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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-27
(45)【発行日】2024-10-07
(54)【発明の名称】多孔質蒟蒻ゲル製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/28 20060101AFI20240930BHJP
   A23L 29/244 20160101ALI20240930BHJP
   C08B 37/00 20060101ALI20240930BHJP
【FI】
C08J9/28 101
C08J9/28 CEP
A23L29/244
C08B37/00 Q
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020150953
(22)【出願日】2020-09-09
(65)【公開番号】P2022045378
(43)【公開日】2022-03-22
【審査請求日】2023-09-06
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (その1)令和1年9月23日~令和1年9月27日に第18回アジア太平洋化学工学連合会議(APCChE 2019)が開催され、令和1年9月24日に「Novel and effective utilization of BDF waste using glucomannan(グルコマンナンを使用したBDF廃液の新規かつ有効な利用)」について、口頭により発表した。
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (その2)令和1年9月23日~令和1年9月27日に第18回アジア太平洋化学工学連合会議(APCChE 2019)が開催され、令和1年9月24日に「Novel and effective utilization of BDF waste using glucomannan(グルコマンナンを使用したBDF廃液の新規かつ有効な利用)」について、ポスターセッションにより発表した。
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (その3)令和1年9月23日~令和1年9月27日に第18回アジア太平洋化学工学連合会議(APCChE 2019)が開催され、その期間中に「Novel and effective utilization of BDF waste using glucomannan(グルコマンナンを使用したBDF廃液の新規かつ有効な利用)」を掲載した内容がUSBフラッシュドライブで配布された後、令和1年11月8日に同内容がウェブサイト http://www3.scej.org/meeting/apcche2019/abst/i2d-abstracts.htmlにおいて、電気通信回線を通じて公開された。
(73)【特許権者】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002251
【氏名又は名称】弁理士法人眞久特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】滝口 昇
(72)【発明者】
【氏名】納谷 宗宏
【審査官】山本 晋也
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-196462(JP,A)
【文献】特開2001-186856(JP,A)
【文献】特開2009-142256(JP,A)
【文献】特開2019-141836(JP,A)
【文献】特開平08-131097(JP,A)
【文献】特開昭51-026239(JP,A)
【文献】特開昭62-272953(JP,A)
【文献】特表2009-541502(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0019447(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J
C08L
C08B
A23L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリセロールと、脂肪酸及び/又は脂肪酸エステルと、揮発性アルコールと、アルカリ成分とを含有するゲル化材料と、前記揮発性アルコールで溶解されない蒟蒻ゲル形成成分を含有するゲル化剤と、水とを、混合して撹拌しつつ加熱し、前記揮発性アルコールを揮発させる工程により、マイクロオーダーの細孔を形成した多孔質蒟蒻ゲルを製造することを特徴とする多孔質蒟蒻ゲル製造方法。
【請求項2】
前記蒟蒻ゲル形成成分に、蒟蒻粉、蒟蒻マンナン、グルコマンナン、蒟蒻芋擂潰物、蒟蒻糊、及び蒟蒻成分から選ばれる少なくとも何れかを含ませていることを特徴とする請求項1に記載の多孔質蒟蒻ゲル製造方法。
【請求項3】
前記アルカリ成分が、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の酢酸塩、前記脂肪酸のアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩、及び前記揮発性アルコールのアルカリ金属アルコラート又はアルカリ土類金属アルコアラートから選ばれる少なくとも何れかに由来するアルカリ金属イオン対又はアルカリ土類金属イオン対を含有するものであることを特徴とする請求項1に記載の多孔質蒟蒻ゲル製造方法。
【請求項4】
前記多孔質蒟蒻ゲルを、肥料、土壌改良剤、加工食品、化学材料、及び化学素材から選ばれる何れかの製品の形状に成形した多孔質蒟蒻ゲル製品として製造することを特徴とする請求項1に記載の多孔質蒟蒻ゲル製造方法。
【請求項5】
前記多孔質蒟蒻ゲル製品を、凍結乾燥、減圧乾燥、及び/又は加熱乾燥する工程を有することを特徴とすることを特徴とする請求項4に記載の多孔質蒟蒻ゲル製造方法。
【請求項6】
前記揮発性アルコールと、前記アルカリ成分との共存下、油脂を、前記グリセロールと、前記脂肪酸エステルとに、エステル交換反応する工程と、
前記脂肪酸エステルを取り出すことにより前記グリセロールと、前記脂肪酸及び/又は前記脂肪酸エステルと、前記揮発性アルコールと、アルカリ成分とを含有する廃液を、前記ゲル化材料として得る工程と
を有することを特徴とする請求項1に記載の多孔質蒟蒻ゲル製造方法。
【請求項7】
前記廃液を処理する方法であることを特徴とする請求項6に記載の多孔質蒟蒻ゲル製造方法。
【請求項8】
蒟蒻ゲル形成成分と、グリセロールと、脂肪酸と、前記蒟蒻ゲル形成成分を溶解しない揮発性アルコールと、アルカリ成分と、水との混合組成物がゲル化している多孔質蒟蒻ゲルであって、前記揮発性アルコールの揮発空隙からなるマイクロオーダーの細孔が形成されていることを特徴とする多孔質蒟蒻ゲル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油脂からバイオディーデル燃料を製造する際の副生成物であるグリセロールと、脂肪酸と、揮発性アルコールと、アルカリ成分とを有効に処理することができる多孔質蒟蒻ゲル製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、化石燃料の代替燃料として再生可能な生物由来、特に植物由来の有機性資源(バイオマス)を原料とするバイオ燃料が注目されている。バイオディーデル燃料(Bio Diesel Fuel: 以下BDFという)もバイオ燃料の一つであり、植物由来油脂を原料として製造される軽油代替燃料である。原料である植物は、地球上の二酸化炭素を吸収して育つため、バイオ燃料を燃焼して排出される二酸化酸素の増減は、実質ゼロと看做すことができる。そのため、バイオ燃料は、地球上の二酸化炭素の増加を抑制し地球温暖化を防ぐ、カーボンニュートラルな燃料として、認知されている。
