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特許7562077熱伝導性フィラー及びそれを用いた熱伝導性複合材料、並びにそれらの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-27
(45)【発行日】2024-10-07
(54)【発明の名称】熱伝導性フィラー及びそれを用いた熱伝導性複合材料、並びにそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 5/14 20060101AFI20240930BHJP
   C01B 21/072 20060101ALI20240930BHJP
   C01B 21/064 20060101ALI20240930BHJP
   C01F 17/34 20200101ALI20240930BHJP
【FI】
C09K5/14 E
C01B21/072 Z
C01B21/064 Z
C01F17/34
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020104706
(22)【出願日】2020-06-17
(65)【公開番号】P2021195291
(43)【公開日】2021-12-27
【審査請求日】2023-03-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】弁理士法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 由香
(72)【発明者】
【氏名】田中 洋充
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 慈
(72)【発明者】
【氏名】須田 明彦
【審査官】中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-029421(JP,A)
【文献】特開平04-292467(JP,A)
【文献】特開昭61-191505(JP,A)
【文献】特開2019-043804(JP,A)
【文献】特開2019-019045(JP,A)
【文献】萩尾剛、外2名,ホウ酸メラミンの熱分解によるBNの生成,Journal of the Ceramic Society of Japan,1994年,第102巻、第11号,pp.1051-1054
【文献】WARSHAW, I. ほか,Stable and Metastable Equilibria in the Systems Y2O3-Al2O3 and Gd2O3-Fe2O3,Journal of The American Ceramic Society,1959年09月,Vol.42, No.9,pp.434-438
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K5/00-5/20
C08L1/00-101/16
C08K3/00-13/08
C01B15/00-23/00
C01F1/00-17/38
C09C1/00-3/12
C09D15/00-17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イットリアアルミネート相を含有する窒化アルミニウム粒子と、該窒化アルミニウム粒子の表面の少なくとも一部を被覆している窒化ホウ素とを含有することを特徴とする熱伝導性フィラー。
【請求項2】
前記窒化ホウ素が前記イットリアアルミネート相の触媒作用による生成物であることを特徴とする請求項1に記載の熱伝導性フィラー。
【請求項3】
前記イットリアアルミネート相がYAlO相及びYAl相のうちの少なくとも一方であることを特徴とする請求項1又は2に記載の熱伝導性フィラー。
【請求項4】
前記窒化ホウ素がホウ酸メラミン錯体の熱分解物であることを特徴とする請求項1~3のうちのいずれか一項に記載の熱伝導性フィラー。
【請求項5】
マトリックスと、該マトリックス中に分散している請求項1~のうちのいずれか一項に記載の熱伝導性フィラーとを含有することを特徴とする熱伝導性複合材料。
【請求項6】
窒化アルミニウム粉末と酸化イットリウム粉末との混合物を不活性ガス雰囲気下で焼成し、イットリアアルミネート相を含有する窒化アルミニウム粒子を得る第一の工程、及び 前記第一の工程で得られたイットリアアルミネート相を含有する窒化アルミニウム粒子と窒化ホウ素前駆体との混合物を不活性ガス雰囲気下で焼成し、前記イットリアアルミネート相を含有する窒化アルミニウム粒子の表面の少なくとも一部が窒化ホウ素で被覆されている熱伝導性フィラーを得る第二の工程
を含むことを特徴とする熱伝導性フィラーの製造方法。
【請求項7】
前記窒化ホウ素前駆体がホウ酸メラミン錯体であることを特徴とする請求項に記載の熱伝導性フィラーの製造方法。
【請求項8】
前記第二の工程において、前記イットリアアルミネート相を含有する窒化アルミニウム粒子と窒化ホウ素前駆体との混合物を、圧縮成形した後、焼成することを特徴とする請求項6又は7に記載の熱伝導性フィラーの製造方法。
【請求項9】
請求項6~8のうちのいずれか一項に記載の方法により熱伝導性フィラーを製造する工程と、
前記熱伝導性フィラーとマトリックスとを混合し、前記マトリックス中に前記熱伝導性フィラーが分散している熱伝導性複合材料を得る工程と
を含むことを特徴とする熱伝導性複合材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性フィラー及びそれを用いた熱伝導性複合材料、並びにそれらの製造方法に関し、より詳しくは、窒化アルミニウムと窒化ホウ素とを含有する熱伝導性フィラー及びそれを用いた熱伝導性複合材料、並びにそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化ホウ素は熱伝導性の高い高絶縁性の材料として知られており、窒化ホウ素粒子を熱伝導性フィラーとしてマトリックス中に分散させた様々な熱伝導性複合材料が開発されている。また、そのような窒化ホウ素粒子を、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化ケイ素、窒化ケイ素、炭化ケイ素、酸化亜鉛、黒鉛等の他の熱伝導性材料の粒子と組み合わせて用いた熱伝導性複合材料も開発されている。
【0003】
