(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-27
(45)【発行日】2024-10-07
(54)【発明の名称】フローマイクロリアクターを用いるリフォールディングされたタンパク質の製造方法及びタンパク質のリフォールディング装置
(51)【国際特許分類】
C07K 1/113 20060101AFI20240930BHJP
【FI】
C07K1/113
(21)【出願番号】P 2020556076
(86)(22)【出願日】2019-11-05
(86)【国際出願番号】 JP2019043284
(87)【国際公開番号】W WO2020095894
(87)【国際公開日】2020-05-14
【審査請求日】2022-10-24
(31)【優先権主張番号】P 2018208214
(32)【優先日】2018-11-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【氏名又は名称】松田 七重
(72)【発明者】
【氏名】江島 大輔
(72)【発明者】
【氏名】中原 祐一
(72)【発明者】
【氏名】加藤 啓介
(72)【発明者】
【氏名】伊達 雅代
【審査官】阪▲崎▼ 裕美
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-502173(JP,A)
【文献】特表2002-526115(JP,A)
【文献】SHASTRY, M. C. Ramachandra et al.,A continuous-Flow Capillary Mixing Method to Monitor Reactions on the Microsecond Time Scale,Biophysical Journal,1998年,Vol. 74,p. 2714-2721
【文献】MITIC, Sandra et al.,Microsecond time-scale kinetics of transient biochemical reactions,PLOS ONE,2017年10月03日,Vol. 12, No. 10,e0185888,https://doi.org/10.137/journal.pone.0185888
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00-19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リフォールディングされたタンパク質の製造方法であって、
不溶化したか又は高次構造を失ったタンパク質の可溶化溶液を、バッファーと、マイクロミキサー内で混合する工程を含み、
前記混合する工程が、内径 Ymmのマイクロミキサー内で可溶化溶液とバッファーとを混合する工程を含み、
混合時に、X1 mL/minの流速のバッファーと、X2 mL/minの流速の可溶化溶液とを接触させ、
上記X1とYとの関係が下記式(1)で示され、
上記X1とX2との関係が下記式(2)で示される、前記製造方法。
【数1】
【請求項2】
下記式(I)により求められる混合時間が、3msecより小さい、請求項1記載の製造方法。
tm = 0.15ε
-0.45 (I)
(式中、tmは混合時間、εはエネルギー散逸率、Qは流量, ΔPは圧力損失, ρは密度, Vはミキサー体積、ε=QΔP/ρVである。)
【請求項3】
バッファーの流速と不溶化したか又は高次構造を失ったタンパク質の可溶化溶液の流速との合計が、5mL/min以上である、請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
バッファーの流速と不溶化したか又は高次構造を失ったタンパク質の可溶化溶液の流速との合計が、1650mL/min以下である、請求項1~3のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項5】
マイクロミキサー前後の圧力損失が1kPa~10MPaである、請求項1~4のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項6】
マイクロミキサー内での混合時間が1ミリ秒より短い、請求項1~5のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項7】
バッファーの流速 X1 が、10~1500mL/minである、請求項1~6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
マイクロミキサーの内径Yが0.1~1.0mmである、請求項1~7のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項9】
前記可溶化溶液が、尿素、グアニジン塩酸塩、またはトリフルオロ酢酸とアセトニトリルとの組み合わせのいずれかを含む、請求項1~8のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項10】
可溶化溶液を流通させる前に、タンパク質を含まないが変性剤を含む溶液で流路を満たす、請求項1~9のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項11】
前記リフォールディングされたタンパク質がモノマーである、請求項1~10のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項12】
前記リフォールディングされたタンパク質が多量体である、請求項1~10のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項13】
前記可溶化溶液と前記バッファーとを混合する前記工程のあとに精製工程を含む、請求項1~11のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項14】
タンパク質をリフォールディングする装置であって、
バッファーが流通する第一流路と、
不溶化したか又は高次構造を失ったタンパク質の可溶化溶液が流通する第二流路と、
第一流路と第二流路が合流して混合される0.1~1.0mmの内径Yを有するマイクロミキサーであって、X1 mL/minの流速のバッファーと、X2 mL/minの流速の可溶化溶液とを接触させるように構成された前記マイクロミキサーと、
を備え、
上記X1とYとの関係が下記式(1)で示され、
上記X1とX2との関係が下記式(2)で示される、タンパク質のリフォールディング装置。
【数2】
【請求項15】
バッファー及びタンパク質の可溶化溶液を送液させるための、シリンジポンプ、プランジャーポンプまたはダイヤフラムポンプを備える、請求項
14記載の装置。
【請求項16】
前記バッファーの流速X1が式(1)を満たす圧力で前記バッファーを送液させるためのポンプをさらに備える、請求項14に記載の装置。
(式中、Y及びX1は請求項14に定義したとおりである。)
【請求項17】
前記タンパク質の可溶化溶液の流速X2が式(2)を満たす圧力で前記タンパク質の可溶化溶液を送液させるためのポンプをさらに備える、請求項14に記載の装置。
(式中、X1及びX2は請求項14に定義したとおりである。)
【請求項18】
前記バッファーの流速と前記タンパク質の可溶化溶液の流速との合計が5mL/min以上でとなる圧力で前記バッファーと前記タンパク質の可溶化溶液を送液するためのポンプをさらに備える、請求項14に記載の装置。
【請求項19】
前記バッファーの流速と前記タンパク質の可溶化溶液の流速との合計が1650mL/min以下となる圧力で前記バッファーと前記タンパク質の可溶化溶液を送液するためのポンプをさらに備える、請求項14に記載の装置。
【請求項20】
前記バッファーを送液するためのポンプと、前記タンパク質の可溶化溶液を送液するためのポンプとをさらに備える、請求項14に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フローマイクロリアクター(Flow Micro Reactor, FMR)を用いる、リフォールディングされたタンパク質の製造方法と、タンパク質のリフォールディング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
大腸菌などの微生物を使って産生させたタンパク質は、多くの場合、微生物体内で不溶性となり、活性を失っている。そのため、そのようにして得られたタンパク質を産業上利用出来るようにするには、活性を回復させるべく、適切な立体構造を持つようにリフォールディングを行う必要がある。
リフォールディングを行う際、通常、適切な変性剤を用いて、不溶性のタンパク質を可溶化し、次いで、変性剤を、タンパク質が立体構造を回復し、活性を取り戻す程度に除去する。変性剤を除去する方法としては、ゲル濾過クロマトグラフィーなどのカラムクロマトグラフィー、限外濾過、透析やそれらの組合せが知られている。リフォールディングにより、安定なケミカルポテンシャルを持つ構造をとり、且つ活性を有するタンパク質だけを得たいが、少なからず、変性剤を除去する際に沈殿してしまったり、リフォールディング後に水相に溶解していても活性を持たない構造を取ってしまったりして、活性を有するタンパク質の収率は依然として満足いくものではない。
工業レベルでタンパク質のリフォールディングを行う技術としては、たとえば特表2009-502173(特許文献1)に、フロー式のリフォールディング方法として、可溶化タンパク質溶液と希釈用のバッファーとを合流させた後に、スタティックミキサーでより十分に混合させてリフォールディングを行うことで、バッチ式のリフォールディングによる撹拌翼の剪断力や熱によるストレスを低減させる方法が開示されている。
米国特許第7,651,848号(特許文献2、以降、「第848号特許」と称する)には、可溶化タンパクと希釈液をスタティックミキサーで混合後に、タンクにリフォールディング液を受け、タンク中でリフォールディング液を撹拌する方法が開示されている。このときの混合時間は1ミリ秒から10秒、好ましくは100ミリ秒から1秒であると記載されている。さらに、スタティックミキサーで混合後に添加剤を合流させる方法や、可溶化タンパク質溶液と希釈用バッファーとの混合液を受けるリフォールディングタンクに、あらかじめ希釈用バッファーを満たしておき、リフォールディングタンク中の混合溶液を循環させて可溶化されたタンパク質溶液の希釈に用いる方法が開示されている。
非特許文献1(Process Biochemistry 35 (2000) 1119-1124)には、透析膜チューブ内の可溶化タンパク質溶液を撹拌しながら、ポンプで透析膜チューブ内に可溶化タンパク質を送液し、透析膜チューブ外に希釈用バッファーを送液しながら常にそれを引き抜いて可溶化物質濃度を低く保つシステムが開示されている。
