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特許7562106多硫化物を含有する処理剤の製造装置及び製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-27
(45)【発行日】2024-10-07
(54)【発明の名称】多硫化物を含有する処理剤の製造装置及び製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 17/43 20060101AFI20240930BHJP
   C01B 17/34 20060101ALI20240930BHJP
   C09K 3/00 20060101ALN20240930BHJP
【FI】
C01B17/43
C01B17/34
C09K3/00 S
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023096198
(22)【出願日】2023-06-12
【審査請求日】2024-03-06
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】523223124
【氏名又は名称】内田 望江
(73)【特許権者】
【識別番号】504038284
【氏名又は名称】納冨 啓一
(74)【代理人】
【識別番号】100114661
【弁理士】
【氏名又は名称】内野 美洋
(72)【発明者】
【氏名】納冨 啓一
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-063564(JP,A)
【文献】特開2009-209231(JP,A)
【文献】特表2021-511628(JP,A)
【文献】特開2001-064790(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 17/00 - 17/98
C09K 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多硫化物を含有する処理剤の製造装置において、
硫黄とアルカリ化合物と水とからなる原料を所定配合比で混合するための混合装置と、
混合装置で混合した原料を貯留し、所定量ずつ供給するための供給装置と、
供給装置から供給された原料を所定圧力及び所定温度で反応させて多硫化物を含有する処理剤を生成するための反応装置と、
反応装置で生成した処理剤を強制的に所定温度まで冷却するための冷却装置と、
冷却装置で冷却した処理剤を所定温度まで自然放熱させて貯留するための緩衝装置と、
を有し、
供給装置と反応装置と冷却装置の間で原料や処理剤を間欠的に圧送して多硫化物を含有する処理剤を連続して製造することを特徴とする多硫化物を含有する処理剤の製造装置。
【請求項2】
前記混合装置は、硫黄及びアルカリ化合物を水中破砕しながら硫黄とアルカリ化合物と水とを混合することを特徴とする請求項1に記載の多硫化物を含有する処理剤の製造装置。
【請求項3】
前記反応装置は、硫黄及びアルカリ化合物を水中破砕しながら硫黄とアルカリ化合物と水とを反応させて処理剤を生成することを特徴とする請求項1に記載の多硫化物を含有する処理剤の製造装置。
【請求項4】
前記反応装置は、反応時の上昇圧力を用いて処理剤を冷却装置に圧送することを特徴とする請求項1に記載の多硫化物を含有する処理剤の製造装置。
【請求項5】
前記冷却装置は、先に生成された冷却後の処理剤に、後から生成された冷却前の処理剤を混合させて冷却することを特徴とする請求項1に記載の多硫化物を含有する処理剤の製造装置。
【請求項6】
多硫化物を含有する処理剤の製造方法において、
硫黄とアルカリ化合物と水とからなる原料を所定配合比で混合するための混合装置と、
混合装置で混合した原料を貯留し、所定量ずつ供給するための供給装置と、
供給装置から供給された原料を所定圧力及び所定温度で反応させて多硫化物を含有する処理剤を生成するための反応装置と、
反応装置で生成した処理剤を強制的に所定温度まで冷却するための冷却装置と、
冷却装置で冷却した処理剤を所定温度まで自然放熱させて貯留するための緩衝装置と、
からなる処理剤の製造装置を用い、
