(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-27
(45)【発行日】2024-10-07
(54)【発明の名称】ハードコートフィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
B05D 1/26 20060101AFI20240930BHJP
B05D 3/00 20060101ALI20240930BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20240930BHJP
【FI】
B05D1/26 Z
B05D3/00 D
B05D7/24 302P
(21)【出願番号】P 2020009425
(22)【出願日】2020-01-23
【審査請求日】2022-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113343
【氏名又は名称】大塚 武史
(72)【発明者】
【氏名】江田 俊和
(72)【発明者】
【氏名】杉山 祐介
(72)【発明者】
【氏名】榎本 王一
(72)【発明者】
【氏名】吉川 英汰
(72)【発明者】
【氏名】中島 司
【審査官】市村 脩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-236451(JP,A)
【文献】特開2019-127010(JP,A)
【文献】特開2014-226620(JP,A)
【文献】特開2021-109152(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D1/00-7/26
B05C5/00-21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗工液を、幅方向に均一に吐出させるためのマニホールドおよびスリット状のランド部を有し、塗工液吐出口がダイリップであるダイを用いて、被塗工基材上に塗工する塗工液の塗工方法を適用して、前記被塗工基材上に前記塗工液を塗工してハードコート層を形成するハードコートフィルムの製造方法であって、
前記塗工液が多官能アクリレートを含むハードコート層形成用塗料であり、
前記塗工液の表面張力が、50mN/m以下であり、
前記被塗工基材はフィルム基材であり、
前記ダイは、前記ダイリップのリップ厚が、0.5mm以下であり、前記ランド部の長さが30mm以上50mm以下であり、
且つ前記被塗工基材の流れ方向における、前記ダイリップの上流側を、大気圧より0.05kPa~1.00kPa減圧することを特徴とするハードコートフィルムの製造方法。
【請求項2】
前記塗工液の粘度が、100mPa・s以下であることを特徴とする請求項1に記載のハードコートフィルムの製造方法。
【請求項3】
前記被塗工基材と前記ダイリップのクリアランスが50μm~500μmであることを特徴とする請求項1
又は2に記載のハードコートフィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗工液の塗工方法に関するものであり、特に光学部材に用いられるハードコートフィルムの製造に好適な塗工液の塗工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
たとえばエレクトロルミネッセンス(EL)表示装置、液晶表示装置(LCD)、プラズマ表示装置等のパネルディスプレイの表示面には、取り扱い時に傷が付いて視認性が低下しないように耐擦傷性を付与することが要求されている。そのため、基材フィルム上にハードコート層を設けたハードコートフィルムを利用して、ディスプレイの表示面の耐擦傷性を付与することが一般的に行われている。近年、表示画面上で表示を見ながら指やペン等でタッチすることでデータや指示を入力できるタッチパネルの普及により、この様な光学部材に用いるハードコートフィルムに対する機能的要求はさらに高まっている。
【0003】
従来、上記ハードコート層を形成するための塗工液を基材フィルム上に塗工するには、例えば、リバースコート法、グラビアコート法、バーコート法、ダイコート法、スプレーコート法、キスコート法、ワイヤーバーコート法、カーテンコート法などの公知の塗工方法が用いられていた。
【0004】
たとえば、上記ダイコート法は、ダイの塗工液吐出口が基材と非接触の状態で塗工が行われるため、例えば上記バーコート法における基材へのバー接触に起因する欠陥等を低減できる利点がある。例えば下記の特許文献1~3にはいずれもダイコート法による塗布装置や塗布液の塗布方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第2917116号公報
【文献】特許第4573550号公報
【文献】特許第5085046号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者等の検討によると、上記特許文献1~3に開示されているような従来のダイコート法による塗布装置や塗布液の塗布方法では、塗布欠陥の低減等に関する改善はみられるものの、塗工安定性などに関してはよりいっそうの改善の余地があった。
