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特許7562085熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料、熱膨張性シート及び窓枠又はドア枠
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  • 特許-熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料、熱膨張性シート及び窓枠又はドア枠 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-27
(45)【発行日】2024-10-07
(54)【発明の名称】熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料、熱膨張性シート及び窓枠又はドア枠
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/06 20060101AFI20240930BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20240930BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20240930BHJP
   C08K 3/08 20060101ALI20240930BHJP
   C08K 5/3492 20060101ALI20240930BHJP
   E04B 1/94 20060101ALI20240930BHJP
【FI】
C08L27/06
C08J5/18 CEV
C08K3/04
C08K3/08
C08K5/3492
E04B1/94 T
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021174494
(22)【出願日】2021-10-26
(62)【分割の表示】P 2017132532の分割
【原出願日】2016-12-28
(65)【公開番号】P2022028679
(43)【公開日】2022-02-16
【審査請求日】2021-11-02
【審判番号】
【審判請求日】2022-09-13
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000139182
【氏名又は名称】株式会社レグルス
(73)【特許権者】
【識別番号】512199070
【氏名又は名称】都化工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【弁理士】
【氏名又は名称】竹山 圭太
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(72)【発明者】
【氏名】鳥居 秀康
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 恭彦
【合議体】
【審判長】近野 光知
【審判官】細井 龍史
【審判官】藤井 勲
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/182059(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K3/00-13/08
C08L1/00-101/14
C08J5/18
E04B1/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ビニル系樹脂に、該樹脂用の可塑剤と、膨張開始温度が180~240℃である熱膨張性黒鉛を前記塩化ビニル系樹脂100質量部に対して50~150質量部と、
金属亜鉛、酸化亜鉛、炭酸亜鉛、塩化亜鉛及び塩化鉄からなる群から選ばれる少なくとも何れかの成分を、平均重合度が400~3000の塩化ビニル系樹脂52質量部と、該樹脂用の可塑剤であるフタル酸ジオクチルを42.8質量部に、更に平均重合度が400~3000の塩化ビニル系樹脂100質量部に対して所望となる量の前記成分を添加した試料を、180℃で15分、次いで190℃で15分加熱した後における、前記試料の重量減が25質量%以上となる範囲内の量で含んでなる、ポリリン酸アンモニウムを使用しない熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料に、
さらに、ポリリン酸メラミン、ポリリン酸メラミン・メラム・メレム及びメラミンシアヌレートからなる群から選択される少なくとも何れかを、前記塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、50~150質量部の範囲内で含有させてなることを特徴とする熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料。
【請求項2】
塩化ビニル系樹脂に、該樹脂用の可塑剤と、膨張開始温度が180~240℃である熱膨張性黒鉛を前記塩化ビニル系樹脂100質量部に対して50~150質量部と、
金属亜鉛、酸化亜鉛、炭酸亜鉛、塩化亜鉛及び塩化鉄からなる群から選ばれる少なくとも何れかの成分を、平均重合度が400~3000の塩化ビニル系樹脂52質量部と、該樹脂用の可塑剤であるフタル酸ジオクチルを42.8質量部に、更に平均重合度が400~3000の塩化ビニル系樹脂100質量部に対して所望となる量の前記成分を添加した試料を、180℃で15分、次いで190℃で15分加熱した後における、前記試料の重量減が25質量%以上となる範囲内の量で含み、
さらに、ポリリン酸メラミン、ポリリン酸メラミン・メラム・メレム、メラミンシアヌレート、硫酸メラミン及びメラミンからなる群から選択される少なくとも何れかのアミノ基を有する化合物を、前記塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、50~150質量部の範囲内で含んでなる、ポリリン酸アンモニウムを使用しない熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料であって、
該樹脂材料によって形成した厚みが1.5~1.6mmで面積20×20mmの試料を800℃で加熱して得られる膨張体の粘結力が1.0kgf以上であることを特徴とする熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料。
【請求項3】
その形状が、シート状又はペースト状又は塗料状である請求項1又は2に記載の熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料をシート状に形成してなることを特徴とする熱膨張性シート。
【請求項5】
窓枠又はドア枠に設置するための請求項4に記載の熱膨張性シート。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の熱膨張性シートを設置してなることを特徴とする窓枠又はドア枠。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料及び熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料の製造方法に関する。特に、低温域における火炎及び煙の遮断機能を効果的に発揮し得、加熱されて膨張した膨張体が形状保持性及び機械的強度に優れ、好ましい形態によれば、熱膨張性シート等の製品を耐水性に優れたものにできる熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料及び熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料の製造方法に関する。本発明は、熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料の形態を、熱膨張性シート、パテ又は塗料にした製品が、例えば、戸外の環境にさらされたときに、雨水等による成分の溶出を抑制した機能性に優れたものにすることもできる熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料を提供する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
建築材料の分野においては、耐火性能が重要視され、耐火性能を有する種々の材料が開発されている。膨張性黒鉛は、加熱により体積が急激に膨張する性質があり、この特性を利用して膨張性黒鉛を樹脂に含有させた、シート状(以下、熱膨張性シートとも呼ぶ)や、不定形物(パテ、塗料、被覆物)を製造して空間内に納め、火災時に熱で膨張を生起して火の回りを遅くする延焼防止材として用いられている。この際に膨張性黒鉛と併用される樹脂成分は、耐火性能として、樹脂材料自体の高い不燃性・難燃性の実現だけでなく、火災時に効果的な断熱層を形成し、これによって火炎及び煙の遮断機能を発揮できるものであることが要求される。
【0003】
このような機能を有する樹脂成分としては、ポリ塩化ビニル系樹脂があり、例えば、特許文献1には、ポリ塩化ビニル系樹脂の有する難燃性と成形性を利用した熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料が提案されている。この樹脂材料によれば、膨張性および膨張後の形状保持性を良好に維持しつつ、押出成形等で連続製造が容易であるとされており、成形体を膨張させて得られる構造体は、従来と同等の耐火性を有し、火災と煙を遮断するのに必要な機械的強度を有するものであるとされている。