【0003】
BDFの原料である植物由来油脂として、EU諸国では主に菜種油、米国では大豆油、東南アジアではパーム油などが使用されている。一方、植物油のような食用油など植物由来油脂の多くを輸入に頼っている我が国では、BDFの原料として、植物油の廃食用油の使用が望まれており、自治体やNPO法人を中心に廃食用油を回収・再利用することが促されている。植物由来油脂からBDFへ誘導して取り出す必要があり、しかも一般的にこれら油脂特に廃食用油は脂肪酸やリン脂質、ステロール、水といった夾雑物を含んでおり分離する必要がある。現在、我が国では、植物由来油脂、特に廃食用油からBDFを得るのに、装置が簡便、反応が迅速、安定性が高いといった特徴から、アルカリ触媒法が一般的に用いられている。この反応は、下記化学反応式(1)で表すように、水酸化カリウムなどのアルカリ触媒、通常例えば水酸化カリウム存在下で、植物由来油脂に含まれる脂肪酸トリグリセリドとメタノールとをエステル交換反応させることで進行し、脂肪酸メチルエステルとグリセロールとを生成するというものである(式(1)中、R1COO-基~R3COO-基は同一又は異なる飽和又は不飽和の脂肪酸基)。
【化1】
【0004】
生成した脂肪酸メチルエステルに水洗処理及び蒸留処理を施すことにより、脂肪酸メチルエステルからなるBDFが得られる。この時、取り出せなかった脂肪酸メチルエステル及び/又は遊離脂肪酸と、大量のグリセロールとを含む強アルカリ性の廃液(以下BDF廃液)が副産物として生成される。
【0005】
原料の植物由来油脂の種類等により組成・濃度は幾分異なるが、BDF廃液には30~80%のグリセロールの他、残存する遊離脂肪酸や脂肪酸メチルエステル、メタノール、アルカリ触媒、水が含まれている。BDF廃液は、水酸化カリウムのようなアルカリ触媒を含有する所為で、pHが約12と非常に高く、強アルカリ性であって危険である。しかも、BDF廃液に多量に含まれるグリセロールは、貴重な資源であるにも拘らず、再資源化方法が確立されていないばかりか、グリセロール自体が安価なため、多額の費用・時間・多工程の労力をかけて回収するだけの価値がない。そのため、BDF廃液の殆どが廃棄物として焼却処分されているのが現状である。今後、二酸化炭素排出量削減の観点からBDF生産量増加に伴い、BDF廃液の排出量が増加していくと考えられる。
【0006】
グリセロール含有廃液の処理方法として、特許文献1に、グリセロール含有廃液を、オーランチオキトリウム属に属し炭素数14以上の脂肪酸を生産しうるオーランチオキトリウム属微生物で処理した後固液分離する一次処理工程と、該一次処理工程の処理水中に残留する有機物を除去する二次処理工程とを有する方法が開示されているが、この一次処理手段の微生物処理系内のpHを3.5~9.0に調整する必要がある。また、微生物での処理には多大の労力と時間がかかる。
【0007】
グリセロールを含有しpHが約12にも達する高pHでカリウムを高濃度で含む多量のBDF廃液を、簡便に処理して有効に活用できる方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2016-36760号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、グリセロールを含有しpHが約12にも達する高pHでカリウムを多量に含むBDF廃液を、簡便かつ安価に効率よく処理して、有効に活用できる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、BDF廃液が、土壌への添加により植物の根の成長を促す効果を奏すると知られているグリセロールの他に、アルカリ触媒に由来しリンや窒素と並ぶ三大栄養素の一つであって植物の生育に不可欠な元素であるカリウムと、媒体として水に比べ約65℃という低沸点であって加熱で容易く揮発するメタノールとを、多量に含んでいる点に着目し、BDF廃液を、蒟蒻ゲル形成成分を用いて65℃以上でゲル化することによりグリセロールとカリウムを含みつつメタノールを含まず肥料や土壌改質材など様々な用途に利用できる多孔質蒟蒻ゲルを製造する方法を見出し、本発明を完成させた。
【0011】
前記の目的を達成するためになされた多孔質蒟蒻ゲル製造方法は、グリセロールと、脂肪酸及び/又は脂肪酸エステルと、揮発性アルコールと、アルカリ成分とを含有するゲル化材料と、前記揮発性アルコールで溶解されない蒟蒻ゲル形成成分を含有するゲル化剤と、水とを、混合して撹拌しつつ加熱し、前記揮発性アルコールを揮発させる工程により、マイクロオーダーの細孔を形成した多孔質蒟蒻ゲルを製造することを特徴とする。
【0012】
この多孔質蒟蒻ゲル製造方法は、前記蒟蒻ゲル形成成分に、蒟蒻粉、蒟蒻マンナン、グルコマンナン、蒟蒻芋擂潰物、蒟蒻糊、及び蒟蒻成分から選ばれる少なくとも何れかを含ませていることが好ましい。
【0013】
この多孔質蒟蒻ゲル製造方法は、前記アルカリ成分が、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の酢酸塩、前記脂肪酸のアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩、及び前記揮発性アルコールのアルカリ金属アルコラート又はアルカリ土類金属アルコアラートから選ばれる少なくとも何れかに由来するアルカリ金属イオン対又はアルカリ土類金属イオン対を含有するものであることが好ましい。
【0014】
この多孔質蒟蒻ゲル製造方法は、例えば、前記多孔質蒟蒻ゲルを、肥料、土壌改良剤、加工食品、化学材料、及び化学素材から選ばれる何れかの製品の形状に成形した多孔質蒟蒻ゲル製品として製造するというものであってもよい。
【0015】
この多孔質蒟蒻ゲル製造方法は、前記多孔質蒟蒻ゲル製品を、凍結乾燥、減圧乾燥、及び/又は加熱乾燥する工程を有するものであってもよい。
【0016】
この多孔質蒟蒻ゲル製造方法は、前記揮発性アルコールと、前記アルカリ成分との共存下、油脂を、前記グリセロールと、前記脂肪酸エステルとに、エステル交換反応する工程と、前記脂肪酸エステルを取り出すことにより前記グリセロールと、前記脂肪酸及び/又は前記脂肪酸エステルと、前記揮発性アルコールと、アルカリ成分とを含有する廃液を、前記ゲル化材料として得る工程とを有することが好ましい。
【0017】
この多孔質蒟蒻ゲル製造方法は、前記廃液を処理する方法として用いられるものであることが好ましい。
【0018】
前記の目的を達成するためになされた多孔質蒟蒻ゲル製造用ゲル化剤は、蒟蒻ゲル形成成分からなり、グリセロールと、脂肪酸と、前記蒟蒻ゲル形成成分を溶解しない揮発性アルコールと、アルカリ成分とを含有している混合液に添加して多孔質蒟蒻ゲルを製造するために用いられるものである。
【0019】
前記の目的を達成するためになされた多孔質蒟蒻ゲル製造用ゲル化材料は、多孔質蒟蒻ゲル製造用ゲル化剤が添加される多孔質蒟蒻ゲル製造用ゲル化材料であって、前記グリセロールと、前記脂肪酸と、前記揮発性アルコールと、前記アルカリ成分とを含有している混合液からなり、多孔質蒟蒻ゲルを製造するためのものであるというものである。
【0020】