【0007】
そこで従来の課題を解決するべく、本発明の目的は、第1には、塗工ムラや欠陥の発生を低減し、均一塗工性が安定して得られるダイコート法による塗工液の塗工方法を提供することであり、第2には、上記塗工液の塗工方法を適用して、高品質のハードコートフィルムが得られるハードコートフィルムの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、ダイコート法において、塗工ムラや欠陥の発生を低減し、均一塗工性が安定して得られるようにするためには、使用するダイのダイリップを所定の形状となるように設計し、さらに、被塗工基材の流れ方向における、上記ダイリップの上流側を大気圧より減圧することが好ましいことを見出した。
本発明は、得られた種々の知見に基づき検討を行った結果完成したものである。
すなわち、本発明は以下の構成を有するものである。
【0009】
(第1の発明)
塗工液を、幅方向に均一に吐出させるためのマニホールドおよびスリット状のランド部を有し、塗工液吐出口がダイリップであるダイを用いて、被塗工基材上に塗工する塗工液の塗工方法であって、前記ダイは、前記ダイリップのリップ厚と前記ランド部の長さの比率が下記式を満たす形状であり、且つ前記被塗工基材の流れ方向における、前記ダイリップの上流側を、大気圧より減圧することを特徴とする塗工液の塗工方法である。
[式]
(ダイリップのリップ厚/ランド部の長さ)×100≦1
【0010】
(第2の発明)
前記被塗工基材の流れ方向における、前記ダイリップの上流側を、大気圧より0.05kPa~1.00kPa減圧することを特徴とする第1の発明に記載の塗工液の塗工方法である。
【0011】
(第3の発明)
前記塗工液の粘度が、100mPa・s以下であることを特徴とする第1又は第2の発明に記載の塗工液の塗工方法である。
(第4の発明)
前記塗工液の表面張力が、50mN/m以下であることを特徴とする第1乃至第3のいずれかの発明に記載の塗工液の塗工方法である。
【0012】
(第5の発明)
前記ダイリップのリップ厚が、0.5mm以下であることを特徴とする第1乃至第4のいずれかの発明に記載の塗工液の塗工方法である。
【0013】
(第6の発明)
前記被塗工基材と前記ダイリップのクリアランスが50μm~500μmであることを特徴とする第1乃至第5のいずれかの発明に記載の塗工液の塗工方法である。
【0014】
(第7の発明)
前記塗工液がハードコート層形成用塗料であり、第1乃至第6のいずれかの発明に記載の塗工液の塗工方法を適用して、前記被塗工基材上に前記塗工液を塗工してハードコート層を形成することを特徴とするハードコートフィルムの製造方法である。
(第8の発明)
前記被塗工基材はフィルム基材であることを特徴とする第7の発明に記載のハードコートフィルムの製造方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、塗工ムラや欠陥の発生を低減し、均一塗工性が安定して得られるダイコート法による塗工液の塗工方法を提供することができる。
また、本発明によれば、上記塗工液の塗工方法を適用することにより、高品質のハードコートフィルムが得られるハードコートフィルムの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明による塗工液の塗工方法を示す模式図である。
【
図2】本発明に用いるダイの構造を示す縦方向断面図である。
【
図4】本発明による塗工液の塗工方法を説明するための模式図である。
【
図5】(A)はバキューム圧が下限値の場合の状態を示す模式図、(B)はバキューム圧が上限値の場合の状態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について詳述する。
なお、本発明において、特に断りの無い限り、「○○~△△」との記載は「○○以上△△以下」を意味するものとする。
【0018】
以下に、本発明による塗工液の塗工方法について説明する。
本発明による塗工液の塗工方法は、スリット状の塗工液流路を備えたダイにより、被塗工基材の表面に対して、いわゆるコーティングビードを形成し、塗工液を被塗工基材表面に均一に塗工するダイコート法による塗工方法である。
【0019】
図1は、本発明による塗工液の塗工方法を示す模式図である。
液槽10内に貯留された塗工液60は、例えば精密計量ポンプ20によって所定量が計量されつつ、ダイ30に給液される。そして、ダイ30先端部の塗工液吐出口から吐出された塗工液60が、コーティングビードを形成した状態で、バックロール40上を例えば図中の矢印A方向からB方向へ搬送される被塗工基材70の表面に対して塗工される。
【0020】