【0004】
上記した熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料に限らず、難燃性を向上させるため、熱膨張性樹脂材料では難燃剤を使用することが行われており、特に、火災時に熱で膨張を生起して火の回りを遅くする延焼防止材として用いる分野では、ポリリン酸系難燃剤が、その難燃効果とコストの面で多用されている。
【0005】
本発明者らは、既に、特に低温域における火炎及び煙の遮断機能を効果的に発揮し得、膨張後における膨張体が形状保持性及び機械的強度に優れるものになる熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料を提案している。この技術の特徴は、新たに、膨張性黒鉛の膨張開始温度における塩化ビニル系樹脂の脱塩酸を促進する機能を有する脱塩酸触媒を見出したことにあり、その結果、この技術によって、従来の熱膨張性樹脂材料では実現できていなかった、800℃で加熱して得られる膨張体の粘結力が0.8kgfと高い、形状保持性及び機械的強度に優れる製品の提供を可能にしている。そして、この提案でも、難燃剤として、従来技術で多用されているポリリン酸系難燃剤を用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第4250153号公報
【文献】特許第5992589号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、既に提案している上記した従来技術について更なる検討を進めていく過程で、上記した技術で提供した熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料は、800℃に加熱して得られる膨張体の粘結力が0.8kgfと高い、形状保持性及び機械的強度に優れた耐火性能に優れる製品を実現できるものの、該樹脂材料は、耐水性の面で検討すべき課題があり、耐水性を改善する必要があるとの認識をもった。すなわち、例えば、上記した従来技術によって提供される、シート状等の熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料を、戸外に面した雨水等にさらされる窓枠や戸口ドア等の戸内と戸外の境における延燃防止材として適用した場合に、耐水性が劣り、雨水等によって熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料の成分が溶出し、このことが原因して、溶出物の析出によって外観上の不具合を発生することがわかった。外観上の不具合の程度によっては、このことに起因して、延焼防止材として用いられている熱膨張性シート等の製品が火災の際に加熱して膨張して得られる膨張体の性能が低下し、膨張体が本来有する高い性能が効果的に発揮されない事態が生じることが懸念される。従って、熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料からなる製品における耐水性の向上は極めて重要な問題である。また、同時に、加熱して得られる膨張体の粘結力をより向上させた、より形状保持性及び機械的強度に優れた耐火性能を向上させた、より高品質の製品を安定して提供できる技術開発が望まれており、そのためには更なる改良が必要であるとの認識をもった。
【0008】
したがって、本発明の目的は、低温域においても火炎及び煙の遮断機能を効果的に発揮し得、800℃に加熱した膨張後における膨張体が、より高い粘結力を示す、形状保持性及び機械的強度に優れた高品質のものになり、しかも、その製品が、戸外に面して使用され、雨水等にさらされたとしても耐水性に優れたものにできる、製品として多様な環境下での適用が可能な、火炎及び煙の遮断機能がより優れた、より高品質の熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料及びこれを用いた熱膨張性シート等の製品を安定して提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的は、以下の本発明によって達成される。即ち、本発明は、塩化ビニル系樹脂に、該樹脂用の可塑剤と、膨張開始温度が180~240℃である熱膨張性黒鉛と、前記塩化ビニル系樹脂の脱塩酸触媒と、脱塩酸抑制化合物とを含む熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料であって、前記塩化ビニル系樹脂100質量部に、前記熱膨張性黒鉛を50~150質量部の範囲で含み、前記脱塩酸触媒は、平均重合度が400~3000の塩化ビニル系樹脂を52質量部、該樹脂用の可塑剤であるフタル酸ジオクチルを42.8質量部に、脱塩酸触媒を5.2質量部添加してなる配合の試料Aを、180℃で15分、次いで190℃で15分加熱した際に、前記試料Aの重量減が25質量%以上となる物質であり、且つ、前記脱塩酸触媒の前記塩化ビニル系樹脂100質量部に対しての添加量が、平均重合度が400~3000の塩化ビニル系樹脂を52質量部と、該樹脂用の可塑剤であるフタル酸ジオクチル42.8質量部に、更に前記平均重合度が400~3000の塩化ビニル系樹脂100質量部に対して所望となる量の脱塩酸触媒を添加した試料Bについて、180℃で15分、次いで190℃で15分加熱後に、前記試料Bの重量減が25質量%以上となる範囲内であり、前記脱塩酸抑制化合物が、加熱された初期の160~240℃の温度で、前記脱塩酸触媒の触媒機能を抑制する機能をもつ、アミノ基及び/又はアンモニウム基を有する化合物であり、800℃で加熱して得られる膨張体の粘結力が0.8kgf以上であることを特徴とする熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料を提供する。
【0010】
本発明の熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料の好ましい形態としては、下記のものが挙げられる。前記脱塩酸抑制化合物が、ポリリン酸メラミン、ポリリン酸メラミン・メラム・メレム、リン酸メラミン、メラミンポリリン酸金属塩、リン酸ピペラジン、エチレンジアミンリン酸塩、硫酸メラミン、メラミン、メラム、メレム、メラミンシアヌレート、ベンゾグアナミン、シランコートポリリン酸アンモニウム、メラミンコートポリリン酸アンモニウム、尿素及び塩化アンモニウムからなる群から選択される少なくとも何れかであること;脱塩酸抑制化合物が、ポリリン酸メラミン、ポリリン酸メラミン・メラム・メレム、メラミンシアヌレート、硫酸メラミン、メラミン、ベンゾグアナミン及びシランコートポリリン酸アンモニウムからなる群から選択される少なくとも何れかであること;前記脱塩酸抑制化合物の使用量が、前記塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、50~150質量部の範囲内であること;前記脱塩酸触媒が、金属亜鉛、酸化亜鉛、炭酸亜鉛、塩化亜鉛、銅、酸化銅及び塩化鉄からなる群から選ばれる少なくとも何れかであること;95℃の熱水中に24時間浸漬した際の溶出量が、質量基準で2.5%以下であること;樹脂材料によって形成した厚みが1.5~1.6mmで面積20×20mmの層に、密度が300g/mのポリエステル不織布に貼り合わせて積層した試験片を、800℃で加熱して得られる膨張体の粘結力が1.0kgf以上であること;その形状が、シート状であり、且つ、厚みが0.5mm~2.0mmであること;その形状が、ペースト状又は塗料状であること;窓枠又はドア枠に設置するためのものであることが挙げられる。
【0011】
本発明は、別の実施形態として、熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料の製造方法であって、前記塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、膨張開始温度が180~240℃である熱膨張性黒鉛を50~150質量部の範囲で用い、更に、前記膨張開始温度における、前記塩化ビニル系樹脂の脱塩酸を促進するための脱塩酸触媒と、脱塩酸を抑制するための脱塩酸抑制化合物と、前記塩化ビニル系樹脂の可塑剤とを用いて、これらを含有してなる熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料を製造する際に、前記脱塩酸触媒を、平均重合度が400~3000の塩化ビニル系樹脂を52質量部、該樹脂用の可塑剤であるフタル酸ジオクチルを42.8質量部に、脱塩酸触媒を5.2質量部添加してなる配合の試料Aを、180℃で15分、次いで190℃で15分加熱した際に、前記試料Aの重量減が25質量%以上となる物質から選択し、且つ、前記脱塩酸触媒の前記塩化ビニル系樹脂100質量部に対しての添加量を、平均重合度が400~3000の塩化ビニル系樹脂を52質量部と、該樹脂用の可塑剤であるフタル酸ジオクチル42.8質量部に、更に前記平均重合度が400~3000の塩化ビニル系樹脂100質量部に対して所望となる量の脱塩酸触媒を添加した試料Bについて、180℃で15分、次いで190℃で15分加熱後に、前記試料Bの重量減が25質量%以上となる範囲内になるように決定し、更に、前記脱塩酸抑制化合物として、加熱された初期の160~240℃の温度で、前記脱塩酸触媒の触媒機能を抑制する機能をもつ、アミノ基及び/又はアンモニウム基を有する化合物を用いることを特徴とする熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料の製造方法を提供する。
【0012】