例えば、特開2019-43804号公報(特許文献1)には、窒化ホウ素粉末と窒化アルミニウム粉末との混合物を圧縮しながら焼成することによって圧縮焼成体を作製し、この圧縮焼成体を粉砕することによって、窒化ホウ素粒子と窒化アルミニウム粒子とを含有し、前記窒化アルミニウム粒子の外表面の50%以上が前記窒化ホウ素粒子の内部に包含され、かつ、前記窒化ホウ素粒子に当接した状態で形成されている複合粒子を含む熱伝導性フィラーが得られることが開示されている。また、特許文献1には、窒化ホウ素粉末と窒化アルミニウム粉末との混合物に焼結助剤を添加して焼成することにより、窒化アルミニウム粒子と窒化ホウ素粒子との接合界面において焼結助剤が介在して焼結するため密着性(接合強度)が高くなることが記載されており、前記焼結助剤として酸化イットリウム等のイットリウム化合物が記載されている。しかしながら、窒化アルミニウム粒子と窒化ホウ素粒子との混合物を圧縮して焼成し、粉砕することによって得られる熱伝導性フィラーを含有する複合材料は、熱伝導性の向上に限界があり、必ずしも十分な熱伝導性を達成できるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-43804号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、マトリックスに高い熱伝導性を付与することが可能な熱伝導性フィラー及び優れた熱伝導性を有する複合材料、並びにそれらの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、窒化アルミニウム粒子と窒化ホウ素前駆体との混合物を焼成する際に、窒化アルミニウム粒子としてイットリアアルミネート相を含有する窒化アルミニウム粒子を用いることによって、前記イットリアアルミネート相を含有する窒化アルミニウム粒子の表面の少なくとも一部が窒化ホウ素で被覆されている熱伝導性フィラーが得られることを見出し、さらに、この熱伝導性フィラーを用いることによって、マトリックスに高い熱伝導性を付与できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明の熱伝導性フィラーは、イットリアアルミネート相を含有する窒化アルミニウム粒子と、該窒化アルミニウム粒子の表面の少なくとも一部を被覆している窒化ホウ素とを含有することを特徴とするものである。
【0008】
本発明の熱伝導性フィラーにおいては、前記窒化ホウ素が前記イットリアアルミネート相の触媒作用による生成物であることが好ましく、また、前記イットリアアルミネート相がYAlO相及びYAl相のうちの少なくとも一方であること好ましく、さらに、前記窒化ホウ素がホウ酸メラミン錯体の熱分解物であること好ましい。
【0009】
本発明の熱伝導性複合材料は、マトリックスと、該マトリックス中に分散している前記本発明の熱伝導性フィラーとを含有することを特徴とする。
【0010】
本発明の熱伝導性フィラーの製造方法は、窒化アルミニウム粉末と酸化イットリウム粉末との混合物を不活性ガス雰囲気下で焼成し、イットリアアルミネート相を含有する窒化アルミニウム粒子を得る第一の工程、及び、前記第一の工程で得られたイットリアアルミネート相を含有する窒化アルミニウム粒子と窒化ホウ素前駆体との混合物を不活性ガス雰囲気下で焼成し、前記イットリアアルミネート相を含有する窒化アルミニウム粒子の表面の少なくとも一部が窒化ホウ素で被覆されている熱伝導性フィラーを得る第二の工程を含むことを特徴とする方法である。
【0011】
本発明の熱伝導性フィラーの製造方法においては、前記窒化ホウ素前駆体がホウ酸メラミン錯体であることが好ましい。また、前記第二の工程において、前記イットリアアルミネート相を含有する窒化アルミニウム粒子と窒化ホウ素前駆体との混合物を、圧縮成形した後、焼成することが好ましい。
【0012】
本発明の熱伝導性複合材料の製造方法は、前記本発明の熱伝導性フィラーの製造方法により熱伝導性フィラーを製造する工程と、前記熱伝導性フィラーとマトリックスとを混合し、前記マトリックス中に前記熱伝導性フィラーが分散している熱伝導性複合材料を得る工程とを含むことを特徴とする方法である。
【0013】
なお、本発明の熱伝導性フィラーの製造方法によって、窒化アルミニウム粒子の表面の少なくとも一部が窒化ホウ素で被覆されている熱伝導性フィラーが得られる理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、本発明の熱伝導性フィラーの製造方法においては、先ず、窒化アルミニウム粉末と酸化イットリウム粉末との混合物を焼成してイットリアアルミネート相を含有する窒化アルミニウム粒子を形成させる。このとき、酸化イットリウムと窒化アルミニウムとが反応してイットリアアルミネート相が形成されるが、酸化イットリウム粒子が窒化アルミニウム粒子の表面と反応するため、前記イットリアアルミネート相は窒化アルミニウム粒子の表面に形成されると推察される。そして、本発明の熱伝導性フィラーの製造方法においては、このようなイットリアアルミネート相が表面に形成された窒化アルミニウム粒子と窒化ホウ素前駆体との混合物を焼成する。このとき、窒化ホウ素前駆体の熱分解により窒化ホウ素中間体が生成し、この窒化ホウ素中間体が窒化ホウ素に変換される。この窒化ホウ素中間体から窒化ホウ素への変換は、窒化アルミニウム粒子の表面のイットリアアルミネート相が触媒となって促進されるため、窒化ホウ素中間体はイットリアアルミネート相に自発的に移動した後、窒化ホウ素に変換される。その結果、窒化アルミニウム粒子の表面が窒化ホウ素で被覆された熱伝導性フィラーが得られると推察される。
【0014】
一方、イットリアアルミネート相が形成されていない窒化アルミニウム粒子と窒化ホウ素前駆体との混合物を焼成すると、上述したようなイットリアアルミネート相による触媒作用が得られないため、窒化ホウ素前駆体の熱分解により生成した窒化ホウ素中間体は、窒化アルミニウム粒子と空間的に無関係に窒化ホウ素に変換されると推察される。その結果、窒化アルミニウム粒子から独立した板状の窒化ホウ素粒子が生成し、窒化アルミニウム粒子と板状の窒化ホウ素粒子との混合物が得られると推察される。
【0015】
また、このような本発明の熱伝導性フィラーを用いることによって、熱伝導性に優れた複合材料が得られる理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、熱伝導性フィラーをマトリックス中に分散させた複合材料においては、フィラー粒子が接触した部位を通じて熱が伝達される。本発明の熱伝導性フィラーは、イットリアアルミネート相を含有する窒化アルミニウム粒子の表面の少なくとも一部が窒化ホウ素で被覆された複合粒子であり、このような表面が窒化ホウ素で被覆された複合粒子は、粒子同士の接触面積が大きくなり、粒子間熱抵抗(界面熱抵抗)が小さくなる。このため、本発明の熱伝導性フィラーをマトリックス中に分散させた複合材料は優れた熱伝導性を示すと推察される。