このような塗工液の塗工方法を、例えばフィルム基材上にハードコート層を有するハードコートフィルムの製造に適用する場合、上記塗工液60は、ハードコート層を形成するためのバインダー樹脂等を含む塗料であり、上記被塗工基材70はフィルム基材である。 ハードコートフィルムの製造に関する詳細は後述する。
【0021】
図2は、本発明に用いるダイの構造を示す縦方向断面図であり、
図3は、
図2に示す上記ダイのダイリップの拡大図である。また、
図4は、本発明による塗工液の塗工方法を説明するための模式図である。
【0022】
図2に示すように、上記ダイ30は、上記被塗工基材70の流れ方向における上流側に位置する上流側ダイ本体34aと下流側に位置する下流側ダイ本体34bとを少なくとも有して一体的に構成されている。また、上記ダイ30は、塗工液を塗工面の幅方向に均一に吐出させるためのマニホールド31およびスリット状のランド部32を有している。上記マニホールド31は、塗工液を幅方向に均一に広げて搬送するための溝である。その断面形状は、
図2に示す一実施形態では略台形状であるが、これに限定されず、たとえば半円状に形成されていてもよい。また、上記ランド部32は、マニホールド31から塗工液吐出口にかけての塗工液の流れを整流化する目的のスリット状の流路であり、ダイ3の幅方向に所定幅で形成されている。
【0023】
また、ダイ30の先端部の塗工液吐出口は、上流側リップ33aと下流側リップ33bとを有するダイリップ33であり、上流側リップ33aと下流側リップ33bとの間隙によって上記ランド部32が形成されている。上流側リップ33aと下流側リップ33bとの間隙、すなわち、上記ランド部32のスリット幅(S)(
図3参照)は、上流側ダイ本体34aと下流側ダイ本体34bとの間に介在するシムプレート35の厚みによって規制される一定の所定幅である。
【0024】
図4に示されるように、ダイ30の先端部は、被塗工基材70の表面に対して、一定の距離(以下、「クリアランス(H)」と呼ぶ。)だけ離間した状態(非接触)で配置され、ダイ30先端部の塗工液吐出口であるダイリップ33から吐出された塗工液60は、コーティングビードを形成した状態にて、図中の矢印B方向へ搬送される被塗工基材70の表面に対して、膜厚t(ウェット膜厚)で塗工される。
【0025】
以下、本発明による塗工方法の塗工理論について
図4を参照して説明する。
本発明による塗工方法では、μU/σで表される「キャピラリー係数」が、下記式で表される臨界キャピラリー数よりも小さい場合に塗工可能である。
【0026】
【0027】
ここで、μは塗工液の粘度、σは塗工液の表面張力、Uは塗工速度である。また、上記のとおり、tは塗工膜厚、Hはクリアランスである。
【0028】
すなわち、本発明の塗工方法による塗工可能条件は、下記式が成立する場合である。
【0029】
【0030】
上記の塗工可能条件の式から、式の左辺、つまりキャピラリー係数が小さいか、式の右辺、つまり臨界キャピラリー数が大きい方が塗工しやすいことがわかる。したがって、理論上塗工しやすいのは、たとえば、塗工液の粘度→小さい、塗工液の表面張力→大きい、塗工速度→小さい(遅い)、クリアランス→小さい(狭い)、ことである。
【0031】
前にも説明したように、本発明者らの検討によると、従来のダイコート法による塗布装置や塗布方法では、塗布欠陥の低減等に関する改善はみられるものの、塗工安定性などに関してはよりいっそうの改善の余地があった。本発明者らは従来の上記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、ダイコート法による塗工方法において、塗工ムラや欠陥の発生を低減し、均一塗工性が安定して得られるようにするためには、使用するダイのダイリップを所定の形状となるように設計し、さらに、被塗工基材の流れ方向における、上記ダイリップの上流側を大気圧より減圧することが好ましいことを見出した。
【0032】
すなわち、上述した塗工液を、幅方向に均一に吐出させるためのマニホールド31およびスリット状のランド部32を有し、塗工液吐出口がダイリップ33であるダイ30を用いて、被塗工基材上に塗工する塗工液の塗工方法であって、上記ダイ30は、上記ダイリップ33のリップ厚と上記ランド部32の長さの比率が下記式を満たす形状であることが重要である。
[式]
(ダイリップのリップ厚/ランド部の長さ)×100≦1
【0033】
ここで、上記ダイリップのリップ厚とは、
図3、
図4等に示すように、上流側リップ33a(または下流側リップ33b)の先端面の縦方向の長さLのことである。
また、上記ランド部の長さとは、
図2に示すように、上記ランド部32の先端(液吐出口)からマニホールド31までの長さRのことである。
【0034】
本発明の塗工方法に使用する上記ダイ30は、上記ダイリップ33のリップ厚Lと上記ランド部32の長さRの比率が上記式を満たす形状とすることにより、特に一定ピッチの横段状ムラなどの塗工ムラや欠陥(キズなど)の発生を低減でき、塗工外観が良好であり、しかも、被塗工基材の幅方向に均一な膜厚で塗工でき、均一塗工性が安定して得られる。
【0035】