本発明の熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料の製造方法の好ましい形態としては、前記アミノ基及び/又はアンモニウム基を有する化合物が、ポリリン酸メラミン、ポリリン酸メラミン・メラム・メレム、リン酸メラミン、メラミンポリリン酸金属塩、リン酸ピペラジン、エチレンジアミンリン酸塩、硫酸メラミン、メラミン、メラム、メレム、メラミンシアヌレート、ベンゾグアナミン、シランコートポリリン酸アンモニウム、メラミンコートポリリン酸アンモニウム、尿素及び塩化アンモニウムからなる群から選択される少なくとも何れかであることが挙げられる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、800℃で加熱されて膨張して得られる膨張体(以下、「加熱膨張体」とも呼ぶ)が、より高い粘結力を示す、より形状保持性及び機械的強度に優れた、低温域から火炎及び煙の遮断機能をより効果的に発揮し得る熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料が提供される。しかも、本発明の好適な形態によれば、形成した熱膨張性シート等の製品を、例えば、戸外に面して使用し、雨水等にさらされたとしても耐水性に優れ、製品が多様な環境下で使用された場合のいずれにおいても、火炎及び煙の遮断性能により優れたものになる、熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料が提供される。本発明によって提供される、上記優れた熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料は、シート状に限らず、例えば、ペースト状にすることで、解放空間に充填して使用できるパテや、塗料状として、金属製或いは木製の柱や壁に適用したり、或いは、電線等に塗工することで、膨張後に、より高い粘結力を示す、形状保持性及び機械的強度により優れる有用な加熱膨張体になる、熱膨張性の被覆物等を形成することができる、有用な各種製品の提供が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施例の熱膨張性シートと比較例の熱膨張性シートを、160℃に加熱した場合の、加熱時間と減量との関係を示した図である。
図2】本発明の実施例の熱膨張性シートと比較例の熱膨張性シートを、190℃に加熱した場合の、加熱時間と減量との関係を示した図である。
図3】本発明の実施例の熱膨張性シートと比較例の熱膨張性シートを、220℃に加熱した場合の、加熱時間と減量との関係を示した図である。
図4】本発明の実施例の熱膨張性シートと比較例の熱膨張性シートを、240℃に加熱した場合の、加熱時間と減量との関係を示した図である。
図5】200℃~800℃に加熱した場合の発泡倍率を示す試験結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好ましい実施形態を挙げて本発明を詳細に説明する。本発明者らは、既に提案している、塩化ビニル系樹脂をベースとし、これに、該樹脂用の可塑剤と、熱膨張性黒鉛と、難燃剤としてポリリン酸アンモニウムを配合してなる熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料について更なる検討を進める過程で、該樹脂材料からなる製品を、窓枠等に適用して実際の使用環境を種々に想定した使用についての検討をした結果、下記の解決すべき課題を見出した。すなわち、従来の樹脂材料で形成した熱膨張性シートは、戸外環境下での雨水等で、シートや被覆物等が痩せてしまい、場合によっては、延焼防止機能に支障をきたすことがあり、より高品質の製品を安定して供給する点では、更なる検討が必要であることを見出した。延焼防止材として用いる製品の耐水性の問題は、重要であり、より高品位の製品を安定して提供するためには、この点を改良することが急務であるとの認識をもった。
【0016】
本発明者らは、まず、従来の熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料において、該樹脂材料からなる製品(以下、単に「製品」と呼ぶ)の耐水性が劣ることについて鋭意検討した結果、製品の耐水性が劣る原因となる成分が、樹脂材料中に難燃剤として使用しているポリリン酸アンモニウムであることを見出した。ポリリン酸アンモニウムは、水に溶かしても加水分解せず、分子状態で存在し、安定性が非常に高い化合物であり、難燃剤として広範に使用されている。また、難燃剤として使用される場合、ポリリン酸アンモニウムの重合度が高いほど難燃効果が高い。市販品の重合度は100~500、場合によっては、1000を超える重合度のものもある。一方、重合度が高いほど溶解度が低くなり、重合度が20を超えると溶解度がぐっと下がるといわれており、難燃剤としての添加の場合は、通常、耐水性の問題はないと考えられる。
【0017】
しかし、本発明者らが、より高い粘結力を示す加熱膨張体となる樹脂材料の構成について検討していく過程で、これまでに提案した熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料を製品とした場合に耐水性の面で劣る場合があり、その原因が難燃剤として使用したポリリン酸アンモニウムにあることを見出し、安定して高品質の製品を提供するためには、この点について検討すべきであることがわかった。
【0018】
具体的には、本発明者らは、塩化ビニル系樹脂をベースに、該樹脂用の可塑剤と、熱膨張性黒鉛と、脱塩酸触媒と、難燃剤としてポリリン酸アンモニウムとを配合してなる熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料からなる製品を、窓枠等に適用して、実際の使用環境を様々に想定して検討した。その結果、雨水等にさらされる過酷な環境に置いた場合に、シートや被覆物等の外観が変化する場合があり、その場合は延焼防止機能に支障をきたすおそれがあり、多様な環境下のいずれにおいても、高品質の製品を安定して供給することを可能にするためは、熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料について更なる検討が必要であることがわかった。すなわち、本発明は、その加熱膨張体が、より高い粘結力を示す形状保持性及び機械的強度に優れたものになることに加え、その製品を、過酷な環境における耐水性にも対応したものにすることもできる、環境適用性にも配慮した熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料を開発することの重要性に配慮し、なされたものである。
【0019】
本発明者らは、まず、従来の熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料において、その製品の耐水性が劣る場合があることについて鋭意検討を行い、その結果、耐水性が劣る現象の発生が、樹脂材料中の難燃剤の種類と関係していることを見出し、製品の品質向上のためには、使用する難燃剤についても詳細に検討する必要があるとの認識をもった。そして、難燃剤として使用されている種々の成分について検討していく過程で、難燃剤としての機能を有する成分の中でも、その構造中に、アミノ基を有するアミノ基含有化合物及び/又はアンモニウム基を有するアンモニウム基含有化合物を、本発明者らが、先に開示した技術で提案した脱塩酸触媒と組み合わせて用いた場合、その製品を、加熱膨張体が、従来達成していたよりもより高い粘結力を示すものにでき、しかも、適用できる上記化合物の範囲は広く、耐水性を考慮して化合物を選択すれば、耐水性に優れた製品の提供が可能になることを見出した。本発明者らは、上記の効果が得られた理由を下記のように考えている。以下に、本発明に至った経緯を説明するとともに、本発明の構成によって得られる顕著な効果について説明する。
【0020】
本発明者らは、これまでに、加熱膨張体がより優れた延焼防止機能を発揮し得る材料の開発にあたり、従来にない観点からの検討を行い、その結果、塩化ビニル系樹脂と、該樹脂の可塑剤と、熱膨張性黒鉛を含有してなる熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料において、低い温度領域での火炎及び煙の遮断機能を効果的に発揮し得、その加熱膨張体が、高い粘結力を示す、形状保持性及び機械的強度に優れるものになる脱塩酸触媒の存在を見出し、このことについての提案をした。この技術についての詳細は、先に挙げた特許文献2に記載されている。すなわち、本発明で規定するように、この脱塩酸触媒は、平均重合度が400~3000の塩化ビニル系樹脂を52質量部、該樹脂の可塑剤であるフタル酸ジオクチルを42.8質量部に、脱塩酸触媒を5.2質量部添加してなる配合の試料Aを、180℃で15分、次いで190℃で15分加熱した際に、前記試料Aの重量減が25質量%以上となり、低温域で高い重量減を示す物質である。脱塩酸触媒の代表例としては、例えば、金属亜鉛、酸化亜鉛、炭酸亜鉛、塩化亜鉛、銅、酸化銅及び塩化鉄等が挙げられる。なお、前記試料Aは、脱塩酸触媒の効果を判定するためのものであり、難燃剤を含んではいない。
【0021】
これらの脱塩酸触媒を用いることで、これを含む熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料は、170~240℃の低温域で、著しい塩化ビニル系樹脂の重量減少を引き起こし、脱塩酸(ポリエン化)や炭化が促進された状態になり、最終的な加熱膨張体が、高い粘結力を示し、形状保持性及び機械的強度に優れるものになる。しかし、特許文献2での提案では、使用する難燃剤についての詳細な検討は行っておらず、従来と同様にポリリン酸アンモニウムを用いている。