非特許文献2(Chemical Engineering Science 140 (2016) 153-160)には、可溶化されたタンパク質溶液と希釈用バッファーを混合後にスタティックミキサーに通液させ、その後、反応コイルに流通させてリフォールディングさせる連続式のリフォールディングシステムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2009-502173号公報
【文献】米国特許第7,651,848号
【非特許文献】
【0004】
【文献】Process Biochemistry 35 (2000) 1119-1124
【文献】Chemical Engineering Science 140 (2016) 153-16
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
既述のとおり、タンパク質のリフォールディングは、タンパク質機能を持たない変性状態にあるタンパク質を、本来の構造に折り畳むことでタンパク質機能を回復させることであるが、このような構造の変化は、変性剤を除去するか又は変性剤の濃度を限りなく低下させることにより起こすことができる。
図1は、Tsumotoらの文献(K.Tsumoto et al., Protein Expression and Purification 28 (2003) 1-8)のFig.4に各状態の説明を加筆したものであり、リフォールディングの過程を示している。この図に示されるとおり、リフォールディングにより、タンパク質は、変性状態(U)から中間体(I)を経て折りたたみ状態(N)に変化する。しかし、タンパク質の構造は、変性剤濃度だけではなく、pHや温度など、周囲の環境に大きく依存し、混合ムラなどにより、容易に、凝集体を形成したり、ミスフォールディング状態になってしまったりすると言われている(Y. Katoh et al., Process Biochemistry 35 (2000) 1119-1124)。すなわち、変性状態(U)や中間体(I)から凝集体に変化してしまうこともある。変性状態(U)から折りたたみ状態(N)または凝集体までの時間は短時間であり、非常に高速(ミリ秒オーダー)と言われている(C.M.Dobson et al., J. Mol. Biol. (2000) 297, 193-210)。したがって、凝集体の形成を抑制するには、変性剤が除去された状態又は変性剤濃度が低くなった状態までを、短時間に実現すること(すなわち、高速混合)が重要であると考えられる。
しかし、可溶化されたタンパク質溶液から変性剤を除去するまでには一定の時間がかかる。たとえば、透析操作により変性剤を除去する場合、透析膜を通過する物質の移動速度は遅いため、変性剤が除去された状態にするまでの時間は、リフォールディング時間よりも長くなってしまう。さらに工業化レベルでは、希釈にかかる時間に加えて、局所的に濃度ムラができやすいという問題がある。たとえば、スタティックミキサーは優れた混合装置であるが、いったん希釈液を変性タンパク質の可溶化溶液と混合してからスタティックミキサーに導入することから、スタティックミキサーの出口までの混合において、時間的にも局所的にもムラができやすい。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らが、タンパク質のリフォールディング方法について鋭意検討した結果、内径0.1~1.0mmのマイクロミキサーを備えたフローマイクロリアクターを用い、バッファーと変性タンパク質の可溶化溶液とを所定の流速で流通させ、マイクロミキサー内で連続的に混合することにより、凝集体の形成を抑制し、正しくリフォールディングされたタンパク質の収率を向上させることができることを見出した。この知見に基づき、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、以下の製造方法を提供する。
【0007】
〔1〕リフォールディングされたタンパク質の製造方法であって、
不溶化したか又は高次構造を失ったタンパク質の可溶化溶液を、バッファーと、マイクロミキサー内で混合する工程を含む、前記製造方法。
〔2〕下記式(I)により求められる混合時間が、3ミリ秒(msec)より小さい、前記1項記載の製造方法。
tm = 0.15ε
-0.45 (I)
(式中、tmは混合時間、εはエネルギー散逸率、Qは流量, ΔPは圧力損失, ρは密度, Vはミキサー体積、ε=QΔP/ρVである。)
〔3〕バッファーの流速と変性タンパク質の可溶化溶液の流速との合計が、5mL/min以上である、前記1又は2項記載の製造方法。
〔4〕バッファーの流速と変性タンパク質の可溶化溶液の流速との合計が、600mL/min以下である、前記1~3のいずれか1項記載の製造方法。
〔5〕マイクロミキサー前後の圧力損失が1kPa~10MPaである、前記1~4のいずれか1項記載の製造方法。
〔6〕マイクロミキサー内での混合時間が1ミリ秒より短い、前記1~5のいずれか1項記載の製造方法。
〔7〕前記混合工程が、内径 Ymmのマイクロミキサー内で可溶化溶液とバッファーとを混合する工程を含み、
混合時に、X1 mL/minの流速のバッファーと、X2 mL/minの流速の可溶化溶液とを接触させ、
上記X1とYとの関係が下記式(1)で示され、
上記X1とX2との関係が下記式(2)で示される、
前記1~6のいずれか1項記載の製造方法。
【数1】
〔8〕バッファーの流速 X1 が、10~1500mL/minである、前記1~7のいずれか1項に記載の製造方法。
〔9〕マイクロミキサーの内径Yが0.1~1.0mmである、前記1~8のいずれか1項に記載の製造方法。
〔10〕前記可溶化溶液が、尿素、グアニジン塩酸塩、またはトリフルオロ酢酸とアセトニトリルとの組み合わせのいずれかを含む、前記1~9のいずれか1項記載の製造方法。
〔11〕前記リフォールディング方法において、可溶化溶液を流通させる前に、タンパク質を含まないが変性剤を含む溶液で流路を満たす、前記1~10のいずれか1項記載の製造方法。
〔12〕前記リフォールディングされたタンパク質がモノマーである、前記1~11のいずれか1項記載の製造方法。
〔13〕リフォールディング工程のあとに精製工程を含む、前記1~12のいずれか1項記載の製造方法。
【0008】
本発明者らはまた、タンパク質のリフォールディング装置について鋭意検討した結果、内径0.1~1.0mmのマイクロミキサーを備えたフローマイクロリアクターを用い、バッファーと変性タンパク質の可溶化溶液とを、マイクロミキサー内で連続的に混合することにより、凝集体の形成を抑制し、正しくリフォールディングされたタンパク質を得ることができることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、以下の装置を提供する。
〔14〕タンパク質をリフォールディングする装置であって、
バッファーが流通する第一流路と、
不溶化したか又は高次構造を失ったタンパク質の可溶化溶液が流通する第二流路と、
第一流路と第二流路が合流して混合される内径0.1~1.0mmのマイクロミキサーと、
を備える、タンパク質のリフォールディング装置。
〔15〕バッファー及びタンパク質の可溶化溶液を送液させるための、シリンジポンプ、プランジャーポンプまたはダイヤフラムポンプを備える、前記14項記載の装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、リフォールディング条件(特に、バッファー及び変性タンパク質の可溶化溶液の流速、混合時間)を正確に制御し得ることから、リフォールディングされて活性を取り戻したタンパク質を高収率で得ることができる。本発明の装置によれば、生産量を上げる場合には同じシステムを増やすのみであることから、スケールギャップを受けることなく、スケールアップが容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、K. Tsumoto et al., Protein Expression and Purification 28 (2003) 1-8のFig.4(リフォールディングの経過を示す模式図)に各状態の説明を加筆した図である。
【
図3】
図3は、実施例で用いたFMR装置の概略図である。
【
図4】
図4は、実施例で用いたFMR装置の概略図である。
【
図5】
図5は、実施例1において測定した、種々の流路内径における、流量とrfIL-6モノマー収率との関係を示すグラフである。
【
図6A】
図6Aは、実施例2において測定した、本発明によりリフォールディングされたrhIL-6(Monomer)と、rhIL-6の凝集物(Dimer)のピークを示す。
【
図6B】
図6Bは、実施例2において測定した、バッチ式で混合したときの、リフォールディングされたrhIL-6(Monomer)と、rhIL-6のDimerのピークを示す。
【
図6C】
図6Cは、実施例2において測定した、ゲルろ過カラムによるバッファー交換で混合したときの、リフォールディングされたrhIL-6(Monomer)と、rhIL-6のDimerのピークを示す。
【
図7】
図7は、実施例4において測定した、種々の流量におけるリゾチーム酵素活性を示す。
【
図8】
図8は、実施例6において測定した、第848号特許の方法と本発明の方法との混合時間の比較を、圧力損失に対する混合時間により示す。
【
図9】
図9は、実施例7において測定した、第848号特許の方法と本発明の方法との混合性能の比較を、流速に対する352nmにおける吸光度により示す。
【
図10】
図10は、実施例8において測定した、第848号特許の方法と、本発明の方法と、バッチ式の、種々の流速におけるrhIL-6モノマー収率を示す。
【
図11】
図11は、実施例11において測定した、本発明の方法又はバッチ式によりリフォールディングされた、IGF-1の(Ib)と前駆体(Ic)の合計の収率と、IGF-1(Ia)の収率との比較を示す。
【
図12】
図12は、実施例12において測定した、本発明の方法又はバッチ式によりリフォールディングされた、Ranibizumabの収率の比較を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.本発明の方法
マイクロリアクターは、一般的に、数十から数百ミクロンの空間で反応をさせる反応装置である。本発明の方法で用いるマイクロリアクターは、連続フロー式である。
他方、不溶化したか又は高次構造を失ったタンパク質を変性剤により可溶化し、次いで、可溶化されたタンパク質が立体構造を回復する程度に変性剤を除去すると、タンパク質はリフォールディングされる。
