(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-27
(45)【発行日】2024-10-07
(54)【発明の名称】測位システムおよび測位誤差取得方法
(51)【国際特許分類】
G01S 19/40 20100101AFI20240930BHJP
B61L 25/02 20060101ALI20240930BHJP
G01S 19/50 20100101ALI20240930BHJP
【FI】
G01S19/40
B61L25/02 G
G01S19/50
(21)【出願番号】P 2020159822
(22)【出願日】2020-09-24
【審査請求日】2023-08-03
(73)【特許権者】
【識別番号】317005022
【氏名又は名称】独立行政法人自動車技術総合機構
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 大助
(72)【発明者】
【氏名】工藤 希
(72)【発明者】
【氏名】竹内 俊裕
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 智紀
【審査官】渡辺 慶人
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-034743(JP,A)
【文献】特開2020-015419(JP,A)
【文献】特開2003-267220(JP,A)
【文献】特開2011-024328(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0131185(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 5/00 - 5/14
7/48 - 7/51
17/00 - 19/55
B61L 1/00 - 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
衛星から送信された測位信号に基づいて測位を行う測位装置の測位誤差を取得する測位システムであって、
鉛直方向に向けて鉄道車両に固定され、踏切の踏み板を検知する距離センサと、
前記距離センサを用いて、踏切の踏み板を検知することで、前記鉄道車両が、踏切に対応する定点を通過した
タイミングを検知する検知手段と、
前記
鉄道車両に搭載された前記測位装置による測位結果を、前記測位信号に含まれる時刻情報と関連付けて記憶する測位手段と、
前記検知がなされた時刻に対応する前記測位結果と、前記定点の座標と、に基づいて、前記測位装置の測位誤差を取得する誤差取得手段と、
を有
し、
前記検知手段は、
前記鉄道車両が第1の方向に走行している場合、前記距離センサが検出した距離が相対的に短くなったタイミングで前記鉄道車両が前記定点を通過したと判定し、
前記鉄道車両が、前記第1の方向とは反対の第2の方向に走行している場合、前記距離センサが検出した距離が相対的に長くなったタイミングで前記鉄道車両が前記定点を通過したと判定する、
測位システム。
【請求項2】
前記
踏切に対応する前記定点の座標を記憶する記憶手段をさらに有する、
請求項
1に記載の測位システム。
【請求項3】
前記距離センサは、レールよりも外側に設置される、
請求項
1に記載の測位システム。
【請求項4】
衛星から送信された測位信号に基づいて測位を行う測位装置の測位誤差を取得する測位誤差取得方法であって、
情報処理装置が、
鉛直方向に向けて鉄道車両に固定され、踏切の踏み板を検知する距離センサからの出力に基づいて、踏切の踏み板を検知することで、前記鉄道車両が、踏切に対応する定点を通過した
タイミングを検知する検知ステップと、
前記
鉄道車両に搭載された前記測位装置による測位結果を、前記測位信号に含まれる時刻情報と関連付けて記憶する測位ステップと、
前記検知がなされた時刻に対応する前記測位結果と、前記定点の座標と、に基づいて、前記測位装置の測位誤差を取得する誤差取得ステップと、
を
実行し、
前記検知ステップでは、
前記鉄道車両が第1の方向に走行している場合、前記距離センサが検出した距離が相対的に短くなったタイミングで前記鉄道車両が前記定点を通過したと判定し、
前記鉄道車両が、前記第1の方向とは反対の第2の方向に走行している場合、前記距離センサが検出した距離が相対的に長くなったタイミングで前記鉄道車両が前記定点を通過したと判定する、
測位誤差取得方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衛星測位技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、列車の位置検出は、軌道回路を用いて、地上設備を主体に行われてきた。これに対し、路線データベース、速度発電機、トランスポンダ等を用いて、車上で位置検出を行い、検出した位置情報を無線によって伝送する技術が開発されている。かかる技術では、列車の位置を正確に検知することができるため、列車の速度をよりきめ細かく制御することが可能になる。また、踏切保安設備等の制御効率を向上させることができる。
