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特許7562103ALKを標的とするキメラ抗原受容体発現細胞
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-27
(45)【発行日】2024-10-07
(54)【発明の名称】ALKを標的とするキメラ抗原受容体発現細胞
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/62 20060101AFI20240930BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20240930BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20240930BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20240930BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240930BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALI20240930BHJP
   C12N 15/90 20060101ALI20240930BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20240930BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240930BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240930BHJP
   C07K 19/00 20060101ALN20240930BHJP
   C07K 16/30 20060101ALN20240930BHJP
   C07K 14/725 20060101ALN20240930BHJP
【FI】
C12N15/62 Z ZNA
C12N15/13
C12N15/12
C12N15/63 Z
C12N5/10
C12N5/0783
C12N15/90 Z
A61K35/17
A61P35/00
A61P43/00 111
C07K19/00
C07K16/30
C07K14/725
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021522898
(86)(22)【出願日】2020-05-29
(86)【国際出願番号】 JP2020021348
(87)【国際公開番号】W WO2020241827
(87)【国際公開日】2020-12-03
【審査請求日】2023-05-01
(31)【優先権主張番号】P 2019103074
(32)【優先日】2019-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(73)【特許権者】
【識別番号】509349141
【氏名又は名称】京都府公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中沢 洋三
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 章治
(72)【発明者】
【氏名】柳生 茂希
(72)【発明者】
【氏名】中野 茂
(72)【発明者】
【氏名】百瀬 隆喜
(72)【発明者】
【氏名】人見 健太
【審査官】山内 達人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/069922(WO,A2)
【文献】PNAS,2015年,vol. 112, no.52,pp.15862-15867
【文献】eLIFE,2015年,4:e09811,pp.1-16
【文献】PNAS,2018年,vol. 115, no. 33,pp.8340-8345
【文献】Molecular Therapy,2017年,Vol. 25, No.9,pp.2189-2201
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
A61K
A61P
C07K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
未分化リンパ腫キナーゼ(ALK)の細胞外リガンド結合領域に結合する標的結合ドメインと、膜貫通ドメインと、細胞内シグナル伝達ドメインとを有するキメラ抗原受容体(chimeric antigen receptor:CAR)タンパク質をコードするポリヌクレオチドであって、標的結合ドメインが、FAM150A、FAM150B、及びALKの細胞外リガンド結合領域に結合するこれらの断片から選択される、上記ポリヌクレオチド。
【請求項2】
標的結合ドメインが、FAM150A及び/又はFAM150BのN末端及び/又はC末端が欠損した断片である、請求項1記載のポリヌクレオチド。
【請求項3】
標的結合ドメインが、配列番号154(FAM150A)、配列番号146(TrFAM150A)、配列番号155(FAM150B)、及び配列番号148(TrFAM150B)からなる群より選ばれるアミノ酸配列からなるポリペプチドである、請求項1記載のポリヌクレオチド。
【請求項4】
標的結合ドメインが、配列番号146(TrFAM150A)又は配列番号148(TrFAM150B)のアミノ酸配列に対して90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなるポリペプチドである、請求項1記載のポリヌクレオチド。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド、又は請求項5に記載のベクターが導入された遺伝子改変細胞。
【請求項7】
ALK発現細胞に結合するCARタンパク質を細胞膜上に発現する、請求項6記載の細胞。
【請求項8】
請求項1~4のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド、又は請求項5に記載のベクターを細胞に導入することを含み、該細胞が生体より採取されたもの、それを拡大培養したもの又は細胞株として樹立されたもののいずれかである、CARタンパク質発現細胞の作製方法。
【請求項9】
前記細胞への導入がトランスポゾン法によって行われる請求項8に記載の作製方法。
【請求項10】
トランスポゾン法がpiggyBac法である請求項9に記載の作製方法。
【請求項11】
請求項5に記載のベクターを含む、ALK発現細胞を標的とするCARタンパク質発現細胞の作製のためのキット。
【請求項12】
請求項6又は7記載の細胞を含む、神経芽腫、乳癌、子宮頸癌、子宮体癌、卵巣癌、黒色腫、星細胞腫、ユーイング肉腫、神経膠芽細胞腫、網膜芽細胞腫、横紋筋肉腫、非小細胞肺癌、前立腺癌、及び尿路上皮癌から選択される固形腫瘍に対する治療剤。
【請求項13】
請求項6又は7記載の細胞を含む、ALK発現腫瘍細胞に対する抗癌剤。
【請求項14】
請求項12記載の治療剤、又は請求項13記載の抗癌剤と、医薬上許容される担体とを含む、医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、養子免疫療法の分野において有用な、キメラ抗原受容体を発現する遺伝子改変細胞及びその作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
腫瘍関連抗原を標的とするキメラ抗原受容体(chimeric antigen receptor:CAR)を発現させたT細胞(CAR-T)を使用した養子免疫療法は抗腫瘍効果が強力であることが報告され、近年開発が急速に進んでいる。特にB細胞腫瘍への治療を目的としたCARの開発が進み、既に臨床応用に至っている。しかしながら、固形腫瘍の領域においては、開発途上であり未だ臨床応用にも至っていない。
【0003】
神経芽腫の腫瘍組織に高発現する受容体型チロシンキナーゼである未分化リンパ腫キナーゼ(anaplastic lymphoma kinase:ALK)と固形腫瘍との関係性は古くから報告されている(非特許文献1)。日本における大規模コホートによっても、ALK の遺伝子異常のみならず、ALK スコア(病理学的なALK 発現の定量)の高いものが神経芽腫の予後に影響すると報告されており(非特許文献2)、神経芽腫を含む固形腫瘍の治療のためにALKを標的とした新規な治療薬の開発が期待される。
【0004】
これまでに、低分子化合物を用いたALK阻害薬が開発されており、ALK融合遺伝子型の肺癌の治療薬として既に臨床応用されている(非特許文献3)。しかしながら、神経芽腫で高発現するALKは融合遺伝子型ではなく、主に細胞外のリガンド結合ドメインを有した野生型または点変異型と報告されており、低分子阻害薬は無効とされ、新たな治療薬の開発が望まれている。
【0005】
ALKを標的としたCAR-T治療としては、これまでALKに対する抗体に由来する単鎖抗体(scFv)を抗原結合ドメインとして用いたscFv型CAR-Tの研究が報告されている(特許文献1、非特許文献4)。
一方、ALKは白血球チロシンキナーゼ(leukocyte tyrosine kinase:LTK)と共に受容体チロシンキナーゼ(RTKs)であり、生理的リガンドが発見されていないオーファン受容体として知られていた(非特許文献5)が、近年、低分子量タンパク質であるFAM150A(11.5kDa)及びFAM150B(14.5kDa)がALK及びLTKに機能的に結合することが発見された(非特許文献6、7)。また、FAM150Bの配列のうち、ADドメイン(N末端欠損体)と呼ばれる部分配列が、ALKに対して全長配列と同等の結合能及びリン酸化能を示すことが最近報告されている(非特許文献8)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】WO2015/069922
【非特許文献】
【0007】
【文献】Nat Rev Cancer. 2013; 13:685-700
【文献】Oncotarget, 2017, vol.8, (No.64),pp107513-107529
【文献】Cold Spring Harb Mol Case Stud. 2017; 3: a001115
【文献】Molecular Therapy, 2017, vol.25, 9, 2189-2201
【文献】PNAS, 2014, vol.111, 44, 15741-15745
【文献】eLife, 2015, 4, e09811
【文献】PNAS, 2015, vol.112, 52, 15862-15867
【文献】PNAS, 2018, vol.115, 33, 8340-8345
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、scFv型CAR-Tのin vitro及びin vivoにおける抗腫瘍活性は限定的であることが報告されている。また、scFv型CAR-Tの抗腫瘍活性は、標的腫瘍におけるALKの発現量に依存し、ALKの発現量が低い腫瘍に対する活性は期待できない等、CAR-T治療薬としての課題も報告されている。かかる観点からALKを発現する固形腫瘍に対して効果が期待される更なるCARの開発が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、ALKに対する生理的リガンドの可能性が示されたFAM150A及びFAM150Bを抗原結合ドメインとして用いたリガンド型CAR(以下、「ALK.CAR」と記載する)が、上記課題を解決した、固形腫瘍に対する養子免疫治療剤として適用できる可能性を考え、鋭意検討を行った。さらに、FAM150A及びFAM150Bの相同性の高い領域に着目し、N末端及び/又はC末端が欠損したトランケート型を抗原結合ドメインとして用いたALK.CAR(以下、「TrALK.CAR」と記載する)の検討を行った。
【0010】
その結果、ALK.CARもしくはTrALK.CARを遺伝子導入したT細胞(以下、それぞれ「ALK.CAR-T」及び「TrALK.CAR-T」と記載する)がALKを発現する腫瘍細胞に対する強力な抗腫瘍活性を示すことを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1] 未分化リンパ腫キナーゼ(ALK)の細胞外リガンド結合領域に結合する標的結合ドメインと、膜貫通ドメインと、細胞内シグナル伝達ドメインとを有するキメラ抗原受容体(chimeric antigen receptor:CAR)タンパク質をコードするポリヌクレオチドであって、標的結合ドメインが、FAM150A、FAM150B、及びALKの細胞外リガンド結合領域に結合するこれらの断片から選択される、上記ポリヌクレオチド。
[2] 標的結合ドメインが、FAM150A及び/又はFAM150Bのトランケート型断片である、上記[1]記載のポリヌクレオチド。
[3] 標的結合ドメインが、配列番号154(FAM150A)、配列番号146(TrFAM150A)、配列番号155(FAM150B)、及び配列番号148(TrFAM150B)からなる群より選ばれるアミノ酸配列からなるポリペプチドである、上記[1]記載のポリヌクレオチド。
[4] 標的結合ドメインが、配列番号146(TrFAM150A)又は配列番号148(TrFAM150B)のアミノ酸配列に対して90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなるポリペプチドである、上記[1]記載のポリヌクレオチド。
[5] 上記[1]~[4]のいずれかに記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
[6] 上記[1]~[4]のいずれかに記載のポリヌクレオチド、又は上記[5]に記載のベクターが導入された遺伝子改変細胞。
[7] ALK発現細胞に結合するCARタンパク質を細胞膜上に発現する、上記[6]記載の細胞。
[8] 上記[1]~[4]のいずれかに記載のポリヌクレオチド、又は上記[5]に記載のベクターを細胞に導入することを含む、CARタンパク質発現細胞の作製方法。
[9] 前記細胞への導入がトランスポゾン法によって行われる上記[8]に記載の作製方法。
[10] トランスポゾン法がpiggyBac法である上記[9]に記載の作製方法。
[11] 上記[5]に記載のベクターを含む、ALK発現細胞を標的とするCARタンパク質発現細胞の作製のためのキット。
[12] 上記[6]又は[7]記載の細胞を含む、ALK発現細胞が関与する疾患に対する治療剤。
[13] 上記[12]記載の治療剤と、医薬上許容される担体とを含む、医薬組成物。
[14] ALK発現細胞が関与する疾患が、神経芽腫、乳癌、子宮頸癌、子宮体癌、卵巣癌、黒色腫、星細胞腫、ユーイング肉腫、神経膠芽細胞腫、網膜芽細胞腫、横紋筋肉腫、非小細胞肺癌、前立腺癌、及び尿路上皮癌から選択される固形腫瘍である、上記[12]記載の治療剤又は上記[13]記載の組成物。
[15] 上記[12]記載の治療剤又は上記[13]記載の組成物を患者に治療的有効量で投与することを含む、神経芽腫、乳癌、子宮頸癌、子宮体癌、卵巣癌、黒色腫、星細胞腫、ユーイング肉腫、神経膠芽細胞腫、網膜芽細胞腫、横紋筋肉腫、非小細胞肺癌、前立腺癌、及び尿路上皮癌から選択される固形腫瘍の治療方法。
本明細書は本願の優先権の基礎となる日本国特許出願番号2019-103074号の開示内容を包含する。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、ALKを細胞表面に発現している標的細胞に結合し、抗腫瘍効果を発揮する遺伝子改変細胞が提供される。したがって、本発明の細胞は、神経芽腫を始めとした固形腫瘍疾患に対する養子免疫治療薬として利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】CAR 001のベクターマップを示す。
図2】CAR 002 (FAM150A-28z) のベクターマップを示す。
図3】CAR 003 (FAM150B-28z) のベクターマップを示す。
図4】CAR 004 (hALK48-28z) のベクターマップを示す。
図5】CAR 005 (ALK48-28z) のベクターマップを示す。
図6】ドナー-1のCAR-T 002~005又はMock-T細胞(Effector、E)の神経芽腫細胞株SH-SY5Y(Target、T)に対する抗腫瘍細胞活性を示した。CAR-T非添加群(No CAR)を100%としたときの腫瘍細胞の増殖率%として示す(A:E:T=4:1、B:E:T=2:1、C:E:T=1:1)。CAR-T 002~005のSH-SY5Yに対する殺傷効果が確認され、CAR-T 002、CAR-T 003の効果はCAR-T 004、CAR-T 005と比較して強力であった。
図7】ドナー-2のCAR-T 002~006又はMock-T細胞(E)の神経芽腫細胞株SH-SY5Y(T)に対する抗腫瘍細胞活性を示した。CAR-T非添加群(No CAR)を100%としたときの腫瘍細胞の増殖率%として示す(A:E:T=4:1、B:E:T=2:1、C:E:T=1:1)。CAR-T 002~005のSH-SY5Yに対する殺傷効果が確認され、CAR-T 002、CAR-T 003の効果はCAR-T 004、CAR-T 005と比較して強力であった。
図8】ドナー-1のCAR-T 002~005又はMock-T細胞(E)の神経芽腫細胞株NB-1(T)に対する抗腫瘍細胞活性を示す(A:E:T=4:1、B:E:T=2:1、C:E:T=1:1)。CAR-T 002~005のNB-1に対する殺傷効果が確認され、CAR-T 002、CAR-T 003の効果はCAR-T 004、CAR-T 005と比較して強力であった。
図9】ドナー-2のCAR-T 002~006又はMock-T細胞(E)の神経芽腫細胞株NB-1(T)に対する抗腫瘍細胞活性を示す(A:E:T=4:1、B:E:T=2:1、C:E:T=1:1)。CAR-T 002~005のNB-1に対する殺傷効果が確認され、CAR-T 002、CAR-T 003の効果はCAR-T 004、CAR-T 005と比較して強力であった。
図10】ドナー-2のCAR-T 002~006又はMock-T細胞(E)の神経芽腫細胞株IMR-32(T)に対する抗腫瘍細胞活性を示す(A:E:T=4:1、B:E:T=2:1、C:E:T=1:1)。CAR-T 002~005のIMR-32に対する殺傷効果が確認された。特にCAR-T 003の殺傷効果が強力であった。
図11】実施例4で使用したタンパク質のドメインマップを示す。
図12】表面プラズモン共鳴によるALK 001P及びLTK 001Pとリガンド001P及びリガンド002Pとの結合確認の結果を示す。リガンド001Pは、LTK 001Pに対して(B)、ALK 001Pに対する(A)より、優位に結合することが確認される。また、リガンド002Pは、ALK 001P(C)およびLTK 001P(D)に対して共に解離が遅く、強い結合が確認される。
図13】CAR 007 (FAM150ATr-28z) のベクターマップを示す。
図14】CAR 008 (FAM150BTr-28z) のベクターマップを示す。
図15】ドナー-1のCAR-T 003、008、006又はMock-T細胞(E)のSH-SY5Y(T)に対する抗腫瘍細胞活性を示す(A:E:T=4:1、B:E:T=2:1、C:E:T=1:1)。CAR-T 003及び008のSH-SY5Yに対する殺傷効果が確認された。特にCAR-T 008の殺傷効果はCAR-T 003のそれと比較して強く、E:T=1:1においても強力であった。
図16】ドナー-1のCAR-T 003、008、006又はMock-T細胞(E)のIMR-32(T)に対する抗腫瘍細胞活性を示す(A:E:T=4:1、B:E:T=2:1、C:E:T=1:1)。CAR-T 003及び008のIMR-32に対する殺傷効果が確認された。特にCAR-T 008の殺傷効果はCAR-T 003のそれと比較して強く、E:T=1:1においても強力であった。
図17】ドナー-2のCAR-T 003、008、006又はMock-T細胞(E)のSH-SY5Y(T)に対する抗腫瘍細胞活性(A:E:T=4:1、B:E:T=2:1、C:E:T=1:1)及び腫瘍細胞の相対的細胞数をプロットした増殖曲線(D:E:T=4:1、E:E:T=2:1、F:E:T=1:1)を示す。CAR-T 003及び008のSH-SY5Yに対する殺傷効果が確認された。特にCAR-T 008の殺傷効果はCAR-T 003のそれと比較して強く、E:T=1:1においても強力であった。
図18】ドナー-2のCAR-T 003、008、006又はMock-T細胞(E)のIMR-32(T)に対する抗腫瘍細胞活性(A:E:T=4:1、B:E:T=2:1、C:E:T=1:1)及び腫瘍細胞の増殖曲線(D:E:T=4:1、E:E:T=2:1、F:E:T=1:1)を示す。CAR-T 003及び008のIMR-32に対する殺傷効果が確認された。特にCAR-T 008の殺傷効果はCAR-T 003のそれと比較して強く、E:T=1:1においても強力であった。
図19】実施例9及び10で使用したタンパク質のドメインマップを示す。
図20-1】表面プラズモン共鳴によるALK 001P及びLTK 001Pとリガンド005P及びリガンド006Pとの結合確認の結果を示す。