本発明の方法は、FMRに備えられたマイクロミキサーを用いて、不溶化したか又は高次構造を失ったタンパク質の可溶化溶液を、連続的に迅速にバッファーと高速混合して希釈することにより、可溶化タンパク質の周りから変性剤を除去し、タンパク質をリフォールディングするできる。
【0012】
本発明の方法によれば、下記式(I)により求められる混合時間が、3msecより小さい高速混合を達成できる。
tm = 0.15ε-0.45 (I)
(式中、εはエネルギー散逸率、Qは流量, ΔPは圧力損失, ρは密度, Vはミキサー体積、ε=QΔP/ρVである。)
混合時間が早いほど、凝集体の形成を抑制することができ、引いては目的物であるリフォールディングされたタンパク質を高収率で得ることができる。混合時間としては、3msecより小さいのが好ましく、1.4~0.001msecがよりこのましく、1~0.001msecがさらに好ましく、0.87~0.0.001msecがさらに好ましい。
【0013】
〔タンパク質〕
本発明によるリフォールディングの対象であるタンパク質は、不溶化したか又は高次構造を失い、機能ないし活性を失ったタンパク質である。本明細書では、このようなタンパク質を、変性タンパク質と称することもある。不溶化したタンパク質と高次構造を失ったタンパク質とは明確には区別できないが、いずれも、その高次構造が天然状態のものとは異なる。
不溶化したタンパク質は、例えば、大腸菌などの微生物を生産宿主にして調製された遺伝子組み換えタンパク質である。このようにして得られたタンパク質は、通常、100gの水に対する溶解度が0.001g以下(25℃)であるので、本発明において使用できる。可溶性状態からなんらかのストレスを受けて不溶化したタンパク質でもよい。
タンパク質の形態は特に制限されず、例えば顆粒状でも粉末状でも線維状でも凝集体でもよい。凝集体のように、その高次構造が天然状態のものとは異なる形態であっても、変性剤の助けがなくても可溶性のタンパク質も存在する。このようなタンパク質も、本発明によるリフォールディングの対象である。
本発明は、2次構造が主にα-ヘリックスからなるタンパク質(例えばIL-6)、β-シートからなるタンパク質(例えばscFvやFab)、又は双方からなるタンパク質(例えばトランスグルタミナーゼ)に適用できる。複雑な構造のタンパク質にも適用可能であり、タンパク質の一次構造や二次構造の特徴で制限されることはない。
【0014】
本発明はまた、単量体タンパク質(IL-6など)であっても、多量体タンパク質(Fabなど)であっても適用できる。ただし、多量体と単量体タンパク質のリフォールディングにおける至適状態が違うことから、多量体タンパク質の至適条件に合わせたときよりも単量体タンパク質の至適条件に合わせたときにより高いモノマー収率が得られる。タンパク質の断片でも使用できる。例えば、重量平均分子量(室温条件下、超遠心分析法や静的光散乱分析法で測定)にして5000ダルトンのものから150000ダルトンのものまで本発明において使用することができる。
分子内あるいは分子間にジスルフィド結合を有さないタンパク質(例えばトランスグルタミナーゼ)であっても、該結合を有するタンパク質(例えばIL-6、scFv、Fab)であっても適用できる。
【0015】
具体的には、ヒトインターロイキン-6やIGFのようなサイトカイン;成長因子、各種ホルモン(例えば、アクチビンAやTGF-β)、分化誘導因子などの特定の高次構造を獲得することで機能を発揮するタンパク質性リガンド;トランスグルタミナーゼやリゾチームなどの酵素;タンパク質性酵素阻害剤;及びイムノグロブリン構造を持つ抗体関連分子があげられる。
【0016】
抗体関連分子としては、抗体可変領域(Fv、fragment of variable region)、単鎖抗体可変領域(scFv、single chain Fv)、抗原結合部位(Fab、fragment of antigen binding)、抗原結合部位(Fab')、2価の抗原結合部位(F(ab')2)等の抗体断片;二重特異性を示す単鎖抗体可変領域(bispecific single chain Fv)又はダイアボディ(Diabody)、抗体可変領域と抗体Fcドメインの一部を融合させて2量体化させた人工的な小型抗体(Minibody)等の人工抗体;抗原結合部位又は抗体可変領域を構成するドメインのうちの軽鎖由来か重鎖由来の単独のドメインからなるシングルドメイン抗体(single-domain antibody)、タンパク質やペプチドを抗体Fcドメインに融合させたFc融合タンパク質(Fc Fusion Protein)などがあげられる。
【0017】
より具体的には、HyHEL-10 scFvのような単鎖抗体可変領域(scFv)、例えばPexelizumab(scFv)、抗原結合部位(Fab)としてAbciximab(商品名、ReoPro)、ranibizumab(商品名、LUCENTIS)又はCertolizumab(商品名、Cimzia)、抗Fluorescein scFv Fc fusionのようなFc融合タンパク質(Fc Fusion Protein)、例えばromiplostim(商品名、Nplate)、rilonacept(商品名、ARCALYST)、abatacept(商品名、ORENCIA)又はalefacept(商品名、AMEVIVE)などが不溶化したか又は高次構造を失ったものがあげられる。これら抗体関連分子の構造は、公知論文、例えばHolliger P. and Hudson PJ. Nature Biotechnology 23 (9), 1126-1136 (2005)に詳しく述べられている。
【0018】
イムノグロブリン構造以外の例えばアンキリンリピートやフィブロネクチンタイプIIIドメインやリポカリンなどを足場構造にして作られた人工的な親和性分子もまた本発明において使用することができる。
【0019】
本発明において、不溶化したか又は高次構造を失ったタンパク質は、変性剤を含む溶液中に含ませて、可溶化した後、マイクロミキサーに流通させる。可溶化液中におけるタンパク質の濃度は、0.1~20mg/mLとするのが好ましく、0.25~5mg/mLとするのがより好ましく、0.5~3.5mg/mLとするのがさらに好ましい。これにより、可溶化溶液を、所定内径のマイクロミキサー内を流通させて、バッファーと迅速に十分に混合させることができる。
【0020】
〔変性剤〕
変性剤は、一般的には、タンパク質にその高次構造を失わせしめ、失活させるのに使用されるが、リフォールディングにおいては、不溶化したか又は高次構造を失ったタンパク質を伸ばし、構造を緩ませ、又はもつれをほどくことにより、タンパク質を可溶化させる役割を果たす。
本発明において、変性タンパク質の可溶化に用いることのできる変性剤としては、当該技術分野で公知のものを特に制限なく使用することができる。例えば、尿素、グアニジン塩酸塩、トリフルオロ酢酸(TFA)等の酸、アセトニトリル等の溶媒、界面活性剤を用いることができる。界面活性剤としては、C8~C16のアシル基を有するジカルボン酸、デカノイルサルコシン(ラウロイルサルコシン、ラウロイル-Sar)、デカノイルアラニン(ラウロイルアラニン、ラウロイル-Ala)、デカン酸又はこれらの又はこれらの塩(例えばナトリウム塩、カリウム塩)、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド(LTAC)及びこれらの混合物が挙げられる。このうち、C8~C16のアシル基を有するジカルボン酸、デカノイルサルコシン、デカノイルアラニン又はこれらの塩であるのが好ましい。C8~C16のアシル基を有するジカルボン酸又はその塩であるのがより好ましい。前記C8~C16のアシル基を有するジカルボン酸が、ラウロイルグルタミン酸(ラウロイル-Glu)、ラウロイルアルパラギン酸(ラウロイル-Asp)又はラウロイルイミノジ酢酸であるのがさらに好ましい。ラウロイル-Glu、ラウロイル-Asp、ラウロイル-Sar、ラウロイル-Alaは、D体、L体、DL体のいずれであっても良い。界面活性剤としては、ラウロイル-L-Glu又はその塩が、あらゆる不溶性タンパク質の可溶化力に優れ、希釈されたときにタンパク質に結合し続けることなく容易に除去できることに加えて、高純度のラウロイル-L-Glu試薬を安価に入手できることから、特に好ましい。本発明に用いる変性剤としては、変性効果に優れるため、尿素、グアニジン塩酸塩、又はTFAとアセトニトリルとの組み合わせが好ましい。
【0021】
変性剤の濃度は、変性タンパク質を、溶液中で十分に引き伸ばすことができる濃度であればよく、変性タンパク質の濃度が既述のとおりであれば、4M以上とするのがよい。これにより、可溶化効率を十分に高めることができる。変性効果に優れるため、5M以上であるのがより好ましく、6M以上であるのがさらに好ましい。上限は、希釈倍率を適度に留める範囲に設定するのがよく、10 Mであるのが好ましい。6~8Mにすると、可溶化効率と希釈倍率を最適化することができる。
【0022】
可溶化溶液の溶媒は、用いる変性剤の種類によるが、水であるのが好ましい。アセトニトリル等の溶媒を変性剤として用いる場合、追加の溶媒を用いても用いなくてもよい。可溶化溶液には、ジチオスレイトール(DTT)や2-メルカプトエタノール等の還元剤を加えてもよい。
【0023】
可溶化溶液の25℃におけるpHは、変性タンパク質の性質に合わせ、pH2.0~9.0、好ましくはpH7.0~8.5の緩和な条件を選択できる。なお、本発明において、pHは、pH電極を装着したpHメーターにより測定できる。pH調整は、水酸化ナトリウムなどの塩基を用いて行うことができる。該水溶液として緩衝液を使用してもよい。
【0024】
可溶化溶液の温度は、本発明の方法を適用するタンパク質の熱特性を考慮して適宜決定するのがよいが、概ね4~40℃とするのが好ましい。このような範囲であれば化学反応による切断や酸化などの修飾が最小限に抑制されるので好ましい。可溶化溶液の温度は、リザーバータンクに保温器を備え付けたり、流路にプレ温調コイルを外付けしたり、マイクロミキサー等をウォーターバスに浸漬したりすることにより、調整することができる。
タンパク質が可溶化されたかどうかは、例えば目視による濁度判定、あるいは280 nmでの紫外線吸収スペクトル法などにより確認することができる。
【0025】
〔バッファー〕
本発明において用いることのできるバッファーは、トリス緩衝液(トリス塩酸塩、トリス酢酸塩等)、リン酸緩衝液(PBS)、酢酸ナトリウム緩衝液、クエン酸ナトリウム緩衝液等、当業界において公知のものを使用できる。
【0026】