前記の目的を達成するためになされた孔質蒟蒻ゲルは、蒟蒻ゲル形成成分と、グリセロールと、脂肪酸と、前記蒟蒻ゲル形成成分を溶解しない揮発性アルコールと、アルカリ成分と、水との混合組成物がゲル化している多孔質蒟蒻ゲルであって、前記揮発性アルコールの揮発空隙からなるマイクロオーダーの細孔が形成されているものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明の多孔質蒟蒻ゲル及びそれの製造方法によれば、BDF製造時に副生される、グリセロールを含有しpHが約12にも達する高pHでカリウムを多量に含む有毒で有害なBDF廃液を、産業廃棄物として焼却処理せずに、アルカリ性を緩和して安全で有用な肥料、土壌改良剤、加工食品、化学材料、又は化学素材に誘導して、有効に利用することができる。
【0022】
この多孔質蒟蒻ゲルは、アルカリ性の緩和とBDF廃液のゲル化とを同時に行ってBDF廃液処理を行うことができ、多孔質となっていることにより、カリウム成分の徐放性・保水性を向上させ、ハンドリングし易く、長期間安定して保存できる。
【0023】
本発明の多孔質蒟蒻ゲル製造用ゲル化剤は、グリセロール・脂肪酸・揮発性アルコール・アルカリ成分を含有するBDF廃液のような産業廃棄物から多孔質蒟蒻ゲルを製造するための添加剤として用いることができるもので、安価かつ大量に使用できるものである。
【0024】
本発明の多孔質蒟蒻ゲル製造用ゲル化材料として、グリセロール・脂肪酸・揮発性アルコール・アルカリ成分を含有するBDF廃液のような混合物を用いることにより、従来、産業廃棄物であったこれら混合物が、安全で有用な肥料、土壌改良剤、加工食品、化学材料、又は化学素材の原材料として、利用できるようになる。
【0025】
本発明の多孔質蒟蒻ゲルは、通常の食用蒟蒻に無いマイクロオーダーの細孔の多孔質を有したゲルであって、グリセロール・脂肪酸・揮発性アルコール・アルカリ成分を有効に活用して、農業、食品産業、化学産業の製品として、用いることができる。
【0026】
本発明によれば、燃焼中に少量のSOしか生成せず植物に固定されたCOを排出だけであるから化石燃料のようなCOガス・SOガス増加に関与せず地球温暖化防止に役立つBDFの利用の促進に寄与できるばかりか、例えば肥料として利用して植物の生育・増産に寄与できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明を適用する多孔質蒟蒻ゲル製造方法による多孔質蒟蒻ゲルの製造途中と製造後を示す写真を示す図である。
図2】本発明を適用する多孔質蒟蒻ゲル製造方法による多孔質蒟蒻ゲルの電子顕微鏡拡大写真、及び本発明を適用外の多孔質蒟蒻ゲルの電子顕微鏡拡大写真を示す図である。
図3】本発明を適用する多孔質蒟蒻ゲル製造方法による多孔質蒟蒻ゲルを水中に浸漬したときの経過時間と残存カリウム量比との相関関係を示すグラフである。
図4】本発明を適用する多孔質蒟蒻ゲル製造方法による多孔質蒟蒻ゲルを水中に浸漬したときの経過時間とpHとの相関関係を示すグラフである。
図5】本発明を適用する多孔質蒟蒻ゲル製造方法による多孔質蒟蒻ゲルの残存水分量比と経過日数との相関関係を示すグラフである。
図6】本発明を適用する多孔質蒟蒻ゲル製造方法による多孔質蒟蒻ゲルを用いて及び用いないで施肥した夫々の条件下で育成した植物の茎長と乾燥重量とを示すグラフである。
図7】本発明を適用する多孔質蒟蒻ゲル製造方法による多孔質蒟蒻ゲルを土壌埋設した時の水分残存率と経過日数との相関関係、及び水分残存率の向上率と経過日数との相関関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を実施するための形態を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの形態に限定されるものではない。
【0029】
本発明の多孔質蒟蒻ゲル製造方法は、例えば、ゲル化材料としてBDF廃液と、蒟蒻粉のような蒟蒻ゲル形成成分を含有するゲル化剤と、水とを、混合して、撹拌しつつ加熱して多孔質蒟蒻ゲルを形成するというものである。
【0030】
BDF廃液は、グリセロールと、脂肪酸及び/又は脂肪酸エステルと、揮発性アルコールと、アルカリ成分とを含有するゲル化材料である。例えば、このBDF廃液は、以下のようにして得られるものである。
【0031】
植物由来油脂を主成分として含有している植物油のような食用油を使用後に家庭や飲食店から回収した廃食用油を、揮発性アルコール中、アルカリ触媒として水酸化カリウムのようなアルカリ成分存在下で、植物由来油脂に含まれる脂肪酸トリグリセリドとメタノールとのエステル交換反応によって(前記化学式(1)参照)、脂肪酸メチルエステルとグリセロールとを生成させ、水洗処理及び蒸留処理を施すことにより、脂肪酸メチルエステルからなるBDFを得た後に、その副産物として、取り出せなかった脂肪酸メチルエステル及び/又は遊離脂肪酸と、大量のグリセロールとを含む、pH12程度の強アルカリ性のBDF廃液が、生成される。
【0032】
このような多孔質蒟蒻ゲル製造方法では、蒟蒻粉に含まれる主成分として蒟蒻マンナンが、水中で、アルカリ成分と混合されることによって、下記化学式(2)に示すように、加水分解される。
【化2】
【0033】
このような蒟蒻マンナンは、D-グルコースとD-マンノースとがβ-(1→4)結合して主鎖を形成し(前記化学式(2)参照)、一部β-(1→3)結合やβ-(1→6)結合による枝分かれ構造を有していてもよいグルコマンナンの一種であり、アルカリ成分である水酸化カリウムで加水分解される。この蒟蒻マンナンは、アセチル基によって分子凝集が妨げられていたが、アセチル基の酢酸塩への交換反応又は加水分解反応によってアセチル基が脱離すると、分子間の水素結合によって網目構造を形成したり、高分子間に多くの水分子が水和した状態から高分子同士が凝集して不溶性となったりすることにより、ゲル化すると考えられている。
【0034】
多孔質蒟蒻ゲル製造方法においては、ゲル化材料であるBDF廃液と、蒟蒻粉のような蒟蒻ゲル形成成分であるゲル化剤と、水とを、混合して、撹拌しつつ、水の沸点未満に加熱して、揮発性アルコールを揮発させると、ゲル化の際、及び/又はゲル化の後に、揮発性アルコールが揮発することによって、マイクロオーダーの細孔の多孔質を形成しながら固化して、多孔質蒟蒻ゲルを形成する。
【0035】
この多孔質蒟蒻ゲルは、グルコマンナン分子のような蒟蒻ゲル形成成分の網目構造が粗な部分および密に凝集した部分が混在した構造となっていることにより0.1~0.5mm、例えば0.1mm(100μm)程度の孔径とする細孔が開いている。一般的な非多孔質のグルコマンナンゲルは、グルコマンナン分子が部分的に結合して均一な網目構造となっているのに対し、この多孔質蒟蒻ゲルは、グルコマンナン分子の不均一な網目構造と凝集した部分が混在している点が大きく相違する構造的特徴である。
【0036】
さらに、この多孔質蒟蒻ゲルは、グルコマンナン分子が密に凝集した構造となっていることにより、非常に小さな1~5μmの微細細孔を有している。例えば孔径1μm~5μm、より具体的には孔径1μmと孔径5μm程度との微細細孔で多孔がゲル内に一部連結する構造となって開いている。1μm程度の細孔は凝集したグルコマンナン分子内の揮発性アルコーが撹拌によって微細に分散されることによって生じたものであり、5μm程度の細孔は含有する脂質による水素結合の阻害により、細孔が粗大化したものである。このような多孔質状の細孔は、マイクロ孔と呼ばれ、カリウムイオン又はカリウム塩や水分子を吸着して保持したり徐放したり、通気する空隙を形成したりするのに役立っている。このような多孔質蒟蒻ゲルの表面及び内部に存する多孔質状の細孔は、一般的な食用蒟蒻のような非多孔質のグルコマンナンゲルには認められないものである。このような多孔質状の細孔は、ゲル化の際、及び/又はゲル化の後に、揮発性アルコールが揮発する際に、細孔構造が維持されることにより、形成されるものである。
【0037】