図20-2】表面プラズモン共鳴によるALK 001P及びLTK 001Pとリガンド003P及びリガンド007Pとの結合確認の結果を示す。
図20-3】表面プラズモン共鳴によるALK 001P及びLTK 001Pとリガンド008P及びリガンド009Pとの結合確認の結果を示す。
図20-4】表面プラズモン共鳴によるALK 001P及びLTK 001Pとリガンド010P及びリガンド011Pとの結合確認の結果を示す。
図21-1】表面プラズモン共鳴によるALK 001P及びLTK 001Pとリガンド012P及びリガンド013Pとの結合確認の結果を示す。
図21-2】表面プラズモン共鳴によるALK 001P及びLTK 001Pとリガンド014P及びリガンド015Pとの結合確認の結果を示す。
図21-3】表面プラズモン共鳴によるALK 001P及びLTK 001Pとリガンド016P及びリガンド017Pとの結合確認の結果を示す。
図21-4】表面プラズモン共鳴によるALK 001P及びLTK 001Pとリガンド018P及びリガンド019Pとの結合確認の結果を示す。
図22-1】表面プラズモン共鳴によるALK 001P及びLTK 001Pとリガンド020P及びリガンド021Pとの結合確認の結果を示す。
図22-2】表面プラズモン共鳴によるALK 001P及びLTK 001Pとリガンド022P及びリガンド023Pとの結合確認の結果を示す。
図22-3】表面プラズモン共鳴によるALK 001P及びLTK 001Pとリガンド024Pとの結合確認の結果を示す。
図23】CAR 009 (FAM150A-8αBBz) のベクターマップを示す。
図24】CAR 010 (FAM150B-8αBBz) のベクターマップを示す。
図25】CAR 011 (FAM150ATr-8αBBz) のベクターマップを示す。
図26】CAR 012 (FAM150BTr-8αBBz) のベクターマップを示す。
図27】CAR 013 (hALK48-8αBBz) のベクターマップを示す。
図28】CAR 014 (ALK48-8αBBz) のベクターマップを示す。
図29】ドナー-1のCAR-T 009~014又はMock-T細胞(E)のSH-SY5Y(T)に対する抗腫瘍細胞活性(A:E:T=4:1、B:E:T=2:1、C:E:T=1:1)及び腫瘍細胞の増殖曲線(D:E:T=4:1、E:E:T=2:1、F:E:T=1:1)を示す。
図30】ドナー-1のCAR-T 009~014又はMock-T細胞(E)のMDA-MB231 ffLuc(T)に対する抗腫瘍細胞活性(A:E:T=4:1、B:E:T=2:1、C:E:T=1:1)及び腫瘍細胞の増殖曲線(D:E:T=4:1、E:E:T=2:1、F:E:T=1:1)を示す。
図31】CAR 015 (FAM150BT14-28z) のベクターマップを示す。
図32】CAR 016 (FAM150BT15-28z) のベクターマップを示す。
図33】CAR 017 (FAM150BT17-28z) のベクターマップを示す。
図34】CAR 018 (FAM150BT18-28z) のベクターマップを示す。
図35】CAR 019 (FAM150BT19-28z) のベクターマップを示す。
図36】ドナー-1のCAR-T 015、016、017、018、019、008、006又はMock-T細胞(E)のSH-SY5Y(T)、NB-1(T)、IMR32(T)及びMDA-MB231 ffLuc(T)に対する抗腫瘍細胞活性を示す(E:T=1:1)。
図37】CAR 020 (FAM150BTr-BBz dCH2CH3) のベクターマップを示す。
図38】ドナー-1のCAR-T 006、012、020又はMock-T細胞(E)のSH-SY5Y(T)、NB-1(T)、IMR32(T)及びMDA-MB231 ffLuc(T)に対する抗腫瘍細胞活性を示す(E:T=1:1)。
図39】pEHX-ALKのベクターマップを示す。
図40】pEHX-LTKのベクターマップを示す。
図41】ALK発現クローン及びLTK発現クローンのフローサイトメトリー解析結果を示す。
図42】CAR 021 (FAM150BTr-28z dCH2CH3)のベクターマップを示す。
図43】CAR 022 (ALK48 scFv-28z dCH2CH3)のベクターマップを示す。
図44】CAR-T 021、CAR-T 022、又はMock-T細胞をALK高発現細胞A24に添加した時のCell Indexの経時推移を示す。A:E:T=40:1、B:E:T=20:1、C:E:T=10:1。「A24」はエフェクター細胞なしで培養した結果を示す。
図45】CAR-T 021、CAR-T 022、又はMock-T細胞をLTK高発現細胞L10に添加した時のCell Indexの経時推移を示す。A:E:T=40:1、B:E:T=20:1、C:E:T=10:1。「L10」はエフェクター細胞なしで培養した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施の形態について、以下に詳細に説明する。
上記の通り、本発明は、未分化リンパ腫キナーゼ(ALK)の細胞外リガンド結合領域に結合する標的結合ドメインと、膜貫通ドメインと、細胞内シグナル伝達ドメインとを有するキメラ抗原受容体(chimeric antigen receptor:CAR)タンパク質をコードするポリヌクレオチドであって、標的結合ドメインが、FAM150A、FAM150B、及びALKの細胞外リガンド結合領域に結合するこれらの断片から選択される、上記ポリヌクレオチドを提供する。
【0015】
免疫療法において、単一の抗原が標的とされる場合、種々の療法の経過中に生じ得る抗原消失エスケープ変異体の成長による癌の再発可能性を低減する等の観点からは、CARは複数の抗原を認識できることが好ましい。したがって、本発明の実施態様の一つとしては、二重特異性を有するCARの提供である。例えば、ALKおよびLTKの細胞外リガンド結合領域に結合する標的結合ドメインを有するCARタンパク質をコードするポリヌクレオチドを提供する。
【0016】
本明細書において記載する「未分化リンパ腫キナーゼ(ALK)」とは、1994年に未分化大細胞リンパ腫において、ヌクレオフォスミン(nucleophosmin)との融合分子として同定されたインスリン受容体スーパーファミリーに属する受容体チロシンキナーゼであり、神経芽腫、乳癌、肺癌などの固形腫瘍細胞表面に発現することが知られている細胞膜結合性タンパク質である。ALKの細胞外ドメインは、MAM及びグリシンに富む領域を含む受容体として機能しており、細胞内のキナーゼドメインが受容体へのリガンドの結合後のシグナル伝達に関与している。受容体へのリガンドの結合等によってALKが活性化すると、キナーゼの作用により、腫瘍細胞が増殖する。
【0017】
ALK発現腫瘍としては、神経芽腫、乳癌、子宮頸癌、子宮体癌、卵巣癌、黒色腫、星細胞腫、ユーイング肉腫、神経膠芽細胞腫、網膜芽細胞腫、横紋筋肉腫、非小細胞肺癌、前立腺癌、尿路上皮癌等の固形腫瘍が挙げられ、これらの腫瘍でのALKの高発現が報告されている他、特にキナーゼドメイン内の変異によるがん化も知られている。また、ALKが細胞内において他の遺伝子との融合タンパク質を形成することでALKが恒常的に活性化して腫瘍となる例も知られているが、融合タンパク質の場合は細胞外のリガンド結合領域が存在しないため、本発明の標的には含まれない。従って、本明細書において、「ALK発現細胞」とは、特に細胞外にリガンド結合領域を有するALKが発現している細胞をいうものとする。
【0018】
ALKタンパク質のアミノ酸配列及び塩基配列は、例えばNCBIのデータベースにAccession No.: NM_004304.4又はNM_004304.5として記載されている。
【0019】
白血球チロシンキナーゼ(leukocyte tyrosine kinase:LTK)は、1988年に部分構造が同定され、1991年に全長が100kDaのグリコシル化されたタンパク質であることが報告された、受容体チロシンキナーゼであり、Bリンパ球前駆体、Bリンパ球、造血幹細胞、脳、胎盤、各種癌細胞に発現することが知られている。LTKタンパク質のアミノ酸配列及び塩基配列は、例えばNCBIのデータベースにAccession No.: NM_002344.5)として記載されている。
【0020】
本明細書において「キメラ抗原受容体(CAR)」とは、標的特異性をT細胞(例えば、ナイーブT細胞、ステムセルメモリーT細胞、セントラルメモリーT細胞、エフェクターメモリーT細胞、又はそれらの組み合わせ等のT細胞)等の細胞に移植することができる改変受容体を指す。CARはまた、人工T細胞受容体、キメラT細胞受容体、又はキメラ免疫受容体としても知られる。
【0021】
本発明の方法において使用されるCARは、ALKの細胞外リガンド結合領域に結合する標的結合ドメインと、膜貫通ドメインと、細胞内シグナル伝達ドメインとを有するものである。ここで、「ドメイン」とは、ポリペプチド内の領域であって、他の領域とは独立して特定の構造に折りたたまれる領域を示す。
【0022】
本明細書で使用される場合、「ポリヌクレオチド」には、天然又は合成のDNA及びRNA、例えばゲノムDNA、cDNA(相補DNA)、mRNA(メッセンジャーRNA)、rRNA(リボソームRNA)、shRNA(小ヘアピンRNA)、snRNA(核内低分子RNA)、snoRNA(核小体低分子RNA)、miRNA(マイクロRNA)、及び/又はtRNAが含まれるが、これらに限定されない。
【0023】
本明細書において「コードする」とは、当分野において通常使用されているように、所定のヌクレオチド配列が所定のタンパク質又は(ポリ)ペプチドのアミノ酸配列情報を暗号化していることをいい、本明細書において、センス鎖及びアンチセンス鎖の両方を「コードする」との文脈において使用する。
【0024】
本発明のCARタンパク質はALKの細胞外リガンド結合領域に結合する「標的結合ドメイン」を含む。標的結合ドメインは、ALKの細胞外リガンド結合領域への結合性を示し、ALKを細胞表面上に発現している標的細胞に対する免疫応答を可能にする。
【0025】
したがって、標的結合ドメインとして、ALKに対するリガンドであるFAM150A、FAM150B、及びALKの細胞外リガンド結合領域に結合するこれらの断片を用いることができる。断片の好ましい態様としては、FAM150A及び/又はFAM150Bのトランケート型断片を用いることできる。
【0026】
FAM150Aは、NCBI Accession No.: NM_207413.4として配列情報を入手することができ、その翻訳領域をコードする配列番号1の塩基配列に基づいて作製することができる。また、FAM150Bは、NCBI Accession No.: NM_001002919.2として配列情報を入手することができ、その翻訳領域をコードする配列番号3の塩基配列に基づいて作製することができる。
【0027】
本発明において、標的ドメインとしては、天然に存在する全長型のFAM150A及びFAM150Bを使用することができる。具体的には標的結合ドメインとして、FAM150Aとして配列番号145(Uniprot No. :Q6UXT8-1(1‐129))又は配列番号154(Uniprot No. :Q6UXT8-1(28‐129))等を使用することができ、FAM150Bとして配列番号147(Uniprot No. :Q6UX46-1(1‐152))又は配列番号155(Uniprot No. :Q6UX46-1(25‐152))等を使用することができる。さらに、そのトランケート体をもALK結合性断片として使用することができる。具体的には、例えば標的結合ドメインとして、配列番号147(FAM150B)のアミノ酸配列のうち、67-152番のアミノ酸残基、69-152番のアミノ酸残基、71-152番のアミノ酸残基、73-152番のアミノ酸残基、75-152番のアミノ酸残基、77-152番のアミノ酸残基、79-152番のアミノ酸残基、81-152番のアミノ酸残基、83-152番のアミノ酸残基、85-152番のアミノ酸残基、87-152番のアミノ酸残基、89-152番のアミノ酸残基、91-152番のアミノ酸残基、93-152番のアミノ酸残基、71-150番のアミノ酸残基、又は71-148番のアミノ酸残基のアミノ酸配列からなるポリペプチドを用いることができる。
【0028】
より好ましくは、標的結合ドメインとして、配列番号154(FAM150A)、配列番号146(TrFAM150A)、配列番号155(FAM150B)、及び配列番号148(TrFAM150B)からなる群より選ばれるアミノ酸配列からなるポリペプチドを用いることができる。
【0029】
また、配列番号146(TrFAM150A)又は配列番号148(TrFAM150B)のアミノ酸配列に対して90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなるポリペプチドも同様に使用することができる。
【0030】
ALKの細胞外リガンド結合領域に対する標的結合ドメインの結合能は、KD値が例えば100nM以下、好ましくは10nM以下、より好ましくは5nM以下であることを意図する。この結合能は、抗原と抗体との結合能と比較して相対的に弱い結合であって良い。
【0031】
CARタンパク質は、場合によって、細胞外に存在する標的結合ドメインと膜貫通ドメインとの間に「細胞外スペーサードメイン」を含むことができる。細胞外スペーサードメインは、CARと抗原の結合を促進し、細胞内へのシグナル伝達を亢進する配列であることが望ましい。例えば、抗体のFcフラグメント、又はそのフラグメントもしくは誘導体、抗体のヒンジ領域、又はそのフラグメントもしくは誘導体、抗体のCH2領域、抗体のCH3領域、人工スペーサー配列、又はそれらの組み合わせを用いることができる。
【0032】
本発明の一態様として、細胞外スペーサードメインとして、(i)IgG4のヒンジ、CH2、及びCH3領域、(ii)IgG4のヒンジ領域、(iii)IgG4のヒンジ及びCH2、(iv)CD8aのヒンジ領域、(v)IgG1のヒンジ、CH2、及びCH3領域、(vi)IgG1のヒンジ領域、もしくは(vii)IgG1のヒンジ及びCH2、又はそれらの組み合わせを使用することができる。例えば、IgG1のヒンジ領域として、以下のアミノ酸配列(配列番号149)を有するものを好適に使用することができるが、これに限定されるものではない。
【0033】
また、IgG1のCH2領域として、配列番号150に示すアミノ酸配列を有するもの、CH3領域として、配列番号151に示すアミノ酸配列を有するものをそれぞれ好適に使用することができる。
【0034】
好ましい態様として、細胞外スペーサードメインはヒトIgG1のヒンジ、CH2、及びCH3領域又はその一部を使用することができる。
【0035】
また、好ましい態様として、細胞外スペーサードメインは、(i)ヒトIgG1のヒンジ領域単独(配列番号149)、(ii)ヒトIgG1のヒンジ領域(配列番号149)及びCH2領域(配列番号150)及びCH3領域(配列番号151)の組み合わせ、(iii)ヒトIgG1のヒンジ領域(配列番号149)及びCH3領域(配列番号151)の組み合わせ、(iv)CH3領域単独(配列番号151)、で使用することができる。
【0036】
本発明の一態様として、細胞外スペーサードメインに用いる人工スペーサー配列として、式(G4S)nで表されるスペーサー配列を使用することができる。式中、nは、1~10であり、好ましくはn=3である。このようなスペーサー配列を有するスペーサーは、ペプチドリンカーと呼ばれることもある。当分野において好適に使用されるペプチドリンカーを、本発明において適宜使用することができる。この場合、ペプチドリンカーの構成及び鎖長は、得られるCARタンパク質の機能を損なわない範囲で適切なものを選択することができる。
【0037】
細胞外スペーサードメインは、特に限定するものではないが、上記に例示したものから適宜選択して、又は当分野における技術常識に基づいて更に改変して、本発明のために使用することができる。
細胞外スペーサードメインは、標的結合ドメインと、膜貫通ドメインとの間に存在し得るように、それぞれのドメインのアミノ酸配列をコードする塩基配列を連結してベクターに挿入し、宿主細胞において発現させることができる。あるいはまた、細胞外スペーサードメインは、予め作製したプラスミドCARタンパク質をコードするポリヌクレオチドを鋳型として改変することもできる。
細胞外スペーサードメインの改変は、例えば、CARをコードするポリヌクレオチドを導入したCAR-T細胞の宿主細胞におけるCAR遺伝子発現率の向上、シグナル伝達、細胞の老化、腫瘍への分布、抗原認識又はin vivo活性への影響を考慮した場合に有用である。
【0038】
CARタンパク質は、標的結合ドメイン及び任意に細胞外スペーサードメインを含む細胞外ドメインと、膜貫通ドメインと、細胞内シグナル伝達ドメイン及び任意に共刺激ドメインを含む細胞内ドメインとを含む。当分野において周知であるように、「膜貫通ドメイン」は、細胞外ドメイン及び細胞内ドメインがいずれも親水性ドメインであるのに対して、細胞膜を構成する脂質二重層に対する親和性を有するドメインである。
【0039】
膜貫通ドメインは、CARタンパク質が細胞膜上に存在でき、標的結合ドメインと細胞内シグナル伝達ドメインの機能を損なわない限り、特に限定するものではないが、後述する共刺激ドメインと同じタンパク質由来のポリペプチドが膜貫通ドメインとしての機能を果たす場合もあり得る。膜貫通ドメインは、例えば、CD28、CD3ε、CD8α、CD3、CD4又は4-1BBなどの膜貫通ドメインを用いることができる。例えば、膜貫通ドメインは、ヒトCD28(Uniprot No. :P10747(153‐179))を使用することができる。具体的には、NCBI Accession No.: NM_006139.3 (679-759)のヌクレオチド配列によってコードされるアミノ酸配列を有するものを膜貫通ドメインとして好適に使用することができる。
【0040】
CARタンパク質は、場合によって「共刺激ドメイン」を含むことができる。共刺激ドメインは共刺激リガンドと特異的に結合し、それによって、これらに限定されないが、CAR-T細胞の増殖、サイトカイン産生、機能分化、標的細胞の細胞死のような、細胞による共刺激応答が媒介される。共刺激ドメインとしては、例えば、CD27、CD28、4-1BB (CD137)、CD134 (OX40)、Dap10、CD27、CD2、CD5、CD30、CD40、PD-1、ICAM-1、LFA-1 (CD11a/CD18)、TNFR-1、TNFR-II、Fas、Lckを用いることができる。例えば、共刺激ドメインは、ヒトCD28(Uniprot No. :P10747(180‐220))又は4-1BB(GenBank:U03397.1)等を使用することができる。具体的には、NCBI Accession No.: NM_006139.3 (760-882)のヌクレオチド配列によってコードされるアミノ酸配列を有するものを共刺激ドメインとして好適に使用することができる。
膜貫通ドメインと共刺激ドメインとをいずれもヒトCD28由来のものを使用する場合、例えば配列番号152に示すアミノ酸配列を有するものを使用することができる。
【0041】
CARタンパク質は「細胞内シグナル伝達ドメイン」を含む。細胞内シグナル伝達ドメインは、免疫細胞のエフェクター機能の発揮に必要なシグナルを伝達する。細胞内シグナル伝達ドメインとしては、例えば、ヒトCD3ζ鎖、FcγRIII、FcεRI、Fc受容体の細胞質末端、免疫受容体チロシン活性化モチーフ(ITAM)を有する細胞質受容体又はそれらの組み合わせを用いることができる。例えば、細胞内シグナル伝達ドメインは、ヒトCD3ζ鎖(例えばNCBI Accession No. NM_000734.3のヌクレオチド299-637)を使用することができる。具体的には配列番号153に示すアミノ酸配列を有するものを細胞内シグナル伝達ドメインとして好適に使用することができる。
【0042】
CARタンパク質の分泌を促す目的で、タンパク質のN末端に、翻訳時にまたは翻訳後にタンパク質の移行を導くシグナル(またはリーダー)配列が適宜含まれる。本発明において好適に使用し得る有用なシグナル配列の例としては、これらに限定されないが、ヒトイムノグロブリン(Ig)重鎖シグナルペプチド、CD8αシグナルペプチド、またはヒトGM-CSF受容体αシグナルペプチドを挙げることができる。Ig重鎖シグナルペプチドは例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgA1、IgM由来のもの等を好適に使用することができる。
【0043】
目的とするポリヌクレオチドは常法に従い、容易に作製することができる。各ドメインのアミノ酸配列を示すNCBI RefSeq IDやGenBankのAccession番号からアミノ酸配列をコードする塩基配列を取得することが可能であり、標準的な分子生物学的及び/又は化学的手順を用いて本発明のポリヌクレオチドを作製することができる。例えば、これらの塩基配列をもとに、核酸を合成することができ、また、cDNAライブラリーよりポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を使用して得られるDNA断片を組み合わせて本発明のポリヌクレオチドを作製することができる。
【0044】