【0022】
これに対し、本発明者らは、難燃剤として添加したポリリン酸アンモニウムが、その製品の耐水性が劣る原因であるとの知見に基づき、この点を改善すべく、ベースとする塩化ビニル系樹脂(可塑剤を含有)に、熱膨張性黒鉛と、上記した機能を示す脱塩酸触媒とからなる樹脂材料に、各種の難燃剤を添加して試験を行った。その結果、上記した機能を示す脱塩酸触媒を用いた場合、特定の構造的特徴を有する化合物を組み合わせることで、驚くべきことに、加熱膨張体の粘結力が更に向上する現象を見出した。また、本発明によって見出された、この驚くべき効果が得られる特定の構造的特徴を有する化合物の種類は多く、その種類を選ぶことで、加熱膨張体の高い粘結力に加え、その製品の耐水性をも改善できる熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料の構成が可能になるので、本発明の熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料によれば、より高性能で、過酷な環境への適用性にも優れる多様な製品の提供が実現できる。
【0023】
本発明者らは、本発明の熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料を、その加熱膨張体がより高い粘結力を示す、より優れたものにできた理由を下記のように考えている。塩化ビニル系樹脂は、通常は、240℃~800℃の高温時に脱塩酸が促進され、硬い硬化状態を経由して最終的に炭化物となる。他方、熱膨張性黒鉛は、組成にかかわらず、膨張開始温度になれば温度に応じて膨張していく。ここで、170~240℃の低温域で著しい塩化ビニル系樹脂の重量減少を引き起こす脱塩酸触媒を用いると、塩化ビニル樹脂の硬化の進行状況と、膨張開始温度が180~240℃である熱膨張性黒鉛の膨張が同温度域で起こるので、黒鉛の膨張部に塩化ビニル系樹脂が絡みながら脱塩酸を伴って炭化していき、その結果、粘結力の大きい加熱膨張体となったものと考えられる。
【0024】
これに対し、脱塩酸触媒を用いない場合は、熱膨張性黒鉛の膨張が開始する温度域で、塩化ビニル系樹脂の脱塩酸が不十分になる。このように、樹脂が軟化状態の時に黒鉛の膨張が完了すると、十分な樹脂の絡み合いがない状態なので加熱膨張体の粘結力をサポートできなくなると考えられる。このことは、脱塩酸触媒を用いない従来の製品では、脱塩酸触媒を使用した場合に比べて、その加熱膨張体が、脱塩酸触媒を用いた場合に比べて明らかに粘結力において劣り、形状保持性及び機械的強度に優れたものにできない、という事実によって裏付けられている。
【0025】
本発明者らは、上記した従来技術に対し、前記したように、より高品質の製品の実現を目的として更なる検討を行った。まず、熱膨張性黒鉛の膨張開始前に樹脂の硬化が早く進行すると、当然のことながら固形残渣としては存在するが、加熱膨張体に樹脂の炭化物が十分に被覆された状態にはならず、高い粘結力のものにはならない。このことは、塩化ビニル樹脂の脱塩酸を効果的に進行させる脱塩酸触媒の存在は絶対に必要であることを意味している。更に、本発明者らは、火炎及び煙の遮断機能を効果的に発揮し得るより最適な加熱膨張体を得るためには、脱塩酸触媒によって促進される塩化ビニル系樹脂の脱塩酸と、硬い硬化状態を経由して最終的に炭化物となる進行状態と、熱膨張性黒鉛の膨張スピードとの調整を適切にすることが重要であると考えた。より具体的には、上記した脱塩酸触媒によって促進される、塩化ビニル系樹脂の脱塩酸から最終的に炭化物になる進行速度と、熱膨張性黒鉛の膨張スピードとの調整をすることが必要であると考えた。これに対し、塩化ビニル系樹脂の脱塩酸は、ジッパー的に進行するとされているので、上記の考えは、熱膨張性黒鉛の膨張開始温度域までの低温状態においては、ジッパー的な進行を促進させるために添加する脱塩酸触媒の機能を抑えること、すなわち、該機能を抑える化合物を併用することが必要である、と換言できる。
【0026】
そこで、本発明者らは、本発明のきっかけとなった製品の耐水性が劣ることの原因成分と考えられる難燃剤を種々に変更することで、熱膨張性黒鉛の膨張開始温度域までの低温状態において、併用した脱塩酸触媒の機能を抑える挙動に着目して検討を行った。前記したように、一般に、難燃剤としてはリン系難燃剤が多用されている。また、リン系難燃剤と窒素系難燃剤を併用すると極めて効果的な難燃効果が得られることが知られている。イントメッセント系難燃剤、すなわち、燃焼している表面に炭化(チャー)の発泡層を形成する考えでは、リン系難燃剤が炭化(チャー)を生成させ、窒素系難燃剤が窒素系ガスを発生し、炭化層の泡化を生起させるので相乗効果を発揮するとしている。
【0027】
本発明者らは、上記したことから、本発明で規定する脱塩酸触媒の存在下に、リン及び/又は窒素を含有する化合物からなる難燃剤を広範囲に使用して、検討試験を行った。検討の結果、リン系難燃剤と窒素系難燃剤の併用は、加熱膨張体の粘結力を高める必須要因でないことがわかった。そして、イントメッセント効果ではなく、アミノ基含有化合物及び/又はアンモニウム基含有化合物を併用することで、その加熱膨張体の粘結力をより高めることができることを見出して、本発明に至った。
【0028】
具体的には、本発明の熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料は、塩化ビニル系樹脂をベースとなる樹脂とし、該樹脂用の可塑剤と、膨張開始温度が180~240℃である熱膨張性黒鉛と、本発明で規定する前記塩化ビニル系樹脂の脱塩酸触媒とする構成に、更に、脱塩酸触媒の触媒機能を抑制する機能をもつアミノ基含有化合物及び/又はアンモニウム基含有化合物を併用したことを特徴とする。このように構成したことで、本発明の熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料は、熱膨張性黒鉛の膨張開始温度である180~240℃の低温域では、脱塩酸を促進させる脱塩酸触媒を用いているにもかかわらず塩化ビニル系樹脂の脱塩酸の進行が抑えられる。一方、高温時には、脱塩酸を効果的に進行させることができるようになるので、より性能に優れた製品の提供ができるようになる。上記した物質の組み合わせを利用した本発明の熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料によれば、低温域においても火炎及び煙の遮断機能をより効果的に発揮し得、その加熱膨張体が、より高い粘結力を示す、形状保持性及び機械的強度により優れたものになるという効果が得られる。また、上記した物質の組み合わせにおいて、特に水に難溶性のアミノ基含有化合物及び/又はアンモニウム基含有化合物を脱塩酸抑制化合物として選択して利用することで、得られる樹脂材料からなる熱膨張性シート等の製品が、耐水性に優れたものになるという新たな効果が得られる。具体的には、その製品を95℃の熱水中に24時間浸漬した際の溶出量が、質量基準で、2.5%以下の、耐水性にも優れた製品を実現することができる。
【0029】
本発明を構成する脱塩酸抑制化合物である、脱塩酸触媒の触媒機能を抑制する機能をもつアミノ基含有化合物及び/又はアンモニウム基含有化合物(以下、単に脱塩酸抑制化合物と呼ぶ場合がある)の、加熱膨張体の粘結力に与える影響については、後に詳細を述べるが、本発明者らは、併用する脱塩酸触媒によって促進される脱塩酸で発生する塩酸と反応して、その結果、急激なポリエン化が抑制されたのではないかと考えている。
【0030】
本発明では、本発明で規定した脱塩酸触媒として、前記した特許文献2に記載されている、金属粉末及び金属化合物の脱塩酸に対する効果の差異を基に脱塩酸触媒を適宜に選択し、塩化ビニル系樹脂に、膨張開始温度が180~240℃である熱膨張性黒鉛と、脱塩酸抑制化合物とを配合した系における高温(800℃)での燃焼試験を行い、燃焼試験後の加熱膨張体の粘結力を測定して、脱塩酸抑制化合物を併用したことによって生じる効果についての検討を行った。
【0031】
まず、検討の過程で、特許文献2に記載の技術で、難燃剤として使用していたポリリン酸アンモニウムを使用した場合と、使用しない場合について検討試験を行った。この結果、驚くべきことに、本発明で規定する脱塩酸触媒の効果を示す金属化合物等が存在していても、ポリリン酸アンモニウムを無添加にした場合には、加熱膨張体の粘結力は良好なものとならないことがわかった。一方、ポリリン酸アンモニウムが存在しても、脱塩酸触媒の効果を示す金属化合物が無添加の場合には、加熱膨張体の粘結力は不十分である。この結果、加熱膨張体の粘結力を良好なものにするためには、明らかに、脱塩酸触媒の効果を示す金属化合物等と、ポリリン酸アンモニウムの共存が必要であることがわかった。
【0032】
本発明者らは、更なる検討を重ねた結果、脱塩酸触媒と、ポリリン酸アンモニウムに限らず、アミノ基含有化合物及び/又はアンモニウム基含有化合物とを併用し、これらの成分が加熱時に併存するように構成することが重要であることを見出し、本発明に至った。具体的には、下記の検討の結果、前記した試験でポリリン酸アンモニウムを使用したことによる加熱膨張体の粘結力の向上への寄与は、その構造中のアンモニウム基によることがわかり、この知見に基づき更なる検討を行い、本発明を達成した。
【0033】