【0003】
一方、コスト低減を目的として、列車の位置検出に衛星測位を利用する動きが見られる。衛星による測位を行う手法として、例えば、GPS衛星を利用した手法、準天頂衛星システムを利用した手法、リアルタイムキネマティックを利用した手法など様々なものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
現在知られている複数の測位手法は、さまざまな測位精度を有している。さらに、衛星測位を鉄道に適用しようとした場合、路線の特性(例えば、地形や構造物等)に起因して、測位精度にばらつきが生じうる。よって、列車の位置検出を行うために衛星測位を導入しようとした場合、どのような測位手法が妥当であるかを事前に評価する必要がある。
【0006】
本発明は上記の課題を考慮してなされたものであり、衛星による測位を行うシステムにおいて、測位精度を評価するための技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る測位システムは、
衛星から送信された測位信号に基づいて測位を行う測位装置の測位誤差を取得する測位システムであって、座標が既知である定点を車両が通過したことを検知する検知手段と、前記車両に搭載された前記測位装置による測位結果を、前記測位信号に含まれる時刻情報と関連付けて記憶する測位手段と、前記検知がなされた時刻に対応する前記測位結果と、前記定点の座標と、に基づいて、前記測位装置の測位誤差を取得する誤差取得手段と、を含むことを特徴とする。
【0008】
検知手段は、車両が定点を通過したことを検知する。検知は、好ましくは、電磁波(光や電波を含む)を利用した非接触の方法を利用して行うことが好ましい。座標が既知である定点を車両が通過したことを検知することで、車上で行った測位の結果が、真の座標に対してどの程度の誤差を有しているかを評価することができる。さらに、測位信号に含まれる時刻情報を、測位結果と関連付けて記憶することで、定点を通過したタイミングで取得された測位結果を得ることができる。すなわち、装置の測位誤差を高精度で取得することが可能になる。
【0009】
また、測位システムは、前記車両に固定された距離センサを含み、前記検知手段は、前
記距離センサを用いて、前記車両の走行路内にある所定の構造物を検知することで、前記車両が前記定点を通過したことを検知することを特徴としてもよい。
【0010】
車両の走行路内に固定された構造物を利用することで、定点の通過を確実に検知することができる。例えば、車両が鉄道車両である場合、軌道内または軌道周辺にある構造物を検知対象とすることができる。
【0011】
また、測位システムは、前記構造物に対応する前記定点の座標を記憶する記憶手段をさらに有することを特徴としてもよい。
構造物に対応する定点の座標を記憶することで、車両が通過した定点を特定することができる。
【0012】
また、前記車両は、鉄道車両であり、前記定点は、踏切を基準とした点であり、前記距離センサは、鉛直方向に向けて前記車両に固定され、踏切の踏み板を検知することを特徴としてもよい。
踏切には、車両や歩行者が通過するための踏み板が設置されている。当該踏み板は、レールの段差を埋める位置に設置されているため、鉛直方向に向いた距離センサによって検知することができる。
【0013】
また、前記距離センサは、レールよりも外側に設置されることを特徴としてもよい。
二本のレールの外側に距離センサを設置することで、分岐器や自動列車停止装置(ATS)の地上子といった、軌道内に設置された他の構造物に起因する誤検知を抑制することができる。
【0014】
また、前記検知手段は、前記距離センサの出力信号と、前記鉄道車両の走行方向に基づいて、前記定点の通過を検知することを特徴としてもよい。
【0015】
踏切の踏み板は、一定の幅を有しているため、距離センサが出力する信号がパルス状になる。そこで、列車の走行方向に応じて、出力信号の参照条件を変えてもよい。例えば、上り方面に走行している場合は、パルスの立ち上がりを検知し、下り方面に走行している場合は、パルスの立ち下がりを検知するようにしてもよい。かかる構成によると、走行方向にかかわらず、同一の地点を検知することが可能になる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、衛星による測位を行うシステムにおいて、測位精度を評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図2】測位システムに含まれる測位装置および評価装置の構成図。