従って、CARタンパク質をコードするポリヌクレオチドは、上記のそれぞれのドメインをコードするポリヌクレオチドを連結して作製することができ、このポリヌクレオチドを適切な細胞に導入することによって、遺伝子改変細胞を作製することができる。また、CARタンパク質は、標的結合ドメイン以外の構成成分が同一である既存のCARタンパク質をコードするポリヌクレオチドを鋳型として、常法に従い、標的結合ドメインを組み替えることによっても作製することができる。
【0045】
更に、目的に応じて、既存のCARタンパク質をコードするポリヌクレオチドを鋳型として、1以上のドメイン、例えば細胞外スペーサードメインを、inverse PCR(iPCR)法等を使用して、改変することができる。細胞外スペーサードメインの改変技術については、例えばOncoimmunology, 2016, Vol.5, No.12, e1253656等に記載されている。
【0046】
遺伝子改変細胞を作製するためのポリヌクレオチドの導入方法は、通常使用されているものであればいずれでも良く、特に限定されるものではない。ベクターを用いて導入する場合、使用され得るベクターとしては、特に限定するものではないが、例えばレンチウイルスベクター、レトロウイルスベクター、泡沫状ウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター等が挙げられる。また、ポリヌクレオチドの導入は、トランスポゾン法による非ウイルス性の方法で実施することができる。トランスポゾン法のために、プラスミドトランスポゾンを使用することができ、sleeping beautyトランスポゾンシステム(例えばHuang X, Guo H, et al. Mol Ther. 2008; 16: 580-9;Singh H, Manuri PR, et al. Cancer Res. 2008; 68: 2961-71;Deniger DC, Yu J, et al. PLoS One. 2015; 10: e0128151;Singh H, Moyes JS, et al. Cancer Gene Ther. 2015; 22: 95-100;Hou X, Du Y, et al. Cancer Biol Ther. 2015; 16: 8-16;Singh H, Huls H, et al. Immunol Rev. 2014; 257: 181-90;及びMaiti SN, Huls H, et al. J Immunother. 2013; 36: 112-23に記載)又はpiggyBacトランスポゾンシステム(Nakazawa Y, Huye LE, et al. J Immunother. 2009; 32: 826-36;Galvan DL, Nakazawa Y, et al. J Immunother. 2009; 32: 837-44;Nakazawa Y, Huye LE, et al. Mol Ther. 2011; 19: 2133-43;Huye LE, Nakazawa Y, et al. Mol Ther. 2011; 19: 2239-48;Saha S, Nakazawa Y, et al. J Vis Exp. 2012; (69): e4235;Nakazawa Y, Saha S, et al. J Immunother. 2013; 36: 3-10; Saito S, Nakazawa Y, et al. Cytotherapy. 2014; 16: 1257-69;及びNakazawa et al. Journal of Hematology & Oncology (2016) 9:27に記載)が好適に使用できる。
【0047】
piggyBacトランスポゾンシステムを使用する場合、典型的には、piggyBacトランスポザーゼをコードする遺伝子を保持したプラスミド(本明細書中においてpiggyBacプラスミドと記載する)と、CARタンパク質をコードするポリヌクレオチドがpiggyBac逆向き反復配列に挟まれた構造を備えるプラスミドとを導入(トランスフェクション)する。トランスフェクションには、電気穿孔法(エレクトロポレーション)、ヌクレオフェクション、リポフェクション、リン酸カルシウム法等の各種手法が利用できる。双方のプラスミドには、ポリA付加シグナル配列、レポーター遺伝子、選択マーカー遺伝子、エンハンサー配列等を含めることができる。
【0048】
エレクトロポレーションのために使用する装置としては、限定するものではないが、例えば4D-Nucleofector(ロンザジャパン株式会社)、NEPA21(ネッパジーン株式会社)、Maxcyte GT(Maxcyte, Inc)等を用いることができ、それぞれの使用説明書に従って操作することができる。
上記の方法により、1×106~2×107個の範囲の細胞に遺伝子導入することが可能である。
【0049】
上記のポリヌクレオチドが導入される細胞としては、哺乳動物、例えばヒト由来の細胞又はサル、マウス、ラット、ブタ、ウシ、イヌ等の非ヒト哺乳動物由来のT細胞又はT細胞を含む細胞集団が使用でき、細胞傷害性タンパク質(パーフォリン、グランザイム等)を放出する細胞を用いることが好ましい。具体的には、例えばT細胞、T細胞の前駆細胞(造血幹細胞、リンパ球前駆細胞等)、NK-T細胞を含有する細胞集団を使用することができる。さらに、これらの細胞に分化し得る細胞としてES細胞、iPS細胞等の各種幹細胞が含まれる。T細胞には、CD8陽性T細胞、CD4陽性T細胞、制御性T細胞、細胞傷害性T細胞、又は腫瘍浸潤リンパ球が含まれる。T細胞及びT細胞の前駆細胞を含有する細胞集団には、PBMCが含まれる。前記の細胞は生体より採取されたもの、それを拡大培養したもの又は細胞株として樹立されたもののいずれでもよい。製造されたCARを発現する細胞又は当該細胞より分化させた細胞を生体に移植する場合には、その生体自身又は同種の生体から採取された細胞に核酸を導入することが望ましい。
【0050】
本発明の遺伝子改変細胞のためにポリヌクレオチドが導入され、養子免疫療法に使用されるT細胞としては、持続的な抗腫瘍効果が期待されるT細胞、例えば、ステムセルメモリーT細胞を使用することができる。ステムセルメモリーT細胞の解析は、常法に従い、例えば、(Yang Xu, et al. Blood. 2014; 123:3750-3759)等の記載に従って容易に確認することができる。
【0051】
実施態様の一つとしては、ステムセルメモリーT細胞は、例えば、CD45R0-、CD62L+、CD45RA+及びCCR7+であるT細胞が使用できる。
【0052】
本発明はまた、上記の本発明のポリヌクレオチドを含むベクターを提供する。
本発明はまた、上記の本発明のポリヌクレオチド、又は上記の本発明のベクターが導入された遺伝子改変細胞を提供する。本発明の遺伝子改変細胞は、ALK発現細胞に結合するCARタンパク質を細胞膜上に発現し得る。
【0053】
本発明は更に、上記本発明のポリヌクレオチド、又は上記本発明のベクターを細胞に導入することを含む、CARタンパク質発現細胞の作製方法を提供する。
CARタンパク質発現細胞の培養・増幅は、特に限定するものではないが、例えば上記のようにしてCARタンパク質をコードするポリヌクレオチドを細胞に導入した後、CARタンパク質発現細胞の活性化等の目的で、細胞に対して非特異的あるいはCAR特異的な刺激を加えることができる。細胞刺激の方法は限定されるものではないが、例えば、非特異的な細胞刺激として、抗CD3抗体及び/又は抗CD28抗体による刺激を用いることができ、CAR特異的な刺激としては、K562等の腫瘍細胞株にCARに結合する抗原分子や共刺激因子を発現させた人工抗原提示細胞(aAPCs)によるCAR特異的刺激等を用いることができる。ここでの培養条件は、特に限定するものではないが、例えば、37℃で1~21日間培養することが好適である。
【0054】
上記の本発明の方法において、細胞への導入は、限定するものではないが、トランスポゾン法によって行うことが好適である。また、トランスポゾン法としては、上記したトランスポゾンシステム、及び本発明に適した他のシステムのいずれを用いても良く、特に限定するものではないが、piggyBac法を使用することで本発明の方法を好適に実施することができる。
【0055】
非特異的刺激による別の態様としては、T細胞を含む細胞集団を1種または複数種のウイルスペプチド抗原により刺激を加えた後、常法によりウイルス増殖能を不活化処理した細胞をフィーダー細胞として、CARが導入された細胞の活性化を促すことができる。使用されるウイルスペプチド抗原は、例えばAdV抗原ペプチド混合物、CMV抗原ペプチド混合物又はEBV抗原ペプチド混合物、あるいはこれらの組み合わせが使用される。具体例は実施例に示す。
【0056】
また、細胞の生存率/増殖率を高める目的で1種または複数種のサイトカインの存在下で行うことができ、例えばIL-7及びIL-15等のサイトカインの存在下で培養することが好適である。
【0057】
本発明は更に、上記本発明のベクターを含む、ALK発現細胞を標的とするCARタンパク質発現細胞の作製のためのキットを提供する。本発明のキットには、CARタンパク質発現細胞の作製のために必要な試薬、緩衝液、反応容器、使用説明書等を適宜含めることができる。本発明のキットは、上記の本発明の遺伝子改変細胞を作製するために好適に使用することができる。
【0058】
本発明の細胞は、ALKを表面に発現している標的細胞に対して、受容体特異的免疫応答を引き起こすことによって、細胞内にシグナルが伝達され、活性化される。CARを発現する細胞の活性化は、宿主細胞の種類やCARの細胞内ドメインによって異なるが、例えば、サイトカインの放出、細胞増殖率の向上、細胞表面分子の変化等を指標として確認することができる。細胞傷害性タンパク質の放出(パーフォリン、グランザイムなど)は、受容体を発現している細胞の破壊をもたらす。
【0059】
本発明の遺伝子改変細胞は、ALK発現細胞が関与する疾患の治療剤として使用することができる。本発明の治療剤による治療が期待される疾患としては、当該細胞に感受性を示す疾患であれば良く、限定されないが、例えば、ALKを細胞膜上に発現する細胞が関連する疾患、例えば神経芽腫、乳癌、子宮頸癌、子宮体癌、卵巣癌、黒色腫、星細胞腫、ユーイング肉腫、神経膠芽細胞腫、網膜芽細胞腫、横紋筋肉腫、非小細胞肺癌、前立腺癌、尿路上皮癌等の固形腫瘍が挙げられる。
【0060】
本発明の治療剤の一態様は、上記固形腫瘍のようなALK発現腫瘍細胞に対する抗癌剤である。本発明の治療剤又は抗癌剤は、単独で使用することもできるが、異なるメカニズムの薬剤及び/又は治療と組み合わせて使用することができる。
【0061】
従って、本発明の治療剤は、単独又は他の有効成分と組み合わせて、医薬組成物の形態とすることができる。本発明の治療剤又は医薬組成物は、局所投与又は全身投与することができ、投与形態を限定するものではないが、例えば神経芽腫の治療の場合には、静脈内投与とすることが好ましい。医薬組成物には、本発明の治療剤及び他の有効成分の他に、投与形態に応じて、当分野で通常使用される担体、賦形剤、緩衝剤、安定化剤等を含めることができる。本発明の治療剤の投与量は、患者の体重、年齢、疾患の重篤度等に応じて変動するものであり、特に限定するものではないが、例えば、104~1010 CAR陽性細胞数/kg体重の範囲で1日1回~数回、2日毎、3日毎、1週間毎、2週間毎、毎月、2カ月毎、3カ月毎に投与することが可能である。
【0062】
本発明は更に、上記の本発明の治療剤又は医薬組成物を患者に治療的有効量で投与することを含む、神経芽腫、乳癌、子宮頸癌、子宮体癌、卵巣癌、黒色腫、星細胞腫、ユーイング肉腫、神経膠芽細胞腫、網膜芽細胞腫、横紋筋肉腫、非小細胞肺癌、前立腺癌、及び尿路上皮癌から選択される固形腫瘍の治療方法を提供する。治療的有効量及び投与レジメンは、上記したような様々な因子を考慮して、適宜決定することができる。
【実施例
【0063】
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0064】
[実施例1 FAM150A(CAR 002; FAM150A-28z)、 FAM150B(CAR 003; FAM150B-28z)、 ヒト化ALK48 scFv(CAR 004; hALK48-28z)又はマウスALK48 scFv型CAR発現プラスミド(CAR 005; ALK48-28z)の作製]
<FAM150A、FAM150B、ヒト化ALK48 scFv又はマウスALK48 scFv遺伝子の人工合成>
WO 2018/052142に記載されているGMR CAR発現プラスミド(CAR 001、ベクターマップを図1に示す)と同様の構成のCAR発現プラスミドを作製するために、プラスミドに組み込むためのFAM150A、FAM150B、ヒト化ALK48 scFv及びマウスALK48 scFv遺伝子をそれぞれ合成した。
【0065】
FAM150A(NCBI Accession No.: NM_207413.3)の翻訳領域(206~592塩基;配列番号1)の配列の上流に制限酵素XhoIの切断配列及びリーダー配列、下流にヒンジ領域及び制限酵素DraIIIの切断配列を付加したDNA配列(XhoI-leader-FAM150A-Hinge-DraIII; 配列番号2)をデザインした。リーダー配列はヒトイムノグロブリン(Ig)重鎖シグナルペプチドのアミノ酸配列(配列番号143)に翻訳されるDNA配列とした。
FAM150B(NCBI Accession No.: NM_001002919.2)の翻訳領域(354~809塩基;配列番号3)の配列にも同様に制限酵素切断配列、リーダー配列及びヒンジ領域の配列を付加したDNA配列(XhoI-leader-FAM150B-Hinge-DraIII; 配列番号4)をデザインした。リーダー配列はヒトイムノグロブリン(Ig)重鎖シグナルペプチドのアミノ酸配列(配列番号143)に翻訳されるDNA配列とした。
デザインした配列をヒトにコドン最適化したDNA配列として人工合成した(ユーロフィンジェノミクス株式会社に委託)。
【0066】
一方、WO 2015/069922に記載されているヒト化ALK48 scFv及びマウスALK48 scFvのアミノ酸配列(配列番号5及び配列番号6)に基づき、ヒトにコドン最適化したDNA配列にFAM150A及びFAM150Bと同様に制限酵素切断配列、リーダー配列及びヒンジ領域を付加したDNA配列(XhoI-leader-ヒト化ALK48 scFv-Hinge-DraIII(配列番号7)及びXhoI-leader-マウスALK48 scFv-Hinge-DraIII(配列番号8)をデザインし、人工合成してpEX-K4J1ベクター中に組み込んだ(ユーロフィンジェノミクス株式会社に委託)。
【0067】
<FAM150A型CAR発現プラスミド(CAR 002)、FAM150B型CAR発現プラスミド(CAR 003)、ヒト化ALK48 scFv型CAR発現プラスミド(CAR 004)及びマウスALK48 scFv型CAR発現プラスミド(CAR 005)の作製>
約1μg相当量のCAR 001(WO 2015/069922に記載の方法で作製)を制限酵素XhoI及びDraIII(New England Biolabs)により37℃で約2時間消化した。同様に上記で人工合成した4種の遺伝子約1μg相当量も制限酵素XhoI及びDraIIIにより37℃で約2時間消化した。
【0068】
酵素処理済み反応液を1%又は2%アガロース電気泳動にて分離し、CAR 001の酵素処理断片(ベクター側)とpEX-K4J1ベクターから切り出された人工合成遺伝子インサート断片(配列番号2、4、7又は8)をゲルから切り出し、NucleoSpin Gel and PCR Clean-up(登録商標、マッハライ・ナーゲル、タカラバイオ株式会社)を用いて精製した。精製したベクター断片とインサート断片をDNA Ligation Kit<Mighty Mix>(タカラバイオ株式会社)を用いて連結した。連結した環状プラスミドにより大腸菌DH5α(東洋紡株式会社)を形質転換し、100μg/mLカルベニシリン含有LB寒天培地上で約16時間培養した。
【0069】
出現したコロニーをさらに100μg/mLカルベニシリン含有LB液体培地中で約16時間培養した。培養した大腸菌からQIAprep Spin Miniprep Kit(キアゲン)を用いて各プラスミドを精製し、塩基配列の確認を行い、目的の塩基配列の導入が確認されたプラスミドをそれぞれFAM150A型CAR発現プラスミド(CAR 002;FAM150A-28z)、FAM150B型CAR発現プラスミド(CAR 003;FAM150B-28z)、 ヒト化ALK48 scFv型CAR発現プラスミド(CAR 004; hALK48-28z)又はマウスALK48 scFv型CAR発現プラスミド(CAR 005; ALK48-28z)とした。塩基配列の確認はユーロフィンジェノミクスに解析を委託した。作製した各プラスミドのベクターマップを図2~5に示す。
【0070】
[実施例2 CAR-T細胞の培養・増幅]
末梢血単核細胞(PBMC)の分離は下記のいずれかの方法を用いて行った。
<Day 0: 末梢血単核細胞(PBMC)の分離(密度勾配遠心法)>
健康成人ドナーから末梢血を採取し、D-PBS(富士フイルム和光純薬株式会社)で2倍に希釈した後、Ficoll-Paque PLUS(GEヘルスケア)に希釈末梢血を重層し、400 x g、30分の遠心分離を行い、PBMC層を分取した。分取したPBMCをD-PBSで2回洗浄し、遠心分離により単離した。
【0071】
<Day 0: PBMCの分離(SepMate-50による分離)>
健康成人ドナーから末梢血を採取し、D-PBS(富士フイルム和光純薬株式会社)で2倍に希釈した。予め15 mLのFicoll-Paque PLUSを充填したSepMate-50(ステムセルテクノロジーズ)に希釈末梢血を重層し、1,200 x g、10分遠心分離を行い、PBMCと血漿が含まれる上清を別の50 mL遠心チューブにデカンテーションで移した。上清にD-PBSを加え50 mLにメスアップ後300 x g、8分の遠心分離を行い、上清を除去した後、D-PBSでペレットを洗浄し、さらに300 x g、8分の遠心分離の後上清を除去してPBMCを単離した。
【0072】
<Day 0: PBMCのウイルスペプチドパルス>
単離したPBMCにPepTivatorペプチドプール(登録商標、ミルテニーバイオテク)によるウイルスペプチド刺激を行った。具体的には、D-PBS 50μLにそれぞれ0.05μg/μLのAdV5 Hexon、CMV pp65、EBV BZLF1及びEBV EBNA-1を添加したペプチドプールでPBMCを懸濁し、37℃で30分間ウイルスペプチド刺激を施した。30分後、PBMCに5 mLのD-PBSを加えて懸濁し、その後4分間のUV照射を行った。UV照射済みPBMCを回収し、細胞数をカウントした後、0.5~4 x 106個/2mL/ウェルとなるように10 ng/mL IL-7及び5 ng/mL IL-15含有TexMACS medium中に懸濁し、フィーダー細胞として24ウェルトリートメント培養プレートに移した。
【0073】
<Day 0: 遺伝子導入操作>
CAR発現プラスミドのPBMCへの導入は15 x 106 個のPBMCを用いた。具体的には、それぞれ実施例1で取得したCAR 002~CAR 005のいずれかを5μg、pCMV-piggyBacプラスミド5μg、P3 Primary Cell 4D-NucleofectorTMX Kit(ロンザジャパン株式会社)に付属するP3 Primary Cell solution 100μLを混和し、15 x 106個のPBMCを懸濁した。懸濁した細胞全量をNucleocuvetteに移し、4D-Nucleofection(Program No: FI-115)により電気的遺伝子導入を行った。電気的遺伝子導入を行った細胞を10分間室温に放置し、全量をフィーダー細胞の入った24ウェルトリートメント培養プレートに加え培養を開始した。
【0074】
遺伝子導入操作を施さないMock-T細胞として、15 x 106個のPBMCを同様に培養した。また固形腫瘍に傷害活性を示さないCAR-T細胞としてCD19 scFv型CAR発現プラスミド(CAR 006; CD19-28z)(本プラスミドはWO2018/052142に記載の方法と同様にして作製した)を用いて同様の遺伝子導入操作を行った細胞を用意した。培養中の培地の半量を廃棄し、20 ng/mL IL-7及び10 ng/mL IL-15含有のTexMACS mediumを半量添加する培地交換作業を概ね2日に1回の頻度で行った。
【0075】
<Day 7: CAR-T細胞の抗体刺激及び増幅>
抗CD3抗体及び抗CD28抗体を含有するD-PBSで24ウェルノントリート培養プレートを37℃、2時間で抗体コーティングしたプレートを用意し、各細胞懸濁液全量を播き、上記で培養したCAR-T細胞の刺激を行った。抗体刺激は2日間行い、Day 9に10 ng/mL IL-7及び5 ng/mL IL-15含有TexMACS medium 30 mLを充填したG-Rex 6 ウェルプレート(Wilson Wolf)に細胞懸濁液全量を移し、さらに7日間培養してDay 16まで増幅させた。Day 16まで増幅したALK CAR-T細胞(CAR 002~CAR 005のいずれかを導入)及びCD19 CAR-T細胞(CAR 006を導入)におけるCAR発現率を以下の方法にて測定した。尚、実験日は前後1日の変更は許容範囲となる。