蒟蒻ゲル形成成分として、蒟蒻粉の例を示したが、蒟蒻のようなゲルを形成できるものであれば、特に限定されず、蒟蒻マンナン、グルコマンナン、蒟蒻芋擂潰物、蒟蒻糊、蒟蒻成分から選ばれる少なくとも何れかを含むものであってもよい。グルコマンナンは蒟蒻芋の主成分であり、アルカリ成分と反応しゲル化する性質を持つ多糖である。蒟蒻ゲル形成成分は、食用の蒟蒻を製造するのに用いられる蒟蒻粉を用いてもよいが、蒟蒻芋製造時に蒟蒻成分廃棄物を用いてもよい。
【0038】
ゲル化材料として、家庭や飲食店から回収した油脂である廃食用油から、BDFを取り出したときの副生成物であるBDF廃液の例を示したが、油脂の種類は特段限定されない。例えば、油脂は、家庭・飲食店・工場で使用して回収した食用油の他、使用済みか否かを問わず、オレイン酸を多く含む菜種油(キャノーラ油)・べに花油・オリーブオイル、リノール酸を多く含む大豆油・コーン油・綿実油、リノレン酸を多く含むアマニ油・しそ油・えごま油、所謂サラダオイル、パーム油、ココナッツオイル、こめ油などの植物性油脂であってもよく、牛脂・豚脂・鶏脂・魚油のような動物性油脂であってもよく、バター・マーガリンのような加工品であってもよい。
【0039】
ゲル化材料として、BDF廃液でなくても、脂肪酸及び/又は脂肪酸エステルと、グリセロールと、揮発性アルコールと、アルカリ成分とを含有するものであれば、特に限定されない。
【0040】
揮発性アルコールは、水よりも低沸点のもので、蒟蒻ゲル形成成分を溶解しないものであれば、特に限定されない。蒟蒻ゲル形成成分を溶解しないとは、その成分1gを溶解するのに1~10Lを要する極めて溶けにくいものや10Lを要するほとんど解けないことを意味する。このような揮発性アルコールとしては、メタノール(沸点65℃)、エタノール(沸点79℃)、プロパノール(沸点98℃)が挙げられるが、中でも低沸点であること、蒟蒻ゲル形成成分を溶解しないこと、脂肪酸トリグリセリドとエステル交換し易いこと、エステル交換した脂肪酸メチルエステルはBDFとしての燃焼効率が良いこと、及び安価で安全なことの観点から、メタノールが好ましい。
【0041】
揮発性アルコールは、グリセロール、脂肪酸及び/又は脂肪酸エステル、アルカリ成分を含有するゲル化材料、及び蒟蒻ゲル形成成分を含有するゲル化剤を混合する際に過度の粘度上昇を抑制し適度な粘度にする役割と、加熱して多孔質蒟蒻ゲルへ誘導する際に揮発性アルコールの揮発によってマイクロオーダーの細孔の多孔質を形成する役割とを、果たす。
【0042】
アルカリ成分としては、油脂の脂肪酸トリグリセリドを脂肪酸エステルにエステル交換する交換反応を起こすアルカリ触媒であり、また蒟蒻ゲル形成成分のアセチル基を酢酸塩へ交換する交換反応又は加水分解反応を起こすものである。このようなアルカリ成分は、さらにナトリウムやカリウムのようなアルカリ金属の水酸化物又はカルシウムのようなアルカリ土類金属の水酸化物が好ましく、中でも多孔質蒟蒻ゲルが肥料の三大要素(窒素、リン、カリウム)の一つであるカリウムを含有できるように、水酸化カリウムであることが好ましい。このようなアルカリ成分は、蒟蒻ゲル形成成分のアセチル基由来のアルカリ金属又はアルカリ土類金属の酢酸塩例えば酢酸カリウム、油脂由来の脂肪酸のアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩例えば脂肪酸カリウム塩、揮発性アルコールに由来するアルカリ金属アルコラート又はアルカリ土類金属アルコアラート例えばナトリウムメトキシドとして存するものであってもよく、それらに由来するアルカリ金属イオン対又はアルカリ土類金属イオン対例えばカリウムイオンとして含有するものであってもよい。
【0043】
アルカリ成分は、油脂の脂肪酸トリグリセリドを脂肪酸エステルにエステル交換する交換反応を起こすためにはアルカリ触媒となる量であり、BDF廃液のpHは12程度である。水酸化カリウムのようなアルカリ成分は、多孔質蒟蒻ゲルの形成の際に、蒟蒻ゲル形成成分のアセチル基を酢酸塩へ交換する交換反応又は加水分解反応のためにはアセチル基を酢酸カリウムにエステル交換して中和され、固化した多孔質蒟蒻ゲル中に包含される。多孔質蒟蒻ゲルは、保存中、アルカリ成分を中和した塩にして安全に安定して保持し続けるが、水分共存下例えば土壌に埋設したときに、アルカリ成分を徐放することができる。
【0044】
さらに、アルカリ成分は、グリセロール、脂肪酸及び/又は脂肪酸エステル、揮発性アルコールを含有するゲル化材料、及び蒟蒻ゲル形成成分を含有するゲル化剤を均一に混合するのにも役立っている。
【0045】
グリセロールは、脂肪酸及び/又は脂肪酸エステル、揮発性アルコール、アルカリ成分を含有するゲル化材料、及び蒟蒻ゲル形成成分を含有するゲル化剤を均一に混合するのにも役立っている。多孔質蒟蒻ゲルは、保存中、グリセロールを保持し続けるが、水分共存下例えば土壌に埋設したときに、微生物の栄養成分としてグリセロールを徐放することができる。
【0046】
多孔質蒟蒻ゲル中、蒟蒻ゲル形成成分は、その分子間の水素結合によって網目構造を形成したり、高分子間に多くの水分子が水和した状態から高分子同士が凝集して不溶性となったりすることにより、ゲル化するのに役立つと共に、D-グルコース及びD-マンノースの糖繰り返し構造を有する蒟蒻マンナンのようなゲル形成成分と油脂由来のグリセロールとを微生物栄養成分として含有し微生物のエネルギー源となる。
【0047】
このように焼却していたBDF廃液の全成分も蒟蒻ゲル形成成分も、多孔質蒟蒻ゲルの形成やその後の使用の際に有効である。
【0048】
BDF廃液中、原料の植物由来油脂の種類等により組成・濃度は幾分異なるが、BDF廃液には30~80重量%好ましくは45~55質量%のグリセロール、1~25重量%好ましくは最大で18質量%の遊離脂肪酸や最大で35質量%脂肪酸メチルエステル、1~30重量%好ましくは3~23質量%のメタノール揮発性アルコール好ましくはメタノール、pHで約12となる程度で3~20重量%好ましくは最大で17質量%(金属イオン量)のアルカリ触媒が含まれている。
【0049】
多孔質蒟蒻ゲルは、以下の方法により製造される。
【0050】
家庭・飲食店・工場で使用して回収した食用油のような油脂、若しくは植物性油脂又は動物性油脂を、揮発性アルコール好ましくはメタノールに溶解又は懸濁させ、アルカリ成分好ましくは水酸化カリウムとの共存下、例えば60℃で1時間程度反応させ、グリセロールと、脂肪酸エステルとに、エステル交換させる。その反応混合物に、脂肪酸エステルに水洗処理及び蒸留処理を施すことにより、脂肪酸メチルエステルからなるBDFを取り出す。取り出した後の反応混合物は、BDF廃液であるが、ゲル化材料として使用する。
【0051】
次いで、BDF廃液、即ちグリセロールと、脂肪酸及び/又は脂肪酸エステルと、揮発性アルコールと、アルカリ成分とを含有するゲル化材料を水で2~20倍例えば10倍に希釈する。その希釈液に、ゲル化剤として蒟蒻ゲル形成成分例えば蒟蒻粉を、BDF廃液原液100mlに対して2~10gの割合好ましくは6gの割合で添加する。その混合液を泡立てるように撹拌しながら混合する。その後、揮発性アルコールが揮発する程度の温度例えば60~90℃好ましくは80℃で0.5~4時間好ましくは1~2時間加熱すると、BDF廃液をゲル状に固化させたものでマイクロオーダーの微細細孔を形成した多孔質蒟蒻ゲルが、得られる。
【0052】
この多孔質蒟蒻ゲルは、植物の三大栄養素の窒素、リン、カリウムのうちカリウムを豊富に含み、土壌細菌で分解されて栄養成分となる糖繰り返し構造のD-グルコース及びD-マンノースと油脂由来のグリセロールと、水を含有している。この多孔質蒟蒻ゲルによれば、水分共存環境下、例えば土壌中で、カリウム成分の徐放と、水分の保水・徐放と、蒟蒻ゲル形成成分及びグリセロールの分解・消化による微生物育成とが可能となる。