【
図9】評価装置が生成および記憶する測位誤差データの例。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の具体的な実施形態について図面に基づいて説明する。各実施形態に記載
されているハードウェア構成、モジュール構成、機能構成等は、特に記載がない限りは、発明の技術的範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0019】
図1は、実施形態に係る測位システムの概略構成図である。本実施形態に係る測位システムは、全世界測位衛星システム(Global Navigation Satellite System)を利用して測位を行うシステムである。具体的には、測位衛星から送信された信号(以下、測位信号と称する)を受信するアンテナ10と、測位装置100と、評価装置200と、距離センサ300と、を含んで構成される。これらの構成要素は、同一の鉄道車両(車両1)に搭載される。
【0020】
アンテナ10は、測位衛星(以下、GNSS衛星とも称する)から送信された測位信号を受信するアンテナである。アンテナ10は、例えば、鉄道車両の屋根上など、GNSS衛星が見通せる場所に設置されることが好ましい。
【0021】
測位装置100は、所定の測位手法によって衛星測位を行う装置である。
衛星による測位は、例えば、GPS(Global Positioning System)、準天頂衛星(Quasi-Zenith Satellite System)、GLONASS(Global Navigation Satellite System)、Galileo、BDS(BeiDou Navigation Satellite System)など、異なる国によって運営されている衛星を利用して行うことができる。
さらに、衛星単独による測位結果に、補助的な情報を加えることで、測位精度を向上させるシステムがある。このようなシステムに、例えば、準天頂衛星システムが提供する測位補強サービス、ディファレンシャルGPS、携帯電話回線やインターネットを利用したネットワーク型RTK(リアルタイムキネマティック)などがある。
測位装置100は、これらの手法のうちのいずれかを用いて測位を行う。
【0022】
評価装置200は、測位装置100が出力した測位結果(位置情報)を収集し、蓄積する装置である。また、評価装置200は、蓄積したデータに基づいて、測位装置100の測位誤差を評価する。なお、本発明において、測位誤差とは、基準となる座標(例えば、緯度・経度)と、評価対象である座標(同)との間の相対距離であるものとする。
【0023】
図2は、本実施形態に係る測位システムの構成要素を詳細に示した図である。ここではまず、測位装置100について説明する。
【0024】
測位装置100は、所定の測位手法を利用して測位を行う装置である。測位装置100は、専用のハードウェアによって構成してもよいし、ハードウェアとソフトウェアの組み合わせによって構成してもよい。
測位装置100は、信号取得部101、制御部102、および入出力部103を有して構成される。
【0025】
信号取得部101は、測位信号を取得するインタフェースである。信号取得部101は、アンテナ10と接続される。
【0026】
制御部102は、演算装置、主記憶装置、補助記憶装置をパッケージ化したワンチップマイクロコンピュータである。なお本実施形態では、制御部としてワンチップマイコンを利用するが、制御部102に相当する手段を、汎用のコンピュータにより構成することもできる。すなわち、制御部102は、CPUやGPU等のプロセッサ、RAMやROM等の主記憶装置、EPROM、ハードディスクドライブ、リムーバブルメディア等の補助記憶装置を有するコンピュータとして構成することもできる。補助記憶装置には、オペレーティングシステム(OS)、各種プログラム、各種テーブル等が格納され、そこに格納されたプログラムを主記憶装置の作業領域にロードして実行し、プログラムの実行を通じて
各構成部等が制御されることによって、後述するような、所定の目的に合致した各機能を実現することができる。ただし、一部または全部の機能はASICやFPGAのようなハードウェア回路によって実現されてもよい。
【0027】
制御部102は、機能モジュールである測位部1021を有して構成される。当該機能モジュールは、記憶されたプログラムをCPUによって実行することで実現してもよい。
【0028】
測位部1021は、信号取得部101が取得した測位信号に基づいて、測位を実施、すなわち、自装置に対応する位置情報(座標)を演算ないし取得する。
測位装置100が、GNSS衛星による単独測位を行うものである場合、測位部1021は、複数の衛星から受信した測位信号の伝播時間を用いて位置情報を算出する。
