(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-27
(45)【発行日】2024-10-07
(54)【発明の名称】変形性関節症の予防又は治療剤、及び変形性関節症の予防又は治療用医薬組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 35/35 20150101AFI20240930BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20240930BHJP
【FI】
A61K35/35
A61P19/02
(21)【出願番号】P 2019206493
(22)【出願日】2019-11-14
【審査請求日】2022-11-09
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 2019年3月25日に日本大学リポジトリのウェブサイト<URL:http://repository.nihon-u.ac.jp/xmlui/handle/11263/1530>に公表
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】524178090
【氏名又は名称】松本 太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100126882
【氏名又は名称】五十嵐 光永
(72)【発明者】
【氏名】松本 太郎
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 則行
(72)【発明者】
【氏名】風間 智彦
【審査官】柴原 直司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/067175(WO,A1)
【文献】日大医誌,2015年,74, [5],p.246-252
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00-35/768
C12N 1/00-7/08
A61P 19/02
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱分化脂肪細
胞を有効成分として含有
する、変形性関節症の予防又は治療剤。
【請求項2】
前記脱分化脂肪細胞は、膝蓋下脂肪体由来である、請求項1に記載の変形性関節症の予防又は治療剤。
【請求項3】
前記脱分化脂肪細胞が変形性関節症患者又は患畜由来の自家細胞である、請求項1
又は2に記載の変形性関節症の予防又は治療剤。
【請求項4】
変形性関節症が変形性膝関節症である、請求項1~
3のいずれか一項に記載の変形性関節症の予防又は治療剤。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか一項に記載の変形性関節症の予防又は治療剤、及び薬学的に許容可能な担体を含む、変形性関節症の予防又は治療用医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変形性関節症の予防又は治療剤、及び変形性関節症の予防又は治療用医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
変形性関節症(Osteoarthritis;OA)は、軟骨が変性及び摩耗する病気である。OAの中でも変形性膝関節症(以下、「膝OA」と略記する場合がある)は、膝関節の軟骨の摩耗及び消失を特徴とし、主に加齢に伴って発症する疾患であり、日本には2400万人の患者がいると推定されている。軟骨変性が重度な症例では手術(人工膝関節置換術等)が行われるが、発症初期から中期では、消炎鎮痛剤やヒアルロン酸注射等の対症療法が主となっている。近年、発症初期から中期の膝OAに対して、患者の血液から調製される多血小板血漿(PRP)や脂肪組織等から調製される間葉系幹細胞(MSC)を関節内注射する治療法(例えば、非特許文献1参照)が保険外診療として行われており、一定の有効性が示されている。
【0003】