バッファーは、アルギニン、システイン、シスチン等のアミノ酸や酸化型グルタチオン、還元型グルタチオン等の添加剤を含んでいてもよい。アミノ酸は、塩酸塩等の無機酸との塩、又は酢酸塩等の有機酸との塩を形成していてもよい。アミノ酸は、アシル化アルギニン、例えばN-ブチロイルアルギニン等の誘導体であってもよい。添加剤濃度は、タンパク質の性質に応じて選択される。アルギニンであれば、例えば0.1~1.5M、好ましくは0.2~1.2M、システインであれば、例えば1~10mM、好ましくは3~6mM、シスチンであれば、例えば0.1~1mM、好ましくは0.6~1mM、還元型グルタチオンであれば例えば1~10mM、好ましくは3~6mM、酸化型グルタチオンであれば例えば0.1~1mM、好ましくは0.6~1mMとなるように含ませると、天然状態の高次構造回復が促進させるので好ましい。
【0027】
バッファーの25℃におけるpHは、可溶化溶液と合流後にタンパク質の性質に合ったpHであればよく、概ね、pH4.0~9.0に収まるようなpHである。可溶化溶液のpHと同じでも異なっていてもよい。pH調整は、例えば、塩酸や水酸化ナトリウム等で行うことができる。
【0028】
バッファーの温度は、可溶化溶液の温度と同じでも異なっていてもよいが、同じであるのが好ましい。バッファーの温度が可溶化溶液の温度と同じであると、リフォールディング温度の制御に優れる。目的タンパク質が活性を取り戻した際の熱安定性が十分に高くない場合は4~10℃がよい。バッファーの温度は、リザーバータンクに保温器を備え付けたり、流路にプレ温調コイルを外付けしたり、マイクロミキサー等をウォーターバスに浸漬したりすることにより、調整することができる。
【0029】
上記のとおり準備したバッファーと変性タンパク質の可溶化溶液とを、それぞれ別の流路から供給する。バッファー及び変性タンパク質の可溶化溶液は、送液ポンプにより流通させることができる。各溶液の流速は、送液ポンプの圧力により調整することができる。
【0030】
バッファーの流速と変性タンパク質の可溶化溶液の流速との合計(以降、「Total Flow Rate」又はTFRと称する)が、5mL/min以上であると、活性を取り戻したタンパク質の回収率が優れるので好ましい。TFRが、1650mL/min以下であると、使用可能なポンプの選択肢が広がるので好ましく、600ml/min以下であるのがより好ましい。TFRは、11~600mL/minであるのがより好ましく、11~330mL/minであるのがより好ましく、20~330mL/minであるのがさらに好ましい。
【0031】
各溶液を流通させる流路は、1つでも2以上でもよい。マイクロミキサー内で両溶液を混合するには、希釈倍率が数倍から数十倍、例えば10~20倍になるように、両溶液の体積を調整するのがよい。
【0032】
可溶化溶液を流通させる前に、変性タンパク質を含まないが変性剤を含む溶液で、流路を満たしてもよい。これにより、目的タンパク質の収率が向上し、かつ、連続送液を安定的に行うことができる。
【0033】
マイクロミキサーに到達した両溶液は、マイクロミキサー内で混合される。本発明で用いるマイクロミキサーは流路内径が小さく(そのため、微細流路と称することもある)、撹拌翼や邪魔板等を持たない混合器である。
マイクロミキサーを構成する微細流路の内径 Y mmは、バッファーの流速 X1 mL/minとの関係で決定することができる。具体的には、X1 と Y との関係は下記式(1)で表すことができる。
【0034】
【0035】
満足のいくレベルでのリフォールディング率を達成するのには、例えば、10 ≦ X1 である。流速が混合時間に依存することから、10 ≦ X1 ≦1500 であるのが好ましく、10 ≦ X1 ≦ 300 であるのがより好ましく、20 ≦ X1 ≦ 300であるのがさらに好ましい。
マイクロミキサーの微細流路の内径Y が0.1mm未満の場合、圧力損失が大きくなるため、使用困難である。したがって、0.1 ≦ Y であるのが好ましく、0.1 ≦ Y ≦ 1.0 であるのがより好ましく、0.1 ≦ Y ≦ 0.5 であるのがさらに好ましく、0.25 ≦ Y ≦ 0.5 であるのが特に好ましい。
10 ≦ X1 ≦1500 であり、かつ0.1 ≦ Y ≦ 1.0であるのがより好ましく、0.1 ≦ Y ≦ 0.5 であるのがさらに好ましく、0.25 ≦ Y ≦ 0.5 であるのが特に好ましい。X1とYとがこのような範囲にあると、圧力損失と混合時間が制御できるので好ましい。
10 ≦ X1 ≦545 であり、かつ0.1 ≦ Y ≦ 1.0であるのがより好ましく、0.1 ≦ Y ≦ 0.5 であるのがさらに好ましく、0.25 ≦ Y ≦ 0.5 であるのが特に好ましい。X1とYとがこのような範囲にあると、圧力損失と混合時間が制御できるので好ましい。
10 ≦ X1 ≦ 300 であり、かつ0.1 ≦ Y ≦ 0.5 であるのが特に好ましく、0.25 ≦ Y ≦ 0.5 であるのがとりわけ好ましい。X1とYとがこのような範囲にあると、混合時間と圧力損失を制御できるので好ましい。
20 ≦ X1 ≦ 300であり、かつ、0.25 ≦ Y ≦ 0.5 であるのが最も好ましい。X1とYとがこのような範囲にあると、安定的な混合性能を得ることができるので好ましい。
【0036】
可溶化溶液の流速は、バッファーの流速との関係で決定することができる。すなわち、X1 と X2 との関係は下記式(2)で表すことができる。
【0037】
【0038】
変性剤を除去するか又は変性剤の濃度を限りなく低下させることによりリフォールディングを起こすことができることから、X2 は X1 の10分の1以下であるのが好ましい。X2 が X1 の50分の1以上であるのがより好ましく、30分の1以上であるのがさらに好ましく、20 分の1以上であるのが特に好ましく、10 分の1以下であるのがさらに特に好ましい。バッファーと可溶化溶液の送液を開始するタイミングは、同時でも異なっていてもよいが、異なる場合、可溶化溶液を先に送液する。
マイクロミキサーの微細流路断面の形状は、特に限定されず、V字形、T字形等を用いることができる。より高い混合性能が期待できることから、V字形が好ましい。
より高い混合性能が得られることから、マイクロミキサーの微細流路断面の形状がV字形であり、10 ≦ X1 ≦1500 であり、かつ0.1 ≦ Y ≦ 1.0であるのがより好ましく、0.1 ≦ Y ≦ 0.5 であるのがさらに好ましく、0.25 ≦ Y ≦ 0.5 であるのが特に好ましい。
より高い混合性能が得られることから、マイクロミキサーの微細流路断面の形状がV字形であり、10 ≦ X1 ≦545 であり、かつ0.1 ≦ Y ≦ 1.0であるのがより好ましく、0.1 ≦ Y ≦ 0.5 であるのがさらに好ましく、0.25 ≦ Y ≦ 0.5 であるのが特に好ましい。
より高い混合性能が得られることから、マイクロミキサーの微細流路断面の形状がV字形であり、10 ≦ X1 ≦ 300 であり、かつ0.1 ≦ Y ≦ 0.5 であるのが特に好ましく、0.25 ≦ Y ≦ 0.5 であるのがとりわけ好ましい。
より高い混合性能が得られることから、マイクロミキサーの微細流路断面の形状がV字形であり、20 ≦ X1 ≦ 300 であり、かつ、0.25 ≦ Y ≦ 0.5 であるのが最も好ましい。
【0039】
マイクロミキサー前後の圧力損失は、1kPa~10MPaであるのが好ましい。圧力損失をこの範囲とすることで、マイクロミキサーによる混合効率が高くなり、製造プロセスにおけるスケールアップも容易に実施できる。圧力損失は、主に、バッファー及び可溶化溶液の各比重、流量及び圧力を設定することにより制御することができる。
【0040】
本発明においては、長くても1ミリ秒の混合により、リフォールディング収率が向上する。混合時間は、両溶液の流速や密度、マイクロミキサーの体積等により変化し得るが、例えば、10 マイクロ秒~ 1000 マイクロ秒、特に10 マイクロ秒~500 マイクロ秒であり得る。このような短時間での混合は、変性タンパク質の可溶化溶液を迅速に希釈することでもあり、変性剤の迅速な除去でもある。迅速希釈により均一な溶媒相が得られることから、中間体の構造も均質になる。他方、希釈が緩慢であると、希釈後の溶媒相は不均一となり、中間体に加え、変性剤により引き伸ばされた状態のままのタンパク質が存在するなど、得られるタンパク質の構造も様々である。伸びたままのタンパク質に、中間体がはまり込んでしまうと、会合した状態で構造形成を終了することになる。如何なる理論にも拘束されるものではないが、上に述べたとおり、本発明者らは、高速混合が凝集体形成の抑制に寄与すると考える。
【0041】
混合時間は圧力損失にて定量化する下記の手法にて推算できる。
(計算方法)
Falkらの報告(Chemical Engineering and Processing 50 (2011) 979- 990)において、混合時間tmはエネルギー散逸率εと相関があることが示されており、混合時間は、
tm = 0.15ε-0.45 (I)
で表せることが示されている(ε=QΔP/ρV, Q : 流量, ΔP : 圧力損失, ρ : 密度, V : ミキサー体積)。
【0042】
両溶液の混合後の温度は、変性タンパク質の可溶化溶液と同様、4~40℃とするのが好ましく、目的タンパク質が活性を取り戻した際の熱安定性が十分に高くない場合は4~10℃でもよい。このような範囲であれば化学反応による切断や酸化などの修飾を最小限に抑制できる。両溶液の混合後の温度は、マイクロミキサーに備えられた、ウォーターバス等の恒温槽により調整することができる。
【0043】
マイクロミキサー内で希釈されることにより、変性タンパク質はその高次構造を回復し、活性を取り戻す。活性を取り戻したタンパク質は、それが元々含まれていた可溶化溶液及びバッファーと共に滞留管へ送られる。このときの流速は特に限定されないが、充分な混合性能を得るため、10 ~ 1500 mL/minであるのが好ましい。
マイクロミキサーから混合物を排出した後に、バッファーで流路を置換してもよい。これにより、流路内でのタンパク質の凝集を抑制することができる。
【0044】
マイクロミキサーから滞留管に送られる溶液中には、リフォールディングが完了していない中間体(すなわち、
図1におけるI)が含まれることがあるが、該溶液を滞留管内で滞留させることにより、変性タンパク質はその高次構造を回復し、活性を取り戻す。すなわち、マイクロミキサー通過直後よりも、滞留管通過後の方が、リフォールディング率が向上する。滞留管内の溶液は、放置ないし静置してもよいし、循環させてもよいし、撹拌してもよい。滞留時間は、数時間から数日、例えば2時間から24時間である。滞留温度は、4 ~ 40 ℃程度であるのが良い。後述するとおり、滞留管に代えて、ビーカー等の容器でもよい。
【0045】