【0053】
そのため、この多孔質蒟蒻ゲルは、安全、安価で安定して長期間使用できる農業用の肥料、土壌改良剤として用いることができる。
【0054】
また、この多孔質蒟蒻ゲルは、通常の非多孔質である食用の蒟蒻と同様、加工食品、例えば煮物材料、健康食品、菓子のような多孔質蒟蒻ゲル製品として用いることができる。さらに、多孔質ゲルの弾性、多孔性を利用して、断熱材・防音材のような化学材料・化学素材のような多孔質蒟蒻ゲル製品として用いることができる。
【0055】
このような多孔質蒟蒻ゲル製品は、水を含有しているため、長期保存性を確保するため、凍結乾燥、減圧乾燥、及び/又は加熱乾燥することにより、脱水してもよい。その後、水に浸漬・含水させることにより、多孔質蒟蒻ゲルに再生するようにしてもよい。
【実施例
【0056】
以下、本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0057】
本発明の多孔質蒟蒻ゲル製造方法の実施例は、グリセロール、脂肪酸、アルコール、及び揮発性アルカリ成分を含有するBDF廃液と、蒟蒻ゲル形成成分と、混合して、撹拌しつつ加熱して揮発性アルコールを揮発させる工程により、マイクロオーダーの細孔を形成した多孔質蒟蒻ゲルを形成するというものである。
【0058】
蒟蒻ゲル形成成分として、食用蒟蒻粉(茂木食品工業株式会社製)を用いた。
【0059】
BDF廃液は、京都市役所環境政策局南部クリーンセンター内の京都市廃食用油燃料化施設から提供されたもので、使用済みてんぷら油など家庭や飲食店から出される廃食用油である油脂をメタノール中にて水酸化カリウム触媒で主成分としてオレイン酸エステルのような脂肪酸エステルとグリセロールとにエステル交換して脂肪酸エステルを取り出した後に副生成物として生じたものであり、下記表1の組成のものである。
【0060】
【表1】
【0061】
(製造実施例1:BDF廃液由来ゲルの多孔質化)
[多孔質蒟蒻ゲルの調製]
200mlビーカーに、10倍希釈したBDF廃液50mlと蒟蒻粉3gとを順次加え、マグネットスターラー(DG HOTPLATE STIRRER HPS-3002: IWAKI)を用いて750rpmで3分間撹拌した。その後泡立て器(HM-706: dretec)を用いて3分間撹拌した後、ウォーターバス(サーマルロボ ウォーターバス TR-2α:アズワン)を用いて80℃で90分間加熱し、BDF廃液の多孔質蒟蒻ゲル(BDFゲル)を得た。
【0062】
[多孔質蒟蒻ゲルの外観観察結果]
蒟蒻粉を添加し撹拌した直後のBDF廃液は、図1(a)に示す通り多少泡立ったものの液体状態のままであったが、加熱後、BDF廃液は、同図(b)に示す通りゲル化してBDF廃液の多孔質蒟蒻ゲルとなっていることが、観察された。多孔質蒟蒻ゲルは、スポンジ状であってその表面に気泡由来の数多くの細孔が確認でき、その孔径は0.1~0.5mm例えば0.1mm程度であった。また揮発性アルコール由来の非常に小さな1~5μm程度の微細細孔を有していた。多孔質蒟蒻ゲルを得た後、ゲル化を行ったビーカー内に未反応の試料等は残っていなかった。
【0063】
[多孔質蒟蒻ゲルの外観観察結果からの考察]
多孔質蒟蒻ゲル中に確認された0.1~0.5mmの細孔は、泡立て器で撹拌した際にゲル化途中の廃液が泡立ち、気泡を多量に含んだためと考えられる。非常に小さな1~5μm程度の微細細孔は、ゲル内に分散された揮発性アルコールが加熱の際に揮発した結果、マイクロオーダーの微細細孔となったと考えられる。一方、比較のため、純水に蒟蒻粉を加え、同様に泡立てたとしても、直後に、この多孔質蒟蒻ゲルのように気泡を多量に含むことはない。また、純水に蒟蒻粉を加えると5分ほどで餅のような状態までゲル化するが、BDF廃液を10質量%含ませた水に蒟蒻粉を加え泡立てた場合、12時間経過してもゲル化は殆ど進んでいなかった。このことは、多量の水を含んでいるとBDF廃液の成分の作用により蒟蒻のゲル化が抑制されたためと思われる。用いたBDF廃液の主成分は、グリセロール、オレイン酸を主とする脂肪酸、メタノール、水酸化カリウムであり、実質的に水をほとんど含んでいない。このことから、疎水性成分である脂肪酸による水素結合の阻害、メタノールの貧溶媒効果によるグルコマンナンの溶解度低下が影響していると考えられる。疎水性成分、親水性成分共に固化されたが、これは廃液に含まれるグリセロールの両親媒性によって疎水性成分と親水性成分が均一に混合していたため、疎水性成分も親水性成分と同様に固化されたと考えられる。
【0064】
(物性評価試験例1:多孔質蒟蒻ゲルの内部構造の観察)
[ゲルの内部構造観察サンプルの調製]
製造実施例1で得られた多孔質蒟蒻ゲルの内部構造を調べるため、走査型電子顕微鏡(FE-SEM)を用いて表面及び断面の構造を観察し、多孔質構造であること及びその孔径を確認した。走査型電子顕微鏡で表面構造を観察する際の前処理として、以下のようにして、エタノール及びtert-ブチルアルコールを用いて多孔質蒟蒻ゲル中の水分を置換した後、5Paの気圧下で凍結乾燥を行った。
即ち、多孔質蒟蒻ゲルの0.5gを、濃度60%、70%、80%、90%、99%のエタノールに対して、濃度の薄いエタノール液から順に、各濃度30分ずつ含侵させた。その後、tert-ブチルアルコールに含侵させ、多孔質蒟蒻ゲル内の水分を置換した後、0℃で12時間凍結した。凍結後、5Paに減圧した状態で24時間放置し凍結乾燥を行った。
【0065】
[凍結乾燥した内部構造観察サンプルのSEM観察]
凍結乾燥した多孔質蒟蒻ゲルについて、電界放出型走査電子顕微鏡(日立S-4500)を用いて多孔質蒟蒻ゲルの内部構造及び断面の構造を観察した。その結果を図2(a1)~(a3)に示す。同図(a1)~(a2)は、凍結乾燥した多孔質蒟蒻ゲルの孔構造のSEM写真であり、夫々1μm程度のもの(a1参照)と5μm程度のもの(a2参照)とが観察された。同図(a3)は、凍結乾燥した多孔質蒟蒻ゲルの構造のSEM写真である。なお、比較のため、蒟蒻粉を水酸化カルシウム又は炭酸カリウムでゲル化させた一般的な食用蒟蒻のゲル構造のSEM写真を同図(b3)に示す(Appl. Sci. 1-12. (2019)参照)。これらのSEM写真から明らかな通り、凍結乾燥した多孔質蒟蒻ゲルは、一般的な食用蒟蒻と同様な繊維構造が観察されると共に、一般的な食用蒟蒻には認められない多孔質構造が観察された。
【0066】
[凍結乾燥した内部構造観察サンプルのSEM観察からの考察]
物性評価試験例1の多孔質蒟蒻ゲルの観察結果から明らかな通り、BDF廃液を加えたことにより、通常の食用蒟蒻には見られない多孔質構造を持つゲルが形成されたと考えられる。物性評価試験例1においてSEM写真で確認された多孔は、図2(a1)及び(a2)の通り、孔径が1μm程度及び5μm程度であって、活性炭などと同程度のマイクロ孔と呼ばれる孔径を有する微細細孔であり、薬剤等の吸脱着機能を持つ。また、この細孔内に強く吸着された物質は、脱離され難く速度論的にゆっくりと放出されることから、薬剤等の徐放機能も備えている。従って、多孔質蒟蒻ゲルによれば、この構造に起因して、多孔質蒟蒻ゲルからのカリウム成分や水分の放出に寄与できることが、推察される。
【0067】
また、一般的に、マイクロ孔は土壌中の微小凝縮物や粘土鉱物等を吸着することで土壌の空隙率及び通気性を向上させるという報告がある。このことから、多孔質蒟蒻ゲルは、土壌に埋設させたら土壌の空隙率及び通気性に寄与できると、推察される。
【0068】