前記した検討試験で用いた難燃剤として使用していたポリリン酸アンモニウムに替えて、同様な難燃剤として一般的に使用されている多種の難燃剤として使用して試験を行った結果、下記のことがわかった。ポリリン酸金属化合物を使用しての試験では、その効果が少ないこと、一方、メラミンコートポリリン酸及びポリリン酸メラミン・メラム・メレムを使用しての試験では、ポリリン酸アンモニウムの場合と同様に、よい効果を示した。また、リン分を含まない、硫酸メラミン、ベンゾグアナミン、メラミンシアヌレートでもよい効果を示した。更に、驚くべきことに、無機塩の塩化アンモニウムもよい効果を示した。他方、アミノ基を含まない、フォスファゼン、リン酸エステル及びアミノ基をメチロール化した、メチロールメラミンは、粘結力の向上効果において良い結果を示さなかった。これらの検討結果の詳細については後述する。
【0034】
本発明者らは、上記した現象が起こることについての理由を解明すべく、脱塩酸触媒として、触媒効果を示す酸化亜鉛の存在下に、前記した各種リン系難燃剤と窒素系難燃剤を添加して、熱膨張性黒鉛の膨張開始温度域である160℃、190℃、220℃、240℃のそれぞれの温度での減量を測定した。その結果を図1図4に示した。
【0035】
その結果、加熱膨張体における粘結力の向上効果を示したアミノ基を有する、メラミンコートポリリン酸、ポリリン酸メラミン・メラム・メレム、硫酸メラミン、ベンゾグアナミン、メラミンシアヌレートの各化合物が存在する場合は、図1図4に示したように、各温度のいずれの場合も、その経時減量曲線は緩やかであった。先に述べたポリリン酸アンモニウムが存在しないときの脱塩酸減量数値とは逆の結果となった。他方、加熱膨張体における粘結力の向上に大きな効果を示さないアミノ基を含有しない、フォスファゼン、リン酸エステル及びアミノ基を有するメチロールメラミンの各化合物の場合は、160℃及び190℃で大きな減量曲線を示した。なお、比べて温度の高い220℃及び240℃では殆どの化合物が単純な減量曲線となった。
【0036】
先に述べたように、塩化ビニル系樹脂の脱塩酸はジッパー効果が強いとされており、下記に挙げるように、多数の文献がある。例えば、「山田桜,塩ビとポリマー,20,(12),(1980)」、「小野塚満男,高分子,13,(8),(1964)」が挙げられる。脱塩酸は、塩化亜鉛、塩化スズ等の親電子化合物によって促進され、生成した塩酸が更に触媒作用を示すとされている。このジッパー効果を止めるために、各種の安定剤が知られている。P.シモン等は、ステアリン酸金属塩を基に動的な考察を行い報告しており、MgやPbの効果を述べている。文献としては、「P.シモン等,塩ビとポリマー,31,(9),(1991)」や、「P.シモン等,塩ビとポリマー,31,(10),(1991)」等が挙げられる。安定剤は脱塩酸と反応するので、添加された安定剤が反応して消費されている間は必然的に脱塩酸を抑止すると考えられる。例えば、安定剤としてジブチルスズマレートを用いた場合の報告がある(例えば、「香川等,東ソー研究報告,12,(1998)参照」。
【0037】
以上の検討結果より、加熱膨張体がより粘結力の高いものになる、より良好な熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料とするためには、その構成を、強力な脱塩酸効果を有する脱塩酸触媒の存在に加えて、添加することで、熱膨張性黒鉛が膨張を開始する温度域においては脱塩酸を抑制し、且つ、この温度域以上の温度では減量が進む効果を有する、すなわち、脱塩酸抑制化合物として機能する、アミノ基含有化合物及び/又はアンモニウム基含有化合物の共存が必須であることがわかった。
【0038】
更に、熱膨張シート等の製品が耐水性に優れるものとなるようにするためには、アミノ基含有化合物及び/又はアンモニウム基含有化合物の中で、水への溶解度が非常に小さい水に難溶性の化合物を選択すれば、容易に実現できる。以下に、本発明を構成する成分について説明する。
【0039】
<脱塩酸抑制化合物(アミノ基含有化合物及びアンモニウム基含有化合物)>
本発明の熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料は、コンマコート成形法を利用することで、ある程度の厚みのある熱膨張性シートを形成することができる。また、得られた熱膨張性シートが熱で発泡(膨張)して形成される加熱膨張体は、より崩れのない、炎の圧力で容易には吹き飛ばない、形状保持性に優れたものとなる。本発明者らの検討によれば、これらの効果は、他の難燃剤を用いた場合と比較して明らかに異なり、効果の点で優位性があった。本発明者らの検討によれば、本発明の熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料で、その構成成分として、アミノ基含有化合物及び/又はアンモニウム基含有化合物を用いたことによる効果の優位性は、本発明で規定した脱塩酸触媒として機能する成分との併用によって有用な相乗効果が得られることによってもたらされたものであることを確認している。換言すれば、本発明の熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料では、アミノ基含有化合物やアンモニウム基含有化合物を単なる難燃剤としてではなく、併用する脱塩酸触媒に対する脱塩酸抑制化合物として用いている。
【0040】
本発明を構成する脱塩酸抑制化合物の具体例としては、ポリリン酸アンモニウム、ポリリン酸メラミン、ポリリン酸メラミン・メラム・メレム、リン酸メラミン、メラミンポリリン酸金属塩、リン酸ピペラジン、エチレンジアミンリン酸塩、硫酸メラミン、メラミン、メラム、メレム、メラミンシアヌレート、ベンゾグアナミン、シランコートポリリン酸アンモニウム、メラミンコートポリリン酸アンモニウム、尿素及び塩化アンモニウム等が挙げられる。
【0041】
また、脱塩酸抑制化合物の添加量は、塩化ビニル系樹脂100質量部に対して50~150質量部であることが好ましく、より好ましくは、70~100質量部である。この添加量が少な過ぎると、難燃効果、膨張時の形状保持効果が現れず、多過ぎると、樹脂材料の成形加工が困難になる傾向があるとともに、膨張率が低くなるので好ましくない。
【0042】
<脱塩酸触媒>
先に述べたように、本発明を構成する脱塩酸触媒については、先に挙げた特許文献2に詳細に記載されている。具体的なものとしては、例えば、金属亜鉛、酸化亜鉛、炭酸亜鉛、塩化亜鉛、銅、酸化銅及び塩化鉄等が挙げられ、いずれも好適に使用し得る。しかし、これらに限定されるものではなく、本発明で規定する試料Aを、180℃で15分、次いで190℃で15分加熱した際に、試料Aの重量減が25質量%以上となる物質であれば、いずれも使用することができる。また、その配合割合は、少ないと難燃化の向上効果が期待できず、多過ぎると樹脂材料の粘度が高くなり配合しにくくなるので好ましくない。これ等の点から、本発明で規定する試料Bについては、後述するように、180℃で15分、次いで190℃で15分加熱後に、試料Bの重量減が25質量%以上となる範囲内で適宜に決定すればよい。
【0043】
<塩化ビニル系樹脂>
本発明の熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料を構成する塩化ビニル系樹脂には、(1)塩化ビニル単独重合体、或いは、(2)塩化ビニル及び塩化ビニルと共重合可能な不飽和結合を有する単量体の共重合体であって、且つ、塩化ビニルを50質量%以上含有する塩化ビニル系共重合体等が使用できる。
【0044】
塩化ビニルと共重合可能な不飽和結合を有する単量体としては、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル;アクリル酸、メタクリル酸;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル等のアクリル酸エステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等のメタクリル酸エステル;エチレン、プロピレン等のオレフィン;アクリロニトリル;スチレン等の芳香族ビニル;塩化ビニリデン等を挙げることができる。
【0045】
本発明で用いる塩化ビニル系樹脂の平均重合度は特に限定されないが、好ましくは、400~3,000であり、さらに好ましくは、1,000~2,000である。平均重合度が、400未満であると、得られる成形体の機械的特性が劣ることがある。平均重合度が、3,000を超えると、成形時における塩化ビニル系樹脂の溶融粘度が高くなり、成形が困難になることがある。なお、溶融粘度を低下させるために成形温度を上昇させると、塩化ビニル系樹脂が分解を起こしてしまい良好な成形物を得ることが困難となる。本発明の熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料は、成形法にもよるが、その粘度が、25℃で、5000~20000mPa・secであるものを用いることが好ましい。塩化ビニル系樹脂は、一種単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0046】
<可塑剤>