一方、発明者らは、これまで、脂肪細胞から脱分化脂肪細胞(DFAT)を簡便且つ大量に作製する方法を開発している(例えば、特許文献1参照)。得られたDFATが歯周組織の再生(例えば、特許文献2参照)や、真皮の再建(例えば、特許文献3参照)に有用であることが確かめられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5055613号公報
【文献】国際公開第2014/196503号
【文献】特開2016-087187号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】Lopa S et al., “Injective mesenchymal stem cell-based treatments for knee osteoarthritis: from mechanisms of action to current clinical evidences.”, Knee Surgery, Sports Traumatology, Arthroscopy, Vol. 27, Issue 6, p2003-2020, 2018.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したとおり、膝OAの治療法は対症療法が主となっている。PRPを用いた治療法では、異なった採取方法による調製キットが多数存在し、成分も雑多であり、治療効果も安定していない。MSCを用いる治療法では、採取時の侵襲が大きく、増殖速度が遅く、さらに採取後の細胞には、間葉系幹細胞以外の細胞も多く混在している。そのため、短期間で純度の高い細胞を大量に調製することが困難である。
さらに、膝OAのような慢性疾患では、長期に亘り継続的な治療により効果を維持することが求められる。しかしながら、PRPやMSCは1回の採取で、通常1回の治療しかできない。そのため、長期に亘り継続的な治療により効果を維持できる新規の治療方法が求められている。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、新規の変形性関節症の予防又は治療剤、及び変形性関節症の予防又は治療用医薬組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、DFAT細胞を膝OAモデルラットに投与することで、優れた治療効果を発揮することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の態様を含む。
本発明の第1態様に係る変形性関節症の予防又は治療剤は、脱分化脂肪細胞又はその培養上清を有効成分として含有する。
前記脱分化脂肪細胞が変形性関節症患者又は患畜由来の自家細胞であってもよい。
変形性関節症が変形性膝関節症であってもよい。
【0010】
本発明の第2態様に係る変形性関節症の予防又は治療用医薬組成物は、上記第1態様に係る変形性関節症の予防又は治療剤、及び薬学的に許容可能な担体を含む。
【発明の効果】
【0011】
上記態様の変形性関節症の予防又は治療剤、及び変形性関節症の予防又は治療用医薬組成物によれば、OAの進行を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施例1における膝OAモデルラットの調製方法を示す画像である。
【
図2】実施例1における膝OAモデルラットへのラットDFAT細胞の投与スケジュールを示す概略図である。
【
図3】実施例1における膝OAモデルラットへのラットDFAT細胞の関節内投与する様子を示す画像である。
【
図4】実施例1におけるDFAT細胞(DFAT群)又はPBS(Control群)を投与した膝OAモデルラットの大腿骨顆部及び脛骨近位部でのIndia Ink染色像である。
【
図5】実施例1におけるDFAT群又はControl群の大腿骨遠位関節面のサフラニンO染色像である。下の画像は上の画像の実線で囲った部分の拡大像である。上の画像のスケールバーは1,000μmである。下の画像のスケールバーは200μmである。
【
図6A】実施例1におけるDFAT群又はControl群の大腿骨顆部の軟骨変性の組織学的スコア(Mankin’s score)を示すグラフである。
【
