貪食作用を活性化させることにより、CD45RChighT細胞を枯渇させる。
【0174】
一部の実施形態では、本発明に係る使用のための抗CD45RC抗体は、抗体依存性細胞傷害(ADCC)を媒介する。
【0175】
一部の実施形態では、本発明に係る使用のための抗CD45RC抗体は、補体依存性細胞傷害(CDC)を媒介する。
【0176】
一部の実施形態では、本発明に係る使用のための抗CD45RC抗体は、抗体依存性貪食作用を媒介する。
【0177】
特定の実施形態では、本発明に係る単離されている抗体またはその結合フラグメントは、細胞傷害性作用物質または増殖阻害剤にコンジュゲートされ得る。
【0178】
一部の実施形態では、本発明に係る使用のための抗体は、対象の制御性T細胞を増殖(expand)および/または増強することができる。
【0179】
本明細書中使用される場合、用語「増殖する(expand)」は、所定の細胞(たとえばTregなどの免疫細胞)の集団を変換および/または増殖させるプロセスを表す。本明細書中使用される場合、用語「増強する(potentiate)」は、所定の細胞集団の機能を増大(たとえばTreg細胞の抑制能を増大)させるプロセスを表す。
【0180】
「制御性T細胞」または「Treg」は、異常であるかまたは過度の免疫応答を抑制し、免疫寛容にある役割を果たすT細胞である。Tregは、通常、「フォークヘッドボックスP3(Foxp3+)制御性T細胞」および/または「CD45RClow/-細胞」である。本明細書中使用される場合、用語「フォークヘッドボックスP3(Foxp3+)制御性T細胞」および「CD45RClow/-細胞」は、特徴的なマーカーが転写因子Foxp3である、ヒトおよびげっ歯類において0.1~10%のCD4+およびCD8+のT細胞を表す。
【0181】
一部の実施形態では、本発明に係る使用のための抗体は、Foxp3+および/またはCD45RClowTregを増殖および/または増強することができる。
【0182】
一実施形態では、本発明に係る使用のための抗CD45RC抗体は、上記抗CD45RC抗体と、薬学的に許容される担体または賦形剤またはビヒクルとを含む医薬組成物の形態で投与される。
【0183】
用語「薬学的に」または「薬学的に許容される」は、哺乳類、特にヒトに適宜投与される際に有害な反応、アレルギー反応、または他の望ましくない反応をもたらさない分子の実体および組成物を表す。薬学的に許容される担体または賦形剤またはビヒクルは、非毒性であり、固体、半固体、または液体である、いずれかの種類の充填剤、希釈剤、カプセル化の材料、または製剤化の助剤を表す。医薬組成物の形態、投与経路、用量およびレジメンは、当然、処置される病態、疾病の重症度、患者の年齢、体重、および性別などに応じて変化する。本発明の医薬組成物は、局所投与、経口投与、非経口投与、鼻腔内投与、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与などのために製剤化され得る。
【0184】
一実施形態では、医薬組成物は、OX-22、OX-32、3H1437、MT2、RP1/12、DNL 1.9、C455.1F、およびそれらの誘導体を含むかまたはからなる群から選択される抗CD45RCモノクローナル抗体と;薬学的に許容される担体または賦形剤またはビヒクルとを含む。
【0185】
よって、本発明の抗体は、治療上組成物を形成するために、薬学的に許容される賦形剤、担体、またはビヒクル、および任意選択で生分解性ポリマーなどの徐放マトリックスと組み合わせられ得る。
【0186】
好ましくは、医薬組成物は、注射することができる製剤にとって薬学的に許容されるビヒクルを含む。これらは特に、等張性、無菌性の生理食塩水溶液(リン酸一ナトリウムまたはリン酸二ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、または塩化マグネシウムなど、もしくはこのような塩の混合物)、または、場合に応じて滅菌水または生理食塩水を添加した後に、注射可能な液剤の構成を可能にする乾燥した、特には凍結乾燥した組成物であり得る。投与に使用される用量は、様々なパラメータの関数として、特には使用される投与形式、相対的な病態、またはあるいは所望の処置期間の関数として、適合され得る。医薬組成物を調製するために、抗体の有効量は、薬学的に許容される担体または水性媒体に溶解または分散され得る。注射可能な使用に適切な薬学的な形態として、無菌性の水溶液または分散物;ゴマ油、ピーナッツ油、または水性のプロピレングリコールを含む製剤;および無菌性の注射可能な液剤もしくは分散剤の即時調製のための無菌性散剤が挙げられる。全ての場合において、この形態は無菌性でなければならず、容易に注射針を通過する度合いまで流動的でなければならない。これは、製造および保存の条件下で安定していなければならず、細菌および真菌などの微生物の混入作用に対処するように保存されなければならない。