他方、上記ダイリップ33のリップ厚Lと上記ランド部32の長さRの比率が上記式を満たさない場合、つまり、(ダイリップのリップ厚/ランド部の長さ)×100>1である場合、横段状ムラなどの塗工ムラが発生しやすく、塗工外観の良好なものが得られない。
【0036】
本発明では、上記ダイリップ33のリップ厚Lと上記ランド部32の長さRの比率が上記式を満たす形状とすることが必要であるが、この場合上記リップ厚Lは、特に限定はされないが、0.5mm以下であることが好ましい。上記リップ厚Lが0.5mmよりも厚いと、上記の塗工ムラが発生しやすくなる。
【0037】
また、上記ランド部32の長さRについても特に限定はされないが、ランド部32の長さRが長すぎると、ランド部で塗工液の流れが層流化し、塗工ムラになりやすい。一方、ランド部32の長さRが短すぎると、ダイ30内の内圧が幅方向で均一にならず、幅方向での膜厚の均一性に影響する。したがって、上記ランド部32の長さRは、50mm以下であることが好ましく、また30mm以上であることが好ましい。
【0038】
また、上記したように、上記ランド部32のスリット幅(S)(
図3、
図4参照)は、上流側ダイ本体34aと下流側ダイ本体34bとの間に介在するシムプレート35の厚みによって調整することが可能であるが、ランド部32のスリット幅Sが特に広いと、幅方向での膜厚の均一性や塗工外観に影響する場合がある。したがって、本発明では、上記ランド部32のスリット幅Sは、例えば、50μm~130μmの範囲であることが好適である。
【0039】
また、本発明では、均一塗工性が安定して得られるようにするためには、使用する塗工液の粘度は、例えば100mPa・s以下であることが好ましい。使用する塗工液の粘度が、100mPa・sよりも高いと、ダイ30内の内圧が高くなりすぎ、幅方向で均一な吐出量が得られない。
【0040】
また、本発明で特に好ましくは、30mPa・s以下である。
なお、塗工液の粘度が低すぎると、塗布ムラが顕著となるため、本発明では、使用する塗工液の粘度は、例えば3mPa・s以上であることが好ましい。
【0041】
なお、塗工液の粘度は、例えば、固形分濃度の調整、樹脂の分子量などによって調整することが可能である。また、本発明では、塗工液の粘度は、B型粘度計(回転式粘度計)によって測定された値をいう。
【0042】
また、本発明では、塗工液の表面張力については特に制約はされないが、安定した均一塗工性を得る観点からは、例えば、50mN/m以下であることが好ましい。特に、20mN/m~25mN/mの範囲であることが好ましい。
【0043】
なお、塗工液の表面張力は、例えば、レベリング剤の添加、溶媒などによって調整することが可能である。また、本発明では、塗工液の表面張力は、プレート法(Wilhelmy法)によって測定された値をいう。
【0044】
また、本発明では、塗工液の濃度(固形分濃度)については、特に制約はされないが、例えば30重量%~70重量%程度の範囲とすることができる。たとえば塗工安定性(クリアランス拡大)との関係では、40重量%~50重量%の範囲であることが好ましく、40重量%~45重量%の範囲であることが特に好ましい。塗工液の濃度が50重量%よりも高いと、乾燥後の膜厚を所定膜厚に合せるためには、ウェット膜厚(前出の膜厚t)を減少するため、クリアランスを拡大するのは難しい。また、塗工液の濃度が40重量%よりも低いと、ウェット膜厚が増えるので、クリアランスを広げることが容易となるが、塗工液の粘度が低下するため、塗布ムラが顕著となる。
【0045】
また、本発明では、塗工速度に関しては特に制約はされないが、塗工速度が下がると前出のキャピラリー係数が小さくなるので、上記のクリアランスは拡大できる。但し、生産性を考慮すると、適正な塗工速度は、5~50m/分程度である。
【0046】
また、本発明による塗工液の塗工方法では、ダイ30のダイリップ33から吐出された塗工液60は、ダイリップ33先端と基材塗工面との間にビードを形成した状態にて、被塗工基材70の表面に対して塗工されるため、このビードを安定化させることが均一な塗工性を得るためには望ましい。
【0047】
本発明においては、このビードを安定化させるために、被塗工基材の流れ方向における、上記ダイリップの上流側を減圧することが好ましい実施態様である。
【0048】
前述の
図1では、被塗工基材70の流れ方向における上記ダイリップ33の上流側を減圧するためのバキュームチャンバー50を配置している。これによって、ダイリップ33先端と基材塗工面との間に形成されるビード下方側を減圧するようにしている。
【0049】
本発明においては、ビードの安定化の観点から、被塗工基材70の流れ方向における、上記ダイリップ33の上流側を、例えば、大気圧より0.05kPa~1.00kPaの範囲で減圧することが好適である。なお、減圧(バキューム圧)が足りなかったり、あるいは減圧(バキューム圧)が過剰になると、以下に説明するような不具合が生じるおそれがある。
【0050】