各装置間で原料や処理剤を間欠的に圧送して多硫化物を含有する処理剤を連続して製造することを特徴とする多硫化物を含有する処理剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多硫化物を含有する処理剤の製造装置及び製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、多硫化物を主成分とする処理剤は、重金属不溶化剤やアスベスト固定・分解剤などの様々な用途で広く使用されている。
【0003】
本発明者は、硫黄と、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ化合物と、水とを高温・高圧下で反応させて、多硫化物(特に、Sx(x=6~12))を含有する処理剤を開発してきた(たとえば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-213375号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明では、硫黄とアルカリ化合物と水とを反応させて生成した多硫化物を含有する処理剤を精度良く安全に連続して製造するための製造装置及び製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る本発明では、多硫化物を含有する処理剤の製造装置において、硫黄とアルカリ化合物と水とからなる原料を所定配合比で混合するための混合装置と、混合装置で混合した原料を貯留し、所定量ずつ供給するための供給装置と、供給装置から供給された原料を所定圧力及び所定温度で反応させて多硫化物を含有する処理剤を生成するための反応装置と、反応装置で生成した処理剤を強制的に所定温度まで冷却するための冷却装置と、冷却装置で冷却した処理剤を所定温度まで自然放熱させて貯留するための緩衝装置とを有し、供給装置と反応装置と冷却装置との間で原料や処理剤を間欠的に圧送して多硫化物を含有する処理剤を連続して製造することにした。
【0007】
また、請求項2に係る本発明では、前記混合装置において、硫黄及びアルカリ化合物を水中破砕しながら硫黄とアルカリ化合物と水とを混合することにした。
【0008】
また、請求項3に係る本発明では、前記反応装置において、硫黄及びアルカリ化合物を水中破砕しながら硫黄とアルカリ化合物と水とを反応させて処理剤を生成することにした。
【0009】
また、請求項4に係る本発明では、前記反応装置において、反応時の上昇圧力を用いて処理剤を冷却装置に圧送することにした。
【0010】
また、請求項5に係る本発明では、前記冷却装置において、先に生成された冷却後の処理剤に、後から生成された冷却前の処理剤を混合させて冷却することにした。
【0011】
また、請求項6に係る本発明では、多硫化物を含有する処理剤の製造方法において、硫黄とアルカリ化合物と水とからなる原料を所定配合比で混合するための混合装置と、混合装置で混合した原料を貯留し、所定量ずつ供給するための供給装置と、供給装置から供給された原料を所定圧力及び所定温度で反応させて多硫化物を含有する処理剤を生成するための反応装置と、反応装置で生成した処理剤を強制的に所定温度まで冷却するための冷却装置と、冷却装置で冷却した処理剤を所定温度まで自然放熱させて貯留するための緩衝装置とからなる処理剤の製造装置を用い、各装置間で原料や処理剤を間欠的に圧送して多硫化物を含有する処理剤を連続して製造することにした。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、硫黄とアルカリ化合物と水とを反応させて生成した多硫化物を含有する処理剤を精度良く安全に連続して製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】多硫化物を含有する処理剤の製造装置を示す説明図。
図2】多硫化物を含有する処理剤の製造方法を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明に係る多硫化物を含有する処理剤の製造装置及び製造方法の具体的な構成について図面を参照しながら説明する。
【0016】
図1に示すように、製造装置1は、混合装置2と供給装置3と反応装置4と冷却装置5と緩衝装置6とが設けられている。
【0017】
各装置(混合装置2、供給装置3、反応装置4、冷却装置5、緩衝装置6)は、それぞれ密閉可能となっており、配送管7,8,9,10で接続されている。各配送管7,8,9,10には、コントロールバルブ11,12,13,14が設けられている。