【0187】
一実施形態では、本発明に係る使用のための抗CD45RC抗体は、対象に投与するために製剤化される。
【0188】
一実施形態では、本発明に係る使用のための抗CD45RC抗体は、全身にまたは局所的に投与される。
【0189】
一実施形態では、本発明に係る使用のための抗CD45RC抗体は、注射、経口投与、局所投与、経鼻投与、バッカル投与、直腸投与、膣投与、気管内投与、内視鏡検査、経粘膜投与、または経皮投与により投与される。
【0190】
一実施形態では、本発明に係る使用のための抗CD45RC抗体は、注射、好ましくは全身注射される。
【0191】
注射に適した製剤の例として、限定するものではないが、液剤、たとえば無菌性の水系の液剤、ゲル、分散剤、エマルジョン、懸濁剤、使用前に液体を添加することにより液剤または懸濁剤を調製するための使用に適した固体の形態、たとえば散剤、リポソーム形態などが挙げられる。
【0192】
全身注射の例として、限定するものではないが、静脈内(iv)、皮下、筋肉内(im)、皮内(id)、腹腔内(ip)の注射および灌流が挙げられる。
【0193】
一実施形態では、注射される場合、本発明に係る使用のための抗CD45RC抗体は、無菌性である。無菌性組成物を得るための方法として、限定するものではないが、GMP合成(GMPは、「Good manufacturing practice」を意味する)が挙げられる。
【0194】
組成物の無菌性の注射可能な形態は、水性または油性の懸濁剤であり得る。これら懸濁剤は、適切な分散化剤または湿潤剤および懸濁化剤を使用する当該分野で知られている技術により、製剤化され得る。無菌性の注射可能な調製剤はまた、非毒性の非経口的に許容される希釈剤または溶媒における無菌性の注射可能な液剤または懸濁剤であり得る。特に、使用され得る許容されるビヒクルおよび溶媒として、水、リンゲル溶液、および等張性塩化ナトリウム溶液がある。さらに、無菌性の固定油が、従来より、溶媒または懸濁化媒体として使用されている。この目的のため、合成のモノグリセリドまたはジグリセリドを含む任意のブランドの固定油が使用され得る。脂肪酸、たとえばオレイン酸およびそのグリセリド誘導体は、天然の薬学的に許容される油、たとえばオリーブ油、またはヒマシ油、特にそれらのポリオキシエチル化バージョンである場合、注射可能な物質の調製に有用である。これら油の液剤または懸濁剤はまた、長鎖アルコールの希釈剤または分散剤、たとえばカルボキシメチルセルロース、またはエマルジョンおよび懸濁剤を含む薬学的に許容される剤形の製剤化に一般に使用される同様の分散化剤をも含み得る。他の一般に使用される界面活性剤、たとえばTweens、Spans、および薬学的に許容される固体、液体、または他の剤形の製造に一般に使用される他の乳化剤またはバイオアベイラビリティ促進剤もまた、製剤の目的のために使用され得る。
【0195】
他の適切な投与経路もまた本発明で企図されており、投与形式は、正当な医療の判断の範囲内で担当医により最終的に決定されることが理解されるであろう。注射(iv、ip、imなど)による投与とは別に、吸入投与(Respaud et al., 2014. MAbs. 6(5):1347-55; Guilleminault et al., 2014. J Control Release. 196:344-54; Respaud et al., 2015. Expert Opin Drug Deliv. 12(6):1027-39)または皮下投与(Jackisch et al., 2014. Geburtshilfe Frauenheilkd. 74(4):343-349; Solal-Celigny, 2015. Expert Rev Hematol. 8(2):147-53)などの他の経路も利用可能である。
【0196】
一実施形態では、本発明に係る使用のための抗CD45RC抗体は、治療上有効量で、それを必要とする対象へ投与される。
【0197】
しかしながら、本発明に係る使用のための抗CD45RC抗体の一日の総用量は、正当な医療の判断の範囲内で担当医により決定されることが理解されるであろう。いずれかの特定の患者に特有の治療上有効な用量は、処置される疾患および疾患の重症度;使用される抗CD45RC抗体の活性;対象の年齢、体重、全般的な健康状態、性別、および食事;使用される特定の抗CD45RC抗体の投与時間、投与経路、および排泄速度;処置期間;使用される特定の抗CD45RC抗体と併用してまたは同時に使用される薬物;ならびに医療の分野でよく知られている同様の要因を含む様々な要因に応じて変化する。たとえば、化合物の投与を、望ましい治療効果を達成するために必要とされる用量よりも低いレベルで開始し、この用量を、所望の効果が達成するまで徐々に増大させることは、十分に当業者の範囲内にある。