【0016】
一方、窒化アルミニウム粒子は硬い粒子であることから、粒子間接触する際に粒子が変形することなく、接触面積が小さい点接点となり、粒子間熱抵抗(界面熱抵抗)が大きくなる。これに対して、窒化ホウ素粒子は窒化アルミニウム粒子より軟らかい粒子であり、点接点よりは接触面積が大きくなり、粒子間熱抵抗(界面熱抵抗)が小さくなる。しかしながら、窒化アルミニウム粒子と板状の窒化ホウ素粒子との混合物からなる熱伝導性フィラーをマトリックス中に分散させた複合材料においては、粒子間熱抵抗(界面熱抵抗)が大きい窒化アルミニウム粒子同士の接触や界面熱抵抗が大きい窒化アルミニウム粒子と窒化ホウ素粒子との接触が存在するため、必ずしも十分に高い熱伝導率ではなかった。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、マトリックスに高い熱伝導性を付与することが可能な熱伝導性フィラー及び優れた熱伝導性を有する複合材料を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施例3で用いたイットリア含有AlN粒子のX線回折パターンを示すグラフである。
図2】比較例1で用いたAlN粒子のX線回折パターンを示すグラフである。
図3】実施例1で得られた熱伝導性フィラー示す走査型電子顕微鏡写真である。
図4】実施例2で得られた熱伝導性フィラー示す走査型電子顕微鏡写真である。
図5】実施例3で得られた熱伝導性フィラー示す走査型電子顕微鏡写真である。
図6】比較例1で得られた熱伝導性フィラー示す走査型電子顕微鏡写真である。
図7】実施例4で得られた熱伝導性フィラー示す走査型電子顕微鏡写真である。
図8】実施例5で得られた熱伝導性フィラー示す走査型電子顕微鏡写真である。
図9】実施例6で得られた熱伝導性フィラー示す走査型電子顕微鏡写真である。
図10】比較例2で得られた熱伝導性フィラー示す走査型電子顕微鏡写真である。
図11】実施例及び比較例で作製した円柱状の複合材料及びそれから切り出した熱伝導率測定用試料を示す模式図である。
図12】を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0020】
〔熱伝導性フィラー〕
先ず、本発明の熱伝導性フィラーについて説明する。本発明の熱伝導性フィラーは、イットリアアルミネート相を含有する窒化アルミニウム粒子と、該窒化アルミニウム粒子の表面の少なくとも一部を被覆している窒化ホウ素とを含有するものである。
【0021】
本発明の熱伝導性フィラーにおける窒化アルミニウム粒子は、ダイヤモンド粒子やアルミナ粒子等の硬質な高熱伝導性粒子と比べて、焼結により窒化ホウ素との間に密に接触した界面を形成することができるため、粒子表面を窒化ホウ素で被覆することによって、窒化アルミニウム粒子表面と窒化ホウ素との間の界面熱抵抗が小さい複合粒子を形成することができる。
【0022】
また、本発明の熱伝導性フィラーにおける窒化アルミニウム粒子は、イットリアアルミネート相を含有するものである。イットリアアルミネート相としては、YAlO相、YAl相が挙げられ、これらの相はいずれか一方が含まれていてもよいし、両方が含まれていてもよい。このイットリアアルミネート相が、窒化ホウ素前駆体の熱分解により生成した窒化ホウ素中間体が窒化ホウ素に変換される際の触媒として作用するため、窒化アルミニウム粒子の表面で窒化ホウ素中間体から窒化ホウ素への変換が優先的に起こり、窒化アルミニウム粒子の表面を窒化ホウ素で被覆することが可能となる。一方、イットリアアルミネート相を含有しない窒化アルミニウム粒子は、このような触媒作用が得られないため、窒化ホウ素中間体から窒化ホウ素への変換が、窒化アルミニウム粒子から独立して(すなわち、空間的に無関係に)起こるため、板状の窒化ホウ素粒子が生成し、窒化アルミニウム粒子の表面を窒化ホウ素で被覆することができない。また、本発明の熱伝導性フィラーにおける窒化アルミニウム粒子においては、窒化アルミニウム粒子の表面において窒化ホウ素中間体から窒化ホウ素への変換を促進させ、窒化アルミニウム粒子の表面を窒化ホウ素で被覆するという観点から、前記イットリアアルミネート相は、窒化アルミニウム粒子の表面に存在していることが好ましい。
【0023】
このようなイットリアアルミネート相を含有する窒化アルミニウム粒子において、イットリアの含有量としては、窒化アルミニウム粒子の質量に対して、0.1~20質量%が好ましく、0.1~10質量%がより好ましく、0.2~5質量%が特に好ましく、0.3~1質量%が最も好ましい。イットリアの含有量が前記下限未満になると、前記窒化アルミニウム粒子表面における窒化ホウ素の被覆量が少なくなり、熱伝導性フィラー粒子同士の接触面積が十分に増大しないため、熱伝導性フィラー粒子間の熱抵抗(界面熱抵抗)が十分に低減されず、得られる複合材料の熱伝導性が十分に向上しない傾向にある。他方、イットリアの含有量が前記上限を超えると、前記窒化アルミニウム粒子表面における窒化ホウ素の被覆量が飽和に達し、熱伝導性フィラー粒子同士の接触面積も飽和に達するため、熱伝導性フィラー粒子間の熱抵抗(界面熱抵抗)がそれ以上低減されず、得られる複合材料においてイットリアの添加による熱伝導性の向上効果が飽和に達する傾向にある。
【0024】
また、前記窒化アルミニウム粒子の平均粒子径としては特に制限はないが、例えば、0.2~100μmが好ましく、0.3~95μmがより好ましく、0.5~90μmが更に好ましく、0.5~50μmが特に好ましく、1~20μmが最も好ましい。前記窒化アルミニウム粒子の平均粒子径が前記下限未満になると、得られる複合材料において熱伝導性フィラー粒子間の粒界数が増大するため、複合材料全体の熱抵抗が増大する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、得られる複合材料において、熱伝導性フィラーの分散均一性及び充填率が低下するため、熱伝導性が十分に向上しない傾向にある。
【0025】
なお、本明細書において、「平均粒子径」は、原料粉末等に関するカタログ値を除き、走査型電子顕微鏡(SEM)観察等により無作為に抽出した300個以上の粒子の粒子径の平均値を意味する。また、粒子が球形状(断面が円形状)でない場合には、粒子(断面)の外接円を想定し、その外接円の直径を粒子径とする。
