(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-27
(45)【発行日】2024-10-07
(54)【発明の名称】治療剤の送達のための生分解性薬物溶出塞栓粒子
(51)【国際特許分類】
A61K 9/16 20060101AFI20240930BHJP
A61K 9/127 20060101ALI20240930BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20240930BHJP
A61K 47/24 20060101ALI20240930BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20240930BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240930BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240930BHJP
A61K 31/704 20060101ALI20240930BHJP
A61K 31/44 20060101ALI20240930BHJP
【FI】
A61K9/16
A61K9/127
A61K47/38
A61K47/24
A61K47/10
A61P35/00
A61P43/00 121
A61K31/704
A61K31/44
(21)【出願番号】P 2021576245
(86)(22)【出願日】2019-06-19
(86)【国際出願番号】 US2019037984
(87)【国際公開番号】W WO2020256722
(87)【国際公開日】2020-12-24
【審査請求日】2022-06-17
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】595117091
【氏名又は名称】ベクトン・ディキンソン・アンド・カンパニー
【氏名又は名称原語表記】BECTON, DICKINSON AND COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100107386
【氏名又は名称】泉谷 玲子
(72)【発明者】
【氏名】アフォニナ,エレーナ
(72)【発明者】
【氏名】ドゥー,ヒープ・キュー
(72)【発明者】
【氏名】ゴエル,エミリー
(72)【発明者】
【氏名】グルエフ,オレグ
(72)【発明者】
【氏名】レシー,チャル
(72)【発明者】
【氏名】メールポウヤン,マジド
(72)【発明者】
【氏名】ランダル,マイケル
(72)【発明者】
【氏名】シャーキー,メアリーベス
(72)【発明者】
【氏名】ワン,ジェフリー
【審査官】参鍋 祐子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/218208(WO,A1)
【文献】特表2003-500114(JP,A)
【文献】特表2015-526510(JP,A)
【文献】特開2011-256207(JP,A)
【文献】特表2015-512950(JP,A)
【文献】国際公開第2019/028387(WO,A1)
【文献】Molecules,2018年,Vol.23(907),pp.1-17,doi:10.3390/molecules23040907
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00
A61K 47/00
A61K 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生分解性材料の複数の個々のマイクロビーズ
、ここにおいて、生分解性材料がセルロースを含む;
個々のマイクロビーズ内に含有される複数の個々の小胞剤であって、小胞コアを取り囲む少なくとも1つの脂質二重層を含む、小胞剤;および
個々の小胞剤内に含有されるか、またはイオン相互作用もしくは非共有結合的相互作用により個々の小胞剤と会合する第1の治療剤;および
第1の治療剤と異なる第2の治療剤であって、
個々の小胞剤内に含有されるか、またはイオン相互作用もしくは非共有結合的相互作用を介して個々の小胞剤と会合する、第2の治療剤
を含む、薬物充填マイクロビーズ組成物。
【請求項2】
小胞剤がリポソームまたはエトソームを含む、請求項1に記載の薬物充填マイクロビーズ組成物。
【請求項3】
第1の治療剤が親水性であり、第2の治療剤が疎水性である、
請求項1または2に記載の薬物充填マイクロビーズ組成物。
【請求項4】
第1の治療剤が、個々の小胞剤の小胞コア内に封入され、第2の治療剤が、個々の小胞剤の脂質二重層内に含有される、
請求項3に記載の薬物充填マイクロビーズ組成物。
【請求項5】
第1の治療剤および第2の治療剤がドキソルビシン、ベバシズマブ、ボルテゾミブ、イマチニブ、セリシクリブ、セリチニブ、エベロリムス、パクリタキセル、ソラフェニブ、イリノテカン、イダルビシン、シスプラチンおよびこれらの組み合わせから独立に選択される、
請求項1~4のいずれかに記載の薬物充填マイクロビーズ組成物。
【請求項6】
生分解性材料がセルロースアセテートブチレートを含む変性セルロースである、
請求項1~5のいずれかに記載の薬物充填マイクロビーズ組成物。
【請求項7】
個々の小胞剤がリポソームを含み;
第1の治療剤が、個々の小胞剤の脂質二重層内に含有され;
第2の治療剤が、個々の小胞剤の小胞コア内に封入され;
第1の治療剤がソラフェニブであり;
第2の治療剤がドキソルビシンであり;そして、
生分解性材料がセルロースである、
請求項1に記載の薬物充填マイクロビーズ組成物。
【請求項8】
少なくとも1つの脂質二重層がポリ(2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン)(PMPC)、ジオレオイルホスファチジルセリン(DOPS)、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)およびコレステロールを含む、
請求項1~7のいずれかに記載の薬物充填マイクロビーズ組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[0001]本開示は全般的に化学塞栓術(chemoemobilization)のための粒子、およびさらに詳細には化学塞栓術のための治療剤を含有する生分解性薬物溶出粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
[0002]塞栓療法は、画像下治療医により実施される低侵襲手術である。典型的な処置は、例えば腕または脚などの小切開を介して脈管構造に侵入し、場合により蛍光透視法などの画像技術により補助される、ガイドワイヤーおよびカテーテルの使用により処置部位に到達することを含み得る。処置部位での塞栓剤は、血管を閉塞させ、処置部位から下流の腫瘍への血流を遮断し、腫瘍の壊死および/または収縮をもたらす。
【0003】
[0003]塞栓療法に選択される塞栓剤は、所望の臨床転帰および塞栓剤の固有の特性に依存する。臨床的に用いられる塞栓剤は一般に欠点がある。第1に、塞栓剤は、薬物が予め充填されることなく提供され、これは、医師が薬局に、手術のかなり前、典型的には手術の少なくとも24時間前に薬物を塞栓剤に充填するように注文しなければならないことを意味する。第2に、塞栓剤は、埋め込みからわずか数日後に、典型的には埋め込み後約3日以内に標的処置部位への薬物の放出を停止する、最適以下の薬物動態放出プロファイルを有する。
【0004】
[0004]塞栓療法が有効であり得る疾患の中には、肝細胞癌(HCC)がある。肝細胞癌は、全原発性肝がんの80%~90%を占める。肝細胞癌の死亡率は高く、処置選択肢は限られている。肝硬変を有する患者は、肝細胞癌を発症する確率が高い。
【0005】
[0005]ソラフェニブ(ネクサバールとしてBayerおよびOnyx Pharmaceuticalsにより共同開発および共同マーケティングされた)は、原発性腎がん(進行性腎細胞癌)、放射性ヨウ素抵抗性の進行性甲状腺癌および肝細胞癌などの進行性原発性肝がんの処置に承認された経口投与用キナーゼ阻害薬である。トシル酸ソラフェニブ(ソラフェニブトルエン塩)を除いて、現在、肝細胞癌の処置に承認された標的剤はない。
【0006】
[0006]細胞毒性剤ドキソルビシンは、広域スペクトルの抗腫瘍活性を示す。肝動脈を介して投与された場合、ドキソルビシンは、肝細胞癌患者において抗腫瘍効果および部分応答を示す。ドキソルビシン単独をドキソルビシンにソラフェニブを加えたものと比較する肝細胞癌のランダム化第II相試験の探索的分析は、全生存の著しい改善を示し、該組み合わせを支持する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