各処置で必要とされる総用量は、複数回投与または単回投与により投与され得る。しかしながら、抗体の一日用量は、1日あたり、成年あたり0.01~1,000mgの幅広い範囲にわたり変動し得る。好ましくは、本組成物は、処置される対象への症候による用量の調節のため、0.01、0.05、0.1、0.5、1.0、2.5、5.0、10.0、15.0、25.0、50.0、100、250、および500mgの有効成分を含む。医薬は、通常、約0.01mg~約500mgの有効成分、好ましくは1mg~約100mgの有効成分を含む。薬物の治療上有効量は、通常、1日あたり0.0002mg/kg~約20mg/kg体重、特に約0.001mg/kg~10mg/kg体重の用量レベルで供給される。
【0198】
一実施形態では、本発明に係る使用のための抗CD45RC抗体の治療上有効量は、約0.1mg/kg~約5mg/kg、約0.2mg/kg~約4mg/kg、約0.3mg/kg~約3mg/kg、約0.4mg/kg~約2.5mg/kg、約0.5mg/kg~約2mg/kgの範囲にある。
【0199】
一実施形態では、本発明に係る使用のための抗CD45RC抗体の治療上有効量は、約10μg/kg~約400μg/kg、約20μg/kg~約300μg/kg、約30μg/kg~約250μg/kg、約35μg/kg~約200μg/kg、約40μg/kg~約160μg/kgの範囲にある。
【0200】
一実施形態では、本発明に係る使用のための抗CD45RC抗体の治療上有効量は、1日に1回、1日に2回、1日に3回、またはそれ以上投与される。
【0201】
一実施形態では、本発明に係る使用のための抗CD45RC抗体の治療上有効量は、毎日、2日ごと、3日ごと、4日ごと、5日ごと、6日ごとに投与される。
【0202】
一実施形態では、本発明に係る使用のための抗CD45RC抗体の治療上有効量は、一週間ごと、2週間ごと、3週間ごとに投与される。
【0203】
一実施形態では、本発明に係る使用のための抗CD45RC抗体の治療上有効量は、1カ月ごと、2カ月ごと、3カ月ごと、4カ月ごと、5カ月ごと、6カ月ごとに投与される。
【0204】
好ましい実施形態では、本発明に係る使用のための抗CD45RC抗体の治療上有効量は、12時間ごと、24時間ごと、36時間ごと、48時間ごと、60時間ごと、72時間ごと、84時間ごと、96時間ごとに投与される。
【0205】
好ましい実施形態では、本発明に係る使用のための抗CD45RC抗体の治療上有効量は、60時間ごとに投与される。好ましい実施形態では、本発明に係る使用のための抗CD45RC抗体の治療上有効量は、84時間ごとに投与される。
【0206】
一実施形態では、本発明に係る使用のための抗CD45RC抗体は、急性投与のためのものである。一実施形態では、本発明に係る使用のための抗CD45RC抗体は、慢性投与のためのものである。
【0207】
一実施形態では、本発明に係る使用のための抗CD45RC抗体の治療上有効量は、約5日間、7日間、10日間、14日間、21日間、28日間、1カ月間、2カ月間、3カ月間、6カ月間、1年間、またはそれ以上の間、投与される。
【0208】
一実施形態では、本発明に係る使用のための抗CD45RC抗体の治療上有効量は、約1週間~約8週間、約2週間~約7週間、約2週間~約6週間、約2週間~約5週間の範囲の期間の間、投与される。
【0209】
好ましい実施形態では、本発明に係る使用のための抗CD45RC抗体の治療上有効量は、約10日~約40日間、約15日~約35日間、約20~約30日間の範囲の期間の間、投与される。
【0210】
一実施形態では、本発明に係る使用のための抗CD45RC抗体は、単独で投与される。
【0211】
別の実施形態では、本発明に係る使用のための抗CD45RC抗体は、少なくとも1つの治療薬と組み合わせて、たとえば治療薬の前、治療薬と同時、または治療薬の後に、投与される。
【0212】
一部の実施形態では、この治療薬は、免疫抑制薬および/または抗炎症薬であり得る。用語「免疫抑制薬および/または抗炎症薬」は、対象の免疫応答の強度を抑制、低減、減少、または緩和させる薬物のクラスに関連する。このような薬物は、免疫系に関与している遺伝子または免疫機能に関連していないがその欠損が炎症および/もしくは免疫反応に関連している遺伝子に関連する単一遺伝子疾患の処置に特に適している。よって、本発明に係る抗CD45RC抗体に加えての本発明に係る免疫抑制薬の使用は、単一遺伝子疾患を罹患している対象の免疫応答の影響の低減を支援する。
【0213】