【0018】
また、供給装置3及び反応装置4には、圧縮装置15が配給管16,17を介して接続されており、圧縮装置15で生成した高圧ガスを各配給管16,17を介して各装置(供給装置3、反応装置4)に供給できるようになっている。各配給管16,17には、コントロールバルブ18,19が設けられている。
【0019】
混合装置2には、製造する処理剤の原料となる硫黄、アルカリ化合物、水をそれぞれ供給するための供給管20,21,22が接続されている。各供給管20,21,22には、コントロールバルブ23,24,25が設けられている。
【0020】
緩衝装置6には、製造された処理剤を提供する提供管26が接続されている。提供管26には、コントロールバルブ27が接続されている。
【0021】
また、反応装置4と冷却装置5には、各装置(反応装置4、冷却装置5)を外部から冷却するための水源28が冷却水流路29を介して接続され、冷却水流路29の上流側端部に三方バルブ30を設けるとともに、冷却水流路29の下流端部を水の供給管22に接続している。水源28から供給された水は、冷却装置5と反応装置4の排気筒31を冷却する冷却水として使用された後に混合装置2に原料水として供給される。
【0022】
各装置(混合装置2、供給装置3、反応装置4、冷却装置5、緩衝装置6、圧縮装置15)及び各コントロールバルブ11,12,13,14,18,19,23,24,25,27並びに三方バルブ30は、制御装置で制御される。
【0023】
この製造装置1では、図2に示すように、原料となる硫黄、アルカリ化合物、水を所定量ずつ断続的に(バッチ毎に)反応させて処理剤(硫黄合剤)を連続して生成し提供するようにしている。
【0024】
まず、混合装置2において、硫黄とアルカリ化合物と水とからなる原料を予め設定した所定配合比で混合し、混合した原料を供給装置3に自然流下させる。
【0025】
この混合装置2では、ローラー型破砕機等を用いて硫黄及びアルカリ化合物を水中破砕しながら硫黄とアルカリ化合物と水とを混合することで、硫黄の粒子を小径化するとともに親水性や流動性を良好なものとしている。
【0026】
ここで、原料の硫黄は、塊状又は粉状の硫黄を用いている。アルカリ化合物は、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム(消石灰)、水酸化ナトリウムなどを用いている。水は、水源28から供給される水を回収して用いている。
【0027】
次に、供給装置3において、混合装置2で混合した原料を一時的に貯留しておき、予め設定した所定量ずつ反応装置4に圧送(供給)する。
【0028】
この供給装置3は、反応装置4でのトラブル発生時等に高圧の処理剤が飛散しないようにするための受皿としても機能している。
【0029】
次に、反応装置4において、供給装置3から供給された原料を予め設定した所定圧力及び所定温度で反応させて多硫化物を含有する処理剤を生成し、生成した処理剤を冷却装置5に圧送する。
【0030】
この反応装置4では、ローラー型破砕機等を用いて硫黄及びアルカリ化合物を水中破砕しながら硫黄とアルカリ化合物と水とを反応させて処理剤を生成することで、硫黄粒子に付着したアルカリ化合物を硫黄から分離させるとともに硫黄粒子を破砕してアルカリ化合物との反応が良好に行われるようにしている。
【0031】
この反応装置4は、密閉型の耐圧容器の下方にバーナーを設けるとともに上方に排気筒31を設け、耐圧容器の外周にバーナーによる熱で耐圧容器を加熱しながら排気筒31に流す熱回収ジャケットを設け、熱回収ジャケットを真空層及び保温材層で被覆している。耐圧容器の内部では、玉石上に破砕及び熱ショック防止用のライナープレートを敷設し、ライナープレート上を転動するローラーで原料を粉砕しながら反応させる。なお、排気筒31の外周には冷却水を流す熱回収筒を設けている。
【0032】
また、反応装置4は、反応時の上昇圧力を用いて処理剤を冷却装置5に圧送するようにしている。なお、反応時の上昇圧力だけを用いて処理剤を冷却装置5に圧送してもよく、圧縮装置15からの圧力を併用して処理剤を冷却装置5に圧送してもよい。
【0033】
次に、冷却装置5において、反応装置4で生成した処理剤を強制的に予め設定した所定温度まで冷却し、冷却した処理剤を緩衝装置6に圧送する。
【0034】