滞留管を通過した後の、リフォールディングされたタンパク質を含む溶液を、吐出口から取り出し、必要があれば、レシーバー容器に入れる。
レシーバー容器に入れたタンパク質を、通常の方法、例えば限外濾過、透析、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、疎水性相互クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー等によって精製してもよい。
目的のタンパク質は、上記クロマトグラフィーによる分取によって回収することができる。
【0046】
タンパク質が天然状態の高次構造を回復したかどうかは、CDスペクトルや蛍光スペクトルなどの分光測定、あるいはHPLCなどタンパク質の物理化学的特性を観察する方法、あるいは酵素活性等の高次構造指標により確認することができる。
【0047】
2.本発明の装置
既述のとおり、本発明の方法は、マイクロミキサーを備えたマイクロリアクターを用い、連続で行うことができる。そこで、本発明はさらに、本発明の方法を使用することができる、タンパク質のリフォールディング装置を提供する。本発明の装置について以下に説明する。
【0048】
マイクロリアクターは、一般的に、数十から数百ミクロンの空間で反応をさせる反応装置であり、高速混合を実現できる。本発明の装置は、バッファーが流通する第一流路と、不溶化したか高次構造を失ったタンパク質の可溶化溶液が流通する第二流路と、バッファーと可溶化溶液とが合流するマイクロミキサーとを備える。第一流路及び第二流路は、マイクロミキサーと連通状態にある。本発明の装置はまた、連続フロー式である。
【0049】
本発明に用いられるマイクロミキサーは、スリット型、ディスク型、強制接触型など、一般的なものが使用できる。スリット型マイクロミキサーは、短辺に平行な波を有する長方形の隔壁を短辺に平行に屏風畳み状に均等な間隔に折り曲げて複数の微細流路を形成した混合器である。ディスク型マイクロミキサーは、薄いフォイルを重ねて微細流路を形成した混合器である。強制接触型マイクロミキサーは、ノズルによる混合器である。いずれのマイクロミキサーも、バッファーと可溶化溶液の接触(すなわち合流)と混合とを同時に行うことができるため、マイクロミキサーを通過した混合液を、スタティックミキサー等の別の混合器を用いてさらに混合する必要がない。すなわち、本発明により、両溶液の合流と混合とをワンステップで行うことができる。流路による閉塞トラブルを最小限にとどめるとともに、優れた混合性能が得られることから、強制接触型が好ましい。
【0050】
図2を参照して説明すると、強制接触型マイクロミキサーは、マイクロ空間内で対流を強制的に発生させ、流体の接触面積を増加させることにより、分子拡散を促進することによって迅速な混合を行うものである。このうち流体を衝突させるタイプのマイクロミキサーとして最もシンプルなものは、
図2Aに示すT字型のマイクロミキサー及び
図2Bに示すV字型のマイクロミキサーである。いずれの場合も、強制接触型のマイクロミキサーは第一流路及び第二流路と連通しており、各流路から、バッファー(図中、「溶液1」)及び変性タンパク質の可溶化溶液(図中、「溶液2」)が流入する。それぞれの流体が衝突する際、流体の運動エネルギーによって対流が発生することによって混合が促進され、混合溶液が第三流路から排出されるものである。マイクロミキサー内での液体の拡散時間は、流体の運動エネルギーならびに流路幅に比例するため、流速5 mL/min以上かつ内径Y0.1~1.0 mmであると、効率的に高速混合・精密混合が行えるため、このような内径Yのマイクロミキサーがより好ましい。流速11 mL/min以上かつ内径Y0.1~0.5 mmであると、さらに好ましい。流速22 mL/min以上かつ内径Y0.25~0.5 mmであると、特に好ましい。溶液1及び溶液2それぞれが通過する微細流路の長さ(
図2A及び
図2B中、「L
1」、「L
2」で示す)が、10 ~ 20000 μmとするのが好ましく、100 ~ 5000 μmとするのがさらに好ましく、200 ~ 3000 μmであると、充分な混合性能が得られるため好ましい。なお、L
1及びL
2は、互いに同一でも異なっていても良いが、同一であるのが好ましい。マイクロミキサーを構成する材料の材質は、金属製、ガラス性、シリコン製のいずれでもよい。マイクロミキサーは、例えばFraunhofer IMM社やYMC社、三幸精機工業社から市販されているのを利用することができる。
【0051】
マイクロミキサーにおいて、バッファーと変性タンパク質の可溶化溶液が接触すると同時に混合され、リフォールディングされたタンパク質又はその中間体が生成する。ここで用いることのできるバッファーと変性タンパク質の可溶化溶液は上で述べたとおりである。バッファー及び可溶化溶液の各流路をマイクロミキサーに直接接続させて、バッファーと可溶化溶液をマイクロミキサー内で合流させ、混合することができる。
【0052】
如何なる理論にも拘束されるものではないが、本発明者らは、マイクロミキサー内でリフォールディングが完了しなくても、本発明によりマイクロミキサー内で得られた中間体は、正しいリフォールディングに必要な構造を取るため、その後、追加の操作を行わなくても、活性を有する構造を取り戻すことができる(すなわち、
図1で説明すると、IからNに反応が進む)と推測する。
【0053】
本発明の装置は、流通前に各溶液を保存するためのリザーバータンクを備えていてもよい。リザーバータンクは、加温・保温機能を備えていてもよい。
【0054】
第一流路及び第二流路は、両末端が開放されている以外は、閉じられた空間を構成する。第一流路及び第二流路の内径は、例えば2mmであるとよい。流路の材質としては、例えば、SUS等の無機材料や、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の有機材料を用いることができる。第一流路及び第二流路の長さは、例えば、0.1 ~ 5.0 mである。これにより、温度の制御を行うことができる。
【0055】
マイクロミキサーには、マイクロミキサーで合流した両液が流通する第三流路が連結していてもよい。第三流路の内径及び材料は、第一及び第二流路について述べたのと同じである。第三流路の長さは、例えば、0.1 ~ 5.0 mである。これにより、混合した溶液の温度制御ができる。
【0056】
バッファー及び変性タンパク質の可溶化溶液の流通は、第一流路及び第二流路に備えられた送液ポンプにより行うことができる。送液ポンプとしては、シリンジポンプ、プランジャーポンプまたはダイヤフラムポンプ等を使用することができる。送液ポンプの圧力は、各溶液の流速が、上で述べた範囲になるように設定する。
【0057】
マイクロミキサーにおける混合効率を上げるためには、バッファーを、バッファー用のポンプで加圧し、かつ可溶化溶液を、可溶化溶液用のポンプで加圧してから、加圧したバッファーと加圧した可溶化溶液とをマイクロミキサーに供給することが好ましい。マイクロミキサー上流のバッファー供給管及び可溶化溶液供給管のそれぞれには、一方の原料の供給管に他方の原料が流れ込むのを防いだり、混合液の逆流を防いだりするために背圧弁を取り付けてあることが好ましい。背圧弁の位置は、できるだけ合流点に近い位置とすることが好ましい。
【0058】
マイクロミキサー内で、バッファーと可溶化溶液とを混合し、タンパク質のリフォールディングを行うが、短時間で正しいリフォールディングが行えるよう、マイクロミキサーに流入する両溶液の流速及びマイクロミキサーの内径を上で述べたとおりに設定する。
【0059】
マイクロミキサーを出た混合液は、レシーバータンクに送液される。レシーバータンク中のタンパク質はリフォールディングが完了しているため、そのまま使用することもできるし、使用するまでタンクに保存することもできる。
【0060】
マイクロミキサーとレシーバータンクとの間に、滞留管が備えられていてもよい。本発明によれば、マイクロミキサー内の混合により、正しいリフォールディングに必要な中間体が生成しており、この中間体は、その後は放っておけば自動的に、活性をもつタンパク質にリフォールディングされると推定される。したがって、滞留管中で混合液を滞留することは必須ではないが、リフォールディングを確実に完了させてリフォールディング率を上げるには、混合後、ある程度の時間、経過させた方が良い。すなわち、滞留管は、混合液を放置する場所としての役割を果たす。したがって、滞留缶は長時間混合液が通液するように長い流路をもつことができる。その形状としては、たとえばコイル状であってもよい。滞留管はまた、マイクロミキサーから勢いよく排出される混合液を漏れなく受ける役割も果たす。したがって、滞留管に代えてビーカー等のあらゆる容器を使用することもできる。容器中で混合液を静置してもよいし、撹拌してもよい。
【0061】
本発明の装置は、変性タンパク質の可溶化溶液及び/又はバッファーの温度を調整するためのコイルを、第一流路及び/又は第二流路に備えていても良い。温度調節用部材としてはウォーターバスを使用することもできる。ウォーターバスに、マイクロミキサー、それに連結している第一流路及び/又は第二流路、必要により備えられる第三流路や滞留管等の容器を浸漬することにより、温度を調節できる。
【0062】
第一流路及び第二流路の長さは、両溶液が混合する直前で、可溶化溶液の温度が、当該溶液に含まれるタンパク質をリフォールディングするのに好適な温度になるように決定される。
【0063】
本発明の装置は、さらに、プレ温度調整用のコイルや、ウォーターバス等の温度調節エレメントを備えていてもよい。コイルを、第一流路及び第二流路と、マイクロミキサーM1との間に設置することにより、両溶液がマイクロミキサーに到達するまでに、両溶液の温度を所望の温度に調整することができる。コイルを、第一流路及び第二流路いずれか一方のみに設置することもできるが、マイクロミキサー内で混合する時に両溶液の温度が同じである方が混合効率が低下しないため、両方に設置するのが好ましい。ウォーターバスの中にマイクロミキサーが配置されるようにすると、混合前後を通して溶液の温度を調節できる。ウォーターバスには、マイクロミキサーに連結している第一流路、第二流路及び第三流路が含まれていてもよいし、さらに、必要により設置されるプレ温度調整用のコイル及び滞留管が含まれていてもよい。
【0064】
図3及び
図4により、本発明のリフォールディング装置の具体例について、それぞれ説明する。
【0065】