免疫抑制薬の適切な例として、限定するものではないが、mTOR阻害剤、たとえばシロリムス、エベロリムス、リダフォロリムス、テムシロリムス、ウミロリムス(umirolimus)およびゾタロリムス(zotarolimus);IL-1受容体アンタゴニスト、たとえばアナキンラなど;代謝拮抗薬、たとえば、アザチオプリン、レフルノミド、メトトレキサート、ミコフェノール酸、およびテリフルノミドなど;IMiD、たとえばアプレミラスト、レナリドミド、ポマリドミド、およびサリドマイドなど;および抗体、たとえばエクリズマブ、アダリムマブ、アフェリモマブ、セルトリズマブペゴル、ゴリムマブ、インフリキシマブ、ネレリモマブ(nerelimomab)、メポリズマブ、オマリズマブ(omalizumab)、ファラリモマブ(faralimomab)、エルシリモマブ(elsilimomab)、レブリキズマブ(lebrikizumab)、ウステキヌマブ、セクキヌマブ、ムロモナブ-CD3、オテリキシズマブ(otelixizumab)、テプリズマブ(teplizumab)、ビジリズマブ(visilizumab)、クレノリキシマブ(clenoliximab)、ケリキシマブ(keliximab)、ザノリムマブ(zanolimumab)、エファリズマブ(efalizumab)、エルリズマブ(erlizumab)、オビヌツズマブ(obinutuzumab)、リツキシマブ、オクレリズマブ、パスコリズマブ(pascolizumab)、ゴミリキシマブ(gomiliximab)、ルミリキシマブ(lumiliximab)、テネリキシマブ(teneliximab)、トラリズマブ(toralizumab)、アセリズマブ(aselizumab)、ガリキシマブ(galiximab)、ガビリモマブ(gavilimomab)、ルプリズマブ(ruplizumab)、ベリムマブ(belimumab)、ブリシビモド(blisibimod)、イピリムマブ(ipilimumab)、トレメリムマブ(tremelimumab)、ベルチリムマブ(bertilimumab)、レルデリムマブ(lerdelimumab)、メテリムマブ(metelimumab)、ナタリズマブ、トシリズマブ、オデュリモマブ(odulimomab)、バシリキシマブ、ダクリズマブ(daclizumab)、イノリモマブ(inolimomab)、ズリモマブアリタオクス(zolimomab aritox)、アトロリムマブ(atorolimumab)、セデリズマブ(cedelizumab)、フォントリズマブ(fontolizumab)、マスリモマブ(maslimomab)、モロリムマブ(morolimumab)、ペクセリズマブ(pexelizumab)、レスリズマブ(reslizumab)、レベリズマブ(rovelizumab)、シプリズマブ(siplizumab)、タリズマブ(talizumab)、テリモマブアリトクス(telimomab aritox)、バパリキシマブ(vapaliximab)、ベパリモマブ(vepalimomab)、アバタセプト(abatacept)、ベラタセプト(belatacept)、エタネルセプト(etanercept)、ペグスネルセプト、アフリベルセプト、アレファセプト、およびリロナセプトなどが挙げられる。
【0214】
抗炎症薬の適切な例として、限定するものではないが、コルチコイド(デキサメタゾン、ベタメタゾン、ベタメタゾン-17-吉草酸塩、トリアムシノロン、トリアムシノロンアセトニド、フルオシノロンアセトニド、フルオシノニド、コルチゾン、ヒドロコルチゾン、プレドニゾン、メチルプレドニゾロン、デソニド、ブデソニド、およびデフラザコートから選択されるグルココルチコイドなど)が挙げられる。
【0215】
好ましくは、免疫抑制薬および/または抗炎症薬は、プレドニゾロンまたはデフラザコートである。
【0216】
よって、本発明は、上記に定義される抗CD45RC抗体と、免疫抑制薬および/または抗炎症薬と、薬学的に許容される担体または賦形剤またはビヒクルとを含む医薬組成物を包有する。一部の実施形態では、医薬組成物は、上記に定義される抗CD45RC抗体と、プレドニゾロンまたはデフラザコートと、薬学的に許容される担体または賦形剤またはビヒクルとを含む。
【0217】
別の実施形態では、本発明に係る使用のための抗CD45RC抗体は、遺伝子療法または細胞療法と併用して投与される。好適には、上記遺伝子療法または細胞療法は、上記抗CD45RC抗体の使用の前または後、優先的には上記抗CD45RC抗体の使用の前に、使用される。
【0218】
よって、本発明は、上記に定義される抗CD45RC抗体と、少なくとも1つのミニジストロフィン遺伝子を含むアデノ関連ウイルスまたはレンチウイルスと、薬学的に許容される担体または賦形剤またはビヒクルとを含む医薬組成物を包有する。一部の実施形態では、医薬組成物は、同時の使用、別々の使用、または連続的な使用のために組み合わせられる調製物である。用語「ミニジストロフィン遺伝子」は、本明細書では、6~8kbの合成ミニジストロフィン遺伝子、たとえばOdom et al.(2011. Mol Ther. 19(1):36-45)、Clemens et al.(1995. Hum Gene Ther. 6(11):1477-85)、Harper et al.(2002. Nat Med. 8(3):253-61)およびLai et al.(2009. J Clin Invest. 119(3):624-35)に記載されるミニジストロフィン遺伝子を表す。