上記の操作を2名の健康成人ドナー由来のPBMCに対して行った。
【0076】
<Day 16: CAR発現率の評価>
CAR発現プラスミドを導入したそれぞれのCAR-T細胞数をカウントし、1~2 x 105個の細胞のフローサイトメトリー解析により、ALK CAR-T細胞及びCD19 CAR-T細胞におけるCAR発現率を評価した。
1~2 x 105個の細胞を採取し、FITC Goat Anti-Human IgG (H+L) 抗体(Jackson ImmunoResearch Inc)2μL及びAPC Anti-Human CD3抗体(ミルテニーバイオテク)5μLを加えて懸濁し、4℃、遮光にて20分間抗体標識反応を行った。20分後、D-PBS 500μLで細胞を洗浄し、遠心分離により細胞を沈殿させ上清を除去した後、D-PBS 500μLに再懸濁したサンプルについてFACSCalibur(BDバイオサイエンス)を用いて解析し、IgG1/CD3陽性のALK CAR(CAR 002~CAR 005)又はCD19 CAR(CAR 006)の発現率を測定した。
【0077】
尚、発現プラスミド(CAR 002~006)を用いてPBMCへの電気的導入操作及びT細胞の培養・増幅操作によって得られるCAR-T細胞を、本明細書においてそれぞれ以下のように記載する。
CAR-T 002:FAM150A CD28型CAR-T(FAM150A-28z CAR-T)
CAR-T 003:FAM150B CD28型CAR-T(FAM150B-28z CAR-T)
CAR-T 004:ヒト化ALK48 scFv CD28型CAR-T(hALK48-28z CAR-T)
CAR-T 005:マウスALK48 scFv CD28型CAR-T(ALK48-28z CAR-T)
CAR-T 006:CD19 scFv CD28型CAR-T(CD19-28z CAR-T)
【0078】
CAR 002のアミノ酸配列及びこれをコードする塩基配列を配列番号13及び9、
CAR 003のアミノ酸配列及びこれをコードする塩基配列を配列番号14及び10、
CAR 004のアミノ酸配列及びこれをコードする塩基配列を配列番号15及び11、
CAR 005のアミノ酸配列及びこれをコードする塩基配列を配列番号16及び12
にそれぞれ示す。
【0079】
以下の表1に、2名のドナー由来のPBMCを用いて取得したCAR-T細胞におけるCAR発現率を示す。
【0080】
【表1】
【0081】
[実施例3 FAM150A CD28型CAR-T、FAM150B CD28型CAR-T、ヒト化ALK48 scFv CD28型CAR-T及びマウスALK48 scFv CD28型CAR-Tの抗腫瘍細胞活性の比較]
<CAR-Tの抗腫瘍細胞活性測定>
実施例2で得られたCAR-T 002~005の抗腫瘍細胞活性を測定するため、固形腫瘍細胞との共培養試験を実施した。本実施例では、ターゲット腫瘍細胞として神経芽腫細胞株SH-SY5Y細胞(DSファーマバイオメディカル)、NB-1細胞(JCRB細胞バンク)又はIMR-32細胞(DSファーマバイオメディカル)を用いた。
【0082】
SH-SY5Y細胞、NB-1細胞、及びIMR32細胞をそれぞれ継代維持し、共培養試験に用いた。継代維持は、SH-SY5Y細胞については15% FBS、1%ペニシリン/ストレプトマイシン及び1%非必須アミノ酸溶液含有D-MEM/Ham’s F-12培地を、NB-1細胞については10% FBS及び1%ペニシリン/ストレプトマイシン含有RPMI 1640培地を、IMR-32細胞については10% FBS、1%ペニシリン/ストレプトマイシン及び1%非必須アミノ酸溶液含有E-MEM培地をそれぞれ用い、共培養試験も同様の培地を使用した。
【0083】
腫瘍細胞[ターゲット(T)]は2 x 105個/mLとなるように調製し、48ウェルトリートメント培養プレートに500μL/ウェル(1 x 105個/ウェル)で播種した。CAR-T[エフェクター(E)]は、E:T比4 : 1、2 : 1又は1 : 1となるように各培地で希釈した。
すなわち、E : T比=4:1の場合、CAR-Tは8 x 105個/mLとなるように調製し、腫瘍細胞が播かれた48ウェルトリートメント培養プレートに500μL/ウェル(4 x 105個/ウェル)で添加した。
同様に、E : T比=2:1の場合は、4 x 105個/mLとなるように調製し、腫瘍細胞が播かれた48ウェルトリートメント培養プレートに500μL/ウェル(2 x 105個/ウェル)で添加した。
E : T比=1:1の場合は、2 x 105個/mLとなるように調製し、腫瘍細胞が播かれた48ウェルトリートメント培養プレートに500μL/ウェル(1 x 105個/ウェル)で添加した。
【0084】
共培養試験は4日間行った。CAR-T 006、Mock-T細胞についても同様の共培養試験を行い、コントロール群として、腫瘍細胞のみを同細胞数で培養した群も設定した(CAR-T非添加群)。さらに、CAR-T細胞のみを4日間培養する群を設けた。
共培養試験4日目に各ウェルの細胞をAccutase(イノベーティブ セル テクノロジーズ )にて剥がして回収し、1,500 x g、5分間遠心分離した。遠心分離した細胞にAPC Anti-Human CD3抗体(ミルテニーバイオテク)5μL及びPE anti-human Ganglioside GD2抗体 5μLを加えて懸濁し、4℃、遮光にて20分間抗体標識反応を行った。20分後、D-PBS 500μLで細胞を洗浄し、遠心分離により細胞を沈殿させ上清を除去した後、400 μLのD-PBSで再懸濁し、さらにCountBright absolute counting beads (インビトロジェン)を50 μL添加したサンプルについてFACSCalibur(BDバイオサイエンス)を用いて測定し、取得したデータをFlowJo(BDバイオサイエンス)にて解析し、GD2陽性の腫瘍細胞数をカウンティングビーズ数から算出した。
【0085】
フローサイトメーター解析時に、CAR-T細胞のみを培養した群の細胞集団と腫瘍細胞集団とが一部重なり合う場合は、CAR-T細胞のみを培養した群の細胞数を差し引きすることで腫瘍細胞のみの細胞数を算出する補正を行った。
以下の計算式によりCAR-T又はMock-T細胞の腫瘍細胞増殖率%を算出し、CAR-T細胞の抗腫瘍細胞活性の指標とした:
腫瘍細胞増殖率%= CAR-T添加群の腫瘍細胞数/CAR-T非添加群の腫瘍細胞数 x 100
すなわち、腫瘍細胞増殖率%の値が低いほどCAR-T細胞の抗腫瘍細胞活性が強いことを意味する。
【0086】
図6にドナー-1、図7にドナー-2のCAR-T 002~005、CAR-T 006(ドナー-2のみ)又はMock-T細胞の神経芽腫細胞株SH-SY5Yに対する抗腫瘍細胞活性を示した。CAR-T非添加群(No CAR)を100%としたときの腫瘍細胞の増殖率%としてグラフ化した。その結果、CAR-T 002~005のSH-SY5Yに対する殺傷効果が確認され、その効力はCAR-T 003 > CAR-T 002 > CAR-T 005 > CAR-T 004の順であった。
【0087】
図8にドナー-1、図9にドナー-2のCAR-T 002~005、CAR-T 006(ドナー-2のみ)又はMock-T細胞の神経芽腫細胞株NB-1に対する抗腫瘍細胞活性を示した。その結果、CAR-T 002~005のNB-1に対する殺傷効果が確認され、その効力はCAR-T 003 > CAR-T 002 > CAR-T 005 > CAR-T 004の順であり、CAR-T 002及びCAR-T 003の殺傷効果はCAR-T 006及びMock-T細胞のそれよりも強かった。
【0088】
図10にドナー-2のCAR-T 002~005、CAR-T 006又はMock-T細胞の神経芽腫細胞株IMR-32に対する抗腫瘍細胞活性を示した。その結果、CAR-T 002~005のIMR-32に対する殺傷効果が確認された。特にCAR-T 003の殺傷効果が強力であった。
【0089】
本実施例により、リガンド型CAR-TであるCAR-T 002及びCAR-T 003はscFv型CAR-TであるCAR-T 004及びCAR-T 005よりも神経芽腫細胞に対する抗腫瘍細胞活性に優れていることが示唆された。また、CAR-T 002とCAR-T 003の比較においては、CAR-T 003の抗腫瘍細胞活性がCAR-T 002のそれよりもわずかではあるが優れていると考えられた。
【0090】
[実施例4 ALK(ALK 001)、LTK(LTK 001)、FAM150A(リガンド001)、FAM150B(リガンド002~リガンド024)哺乳細胞発現用プラスミドの作製]
<ALK遺伝子の人工合成>
5’末端より分泌シグナルを含む領域をコードするALK(NCBI Accession No.: NM_004304.4)の翻訳領域の一部である953~1009塩基(配列番号17)の配列、同じく翻訳領域の一部である2894~4042塩基(配列番号18)の配列、オクタヒスチジンタグ(配列番号19)をコードする配列、及びPAタグ(配列番号20)をコードする配列をタンデムに連結した配列をデザインし、ヒトにコドン最適化を行った上で、5’末端にKozak配列(配列番号21)を有し、3’末端に終止コドンを二つ連結したDNA分子(Kozak-ALK-His-PA)を人工合成した(ユーロフィンジェノミクス株式会社に委託、配列番号22)。
【0091】
<LTK遺伝子の人工合成>
5’末端よりLTK(NCBI Accession No.: NM_002344.5)の翻訳領域の一部である179~1450塩基(配列番号23)の配列、オクタヒスチジンタグ(配列番号19)をコードする配列、及びPAタグ(配列番号20)をコードする配列をタンデムに連結した配列をデザインし、ヒトにコドン最適化を行った上で、5’末端にKozak配列(配列番号21)を有し、3’末端に終止コドンを二つ連結したDNA分子(Kozak-LTK-His-PA)を人工合成した(ユーロフィンジェノミクス株式会社に委託、配列番号24)。
【0092】
<IgG1 Fc遺伝子の人工合成>
5’末端よりHRV3Cプロテアーゼ切断配列(配列番号25)をコードする配列、IgG1由来のヒンジ領域を含むFc配列(配列番号26)をコードする配列、G4Sリンカー(配列番号27)をコードする配列、オクタヒスチジンタグ(配列番号19)をコードする配列、及びPAタグ(配列番号20)をコードする配列をタンデムに連結した配列をデザインし、ヒトにコドン最適化を行った上で、5’末端にKozak配列(配列番号21)を有し、3’末端に終止コドンを二つ連結したDNA分子(Kozak-HRV3C-Fc-His-PA)を人工合成した(ユーロフィンジェノミクス株式会社に委託、配列番号28)。
【0093】
<FAM150A遺伝子の人工合成>
5’末端よりFAM150A(NCBI Accession No.: NM_207413.3)の翻訳領域(206~592塩基:配列番号1)の配列、HRV3Cプロテアーゼ切断配列(配列番号25)をコードする配列、及びオクタヒスチジンタグ(配列番号19)をコードする配列をタンデムに連結した配列をデザインし、ヒトにコドン最適化を行った上で、5’末端にKozak配列(配列番号21)を有し、3’末端に終止コドンを二つ連結したDNA分子(Kozak-FAM150A-HRV3C-His)を人工合成した(ユーロフィンジェノミクス株式会社に委託、配列番号29)。
【0094】
<FAM150B遺伝子の人工合成>
5’末端よりFAM150B(NCBI Accession No.: NM_001002919.2)の翻訳領域(354~809塩基:配列番号3)の配列、HRV3Cプロテアーゼ切断配列(配列番号25)をコードする配列、及びオクタヒスチジンタグ(配列番号19)をコードする配列をタンデムに連結した配列をデザインし、ヒトにコドン最適化を行った上で、5’末端にKozak配列(配列番号21)を有し、3’末端に終止コドンを二つ連結したDNA分子(Kozak-FAM150B-HRV3C-His)を人工合成した(ユーロフィンジェノミクス株式会社に委託、配列番号30)。
【0095】
<ALK 001およびLTK 001プラスミドの作製>
ALKをコードする人工遺伝子Kozak-ALK-His-PA(配列番号22)を鋳型とし、配列番号31及び配列番号32に示したプライマー(ユーロフィンジェノミクス株式会社に委託合成)によってKozak配列からALKをコードする領域のDNA配列(Kozak-ALK)をPCRによって増幅した。
また、LTKをコードする人工遺伝子Kozak-LTK-His-PA(配列番号24)を鋳型とし、配列番号33及び配列番号34に示したプライマー(ユーロフィンジェノミクス株式会社に委託合成)によってKozak配列からLTKをコードする領域のDNA配列(Kozak-LTK)をPCRによって増幅した。
更に、IgG1 Fcをコードする人工遺伝子Kozak-HRV3C-Fc-His-PA(配列番号28)を鋳型とし、配列番号35及び配列番号36に示したプライマー(ユーロフィンジェノミクス株式会社に委託合成)によって、HRV3Cプロテアーゼ切断配列をコードする配列から終止コドン(HRV3C-Fc-His-PA)までをPCRによって増幅した。
【0096】
上記のPCR反応で、Kozak-ALKおよびKozak-LTKの5’側にはpcDNA3.4(Thermo Fisher Scientific)との連結用のオーバーラップ配列が、3’側にはHRV3C-Fc-His-PAとの連結用のオーバーラップ配列が付加される。また、HRV3C-Fc-His-PAの3’側にはpcDNA3.4との連結用のオーバーラップ配列が付加される。PCR条件は、KAPA HiFi HotStart ReadyMix(2X)(KAPA BIOSYSTEMS)を用いて、(i)95℃ 2分、(ii)98℃ 20秒、(iii)65℃ 15秒、(iv)72℃ 30秒で(ii)、(iii)及び(iv)を25サイクル行った。
【0097】
増幅したKozak-ALKとHRV3C-Fc-His-PA、及びKozak-LTKとHRV3C-Fc-His-PAをNEBuilder HiFi DNA Assembly Master Mix(New England Biolabs)を用いて、キット添付のマニュアルに従い、XbaI(New England Biolabs)とAgeI(New England Biolabs)で切断したpcDNA3.4(Thermo Fisher Scientific)と連結した。連結した環状プラスミドにより大腸菌DH5α(東洋紡株式会社)を形質転換し、100μg/mLカルベニシリン含有LB寒天培地上で37℃で一晩培養した。
【0098】
出現したコロニーをさらに100μg/mLカルベニシリン含有LB液体培地中で37℃で一晩培養した。培養した大腸菌からWizard Plus SV Minipreps DNA Purification System(プロメガ)を用いて各プラスミドを精製して塩基配列の確認を行い、目的の塩基配列の導入が確認されたプラスミドをそれぞれALK 001およびLTK 001とした。塩基配列の確認は、株式会社マクロジェン・ジャパンに解析を委託した。
【0099】
ALK 001によりコードされたALKの翻訳領域を含むタンパク質ALK 001Pのアミノ酸配列を配列番号37に、コードするDNA配列を配列番号38に示す。
LTK 001によりコードされたLTKの翻訳領域を含むタンパク質LTK 001Pのアミノ酸配列を配列番号39に、コードするDNA配列を配列番号40に示す。
【0100】
<リガンド001プラスミドの作製>
FAM150A人工遺伝子Kozak-FAM150A-HRV3C-His(配列番号29)を鋳型とし、配列番号41及び配列番号42に示したプライマー(ユーロフィンジェノミクス株式会社に委託合成)によって1段階目のPCRを行い、1段階目のPCR産物を鋳型として、配列番号43及び配列番号42に示したプライマー(ユーロフィンジェノミクス株式会社に委託合成)によって2段階目のPCRを行った。この2段階のPCRによって、FAM150Aの50-129残基をコードする配列に、5’側にはpM-secSUMOstar(LifeSensors)との連結用のオーバーラップ配列およびHRV3Cプロテアーゼ切断配列をコードするDNA配列が、3’側には終止コドン及びpM-secSUMOstar(LifeSensors)との連結用のオーバーラップ配列が付加されたDNA分子が増幅された。
【0101】
PCR反応条件は、KAPA HiFi HotStart ReadyMix(2X)(KAPA BIOSYSTEMS)を用いて、(i)95℃ 2分、(ii)98℃ 20秒、(iii)65℃ 15秒、(iv)72℃ 15秒で(ii)、(iii)及び(iv)を1段階目のPCRは25サイクル、2段階目のPCRは13サイクル行った。2段階目のPCR産物を、NEBuilder HiFi DNA Assembly Master Mix(New England Biolabs)を用いて、キット添付のマニュアルに従いBsmBI(New England Biolabs)で切断したpM-secSUMOstar(LifeSensors)と連結した。これによって、挿入したDNA配列の5’側にIg κ軽鎖の分泌シグナル、ヘキサヒスチジンタグ及びSUMOstarがタンデムに連結した融合タンパク質をコードするDNA配列(DNA配列:配列番号44、アミノ酸配列:配列番号45)がインフレームでクローニングされた。連結した環状プラスミドにより大腸菌DH5α(東洋紡株式会社)を形質転換し、100μg/mLカルベニシリン含有LB寒天培地上で37℃で一晩培養した。
【0102】
出現したコロニーをさらに100μg/mLカルベニシリン含有LB液体培地中で37℃で一晩培養した。培養した大腸菌からWizard Plus SV Minipreps DNA Purification System(プロメガ)を用いて各プラスミドを精製し塩基配列の確認を行い、目的の塩基配列の導入が確認されたプラスミドをリガンド001とした。塩基配列の確認は、株式会社マクロジェン・ジャパンに解析を委託した。
【0103】
リガンド001によりコードされたFAM150Aの50-129残基を含むタンパク質リガンド 001Pのアミノ酸配列を配列番号46に、コードするDNA配列を配列番号47に示す。
【0104】
<リガンド002プラスミドの作製>
FAM150B人工遺伝子Kozak-FAM150B-HRV3C-His(配列番号30)を鋳型とし、配列番号48及び配列番号49に示したプライマー(ユーロフィンジェノミクス株式会社に委託合成)によって1段階目のPCRを行い、1段階目のPCR産物を鋳型として、配列番号43及び配列番号49に示したプライマー(ユーロフィンジェノミクス株式会社に委託合成)によって2段階目のPCRを行い、以降はリガンド001作製と同様の手法でリガンド002を作製した。
リガンド002によりコードされたFAM150Bの71-152残基を含むタンパク質リガンド 002Pのアミノ酸配列を配列番号50に、コードするDNA配列を配列番号51に示す。
【0105】
以下及び図11に、本実施例で作製した各タンパク質(ALK 001P、LTK 001P、リガンド001P及びリガンド002P)の構成を模式的に示す。()内は、アミノ酸位置を示す。
【0106】
ALK 001P:
ALK(1-19)‐ALK(648-1030)‐HRV3Cプロテアーゼ切断配列‐ヒンジ領域を含むFc配列‐G4Sリンカー‐オクタヒスチジンタグ‐PAタグ
LTK 001P:
LTK(1-424)‐HRV3Cプロテアーゼ切断配列‐ヒンジ領域を含むFc配列‐G4Sリンカー‐オクタヒスチジンタグ‐PAタグ
【0107】
リガンド 001P:
Ig κ軽鎖の分泌シグナル‐ヘキサヒスチジンタグ‐SUMOstar‐HRV3Cプロテアーゼ切断配列‐FAM150A(50-129)
リガンド 002P:
Ig κ軽鎖の分泌シグナル‐ヘキサヒスチジンタグ‐SUMOstar‐HRV3Cプロテアーゼ切断配列‐FAM150B(71-152)
【0108】
[実施例5 ALK 001P、LTK 001P、リガンド001P及びリガンド002Pの調製]
<5-1.ALK 001Pの調製>
<ALK 001Pの発現>
実施例4で作製したプラスミドALK 001およびExpi293 Expression System(Thermo Fisher Scientific、哺乳動物発現系)を用いて、ALK 001Pを発現させた。
Expi293 Expression Mediumで培養中のExpi293細胞を2.9 x 106 個/mLとなるようにExpression Mediumで希釈した培養液2.55mLを6ウェルプレートに用意し、マニュアルに従い、3μgのALK 001をExpi293細胞にトランスフェクションした。培養は、8% CO2下、125rpm、37℃で行った。トランスフェクションしてから、23時間後にキット付属のEnhancer1、2をそれぞれ15μL、150μL加え培養を継続した。トランスフェクションしてから4日後に培養液の上清を遠心分離により回収した。得られた上清を、精製を行うまで-30℃~-80℃にて凍結保存した。
【0109】
<ALK 001Pの精製>