この多孔質蒟蒻ゲルの微細細孔は、BDF廃液をゲルする過程において、加熱した際にBDF廃液の成分であるメタノールが揮発したことにより形成されたと推察される。また、図2(a3)及び(b3)から明らかな通り、多孔質蒟蒻ゲルは通常の食用蒟蒻同様、主にグルコマンナンがゲル化したものであると考えられる。
【0069】
グルコマンナンの土壌埋設に関して、土壌中にはマンナンを分解する微生物が幅広く生息していることが報告されている。また、マンナンの分解生成物であるマンノースの還元体、マンニトールがアーバスキュラー菌根菌(AM菌)の生育を促進するとの報告がある。AM菌は約4億年の太古から植物の根に共生して生きてきた土壌に生息する菌類(いわゆるカビの仲間)で、有用土壌微生物である。AM菌は、必須栄養素であるリンや窒素を土壌から吸収して共生相手である宿主植物に与えることで、農地や自然生態系での植物の生育を助けている。特にAM菌はイネ科やマメ科、ナス科などの重要作物を含むほとんどの陸上植物と共生関係を結ぶことができるため、微生物肥料として大きく期待されている。また、環境中に広く生息する微生物によるグルコース及びグリセロールを炭素源としたマンニトールの生産も報告されている。
【0070】
この多孔質蒟蒻ゲル中、蒟蒻ゲル形成成分の蒟蒻粉の主成分であるグルコマンナンはマンノースとグルコースによって構成されており、そのモル比は3:2である。この多孔質蒟蒻ゲルの主な成分はグリセロールとグルコマンナンであるため、多孔質蒟蒻ゲルを土壌へ埋設することにより、AM菌の生育を促進できる可能性がある。この多孔質蒟蒻ゲルは、肥料成分としては主にカリウムしか含んでいないが、植物が窒素、リンといった他の肥料成分を吸収することを間接的に促進させる可能性を示唆している。
【0071】
(物性評価試験例2:多孔質蒟蒻ゲルのカリウム放出能及びアルカリ性緩和能)
この多孔質蒟蒻ゲルは、多量のカリウムを含有していることから、持続的なカリウム供給能を発揮できる可能性がある。そこで、肥料等試験法(農林水産消費安全センター)に基づいて多孔質蒟蒻ゲルを水中に静置し、テトラフェニルホウ酸ナトリウム重量法により水中のカリウム量を測定し、カリウム放出能について検討した。また、多孔質蒟蒻ゲルを静置した水のpH測定を1日おきに行い、多孔質蒟蒻ゲルが周囲の環境のpH対してどの程度影響を与えるというアルカリ性緩和能について検討した。
【0072】
[カリウム放出能及びアルカリ性緩和能の確認試験用の試薬の調製]
肥料等分析法に基づき、以下の試薬を調製した。
・水酸化ナトリウム水溶液(200g/L)
・塩化アルミニウム水溶液 (120g/L)
・テトラフェニルホウ酸ナトリウム水溶液(テトラフェニルホウ酸ナトリウム6.1gを250mlのメスフラスコにとり水約200mlを加えて溶かし塩化アルミニウム液10mlを加えメチルレッドを指示薬として水酸化ナトリウム液で黄色となるまで中和し、標線まで水を加え乾燥ろ紙でろ過した。ろ液全量に水酸化ナトリウム液0.5mlを加えて混合し、使用前にろ過した)
・テトラフェニルホウ酸塩洗浄水溶液(テトラフェニルホウ酸ナトリウム水溶液25倍希釈)
・エチレンジアミン四酢酸塩-水酸化ナトリウム溶液(エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム10g及び水酸化ナトリウム8gを水に溶かし、冷却後混在するカリウム量に応じてテトラフェニルホウ酸塩液6~10ml(当量より4ml過剰程度)を加え、水を加えて100mlとし、約30分間放置した後、乾燥ろ紙でろ過した)
・メチルレッド溶液(0.1g/100ml)
【0073】
[カリウム放出能及びアルカリ性緩和能の確認試験]
200mlビーカーに超純水50mlを入れ、製造実施例1で得られた多孔質蒟蒻ゲル53gをその中に静置した。その後定期的にビーカー内の液を全て採取しpH計(LAQUA mater QUALITY meter: HORIBA)を用いて溶液のpHを測定した。サンプルを採取するたび、新たに超純水50mlをビーカーに入れた。採取したサンプルはマイクロ冷却遠心機(KUBOTA 3740: KUBOTA)を用いて12,000rpmで30分遠心分離した後、上清を2ml採取した。上清2mlに超純水30mlを加え、さらにホルムアルデヒド液5mlを加えた。エチレンジアミン四酢酸塩-水酸化ナトリウム溶液5mlを加えた後、300rpmで撹拌しつつテトラフェニルホウ酸塩溶液8mlをビュレットを用いて毎秒1滴ずつ滴下した。ときどき撹拌しつつさらに30分間放置し、テトラフェニルホウ酸カリウムの沈殿を生成させた。その後定性分析用ろ紙(3種)(1006-110: Whatman)を使用し、吸引ポンプ(油回転真空ポンプ GCD-051X: ULVAC)を用いて60L/分で吸引ろ過した。ろ過完了後、ろ紙を90℃のオーブン内で24時間乾燥させ、生成した沈殿の重量測定を行った。ろ過の際、一度ビーカー内の試料溶液を全てろ紙へ注いだ後、テトラフェニルホウ酸塩洗浄溶液5mlでビーカーを5回洗浄し、その後超純水2mlで更に2回洗浄を行うことで、沈殿を全てろ紙へ移した。また、ろ紙の重量測定の際、空気中の水分を吸収することによるろ紙の重量変化を考慮し、室温で5分程度放置することで使用前と同程度に空気中の水分を吸収させた後、重量測定を行った。生成した沈殿の重量より、多孔質蒟蒻ゲルから放出されたカリウムの量を算出した。
【0074】
[カリウム放出能及びアルカリ性緩和能の確認試験の結果]
カリウム放出能についての結果を図3、アルカリ性緩和能についての結果を図4に示す。図3から明らかな通り、超純水に静置後、多孔質蒟蒻ゲルからのカリウムの緩やかな持続的放出が確認された。12日間後(288時間後)には、多孔質蒟蒻ゲルが当初含有していたカリウム全量のうち約2割の放出が確認された。また、図4から明らかな通り、多孔質蒟蒻ゲルを超純水に静置した直後にpHは8付近まで上昇したが、その後pHは8付近から大きく変化しなかった。
【0075】
[カリウム放出能及びアルカリ性緩和能の確認試験からの考察]
多孔質蒟蒻ゲルから超純水へのカリウムの放出が見られたことから、BDF廃液の成分である水酸化カリウム由来の成分が多孔質蒟蒻ゲルの孔内に保持されており、水と接触した場合に周囲の水へ放出されていると考えられる。このことから、多孔質蒟蒻ゲルは水分を含む土壌に埋設した場合、土壌へのカリウム供給を行うことができると考えられる。カリウムの放出速度に関しては、既存の化学肥料と比較して緩やかであり、この多孔質蒟蒻ゲルは肥料効果の観点から、緩効性肥料として用いられ得る。また、多孔質蒟蒻ゲルを静置した超純水のpHが8付近を維持していたことから、溶出したカリウムは、廃液を固化する際に蒟蒻粉中のグルコマンナンと廃液中の水酸化カリウムが反応して生成した酢酸カリウム由来であると考えられる。酢酸カリウムは、水酸化カリウムに比べアルカリ性が低く、また土壌への影響や腐食性が低いため融雪剤としても使われており、安全性・環境保全性が高いものである。このように、多孔質蒟蒻ゲルによれば、蒟蒻粉の添加により、BDF廃液の高アルカリ性が低減されて環境への影響が緩和されていることから、蒟蒻粉はBDF廃液の処理、及び固化剤として極めて適切であると考えられる。また、多孔質蒟蒻ゲルを土壌に埋設することで、酢酸カリウムの緩衝作用による酸性土壌のpH改善及びその後のpHの維持が可能となる。
【0076】
(物性評価試験例3:多孔質蒟蒻ゲルの水分放出能・保水能)
多孔質蒟蒻ゲルが土壌へ供給可能な水分量の評価を行った。多孔質蒟蒻ゲルを恒温下、定期的に重量測定を行い、経時的な水分の減少を調べた。
【0077】
[多孔質蒟蒻ゲルの水分放出能・保水能試験]
製造実施例1で得られた多孔質蒟蒻ゲル53gを35℃のオーブン(Yamato Drying Oven DX-302: ヤマト科学株式会社)内に静置し、3日おきに重量測定を行い、水分減少の経時的変化を確認した。測定は重量変化が平衡に達するまで1箇月以上行った。