【0029】
また、測位装置100が、外部装置から取得した情報を利用する測位手法を採用したものである場合、測位部1021は、外部装置から取得した情報に基づいて、単独測位によって得られた測位結果を補正、あるいは、当該測位結果を外部装置に送信して補正結果を取得する。
【0030】
外部装置から取得した情報を利用して測位を行う手法として、例えば、準天頂衛星を利用した測位補強サービスがある。
また、準天頂衛星を利用した測位補強サービスとして、サブメータ級測位補強サービス(SLAS)およびセンチメータ級測位補強サービス(CLAS)がある。
SLASは、基準局から準天頂衛星経由で送信された補強信号である。このSLASに含まれる誤差情報を用いて、単独測位によって得られた測位結果を補正することができる。すなわち、SLASを利用した測位手法はディファレンシャル測位の一つである。なお、SLASが利用できない場合、測位部1021は、単独測位による位置情報を出力する。
【0031】
CLASは、管制局から準天頂衛星経由で送信された補強信号である。CLASを利用した測位手法は、整数値バイアスおよび複数の波の位相差を求めることで、位置情報を算出する手法である。CLASを利用した測位手法では、演算によってFloat解とFix解を求めることができる。Float解とは、整数値バイアスに近似値を用いて求めた解であり、Fix解は、誤差が収束し、特定された整数値バイアスを用いて求めた解である。環境的要因などによって、補強信号を利用できない場合や、Fix解またはFloat解が求まらない場合、測位部1021は、単独測位によって位置情報を算出する。
【0032】
また、搬送波測位を行う他の手法として、リアルタイムキネマティック(RTK)がある。RTKは、座標が既知である基準局と、移動する測位装置が同時に測位を行い、基準点で観測したデータ等を、移動する測位装置に無線等によって送信し、このデータに基づいて、移動する測位装置が観測したデータを補正の上、移動する測位装置の位置情報を確定する手法である。RTKを利用すると、測位誤差を最小でセンチメートル以下にまで抑えることができる。なお、RTKが高精度を維持するためには、基準局と移動する測位装置との距離が10km程度以下である必要がある。これを超える場合も引き続き高精度を維持するためには、ネットワークを用いて測位装置とサーバ装置が通信する形態を採用する必要がある。これをネットワーク型RTKと称する。測位装置100が、ネットワーク型RTKを利用するものである場合、測位部1021が、サーバ装置に位置情報を送信し、当該サーバ装置から、演算によって得られた位置情報を受信し出力する。なお、サーバ装置が搬送波測位を行えない場合、測位部1021は、サーバ装置から、ディファレンシャル測位を利用した位置情報を受信し出力する。また、サーバ装置がFix解を取得できない場合、測位部1021は、サーバ装置からFloat解による位置情報を受信し出力する。
なお、ネットワーク型RTKでは、サーバ装置が、測位装置の位置情報を確定させる形態と、サーバ装置が、位置情報を補正するためのデータ(補正データ)を生成し、測位装置が当該補正データに基づいて位置情報を補正する形態が存在するが、いずれの形態を採用してもよい。
【0033】
入出力部103は、測位部1021が取得した位置情報を出力するインタフェースである。評価装置200がパーソナルコンピュータである場合、入出力部103は、例えば、USBインタフェース等であってもよい。
【0034】
次に、評価装置200について説明する。
評価装置200は、測位装置100から測位結果を取得し、その測位誤差を評価するコンピュータである。
【0035】
評価装置200は、汎用のコンピュータにより構成することができる。すなわち、評価装置200は、CPUやGPU等のプロセッサ、RAMやROM等の主記憶装置、EPROM、ハードディスクドライブ、リムーバブルメディア等の補助記憶装置を有するコンピュータとして構成することができる。なお、リムーバブルメディアは、例えば、USBメモリ、あるいは、CDやDVDのようなディスク記録媒体であってもよい。補助記憶装置には、オペレーティングシステム(OS)、各種プログラム、各種テーブル等が格納され、そこに格納されたプログラムを主記憶装置の作業領域にロードして実行し、プログラムの実行を通じて各構成部等が制御されることによって、後述するような、所定の目的に合致した各機能を実現することができる。ただし、一部または全部の機能はASICやFPGAのようなハードウェア回路によって実現されてもよい。
【0036】
制御部201は、評価装置200が行う制御を司るユニットである。制御部201は、CPUなどの演算処理装置によって実現することができる。