この冷却装置5では、先に生成されて45℃程度まで冷却された後の処理剤に、後から生成された冷却前の150℃程度の処理剤を高速噴出によって混合させることで、後から生成された処理剤を45℃程度まで冷却するようにしている。
【0035】
この冷却装置5は、密閉型の耐熱容器の外周に冷却水を流す冷却筒を設け、耐熱容器の底部に後から生成された処理剤を噴出させ、耐熱容器の中途部から先に生成された処理剤を緩衝装置6に圧送するようにしている。
【0036】
この冷却装置5は、反応装置4でのトラブル発生時等に高圧の処理剤が飛散しないようにするための受皿としても機能している。
【0037】
次に、緩衝装置6において、冷却装置5で冷却した処理剤を予め設定した所定温度まで自然放熱させて貯留し、冷却した処理剤を提供管26から提供する。
【0038】
この緩衝装置6は、密閉型の放熱容器の内部に撹拌羽根を設け、処理剤を撹拌しながら自然放熱させるようにしており、処理剤を安全な温度(40℃程度)で供給することができる。
【0039】
上記製造装置1では、原料として硫黄とアルカリ化合物と水とを用いて、反応装置4において150℃程度及び2.5~10kgf/cm2で反応させることによって、多硫化物を含有する液体状の処理剤を製造することができる。
【0040】
この上記製造装置1では、原料として硫黄と水、又は、硫黄とアルカリ化合物と水とを用い、硫黄の物理特性に変化を与えないよう硫黄の溶解温度以上とならないように反応装置4で加熱及び加圧することなく処理した場合には、水に浸漬した状態の固体状の硫黄含有物を生成することができる。なお、硫黄含有物は、貯蔵上の安全性を考慮して全体(硫黄及び水、又は、硫黄及び水並びにアルカリ化合物)の35%程度となるようにするのが望ましい。硫黄とアルカリ化合物とは2:1程度の比率で用いる。処理(水)の温度は、70℃以下ではアルカリ化合物が溶解してしまい、80℃以上では硫黄の溶解や蒸発が生じるため、70~80℃が望ましい。
【0041】
このようにして上記製造装置1で生成される硫黄含有物は、硫黄の物理特性に変化を与えることなく安全に貯蔵しておくことができ、また、脱水したものを原料として上記製造装置1及び製造方法で多硫化物を含有する処理剤を製造することができ、しかも、脱水後に上記製造装置1及び製造方法で製造された多硫化物を含有する処理剤に添加して、添加されたものを処理剤として使用することができる。
【0042】
上記製造装置1(製造方法)では、上記一連の工程を1バッチとして約15分毎に断続的に連続して行うことで、硫黄とアルカリ化合物と水とを反応させて生成した多硫化物を含有する処理剤を精度良く安全に連続して製造している。
【0043】
なお、緩衝装置6から提供される処理剤は、ろ過機等で気液分離し、液体状の処理剤と、固体状の処理剤又は回収原料として使用することができる。
【0044】
上記製造装置1(製造方法)において、たとえば、水酸化カルシウムと硫黄と水とを混合することで処理剤を生成する場合には、
Ca(OH)2→Ca+++2OH--
Ca+++S→CaS
の反応が起こる。
このCaSは、
2CaS+4OH--→H2S+Ca(OH)2+S+Ca+O2
となる。
【0045】
この反応を密閉容器内で行わせることで蒸気の排出をしないようにすることで、上記反応が正確に進んで、
H2S+Ca(OH)2+S+Ca→Ca(HS)2+Ca(OH)2
となる。
【0046】
また、CaSは、
2CaS+2H2O→Ca(HS)2+Ca(OH)2
となり、さらに、CaSは、
CaS+(x-1)S→CaSx
となって、CaSx(x=6)が安定して生成される。
【0047】
これは、水酸化カルシウムを用いた場合に限られず、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化ナトリウムのいずれか又はこれらの混合物を用いた場合でも、Sx(x=6)を含有する処理剤を安定して生成できる。
【0048】
特に、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウムのいずれか又はこれらの混合物と硫黄とを硫黄の粒子表面に付着したカリウム、マグネシウム、カルシウム、又はナトリウムを破砕し剥離させるように撹拌混合しながら反応させることによって多硫化物(但し、Sx(x=6))を主成分とする処理剤をより安定して生成することができる。
【0049】