【0219】
別の実施形態では、本発明に係る使用のための抗CD45RC抗体は、免疫抑制薬および/または抗炎症薬ならびに遺伝子療法または細胞療法の両方と併用して投与される。
【0220】
よって、本発明は、上記に定義される抗CD45RC抗体と、免疫抑制薬および/または抗炎症薬と、少なくとも1つのミニジストロフィン遺伝子を含むアデノ関連ウイルスまたはレンチウイルスと、薬学的に許容される担体または賦形剤またはビヒクルとを含む医薬組成物を包有する。一部の実施形態では、医薬組成物は、同時の使用、別々の使用、または連続的な使用のために組み合わせられる調製物である。
【図面の簡単な説明】
【0221】
【
図1A】
図1は、Dmd
mdxラットの筋肉および脾臓における白血球の数を示すグラフのセットである。後肢の骨格筋および脾臓は、指定の年齢の時点で、同腹仔の野生型(WT)またはDmd
mdx(KO)のラットから回収した。筋肉および脾臓をコラゲナーゼで消化し、単核細胞を、密度勾配を使用して単離した。(A)バイアビリティ色素(viability dye)およびpan抗白血球CD45モノクローナル抗体(OX1)で染色した8週齢の動物由来の単核細胞の筋肉(左のパネル)および脾臓(右のパネル)の代表的なドットプロット解析。(B)異なる時点での筋肉組織のグラムまたは総脾臓によるCD45
+細胞の数。WT、n=それぞれ2、4、8、12、および16週で4、5、7、7、9。KO、n=それぞれ2、4、8、12、および16週で3、6、10、11、16。*p<0.05、***p<0.001、****p<0.0001。
【
図2】
図2は、同腹仔のWTおよびDmd
mdxのラットの筋肉および脾臓におけるTCR
+細胞の数を示す2つのグラフのセットである。後肢(左のパネル)および脾臓(右のパネル)由来のPBMCは、
図1の説明に記載されるように得た。TCR
+細胞の数は、抗TCRabモノクローナル抗体(クローンR7/3)でPBMCを染色し、生存可能なCD45R
+細胞の中のTCR
+細胞の数を計算することにより、決定した。*p<0.05、**p<0.01。
【
図3-1】
図3は、抗CD45RCモノクローナル抗体を使用した処置の後のT CD8
+CD45RC
highおよびCD45RC
int/neg細胞の数を示す4つのグラフのセットである。マウスの抗ラットCD45RCモノクローナル抗体の腹腔内注射を、2週齢から最大12週齢まで受けた対照の同腹仔の野生型(WT)またはDmd
mdx(KO)のラットを屠殺した。筋肉および脾臓の単核細胞を単離し、高いレベルでCD45RCを発現するか(CD45RC
high)または中間/負のレベルCD45RCを発現する(CD45RC
int/neg)TCR
+CD8
+細胞の存在について解析した。各ポイントは、単一の動物を表す。*p<0.05、***p<0.001。
【
図4】
図4は、抗CD45RCモノクローナル抗体での処置の後のDmd
mdxラットにおける筋肉の強度を示すグラフである。野生型(WT)またはDmd
mdx(KO)のラットは、筋肉の強度が握力試験(grip test)を使用して解析される際に、2週齢から最大12週齢まで、マウス抗ラットCD45RCまたはプレドニゾロンの腹腔内注射を受けた。各ポイントは、単一の動物を表す。*p<0.05。
【
図5】
図5は、プレドニゾロンを使用した処置の後のTのCD8+CD45RC
high細胞およびCD45RC
int/neg細胞の数を示す4つのグラフのセットである。対照の同腹仔の野生型(WT)またはDmd
mdx(KO)のラットに、2週齢から12週齢までプレドニゾロンの腹腔内注射を行った際に、屠殺した。筋肉および脾臓の単核細胞を単離し、高いレベルでCD45RCを発現するか(CD45RC
high)または中間/負のレベルでCD45RCを発現する(CD45RC
int/neg)TCR
+CD8
+細胞の存在について解析した。各ポイントは、単一の動物を表す。*p<0.05。
【
図6】
図6は、プレドニゾロンまたは抗CD45RCモノクローナル抗体を使用した処置の間の野生型またはDmd
mdxのラットの体重を示す2つのグラフのセットである。対照の同腹仔の野生型(WT)またはDmd
mdx(KO)のラットは、2週齢から12週齢までに、プレドニゾロンまたは抗CD45RCモノクローナル抗体(OX22)の腹腔内注射を受けており、体重は、所定の時点で記録された。
【
図7A-B】