[0007]塞栓剤の調製において効率を高めることができ、また塞栓部位への治療剤の持続的な長期送達を提供する、塞栓剤および塞栓治療方法が継続的に必要とされている。さらに、経口投与の代わりとして制御された方式で、ソラフェニブとドキソルビシンとの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない複数の治療剤を送達できる塞栓剤が、継続的に必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[0008]上記の背景に対して、本発明は、生分解性材料の複数の個々のマイクロビーズ、複数の個々の小胞剤、第1の治療剤および第1の治療剤と異なる第2の治療剤を含む、薬物充填マイクロビーズ組成物を対象とする。小胞剤は、小胞コアを取り囲む少なくとも1つの脂質二重層を含む。第1の治療剤は、個々の小胞剤と会合する。例えば、第1の治療剤は、個々の小胞剤内に含有され得るか、またはイオン相互作用もしくは非共有結合的相互作用により個々の小胞剤と会合し得る。第2の治療剤は第1の治療剤と異なり、個々のマイクロビーズ内に含有されるか、またはイオン相互作用もしくは非共有結合的相互作用を介して個々のマイクロビーズと会合し、個々のマイクロビーズ中の個々の小胞剤と会合する場合もあり、または会合しない場合もある。
【0009】
[0009]本明細書に開示される例示的な態様は、薬物充填マイクロビーズ組成物を調製する方法、薬物充填マイクロビーズ組成物から調製される塞栓組成物、塞栓組成物を調製する方法、および塞栓組成物を用いて疾患を処置する方法を対象とする。
【0010】
[0010]本開示のさらなる態様は、薬物充填生分解性マイクロビーズ組成物を対象とする。薬物充填生分解性マイクロビーズ組成物は、生分解性材料のマイクロビーズ、および生分解性材料のマトリックスに包埋されるか、生分解性材料のマトリックスにより封入されるか、生分解性材料のマトリックスにより形成される多孔質構造内に配置されるか、または生分解性材料のマトリックスとイオン的もしくは非共有結合的に会合する少なくとも1つの治療剤を含み得る。薬物充填生分解性マイクロビーズ組成物のこのような態様において、生分解性材料のマイクロビーズは、リポソームまたはエトソームなどの小胞剤を含有していてもよいが、必ずしも含有する必要はない。
【0011】
[0011]本明細書に記載される態様の追加の特徴および利点は、後続の詳細な説明に記載され、部分的には、該説明から当業者に容易に明らかになるか、後続の詳細な説明、特許請求の範囲および添付の図面を含む、本明細書に記載の態様を実行することにより認識されるであろう。
【0012】
[0012]前述の全般的な説明と以下の詳細な説明の両方は、様々な態様を記載し、特許請求される主題の性質および特徴を理解するための概要または枠組みを提供することが意図されることが理解されるべきである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[0013]以下に、少なくとも2つの治療剤を充填した生分解性材料のマイクロビーズを含む薬物充填マイクロビーズ組成物の態様について詳細に言及する。態様によるマイクロビーズ組成物は、リポソームまたはエトソームなどの複数の個々の小胞剤を含有する個々のマイクロビーズを含む。治療剤のうちの少なくとも1つは、脂質二重層中に組み込まれるか、または脂質二重層で取り囲まれるリポソームまたはエトソーム内に含有される。治療剤の他方は、個々の小胞剤内に含有され得るか、または個々の小胞剤の外側であるが、マイクロビーズの生分解性材料により形成されるマトリックス中に組み込まれ得る。本開示のさらなる態様は、薬物充填マイクロビーズ組成物を調製する方法、薬物充填マイクロビーズ組成物から調製される塞栓組成物、塞栓組成物を調製する方法、および塞栓組成物を用いて疾患を処置する方法を対象とする。薬物充填マイクロビーズ組成物は、治療剤が予め充填されたマイクロビーズを含む。塞栓組成物に含まれ、塞栓療法の一部として対象に供給される場合、塞栓組成物は、埋め込み後少なくとも7日間、少なくとも14日間、少なくとも21日間または少なくとも30日間の標的処置部位への薬物の連続放出を提供できる。
【0014】
[0014]態様によれば、薬物充填マイクロビーズ組成物は、生分解性材料の複数の個々のマイクロビーズ、複数の個々の小胞剤、第1の治療剤および第1の治療剤と異なる第2の治療剤を含む。いくつかの態様において、複数の個々の小胞剤は、個々のマイクロビーズの細孔内など、個々のマイクロビーズ内に含有され得る。いくつかの態様において、複数の個々の小胞剤は、イオン相互作用または非共有結合的相互作用を介して個々のマイクロビーズの生分解性材料と会合し得、例えば生分解性材料のマトリックスで完全に包含されるか、または例えば個々のマイクロビーズの外面などで生分解性材料に付着する。小胞剤は、小胞コアを取り囲む少なくとも1つの脂質二重層を含む。第1の治療剤は、個々の小胞剤と会合する。例えば、第1の治療剤は、個々の小胞剤内に含有され得るか、またはイオン相互作用もしくは非共有結合的相互作用により個々の小胞剤と会合し得る。第2の治療剤は第1の治療剤と異なり、個々のマイクロビーズ内に含有されるか、またはイオン相互作用もしくは非共有結合的相互作用を介して個々のマイクロビーズと会合する。
【0015】
[0015]小胞剤および治療剤に関して、用語「と会合する」は、イオン結合、ファンデルワールス相互作用、水素結合、π-πスタッキング、双極子-双極子相互作用、双極子-四重極相互作用、四重極-四重極相互作用、多重極-多重極相互作用またはこれらの組み合わせなどの非共有結合的相互作用を含む。イオン相互作用またはイオン結合は、アニオンまたはカチオンなどの逆帯電したイオン間の静電引力を含む化学結合の一種を含む。いくつかの例において、治療剤は、イオンを形成できる原子もしくは基を含み得るか、または1つもしくは複数の天然の双極子を有し得る。このような例において、イオンまたは双極子は、小胞剤または生分解性材料中に天然に存在する逆帯電したイオンまたは双極子に対して特定の親和性を有し得る。この親和性は、次いで、治療剤と小胞剤または生分解性材料との間の可逆的な化学的引力または結合をもたらす。
【0016】
[0016]薬物充填マイクロビーズ組成物の個々のマイクロビーズは、生分解性材料のマイクロビーズである。生分解性材料または個々のマイクロビーズは、細孔を含み得、様々な形状またはサイズを有し得るビーズマトリックスを形成する。いくつかの態様において、マイクロビーズは球状または卵形である。いくつかの態様において、生分解性材料は生分解性ポリマーまたは脂質である。生分解性ポリマーの例としてはポリ(ラクチド-co-グリコリド)(PLGA)、ポリラクチド(PLA)、ポリグリコリド(PGA)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリヒドロキシアルカノエート、ポリ-R-3-ヒドロキシブチレート(ポリ3HB)、ポリ-R-3-ヒドロキシブチレート-co-R-3-ヒドロキシバリレート(ポリ(3HB-co-3HV))、ポリ-R-3-ヒドロキシブチレート-co-4-ヒドロキシブチレート(ポリ(3HB-co-4HB))、ポリ-R-3-ヒドロキシオクタノエート-co-R-3-ヒドロキシヘキサノエート(ポリ(3HO-co-3HH))、ポリ-3-ヒドロキシプロピオネート(ポリ(3HP))、ポリ-4-ヒドロキシブチレート(ポリ(4HB))、ポリ-5-ヒドロキシブチレート(ポリ(5HB))、ポリ-6-ヒドロキシブチレート(ポリ(6HB))、ポリ(プロピレンフマレート)、ポリ(ブチレンサクシネート)、ポリ(p-ジオキサノン)、ポリアセタール、ポリ(オルトエステル)、ポリカーボネート、キトサン、ヒドロキシ酪酸、ポリ酸無水物およびポリエステル、ポリホスファゼン、ポリホスホエステル、リポディスク、セルロース、変性セルロース、タンパク質およびポリ(アミノ酸)、ポリエーテルならびに前述のもののコポリマーが挙げられるが、これらに限定されない。脂質の例はトリカプリン、トリラウリン、トリミリスチン、トリパルミチン、トリステアリン、水素化ココグリセリド、グリセリルモノステアレート、グリセリルベヘネート、グリセリルパルミトステアレート、グリセリルカプレート、セチルパルミテート、ステアリン酸、パルミチン酸、デカン酸、ベヘン酸、蜜蝋、カルナウバ蝋、カカオバターおよびこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。例示的な態様において、薬物充填マイクロビーズ組成物は個々のマイクロビーズを含み、これは生分解性セルロース、またはセルロースアセテートブチレートなどの生分解性変性セルロースのビーズである。
【0017】
[0017]薬物充填マイクロビーズ組成物の生分解性ポリマー材料は、前述の材料のいずれかの誘導体を含み得るか、または前述の材料もしくはその誘導体のいずれかの組み合わせを含み得る。例えば、薬物充填マイクロビーズ組成物は、複数の生分解性ポリマー材料の組み合わせを含み得、各個々のマイクロビーズは、単一種のポリマーからなり、薬物充填マイクロビーズ組成物は、複数のポリマー種のマイクロビーズを含む。あるいは、薬物充填マイクロビーズ組成物は、複数の生分解性ポリマー材料の組み合わせを含み得、組成物の個々のマイクロビーズは、複数種のポリマーからなる。
【0018】
[0018]様々な態様において、薬物充填マイクロビーズ組成物の生分解性材料は、トリカプリン、トリラウリン、トリミリスチン、トリパルミチン、トリステアリン、水素化ココグリセリド、グリセリルモノステアレート、グリセリルベヘネート、グリセリルパルミトステアレート、グリセリルカプレート、セチルパルミテート、ステアリン酸、パルミチン酸、デカン酸、ベヘン酸、蜜蝋、カルナウバ蝋およびカカオバターなどの固体脂質を含み得る。薬物充填マイクロビーズ組成物の生分解性材料は、前述の固体脂質のいずれかの誘導体を含み得るか、または前述の固体脂質もしくはその誘導体のいずれかの組み合わせを含み得る。例えば、薬物充填マイクロビーズ組成物は、複数の固体脂質の組み合わせを含み得、各個々のマイクロビーズは、単一種の固体脂質からなり、薬物充填マイクロビーズ組成物は、複数の固体脂質のマイクロビーズを含む。あるいは、薬物充填マイクロビーズ組成物は、複数の固体脂質の組み合わせを含み得、組成物の個々のマイクロビーズは、複数種の固体脂質からなる。