図6B】実施例1におけるDFAT群又はControl群の大腿骨顆部の軟骨変性の組織学的スコア(OARSI score)を示すグラフである。
【
図7】実施例1におけるDFAT群又はControl群の脛骨近位関節面のサフラニンO染色像である。下の画像は上の画像の実線で囲った部分の拡大像である。上の画像のスケールバーは1,000μmである。下の画像のスケールバーは200μmである。
【
図8A】実施例1におけるDFAT群又はControl群の脛骨近位部の軟骨変性の組織学的スコア(Mankin’s score)を示すグラフである。
【
図8B】実施例1におけるDFAT群又はControl群の脛骨近位部の軟骨変性の組織学的スコア(OARSI score)を示すグラフである。
【
図9】実施例2における滑膜線維芽細胞とDFAT細胞との間接的な共培養によるADAMTS4の発現の評価方法を示す概略図である。
【
図10】実施例2におけるDFAT細胞と共培養した滑膜線維芽細胞のADAMTS4の発現量を示すグラフである。
【
図11】実施例2における炎症性サイトカイン(TNF-α又はINF-γ)存在下又は非存在下で培養したDFAT細胞でのPTGS2の発現量を示すグラフである。
【
図12】実施例2における炎症性サイトカイン(TNF-α又はINF-γ)存在下又は非存在下で培養したDFAT細胞でのTNFAIP6の発現量を示すグラフである。
【
図13】実施例2における炎症性サイトカイン(TNF-α又はINF-γ)存在下又は非存在下で培養したDFAT細胞でのPRG4の発現量を示すグラフである。
【
図14】実施例2における炎症性サイトカイン(TNF-α又はINF-γ)存在下又は非存在下で培養したDFAT細胞でのBMP2の発現量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
≪変形性関節症≫
一般に、OA(Osteoarthritis;変形性関節症)は、全身のあらゆる関節に起こり得る疾患である。OAを引き起こす関節として具体的には、膝関節、股関節、脊椎等が挙げられ、それぞれ、変形性膝関節症(膝OA)、変形性股関節症、変形性脊椎症と呼ばれる。中でも、本実施形態のOAの予防又は治療剤は、変形性膝関節症(膝OA)に対して特に好適に用いられる。
【0014】
≪変形性関節症の予防又は治療剤≫
本実施形態の変形性関節症(OA)の予防又は治療剤は、DFAT細胞又はその培養上清を有効成分として含有する。
なお、ここでいう「DFAT細胞を有効成分として含有する」とは、DFAT細胞又はその培養上清をOAの予防又は治療効果を奏する成分として含有することを意味する。
【0015】
現在、OAの治療への臨床応用が検討されているMSCは、ES細胞と比べて、腫瘍形成能が低いと考えられており、骨髄、羊水、臍帯血及び脂肪組織等から採取することができる。しかしながら、骨髄からのMSCの採取は侵襲性が高く、MSCは骨髄中の全有核細胞数に対して0.001%以上0.01%以下程度の極微量しか含まれず、加齢とともに増殖力が低下するため、採取対象となるドナーの年齢に増殖力は依存する。羊水からのMSCの採取は、侵襲性は低いが、MSCは羊水中の全有核細胞数に対して1%以上2%以下程度の微量しか含まれず、増殖が遅い。脂肪組織からのMSCの採取は、侵襲性は低いが、MSCは間質血管分画中の全有核細胞数に対して0.3%以上4%以下程度の微量しか含まれないため、細胞治療に必要な108個程度の細胞数を得るためには、通常50mL以上300mL以下の脂肪組織の採取が必要となる。また、脂肪組織のMSCは、骨髄及び羊水中のMSCに対して増殖力は高いが、加齢とともに増殖力が低下するため、採取対象となるドナーの年齢に増殖力は依存する。さらに、細胞組織からMSCを採取する際に、MSC以外の細胞を多く含むため、継代培養を複数回繰り返して純化する必要があり、純化に時間を要する。
これに対して、DFAT細胞は、脂肪組織の約30%を占める成熟脂肪細胞を原料としているため、10mL程度の少量の脂肪組織から細胞数108個程度の細胞治療に十分なDFAT細胞が得られる。従って、採取に伴う侵襲性は、脂肪組織からMSCを採取するより低い。また、脂肪組織から成熟脂肪細胞を単離する際に、その他の細胞が混入しにくいため、培養早期より純度の高いDFAT細胞が得られる。さらに、DFAT細胞の増殖力はMSCと同等であるが、その増殖力や多分化能はMSCと異なり採取対象となるドナーの年齢や基礎疾患の影響を受けずに保たれる。