図7は、抗CD45RC mAbで処置したAire
-/-ラットにおける疾患の自己免疫の兆候の低減を示す写真およびグラフのセットである。Aire
-/-ラットに、2週齢から最大20週齢までに、マウス抗ラットCD45RC MAb(クローンOX22、1週間あたり2回、1.5mg/kg)の腹腔内注射を行った際に、これを屠殺した。(A)アイソタイプ対照(上部右)または抗CD45RC mAb(下部右)で処置した20週齢のAire
-/-ラットの視覚的態様を示す写真。(B)抗CD45RC mAbまたはアイソタイプ対照で処置したAire
-/-ラット由来の胸腺の大きさを示す写真。(C)抗CD45RC mAbまたはアイソタイプ対照で処置したAire
-/-の同腹仔のSPDラットの体重を、出生から20週間の間毎週測定した。結果は、生後2週目から開始して最初の体重の%として示されている(平均値31.3g)±SEM(n=3)。
【
図8-1】
図8は、抗CD45RC mAbの投与の後の脾臓および腸間膜リンパ節(MLN)におけるCD45RC
highT細胞の効率的な枯渇を示すグラフのセットである。バイアビリティ色素およびpan抗白血球CD45 MAb(OX1)、CD3、TCR、CD4、およびCD45RC MAbで染色した、2週目から抗CD45RCもしくはアイソタイプ対照のMabで処置したAire
-/-動物、または未処置のWT動物の20週齢でのMLNおよび脾臓由来の単核細胞(CD4
+およびCD8
+T細胞)の代表的なドットプロット解析。
【
図9】
図9は、抗CD45RC Mab OX22で標識したラットのCD8+T細胞における異なるレベルのCD45RC発現(CD45RC
high、CD45RC
intおよびCD45RC
neg)によるCD8
+細胞の3つの集団を定義するグラフである。
【
図10】
図10は、Aire-欠損ラットにおける血清自己抗体での抗CD45RC MAb処置の効果を示す2つのSDS-PAGEゲルのセットである。Aire-欠損ラットは、(A)アイソタイプの対照のMAbまたは(B)抗CD45RC MAb(OX22)を用いて、2~20週齢まで、1週間あたり2回、1.5mg/kgで処置した。銀染色。βアクチンを対照として使用した。
【
図11】
図11は、ヘマトキシリン(hematoxilin)-エオシン-サフラン(safran)で染色した組織の切片(胸腺、膵臓、皮膚、腎臓)の8つの写真のセットであり、アイソタイプの抗体(左の写真)または抗CD45RC抗体(右の写真)で処置したラットにおける組織構造およびリンパ球の浸潤を示している。白色の矢印は、抗CD45RCまたはアイソタイプで処置したレシピエントの間で異なる各臓器の主な領域を表す。
【実施例】
【0222】
実施例1~4に関する材料および方法
筋肉および脾臓の単一細胞懸濁物の調製
WTまたはDmdmdxのラット由来の両後肢の筋肉を切除し、重量測定した。筋肉をすりつぶし、FCS(2%)、1mMのEDTAの存在下で、コラゲナーゼDを有するgentle MACS Cチューブに載置した。gentle MACS粉砕装置(dissociator)を2回それぞれ30分間稼働し、各稼働の間に新規のコラゲナーゼを添加した。細胞を、30mLのPBS FCS(2%)、1mMのEDTAに懸濁し、次に15mLのHystopaqueに適用し、1000gにて30分間連続で遠心分離した。単核細胞をHystopaqueおよびPBSの界面から回収し、洗浄し、PBS FCS(2%)、1mMのEDTAに懸濁した。
【0223】
脾臓を回収し、PBSで灌流し、コラゲナーゼDにより37℃で15分間消化させた。細胞を、PBS FCS(2%)、1mMのEDTAに懸濁し、単核細胞を上述のように回収した。
【0224】
フローサイトメトリー解析
単核細胞を、以下の抗原:CD45(クローンOX-1)、T-細胞受容体(TCR;クローンR7/3)、CD45RC(クローンOX22)、CD8(クローンOX8)、およびCD4(W3/25)に対する抗体、ならびにバイアビリティ色素eFluor506またはeFluor450(全てeBiosciences製)を用いて染色した。解析は、FACSuiteソフトウェアバージョン1.0.6を有するBD FACS Verseで行った。取得後の解析は、FlowJoソフトウェアを用いて行った。
【0225】
抗CD45RCまたはプレドニゾロンでの処置
マウス抗ラットCD45RCモノクローナル抗体(クローンOX22、2mg/kg、3.5日ごと)の腹腔内注射を、2週齢から最大12週齢まで、野生型(WT)またはDmdmdx(KO)のラットに行った。
【0226】
プレドニゾロンを、2週齢から最大12週齢まで、腹腔内注射(0.5mg/kg、1週間のうち5日間)により投与した。
【0227】
12週齢で、処置したラットを、握力試験を使用して筋肉の強度に関して解析した。
【0228】
握力試験