培養上清を融解後、PD-10(GEヘルスケア・ジャパン)を用いて50mM Tris-HCl pH8.0、 500mM NaClにバッファーを交換した。クロマトグラフィー用カラム内で0.5mLのNi Sepharose 6 Fast Flow(GEヘルスケア・ジャパン)と混和し、2.5時間4℃にて攪拌し、ALK 001Pを樹脂に吸着させた。樹脂を50mM Tris-HCl pH8.0、500mM NaCl、20mM Imidazoleで洗浄後、50mM Tris-HCl pH8.0、500mM NaCl、500mM ImidazoleでALK 001Pを溶出させた。
【0110】
得られた溶出液をAKTA explorer(GEヘルスケア・ジャパン)に接続したSuperdex 200 increase 10/300 GL(GEヘルスケア・ジャパン)を用いて、流速0.8mL/minにて分離操作を行い、メインピークを回収し、SPRによる相互作用解析用サンプルとした。
【0111】
<5-2.LTK 001Pの調製>
<LTK 001Pの発現>
実施例4で作製したプラスミドLTK 001およびExpi293 Expression System(Thermo Fisher Scientific)を用いて、LTK 001Pを発現させた。
Expi293 Expression Mediumで培養中のExpi293細胞を2.9 x 106 個/mLとなるようにExpression Mediumで希釈した培養液25.5mLを125mLフラスコに用意し、マニュアルに従い、30μgのLTK 001をExpi293細胞にトランスフェクションした。トランスフェクションしてから、21時間後にキット付属のEnhancer1、2をそれぞれ0.15mL、1.5mL加え培養を継続した。培養は、8% CO2下、125rpm、37℃で行った。トランスフェクションしてから8日後に培養液の上清を遠心分離により回収した。得られた上清を、精製を行うまで-30℃~-80℃にて凍結保存した。
【0112】
<LTK 001Pの精製>
培養上清を融解後、50mM Tris-HCl pH8.0、500mM NaClで2倍希釈し、3mLのNi Sepharose 6 Fast Flow(GEヘルスケア・ジャパン)と混和し、1.5時間4℃にて攪拌しLTK 001Pを樹脂に吸着させた。その後、懸濁液を空のクロマトグラフィー用カラムへ移し、樹脂を50mM Tris-HCl pH8.0、500mM NaCl、20mM Imidazoleで洗浄後、50mM Tris-HCl pH8.0、500mM NaCl、500mM ImidazoleでLTK 001Pを溶出させた。
【0113】
得られた溶出液をAKTA explorer(GEヘルスケア・ジャパン)に接続したSuperdex 200 increase 10/300 GL(GEヘルスケア・ジャパン)を用いて、流速0.8mL/minにて分離操作を行い、メインピークを回収し、SPRによる相互作用解析用サンプルとした。
【0114】
<5-3.リガンド001P及びリガンド002Pの調製>
<リガンド001P及びリガンド002Pの発現>
実施例4で作製したリガンド001、リガンド002およびExpi293 Expression System(Thermo Fisher Scientific)を用いて、リガンド001P及びリガンド002Pを発現させた。
Expi293 Expression Mediumで培養中のExpi293細胞を2.9 x 106 個/mLとなるようにExpression Mediumで希釈した培養液25.5mLを125mLフラスコに用意し、マニュアルに従い、30μgのリガンド001又はリガンド002をExpi293細胞にトランスフェクションした。トランスフェクションしてから、19時間後にキット付属のEnhancer1、2をそれぞれ0.15mL、1.5mL加え培養を継続した。培養は、8% CO2下、125rpm、37℃で行った。トランスフェクションしてから4日後に培養液の上清を遠心分離により回収した。
【0115】
<リガンド001P及びリガンド002Pの精製>
培養上清を50mM Tris-HCl pH8.0、500mM NaClで2倍希釈し、1mLのcOmpleteTMHis-Tag Purification Resin(ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社)と混和し、1.5時間4℃にて攪拌しリガンド001P又はリガンド002Pを樹脂に吸着させた。その後、懸濁液を空のクロマトグラフィー用カラムへ移し、樹脂を50mM Tris-HCl pH8.0、500mM NaCl、20mM Imidazoleで洗浄後、50mM Tris-HCl pH8.0、500mM NaCl、500mM Imidazoleでリガンド001Pまたはリガンド002Pを溶出させた。
【0116】
得られた溶出液をAKTA explorer(GEヘルスケア・ジャパン)に接続したSuperdex 75 10/300 GL(GEヘルスケア・ジャパン)を用いて、流速0.7mL/minにて分離操作を行い、メインピークを回収し、SPRによる相互作用解析用サンプルとした。
【0117】
[実施例6 表面プラズモン共鳴によるALK 001P及びLTK 001Pとリガンド001P及びリガンド002Pとの結合確認]
実施例5で取得したALK 001P及びLTK 001Pとリガンド001P及びリガンド002Pとの結合の有無を、Biacore 8K計器(GEヘルスケア・ジャパン)で表面プラズモン共鳴(SPR)手法を用いて確認した。
【0118】
<ALK 001P及びLTK 001Pのセンサーチップへの固定化>
HBS-P+(10mM HEPES pH7.4、150mM NaCl、0.05%(v/v)Surfactant P20)中4.8μg/mL(糖鎖を含まない分子量を用いて算出)のALK 001P、及び10μg/mL(糖鎖を含まない分子量を用いて算出)のLTK 001Pを、流速10μL/分でそれぞれ90秒注入して、Series S Sensor Chip Protein A(GEヘルスケア・ジャパン)のProtein Aでコーティングされた表面上に固定化した。これにより、固定化量としてそれぞれALK 001Pは830~990RU、LTK 001Pは670~790RUをもたらした。
【0119】
<結合解離曲線の取得>
リガンド001Pは、HBS-P+で19.8nMから2倍希釈で6濃度、及び297nMから2倍希釈で6濃度の2種類の希釈系列を用意した。リガンド002Pは、HBS-P+で19.9nMから2倍希釈で6濃度の希釈系列を用意した。
【0120】
表2に示した組み合わせで各濃度のリガンド001P、リガンド002P、及び0濃度としてのHBS-P+を、流速30μL/分で固定化したALK 001PまたはLTK 001P表面上、並びにProtein Aでコーティングされた未処理の表面(ベースライン)上に120秒間注入して、結合曲線を記録した。続いてHBS-P+を流速30μL/分で固定化したALK 001PまたはLTK 001P表面上、並びにProtein Aでコーティングされた未処理の表面(ベースライン)上を600秒間流し、解離曲線を記録した。
尚、センサーチップ表面上にコーティングされたProtein AからのALK 001PおよびLTK 001Pの解離(再生操作)は、流速30μL/分で10mM Glycine-HCl pH1.6を30秒間注入することで行った。ベースラインを差し引くことで修正した結合解離曲線は、Biacore8K Evaluation Software(GEヘルスケア・ジャパン)によって作製した。
【0121】
【表2】
【0122】
図12は、表面プラズモン共鳴によるALK 001P及びLTK 001Pとリガンド001P及びリガンド002Pとのそれぞれの結合確認の結果を示す。リガンド001Pは、LTK 001Pに対して、ALK 001Pに対するより優位に結合することが確認された。また、リガンド002Pは、ALK 001PおよびLTK 001Pに対して共に解離が遅く、強い結合であることが確認された。
【0123】
[実施例7 FAM150Aトランケート型CAR発現プラスミド(CAR 007; FAM150ATr-28z)及びFAM150Bトランケート型CAR発現プラスミド(CAR 008; FAM150BTr-28z)の作製]
実施例1で作製したCAR 002又は003を鋳型として、inverse-PCR法によりFAM150Aトランケート型(CAR 007)、及びFAM150Bトランケート型CAR発現プラスミド(CAR 008)を作製した。
【0124】
Inverse-PCRに用いるPCRプライマーとして、配列番号52及び53(CAR 002直鎖化用)、配列番号54及び55(CAR 003直鎖化用)をデザインし、合成した(ユーロフィンジェノミクス株式会社に委託)。
CAR 002又はCAR 003をそれぞれ50 ng/μLに調整して鋳型として用い、各PCRプライマーは反応液中濃度が0.2μMになるように調整した。Inverse-PCRはKOD - Plus- Mutagenesis Kit(東洋紡株式会社)を用い、反応組成はキット添付のプロトコールに従い、反応条件は、(i)94℃ 2分、(ii)98℃ 10秒、(iii)68℃ 7分で(ii)及び(iii)を10サイクル行った。
【0125】
PCR反応後のサンプルの一部を1%アガロースゲル電気泳動にて分離し、目的サイズの直鎖状プラスミドの増幅を確認した後、残りのPCR反応後のサンプルをキット添付のプロトコールに従ってDpnI処理し、メチル化された鋳型プラスミドCAR 002又は003を切断して排除する反応を行った。その後、直鎖状プラスミドをキット添付のT4 Polynucleotide Kinaseによりリン酸化し、セルフライゲーションさせて環状プラスミドとした。その後、環状プラスミドにより大腸菌DH5α(東洋紡株式会社)を形質転換し、100μg/mLカルベニシリン含有LB寒天培地上で約16時間培養した。
【0126】
出現したコロニーをさらに100μg/mLカルベニシリン含有LB液体培地中で約16時間培養した。培養した大腸菌からQIAprep Spin Miniprep Kit(キアゲン)を用いて各プラスミドを精製し、塩基配列の確認を行い、目的の塩基配列の欠失が確認されたプラスミドをFAM150Aトランケート型CAR発現プラスミド(CAR 007; FAM150ATr-28z)及びFAM150Bトランケート型CAR発現プラスミド(CAR 008; FAM150BTr-28z)とした。
【0127】
図13にCAR 007 (FAM150ATr-28z) のベクターマップを示し、CAR 007の翻訳領域のDNA配列を配列番号56に示す。
図14にCAR 008 (FAM150BTr-28z) のベクターマップを示し、CAR 008の翻訳領域のDNA配列を配列番号57に示す。
【0128】
[実施例8 FAM150BトランケートCD28型CAR-Tの抗腫瘍細胞活性]
実施例2のCAR-Tの培養・増幅方法に従い、CAR発現プラスミドCAR 003、CAR 008又はCAR 006を用い、2名の健康成人由来のPBMCに遺伝子導入してCAR-T細胞を調製した。
CAR 003、008又はCAR 006を用いてPBMCへの電気的導入操作及びT細胞の培養・増幅操作によって得られるCAR-T細胞を、本明細書においてそれぞれ以下のように記載する。
CAR-T 003:FAM150B CD28型CAR-T(FAM150B-28z CAR-T)
CAR-T 006:CD19 scFv CD28型CAR-T(CD19-28z CAR-T)
CAR-T 008:FAM150Bトランケート CD28型CAR-T(FAM150BTr-28z CAR-T)
健康成人2ドナーのPBMCへのCAR発現プラスミドの遺伝子導入操作と培養によって得られたCAR-T細胞におけるCAR発現率を以下の表3に示した。
【0129】
CAR 003のアミノ酸配列及びこれをコードする塩基配列を配列番号14及び10、
CAR 008のアミノ酸配列及びこれをコードする塩基配列を配列番号58及び57
にそれぞれ示す。
【0130】
【表3】
【0131】
<CAR-Tの抗腫瘍細胞活性測定>
上記で得られたCAR-T 003、008、及び006の抗腫瘍細胞活性を測定するため、固形腫瘍細胞との共培養試験を実施した。本実施例では、ターゲット腫瘍細胞としてSH-SY5Y及びIMR-32を用い、活性評価は前出の実施例3の方法に従った。本実施例ではさらに、共培養開始時の腫瘍細胞数をフローサイトメーターで測定した場合は、その細胞数を1としたときの共培養終了時のGD2陽性腫瘍細胞数の相対比をプロットし、腫瘍細胞の増殖曲線を作成した。
【0132】
図15及び図16に、ドナー-1のCAR-T 003、008、006又はMock-T細胞のSH-SY5Y又はIMR-32に対する抗腫瘍細胞活性を示した。その結果、CAR-T 003及び008のSH-SY5Y及びIMR-32に対する殺傷効果が確認された。特にCAR-T 008の殺傷効果はCAR-T 003のそれと比較して強く、E:T=1:1においても強力であった。
【0133】
図17にドナー-2のCAR-T 003、008、006又はMock-T細胞のSH-SY5Yに対する抗腫瘍細胞活性及び腫瘍細胞の増殖曲線を示した。その結果、CAR-T 003及び008のSH-SY5Yに対する殺傷効果が確認された。特にCAR-T 008の殺傷効果はCAR-T 003のそれと比較して強く、E:T=1:1においても強力であった。
【0134】
図18にドナー-2のCAR-T 003、008、006又はMock-T細胞のIMR-32に対する抗腫瘍細胞活性及び腫瘍細胞の増殖曲線を示した。その結果、CAR-T 003及び008のIMR-32に対する殺傷効果が確認された。特にCAR-T 008の殺傷効果はCAR-T 003のそれと比較して強く、E:T=1:1においても強力であった。
本実施例により、FAM150Bトランケート型CAR-T(CAR-T 008)の抗腫瘍細胞活性がFAM150B全長型CAR-T(CAR-T 003)よりも強いことが示唆された。
【0135】
[実施例9 リガンド003プラスミドの作製]
発現量の向上を図るために、リガンド002PをコードするDNA配列のpcDNA3.4への載せ替えを行った。
リガンド002を鋳型として、配列番号59及び配列番号60に示したプライマー(ユーロフィンジェノミクス株式会社に委託合成)によって、Ig κ軽鎖分泌シグナル配列をコードする配列からFAM150Bの71-152残基をコードする配列まで[Ig kappa-SUMOstar-FAM150B(71-152)]をPCRで増幅した。このPCRによって、Ig kappa-SUMOstar-FAM150B(71-152)に5’側にはpcDNA3.4(Thermo Fisher Scientific)との連結用のオーバーラップ配列が、3’側には終止コドン及びpcDNA3.4(Thermo Fisher Scientific)との連結用のオーバーラップ配列が付加されたDNA配列が増幅する。
【0136】
PCR条件は、KAPA HiFi HotStart ReadyMix(2X)(KAPA BIOSYSTEMS)を用いて、(i)95℃ 2分、(ii)98℃ 20秒、(iii)65℃ 15秒、(iv)72℃ 15秒で(ii)、(iii)及び(iv)を25サイクル行った。増幅した配列をNEBuilder HiFi DNA Assembly Master Mix(New England Biolabs)を用いて、キット添付のマニュアルに従い、XbaI(New England Biolabs)とAgeI(New England Biolabs)で切断したpcDNA3.4(Thermo Fisher Scientific)と連結した。連結した環状プラスミドにより大腸菌DH5α(東洋紡株式会社)を形質転換し、100μg/mLカルベニシリン含有LB寒天培地上で37℃で一晩培養した。
【0137】
出現したコロニーをさらに100μg/mLカルベニシリン含有MMI (20mM Tris-HCl pH7.2、 1.25%(w/v) tryptone、2.5%(w/v) yeast extract、0.85%(w/v) NaCl、0.4%(v/v) glycerol) 液体培地中で37℃で約9時間半培養した。培養した大腸菌からWizard Plus SV Minipreps DNA Purification System(プロメガ)を用いて各プラスミドを精製し、塩基配列の確認を行い、目的の塩基配列の導入が確認されたプラスミドをリガンド003とした。塩基配列の確認は株式会社マクロジェン・ジャパンに解析を委託した。
【0138】
リガンド003によりコードされたFAM150Bの71-152残基を含むタンパク質リガンド 003Pのアミノ酸配列およびコードするDNA配列は、リガンド002Pと同一である(アミノ酸配列:配列番号50、DNA配列:配列番号51)。
【0139】
以下及び図19に、リガンド003Pの構成を模式的に示す。()内は、アミノ酸位置を示す。
リガンド 003P:
Ig Kappa軽鎖の分泌シグナル‐ヘキサヒスチジンタグ‐SUMOstar‐HRV3Cプロテアーゼ切断配列‐FAM150B(71-152)
【0140】
[実施例10 各種FAM150Bトランケート体発現用プラスミドの作製]
<リガンド004プラスミドの作製>
各種FAM150Bトランケート体発現用のプラスミドの作製にあたり、テンプレートとして利用するプラスミドリガンド004を作製した。実施例4で取得したFAM150B人工遺伝子Kozak-FAM150B-HRV3C-His(配列番号30)を鋳型とし、配列番号61及び配列番号49に示したプライマー(ユーロフィンジェノミクス株式会社に委託合成)によって1段階目のPCRを行い、1段階目のPCR産物を鋳型として、配列番号43及び配列番号49に示したプライマー(ユーロフィンジェノミクス株式会社に委託合成)によって2段階目のPCRを行い、以降リガンド001作製と同様の手法でリガンド004を作製した。
【0141】
リガンド004によりコードされたFAM150Bの25-152残基を含むタンパク質リガンド 004Pのアミノ酸配列を配列番号62に、コードするDNA配列を配列番号63に示す。
【0142】
<リガンド005~リガンド022プラスミドの作製>
下記の表4に記載したテンプレート及びプライマー(ユーロフィンジェノミクス株式会社に委託合成)の組み合わせで1段階目のPCRを行い、各種FAM150Bトランケート体をコードするDNA配列を増幅した。このPCRによって、各種FAM150Bトランケート体をコードするDNA配列の5’側に、以下に述べるIg kappa-SUMOstar-HRV3Cとの連結用のオーバーラップ配列が、3’側に終止コドン及びpcDNA3.4(Thermo Fisher Scientific)との連結用のオーバーラップ配列が付加されたDNA配列が増幅する。
【0143】
同時に、リガンド004を鋳型とし、配列番号59及び配列番号84に示したプライマー(ユーロフィンジェノミクス株式会社に委託合成)によって1段階目のPCRを行い、Ig kappa軽鎖分泌シグナル配列をコードするDNA配列からHRV3Cプロテアーゼ切断配列をコードするDNA配列まで(Ig kappa-SUMOstar-HRV3C)をPCRで増幅した。このPCRによって、5’側にpcDNA3.4(Thermo Fisher Scientific)との連結用のオーバーラップ配列及びKozak配列が付加されたDNA配列が増幅する。
【0144】
次に、各種FAM150Bトランケート体をコードするDNA配列を含む1段階目の各PCR産物とIg kappa-SUMOstar-HRV3Cを含む1段階目のPCR産物を混合し、配列番号59及び配列番号60に示したプライマー(ユーロフィンジェノミクス株式会社に委託合成)によって、2段階目のPCRを行い両PCR産物が連結したDNA配列を増幅した。
【0145】
PCRは、KAPA HiFi HotStart ReadyMix(2X)(KAPA BIOSYSTEMS)を用いて、(i)95℃ 2分、(ii)98℃ 20秒、(iii)65℃ 15秒、(iv)72℃ 15秒で(ii)、(iii)及び(iv)を1段階目のPCRは25サイクル、2段階目のPCRは13サイクル行った。ただし、リガンド015およびリガンド016作製におけるFAM150Bトランケート体をコードするDNA断片増幅時の1段階目のPCRは、KAPA HiFi HotStart ReadyMix(2X)(KAPA BIOSYSTEMS)を用いて、(i)95℃ 2分、(ii)98℃ 20秒、(iii)70.6℃ 15秒、(iv)72℃ 15秒で(ii)、(iii)及び(iv)を25サイクル行った。
【0146】
2段階目のPCR産物を、NEBuilder HiFi DNA Assembly Master Mix(New England Biolabs)を用いて、キット添付のマニュアルに従いXbaI(New England Biolabs)とAgeI(New England Biolabs)で切断したpcDNA3.4(Thermo Fisher Scientific)と連結した。連結した環状プラスミドにより大腸菌DH5α(東洋紡株式会社)を形質転換し、100μg/mLカルベニシリン含有LB寒天培地上で37℃で一晩培養した。
【0147】
出現したコロニーをさらに100μg/mLカルベニシリン含有LB液体培地中で37℃で一晩培養した。培養した大腸菌からFastGene Plasmid Mini Kit(日本ジェネティクス株式会社)を用いて各プラスミドを精製して塩基配列の確認を行い、目的の塩基配列の導入が確認されたプラスミドをリガンド005~リガンド022とした。塩基配列の確認は、株式会社マクロジェン・ジャパンに解析を委託した。