また、後述する実施例に記載のとおり、DFAT細胞を膝OAモデルラットに関節内投与することで、軟骨変性抑制効果が示されており、DFAT細胞の投与はOAの治療効果を期待できる。
【0016】
DFAT細胞は、OA患者又は患畜由来の自家細胞であってもよく、当該患者又は患畜以外のドナー由来の他家細胞であってもよい。当該患者又は患畜以外のドナーとしては、OA患者又は患畜と同種の動物であればよく、年齢及び性別は問わない。
OAの治療にOA患者又は患畜由来の自家細胞を用いる場合、DFAT細胞は、上述のとおり増殖力が高いことから、少量の成熟脂肪細胞から大量に自家細胞のDFAT細胞を調製することができ、1回の組織採取から複数回(例えば、5回程度)の治療に必要な細胞数を得ることができる。また、自家細胞であるため、免疫拒絶を受けるリスクがない。
また、当該患者又は患畜以外のドナー由来の他家細胞である場合、免疫拒絶により速やかに排除される可能性があるが、他家細胞であるDFAT細胞が炎症部において抗炎症作用を発現することができるため、十分に治療効果が期待できる。また、他家細胞である場合、外科手術時に廃棄される脂肪組織から採取された成熟脂肪細胞を用いて調製することができ、侵襲度が低い。さらに、これら廃棄される脂肪組織から採取された成熟脂肪細胞を用いて調製されたDFAT細胞からなるバンキングシステムを容易に構築することができ、このバンキングシステムを利用することで、患者又は患畜に適したDFAT細胞を適宜選択して用いることもできる。
【0017】
DFAT細胞は、公知の方法、例えば、特開2000-83656号公報(参考文献1)に記載の方法を用いて、動物の脂肪組織から採取された成熟脂肪細胞から調製することができる。具体的には、まず、脂肪組織からコラゲナーゼ処理等により成熟脂肪細胞を単離する。次いで、単離された成熟脂肪細胞を天井培養法によって培養することでDFAT細胞が得られる。調製されたDFAT細胞は、継代培養を少なくとも1回した後、すぐに使用することができる。
【0018】
DFAT細胞は、CD31陰性、CD45陰性及びHLA-DR陰性である。CD31、CD45及びHLA-DRは、細胞表面抗原であり、例えばフローサイトメトリー、細胞染色等により検出することができる。そのため、これら細胞表面抗原を検出することで、DFAT細胞の純度を確認することができる。具体的には、例えば、蛍光標識抗体を用いるフローサイトメトリーでは、ネガティブコントロール(アイソタイプコントロール)と比較してより強い蛍光を発する細胞が検出された場合、当該細胞は当該細胞表面抗原について「陽性」と判定される。蛍光標識抗体は、当該技術分野において公知の任意の抗体を使用することができ、例えば、イソチオシアン酸フルオレセイン(FITC)、フィコエリスリン(PE)、アロフィコシアニン(APC)等により標識された抗体が挙げられるが、これらに限定されない。細胞染色において、着色する又は蛍光を発する細胞が顕微鏡下にて観察された場合、当該細胞は当該細胞表面抗原について「陽性」と判定される。細胞染色は、抗体を使用する免疫細胞染色であってもよく、抗体を使用しない非免疫細胞染色であってもよい。
上記細胞表面抗原を検出するタイミングとしては、特別な限定はなく、例えば、成熟脂肪細胞からDFAT細胞が調製された直後、継代培養中、製剤化する前等が挙げられる。
【0019】
本実施形態のOAの予防又は治療剤は、DFAT細胞の代わりに、DFAT細胞の培養上清を含んでいてもよい。後述する実施例に示すように、軟骨変性抑制効果は、炎症性サイトカイン存在下でDFAT細胞から産生される因子によって、引き起こされるものであると考えられる。そのため、例えば、炎症性サイトカイン(例えば、TNF-α、IFN-γ等)存在下で培養したDFAT細胞の培養上清を、本実施形態のOAの予防又は治療剤の有効成分として使用することができる。医療製剤として用いる観点から、DFAT細胞の培養上清は、培養液成分を実質的に含まないことが好ましい。
【0020】
≪OAの予防又は治療用医薬組成物≫