本発明の熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料は、該樹脂用の可塑剤を含有してなる。可塑剤としては、例えば、ビス(2-エチルヘキシル)フタレート、ジイソノニルフタレート、ジイソデシルフタレート、ジトリデシルフタレート、高級アルコールの混合フタル酸エステル等のフタル酸誘導体(特にはフタル酸エステル);トリス(2-エチルヘキシル)トリメリテート、トリ(n-オクチル)トリメリテート、トリイソオクチルトリメリテート等のトリメリット酸誘導体(特にはトリメリット酸エステル);ビス(2-エチルヘキシル)アジペート、ジイソノニルアジペート、ジイソデシルアジペート、高級アルコールの混合アジピン酸エステル等のアジピン酸誘導体(特にはアジピン酸エステル);ビス(2-エチルヘキシル)アゼレート、ジイソオクチルアゼレート、ジ-(n-ヘキシル)アゼレート等のアゼライン酸誘導体(特にはアゼライン酸エステル);ビス(2-エチルヘキシル)セバケート、ジイソオクチルセバケート等のセバシン酸誘導体(特にはセバシン酸エステル);フェノール系アルキルスルホン酸エステル等のスルホン酸誘導体(特にはスルホン酸エステル);エポキシ化大豆油、エポキシ化あまに油等のエポキシ誘導体(特にはエポキシ化エステル)等の可塑剤;アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、フタル酸等のジカルボン酸と、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール等の2価アルコールとの重合型エステルであるポリエステル系可塑剤等を使用することができる。これらの可塑剤の中でも、移行性、抽出性、ブリード性等の面から高分子量の可塑剤が好ましい。なお、可塑剤は、一種単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0047】
上記した可塑剤の添加量は、塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、10~100質量部程度であり、好ましくは20~80質量部程度である。この添加量が10質量部未満であると、溶融粘度が高く、シート状の製品を形成する場合の成形性が悪くなり、また、成形体が脆くて壊れ易くなるので好ましくない。一方、この添加量が100質量部を超えると、成形体の難燃性が低下するとともに、燃焼時の発煙量が多くなるので好ましくない。
【0048】
<熱膨張性黒鉛>
本発明の熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料を構成する熱膨張性黒鉛は、例えば、熱膨張性シートとして、窓枠等の空間内に納めた場合に、火災時等の温度上昇によって該シートを膨張させるための発泡成分となるものである。熱膨張性黒鉛は、天然に産出される鱗片状黒鉛の層間に化合物を挿入して中和したもので、熱によって含有している化合物がガスを発生し、その結果、鱗片状の黒鉛が膨張する。
【0049】
本発明者らの検討によれば、熱膨張性黒鉛の塩化ビニル系樹脂に対する割合は重要な要素ではないが、多すぎると加熱膨張後の膨張体の密度が小さくなり、また、多いと膨張倍率が小さくて延焼防止の役割を果たさない。膨張倍率は、試験前の厚みで800℃加熱後の膨張体の垂直な高さの比で計算され、10倍以上~40倍以下が好ましい。この範囲を得るために、本発明では、塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、熱膨張性黒鉛の配合部数を50~150質量部としている。
【0050】
天然に産出される鱗片状黒鉛の粉末を、濃硫酸、硝酸、セレン酸等の無機酸、或いは、酢酸、ギ酸等の有機酸、濃硝酸、過塩素酸、過塩素酸塩、過マンガン酸塩、重クロム酸塩、過酸化水素等の強酸化剤とで処理したものであることが好ましい。上述のように処理した黒鉛は、例えば、アンモニア、脂肪族低級アミン、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物等で、中和処理することが好ましい。
【0051】
火災初期の延焼防止のためには、熱膨張性黒鉛の低温での膨張開始が必要である。このため、膨張開始温度が180~240℃である低温膨張性のものを使用した場合、膨張していく熱膨張性黒鉛の中に、塩化ビニル系樹脂が補強材の如く絡まっていくと考えられ、低い温度域から火炎及び煙の遮断機能を効果的に発揮し得る性能の熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料とすることができる。このため、本発明によって提供される熱膨張性シートは、火災初期のより早い段階で、延焼防止効果が発揮されるものになる。
【0052】
本発明で使用する熱膨張性黒鉛は、平均粒径が100~600μmの範囲であるものが好ましく、120~500μmの範囲であるものが、さらに好ましい。平均粒径がこのような範囲を満たすと、膨張性、作業性及び形状保持性が良好なものとなる。
【0053】
熱膨張性黒鉛の添加量は、先に述べたように、塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、50~150質量部程度であり、より好ましくは、70~100質量部である。この添加量が少なすぎると、膨張による難燃効果が十分に得られず、多くなりすぎると、樹脂材料の成形加工が困難になるとともに、発泡(膨張)した際の形状保持性が悪くなる。
【0054】
<その他の任意成分>
(熱安定剤)
本発明の塩化ビニル系樹脂材料を成形する際には、熱分解を抑制するために熱安定剤を添加することが好ましい。熱安定剤としては、例えば、Pb系或いはSn系や、Ba/Znの複合系或いはCa/Znの複合系等の、一般的に硬質塩化ビニル系樹脂に用いられるものを使用することができる。これら熱安定剤は、一種単独で用いても二種以上を併用してもよい。また、この熱安定剤を添加する場合の添加量は、塩化ビニル系樹脂100質量部に対して0.1~10質量部程度であり、より好ましくは、0.5~5質量部程度である。
【0055】
(改質剤)
また、本発明の熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料を用いて熱膨張性シートを形成する際の、成形性や物性を向上させるために、樹脂材料中に、アクリル系の加工助剤、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)、メタクリル酸メチル-ブタジエン-スチレン共重合体(MBS樹脂)、アクリル系ポリマー、塩素化ポリエチレン等の改質剤等を、本発明の効果を損なわない範囲で添加してもよい。
【0056】
(発泡剤)
さらに、発泡性(膨張性)を増すために、補助発泡剤として、例えば、アゾジカルボンアミド等のアゾ化合物、4,4’-オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)等のヒドラジン化合物、N,N’-ジニトロソペンタメチレンテトラミン等のニトロソ化合物、炭酸水素ナトリウム等の重炭酸塩等を添加してもよい。
【0057】
なお、本発明においては、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、本発明で規定する以外の無機化合物からなる充填剤を併用することも可能であるが、その場合の添加量は、少なくすることが好ましい。
【0058】
必要に応じて添加できる他の無機充填剤としては、従来公知の下記に挙げるようなものが使用できる。例えば、アルミナ、酸化チタン、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化鉄、酸化錫、酸化アンチモン、フェライト類等の金属酸化物;水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、ハイドロタルサイト等の含水無機物;塩基性炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウム等の金属炭酸塩;硫酸カルシウム、石膏繊維、けい酸カルシウム等のカルシウム塩;シリカ、珪藻土、ドーンナイト、硫酸バリウム、タルク、クレー、マイカ、モンモリロナイト、ベントナイト、活性白土、セピオライト、イモゴライト、セリサイト、ガラス繊維、ガラスビーズ、シリカ系バルン、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化けい素、カーボンブラック、グラファイト、炭素繊維、炭素バルン、木炭粉末、各種金属粉、チタン酸カリウム、硫酸マグネシウムチタン酸ジルコン酸鉛、アルミニウムボレート、硫化モリブデン、炭化けい素、ステンレス繊維、ホウ酸亜鉛、各種磁性粉、スラグ繊維、フライアッシュ、脱水汚泥等を挙げることができる。
【0059】
<熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料の製造方法>
本発明の熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料の製造方法は、塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、膨張開始温度が180~240℃である熱膨張性黒鉛を50~150質量部の範囲で用い、更に、前記膨張開始温度における、前記塩化ビニル系樹脂の脱塩酸を促進するための脱塩酸触媒と、脱塩酸を抑制するための脱塩酸抑制化合物と、前記塩化ビニル系樹脂の可塑剤とを用いて、熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料を製造する。そして、先に述べたように、その際に、脱塩酸触媒となる物質の種類の選択と、その添加量の決定を、本発明で規定するようにして行い、その脱塩酸触媒と併用する脱塩酸抑制化合物として、加熱された初期の160~240℃の温度で、前記脱塩酸触媒の触媒機能を抑制する機能をもつ、アミノ基及び/又はアンモニウム基を有する化合物を用いることを特徴とする。
【0060】
(樹脂材料の調製方法)