制御部201は、データ収集部2011と、センシング部2012と、誤差取得部2013の3つの機能モジュールを有して構成される。各機能モジュールは、記憶されたプログラムをCPUによって実行することで実現してもよい。
【0037】
データ収集部2011は、測位装置100を用いて測位結果(位置情報)を周期的に取得する。取得された位置情報は、測位データとして、後述する記憶部202に記憶される。
【0038】
センシング部2012は、距離センサ300が出力した信号を監視し、車両1が定点を通過したタイミングを特定するためのデータを取得する。具体的な方法については後述する。取得したデータは、イベントデータとして、後述する記憶部202に記憶される。
【0039】
誤差取得部2013は、データ収集部2011およびセンシング部2012が取得したデータに基づいて、測位装置100の測位誤差を算出する。具体的な方法については後述する。
【0040】
記憶部202は、主記憶装置と補助記憶装置を含んで構成される。主記憶装置は、制御部201によって実行されるプログラムや、当該制御プログラムが利用するデータが展開されるメモリである。補助記憶装置は、制御部201において実行されるプログラムや、当該制御プログラムが利用するデータが記憶される装置である。
【0041】
また、記憶部202には、前述した測位データ、イベントデータ、測位誤差データ、および、定点データが記憶される。これらの詳細については後述する。
【0042】
入出力部203は、入出力部103と同様のインタフェースである。入出力部203は、例えば、測位装置100と通信を行うためのUSBインタフェース等とすることができる。
【0043】
距離センサ300は、障害物までの距離を非接触で測定するセンサである。距離センサ300として、例えば、レーザセンサなどの光学センサを採用することができる。なお、本例では、距離センサ300としてレーザセンサを例示しているが、ミリ波レーダや、障害物の存在を瞬時に検出できる他のセンサを利用することも可能である。
本実施形態では、距離センサ300は、検出した距離に応じた電圧を出力するセンサであるものとする。
【0044】
図3は、車両1における距離センサ300の装着場所を説明する図である。本実施形態では、距離センサ300は、車両1の端部に、鉛直方向(重力方向)に向けて取り付けられる。取り付け位置は、例えば、車両の床下とすることができる。本実施形態では、図示したように、乗務員用の乗降ステップ(符号320)の端部に距離センサ300を装着する。
なお、本実施形態では乗降ステップに距離センサ300を装着するが、所定の構造物を検知することができれば、距離センサ300を装着する場所は特定の場所に限定されない。
【0045】
距離センサ300が検出する距離は、通常、軌道の道床までの距離である。一方、車両1が踏切を通過する際は、距離センサ300が踏み板(符号10)の上(符号310)を通過するため、検出する距離が一時的に短くなる。すなわち、
図4に示したように、距離センサ300の出力電圧がパルス状に変動する。よって、出力電圧の変動を監視することで、車両1が踏切を通過したことを検知することができる。
【0046】
本実施形態では、車両1が、あらかじめ定められた定点を通過したことをシステムが検知し、定点を通過したタイミングにおいて取得された位置情報(座標)と、既知である定点の座標とを比較することで、測位装置100の測位誤差を算出する。本実施形態では、定点として、踏切に対応する座標を利用する。
【0047】
図5は、単線である鉄道の軌道と、当該軌道を走行する車両1と、当該軌道に設けられた踏切を示した図である。符号501は、踏切に対して設定された定点(以下、定点501)の位置を表す。
前述したように、距離センサ300は、踏切の踏み板10を検知することができる。換言すると、定点501に車両1が差し掛かったことを検知することができる。よって、距離センサ300の出力を監視することで、車両が定点501を通過したタイミングを特定することができる。
【0048】
なお、図示したように、距離センサ300は、車両の端部に設置されている。よって、例えば、車両1が左から右方向へ走行している場合、出力電圧のパルスが立ち下がったタイミング(検出した距離が相対的に短くなったタイミング)が、車両が定点501を通過したタイミングとなる。また、車両1が右から左方向へ走行している場合、出力電圧のパルスが立ち上がったタイミング(検出した距離が相対的に長くなったタイミング)が、車両が定点501を通過したタイミングとなる。
【0049】
本実施形態では、測位装置100が周期的に測位を行い、評価装置200が、得られた測位結果を時刻情報とともに保存する。また、評価装置200が、距離センサ300の出力を監視し、踏切を検知したタイミング(時刻)に関する情報を保存する。
【0050】