図3では、バッファーを保存するリザーバータンク1のすぐ下流にバッファーを流通させるための第一流路3が備えられ、変性タンパク質の可溶化溶液を保存するリザーバータンク2のすぐ下流に可溶化されたタンパク質を流通させるための第二流路4が備えられ、第一流路3及び第二流路4は、マイクロミキサーM1に直結している。マイクロミキサーM1にはさらに、混合液を流通させるための第三流路を介して混合液を受けるためのレシーバータンク7に接続している。第一流路3及び第二流路4には、それぞれ、バッファー及び可溶化されたタンパク質溶液の送液用ポンプ5,6が備えられており、マイクロミキサーに流入した時のバッファー及び可溶化溶液の流速が上記範囲になるようになっている。
【0066】
図4は、
図3のマイクロリアクター装置にさらに、プレ温度調整用のコイルP1,P2、滞留管R1及びウォーターバス(図中、点線で示す)を加えたものである。コイルP1,P2は、送液用ポンプ5,6とマイクロミキサーM1との間に備えられ、両溶液がマイクロミキサーM1に到達するまでに所望の温度に調整されるようになっている。滞留管R1は、マイクロミキサーM1とレシーバータンク7との間に備えられ、マイクロミキサーM1から流出された混合液をいったん受け止め、中間体が存在している場合、タンパク質を活性を有する折りたたみ状態にして、リフォールディングを完了させることができるようになっている。プレ温度調整用のコイルP1,P2、マイクロミキサーM1、滞留管R1、第一流路、第二流路及び第三流路は、温度調整用のウォーターバス内に設置されており、混合前後を通して両溶液の温度を調節できるようになっている。
【0067】
本発明の装置は、単独で用いることができるが、複数を直列又は並列に連結させることにより、生産量を上げることができる。本発明によれば、同じシステムを増やすのみであることから、スケールギャップを受けることなく、スケールアップが容易となる。
【実施例】
【0068】
FMR装置ならびに操作概要
図3に、FMR装置の概略図を示す。FMR装置は、バッファー及び変性タンパク質の可溶化溶液を保存するリザーバータンク1,2(保温機能付き)、バッファーを流通させるための第一流路3、可溶化されたタンパク質を流通させるための第二流路4、バッファー及び可溶化されたタンパク質の送液用シリンジポンプ5,6、マイクロミキサーM1、混合液を受けるためのレシーバータンク7から構築した。マイクロミキサーM1は、
図2Aに示したT字マイクロミキサー、又は
図2Bに示したV字マイクロミキサーである。第一流路3及び第二流路4の流路は、1.0 mである。なお、必要に応じて
図4に示すようにプレ温度調整用のコイルP1,P2、滞留管R1および温度調整用のウォーターバス(図中、点線で示す)を使用できる構造とした。マイクロミキサーM1内の流路の内径及び形状は、表1のとおりである。なお、流路内径は、混合部の流路幅を指す。
【0069】
【0070】
以下の実施例では、このようにして構築したFMR装置を用い、リフォールディングを行った。具体的には、リザーバータンクに保存したバッファー及び可溶化されたタンパク質を送液用ポンプによって送液し、マイクロミキサー内で混合した。なお、混合温度を変える際はウォーターバスにマイクロミキサーを浸漬させた。なお、特に記載の無い限り、混合温度は25℃とした。
【0071】
〔不溶化したか又は高次構造を失ったタンパク質の可溶化溶液の準備〕
以下のとおり、商業的に入手したタンパク質を、変性剤を用いて変性し、不溶化したか又は高次構造を失ったタンパク質の可溶化溶液を準備した。
・Recombinant human IL-6 (rhIL-6)を、0.1%TFA, 40 %アセトニトリル溶液に溶解させて変性させた(変性rhIL-6濃度 3.5 mg/mL、pH 2.0)。この溶液を、以降、「変性rhIL-6溶液A」と称する。
・Recombinant human IL-6 (rhIL-6)を、8M グアニジン塩酸塩溶液(pH 9.0)に溶解させて変性させた(変性rhIL-6濃度 3.5 mg/mL、pH 9.0)。この溶液を、以降、「変性rhIL-6溶液B」と称する。
・Recombinant human IL-6 (rhIL-6)を、8M 尿素溶液に溶解させて変性させた(変性rhIL-6濃度 3.5 mg/mL、pH 9.0)。この溶液を、以降、「変性rhIL-6溶液C」と称する。
・2mg/mLのリゾチーム溶液に、8Mグアニジン塩酸塩ならびに4M DTT溶液を加えて変性させた(リゾチーム濃度 0.5 mg/mL、pH 9.0)。この溶液を、以降、「変性リゾチーム溶液」と称する。
【0072】
〔実施例1〕rhIL-6のリフォールディング(1)
実施例1において、バッファーの流速及びマイクロミキサーの流路形状が、リフォールディングされたrhIL-6の収率に与える影響を検討した。
上で準備した変性rhIL-6溶液Aを、バッファー(50 mM 酢酸ナトリウム、pH4.3)とFMR装置で混合し、20倍希釈した(rhIL-6濃度 0.175 mg/mL)。得られたサンプルは、目的生成物と副生物を分離可能なゲルろ過クロマトグラフィー(Superdex 75 10/300 GL (GEヘルスケア社))にて成分ピークを定量した。上清20μLを、ゲルろ過HPLC(カラム、Superdex 75 10/300 GL, GEヘルスケア製 ; 展開液 0.1 Mリン酸ナトリウム、0,2 Mアルギニン塩酸塩、1M 尿素、pH 6.8 ; 流速 0.8 mL/min ; 検出法、225 nm および280 nmにおける紫外吸収 ; 定量用標品、精製rhIL-6)に供して、モノマー構造およびダイマー、凝集体構造を形成したrhIL-6を定量した。
なお、バッファー及び変性rhIL-6溶液は、上で構築したFMR装置(
図3、マイクロミキサーはタイプ1又はタイプ3である)に種々の流速で導入した。両溶液の導入開始時は同時とした。各溶液の流速は、表2に示したとおりである。
【0073】
【0074】
結果を
図5に示す。
図5の横軸である「Total Flow Rate」は、バッファーの流速と変性タンパク質の可溶化溶液の流速との合計を示す(
図7,9,10,11,12も同じ)。なお、リフォールディングが正しく行われると、rhIL-6は、モノマーとして得られるため、
図5では、rhIL-6の収率をモノマー収率で表した。
図5から、流速を上げると収率も向上することが分かる。
図5からはまた、ミキサ内の流路の内径を0.5mmから0.2mmに小さくしても、収率が向上することが分かる。FMRによる高速混合により、凝集体の形成を抑制し、収率を向上させることができる。
【0075】
〔実施例2〕rhIL-6のリフォールディング(2)
実施例2において、本発明のFMR装置、バッチ式又はゲル濾過カラムを利用してリフォールディングを行い、リフォールディング率を比較した。
変性タンパク質の可溶化溶液及びバッファーは、実施例1で用いたものと同じものを用いた。
本発明によるリフォールディングは、マイクロミキサーとしてタイプ3を用い、バッファーの流速を38 mL/min、変性タンパク質溶液Aの流速を2.0 mL/minとしたこと以外は、実施例1と同様にして行った。
バッチ式においては、希釈バッファーを満たしたビーカーをマグネチックスターラーにて攪拌した反応器に変性rhIL-6溶液を滴下した。溶液のスケールは10mLとした。
ゲルろ過カラムを利用したバッファー交換は、BIOTECHNOLOGY AND BIOENGINEERING, VOL. 62, NO. 3, FEBRUARY 5, 1999に記載の方法により行った。
【0076】
結果を
図6に示す。
図6Aは、本発明によりリフォールディングされたrhIL-6(Monomer)と、rhIL-6の凝集物(Dimer)のピークを示す。
図6Bは、バッチ式で混合したときの、リフォールディングされたrhIL-6(Monomer)と、rhIL-6のDimerのピークを示す。
図6Cは、ゲルろ過カラムによるバッファー交換で混合したときの、リフォールディングされたrhIL-6(Monomer)と、rhIL-6のDimerのピークを示す。
図6の結果を纏めたのが表3である。
【0077】
【0078】
〔実施例3〕 rhIL-6のリフォールディング(3)
実施例3において、タンパク質がグアニジンにより変性されたときのリフォールディング率を、本発明とバッチ式とで比較した。
変性タンパク質の可溶化溶液として、変性rhIL-6溶液Bを用い、バッファーとして、50 mM 酢酸ナトリウム(pH5.0)を用いたこと以外は、実施例2と同様にして、実験を行った。
表4には、変性rhIL-6溶液Bとバッファーを混合したときの、リフォールディングされたrhIL-6(Monomer)と、rhIL-6の凝集物(Dimer)の収率を示す。表4から、バッチ式で混合したときに比べ、FMRによる高速混合により、凝集体の形成を抑制し、収率を向上させることができることが分かる。
【0079】
【0080】
〔実施例4〕 Lysozymeのリフォールディング
実施例4において、バッファーの流速及びマイクロミキサーの流路形状が、リフォールディングされたリゾチームの収率に与える影響を検討した。
上で調製した変性リゾチーム溶液を、バッファー(6 mM Cys, 0.6 mM Cystine, 20 mM Tris acetate)と混合し、10倍希釈した。バッファー及びLysozyme溶液は、上で構築した、マイクロミキサーがタイプ2(V0.25)、タイプ3(V0.5)又はタイプ4(T1.0)であるFMR装置(
図3)に種々の流速で導入した。各溶液の流速は、表5に示したとおりである。両溶液の導入開始時は同時とした。両液の温度が4℃になるよう、プレ温調コイルP1及びP2で調節した。
比較のため、FMR装置に代えて、バッチ式でも混合した。バッチ式においては、希釈バッファーを満たしたビーカーをマグネチックスターラーにて攪拌した反応器に、変性Lysozyme溶液を滴下した。溶液のスケールは10mLとした。
混合したサンプルを2時間静置し、Lysozyme activity kit(LY0100-kit, sigma)にて酵素活性を測定した。結果を
図7に示す。
【0081】
【0082】
〔実施例5〕
実施例5において、連続送液を安定的に行うための条件を検討した。
(実験方法)
上で調製した変性rhIL-6溶液Bを、20 mM TrisHCl Buffer (pH 9.0)にて希釈し(20倍希釈)、実施例2と同様にして、モノマー/ダイマーの比率を算出した。この際、最初にリアクタ内の溶液を8M塩酸グアニジン溶液で満たした後にバッファーを流す条件と、水で満たした後にバッファーを通液させる条件での比較を行った。なお、バッファー及び変性rhIL-6溶液Bは、上で構築したFMR装置(
図3、マイクロミキサーはタイプ3である)に種々の流速で導入した。両溶液の導入開始時は同時とした。各溶液の流速は、表6に示したとおりである。
【0083】
【0084】
(結果)