図5の(A)は、バキューム圧が下限値の場合の状態を示す模式図であり、(B)はバキューム圧が上限値の場合の状態を示す模式図である。
【0051】
図5(A)に示すように、バキューム圧Pvacが下限値の場合、バキューム圧Pvacが足らず、ビードが壊れてしまったり、ビード内部に気泡36ができてしまったりする不具合が生じる。他方、バキューム圧Pvacが過剰となり、バキューム圧Pvacが上限値の場合、
図5(B)に示すように、ビードを形成する塗工液がバキューム側へ漏れてしまい、その結果、塗工量が不足する不具合が生じる。
【0052】
下記式で表されるΔPBはバキューム圧Pvacの下限値である。
【0053】
【0054】
また、下記式で表されるΔPLはバキューム圧Pvacの上限値である。
【0055】
【0056】
なお、上記の各式において、P0は大気圧である。その他の記号、μ、σ、U、t、H、Lについてはいずれも前記と同義である。
【0057】
上記のとおり、バキューム圧Pvacの上限値と下限値との差は、6μUL/H2となり、この値が大きいほど大きいバキューム圧が掛けられる。したがって、バキューム圧を掛けやすいのは、たとえば、塗工液の粘度→大きい、塗工速度→大きい(速い)、ダイリップのリップ厚→厚い、クリアランス→小さい(狭い)、ことである。
【0058】
以上より、たとえばクリアランスHは狭い方が、大きいバキューム圧Pvacを掛けられることになり、クリアランスHとバキューム圧Pvacとの間には相関関係(負の相関)がある。
【0059】
本発明では、上記のとおり、ビードの安定化の観点から、バキューム圧を例えば0.05kPa~1.00kPaの範囲で調節することが好ましいが、特に好ましくは、0.05kPa~0.6kPaの範囲である。
また、本発明では、上記ダイリップ33の上流側を、例えば、大気圧より0.05kPa~1.00kPa減圧する場合、被塗工基材70と上記ダイリップ33とのクリアランスH(
図4参照)は、例えば、50μm~500μmの範囲であることが好ましい。このように減圧することで、クリアランスの拡大効果(塗工安定性の向上)もある。
【0060】
以上説明したように、本発明の塗工液の塗工方法によれば、塗工ムラや欠陥の発生を低減でき、均一な塗工性が安定して得られる。
【0061】
[ハードコートフィルムの製造方法]
次に、ハードコートフィルムの製造方法について説明する。
本発明のハードコートフィルムの製造方法は、上記塗工液としてハードコート層形成用塗料を使用し、上述の本発明に係る塗工液の塗工方法を適用して、被塗工基材上に上記塗工液を塗工してハードコート層を形成することにより、ハードコートフィルムを製造するものである。
【0062】
このハードコートフィルムの被塗工基材としては、通常フィルム基材が用いられる。
【0063】
本発明のハードコートフィルムの製造方法によれば、上述の本発明に係る塗工液の塗工方法を適用することにより、高品質のハードコートフィルムを得ることができる。
【0064】
図6は、ハードコートフィルムの概略断面図である。
図6は、ハードコートフィルムの代表的な構成例を示しており、フィルム基材1の少なくとも片面にハードコート層2を有している。
【0065】
(フィルム基材)
まず、上記フィルム基材1について説明する。
本発明において使用されるフィルム基材1は、特に限定されるものではなく、例えば、トリアセチルセルロース、ポリエチレンテレフタレート、シクロオレフィンポリマー、ポリカーボネート、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレン、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレングリシジルメタクリレート、芳香族式ポリイミド、脂環式ポリイミド、ポリアミドイミド及びこれらの混合物を例示することができるが、耐熱性、入手性、経済性の点からポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、トリアセチルセルロースを構成材料とする熱可塑性樹脂フィルムを用いることが好ましい。とりわけ、透明性が高く、しかも安価で入手しやすい点で、ポリエチレンテレフタレートフィルムが好適である。
【0066】
(ハードコート層)
次に、上記ハードコート層2について説明する。
上記ハードコート層2に含まれる樹脂としては、被膜を形成する樹脂であれば特に制限なく用いることができるが、特にハードコート層の表面硬度(鉛筆硬度、耐擦傷性)を付与し、また、紫外線の露光量によって架橋度合を調節することが可能であり、ハードコート層の表面硬度の調節が可能になるという点で電離放射線硬化型樹脂を用いることが好ましい。
【0067】