本実施形態のOAの予防又は治療用医薬組成物(以下、「本実施形態の医薬組成物」と略記する場合がある)は、上記OAの予防又は治療剤、及び薬学的に許容可能な担体を含む。本実施形態の医薬組成物を投与することにより、OAを予防又は治療することができる。
【0021】
本実施形態の医薬組成物は、公知の方法を用いて適宜製剤とすることができ、一般的な細胞製剤が含む成分を配合することができる。具体的には、本実施形態の医薬組成物の製剤においては、製剤上の必要に応じて、適宜の薬学的に許容される担体、例えば、賦形剤、結合剤、溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、乳化剤、等張化剤、緩衝剤、安定化剤、無痛化剤、防腐剤、抗酸化剤、着色剤、滑沢剤、崩壊剤、湿潤剤、吸着剤、甘味剤、希釈剤等の任意成分を配合することができる。
投与経路は、皮下投与、経皮投与、筋肉内投与、血管内投与、関節内投与等の非経口投与経路が好ましく、関節内投与が特に好ましい。
【0022】
本実施形態の医薬組成物の投与量としては、OAの重症度や、剤型、投与対象の体重等によって変わり得るが、DFAT細胞を、例えば、1回当たり、1.0×104個/kg体重以上1.0×109個/kg体重以下の範囲で投与することができる。また、本実施形態の医薬組成物の投与は、単回投与でもよく、複数回投与であってもよい。複数回投与である場合は、例えば、2時間以上12時間以下の期間毎、毎日、又は2日、1週間、数週間、1か月若しくは数か月に1回等の頻度で投与することができる。
【0023】
本実施形態の医薬組成物の投与対象としては、哺乳動物であることが好ましい。哺乳動物としては、特別な限定はないが、例えば、ヒト、サル、イヌ、ネコ、ニワトリ、ウサギ、ブタ、ウシ、ヤギ、ヒツジ、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウマ等が挙げられる。中でも、哺乳動物としては、ヒトが好ましい。
【0024】
また、一実施形態において、本発明は、OAの予防又は治療用医薬組成物の製造のための、DFAT細胞又はその培養上清の使用を提供することができる。
また、一実施形態において、本発明は、OAの予防又は治療のための、DFAT細胞又はその培養上清の使用を提供することができる。
また、一実施形態において、本発明は、OA患者又は患畜に投与して、軟骨変性の抑制のために使用される、DFAT細胞又はその培養上清を提供することができる。
また、一実施形態において、本発明は、DFAT細胞又はその培養上清の治療有効量をOA患者又は患畜に投与する、OAの治療方法を提供することができる。
【実施例】
【0025】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0026】
[実施例1]
1.ラットDFAT細胞の調製
ラットDFAT細胞は、特開2000-83656号公報(参考文献1)に記載の方法を用いて、ラット脂肪組織から採取された成熟脂肪細胞から、予め調製した。
【0027】
2.膝OAモデルラットの作製及びDFAT細胞の投与
膝OAモデルラットは、10~12週齢のWistarラット(雄性)に前十字靭帯(ACL)切離及び内側半月板(MM)切除(以下、「ACLT+MMx処置」と略記する場合がある。)により作製した(
図1参照)。ACLT+MMx処置1週間後に、ラットDFAT細胞(DFAT投与群)又はPBS(Control群)を1週間毎に4回関節内投与した(各群n=10、
図2及び3参照)。処置5週間後に、両群の膝関節軟骨の変性を肉眼的及び組織学的に評価した。
【0028】
3.肉眼的評価
肉眼的評価では、両群の膝関節をIndia Ink染色により評価した。結果を
図4に示す。
図4において、破線部分は、軟骨変性範囲を示す。
図4に示すように、DFAT群のほうがControl群に比べて、大腿骨顆部及び脛骨近位部の関節軟骨の変性範囲が少ない傾向にあった。
【0029】
4.組織学的評価
組織学的評価では、両群の膝関節に対してサフラニンO染色を行い、Mankin’s score及びOARSI scoreを用いて定量評価を行なった。Mankin’s scoreにおける評価基準を表1に、OARSI scoreにおける評価基準を表2に示す。なお、OARSI scoreは「Score=Grade×Stage」で示され、Grade及びStageの各評価基準を表3に示す。両群の大腿骨遠位関節面の染色像を