表7には各条件における送液前のリアクタ内溶液の条件の比較を示している。リアクタ内を水で置換した条件では少し振れがあるものの、おおむね収率が低くなった。これはマイクロミキサー内部にてリアクタ内の水によって変性剤濃度が希釈されることでリフォールディングが促進される状態になる一方で、リフォールディングに適した溶液状態でないため、凝集体形成が促進されたためと考えられる。一方で、リアクタ内部を変性剤で置換した条件では安定したリフォールディング収率を得ることができた。
【0085】
【0086】
〔実施例6〕
実施例6において、フローマイクロリアクターとスタティックミキサーとの混合時間を比較した。
上で引用した第848号特許では、変性タンパク質溶液とバッファーとの混合時間は、約1msec~約10secとされている。そこでモデルタンパク質を使用し、混合時間を圧力損失にて定量化する手法にて混合時間を推算した。
(計算方法)
Falkらの報告(Chemical Engineering and Processing 50 (2011) 979- 990)において、混合時間はエネルギー散逸率εと相関があることが示されており、混合時間tmは、
tm = 0.15ε-0.45 (I)
で表せることが示されている(ε=QΔP/ρV, Q : 流量, ΔP : 圧力損失, ρ : 密度, V : ミキサー体積)。本手法を用いて混合性能の評価を行った。
【0087】
(条件)
<モデルタンパク質による、リフォールディングされたタンパク質の製造の検討>
送液システム : 連続送液装置(流量、圧力計を装備)
マイクロミキサー : 内径0.5mm、V字形、ミキサー体積V:1.9×10-9 m3)
流量Q : 100mL/min
圧力損失ΔP : 6~7 MPa
密度ρ:1000 kg/m3
上記のデータを式(I)に代入して混合時間tmを算出した。
<第848号特許>
第848号特許の実施例の記載に即して、3方コネクタ, スタティックミキサー, シリコンチューブ(内径5mm×80cm)を用いた。なお、当該特許には3方コネクタの内径が明記されていなかったため、シリコンチューブの内径から推察し、1/4インチ(内径6.35mm)のコネクタが使用されていると想定した。実施例に基づいて圧力損失について測定を行ったところ20kPa(=0.02 MPa)程度であった。
【0088】
(結果)
図8に、圧力損失ΔPに対する混合時間のプロットを示した。モデルタンパク質による、タンパク質のリフォールディングにおいて実施した条件(6~7MPa)では、混合時間は0.05msec(=50μsec)程度となると推察された。また1msecとなる圧力損失は、8 kPa(=0.008 MPa)となることが分かった。このことから、FMR製造で使用した条件は第848号特許に開示の範囲外となると考えられる。一方で、第848号特許に基づいたプロットでは、FMRに比べて混合性能は大きく低下することが分かった。当該8kPaの圧力損失での混合時間は22.68msecと混合性能は大幅に低いことが推察される結果となった。1msec以下の混合性能を得るためには15MPa程度の圧力を与えることが必要となる。
【0089】
〔実施例7〕
実施例7において、フローマイクロリアクターとスタティックミキサーとの混合性能を比較した。
第848号特許では、スタティックミキサーを用いて混合している。そこで、混合性能評価の手法の1つであるdushman反応(中和反応と還元反応の競争反応を使用。Ehrfeld, W. et al.; Ind. Eng. Chem. Res. 38 1075-1082 (1999))により、フローマイクロリアクターとスタティックミキサーとの混合性能を評価した。
【0090】
(反応原理)
ホウ酸の中和とヨウ素の還元反応の反応速度差を利用する。混合速度が速い場合、反応(1)が進行するため呈色しない。一方、混合速度が遅い場合、反応(2)が進行I
3-が生成するため溶液は黄色となる。
【0091】
(手法)
表8に示す組成のSolution1, 2を調製し、2液を1:1で、FMR又はスタティックミキサーで混合後、吸光度計にて352nmの吸光度を測定した。なお、FMR装置は
図2(マイクロミキサーは、表1のタイプ3である)に記載のタイプを用いた。
【0092】
【0093】
(結果)
図9に、流速に対する352nmの吸光度の比較を示す。FMRでは10mL/min以上の条件では吸光度がほぼ0となったのに対し、第848号特許の実施例の記載から想定される条件では吸光度は低下するものの、今回用いた送液装置の最大条件である200mL/minでも0.9程度となった。
【0094】
〔実施例8〕
実施例8では、rhIL-6を用いたフローマイクロリアクターとスタティックミキサーとのモノマー収率を比較した。
第848号特許では、スタティックミキサーを利用した連続プロセス(以下、「CFR」と称する)により、タンパク質のリフォールディングを行っている。そこで、IL-6のリフォールディングモデルを利用し、FMRとCFRのモノマー収率を比較した。
(実験方法)
上で調製した変性IL-6溶液Aを、バッファー(50 mM酢酸ナトリウム、pH 5.0)と混合した(希釈倍率20倍)。混合方法はFMR, CFRまたはBatchにて実施した。混合条件を表9に示す。
混合後、サンプルを1時間又は24時間静置し、その後、ゲルろ過クロマトグラフィーにかけ、モノマー/ダイマーの比率を算出した。モノマーおよびダイマーを形成したrhIL-6の定量は、実施例1と同様にして行った。なお、この系では、凝集物や、3量体、4量体は生成せず、リフォールディングが失敗した場合には2量体となるものが殆どなので、リフォールディングされたタンパク質の収率を、モノマー/ダイマーの比率により評価した。
【0095】
【0096】
(結果)
結果を表10及び
図10に示す。表10にゲルろ過クロマトグラフィーの分析結果を、
図10に流速に対するモノマー比率の比較を示す。Batchではモノマー比率は48%~68%と振れが大きい結果となっている。これに対しFMRでは2.5, 5.0 mL/min条件ではBatch条件よりも同等以下の結果となった。これはDushman反応での結果を再現している。一方で、10mL/min以上の条件ではBatchの結果を上回る結果となった。これに対してCFRによる条件では流速を高めたとしてもモノマー比率80%以下となるなどFMRを上回ることはなかった。以上の結果から、FMRはCFRの混合速度を上回る手法であることが確認された。
【0097】
【0098】
〔実施例9〕ActivinAリフォールディング
(菌株・培養)
E.coli BL21株に市販のpETベクターにアクチビンAをコードする合成遺伝子を挿入された菌株を構築した。菌株をLB培地にて種培養を行った後に、Select Soytone培地にて培養を行った。培養液を回収後、遠心分離を行い、菌体を回収した。
【0099】
(不溶性顆粒の調製)
回収した菌体は超音波破砕機によって冷却しながら破砕したのち、再び遠心分離操作を行い、沈殿画分を回収した。必要に応じてBufferによる洗浄を行った。
【0100】
(リフォールディング原料調製)
不溶性顆粒を変性剤および還元剤にて懸濁した。変性剤は8M Ureaおよび還元剤は100mM DTTとなるように添加した。静置後、遠心分離操作を行い、上清を回収したのち、セファデックスG-25カラムによってDTTの除去を行った。
【0101】
(FMRリフォールディング)
上記で調製した変性アクチビンA溶液と、バッファー(0.75% タウロデオキシコール酸, 0.75M Urea, 10mM EDTA, 20mM Tris HCl, 1.5 mM システイン, 0.1 mM シスチン)を、FMR装置で混合し、アクチビンAリフォールディング溶液を調製した。タイプ5(V型、内径1.0 mm)のマイクロミキサーを使用し、Total Flow Rateは50mL/min, 200mL/minにてリフォールディングを行った。
【0102】
(Batchリフォールディング)
上記で調製した変性アクチビンA溶液とバッファーを容器内で混合し、アクチビンAリフォールディング溶液を調製した。反応スケール1L, 5Lにてリフォールディングを実施した。
【0103】
(アクチビンAの定量)
FMR又はBatchにてリフォールディングしたサンプルを濃縮したのちにBuffer交換を行った。その後、逆相HPLC Vydac214 TP54(展開溶媒 : A液 0.1%-TFA, B液 0.1%-TFA, 80%アセトニトリル溶液, 検出法280nmにおける紫外吸収 ; 定量用標品、精製アクチビンA)にてアクチビンAを定量した。
【0104】
(結果)
各スケールにおけるアクチビンA収率の比較を表11に示す。Batchでのリフォールディングではスケールアップに伴って収率が低下する傾向が確認されたのに対し、FMRを利用してリフォールディングを行った場合は収率が維持できる傾向が確認できた。このことからスケールアップ時のFMRによるリフォールディングの優位性が確認できた。
【0105】
【0106】
〔実施例10〕T3GF-βリフォールディング
E.coli BL21株に市販のpETベクターにTGF-β3をコードする合成遺伝子を挿入された菌株を構築した。菌株をLB培地にて培養を行った後に、培養液を回収後、遠心分離を行い、菌体を回収した。
【0107】
(不溶性顆粒の調製)
回収した菌体は超音波破砕機によって冷却しながら破砕したのち、再び遠心分離操作を行い、沈殿画分を回収した。必要に応じてBufferによる洗浄を行った。
【0108】
(リフォールディング原料調製)
不溶性顆粒を変性剤にて懸濁した。変性剤は7.8M Urea溶液となるように添加した。
【0109】
(FMRリフォールディング)
上記で調製した変性TGF-β3溶液とバッファー(4% CHAPS, 1.0M ArgHCL, 0.5M Urea, 1mM EDTA, 3mM Cys)をFMR装置で混合し、TGF-β3リフォールディング溶液を調製した。タイプ5(V型、内径1.0 mm)のマイクロミキサーを使用し、Total Flow Rate7.5 mL/min, 22.5 mL/minにてリフォールディングを行った。
【0110】
(Batchリフォールディング)
上記で調製した変性TGF-β3溶液とバッファーを容器内でそれぞれ混合し、T3GF-βリフォールディング溶液を調製した。反応スケールは10mLスケールにてリフォールディングを実施した。
【0111】
(TGF-β3の定量)
リフォールディングサンプルは、バッファー2度置換操作を実施した(1st dilution : 20 mM TrisHCl、0.5 M Urea、1 M NaCl、1 mM EDTA (pH 7.5), 2nd dilution : 20 mM TrisHCl、0.5 M Urea、1 M NaCl、1 mM EDTA, (pH 7.5) ).