【0026】
本発明の熱伝導性フィラーにおける窒化ホウ素は、前記窒化アルミニウム粒子の表面の少なくとも一部を被覆している。窒化ホウ素が窒化アルミニウムに比べて軟らかいため、前記窒化アルミニウム粒子の表面を窒化ホウ素で被覆することによって、熱伝導性フィラー粒子同士の接触面積を増大させることができ、粒子間熱抵抗(界面熱抵抗)が低減されるため、得られる複合材料において熱伝導性を向上させることが可能となる。
【0027】
本発明の熱伝導性フィラーにおける窒化ホウ素としては、ホウ酸メラミン錯体の熱分解物が好ましい。ホウ酸メラミン錯体を熱分解して前記窒化アルミニウム粒子の表面に窒化ホウ素を生成させることによって、前記窒化アルミニウム粒子の表面に窒化ホウ素を密着させることができ、前記窒化アルミニウム粒子の表面と窒化ホウ素との間の界面熱抵抗が低減され、得られる複合材料において熱伝導性を向上させることが可能となる。一方、窒化ホウ素粒子を前記窒化アルミニウム粒子の表面に付着させた場合には、前記窒化アルミニウム粒子の表面と窒化ホウ素粒子との密着性が十分ではなく、前記窒化アルミニウム粒子の表面と窒化ホウ素との間の界面熱抵抗が十分に低減されず、得られる複合材料の熱伝導性が十分に向上しない傾向にある。
【0028】
本発明の熱伝導性フィラーにおいては、前記窒化アルミニウム粒子の表面の少なくとも一部が窒化ホウ素で被覆されていれば、必ずしも前記窒化アルミニウム粒子の全表面が被覆されていなくてもよいが、前記窒化アルミニウム粒子の表面の40%以上が被覆されていることが好ましく、60%以上が被覆されていることがより好ましく、80%以上が被覆されていることが特に好ましく、全表面が被覆されていることが最も好ましい。窒化ホウ素による被覆率が前記下限未満になると、熱伝導性フィラー粒子同士の接触面積が十分に増大しないため、熱伝導性フィラー粒子間の熱抵抗(界面熱抵抗)が十分に低減されず、得られる複合材料の熱伝導性が十分に向上しない傾向にある。
【0029】
また、本発明の熱伝導性フィラーにおいて、前記窒化アルミニウム粒子と窒化ホウ素との体積比率(窒化アルミニウム粒子:窒化ホウ素)としては特に制限はないが、30:70~98:2が好ましく、40:60~90:10がより好ましく、50:50~85:15が特に好ましい。前記窒化アルミニウム粒子と窒化ホウ素との体積比率が前記下限未満になると、前記窒化アルミニウム粒子による熱伝導性の向上効果が十分に得られず、得られる複合材料の熱伝導性が十分に向上しない傾向にあり、他方、前記上限を超えると、得られる複合材料において、前記窒化アルミニウム粒子が関与する熱抵抗の大きい接触界面が相対的に増加するため、熱伝導性が十分に向上しない傾向にある。
【0030】
本発明の熱伝導性フィラーの平均粒子径としては特に制限はないが、例えば、0.3~200μmが好ましく、0.3~95μmがより好ましく、0.5~90μmが特に好ましい。熱伝導性フィラーの平均粒子径が前記下限未満になると、得られる複合材料において熱伝導性フィラー粒子間の粒界数が増大するため、複合材料全体の熱抵抗が増大する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、得られる複合材料において、熱伝導性フィラーの分散均一性及び充填率が低下するため、熱伝導性が十分に向上しない傾向にある。
【0031】
また、本発明の熱伝導性フィラーにおいては、表面がアルキル化されていることが好ましい。これにより、後述するマトリックス中に熱伝導性フィラーを添加した場合に、熱伝導性フィラーの凝集を抑制することができ、複合材料の流動性が向上するため、熱抵抗が更に低減された、熱伝導性に更に優れた複合材料を得ることが可能となる。
【0032】
〔熱伝導性フィラーの製造方法〕
次に、本発明の熱伝導性フィラーの製造方法について説明する。本発明の熱伝導性フィラーの製造方法は、窒化アルミニウム粉末と酸化イットリウム粉末との混合物を不活性ガス雰囲気下で焼成し、イットリアアルミネート相を含有する窒化アルミニウム粒子を得る第一の工程、及び
前記第一の工程で得られたイットリアアルミネート相を含有する窒化アルミニウム粒子と窒化ホウ素前駆体との混合物を不活性ガス雰囲気下で焼成し、前記イットリアアルミネート相を含有する窒化アルミニウム粒子の表面の少なくとも一部が窒化ホウ素で被覆されている熱伝導性フィラーを得る第二の工程
を含む方法である。
【0033】
(第一の工程)
第一の工程においては、窒化アルミニウム粉末と酸化イットリウム粉末との混合物を調製する。ここで用いる窒化アルミニウム粉末は、前記本発明の熱伝導性フィラーにおける窒化アルミニウム粒子となる原料粉末であり、その平均粒子径としては特に制限はないが、例えば、0.2~100μmが好ましく、0.3~95μmがより好ましく、0.5~90μmが更に好ましく、0.5~50μmが特に好ましく、1~20μmが最も好ましい。また、ここで用いる酸化イットリウム粉末は、前記本発明の熱伝導性フィラーにおけるイットリアアルミネート相となる原料粉末であり、その平均粒子径としては特に制限はないが、例えば、10nm~1μmが好ましく、10nm~0.2μmがより好ましく、10nm~0.1μmが更に好ましく、20nm~0.1μmが特に好ましく、20nm~50nmが最も好ましい。
【0034】
前記混合物を調製する際の混合方法としては特に制限はなく、例えば、湿式ボールミル粉砕混合法、乾式ボールミル粉砕混合法、機械混合法、撹拌混合法、乳鉢等による混合法等を採用することができ、必要に応じて、ろ過、洗浄、乾燥、分粒等の処理を施してもよい。このようなろ過、洗浄、乾燥、分粒等の処理としてはいずれも特に制限されず、公知の方法を適宜採用することができる。
【0035】
前記窒化アルミニウム粉末と酸化イットリウム粉末との混合比率としては特に制限はないが、得られるイットリアアルミネート相を含有する窒化アルミニウム粒子において、イットリアの含有量が前記範囲内となる混合比率が好ましい。
【0036】
次に、このようにして得られた混合物を不活性ガス雰囲気下で焼成する。これにより、窒化アルミニウム粒子の表面と酸化イットリウム粒子とが反応してイットリアアルミネートが生成するため、イットリアアルミネート相(例えば、YAlO相、YAl相)を含有する窒化アルミニウム粒子(好ましくは、表面に前記イットリアアルミネート相が存在している窒化アルミニウム粒子)が得られる。
【0037】