【0078】
[多孔質蒟蒻ゲルの水分放出能・保水能試験の結果]
水分放出能・保水能試験の結果を、図5に示す。図5から明らかな通り、多孔質蒟蒻ゲルの重量減少は、測定開始後14日間までは凡そ定率であったが、その後日数が経過するにつれて緩やかに低下し、32日間経過時で平衡に達した。多孔質蒟蒻ゲルが当初含有していた水分は、14日間までに約8割放出され、32日までに約9割が放出された。
【0079】
[多孔質蒟蒻ゲルの水分放出能・保水能試験からの考察]
水分放出能・保水能試験の結果から、この多孔質蒟蒻ゲルは、埋設後2週間程度は土壌への水分供給が期待できる。この水分は、多孔質蒟蒻ゲル中で架橋したグルコマンナンの網目構造内、又はゲルの細孔内に保持されていると考えられる。ゲル形成時に用いる水分を増加させたり、ゲル形成後に水へ含浸させたりすることにより、一層多くの水分を含ませ得るため、長期的に水分を放出し続ける用途に使用可能であることが示された。
【0080】
(物性評価試験例4:多孔質蒟蒻ゲルの植生への利用)
多孔質蒟蒻ゲルを土壌に埋設した場合のカリウム放出による肥料効果、及び植生への悪影響の有無を確認するため、多孔質蒟蒻ゲルを埋設したバーミキュライトでブロッコリースプラウトを栽培した。また、市販の肥料を用いて同様に栽培し、多孔質蒟蒻ゲルが市販の肥料と同程度にカリウムを供給可能か、比較試験を行った。市販肥料には窒素成分とリン成分のみを含むもの(N-P肥料と略記)と、リン成分、窒素成分、カリウム成分の3種を含むもの(N-P-K肥料と略記)を使用した。なお、バーミキュライトのみでブロッコリースプラウトの栽培を行ったものをコントロールとした。ブロッコリースプラウトの栽培は全て人工気象器を用いて行った。
【0081】
[植生試験]
15ml容量のプラスチック製チューブにバーミキュライト10mlと製造実施例1で得られた多孔質蒟蒻ゲル(1.2×10-3g)とN-P肥料とを表2に示す量にして入れ、薬さじを用いて均一になるように混合した後、ブロッコリースプラウトの種子3粒を土表面に蒔き超純水7mlを滴下した。その後発芽させるため暗所に48時間置き、発芽した後、人工気象器(EYELATRON FLI-301N: EYELA)内で明暗間隔12時間、温度25℃、水やり間隔1ml/日の条件で、7日間栽培を行った。多孔質蒟蒻ゲルは、90℃のオーブンで24時間乾燥させた後、フードミキサー(SKL-250: タイガー)で3分間粉砕したものを使用した。また、比較のため多孔質蒟蒻ゲルの代わりに市販肥料を埋設した条件でも同様に栽培を行った。市販肥料も多孔質蒟蒻ゲルと同様、ミキサーで3分間粉砕したものを使用した。各試験系におけるリン、窒素、カリウムの施肥量は、肥料メーカーの推奨値を参考に、バーミキュライト10mlに対し夫々3.0×10-5gとなるように施肥を行った。各試験系におけるバーミキュライト、リン、窒素、カリウムの施肥量を表2に示す。栽培後の茎長と乾燥重量とを測定した。
【0082】
【表2】
【0083】
[植生試験の結果]
植生試験による栽培後の茎長と乾燥重量との結果を夫々、図6に示す。図6から明らかな通り、乾燥重量に関し、それぞれの施肥条件において有意差が認められなかったが、無施肥の系(コントロール)と比較して、施肥を行った系(N-P、N-P-K、N-P-BDF gel)の方が高い乾燥重量値を示す傾向が見られた。また、施肥を行った系の内でも、カリウムを施肥しない場合と比較し、カリウムを施肥した場合、高い乾燥重量値を示す傾向が見られた。リン、窒素、カリウムの全てを施肥した系の内、カリウムが化学肥料由来の場合とBDF廃液由来の場合とでは、略同程度の乾燥重量値を示した。
【0084】
一方、茎長に関し、無施肥の場合と比較して、施肥を行った系の方が長い茎長値を示す傾向が見られた。無施肥の系(コントロール)、化学肥料由来のリンと窒素を施肥した系(N-P)、化学肥料由来のリン、窒素、カリウムを施肥した系(N-P-K)では茎長に有意な差が認められなかったが、無施肥の系(コントロール)と比較しても化学肥料由来のリン、窒素、カリウムを施肥した系(N-P-K)と比較しても、化学肥料由来のリン、窒素及びBDF廃液由来のカリウムを含有する多孔質蒟蒻ゲルを施肥した系(N-P-BDF gel)の方が有意に長い茎長値を示した。
【0085】
[植生試験の結果からの考察]
茎長及び乾燥重量の測定結果より、原料にBDF廃液を用いたことによる生育に対する阻害等の悪影響は無いと考えられる。また、植物の生育に関しては、多孔質蒟蒻ゲルから放出されるカリウムにより、市販の化学肥料と同程度以上の効果が得られた。市販のリン、窒素、カリウム肥料を施肥した系(N-P-K)よりも、市販のリン、窒素及びBDF廃液由来のカリウムを含有する多孔質蒟蒻ゲルを施肥した系(N-P-BDF gel)の方が、茎の長さが長くなる傾向が見られたことは、カリウム成分の水への放出速度の差が影響しているものと推察される。
【0086】
これらの試験で用いた化学肥料は、何れも肥料成分の水への溶解が速やかに行われるものであるのに対し、多孔質蒟蒻ゲルはカリウムを徐放することが物性評価試験例2の結果から明らかとなっている。そのため、化学肥料由来のカリウムは施肥後超純水を添加した際に超純水と共にチューブ下部へ流下し偏在してしまうのに対し、BDF廃液由来のカリウムは撹拌により土中に一様に分布し多孔質蒟蒻ゲルから徐放されたため、偏在せずに土中に存在したため、両者に差異が生じたものと推察される。その結果、BDF廃液由来のカリウムは、化学肥料由来のカリウムに比べて早い時期からブロッコリースプラウトへ吸収可能な状態となり、植生試験での栽培期間におけるカリウムの吸収量に差が生じて茎長に差を生じたものと推察される。
【0087】
(物性評価試験例5:土壌埋設時の保水能)
多孔質蒟蒻ゲルの土壌埋設時の保水効果を確認するため、製造実施例1で得られた多孔質蒟蒻ゲルを埋設したバーミキュライトの水分減少を経時的に観察した。
【0088】
[土壌埋設時の保水性試験]
バーミキュライトと製造実施例1で得た多孔質蒟蒻ゲルを、その多孔質蒟蒻ゲルの重量分率が0%(コントロール)、10質量%、30質量%、50質量%(夫々、BDF gel 10wt%、30%、50%と略記)になるように、15ml容量のプラスチック製チューブに夫々合計5g入れ、薬さじで均一になるように混合した。その後超純水2mlを滴下し、物性評価試験例5と同様に25℃の人工気象器内に静置し、重量の経時的な変化を観察した。
【0089】
[土壌埋設時の保水性試験の結果]
各条件での水分残存率の経時変化を図7(a)に示す。また、土に対する多孔質蒟蒻ゲルの各重量分率における、水分残存率の向上率(多孔質蒟蒻ゲルを添加した土の水分残存率[%]-コントロールの水分残存率[%])を同図(b)に示す。
【0090】
図7(a)及び(b)から明らかな通り、多孔質蒟蒻ゲルを添加した土において、多孔質蒟蒻ゲルの10~50質量%の何れの添加重量分率においても、水分残存率の低下が抑制されており、日数が経過するにつれて各条件間における水分残存率の差は大きくなった。水分残存率の低下が最も大きかったのは多孔質蒟蒻ゲルを添加していない土(コントロール)であった。一方、多孔質蒟蒻ゲルが添加された土では、多孔質蒟蒻ゲルの重量分率が高くなるにつれて水分残存率の低下が抑制された。コントロールに対する多孔質蒟蒻ゲルの添加による水分残存率の向上率に関しては、26日経過時点で、多孔質蒟蒻ゲルを10wt%添加した場合に7.37%向上、30wt%添加した場合に12.3%向上、50wt%添加した場合に13.6%向上していた。
【0091】
[土壌埋設時の保水性試験の結果からの考察]