図5に、両群の大腿骨遠位関節面の組織学的スコアを
図6A及び
図6Bに示す。また、両群の脛骨近位関節面の染色像を
図7に、両群の脛骨近位関節面の組織学的スコアを
図8A及び
図8Bに示す。
【0030】
【0031】
【0032】
【0033】
図5~
図6Bに示すように、大腿骨遠位関節面の組織学検討から、Control群では、硝子軟骨変性による菲薄化と軟骨表面の不整及び裂隙が認められた。一方、DFAT群では、関節軟骨の変性の程度が軽い傾向にあった。軟骨変性の組織学的スコアであるMankin’s score及びOARSI scoreは、Control群に比べてDFAT群で有意に低値を示した。
【0034】
図7~
図8Bに示すように、脛骨近位関節面の組織学検討から、Control群では、硝子軟骨変性による菲薄化と軟骨細胞の減少が認められた。一方、DFAT群では、関節硝子軟骨変性による菲薄化と軟骨細胞の減少が抑制されていた。軟骨変性の組織学的スコアであるMankin’s score及びOARSI scoreは、Control群に比べてDFAT群で有意に低値を示した。
【0035】
[実施例2]
1.DFAT細胞の調製
ヒト膝OA患者(n=3)の皮下脂肪組織と膝蓋下脂肪体から単離した成熟脂肪細胞から、上記参考文献1に記載の方法を用いて、ヒトDFAT細胞を予め調製した。
【0036】
2.滑膜線維芽細胞との共培養
滑膜線維芽細胞(SF)をTNFαで刺激するとアグリカン分解酵素であるADAMTS4の遺伝子発現が亢進することが知られている。健常者由来滑膜線維芽細胞(N-SF)1×10
6cells、又は膝OA患者由来滑膜線維芽細胞(OA-SF)1×10
6cellsを、1×10
6cellsとTNF-α存在下(終濃度10ng/mL)又は非存在下で12時間間接的に共培養した(
図9参照)。その後、各条件下で培養した滑膜線維芽細胞から全RNAを抽出し、ADAMTS4の発現をリアルタイムRT-PCR法にて定量評価した。結果を
図10に示す。
【0037】
図10に示すように、滑膜線維芽細胞によるADAMTS4の発現は、FP-DFAT、又はSC-DFATと共培養することにより、有意に抑制された。この作用は、健常者由来滑膜線維芽細胞(N-SF)でも、膝OA患者由来滑膜線維芽細胞(OA-SF)でも認められた。
【0038】
3.抗炎症及び免疫制御に関与する遺伝子群の発現
「1.」で調製された膝蓋下脂肪体由来DFAT(FP-DFAT)、及び皮下脂肪組織由来DFAT(SC-DFAT)をTNF-α又はIFN-γで刺激し、抗炎症及び免疫制御に関与する遺伝子群(PTGS2、TNFAIP6、PRG4、及びBMP2)の発現をリアルタイムRT-PCR法にて定量評価した。PTGS2の発現量の結果を
図11に、TNFAIP6の発現量の結果を
図12に、PRG4の発現量の結果を
図13に、及びBMP2の発現量の結果を
図14に示す。
【0039】
図11及び
図12に示すように、FP-DFAT又はSC-DFATを炎症性サイトカイン(TNF-αやIFN-γ)で刺激することで抗炎症因子であるPTGS2及びTNFAIP6の発現が顕著に増加した。
【0040】
図13及び
図14に示すように、FP-DFATは、軟骨形成促進因子であるPRG4を定常状態で発現し、この発現は炎症性サイトカイン(TNF-αやIFN-γ)で刺激することで抑制された。また、DFAT細胞は、TNF-αで刺激することで、軟骨形成促進因子であるBMP2を発現した。PRG4及びBMP2の発現は、SC-DFATに比べて、FP-DFATで高い傾向にあった。
【0041】
以上のことから、膝OAに対するDFAT細胞の軟骨変性抑制効果が明らかになった。また、DFAT細胞の軟骨変性抑制メカニズムは、炎症下におけるDFAT細胞による抗炎症因子の誘導によるものであることが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本実施形態の変形性関節症の予防又は治療剤、及び変形性関節症の予防又は治療用医薬組成物によれば、OAの進行を抑制することができる。