上記製造装置1では、処理剤の製造開始前や製造終了後などにおいて、各装置(混合装置2、供給装置3、反応装置4、冷却装置5、緩衝装置6)や配送管7,8,9,10や提供管26などを洗浄するとともに加熱するために、80℃程度に加熱した洗浄水を流している。これにより、原料粉末(特に、硫黄)の付着残存を防止することもでき、また、配送管7,8,9,10などを別途加熱(保温)しなくてもよくなる。なお、洗浄水は、回収時に80℃程度に加熱された状態となっており、原料水として有効に利用している。
【0050】
また、上記製造装置1では、15℃程度の冷却水を冷却装置5の冷却筒と反応装置4の熱回収筒に流すことで、処理剤を150℃程度から80℃程度まで冷却するとともに、反応装置4のバーナーの排気を180℃程度から90℃程度まで冷却している。なお、この冷却によって40℃程度に加熱された冷却水も回収して原料水として有効に利用している。
【0051】
硫黄とアルカリ化合物を原料とした処理剤を製造する際に、硫黄の溶解温度のみにたよった95℃~110℃程度の温度範囲で多硫化合剤を製造する場合には、原料の硫黄とアルカリ化合物の溶解特性が相反するために、硫黄の粒子表面にアルカリ性の結晶が付着してしまい、硫黄の溶解を妨げて未溶解の硫黄粒子が残留してしまう。
【0052】
そこで、本発明では、高温及び高圧下で原料を破砕しながら反応させることで、未溶解の硫黄粒子の残留を防ぐことができる。
【0053】
このように高温及び高圧下で原料を反応させた場合、反応により生成される蒸気の流出の影響で硫黄の溶解度が左右されてしまい、安定的に高濃度の処理剤を生成することが困難となる。
【0054】
そこで、本発明では、密閉型の耐圧容器(反応装置4)の内部で反応させることで、反応時の蒸気の流出を防ぎ、安定的に高濃度の処理剤を生成することができる。
【0055】
このようにして高温の処理剤を生成した場合、安全操作可能な温度(40℃程度)まで冷却する必要があるが、冷却速度が遅いと、原料中の未反応物(主にアルカリ化合物に含まれる不純物など)や処理剤の液面での放熱部分で発生する25μm~50μmの硫黄粒子が核となって100μm~500μm程度の球状硫黄が発生してしまう。これに対して、処理剤に界面活性剤を添加することで僅かな改善は図れるが、硫黄の溶解比が10%~12%程度までの低濃度の処理剤しか製造することができず、沈殿物として未反応の溶解粒子が沈殿することになる。
【0056】
そこで、本発明では、反応装置4で生成した高温の処理剤を冷却装置5で強制的に高速で冷却することで、硫黄の残留を防止するとともに、装置内部や配管内部に硫黄が付着して閉塞されてしまうのを防止している。
【0057】
しかも、本発明では、原料や処理剤を圧送するとともに強制的に冷却することで、製造時のタクトタイム(1バッチに要する処理時間)を短縮することができ、最初(1バッチ目)の処理により管内の温度が上昇して、2回目以降の管路の閉塞を防止することができる。なお、安全のため管路の保温を行うようにしてもよい。
【0058】
これにより、本発明では、最終的な硫黄の溶解比重が1.35g/cc程度の処理剤まで安定して製造することができる。
【0059】
また、高温及び高圧下で反応を行った場合には、耐圧容器(反応装置4)に原料温度20℃から処理剤温度150℃の130℃程度のヒートサイクルが繰り返されるため、鉄に比べて熱伝導率がよくないステンレスを用いるには熱劣化を防止する必要が生じる。
【0060】
そこで、本発明では、原料反応水を熱回収ラインから得ることで、原料供給時の温度を80℃程度まで引上げるとともに、破砕用のライナープレートを蓄熱材として機能させるために一定の熱容量を有する炭素鋼40kgのライナープレートとし、取付部分を缶体の熱変形を吸収する下駄座状の構成とし、缶体とライナープレートの間に蓄熱材として火山岩系の玉石を充填し、さらに、破砕用のローラーを炭素鋼とし、玉石とライナープレートとローラーとで65kgを缶体やシャフト以外の蓄熱材として機能させている。
【0061】
これにより、原料投入直後に80℃程度の温度まで引上げることができ、熱効率や生産性を向上させるとともに、温度変化量も極めて小さく安心できる値とした。
【0062】
また、冷却装置5では、先に生成された処理剤の内部に後から生成された処理剤を噴出させることで、処理剤を強制的に高速で冷却させることができる。処理剤の噴出口には、ライナープレートを設けて噴出された処理剤で旋回流を形成し、処理剤を高速で均等に冷却することができる。