また、評価装置200は、車両1が走行を終えた後で、車両1が定点を通過したタイミングを特定し、当該タイミングにおいて取得された測位結果を抽出する。これにより、車両1が定点を通過した際に取得した測位結果を得ることができる。定点の座標は既知であるため、これにより、測位装置100が取得した測位結果の絶対的な誤差を算出することができる。
【0051】
次に、本実施形態に係る測位システムが実行する処理について、処理フローチャートである
図6を参照して説明する。
【0052】
ステップS11~S12では、車両1の走行中において、評価装置200が、測位装置100を用いて測位を周期的に実行する。
ステップS11では、評価装置200が、測位装置100に対してリクエストを送信し、測位装置100が、評価装置200から受信したリクエストに応答して測位を行い、測位を行った時刻、および、測位結果を評価装置200に送信する。また、評価装置200(データ収集部2011)がこれらを受信し、測位データとして記憶させる。
図7(A)は、評価装置200に記憶される測位データの例である。図示したように、測位データは、測位を実行した時刻、および、測位結果(緯度および経度)を含む。
【0053】
また、評価装置200は、測位と並行して、距離センサ300が出力した信号を監視し、イベントデータを生成する。具体的には、センシング部2012が、距離センサ300の出力電圧を監視し、電圧が閾値を上回った(すなわち、パルスが立ち上がった)タイミング、および、電圧が閾値を下回った(すなわち、パルスが立ち下がった)タイミングを検知して、イベントデータとして記録する。
図7(B)は、評価装置200に記憶されるイベントデータの例である。イベントデータには、パルスの立ち上がり/立ち下がりを検知した時刻が記録される。なお、時刻は、測位装置100を介して取得した時刻(すなわち、測位信号に含まれる時刻)であることが好ましい。
【0054】
ステップS12では、データ収集部2011が、測位を終了する条件が満たされたか否かを判定する。測位を終了する条件(例えば、車両1の走行が終了したこと)が満たされた場合、処理はステップS13へ遷移する。測位を終了する条件が満たされていない場合、処理はステップS11へ遷移し、評価装置200が、周期的な測位を継続する。
【0055】
ステップS13~S15の処理は、誤差取得部2013が、記憶された測位データおよびイベントデータに基づいて、測位装置100の測位誤差を評価する処理である。
【0056】
まず、ステップS13で、車両1が定点を通過したタイミング(時刻)を特定する。
具体的には、まず、記憶されたイベントデータを参照し、パルスの立ち上がり、または、立ち下がりを検知した時刻を取得する。
例えば、
図5の例の場合、車両が左から右方向へ走行している場合、パルスが立ち下がった時刻を取得する。また、車両が右から左方向へ走行している場合、パルスが立ち上がった時刻を取得する。
次に、当該時刻を、定点と関連付ける。例えば、列車が走行を開始した駅から順に踏切をカウントし、時刻を順番に割り当ててもよい。また、記憶された測位データから、定点を通過することが予測される時間幅を算出し、当該時間幅内において、センサ300の出力電圧が変動している場合に、双方を関連付けてもよい。
図7(C)は、関連付けの結果を示した例である。
【0057】
なお、距離センサ300が踏切を検知する位置と、定点の位置がずれている場合、当該ずれを考慮して時刻を補正してもよい。
以降、列車が定点を通過した時刻のことを基準時刻と称する。
【0058】
次に、ステップS14で、測位誤差を算出する。具体的には、特定した定点の座標と、基準時刻において測位装置100が出力した測位結果(座標)を比較し、その相対距離を算出する。
なお、定点の座標は、記憶部202に事前に記憶された定点データを参照することで取得することができる。
図7(D)は、定点データの例である。
本例では、対象の路線が単線であるため、上下の列車が同一の定点を通過する。しかし、対象の路線が複線である場合、上下の列車が異なる線路を通過するため、上下線のそれぞれに定点が存在する。よって、このような場合、列車の進行方向ごとに定点データを用意し、進行方向によって、参照する定点データを変えてもよい。
【0059】
なお、アンテナ10が、軌道の中心からオフセットして配置されている場合、オフセット距離を考慮して誤差を算出するようにしてもよい。例えば、定点が軌道の中心にあり、アンテナ10が、軌道の中心から右側へ30cmずれて設置されていた場合、測位結果を左側へ30cm補正してもよい。
【0060】
測位結果の誤差を算出する場合、列車が定点を通過した時刻(基準時刻)と、測位を行った時刻が完全に一致している必要がある。しかし、測位を行う周期は評価装置200が決定するため、必ずしも基準時刻に一致する測位データが得られるとは限らない。この場合、基準時刻と前後して得られた測位データを利用して、位置情報の補間を行ってもよい。