本発明の熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料は、上記した本発明で必須とする成分、及び必要に応じて添加する任意成分を、例えば、ディゾルバーミキサー、ニーダーミキサー等の混練装置を用いて混練することにより得ることができる。混練は、混練装置内の樹脂材料の温度が、20~50℃となるように行うことが好ましい。その後に熱膨張性シートを成形する方法にもよるが、例えば、コンマコート成形法で熱膨張性シートを成形する場合であれば、熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料を好適なペースト状とすることを要するので、25℃における粘度が5000~20000mPa・sec程度になるように調整することが好ましい。この樹脂材料に溶剤を加えてペースト状にしてパテとしても利用できる。また、塩化ビニル系樹脂に親和性のある溶剤を適量使用して、塗料化し、塗料(被覆剤)としても用いられる。塩化ビニル系樹脂に親和性のある溶剤としては、例えば、テトラハイドロフランやトルエン等を挙げることができる。
【0061】
<熱膨張性シートの成形方法>
本発明の熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料は、例えば、簡便なコンマコート成形法を利用することで、容易に熱膨張性シートを成形することができる。ペースト状の熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料を離型性のある基材(原紙)上にコートすることで、適宜な厚みのシートを容易に得ることができる。本発明の熱膨張性シートは、0.5mm~2.0mm程度であることが好ましいが、本発明の熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料を用い、コンマコート成形法を適用することで容易に得られる。この際、押出成形やカレンダー成形で熱膨張性シートを作製する場合と異なり、樹脂材料を熱と圧力とで溶融する必要がないので、これらの方法において生じていたシートを冷却した際の収縮の問題が抑制され、良好な状態の均一なシートが得られる。
【0062】
(熱膨張性シート)
本発明の熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料によって得られる熱膨張性シートは、上述の熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料をコンマコート成形することによって容易に得ることができる。本発明の熱膨張性シートは、例えば、ガスバーナー等による炎、熱風等によって膨張温度(通常、180℃)以上に加熱することにより膨張する。熱によって膨張した膨張体は、それ自体で形状を保持することができるだけでなく、火炎と煙とを遮断するのに十分な機械的強度を有する。従って、本発明の熱膨張性シートを住宅、ビル等の建物の窓枠(例えば、サッシと壁との間)等に用いることで、火災等の際にも成形体は燃焼せずに窓ガラスを保持し、火炎が裏面に伝播することを防止することができる。本発明の熱膨張性シートは、その他、防火戸等の隙間等の耐火性が必要とされる用途又は防火に必要な場所に用いることができる。
【0063】
本発明の熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料の機能を評価するために用いた800℃での高温燃焼試験後の膨張体の粘結力の測定は、公式で示された方法はなく、自社法にて行った。具体的には、熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料で、1.5~1.6mmの厚みの、表面積が20mm×20mmの試料を作製し、これを800℃で加熱後に得られた膨張体の最上部に平滑な板を圧縮試験機等で押し下げ、底部から8mmの高さまでの間に測定された最大抗力をkgfで示した。
【実施例
【0064】
次に、検討例、実施例及び比較例を挙げて本発明をより詳細に説明する。本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。尚、文中「部」又は「%」とあるのは、特に規定されていなければ質量基準である。
【0065】
検討例、実施例及び比較例で使用した主な成分は以下の通りである。脱塩酸触媒に用いた酸化亜鉛及び塩化鉄は、いずれも試薬として販売されているものである。脱塩酸抑制化合物に該当するか否かに用いた物質については後述する。
・塩化ビニル系樹脂
塩化ビニル系樹脂には、平均重合度が1,650の、東ソー社製のリューロンペースト772A(商品名)を用いた。以下、PVCと略記する場合がある。
・可塑剤
塩化ビニル系樹脂の可塑剤であるフタル酸ジオクチル(新日本理化社製、サンソサイザーDOP(商品名))を用いた。以下、DOPと略記する場合がある。
・熱膨張性黒鉛
熱膨張性黒鉛には、膨張開始温度が180℃、平均粒径が180μmの三洋貿易社製のSYZR802(商品名)を用いた。
・熱安定剤
熱安定剤には、Zn/Caの複合系のものを使用した。具体的には、大協化成社製のLX-550を用いた。
【0066】
〔検討例1〕-脱塩酸触媒の選択方法の例
表1に示したように、熱膨張性黒鉛と、難燃剤として代表的なポリリン酸アンモニウムを用い、これに、酸化亜鉛又は炭酸カルシウムを配合し、熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料を調製した。そして、図5に、上記で調製した2種の配合品を800℃まで加熱した際の発泡倍率のグラフを示した。図5から、いずれの組成の場合も、熱膨張性黒鉛の膨張開始温度の200℃から膨張を始め、発泡が急激に進み、500~600℃程度の温度からは、発泡速度が低下することがわかる。
【0067】
【0068】
一方、調製した2種類の熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料を用い、下記の方法で粘結力を測定した結果では、酸化亜鉛を添加したものでは、粘結力が1.22kgfと高かったのに対し、炭酸カルシウムを添加したものでは、0.38kgfと低かった。ここで、酸化亜鉛は、本発明で規定している、塩化ビニル系樹脂52質量部と、可塑剤42.8質量部に、脱塩酸触媒として酸化亜鉛を5.2質量部添加してなる配合の試料Aを、180℃で15分、次いで190℃で15分加熱した際に、前記試料Aの重量減が45質量%(残渣物の残量%が55%)となる物質である。一方、炭酸カルシウムは、本発明で規定している、塩化ビニル系樹脂52質量部と、可塑剤42.8質量部に、炭酸カルシウムを5.2質量部添加してなる配合の試料Aを、180℃で15分、次いで190℃で15分加熱した際に、前記試料Aの重量減が3質量%(残渣物の残量%が97%)となり、熱膨張性黒鉛の膨張開始温度である低温域ではほとんど重量減のみられない物質である。
【0069】
これらのことは、例えば、酸化亜鉛のような、試料Aの減量が激しい化合物を使用することで、加熱膨張体の粘結力を高めることができることを示している。本発明では、このような物質を、脱塩酸触媒と呼んでいる。なお、この点についての詳細は、前記した特許文献2に記載されている。該特許文献2に記載されているように、脱塩酸触媒としては、上記した酸化亜鉛のように、本発明で規定する試料Aの減量が激しい化合物を使用することで、加熱膨張体の粘結力を高めることができる。この他の物質としては、例えば、金属亜鉛、炭酸亜鉛、塩化亜鉛及び塩化鉄等を挙げることができるが、本発明で規定する試料Aの減量を求めて該当する物質であれば、これらに限定されることなく、いずれの物質も用いることができる。
【0070】
上記の粘結力は、上記で得た熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料で、厚さ1.5~1.6mmの厚みで、表面積が20×20mmのシート状の試料を作製し、これを800℃で加熱して膨張させて得られた加熱膨張体の最上部に平滑な板をあてて、圧縮試験機で板を押し下げて、板の位置が底部から8mmの高さになるまでの間に測定された最大抗力をkgfで示したものである。
【0071】
〔検討例2〕-脱塩酸抑制化合物を見出すための検討試験
脱塩酸触媒として酸化亜鉛を用い、脱塩酸抑制化合物として、表4に記載の各種のアミノ基含有化合物及びアンモニウム基含有化合物を添加して調製した、表2に示した基本配合Cの熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料について、それぞれの樹脂材料の加熱膨張体の粘結力を測定し、これらの化合物を添加したことによって生じる加熱膨張体の粘結力への影響を確認した。脱塩酸触媒の代表例として、酸化亜鉛と塩化鉄とをそれぞれ用いた。表2は、酸化亜鉛を用いた場合の配合であり、以下、酸化亜鉛を用いた場合を例にとって説明する。
【0072】
【0073】
上記配合Cで脱塩酸触媒として酸化亜鉛を用いた理由、また、その量をベースとなるポリ塩化ビニル樹脂100部に対して11.1部の割合で用いた理由は、酸化亜鉛は、本発明で規定している試料Aを、180℃で15分、次いで190℃で15分加熱した際に、前記試料Aの重量減が45質量%(残渣物の残量%が55%)となる物質であり、加熱膨張体の粘結力が高いものとなる物質であったことによる。また、酸化亜鉛の添加量は、本発明で規定している、塩化ビニル系樹脂52質量部と、可塑剤42.8質量部に、更に塩化ビニル系樹脂100質量部に対して所望となる量の脱塩酸触媒を添加した試料Bについて、180℃で15分、次いで190℃で15分加熱後に、前記試料Bの重量減が25質量%以上となる範囲内として求めた値に基づき決定した値である。表3に、酸化亜鉛の添加量と、試料Bにおける重量減との関係を示した。
【0074】
【0075】