多孔質蒟蒻ゲルを土に添加した結果、土の水分残存率の減少が抑制されており、さらに多孔質蒟蒻ゲルの重量分率が大きいものほど水分残存率の低下が抑制されていたことから、多孔質蒟蒻ゲルが土の水分残存率向上に寄与していると考えられる。物性評価試験例1の結果より、多孔質蒟蒻ゲルは0.1mm程度の細孔、及び1~5μm程度の微細細孔を持つことがわかっている。これらのことから、土中に埋設された多孔質蒟蒻ゲルが土に添加された水分を孔内に吸収し、その後保持した水分を周囲の水分量の低下に伴って緩やかに放出したと推察される。その結果、多孔質蒟蒻ゲルを添加した土では無添加の土に比べ、水分を土中に保持する時間が長くなり、水分残存率の低下が抑制されたと考えられる。多孔質蒟蒻ゲルの重量分率が増加するにつれて水分残存率の向上率も増加しているが、各重量分率における向上率を比較した場合、多孔質蒟蒻ゲルの重量分率が0質量%(コントロール)と10質量%との間、及び10質量%と30質量%との間に比べて、30質量%と50質量%との間では向上率の差が小さい。これは、多孔質蒟蒻ゲルの重量分率が50質量%の土では土中に存在する多孔質蒟蒻ゲルが吸収可能な水分量に対して添加された水分量が小さく、土中の多孔質蒟蒻ゲルに吸収された水分の量が多孔質蒟蒻ゲルの重量分率が30質量%の土と50質量%であまり変わらなかったためであると考えられる。これらのことから、多孔質蒟蒻ゲルを50質量%で添加した場合に、土に添加する水分量をより増やせば、水分残存率を更に向上させ得る。
【0092】
(参考試験例1:ゲルの多孔質化におけるBDF廃液の各成分の関与)
希釈したBDF廃液に蒟蒻粉を加え撹拌・加熱することにより多孔質蒟蒻ゲルを作製したが、BDF廃液の如何なる成分が多孔質蒟蒻ゲルの形成に関与しているか検討した。
前記の製造実施例1で使用したBDF廃液は、京都市役所環境政策局南部クリーンセンターから提供されたもので、実際に家庭や飲食店から出された廃食用油からBDFを回収した廃液であり、グリセロール、脂肪酸、アルコール、及び揮発性アルカリ成分の主要成分の他、多量の夾雑物を含んでいる。このBDF廃液の組成(表1参照)を参考に、純粋なグリセロール、脂肪酸とした一般的な食用油由来の脂肪酸であるオレイン酸、メタノール、水酸化カリウム水を用いて、それら全てを含む人工BDF廃液(全成分含有)と、何れかを含まない人工BDF廃液(オレイン酸不含有、グリセロール不含有、水酸化カリウム不含有、メタノール不含有)とを調製した。これら人工BDF廃液を用いたこと以外は製造実施例1と同様にして、多孔質蒟蒻ゲルを作製した。
【0093】
【表3】
【0094】
[人工BDF廃液でのゲル形成試験の結果及び考察]
人工BDF廃液(全成分含有)を用いた場合、現実のBDF廃液を用いて製造実施例1で得た多孔質蒟蒻ゲルと同等の多孔質蒟蒻ゲルが得られた。このことから、多孔質ゲルの形成は、BDF廃液に含まれる夾雑物の種類や多少又は油脂由来のオレイン酸以外の脂肪酸の種類の関与によるものではなく、グリセロール、脂肪酸、メタノール、水酸化カリウムのいずれかの関与によるものと考えられる。
【0095】
人工BDF廃液(グリセロール不含有)を用いた場合、各成分を混合した時に均一な溶液にはならず、オレイン酸とカリウムとの塩が白色沈殿として生じた。この混合組成物から、製造実施例1で得た多孔質蒟蒻ゲルと同様のゲルを得ることはできず、遥かに粘度が高く発泡し難いゲルが得られたに過ぎなかった。従ってグリセロールは多孔質ゲルの形成に関与していると考えられる。グリセロールが存在することにより、脂肪酸とカリウムの塩の生成が抑制され、その結果脂肪酸がカリウムと反応しない状態で液中に存在していると考えられ、結果として多孔質ゲルが形成できたと推察される。このことは、グリセロールと共に脂肪酸も、多孔質ゲルの形成に関与していることを示唆している。
【0096】
人工BDF廃液(脂肪酸不含有)を用いた場合、製造実施例1で得た多孔質蒟蒻ゲルと同様のゲルを得ることはできず、遥かに粘度が高く発泡し難いゲルが得られたに過ぎなかった。従って、オレイン酸で代表される脂肪酸が多孔質ゲルの形成に関与していると考えられる。人工BDF廃液(全成分含有)を用いた場合と比較して、ゲル化進行による粘度上昇が大き過ぎる結果、発泡し難いゲルを形成したと推察される。このことから、オレイン酸がグルコマンナンのゲル化を抑制していたようである。ゲル化の抑制に関しては、界面活性剤の疎水性部分がアミロースのらせん構造部分に入り込んで複合体を形成し、澱粉のゲル化に影響を及ぼすことが知られており、それと同様に、ゲル化進行時にオレイン酸がグルコマンナンの網目構造に入り込んで複合体を形成し、その結果ゲル化が抑制されたものと推察される。
【0097】
人工BDF廃液(メタノール不含有)を用いた場合、製造実施例1で得た多孔質蒟蒻ゲルと同様のゲルを得ることはできず、遥かに粘度が高く発泡し難いゲルが得られたに過ぎなかった。従って、メタノールのような揮発性アルコールは、多孔質ゲルの形成に関与していると考えられる。人工BDF廃液(脂肪酸不含有)を用いた時と同様、人工BDF廃液(全成分含有))を用いた場合と比較してゲル化進行による粘度上昇が大き過ぎる結果、発泡し難いゲルを形成したと推察される。メタノールはグルコマンナンに対して貧溶媒効果を示す。これらのことから、製造実施例1で得た多孔質蒟蒻ゲルは、メタノールが共存することによってグルコマンナンの水への溶解度が低下し、その結果、過剰なゲル化が抑制され適度にゲルを形成すると共に、メタノールが揮発する際に微細細孔を形成するが、メタノールが共存しなければそれらの形成ができなくなってしまったと推察される。
【0098】
人工BDF廃液(水酸化カリウム不含有)を用いた場合、各成分を混合した時、二層に分離し均一にはならなかった。二層に分離した状態のままゲルの形成を試みたが、疎水性成分はゲル化することができずゲルと分離し、製造実施例1で得た多孔質蒟蒻ゲルを得ることはできなかった。従って、アルカリ性になる水酸化カリウムが無ければ、BDF廃液と成分・性質が大きく異ってしまうと考えられる。このことから、水酸化カリウムはBDF廃液の均一化に関与しており、多孔質ゲルの形成に直接的又は間接的に関与している推察される。
【0099】
このように人工BDF廃液を用いた結果から明らかな通り、BDF廃液の主成分であるグリセロール、脂肪酸、メタノール、水酸化カリウムの全てが、多孔質蒟蒻ゲルの形成に大きく関与しており、何れかが欠落しても、マイクロオーダーの微細細孔を形成した多孔質蒟蒻ゲルへ誘導できないことが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明の多孔質蒟蒻ゲル及びそれの製造方法は、BDF廃液を多孔質蒟蒻ゲル製造用ゲル化材料として活用し、蒟蒻ゲル形成成分を多孔質蒟蒻ゲル製造用ゲル化として用いることにより、BDF廃液の処理に利用できる。この多孔質蒟蒻ゲルは、BDF廃液が抱える高いpHという危険性と廃液処理という無駄とを解決することができる。
【0101】
この多孔質蒟蒻ゲルは、0.1mm程度の気泡からなる細孔非常に小さな1~5μm程度の微細細孔を多数持つ多孔質構造を有することから、カリウム成分の徐放能、pHの上昇抑制能、含有水分の保水・放出能に優れ、土壌埋設時の植物の生育への悪影響のない安全な肥料や土壌改良剤として、利用することができる。この多孔質蒟蒻ゲルは、酸性土壌の改善、カリウム成分の長期間の徐放、乾燥地帯における土壌への水分供給など、多岐に渡る効果を発現する肥料や土壌改良剤として有用である。
【0102】
この多孔質蒟蒻ゲルは、煮物材料・健康食品・菓子のような加工食品、断熱材・防音材のような化学材料・化学素材のような多孔質蒟蒻ゲル製品としても有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7