前記不活性ガスとしては、窒素、希ガス(例えば、アルゴン、ヘリウム、ネオン)等が挙げられる。焼成温度としては、前記混合物が十分に焼結する温度であれば特に制限はないが、1800~2200℃が好ましく、1800~2000℃がより好ましい。また、焼成時間としては、前記混合物が十分に焼結する時間であれば特に制限はないが、0.5~6時間が好ましく、1~4時間がより好ましい。
【0038】
(第二の工程)
第二の工程においては、前記第一の工程で得られたイットリアアルミネート相を含有する窒化アルミニウム粒子と窒化ホウ素前駆体との混合物を調製する。ここで用いる窒化ホウ素前駆体は、前記本発明の熱伝導性フィラーにおける窒化ホウ素となる原料化合物であり、窒化ホウ素前駆体を用いることにより、前記窒化アルミニウム粒子の表面に窒化ホウ素を密着させることができ、前記窒化アルミニウム粒子の表面と窒化ホウ素との間の界面熱抵抗が低減されるため、得られる複合材料において熱伝導性を向上させることが可能となる。一方、窒化ホウ素粒子を前記窒化アルミニウム粒子の表面に付着させた場合には、前記窒化アルミニウム粒子の表面と窒化ホウ素粒子との密着性が十分ではないため、前記窒化アルミニウム粒子の表面と窒化ホウ素との間の界面熱抵抗が十分に低減されず、得られる複合材料の熱伝導性が十分に向上しない傾向にある。
【0039】
前記窒化ホウ素前駆体としては熱分解により窒化ホウ素を生成するものであれば特に制限はないが、生成する窒化ホウ素と前記窒化アルミニウム粒子の表面との密着性が高くなるという観点から、ホウ酸錯体が好ましく、前記ホウ酸錯体としてはホウ酸メラミン錯体、ホウ酸尿素錯体が好ましく、ホウ酸メラミン錯体がより好ましい。
【0040】
前記混合物を調製する際の混合方法としては特に制限はなく、例えば、湿式ボールミル粉砕混合法、乾式ボールミル粉砕混合法、機械混合法、撹拌混合法、乳鉢等による混合法等を採用することができ、必要に応じて、ろ過、洗浄、乾燥、分粒等の処理を施してもよい。このようなろ過、洗浄、乾燥、分粒等の処理としてはいずれも特に制限されず、公知の方法を適宜採用することができる。
【0041】
前記窒化アルミニウム粒子と前記窒化ホウ素前駆体との混合比率としては特に制限はないが、得られる熱伝導性フィラーにおいて、前記窒化アルミニウム粒子と窒化ホウ素との体積比率が前記範囲内となる混合比率が好ましい。
【0042】
次に、このようにして得られた混合物を不活性ガス雰囲気下で焼成する。このとき、前記窒化ホウ素前駆体の熱分解により窒化ホウ素中間体が生成し、この窒化ホウ素中間体が窒化ホウ素に変換される。上述したように、前記窒化アルミニウム粒子に含まれるイットリアアルミネート相が、窒化ホウ素中間体が窒化ホウ素に変換される際の触媒として作用し、窒化アルミニウム粒子の表面で窒化ホウ素中間体から窒化ホウ素への変換が優先的に起こるため、前記イットリアアルミネート相を含有する窒化アルミニウム粒子の表面の少なくとも一部が窒化ホウ素で被覆された前記本発明の熱伝導性フィラーが得られる。
【0043】
前記不活性ガスとしては、窒素、希ガス(例えば、アルゴン、ヘリウム、ネオン)等が挙げられる。焼成温度としては、前記混合物が十分に焼結する温度であれば特に制限はないが、1800~2200℃が好ましく、1800~2000℃がより好ましい。また、焼成時間としては、前記混合物が十分に焼結する時間であれば特に制限はないが、0.5~6時間が好ましく、1~4時間がより好ましい。
【0044】
また、前記第二の工程においては、前記イットリアアルミネート相を含有する窒化アルミニウム粒子と前記窒化ホウ素前駆体との混合物を圧縮成形した後、焼成することが好ましい。これにより、前記窒化アルミニウム粒子の表面に窒化ホウ素を更に密着させることができ、前記窒化アルミニウム粒子の表面と窒化ホウ素との間の界面熱抵抗が更に低減されるため、得られる複合材料において熱伝導性を更に向上させることが可能となる。
【0045】
圧縮成形時の圧力としては、20MPa以上が好ましく、60MPa以上がより好ましく、80MPa以上が特に好ましい。圧縮成形時の圧力が前記下限未満になると、前記窒化アルミニウム粒子と窒化ホウ素とが十分に密着されないため、前記窒化アルミニウム粒子の表面と窒化ホウ素との間の界面熱抵抗が十分に低減されず、得られる複合材料の熱伝導性が十分に向上しない傾向にある。
【0046】
前記混合物を圧縮成形する方法としては特に制限はないが、静水圧下での圧縮成形が好ましい。これにより、前記混合物に均一に圧力が印加され、効果的な密着状態の圧縮成形体を得ることができる。また、静水圧下で圧縮成形することにより、窒化ホウ素の配向による熱伝導性フィラーの熱伝導率異方性を抑制することができる。このような熱伝導性フィラーの熱伝導率異方性は成形履歴による熱伝導率異方性を生じさせるため、場合によっては好ましくない。
【0047】
このように前記混合物を圧縮成形した後、焼成した場合には、得られた圧縮焼結体を粉砕する。このとき、前記圧縮焼結体の窒化ホウ素が選択的に破断されるため、前記窒化アルミニウム粒子の表面の少なくとも一部が窒化ホウ素で被覆された熱伝導性フィラーが得られる。前記圧縮焼結体の粉砕方法としては特に制限はなく、例えば、各種粉砕機(ミル)や乳鉢を用いた粉砕方法や湿式ボールミルや乾式ボールミルを用いた粉砕方法等を採用することができる。
【0048】
さらに、本発明の熱伝導性フィラーの製造方法においては、前記熱伝導性フィラーとシラザン系カップリング剤又はチタネート系カップリング剤とを反応させることが好ましい。これにより、前記熱伝導性フィラー中の前記BN粒子とシラザン系カップリング剤又はチタネート系カップリング剤とが反応して前記熱伝導性フィラーの表面がアルキル化され、後述するマトリックス中に熱伝導性フィラーを添加した場合に、熱伝導性フィラーの凝集を抑制することができ、複合材料の流動性が向上するため、熱抵抗が更に低減された、熱伝導性に更に優れた複合材料を得ることが可能となる。
【0049】
前記シラザン系カップリング剤及び前記チタネート系カップリング剤のうち、熱伝導性フィラーの凝集を十分に抑制することができ、複合材料の流動性が向上し、また、ゲルの介在による熱伝導性フィラー間の接触熱抵抗の上昇も起こらないため、得られる複合材料の熱抵抗がより低減され、熱伝導性がより高くなるという観点から、シラザン系カップリング剤が好ましい。
【0050】
前記熱伝導性フィラーとシラザン系カップリング剤又はチタネート系カップリング剤とを反応させる方法としては、例えば、トルエン等の有機溶媒中に前記熱伝導性フィラーを分散させ、得られた分散液にシラザン系カップリング剤又はチタネート系カップリング剤を添加した後、加熱する方法が挙げられる。