本発明に用いる電離放射線硬化型樹脂は、紫外線(以下、「UV」と略記する。)や電子線(以下、「EB」と略記する。)を照射することによって硬化する透明な樹脂であれば、特に限定されるものではないが、塗膜硬度及びハードコート層が3次元的な架橋構造を形成するために1分子内に3個以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有するUVまたはEBにて硬化可能な多官能アクリレートからなるものが好ましい。分子内に3個以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有するUVまたはEB硬化可能な多官能アクリレートの具体例としては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンエトキシトリアクリレート、グリセリンプロポキシトリアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート等を挙げることができる。なお、多官能アクリレートは単独で使用するだけでなく、2種以上の複数を混合し使用してもよい。
【0068】
さらに、本発明に用いる電離放射線硬化型樹脂は、重量平均分子量が例えば700~3600の範囲内であるポリマーを用いることが好ましく、重量平均分子量700~3000の範囲のものがより好ましく、重量平均分子量700~2400がさらに好ましい。重量平均分子量が700未満であると、UVやEB照射により硬化した際の硬化収縮が大きく、ハードコートフィルムがハードコート層面側に反りかえる現象(カール)が大きくなり、その後の加工工程を経るに不具合が生じ、加工適性が悪い。また、重量平均分子量が3600を超えると、ハードコート層の柔軟性が高まるが、硬度が不足するため適さない。
【0069】
また、本発明に用いる電離放射線硬化型樹脂は、重量平均分子量が1500未満である場合は、1分子中の官能基数は3個以上10個未満であることが望ましい。また、上記電離放射線硬化型樹脂の重量平均分子量が1500以上である場合は、1分子中の官能基数は3個以上20個以下であることが望ましい。上記範囲内であれば、耐熱条件下(100℃で5分間保存)でのクラックの発生を抑えつつ、カールが抑制でき、適切な加工適性を維持できる。
【0070】
また、上記ハードコート層2に含まれる樹脂としては、上述の電離放射線硬化型樹脂の他に、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエステル、アクリル、スチレン-アクリル、繊維素等の熱可塑性樹脂や、フェノール樹脂、ウレア樹脂、不飽和ポリエステル、エポキシ、珪素樹脂等の熱硬化性樹脂をハードコート層の硬度、耐擦傷性を損なわない範囲内で配合してもよい。
【0071】
また、上記ハードコート層2に無機酸化物微粒子を含有させ、表面硬度(耐擦傷性)の更なる向上を図ることも可能である。この場合、無機酸化物微粒子の平均粒子径は5~50nmの範囲であることが好ましく、更に好ましくは平均粒子径10~20nmの範囲である。平均粒子径が5nm未満であると、十分な表面硬度を得ることが困難である。一方、平均粒子径が50nmを超えると、ハードコート層の光沢及び透明性が低下し易く、また可撓性も低下するおそれがある。
【0072】
本発明において、上記無機酸化物微粒子としては、例えばアルミナやシリカなどを挙げることができる。これらの中でも、アルミニウムを主成分とするアルミナは高硬度を有するため、シリカよりも少ない添加量で効果を得られることから特に好適である。
【0073】
上記ハードコート層2を形成するためのハードコート塗料には、公知の光重合開始剤を含むことができる。そのような光重合開始剤としては、アセトフェノン類やベンゾフェノン類を使用できる。
【0074】
上記ハードコート層2には、塗工性の改善を目的にレベリング剤の使用が可能であり、たとえばフッ素系、アクリル系、シロキサン系、及びそれらの付加物或いは混合物などの公知のレベリング剤を使用可能である。また、タッチパネル用途等において、タッチパネル端末のカバーガラス(CG)、透明導電部材(TSP)、液晶モジュール(LCM)等との接着を目的に光学透明粘着剤OCRを用いた対接着性が要求される場合には、表面自由エネルギーの高い(凡そ40mN/m以上)アクリル系レベリング剤やフッ素系のレベリング剤の使用が好ましい。
【0075】
上記ハードコート層2に添加するその他の添加剤として、紫外線吸収剤、消泡剤、表面張力調整剤、防汚剤、酸化防止剤、帯電防止剤、光安定剤等を必要に応じて配合してもよい。
【0076】
上記ハードコート層2は、上述の電離放射線硬化型樹脂の他に、光重合開始剤、その他の添加剤等を適当な溶媒に溶解、分散したハードコート層形成用塗料を、上記フィルム基材1上に塗工、乾燥した後、UV又はEB等の電離放射線を照射することにより、光重合が起こりハード性に優れるハードコート層2を得ることができる。
【0077】