【0148】
<リガンド023及びリガンド024プラスミドの作製>
下記の表4に記載したテンプレート及びプライマー(ユーロフィンジェノミクス株式会社に委託合成)の組み合わせで、FAM150Bトランケート体をコードするDNA配列をPCRによって増幅した。このPCRによって、FAM150Bトランケート体をコードするDNA配列の5’側に、pcDNA3.4(Thermo Fisher Scientific)との連結用のオーバーラップ配列及びKozak配列が、3’側に終止コドン及びpcDNA3.4(Thermo Fisher Scientific)との連結用のオーバーラップ配列が付加されたDNA配列が増幅する。
【0149】
PCR条件は、KAPA HiFi HotStart ReadyMix(2X)(KAPA BIOSYSTEMS)を用いて、(i)95℃ 2分、(ii)98℃ 20秒、(iii)65℃ 15秒、(iv)72℃ 15秒で(ii)、(iii)及び(iv)を25サイクル行った。増幅したDNA配列をNEBuilder HiFi DNA Assembly Master Mix(New England Biolabs)を用いて、キット添付のマニュアルに従いXbaI(New England Biolabs)とAgeI(New England Biolabs)で切断したpcDNA3.4(Thermo Fisher Scientific)と連結した。連結した環状プラスミドにより大腸菌DH5α(東洋紡株式会社)を形質転換し、100μg/mLカルベニシリン含有LB寒天培地上で37℃で一晩培養した。
【0150】
出現したコロニーをさらに100μg/mLカルベニシリン含有LB液体培地中で37℃で一晩培養した。培養した大腸菌からFastGene Plasmid Mini Kit(日本ジェネティクス株式会社)を用いて各プラスミドを精製し塩基配列の確認を行い、目的の塩基配列の導入が確認されたプラスミドをリガンド023及びリガンド024とした。塩基配列の確認は、株式会社マクロジェン・ジャパンに解析を委託した。
【0151】
各FAM150Bトランケート体発現用のプラスミド名、各FAM150Bトランケート体の末端アミノ酸、各FAM150Bトランケート体発現用のプラスミド作製時の一段階目PCRに用いたプライマー(Fw及びRev)及びテンプレートを以下の表4に示す。
【0152】
【表4】
【0153】
リガンド005によりコードされたFAM150Bの67-152番のアミノ酸残基を含むタンパク質リガンド005Pのアミノ酸配列を配列番号85に、コードするDNA配列を配列番号86に示す。
【0154】
リガンド006によりコードされたFAM150Bの69-152番のアミノ酸残基を含むタンパク質リガンド006Pのアミノ酸配列を配列番号87に、コードするDNA配列を配列番号88に示す。
【0155】
リガンド007によりコードされたFAM150Bの73-152番のアミノ酸残基を含むタンパク質リガンド007Pのアミノ酸配列を配列番号89に、コードするDNA配列を配列番号90に示す。
【0156】
リガンド008によりコードされたFAM150Bの75-152番のアミノ酸残基を含むタンパク質リガンド008Pのアミノ酸配列を配列番号91に、コードするDNA配列を配列番号92に示す。
【0157】
リガンド009によりコードされたFAM150Bの77-152番のアミノ酸残基を含むタンパク質リガンド009Pのアミノ酸配列を配列番号93に、コードするDNA配列を配列番号94に示す。
【0158】
リガンド010によりコードされたFAM150Bの79-152番のアミノ酸残基を含むタンパク質リガンド010Pのアミノ酸配列を配列番号95に、コードするDNA配列を配列番号96に示す。
【0159】
リガンド011によりコードされたFAM150Bの81-152番のアミノ酸残基を含むタンパク質リガンド011Pのアミノ酸配列を配列番号97に、コードするDNA配列を配列番号98に示す。
【0160】
リガンド012によりコードされたFAM150Bの83-152番のアミノ酸残基を含むタンパク質リガンド012Pのアミノ酸配列を配列番号99に、コードするDNA配列を配列番号100に示す。
【0161】
リガンド013によりコードされたFAM150Bの85-152番のアミノ酸残基を含むタンパク質リガンド013Pのアミノ酸配列を配列番号101に、コードするDNA配列を配列番号102に示す。
【0162】
リガンド014によりコードされたFAM150Bの87-152番のアミノ酸残基を含むタンパク質リガンド014Pのアミノ酸配列を配列番号103に、コードするDNA配列を配列番号104に示す。
【0163】
リガンド015によりコードされたFAM150Bの89-152番のアミノ酸残基を含むタンパク質リガンド015Pのアミノ酸配列を配列番号105に、コードするDNA配列を配列番号106に示す。
【0164】
リガンド016によりコードされたFAM150Bの91-152番のアミノ酸残基を含むタンパク質リガンド016Pのアミノ酸配列を配列番号107に、コードするDNA配列を配列番号108に示す。
【0165】
リガンド017によりコードされたFAM150Bの93-152番のアミノ酸残基を含むタンパク質リガンド017Pのアミノ酸配列を配列番号109に、コードするDNA配列を配列番号110に示す。
【0166】
リガンド018によりコードされたFAM150Bの95-152番のアミノ酸残基を含むタンパク質リガンド018Pのアミノ酸配列を配列番号111に、コードするDNA配列を配列番号112に示す。
【0167】
リガンド019によりコードされたFAM150Bの97-152番のアミノ酸残基を含むタンパク質リガンド019Pのアミノ酸配列を配列番号113に、コードするDNA配列を配列番号114に示す。
【0168】
リガンド020によりコードされたFAM150Bの99-152番のアミノ酸残基を含むタンパク質リガンド020Pのアミノ酸配列を配列番号115に、コードするDNA配列を配列番号116に示す。
【0169】
リガンド021によりコードされたFAM150Bの101-152番のアミノ酸残基を含むタンパク質リガンド021Pのアミノ酸配列を配列番号117に、コードするDNA配列を配列番号118に示す。
【0170】
リガンド022によりコードされたFAM150Bの103-152番のアミノ酸残基を含むタンパク質リガンド022Pのアミノ酸配列を配列番号119に、コードするDNA配列を配列番号120に示す。
【0171】
リガンド023によりコードされたFAM150Bの71-150番のアミノ酸残基を含むタンパク質リガンド023Pのアミノ酸配列を配列番号121に、コードするDNA配列を配列番号122に示す。
【0172】
リガンド024によりコードされたFAM150Bの71-148番のアミノ酸残基を含むタンパク質リガンド024Pのアミノ酸配列を配列番号123に、コードするDNA配列を配列番号124に示す。
【0173】
以下及び図19に、本実施例で作製した各タンパク質の構成を模式的に示す。()内は、アミノ酸位置を示す。
リガンド004P:
Ig Kappa軽鎖の分泌シグナル‐ヘキサヒスチジンタグ‐SUMOstar‐HRV3Cプロテアーゼ切断配列‐FAM150B(25-152)
リガンド005P:
Ig Kappa軽鎖の分泌シグナル‐ヘキサヒスチジンタグ‐SUMOstar‐HRV3Cプロテアーゼ切断配列‐FAM150B(67-152)
リガンド006P:
Ig Kappa軽鎖の分泌シグナル‐ヘキサヒスチジンタグ‐SUMOstar‐HRV3Cプロテアーゼ切断配列‐FAM150B(69-152)
リガンド007P
Ig Kappa軽鎖の分泌シグナル‐ヘキサヒスチジンタグ‐SUMOstar‐HRV3Cプロテアーゼ切断配列‐FAM150B(73-152)
リガンド008P:
Ig Kappa軽鎖の分泌シグナル‐ヘキサヒスチジンタグ‐SUMOstar‐HRV3Cプロテアーゼ切断配列‐FAM150B(75-152)
リガンド009P:
Ig Kappa軽鎖の分泌シグナル‐ヘキサヒスチジンタグ‐SUMOstar‐HRV3Cプロテアーゼ切断配列‐FAM150B(77-152)
リガンド010P:
Ig Kappa軽鎖の分泌シグナル‐ヘキサヒスチジンタグ‐SUMOstar‐HRV3Cプロテアーゼ切断配列‐FAM150B(79-152)
リガンド011P:
Ig Kappa軽鎖の分泌シグナル‐ヘキサヒスチジンタグ‐SUMOstar‐HRV3Cプロテアーゼ切断配列‐FAM150B(81-152)
リガンド012P:
Ig Kappa軽鎖の分泌シグナル‐ヘキサヒスチジンタグ‐SUMOstar‐HRV3Cプロテアーゼ切断配列‐FAM150B(83-152)
リガンド013P:
Ig Kappa軽鎖の分泌シグナル‐ヘキサヒスチジンタグ‐SUMOstar‐HRV3Cプロテアーゼ切断配列‐FAM150B(85-152)
リガンド014P:
Ig Kappa軽鎖の分泌シグナル‐ヘキサヒスチジンタグ‐SUMOstar‐HRV3Cプロテアーゼ切断配列‐FAM150B(87-152)
リガンド015P:
Ig Kappa軽鎖の分泌シグナル‐ヘキサヒスチジンタグ‐SUMOstar‐HRV3Cプロテアーゼ切断配列‐FAM150B(89-152)
リガンド016P:
Ig Kappa軽鎖の分泌シグナル‐ヘキサヒスチジンタグ‐SUMOstar‐HRV3Cプロテアーゼ切断配列‐FAM150B(91-152)
リガンド017P:
Ig Kappa軽鎖の分泌シグナル‐ヘキサヒスチジンタグ‐SUMOstar‐HRV3Cプロテアーゼ切断配列‐FAM150B(93-152)
リガンド018P:
Ig Kappa軽鎖の分泌シグナル‐ヘキサヒスチジンタグ‐SUMOstar‐HRV3Cプロテアーゼ切断配列‐FAM150B(95-152)
リガンド019P:
Ig Kappa軽鎖の分泌シグナル‐ヘキサヒスチジンタグ‐SUMOstar‐HRV3Cプロテアーゼ切断配列‐FAM150B(97-152)
リガンド020P:
Ig Kappa軽鎖の分泌シグナル‐ヘキサヒスチジンタグ‐SUMOstar‐HRV3Cプロテアーゼ切断配列‐FAM150B(99-152)
リガンド021P:
Ig Kappa軽鎖の分泌シグナル‐ヘキサヒスチジンタグ‐SUMOstar‐HRV3Cプロテアーゼ切断配列‐FAM150B(101-152)
リガンド022P:
Ig Kappa軽鎖の分泌シグナル‐ヘキサヒスチジンタグ‐SUMOstar‐HRV3Cプロテアーゼ切断配列‐FAM150B(103-152)
リガンド023P:
Ig Kappa軽鎖の分泌シグナル‐ヘキサヒスチジンタグ‐SUMOstar‐HRV3Cプロテアーゼ切断配列‐FAM150B(71-150)
リガンド024P:
Ig Kappa軽鎖の分泌シグナル‐ヘキサヒスチジンタグ‐SUMOstar‐HRV3Cプロテアーゼ切断配列‐FAM150B(71-148)
【0174】
[実施例11 表面プラズモン共鳴を用いたALK 001P及びLTK 001Pとの結合活性測定]
<FAM150Bトランケート体の発現>
リガンド003、リガンド005~リガンド024のプラスミドおよびExpi293 Expression System(Thermo Fisher Scientific)を用いて、各種FAM150Bトランケート体を発現させた。Expi293 Expression Mediumで培養中のExpi293細胞を2.9 x 106個/mLとなるようにExpression Mediumで希釈した培養液25.5mLが入った125mLフラスコを用意し、マニュアルに従い各30μgのリガンド003、リガンド005~リガンド024をExpi293細胞にトランスフェクションした。
トランスフェクションしてから18-20時間後に、キット付属のEnhancer1、2をそれぞれ0.15mL、1.5mL加えて培養を継続した。培養は、8% CO2下、125rpm、37℃で行った。トランスフェクションしてから4日後に培養液の上清を遠心分離により回収した。得られた上清を、精製を行うまで-30℃~-80℃にて凍結保存した。
【0175】
<FAM150Bトランケート体の精製>
培養上清を融解後、1M Tris-HCl pH8.0を1.5mLおよびDWによって50%懸濁状態のNi Sepharose 6 Fast Flow(GEヘルスケア・ジャパン)を2mL加え、10分間4℃にて攪拌し、リガンド003P、リガンド005P~リガンド024Pをそれぞれ樹脂に吸着させた。その後、懸濁液を空のクロマトグラフィー用カラムへ移し、樹脂を50mM Tris-HCl pH8.0、500mM NaCl、20mM Imidazoleで洗浄後、50mM Tris-HCl pH8.0、500mM NaCl、500mM Imidazoleでリガンド003P、リガンド005P~リガンド024Pを溶出させた。
【0176】
得られた溶出液をAKTA explorer(GEヘルスケア・ジャパン)に接続したSuperdex75 10/300(GEヘルスケア・ジャパン)を用いて、流速0.7mL/minにて分離操作を行い、メインピークを回収し、SPRによる相互作用解析用サンプルとした。
【0177】
<ALK 001P又はLTK 001PとFAM150Bトランケート体との結合確認>
FAM150Bの71-152残基のALK 001P及びLTK 001Pへの結合が確認されたことから、各種FAM150Bトランケート体を用い、Biacore 8K計器(GEヘルスケア・ジャパン)で表面プラズモン共鳴(SPR)手法によりALK 001P及びLTK 001Pへの結合強度に変化が生じる境界アミノ酸残基の探索を行った。
【0178】
<ALK 001P及びLTK 001Pのセンサーチップへの固定化>
HBS-P+中7.5μg/mL(糖鎖を含まない分子量を用いて算出)のALK 001Pを、10μg/mL(糖鎖を含まない分子量を用いて算出)のLTK 001Pを流速10μL/分でそれぞれ60秒注入して、Series S Sensor Chip Protein A(GEヘルスケア・ジャパン)のProtein Aでコーティングされた表面上に固定化した。これは固定化量としてそれぞれALK 001Pは、590~670RU、LTK 001Pは520~640RUをもたらした。
【0179】
<結合解離曲線の取得>
リガンド003P、リガンド005P~リガンド024PをHBS-P+で20nMから2倍希釈で6濃度調製した。各濃度のリガンド003P、リガンド005P~リガンド024P及び0濃度としてのHBS-P+を流速30μL/分で固定化したALK 001PまたはLTK 001P表面上、並びにProtein Aでコーティングされた未処理の表面(ベースライン)上に360秒間注入して結合曲線を記録した。
【0180】
続いてHBS-P+を流速30μL/分で固定化したALK 001PまたはLTK 001P表面上、並びにProtein Aでコーティングされた未処理の表面(ベースライン)上を600秒間流し解離曲線を記録した。
なお、センサーチップ表面上にコーティングされたProtein AからのALK 001PおよびLTK 001Pの解離(再生操作)は、流速30μL/分で10mM Glycine-HCl pH1.6を30秒間注入することで行った。ベースラインを差し引いて修正した結合解離曲線は、Biacore8K Evaluation Software(GEヘルスケア・ジャパン)によって作製した。
【0181】
図20-1~20-4、図21-1~21-4、及び図22-1~22-3は、表面プラズモン共鳴によるALK 001P及びLTK 001Pとリガンド003P及びリガンド005P~リガンド024Pとの結合確認の結果を示す。その結果、リガンド003P、リガンド005P~リガンド017P、リガンド023P及びリガンド024Pは、ALK 001P及びLTK 001Pの双方と良好な結合を示し、ALK及びLTKを標的としたCARの標的結合ドメインとして好適であることが示唆された。一方、リガンド018P~リガンド022Pは、他のリガンドと比較して著しく解離が速く、結合強度の低下が確認された。
【0182】
[実施例12 4-1BB型CAR発現プラスミドの作製]
本実施例では、CAR 002及び003のCD28ドメインを4-1BBに入れ替えたプラスミドCAR 009及びCAR 010の作製を行った。
<CD8α + 4-1BB遺伝子の人工合成>
WO 2015/069922に記載されたヒト4-1BBのアミノ酸配列情報(配列番号125)に基づいて、ヒトにコドン最適化を行ったDNA配列にCAR 002及び003のCD28領域の上流15塩基と下流15塩基の配列を付加したDNA配列(配列番号126)をデザインし、人工合成してpEX-K4J1ベクターに挿入した(ユーロフィンジェノミクス株式会社に委託)。
【0183】
<CD8α + 4-1BBのPCRによる増幅>
人工合成した遺伝子(配列番号126)を鋳型としてPCRによる増幅を行った。使用したPCRプライマーを配列番号127及び128に示した。PCRはPrimeSTAR Max DNA polymerase(タカラバイオ株式会社)を用い98℃ 10秒、68℃ 30秒の反応を35サイクル行った。PCR反応後のサンプル一部を2%アガロースゲル電気泳動にて分離し、目的サイズの増幅産物を確認した後、残りのPCR反応後のサンプルをKOD - Plus- Mutagenesis Kit(東洋紡株式会社)添付のプロトコールに従ってDpnI処理により鋳型プラスミドを排除する反応を行った。
【0184】
<CAR 002又はCAR 003のinverse-PCRによる直鎖状断片の増幅>
CAR 002又は003のCD28領域を欠失させるため、inverse-PCRにより直鎖状断片とした。Inverse-PCRに用いるPCRプライマーは配列番号129及び130をデザインして合成した(ユーロフィンジェノミクス株式会社に委託)。CAR 002又は003を50 ng/μLに調整し鋳型として用い、各PCRプライマーは反応液中濃度が0.2μMになるように調整した。Inverse-PCRはKOD - Plus- Mutagenesis Kit(東洋紡株式会社)を用い、反応組成はキット添付のプロトコールに従い、反応条件は、(i)94℃ 2分、(ii)98℃ 10秒、(iii)68℃ 7分で(ii)及び(iii)を10サイクル行った。PCR反応後のサンプル一部を1%アガロースゲル電気泳動にて分離し、目的サイズの直鎖状断片の増幅を確認した後、残りのPCR反応後のサンプルをKOD-Plus- Mutagenesis Kit(東洋紡株式会社)添付のプロトコールに従ってDpnI処理により、メチル化された鋳型プラスミドCAR 002又は003を切断して排除する反応を行った。
【0185】
<CAR 002又は003直鎖状断片とCD8α + 4-1BB増幅断片の連結>
CAR 002又は003直鎖状断片とCD8α+4-1BB増幅断片の連結反応をNEBuilder HiFi DNA Assembly Master Mix(New England Biolabs)を用いて行った。50℃ 15分の反応後、連結した環状プラスミドにより大腸菌DH5α(東洋紡株式会社)を形質転換し、100μg/mLカルベニシリン含有LB寒天培地上で約16時間培養した。
【0186】
出現したコロニーをさらに100μg/mLカルベニシリン含有LB液体培地中で約16時間培養した。培養した大腸菌からQIAprep Spin Miniprep Kit(キアゲン)を用いて各プラスミドを精製して塩基配列の確認を行い、目的の塩基配列の導入が確認されたプラスミドをそれぞれFAM150A 4-1BB型(CAR 009; FAM150A-8αBBz)、FAM150B 4-1BB型(CAR 010; FAM150B-8αBBz)とした。塩基配列の確認はユーロフィンジェノミクスに解析を委託した。
【0187】
図23にCAR 009 (FAM150A-8α28z) のベクターマップを示し、CAR 009の翻訳領域のDNA配列を配列番号131に示した。
図24にCAR 010 (FAM150B-8α28z) のベクターマップを示し、CAR 010の翻訳領域のDNA配列を配列番号132に示した。
【0188】
<FAM150Aトランケート4-1BB型CAR発現プラスミド(CAR 011; FAM150ATr-8αBBz)、及びFAM150Bトランケート4-1BB型CAR発現プラスミド(CAR 012; FAM150BTr-8αBBz)の作製>
上記で作製したCAR 009又は010を鋳型として、inverse-PCR法によりFAM150Aトランケート4-1BB型CAR発現プラスミド(CAR 011; FAM150ATr-8αBBz)、及びFAM150Bトランケート4-1BB型CAR発現プラスミド(CAR 012; FAM150BTr-8αBBz)を作製した。Inverse-PCRに用いるPCRプライマーは前出のCAR 002直鎖化用(配列番号52及び53)、CAR 003直鎖化用(配列番号54及び55)プライマーをそれぞれ用いた。
【0189】
CAR 009又は010を50 ng/μLに調整し鋳型として用い、各PCRプライマーは反応液中濃度が0.2μMになるように調整した。Inverse-PCRはKOD-Plus- Mutagenesis Kit(東洋紡株式会社)を用い、反応組成はキット添付のプロトコールに従い、反応条件は、(i)94℃ 2分、(ii)98℃ 10秒、(iii)68℃ 7分で(ii)及び(iii)を10サイクル行った。
【0190】