ラットを、前肢で格子の上に載置させ、ラットが格子を握らなくなるまでゆっくりと後ろに引いた。力変換器に取り付けられた握力測定器(Bio-GT3、BIOSEB、France)により、もたらされる力のピークを測定した。
【0229】
実施例1
Dmd
mdxラットにおける白血球およびT細胞の総計の解析
Dmd
mdxラットの筋肉および脾臓における白血球をフローサイトメトリーにより解析した(
図1)。
【0230】
同腹仔のWTおよびDmdmdxのラットの筋肉における総白血球は、2週齢では同等であったが、4週齢では同等ではなくなり、Dmdmdxラットは、8週齢まで維持された顕著な増加を示した後、12週目および14週目に、同腹仔のWTラットの値よりは依然として有意に高いが、減少した。
【0231】
脾臓の白血球数は、解析したすべての時点で、WTラットとDmdmdxラットとの間で同等であった。
【0232】
同腹仔のWTラットおよびDmd
mdxラットにおける筋肉および脾臓におけるTCR
+細胞数の解析は、Dmd
mdxラットの筋肉において、8週目および16週目での増加傾向を伴い、4週齢および12週齢の有意な増加を示した(
図2)。
【0233】
脾臓におけるTCR+細胞の数は、いずれの時点でもWTラットおよびDmdmdxラットの間に差異を示さなかった。
【0234】
実施例2
抗CD45RCモノクローナル抗体での処置はCD45RC
highT細胞を枯渇させる。
2週齢からマウス抗ラットCD45RCモノクローナル抗体を投与することは、Dmd
mdxラットの筋肉ならびに同腹仔のWTラットおよびDmd
mdxラットの脾臓において、12週齢で解析されたT CD8
+CD45RC
high細胞の部分的な枯渇をもたらした(
図3)。
【0235】
全てのCD8
+およびCD4
+T
regを含むT CD8
+またはCD4
+のCD45RC
int/negは、WTラットでもDmd
mdxラットでも、脾臓または筋肉において修飾されていなかった(
図3)。
【0236】
他の全ての主要な白血球集団(マクロファージ、B細胞、およびNK細胞)は、変化していなかった(データ不図示)。
【0237】
実施例3
抗CD45RCモノクローナル抗体での処置は、Dmdmdxラットにおける筋肉の強度を改善する。
筋肉の機能が抗CD45RCモノクローナル抗体での処置により改善されたかどうかを試験するために、筋肉の強度を、2週齢での処置の開始の後、12週齢のWTラットおよびDmdmdxラットの前肢の握力試験により解析した。
【0238】
前肢の握力の強度の有意な減少は、全身の筋肉の性能の全身的な変化を表した。Larcherら(2014. PLoS One. 9(10):e110371)により以前に記載されるように、同腹仔のWTと比較して30%弱い力が、Dmdmdxラットにより発揮された。
【0239】
抗CD45RCモノクローナル抗体の投与の後、Dmd
mdxラットvs未処置のDmd
mdxラットにおける筋肉の強度は、有意に増加し、同腹仔のWT対照とは区別できなかった(
図4)。
【0240】
実施例4
プレドニゾロンでの処置は、骨格筋の強度を改善した。
コルチコイドは、DMD患者の標準的な処置である(Alman, 2005. J Pediatr Orthop. 25(4):554-6)ため、プレドニゾロンの作用を、Dmdmdxラットの筋肉の強度において解析した。
【0241】
2週齢からプレドニゾロンを用いたDmd
mdxラットの処置は、12週にて、WTまたは抗CD45RCで処置したラットの強度と同一のレベルまで、筋肉の強度を増大させた(
図4)。
【0242】
興味深いことに、プレドニゾロンで処置したラットはまた、Dmd
mdxラットの筋肉および脾臓ならびにWTラットの脾臓において、CD8
+CD45RC
high細胞の特異的な減少を示したが、CD8
+CD45RC
int/neg細胞は維持されていた(
図5)。
【0243】
同様に、CD4+CD45RChigh細胞は、Dmdmdxラットの筋肉および脾臓ならびにWTラットの脾臓において数学的に減少したが、CD8+CD45RCint/neg細胞は維持されていた(データ不図示)。
【0244】
プレドニゾロンで処置したDmd
mdxラットは、動物の成長に重篤な低減を示し、対して抗CD45RCモノクローナル抗体で処置したラットは低減を示さなかった(
図6)。
【0245】
実施例5
APECED疾患の処置
材料および方法
細胞の単離
脾臓およびリンパ節を、コラゲナーゼDにより、37℃で30分間消化させた。この反応を、0.01mMのEDTAを添加することにより停止した。
【0246】
また血液および骨髄由来の細胞を単離し、赤血球細胞を、溶解溶液(8,29gのNH4Cl、1gのKHCO3、37,2mgのEDTA qsp 1Lの脱イオン水(pH7.2~7.4))を使用して溶解した。