【0051】
前記熱伝導性フィラーとシラザン系カップリング剤又はチタネート系カップリング剤との混合比としては、前記熱伝導性フィラー100質量部に対して、シラザン系カップリング剤又はチタネート系カップリング剤の量が1~20質量部であることが好ましく、5~10質量部であることがより好ましい。
【0052】
反応温度としては室温~100℃が好ましく、40~60℃がより好ましい。また、反応時間としては0.5~20時間が好ましく、1~5時間がより好ましい。
【0053】
〔熱伝導性複合材料〕
次に、本発明の熱伝導性複合材料について説明する。本発明の熱伝導性複合材料は、マトリックスと、このマトリックス中に分散している前記本発明の熱伝導性フィラーとを含有するものである。
【0054】
このような本発明の熱伝導性複合材料において、前記マトリックスとしては、絶縁性の樹脂や絶縁性のオイルが好ましく、例えば、樹脂としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂等の熱硬化性樹脂や、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリオレフィン(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン)、ポリオレフィンエラストマー、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン、ABS樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、ブチルゴム、天然ゴム、ポリイソプレン、ポリエーテルイミド等の熱可塑性樹脂が挙げられる。また、オイルとしては、シリコーンオイル、変性シリコーンオイル、フルオロエーテルオイル、鉱物油、動植物性天然油、パラフィン、合成油等が挙げられ、沸点が200℃以上の、シリコーンオイル、変性シリコーンオイル、パラフィン、合成油が好ましい。これらの樹脂やオイルは1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0055】
また、本発明の熱伝導性複合材料においては、前記熱伝導性フィラーの表面がアルキル化されていることが好ましい。これにより、前記マトリックス中での前記熱伝導性フィラーの凝集を抑制することができ、複合材料の流動性が向上するため、複合材料の熱抵抗が更に低減され、熱伝導性が更に向上する。
【0056】
本発明の熱伝導性複合材料において、前記熱伝導性フィラーの含有量としては特に制限はないが、前記熱伝導性複合材料の全量に対して、10~90vol%が好ましく、15~70vol%がより好ましく、20~60vol%が特に好ましい。前記熱伝導性フィラーの含有率が前記下限未満になると、複合材料中で前記熱伝導性フィラー間の接触部位を通じて熱が拡散する熱伝導パスのネットワーク構造が十分に形成されず、得られる複合材料の熱伝導性が十分に向上しない傾向にあり、他方、前記熱伝導性フィラーの含有率が前記上限を超えると、得られる複合材料が脆くなって自立した複合材料が得られにくくなる傾向にある。
【0057】
〔熱伝導性複合材料の製造方法〕
次に、本発明の熱伝導性複合材料の製造方法について説明する。本発明の熱伝導性複合材料の製造方法は、前記本発明の熱伝導性フィラーの製造方法により熱伝導性フィラーを製造する工程と、この熱伝導性フィラーと前記マトリックスとを混合し、前記マトリックス中に前記熱伝導性フィラーが分散している熱伝導性複合材料を得る工程とを含む方法である。
【0058】
前記熱伝導性フィラーと前記マトリックスとを混合する際、得られる複合材料中の熱伝導性フィラーの含有率が目的の含有率となるように熱伝導性フィラーとマトリックスとの混合割合を定める。また、熱伝導性フィラーとマトリックスとを混合する方法は特に制限されず、公知の混合方法が適宜用いられる。
【0059】
このようなマトリックスとして前記樹脂を用いる場合、前記熱伝導性フィラーと前記樹脂とを混合して均一混合物とし、得られた混合物を成形することにより前記熱伝導性複合材料を得ることができる。このように前記熱伝導性フィラーと前記樹脂とを混合して均一混合物とする際に、分散媒を更に加えて均一スラリーとしてもよく、その場合は真空乾燥等の公知の方法で分散媒を除去した後に成形することが好ましい。このような分散媒としては特に制限されず、例えば、N-メチル-2-ピロリドン、クロロホルム、ジクロロメタン、四塩化炭素、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸ペンチル、酢酸イソペンチル、酢酸アミル、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアルデヒド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ヘキサノール、オクタノール、ヘキサフルオロイソプロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、テトラエチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ジエチレングリコール、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、クロロフェノール、フェノール、テトラヒドロフラン、スルホラン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、γ-ブチロラクトン、N-ジメチルピロリドン、ペンタン、ヘキサン、ネオペンタン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、イソオクタン、ノナン、デカン、ジエチルエーテル等の有機溶媒が挙げられる。
【0060】
前記混合物を成形する際、加圧して圧縮することが好ましい。このような圧縮方法としては特に制限されず、一軸圧縮であっても二軸圧縮であってもよい。また、静水圧で等方的に圧縮してもよい。また、圧縮時の圧力も特に制限はないが、5~20MPaが好ましい。圧縮時の圧力が前記下限未満になると、得られる複合材料に空隙が残存しやすくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、得られる複合材料内のフィラーの破壊変形が顕著となり、残留ひずみが発生する傾向にある。
【0061】