PCR反応後のサンプル一部を1%アガロースゲル電気泳動にて分離し、目的サイズの直鎖状プラスミドの増幅を確認した後、残りのPCR反応後のサンプルをKOD - Plus- Mutagenesis Kit(東洋紡株式会社)添付のプロトコールに従ってDpnI処理により、メチル化された鋳型プラスミドCAR 009又は010を切断し排除する反応を行った。その後、直鎖状プラスミドをキット添付のT4 Polynucleotide Kinaseによりリン酸化し、セルフライゲーションさせて環状プラスミドとした。その後、環状プラスミドにより大腸菌DH5α(東洋紡株式会社)を形質転換し、100μg/mLカルベニシリン含有LB寒天培地上で約16時間培養した。
【0191】
出現したコロニーをさらに100μg/mLカルベニシリン含有LB液体培地中で約16時間培養した。培養した大腸菌からQIAprep Spin Miniprep Kit(キアゲン)を用いて各プラスミドを精製して塩基配列の確認を行い、目的の塩基配列の欠失が確認されたプラスミドをFAM150Aトランケート4-1BB型CAR発現プラスミド(CAR 011; FAM150ATr-8αBBz)、FAM150Bトランケート4-1BB型CAR発現プラスミド(CAR 012; FAM150BTr-8αBBz)とした。
【0192】
図25にCAR 011 (FAM150ATr-8αBBz) のベクターマップを示し、CAR 011の翻訳領域のDNA配列を配列番号133に示した。
図26にCAR 012 (FAM150BTr-8αBBz) のベクターマップを示し、CAR 012の翻訳領域のDNA配列を配列番号134に示した。
【0193】
<ヒト化ALK48 scFv 4-1BB型(CAR 013; hALK48-8αBBz)及びマウスALK48 scFv 4-1BB型CAR発現プラスミド(CAR 014 ALK48-8αBBz)の作製>
それぞれ約1μg相当量のCAR 004、005、009又は010を制限酵素XhoI及びDraIII(New England Biolabs)により37℃で約2時間消化した。酵素処理済み反応液を1%アガロース電気泳動にて分離し、CAR 009又は010の酵素処理断片(ベクター側)とCAR 004又は005から切り出されたインサート断片(配列番号5又は6)をゲルから切り出し、NucleoSpin Gel and PCR Clean-up(登録商標、マッハライ・ナーゲル、タカラバイオ株式会社)を用いて精製した。精製したベクター断片とインサート断片をDNA Ligation Kit<Mighty Mix>(タカラバイオ株式会社)を用いて連結した。連結した環状プラスミドにより大腸菌DH5α(東洋紡株式会社)を形質転換し、100μg/mLカルベニシリン含有LB寒天培地上で約16時間培養した。
【0194】
出現したコロニーをさらに100μg/mLカルベニシリン含有LB液体培地中で約16時間培養した。培養した大腸菌からQIAprep Spin Miniprep Kit(キアゲン)を用いて各プラスミドを精製して塩基配列の確認を行い、目的の塩基配列の導入が確認されたプラスミドをそれぞれヒト化ALK48 scFv 4-1BB型(CAR 013; hALK48-8αBBz)又はマウスALK48 scFv 4-1BB型CAR発現プラスミド(CAR 014; ALK48-8αBBz)とした。塩基配列の確認はユーロフィンジェノミクスに解析を委託した。
【0195】
図27にCAR 013 (hALK48-8αBBz) のベクターマップを示し、CAR 013の翻訳領域のDNA配列を配列番号135に示した。
図28にCAR 014 (ALK48-8αBBz) のベクターマップを示し、CAR 014の翻訳領域のDNA配列を配列番号136に示した。
【0196】
[実施例13 FAM150A 4-1BB型CAR-T、FAM150B 4-1BB型CAR-T、FAM150Aトランケート4-1BB型CAR-T、FAM150Bトランケート4-1BB型CAR-T、ヒト化ALK48 scFv 4-1BB型CAR-T及びマウスALK48 scFv 4-1BB型CAR-Tの抗腫瘍細胞活性の比較]
実施例2のCAR-Tの培養・増幅方法に従い、実施例で作製したCAR 009~014発現プラスミドを用いてCAR-T細胞を調製した。
【0197】
CAR 009~014を用いてPBMCへの電気的導入操作及びT細胞の培養・増幅操作によって得られるCAR-T細胞を、本明細書においてそれぞれ以下のように記載する。
CAR-T 009:FAM150A 4-1BB型CAR-T(FAM150A-8αBBz CAR-T)
CAR-T 010:FAM150B 4-1BB型CAR-T(FAM150B-8αBBz CAR-T)
CAR-T 011:FAM150Aトランケート 4-1BB型CAR-T(FAM150ATr-8αBBz CAR-T)
CAR-T 012:FAM150Bトランケート 4-1BB型CAR-T(FAM150BTr-8αBBz CAR-T)
CAR-T 013:ヒト化ALK48 scFv 4-1BB型CAR-T(hALK48-8αBBz CAR-T)
CAR-T 014:マウスALK48 scFv 4-1BB型CAR-T(ALK48-8αBBz CAR-T)
【0198】
CAR 009のアミノ酸配列及びこれをコードする塩基配列を配列番号137及び131、CAR 010のアミノ酸配列及びこれをコードする塩基配列を配列番号138及び132、
CAR 011のアミノ酸配列及びこれをコードする塩基配列を配列番号139及び133、
CAR 012のアミノ酸配列及びこれをコードする塩基配列を配列番号140及び134、
CAR 013のアミノ酸配列及びこれをコードする塩基配列を配列番号141及び135、
CAR 014のアミノ酸配列及びこれをコードする塩基配列を配列番号142及び136
にそれぞれ示す。
【0199】
健康成人1ドナーのPBMCへのCAR発現プラスミドの遺伝子導入操作と培養によって得られたCAR-T細胞のCAR発現率を以下の表5に示す。
【0200】
【表5】
【0201】
<CAR-Tの抗腫瘍細胞活性測定>
上記で得られたCAR-T 009~014の抗腫瘍細胞活性を測定するため、固形腫瘍細胞との共培養試験を実施した。本実施例では、ターゲット腫瘍細胞としてSH-SY5Y及び乳癌細胞株MDA-MB231 ffLuc(JCRB細胞バンク)を継代維持したものを用いた。SH-SY5Y細胞及びMDA-MB231 ffLuc細胞の継代維持は、15% FBS、1%ペニシリン/ストレプトマイシン及び1%非必須アミノ酸溶液含有D-MEM/Ham’s F-12培地を用いて行い、共培養試験も同様の培地を使用した。
【0202】
活性評価は実施例3の方法に従い、フローサイトメーターはBD AccuriTMC6 Plus(BDバイオサイエンス)を使用した。また、MDA-MB231 ffLucのフローサイトメーターでの解析にはPE anti-human Ganglioside GD2抗体の代わりにPE Anti-Human EGFR抗体(ミルテニーバイオテク)2μLを用い、EGFR陽性の腫瘍細胞数をカウンティングビーズ数から算出した。
【0203】
図29にドナー-1のCAR-T 009~014又はMock-T細胞のSH-SY5Yに対する抗腫瘍細胞活性及び腫瘍細胞の増殖曲線を示した。その結果、CAR-T 009、010、011、012のSH-SY5Yに対する殺傷効果が確認された。一方で、CAR-T 013及び014の殺傷効果はMock-T細胞のそれと大きな差はなく、効果はほとんど認められなかった。
【0204】
図30にドナー-1のCAR-T 009~014又はMock-T細胞のMDA-MB231 ffLucに対する抗腫瘍細胞活性及び腫瘍細胞の増殖曲線を示した。その結果、CAR-T 009、010、011、012のMDA-MB231 ffLucに対する殺傷効果が確認された。一方で、CAR-T 013及び014の殺傷効果はMock-T細胞のそれよりもむしろ弱く、効果はほとんど認められなかった。
【0205】
本実施例により、FAM150A(全長型及びトランケート型)CAR-T及びFAM150B(全長型及びトランケート型)CAR-Tの神経芽腫細胞株及び乳癌細胞株への抗腫瘍細胞活性が、ALK48 scFv型(ヒト化型及びマウス型)CAR-Tのそれよりも優れていることが示唆された。
【0206】
[実施例14 FAM150BT14、T15、T17~T19トランケート型CAR発現プラスミドの作製]
実施例7で作製したCAR 008 (FAM150BTr-28z)を鋳型として、更なるトランケート型発現プラスミドCAR 015、016、017~019を作製した。Inverse-PCRに使用するフォワードプライマーはそれぞれCAR 015増幅用(配列番号156)、CAR 016増幅用(配列番号157)、CAR 017増幅用(配列番号158)、CAR 018増幅用(配列番号159)またはCAR 019増幅用(配列番号160)のようにデザインした。リバースプライマーは前出の配列番号55の配列のものを使用した。
【0207】
CAR 008を50 ng/μLに調整し鋳型として用い、各PCRプライマーは反応液中濃度が0.2μMになるように調整した。Inverse-PCRはKOD-Plus- Mutagenesis Kit(東洋紡株式会社)を用い、反応組成はキット添付のプロトコールに従い、反応条件は、(i)94℃ 2分、(ii)98℃ 10秒、(iii)68℃ 7分で(ii)及び(iii)を10サイクル行った。
【0208】
PCR反応後のサンプル一部を1%アガロースゲル電気泳動にて分離し、目的サイズの直鎖状プラスミドの増幅を確認した後、残りのPCR反応後のサンプルをKOD - Plus- Mutagenesis Kit(東洋紡株式会社)添付のプロトコールに従ってDpnI処理により、メチル化された鋳型プラスミドCAR 008を切断し排除する反応を行った。その後、直鎖状プラスミドをキット添付のT4 Polynucleotide Kinaseによりリン酸化し、セルフライゲーションさせて環状プラスミドとした。その後、環状プラスミドにより大腸菌DH5α(東洋紡株式会社)を形質転換し、100μg/mLカルベニシリン含有LB寒天培地上で約16時間培養した。
【0209】
出現したコロニーをさらに100μg/mLカルベニシリン含有LB液体培地中で約16時間培養した。培養した大腸菌からQIAprep Spin Miniprep Kit(キアゲン)を用いて各プラスミドを精製して塩基配列の確認を行い、目的の塩基配列の欠失が確認されたプラスミドをFAM150BトランケートCD28型CAR発現プラスミド(CAR 015; FAM150BT14-28z, CAR 016; FAM150BT15-28z, CAR 017; FAM150BT17-28z, CAR 018; FAM150BT18-28z, CAR 019; FAM150BT19-28z)とした。
【0210】
図31にCAR 015 (FAM150BT14-28z) のベクターマップを示し、CAR 015の翻訳領域のDNA配列を配列番号161に示した。
図32にCAR 016 (FAM150BT15-28z) のベクターマップを示し、CAR 016の翻訳領域のDNA配列を配列番号162に示した。
図33にCAR 017 (FAM150BT17-28z) のベクターマップを示し、CAR 017の翻訳領域のDNA配列を配列番号163に示した。
図34にCAR 018 (FAM150BT18-28z) のベクターマップを示し、CAR 018の翻訳領域のDNA配列を配列番号164に示した。
図35にCAR 019 (FAM150BT19-28z) のベクターマップを示し、CAR 019の翻訳領域のDNA配列を配列番号165に示した。
【0211】
[実施例15 FAM150BT14、T15、T17~T19トランケート型CAR発現T細胞の抗腫瘍細胞活性の比較]
実施例2のCAR-Tの培養・増幅方法に従い、実施例14で作製したCAR 015~019発現プラスミドを用いてCAR-T細胞を調製した。
【0212】
CAR 015~019を用いてPBMCへの電気的導入操作及びT細胞の培養・増幅操作によって得られるCAR-T細胞を、本明細書においてそれぞれ以下のように記載する。
CAR-T 015:FAM150B トランケートT14 CD28型CAR-T(FAM150BT14-CD28z CAR-T)
CAR-T 016:FAM150B トランケートT15 CD28型CAR-T(FAM150BT15-CD28z CAR-T)
CAR-T 017:FAM150B トランケートT17 CD28型CAR-T(FAM150BT17-CD28z CAR-T)
CAR-T 018:FAM150B トランケートT18 CD28型CAR-T(FAM150BT18-CD28z CAR-T)
CAR-T 019:FAM150B トランケートT19 CD28型CAR-T(FAM150BT19-CD28z CAR-T)
【0213】
CAR 015のアミノ酸配列及びこれをコードする塩基配列を配列番号166及び161、
CAR 016のアミノ酸配列及びこれをコードする塩基配列を配列番号167及び162、
CAR 017のアミノ酸配列及びこれをコードする塩基配列を配列番号168及び163、
CAR 018のアミノ酸配列及びこれをコードする塩基配列を配列番号169及び164、
CAR 019のアミノ酸配列及びこれをコードする塩基配列を配列番号170及び165、
にそれぞれ示す。
【0214】
健康成人1ドナーのPBMCへのCAR発現プラスミドの遺伝子導入操作と培養によって得られたCAR-T細胞のCAR発現率を以下の表6に示す。
【0215】
【表6】
【0216】
<CAR-Tの抗腫瘍細胞活性測定>
上記で得られたCAR-T 015~019の抗腫瘍細胞活性を測定するため、固形腫瘍細胞との共培養試験を実施した。本実施例では、ターゲット腫瘍細胞としてSH-SY5Y、NB-1、IMR32及びMDA-MB231 ffLucを継代維持したものを用いた。
【0217】
活性評価は実施例3の方法に従い、フローサイトメーターはBD AccuriTM C6 Plus(BDバイオサイエンス)を使用した。また、MDA-MB231 ffLucのフローサイトメーターでの解析にはPE anti-human Ganglioside GD2抗体の代わりにPE Anti-Human EGFR抗体(ミルテニーバイオテク)2μLを用い、EGFR陽性の腫瘍細胞数をカウンティングビーズ数から算出した。
【0218】
図36にドナー-1のCAR-T 015~019、008、006又はMock-T細胞のSH-SY5Y、NB-1、IMR32及びMDA-MB231 ffLucに対する抗腫瘍細胞活性を示した。その結果、CAR-T 016~019のSH-SY5Y、NB-1、IMR32及びMDA-MB231 ffLucに対する殺傷効果が確認され、その活性は実施例8で高い抗腫瘍活性が確認されたCAR-T 008のそれと大きな差はなかった。
【0219】
本実施例により、CAR-T 016~019の神経芽腫細胞株及び乳癌細胞株への抗腫瘍細胞活性はCAR-T 008とほぼ同等であることが示唆された。
【0220】
[実施例16 FAM150Bトランケート型CH2CH3欠失型CAR発現プラスミドの作製]
実施例12で作製したCAR 012 (FAM150BTr-8αBBz)を鋳型として、CH2CH3欠失型発現プラスミドCAR 020を作製した。Inverse-PCRに使用するフォワードプライマーは配列番号171、リバースプライマーは配列番号172を使用した。
【0221】
CAR 012を50 ng/μLに調整し鋳型として用い、各PCRプライマーは反応液中濃度が0.2μMになるように調整した。Inverse-PCRはKOD-Plus- Mutagenesis Kit(東洋紡株式会社)を用い、反応組成はキット添付のプロトコールに従い、反応条件は、(i)94℃ 2分、(ii)98℃ 10秒、(iii)68℃ 7分で(ii)及び(iii)を10サイクル行った。
【0222】
PCR反応後のサンプル一部を1%アガロースゲル電気泳動にて分離し、目的サイズの直鎖状プラスミドの増幅を確認した後、残りのPCR反応後のサンプルをKOD - Plus- Mutagenesis Kit(東洋紡株式会社)添付のプロトコールに従ってDpnI処理により、メチル化された鋳型プラスミドCAR 012を切断し排除する反応を行った。その後、直鎖状プラスミドをキット添付のT4 Polynucleotide Kinaseによりリン酸化し、セルフライゲーションさせて環状プラスミドとした。その後、環状プラスミドにより大腸菌DH5α(東洋紡株式会社)を形質転換し、100μg/mLカルベニシリン含有LB寒天培地上で約16時間培養した。
【0223】
出現したコロニーをさらに100μg/mLカルベニシリン含有LB液体培地中で約16時間培養した。培養した大腸菌からQIAprep Spin Miniprep Kit(キアゲン)を用いて各プラスミドを精製して塩基配列の確認を行い、目的の塩基配列の欠失が確認されたプラスミドをFAM150Bトランケート型CH2CH3欠失型CAR発現プラスミド(CAR 020; FAM150BTr-BBz dCH2CH3)とした。
【0224】
図37にCAR 020 (FAM150BTr-BBz dCH2Ch3) のベクターマップを示し、CAR 020の翻訳領域のDNA配列を配列番号173に、CAR 020のアミノ酸配列を配列番号174に示した。
【0225】
<培養法>
実施例2のCAR-Tの培養・増幅方法に従い、CD19 scFv型CAR発現プラスミド(CAR 006; CD19-28z)、実施例12で作製したCAR 012 (FAM150BTr-8αBBz)、及び上記のCAR 020発現プラスミドを用いてCAR-T細胞を調製した。CAR 020を用いて作製したCAR-T細胞のフローサイトメーターでの解析においては、FITC Goat Anti-Human IgG (H+L) 抗体(Jackson ImmunoResearch Inc)の代わりにMouse Anti-Human IgG1 Hinge-FITC Secondary Antibody(ABGENT Inc)5μLを用いた。
【0226】
健康成人1ドナーのPBMCへのCAR発現プラスミドの遺伝子導入操作と培養によって得られたCAR-T細胞のCAR発現率を以下の表7に示す。
【0227】
【表7】
【0228】
<CAR-Tの抗腫瘍細胞活性測定>
上記で得られたCAR-T 006、012、020の抗腫瘍細胞活性を測定するため、固形腫瘍細胞との共培養試験を実施した。本実施例では、ターゲット腫瘍細胞としてSH-SY5Y、NB-1、IMR32及びMDA-MB231 ffLucを継代維持したものを用いた。
【0229】
活性評価は実施例3の方法に従い、フローサイトメーターはBD AccuriTM C6 Plus(BDバイオサイエンス)を使用した。また、MDA-MB231 ffLucのフローサイトメーターでの解析にはPE anti-human Ganglioside GD2抗体の代わりにPE Anti-Human EGFR抗体(ミルテニーバイオテク)2μLを用い、EGFR陽性の腫瘍細胞数をカウンティングビーズ数から算出した。
【0230】
図38にドナー-1のCAR-T 006、012、020又はMock-T細胞のSH-SY5Y、NB-1、IMR32及びMDA-MB231 ffLucに対する抗腫瘍細胞活性を示した。その結果、CAR-T 020のSH-SY5Y 、NB-1、IMR32及びMDA-MB231 ffLucに対する殺傷効果が確認され、その活性はCAR-T 012のそれと同等であった。
【0231】
[実施例17 ALKまたはLTK発現プラスミドの作製]
<ALK発現プラスミド(pEHX-ALK)の作製>
ALK(NCBI Accession No.: NM_004304.5)の翻訳領域の開始コドンから制限酵素DraIII切断配列まで(928~3,198塩基; 配列番号175)の配列の上流に制限酵素HindIIIの切断配列、Kozak配列(配列番号21)を付加したDNA配列(HindIII-Kozak-ALK-DraIII; 配列番号176)をデザインした。さらに別に、ALK(NCBI Accession No.: NM_004304.5)の翻訳領域の制限酵素DraIII切断配列以下(3,190~5,790bp; 配列番号177)の配列の下流に終始コドンTGA、制限酵素NotIの切断配列を付加したDNA配列(DraIII-ALK-TGA-NotI; 配列番号178)をデザインした。デザインした2つのDNA配列を人工合成してpEX-K4J2ベクター中に組み込んだ(ユーロフィンジェノミクス株式会社に委託)。
【0232】
配列番号176が組み込まれたpEX-K4J2ベクター(1μg相当量)を制限酵素HindIII、DraIII及びSphIにより37℃で約3時間消化した。配列番号178が組み込まれたpEX-K4J2ベクターは制限酵素DraIII、NotI及びSphIにより37℃で3時間消化した。酵素処理済み反応液を1%アガロース電気泳動にて分離し、配列番号176の酵素処理断片は理論値2,600bpの断片、配列番号178の酵素処理断片は理論値2,279bpの断片をゲルから切り出し、NucleoSpin Gel and PCR Clean-up(登録商標、マッハライ・ナーゲル、タカラバイオ株式会社)を用いて精製した。
【0233】