【0247】
抗体およびフローサイトメトリー
細胞の表現型を、TCRαβ(R73)、CD25(Ox39)、CD4(Ox35)、およびCD45(Ox1)に対するBD pharmigen製のモノクローナル抗体を使用して解析した。
【0248】
本発明者らのラボで生成されたCD45RC(Ox22)およびCD8(Ox8)に対するAbを使用した。
【0249】
抗体は、細胞を染色するために使用し、蛍光は、FACSCanto IIフローサイトメーター(BD Bioscience)で測定し、FlowJoソフトウェアは、データを解析するために使用した。最初に細胞を、それらの形態に関してゲーティングし、次に死細胞を、固定可能なバイアビリティ色素efluor 506(Ebioscience)で染色することにより除外した。
【0250】
抗CD45RCまたはアイソタイプ対照での処置
2週齢~最大20週齢まで、Aire-/-(KO)ラットに、マウス抗ラットCD45RCモノクローナル抗体(クローンOX22、1.5mg/kg、3.5日ごと)の腹腔内注射を行った際に、この動物を屠殺した。同様に、アイソタイプ対照を投与した。処置の開始から屠殺する日まで、週に2回ラットの体重を計測した。20週齢時に、処置したラットを屠殺し、解析した。
【0251】
自己抗体の検出
20週齢で、抗CD45RCで処置するかまたはアイソタイプ対照で処置したAire-欠損ラット由来の血清を、Il2rg-欠損ラット(Il2rg:インターロイキン2受容体サブユニットγ)由来であり、よって内在性のイムノグロブリンを含まない異なる臓器(脾臓、結腸、腎臓、眼、肺、精巣、腸間膜リンパ節(MLN)、および回腸)由来のライセートがあらかじめ電気泳動された膜と共にインキュベートした。ラットの自己抗体の結合を、抗ラットイムノグロブリン抗体を使用するかまたはペルオキシダーゼに結合した抗βアクチン抗体を用いて、明らかにした。
【0252】
組織化学
抗CD45RCで処置するかまたはアイソタイプ対照で処置したAire-欠損ラット由来の臓器を、20週齢で回収した。組織の切片(胸腺、膵臓、皮膚、腎臓)を調製し、ヘマトキシリン(hematoxilin)-エオシン-サフラン(safran)で染色した。
【0253】
結果
本発明者らは、100%のAire-欠損ラットが、アイソタイプ対照で処置した動物において脱毛症および皮膚色素脱失を自然発症したことを観察した(
図7A、上部右)。これは、重篤な自己免疫疾患と相関しており、APECED患者で通常見出される臨床症状である兆候である。
【0254】
対照的に、抗CD45RC mAbで処置したAire-欠損ラットは、脱毛症および皮膚色素脱失を発症せず(
図7A、右下)、大きな胸腺の大きさ(
図7B)および正常な体重(
図7C)を有しており、これは、正常な成長、保存された胸腺構造を表し、つまるところ自己免疫疾患の減少を表した。
【0255】
2週齢からのマウス抗ラットCD45RCモノクローナル抗体の投与は、アイソタイプAire-/-ラットにおいて、対照で処置したラットおよび未処置のWTラットと比較して、脾臓およびリンパ節の両方でのTのCD8
+およびCD4
+CD45RC
high細胞の強力な枯渇をもたらした(
図8)。
【0256】
他の主要な白血球集団(マクロファージ、B細胞、およびNK細胞)の数は、変化しなかった(データ不図示)。
【0257】
また、組織抗原を対象とする自己抗体の解析を、組織のホモジネートおよび血清のウェスタンブロットにより評価した。
【0258】
抗ラットCD45RCモノクローナル抗体での処置の非存在下では、自己抗体の存在を表す、多くのバンドが異なる臓器で検出された(
図10A)。
【0259】
対照的に、抗ラットCD45RCモノクローナル抗体での処置は、バンドの数を減少させ、よって自己抗体の数を減少させた(
図10B)。
【0260】
処置の20週目では、処置の非存在下では、組織構造が破壊され、リンパ球の浸潤が多くの臓器で存在していたが、抗ラットCD45RCモノクローナル抗体での処置は、組織の完全性を回復させ、リンパ球の浸潤を低減した(
図11)。
【0261】
結論
まとめると、本明細書中上記の実施例1~5に提示したデータは、抗CD45RC抗体の使用を介して、特定の単一遺伝子疾患に通常関連する炎症および自己免疫反応を抑制しないまでも低減させる明らかな例証を提供する。T応答の増大だけでなく、自己抗体の産生を介したB細胞が介在する応答が増大する最終的な結果を伴うTeffおよびTregの間の不均衡は、嚢胞性線維症、ライソゾーム病、α1-アンチトリプシン欠損症、IPEX、B細胞の原発性免疫不全、Muckle-Wells症候群、混合型自己炎症性および自己免疫性症候群、NLRP12関連の遺伝性周期性発熱症候群、および腫瘍壊死因子受容体1関連周期性症候群などの他の単一遺伝子疾患に関与している。
【配列表】