前記混合物を成形する際に樹脂を固化させる方法としては特に制限はなく、公知の方法、例えば、樹脂として熱可塑性樹脂を用いた場合には放冷等の冷却による方法、各種(熱、光、水)硬化性樹脂を用いた場合にはそれぞれ適切な硬化方法を採用することができる。また、このような固化は、成形時又は成形後のいずれにおいて実施してもよい。
【0062】
また、前記マトリックスとして前記オイルを用いる場合は、前記熱伝導性フィラーと前記オイルとを混合して均一スラリーとすることにより前記熱伝導性複合材料(すなわち、グリース組成物)を得ることができる。
【実施例
【0063】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例で使用したホウ酸メラミン錯体の合成方法を以下に示す。
【0064】
(合成例1)
95℃に加熱した800mlの水に、ホウ酸24gを添加し、攪拌することにより溶解させた後、さらに、メラミン16gを添加し、攪拌することにより溶解させた。加熱攪拌を10分間継続してホウ酸とメラミンとを反応させ、得られた反応液を水冷した後、室温で12時間放置した。その後、析出した結晶を濾過により回収し、40℃で真空乾燥して、ホウ酸メラミン錯体31.5gを得た。
【0065】
(実施例1)
<イットリア含有AlN粒子の調製>
先ず、ポリエチレン製ポットに、窒化アルミニウム(AlN)粉末(株式会社トクヤマ製「高純度窒化アルミニウム粉末・顆粒 Eグレード」、平均粒子径1μm)40g及び酸化イットリウム(Y)ナノ粒子(アルドリッチ社製、平均粒子径50nm)0.2gを投入し、さらに、ジルコニアボール(3mm径)500g及びアセトン165gを投入して、ボールミルにより400rpmの条件で1時間混合した。その後、濾過によりジルコニアボールを取り除き、さらに、エバポレーション及び真空乾燥によりアセトンを完全に除去した。得られた混合物を、窒素雰囲気下、1800℃で1時間焼成した。得られた焼結体を室温まで冷却した後、60秒間ミル粉砕し、目開き150μmの篩を通して、イットリア含有AlN粒子(イットリア含有量:0.5質量%)を得た。
【0066】
<熱伝導性フィラーの調製>
次に、得られる圧縮焼結体の組成比が窒化アルミニウム(AlN)/窒化ホウ素(BN)=80vol%/20vol%となるように、ポリエチレン製ポットに、前記イットリア含有AlN粒子(イットリア含有量:0.5質量%)11.4g及び合成例1で得られたホウ酸メラミン錯体9.9gを投入し、さらに、ジルコニアボール(3mm径)500g及びアセトン165gを投入して、ボールミルにより400rpmの条件で12時間混合した。その後、濾過によりジルコニアボールを取り除き、さらに、エバポレーション及び真空乾燥によりアセトンを完全に除去した。得られた混合物を294MPaの静水圧下で圧縮した後、窒素雰囲気下、900℃で1時間加熱し、さらに、1800℃で1時間焼成して圧縮焼結体を得た。この圧縮焼結体を室温まで冷却した後、60秒間ミル粉砕し、目開き53μmの篩を通して、前記イットリア含有AlN粒子の表面が窒化ホウ素で被覆された熱伝導性フィラーを得た。
【0067】
<複合材料の調製>
次に、前記熱伝導性フィラーと一液型熱硬化性エポキシ樹脂(セメダイン株式会社製「EP160」)とをフィラーの体積分率が60%となるように混合した後、ジクロロメタンを添加してスラリーを調製した。得られたスラリーを大気中で攪拌してジクロロメタンを蒸発させ、さらに、15分間の真空乾燥によりジクロロメタンを完全に除去した。このようにして得られたエポキシ樹脂組成物を、110℃で30分間予備加熱した円筒容器(内径14mm)に成形後の厚みが30~40mmの範囲内となるように素早く充填した後、プランジャーを用いて円筒容器の長手方向に5~10MPaの範囲内の圧力で圧縮し、この圧縮状態をクランプを用いて保持しながら110℃で30分間加熱してエポキシ樹脂を硬化させ、前記熱伝導性フィラーがエポキシ樹脂硬化物中に分散した円柱状の複合材料を得た。
【0068】
(実施例2)
ナノ粒子の量を0.4gに変更した以外は実施例1と同様にして、イットリア含有AlN粒子(イットリア含有量:1質量%)及びこのイットリア含有AlN粒子の表面が窒化ホウ素で被覆された熱伝導性フィラーを調製し、さらに、この熱伝導性フィラーがエポキシ樹脂硬化物中に分散した円柱状の複合材料を作製した。
【0069】
(実施例3)
ナノ粒子の量を1.2gに変更した以外は実施例1と同様にして、イットリア含有AlN粒子(イットリア含有量:3質量%)及びこのイットリア含有AlN粒子の表面が窒化ホウ素で被覆された熱伝導性フィラーを調製し、さらに、この熱伝導性フィラーがエポキシ樹脂硬化物中に分散した円柱状の複合材料を作製した。
【0070】
(実施例4)
平均粒子径が1μmの前記AlN粉末(株式会社トクヤマ製「高純度窒化アルミニウム粉末・顆粒 Eグレード」)の代わりに平均粒子径が5μmのAlN粉末(Thrutek社製「AlN05AF」)40gを用いた以外は実施例1と同様にして、イットリア含有AlN粒子(イットリア含有量:0.5質量%)及びこのイットリア含有AlN粒子の表面が窒化ホウ素で被覆された熱伝導性フィラーを調製し、さらに、この熱伝導性フィラーがエポキシ樹脂硬化物中に分散した円柱状の複合材料を作製した。
【0071】
(実施例5)
ナノ粒子の量を0.4gに変更した以外は実施例4と同様にして、イットリア含有AlN粒子(イットリア含有量:1質量%)及びこのイットリア含有AlN粒子の表面が窒化ホウ素で被覆された熱伝導性フィラーを調製し、さらに、この熱伝導性フィラーがエポキシ樹脂硬化物中に分散した円柱状の複合材料を作製した。
【0072】
(実施例6)
ナノ粒子の量を1.2gに変更した以外は実施例4と同様にして、イットリア含有AlN粒子(イットリア含有量:3質量%)及びこのイットリア含有AlN粒子の表面が窒化ホウ素で被覆された熱伝導性フィラーを調製し、さらに、この熱伝導性フィラーがエポキシ樹脂硬化物中に分散した円柱状の複合材料を作製した。
【0073】
(比較例1)
前記イットリア含有AlN粒子の代わりにAlN粒子(株式会社トクヤマ製「高純度窒化アルミニウム粉末・顆粒 Eグレード」、平均粒子径1μm)11.4gをそのまま用いた以外は実施例1と同様にして、熱伝導性フィラーを調製し、さらに、この熱伝導性フィラーがエポキシ樹脂硬化物中に分散した円柱状の複合材料を作製した。
【0074】
(比較例2)
前記イットリア含有AlN粒子の代わりにAlN粒子(Thrutek社製「AlN05AF」、平均粒子径5μm)11.4gをそのまま用いた以外は実施例4と同様にして、熱伝導性フィラーを調製し、さらに、この熱伝導性フィラーがエポキシ樹脂硬化物中に分散した円柱状の複合材料を作製した。