得られたサンプルは、ゲルろ過HPLC(カラム、Superdex 75 10/300 GL, GEヘルスケア製 ; 展開液 0.1 Mリン酸ナトリウム、0,2 Mアルギニン塩酸塩、1M 尿素、pH 6.8 ; 流速 0.8 mL/min ; 検出法、225 nm および280 nmにおける紫外吸収 ; 定量用標品、精製TGF-β3)に供して、ダイマー構造を形成したTGF-β3を定量した。
【0112】
(結果)
各条件におけるTGF-β3収率の比較を表12に示す。Batchでのリフォールディングでは1.8 %程度の収率だったのに対し、FMRリフォールディングでは10.0%, 12.1%とFMRを利用することで収率が向上することが確認できた。このことからFMRによるリフォールディングの優位性が確認できた。
【0113】
【0114】
〔実施例11〕IGF-1リフォールディング
IGF-1はリフォールディングの際に分子内のS-S結合にいくつかの状態が生じることが知られている。特にIGF-1 swap体として生成される分子内SS結合の掛け違い体(Ia)はnative体(Ib)に戻ることはなく、不可逆な副生物として知られている(Jamse, A. M., (1993) Biochemistry 32, 5203-5213)。他方、native体(Ib)の前駆体(Ic)は、時間経過により必ずnative体(Ib)になる。FMRの高速混合系を利用して上記の掛け違い体の形成が抑制できるかを検証することとした。
【0115】
(変性サンプルの準備)
IGF-1を30 mM TrisHCl, 100 mM GSH, 8M Urea, pH 12溶液にて変性IGF-1溶液サンプルを調製した。
【0116】
(FMRリフォールディング)
上記で調製した変性IGF-1溶液とバッファー(50 mM Tris, 0.56 M Arg, 10 mM GSSG, pH 5)をFMR装置で混合し、IGF-1リフォールディング溶液を調製した。タイプ5(V型、内径1.0 mm)のマイクロミキサーを使用し、Total Flow Rate15, 20 mL/minにてリフォールディングを行った。
【0117】
(Batchリフォールディング)
上記で調製した変性IGF-1溶液とバッファー(50 mM Tris, 0.56 M Arg, 2.2 mM GSH, 2.2 mM GSSG, pH 5)を容器にて混合し、IGF-1リフォールディング溶液を調製した。容器スケール1mLチューブにてリフォールディングを行った。
【0118】
(IGF-1の定量)
得られたサンプルは3時間静置後、逆相HPLC(C8カラム, YMC製 ; 展開溶媒 : A液 0.1%-TFA, B液 0.1%-TFA, 80%アセトニトリル溶液, 検出法280nmにおける紫外吸収 ; 定量用標品、精製IGF-1)に供して、IGF-1のミスフォールド構造ならびにモノマー構造を形成したIGF-1を定量した。
【0119】
(結果)
各条件におけるIGF-1生成物の比較を、ミスフォールド構造(Ia)とモノマー構造(Ib、Ic)との比率で示した。Batchではミスフォールド構造(Ia)は25%となったのに対して、FMRリフォールディング条件ではそれぞれ17%, 18%となり、Batchに比べミスフォールド構造%が低下することが確認された。既述のとおり、前駆体Icは、時間経過により、必ず目的生成物Ibになる。したがって、IbとIcとの合計が、最終的に得られる(得ることが出来る)生成物と捉えることができる。IbとIcとの合計を、不純物であるIaと比較したグラフが
図11である。このことからFMRリフォールディングがIGF-1のリフォールディングに対して有効であることが示された。
【0120】
【0121】
【0122】
〔実施例12〕Ranibizumabリフォールディング
(変性サンプルの準備)
Ranibizumab(抗体のFAB断片)溶液に5mM DTTとなるように添加して37℃で60min静置させた。続いてにて6.0 M GdnHCl, 7.5 mM EDTA, 75 mM Tris, 1.25 mM DTTとなるように変性溶液を混合させ、37℃で15min静置させたのちに5℃で終夜静置させた。
【0123】
(FMRリフォールディング)
上記で調製した変性Ranibizumab溶液とバッファー(0.5M ArgHCl, GSH 0.22 mM, GSSG 0.22 mM)をFMR装置で混合し、Ranibizumabリフォールディング溶液を調製した。タイプ5(V型、内径1.0 mm)のマイクロミキサーを使用し、Total Flow Rateは10 mL/minにてリフォールディングを行った。
【0124】
(Batchリフォールディング)
上記で調製した変性Ranibizumab溶液とバッファー(0.5M ArgHCl, GSH 0.22 mM, GSSG 0.22 mM)を試験管にて混合し、Ranibizumabリフォールディング溶液を調製した。容量1mL, 10mLにてリフォールディングを行った。
【0125】
(Ranibizumabの定量)
限外ろ過フィルターにて濃縮したのち、得られたサンプルはゲルろ過HPLC(カラム、Superdex 75 10/300 GL, GEヘルスケア製 ; 展開液 0.1 Mリン酸ナトリウム、0,2 Mアルギニン塩酸塩、1M 尿素、pH 6.8 ; 流速 0.8 mL/min ; 検出法、225 nm および280 nmにおける紫外吸収 ; 定量用標品、精製Ranibizumab)に供して、Ranibizumabを定量した。
【0126】
(結果)
各条件におけるRanibizumab収率の比較を
図12に示す。BatchでのリフォールディングではRanibizumab以外にミスフォールド体が多く検出される結果となり、収率0.41, 0.69 %となった。これに対して、FMRリフォールディング条件では、収率は5.25 %と向上する結果となった。このことから、FMRリフォールディングがRanibizumabのリフォールディングに対して有効であることが示された。
【0127】
〔実施例13〕流量UP条件の検討
(FMRリフォールディング)
上記で調製した変性rhIL-6溶液Aとバッファー(50mM AcONa, pH 5.0)をFMR装置で混合し、rhIL-6リフォールディング溶液を調製した。タイプ5(V型、内径1.0 mm)のマイクロミキサーを用い、Total Flow Rateは10, 50, 100, 300mL/minにてリフォールディングを行った。
【0128】
(rhIL-6の定量)
得られたサンプルはゲルろ過HPLC(カラム、Superdex 75 10/300 GL, GEヘルスケア製 ; 展開液 0.1 Mリン酸ナトリウム、0,2 Mアルギニン塩酸塩、1M 尿素、pH 6.8 ; 流速 0.8 mL/min ; 検出法、225 nm および280 nmにおける紫外吸収 ; 定量用標品、精製rhIL-6)に供して、rhIL-6を定量した。
【0129】
(結果)
Total Flow Rateが10, 50, 100, 300mL/min, マイクロミキサーの内径が1.0 mmの条件においても、FMRによる高速混合により、凝集体の形成を抑制し、収率を向上させることができることがわかった。
【0130】
【0131】
〔実施例14〕混合時間の推算
実施例6に基づく方法によって、各マイクロミキサーの混合時間の算出を行った。
シリンジならびにシリンジポンプ、圧力センサ、マイクロミキサ(V字型内径1.0mm)からなる混合性能評価システムを構築した(
図3に準拠)。構築したシステムにて5~80mL/minとなるように水を送液し、その際に発生する圧力損失を測定した。各流量における圧力損失ならびに混合時間の推算値を算出した。結果を表16に示す。本結果からは15ml/min以上で混合時間が1msec以下となることが推算される結果となった。
【0132】
【0133】
さらに高流量領域での圧力損失を測定するためにプランジャーポンプ、圧力センサ、マイクロミキサーからなる混合性能評価システムを構築し、構築したシステムによって100~600mL/minの領域にて水を送液した際の圧力損失を測定し、そこから混合時間の推算を行った。ミキサーはV字型、T字型を用いて、内径は1.0mm, 0.5mm, 0.25mmのものを利用した。圧力損失ならびに混合時間の比較を以下の表17及び表18に示す。流速依存的に圧力損失は増大するとともに、推算される混合時間は低下する傾向を示した。また内径についても小内径のものほど混合時間が向上する傾向が確認された。
【0134】
【0135】