溶媒としては、配合される上記樹脂の溶解性に応じて適宜選択でき、少なくとも固形分(樹脂、光重合開始剤、その他添加剤等)を均一に溶解あるいは分散できる溶媒であればよい。そのような溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、n-ヘプタンなどの芳香族系溶剤、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の脂肪族系溶剤、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、乳酸メチル等のエステル系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n-プロピルアルコール系等のアルコール系溶剤等の公知の有機溶媒を単独或いは適宜数種類組み合わせて使用することもできる。
【0078】
上記ハードコート層形成用塗料を塗工後の電離放射線(UV、EB等)の照射量は、ハードコート層2に十分なハード性を持たせるに必要な照射量であればよく、電離放射線硬化型樹脂の種類等に応じて適宜設定することができる。
【0079】
上記ハードコート層2を形成するハードコート塗料の塗工方法については、上述した本発明に係る塗工液の塗工方法を好ましく適用することができる。本発明に係る塗工液の塗工方法を適用することにより、塗工ムラや欠陥の発生を低減し、均一塗工性が安定して得られる。
【0080】
上記ハードコート層2の塗膜厚さは、特に制約されるわけではないが、例えば1.0μm~5.0μmの範囲であることが好ましく、更に好ましくは1.5μm~3.5μmの範囲である.塗膜厚さが1.0μm未満では、必要な耐擦傷性の低下、及び鉛筆硬度が低下するため好ましくない。また、塗膜厚さが5.0μmを超えた場合は、カールが強く発生しやすく製造工程などで取扱い性が低下するため好ましくない。
【0081】
以上詳細に説明したように、本発明によれば、塗工ムラや欠陥の発生を低減し、均一塗工性が安定して得られるダイコート法による塗工液の塗工方法を提供することができる。
また、本発明によれば、上述の本発明に係る塗工液の塗工方法を適用して、上記フィルム基材1上にハードコート層形成用塗料を塗工してハードコート層2を形成することにより、高品質のハードコートフィルムが得られる。
【実施例】
【0082】
以下、実施例を挙げて、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
以下の実施例では、本発明の塗工液の塗工方法を適用してハードコートフィルムを製造する場合について説明するが、本発明の塗工方法はハードコートフィルムの製造に限定されるものではない。
【0083】
(実施例1)
[ハードコート層形成用塗料の調製]
トルエン/エチルセロソルブ=70/30重量部、6個の(メタ)アクリロイル基を有するウレタンアクリレートを主成分とする電子線硬化型樹脂(商品名:EBECRYL1290、ダイセル・オルネクス株式会社製、重量平均分子量2000)100重量部、光重合開始剤(商品名:Omuniradー184、BASFジャパン株式会社製)2重量部、レベリング剤(商品名:フタージェント650A、株式会社ネオス製)0.3重量部を混合して固形分濃度40重量%のハードコート層形成用塗料(以下、「ハードコート用塗料」と呼ぶ。)を調製した。このハードコート用塗料の粘度、表面張力は前述の測定法により測定し、その値は後記表1に記載した。
【0084】
[ハードコートフィルムの作製]
上述した本発明の塗工液の塗工方法を適用して、上記のハードコート用塗料を、125μm厚さで、幅1500mmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(商品名:コスモシャインA4300、東洋紡社製)の一方の面に、乾燥後の膜厚が10μmとなるように塗工した。塗工速度は、25m/分とした。また、塗工時に、ダイリップの上流側を、バキューム圧0.3kPaを掛けて減圧した。
【0085】
本実施例で用いたダイ(材質:SUS製)は、ダイリップのリップ厚が0.1mm、ランド部の長さ(以下、「ランド長」と呼ぶ。)が30mmであり、(ダイリップのリップ厚/ランド部の長さ)×100≦1の条件を満たす形状のものである。また、SUS製のシムプレートを用いて、このダイのスリット幅Sは、130μmに調整した。
また、本実施例では、塗工基材(上記PETフィルム)とダイリップとのクリアランス、塗工量については後記表1に記載したとおりである。
【0086】
次いで、この塗工層を80℃で1分間乾燥させ溶剤を揮発後、積算光量250mJ/cm2の紫外線照射処理により硬化させ、ハードコート層を形成したハードコートフィルムを得た。
【0087】
(実施例2)
ハードコート用塗料の塗工時に、ダイリップの上流側を、バキューム圧0.05kPaを掛けて減圧したこと以外は、実施例1と同様にして、ハードコート用塗料を塗工し、ハードコートフィルムを作製した。
【0088】
(実施例3)
ダイリップのリップ厚が0.4mm、ランド長が50mmである形状のダイを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、ハードコート用塗料を塗工し、ハードコートフィルムを作製した。
【0089】
(実施例4)