【0063】
これにより、150℃程度で生成された処理剤を硫黄粒子が増大化する温度を下回る温度まで急速に冷却することができ、良好な液性状を保った処理剤を生成することができる。
【0064】
なお、原料の硫黄の物理特性に変化を与えないように上記製造装置1を用いて硫黄を80℃以下(溶解温度以下)で溶解させることなく破砕して圧送することで、必要に応じてアルカリ化合物をさらに混合して高アルカリ性保持や殺菌性向上等の機能付加した処理剤として硫黄合剤とのブレンド使用が可能となる。また、アスベスト飛散防止や被処理物の飛散性抑制のために、アルカリ化合物を処理剤と合わせて使用する場合には、石膏ボードや脱硫石灰等を加工して混合剤として用いることも可能となる。
【0065】
本発明による処理剤は、アスベスト固定剤、アスベスト分解剤、重金属不溶化剤、農業用薬剤、入浴剤、海藻や藻類の育生ブロックの補助剤、土壌改良剤、防錆剤などとして使用することができる。
【0066】
以上に説明したように、本発明では、処理剤中に含まれる硫黄濃度の上昇に伴って管内等に硫黄結晶が付着して閉塞してしまうのを防止することができる。
【0067】
また、本発明では、反応水の蒸散を防止して硫黄の未反応及び再結晶を抑制して、処理剤中に含まれる硫黄量が原料の配合値となるようにすることができる。
【0068】
また、本発明では、製造時に発生するろ過除去される沈殿物に含まれる硫黄成分を引き下げることができる。
【0069】
また、本発明では、処理剤中の硫黄粒子径の増大を防止して、30μm以下とすることができる。
【0070】
また、本発明では、原料や処理剤を圧送することで、搬送装置の劣化を防ぎ、ポンプレス化することができる。
【0071】
また、本発明では、排熱回収や高速処理によって熱エネルギーの効率を高めることができる。
【0072】
また、本発明では、同一の反応缶を用いて断続的に連続して製造する際の熱ショックに対応して急冷クラックを防止することで、生産効率を向上させることができる。
【0073】
また、本発明では、供給時の放熱ロスの低減や急速冷却によって製造装置1から放出される水蒸気や硫黄成分をなくすことができる。
【0074】
また、本発明では、処理剤中に含まれる硫黄量を引上げることで被処理物に対して使用する処理剤の量を少なくすることができる。
【0075】
また、本発明では、反応装置4の万が一の爆発や液漏れに対する安全性を向上させることができる。
【0076】
また、本発明による処理剤では、2段処理やヤードエイジングで処理できない被処理物や、破砕処理や加・減圧浸透処理などで処理するのに適さない被処理物などの難反応性被処理物に対しても使用することができる。
【0077】
また、本発明による処理剤では、速効性や長期安定性に必要な粒剤などと組み合わせて使用するなど、被処理物に応じて現場にて容易に対応することができる。
【0078】
また、硫黄粒子径が小さく、特殊な散布機やポンプを用いることなく、容易に使用することができる。
【符号の説明】
【0079】
1 製造装置 2 混合装置
3 供給装置 4 反応装置
5 冷却装置 6 緩衝装置
7,8,9,10 配送管 11,12,13,14 コントロールバルブ
15 圧縮装置 16,17 配給管
18,19 コントロールバルブ 20,21,22 供給管
23,24,25 コントロールバルブ 26 提供管
27 コントロールバルブ 28 水源
29 冷却水流路 30 三方バルブ
31 排気筒
【要約】
【課題】硫黄とアルカリ化合物と水とを反応させて生成した多硫化物を含有する処理剤を精度良く安全に連続して製造すること。
【解決手段】本発明では、多硫化物を含有する処理剤の製造装置において、硫黄とアルカリ化合物と水とからなる原料を所定配合比で混合するための混合装置と、混合装置で混合した原料を貯留し、所定量ずつ供給するための供給装置と、供給装置から供給された原料を所定圧力及び所定温度で反応させて多硫化物を含有する処理剤を生成するための反応装置と、反応装置で生成した処理剤を強制的に所定温度まで冷却するための冷却装置と、冷却装置で冷却した処理剤を所定温度まで自然放熱させて貯留するための緩衝装置とを有し、各装置間で原料や処理剤を間欠的に圧送して多硫化物を含有する処理剤を連続して製造することにした。
【選択図】図1
図1
図2