一方で、ホストベクターとして使用するMammalian PowerExpress System ベクターpEHX1.2(登録商標、東洋紡株式会社)を制限酵素HindIII及びNotIにより37℃で約2時間消化し、上記と同様な操作によりベクター側断片を精製した。
【0234】
その後、配列番号176、178及びpEHX1.2の酵素処理断片をDNA Ligation Kit <Mighty Mix>(タカラバイオ株式会社)を用いて連結した。連結した環状プラスミドにより大腸菌DH5α(東洋紡株式会社)を形質転換し、100μg/mLカルベニシリン含有LB寒天培地上で約16時間培養した。
【0235】
出現したコロニーをさらに100μg/mLカルベニシリン含有LB液体培地中で約16時間培養した。培養した大腸菌からQIAprep Spin Miniprep Kit(キアゲン)を用いて各プラスミドを精製し、塩基配列の確認を行い、目的の塩基配列の導入が確認されたプラスミドをALK発現プラスミド(pEHX-ALK)とした。塩基配列の確認はユーロフィンジェノミクスに解析を委託した。
【0236】
図39にpEHX-ALKのベクターマップを示し、pEHX-ALKの翻訳領域のDNA配列を配列番号179に示す。
【0237】
<LTK発現プラスミド(pEHX-LTK)の作製>
実施例4で作製したLTK 001を鋳型として、配列番号180及び配列番号181に示したPCRプライマーを用いて、LTK 001のKozak配列(配列番号21)の上流に制限酵素NotI切断配列を付加し、LTK配列中の制限酵素NheI切断配列まで(NotI-Kozak-LTK-NheI; 配列番号182)をPCRにより増幅した。PCR酵素はPrimeSTAR Max DNA polymerase(タカラバイオ株式会社)を用い98℃ 10秒、55℃ 5秒、72℃ 10秒の反応を35サイクル行った。
【0238】
PCR反応後のサンプルを1%アガロースゲル電気泳動にて分離し、配列番号182をNucleoSpin Gel and PCR Clean-up(登録商標、マッハライ・ナーゲル、タカラバイオ株式会社)を用いて精製した。その後、Zero Blunt TOPO PCR Cloning Kit(登録商標、サーモ・フィッシャー・サイエンティフィック)を用いて平滑末端クローニングによりpCR-BluntII-TOPOベクターに組み込んだ。配列番号182が組み込まれた環状プラスミドにより大腸菌DH5α(東洋紡株式会社)を形質転換し、50μg/mLカナマイシン含有LB寒天培地上で約16時間培養した。
【0239】
出現したコロニーをさらに50μg/mLカルベニシリン含有LB液体培地中で約16時間培養した。培養した大腸菌からQIAprep Spin Miniprep Kit(キアゲン)を用いて各プラスミドを精製した(pCR-BluntII-NotI-Kozak-LTK-NheI)。
【0240】
さらに別に、LTK(NCBI Accession No.: NM_002344.5)の制限酵素NheI切断配列から終始コドンTGAの下流に更に終始コドンであるTAA、制限酵素XbaI切断配列を付加したDNA配列(NheI-LTK-TAA-XbaI; 配列番号183)をデザインし、ヒトにコドン最適化を行った。デザインしたDNA配列を人工合成してpEX-K4J2ベクター中に組み込んだ(ユーロフィンジェノミクス株式会社に委託)。
【0241】
配列番号183が組み込まれたpEX-K4J2ベクターを鋳型として配列番号184及び185に記載したPCRプライマーを用いて、LTKの制限酵素NheI切断配列から終始コドン2つTGATAAの下流に制限酵素NotI切断配列を付加した配列(NheI-LTK-TGATAA-NotI; 配列番号186)をPCRにより増幅した。PCR酵素はPrimeSTAR Max DNA polymerase(タカラバイオ株式会社)を用い98℃ 10秒、55℃ 5秒、72℃ 10秒の反応を35サイクル行った。
【0242】
PCR反応後のサンプルを1%アガロースゲル電気泳動にて分離し、配列番号186をNucleoSpin Gel and PCR Clean-up(登録商標、マッハライ・ナーゲル、タカラバイオ株式会社)を用いて精製した。その後、Zero Blunt TOPO PCR Cloning Kit(登録商標、サーモ・フィッシャー・サイエンティフィック)を用いて平滑末端クローニングによりpCR-BluntII-TOPOベクターに組み込んだ。配列番号186が組み込まれた環状プラスミドにより大腸菌DH5α(東洋紡株式会社)を形質転換し、50μg/mLカナマイシン含有LB寒天培地上で約16時間培養した。
【0243】
出現したコロニーをさらに50μg/mLカルベニシリン含有LB液体培地中で約16時間培養した。培養した大腸菌からQIAprep Spin Miniprep Kit(キアゲン)を用いて各プラスミドを精製した(pCR-BluntII-NheI-LTK-NotI)。
【0244】
pCR-BluntII-NotI-Kozak-LTK-NheI (1μg相当量)を制限酵素HindIII及びNheIにより37℃で約3時間消化した。一方、pCR-BluntII-NheI-LTK-NotI(1μg相当量)は制限酵素NheI及びNotIにより37℃で2時間消化した。酵素処理済み反応液を1%アガロース電気泳動にて分離し、配列番号182又は186の切断断片をゲルから切り出し、NucleoSpin Gel and PCR Clean-up(登録商標、マッハライ・ナーゲル、タカラバイオ株式会社)を用いて精製した。
【0245】
一方で、ホストベクターとして使用するMammalian PowerExpress System ベクターpEHX1.2(登録商標、東洋紡株式会社)を制限酵素HindIII及びNotIにより37℃で約2時間消化し、上記同様な操作によりベクター側断片を精製した。
【0246】
その後、配列番号182、186及びpEHX1.2の酵素処理断片をDNA Ligation Kit <Mighty Mix>(タカラバイオ株式会社)を用いて連結した。連結した環状プラスミドにより大腸菌DH5α(東洋紡株式会社)を形質転換し、100μg/mLカルベニシリン含有LB寒天培地上で約16時間培養した。
【0247】
出現したコロニーをさらに100μg/mLカルベニシリン含有LB液体培地中で約16時間培養した。培養した大腸菌からQIAprep Spin Miniprep Kit(キアゲン)を用いて各プラスミドを精製し、塩基配列の確認を行い、目的の塩基配列の導入が確認されたプラスミドをLTK発現プラスミド(pEHX-LTK)とした。塩基配列の確認はユーロフィンジェノミクスに解析を委託した。
【0248】
図40にpEHX-LTKのベクターマップを示し、pEHX-LTKの翻訳領域のDNA配列を配列番号187に示す。
【0249】
[実施例18 ALKまたはLTK発現stable CHO-K1細胞の単離]
<CHO-K1細胞へのトランスフェクション>
実施例17で作製した2種類のプラスミド(pEHX-ALK又はpEHX-LTK)をCHO-K1細胞へそれぞれLipofectamine 3000 Transfection Reagent(登録商標、サーモ・フィッシャー・サイエンティフィック)を用いて遺伝子導入した。具体的には、遺伝子導入操作の前日 (Day -1)、12ウェルトリートメント培養プレートへCHO-K1細胞を2 x 105個・2 mL/ウェルになるように4ウェル分播種した。培地はペニシリン-ストレプトマイシン(富士フィルム和光純薬株式会社)及び10% FBS(GEヘルスケア・ジャパン)含有Ham's F-12 with L-glutamine and phenolred (富士フィルム和光純薬株式会社)を用いた。翌日(Day 0)、Lipofectamine 3000 Reagent 3 μLとOpti-MEM I Reduced-Serum Medium(サーモ・フィッシャー・サイエンティフィック)50 μLの混合液に、プラスミド溶液 (1 μg分)、P3000 Reagent(Thermo Fisher Scientific)2 μL及びOpti-MEM I Reduced-Serum Medium 50 μLの混合液を添加し、15分室温で反応させた。その後、本反応液を12ウェルトリートメント培養プレートの1ウェルあたりに添加することで遺伝子導入を行った。
【0250】
<遺伝子導入後CHO-K1細胞の薬剤選択及びクローニング>
遺伝子導入操作の24時間後(Day 1)、0.25w/v% トリプシン-1mmol/L EDTA・4Na溶液(富士フィルム和光純薬株式会社)で細胞を回収し、2ウェル分のCHO-K1細胞を100 mmディッシュ 1枚に移した。さらにピューロマイシン二塩酸塩(Puromycin Dihydrochloride、サーモ・フィッシャー・サイエンティフィック)を10 μg/mLとなるように加え、3~4日ごとに培地交換し、Day 12まで培養した。Day 12に96ウェルトリートメントプレートへ1個/ウェルになるように播種した。さらにDay 29に24ウェルトリートメントプレートへ拡大培養した。
【0251】
<クローニングした細胞のmRNA発現レベルでのスクリーニング>
Day 33に細胞の一部を回収し、RNeasy Mini Kit(キアゲン)を用いてRNAを抽出した。抽出したRNAは、PrimeScript RT Master Mix(Perfect Real Time)(タカラバイオ株式会社)を用いた逆転写反応によりcDNA化した。得られたcDNAを鋳型として、TB Green Premix Ex Taq II (タカラバイオ株式会社) と配列番号188及び189(ALK増幅用プライマー)又は配列番号190及び191(LTK増幅用プライマー)の組み合わせにより、7500 Fast real-Time PCR System (サーモ・フィッシャー・サイエンティフィック) を用いて定量PCRを行った。定量PCRによるmRNA発現レベルは、18SリボソーマルRNAを内部標準遺伝子としてサイクル数(Ct値)を補正した値を用い、ALK、LTKそれぞれの相対定量結果から、mRNAコピー数の多いクローンを選択した。
【0252】
<選択したクローンの細胞表面上のALK及びLTKの発現確認>
ALK又はLTKの細胞外ドメインを特異的に検出する適当な蛍光標識抗体がないことから、それぞれのリガンドであるFAM150Bとの結合親和性を利用したフローサイトメトリー解析を実施した。具体的には0.6~1.8 x 106個の細胞懸濁液を遠心分離して上清を除いた後、実施例5で作製したFAM150B-Hisタンパク質約0.2~0.3μmol相当添加し、37℃で30分インキュベートした。30分後、1%FBS含有D-PBS 1 mLで洗浄し、遠心分離して上清を除き、同様な洗浄操作を3回行った。洗浄後、PE(フィコエリトリン) 抗-Hisタグ抗体(BioLegend)5 μL添加して4℃、遮光にて20分間インキュベートした。20分後、1%FBS含有D-PBS 1 mLで洗浄し、遠心分離して上清を除いた。さらに、500 μLの1%FBS含有D-PBSで再懸濁したサンプルについてBD Accuri C6 Plus(BDバイオサイエンス)を用いて測定し、取得したデータをFlowJo(BDバイオサイエンス)にて解析した。
【0253】
図41に各クローンのFAM150Bタンパク質への結合性を利用したフローサイトメトリーでの測定結果を示した。ALK遺伝子を導入したクローン(A24)ならびにLTK遺伝子を導入したクローン(L10)はコントロール群であるCHO-K1のヒストグラムと比較してPEの蛍光強度が右に大きくシフトしていることから、A24はALK、L10はLTKを発現細胞表面に恒常的に発現していることが示唆された。
【0254】
[実施例19 FAM150Bトランケート型CH2CH3欠失型CD28型CAR発現プラスミドの作製]
実施例7で作製したCAR 008を鋳型として、inverse-PCR法によりFAM150Bトランケート型CH2CH3欠失型CD28型CAR発現プラスミド(CAR 021)を作製した。Inverse-PCRに使用するフォワードプライマーは配列番号171、リバースプライマーは配列番号172を使用した。CAR 008を50 ng/μLに調整して鋳型として用い、各PCRプライマーは反応液中濃度が0.2μMになるように調整した。Inverse-PCRはKOD - Plus- Mutagenesis Kit(東洋紡株式会社)を用い、反応組成はキット添付のプロトコールに従い、反応条件は、(i)94℃ 2分、(ii)98℃ 10秒、(iii)68℃ 7分で(ii)及び(iii)を10サイクル行った。
【0255】
PCR反応後のサンプルの一部を1%アガロースゲル電気泳動にて分離し、目的サイズの直鎖状プラスミドの増幅を確認した後、残りのPCR反応後のサンプルをキット添付のプロトコールに従ってDpnI処理し、メチル化された鋳型プラスミドCAR 008を切断して排除する反応を行った。その後、直鎖状プラスミドをキット添付のT4 Polynucleotide Kinaseによりリン酸化し、セルフライゲーションさせて環状プラスミドとした。その後、環状プラスミドにより大腸菌DH5α(東洋紡株式会社)を形質転換し、100μg/mLカルベニシリン含有LB寒天培地上で約16時間培養した。
【0256】
出現したコロニーをさらに100μg/mLカルベニシリン含有LB液体培地中で約16時間培養した。培養した大腸菌からQIAprep Spin Miniprep Kit(キアゲン)を用いて各プラスミドを精製し、塩基配列の確認を行い、目的の塩基配列の欠失が確認されたプラスミドをFAM150Bトランケート型CH2CH3欠失型CD28型CAR発現プラスミドの(CAR 021; FAM150BTr-28z dCH2CH3)とした。
【0257】
図42にCAR 021 (FAM150BTr-28z dCH2CH3) のベクターマップを示し、CAR 021の翻訳領域のDNA配列を配列番号192に示す。
【0258】
[実施例20 マウスALK48 scFv型CD28型CH2CH3欠失型CAR発現プラスミド(CAR 022; ALK48-28z dCH2CH3)の作製]
実施例19で作製したCAR 021の約1μg相当量を制限酵素XhoI及びDraIII(New England Biolabs)により37℃で約2時間消化した。同様に実施例1でデザインし人工合成した配列番号8が組み込まれたpEX-K4J1ベクター約1μg相当量も制限酵素XhoI及びDraIIIにより37℃で約2時間消化した。
【0259】
酵素処理済み反応液を1%又は2%アガロース電気泳動にて分離し、CAR 021の酵素処理断片(ベクター側)とpEX-K4J1ベクターから切り出された人工合成遺伝子インサート断片(配列番号8)をゲルから切り出し、NucleoSpin Gel and PCR Clean-up(登録商標、マッハライ・ナーゲル、タカラバイオ株式会社)を用いて精製した。精製したベクター断片とインサート断片をDNA Ligation Kit <Mighty Mix>(タカラバイオ株式会社)を用いて連結した。連結した環状プラスミドにより大腸菌DH5α(東洋紡株式会社)を形質転換し、100μg/mLカルベニシリン含有LB寒天培地上で約16時間培養した。
【0260】
出現したコロニーをさらに100μg/mLカルベニシリン含有LB液体培地中で約16時間培養した。培養した大腸菌からQIAprep Spin Miniprep Kit(キアゲン)を用いて各プラスミドを精製し、塩基配列の確認を行い、目的の塩基配列の導入が確認されたプラスミドをマウスALK48 scFv型CD28型CH2CH3欠失型CAR発現プラスミド(CAR 022; ALK48-28z dCH2CH3)とした。塩基配列の確認はユーロフィンジェノミクスに解析を委託した。
【0261】
図43にCAR 022 (ALK48 scFv-28z dCH2CH3) のベクターマップを示し、CAR 022の翻訳領域のDNA配列を配列番号193に示す。
【0262】
[実施例21 CAR-T細胞の培養・増幅]
実施例2のCAR-Tの培養・増幅方法に従い、実施例19及び20で作製したCAR 021又は022発現プラスミドを用いてCAR-T細胞を調製した。
【0263】
<Day 16: CAR発現率の評価>
CAR 021又は022発現プラスミドを導入したそれぞれのCAR-T細胞数をカウントし、1~2 x 105個の細胞のフローサイトメトリー解析により、ALK CAR-T細胞におけるCAR発現率を評価した。
1~2 x 105個の細胞を採取し、細胞を1%FBS含有D-PBS 1mLで洗浄した後、実施例5で調製したALK 001P 100μLを細胞に添加し、37℃で30分間インキュベートした。30分後、1%FBS含有D-PBS 1 mLで洗浄し、遠心分離して上清を除き、同様な洗浄操作を3回行った。洗浄後、PE 抗-Hisタグ抗体(BioLegend)5 μL及びAPC Anti-Human CD3抗体(ミルテニーバイオテク)5μLを加えて懸濁し、4℃、遮光にて20分間抗体標識反応を行った。20分後、1%FBS含有D-PBS 1mLで細胞を洗浄し、遠心分離により細胞を沈殿させ上清を除去した後、1%FBS含有D-PBS 500μLに再懸濁したサンプルについてBD Accuri C6 Plus(BDバイオサイエンス)を用いて解析し、CAR 021又は022の陽性率を測定した。
【0264】
尚、CAR 021又は022を用いてPBMCへの電気的導入操作及びT細胞の培養・増幅操作によって得られるCAR-T細胞を、本明細書においてそれぞれ以下のように記載する。
CAR-T 021:FAM150B CD28型CH2CH3欠失型CAR-T(FAM150B-28z dCH2CH3 CAR-T)
CAR-T 022:マウスCD28型CH2CH3欠失型CAR-T(ALK scFv-28z dCH2CH3 CAR-T)
【0265】
CAR 021のアミノ酸配列及びこれをコードする塩基配列を配列番号194及び192、
CAR 022のアミノ酸配列及びこれをコードする塩基配列を配列番号195及び193、
にそれぞれ示す。
【0266】
以下の表8に、健康成人ドナー由来のPBMCを用いて取得したCAR-T細胞におけるCAR発現率(%)を示す。
【表8】
【0267】
[実施例22 CAR-T 021又は022の細胞傷害活性評価]
実施例18で選択したクローンA24、L10及びCHO-K1細胞をターゲット(T)細胞として、E-Plate VIEW(ACEA Biosciences)1ウェルあたり5000個それぞれ播種した。xCELLigence DP(ACEA Biosciences)へプレートをセットしてから約24時間後に、エフェクター(E)細胞としてCAR-T 021、CAR-T 022及びMock-T細胞(遺伝子導入されていないT細胞)をE : T比=40:1(200000個:5000個)、20:1(100000個:5000個)及び10:1(50000個:5000個)になるように添加し、エフェクター細胞を添加して約48時間のCell Indexすなわち接着細胞の細胞数の推移を評価した。なお、本評価にはペニシリン-ストレプトマイシン(富士フィルム和光純薬株式会社)及び10% FBS(GEヘルスケア・ジャパン)含有Ham's F-12 with L-glutamine and phenolred (富士フィルム和光純薬株式会社)を培地として用いた。
【0268】
図44にCAR-T 021、CAR-T 022、又はMock-T細胞をALK高発現細胞A24に添加した時のCell Indexの経時推移を示した。CAR-T 021及びCAR-T 022はA24細胞のCell Index をE:T比依存的に顕著に低下させた一方で、Mock-T細胞はA24のCell Indexに影響を及ぼさなかった。以上の結果より、CAR-T 021及びCAR-T 022はALK高発現細胞に対して特異的な細胞傷害活性を有し、その傷害活性はCAR-T 021の方が強いことが示唆された。
【0269】
図45にCAR-T 021、CAR-T 022、又はMock-T細胞をLTK高発現細胞L10に添加した時のCell Indexの経時推移を示した。CAR-T 021はL10細胞のCell Index をE:T比依存的に顕著に低下させた一方で、CAR-T 022及びMock-T細胞はA24のCell Indexに影響を及ぼさなかった。以上の結果より、CAR-T 021はLTK高発現細胞に対して特異的な細胞傷害活性を有することが示唆された。
【0270】
本実施例の検討により、FAM150B CAR-Tはリガンド型としての特性から、ALK又はLTK高発現細胞の両方を特異的に認識し、細胞傷害活性を発揮する一方で、ALK scFv型CAR-TはALK高発現細胞のみに作用することが明らかとなった。
【0271】
また、本実施例により、FAM150Bトランケート型CH2CH3欠失型 CAR-Tの神経芽腫細胞株及び乳癌細胞株への抗腫瘍細胞活性は、CH2CH3を有するFAM150Bトランケート型とほぼ同等であることが示唆された。
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願はそのまま引用により本明細書に組み入れられるものとする。
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【配列表】
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