実施例1のハードコート用塗料の固形分濃度を70重量%とし、塗料粘度を98mPa・sに調整した塗料を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、ハードコート用塗料を塗工し、ハードコートフィルムを作製した。
【0090】
(実施例5)
実施例1のハードコート用塗料の固形分濃度を50重量%とし、塗料粘度を12.4mPa・sに調整した塗料を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、ハードコート用塗料を塗工し、ハードコートフィルムを作製した。
【0091】
(実施例6)
実施例1のハードコート用塗料の固形分濃度を50重量%とし、塗料粘度を12.4mPa・sに調整した塗料を用い、ハードコート用塗料の塗工時に、ダイリップの上流側を、バキューム圧0.6kPaを掛けて減圧したこと以外は、実施例1と同様にして、ハードコート用塗料を塗工し、ハードコートフィルムを作製した。
【0092】
(実施例7)
放射線硬化型樹脂ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(商品名:NKエステル A-9550、新中村化学社製)32.0重量部、架橋アクリル単分散粒子(商品名:MX-500、綜研化学社製、粒径5μm)28.0重量部、光重合剤1-ヒドロキシ-シクロヘキシルーフェニル-ケトン(商品名:イルガキュア184、BASF社製)1.5重量部、レベリング性フッ素系化合物(商品名:メガファックRS-75、DIC株式会社製)0.5重量部、ケトン系溶剤メチルエチルケトン23重量部、プロピレングリコールモノメチルエーテル15重量部を攪拌混合して固形分濃度40重量%のハードコート用塗料を調製した。
上記のハードコート用塗料を用い、塗工時に、ダイリップの上流側を、バキューム圧0.2kPaを掛けて減圧したこと以外は、実施例1と同様にして、ハードコート用塗料を塗工し、ハードコートフィルムを作製した。
【0093】
(実施例8)
ハードコート用塗料の塗工時に、ダイリップの上流側を、バキューム圧0.05kPaを掛けて減圧したこと以外は、実施例7と同様にして、ハードコート用塗料を塗工し、ハードコートフィルムを作製した。
【0094】
(実施例9)
ハードコート用塗料の塗工時に、ダイリップの上流側を、バキューム圧1.0kPaを掛けて減圧したこと以外は、実施例7と同様にして、ハードコート用塗料を塗工し、ハードコートフィルムを作製した。
【0095】
(比較例1)
ダイリップのリップ厚が1mm、ランド長が50mmであり、(ダイリップのリップ厚/ランド部の長さ)×100≦1の条件を満たさない形状のダイを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、ハードコート用塗料を塗工し、ハードコートフィルムを作製した。ただし、本比較例では、減圧は行わず(バキューム圧ゼロ)、塗工は大気圧下で行った。
【0096】
(比較例2)
ハードコート用塗料の塗工時に、ダイリップの上流側を、バキューム圧0.6kPaを掛けて減圧したこと以外は、比較例1と同様にして、ハードコート用塗料を塗工し、ハードコートフィルムを作製した。
【0097】
<評価>
上記のようにして作製した実施例および比較例の各ハードコートフィルムについて、以下の各項目の評価を行い、その結果を纏めて表1に示した。また、各実施例および各比較例におけるダイ形状、塗工条件等についても纏めて表1に示した。
【0098】
<塗工層膜厚均一性>
PET基材+塗工層の総厚みを、塗工面420mm幅内の9ポイントで、リニアゲージを用いて測定し、9ポイントの平均値と標準偏差を求めた。この標準偏差の値によって塗工層膜厚の均一性を評価した。
【0099】
<塗工外観>
塗工面での横段状ムラの有無を目視で観察し、以下の基準により塗工外観を評価した。
○:横段状ムラはまったく見られない。
△:横段状ムラは若干見られるが、実用上問題の無いレベルである。
×:5~10mmピッチの横段状ムラがはっきりと見られる。
【0100】
【0101】
表1の結果から、本発明の塗工液の塗工条件による実施例によれば、塗工ムラ等の発生を低減し、塗工外観の良好な、均一塗工性が安定して得られることがわかる。また、塗工時に、ダイリップの上流側を減圧することで、より良好な塗工外観が得られ、またクリアランスの拡大効果もある。
したがって、本発明によれば、近年特に高品質が要求されている光学用のハードコートフィルムの製造に好適である。
一方、本発明の塗工液の塗工条件を満たさない比較例の場合、塗工ムラが発生し、良好な塗工外観が得られない。
【符号の説明】
【0102】
1 フィルム基材
2 ハードコート層
10 液槽
20 精密計量ポンプ
30 ダイ
31 マニホールド
32 ランド部
33 ダイリップ
33a 上流側リップ
33b 下流側リップ
34a 上流側ダイ本体
34b 下流側ダイ本体
35 シムプレート
40 バックロール
50 バキュームチャンバー
60 塗工液
70 被塗工基材