【0061】
例えば、
図8に示したように、基準時刻において測位が行われていなかった場合、基準時刻と前後する2つの時刻(測位時刻1および測位時刻2)においてそれぞれ取得された位置情報(緯度
1,経度
1)および(緯度
2,経度
2)を用いて、基準時刻における位置情報(緯度
X,経度
X)を推定してもよい。位置情報の推定は、例えば、線形補間によって行うことができる。
【0062】
取得した誤差は、測位誤差データとして記録される。具体的には、
図9に示したように、基準時刻ごとに、測位装置100が取得した位置情報と、算出した誤差を記録する。
以上の処理を、全ての定点に対して実行することで、測位誤差の推移を取得することができる。測位誤差の推移は、例えば、横軸に時刻、縦軸に誤差(距離)をとったグラフや散布図によって出力されてもよい。
【0063】
以上説明したように、本実施形態に係る測位システムでは、踏切の踏み板を検知した時刻をキーとして、測位装置100が取得した位置情報の、真の座標に対する誤差をデータ化する。かかる構成によると、測位装置100について、測位誤差の時間的推移を観察することが可能になる。
【0064】
なお、測位誤差データには、誤差の評価に利用できる他の情報を付加させてもよい。例えば、本実施形態のように、測位システムが鉄道車両に搭載されたものである場合、列車の走行位置(キロ程)を付加してもよい(符号901)。
【0065】
(変形例)
本開示において説明した処理や手段は、技術的な矛盾が生じない限りにおいて、自由に組み合わせて実施することができる。
【0066】
例えば、実施形態の説明では、距離センサ300としてレーザセンサを例示したが、距離センサ300として、ミリ波レーダ(LIDAR)等を採用してもよい。なお、距離セ
ンサ300は、電磁波(電波や光)を利用して距離を測定するものとすることが好ましいが、他にも、超音波を利用して距離を測定するものであってもよい。さらに、軌道を撮影して得られた画像などに基づいて、構造物の存在を検知するものであってもよい。
【0067】
また、実施形態の説明では、車両1に評価装置200を搭載したが、評価装置200は、必ずしも車上に無くてもよい。例えば、測位装置100が測位データをロギング可能なタイプである場合、車両1の運行が終了してから測位データを評価装置200にコピーしてもよい。この場合、距離センサ300の出力をロギングするための装置を車両1に別途搭載してもよい。
【0068】
また、実施形態の説明では、車上において定点の通過を検知したが、定点の通過検知は地上側で行ってもよい。例えば、光電管などを用いて、車両1が定点を通過したことを検知し、通過時刻に関する情報を評価装置200に送信するようにしてもよい。
【0069】
また、実施形態の説明では、鉄軌道によって走行する車両を例示したが、車両1は、所定の走行路を走行するものであれば、どのような車両であってもよい。例えば、自動車、モノレール、新交通システム、ガイドウェイバス等であってもよい。
【0070】
また、実施形態の説明では、走行路内にある所定の構造物として踏切の踏み板を例示したが、固定された構造物であれば、他の構造物を検知してもよい。例えば、乗降用のプラットフォーム、電化柱、信号機などの存在を検知してもよい。
【0071】
また、1つの装置が行うものとして説明した処理が、複数の装置によって分担して実行されてもよい。あるいは、異なる装置が行うものとして説明した処理が、1つの装置によって実行されても構わない。コンピュータシステムにおいて、各機能をどのようなハードウェア構成(サーバ構成)によって実現するかは柔軟に変更可能である。
【0072】
本発明は、上記の実施形態で説明した機能を実装したコンピュータプログラムをコンピュータに供給し、当該コンピュータが有する1つ以上のプロセッサがプログラムを読み出して実行することによっても実現可能である。このようなコンピュータプログラムは、コンピュータのシステムバスに接続可能な非一時的なコンピュータ可読記憶媒体によってコンピュータに提供されてもよいし、ネットワークを介してコンピュータに提供されてもよい。非一時的なコンピュータ可読記憶媒体は、例えば、磁気ディスク(フロッピー(登録商標)ディスク、ハードディスクドライブ(HDD)等)、光ディスク(CD-ROM、DVDディスク・ブルーレイディスク等)など任意のタイプのディスク、読み込み専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、EPROM、EEPROM、磁気カード、フラッシュメモリ、光学式カード、電子的命令を格納するために適した任意のタイプの媒体を含む。
【符号の説明】
【0073】
10・・・アンテナ
100・・・測位装置
200・・・評価装置
300・・・距離センサ