【0019】
[0019]態様による薬物充填マイクロビーズ組成物において、小胞剤の例としては、リポソームおよびエトソームが挙げられる。リポソームおよびエトソームは、疎水性部分のそれぞれが極性頭部基によりキャップされ、かつ1つの疎水性部分の極性頭部基が外部水性環境に対して外側に突出し、隣接する疎水性部分がその極性頭部基を内側に突出させるように交互に配列された複数の疎水性部分間でのファンデルワールス相互作用により形成される少なくとも1つの両親媒性の球状またはほぼ球状の二重層を有する粒子である。リポソームは、極性頭部基のそのラメラリティ(単一および多重層状小胞)、サイズ(小型、中型または大型)および電荷(アニオン、カチオンおよび中性)に従って分類できる。リポソーム粒子は典型的には約0.025μm~約2.5μmの直径を有し、疎水性部分は線形または低分岐飽和炭化水素である。エトソームは、エトソームの小胞コアがエタノール水溶液を含むという点においてリポソームと区別される。態様において、治療剤は、エトソームのエタノール水溶液中に溶解され得る。
【0020】
[0020]リポソームまたはエトソームなどの小胞剤は、例えば少なくとも1つの脂質二重層を含む。脂質二重層はリン脂質を含み得る。リン脂質の例としてはポリ(2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン)(PMPC)、大豆ホスファチジルコリン(SPC)、水素化大豆ホスファチジルコリン(HSPC)、卵スフィンゴミエリン(ESM)、卵ホスファチジルコリン(EPC)、ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、ジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)、ジミリストイルホスファチジルグリセロール(DMPG)、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール(DPPG)、ジオレオイルホスファチジルグリセロール(DOPG)、ジステアロイルホスファチジルグリセロール(DSPG)、ジミリストイルホスファチジルエタノールアミン(DMPE)、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン(DPPE)、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)、ジミリストイルホスファチジルセリン(DMPS)、ジパルミトイルホスファチジルセリン(DPPS)、ジオレオイルホスファチジルセリン(DOPS)、1,2-ジオレオイル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DOTAP)、1,2-ジラウロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DLPC)、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DMPC)、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスフェート(ナトリウム塩)(DMPA・Na)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスフェート(ナトリウム塩)(DPPA・Na)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスフェート(ナトリウム塩)(DOPA・Na)、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホ-(1’-rac-グリセロール)(ナトリウム塩)(DMPG・Na)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホ-(1’-rac-グリセロール)(ナトリウム塩)(DPPG・Na)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホ-(1’-rac-グリセロール)(ナトリウム塩)(DOPG・Na)、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホ-L-セリン(ナトリウム塩)(DMPS・Na)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホ-L-セリン(ナトリウム塩)(DPPS・Na)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホ-L-セリン(ナトリウム塩)(DOPS・Na)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-(グルタリル)(ナトリウム塩)(DOPE-グルタリル(Na)2)、1’,3’-ビス[1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホ]-sn-グリセロール(アンモニウム塩)(テトラミリストイルカルジオリピン(Na)2)、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-2000](アンモニウム塩)(DSPE-mPEG-2000・Na)、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-5000](アンモニウム塩)(DSPE-mPEG-5000・Na)、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[マレイミド(ポリエチレングリコール)-2000](アンモニウム塩)(DSPE-マレイミドPEG-2000・Na)、1,2-ジオレオイル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(塩化物塩)(DOTAP・Cl)、1,2-ジヘキサノイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DHPC)、ならびにこれらの混合物およびこれらの塩が挙げられるが、これらに限定されない。例示的な態様において、リポソームまたはエトソームなどの小胞剤の脂質二重層は脂質の組み合わせであり得る。特定の態様において、リポソームまたはエトソームなどの小胞剤の脂質二重層は、ポリ(2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン)(PMPC)、ジオレオイルホスファチジルセリン(DOPS)、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)およびコレステロールの組み合わせであり得る。
【0021】
[0021]態様による薬物充填マイクロビーズ組成物の個々のマイクロビーズは、第1の治療剤および第2の治療剤などの少なくとも2つの治療剤を含む。第1の治療剤は、個々の小胞剤と会合するか、または中に担持される。例えば、第1の治療剤は個々の小胞剤内に含有され得るか、またはイオン相互作用もしくは非共有結合的相互作用により個々の小胞剤と会合し得る。第1の治療剤は、小胞剤の脂質二重層中、小胞剤の小胞コア中にあり得るか、または脂質二重層の外面に結合し得、したがって小胞剤により封入され得ない。
【0022】
[0022]第2の治療剤は第1の治療剤と異なる。第2の治療剤は、個々のマイクロビーズ内に含有されるか、またはイオン相互作用もしくは非共有結合的相互作用を介して個々のマイクロビーズと会合する。いくつかの態様において、第2の治療剤は、個々のマイクロビーズの個々の小胞剤内に含有されるか、またはイオン相互作用もしくは非共有結合的相互作用を介して個々の小胞剤と会合する。例えば、いくつかの態様において、第2の治療剤は、小胞剤の脂質二重層中、小胞剤の小胞コア中にあり得るか、または脂質二重層の外面に結合し得、したがって小胞剤により封入され得ない。いくつかの態様において、第2の治療剤は、個々の小胞剤内に含有されず、個々の小胞剤とイオン的または非共有結合的に会合しないが、むしろイオン相互作用または非共有結合的相互作用により個々のマイクロビーズの生分解性材料と会合する。このような態様において、個々のマイクロビーズは、第1の治療剤および第2の治療剤の分子を内側に充填したか、または小胞剤の内側ではないが個々のマイクロビーズを形成する生分解性材料のマトリックスに付着した小胞剤を含有し得る。
【0023】
[0023]薬物充填マイクロビーズ組成物のいくつかの態様において、第1の治療剤は疎水性であり、第2の治療剤は親水性である。例示的な態様において、第1の治療剤は、個々の小胞剤の小胞コア内に封入され得、第2の治療剤は、個々の小胞剤の脂質二重層vに含有され得る。さらに例示的な態様において、第1の治療剤は、個々の小胞剤の小胞コア内に封入され得、第2の治療剤は、個々の小胞剤内に含有されず、イオン相互作用または非共有結合的相互作用により個々のマイクロビーズの生分解性材料と会合する。