表2に示した基本配合Cで、本発明で規定する脱塩酸抑制化合物を見出すための検討対象の化合物の種類を変えた液をそれぞれ調製し、得られた各液を離型紙上に、厚み1.5~1.6mmになるようにコートした。更に、コート液の表面に密度450g/mのポリエステル不織布を軽くラミネートした。次に、190~195℃の熱風乾燥炉中で3~5分間加熱して、熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料とポリエステル不織布とが積層してなる積層体をそれぞれに作製し、離型紙を剥離して試験用の試料とした。
【0076】
上記で得られた積層体試料についてそれぞれ、20×20mmの面積で切り出して加熱する試料とした。加熱する前に、積層体試料の厚みを測定した。積層体試料を800℃で加熱し、加熱して膨張後に得られた加熱膨張体について、下記の方法で発泡倍率と粘結力とをそれぞれ測定した。
【0077】
各樹脂材料の発泡倍率は、上記で得た加熱膨張体の垂直高さを測定し、「試験後の膨張体の垂直高さ/試験前の厚み」で求めた。加熱膨張体の粘結力は、上記で得た各積層体試料を800℃で加熱して膨張させて得られた加熱膨張体の最上部に平滑な板をあてて、圧縮試験機で板を押し下げて、板の位置が底部から8mmの高さまでの間に測定された最大抗力をkgfで示した。得られた結果を表4に示した。
【0078】
上記で得られた各積層体試料について、別に5×10mmの面積でそれぞれ切り出して、溶出試験用の試料とし、それぞれの試料の重さを測定した。そして、この試料5個を、100gの精製水に浸漬し、95℃で24時間放置して溶出試験を行った。試験後に熱水から取り出して95℃で3時間乾燥し、乾燥後の重さを測定した。そして、熱水に投入前の重さと、乾燥後の重さから、熱水による溶出量を算出し、投入前に対しての減量比を%で表示して耐水性とした。得られた結果を表4に示した。
【0079】
表4に総合判定結果を示したが、その基準は下記の通りである。
◎:加熱膨張体の粘結力が1.0kgf以上で、且つ、耐水性を示す減量率が、2.5%以下である。
○:加熱膨張体の粘結力が1.0kgf以上で、且つ、耐水性を示す減量率が、2.5%超~7.5%以下である。
△:加熱膨張体の粘結力が1.0kgf以上で、且つ、耐水性を示す減量率が、7.5%超である。
×:加熱膨張体の粘結力が1.0kgf未満である。
【0080】
【0081】
表4に示されているように、加熱膨張体の粘結力は、明らかに、その構造中にアミノ基或いはアンモニウム基を含有する化合物を添加した場合に、これらの基を有さない化合物を用いた場合に比較して高い値を示すことが確認された。また、表4に示されているように、メラミンを使用した場合、発泡倍率が非常に高い数値を示し、アミノ基を有する構造の化合物を用いた場合に、加熱膨張体の非常に高い発泡倍率にもかかわらず、高い粘結力を実現できることがわかった。このことから、本発明者らは、酸化亜鉛のような脱塩酸触媒に併用して、その構造中にアミノ基を有するメラミンを用いた場合における加熱膨張体の粘結力は、その発泡倍率を他の化合物と同程度に抑えられれば更に高くなるものと予想している。
【0082】
なお、構造中にアミノ基を有さないメラミンであるメチロールメラミンの場合は、加熱膨張体において、高い粘結力を実現することはできず、このことからも、酸化亜鉛のような脱塩酸触媒と、本発明で規定する「アミノ基及び/又はアンモニウム基を有する化合物」とを併用することによってもたらされる顕著な効果を示している。表2に示したように、総合判定で、特に、樹脂材料が耐水性に優れ、加熱膨張体の粘結力が高い値を示す化合物と判定されたものは、ポリリン酸メラミン・メラム・メレム、メラミンシアヌレート及びポリリン酸メラミンであった。酸化亜鉛のような脱塩酸触媒と併用したことで、加熱膨張体の粘結力が高いものの、樹脂材料の耐水性が若干劣る結果となった化合物は、ポリリン酸アンモニウム、硫酸メラミン、ベンゾグアナミン、メラミン及びシランコートポリリン酸アンモニウムであった。樹脂材料の耐水性に劣るものの、脱塩酸触媒と、本発明で規定する「アミノ基及び/又はアンモニウム基を有する化合物」とを併用することで、加熱膨張体の粘結力を従来よりも高くできることが確認できた。このことは、使用場所について、雨水等が当たらないといった制約を受けるものの、この点を留意すれば、使用することで、火災時に熱で膨張を生起して火の回りを遅くする延焼防止材として有用であることを意味している。
【0083】
〔検討例3〕-脱塩酸触媒と、「アミノ基及び/又はアンモニウム基を有する化合物」とを併用することの効果についての確認
検討例2で用いた基本配合Cでは、PVC27.0部に対して、脱塩酸触媒として酸化亜鉛を3.0部又は塩化鉄3.0部を用い、「アミノ基及び/又はアンモニウム基を有する化合物」として、ポリリン酸アンモニウムやメラミン等を20部用いて熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料を調製したが、本例では、これらの化合物を配合しない場合、一方のみを配合した場合の各熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料を調製し、評価した。評価は、前記したと同様にして、樹脂材料の発泡倍率、加熱膨張体の粘結力を測定して行った。表5に、配合の違いと、測定結果を示した。
【0084】
【0085】
〔検討例4〕-脱塩酸抑制化合物を併用したことによる効果の確認試験
検討例2で調製した離型紙を剥離して得た試験用の試料を、20×20mmの所定の寸法にカットして各試験体とし、得られた試験体の重さを測定した。その後、各試験体を熱風乾燥機中に入れて、加熱減量を測定した。具体的には、熱風乾燥機内の温度を、熱膨張性黒鉛の膨張開始温度域の立上り部を想定した温度である、160℃、190℃、220℃、240℃にした場合について、それぞれ10分毎の重量測定を60分間実施して、残量率(%)を求めて、それぞれの結果を、図1~4にグラフで表示した。その結果、驚くべきことに、図1及び図2に示した、特に低温の160℃及び190℃で加熱した結果において、先に表2に示した結果で、加熱膨張体の粘結力が大きい値を示した、「アミノ基含有化合物及び/又はアンモニウム基含有化合物」が添加されている熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料では、その残量率が高く、加熱膨張体の粘結力が低い、構造中にアミノ基及びアンモニウム基をいずれも持たない添加剤では、加熱時間の経過とともに急激な残量率の低下を示すことが確認された。上記に対し、図3及び図4に示したように、220℃、240℃に達すると、いずれの場合も単調な減量曲線を示した。
【0086】
これらの結果は、検討例1で、脱塩酸触媒の選択方法において述べた、低温時の加熱で減量の激しい物質が、加熱膨張体の粘結力を高める効果があるとした結果と、一見矛盾している。しかしながら、図1~4で得られた結果と、検討例3で得た脱塩酸触媒の添加の効果から考察して、本発明者らは次のように推論している。
【0087】
加熱膨張体の粘結力を高めるためには、黒鉛の膨張に合せて発現する太いファイバー状の黒鉛膨張体に塩化ビニル樹脂成分が十分にまとわりつく必要がある。この膨張開始温度域で急激な減量、すなわち、脱塩酸が急激に進行し過ぎると、樹脂成分のまとわり効果の発生が困難となると考えられる。これに対し、図1及び図2に示したように、脱塩酸触媒の触媒機能を抑制する機能をもつ「アミノ基含有化合物及び/又はアンモニウム基含有化合物」の存在によって、脱塩酸が急激に進行して発生する塩酸が補足され、ジッパー効果を防ぐ役割をしていると推論される。
【0088】
図3及び図4の結果から、その後、温度が上昇すると、膨張の急激な立上り域を過ぎた段階では、脱塩酸を抑制する効果よりも、脱塩酸の触媒効果が優勢になると考えられる。あるいは、アミノ基、アンモニウム基が、発生した塩酸を吸収しきって、ジッパーの阻止効果を失うものと考えられる。そして、それ以降の温度では、脱塩酸触媒が十分に働き、塩化ビニル樹脂の炭化を進行させる。この段階では、既に膨張体ファイバーには、樹脂成分がまとわりついているので、相互に結束しながらの炭化進行が行われ、これによって良好な粘結力を生み出したものと考えている。なお、以上は、得られた現象からの推論であって、完全な解明は未だされていない。
【0089】
〔検討例5〕-配合Cのアミノ基含有化合物の添加量を変えた時の加熱膨張体の粘結力に及ぼす影響についての確認
【0090】
表6の結果から、アミノ基含有化合物の添加部数が多くなるにつれて、加熱膨張体の粘結力が大きくなることが確認された。また、添加量が、15~20部でほぼ飽和してくることがわかった。また、20部以上になると加工特性が悪くなるので、好ましくは20部程度である。
【0091】
アミノ基含有化合物の粘結力に対する寄与は、酸化亜鉛のような脱塩酸触媒によって発生した塩酸を系から除去することに起因しているとすれば、化合物に含まれるアミノ基の数の影響を受けることになる。表6からは明確にはされていないが、おそらく添加部数によって生じる、加熱膨張体の粘結力への影響はそれに基づいており、アミノ基の塩酸吸収が飽和すると塩酸の自己触媒も働き始めて脱塩酸触媒の効果に加算すると推定される。
【0092】
〔検討例6〕-配合Cのアミノ基含有化合物の添加量を一定にし、酸化亜鉛の添加量を変えた時の、加熱膨張体の粘結力に及ぼす影響の確認
【0093】
表7の結果から、酸化亜鉛の添加部数が多くなると粘結力が大きくなることが確認された。この組成の場合は、基準の75%程度で飽和するのが確認された。この現象は、酸化亜鉛の添加量と加熱残量(%)の関係の表3と同傾向で飽和量の存在を示している。

図1
図2
図3
図4
図5