【0075】
(比較例3)
<熱伝導性フィラーの調製>
先ず、ポリエチレン製ポットに、合成例1で得られたホウ酸メラミン錯体9.9g、窒化アルミニウム(AlN)粉末(株式会社トクヤマ製「高純度窒化アルミニウム粉末・顆粒 Eグレード」、平均粒子径1μm)11.4g、及び焼結助剤として酸化イットリウム(Y)ナノ粒子(アルドリッチ社製、平均粒子径50nm)0.23g(前記AlN粉末に対して2質量%)を投入し、さらに、ジルコニアボール(3mm径)500g及びアセトン165gを投入して、ボールミルにより400rpmの条件で12時間混合した。その後、濾過によりジルコニアボールを取り除き、さらに、エバポレーション及び真空乾燥によりアセトンを完全に除去した。得られた混合物を294MPaの静水圧下で圧縮した後、窒素雰囲気下、1800℃で1時間焼成して圧縮焼結体を得た。この圧縮焼結体を室温まで冷却した後、60秒間ミル粉砕し、目開き53μmの篩を通して、熱伝導性フィラーを得た。
【0076】
<複合材料の調製>
次に、前記熱伝導性フィラーを用いた以外は実施例1と同様にして、前記熱伝導性フィラーがエポキシ樹脂硬化物中に分散した円柱状の複合材料を作製した。
【0077】
〔X線回折測定〕
実施例で用いたイットリア含有AlN粒子及び比較例で用いたAlN粒子のX線回折パターンを測定し、前記イットリア含有AlN粒子及び前記AlN粒子に存在する結晶相を確認した。その結果を表1に示す。また、前記X線回折パターンの一例として、図1には、実施例3で用いたイットリア含有AlN粒子のX線回折パターンを、図2には、比較例1で用いたAlN粒子のX線回折パターンを示す。表1及び図1に示したように、実施例1~6で用いたイットリア含有AlN粒子には、AlN結晶相のほかに、イットリアアルミネート相(YAlO相、YAl結晶相)が存在することがわかった。このイットリアアルミネート相は、YとAlN粒子表面との反応によって形成されたと考えられる。一方、表1及び図2に示したように、比較例1~2で用いたAlN粒子に存在する結晶相は、AlN結晶相のみであることが確認された。
【0078】
<熱伝導性フィラーの電子顕微鏡観察>
実施例及び比較例で得られた熱伝導性フィラーを走査型電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ製「NB-5000」)を用いて観察した。図3図5には、それぞれ実施例1~3で得られた熱伝導性フィラーの走査型電子顕微鏡写真を、図6には、比較例1で得られた熱伝導性フィラーの走査型電子顕微鏡写真を、図7図9には、それぞれ実施例4~6で得られた熱伝導性フィラーの走査型電子顕微鏡写真を、図10には、比較例2で得られた熱伝導性フィラーの走査型電子顕微鏡写真を示す。図3図10中の明部はAlNであり、明灰色部はBNである。図3図5及び図7図9に示したように、実施例1~6で得られた熱伝導性フィラーは、イットリア含有AlN粒子の表面の少なくとも一部がBNで被覆されたAN/BN複合粒子であることがわかった。この結果から、AlN粒子にイットリアを含有させた場合には、BN前駆体と混合して焼成することによって、イットリアAlN粒子の表面にBNが集積して、コアシェル構造の複合粒子が形成されることがわかった。一方、図6及び図10に示したように、比較例1~2で得られた熱伝導性フィラーは、AlN粒子と板状BN粒子との混合粒子であることがわかった。この結果から、AlN粒子にイットリアが含まれない場合には、BN前駆体と混合して焼成すると、AlN粒子表面以外の場所で板状のBN結晶が形成されることがわかった。
【0079】
<複合材料の熱伝導率>
図11に示すように、実施例及び比較例で得られた円柱状の複合材料1から熱伝導率測定用試料2(z軸方向厚さ:3mm、直径:14mmφ)を切り出し、得られた試料の表面を黒色スプレーで黒色化した。この試料の厚さ方向(z軸方向)を熱流方向としてキセノンフラッシュアナライザー(NETZSCH社製「LFA 447 NanoFlash」)を用いて圧縮方向に平行な方向(z軸方向)の熱拡散率を測定した。
【0080】
また、前記試料の比熱を熱振動型示差走査熱量測定装置(ティー・エイ・インスツルメント社製)を用いてDSC法により測定した。さらに、前記試料の密度を水中置換法(アルキメデス法)により求めた。これらの結果から下記式:
熱伝導率(W/(m・K))=比熱(J/(kg・K))×密度(kg/m)×熱拡散率(m/秒)
により、圧縮方向に平行な方向(z軸方向)の熱伝導率を求めた。その結果を表1~表2及び図12に示す。
【0081】
【表1】
【0082】
図12に示したように、AlN粒子とBNとを含む熱伝導性フィラーを含有する複合材料は、AlN粒子中のイットリアの含有量の増加とともに熱伝導率が増大し、AlN粒子中のイットリアの含有量が約1質量%になると、熱伝導率が飽和することがわかった。
【0083】
【表2】
【0084】
表2に示した実施例2~3の結果から、イットリア含有量が2質量%のイットリア含有AlN粒子の表面が窒化ホウ素で被覆された熱伝導性フィラーがエポキシ樹脂硬化物中に分散した複合材料の熱伝導率は5.6~5.9W/mKの範囲内にあると考えられる。一方、AlN粒子に対して2質量%のイットリアを、AlN粒子と窒化ホウ素との混合物を焼結させる際の焼結助剤として添加した場合(比較例3)には、得られた熱伝導性フィラーがエポキシ樹脂硬化物中に分散した複合材料の熱伝導率は4.45W/mkとなった。これらの結果から、AlN粒子の表面が窒化ホウ素で被覆された熱伝導性フィラーを含有する複合材料においては、イットリアを含有するAlN粒子と窒化ホウ素とを焼結させることによって、AlN粒子と窒化ホウ素との混合物にイットリアを添加して焼結させた場合に比べて、熱伝導性が向上することがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0085】
以上説明したように、本発明によれば、マトリックスに高い熱伝導性を付与することが可能な熱伝導性フィラー及びそれを含有する複合材料を得ることが可能となる。したがって、本発明の複合材料は、熱伝導性に優れるため、例えば、自動車用、電子素子用、各種電気製品用の放熱材料やヒーター材料、グリース組成物等として有用である。
【符号の説明】
【0086】
1:複合材料
2:熱伝導率測定用試料
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12