【0024】
[0024]薬物充填マイクロビーズ組成物は、少なくとも2つの治療剤を含む。態様において、第1の治療剤および第2の治療剤はドキソルビシン、ベバシズマブ、ボルテゾミブ、イマチニブ、セリシクリブ、セリチニブ、エベロリムス、パクリタキセル、ソラフェニブ、イリノテカン、イダルビシン、シスプラチン、これらの薬学的に許容される塩および誘導体、ならびにこれらの組み合わせから独立に選択されるが、但し第1の治療剤は第2の治療剤と異なる。いくつかの態様において、治療剤は親水性治療剤、または水溶性であるか、もしくは水溶液中で少なくともある程度可溶性であるかのいずれかの治療剤であり得る。いくつかの態様において、治療剤は、がんなどの疾患を処置するのに少なくともある程度有効である化学療法剤であり得る。いくつかの態様において、治療剤は、肝細胞癌、肝がん、前立腺がんまたは乳がんなどのがんを処置するのに少なくともある程度有効である化学療法剤であり得る。治療剤は、正もしくは負電荷または親和性を有する1つまたは複数の化学部分または原子中心を有し得る。具体的な治療剤の例としてはドキソルビシン、ソラフェニブ、バンデタニブ、ニボルマブ、イピリムマブ、レゴラフェニブ、イリノテカン、エピルビシン、ピラルビシン、5-フルオロウラシル、シスプラチン、フロクスウリジン、マイトマイシンC、前述のもののいずれかの誘導体、前述のもののいずれかのプロドラッグ、前述のもののいずれかの治療上許容される塩もしくは結晶形態または前述のもののいずれかの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。好適な治療剤のさらなる例としてはピラルビシン、ミトキサントロン、テポテカン、パクリタキセル、カルボプラチン、ペメトレキセド、ペニスタチン、ペルツズマブ、トラスツズマブおよびドセタキセルが挙げられるが、これらに限定されない。好適な治療剤のさらにさらなる例としてはドキソルビシン、ベバシズマブ、ボルテゾミブ、イマチニブ、セリシクリブ、セリチニブ、エベロリムス、パクリタキセル、ソラフェニブ、イリノテカン、イダルビシン、シスプラチンおよびこれらの薬物の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0025】
[0025]薬物充填マイクロビーズ組成物の例示的な態様において、個々の小胞剤は、リポソームを含み;第1の治療剤は、個々の小胞剤の脂質二重層内に含有され;第2の治療剤は、個々の小胞剤内に含有されず、イオン相互作用または非共有結合的相互作用により個々のマイクロビーズの生分解性材料と会合し;そして、生分解性材料はセルロースである。このような態様において、リポソームは、例えばポリ(2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン)(PMPC)、ジオレオイルホスファチジルセリン(DOPS)、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)およびコレステロールの混合物から形成される脂質二重層を含み得る。
【0026】
[0026]薬物充填マイクロビーズ組成物のさらなる例示的な態様において、個々の小胞剤は、リポソームを含み;第1の治療剤は、個々の小胞剤の脂質二重層内に含有され;第2の治療剤は、個々の小胞剤の小胞コア内に封入され;第1の治療剤はソラフェニブであり;第2の治療剤はドキソルビシンであり;そして、生分解性材料はセルロース、またはエチルセルロースもしくはセルロースアセテートブチレートなどの変性セルロースである。このような態様において、リポソームは、例えばポリ(2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン)(PMPC)、ジオレオイルホスファチジルセリン(DOPS)、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)およびコレステロールの混合物から形成される脂質二重層を含み得る。
【0027】
[0027]薬物充填マイクロビーズ組成物のさらなる例示的な態様において、個々の小胞剤は、エトソームを含み;第1の治療剤は、個々の小胞剤の小胞コア内に封入され;第2の治療剤は、個々の小胞剤内に含有されず、イオン相互作用または非共有結合的相互作用により生分解性材料と会合し;第1の治療剤はソラフェニブであり;第2の治療剤はドキソルビシンであり;そして、生分解性材料はセルロース、またはエチルセルロースもしくはセルロースアセテートブチレートなどの変性セルロースである。このような態様において、リポソームは、例えばポリ(2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン)(PMPC)、ジオレオイルホスファチジルセリン(DOPS)、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)およびコレステロールの混合物から形成される脂質二重層を含み得る。
【0028】
[0028]薬物充填マイクロビーズ組成物の個々のマイクロビーズにおいて、治療剤または治療剤の複合体は、生分解性材料により形成されるマトリックスにより封入され得るか、または該マトリックス内に包埋され得る。特に記載される場合を除き、用語「封入される」および「包埋される」は、生分解性材料またはその一部分が、治療剤および/または治療剤を含む小胞剤を通常取り囲む、態様を広く含む。いくつかの態様において、例えば、「包埋された」は、治療剤および/または小胞剤を保持するコアを封入する生分解性材料のシェルを含み得る。他の態様において、「包埋された」は、治療剤または複合体が、外部シェル内にコアを有する場合もありまたは有さない場合もある生分解性材料のマトリックス、ネットワークまたは細孔構造内に物理的に配置される構造を含み得る。治療剤自体は、生分解性材料に全く化学結合し得ないか、または生分解性材料が生分解性ポリマー材料である場合、生分解性材料のポリマー骨格に直接化学結合し得ない。薬物充填マイクロビーズ組成物は、薬物充填マイクロビーズ組成物の全重量に対して1重量%未満の含水量を有し得る。
【0029】
[0029]いくつかの態様において、薬物充填マイクロビーズ組成物の治療剤は、生分解性材料のマイクロビーズ内に包埋され得るが、生分解性材料に化学結合し得ない。いくつかの態様において、薬物充填マイクロビーズ組成物の治療剤は、生分解性材料のマイクロビーズ内に包埋され得、生分解性材料のポリマー骨格に直接化学結合し得ないが、生分解性材料の官能基に化学結合し得る。本明細書で使用する「化学結合しない」は、治療剤と生分解性材料との間の共有化学結合の欠如を指すが、治療剤と生分解性材料との間のイオン相互作用またはファンデルワールス相互作用などの非共有結合的分子間相互作用の存在を排除しない。
【0030】
[0030]いくつかの態様において、小胞剤は治療剤の複合体を形成する。複合体において、治療剤は、小胞剤もしくはその脂質二重層に化学結合し得るか、または封入もしくはファンデルワールス相互作用などの非共有結合的手段により小胞剤もしくはその脂質二重層と会合し得る。複合体は生分解性材料内に包埋され得る。複合体がマイクロビーズ内に包埋される場合、小胞剤は、生分解性材料に化学結合し得るが、治療剤は生分解性材料に化学結合しない。理論に拘束されることは意図しないが、治療剤が小胞剤と結合または会合するが、生分解性材料に化学結合しない場合、薬物充填マイクロビーズ組成物のマイクロビーズは、薬物充填中、水分子を薬物分子に置き換えることによる収縮の影響を受けにくいと考えられる。したがって、薬物充填マイクロビーズの最終的なサイズ分布は、治療剤が充填される前に適当なマイクロビーズのサイズを選択することにより、より容易に制御できる。
【0031】
[0031]態様による薬物充填マイクロビーズ組成物は、薬物充填マイクロビーズ組成物中のマイクロビーズの全重量に対して1重量%未満、0.1重量%未満、0.05重量%(500ppm)未満、0.02重量%(200ppm)未満、0.01重量%(100ppm)未満、0.005重量%(50ppm)未満、0.002重量%(20ppm)未満または0.001重量%(10ppm)未満などの非常に低い含水量を有し得る。理論に拘束されることは意図しないが、非常に低い含水量の薬物充填マイクロビーズ組成物は、薬物充填マイクロビーズ組成物の貯蔵寿命を延長し、長期安定性を高めると考えられる。さらに、薬物充填マイクロビーズ組成物の全重量に対して1重量%を有意に超える(例えば2%、3%、5%または10%などの)含水量は、治療剤の分解もしくは加水分解、水膨潤性ポリマーの不安定性もしくは分離、またはこれらの組み合わせを数日またはさらには数時間以内にもたらし得、これにより薬物充填マイクロビーズ組成物が再水和された場合でも組成物は塞栓術に使用できないと考えられる。1重量%を有意に超える含水量を有する組成物の貯蔵寿命および長期安定性は、薬物充填マイクロビーズ組成物の製造から塞栓術における組成物の使用までの期間にわたって、治療剤のバイアビリティを確保するのに十分な長さでないと考えられる。水膨潤性ポリマー材料の選択は、凍結乾燥もしくは他の乾燥技術または乾燥技術の組み合わせにより、治療剤の分解を防止するのに十分な量で薬物充填マイクロビーズから除去される水の能力と相関し得ると考えられる。
【0032】
[0032]前述したように、非常に低い含水量の薬物充填マイクロビーズ組成物は、薬物充填マイクロビーズ組成物を調製する方法に関してその後さらに詳細に記載される乾燥技術により得ることができる。この関連で、薬物充填マイクロビーズ組成物は、包埋された治療剤、または治療剤と小胞剤との包埋された複合体を含有するマイクロビーズの乾燥組成物またはほぼ脱水された組成物であり得る。薬物充填マイクロビーズ組成物は、粉末様コンシステンシーを有し得る。したがって、薬物充填マイクロビーズ組成物は、その後さらに詳細に記載されるように、薬物充填マイクロビーズ組成物のマイクロビーズを再水和して、塞栓組成物を形成することにより、処置される対象への注射に好適なものとなり得る。それにも関わらず、薬物充填マイクロビーズ組成物は、医師が、水または生理緩衝食塩溶液などの水溶液のみを薬物充填マイクロビーズ組成物に添加して、塞栓術での使用のための組成物を調製する必要があるような形態で提供され得る。
【0033】
[0033]薬物充填マイクロビーズ組成物のマイクロビーズは、ヒドロゲル型水膨潤性ポリマー材料から形成される微粒子に共通する任意の形状を有し得る。例えば、微粒子は、球状もしくは実質的に球状であり得るか、または縦軸を中心に卵円形もしくは楕円形の断面、および縦軸に垂直な軸を中心に円形の断面を有する卵形形状を有し得る。
【0034】
[0034]薬物充填マイクロビーズ組成物は、薬物充填マイクロビーズ組成物および個々のマイクロビーズ中に存在する特定の治療剤の意図された使用に基づき、所望の治療効果または活性を有するように選択される組成物中のマイクロビーズ1単位体積当たりの治療剤の量を含み得る。
【0035】
[0035]薬物充填マイクロビーズ組成物の個々のマイクロビーズ中の治療剤の量は、例えば充填時間、充填温度または充填溶液中の治療剤の濃度など、薬物充填中に、当該の特定の技術を介して調整され得る。薬物充填マイクロビーズ組成物の個々のマイクロビーズ中の治療剤の量はまた、生分解性材料のポリマー分子量、ポリマー密度またはポリマー多孔度の調整を介してなど、マイクロビーズ自体を合成するための当該合成技術を介して調整され得る。例えば、ドキソルビシンが治療剤である場合、薬物充填マイクロビーズに充填する薬物の量は、水膨潤性ポリマー材料のポリマー骨格中の負電荷の数に対して調整され得る。同様に、ソラフェニブが治療剤である場合、ソラフェニブは、マイクロビーズ構造内に包埋されるリポソーム内に包埋され得る。
【0036】
[0036]例示的な態様において、薬物充填マイクロビーズ組成物の個々の薬物充填マイクロビーズは、生分解性材料、第1および第2の治療剤ならびに水を含む。薬物充填マイクロビーズ組成物の個々の薬物充填マイクロビーズは、個々の薬物充填マイクロビーズの全重量に対して、約30~約70重量%、約35~約65重量%、約40~約60重量%、約45~約55重量%または約50~約70重量%の生分解性材料を含み得る。例示的な態様において、薬物充填マイクロビーズ組成物の個々の薬物充填マイクロビーズは、個々の薬物充填マイクロビーズの全重量に対して約1重量%~約25重量%、約1重量%~約20重量%、約1重量%~約15重量%、約2重量%~約25重量%、約5重量%~約25重量%または約10重量%~約25重量%の治療剤を含み得る。例示的な態様において、態様による薬物充填マイクロビーズ組成物の個々の薬物充填マイクロビーズは、薬物充填マイクロビーズ組成物中の個々のマイクロビーズの全重量に対して1重量%未満、0.5重量%未満、0.1重量%未満、0.05重量%(500ppm)未満、0.02重量%(200ppm)未満、0.01重量%(100ppm)未満、0.005重量%(50ppm)未満、0.002重量%(20ppm)未満または0.001重量%(10ppm)未満などの非常に低い含水量を有し得る。
【0037】
[0037]様々な態様による薬物充填マイクロビーズ組成物を記載してきたが、以下に薬物充填マイクロビーズ組成物を調製する方法を記載する。
[0038]薬物充填マイクロビーズ組成物を調製する例示的な方法は、小胞剤を調製するステップと、小胞剤を水溶液に添加するステップと、生分解性材料の前駆体を含有する有機溶液を調製するステップと、水溶液と有機溶液を組み合わせるステップと、混合物を撹拌してマイクロビーズを形成するステップと、マイクロビーズを乾燥するステップと、マイクロビーズを回収するステップを含む。方法は、マイクロビーズを洗浄するステップ、すすぐステップまたは濾過するステップをさらに含み得る。
【0038】
[0039]薬物充填マイクロビーズが、治療剤と小胞剤との複合体粒子を形成する中間ステップありで調製されるのか、または中間ステップなしで調製されるのかにかかわらず、薬物充填マイクロビーズ組成物を調製する前述の方法は、水を薬物充填マイクロビーズから除去して、薬物充填マイクロビーズ組成物の全重量に対して1重量%未満の含水量を有する薬物充填マイクロビーズ組成物を形成するステップをさらに含む。いくつかの態様において、水の除去は、凍結乾燥(lyophilizationまたはfreeze drying)、次いで場合により温度変化(加熱または冷却)、流動空気、真空またはこれらの組み合わせを含む追加の乾燥ステップを含み得る。薬物充填マイクロビーズは、最初の回収時の平均合成体積および水の除去後の平均最終体積を有し得る。平均最終体積は、例えば平均合成体積の約10%、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%または約75%など、平均合成体積の約10%~約75%の範囲であり得る。
【0039】
[0040]薬物充填マイクロビーズの凍結乾燥は、粒状物質の乾燥に一般に用いられる任意の手順により行われ得る。例えば、薬物充填マイクロビーズは半打栓ガラスバイアルに入れられ得、次いで凍結乾燥機内で冷却され、温度制御された棚に配置される。棚温度が下げられ、試料は一定の規定温度まで凍結させる。完全に凍結させた後、乾燥器内の圧力は規定圧力に下げられて、第1乾燥を開始し得る。第1乾燥中、棚温度は一定の低温で制御され、水蒸気は昇華により凍結塊から漸進的に除去される。第2乾燥は、棚温度を上げ、チャンバー圧力をさらに下げることにより開始され得るので、半乾燥塊に吸収された水は、残留含水量が所望のレベルに低下するまで除去され得る。
【0040】
[0041]薬物充填マイクロビーズの凍結乾燥はまた、凍結薬物充填マイクロビーズ上で非常に乾燥した空気を急速に循環させることによる大気圧凍結乾燥により行われ得る。循環乾燥ガスは、凍結マイクロビーズからの熱および物質移動の改善をもたらす。大気噴霧乾燥方法は、乾燥ケーキの形成を回避しながら、自由流動粉末として小径のマイクロビーズの形成を促進し得る。次いで、自由流動粉末は、塞栓組成物を調製する場合、薬物充填マイクロビーズ組成物の再水和を促進し得る。
【0041】
[0042]前述した、または前述の方法により調製される薬物充填マイクロビーズ組成物の薬物充填マイクロビーズは、その使用、貯蔵、輸送または塞栓組成物を形成するためのその後の再水和に有利な物理的または機械的特性を示し得る。
【0042】
[0043]前述した、または前述の方法により調製される薬物充填マイクロビーズ組成物の薬物充填マイクロビーズは、薬物充填マイクロビーズ組成物を再水和して、塞栓処置に使用できる状態にある塞栓組成物を形成するための説明書と共に医師に提供され得る。したがって本開示の態様は、塞栓組成物および塞栓組成物を調製する方法を含む。
【0043】
[0044]塞栓組成物は、本開示の任意の態様による薬物充填マイクロビーズ組成物または本開示の具現化された方法により調製される薬物充填マイクロビーズ組成物を含み得る。塞栓組成物は、薬物充填マイクロビーズ組成物の薬物充填マイクロビーズを患者への投与に好適な形態に再構成させるのに十分な量の水溶液をさらに含み得る。特に、水溶液の量は、薬物充填マイクロビーズを、水和後、薬物充填マイクロビーズの全重量に対して約50重量%~約99重量%、約60重量%~約95重量%、約70重量%~約95重量%、約80重量%~約95重量%、約90重量%~約95重量%、約80重量%~約99重量%、約90重量%~約99重量%または約95重量%~約99重量%の含水量を有するようにし得る。水溶液は、例えば生理緩衝食塩溶液などの任意の薬学的に許容される溶液であり得る。
【0044】
[0045]例示的な態様において、塞栓組成物の水和した個々の薬物充填マイクロビーズは、生分解性材料、治療剤、小胞剤および水を含む。塞栓組成物の水和した個々の薬物充填マイクロビーズは、水和した個々の薬物充填マイクロビーズの全重量に対して約3重量%~約10重量%、約3重量%~約7重量%、約3.5重量%~約6.5重量%、約4重量%~約6重量%、約4.5重量%~約5.5重量%または約5重量%~約7重量%の生分解性材料を含み得る。例示的な態様において、塞栓組成物の水和した個々の薬物充填マイクロビーズは、水和した個々の薬物充填マイクロビーズの全重量に対して約0.1重量%~約2.5重量%、約0.1重量%~約2重量%、約0.1重量%~約1.5重量%、約0.2重量%~約2.5重量%、約0.5重量%~約2.5重量%または約1重量%~約2.5重量%の治療剤を含み得る。例示的な態様において、態様による塞栓組成物の水和した個々の薬物充填マイクロビーズは、個々の薬物充填マイクロビーズの全重量に対して約50重量%~約99重量%、約50重量%~約97重量%、約50重量%~約96重量%、約60重量%~約95重量%、約70重量%~約95重量%、約80重量%~約95重量%、約90重量%~約95重量%、約80重量%~約99重量%、約90重量%~約99重量%または約95重量%~約99重量%の含水量を有し得る。
【0045】
[0046]塞栓組成物のマイクロビーズは、動的光散乱法(DLS)により測定したとき、約5μm~約1200μmの平均径を有し得る。非球状マイクロビーズについては、個々の粒子の直径は、マイクロビーズ表面の第1の点からマイクロビーズの質量中心を通って第1の点に対向するマイクロビーズ表面の第2の点までに得ることができる最も広い測定値であると解釈される。微粒子の特定のサイズ分布は、塞栓組成物が用いられることが意図される特定の処置に好適であるように選択されるか、または合わせられ得る。塞栓組成物のマイクロビーズの平均径は、治療剤がマイクロビーズに充填される前またはその後、任意の好適なサイズ選択方法により選択され得る。いくつかの態様において、塞栓組成物の膨潤したマイクロビーズは、例えば約40μm~約800μm、約40μm~約100μm、約40μm~約75μm、約75μm~約100μm、約100μm~約200μm、約200μm~約300μm、約300μm~約400μm、約400μm~約500μm、約600μm~約700μmまたは前述の範囲のいずれかの任意のサブセットの平均径を有し得る。いくつかの態様において、膨潤したマイクロビーズは、例えば40μm±20μm、40μm±10μm、40μm±5μmまたは40μm±1μmなどの狭いサイズ分布の平均径を有し得る。
【0046】
[0047]塞栓組成物を調製する方法は、本開示の任意の態様による薬物充填マイクロビーズ組成物、または本開示の具現化された方法により調製される薬物充填マイクロビーズ組成物を、薬物充填マイクロビーズ組成物の薬物充填マイクロビーズを膨潤させるのに十分な量の水溶液であって、それにより膨潤後の薬物充填マイクロビーズが、薬物充填マイクロビーズの全重量に対して50重量%~99重量%、50重量%~90重量%、50重量%~75重量%、60重量%~99重量%、75重量%~99重量%、75重量%~95重量%、75重量%~90重量%または85重量%~99重量%の含水量を含む、水溶液に添加して、すぐに注射できる状態の溶液を形成するステップを含み得る。水溶液は、例えば生理緩衝食塩溶液などの任意の薬学的に許容される溶液であり得る。方法は、すぐに注射できる状態の溶液を例えばシリンジなどの注射装置に充填するステップをさらに含み得る。方法は、すぐに注射できる状態の溶液を注射装置に充填する前に薬物充填マイクロビーズを約5分~約60分の再水和時間膨潤させるステップをさらに含み得る。いくつかの例において、塞栓組成物は、マイクロビーズ1ml当たり約25mgの治療剤からマイクロビーズ1ml当たり約150mgの治療剤を含有し得る。
【0047】
[0048]本開示の態様による薬物充填マイクロビーズ組成物から調製される塞栓組成物は、がんなどの疾患を処置することが意図された塞栓処置または療法に組み込まれ得る。いくつかの態様において、治療剤は肝細胞癌、肝がん、前立腺がんまたは乳がんなどのがんを処置するのに少なくともある程度有効である化学療法剤であり得る。したがって、本開示の態様は、疾患を処置する方法を含む。疾患を処置する方法は、本明細書に前述した任意の態様による薬物充填マイクロビーズ組成物から調製される、本明細書に前述した任意の態様による塞栓組成物を、塞栓療法を必要とする対象の静脈内に供給するステップを含み得る。
【0048】
[0049]疾患を処置する方法において、塞栓組成物が静脈内に供給された後、薬物充填マイクロビーズの少なくとも一部分が対象の脈管構造を通って塞栓部位に流れ、塞栓部位の血流を制限する。その後、薬物充填マイクロビーズは、塞栓組成物が供給される前のマイクロビーズ内に包埋された治療剤の初期量に基づき少なくとも90重量%の治療剤を、塞栓部位の組織に放出期間にわたって放出し得る。いくつかの態様において、塞栓部位の組織への放出は、薬物放出初期バーストを含み得、この間、薬物充填マイクロビーズ中に最初に存在する治療剤の少なくとも10重量%が、塞栓部位の周辺組織に放出される。初期バーストは、薬物充填マイクロビーズが塞栓部位に到達してから1分、5分、10分、30分、60分、120分、180分、240分、300分、360分、12時間、18時間または24時間以内に起こり得る。いくつかの態様において、薬物充填マイクロビーズは、放出期間にわたって組織への治療剤の持続的放出を提供する。放出期間は、少なくとも5日間、少なくとも10日間、少なくとも14日間、少なくとも28日間または少なくとも42日間などの長期の放出期間であり得る。放出期間の終了は、薬物充填マイクロビーズが、完全に分解された時点または組織への治療剤の溶出を停止した時点のいずれかから決定される。
【0049】
[0050]理論に拘束されることは意図しないが、塞栓組成物の薬物充填マイクロビーズからの治療剤の放出機構は、イオン交換法と酵素法を含む二重機構に基づくものであり得ると考えられる。例えば、大量の水が存在する、塞栓部位への治療剤の送達の初期段階では、治療剤は、イオン交換法により薬物充填マイクロビーズから放出され得ると考えられる。水が血管の閉塞により不足するその後の段階では、薬物充填マイクロビーズは、例えばマイクロビーズから治療剤を放出するために、リゾチームなどの酵素法により分解され得る。埋め込み後21日目などの最終段階では、生分解性材料のほとんどが、塞栓部位を取り囲む組織により再吸収されると考えられる。この時点で、水膨潤性材料はもはや治療剤または治療剤と小胞剤との複合体を封入するマトリックスを有さないため、治療剤は塞栓部位に完全に溶出され得る。それにより、本開示の態様による塞栓組成物は、腫瘍応答および無病生存率を増加できると考えられる。さらに、本開示の態様による塞栓組成物は、薬剤師または技術者に治療剤を未充填マイクロビーズに添加するように要求する必要性を排除することにより、医師の手技時間を短縮するなど経済的価値を提供する。
【0050】
[0051]本開示のさらなる態様は、薬物充填生分解性マイクロビーズ組成物を対象とする。薬物充填生分解性マイクロビーズ組成物は、生分解性材料のマイクロビーズ、および生分解性材料のマトリックスに包埋されるか、生分解性材料のマトリックスにより封入されるか、生分解性材料のマトリックスにより形成される多孔質構造内に配置されるか、または生分解性材料のマトリックスとイオン的もしくは非共有結合的に会合する少なくとも1つの治療剤を含み得る。薬物充填生分解性マイクロビーズ組成物のこのような態様において、生分解性材料のマイクロビーズは、リポソームまたはエトソームなどの小胞剤を含有していてもよいが、必ずしも含有する必要はない。
【0051】
[0052]薬物充填生分解性マイクロビーズ組成物において、生分解性材料は生分解性ポリマーまたは脂質である。生分解性ポリマーの例としてはポリ(ラクチド-co-グリコシド)(PLGA)、ポリラクチド(PLA)、ポリグリコシド(PGA)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリヒドロキシアルカノエート、ポリ-R-3-ヒドロキシブチレート(ポリ3HB)、ポリ-R-3-ヒドロキシブチレート-co-R-3-ヒドロキシバリレート(ポリ(3HB-co-3HV))、ポリ-R-3-ヒドロキシブチレート-co-4-ヒドロキシブチレート(ポリ(3HB-co-4HB))、ポリ-R-3-ヒドロキシオクタノエート-co-R-3-ヒドロキシヘキサノエート(ポリ(3HO-co-3HH))、ポリ-3-ヒドロキシプロピオネート(ポリ(3HP))、ポリ-4-ヒドロキシブチレート(ポリ(4HB))、ポリ-5-ヒドロキシブチレート(ポリ(5HB))、ポリ-6-ヒドロキシブチレート(ポリ(6HB))、ポリ(プロピレンフマレート)、ポリ(ブチレンサクシネート)、ポリ(p-ジオキサノン)、ポリアセタール、ポリ(オルトエステル)、ポリカーボネート、キトサン、ヒドロキシ酪酸、ポリ無水物およびポリエステル、ポリホスファゼン、ポリホスホエステル、リポディスク、セルロース、変性セルロース、タンパク質およびポリ(アミノ酸)、ポリエーテルならびに前述のもののコポリマーが挙げられるが、これらに限定されない。脂質の例としてはトリカプリン、トリラウリン、トリミリスチン、トリパルミチン、トリステアリン、水素化ココグリセリド、グリセリルモノステアレート、グリセリルベヘネート、グリセリルパルミトステアレート、グリセリルカプレート、セチルパルミテート、ステアリン酸、パルミチン酸、デカン酸、ベヘン酸、蜜蝋、カルナウバ蝋、カカオバターおよびこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。例示的な態様において、薬物充填マイクロビーズ組成物は個々のマイクロビーズを含み、これは生分解性セルロース、またはエチルセルロースもしくはセルロースアセテートブチレートなどの生分解性変性セルロースのビーズである。薬物充填生分解性マイクロビーズ組成物の生分解性ポリマー材料は、前述の材料のいずれかの誘導体を含み得るか、または前述の材料もしくはその誘導体のいずれかの組み合わせを含み得る。例えば、薬物充填マイクロビーズ組成物は、複数の生分解性ポリマー材料の組み合わせを含み得、各個々のマイクロビーズは、単一種のポリマーからなり、薬物充填生分解性マイクロビーズ組成物は、複数のポリマー種のマイクロビーズを含む。あるいは、薬物充填生分解性マイクロビーズ組成物は、複数の生分解性ポリマー材料の組み合わせを含み得、組成物の個々のマイクロビーズは、複数種のポリマーからなる。
【0052】
[0053]様々な態様において、薬物充填生分解性マイクロビーズ組成物の生分解性材料はトリカプリン、トリラウリン、トリミリスチン、トリパルミチン、トリステアリン、水素化ココグリセリド、グリセリルモノステアレート、グリセリルベヘネート、グリセリルパルミトステアレート、グリセリルカプレート、セチルパルミテート、ステアリン酸、パルミチン酸、デカン酸、ベヘン酸、蜜蝋、カルナウバ蝋およびカカオバターなどの固体脂質を含み得る。薬物充填生分解性マイクロビーズ組成物の生分解性材料は、前述の固体脂質のいずれかの誘導体を含み得るか、または前述の固体脂質もしくはその誘導体のいずれかの組み合わせを含み得る。例えば、薬物充填生分解性マイクロビーズ組成物は、複数の固体脂質の組み合わせを含み得、各個々のマイクロビーズは、単一種の固体脂質からなり、薬物充填生分解性マイクロビーズ組成物は、複数の固体脂質のマイクロビーズを含む。あるいは、薬物充填生分解性マイクロビーズ組成物は、複数の固体脂質の組み合わせを含み得、組成物の個々のマイクロビーズは、複数種の固体脂質からなる。
【0053】
[0054]薬物充填生分解性マイクロビーズ組成物において、少なくとも1つの治療剤はドキソルビシン、ベバシズマブ、ボルテゾミブ、イマチニブ、セリシクリブ、セリチニブ、エベロリムス、パクリタキセル、ソラフェニブ、イリノテカン、イダルビシン、シスプラチン、これらの薬学的に許容される塩および誘導体、ならびにこれらの組み合わせから選択され得る。具体的な治療剤のさらなる例としてはドキソルビシン、ソラフェニブ、バンデタニブ、ニボルマブ、イピリムマブ、レゴラフェニブ、イリノテカン、エピルビシン、ピラルビシン、5-フルオロウラシル、シスプラチン、フロクスウリジン、マイトマイシンC、前述のもののいずれかの誘導体、前述のもののいずれかのプロドラッグ、前述のもののいずれかの治療上許容される塩もしくは結晶形態、または前述のもののいずれかの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。好適な治療剤のさらなる例としてはピラルビシン、ミトキサントロン、テポテカン、パクリタキセル、カルボプラチン、ペメトレキセド、ペニスタチン、ペルツズマブ、トラスツズマブおよびドセタキセルが挙げられるが、これらに限定されない。好適な治療剤のさらにさらなる例としてはドキソルビシン、ベバシズマブ、ボルテゾミブ、イマチニブ、セリシクリブ、セリチニブ、エベロリムス、パクリタキセル、ソラフェニブ、イリノテカン、イダルビシン、シスプラチンおよびこれらの薬物の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。薬物充填生分解性マイクロビーズ組成物の1つの具体的な態様において、少なくとも1つの治療剤はドキソルビシンを含む。薬物充填生分解性マイクロビーズ組成物の1つの具体的な態様において、少なくとも1つの治療剤はソラフェニブを含む。薬物充填生分解性マイクロビーズ組成物の1つの具体的な態様において、少なくとも1つの治療剤はパクリタキセルを含む。いくつかの態様において、薬物充填生分解性マイクロビーズ組成物のマイクロビーズは2つ、3つ、4つまたは4つを超える治療剤の組み合わせを含む。薬物充填生分解性マイクロビーズ組成物の1つの具体的な態様において、少なくとも1つの治療剤はドキソルビシンとソラフェニブとの組み合わせを含む。いくつかの態様において、生分解性材料および少なくとも1つの治療剤はいずれも疎水性であり、それにより生分解性材料のマトリックス全体にわたって治療剤の均一な分布を促進する。
【0054】
[0055]薬物充填生分解性マイクロビーズ組成物のマイクロビーズは、エマルジョンおよびマイクロ流体を含むがこれらに限定されない任意の好適な方法により調製され得る。エマルジョン法は、水、および場合によりポリビニルアルコールなどの乳化剤の水相を調製するステップと;生分解性材料、疎水性治療剤および水不混和性有機溶媒の有機相を調製するステップと;水相と有機相を混合してエマルジョンを形成するステップと;溶媒を蒸発させて、エマルジョンから形成されるマイクロビーズを乾燥するステップと;マイクロビーズを回収およびさらに乾燥するステップと;濾過またはふるい分けにより所望のサイズ範囲のビーズを単離するステップと;場合によりマイクロビーズをさらに乾燥および/または脱水および/または凍結乾燥するステップと;および、マイクロビーズを滅菌するステップを含む。マイクロビーズは、水または生理緩衝食塩水などの流体を添加することにより、再水和または再構成され得る。この方式で形成されるマイクロビーズは、例えば20μm~900μmのサイズを有し得、狭い範囲にふるい分けられ得る。生分解性材料対治療剤の重量比は、例えば100:1~0.01:1もしくは10:1~0.1:1、またはこれらの範囲の間の任意の所望の範囲であってよい。マイクロ流体法は、同様に水相および有機相を調製するステップと、マイクロ流体装置において少量の有機相を水相に流して、装置の出口でマイクロビーズとして回収され得る小さい液滴を水相中に生成するステップを含む。
【0055】
[0056]本開示のさらなる態様は、治療的塞栓術における使用のための薬物充填マイクロビーズ組成物を対象とする。薬物充填マイクロビーズ組成物は、本明細書に記載される薬物充填マイクロビーズ組成物のいずれかであり得、本明細書に記載される任意の態様による塞栓組成物の形態で用いられ得る。治療的塞栓術は、好ましくは腫瘍を処置するためのものである。治療的塞栓術は、好ましくは肝細胞癌、肝がん、前立腺がんまたは乳がんを処置するためのものである。
【0056】
[0057]特に定義しない限り、本明細書で使用するすべての技術および科学用語は、本発明が属する分野の当業者により一般に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書の説明において使用する専門用語は、特定の態様を記載するためだけのものであり、限定することは意図されない。文脈が特に明確に示さない限り、本明細書および添付の特許請求の範囲で使用する単数形「1つの(a、an)」および「その(the)」は、同様に複数形を含むことが意図される。
【実施例】
【0057】
[0058]以下の実施例は例示によってのみ提供される。前述の説明を考慮して、当業者は、以下の実施例が本開示またはその多くの態様の範囲を制限することが意図されないことを認識するであろう。
【0058】
実施例1
[0059]クロロホルム溶媒中の37mol%のポリ(2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン)(PMPC)、12mol%のジオレオイルホスファチジルセリン(DOPS)、12mol%のジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)、26mol%のコレステロールおよび13mol%のソラフェニブの混合物を200nmのポリカーボネート膜による遠心押出にかけることにより、脂質二重層中に組み込まれたソラフェニブを含むリポソームを調製する。動的光散乱法(DLS)により決定したとき、リポソームのサイズは171.8±3.0nmである。最終リポソーム調製物中のソラフェニブの存在を、UV-VIS分光法により測定した約270nmの吸光度ピークから確認する。
【0059】
実施例2
[0060]クロロホルム中のPMPC、DOPS、DOPEおよびコレステロールの混合物を200nmのポリカーボネート膜による遠心押出にかけることにより、脂質二重層で取り囲まれたドキソルビシンを含むリポソームを調製する。クロロホルム溶媒を混合物から乾燥する。次いで、脂質混合物をHEPES、塩およびドキソルビシンの水溶液で再水和して、リポソームを形成する。リポソーム内に取り込まれなかった過剰なドキソルビシンを、ゲル濾過により除去する。
【0060】
実施例3
[0061]2mMのソラフェニブを含有する40%エタノール/水溶液中の42mol%のPMPC、14mol%のDOPS、14mol%のDOPEおよび30mol%のコレステロールの混合物の200nmのポリカーボネート膜による遠心押出により、脂質二重層層で取り囲まれたソラフェニブを含むエトソームを調製する。遊離ソラフェニブを、Sephadex G-25でのサイズ排除クロマトグラフィーによりエトソームから分離する。ソラフェニブエトソームは、動的光散乱法により決定した234.4±4.5nmのサイズを有する。最終リポソーム調製物中のソラフェニブの存在を、UV-VIS分光法により測定した約270nmの吸光度ピークから確認する。
【0061】
実施例4
[0062]クロロホルム溶媒中の37mol%のポリ(2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン)(PMPC)、12mol%のジオレオイルホスファチジルセリン(DOPS)、12mol%のジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)、26mol%のコレステロールおよび13mol%のソラフェニブの混合物を200nmのポリカーボネート膜による遠心押出にかけることにより、脂質二重層中のソラフェニブおよび脂質二重層で取り囲まれたドキソルビシンを含むリポソームを調製する。溶媒を脂質/ソラフェニブの混合物から乾燥する。次いで、脂質混合物をHEPES、塩およびドキソルビシンの水溶液で再水和して、リポソームを形成する。リポソーム内に取り込まれなかった過剰なドキソルビシンを、ゲル濾過により除去する。
【0062】
実施例5
[0063]実施例1~4のいずれかにより調製したリポソームまたはエトソームなどの小胞剤を、エマルジョン蒸発法により生分解性材料のマイクロビーズ中に組み込む。エマルジョンを、脱イオン水およびポリビニルアルコールなどの乳化剤の水相、ならびに小胞剤および生分解性ポリマー材料を含有する有機相から調製する。
【0063】
[0064]8gのポリビニルアルコール(86~89%加水分解)を800mLの脱イオン水に入れて600rpmで85℃にてポリビニルアルコールが完全に溶解するまで3~4時間撹拌することにより、1%のポリビニルアルコールの水相を調製する。
【0064】
[0065]150mgのセルロースアセテートブチレートおよび900μLのジクロロメタンを2mLのバイアルに添加し、バイアルを密閉し、セルロースアセテートブチレートが溶解するまでバイアルを振とうすることにより、有機相を調製する。混合物に、水溶液中の100μLの小胞剤を添加する。
【0065】
[0066]最初に100mLの水相を250mLのフラスコなどの適当な容器に添加し、次いでフラスコ内の水相を約600rpmで撹拌しながら、有機相のバイアルの内容物をフラスコに添加することにより、有機相と水相を混合する。フラスコを蓋で密閉し、30分間撹拌し続ける。30分後、蓋を除去し、フラスコの内容物を蓋なしでさらに2時間撹拌する。次いで、撹拌を停止し、溶液中に形成されたマイクロビーズを沈殿させる。
【0066】
[0067]次いでマイクロビーズを遠心管にピペットで移し、管を12000rpm以上で少なくとも2.5分間遠心分離する。次いで、上清をホールピペットで除去し、管に脱イオン水もしくは濾過水を再充填し、12000rpm以上で少なくとも2.5分間再び遠心分離することにより、マイクロビーズを洗浄する。洗浄プロセスを1~5回繰り返す。得られたマイクロビーズは約20μm~約350μmのサイズを有する。
【0067】
[0068]遠心分離したマイクロビーズを、200ミクロンのメッシュフィルターを通して真空濾過して真空フラスコに入れる。フラスコ内の濾過したマイクロビーズは約20μm~約200μmのサイズを有する。次いで、フラスコ内の濾過したマイクロビーズを、100ミクロンのメッシュフィルターを通してさらに真空濾過する。フィルター上に残るマイクロビーズを保持する。該マイクロビーズは約100μm~約200μmのサイズを有する。これらのマイクロビーズを濾過水ですすぎ、次いで24時間風乾させる。次いで、風乾したマイクロビーズを好適な容器またはバイアルに移すことができる。
【0068】
[0069]用語「実質的に」および「約」は、任意の定量的比較、値、測定値または他の表現に起因し得る不確実性の固有の程度を表すために本明細書で利用され得ることが留意される。これらの用語はまた、本明細書で定量的表現が論争中の主題の基本的機能に変化をもたらさずに、記載の基準から変動し得る程度を表すためにも利用される。
【0069】
[0070]特定の態様が本明細書に例示および記載されてきたが、特許請求された主題の文字通りの範囲から逸脱することなく、様々な他の変更および修正が行われ得ることを理解されるべきである。さらに、特許請求された主題の様々な側面が本明細書に記載されているが、このような側面は組み合わせて利用される必要はない。したがって、添付の特許請求の範囲は、特許請求された主題の範囲内であるすべてのこのような変更および修正を包含することが意図される。
非限定的に本発明は以下の態様を含む。
[態様1]
生分解性材料の複数の個々のマイクロビーズ;
個々のマイクロビーズ内に含有されるか、またはイオン相互作用もしくは非共有結合的相互作用を介して個々のマイクロビーズの生分解性材料と会合する複数の個々の小胞剤であって、小胞コアを取り囲む少なくとも1つの脂質二重層を含む、小胞剤;および
個々の小胞剤内に含有されるか、またはイオン相互作用もしくは非共有結合的相互作用により個々の小胞剤と会合する第1の治療剤;および
第1の治療剤と異なり、個々のマイクロビーズ内に含有されるか、またはイオン相互作用もしくは非共有結合的相互作用を介して個々のマイクロビーズと会合する、第2の治療剤
を含む、薬物充填マイクロビーズ組成物。
[態様2]
小胞剤がリポソームまたはエトソームを含む、態様1に記載の薬物充填マイクロビーズ組成物。
[態様3]
第2の治療剤が個々の小胞剤内に含有されるか、またはイオン相互作用もしくは非共有結合的相互作用を介して個々の小胞剤と会合する、態様1または2に記載の薬物充填マイクロビーズ組成物。
[態様4]
第1の治療剤が疎水性であり、第2の治療剤が親水性である、前記態様のいずれかに記載の薬物充填マイクロビーズ組成物。
[態様5]
第1の治療剤が、個々の小胞剤の小胞コア内に封入され、第2の治療剤が、個々の小胞剤の脂質二重層内に含有される、態様4に記載の薬物充填マイクロビーズ組成物。
[態様6]
第2の治療剤が、個々の小胞剤内に含有されず、イオン相互作用または非共有結合的相互作用により個々のマイクロビーズの生分解性材料と会合する、態様4に記載の薬物充填マイクロビーズ組成物。
[態様7]
第1の治療剤および第2の治療剤がドキソルビシン、ベバシズマブ、ボルテゾミブ、イマチニブ、セリシクリブ、セリチニブ、エベロリムス、パクリタキセル、ソラフェニブ、イリノテカン、イダルビシン、シスプラチンおよびこれらの組み合わせから独立に選択される、前記態様のいずれかに記載の薬物充填マイクロビーズ組成物。
[態様8]
生分解性材料がポリ(ラクチド-co-グリコリド)(PLGA)、ポリラクチド(PLA)、ポリグリコリド(PGA)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリヒドロキシアルカノエート、ポリ-R-3-ヒドロキシブチレート(ポリ3HB)、ポリ-R-3-ヒドロキシブチレート-co-R-3-ヒドロキシバリレート(ポリ(3HB-co-3HV))、ポリ-R-3-ヒドロキシブチレート-co-4-ヒドロキシブチレート(ポリ(3HB-co-4HB))、ポリ-R-3-ヒドロキシオクタノエート-co-R-3-ヒドロキシヘキサノエート(ポリ(3HO-co-3HH))、ポリ-3-ヒドロキシプロピオネート(ポリ(3HP))、ポリ-4-ヒドロキシブチレート(ポリ(4HB))、ポリ-5-ヒドロキシブチレート(ポリ(5HB))、ポリ-6-ヒドロキシブチレート(ポリ(6HB))、ポリ(プロピレンフマレート)、ポリ(ブチレンサクシネート)、ポリ(p-ジオキサノン)、ポリアセタール、ポリ(オルトエステル)、ポリカーボネート、キトサン、ヒドロキシ酪酸、ポリ酸無水物およびポリエステル、ポリホスファゼン、ポリホスホエステル、リポディスク、セルロース、変性セルロース、タンパク質およびポリ(アミノ酸)、ポリエーテルならびに前述のもののコポリマーから選択される生分解性ポリマーである、前記態様のいずれかに記載の薬物充填マイクロビーズ組成物。
[態様9]
生分解性材料がセルロースである、前記態様のいずれかに記載の薬物充填マイクロビーズ組成物。
[態様10]
生分解性材料がセルロースアセテートブチレートを含む変性セルロースである、前記態様のいずれかに記載の薬物充填マイクロビーズ組成物。
[態様11]
生分解性材料がトリカプリン、トリラウリン、トリミリスチン、トリパルミチン、トリステアリン、水素化ココグリセリド、グリセリルモノステアレート、グリセリルベヘネート、グリセリルパルミトステアレート、グリセリルカプレート、セチルパルミテート、ステアリン酸、パルミチン酸、デカン酸、ベヘン酸、蜜蝋、カルナウバ蝋、カカオバターおよびこれらの組み合わせから選択される脂質である、態様1~7のいずれかに記載の薬物充填マイクロビーズ組成物。
[態様12]
個々の小胞剤がリポソームを含み;
第1の治療剤が、個々の小胞剤の脂質二重層内に含有され;
第2の治療剤が、個々の小胞剤内に含有されず、イオン相互作用または非共有結合的相互作用により個々のマイクロビーズの生分解性材料と会合し;そして、
生分解性材料がセルロースである、
態様1に記載の薬物充填マイクロビーズ組成物。
[態様13]
個々の小胞剤がリポソームを含み;
第1の治療剤が、個々の小胞剤の脂質二重層内に含有され;
第2の治療剤が、個々の小胞剤の小胞コア内に封入され;
第1の治療剤がソラフェニブであり;
第2の治療剤がドキソルビシンであり;そして、
生分解性材料がセルロースである、
態様1に記載の薬物充填マイクロビーズ組成物。
[態様14]
個々の小胞剤がエトソームを含み;
第1の治療剤が、個々の小胞剤の小胞コア内に封入され;
第2の治療剤が、個々の小胞剤内に含有されず、イオン相互作用または非共有結合的相互作用により生分解性材料と会合し;
第1の治療剤がソラフェニブであり;
第2の治療剤がドキソルビシンであり;そして、
生分解性材料がセルロースである、
態様1に記載の薬物充填マイクロビーズ組成物。
[態様15]
少なくとも1つの脂質二重層がポリ(2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン)(PMPC)、ジオレオイルホスファチジルセリン(DOPS)、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)およびコレステロールを含む、前記態様のいずれかに記載の薬物充填マイクロビーズ組成物。